第37回大阪教育大学国語教育学会
2001年12月1日
於大阪教育大学教育学部
附属天王寺中・高等学校内中学校講堂
指導教官 | 野浪正隆 |
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構 成 員 | 沖和哉 柏山佳子 片山美幸 河飯由理 草野奈津美 玉林尚子 |
学校教育では、ほとんどの国語の授業で、教科書の文章が用いられている。教科書に採られている文章ほど多くの子どもが読んでいるものはない。多くの子どもが読む教科書に載せる文章を選ぶのであるから、当然そこには何らかの意図があると考えられる。私たちはその意図を解明したいと考えた。そこで、小説という子どもにとっては記憶に残りやすいものに的を絞り、そこに描かれている主人公に焦点を当てて考えることにした。
中学生は、時には自分と主人公を重ね合わせ、時には客観的に主人公を見つめながら読んでいく。様々な状況に置かれた主人公が、その状況に対してどのような行動をとるのか。小説の中の主人公が読者である中学生にどんな影響を与えるのか。教科書に採られている小説の主人公像を解明することによって、当初の疑問に対する答が見えてくるのではないかと考えた。
三省堂 | 中学1年 | 玩具屋 | 川西蘭 | ![]() |
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空中ブランコ乗りのキキ | 別役実 | |||
水仙月の四日 | 宮沢賢治 | |||
トロッコ | 芥川龍之介 | |||
星の子 | マイケル=ドリス | |||
竜 | 今江祥智 | |||
中学2年 | 兄からのはがき | 佐江衆一 | ||
ゲド戦記 | U.K.ル=グウィン | |||
四万十川―「コロバシ漁」 | 笹山久三 | |||
小さな手袋 | 内海隆一郎 | |||
走れメロス | 太宰治 | |||
中学3年 | カワセミ | 図子英雄 | ||
故郷 | 魯迅 | |||
凧になったお母さん | 野坂昭如 | |||
猫 | トーベ・ヤンソン | |||
吾輩は猫である | 夏目漱石 | |||
東京書籍 | 中学1年 | 愛のサーカス | 別役実 | ![]() |
カメレオン | チェーホフ | |||
木を植えた人 | ジオノ | |||
さんちき | 吉橋通夫 | |||
そこに僕はいた | 辻仁成 | |||
中学2年 | 形 | 菊池寛 | ||
走れメロス | 太宰治 | |||
僕の防空壕 | 野坂昭如 | |||
リトル・トリー | カーター | |||
中学3年 | いちご同盟 | 三田誠広 | ||
絵本 | 松下竜一 | |||
故郷 | 魯迅 | |||
光村図書 | 中学1年 | おいのり | 三木卓 | ![]() |
銀河鉄道の夜 | 宮沢賢治 | |||
少年の日の思い出 | ヘルマン・ヘッセ | |||
そこまでとべたら | 安東みきえ | |||
父の列車 | 吉村康 | |||
坊ちゃん | 夏目漱石 | |||
中学2年 | パラパラ落ちる雨よ | 阪田寛夫 | ||
六月の蝿取り紙 | ねじめ正一 | |||
わたしを作ったもの | ロバート・ウェストール | |||
中学3年 | 握手 | 井上ひさし | ||
故郷 | 魯迅 |
まず、プロット分析を行った。ここでは、始めに小説中の叙述を状況と主人公の心理、行動に分類し、分析表にまとめた。この分析表をもとに、主人公と状況との関わり、主人公の心理の変化を捉えた。
図(1)は、『形』という作品のプロット分析をするために作成した分析表である。ここでの心理・行動は、主人公新兵衛のものである。それ以外の叙述は、主人公の心理や行動に影響を与えるものとして、状況に分類した。
新兵衛の心理が状況によって変化した部分として、プロット分析表の23、25、26、27文を例として挙げる。主人公の新兵衛は、自分の力に自信を持ち、大きな誇りを持っていた。しかし、25、26での状況によって、27文の「いつもと勝手が違うことに気づき、戸惑いを感じる。」という変化が起きる。
形 菊池 寛
- 摂津半国の主であった松山新介の侍大将中村新兵衛は、五畿内、中国に聞こえた大豪の士であった。
- そのころ、畿内を分領していた筒井、松永、荒木、和田、別所など、大名、小名の手の者で、「槍中村」を知らぬ者は、おそらく一人もいなかっただろう。
- それほど、新兵衛はそのしごき出す三間柄の大身の槍の矛先で、先駆けしんがりの功名を重ねていた。
- そのうえ、彼の武者姿は、戦場において水ぎわだった華やかさを示していた。
- 火のような猩々緋の服折を着て、唐冠纓金のかぶとをかぶった彼の姿は、敵味方の間に、輝くばかりの鮮やかさを持っていた。
- 「ああ、猩々緋よ、唐冠よ。」と、敵の雑兵は新兵衛の槍先を避けた。
- 味方が崩れたったとき、激浪の中に立ついわおのように敵勢を支えている猩々緋の姿は、どれほど味方にとって頼もしいものであったか分からなかった。
- また、あらしのように敵陣に殺到するとき、その先登に輝いている唐冠のかぶとは、敵にとってどれほどの脅威であるか分からなかった。
- こうして、槍中村の猩々緋と唐冠の株とは、戦場の華であり、敵に対する脅威であり、味方にとっては信頼の的であった。
- 「新兵衛殿。折り入ってお願いがある。」と、元服してからまだ間もないらしい美男の士は、新兵衛の前に手をついた。
- 「何事じゃ、そなたと我らの間に、さような辞儀はいらぬぞ。望みというを、はよう言ってみ。」と、はぐくむような慈顔をもって、新兵衛は相手を見た。
- その若い士は、新兵衛の主君松山新介の側腹の子であった。
- そして、幼少のころから、新兵衛が守役として、我が子のようにいつくしみ、育ててきたのであった。
- 「ほかのことでもおりない。明日は我らの初陣じゃほどに、なんぞ華々しい手柄をしてみたい。ついては、おみさまの猩々緋と唐冠のかぶとを貸してたもらぬか。あの服折とかぶととを着て、敵の目を驚かしてみとうござる。」
- 「ははははは。念もないことじゃ。」
- 新兵衛は高らかに笑った。
- 新兵衛は、相手の子供らしい無邪気な功名を快く受け入れることができた。
- 「が、申しておく、あの服折やかぶとは、申さば中村新兵衛の形じゃわ。そなたが、あの品々を身に着けるうえからは、我らの肝魂を持たいではかなわぬことぞ。」と言いながら、新兵衛はまた高らかに笑った。
- その明くる日、摂津平野の一角で、松山勢は、大和の筒井順慶の兵としのぎを削った。
- 戦いが始まる前、いつものように猩々緋の武者が唐冠のかぶとを朝日に輝かしながら、敵勢をしりめにかけて、大きく輪乗りしたかと思うと、駒の頭を立て直して、一気に敵陣に乗り入った。
- 吹き分けられるように、敵陣の一角が乱れたところを、猩々緋の武者は槍をつけたかと思うと、早くも三、四人の端武者を突き伏せて、また悠々と味方の陣へ引っ返した。
- その日に限って、黒皮おどしのよろいを着て、南蛮鉄のかぶとをかぶっていた中村新兵衛は、会心の微笑を含みながら、猩々緋の武者の華々しい武者ぶりを眺めていた。
- そして、自分の形だけすらこれほどの力を持っているということに、かなり大きい誇りを感じていた。
- 彼は、二番槍は自分が合わそうと思ったので、駒を乗り出すと、一文字に敵陣に殺到した。
- 猩々緋の武者の前には、戦わずして浮き足だった敵陣が、中村新兵衛の前には、びくともしなかった。
- そのうえ彼らは、猩々緋の「槍中村」に突き乱された恨みを、この黒皮おどしの武者の上に復讐せんとして、たけりたっていた。
- 新兵衛は、いつもとは、勝手が違っていることに気がついた。
- いつもは虎に向かっている羊のようなおじけが、敵にあった。
- 彼らがうろたえ血迷うところを突き伏せるのに、なんのぞうさもなかった。
- 今日は、彼らは対等の戦いをするときのように、勇みたっていた。
- どの雑兵も十二分の力を新兵衛に対して発揮した。
- 二、三人突き伏せることさえ容易ではなかった。
- 敵の槍の矛先が、ともすれば身をかすった。
- 新兵衛は必死の力を振るった。
- 平素の二倍もの力をさえ振るった。
- が、彼は、ともすれば突き負けそうになった。
- 手軽にかぶとや猩々緋を貸したことを後悔するような感じが、頭の中をかすめたときであった。
- 敵の突き出した槍が、おどしの裏をかいて彼の脾腹を貫いていた。
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状況 | 新兵衛 | |||||
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心理 | 行動 | |||||
第一段落 | 1 摂津半国の主であった松山新介の侍大将中村新兵衛は、五畿内、中国に聞こえた大豪の士であった。 | |||||
↓(省略) | ||||||
9 こうして、槍中村の猩々緋と唐冠の株とは、戦場の華であり、敵に対する脅威であり、味方にとっては信頼の的であった。 | ||||||
第二段落 | 10 「新兵衛殿。折り入ってお願いがある。」と、元服してからまだ間もないらしい美男の士は、新兵衛の前に手をついた。 | → | (美男の士への愛情) | → | 11 「何事じゃ、そなたと我らの間に、さような辞儀はいらぬぞ。望みというを、はよう言ってみ。」と、はぐくむような慈顔をもって、新兵衛は相手を見た。 | |
12 その若い士は、新兵衛の主君松山新介の側腹の子であった。 | ||||||
13 そして、幼少のころから、新兵衛が守役として、我が子のようにいつくしみ、育ててきたのであった。 | ||||||
14 「ほかのことでもおりない。明日は我らの初陣じゃほどに、なんぞ華々しい手柄をしてみたい。ついては、おみさまの猩々緋と唐冠のかぶとを貸してたもらぬか。あの服折とかぶととを着て、敵の目を驚かしてみとうござる。」 | → | → | 15 「ははははは。念もないことじゃ。」 | |||
17 新兵衛は、相手の子供らしい無邪気な功名を快く受け入れることができた。 | ← | 16 新兵衛は高らかに笑った。 | ||||
18 「が、申しておく、あの服折やかぶとは、申さば中村新兵衛の形じゃわ。そなたが、あの品々を身に着けるうえからは、我らの肝魂を持たいではかなわぬことぞ。」と言いながら、新兵衛はまた高らかに笑った。 | ||||||
第三段落 | 19 その明くる日、摂津平野の一角で、松山勢は、大和の筒井順慶の兵としのぎを削った。 | |||||
20 戦いが始まる前、いつものように猩々緋の武者が唐冠のかぶとを朝日に輝かしながら、敵勢をしりめにかけて、大きく輪乗りしたかと思うと、駒の頭を立て直して、一気に敵陣に乗り入った。 | ||||||
21 吹き分けられるように、敵陣の一角が乱れたところを、猩々緋の武者は槍をつけたかと思うと、早くも三、四人の端武者を突き伏せて、また悠々と味方の陣へ引っ返した。 | ||||||
22-2 会心の微笑を含みながら、 | ← | 22-1 その日に限って、黒皮おどしのよろいを着て、南蛮鉄のかぶとをかぶっていた中村新兵衛は、 | ||||
→ | 22-3猩々緋の武者の華々しい武者ぶりを眺めていた。 | |||||
23 そして、自分の形だけすらこれほどの力を持っているということに、かなり大きい誇りを感じていた。 | ← | |||||
第四段落 | 24-1彼は、二番槍は自分が合わそうと思ったので、 | → | 24-2 駒を乗り出すと、一文字に敵陣に殺到した。 | |||
25 猩々緋の武者の前には、戦わずして浮き足だった敵陣が、中村新兵衛の前には、びくともしなかった。 | ||||||
26 そのうえ彼らは、猩々緋の「槍中村」に突き乱された恨みを、この黒皮おどしの武者の上に復習せんとして、たけりたっていた。 | → | 27 新兵衛は、いつもとは、勝手が違っていることに気がついた。 | ||||
28 いつもは虎に向かっている羊のようなおじけが、敵にあった。 | ||||||
↓(省略) | ||||||
33 敵の槍の矛先が、ともすれば身をかすった。 | → | (焦り) | → | 34 新兵衛は必死の力を振るった。 | ||
35 平素の二倍もの力をさえ振るった。 | ||||||
36 が、彼は、ともすれば突き負けそうになった。 | → | 37 手軽にかぶとや猩々緋を貸したことを後悔するような感じが、頭の中をかすめたときであった。 | ||||
38 敵の突き出した槍が、おどしの裏をかいて彼の脾腹を貫いていた。 |
教科書 会社 | 学年 | 題名(作者) | 要約 | 始めの状況 | 始めの心理 | 終わりの状況 | 終りの心理 | 事件 | 状況との関係 | タイプ | 許容の型 | |||||
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1 | 三省堂 | 1 | 玩具屋 (川西蘭) | 状況に失望し、つぶされそうになった主人公が、自分が良いと思うものを良いと思う人の出現によって状況に希望を持ち直す。 | − | 悪い | − | 失望 | + | 良い | + | 希望 | 主人公の望む客が現れる | 状況に希望を持ち直す | 希望型 | |
2 | 三省堂 | 1 | 空中ブランコ乗りのキキ (別役実) | 主人公は、周囲の声援を受けることが生き甲斐だった。しかし、それが奪われるだろう状況に直面する。人気のなくなることを恐れた主人公は、最後に最も大きな声援を受け姿を消す。 | + | 良い | + | 満足 | - | 悪い | - | 悲しみ | 自分に成り代わる人物が現れる | 状況に自ら働きかけている | 努力型 | |
3 | 三省堂 | 1 | 水仙月の四日 (宮沢賢治) | 雪婆んごの命令に従って雪を降らせていた主人公は吹雪の中で一人の子供を見つける。雪婆んごからは殺すように指示されるが、自分があげた宿り木を持ち続けていたその子供を雪童子は助けた。 | 0 | 普通 | 0 | 容認 | + | 良い | + | 満足 | 子供を助ける | 状況に働きかけている | 成長型 | |
4 | 三省堂 | 1 | トロッコ (芥川龍之介) | トロッコに乗れる状況に憧れを抱く主人公は、ある日念願のトロッコに乗ることができる。だが、帰り道に恐ろしく不安な思いをする。成長した主人公は、自分の状況に疲れており、昔トロッコに乗った時の帰り道と同じような気持ちにとらわれている。 | + | 良い | + | 喜ぶ | - | 悪い | - | 不安 | 帰り道に、恐ろしく不安な思いをする | 状況に不安を持っている | 不安型 | |
5 | 三省堂 | 1 | 星の子 (マイケル=ドリス) | 人間である自分の状況を捨て、岩になろうとした主人公は岩になったことで、自分が色々なことが分かるようになったと思っている。しかし父さんの言葉を聞いて、自分の状況を受け入れ、人間に戻ることを決意する。 | − | 悪い | − | 逃避 | + | 良い | + | 喜び | 父親によって皆の気持ちを知る | 状況を受け入れている | 成長型 | |
6 | 三省堂 | 1 | 竜 (今江祥智) | 主人公は、気が弱く、沼のそこでひっそりと暮していた。しかし人に気付かれ注目されてしまう。困って尚更なりを潜めていたが、また偶然から神様にされてしまう。何となく悪い気はしないまま、その状況を受け入れた。 | 0 | 普通 | − | 不安 | + | 良い | + | 安堵 | 人間に偶然見つかる | 状況を受け入れている | 許容型 | 消極的 |
7 | 三省堂 | 2 | 兄からのはがき (佐江衆一) | 兄の戦死をめぐり、父や母、周りの大人たちが様々な行動をとる中、主人公はその様子を見つつ、自分なりに兄の死にけじめをつける。 | − | 悪い | − | 混乱・悲しみ | - | 悪い | + | 気持ちの整理がつく | 兄の戦死の知らせが届く | 状況を見つめている | 許容型 | 積極的 |
8 | 三省堂 | 2 | ゲド戦記 (U.K.ル=グウィン) | 魔法の力に奢っていた主人公が師に諌められ、ローク島へ修行へ出る決心をする。 | + | 良い | − | 慢心 | + | 良い | + | 向上心 | 失敗と師の言葉 | 状況から働きかられている | 成長型 | |
9 | 三省堂 | 2 | 四万十川―「コロバシ漁」 (笹山久三) | 姉に保護される状況にいる主人公は、その状況に自ら働きかけ、満足している。 | + | 良い | + | 満足 | + | 良い | + | 満足 | 状況に満足している | 許容型 | ||
10 | 三省堂 | 2 | 小さな手袋 (内海隆一郎) | 主人公は祖父の死をきっかけにしておばあさんに全く会いに行かなくなった。死という状況を拒絶し、それに近い人間からも遠ざかった。成長したシホは、死を受け入れ、自分から状況に近づいていこうとした。 | + | 良い | + | 楽しい | - | 悪い | - | 後悔 | 遠ざかっていた状況に自ら働きかけた | 状況を受け入れ、自分から働きかけている | 成長型 | |
11 | 三省堂 | 3 | カワセミ (図子英雄) | カワセミに魅せられた主人公は、偶然にも自分の家でカワセミが巣作りを始めたことによって、ますます魅せられ、カワセミを神聖なものにさえ思うようになった。 | + | 良い | + | 喜び | + | 良い | + | さらなる喜び | カワセミが主人公の家で巣作りをしている。 | 今の状況に満足している。 | 許容型 | |
12 | 三省堂 | 3 | 凧になったお母さん (野坂昭如) | 空襲に遭い、逃げ遅れたお母さんは、5歳の息子を火の熱さから守るため、自分の体から出せる、ありとあらゆる水分を息子に与え、最後には血まで与え、命と引き換えに息子の命を守った。 | − | 悪い | − | 恐怖 | - | 悪い | - | 悲しみ | 息子を火の熱さから守る為、自分の体から出せる、ありとあらゆる水分を息子に与える。 | なんとか状況を良くしようと働きかけている | 努力型 | |
13 | 三省堂 | 3 | 猫 (トーベ・ヤンソン) | 自立心が強く、自分の愛に応えてくれない、飼い猫マッペに不満な主人公だが、マッペと正反対の性質を持つ猫、スヴァンテを飼うことにより、マッペの性質を受け入れられるようになった。 | − | 悪い | − | 不安 | + | 良い | + | 納得 | 人なつっこく、おとなしい猫、スヴァンテとマッペを交換する | 状況に働きかけている。 | 許容型 ・成長型 | 積極的 |
14 | 三省堂 | 3 | 吾輩は猫である (夏目漱石) | 吾輩は、理不尽な扱いを受ける現状に不満を抱きつつ、その日その日をどうにか送っている。 | − | 悪い | − | 不満 | - | 悪い | - | 不満 | 不満を抱きながらも現状をうけいれている | 許容型 | 消極的 | |
15 | 三省堂 ・東京書籍 | 2 | 走れメロス (太宰治) | どんな状況にあっても自分が正しいと思う行動をとる主人公が、人質となった親友の命を救い、王に友情と信頼を証明する為に走り、見事それを成し遂げた。 | − | 悪い | − | 怒り | + | 良い | + | 満足・喜び | 親友を救う為、ひたすら走る | 状況に働きかけている | 努力型 | |
16 | 三省堂 ・東京書籍 ・光村図書 | 3 | 故郷(魯迅) | 主人公は、厳しい生活や時間が変えてしまった状況に対し、為す術がないことに失望する。しかし、若い世代に生まれた交流を通し、将来の状況に希望を託す。 | − | 悪い | − | 失望 | + | 良い | + | 希望 | 若い世代の交流 | 現状に失望しつつ、未来に希望を抱いている | 希望型 | |
17 | 東京書籍 | 1 | 愛のサーカス (別役実) | ある港街にやってきた少年と象に、主人公が心を尽くすうちに、街全体が優しさに満ちていった。人々に感動を与えたことが、サーカスの興行の一つであった。 | 0 | 普通 | 0 | 普通 | + | 良い | + | 感動 | 少年と象がやってくる | 状況を受け入れている | 許容型 | 積極的 |
18 | 東京書籍 | 1 | カメレオン (チェーホフ) | 偉い人が絶対だと考えて生きている主人公が一匹の犬の飼い主がだれかということで態度をころころ変えてしまう。 | − | 悪い | − | 犬への怒り | - | 悪い | - | 男への怒り | 犬が将軍の飼い犬か野良犬かの議論がおこる | 状況に流され、態度をころころ変えている | 依存型 | |
19 | 東京書籍 | 1 | 木を植えた人 (ジオノ) | 主人公の木を植えるという行動が、荒れ地を森に、廃虚を豊かな村へとよみがえらせた。 | − | 悪い | 0 | 普通 | + | 良い | 0 | 普通 | 木を植え続ける | 行動が状況を大きく変化させている | 努力型 | |
20 | 東京書籍 | 1 | さんちき (吉橋通夫 ) | 半人前の車大工の主人公は唯一任された鉾車の矢の一本に名前を彫ろうとするが、”さんちき”と彫ってしまう。侍は何も残さないが大工は車を残す、という親方の言葉から、職人の仕事の尊さを学ぶ。 | 0 | 普通 | + | 喜び | 0 | 普通 | + | プロ意識に目覚める | 親方の言葉 | 状況の中で成長した | 成長型 | |
21 | 東京書籍 | 1 | そこに僕はいた (辻仁成) | 主人公には片足が義足の友達がいた。彼のハンディキャップを意識していたが、自分が片目を怪我したことをきっかけに、自然に接することができるようになる。 | − | 悪い | − | 困惑・苦痛 | + | 良い | + | 理解 | 自分の片目を怪我する | 状況に自ら働きかけている | 成長型 | |
22 | 東京書籍 | 2 | 形 (菊池寛) | 主人公は状況に裏切られて死んだ。 | 0 | 普通 | + | 余裕 | - | 悪い | - | 後悔 | 若い士に羽折とかぶとを貸す | 状況に裏切られる | 失敗型 | |
23 | 東京書籍 | 2 | 僕の防空壕 (野坂昭如) | 父の死を理解できなかった主人公は、防空壕の中で、父と戦うことを空想する。戦後、防空壕が取り壊される状況を目の当たりにし、父の死を受け入れざるをえなくなった。 | 0 | 普通 | 0 | 普通 | - | 悪い | - | 悲しみ | 防空壕が取り壊される | 状況を受け入れざるをえなくなる | 成長型 | |
24 | 東京書籍 | 2 | リトル・トリー (カーター) | ガラガラヘビに襲われた主人公ををかばいケガをした祖父を祖母と共に処置する体験を通じて祖父と祖母の愛を感じる。 | 0 | 普通 | 0 | 普通 | + | 良い | + | 喜び、愛を感じる | ガラガラヘビに襲われる | 状況に働きかけている | 成長型 | |
25 | 東京書籍 | 3 | いちご同盟 (三田誠広) | 主人公は徹也に対して不信感を抱き、直美が危ないという状況から逃げていた。その後、直美の手術を通して徹也の気持ちを理解し、分かり合い、状況を受け入れた。 | − | 悪い | − | 不満 | + | 良い | + | 理解 | 直美の手術 | 状況に向き合う努力をする | 成長型 | |
26 | 東京書籍 | 3 | 絵本 (松下竜一) | @F:死を覚悟した主人公は、Mの子供に絵本を送るという計画を状況に対する最後の働きかけとして、その希望を胸に死んでいく。 AM:主人公は亡き友人から届いた手紙と絵本に驚くが、Fの最期の望みを受け入れていく。 | @−A0 | @悪いA普通 | @−A− | @悲観A驚き | @−A0 | @悪いA普通 | @+A+ | @希望A受け入れる | @絵本を送る計画を立てる AFの手紙を読む | @状況に働きかけている A状況を受け入れる | @許容型A許容型 | @積極的A積極的 |
27 | 光村図書 | 1 | おいのり (三木卓) | 心地よい場と尊敬する人を失うかもしれない状況に不安を感じ、その改善を祈っている。 | − | 悪い | − | 不安 | + | 良い | + | 希望 | 回想 | 状況に前向きに働きかけようとしている | 希望型 | |
28 | 光村図書 | 1 | 銀河鉄道の夜 (宮沢賢治) | 主人公はカムパネルラと列車に乗っていた。列車はりんどうの野や、白い十字架の立つ島を過ぎる。白鳥停車場で二人は一時降車し、海岸で発掘調査をしている大学士に会い、再びまた列車へ戻った。 | 0 | 普通 | − | 不安 | 0 | 普通 | + | 喜び、楽しい | 列車にカムパネルラと乗っている | 状況を受け入れている | 許容型 | 消極的 |
29 | 光村図書 | 1 | 少年の日の思い出 (ヘルマン・ヘッセ) | 主人公は少年時代蝶を収集しており、自分より優秀な収集家であり、模範少年であったエーミールに嫉妬していた。彼の珍重な蝶を盗み、返そうと試みるが、蝶を粉々にしてしまう。許しを乞うが、軽蔑されるのみであった。僕は償いのできない行為を犯してしまったことを悟る。 | − | 悪い | − | 嫉妬・欲望 | - | 悪い | - | 後悔・絶望 | 蝶を盗む | 状況に働きかけ、その結果に後悔している | 成長型 | |
30 | 光村図書 | 1 | そこまでとべたら (安東みきえ) | 状況を正しく受け取れなかった、状況とうまく折り合っていなかった主人公が、おじいさんの看病を通じて、自分で自分のことを決めるように決意した。 | − | 悪い | − | 不満 | + | 良い | + | 希望 | 祖父の危篤 | 自分の意志で状況に働きかけるようになった | 成長型 | |
31 | 光村図書 | 1 | 父の列車 (吉村康) | 主人公は、兵隊に取られた夫の生死に不安を感じながら過ごしていた。結局夫は帰ってこなかったが、最後に子供たちを夫に会わせることができたことに達成感を感じている | − | 悪い | − | 不安 | + | 良い | + | 達成感 | 夫からの手紙を受け取った | 状況に自ら働きかけている | 努力型 | |
32 | 光村図書 | 1 | 坊ちゃん (夏目漱石) | 主人公は無鉄砲でほぼ思いつきで行動している。周囲は、唯一かわいがってくれた清を除き、皆そんな主人公を見限っていた。 | 0 | 普通 | 0 | 無関心 | 0 | 普通 | 0 | 無関心 | 家族と離れる | 自分らしく生きる | 成長型 | |
33 | 光村図書 | 2 | パラパラ落ちる雨よ(阪田寛夫) | 痴呆症の主人公が、ハーモニカを発見し、吹いたことで、状況に関わり直そうとしている | − | 悪い | − | 不満 | + | 良い | + | 満足 | ハーモニカの発見 | 無意識的に状況に働きかけている | 努力型 | |
34 | 光村図書 | 2 | 六月の蝿取り紙 (ねじめ正一) | 六月は悩まされることが多い主人公は、六月が嫌いだが、六月であるためにいらいらした母が父とけんかしたとき、父に働きかけ、家族の状況がよくなるようにした。 | − | 悪い | − | 不安 | + | 良い | + | 達成感 | 父と母の喧嘩 | 状況に自ら働きかける | 許容型 | 積極的 |
35 | 光村図書 | 2 | わたしを作ったもの (ロバート・ウェストール) | 主人公は頑固で変わり者の祖父と二人きりになることが大嫌いだった。しかし、祖父の思い出の品を見つけたことで、二人は打ち解け、主人公は小道具や過去に興味を抱くようになる。 | ー | 悪い | ー | 恐怖 | + | 良い | + | 理解 | 祖父の思い出の品を見つける | 状況に働きかけている | 成長型 | |
36 | 光村図書 | 3 | 握手 (井上ひさし) | 主人公はルロイ修道士との再会を通じて、天使園での出来事と彼の献身を思い出し、感謝の気持ちを深める。 | 0 | 普通 | 0 | 普通 | 0 | 普通 | + | 感謝 | ルロイ修道士との再会 | 状況を受け入れ、感謝の念を抱く | 許容型 | 積極的 |
37 | 光村図書 | 3 | 高瀬舟 (森鴎外) | 主人公は、喜助の境遇と自分とを引き比べ、欲望を踏みとどめ満足している喜助に驚き、感心する。また、喜助の弟殺しの行為を罪と判断した状況に対して、悩み迷う。 | 0 | 普通 | 0 | 不思議 | 0 | 普通 | - | 思い悩む | 喜助の話を聞く | 状況に対して納得することができずに悩む | 疑問型 |
教科書会社 | 学年 | 題名(作者) | 性別 | 年齢 | 職業 | 主人公から見た事件の性質 | 読者にとっての小説内容 | ||
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1 | 三省堂 | 1 | 玩具屋 (川西蘭) | 女 | 店員 | 特殊 | 特殊(人物) | 価値観による | |
2 | 三省堂 | 1 | 空中ブランコ乗りのキキ (別役実) | ? | 空中ブランコ乗り | 特殊 | 特殊(人物・状況) | ||
3 | 三省堂 | 1 | 水仙月の四日 (宮沢賢治) | 男 | 雪童子 | 特殊 | 特殊(人物・状況) | ||
4 | 三省堂 | 1 | トロッコ (芥川龍之介) | 男 | 子ども | 特殊 | 特殊(状況) | ||
5 | 三省堂 | 1 | 星の子 (マイケル=ドリス) | 男 | 子ども | 特殊 | 特殊(状況) | ||
6 | 三省堂 | 1 | 竜 (今江祥智) | 男 | 竜 | 特殊 | 特殊(人物・状況) | ||
7 | 三省堂 | 2 | 兄からのはがき (佐江衆一) | 男 | 中学生 | 特殊 | 特殊(状況) | ||
8 | 三省堂 | 2 | ゲド戦記(U.K.ル=グウィン) | 男 | 魔法使い見習 | 特殊 | 一般的(ロールプレイングゲーム) | ||
9 | 三省堂 | 2 | 四万十川―「コロバシ漁」 (笹山久三) | 男 | 子ども | 特殊(状況) | 読者の住んでいる場所による | ||
10 | 三省堂 | 2 | 小さな手袋 (内海隆一郎) | 女 | 6年生 | 小学生 | 特殊 | 一般的 | |
11 | 三省堂 | 3 | カワセミ (図子英雄) | 男 | 小学生 | 特殊 | 特殊(状況) | 読者の住んでいる場所による | |
12 | 三省堂 | 3 | 凧になったお母さん (野坂昭如) | 女 | 主婦 | 特殊 | 特殊(人物・状況) | ||
13 | 三省堂 | 3 | 猫 (トーベ・ヤンソン) | 女 | 子ども | 特殊 | 特殊(状況) | ||
14 | 三省堂 | 3 | 吾輩は猫である (夏目漱石) | 男 | 猫 | 特殊(人物・状況) | |||
15 | 三省堂 東京書籍 | 2 | 走れメロス (太宰治) | 男 | 特殊 | 特殊(人物・状況) | |||
16 | 三省堂 光村図書 東京書籍 | 3 | 故郷 (魯迅) | 男 | 特殊 | 特殊(人物・状況) | |||
17 | 東京書籍 | 1 | 愛のサーカス (別役実) | 港街の人々 | 特殊 | 特殊(人物・状況) | |||
18 | 東京書籍 | 1 | カメレオン (チェーホフ) | 男 | 警官 | 一般的 | 特殊(人物・状況) | ||
19 | 東京書籍 | 1 | 木を植えた人 (ジオノ) | 男 | 羊飼い | 一般的 | 特殊(人物・状況) | ||
20 | 東京書籍 | 1 | さんちき (吉橋通夫 ) | 男 | 職人見習い | 特殊 | 特殊(人物・状況) | ||
21 | 東京書籍 | 1 | そこに僕はいた (辻仁成) | 男 | 子ども | 特殊 | 特殊(状況) | 読者のおかれている環境による | |
22 | 東京書籍 | 2 | 形 (菊池寛) | 男 | 武士 | 特殊 | 特殊(人物・状況) | ||
23 | 東京書籍 | 2 | 僕の防空壕 (野坂昭如) | 男 | 小学生 | 特殊 | 特殊(状況) | ||
24 | 東京書籍 | 2 | リトル・トリー (カーター) | 男 | 5歳 | 子ども | 特殊 | 特殊(状況) | |
25 | 東京書籍 | 3 | いちご同盟 (三田誠広) | 男 | 15歳 | 中学生 | 特殊 | 一般的 | |
26 | 東京書籍 | 3 | 絵本 (松下竜一) | @男 A男 | @25歳 A? | @? A作家 | @特殊 A特殊 | 特殊(人物・状況) | |
27 | 光村図書 | 1 | おいのり (三木卓) | 男 | 猫 | 特殊 | 特殊(人物) | ||
28 | 光村図書 | 1 | 銀河鉄道の夜 (宮沢賢治) | 男 | 小学生 | 特殊 | 特殊(人物・状況) | ||
29 | 光村図書 | 1 | 少年の日の思い出 (ヘルマン・ヘッセ) | 男 | 子ども | 特殊 | 特殊(状況) | ||
30 | 光村図書 | 1 | そこまでとべたら (安東みきえ) | 女 | 12才 | 中学生 | 特殊 | 一般的 | |
31 | 光村図書 | 1 | 父の列車 | 女 | 主婦 | 特殊 | 特殊(状況) | ||
32 | 光村図書 | 1 | 坊ちゃん (夏目漱石) | 男 | 青年 | 特殊 | 特殊(人物・状況) | ||
33 | 光村図書 | 2 | パラパラ落ちる雨よ (阪田寛夫) | 男 | 老人 | 特殊 | 特殊(人物) | ||
34 | 光村図書 | 2 | 六月の蝿取り紙 (ねじめ正一) | 男 | 小学生 | 一般的 | 一般的 | ||
35 | 光村図書 | 2 | わたしを作ったもの (ロバートウェストール) | 男 | 子ども | 特殊 | 特殊(状況) | ||
36 | 光村図書 | 3 | 握手 (井上ひさし) | 男 | 特殊 | 特殊(人物・状況) | |||
37 | 光村図書 | 3 | 高瀬舟 (森鴎外) | 男 | 役人 | 特殊 | 特殊(人物・状況) |
8『ゲド戦記』を例にとると、作品世界の舞台設定は魔法世界であり、非日常的である。しかし、テレビゲームが普及した世代である中学生の場合、ロールプレイングの舞台設定に似通っていることから推測可能と判断し、条件付で一般的としていた。
また、33『パラパラ落ちる雨よ』を例にとると、主人公は老人であり、中学生である読者との年齢差が大きく、その心理が推測しづらい。そこで、人物が特殊であるとした。
次に今から述べる五つの項目について学年別・教科書会社別にしたグラフから考察した。
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
グラフ(1)〜(5)はそれぞれの小説の事件を区切りとした「主人公の心理の変化」についてまとめたものである。−が負の感情、0が普通の状態、+が正の学年別・教科書会社別にしたグラフから考察した。学年別・教科書会社別にしたグラフから考察した。感情を表している。教科書会社別、学年別とまとめてあるが、すべてにおいて負の感情(−)から正の感情(+)への数が最も多いという結果となった。このことから私達は、読者に前向きな気持ちを起こさせる小説が多く選ばれているのだと考えた。
グラフ(6)〜(10)は「主人公のプロット」についてまとめたものである。ここで私達が面白いと感じたことは、学年別のグラフで、1年生では成長型が最も多く、3年生では許容型が最も多い。人を許容するにはある程度の精神の成熟が必要だ。3年生なら人を許容できるようになってほしい、あるいは許容できるだろうという思いからこのような結果になったのだと考えた。
(11)
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(14)
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グラフ(11)〜(14)は、「主人公から見た事件の性質」をまとめてある。「なし」というのは事件は無いことを表している。教科書会社別、学年別どちらにおいても特殊が最も多くなっており、このことはグラフ(15)〜(19)の「読者から見た小説内容」でも同じことが言える。何らかの特殊性を持った小説の方が中学生にとって興味が持ちやすく、心情が読み取りやすいと考えられているのではないか、と推察した。
(20)
(21)
(22)
(23)
(24)
グラフ(20)〜(24)は、読者から見た小説内容が特殊である場合、「何が特殊なのか」をまとめたグラフを並べたもので、読者である中学生にとって主人公の性質と主人公のおかれた状況がともに、特殊な小説が多数を占めている。これは、小説の設定が非日常的であるほうが、学習者である中学生の興味を引きやすいためだと考えた。
(25)
グラフ(25)は、「状況の変化と心理の変化の二つを組み合わせたグラフを載せている。ここでも状況と心理が共に−から+へと変化する作品が大部分を占めている。ここから困難な状況におかれた主人公が、ある事件を境に、事態を好転させようと状況に働きかける姿が描かれた小説が多く採られていると言える。この結果から、「学習者である中学生も直面する状況に挫折することなく、前向きに状況に働きかけていけるように」という意図が含まれているからではないかと、私たちは考えた。
主人公の多くは、困難な状況におかれても、ある事件をきっかけに自らを成長させていたり、状況を許容するという我慢強さを見せている。このような主人公を読者である中学生は自らと重ね合わせ、またあるときは客観的に見つめ、小説内容と主人公を理解していく。これを通して、思春期の中学生は状況に対する人物の生き方の多様性を知ることで、生きていく上での視野を広げることができるのではないのではないか。
今回の研究では、現行の教科書のなかで三省堂、東京書籍、光村図書の3社のみを対象に分析をした。今後の研究の方法として、改訂以前の教科書に採用された小説教材群を比較することが教えられる。小説教材の変遷を主人公と状況の関係から見ていきたいと考えている。