金剛山 V      平成15年2月11日 建国記念の日  小雨
 
 
千早城趾
 
職場の恒例行事の金剛山寒中登山。本年度の参加者は5名。一週間前の寒波が過ぎて春先の暖かさ。頂上あたりにはわずかに積雪と凍結が残るものの、雪解けの泥道であった。人出は例年に比べると少ない。下山の途中から小雨。それでもやっぱり山歩きは楽しい。当行事の先達のY.Dさんは、千早城趾、のろし台、頂上の各所でビールを飲み続けた。彼は、小学校の時分、父親のお使いで一升瓶を下げて酒屋に清酒を買いに行き、その帰りに少し舐めた酒の味に感動した豪の者。私などは大学受験の勉強をしていて、眠れなくてコップ一杯きゅうと飲み干して、二日酔いで学校を休んだぐらいしか話がないもんだからかわいいものである。母親は、体調が悪いから休むと担任に電話連絡した。嘘ではない、体調が悪かったのだ。布団のなかでのたうち回りながら、きっと稽古して一杯ぐらいでは休まない身体をつくろうと決心した。
 
例年の千早本道コースを変更して、千早城趾経由の道をとる。五百数十段の石段をゆっくりと登りきると、楠木正成ゆかりの千早城趾。藁人形などの奇策を以て鎌倉幕府軍と攻防した激戦地。三方が急峻な斜面で、一方が金剛山へと続くの尾根道。人なつっこい、麓の村の茶店の、老婦人が笑顔で迎えてくれる。茶店でおでんとビール。私は甘酒。ここの甘酒は麹から仕込んだ本物。麹の香りと砂糖を使わないまろやかな甘み。おばあちゃんと会話を楽しむ。お茶をごちそうになる。平坦な道を歩き、千早神社に参拝。少し上って寂しい休憩所。ここからは金剛山を仰ぎ見ることができる。Yさんはスットクを茶店に忘れたことに気付き取りに帰る。その後ろ姿に哀愁があった。再び下り千早本道と出会う。そこでNさんご夫妻と合流。のろし台手前でYさん追いつく。下山する人の足下は泥で汚れている。
 
 
葛木神社
 
頂上広場で昼食。白飯の握り飯と焼き鮭、インスタントの豚汁と銘酒河内音頭。Nさんご夫妻の仲のよさ。転法輪寺に参詣。葛木神社への道をとる。朱色の灯籠の立ち並び、鬱蒼とした大木の中に続く神々しい参道である。人間界を去って異界へと誘われる感覚が襲う。白霧の葛木神社に参拝。その横にしめ縄を張られた大岩の「福石」が祀られている。石碑に刻まれた説明に、「崇神天皇の御代 大国主の神ご出現 大国石とも言われ 福徳招来の守り神」とあった。斜面のまだら雪を見ながら伏見峠へ歩く。アイゼンを付けたり外したりしながら下山。雨が降り出したので傘をさす。路溝が落ち葉で詰まって路に水が溢れている。その落ち葉を取り除こうと小学生たちががんばっている。半分遊びでやっているのだが、歩く人たちのことを想ってのことである。なんだかんだと言っても日本国の子どもたちは捨てたものではない。こんなすがたを見るとうれしくて仕方ない。雨に濡れた木々の美しさを堪能し、見知らぬ人の便宜を図る子どもに出会った。そんな山歩きのひとひとなった。Yさん、人知れず転んだことは誰にも言いませんよ。