大峰山 大台ヶ原  1999.10.31(日) 天曇る
 
 
今日は朝から小雨が煙っている。昨日の日曜日に大台ヶ原を歩いてきた。日出ヶ丘、正木嶺あたりの高いところは、すでに紅葉の盛りをすぎて、ちらほらと色の鮮やかさが残っていたものの、色あせた木が多かった。しかし、シオカラ谷、大蛇ーからの景観は、紅葉のまっさかり。人出の多さに驚いた。駐車場から車ははみ出して道路に延々と並んでいた。登山姿の人から、手提げカバンを下げた人、ハイヒール履きで石ころ道を歩く人と、いでたちもさまざま。それぞれの秋を楽しんでいる様子。一方で、山が荒れているという想いに気が重くなって歩くのがしんどくなった。山歩きする一人として観光と自然保護のかね合いや共生といったことを、我が身のこととして考え、実践しなければと呼吸が苦しくもなる。山の前にはちっぽけな人間として、その慈愛に抱かれ癒される。しかし、徒党をくみ、機械で木々をなぎ払い、アスファルトで地面を塗り固める。駅のごみ箱に放り込むような気軽さで、ビニール袋につめたゴミを放り出していく。山の許容をこえる横暴を知らぬ間にふるまって、自然を満喫したとしたり顔でつぶやく。山の泣く声をかすかに聴く。それは笹を渡る風の音か、谷川のせせらぎが、小鳥のさえずりか、落葉の踏み音か。大台の霧は、やさしくその傷跡をつつんで隠している。霧が晴れわたったとき、われわれは、呆然と立ちすくむばかりになるのだろう。こんな想いが去来してしかたありません。マイカー登山者として自分の問題なのだ。便利さ手軽さの中にややもすれば埋没する意識を醒まさねば。枚方市香里ヶ丘出発(4:40)。女房と二人。マイカー登山。吉野町でR169に入って、吉野川を遡る。新伯母峯トンネルの入り口のわさび谷を右折して、大台ヶ原ドライブウェイへ。この辺りはまだ紅葉の初期。大峰の山並みが雲海越しに見え始めると、枯れはじめたすすきが美しい。大台ヶ原駐車場到着(7:45)。駐車場はすでに満車。路肩に止める。売店が開いていないので公衆トイレに列ができている。広場は楽しげなさんざめく声に満ちている。早朝からやってきている気合いの入った人たちなので装備は充実。体操の後、諸準備。
 
 
山歩き開始(8:00)。本日は東大台コース。まず日出ヶ岳をめざす。ウラジロモミ、トウヒの平坦な林を歩く。倒木に濃緑に苔むしている。林の中に、かがやく紅色のもみじ葉がときおりのぞく。カメラを担いだ初老の男性が、紅葉は終わっている、ドライブウェイの方がきれいだと話しかける。鹿の食害防止の網の帯が続く。道標や大台の動植物の説明 板を読んではゆっくり歩く。よく整備された路だ。工事用の小型モノレールのレールが長く続く。緩く上って鞍部の板敷きの展望台に至る。日出ヶ岳への木の階段を見上げる。大勢の人が上り下りしている。正木嶺を背負いながら、笹の上に浮いた板の階段を上がっていく。日出ヶ岳頂上(1695m)(9:00)。日出岳地域雨量観測所の白い建物の脇を抜けて頂上。コンクリート造りの展望台。にぎわっている。山上ヶ岳、大普賢岳、弥山、八経ヶ岳、釈迦ヶ岳の大峰連山がくっきりと見える。大和の国の山々が連なる。双眼鏡で富士山を確認。しかしすぐ靄に隠れる。熊野灘は雲海のために見えず。しかし輝く雲のかたまりは美しい。鞍部で道標にしたがって尾鷲辻への道をとる。チェーンソーの音が静けさをやぶってこだまする。正木嶺は笹の絨毯。やや下ると枯れたトウヒの林。白骨の山の様子。台風と鹿と人間の「芸術」。鹿をここに追いやったのは誰か。
 
 
正木ヶ原(10:00)。正木峠から緩く上って下りると、倒木とイトザサの平原。魚肉ソーセージ、いなり、シーチキンの早い昼食。少し下ると尾鷲辻。道の落ち葉を踏む。いく種類もの葉が重なっている。牛石ヶ原(11:25)。尾鷲辻から緩い上り下りを経てイトザサの平原に出る。神武天皇の青銅の大きな像が待っていた。弓の先端にはやたがらすがとまっている。一休みして草原の紅葉を楽しむ。高僧の丹誠上人がこの山の妖怪や魔物を封じこめたという大石がある。この牛石ヶ原はかつて一面の笹原であったという。鹿の食害によって今はイトザサの平原。御手洗池に紅葉が映る。寝ころぶ人、昼食をとる人が多い。みな立ち入り禁止の中。
 
 
大蛇ー(11:50)。シオカラ谷との分岐から10分ほど下る。行列ができるほどの 混雑。順番待ちしてー(大きな岩)に登って、断崖絶壁を覗きこむ。谷を隔てた向かいの断崖の紅葉が見事だ。小さな斑点を並べた秋の色の展覧会。その向こうに大峰の連山。大蛇ー分岐まで登り返してシャクナゲの群落、モミの大木を見ながら滝見尾根を下ると、紅葉が鮮やかになって、シオカラ谷。シオカラ谷吊り橋(13:00)。もみじ葉が流れ下る谷川に手をつけると氷の冷たさ。谷にせり出した木々の彩りを眺める。吊り橋が渓谷美によく似合う。たぎり落ちる清流の音に人声が消える。人の動きがパントマイムを見るようだ。
 
 
谷から伸びる石の階段を一気に上がる。平坦なブナ林の路。緩い上りを経て大台山の家分岐の道に出会って駐車場(14:40)。売店食堂の前で妖怪一本ただらの木彫りが待っていた。バスが15台ほどもあった。大台ヶ原ビジターセンターでパンフレット「東大台ヶ原自然観察路」(200円)を購入。往路と同じ経路で帰る。大淀町でやや渋滞。川上村大滝で好物の柿の葉寿しを購入。夕食はこれ味噌汁の予定。枚方市香里ヶ丘到着(19:20)。晩秋の大台ヶ原を楽しんだ一日。苦い想いが帰り道で去来したのも事実だ。木ごとに、葉ごとに違った色合いの紅葉。針葉樹の緑と混じり合って、互いに引き立てあっていた。