さて、ではドイツ語資料を理解するにはこれらの独和辞典で十分かというと、そうではない。ここから先は、大体、二つの道がある。一つは、独独辞典を調べるという語学的な方法。もう一つは、百科事典、各種専門辞典(政治経済辞典など)、年鑑、図鑑、インターネットといった一般的な検索ツールを調べる方法である。
例えば、Bundeswehrという語を独和辞典で調べても「連邦国防軍」という訳語がでてくるだけである。それがどういう組織で、どのような役割を果たしているのか、といったことが分からないとテクストが理解できないことだってあるだろう。こうした具体的なデータは、通例、語学辞典には記載されていない。正確な情報を掴みたいときは、ドイツ語の百科事典や、あるいは、インターネットのデータベースを調べることになる。
では、ドイツ語辞典にはどんなものがあるか。ここでは、ドイツ語圏資料室(B1-305)にあるもので役に立ちそうなものを挙げておく。
Der Duden in 12 Bänden
マンハイムの語学研究所が出しているカラフルな参考書。私がよく使うのは2巻と4巻である。
Duden 2, Das Stilwörterbuch
ドイツ語の語結合を調べる。例えば、Geruch(におい)という単語は、scharf, Süßlich といった形容詞と相性がいいらしい。schöner Geruch とは言わないのだろうか? 作文する時に便利だが、ただ、少し見出し語が足りない。
Duden 4, Die Gramatik
文法事項を確認する。例えば、Spaghetti (複数形)の3格は、Spaghetti であって、Spaghettin にはならない。あれ? と思ったときに調べるのに便利である。
Das große Wörterbuch der deutschen Sprache: in zehn Bänden (1999)
同じドゥーデン社からでている10巻のドイツ語辞典。比較的最近の資料に出てくる単語の意味はこれで調べる。また、作文するときにも使う。たとえば、語句の言い換えとか、あるいは、Das Stilwörterbuch と同様、語句の結びつきを調べることができる。
Wehrle-Eggers: Deutscher Wortschafz. Ein Wegweiser zum treffenden Ausdruck (1961)
同義語、類語辞典。論文を書くときに便利。例えば、416 Musiker の項目には、Musikus, Musikant, Tonkünstler, から始まって、Orchster... Spieler...Singvogel...Sappho といった具合に、音楽家、演奏家、聴衆に関わる語彙が集められている。存在、関係性・・・といった大項目の配列もいかにもドイツ的である。問題の単語がどの項目に入っているのかは、後ろの Arphabetischer Teil で調べる。
ドイツ人ですらこういう辞書を調べて書くのだから、おまえのような日本人はもっと一生懸命調べろ! とエアランゲンのF大先生に叱咤激励(?)されたことがある。
J. und W. Grimm: Deutsches Wörterbuch. 32 Bde. Liepzig 1854 - 1960
しかし、ドイツ語辞典の決定版といえば、やはりこれ。メルヘンでお馴染みのグリム兄弟が着手して以来、100年あまりかけて作られたドイツ語辞典である。現代語も収録されていなければ、正書法も旧式。しかし、記事を読むと、一つ一つの言葉の厚みのようなものが判ってくる。知らない言葉の意味を調べるというよりは、知っている言葉の奥行きを見定めるための辞書である。
さて、これだけあれば十分だろうか?
残念ながら、ここに紹介したのはほんの一部にすぎない。資料検索は、ほとんど無限に続くだろう。
最後に、私の最近の掘り出し物を紹介したい。本学の図書館書庫には、
Meyers grosses Konversations-lexikon : ein Nachschlagewerk des allgemeinen Wissens, 6., gänzlich neubearbeitete und vermehrte Aufl.,Leipzig ; Wien : Bibliographisches Institut , 1902-1920
という百科事典がある。ドイツの詩人 Günter Eich は、この百科事典を使って作品を書いた。今からかれこれ100年前に出た事典であるが、利用価値はなくならない。100年前のことを調べるにはたいへん役に立つのである。