木曽の御嶽山 1999.10.23(土)
 
 
 
 
こんにちは。秋晴れの日が続いている。蒼天の白い高層雲を眺めると、もういてもたってもおられないぐらい山に行きたくなる、そんな時期だ。土曜日に木曽の御嶽山に登ってきた。日帰りで行ったので、少々疲れた。登山口の田の原までは、紅葉の真っ盛りで錦秋との言葉がぴったりであった。しかし、登るにしたがって風が冷たくなって、頂上には雪が積もっていた。寒さのために薄着の人は剣ヶ峰まで行かずに、王滝頂上まででやめている。楽しむためには、それなりの装備が大切なんだと雨具を持ってきたことを、ちょっとうれしく思った。
 
3:30 枚方市香里ヶ丘出発。暁の西の空には、赤い月がぽっかり浮いていた。天晴る。マイカー登山。女房と二人。京都南で名神高速道。養老SAで豚汁定食の朝食。小牧JKで中央道へ。恵那SAで休憩。朝霧がもくもくと湧き上がっている光景を見る。恵那山の稜線に朝日あたって金環に輝く。中津川ICにてR19に下りる。早朝でいずれも順調。木曽谷を木曽川に沿って北上し、木曽福島町の元橋で県道20号へ左折。御岳への看板を目印にすれば、わかりやすい。王滝川に沿いながら、いくつも橋を渡って右岸左岸を走る。ダム湖の御岳湖の静かな湖面の脇を過ぎる。まだ霧に覆われている。中越で右折し、やや急な登りになる。左右に神社や旅館・民宿を見ながら一途に登る。御岳スカイライン(無料)に入ると、紅葉が見事だ。朝日に木々の黄色が輝く。つづら折りの道を上るほどに透明な葉になる。止まったリフトの下をいくつもくぐる。ぐんぐん高度が高くなる。広葉樹から針葉樹が多くなると、田の原に至る。明るい広場である。大きい駐車場と食堂をかねた売店がある。すでに20台ほどの車がある。体操をして靴を履き替え、準備をすませる。WCもいくつか備わっている。眼前に大きく御嶽山が威圧的に覆い被さる。緑の裾の、赤茶けた地肌、そして白い雪が対照的にかつ調和をなして、無骨にすっくと聳える。
 
 
 
 
 
9:00 王滝口登山口(田の原)登山開始。御岳観光センターのある田の原は七合目にあたる。おにぎり2個(650円)を買う。御影石の大きな鳥居をぐぐって登山道がはじまる。ハイマツの平坦でひろい砂利道がまっすぐに伸びている。脇の笹の中の池をのぞくと、薄氷だ。風がないと暖かい。木の鳥居の重なる田の原大黒天、御嶽神社頂上奥社遙拝所入り口を過ぎて、ゆるやかに上ると大江大権現に至る。ここから小ぶりの木の鳥居をくぐると道が狭く急になってくる。ここまで20分。枕木の階段状の道。
 
 
 
 
 
9:40 あかっぱげ。谷の側面が崩れて赤土がむき出しになっている。いよいよ道がここから急になる。石柱に「田の原へ1356m、剣ヶ峰へ2075m」とある。息があがって金剛童子。地に這うようにハイマツが伏している。森林限界。見返ると、中央アルプスの峰がそこにある。溶岩の道をひたすら上る。霜柱が土手にある。踏んでみると、さくっとする足底の感触。
 
10:20 八合目石室。風が強くなる。服を貫いて身を刺すような冷たさ。避難小屋あり。後発の人に越されながら富士見岩まで。下山する人もある。声をかけると、7時ぐらいに登りはじめたとか。どれが富士山かわからず。硫黄の匂いがすかにする。噴火口の音が風にまじって轟となる。いくら登っても同じところを歩いているような錯覚。一向に頂上が近くならない。けれどもかえり見すればすそ野や遠くの山が開けて、確かに高さの増したことを知る。谷の陰には雪が少し。枯れ草が斜面に波打つ。ハイマツの葉裏がひるがえって銀色の皮を広げたように光っている。一口水(御神水)にて小休憩。ドラム缶にパイプでわき水を引いている。凍結して水はでない。表面に3cmほどの氷が張っている。
 
 
 
 
 
11:20 九合目石室。下ってくる人が着替えている。人ごとに風の強さと冷たさを語る。こんもりとした富士山の頂上が見える。白く煙っているようだ。南アルプスの諸峰もわずかに顔を出している。大のぞきの深い谷の壁を見る。中央不動、武尊大神の祠を過ぎる。溶岩と火山灰の道となる。ハイマツもなくなる。夫がかじかんだ妻の手をさすっている初老の夫婦に挨拶。
 
11:50 王滝頂上(御嶽神社頂上奥宮本宮、2936m)。雪のかたまりを踏んで頂上山荘に至る。お城の石垣のような石組み。山荘は既に休み。神社に参拝。雨具を身につける。休憩をとる人が多い。建物の陰から出ると、吹き飛ばされそうな強風。耳が痛い。剣ヶ峰への、八丁ダルミを歩き出す。地獄谷の噴煙が上がる。音も響く。積雪の帯。眼前にぐっと剣ヶ峰が立っている。大きな石を踏みながら頂上をめざす。身を切る寒風が押し上げてくれる。ありがたいのやらないのやら。
 
12:40―13:40 剣ヶ峰頂上(3067m)。無数の大石を屋根に載せた山荘の脇を抜け、鳥居をくぐって御嶽山真大尊尊神を祀る立派な神社。パノラマの大展望。紺碧の空。しかし、寒風のため長く眺めることはかなわない。建物の陰で休みをとりながら眺める。東南に北アルプスを前面に、その後ろに甲斐駒ヶ岳などの南アルプスの諸峰、そして富士山がぽかりと控える。北に乗鞍岳、穂高、立山の連山。西に雲海の上に白山が浮島のように青く立っている。南には恵那山がなだらかに見える。近くに目を移すと、眼下に二の池蒼く澄んでいる。おはちめぐりの岸壁には凍り付いたような雪がへばりついている。風の鳴る音と時の止まったような風景に釘付けだ。即席チャンポン、魚肉ソーセージ、シーチキン、おにぎり一個にて昼食。岩陰にてココアで暖まる。八ヶ岳方向の雲海がみるみる広がってきた。顔面に風をうけながら下山。
 
14:05 王滝頂上通過。火山灰が目に入る。地獄谷展望台はみおくる。雪を踏んでみる。さくっとやわらかい。名残を惜しみつつ下りる。岩に足がのるとぐらっとする。疲れれば中央アルプスを遠望する。
 
 
 
 
 
15:10 八合目石室。見下ろせば、田の原が大きく見えはじめる。雨具を脱ぐ。ぐんぐん下る。頂上からの襞が幾筋もすんなりと伸びる。そこにやわらかくなった陽光が陰影をつくっている。路傍の祠ごしの中央アルプスを眺望すれば、山の神秘が胸にやってくる。いにしえの行者はどんな人たちだったのだろうか。願う幸せはわれわれと同じであったのかもしれない。なつかしい思いがやってくる。しばし風の声を聴いていた。大江大権現で小さな鐘を一叩き。余韻の後に、深い閑寂がやってくる。まだ、霜柱は日陰に残っている。
 
16:10 登山口(田の原)到着。遙拝場に立ち寄り拝礼。湿原の中の板敷きの道を歩いた。石ころ道を歩き続けた足には、凹凸がなく心地よい小径である。振り返れば、そこに御岳の巨大なかたまりが聳えている。登山をなしとげた充実した気持ちが湧いてくる。散策をするサンダル履きの人たちも多い。そのうちの一人の品のいい初老の方が、お登りになったのかと尋ねた。ちょっとうらやましげな語感が感じられた。そして天気のよかったことを言祝いでくれた。車に帰って着替えを済まして帰宅開始。四合目の名古屋市民御岳休暇村で入浴。500円。二槽の大浴場で、さっぱりとした泉質。百草丸をつくる長野県製薬株式会社発行の「木曽御嶽山絵図」をもらう。色刷りのおもしろい地図だ。木曽ワインのロゼを2本購入。道にそって入浴だけできる温泉が点在している。元橋で右折してR19。中津川の手前で交通集中のため渋滞。中津川でカレーの夕食。らっきょが酸っぱくて美味。恵那ICで中央道に入り、名神瀬田東で京滋バイパスを経て、R1に。
 
23:30 枚方市香里ヶ丘到着。走行距離約680Km。高速料金約1万円。王滝村で給油。帰り道では、御岳湖に登った十四夜の丸い月とずっと一緒に走ってきた。羽島PAで仮眠をとった。深夜のためにトラックが多かったが、高速道もR1も渋滞なく、すんなりと家まで無事に帰り着いた。日帰り登山は御岳が限界か。霊峰御嶽山の秋を体中で満喫した一日であった。登山道に連なって存する神や仏の祠や像は、息のあがった登山者を励ましてくれる。それぞれに拝礼しながらゆっくり登るのも、かつての行者を想うようで楽しいことであるかと思う。
 
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