木曽路 妻籠宿−馬籠宿      平成14年11月17日
 
大妻籠の石畳の道
     
秋のひとひ。木曽十一宿のうち、妻籠宿から馬籠宿まで、馬籠峠を越える中山道を歩いた。片道の距離は約8q、2時間ほどの行程である。諸処にWCが設置され、わかりやすい案内標が用意されている。帰りはバスを利用した。妻籠の駐車場に車を置き、蘭川(あららぎがわ)に沿う道をさかのぼる。すぐに大妻橋のたもとに立つ大平街道の道標と出会う。立ち並ぶ大妻籠の民宿群を抜けて男だれ川の沢音を足下に聞きながら坂を上っていく。下り谷集落を抜ける。山田の横を過ぎる。取り残された渋柿のあかね色が鮮やかだ。
 
 
街道沿いの家
 
石畳の山道に、かつての街道のなごりを思う。さらに道を歩む。倉科祖霊社を拝し、吉川英治の「宮本武蔵」の舞台の一つとなった男滝・女滝を間近に見る。バス道を少し歩く。木橋を渡り、森林を抜ける。視界が開けると、一石栃の立場茶屋。白木改番所跡である。木曽五木(ひのき、さわら、あすなろ、こうやまき、ねずこ等)の伐採禁止木の出荷統制を行なった所である。山手には子安観音を祭るお堂が建つ。冷たい水が飲める水場もある。ここから再び急坂。うっすらと汗がにじむと馬籠峠に辿り着く。峠の茶屋で五平餅をほおばる。お茶を出してくれれば申し分ない味噌味。妻籠の山並みを眺め、正岡子規の句碑を読む。
 
 
中山道の石碑
 
馬籠峠を下る。石置き屋根の旧家のある峠集落。収穫した豆をさやからはずす農作業の老婦人。きつい下り坂をまじえながらどんどん水田の間を下っていく。水車塚を過ぎる。しばらく行けば、高札の立つ陣屋に至る。馬籠宿は観光客で賑わっている。南に恵那山の雄姿が聳え、西には東美濃の平野がのびやかに広がっている。山峡の木曽路の宿場と異なりここは展望が利き、開放感に満ちている。いったん馬籠宿の入り口まで下り、再び坂道の両側の下見板壁の家を見ながら上っていく。信濃蕎麦のかけそばと甘酒を楽しむ。かけそばのつゆは塩辛いけれど、野趣があっておいしい。木曽馬籠脇本陣資料館を見学する。竹串に刺された濡れ煎餅を食べながらバス停で休息。バスの便数は少ないので注意が必要である。往きは2時間ほどかかったところを帰りは約20分である。早く暮れかかる山あいは暮色になずんでいた。R256号沿いの木曽温泉郷の露天風呂でくつろぐ。少しぬめりのある透明な温泉であった。ほてった身体を山風に吹かせながら木曽の山並みを眺める。燃える紅葉の木曽路。谷川のせせらぎ、林をわたる風音にまじって、上洛する木曽義仲の軍馬のいななきが、林の奥からもれ出たようで、ふと立ち止まる。中山道を行き違う旅人。幕末の動乱期に、あるは高揚し都をめざし、あるは事破れて都落ちする武士たち。木曽路は、そんな歴史の道である。