1800年前後のドイツ文学における「ドッペルゲンガー」形象の生成をめぐる考察

科学研究費補助金(基盤研究(C))による研究(課題番号 25370354)



発表論文


1800年前後のドッペルゲンガーモチーフについて (第I報) ― ジャン・パウルのテクストにおける「死」と「わたし」 ―

『大阪教育大学紀要』63巻1号(I 人文科学)2014 1-16頁*


ドッペルゲンガーモチーフの初出テクストとされるジャン・パウルの小説『ジーベンケース』第一版 (1796) を取り上げ、小説とドッペルゲンガーモチーフの関係を分析した。ドッペルゲンガーが、比較的必然性の低いストーリー展開に強く関与しているということ、さらに、それ自体で完結している挿話の語り手として、小説の語り手にならぶ役割も担っていることを明らかにした。さらに、準備段階の草稿や、初期諷刺テクスト『生きながら葬られ』(1790) を参照することによって、喜劇的小品が小説へ発展してゆく過程を辿り、三人称物語という小説の枠組みが、ドッペルゲンガーモチーフの導入の条件になっているという仮説を立てた。



1800年前後のドッペルゲンガーモチーフについて (第II報) ― ジャン・パウルとE・T・Aホフマン ―

『大阪教育大学紀要』64巻1号(I 人文科学)2015 33-45頁*


E・T・Aホフマンの『カロ風幻想作品集』に寄せたジャン・パウルの『序文』を分析し、ジャン・パウルが、「熱狂者」というホフマンの観点を看過していること、それが『美学入門』のフモール論に基づいて「カロ」を捉えようとしたためであることを明らかにした。さらに、ホフマンの物語『ドッペルゲンガーたち』をジャン・パウルの『ジーベンケース』のパロディとして読み直し、ジャン・パウルのドッペルゲンガーが宗教的な背景をもっているのに対して、ホフマンのばあいは、ドッペルゲンガーが個人の体験として描かれていることを示した。



神経と魂 ― エルンスト・プラトナーとジャン・パウル ―

『大阪教育大学紀要』64巻2号(I 人文科学)2016 21-32頁*


ドイツの小説家ジャン・パウルのプラトナー受容を、手紙、『抜き書き帳』、作品の三つのレベルで探った。プラトナーはライプチヒ大学の医学、哲学の教授で、流入説を使って魂と肉体の関係を説明しようとした人である。手紙に書かれていることは、1781年、ライプチヒ大学に入学したジャン・パウルが、プラトナーに傾倒したという事実である。しかし、ヴェーツェルとの論争、ヒュームの懐疑主義という書かれていない事実が、ジャン・パウルの創作活動の大きな動機になっている。『抜き書き帳』には、プラトナーの著書からの引用がかなりあり、作品にも転用されている。しかし、引用元と照合してみると、元の文脈をほとんど無視した引用であることが判り、厳密な意味での「影響」関係が成立しているとは言えない。しかし、テクストを解釈していくと、作者のテーマ、文体にプラトナーの影響と思われる要素が散見される。プラトナーの人間学は、ジャン・パウルのいわば「教養」として、作品を支えている。



双子座と幻影 ―ジャン・パウルとE・T・Aホフマンのテクストにおけるドッペルゲンガーの諸相―

『ドイツ文学研究』(日本独文学会東海支部)48号 (2016) 19-30頁

ジャン・パウルの三つのテクスト『ジーベンケース』、『フィヒテ哲学の鍵』、『巨人』とE・T・Aホフマン『悪魔の霊液』を比較考察し、アレゴリカルなドッペルゲンガー形象が心理的表象へと変貌してゆく過程を明らかにした。その際、ドッペルゲンガーが誰に現れるのか、という観点から、「再帰的ドッペルゲンガー」(ドッペルゲンガー自身に現れる)と、「三人称ドッペルゲンガー」(第三者に現れる)という概念を導入した。

1800年前後のドッペルゲンガーモチーフについて(第III報) ─ハインリヒ・フォン・クライスト『アンフィトリオン』─

『大阪教育大学紀要』66巻(人文社会科学・自然科学)2018 21-32頁*


本論文は,ドッペルゲンガー形象という観点から,クライストの喜劇『アンフィトリオン』をジャン・パウル『ジーベンケース』第一版とホフマン『悪魔の霊液』の間に位置づける試みである。主人公アンフィトリオンとアルクメーネは,アンフィトリオンの姿をした神の出現によって,「わたし」と「あなた」の間にある孤独を意識するようになる。ジャン・パウルのテーマとの接点がここにある。アルクメーネとユピターの対話(第2幕5場)では,神の訪問,つまり,アンフィトリオンの二重化が,アルクメーネの意識されない情動と連動していることが暗示されている。アルクメーネの錯覚は,ホフマンのドッペルゲンガーの妄想から遠くない。



ドッペルゲンガーとエーテル身体 ―ジャン・パウルの二つの身体イメージをめぐって―

『ドイツ文学論攷』59巻 2018.3. 5-22頁

ドッペルゲンガーの身体という観点から、『ジーベンケース』第二版におけるドッペルゲンガーの変容を再検討した。晩年の加筆において、自我としてのドッペルゲンガーが出現する背景には、ドイツ観念論、あるいは、ロマン派からの影響とならんで、同時代の生理学の発展がある。四体液説が最終的に斥けられ、精神と身体を結ぶ要素として、神経を介した情報伝達が注目されるようになる。エーテル身体、磁気術といったイメージとともに、非物質化した身体イメージが自我概念に重ねられていった。





なお、*の論文は、大阪教育大学附属図書館のリポジトリサービスからダウンロードすることができます。



口頭発表


ドッペルゲンガーとエーテル身体 ― 動物磁気をめぐるジャン・パウルの『推測』について ―

日本ヘルダー学会2016年秋季研究発表会
(12月10日 関西学院大学大阪梅田キャンパス)



その他


1800年前後のドイツ文学における「ドッペルゲンガー」形象の生成をめぐる考察

大阪教育大学研究成果発表会 2014



ドイツ文学における主人公と従者の物語

大阪教育大学研究成果発表会 2015



ドイツ恋愛小説における問題の<三人目>

大阪教育大学研究成果発表会 2016




亀井 一
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5. März 2017