河内路 枚方市 山田神社  平成15年11月20日 小雨
 
近くの小学校の裏手は、自然観察林となっている。道路から紅葉した木々がのぞく。よく見れば、赤くもみじした葉の間に、櫨の実の房が重なる。しばし立ち止まって見る。故郷の山村では、秋の終わり頃になると、櫨取りの業者が回ってきていた。木に登って長い竹の竿で採る。蝋の原料になるという。かつて蝋は熊本藩の大切な収入源であったとかで、いたるところに櫨の木が植えてあった。いまは採算が合わないらしく、手入れされることもなく櫨の実はただ風に吹かれているばかりである。方言で「ハゼマケ」といって、樹液によって皮膚のかぶれる者が毎年数人いた。だから、私の中では、櫨の葉の赤色のもみじは、鑑賞の対象ではなく、今でもどこか危険を告げる毒々しいものに感じるところがある。身構えるとでも言っていいかもしれない。本日は研究日であり、久しぶりに自宅で勉強。午前中に読書。昼の一時を散歩。午後にまた読書。近所の山田神社を訪れることにした。小雨が降ったりやんだりする。風は清涼。交野の里は秋のまっただ中にある。
 
村社山田神社 (枚方市山之上町)
 
欅のもみじ葉を踏み、閑静な住宅街を抜けて歩く。小径があれば、そちらを選ぶ。どしどし歩く。やがて山之上という地名が看板に出てくる。竹林と砂地の畑がわずかに残る。知らない小路を迷い迷い抜ける。古風な家が点在する。枚方市に通じる府道に出る。小腹がすいてきた。ちょうどたこ焼き屋さんの看板が見えた。立ち寄る。店内で食べることにした。ちょっと丈のあるテーブルに座る。店内はなつかしい映画のポスターと、かつてのアイドルのポスターが貼られている。駄菓子も豊富に揃っている。なんだか映画館の売店に来たような楽しい雰囲気である。お話をする。ここのお店は、若いご夫婦でなさっている。気さくな若いマスター。今年の6月に開店。当初、手元不如意により看板を出せないでいたが、看板屋を営む高校時の先輩が見かねて、看板を描いてくれたとのこと。男気のある先輩だ。味は醤油味とソース味を選べる。ソース味の小舟を注文し、あつあつのできたてを味わう。うまい。たこ焼きを極めようという意志と姿勢がある。店の名は「鉢かづき」。再び府道を歩き出す。
 
町のたこ焼き屋さん
 
小さな森が見え、宮の前という停留所の手前で脇の道に入る。懐かしい倉のある家の前の辻に行き当たる。こんもりとした鎮守の杜をめぐる田の畦道を辿る。鳥居前の刈田には稲藁が積まれていた。耕耘機にビニールシートが掛けられ、畑の中で雨に打たれている。石の鳥居をくぐると、社殿に達する階段が空に向かっている。山田神社は村の鎮守様である。案内板を見る。御祭神は、素戔嗚尊、稲田比賣命。創建は弘安二年二月春(西暦1278年)。神司修理亮藤原芳秀が神地として新たに宮祠を造立し、河内国交野郷一ノ宮神社の御神霊を移し奉った。素戔嗚尊は、明治六年二月、交野郷田宮村から迎え合祭した、とのこと。末社には春日神社と石神社。この石神社は、寛弘元年、安倍晴明が藤田の里に滞在して修行した折りの加持石を、田中修理亮芳秀が本社の傍らに祀ったものである。手水にて身を清めて参拝。拝殿には平安時代の武官姿の人形が両脇に侍している。郷村の篤い信仰を感じる神社である。神社境内には椎の実がたくさん落ちていた。少し雨がきつくなってきた。急ぎ足になる。こうして小一時間ばかりの里歩きを終えた。