大阪教育大学 国語教育講座 野浪研究室 ←戻る counter

「マンガの名ゼリフについて」

文章表現ゼミナール
指導教員野浪正隆教授
学部3回生072102 辻恵美072107 三木一磨072416 片山秋作072429 佐橋健一
072431 志津野隼人072438 志水雪菜072453 東部豊072455 中塚有香

目次

1. テーマ決定までの経緯
2. 名ゼリフの分析
3. 16個の要素の確立
4. アンケート概要
5. アンケート結果
6. アンケート結果からの考察
7. まとめと今後の課題

1.テーマ決定までの経緯

 私たちは今回の共同研究で「マンガの名ゼリフ」を考察した。このテーマを決定するに至った経緯を以下に述べていく。
 まず、私たちは文章表現ゼミナールの所属であるため、何らかの「表現」について調べるという軸があった。そこでその軸に沿って、まず大きなテーマから考えていった。ここで私たちが興味を持ったのが「感情が動かされる理由を調べる」ということであった。昨年の表現ゼミの共同研究発表では「恐い話の表現論的考察」ということで、恐さを生み出すものが何なのかという、いわば「恐さ」の理由について調べた。このように、私たちが普段何気なく感じている感情や、その理由を解明していくという行為に私たちはとても興味を持ち、今回も何らかの理由について調べたいと考えた。
 そして、次に考えたのは、何についてその理由を調べていくのかということである。まず、昨年と同様なものとして「笑い(おもしろさ)」「悲しさ」「怒り」ということが挙がった。どれも非常に興味深く、調べてみたい、知りたいという気持ちが強かったが、もう少し違う角度から探っていきたいという気持ちもあった。そこで、何か一つの感情に限定するのではなく、あるシチュエーションの元で、さまざまな感情が引き起こされ、その感情がシチュエーションの性質を規定していくというようなものはないだろうかと考えていった。
 ここで挙がったのがCMの「キャッチコピー」であった。あるひとつのキャッチコピーについて調べるのではなく、さまざまなキャッチコピーを調べ、どのようなものが私たちの心に残るのかというのを調べる、いわば「印象に残る理由」調べというものであった。しかし、この題材を検討していくと、キャッチコピーには

  1. 動画の一部としての言葉、セリフ
  2. 音との関わりが強い
という側面を持ち、言語表現から理由を探っていくのには適していないと感じた。
そのためキャッチコピーのようなもので、上記の@動画の一部としての言葉、セリフ A音との関わりが強い という側面を持たないものを探したところ、「セリフ・フレーズ」について調べると良いのではないだろうかという考えに至った。そのセリフをどこからとるのかについては、二つの案が挙がった。
 一つ目は、小説の中での印象に残ったセリフ、もう一つはマンガの中での印象に残ったセリフである。つまり名ゼリフに着目した。まず、小説は言語だけで表現されているので対象として適しているだろうと考えた。しかし、小説の中で印象に残っているセリフはと考えたときになかなか挙がるものがなく、あったとしても、研究データとしての「名ゼリフ」の数が集まるかどうか確かではなかった。それに比べてマンガは、まずマンガ自体が小説に比べて認知度が高いものが多く、世間一般により広まっていて、その中で「名ゼリフ」と言われるものが多く存在しているのではないかと考えた。インターネット上のサイトにも多くの「名言サイト」なるものが存在し、それだけ多くの人の心に印象に残ったセリフがあるのではないかと思った。
 以上の経緯から、私たちは今回の研究対象を「マンガの名ゼリフ」とし、そのセリフがなぜ印象に残るのか、その理由を探っていくことにした。

2.名ゼリフの分析

 このような経緯を経て、私たち表現ゼミナール8人はマンガの名ゼリフの研究を始めた。私たちは、名ゼリフについて研究していくにあたり、まずはランダムにセリフを挙げて分析していくことが必要であると感じた。そこで私たち表現ゼミナール8人はそれぞれが名ゼリフだと思う10個のセリフを持ち寄って分析していくことになった。各自がセリフを選ぶにあたっては基準や制約は設けず、自由に持ち寄った。そして名ゼリフが心に残る理由を見つけ出すために、それらをなぜ名ゼリフだと感じるのか話し合った。      
話し合いの中で出てきた名ゼリフと感じる理由として心理状態・状況・発言者と相手との人間関係が多くあげられ、これらの要素が大きく関わっているだろうと考えた。そこで、それらをいくつかの観点に従って分析していくことにした。分析の観点は、その観点を設定した理由と共にあとで述べていく。8人の中で分析にブレが生じた場合には、その都度検討するということもしていった。その検討では、ブレを少なくするだけでなく、どのような要素が名ゼリフの発生に関わっているのかを見つけ出すためにも行っていった。

<分析表における各項目の意味と設定理由>

項目@ 発言者
セリフが誰によって発せられたかを明らかにする項目。
発言者の性質(キャラクター性・性別など)が、セリフに関わってくると考え設定した。
項目A 相手
セリフの直接の受け手(セリフが発せられた相手)を示す項目。
@と同様に、発言された人物の性質(キャラクター性・性別など)が、セリフに関わると考え設定した。
項目B発言者との関係
@とAの物語の中での関係性を示す項目。(恋人、友人、片思いなど……)
@A双方のキャラクター性・男女・性格のみではなく、@Aの人物関係もセリフが印象に残る要素なのではないかと考えたため、この項目を設定した。
項目C言及対象
誰についての話題であるかを明らかにする項目。
例えば、「あなたが好きです」というセリフは「あなた」に対して発言しているわけだが、内容としては「自分」の気持ちについて言及しているわけなので、この場合の言及対象は「自分」となる。『項目A相手』とは区別する。
項目Dセリフの性質
Eの「セリフの示す心理」とは別に、セリフ自体の働きを明らかにする項目。
ここでは、セリフだけに含まれる働き(例:諭し,助言)を単純に示した。
セリフの中の言葉そのものの力(=D)と、そのセリフを発した人物の心情(=E)の関係性を見るために設定した。
項目Eセリフが示す心理
セリフを発した人物の心理状態を明らかにする項目。
例えば、好きなのに「嫌い」という発言をしたときの心理状態は、相手への「愛情」とした。ここでは、あくまでセリフを発したときの、発した人物の心情のみを表記した。
「嫌い」というニュアンスを取り出すための項目は次のDセリフの性質で設定した。
項目Fセリフの文型
セリフの文型を分析する項目。(疑問文、主張文など・・・)
例えば同じセリフでも言い方により意味合いや強さが変わってくると考えたため設定した。
項目G状況
セリフに至るまでの経緯(=あらすじ)を示す項目。
セリフの情報を明らかにするためという目的のほかに、セリフに至る経緯を明らかにし、それまでのストーリーの展開がセリフ自体にどのようにかかわるのかを分析するために設定した。
項目H状況の性質
その場面自体の性質を明らかにする項目。
Iとは違い単純にセリフが発せられたときのその状況がどういうものであるのかを明らかにするための項目。日常の状況と、非日常(ピンチ、別れなど)の状況など、その状況によってセリフの質が変わってくると考えたため設定した。
項目I状況が含む心理状態
セリフを発した人物以外の、周りの心理状況(発せられた相手・周りの人間)を明らかにする項目。(ただし、セリフが発せられた後ではなく、セリフが発せられる直前の心理状態とした。)
発言者の心理状態と周囲の心理状態との関わりによってセリフの質が変わってくると考えたため設定した。
項目J作品名
出典を明らかにするための項目。
私たちの共通理解を図るとともに、どのマンガかがわかればセリフの分析の手助けとなるため設定した。

3.16個の要素の確立

 このように行ってきた80個のセリフの分析から、名ゼリフに必要だと思われる要素を16個あげた。以下に示すのがその16個の要素とその例である。

要素1 共感できるから
セリフが発せられた状況とセリフが、読者にとって納得でき、自分の状況と照らし合わせることができ、そのセリフを名ゼリフだと感じるのではないかと考えた。
<例>大人はすぐに"また"とか"いつか"とかいっちまうんだよ(南国少年パプワ君)
要素2 うまい発言だから
なにかに掛けたり、例えたりして言い表されているときに、最初は分からないが、はっとそのセリフ の中身に気付かされて感動するのではないかと考えた。セリフの心理には関わらないで、セリフの言葉自体の言い回しに面白さを感じることができる。また、ひねらずに言うときと比べて、より強い印象を受けると考えた。(セリフ自体を考察したとき、項目G)
<例>………『プラマイゼロ』……?ゼロじゃなくてプラマイプラスだったよ (僕等がいた)
要素3 言われたい言ってみたいという言葉だから
宣言や告白などの、普段言わないようなフレーズで、それを言ってみたい・言われてみたいという無意識の願望を持っていて、そのセリフが現れたときに、名ゼリフだと感じるのではないかと考えた。
<例>わが生涯に一片の悔いなし (北斗の拳)
要素4 ポジティブな発言だから
セリフを示す心理(項目E)が、プラスの感情であるとき、読者は名ゼリフだと感じるのではないかと考えた。ここでは、状況が含む心理状態(項目I)や、状況の性質(項目H)がマイナスな状態であれば、よりこの効果が強くなるという予測を立てた。
<例>はい上がろう 「負けたことがある」というのが いつか大きな財産になる(SLAM DUNK)
要素5 普段言わないようなことで、ギャップ・意外性があるから
発言者(項目@)と状況(項目G)が、普段では考えられないような組み合わせであったり、発言者(項目@)のキャラクター性とセリフの性質(項目D)との間に意外性を感じたりすることによってセリフが印象に残ったり、名ゼリフだと感じるのではないかと考えた。
<例>がんばれカカロット・・・おまえがナンバー1だ!!  (ドラゴンボール)
要素6 寂しいとき・侮辱・絶望の状況で、思いやりが感じられるから
状況が含む心理状態(項目I)が、特に大きくマイナスのとき、セリフが示す心理(項目E)に思いやりの心理が含まれている場合に、名ゼリフと感じられるのではないかと考えた。
<例>ふつうは嬉しかったら笑うんだよ (新世紀エヴァンゲリオン)
要素7 励ましの言葉だから
分析を進める中でセリフの性質(項目D)が励ましに属するもの、また、そのセリフが示す心理(項目E)が励ましに属するものが多くあり、励ましというのが重要な要素の一つであり、そのセリフを名ゼリフだと感じるのではないかと考えた。
<例>しゃんとせえ!!ひとりじゃないけん…!  (砂時計)
要素8 近い(親しい)関係の人の言葉だから
発言者との関係(項目B)が、近しい関係でお互いのことをよく知っているほど、セリフ自体を受け入れやすく、感動や深みをより感じやすいのではないかと考えた。
<例>ノジコ!!ナミ!!大好き? (ONE PIECE ワンピース)
要素9 現実に応用できる人生の格言だから
マンガのなかだけにとどまらず、現実にも応用できる格言であると感じたものを名ゼリフと感じるのではないかと考えた。
<例>努力したものがすべて報われるとはかぎらん
しかし!成功したものはみなすべからく努力しておる! (はじめの一歩)
要素10 夢を語るせりふや決意を表す言葉だから
目標に届きそうにないにもかかわらず、決意表明や、夢を語るものといった発言に、発言者の意志の強さを感じたり、憧れを抱いたりするとき、そのセリフを名ゼリフだと感じるのではないかと考 えた。
<例>海賊王に 俺はなる!!!! (ONE PIECE ワンピース)
要素11 裏がある(含みがある)発言だから
セリフの示す心理(項目E)に対してセリフの性質(項目D)が一致しないことで、そのセリフに発言者の意図を読み取ることができたときに、名ゼリフだと感じるのではないかと考えた。
<例>リンゴです。  (タッチ)
要素12 ストレートな発言で、その人の想いが素直に出る、飾らない発言だから
セリフの示す心理(項目E)とセリフの性質(項目D)が一致したとき、その人物の感情がそのまま出ていて、その思いの強さが表れていて伝わりやすいので、そのセリフを名ゼリフだと感じるのではないかと考えた。
<例>オレのすきなんは小泉だけや!! (ラブ☆コン)
要素13 前振りがあるから
セリフそのものだけではなく、セリフに至るまでの状況(項目G)や前振りがあることによって、セリフの発言者の意図が読み取りやすくなり、セリフと前振りの関係性に気付き、名ゼリフだと感じるのではないかと考えた。
<例>オーナーゼフ!!!……長い間!!!くそお世話になりました!!!この御恩は一生…!!!忘れません!!!!(ONE PIECE ワンピース)
要素14 話の終盤に出てくるから
ストーリー中で、終盤までに紆余曲折を経た発言者のセリフに、発言者の今までの様々な思いを 読み取ることができるので、そのセリフを名ゼリフだと感じるのではないかと考えた。
<例>上杉達也は浅倉南を愛しています。世界中の誰よりも。  (タッチ)
要素15 恋愛感情に関係する言葉だから
読み手が恋愛感情に興味や関心が高く、それに関係したセリフに反応しやすいので、そのセリフ を名ゼリフだと感じるのではないかと考えた。
<例>I love you .ちがうか?発音。 (H2)
要素16 キャラクターの性格がよくあらわれているから
発言者(項目@)の性格が、セリフの性質(項目E)によく表れていることが、名ゼリフとして成り立つ要素として必要であると考えた。また、キャラクター性に合致した発言は、読者の期待を裏切らないものであると考えたため、そのセリフを名ゼリフだと感じるのではないかと考えた。
<例>所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。(るろうに剣心−明治剣客浪漫譚 −)

<16個の要素の例のセリフの分析表>

要素セリフ発言者相手発言者との関係言及対象[話題]セリフの性質セリフが示す心理セリフの文型状況の性質状況が含む心理状態作品名(出典)
1大人はすぐに"また"とか"いつか"とか言っちまうんだよシンタローなし大人(自分を含む)皮肉後悔定義文別れ寂しさエニックス   柴田亜美『南国少年パプワくん)(4巻p.144)
2………『プラマイゼロ)……? ゼロじゃなくてプラマイプラスだったよ矢野元晴高橋七美恋愛対象自分諭し愛情 感謝主張文別れ寂しさ小学館 小畑友紀『僕等がいた)(8巻 pp.170-175)
3わが生涯に一片の悔いなしラオウなし自分肯定満足断定文最期圧倒されている集英社 原作 武論尊 絵 原哲夫 『北斗の拳)(巻数 16巻 p39)
4はいあがろう 「負けたことがある」というのが いつか 大きな財産になる山王の堂本監督選手達監督と選手自分と相手励ましポジティブ勧誘文+断定文敗北後落胆集英社 井上雄彦『SLAM DUNK)(31巻 p.156)
5がんばれカカロット・・・おまえがナンバー1だ!!べジータ悟空(聞こえていない)ライバル相手肯定敗北感 爽快感断定文戦闘中必死集英社 鳥山明 『ドラゴンボール) (42巻 p.113)
6ふつうは嬉しかったら笑うんだよ碇シンジ綾波レイ仲間相手助言優しさ提案文ピンチ回避戸惑い 角川書店 原作 GAINAX  絵 吉本貞行 『新世紀エヴァンゲリオン)(3巻 p.162)
7しゃんとせえ!!一人じゃないけん…!杏の祖母家族相手励まし優しさ命令文緊迫戸惑い 小学館 芦原妃名子 『砂時計)(8巻 p.66)
8ノジコ!!ナミ!! 大好き?ベルメールさんノジコ・ナミ家族自分愛情表現愛情主張文絶望恐怖集英社 尾田栄一郎 『ONE PIECE ワンピース)(9巻 p.145)
9努力した者が全て報われるとは限らん しかし!成功した者は皆すべからく努力しておる!!鴨川会長鷹村守師弟関係成功者助言優しさ定義文緊迫緊張講談社 森川ジョージ 『はじめの一歩)(42巻 p.156)
10海賊王に おれはなる!!!!ルフィなし自分宣言決意主張文始まり集英社 尾田栄一郎 『ONE PIECE ワンピース)(1巻 p.57)
11リンゴです。上杉達也柏葉監督敵対者その他(ボール)説明感謝説明文お見舞い素直になれない 小学館文庫 あだち充 『タッチ)(文庫版) (14巻 p.68)
12オレのすきなんは小泉だけや!!大谷敦ヤクザ自分愛情表現愛情主張文緊迫疑い 集英社 中原アヤ『ラブ☆コン)(14巻 p.85)
13オーナーゼフ!!!……長い間!!!くそお世話になりました!!!この御恩は一生…!!!忘れません!!!! サンジゼフ師弟関係自分あいさつ感謝感謝文別れ寂しさ 悲しさ集英社 尾田栄一郎 『ONE PIECE ワンピース)(8巻 pp.120-121)
14上杉達也は浅倉南を愛しています。世界中の誰よりも。上杉達也浅倉南恋愛対象自分告白愛情 説明文告白不安小学館文庫 あだち充 『タッチ)(文庫版) (14巻 p.320)
15I love you  違うか?発音。国見比呂古賀春華恋愛対象自分確認愛情疑問文ピンチ回避後安堵小学館文庫 あだち充『H2)(26巻p.148)
16所詮この世は弱肉強食 強ければ生き 弱ければ死ぬ志々雄真実宗次朗師弟関係この世の摂理肯定自信 断定文ピンチ絶望集英社 和月伸宏 『るろうに剣心−明治剣客浪漫譚−) (16巻p.38)

<16個のセリフのあらすじ>

【大人はすぐに"また"とか"いつか"とか言っちまうんだよ】
シンタローは組織から秘石という宝物を盗み出し、追われる身となる。たどりついた先はパプワ島という島で、そこで少年であるパプワと出会い生活を始める。弟を救うために日本に帰る決心をしたシンタローは、パプワに別れを告げる。「おまえには世話になったな。またいつかきっと…」というシンタローに対してパプワは「いつだ。いつかなんて日はいつだ。」と答える。最後の食事を終え、飛行機に乗ったシンタローが、パプワが山の上から自分を見送っているのに気付き、泣きながら言ったセリフ。
【………『プラマイゼロ』……?ゼロじゃなくてプラマイプラスだったよ】
主人公の高橋七美の彼氏矢野元晴は恋人(奈々)を亡くした過去を持っている。矢野はそのことをずっと心の傷として抱えていた。そんな矢野に対し、「矢野のすごくすごく好きな人はもういないのかもしれないけど 矢野のことをすっごくすっごく好きな人間がいるってことは それってプラマイゼロじゃないかなあ。」と七美は伝えた。その後、奈々のことで何度もすれ違うこともあったが互いに理解しあい関係を深めてきた。しかし、矢野の母親の離婚問題が浮上する。矢野には父親がおらず、母親が再婚した義理の父親と三人で暮らしていた。矢野は母親について東京に行くべきか七美のいる北海道に残るべきか悩んだ末、東京に行くことを決意する。矢野が引っ越す日、駅のホームで七美は「どこにいても どんなにさみしくても つらくてもここで七美が想ってることを忘れないでね。矢野は絶対一人じゃないから。」と伝える。そのときに矢野が以前七美に言われたことばを思い出し言ったセリフ。七美に出会ったことが自分にとってプラスになったという感謝の気持ちから。
【わが生涯に一片の悔いなし】
世界が暴力によって支配されている時代に、北斗神拳を使うケンシロウは圧倒的な力を持ちながらも平和のために日々死闘を繰り広げていた。また、ライバルであるラオウも圧倒的な力で世界を支配しようとしていた。そして二人はぶつかり合い、最期の闘いを繰り広げ、死闘の末に敗れたラオウが最期を悟ったラオウが天に向かって言い放ったセリフである。
【はいあがろう 「負けたことがある」というのが いつか 大きな財産になる】
激闘の末、負けるはずのない湘北高校との決戦に敗れてしまったインターハイ王者常連の山王工業。敗戦後、コートから去っていくときにその監督、堂本が、負けたことを信じられず放心状態の選手たちの肩を抱えながら言ったセリフ。
【がんばれカカロット・・・おまえがナンバー1だ!!】
魔導師バビディの手によって眠りからさめた魔人ブウ。その驚異的な力は悟空の味方を吸収してどんどん強大になっていく。誰もがかなわない、このまま全宇宙の運命が終わってしまうのか・・・。そんな中、超サイヤ人3となり、今まで以上の力を身につけた悟空は、魔人ブウと互角の闘いを繰り広げる。そんな悟空の様子を見てベジータがつぶやいたセリフ。ベジータはサイヤ人という戦闘民族の王子で、そのことに誇りを持っていた。しかし、正統な王子でもなんでもないサイヤ人の悟空に敗北したが命は奪われなかった。それ以来、悟空のことをライバルと認めながらも、プライドの高いベジータは、天才である自分が劣っているはずがない、自分の方が強いと思い続けてきた。しかし、自分が全く歯が立たなかった魔人ブウと互角に闘っている悟空を見て、自分が今まで自分のプライドのために、勝つために闘ってきたことに気がつく。悟空はそうではなく、ぜったい負けないために限界を極め続け闘っている、だから相手の命を絶つことにこだわりはしない、そういう考えだから強く自分もかなわないということに気がついたベジータは、「・・・アタマにくるぜ・・・!戦いが大好きでやさしいサイヤ人なんてよ・・・!!」とつぶやいたのちに、このセリフを言ったのである。(カカロット=孫悟空 ベジータは悟空のことをこう呼んでいる。)
【ふつうは嬉しかったら笑うんだよ】
セカンドインパクトの後、次々と攻めてくる使徒に対して政府は選ばれし子供たち、チルドレンをエヴァンゲリオンのパイロットとして登用し、日々闘っていた。その中で碇シンジと綾波レイは八島作戦時に共同で使徒と対戦することになった。遠距離攻撃の作戦でシンジが砲撃班、レイが護衛班であったが、作戦中にレイの乗ったエヴァンゲリオンが攻撃されてしまう。作戦成功後慌ててレイを助けに行ったシンジが泣いてほっとするの見たレイが「こういうときどうすればいいのか分からないの」と言われたときに返したセリフ。
【しゃんとせえ!!一人じゃないけん…!】
婚約破棄、会社での人間関係ストレスなどから「がんばる」という言葉に押しつぶされそうになっていた主人公・杏は、昔の恋人が結婚するかもしれないという話を聞き、もう思い残すことは何もないと自殺を図ってしまう。杏のお母さんは、「がんばれ」「しゃんとせえ!」の言葉の重さに耐え切れずに自殺しており、杏自身も自殺した母親と同じく、自分の弱さにずっと悩み続けてきた。奇跡的に病院で目を覚ました杏に、杏の祖母が「あえて言う、あんたは強い!」といい、泣きながら続けたセリフ。
【ノジコ!!ナミ!! 大好き?】
血のつながりはない、ベルメール(母親)とノジコ(姉)とナミ(妹)。ベルメールが戦場で死にかけていた時、ノジコの抱えるまだ赤ん坊だったナミの笑顔によって死ぬことをやめ家族となったため、本当の家族以上に深い絆で結ばれている。その経緯を知らないナミは、ノジコと喧嘩をした時に自分たちに血のつながりがないことを口にしてしまい、ベルメールに怒られ、「拾われるならもっとお金持ちの家がよかった」と家を飛び出してしまう。家族になった経緯をナミが知ったちょうどその時、海賊がやって来て村は占領され、抵抗したベルメールは押さえつけられてしまう。人数分の金を払えば命は救われるが、三人分はない。村の名簿などに家族である証明がないため、村人たちはノジコとナミを見つからないうちに逃そうとするが、ベルメールは「口先だけでも親になりたい」と、二人分の金を支払い、自分が犠牲になる。頭に拳銃を当てられ、殺される直前にノジコとナミに対して言ったセリフ。
【努力した者が全て報われるとは限らん しかし!成功した者は皆すべからく努力しておる!!】
念願の世界タイトルマッチを前に、鷹村守は減量にとても苦労していた。世界戦の相手は才能だけでチャンピオンになった言われるほど練習をしない選手だった。今までにないほど苦労したすえに減量に成功した鷹村を試合前の記者会見で挑発した相手であったが、その実力を感じ取った鷹村は不安を感じてしまう。その試合前に二人三脚で今まで頑張ってきた鴨川会長が世界戦にむけて送り出すときに言ったセリフである。
【海賊王に おれはなる!!!!】
少年のルフィは海賊になりたいが、海賊であるシャンクスは子供扱いをし海に連れていってくれない。ある時、町にやって来た山賊が自分たちの挑発に乗らなかったシャンクスを腰ぬけだとバカにし、そのことに怒ったルフィが喰いかかる。しかし、ルフィは山賊はよって海に落とされてしまう。シャンクスが助けてくれるが、その時、近海の主である怪物に左手を食われてしまう。シャンクスが海の過酷さ故に航海に連れて行ってくれないこと、自分の非力さ、シャンクスの偉大さを知ったルフィは自分の力でシャンクスのような海賊になり、仲間を集め世界一の財宝を見つけ、海賊王になることを決意する。そして10年後、海賊として出航したルフィが、シャンクスの左手を食べた近海の主を簡単にやっつけた後で、叫んだセリフ。
【リンゴです。】
高校3年の夏、達也たち明青野球部に監督代行としてやってきたOBの柏葉は、過去のいざこざから明青野球部に恨みをかかえていた。その恨みを晴らすかのように部員たちに厳しい練習を強いてきた。鬼監督のもと、部員全員が毎日毎日泥だらけになりながら厳しい練習に耐えてきた。そんな部員たちを見て、柏葉の恨みの気持ちはなくなり甲子園に連れていってやりたいと思うようになるが、なかなか素直になれない。そして高校生活最後の地区予選大会、宿敵新田の率いる須見工を延長戦の末見事に倒し、念願の甲子園出場を決める。しかし、試合後柏葉は病院に運ばれてしまう。実は目に病気をかかえていてほとんど目が見えなくなっていたのである。翌日、達也と南は手術を控えて入院中の柏葉をお見舞いに行く。柏葉は目に包帯を巻いており、病気の重さがうかがえる。達也は甲子園に行けた感謝の気持ちを素直に表すが、やはり柏葉はなかなか素直になりきれない。そんな柏葉に達也はお見舞いとして「リンゴ」をポケットから取り出して渡す。そして「なんだ?」という柏葉に対して、病室を去りながら言ったセリフ。実は渡したものは「リンゴ」ではなく甲子園出場を決めた「ウイニングボール」だったのである。目の見えない柏葉は最初は気がつかなかったが、それに触れてハッとなったのであった・・・。
【オレのすきなんは小泉だけや!!】
恋人同士だがデコボコ漫才コンビのようなリサと大谷。ある日、リサのおじいちゃんが帰国する。しかしおじいちゃんはチビな大谷が気に入らず、二人を引き裂こうと秘密の作戦を企てる。そんな中、大谷が偶然謎の巨乳美女・瞳に出会う。彼女がおじいちゃんの送り込んだ刺客なのかはっきりしないまま、瞳の大谷への誘惑がエスカレートしていく。さすがのリサも心配になり、瞳に直接抗議しにいくが、瞳は刺客ではなかった。リサは疑ったことを心から謝る。しかし、実は瞳は刺客よりもタチの悪い悪女だった。そんなことも知らず、リサと大谷は彼女の術中にはまってしまう。大谷を狙う瞳はリサのことが邪魔になり、理沙をマンションに呼び出し、ヤクザに襲わせようと企む。結局失敗するが、リサを助けに来た大谷にどういうことかと聞かれまずい状況の中、瞳の彼氏であるやくざの親分がやってくる。親分に「あのガキ誰じゃ」と聞かれた瞳は「なんかあたしのことをすきみたいでしつこいねーん」と言う。それを聞き「オレの女に手ぇだしとんかい!!」とキレた親分に、リサは手を出してたのは瞳の方だというが、「なんやおまえ 瞳が悪い言うんかい!!」とさらに親分はキレる。親分と大谷の「正直に言うてみい!!瞳に惚れとるやろ!?」「全然惚れてへん!!」「うそつけぇ!!」「うそちゃうわ!!」というやりとりの後大谷が言ったセリフ。
【オーナーゼフ!!!……長い間!!!くそお世話になりました!!!この御恩は一生…!!!!!忘れません!!!!】
自分の命を脚を失ってまで助けてくれた元海賊で海上レストランの料理長、ゼフのもとでサンジは副料理長として働いていた。サンジは、昔から世界中のコックの夢であるオールブルーへ行くという夢を持ちつつも、ゼフに対する感謝の気持ちから、自分の夢を諦めてきた。しかし、海上レストランに訪れた海賊一味を倒したルフィ海賊団にコックとして乗船し、もう一度夢を追いかける決意をする。それまでどれだけ悪態をつきながらも、慕っていたゼフの元を離れることに寂しさを覚えるサンジであるが、それはゼフも同じであった。自分の果たせなかったオールブルーへの夢をサンジに託す別れのシーンで、「カゼひくなよ」というゼフに対してサンジが言うセリフ。
【上杉達也は浅倉南を愛しています。世界中の誰よりも。】
上杉達也と上杉和也は双子の兄弟。怠け者だが弟思いの兄・達也とスポーツも勉強もなんでもできる弟の和也、そして幼なじみの浅倉南は三人でいつも一緒に過ごしてきた。高校で野球部に入った和也は南を甲子園に連れて行くと約束する。しかし、地区大会の試合当日交通事故に合い和也はかえらぬ人となってしまう。そんな中、達也は亡き弟の代わりに南を甲子園に連れて行こうと努力する。そして高校3年の夏、さまざまな苦労や困難を乗り越え、達也はついに念願の甲子園出場を果たす。一方南も新体操でインターハイに出場することになった。しかし、達也は亡き弟のために野球をし、南は助っ人から始めた新体操。達也は目的を果たしてしまい、南は自分が本当に新体操をしたいのかがわからなくなる。お互いがこれから先、何のために、そして誰のために進んでいけばいいのかというスタート地点を見失ってしまう。そんな中甲子園の開会式を抜け出し、達也は鳥取でインターハイに臨む南のもとへ向かう。そして川原で達也が「スタート地点の確認だ」と言い南に対して言ったセリフ。
【I love you。 違うか?発音。】
千川高校野球部のマネージャー古賀春華はエースの国見比呂に好意を寄せている。比呂も春華のことが気にはなりながらも好きの一言を言ったことはなかった。そんな中、春華が英会話教室に通い始める。春華はそこで英会話教室の先生の息子で帰国子女でもある三吉に出会い、学校でも仲良くしたり、英語で電話をしたりする仲になった。比呂は最初、三吉のことをあまり気にしていなかったが、三吉に「彼女を傷つけないでくれよ」と言われたことからイライラし始める。三吉は比呂と春華の仲を壊したかった。三吉のことでイライラしている比呂は春華に冷たくあたってしまう。そんなある日、春華がいつものように英会話教室に行き教室に入ると、ほかにはだれも来ておらず、三吉にカギを閉められ二人きりにされてしまう。その日は本当なら授業は休みだったが、三吉は春華にそのことをわざと伝えなかった。春華は窓から逃げようとしたが、空気の入れ替えができる程度しか開かないようになっていた。それでも逃げようとする春華を見て三吉は、春華に何もしないが一晩を共に過ごすという事実だけがあればいいという。その事実があれば、あとは比呂が勝手な妄想をすることで春華との仲が壊れていくという計画だった。それでも比呂のことを信じて一向に自分のことを見ない春華に業を煮やした三吉は、春華を無理やり襲おうとする。そのとき、窓の隙間から剛速球で硬球が三吉目掛けて飛んでくる。向かいのビルの上には比呂の姿があった。三吉が腰を抜かしている間に春華は教室を出て比呂の元へかけよった。その時に比呂が春華に言ったセリフ。
【所詮この世は弱肉強食 強ければ生き 弱ければ死ぬ】
逆刃刀(普通の刀とは刃のつき方が違い、切れない。)を腰に下げ、不殺(ころさず)を誓う流浪人・緋村剣心−彼こそは新時代・明治を切り拓いた維新志士の中で、最強無比の伝説をもつ「人斬り抜刀斎」であった。自分が人斬りをやめたあと、政府によって雇われた新たな人斬り、いわば自分の後継者にあたるは志々雄真実(ししおまこと)が天下の覇権を狙って動き出した。志々雄は腕は立つがその残虐性から雇われていた政府によって逆に始末されそうになる。何とか逃げ延びたが、そのことで志々雄は政府に対して恨みを持っていた。それから何年かが経ち、自分を利用するだけ利用して殺そうとした政府をつぶして自分が新しい国をつくろうと考えていた。そんな志々雄の野望を阻止するため、剣心は志々雄のアジトへ向かう。そこへ志々雄の部下である瀬田宗次郎が立ちはだかる。宗次郎は幼いときのある出来事をきっかけに、志々雄を崇拝していた。彼は喜怒哀楽のうち楽以外の感情が欠けていていつもにこにこした表情をしている。余分な感情を持たないことと、天性の才能があいまって剣の腕は相当なものである。しかし。感情が欠落しているのには彼の過去が関係しているのであった・・・。宗次郎は幼いときに米問屋に養子にとられるが、そこの家族たちから疎ましく思われ、度々理不尽な暴力を受けていた。最初のころは宗次郎はそれに対して怒ったり泣いたりしていたが、家族はそのことで余計腹を立て余計暴力的になるのであった。そこで宗次郎は被害を一番少なくするために我慢してにこにこ笑っていることにしたのである。そうすればあきれて終わりにしてくれたのである。どんなに痛くてもくやしくても笑ってさえいれば・・・。そしてある日、政府に追われている志々雄を見つけ宗次郎は殺されそうになるが、そんな状況でも笑ってしまっている宗次郎に志々雄は興味をしめし殺すのをやめた。そして米倉にかくまってもらう。そこで志々雄は宗次郎が笑う表情をつくることになった理由を聞くが、「それはお前が弱いから悪いんだ」といい、続けて言ったセリフ。そして志々雄は宗次郎に脇差(わきざし・・・刀のこと。)を渡す。そのころ家族が、宋次郎が志々雄をかくまっていることに気づき、怒り狂い宗次郎を殺そうとする。「誰でもいい、誰か助けてくれ」と願う宋次郎だったが、絶望的な状況であった。殺されそうになったとき宗次郎は志々雄にもらった脇差に目がいく。その刀とともに彼の脳裏によぎったのは志々雄が言ったこのセリフであった・・・。そして・・・。家族を全員切り殺した宗次郎は、この世の真実を教えてくれ、自分を守ってくれた脇差をくれた志々雄と行動を共にすることにしたのであった・・・。

4.アンケートの実施

 これまでで、設定した項目による分析、その結果得られた16個の要素について述べてきた。
しかし、これはあくまで私たち表現ゼミ8人が持ち寄ったセリフのみから立てることのできた要素であり、また、要素を立てたのも私たち8人である。そこで、主観に偏らないようにするためにも、より多くの人の意見を踏まえる必要があると考えた。またそれ以前に、セリフの選出自体が個人の主観にかかわる部分が大きいのではないのかという問題も考えられた。そのため、私たちが選んだセリフが名ゼリフだと思うかどうかを、私たち以外の人たちにも調べてもらう必要があると考えた。私たちだけが名ゼリフだと思ってしまっているのではないかということを防ぐためである。
そこで、多くの人の意見をふまえるためにアンケート調査を実施することにした。
今回のアンケートの実施期間は、2009年11月13日から11月29日である。また、主に国語学講義Uと国語学概論・概説Uの受講者である大阪教育大学の1,3回生を対象とした。
アンケートの内容の概略は、以下の通りである。

アンケート概略図

【あらすじの提示】

※このアンケートは、野浪研究室ホームページ、アンケートページにて公開しています。

 アンケート調査の各設問は以下のような意図を持って、立てられたものである。

 これらは、認知度が高いと思われるセリフと、認知度が低いと思われるセリフを選び、さらに少年マンガと少女マンガから同程度選ぶようにして、偏りが少なくなることを意識して選んだセリフである。
設問3で、設問2で示した10個のセリフが名ゼリフと思うか否かについて聞いた。設問4では、設問3のセリフのあらすじを提示し、あらすじを読んだ上で、名ゼリフと思うか否かについて聞いた。
これらの設問を設けたのは、設問2〜4の回答を比較することにより、以下のことを調べることができるからである。
・あらすじを知らなくても名ゼリフになるもの、つまりセリフそのものに人々の心に強く残る力があるセリフを調べることができる。また、その要素を調べることができる。
・名ゼリフの構成要素に、あらすじの有無が関係するのか見ることができる。
・あらすじを知っても名ゼリフとなりにくいものがあるか調べることができる。
・少年マンガ、少女マンガというジャンルが名ゼリフに直接関係するのかみることができる。
このように、設問1〜4まででは、男女の性別による差異、あらすじとの関連性、少年・少女マンガの差異を見るために立てた。
次に、設問5で、私たちが立てた名ゼリフとなる要素についてどう思うかについて尋ねた。この設問は、名ゼリフに必要だと考えられる要素を多くの人に検証してもらうためのものである。またこれらの要素について考えることによって、アンケート回答者が各自名ゼリフの決定基準を検討し設問6の回答につながる効果が得られることも期待した。
続く設問6では、アンケート回答者各自に名ゼリフと思っているセリフを挙げてもらい、そのセリフが設問5の要素で構成されているかについて検証してもらった。要素の中に当てはまるものがない場合は、アンケート回答者自身に理由を挙げてもらった。この設問6は、私たちが立てた16個の要素が名ゼリフを生み出す要素として当てはまっているかを検証すると共に、その要素同士にも関連性があるのかを調べるために立てた。

5.アンケート結果

(1)10個のセリフの認知度の結果

 私たちが挙げた10個のセリフについての認知度を尋ねた。以下がその集計結果である。

とする。
 セリフに対する単純な認知度を「セリフは知っているがマンガ自体は読んでいない」と「セリフも知っているし、セリフに至る経緯も知っている」の合計(B+C)とみなす。
 また、単純な認知度が半数を超えている上位5組を<第1グループ>、半数に満たない下位5組を<第2グループ>とし、考察する。

第1グループ

セリフ3 お前はもう死んでいる
BとCが共に多い。その中でも、Bの方が多い。よって、このセリフは認知度が高く、あらすじよりもセリフが先行して知られているセリフである。
セリフ7 上杉達也は浅倉南を愛しています。世界中の誰よりも。
BとCが共に多い。その中でも、Cの方が多い。よって、このセリフは認知度が高く、セリフとあらすじが共によく認知されているセリフである。
セリフ2 これでいいのだ
BとCが共に多い。その中でも、Bの方が多い。よって、このセリフは認知度が高く、あらすじよりもセリフが先行して知られているセリフである。
セリフ4 あの地球人のように?…クリリンのことか…クリリンのことか―――!!!!!
BとCが共に多い。その中でも、Cの方が多い。よって、このセリフは認知度が高く、セリフとあらすじが共に認知されているセリフである。
セリフ5 あきらめる?あきらめたらそこで試合終了ですよ…?
BとCが共に多い。その中でも、Cの方が多い。よって、このセリフは認知度が高く、セリフとあらすじが共によく認知されているセリフである。

第2グループ

セリフ9 わざとだよ?
BとCが少ない。その中でも、Cが顕著に多い。よって、このセリフは認知度はあまり高くないが、セリフとあらすじが共によく知られているセリフである。
セリフ6 てめーにとっちゃ400人の生徒のたかが一匹だったかもしんねーけど…生徒にとっちゃ担任教師は一人しかいねーんだよ!!
BとCは顕著に少ない。その中でも、Cの方が多い。よって、このセリフは認知度は低いが、セリフとあらすじが共に認知されているセリフである。
セリフ8 たった一人じゃ野球はできねぇんだ…名門と呼ばれるこの高校じゃあそんな大切なことも忘れてんのかよ!
BとCは顕著に少ない。その中でも、Cの方が多い。よって、このセリフは認知度は低いが、セリフとあらすじが共に認知されているセリフである。
セリフ1 大人はすぐに"また"とか"いつか"とか言っちまうんだよ
BとCは顕著に少ない。その中でも、Bの方がわずかに高い。よって、このセリフは認知度が低い。
セリフ10 愛はパワーだよ  
BとCは顕著に少ない。その中でも、Bの方がわずかに高い。よって、このセリフは認知度が低い。

(2)10個のセリフを名ゼリフだと思うかどうかの結果とあらすじを加えた後の結果

 私たちが挙げた10個のセリフに対し、名ゼリフだと思うかどうかを質問したものが上のグラフ、あらすじを加え、それを読んでもらった上で名ゼリフだと思うかどうかを答えてもらった結果が下のグラフである。

図2 10個のセリフを名ゼリフだと思うかどうか セリフのみ(上)あらすじ後(下)

名ゼリフだと思う割合が一番多いセリフは、セリフ5の「あきめる?あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」であり、続いてセリフ7、セリフ6となっている。
あらすじを踏まえた上で、名ゼリフだと思う割合一番多かったのも、セリフ5である。続いて、セリフ6、セリフ7となっている。

 続いて、各セリフに対して、表の結果を見てみると、
セリフ1 大人はすぐに"また"とか"いつか"とか言っちまうんだよ あらすじを知る前が7位だったのに対して、あらすじを知った後では、4位になっている。また、名ゼリフだと思う割合は、あらすじを加える前に比べて急激に増加している。
セリフ2 これでいいのだ
あらすじを知る前が4位だったのに対して、あらすじを知った後では、9位になっている。この10個のセリフについて唯一、あらすじを知ったあとの「名ゼリフだと思う」割合が減少している。
セリフ3 お前はもう死んでいる
あらすじを知る前が5位、あらすじを知った後は6位と順位にあまり変化は見られない。ただし、名ゼリフだと思う割合は、あらすじを加える前に比べて増加している。
セリフ4 あの地球人のように?…クリリンのことか…クリリンのことか―――!!!!!
あらすじを知る前、あらすじを知った後、共に8位となっており、順位に変化は見られない。ただし、名ゼリフだと思う割合は、あらすじを加える前に比べて増加している。
セリフ5 あきらめる?あきらめたらそこで試合終了ですよ…?
あらすじを知る前、あらすじを知った後、共に1位となっており、順位に変化は見られないが、名ゼリフだと思う割合は、あらすじを加える前に比べて増加している。
セリフ6 てめーにとっちゃ400人の生徒のたかが一匹だったかもしんねーけど…生徒にとっちゃ担任教師は一人しかいねーんだよ!!
あらすじを知る前が3位なのに対してあらすじを知った後は2位になっており、名ゼリフだと思う割合も、あらすじを加える前に比べて急激に増加している。
セリフ7 上杉達也は浅倉南を愛しています。世界中の誰よりも。
あらすじを知る前が2位なのに対してあらすじを知った後は3位になっているが、名ゼリフだと思う割合は、あらすじを加える前に比べて増加している。
セリフ8 たった一人じゃ野球はできねぇんだ…名門と呼ばれるこの高校じゃあそんな大切なことも忘れてんのかよ!
あらすじを知る前が7位なのに対してあらすじを知った後は5位になっており、名ゼリフだと思う割合も、あらすじを加える前に比べて急激に増加している。
セリフ9 わざとだよ?
あらすじを知る前が9位なのに対してあらすじを知った後は7位になっており、名ゼリフだと思う割合も、あらすじを加える前に比べて急激に増加している。
セリフ10 愛はパワーだよ  
あらすじを知る前、あらすじを知った後、共に10位になっているが、名ゼリフだと思う割合は、あらすじを加える前に比べて増加している。

 全体的に、あらすじを加える前に比べ、あらすじを加えた後のほうが「名ゼリフだと思う」を選択した人の割合が多くなっている。しかし、セリフ2「これでいいのだ」に関しては、あらすじを加えた後の方が、「名ゼリフだと思う」を選択した人の割合が減少している。

(3) 16個の要素についての結果とアンケート回答者が名ゼリフだと思うセリフに対する要素の結果

 私たちが分析していく中で名ゼリフとして必要だとした要素について「必要だと思う」「思わない」で考察してもらった。その結果が以下のグラフの上である。
 また、アンケート回答者に上げてもらった、名ゼリフだと思うセリフを分析してもらった結果から得られたグラフが、グラフの下である。

図3 16要素が必要か(上)、アンケート回答者が挙げた名ゼリフに16要素が当てはまるか(下)

(参照)
要素1 共感できるから
要素2 うまい発言だから
要素3 言われたい言ってみたいという言葉だから
要素4 ポジティブな発言だから
要素5 普段言わないようなことで、ギャップ・意外性があるから
要素6 寂しいとき・侮辱・絶望の状況で、思いやりが感じられるから
要素7 励ましの言葉だから
要素8 近い(親しい)関係の人の言葉だから
要素9 現実に応用できる人生の格言だから
要素10 夢を語るせりふや決意を表す言葉だから
要素11 裏がある(含みがある)発言だから
要素12 ストレートな発言で、その人の想いが素直に出る、飾らない発言だから
要素13 前振りがあるから
要素14 話の終盤に出てくるから
要素15 恋愛感情に関係する言葉だから
要素16 キャラクターの性格がよくあらわれているから

 提示した16個の要素の中で、一番「必要である」という結果になったのが、要素1であり、次いで要素2が挙がった。要素10、要素12、要素9、要素6は同程度である。一番要素として支持されていないのは、要素15であった。また、要素14、8、15はほかの要素に比べて、極端に支持が少ない。
 それに対して、アンケート回答者によって任意に挙げてもらったセリフ136個について、要素を分析してもらった結果、一番要素としてあてはまったものは、要素12であった。
 次いで、要素16と続き、表3の結果で、一番支持されていた要素1は、3位となっている。
 一方、要素14、8、15は、セリフ自体の分析結果を見ても、下位に属していることが分かる。
 さらに、要素の予測と、挙げてもらったセリフに当てはまる要素の結果を比べてみる。
 全体的に、予測よりも、分析結果の方が、「当てはまる」を選択した人の数が少なくなっている。
その中で、要素12「ストレートな発言で、その人の想いが素直に出る、飾らない発言だから」は、予想の段階の割合と、挙げてもらったセリフにおいて「当てはまる」を選択している割合が、ほぼ変わらず高い割合を示している。同様に、要素4「ポジティブな発言だから」や要素8「前振りがあるから」、要素16「キャラクターの性格がよくあらわれているから」も、予測の結果と、挙げられたセリフにおける「当てはまる」数が類似している。
 それに対して、要素1「共感できるから」、要素2「うまい発言だから」は、予測の段階で、圧倒的な割合で支持されており、順位も上であったが、挙げられたセリフに占める割合は、要素12「ストレートな発言で、その人の想いが素直に出る、飾らない発言だから」よりも下になっており、減少の幅も大きい。

6.アンケート結果からの考察

(1)セリフとあらすじとの関係性について

 私たちは、あるセリフが「名ゼリフ」となるときの要素に「あらすじ」、つまりそのセリフが発せられるにいたる経緯が大きく関わっていると考えた。そこで、セリフとあらすじとの関係性を見出すためにアンケートを利用して考えていきたい。
 まず私たちは、アンケートを作成するにあたって、そのセリフが発せられるまでのあらすじがそのセリフに関わっているのかどうかを見るために、アンケート設問の2(10個のセリフを知っているかどうか)・3(10個のセリフに対して名ゼリフだと思うかどうか)・4(10個のセリフに対して名ゼリフだと思うかどうか)を設定していた。そして得られたアンケート結果が以下のとおりである。

(a) アンケート結果

図4 10個のセリフを知っているか

図5 10個のセリフに対する認知度2

図6 10個のセリフに対して名ゼリフだと思うかどうか 図7 10個のセリフ+あらすじで名ゼリフだと思うかどうか

セリフ1 大人はすぐに"また"とか"いつか"とか言っちまうんだよ
セリフ2 これでいいのだ
セリフ3 お前はもう死んでいる
セリフ4 あの地球人のように?…クリリンのことか…クリリンのことか―――!!!!!
セリフ5 あきらめる?あきらめたらそこで試合終了ですよ…?
セリフ6 てめーにとっちゃ400人の生徒のたかが一匹だったかもしんねーけど…生徒にとっちゃ担任教師は一人しかいねーんだよ!!
セリフ7 上杉達也は浅倉南を愛しています。世界中の誰よりも。
セリフ8 たった一人じゃ野球はできねぇんだ…名門と呼ばれるこの高校じゃあそんな大切なことも忘れてんのかよ!
セリフ9 わざとだよ?
セリフ10 愛はパワーだよ

(b)アンケート2・3の関係

 この結果をもとに、アンケート3で10個の各セリフについて名ゼリフだと思う人・思わない人のそれぞれがアンケート2でどのように答えたのか、つまり、どの程度のセリフに関する知識のもとに名ゼリフかどうかを判断しているのかを見ることにした。

cf.

※ここではあらすじの関わりに注目したかったので、アンケート2の項目を3つから2つにし、あらすじのみの関わりがみえるようにした。
 この関係から、名ゼリフだと思った人、思っていない人をそれぞれ2パターンずつ、計4パターンに分類することができた。次に、この4パターンの人たちがあらすじを知った後であらためてセリフに対してどう思ったかをアンケート4を合わせて見ていく。
図8 アンケート2・3・4の関係

(c)アンケート2・3・4の関係

 ここまでで、あらすじを知る前と知った後でのセリフに対する評価を比べる準備ができた。上記の表をもとにして、あらすじが関わっているのかどうかを考えていく。

(d) 各パターンから見えること

図9 アンケート2・3・4の関係の分類パターン1

 まず、(c)アンケート2・3・4の関係で分類した各パターンがどういうものかを考えていく。それぞれの分類パターンは以下に示す。

@
あらすじを知る前後でセリフに対する評価が変わっていない。そのセリフを名ゼリフだと感じているが、そうなる要素に「あらすじ」が絡んでいるかどうかはわからない。
A
あらすじを知る前後でセリフに対する評価が変わっている。名ゼリフだと思っていたものが、あらすじによって名ゼリフだと思わなくなったということは、こちらが提示したあらすじと、思っていたあらすじが違っていたと考えられる。結果的にあらすじによってマイナス方向に揺さぶられているといえる。
B
あらすじを知る前後でセリフに対する評価が変わっている。名ゼリフではないと思っていたものが、あらすじによって名ゼリフだと思うようになったということは、こちらが提示したあらすじと、思っていたあらすじが違っていたと考えられる。結果的にあらすじによってプラス方向に揺さぶられているといえる。
C
あらすじを知る前後でセリフに対する評価が変わっていない。そのセリフを名ゼリフでないと感じているが、そうなる要素に「あらすじ」が絡んでいるかどうかはわからない。
D
あらすじを知る前後でセリフに対する評価が変わっていない。あらすじを知らずにそのセリフを名ゼリフとしているということは、あらすじは関係なく、その他に名ゼリフとなる要素があると考えられる。あるいはそのセリフの言葉自体に力があり名ゼリフと感じさせていると考えられる。あらすじには揺さぶられていない。
E
あらすじを知る前後でセリフに対する評価が変わっている。あらすじを知らずにそのセリフを名ゼリフとしているということは、あらすじは関係なく、その他に名ゼリフとなる要素があると考えられる。あるいはそのセリフの言葉自体に力があり名ゼリフと感じさせていると考えられる。あらすじによって名ゼリフだと思わなくなっているということは、あらすじにマイナス方向に揺さぶられているといえる。
⇒各セリフの中で、セリフ3『お前はもう死んでいる』にあらわれている。以下にそのグラフを示す。
F
あらすじを知る前後でセリフに対する評価が変わっている。あらすじを知らない時点では名ゼリフだとは感じていないが、あらすじを知ることによってそのセリフを名ゼリフだと感じるようになっている。これはあらすじによってプラスの方向に揺さぶられているといえる。Eと揺さぶられる方向は違うが、どちらも影響を受けているといえる。
⇒各セリフの中で、セリフ1『大人はすぐにまたとかいつかとか言っちまうんだよ』、セリフ6『てめーにとっちゃ400人の生徒のたかが一匹だったかもしんねーけど‥‥生徒にとっちゃ担任教師(センコー)は一人しかいねーんだよ!!』、セリフ8『たった一人じゃ野球はできねぇんだ‥‥名門と呼ばれるこの高校じゃあそんな大切なことも忘れてんのかよ!』、セリフ9 『わざとだよ?』に顕著にあらわれている。セリフ1のグラフを以下に示す。
G
あらすじを知る前後でセリフに対する評価が変わっていない。あらすじを知らない状態でそのセリフを名ゼリフと感じていないということは、そのセリフの言葉自体に反応しているということである。その状態であらすじを知ってもセリフに対する評価(名ゼリフだと思わない)が変わらないということは、あらすじは関係ないということがわかる。つまり、あらすじには揺さぶられていない。

以上のことからアンケート2・3・4の関係の表は以下のように置き換えることができる。

(e) アンケート2・3・4の関係の意味づけ

図12 アンケート2・3・4の関係の分類パターン2

これをもとに@〜Gを以下の3つのグループに分ける。
A・B・E・F→『あらすじに影響されている』 @・C→『あらすじ関係?』 D・G→『あらすじは関係ない』

(f) 各セリフについて

 上記の3つのグループを10個のセリフにそれぞれあてはめて考えていく。それぞれ関係させた表と、それをもとに『あらすじに影響されている』項目の割合が多い順に並べ替えたグラフを以下に示す。

図13 アンケート2・3・4の分類パターンと10個のセリフとの関係

図14 あらすじの影響度合い

10個のセリフの認知度3

 ここからセリフ1・4・6・8・9・10については、20%から35%の人たちがあらすじの影響を受けていることがわかる。残りのセリフ2・3・5・7は、影響を受けている人が2割以下だが、その理由としてセリフの認知度があると考えられる。セリフの認知度についての表を以下に示す。
この表から、セリフ2・3・5・7の認知度はすべて65%以上80%近くと、ほかのセリフと比べて非常に高いことがわかる。 セリフの認知度が高いということは、そのセリフについて持っている知識が多いといえる。その知識にはあらすじも含まれるとすると、高い割合でもともと知っているので影響を受けにくいと考えられる。

(g)相関係数

 ここで、「(f)各セリフについて」で明らかになった「20%から35%の人があらすじの影響を受けている」という事実が、「あらすじは影響を与えている」と断言するには不十分な数値だと感じたため、「(d)各パターンから見えること」、「(e)アンケート2・3・4の意味づけ」をもう一度振り返ることにした。ここで、あらすじが影響しているグループ以外のグループ(「あらすじ関係?」と「あらすじ×」)、特に「あらすじ?」のグループも、もしかしたら少なからず影響を受けているのではないかという考えのもとにして、別の角度から検証をしていくことにした。そのための方法として相関係数を用いて考えた。相関係数とはある要素とある要素の関係性が強いのか弱いのかを見ることができる方法である。たとえば、「AとBの相関」において、Aの値が上がればBの値が上がるというときはプラスに相関の数値が出る。このとき最大値は1である。逆に、Aの値が上がればBの値が下がるというのはマイナスに相関の数値が出る。このときの最大値は−1である。そしてその両極から中間地点に位置する、値0というのは、AとBに関係性が見られないということである。つまり、両極よりも0に近い値だと関係性が低いということである。
 これをもとにして、あらすじを知っている度合いと名ゼリフだと思う(あらすじ前後2パターン)という二つの要素、そして、あらすじの前と後という二つの要素を関連させて見たのが以下の表である。

図16 相関係数

 まず表の最下段の「あらすじを読む前に名ゼリフだと思う傾向と読んだ後に名ゼリフだと思う傾向の相関について見ていく。ここからは、あらすじを読む前と読んだ後に「そのセリフが名ゼリフかどうか」という評価が大きく変化しないことがわかる。なぜなら平均0.54というのはかなり強い相関を示す係数だからである。セリフの中でも0.68の『お前はもう死んでいる』や0.67の『上杉達也は浅倉南を』は飛びぬけた数値である。ここから見えるのは、これらが有名なセリフであることから、あらすじがあろうがなかろうが評価が変化しないのだろうということである。つまり、もともと名ゼリフだと思っている人は、あらすじに関係なくそのセリフを名ゼリフだと思っているのである。
 次に表の2段目の「知っている度合いとあらすじを読んだあとに名ゼリフだと思う傾向の相関」を見る。ここでは平均0.16という弱い相関を示す数値が出ている。これは「セリフを知っていること」と「あらすじを読んだあとに名ゼリフだと思う傾向」に「揺れ」があることを示している。つまり、あらすじを読むとセリフに対する評価がやや変わるのである。ここで、特徴的な値を示すセリフについて見ていく。『てめーにとっちゃ』は-0.16という唯一のマイナスの値を示す。これは無相関ないし弱い逆相関であることを示している。あらすじを知っている度合いが高いと名ゼリフだと思わない。言い換えると、あらすじを知らないであらすじを読むと、名ゼリフだと思う傾向が強いということである。あらすじを読むとセリフに対する評価が大きく変わるのである。
 最後に「知っている度合いとあらすじを読む前に名ゼリフだと思う傾向の相関」について見ていく。ここでは、平均0.35というやや弱い値が出ている。そこで、この項目の中でも特徴的な値を示すセリフについて見ていく。0.18の『お前はもう死んでいる』と、0.19の『てめーにとっちゃ』というセリフはこの中でも値が低い。値が低いということは、相関が弱いということである。つまり、知っている度合いが低くても名ゼリフだと思えるということである。『お前はもう死んでいる』や『てめーにとっちゃ』というセリフは有名であったり、言葉自体が格言じみていたりするので、知らなくても名ゼリフだと思えるということである。ここではあらすじの影響は見られない。次に、0.60の『わざとだよ』は値が高いといえる。値が高いということは知っている度合いが高いイコール名ゼリフだと思いやすいということ。つまりあらすじが大きく関わっていることがわかるのである。
このように違う観点から見てみるとあらすじはセリフの判断に影響しているということがわかった。

(h)まとめ

 これまで、アンケートの結果をもとにして二つの観点で考えてきた。そこから、あらすじが、名ゼリフと思うか思わないかの判断を揺さぶり、関わってくることがわかった。関わってくるということは、実際に名ゼリフとなるものにはあらすじが必要だということが言えるのではないだろうか。つまり、私たちがあるセリフを名ゼリフだと感じうるときに、そこには「あらすじ」という存在が必要で、それがあるからこそ「セリフ」が「名ゼリフ」になるといえるのだろう。

(2)男女差からの考察

 マンガには「少年マンガ」、「少女マンガ」などのジャンルがある。これらは、男性の読者層を狙ったもの、女性の読者層を狙ったものというように、対象とする読者が違っている。マンガを読んでいる読者の性別によって、そのセリフを名ゼリフだと感じるかどうかに違いが生まれてくるのではないかと考えた。
そこで、男女のセリフへの感じ方の違いを見るために、アンケート設問3の「セリフだけを見て名ゼリフだと思う」人数から、設問4「あらすじを知った後で名ゼリフだと思う」人数の増え方の男女の違いを見比べた。
しかし、10個のセリフの中で大きな差が見られるものはなかった。顕著な男女差が見られたものは、セリフ9「わざとだよ?」であった。これは、女性から男性へ発された恋愛感情に関するセリフである。同様のものとしてセリフ10「愛はパワーだよ」がある。ただ、セリフ10では男女に大きな違いはなかった。この違いを考察していくことで、男女の差が名ゼリフの発生にかかわっているかをみていく。
以下に示すグラフは、セリフ9とセリフ10のあらすじを提示する前と、あらすじを提示した後での、「名ゼリフと思うか、思わないか」の男女のグラフである。

図17 セリフ9「わざとだよ?」  図18 セリフ10「愛はパワーだよ」

 セリフ9「わざとだよ」は、女性のあらすじを示す前からあらすじを知った後の「名ゼリフだと思う」人の増加具合に比べ、男性のあらすじを示す前からあらすじを知った後の「名ゼリフだと思う」人の増加具合の方が大きい。セリフ10「愛はパワーだよ」では、あらすじを示す前からあらすじを知った後の「名ゼリフだと思う」人の増え方は男女で同程度である。
この2つのセリフの考察から、やはり、セリフやあらすじは男女の性別によって捉え方が違う場合があるのではないかと考えられる。
また、このふたつのセリフは恋愛に関してのセリフであったため、恋愛に対する男女の捉え方、つまり恋愛感情に関わる女性の言動、男性の言動などへの考え方の男女差が「名ゼリフ」かどうかの判断に表れているのではないかと考えた。
ただし、これらの結果だけからでは、名ゼリフが成り立つ要素として、男女の差が関わってくるということを言うことはできない。今回の結果では、恋愛感情に関するセリフに男女差が見られ、男女の考え方や感じ方が「名ゼリフだと思う」かどうかに関わっているということが示されている。

(3)クラスター分析

(a)要素間の関係における結果と考察

 私たちはアンケートで回答してもらったデータをもとに、クラスター分析を行った。クラスター分析とは、データが類似している単位をまとめて、少数の区分(クラスター)に集約するものである。クラスター(以下「グループ」という)はデータが近い、もしくは離れているということをもとに作られる。私たちはグループを考察し意味付けを行った。16個の要素をクラスター分析し、要素をグル―プ分けして、要素にどのような関係があるのかを明らかにした。
次に、クラスター分析を行った理由について述べていく。先程も説明した通り、クラスター分析で分けられたグループは、グループ内のデータ同士が近い、もしくは離れているということを元に作られている。
これを用いて、私たちの挙げた名ゼリフに必要だと考える要素をクラスター分析すると、アンケート回答者が名ゼリフに必要だと考える要素が、より分かりやすくなる。さらに、要素同士の関わり合いも、クラスター分析をすることで明らかになるのだ。また、今回はアンケート回答者もクラスター分析した。アンケート回答者をクラスター分析することで、私たちの設定した要素を選ぶ時の、アンケート回答者の傾向も見えてくる。
その傾向をもとに、どのようにして読者が名ゼリフだと感じているのか、ということを調べる手助けになると考え、クラスター分析を行った。


また、クラスター分析の考察を行うに当たり、16個の要素を下記の3つに分類した。
図19 要素の分類

この表の要素の下線は、要素ごとで感情型か理性型を表したものである。感情型と理性型は要素を読者が感情に捉えるか、理性で捉えるかの違いである。感情型とは、セリフの言葉の意味を読者が自分の感情のまま受け取る傾向のある要素である。理性型とは、表現技法までを加味して捉える傾向がある要素である。感情型を 赤 で表し、理性型を 青 で表した。
 まず、アンケートの設問5で集めた「要素が名ゼリフに必要かどうか」についての回答をクラスター分析した。
結果は以下に示す
図20 要素(アンケート5)のクラスター分析
第1グループ第2グループ第3グループ第4グループ第5グループ第6グループ
素直要素グループ現実的要素グループ応援要素グループ不人気要素グループ独立要素グループストーリー重視要素グループ
  • 共感できるから
  • うまい発言だから
  • 寂しいとき、侮辱、絶望の状況で、思いやりが感じられるから
  • 夢を語るセリフや決意を表す言葉だから
  • ストレートな発言で、その人の想いが素直に出る飾らない発言だから
  • 言われたい言ってみたいという言葉だから
  • 現実に応用できる人生の格言だから
  • ポジティブな発言だから
  • 普段言わないようなことでギャップ・意外性があるから
  • 励ましの言葉だから
  • 近い(親しい)関係の人の言葉だから
  • 話の終盤に出てくるから
  • 恋愛感情に関係する言葉だから
  • 裏がある(含みがある)言葉だから
  • 前振りがあるから
  • キャラクターの性格がよくあらわれているから
状況・言葉状況状況・言葉人物・状況言葉人物・人物関係・状況

上記の表のグループを左から順に、第1グループ〜第6グループとする。

第1グループ  素直要素グループ
第1グループはアンケート回答者によく選ばれている要素の集まりである。アンケート回答者が名ゼリフの要素として特に必要だと考えて選んでいると考えられる。これらの要素はセリフの発言者の想いが素直に表れている。アンケート回答者がセリフの発言者の想いが素直にあらわれていることに感動し、名ゼリフに必要な要素であると捉えていると考えられるので、第1グループを「素直要素グループ」と名づけた。また、第1グループの要素は感情型が多く、名ゼリフに必要な要素として感情的な要素が集まっている。
第2グループ  現実的要素グループ
第2グループは2つの要素が同時に選ばれている傾向があるので、2つの要素は関連性が高いと考えられる。これら2つの要素は現実を意識した要素であり、第2グループを「現実的要素グループ」と名づけた。
第3グループ  応援要素グループ
第3グループは3つの要素が同時に選ばれている傾向があるが、その中でも「ポジティブな発言だから」は共にセリフが前向きであるという共通性がある。したがって、アンケート回答者が前向きな発言に感動し、名ゼリフに必要な要素であると考えていると考えられる。これらの要素は応援に関連した要素であり、第3グループを「応援要素グループ」と名づけた。また、第3グループの要素は感情型が多く、名ゼリフに必要な要素として感情的な要素が集まっている。
第4グループ  不人気要素グループ
第4グループは選ばれることが少ない要素の集まりである。アンケート回答者が名ゼリフの要素として必要でないと考えていると考えられる。これらの要素はアンケート回答者に選ばれていなかったので、第4グループ「不人気要素グループ」と名づけた。
 第5グループ  独立要素グループ
第5グループはそれぞれの要素とかかわりのない独立した要素として、アンケート回答者が選んでいると考えられる。そこで、第5グループを「独立要素グループ」と名づけた。
第6グループ  ストーリー重視要素グループ 
第6グループは2つの要素が同時に選ばれている傾向があるので、2つの要素は関連性が高いと考えられる。これら2つの要素は作品のストーリーが関係しているという共通性がある。キャラクターの性格は作品が進むことで形成される。また前振りも作品が進むにつれて形成される。その点でこの2つの要素は共通性があり、第6グループを「ストーリー重視要素グループ」と名づけた。また、第6グループの要素は理性型が多く、名ゼリフに必要な要素として理性的な要素が集まっている。

次に、アンケート回答者自身に名ゼリフを挙げてもらい、それを要素に当てはめて分析するという設問6の結果についてもクラスター分析した。以下がその結果である。

図21 要素(アンケート6)のクラスター分析
第1グループ第2グループ第3グループ第4グループ
言葉重視要素グループ
  • 不人気要素グループ
  • キャラ重視要素グループ
  • 独立要素グループ
  • 共感できるから
  • うまい発言だから
  • 現実に応用できる人生の格言だから
  • 言われたい言ってみたいという言葉だから
  • ポジティブな発言だから
  • 普段言わないようなことでギャップ・意外性があるから
  • 寂しいとき、侮辱、絶望の状況で、思いやりが感じられるから
  • 励ましの言葉だから
  • 近い(親しい)関係の人の言葉だから
  • 夢を語るセリフや決意を表す言葉だから
  • 裏がある(含みがある)言葉だから
  • 話の終盤に出てくるから
  • 恋愛感情に関係する言葉だから
  • ストレートな発言で、その人の想いが素直に出る飾らない発言だから
  • キャラクターの性格がよくあらわれているから
  • 前振りがあるから
状況・言葉
  • 言葉・状況・人物・人物関係
言葉・人物・人物関係状況

上記の表のグループを左から順に、第1グループ〜第4グループとする。

第1グループ  言葉重視要素グループ
第1グループは3つの要素が同時に選ばれている傾向があるので、関連性が高いと考えられる。これらの要素は言葉を重視するものなので、第1グループは「言葉重視要素グループ」と名づけた。また、第1グループは、理性型の要素が多く、第1グループは名ゼリフに必要な要素として理性的な要素が集まっている。
第2グループ  不人気要素グループ
第2グループはアンケート回答者が名ゼリフの要素として必要でないと考えていると考えられる。したがって、第2グループを「不人気要素グループ」と名づけた。第2グループはアンケート回答者が名ゼリフの要素として必要でないと考えていると考えられる。したがって、第2グループを「不人気要素グループ」と名づけた。また、第2グループは、感情型の要素が多く、第2グループは名ゼリフに必要な要素として感情的な要素が集まっている。
第3グループ  キャラ重視要素グループ
第3グループは2つの要素が同時に選ばれている傾向があるので、関連性が高いと考えられる。また、この2つの要素は作品のキャラクターに関係しているので、第3グループを「キャラ重視要素グループ」と名づけた。
第4グループ  独立要素グループ
第4グループはそれぞれの要素とかかわりのない独立した要素として、アンケート回答者が選んでいると考えられる。したがって、第4グループを「独立要素グループ」と名づけた。

(b)まとめ

 要素だけを用いて、その必要性を問う設問5と、実際に名ゼリフを要素で分類する設問6では、上記のように結果に差が見られた。これらの差は、一般的に私たちが名ゼリフの要素として考えているものと、実際名ゼリフを要素で説明したときでは違いがあるということを示している。
 この考察を行っていく中で、さらに気づいたことは、それぞれのグループには、さまざまな種類の要素が交じり合って存在しているということである。このことは、単純に「言葉」だけ、「状況」だけで名ゼリフが成立するのではなく、「言葉」や「状況」、さらには「人物・人物関係」などさまざまな要素が同時に存在することで、名ゼリフが生まれるということを示しているのではないだろうか。また、要素を感情型と理性型とに分けて見てみると、私たちが感情型として分類していたものは、グループ分けしたときも感情型で集まり、理性型として分類していたものは理性型で集まるという傾向が見られた。
ところで、私たちは最初A「うまい発言だから」を状況に合わせた発言をしているとアンケート回答者がそのセリフから読み取り、セリフの技巧的な部分を読み取っているという点で、理性型の要素だと考えていた。しかし、アンケートの傾向からA「うまい発言だから」は、感情型であると考えられる。これは、アンケート回答者がセリフを自分の求めていたセリフとぴったりであり、登場人物に感情移入していてまるで自分が言われたり言ったりしていると感じていると考えられる。

(c)アンケート回答者の傾向と考察

図20 人分布樹形図

図21 クラスター平均

(各グループの人数)  9人      38人      32人       2人      1人   

 さて次に、アンケートの設問5で集めた「要素が名ゼリフに必要かどうか」についての回答を、今度は回答者のグループ分けをするようにクラスター分析した。
クラスター分析の結果、回答者は5つのグループに分けられた。
アンケート回答者群をクラスター分析することで、分類された人々がどのような要素を持つセリフを名ゼリフだと思うのかが示される。私たちはこのグループに対して考察を通して名前付けをすることで、アンケート回答者がどのように私たちの設定した要素を選んでいるのかという傾向が分かる。

第1グループ  要素否定グループ
第1グループは私たちが設定した要素をあまり選んでいない傾向にあるという結果になった。したがって、第1グループを「要素否定グループ」と名づけた。
第2グループ  要素肯定グループ
第2グループは私たちが設定した要素を多く選んでいる傾向にあるという結果になった。したがって、第2グループを「要素肯定グループ」と名づけた。また、第2グループのアンケート回答者は感情型の要素を多く選んでいる傾向にあるという結果になった。よって、第2グループのアンケート回答者は、感情型の要素を重視して名ゼリフだと考えているグループだと考えられる。
 第2グループは、グループの人数が一番多いので、今回のアンケート回答者はあるセリフを名ゼリフと感じる基準に、感情を重視していると考えられる。したがって、今回のアンケート回答者は、あるセリフの発言者の言葉や心理に素直に感動することで、名ゼリフだと感じるのではないかと考えた。
第3グループ  一般的グループ
全体のグループを通しても多くが名ゼリフに必要な要素として選んでいる@「共感できるから」を、第3グループは全員が名ゼリフに「必要である」と回答している。さらに、比較的名ゼリフに必要な要素として選ばれる傾向のあるA「うまい発言だから」、B「言われたい言ってみたいという言葉だから」、I「夢を語るセリフや決意を表す言葉だから」、K「ストレートな発言で、その人の想いが素直に出る飾らない発言だから」、も過半数以上が名ゼリフに「必要である」と回答している。よって、多くのアンケート回答者が名ゼリフとして「必要である」と選んだ要素を、第3グループでは他のグループと比べて、特によく選んでいるグループである。したがって、第3グループを「一般的グループ」と名づけた。
第4グループ  特殊グループ
これらのアンケート回答者は他のアンケート回答者と比べて、特殊な回答がとても多いという結果になった。したがって、これらのアンケート回答者を「特殊グループ」と名づけた。
第5グループ  ストーリー重視グループ
 第5グループは、A「うまい発言だから」、B「言われたい言ってみたいという言葉だから」という要素を選ばずに、L「前振りがあるから」M「話の終盤に出てくるから」という要素を選んでいるという結果になった。これらの回答者は言葉に注目しているのではなく、作品のストーリーを重視していると考えられる。したがって、第5グループを「ストーリー重視グループ」と名づけた。また、第5グループのアンケート回答者は理性型の要素を多く選んでいる傾向にあるという結果になった。よって、第5グループのアンケート回答者は、理性型の要素を重視して名ゼリフだと考えているグループだと考えられる。

(d)まとめ

 第2グループは、グループの人数が一番多いので、今回のアンケート回答者はあるセリフを名ゼリフと感じる基準に、感情を重視していると考えられる。したがって、今回のアンケート回答者は、あるセリフの発言者の言葉や心理に素直に感動することで、名ゼリフだと感じるのではないかと考えた。
 第5グループは、グループの人数が一番少ないので、今回のアンケート回答者はあるセリフを名ゼリフと感じる際に、理性を通して名ゼリフだと感じている人は少ない。したがって、言葉による技巧などの表現効果を意識したセリフは、今回のアンケート回答者にとっては名ゼリフになりにくいのではないかと考えた

7.まとめと今後の課題 

 以上のように、今回の研究においては、「なぜ名ゼリフとなるのか」という理由のうち、「名ゼリフに必要な要素」という側面に注目して研究を行っていった。また、多くの人が名ゼリフだと思うのに必要な要素のデータを集めるためアンケートを行った。アンケート結果は、私たちが名ゼリフとなる要素を考察する材料とした。考察に当たっては、データの比較、クラスター分析、相関を見るといった手法を用いた。 これらの考察を通して、「要素」という側面だけに注目してみても、以下のようなまとめと、さらなる課題が考えられる。

  1. 「あらすじ」や「セリフ」など作者によって意図的につくられる要素に読者が反応して名ゼリフが生まれる。
     「あらすじ」が名ゼリフの生まれる要素に関わってくるということはすでに6.考察の(1)で述べたとおりであるが、これは、マンガの登場人物のキャラクター性という要素にも当てはめることができる。5.アンケート結果(3)「16個の要素についての結果とアンケート回答者が名ゼリフだと思うセリフに対する要素の結果」でも示されたが、名ゼリフの要素による分析で、もっとも当てはまるとされたのは「ストレートな発言」であり、次に「キャラクター性があらわれている」がくる。これはマンガが、読者の登場人物への期待を裏切らないことで、名ゼリフだと感じるセリフが生まれているのだと考えられる。
  2. 作者によって意図的に作られる要素に読者が反応して名ゼリフが生まれるが、読者によって好みの要素があり、それを選択することで名ゼリフが生まれる。
     これは、6.考察の「(2)男女差からの考察」や「(3)クラスター分析(b)アンケート回答者の傾向と考察」から考えることができる。どれだけあらすじを示しても、万人が名ゼリフだと感じるセリフは存在しないだろう。それは、名ゼリフだと思うときに「読み手の意識」が働いているからだと考えられる。「読み手の意識」は当然その読者の期待する言葉や状況の好み、性差、文化的な違い、またそれまでの生きてきた経験が関わってくる。そのため「なぜ名ゼリフなのか」を説明しきるためには読み手である読者の観点からも分析していかなければならないだろう。

 最後に、今回はマンガというこれまであまり研究対象となっていないものを研究対象としたが、文学作品と比べたときのマンガの特徴を述べておく。
 まず、同じだと思われる点は、@の読者主体の読みが行われているということである。文学作品においてもマンガにおいても、読者は必要不可欠な存在であるといえる。
 異なる点は、Aで述べていった読者の期待ということが関わってくる。読者の、ストーリーや登場人物への期待をときに裏切ること、そこから価値が高まるということがマンガで全くないわけではないが、文学作品のほうがより優れていると思う。期待を裏切る度合いの小ささが、マンガがいまだに娯楽として定着している理由ではないだろうか。

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