肥後の国  国見岳    1738.8m  2000.5.6(土)  天晴る
 
国見岳は九州山地に属し肥後の国の最高峰の山である。宮崎県椎葉村、熊本県矢部町、泉村(五家荘・方言でゴカンショと発音する)からの三つのルートがある。この周辺は山菜の宝庫である。
 
砥用町三和出発(8:00)。連れ合いと二人。母親に握り飯、高菜漬けと卵焼きの弁当を作ってもらって出発。R218を往く。緑川に架かる単一のアーチ式の石橋では日本一の霊台橋を渡って、緑川ダムを右の眼下に眺めて、東砥用の三本松で旧道に入る。九州山地の山並み越しにわずかに国見岳が頭をのぞかせている。
 
内大臣橋(8:30)。かつて東洋一の高さを誇った内大臣橋を渡る。最近まで赤い色だったが紫色になっていた。WCあり。四つ辻で道を間違えて白糸第4小学校に上がってしまった。茶摘みの人に道を聞いて引き返す。じゃり道の未舗装の林道を登っていく。左手に緑川の源流の一つの谷川に沿っていく。両側から迫る新緑に圧倒される。藤の花が無造作に咲いている。それに陽がさして輝いている。営林署の人たち、谷川でキャンプする人たちとすれ違いながらゆっくりとでこぼこ道を往く。一台の車が停まっていた。顔を見るとにこにこしている。休みごとに山に来ている母方の叔父であった。この叔父は子どもの頃から暇さえあれば山に入っていて、母親からきっと山で死ぬと宣言されていたほどに山好きである。特に国見岳一帯は熟知して山菜を山のように採ってこらす。
 
杉の木谷登山口出発(9:30)。谷川のほとりに5台ほどの駐車スペース。諸準備の後に歩き始める。すぐに杉の植林のじぐざく道を急登する。30分で杉林を抜けて照葉樹林。平坦な道をしばらく楽しんで再び山道に入る。ブナの林である。水無しの谷沿いを上がって尾根道にとりつく。ブナの大木が林立する。スズ竹の覆いかぶさる道を押し分けて少し我慢すると南側の展望がきいてくる。椎葉方面との分岐を過ぎる。
 
水場(11:50)。鮮烈な山水で顔を洗う。少し登ってゆるい尾根道にかかるとシャクナゲの群生。まだ蕾である。例年は今頃が盛りとのこと。シャクナゲの間から頂上の祠が視界に飛び込んでくる。
 
国見岳頂上(12:25―12:45)。低木に囲まれたさほど広くない頂上。石組みの上に祠がある。向いには露岩に注連縄をはって天降日之宮(あまもりひの宮)を祀る。低木の外に出ると四方を見はらかす大展望である。泉村から登ってきたというご夫婦と話す。杉林とスズ竹の道で2時間30分ほどの行程とのこと。南方の崖になっている所に座をしめて昼食。梅干しのしょっぱさが身をしゃきりさせる。山肌を這い上がってくる風に身を吹かせる。さまざまな想いが去来する。日常のことがどたばた劇のように思えてくる。つまらないことに腹を立てていることが滑稽だ。でもその滑稽さの連続が暮らしていくということなのかも知れない。どうでもいいことに視野を塞がれて、大切なことを忘れてしまっていないか。しばしの間、四方の山々を見ていたら心がすっきりした。帰りは広河原コースを歩く。シャクナゲの群生を抜け、スズ竹の道を下る。サンショウウオの生息する沢をいくつか横切る。杉・檜の林を下って林道に出る。杉の木谷コースに比べると距離も長くしんどい。しかし、起伏があって沢・林と変化に富んでいる。国見岳を正面から見上げることもできる。
 
広河原登山口(15:00)。ここも駐車スペースがある。緩い上りの林道を歩いて杉の木谷登山口(15:20)。道の脇のいたどりを口に含む。すっぱい味が疲れを癒してくれる。冷たい湧き水で身体を拭いて、さっぱりとする。車は土埃で真っ白。小鳥たちのさえずりにつつまれていた一日でもあった。
 
砥用町三和着(16:30)。ゆっくりと風呂に入る。裏山を見て入るので露天風呂のようである。あの叔父が採ってきてくれたタラの芽(方言でダランメ)の天ぷらを嫌というほど食べる。なんいう贅沢。子どもの頃はこのダランメを食べても当たり前のことに思っていてその価値を知らなかった。昨日は田植えの準備をして日を送った。あれほど逃げ出したかった田舎の生活が自分にとって一番性にあっていることを知った。というより思い出した。
 
 
 
 
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