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2003年度国語学特論2受講生によるリレー小説

女C 設定

12106

名前は木村さやか。23歳で大学にかよっている。来年就職予定だが、まだ就職先がきまっておらずあせりを感じ始めている。

女C1

12103

朝は気だるいものだと相場は決まっている。
陽射しがさわやかだろうが、味噌汁がうまかろうが、さやかの心を浮き立たせることは無い。白飯をよそってくれる母に「おはよう」とだけ言ってあとは黙々と口に運ぶ。味噌汁をすすって、ご飯、お新香、ご飯、また味噌汁…
「今日は早いのねぇ」
「企業の説明会があるの」
ご飯、お茶、ご飯。
「先週も行ってなかった?」
「先週は大学での説明会みたいなもん。今度は県が世話してるやつ」
味噌汁、ご飯。咀嚼はきっちり20回。
さやかは黙々と、食べるのと同じ調子で答える。
母もそれきり黙って、やはり同じように順序良く箸を動かした。
味噌汁、ご飯、味噌汁、最後に玉子焼きを一切れ。
「ごちそうさま」
椀を重ねる。洗い桶に入れる。蛇口をひねる。また止める。
淡々と無言でその動きをこなすのを、母はどう思って見ているのだろうか。
出掛けにちら、と覗いた顔は見慣れた少し含みのある笑顔だった。きっとまた何か企んでるに違いない。
浮き立たない心が、また深く沈んだように思えた。

女C2

20956

「さやか、お久しぶり」
 「お久しぶり」
 「めっちゃ痩せたね」
 「ほんとう。最近食欲あんまりない。就職まだ決めてないし、教員採用試験もうすぐだし、やせたかも。」
 「そうか。あ、髪型も変わった。黒く染めた。」
 「そうよ。すべては就職のためよ。」
 「頑張ってね。きっと合格できる。バイバイ」
 「ありがとう。バイバイ」
 友達と彼氏が楽しそうにしゃべる姿を見て、いいな、羨ましい。友達の世界は今とても明るいが、私の世界は今一番暗いかなとさやかは思った。
 曇っていた空から、雨が降り始めた。早く図書館へ行かなきゃと思いながら、採用試験の参考書を入れた鞄は山のように重いので、どうしても早く歩けなかった。

女C3

12101

 さやかは席に座ると一つ大きなため息をついた。頭にはなぜか今朝の母親の顔が浮かんでいた。
「母さん何考えてんだろ・・・。」
 と不意にポケットが揺れているのに気付いた。慌てて外に出てみると、それはじゅんからの電話だった。
「もしもし、さやか?あのさぁ、実はさやかのお母さんのことでちょっと話があるんだけど・・・。」
 電話の奥の声は申し訳なさそうに言った.
「母さん?うちの母さんがどうかした?」
 このとき、さやかは自分の嫌な予感があたった感じがした。
「う〜ん、昨日知らない男の人と歩いてるの見て何か気になって・・・。」
 さやかはまた今朝の母親の笑顔を思い出していた。

女D 設定

12104

名前は小笠原光江。髪は短く黒い。身長160cm,体重50kg。
年齢52歳。スナック経営。
旦那とは3年前に離婚。第2の人生を謳歌している。
長男は26歳の会社員。4歳になる娘がいる。
長女は22歳の大学生。就職は決まっていない。
次女は1歳。前の旦那との子ではない。

女D1

12106

カーテンの隙間から差し込む光に包まれ、いつものように私は目を覚ました。しぶしぶとベッドから起き上がり、いきおいよくカーテンを開けた。もう高くのぼった太陽の光がいっきに私の部屋へ飛び込んできた。ベッドの上の目覚まし時計を拾い上げた。(もう11時か…そろそろ起きるか)私の生活には不必要な目覚まし時計を放り出してリビングへと降りていった。
がらんとしたリビングには、もちろん誰もいなかった。長女が書いたメモだけがぽつんとテーブルの上に残されていた。<今日は遅くなります。ママよりは早く帰れると思います。頼んでたクリーニングとってきておいてね。>いつもの濃いコーヒーを、ため息と一緒にごくんと飲み干した。
「あなたも老けたわね…」
鏡に映った自分に向かって話しかけた。自慢の黒髪にそっと手をやる。何本か白くなっているのを見て、またため息をついた。
 

女D2

11053

  「…よしっ!」
 5年前に比べて少しだけ濃くなった化粧をし終え、いつものように鏡を見てにっこり微笑む。
 私はずっときれいでいたい。
 とは言うものの、私ももう若くない。長女は就職する年頃になったし、5年前に結婚した長男には4歳になる娘がいる。彼女から見ると私はおばあちゃんなのだ。しかし、私の下の娘もまだ1歳だ。
50を過ぎて再び母親になるなんて思ってもみなかった。戸惑いが多いのは事実だ。でもこの子−絵里は私にチャンスをくれた。輝きを失い始めた私の人生を再び輝かせ、この子と共に歩んでいこう。そう思わせてくれたのは絵里だから。
隣人は私たちを好奇の目で見る。そりゃそうか。孫より娘の方が若いだなんて、ものめずらしいもの。
他人が何て思おうと私には関係ないけど。
私は決めたんだから。一度しかない人生、自分のためにもう一度と楽しんで生きるんだってこと。もちろん絵里と一緒に。
今日も絵里を連れて街へ出よう。

女D3

12107

キキーーーーッ!!!!!!
耳を塞ぎたくなるような摩擦音が響き、何かが宙に放り出された。それは人形にしては大きすぎた。そして、リアルだった。放物線を描き、波立つように落ちてくるそれのやや長めの髪が、それを彗星の尾のようにも思わせた。しかし、私の目の前のそれは、彗星と呼べるような美しさは塵ほども持ち合わせていなかった。
絵里は、一方通行の標識を無視し、猛スピードで曲がってきた黒のBMWに、出会い頭に撥ねられたのだ。

女D4

12105

「え!?」そう思った瞬間、光江の目に眩しい光が飛び込んできた・・・。
どれくらいの時間が経ったのだろう。光江が目覚めたのは白くきれいなベッドの上だった。「ここは…?一体どうなってるの?」まるで長い夢を見ていたようだ。何がなんだか分からない。周りを見渡すと、長男の善雄・百合子夫婦、孫娘の理香、長女春子、そして絵里がこちらを見つめていた。
「よかったわ。目覚めてくれて。このまま死んじゃったらどうしようかと思った。」春子の甲高い声が響いた。
「まさかこんな事になるなんて、思いもしなかったんだよ。ちょっと驚かすだけだったのに。とにかく無事でよかったよ。」善雄が答える。
「どういうことなの?」光江には何がなんだかさっぱり分からない。
・・・・ことの顛末はこうだ。
実は今日は光江の53歳の誕生日だった。バースデーサプライズのつもりで家族揃ってちょっとした事件を起こそうとしたのだ。それは光江が目に入れても痛くないほど可愛がっている絵里を、マジックのように宙に浮かせて驚かせようとしただけだったのだが、予想外に車が突進してきて危うく事故になりかけ、絵里を助けようとしたはずみに光江が転倒してしまったのだ。・・・
それを聞いた光江はあっけにとられ、怒っていいのか笑っていいのか分からなかった。「絵里が無事でよかったわ。誕生日を祝ってくれるのは嬉しいけど、もうこんなことはしないでね。」
「ごめんよ、母さん。誕生日おめでとう。俺たちももう独立したし、これからは絵里の面倒をしっかりみてやれよ。そうだ、プレゼントはちゃあんと用意してあるからな。」
「お母さん、今日就職の内定がとれたのよ。もう大丈夫だから…。」
「それはよかったわ。みんなありがとうね…。」
こうして光江の53歳の誕生日は迎えられた。家族の優しさに触れ、これからも素敵に年をとって絵里を幸せにしてやりたい、と心から願う光江であった。

男A 設定

12101

2003年、7月。
無事、高校に入学したさとしは高校最初の夏休みを迎える。さとしの本名は村上聡。背は180cmと高いがきゃしゃで、体重は65kgもない。髪の毛は少しくせっ毛で、こげ茶色をしている。部活は中学校からサッカー部に入っている。中・高と学校を休んだことはないが、成績はいまいちで、授業中もボーっとしていることが多い。
 

男A1

12108

もう…夏がくるのか。
少し大きめの学生服に身を包んだ少年は、肩を落とした。
俺は、いったい…
深い茶色の髪が風に翻弄され、右へ、左へ、また右へとなびく。
俺は、いったい…
髪と同じ色をした瞳はただまっすぐ、下を見つめている。
もう…約束の夏になってしまった。
サトシはそう思いながら、道の脇にひっそりと置かれている缶を蹴った。それはきれいな放物線を描いて、飛んだ。

男A2

12107

さとしは綺麗な放物線を描いていく缶をぼーーっ、と眺めていた。缶は放物線を描き終えると軽やかな音を立ててアスファルトに弾け、惰性で地面を転がった。さとしは缶の行方を目で追っていった。缶はガムの包み紙や道路と塀の隙間から生えている雑草を通り過ぎ、黒光りした革靴に当たって、止まった。さとしは缶を止めた物を見極めるべく、視線を上に滑らせていった。黒のズボンに黒のベルト・・・上半身には黒いジャケットを纏っている。左胸のポケットに何か文字が刺繍されている。
さとしはそこに刺繍されている文字を読もうとして、その者に近づこうとしてハッとした。そういえば缶を当ててしまった事を謝っていないのだ。さとしは慌てて謝ろうとし、初めてその者の顔を見た。
女・・・?さとしは一瞬呆然とした。だが、それがいけなかった。女はその隙を見逃さず、さとしに強烈なボディーブローを喰らわせたのだ。
「や、やられた・・・」
さとしは一瞬にして力が抜けるのを感じた。膝が折れ、女にもたれかかるようにして崩れていく。そして薄れていく意識の中で、さとしは辛うじて女の胸の刺繍の文字を読み取った。
・・・銀河警察25時。

男A3

12102

「うわぁぁぁっ!!」
さとしはあまりの快感に身をのけぞらせて叫んだ。
俺は狂う、狂ってしまう!!
「耐えるんだ、さとし!おめえの肩にぁ銀河系一兆人の命がかかってるってことを忘れるな!」
「そんなこと言ったって俺、ただの、あふん、こ、高校生っス!宇宙人となんて戦えませ、、、ん。ゴトーさん!あ、あんた銀河警察なんだろ?あんた、戦うべきだ!」
「バッキャロ!このバトルは地球人限定なんだよ!さもなきゃだれがこんな大仕事テメェになんかまかすかよ!ぼさっとしてねえでテメェも反撃しやがれっ!」
「もじゃもじゃ、せっかく誘拐してまで連れてきた助っ人も、役に立ちそうにないもじゃね。さぁ、もうあきらめて、この、バスコ・ダ・ガマの二枚舌のリラックス効果で悶え死ぬがもじゃもじゃー!」
「はにゃああああー!も、もうダメだー!」
「さとしー!!!」
「もじゃもじゃも、、、???」
「ぐぐぐ、、、か、体が乾くもじゃ、、、も、もうダメもじゃ、、、」
「どうしたっていうんだ?急にコイツ動きが止まった?」
「そ、そうか!ガマの野郎、体が干からびちまってるんだ!さっき俺が間違えて押しちまったスイッチは除湿機のスイッチだったんだな!そうとわかりゃ、こっちのもんだ。さとし!さっさとそいつに引導わたしちまいな!」
「え、、、そ、そんなこと言ったて、、、」
「早くしろ!そいつの弱点は腹にある丸いあざだ!」
「でも、、、。」
「でも、じゃねえ!早くしないと回復しちゃうだろ!」
「おれ、、、できないよぉ」
「やれ!」
「いや、、、」
「やれ!!」
「いやだ」
「やれぇ!!!」
「いやだ!」
(ノーコンさとし)
「ちがう!!」
(ノーコンさとし)
「ちがうちがうちがうちがうちがーう!!!」
「やれぇ!!!!この、、、ノーコンさとし!!」
「ちっくしょー!!!」
「シュートォ!!!」

男A4

12104

「サトシ?サトシってば!!また変な妄想してる!」
「ま、まさか!乾と一緒にすんなよ!早く行くぞ。」
ユウコは走ってサトシに追いついた。
二人が学校に着くと部活はすでに始まっていた。
ユウコは申し訳なさそうに更衣室へ急いだ。サトシは制服のボタンをはずしながら部室へと駆け込んだ。部室には乾がいた。
「おまえ、また遅刻か〜?」
「おまえだってそうじゃん!てか今日はいつもより早いな。」
「うっせ〜!!」
先に着替え終わった乾はボールをけりながらグラウンドに向かった。
サトシもすぐに追いかけたが、スパイクの紐はまだ結ばれていなかった。
「待ってくれよ!乾〜」

男B 設定

12105

時は2000年、大阪。
28歳で中肉中背の男性。メガネをかけていて、髪は黒の短髪。神経質。
男3兄弟の末っ子で、現在は1人暮らしをしている。趣味はカメラ。
携帯電話の部品を作る、中小企業の社員である。名前は中本正(なかもとただし)。

男B1

20956

2000年、大阪の夏は暑かった。
 電車の席に座るとき、男は額から汗が出てきた。「やっと残業は終わった。あした休みだ。」男はほっとして、新聞を読み始めた。このときメールが来た。
 「お母さんよ。二人のお兄さんは皆それぞれ結婚して、子供を生んで、あんただけまだ彼女もいない、もう28歳でしょう。ずいぶん心配してるよ。あした、隣のばあさんの紹介で、一人の女の子はうちに来るよ。とてもかわいいお嬢さんらしいよ。あした、実家にも戻ってくれる。」
 ああ、また来た。お母さん、ありがたい迷惑よ。あした、撮影しに行こうと思ったのに。もし、実家に帰らないと、絶対お母さんに怒られる。撮影を止めなきゃ。男はしかたがなくて、メガネをはずして、苦しそうな表情で居眠りをした。

男B2

12103

頭が痛い。
ガンガンと頭蓋骨に響く痛さではなく、強い疼きのようなものがこめかみから奥に向かって浸透する。仕事の為に机に向かうが、ズクンズクンと血管が伸縮するたびに鈍い痛みがどうしようもなく正を襲った。
(コレじゃ仕事にならない…)
整理された卓上には太めの瓶と白い錠剤が転がっている。正はそれをいくつかつまむと、口にねじ込み残り少なくなっていた緑茶で流し込んだ。
独特の苦味が舌に広がる。しかし顔をしかめたのはその為だけではなかった。
(馬鹿にしてる…か)
先日喧嘩別れした洋子の低い声が耳に蘇える。
2週間前から約束していた夕食を、仕事の都合でキャンセルしたのが原因だった。約束の時間の30分前、そのことを告げると彼女はしばらく沈黙した。受話器の向こうからすすり泣く様子を感じると正はひどく狼狽した。普段からあっけらかんとしている洋子からは泣くだなんて想像も付かなかったのだ。
『あなたは』
ようやく届いた声はやはり小刻みに震えていた。
『あなたはそうやって私を馬鹿にしているのよね。もういいわ…』

それきり電話は途切れ、まだ連絡はとれていない。
(頭が痛いのは考えすぎてるからかもしれない)
その日正は早めに帰路に着いた。そしてそれが、悲劇の幕開けだったのである…

男B3

12108

家に帰り、扉を開けるとまず違和感を覚えた。体調が悪いせいだろうか、何かが、いつもと違って見える。
正はまず、焦り気味に机の一番上の引き出しを開けた。古びた菓子の缶の中には1万円札の束がのぞく。
(金は、あるな。…じゃあ何がちがうんだ?)
いくら考えても分からない。どこを探しても何一つなくなっていないのだ。
(まさか…まさか、アレが、バレたんじゃないだろうな?)
正は疼くこめかみを押さえながら、寝室へと向かった。すぐにでも駆けて行きたいのだが、足がもつれてうまく走れない。やっとの思いで階段を駆け上り、寝室の扉を、開いた。
(あった…)
安心すると、正は眼鏡も外さずに、そのままベッドに倒れこんだ。

(そういやあいつの制服姿、かわいかったなあ。)
白いセーラー服に紺色のリボン、スカート丈は膝より少し上だった。志望校に入学したその日に、小刻みに声を震わせ、俺に告白してきてくれたのだ。
それからもう4年。仕事で約束を急にキャンセルするなんて、珍しい話ではない。今までに幾度となくそんなことがあったが、洋子はいつでも笑って「仕方ないよ、仕事だもんね。」と許してくれた。それなのに、今回はいったいどうしたのだろう。
(『馬鹿にしてる』か…よりによってその言葉を…)

寝てるとも考えてるともつかぬ正のいる寝室では、ごく微かに低音の唸りが響いている。止むことなく、ずっとつづく低い唸り。ベッドの横にある本棚の、本と本の隙間から聞こえるようだ。そこからは何本もの配線が這い出てくる。さらに本棚の隅には、「洋子」と書かれたビデオテープが何十本と積まれ、奥には「マイ」「紀子」とともに、怪しげな少女が表紙のアダルトビデオが累々としていた。

男B4

11053

…ズキン!
激しい頭の痛みで、目が醒めた。
生暖かい風と共に何か虫の鳴き声が聞こえる。
「…ここはどこだ?俺はここで何をしていたんだ?」
?マークが飛び交う頭を押えながら起き上がり、正は辺りを見回した。
泥だらけのスーツの砂を払い落としながら目を凝らしてみると、見覚えのある錆びたブランコ。どうやらここは通勤途中にある公園のようである。
ぼんやりしていた意識は幾分はっきりしてきたのだが、彼は自分が何をしていたのかどうしても思い出せない。
しかし正は、彼を捕らえて離さない何かの存在をその胸に感じていた。
うすボンヤリと東の空が白み始める。
「…帰るか。」
何があったか思い出せないのに、なぜかすっきりした気分で1人つぶやいた。
早朝の凛とした空気の中を、正は「朝」に向かってゆっくり歩き始めた。


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mailto: nonami@cc.osaka-kyoiku.ac.jp
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