河内国 生駒山   642.3m  2000.4.29(土) みどりの日 天晴る
 
 早起きして朝日を身体いっぱいに浴びて、大きく深呼吸してみた。いい祝日の朝。日本の国に生まれたことを感謝する。わたしはこの国が大好きである。午前中に読書、たまった仕事、小休憩。午後に再び空を見ると、胸がきゅっとなる無窮の蒼さである。もういてもたってもおれなくなって、今からいける山を考える。通勤の途でいつも眺めている生駒山にしようと思う。桜、新緑、夏の濃緑、紅葉、冬枯れ、紫色につつまれる芽吹きの頃、いつも眺めて仕事に通っているである。頂上の山上遊園地には車で行ったことはあるが、歩いて登ったことはなかった。
 
 枚方市香里ヶ丘出発(14:30)。連れ合いと二人。R170を渋滞なしで走る。いつもは変電所前で渋滞につかまる。コンビニで弁当と飲料水を購入。高菜のおむすびを昼食がわりに車中で食べる。近鉄東大阪線新石切駅駐車場(15:00)。係員の誘導で苦手なバックでの駐車を一発で決める。まんざらでない運転の技術。でも一人でできないとね。駐車場で登山靴に履き替える。リックを担いで靴下を脱いでいる姿は傍目には異様な光景と映るだろう。石切神社の大鳥居を横に見て、緩い勾配を上っていく。ちょっと道を迷って円福山正興禅寺の境内と墓地を抜けて近鉄奈良線をくぐる。子どもの頃は墓地は恐い所だったが、今はすがすがしさを感じる場所に思える。石に刻まれた没年と名前だけの世界。余計な飾りがなくすっきりとしている。娑婆に生きて落ち着くところに落ち着いた。辻子谷コースをとる。この道は古くから生駒山宝山寺に参詣する道であった。古い住宅街の細い路地を上がっていく。爪切地蔵(15:40)。石に細い線で彫られた仏様を拝する。振り返ると大阪平野が広がってくる。家並みがとぎれてくる。線香のよい匂いがながれてくる。桔梗の紫の花が道なりに咲いている。
 石の道標を読み、桜の花を眺めながら歩く。うっすらと汗がにじむと妙覚寺・興法寺分岐(15:55)。谷川がずいぶん下に見える。すなくら橋を渡って少し上ると舗装道から土の道になる。沿道には石仏が一定の間隔で祀られてはる。新緑に覆われる。十三重石塔分岐を過ぎる。階段状の道が続く。視線を上げると石段の向こうにお寺が見える。興法寺(16:25)。静寂のなかに佇む。御手洗し(みたらし)で清めて境内におじゃまする。境内にはしだれ桜や八重桜が満開であった。音もなく花びらが舞って、苔むした地面に降りつむ。お墓の清掃をなさっている家族と挨拶。一息ついて、やや広くなった道を歩き出す。樹林を抜けて空が明るくなってくる。広い道と交わる。生駒縦走歩道である。府民の森ぬかた園地(16:40)。休憩。すぐに汗が冷たくなる。WCあり。生駒山上遊園地のジェットコースターの轟音が聞こえる。道標に従って細い道をとる。二つ舗装道を横切ってスカイラインまで上る。登り切ったところの山桜の下で休憩なさる東大阪市からの品のよい老夫婦と話す。石切駅から4時間かけてきはったという。若い頃は1時間で登ったとのこと。生駒頂上の場所を教えてくれる。会釈して別れる。
 生駒山頂上(17:05−17:30)。家族連れ、カップルに混じって遊園地に入る。入園料無料の日であった。登山者にはその旨を入り口で伝えれば入れてくれるらしい。園内は別世界、にぎわっている。楽しげな歓声と機械の音。展望する大阪平野はまぶしく輝いている。生駒山頂は鉄道の乗り物の軌道の内側にある。振り落とされないように必死に手すりにしがみつく子どもの姿がかわいい。この子たちもいつか茶髪になってしまうのか。コンビニ弁当を回転するジェットコースターから聞こえる悲鳴を聞きながら食べる。ご年輩の一団があれには乗れないとひきつってはる。乗らないのに恐怖を語る。
 生駒縦走歩道まで下って、ぬかた園地方面へ道をとる。舗装道である。椿の赤い花を眺めつつ歩く。途中にWCあり。摂河泉展望コース・生駒縦走歩道分岐(18:10)で摂河泉展望コースを下る。もう日が陰ってきた。六甲の山々に沈む夕日。大阪平野が薄暮に広がる。急なところと平坦なところをくり返しながら下っていく。この道もよく整備されている。掃き清められた様子。双子塚(18:35)を過ぎ、展望台ではカップルたちのいちゃつきを中断させる。初々しいカップルだった。がんばれよ、若者。枚岡公園(18:50)。暗くなって灯りのともる家々の間を縫って歩く。車の喧噪に馴れると近鉄東大阪線新石切駅駐車場(19:30)。ドーナッツを買う。枚方市香里ヶ丘(20:15)。もう汗の吹き出る季節である。
 
 新緑を満喫した半日となった。山中の静寂、遊園地の賑わい、いずれも心楽しい。あの老夫婦もご無事で下山しはったと思う。かたつむりのような早さであっても頂上に至る。一歩一歩を踏み出せば、休み休みでも目的地に達する。素敵なご夫婦であった。
 
 
 
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