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第39回大阪教育大学国語教育学会
2003年12月6日
於大阪教育大学柏原キャンパス

「小学校教材における接続詞について」

国語表現ゼミナール
三回生中西大亮 足立隼斗
院 生尾崎恵美 高田久嗣
曹龍    孟玲秀
教 官野浪正隆

1、はじめに

 接続詞は、文章において、文脈を理解・表現したりするのに重要な役割を持つ。当研究では、その接続詞が、国語教育の出発点となる小学校教材において、いったいどのように意識されているか、また、意識すればいいかを明らかにしようとした。そこで、小学校教材で、接続詞の出現率を算出し、また、接続詞の種類の分布を求め、そこに現れる傾向に着目し、考察した。さらに、社説文・法律文・日記文・高校の教科書に掲載されたことのある小説(以下高校小説と略す)を、比較対象とした。

2、研究方法

 小学校教材からは、六学年の教科書にとられている文学的な文章を2作品・説明的な文章を2作品ずつ、計24作品を選んだ。そして、その比較対象として、高校小説を10編、社説文を新聞から10編、法律文を10編、日記文をインターネットの日記サイトから10編選び、研究の対象とした。研究対象は以下の表の通りである。

文学的な文章
作品名作者出版社
1
ゆきの日のゆうびんやさんこいでたん東京書籍
雨つぶあべひろし教育出版
2
きつねのおきゃくさまあまんきみこ教育出版
まどもりやまみやこ東京書籍
3
モチモチの木斉藤隆介日本書籍
おにたのぼうしあまんきみこ教育出版
4
ごんぎつね新美南吉大阪書籍
一つの花今西祐行大阪書籍
5
わらぐつの中の神様杉みき子光村図書
注文の多い料理店宮沢賢治 大阪書籍
6
やまなし宮沢賢治光村図書
ロシアパン高橋正亮学校図書

説明的な文章
作品名作者出版社
1
たんぽぽのちえうえむらとしお光村図書
ひなまつり筆者未詳日本書籍
2
サンゴの海の生きものたちもとかわたつお光村図書
おおばこまふねかずお日本書籍
3
ありの行列大滝哲也光村図書
いるかのひみつ倉橋和彦教育出版
4
カレーの旅森枝卓士大阪書籍
花を見つける手がかり吉原順平教育出版
5
1秒が1年をこわす伊藤和明光村図書
森を育てる漁師の話野坂勇作大阪書籍
6
砂漠に挑む遠山柾雄光村図書
エネルギー消費社会高木仁三郎学校図書

高校小説の作品・作者一覧表
作品作者
蜜柑芥川龍之介
ボート黒井千次
城の崎にて志賀直哉
安井夫人森鴎外
バッタと鈴虫川端康成
螢(『ノルウェイの森』より)村上春樹
津軽太宰治
おめでたき人武者小路実篤
少年北杜夫
セメント樽の中の手紙葉山繁樹

 研究の方法は以下の通りである。

  1. 文章中の各文について接続詞の個数を数え上げ(※注)、それを文章の全文字数で割ることで接続詞の出現率を求める。その際、接続詞一語あたりの文字数による誤差は考えない。例えば、「また」と「しかしながら」では4文字の差があるが、文章全体から見れば誤差は非常に小さいものである。また、ここで取り扱う接続詞には、接続助詞や接続的機能を持つ語などは含めない。

    ※注 この作業には『wincha2000』というシステムを利用した。『wincha2000』は、入力された文字列の形態素解析を行うシステムであり、今回の研究では、品詞について解析したあとで、接続詞の個数を数え上げ、分類した。
    『wincha2000』についてさらに詳しく知りたい方は http://chasen.aist-nara.ac.jp/をご覧下さい。

  2. 各文において、接続詞の種類ごとの分布率を求め、その傾向を考察する。
    接続詞は、「順接」、「逆接」、「添加」、「対比」、「転換」、「同列」、「補足」の7種類に分類した(表a)。この分類は『国語教育のための文章論概説』pp.65−67(市川孝 教育出版 1978年)によるものであり、文と文の連接関係の分類に用いられているものである。
    表a 接続詞分類表
    用法主な例
    「順接」前の内容を条件とするその帰結を導く。だから それで したがって すると かくて
    「逆接」前の内容に反する内容を導く。しかし けれども だが それなのに ところが
    「添加」前の内容に付け加わる内容を導く。そして ついで そのうえ また ならびに
    「対比」前の内容に対して対比的な内容を導く。というより そのかわり それとも あるいは または
    「転換」前の内容から転じて、別個の内容を導く。ところで ときに さて それでは ともあれ
    「同列」前の内容と同等とみなされる内容を導く。すなわち つまり 要するに
    「補足」前の内容を補足する内容を導く。なぜなら というのは ただし もっとも ちなみに
     
  3. 1. 2.の結果に現れる傾向から、他の文章と比較しながら小学校教材における接続詞の出現や分布について考察する。

3、算出結果


表b 算出結果表
文章の
種類
作品名 接続詞の
個数
全文字数接続詞の
出現率
順接逆接添加対比転換同列補足
小学校教材の文学的な文章 1年ゆきの日のゆうびんやさん 412630.32%0130000
雨つぶ 310570.28%0120000
2年きつねのおきゃくさま 915140.59%1160100
まど 36070.49%2100000
3年モチモチの木 8 2667 0.30% 2 3 2 1 0 00
おにたのぼうし 21 2283 0.92% 7590000
4年 ごんぎつね 18 4949 0.36% 8280000
一つの花 13 2098 0.62% 3361000
5年 わらぐつの中の神様 38 6678 0.57% 119160200
注文の多い料理店 37 5581 0.66% 810151210
6年 やまなし 10 2719 0.37% 3140002
ロシアパン 30 4156 0.72% 310160100
小学校教材の説明的な文章1年 たんぽぽのちえ 3 619 0.48% 1100100
ひなまつり 3 512 0.59% 0020100
2年 サンゴの海の生きものたち 3 896 0.33% 1100001
おおばこ 5 721 0.69% 3200000
3年 ありの行列 9 1028 0.88% 3140100
いるかのひみつ 7 1377 0.51% 4210000
4年 カレーの旅 9 1467 0.61% 2321001
花を見つける手がかり 6 1604 0.37% 2 2 1 1 0 00
5年 一秒が一年をこわす 12 1989 0.60% 1 3 6 0 0 20
森を育てる漁師の話 19 3365 0.56% 9 5 5 0 0 00
6年 砂漠に挑む 14 1939 0.72% 4 2 7 0 0 10
エネルギー消費社会 17 2731 0.62% 0 5 5 0 1 60



蜜柑 30 3416 0.88% 5 10 13 0 0 02
ボート 11 3535 0.31% 0 5 4 1 0 01
城の崎にて 35 5362 0.65% 6 13 14 1 0 01
安井夫人 33 11362 0.29% 2 11 17 0 3 00
バッタと鈴虫 14 2829 0.49% 0 2 11 0 0 10
螢(『ノルウェイの森』より) 11 2360 0.47% 0 5 6 0 0 00
津軽 29 9138 0.32% 1 11 12 1 1 21
おめでたき人 34 3909 0.87% 2 20 12 0 0 00
少年 16 4785 0.33% 0 8 5 0 0 12
セメント樽の中の手紙 17 2655 0.64% 1 4 11 1 0 00


社説1 10 2106 0.47% 2 6 1 0 1 00
社説2 6 1113 0.54% 0 5 1 0 0 00
社説3 4 1123 0.36% 0 3 1 0 0 00
社説4 4 2050 0.20% 2 2 0 0 0 00
社説5 3 2057 0.15% 0 1 2 0 0 00
社説6 3 508 0.59% 0 1 1 0 0 10
社説7 6 1354 0.44% 0 3 1 1 1 00
社説8 6 1088 0.55% 0 6 0 0 0 00
社説9 3 1095 0.27% 0 2 0 0 0 01
社説10 7 1114 0.63% 0 6 1 0 0 00


法律1 12 1031 1.16% 0 0 12 0 0 00
法律2 115 8821 1.30% 0 0 53 54 0 08
法律3 15 1998 0.75% 0 0 12 3 0 00
法律4 41 1629 2.52% 0 0 26 15 0 00
法律5 15 1391 1.08% 0 0 5 10 0 00
法律6 33 3746 0.88% 0 0 24 9 0 00
法律7 52 4389 1.18% 0 0 37 14 0 01
法律8 7 724 0.97% 0 0 6 0 0 01
法律9 18 2245 0.80% 0 0 7 11 0 00
法律10 2 660 0.30% 0 0 2 0 0 00


日記1 3 417 0.72% 2 0 1 0 0 00
日記2 3 964 0.31% 0 2 0 0 0 10
日記3 15 1625 0.92% 6 5 0 0 0 04
日記4 6 1002 0.60% 0 2 2 1 1 21
日記5 5 952 0.53% 2 2 0 0 0 01
日記6 5 1154 0.43% 1 3 0 0 0 01
日記7 14 2762 0.51% 2 2 5 1 1 21
日記8 12 2381 0.50% 4 5 2 0 0 01
日記9 11 1548 0.71%0531002
日記10 713160.53%2210101

 表の見方は、左から順に作品名(社説・法律・日記は1〜10編)、出現した接続詞の個数、作品の文字数、接続詞の出現率(接続詞数/文字数×100)、出現した接続詞の中での各機能の接続詞の個数となっている。一年生の教材「ゆきの日のゆうびんやさん」を例に挙げると出現した接続詞数は4、文字数1263、出現率0.32%、逆接の個数1、添加の個数3、他の種類の接続詞の個数は0となっているということである。

算出結果

小学校教材


・1〜6年まで通して、出現する接続詞の分布率の8〜9割以上を「順接」、「逆接」、「添加」の3種類が占めている。
・「対比」、「転換」、「同列」、「補足」は分布率が低い。
・「同列」の出現は、文学的な文章、説明的な文章、ともに高学年からになっている。
・文学的な文章と説明的な文章に分けて比較してみると、接続詞の出現率はほぼ同じである。
・文学的な文章の方が「添加」の接続詞の分布率がやや高い。
・説明的な文章の方が「同列」の接続詞の分布率が非常に高い。


1〜6年の接続詞の出現率と1〜6年の各接続詞の分布率については以下に表とグラフを載せておく。
表1 学年ごとの小学校教材における接続詞の出現率と各接続詞の分布率表
出現率順接逆接添加対比転換同列補足
1年0.40%8%58%17%0%17%0%0%
2年0.45%53%19%17%0%3%0%8%
3年0.61%37%25%32%3%3%0%0%
4年0.45%31%25%32%9%0%0%3%
5年0.60%17%22%43%0%2%11%0%
6年0.61%17%22%43%0%2%11%5%


表2 学年ごとの文学的な文章(左)と説明的な文章(右)
における各接続詞の分布率表
順接逆接添加対比転換同列補足順接逆接添加対比転換同列補足
1年0%58%17%0%0%0%0%17%17%33%0%33%0%0%
2年25%17%50%0%8%0%0%50%38%0%0%0%0%12%
3年37%25%32%3%3%0%0%44%19%31%0%6%0%0%
4年31%25%32%9%0%0%3%27%33%20%13%0%0%7%
5年17%22%43%0%2%11%0%32%26%35%0%0%6%0%
6年17%22%43%0%2%11%5%13%23%39%0%3%23%0%

   

一般的文章

*高校小説
・「添加」、「逆接」の接続詞の分布率が高い。
*社説文
・「逆接」の接続詞の分布率が非常に高い。各文章と比較してみても最も高くなっている。
*法律文
・出現する接続詞の殆どが「添加」、「対比」に分類された。
*日記文
・「順接」、「逆接」、「添加」の接続詞の分布率が高い。他の文章と比べると、全種類の接続詞が比較的まんべんなく分布している。
・「補足」の接続詞の分布率が最も高い。


一般的文章における各接続詞の分布表についても、以下に表とグラフを載せておいた。
表3 一般的文章における各接続詞の分布表
順接逆接添加対比転換同列補足
小説7.4%38.7%45.7%1.7%1.7%1.7%3.0%
社説7.4%64.8%18.5%1.9%3.7%1.9%1.9%
法律0.0%0.0%59.4%37.4%0.0%0.0%3.2%
日記23.5%34.6%17.3%3.7%3.7%3.7%13.6%

4、考察

4-1各文章の接続詞の分布率に見られる傾向

4-1-1小学校教材

*小学校教材全体
 各接続詞の中でも「順接」、「逆接」、「添加」の接続詞は文章の基本的な構成をしていくための要素を多く含んでいる。そのため、各文章の分布率を見てみても、この三種が多いことが目立った。
 「同列」の接続詞の出現が高学年からであることについて以下のように考察する。「同列」の「つまり」・「すなわち」などの接続詞は、要約換言の性質を持っており、文章読解の重要な手がかりとなる。高学年になって初めて出現するということは、高学年にならなければ、その有効利用を期待されないということを意味するのであろう。ただし、「例えば」などの具象換言の性質を持っている「同列」の接続詞は、低学年においても見られると考えられる。
 小学校学習指導要領における、読むことに関する目標、特に能力についての目標は、3・4年から5・6年で、「目的に応じ、内容の中心をとらえたり、段落相互の関係を考えたりしながら読む。」から、「目的に応じ、内容や要旨を把握しながら読む。」へと変わっている。
 このことも併せると、高学年のこういった能力の成長に合わせて教材選びはなされており、その結果の一つとして、「同列」の要約換言の性質を持った接続詞の分布率が高くなっているのではないだろうか。
*文学的な文章
 文学的な文章に、物語が進行する上で時間の流れや登場人物の行動・感情の移り変わりが存在することが考えられる。その点から、空間的・時間的な経過を表したり、登場人物の行動・感情を付け足したりするために、「そして」・「それから」などの「添加」の接続詞が多く見られるということが考えられる。
*説明的な文章
 説明的な文章は、ものごとを説明する文章である。その内容を理解してもらうために、あるものごとを繰り返したり・詳しく言い換えたり・例を示したり・一般化したりすることが多い。そのため、反復の機能を持つ「つまり」・「たとえば」などの「同列」の接続詞が、説明的な文章に多く見られるのではないだろうか。

4-1-2高校の教科書に掲載されたことのある小説

 高校小説において、「添加」の接続詞の分布率が高いのは、小学校教材の文学的な文章と同じ理由(時間の流れが存在する)ではないかと考えられる。

4-1-3社説文

 社説文において「順接」の接続詞の分布率が低いのは、おそらく「順接」の接続詞が多く省略されたり、他の接続表現に変えられたりしているからではないだろうか。文章表現において、接続詞がなくても前後の関係・脈絡はある。「順接」の接続詞は、最も省略しやすい接続詞の一つである。特に、社説文においては、簡潔な表現が求められるため、このような傾向を呈するに至ったのかもしれない。
 また、社説文は、ある主張を論理的に解き明かしていく文章である。その際、次のような構成をとることが多い。
・現状を述べ、それに対する否定的見解を述べる。
・現状に対して常識的見解を述べたうえでそれに反論する。
・異なる主張の説明をし、それに反論する。
そのため「逆接」の接続詞の分布率が高いと考えた。

4-1-4法律文

 法律文における「及び」・「または」などの「添加」・「対比」の接続詞の分布率が高いのは、法律文がその立場上、指示内容に漏れがあってはならないものであるため、「添加」(並列)や「対比」(選択)の接続詞を多用し、多くの事柄を含むことができるようになっているからだと考えた。

4-1-5日記文

 日記文における「補足」の接続詞の分布率が高いことについて、以下のように考察する。日記文は、各文章の中でも、唯一、文章の専門家によって考えつくされ、書かれたものでない。日記サイトを見てみると、殆どの文章の内容が、その日のうちに起こったことであった。このことは、日記文が、推敲に推敲を重ねて書き上げられるというよりは、むしろ、思い付くままに書かれているということを表す。そしてそこには必然的に、あとから内容を補足する必要が、他の文章より比較的多く生まれてくるのではないだろうか。

4-2小学校教材と一般的な文章との比較

 小学校教材と一般的な文章とではその対象となる読者に違いがある。小学校教材の読者を児童、つまり子どもとすると、一般的文章の読者は大人である。それぞれの文章における各接続詞の分布率間にその読者の違いが、(子どもから大人へと段階的に)反映されてはいないか考察をしてみた。その際、文章の種類として共通している
・文学的な文章と高校小説
・説明的な文章と社説文
に表れた各接続詞の分布率をそれぞれ対応させて比較した。

 小学校では、比較的読みやすい文学的な文章を教材にして大人(この場合は高校生も含む)が読む文学的な文章を理解(読解)するための練習をしている。社説の文章と小学校教材の説明的な文章の比較についても同様である。それを踏まえて、小学段階と次の段階とに見られる各接続詞の分布率を比較し、推移の様子とそれに対する考察を記した。

4-2-1文学的な文章から高校小説への接続詞の出現率の推移

 文学的な文章における各接続詞の分布率と高校小説における各接続詞の分布率を比較してみると、高校小説の方が「順接」の接続詞の分布率が低いことがわかる(表4・グラフ4)。
 まず、高校小説において「順接」の接続詞の分布率が低いのは、おそらく多くの場面で「順接」の接続詞が省略されたり、他の接続表現に変えられたりしたからだと考えられる。この分布率の差は、高校小説においては省略される「順接」の接続詞でも、小学校教材の文学的な文章では省略されないものがあるということを表していると考えられる。接続詞の省略された文章は整理されているといえる反面、読み手が接続詞を補って読まなければならない分難しい文章であるといえるだろう。
 つまり、小学校教材で学び後に高校教材で学ぶという順序は、明示された接続詞から文と文の関係をとらえるという段階から省略されていても文章の構造がわかる段階を踏まえたものになっているといえる。
表4 文学的な文章と小説における各接続詞の分布率表
順接逆接添加対比転換同列補足
文学的な文章24.7%24.2%44.8%1.5%3.1%0.5%1.0%
小説7.4%38.7%45.7%1.7%1.7%1.7%3.0%

4-2-2説明的な文章から社説文への各接続詞の分布率の推移

 説明的な文章における各接続詞の分布率と社説文における各接続詞の分布率を比較すると、「順接」、「添加」、「同列」の接続詞の分布率は説明的な文章の方が高く、「逆接」の接続詞の分布率は社説文の方がはるかに高い。そして、他の3つの接続詞の分布率は同じである(表5・グラフ5)。
 社説文が説明的な文章よりも「逆接」の接続詞の分布率が高いということから考えられることは二つある。一つは、4-1-3で述べたように、主張を論理的に解き明かすうえでの構成の種類によるということである。もう一つは、記者の意見を挿入する場合が多くなっているということである。説明的な文章から社説文にかけて減少した接続詞は、それぞれ省略されたということや他の接続表現に変わったということが考えられる。「逆接」・「同列」の接続詞についてもう少し詳しく考えてみた。
 小学校教材の高学年で「同列」の接続詞の分布率が上昇していることは、上述の通りである(4-1-1)。特に、文学的な文章より説明的な文章の方が「同列」の接続詞の分布率が高かった。つまり、高学年の説明的な文章は「同列」の接続詞が多い文章であるといえる。一方、社説文は4-1-3で述べたような3つの構成を多くとるため、「逆接」の接続詞が必然的に多くなる文章であるといっても過言ではない。説明的な文章と社説文は、論理を展開するという点では共通しているので同じ種類の文章だと考えられているが、「逆接」・「同列」の接続詞の分布率から考えると全く質の異なる文章だともいえる。社説文は主張を伝える文章、説明文はものごとを説明する文章という違いがある。
 ともあれ、接続詞が省略されたということは前節の考察と同じ理由で、接続詞を頼りに読んでいくという段階から、接続詞が省略されているから補って読むという段階をふんでいるという事がいえるだろう。
表5 説明的な文章と社説文における各接続詞の分布率表
順接逆接添加対比転換同列補足
説明的な文章28.0%25.2%30.8%1.9%3.7%8.4%1.9%
社説7.4%64.8%18.5%1.9%3.7%1.9%1.9%

5、まとめ

 文脈を論理的に理解・表現するうえで重要な役割を持つ接続詞に注目し、小学校教材での用いられ方と、一般的な文章での用いられ方とを比較した。小学校教材における接続詞の調査という狭い範囲の研究ではあるが、その用いられ方に見られる傾向を分析し考察した結果、今回の研究の結論として以下のことがいえる。

 1、小学校教材の、文学的な文章と説明的な文章の各接続詞の分布率に大きな違いはなく、ともに「順接」・「逆接」・「添加」の三種の接続詞の分布率が高かった。つまり、小学校教材では文章の種類を越えて、文脈を展開する上での基本的な「順接」・「逆接」・「添加」の接続詞から文章の内容を理解する練習を意識されているといえる。
 2、小学校教材の特に説明的な文章では、高学年になると「同列」の接続詞の分布率が他の文章より高くなっている。そのことから小学校教材の高学年の説明的な文章は、前の内容を要約換言する働きを持つ「同列」の接続詞に着目し、文と文、あるいは文章を頭の中で要約する練習に役立っていると考えられる。
 3、小学校教材の説明的な文章は、同じ種類の文章である社説文よりも「逆接」の接続詞の分布率が少なく、社説文のような意見文ではないといえる。つまり、小学校教材の説明的な文章は、ものごとを説明する文章となっており、論理を展開する文章の中でも接続詞が明示されているという点で比較的読みやすいものとなっていると考えられる。

6、おわりに

 今回の研究では、小学校教材24作品における接続詞について調査し、考察した。これからの研究を発展させる方向として、調査対象の数を増やすことはもちろん、中学校教材との比較、接続詞以外の接続語句の調査などが考えられる。また、調査対象について、接続詞以外の分析などはしていないので、もっと文章の内容や構造に寄り添った考察をするのも今後の課題である。



※参考文献
市川孝『改訂 文章表現法』      1968年 明治書院
市川孝『国語教育のための文章概説』1978年 教育出版

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