葛城古道  置恩寺  平成16年10月17日 秋晴
 
稲藁ごしの寺口の集落、二上山
 
秋は来ぬ。葛城おろしの風に身を吹かせて、葛城山麓公園から寺口集落の置恩寺まで、ゆるりゆるりと小半刻ばかり歩いた。公園の奥まで上り詰めて、沢沿いの山道を下る。棚田の中の道に出る。標識を頼りに寺口に歩をとる。コンバインでの収穫のすすむ田圃。その畦は、はや草もみじ。黄金の稲穂の波に赤蜻蛉。葛城の山へと続く段々の畑には一輪菊の畑が点在する。茜色の実をまとった柿の木がぽつんと立つ。
 
医王山・布施山安養院置恩寺
 
置恩寺の御詠歌:のりのこえきくてらぐちの里よりもしんやのつきもくもりはれゆく
 
石の垣の家々を抜ける小径を上る。土壁の古びた廃屋はかつての家のさまを残す。少し行けば石垣の上に建つ置恩寺(ちおんじ)に至る。このお寺は、医王山・布施山安養院置恩寺と号し、高野山真言宗の寺。御本尊は薬師如来座像。国指定重要文化財、檜の一本造りの十一面観音立像が安置されている。置始氏の氏寺として奈良時代末から平安時代初めに建立されたという。寺伝によれば、神亀年間、僧行基の開基。寺門の前に柑子の畑。ようやく色づく実がたわわに枝をしならせる。田の中で倒れた稲を鎌で刈り取る祖母に、畦道からしきりに話しかける幼い孫。その横を過ぎて、山から奔り下る谷川に架かる小橋の上で弁当を開く。目を上げれば、稲藁を焼く煙の向こうに、古都藤原京の在処を示すように、霞んだ畝傍山が立つ。刈田の匂いに深呼吸をする。葛城古道は秋日に照っていた。