フルクタンの一種イヌリンはショ糖のフルクトース残基にフルクトースがβ-(2→1)結合で20〜30分子結合した直鎖状の多糖で双子葉類のフルクタン含有植物に共通に見られる貯蔵多糖です。自然界ではイヌリンを栄養源として生育できる(イヌリン資化性と言います)微生物が存在しますが、それらは、何らかのイヌリン分解酵素を生産しているはずです。そのような微生物を分離するために、イヌリンのみを炭素源として含む寒天培地に土壌のけん濁液を塗りつけ培養します。そうして現れたコロニーを分離し、それぞれのバクテリアがどのようなイヌリン分解酵素を生産しているのかを調べます(このような技法をスクリーニングと言います)。本研究室ではこれまで土壌から膨大な数のバクテリアを分離して調べてきた過程で、下記のような新規の酵素を発見し、それらの酵素化学的な研究を行ってきました。近年では、これらの酵素の遺伝子の構造から酵素タンパク質の構造を決定することを目的とした研究も行っています。
植物のフルクタンは、光合成で作られたショ糖を原料にフルクトシル転移酵素によって合成されることが明らかにされています。例えば、前にも触れたイヌリンは二つの酵素の働きで合成されます。1つ目の酵素は、ショ糖分子のフルクトース残基を切り取って別のショ糖のフルクトース残基に転移する反応を触媒する酵素で、スクロース:スクロース 1-フルクトシルトランスフェラーゼ(略して1-SST)と呼ばれます。1-SSTの反応によってショ糖にフルクトースがもう一つ結合した三糖ができます。この三糖を1-ケストースと呼びます。2つ目の酵素は、1-ケストースからさらにフルクトースが多数結合した糖を糖転移反応により合成する酵素で、フルクタン:フルクタン 1-フルクトシルトランスフェラーゼと呼ばれます。1-SSTと1-FFTの基質特異性の違いを利用してショ糖からイヌリンが合成されます。また、単子葉類の植物にはさらに特異性の異なるフルクトシル転移酵素が存在し、枝分かれのあるフルクタンが合成されることが知られています。合成されたフルクタンは、エネルギーが必要な時に加水分解酵素により分解され利用されると考えられていますが、フルクタンにはエネルギー貯蔵の役割以外にも、浸透圧の調整や耐凍性の賦与などの生理的役割があるとの報告もあります。我々の研究室では、身近な植物であるキキョウやヒガンバナを材料に、植物由来のフルクタンの合成や分解に関連する酵素やその生成物の生理的役割について解明していこうと考えています。
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