大和国 大和葛城山(960m) 平成16年6月5日 晴
 
葛城山からの金剛山北稜
 
里芋の葉に一玉の朝露がころがる。そこに朝日がさっと射して、透明な黄金色の玉となる。ぐっと陽の光に力がこもる季節となった。大和国と河内国との国境である水越峠から葛城山に登った。全行程三時間余りの小さな山歩き。登山口を示す標識の横から歩きはじめる。奔り下る山水の脇の、敷石の小径を踏む。木づくりの階段の道をひたすら登る。緑陰に野苺の赤い実がぽっと灯る。照葉樹の雑木林の木洩れ日。小竹が垣根をつくる道。空がぽっかりと開く。古京の飛鳥が手の中にある。山頂に近づくと檜の小暗がり。じっくりと汗をかくとツツジの原に出る。清々しい開放感を覚える。わずかに花が咲き残る。眼前に葛城山の斜面が穏やかに裾をひく。頂上で遊ぶ人の声が漏れてくる。板敷きの上で弁当。ツツジの中の道を登る人の姿が見え隠れする。広い道をゆっくり辿って葛城山頂上。草の上にてんでに座って弁当を食べる人たちの笑顔は絶えない。霞む大阪平野を望み、大和三山の結ぶ三角形をたしかめる。風は萱の葉を靡かせて吹く。深呼吸をして下山開始。下刈りした山肌で蕨を摘む。木苺の野で苺摘み。完熟した光る黄色の実を口に含めば、あまずっぱい味覚が疲れをいやしてくれた。道脇の草草を楽しみながらただただ下っていく。沢音が高くなって水越峠。帰途の祈りの滝には、清水を汲む人で列ができていた。葛城山は清冽な水を生みつづける山である。広がる山裾の棚田では、田植えを終えた水田が流れる雲を映して、さざ波がたっていた。夏の光のなか、頼りなさげに若い稲苗が風にゆれた。