木曽の御嶽山U  3067m      平成13年秋分の日  快晴
 
 
 
秋分の日、晴天の御嶽山を歩いてきた。霊峰御嶽山は大にぎわいであった。この秋は相次ぐ台風の接近と秋雨前線の活発化によって、雨や曇りの日が続いていた。しかし、一昨日から秋の澄みきった青空が訪れた。天空から乾いた透明な風が吹き下っている。居ても立ってもおれずに職場の仲間2人と連れ合いの4人で出掛けた。私にとっては2回目の木曽の御嶽山である。今回は剣ヶ峰頂上からさらに三十六童子おはち巡りを経て二ノ池まで歩をすすめた。おはち巡りの道は、赤褐色の地面に大石がごろごろところがって、まるで異星の風景である。二ノ池は日本国で一番高い所にある池である。お山は常に涼風が吹いていた。
 
大阪府枚方市京阪香里園駅(0:00) 京滋バイパス、名神道、中央道。恵那SAで夜食・仮眠。中津川ICでR19。出口付近のコンビニで朝食と昼食を調達。R19沿いには何軒かのコンビニあり。しらじらと夜が明けてくる。山々は黒いシルエットからしだいに色がついてくる。木曽川沿いに走り木曽福島町元橋で左折。王滝川を縫う県道20号を走って三岳村から王滝村。御岳湖は水量が少なく湖底が露出しているところがあった。湖面には白く水蒸気が立ちこめている。温泉宿、御嶽信仰の社、紅葉はじめた木々を抜けていく。道沿いにうす赤色の電灯が夜明けの薄光にぼんやりと灯っていた。なんだか色っぽい感じがする。七折れ八折れしながら上っていく。白樺の幹の白さが際立つ。朝風にそよぐススキ。秋の到来を知る。八海山あたりに来ると広がる雲海を見渡せる。朝日にすべてが清浄に光る。田の原の駐車場はすでに7割ほどの駐車率。関東方面のナンバーが多い。
 
山歩き開始(7:00) 諸準備の後、歩き始める。登山口で記念写真。石の鳥居をくぐって緩い上りの砂利道をまっすぐに歩いていく。よい足慣らしである。大江大権現で鐘を一叩き。樹林帯の中、振り返ると中央アルプスの峰がこの葉隠れに見える。あかっぱげでパンとジュースの朝食。森林限界を超えた金剛童子(8:00)に至れる。岩に腰かけてオカリナを吹く青年。展望が大きく開ける。覆いがとれたようで気分が高揚する。しかしこれから大岩を踏みながらの淡々とした登りである。いくら登っても同じところにいる錯覚を覚える。ある童子に供えられた蝋燭の火が消えていたので、マッチで火を灯す。八合目石室(8:25)。九合目石室(9:30)。いづれも新築であった。一口水は枯れているのか、岩にしみ出る水滴を柄杓で受けている。登ってきた道を見れば、延々と人の列が続いている。
 
王滝頂上(10:00) 神社に参拝。蜜柑を食べながら大休憩。頂上小屋は閉鎖中であるがトイレは利用可。東に面した大小兼用の男性用は戸が無い。ここで大景観を見ながら大きい用を足したならば素晴らしいだろうと密かに思った。でもひっきりなしに人がやってくる。バスでやってきた集団が点呼をしている。旗を持った若い女性が添乗員のようだ。漏れてくる中年女性の話によれば、岡山から10時間かけてここに来たとのこと。灯籠の上に置き忘れられたカメラを発見。すぐに下山しようとする集団に大声で知らせる。リーダーらしき初老の男性が引き取りに来た。営業中の山荘は覚明堂であるという貼り紙があった。覚明堂は黒沢口登山道である。一息ついて、鞍部の八丁だるみを経て剣ヶ峰をさしてゆるゆると登っていく。剣ヶ峰は蒼天に鋭く屹立する。
 
 
 
 
剣ヶ峰頂上(10:50) 御影石の階段を上り切って石の鳥居をくぐると頂上。御嶽神社に参拝。頂上は満場御礼が出るほどの大にぎわい。乗鞍岳正面に見る頂上の標柱の場所は、記念撮影の順番待ちでひときわ混雑している。快晴で空気が澄み切っているので、四方八方の山々がくっきりと迫ってくる。白い雪をかぶった富士山もその頭を覗かせる。乗鞍岳、その後ろに控える北アルプスの諸峰。中央アルプス、南アルプスの諸峰。白山。名を知らぬ峰峰が居並んでいる。御嶽山が従える手前の山々はその一つ一つの谷や沢までが明確に確かめられる。嘆息しながら眺める。二ノ池の蒼さよ。お池めぐりに出発。剣ヶ峰の社務所の裏から一ノ池側に下る。一ノ池には水はなく、池の痕跡ばかりである。噴煙の立つ地獄谷を左手に見る。硫黄の匂いが風に流れてくる。谷を覗き込むと、切り込んだ荒々しい地面と噴煙が上がる。振り向けば剣ヶ峰の険しい姿がそこにある。
 
 
 
 
お池巡りの道の一ピーク(11:35) 継母岳につながるピークで昼食。おにぎり、ラーメン、パック入りの筑前煮、缶詰。白雲をたなびかせた白山を遠くに眺めながらの食事。湯が少なかったために濃いめのココアを飲む。風は穏やかである。天上での贅沢な宴の後、二ノ池方面への峰の道を歩く。岩を敷きしめた険しい道である。左の急斜面は深い谷へ堕ちる。魔利支天山、その裾野の賽の河原、継子岳を眺める。足もとを見れば枯れた植物が点在する。こんなところにも生い立つのかと驚くとともに生命力に魅入る。岩肌には苔がへばり付いている。剣ヶ峰が一ノ池を隔てて見える。
 
 
 
二ノ池(13:0) 一ノ池を半周ほどすれば、二ノ池へ下る道になる。ザレ道を時に滑りながら下っていくと淡い紺色の二ノ池が顔をのぞかせる。天界の青いサファイヤである。池の端に建つ青い屋根の二ノ池小屋。ぽつんと人工物が自然に圧倒されている。山影が水面に逆さに映る。静寂に包まれる。池畔で小休憩。西壁の窪みに土で汚れてはいるものの雪渓がわずかに残る。池に手を浸すと水は冷たい。水底近くには細かい泥が浮遊している。銀色の鳥居が紺碧の空に光る。池に向かっても鳥居が立ち水辺に神像が祭られている。上弦の月が東天の空に白くひそやかにあった。
 
 
 
 
王滝頂上(13:45) 二ノ池から覚明堂を間近に見下ろす道を大回りして剣ヶ峰直下の道を経て王滝頂上に戻る。剣ヶ峰が覆い被さってくる。緩やかな上りである。檸檬の酸味に痺れる。王滝頂上で小休憩。疲れが全身を覆っている。さあ下山。大石の上を用心深く踏みながら下る。いくら下っても同じ所にいるような脱力感に耐えながら歩く。足の底が熱く感じる。こんな時である、標準体重に落とさなければと決心するのは。肥満は山歩きの敵。人よりよけいに水分補給も必要であり、やたらと喉が渇く。富士見台で辛うじて富士山を確認。上りでは位置を特定できなかったから分からなかった。疲れと痛さを堪えながらも歩くとやっぱり高度は下がる。眼下の景色に励まされながら下っていく。どんどん越される。途中で岩の上で小休憩。八合目石室と金剛童子で全員で小休憩。見上げるとはるかに王滝頂上の白い山荘の建物がある。あかっぱげまで来ると石が少なくなって歩きやすくなる。大江大権現で鐘を一叩き。しばし遙拝所に寄る。再び砂利道に戻り、穏やかな日に照らされた御嶽山を背景に一人ずつポーズを決めて記念撮影。山の東斜面は日が陰りはじめている。山の彫りの深さが増す。
 
田の原(15:45) 和漢胃腸薬の百草を購入。粒状のものが飲みやすいと言われたが、あえて板状の百草にした。整理運動、簡単な着替え。百折れの道を名古屋市民御岳休暇村まで下る。入浴料300円。ここで一時間ほどゆっくりする。土産に梅ワイン「御嶽の里」を購入。木曽路の帰路である。山口村から工事規制渋滞、中津川では交通集中渋滞で時間をとられる。山口村での渋滞は上下線の交通量の多寡を勘案しない当時間での交互通行が原因である。名古屋方面は休日の夕方に行楽帰りが集中する時間帯である。中津川市街の渋滞は、一車線から二車線になり、再び坂の途中で一車線になるという道路の構造的な欠陥が原因であるように思える。ようやく中津川ICで中央道に入った。小牧JCTで分岐し名神高速道を東京方面へ一端向かい、東名阪に入る。名古屋市で上弦の月は赤色に灯って西の空に沈もうとしていた。夜の名阪国道をひたすら走って天理市で西名阪。香芝ICで下りてR165。ここまで来ればお馴染みの道である。
 
大阪府柏原市JR高井田駅(11:55) なんとか終電車に間に合った。同僚お二人にはぎりぎりで申し訳なく思う。あの中津川での大渋滞がなければと思うが、交通渋滞などのことも計画のうちに本来入れておくべきものである。時間的な余裕を持たせた計画を教訓としよう。
 
枚方市香里ヶ丘(13:10) 無事に帰宅。ヨーグルトと数粒の葡萄を口にする。充実感とともに深い眠りに落ちた。泥のように眠るとはかくのごときものか。
 
王滝頂上直下の登山道に沿って枯れたハイマツが白い枝ばかりになっていた。その痛々しい姿に申し訳なさを感じる。登山道と山荘からの排水の影響であろうか。入山料を支払い保護と復元の費用に充てるのも、登山者にできる務めかもしれない。後の世の人のためにも。