おもしろい論文を書こう (その4)

なぜ、わたしの主張は正しいといえるのか? 自分のテーゼを説得的に書くことができるならば、すでにあなたは論文執筆の達人である。

説得力のある論証は、事実関係の正確な把握と同時に、論文の的確な書き方によってはじめて達成される。前者については、努力と幸運に委ねるとして、ここでは、書き方について、思いついたことを、若干、述べておきたい。

まず、事実の記述であるが、ここでポイントになるのは、書く、というよりはむしろ、書かないことである。
とにかく、テーマに関係ありそうなことは、なんでも書いて出す人がいるが、これはマズイ。

最初の段階では、思いついたこと、関係のありそうなことはなんでも書いておくに越したことはない。ひょっとして、あとになって、使うことができるかもしれないからだ。けれども、最終段階になったら、自分の主張に直接関係のない記述は、ぜんぶカットすべきだ

最初は、どうしてもモッタイナイという気持ちが先に立つが、しばらく捨てているうちに、ザクザク切り捨てたくなってくる(のは、ひょっとしてわたしだけか?)。あまりやりすぎないように注意しよう。

次に、考えなければならないのは、論証の手順、記述の順番である。

議論を垂直方向に深めてゆくよう心がけよう。

比喩的な言い回しで判りづらいので、例を挙げて説明する。
環境問題をテーマに論文を書いているとする。ドイツのF市は、自然環境を守るためさまざな運動を進めている。

さて、この材料を使って、どのように議論を展開してゆくのか? 
ごみの分別、環境教育、リサイクル、自動車の乗り入れ規制、などなど、書くことはいくらでもある。しかし、F市が積極的に進めている運動を次から次へ列挙して、それで最後まで突っ走ってしまうのでは、あまりに芸がない。大抵、そういう論文は「つまらない」。議論が水平方向に移動しているだけなのだ。

(とはいえ、かならずしも水平移動がダメというわけでもない。過去に、超マイナーな(ほとんど、的外れに近い)分野で、文献をかき集めて、長大な論文を書いた人がいた。事実の列挙も、ある一定量を超えると、独特の説得力を帯びるものである。)

議論を垂直方向に深めるには、どこか適当なところで立ち止まって、考え直してみることが必要になる。

どうしてF市なのか。環境問題に対する関心がこれほど高まるまでに、どういう経緯があったのか。どうして、これほど徹底した環境問題に対する取り組みが可能になったのか。問い方は、いろいろあると思うが、少し角度を変えた問いを立てるだけで、議論に深みがでてくるのが判るだろうか?

前述の先行論文の調査も、議論に陰影をつける一つの方法だろう。





さて、思いついたことをあれこれ書いてみましたが、多少は、参考になったでしょうか。

一つのテーマに取り組み、その問題を掘り起こす作業のなかで、書いているあなた自身が深められるということが、ぼんやりとでも、お判りいただけだでしょうか。

おもしろい論文が書けそうだ、という気分になってきたでしょうか。

それほどおもしろくないわたしの文章を、ここまで辛抱強く読み続けてきたあなたは、大丈夫。
あなたは、きっと、この文章を読まなくても、ものすごくおもしろい論文を書くことができたことでしょう。
この文章に書かれていることは、この際、すっかり忘れて、好きなことを好きなように書いてみましょう。

あなたなら、おもしろくて優れた論文を書くことができるにちがいありません。

成功をお祈りいたします。

2004年2月16日



卒論執筆について、参考になるようなことがあれば、教えてください。あて先は、
kamei@cc.osaka-kyoiku.ac.jp
 です。

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