伯耆の国 大山(伯耆富士) 1999.11.13(土)
 
 
立冬が過ぎて、朝夕めっきり寒くった。凛として風が立木を揺らして吹きすぎていく。土曜日に鳥取の大山(伯耆富士)に登ってきた。八合目から上は、たいへんな霧と風。昼食を頂上の避難小屋でとった。下山し麓まできて、見上げると、みるみるうちにかかっていた雲が消えてゆき、そこにくっきりと大山の北壁が聳えた。大山・蒜山のもみじを楽しむことができた。ここは紅葉というよりも黄葉であった。大台ヶ原が紅色を基調にした紅葉であるのと対照的な色合い。大木のブナやミズナラが空中に茶色の葉を揺らし、地面ちかくにカエデ類の黄色の葉が広がって二層となって、そのはざまに白色の木の幹が居並んでいた。きりりと澄んだ風が頬を撫でては通り抜けていった。
 
大阪府枚方市香里ヶ丘出発(3;40) 昨夜、早めに仕事をおいて床についたのにもかかわらず、やっぱり早暁は眠い。マイカー登山。女房と二人。近くの小学校で二番鳥の鳴く声を聞いて出発。守口ICで近畿道。吹田ICで中国道。上月PAで仮眠。米子自動車道。蒜山SAで豚汁の朝食(600円)。営業は7時からであったために30分ほど待っていた。ここから朝焼けの大山を眺める。頂上は縁辺がぼやけた厚い雲に覆われいる。あの雲がとれることを祈る。溝口ICで下りて、桝水高原方面へ。沿道は、農家の庭の柿の木、枯れすすきの原、裾野の樹海の紅葉がつぎつぎに展開する。大山寺の横を流れる佐陀川の手前、大川寺橋のたもとの駐車場到着。駐車料金(410円)。すでに20台ほどとまっている。佐陀川の灰色の川原は、火山岩で荒々しい。登山のしたくをする人々とともに、準備体操、諸準備。水洗のWCあり。トイレの壁に、大山へ石を持って上げる運動のポスターが貼ってあった。大山登山口登山開始(8;00)。県道脇から登山道へ入る。夏山登山道。杉の大木の木立をくぐる、長い石段の道を登る。脇にロッジや山荘が点在する阿弥陀堂分岐を過ぎて、一合目に至る。薄暗いなかに色づいた木々が広がっている。散策する茶髪でない若者たちに、すがすがしい挨拶をうける。新鮮な気持になる。火山岩の小石を敷いた階段の道がはるかに続く。ブナ林にしきりにコゲラの声がもれてくる。時折に大山寺の鐘の音が響く。二合目、三合目と単調な上りをひたすら歩く。この合目を示す標柱が頂上まで立っている。一合目間隔をだいたい15分から20分で歩く。標高を書いた木柱を装ったコンクリート製の標柱もある。
 
二合目(1100m)で大木がまばらになる。大木の梢には宿り木が鳥の巣のように生えている。三合目から急なきつい上りとなり、じぐざくな道が五合目まで続く。ここに山の神を祀る石の祠がある。拝して無事を祈る。老人の男性の二人連れ、老年の夫婦、子どもたちを伴った中年の家族、若者のグループ、いろいろな人たちが越していく。階段状の道は、その段差が大きくて歩きにくい。木陰から大山にとりよろう麓の山々が紅葉してこんもりと点在する景色がのぞく。上った高度を知る。六合目避難小屋(9;55)。コンクリート造りの避難小屋がある。展望が開ける。北西に日本海と弓ヶ浜を望む。見事に弧を描く。近くに目を移せば、蜜柑の皮や弁当がらが低木の中に大量に捨てられている。赤い小粒の実をつけた木が風に揺れる。霧が風に一瞬の間切れると、大山の切り立った北壁が現れる。七合目になると霧が濃くなり風が冷たい。風の轟きが麓から駆け上がる。木々は低木になって地に這う。乳白色の世界となる。そこに鐘の音が低く響いてくる。防風着のヤッケを取り出して羽織る。九合目から大山キャラボクの群落を保護するための木道を歩く。地に伏す葉の細長い草の原。場所によっては吹き飛ばされるほどの突風が襲ってくる。狭い木道で行き違いを頻にする。「石を落とすな」という看板が多い。
 
大山弥山頂上(1729m)(11;10―11;50)。一面の霧。強風。避難小屋に入る。戸を開けると食べ物の匂いがどっとくる。暖かい。先客が40人ほどでグループごとに食事をとっている。一隅の板敷きの腰掛けを借りる。吹き抜けの二階もある。登山姿の人たちとガスコンロで湧く湯気が山の雰囲気を醸しだす。ミソラーメン、いなり寿司、シーチキンで昼食。飲み物を売る山小屋の青年はどうもやる気がなさそうな態度。男女共同のWCあり。電灯はなく窓からの灯りが頼み。水と間違えて清涼飲料水でラーメンを作ったグループが大騒ぎ。原因究明がやかましい。時折に部屋がぱっと明るくなる。霧が薄くなるときがあるらしい。身体が暖まって外に出る。弥山頂上まで歩く。霧につつまれている。最高峰の剣ヶ峰(1729m)へは縦走禁止。板敷きの階段状の広場で食事をとる人たちもいる。帰路は石室を経由する道をとる。緩い木道を下る。往路よりも狭く、油断すると足を踏み外す恐れがある。大石を寄せた石室には奥に神様を祀る。梵字ヶ池と地蔵ヶ池は小さな池であるが、伝説と霧と相俟って神秘的な雰囲気が漂う。緩やかに上って登山道と合流。六合目避難小屋(12;45)。ひたすら下る。行きは六合目は展望がきいたが、帰路は霧の中。休憩をとる人が多い。足下の石の大きさがしだいに小さくなっていく。上ってくる人たちも多い。子どもたちが元気に挨拶をする、大人の声は小さい。やや下って元谷経由大山寺分岐で右折して、元谷への急峻な階段状の道を下る。ブナ林の黄葉の中を上から透かして見る景色は見事。呼吸するごとに清浄になる。往路よりも木が密集して濃厚な厚みがある。登るのを倦んだ小さな犬が抱かれて上ってきた。犬返しの坂とでも名付けたいほどの急坂である。木の杭を背に担いで上る青年とすれ違う。20分で元谷堰堤。
 
元谷堰堤(13;30―14;00)。木の杭を打つ工事中。水のない火山岩の川原を対岸に渡る。ここで大山を見上げると、瞬時に頂上の雲が消えていく。ちょっと悔しい想いがする。でも後で登った人たちが晴れた頂上に立てるので、それはそれでよかったと思い返す。川の両岸の切り立った山肌は沸き立つようなもみじの絨毯。コーヒーを湧かして、しばし風景に嘆息しながらくつろぐ。堰堤の向こう側では自然観察用の仕掛けをつくる研究者らしき人たちがいる。佐陀川沿いのゆるやかな下り道をゆっくり歩く。川音と黄葉。幻想的な雰囲気の道である。通り抜けるのがもったいない。30分ほどで大神山神社奥社の横手に出る。大国主の命を祀るひわだ葺きの大社である。参拝。神殿越しに裏山のもみじが透明に輝く。
 
日本一長い自然石の道という参道を歩く。神さびている道である。由緒ある天台宗の大山寺の境内を参拝の後に抜ける。あふれる観光客に白い装束を着た年輩の人たちがまじる。にぎあう門前町の土産物屋をひやかして大山寺橋を渡って駐車場に着く。橋の上から、登山道の尾根がくっきりと続くのが見える。充実感。
大山登山口出発(15;00)。車で混雑している。帰路は大山環状線をとる。一の沢、二の沢で大山を見上げる。崩れて険しい山容を眺める。この道も黄葉のトンネルである。鍵掛峠で紫にけぶる裾野の上に聳える大山の北壁の全容を堪能する。大山蒜山スカイライン(無料)に入り、鬼女台展望台で烏ヶ山を右手に従えた大山を遠望する。燃え上がる一面の高原の道を走って、蒜山高原。ラム肉のジンギスカン定食(1200円)。山葡萄のワイン半ボトル(1200円)を購入。馬三匹とすれ違う。蒜山ICで米子自動車道。往路を帰る。宝塚あたりで大渋滞。
 
枚方市香里ヶ丘到着(20;30) 蒜山高原で見た白い三日月が、空の高い所で明るくその存在を示す。暁に家を出て、伯耆の国の山に登って、備前の国の高原で遊び、その日のうちに河内の国の家に帰ってきた。贅沢な一日であった。「紅葉」という言葉で表現してすましているけれども、個々に見て感じればそれぞれに色合いも味わいも、違っていることを実感できた。暦の上では初冬でも、実の季節は晩秋の大山の大黄葉を歩いたひとひとなった。走行距離約550Km。高速料金往復1万1千円。伯耆の国の大山もまた神の山である。 
 
 
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