目次

第一章　はじめに
　第一節　研究動機
　第二節　研究目的

第二章　研究に当たって
　第一節　研究対象
　第二節　研究方法

第三章　研究結果
　第一節　ランキングから見る読者傾向
　第二節　作品分析

第四章　まとめと今後の課題
　第一節　分析を終えて
　第二節　今後の課題

第五章　おわりに
　第一節　おわりに
　第二節　研究資料

第一章　はじめに

第一節　研究動機

　私は、卒業論文でどのような題材を扱うかと考えた時、ただ漠然と小説を扱いたいという思いしか浮かんでこなかった。日頃、小説を読むことに慣れ親しんでいるとはいえ、私が読んできた物はその多くが書籍ではなく、ネットワーク上に存在する投稿小説だったからだ。その為、強く研究に取り組みたいと思える一作家をあげることもできず、だからといってネット小説という括りの広すぎる媒体では題材として不適格だった。そこで、まず始めに取り上げてみたのが、携帯電話を媒体とした独自のネットワークからなるケータイ小説だ。しかし、私自身一度もケータイ小説というものに触れたことのなかったせいか、ケータイ小説特有の年齢層や恋愛作品の偏った性質を知るにつれて、研究への価値が見出せなくなっていた。その時に新たに出会ったのがスマホ小説である。
　これは携帯端末がスマートフォンへ移行するにつれて近年新しく生まれた小説の形態ではあるが、先の携帯小説とは違って幅広い年代でのやり取りが行われており、投稿されている作品も一辺倒に帰結するものではなかった。それに加えて、スマホ小説はタブレット端末であることを活用し、電子書籍にも近い形態の表示形式を取ることが可能である。以上のことから、移り変わる読書形態の一モデルとして、今回研究を進めることとした。

第二節　研究目的

　携帯端末という性質上空き時間を有効活用するという使用目的と、気軽に楽しめる娯楽としての読書が、スマホ小説のどのような作品傾向から結びついているのかを明らかにする。また、それらに読者層によっての違いがあるのかについても見ていく。

第二章　研究に当たって

第一節　研究対象

　今回は、スマホ小説の中でも小説投稿サイトE★エブリスタに投稿されている作品より、男女各年齢別でランキングの上位10作品、一部同作品のランクインにつき計47作品を研究の対象とした。また、このランキングの集計は月間によるものであり、状況の変化によって若干の推移を見せるという前提の下に成り立っている。

　男女共に年齢の区分けは13歳から15歳、16歳から18歳、19歳から22歳、23歳から29歳、30から39歳、40歳から49歳、50歳から99歳の7区分となっている。従って、これ以後の区分表記は13歳から15歳の範囲を中学生、16歳から18歳の範囲を高校生、19歳から22歳の範囲を大学生、23歳から29歳の範囲を20代、30から39歳の範囲を30代、40歳から49歳の範囲を40代、50歳から99歳の範囲を50代以降として扱う。 　この区分けは利用者の割合に従ってなされたものと考えられるが、若年層の括りを10代20代ではなく学生の成長過程別に割振っていることから鑑みるに、利用者層は空き時間の多く持てる学生の比重が高く、媒体がスマートフォンという先端機器であることも含めて、年齢が高くなるにつれて利用者は減少傾向にあるものと思われる。

　対象の47作品は次の通りである。
『 【Kill Time】 』 『 How to make the master 』 『 Ｒ.Ｂ〜Red Butterfly〜�U 』 『 蒼き蝶に赤き花 』 『 ア･ナルニア王国の王子様 』 『 有明先生と瑞穂さんの非日常 』 『 アンチヒーローズ 正義抹殺者 』 『 異世界始めました。 』 『 異世界迷走紀行 』 『 ウ、ソ、ツ、キ 』 『 王様ゲーム 』 『 王様ゲーム−臨場− 』 『 落ちこぼれの操炎者�U 』 『 王道の天敵 』 『 俺　様　店　員 』 『 俺の異世界日記 』 『 俺は使い魔チート野郎！？ 』 『 オンライン４ 』 『 カモフラージュ 』 『 彼氏に腋臭を指摘されました。 』 『 完全犯罪のすすめ�U 』 『 北嶋勇の心霊事件簿〜第三巻〜 』 『 高校生日記!! 』 『 さぁ、始めようか　つー 』 『 最強人種３ 』 『 「姉弟ほど近く遠いものはない。二度目」 』 『 シミ。 』 『 新選組一番隊やんちゃ班 』 『 世界最強はやる気なし 』 『 世界の守護者はお兄様っ！ 』 『 戦国人生 下巻 』 『 ソロモンの詩篇 』 『 第二の人生 』 『 地獄から天国。そしてまた地獄 』 『 父　光雄 』 『 できそこないの救世主 〜Messiah〜 �X 』 『 でき【未】婚。 』 『 デッドランキング 第二章 』 『 パチスロで壱千萬円負けた男(中巻) 』 『 ふたりごと。 』 『 不動産屋の秘密 お裾分け 』 『 ブラックアウト 』 『 ブラックアウト２ 』 『 魔天の煌帝 』 『 由美の天下取り 』 『 脇役すらをも憎む奴 』 『 私の整形がバレたとき 〜ラグジュアリー〜 』

第二節　研究方法

　研究は対象作品のランキング順位に基づいた分析、及び対象作品の各種項目に基づいた分析の2通りで行う。

　作品分析の項目は次に述べる観点の通りである。

・視点
　物語の視点が一人称か三人称か、また、焦点が登場人物1人か複数かの4区分に分類する。
　スマホ小説は目次やページ構成によって物語の視点や焦点を一時的に変更しやすいことから、今回は物語を進めている主な進行役が登場人物の場合に視点を一人称、物語に大きくかかわる登場人物が平行して中心人物に取り上げられる場合に焦点を複数とした。

「一人称単数」

1人の人物が一人称で物語を語っている。

「一人称複数」

複数の人物が一人称で物語を語っている。

「三人称単数」

三人称で物語が描かれている。心理描写は1人。

「三人称複数」

三人称で物語が描かれている。心理描写が複数。

・登場人物
　物語の中心となる登場人物1名の名前・性別・年齢・職業を明らかにする。

「名前」

本文中に登場した表記からそのまま抜粋した。本文中に明記がされていない場合において、登場人物の設定や紹介がある場合にはこれを用い、全く名前が登場しない場合は登場人物の一人称を用いた。

「性別」

本文中に男女が明記されていなかった場合、一人称が「俺」や「僕」では男、「私」では女という割り振りを行った。

「年齢」

本文中に実際に記載されている形の体裁を取り、明記が避けられている場合は本文中から推測される程度の表記に留めた。また、年齢に変化が見られる場合、物語の中心となっている出来事が始まる時点の年齢とした。その為、今回は物語全体が登場人物の振り返りである場合を除き、一時的な過去や回想の場面での表記はこれを年齢としない。

「職業」

本文中の記載をもとに、登場人物が登場当初に持っている身分を抜き出した。該当数の多いものは大きく「学生」「会社員」「店員」「アルバイト」の4つに分類した。その他特殊な職業に関しても設定の項目で舞台設定と関係性を見る為、「神様」「探偵」「主婦」「女中」「無職」と各種分類を行っている。

・設定
　物語の展開する世界がどこを舞台に設定されているか、またその舞台と登場人物の職業との関連を分析する。

「職業との関連」

登場人物の職業が舞台設定の社会性に適しているかどうかの分類を行った。
分類は最も適した職業である、舞台設定上に存在する職業ではあるが一般的とはいえない、舞台設定上に存在しない職業である、以上の3基準とした。
最も該当数の多かった「学生」に関しては舞台設定が登場当初の学校である場合のみを適した職業とし、更に舞台設定が現代社会である場合と非現実である場合とに基準を設けた。

　上記の他、物語中に盛り込まれている要素も分析する。要素として取り上げるものは「恋愛」「魔法」「死」「体験」「史実」とし、要素の有無は以下の基準通りとする。

「恋愛」

物語の中心となる登場人物が恋愛感情を持っている、もしくは、他の登場人物から恋愛感情を持たれている様子が記述がされている。
この他、物語に大きくかかわる登場人物同士が恋愛感情を持っている場合もこの要素を含むものとする。

「魔法」

物語の中で登場人物が現実では起こりえない事象を引き起こす様子が記述されている。
この他、物語の中に現実には存在しない職業や特徴を持った登場人物がいる場合もこの要素を含むものとする。

「死」

物語の中心となる登場人物が死に至る、もしくは、物語に大きくかかわる登場人物が死に至る様子が記述されている。
この他、物語の中心となる登場人物が死を引き起こす、死に大きくかかわる場合もこの要素を含むものとする。

「体験」

作品内部に実際の体験と記されている、もしくは、あらすじなどの作品外部において著者が自身の体験をもとに作品を書いているという記述がされている。

「史実」

歴史上で実際に存在したとされる人物や実際に起きたとされる出来事が物語の中に記述されている。

・目次
　作品における目次の設定数、目次1つにおけるページ数の割合から、物語の展開を見る。
　また、目次の書き方から本文との関連性が生じているかも見ていく。

・作品情報
　関連するシリーズの有無と作品の位置関係、またその作品の更新状況から、読者層の動きを分析する。

第三章　研究結果

第一節　ランキングから見る読者傾向

　47作品を実際のランキングに基づいて男女別で再現したものが次の表である。

　男性年齢別ランキング上位10作品

　男性のランキング表から読み取れる内、最も特徴的なのは中学生で、他の世代にランクインしている作品が一切ランクインしていないということである。『 ブラックアウト２ 』は『 ブラックアウト 』の続編である為、『 ブラックアウト２ 』を読んでいる時点で『 ブラックアウト 』も読んでいるという見方はできる。しかし、『 ブラックアウト 』は後に書籍化された作品であり、他の世代が書籍化を機に読み始めたものと考えれば、月間推移で『 ブラックアウト２ 』のみがランクインしている中学生はシリーズを継続的に読んでいるといえ、他の世代とは一線を画しているといえる。この他、他の世代のランクイン作品は8作品以上が重複しているのに対し、中学生のランクイン作品が一切重複をしていないことから、中学生は作品選択の幅が広いことに対してその幅を補うだけの一定の利用者がいると推測される。

　更に年齢別にも見ていくと、20代を境目に作品が大きく変化していることが分かる。これは後の作品ジャンルの分析で詳しく述べるが、20代までの作品ジャンルはほぼ1つの傾向にあるのに対して、30代以降はその傾向から大きく外れていく為である。
　ここで男性のランキング上位10位の内、複数の世代にランクインしている作品とランクインした回数を以下にまとめた。更に、ランキングの順位によって1位から10位までを順に10点から1点と点数付けにし、それらを加算した点数も算出した。

　この表を見れば、先に述べた作品の変化がより捉えやすくなったと思う。重複が3回以下の作品は『 俺　様　店　員 』を除いて全て20代と30代の間で分かれている。 　ランクインの回数で見ると、『 ブラックアウト 』が6回と一番多く、次いで『 落ちこぼれの操炎者�U 』と『 オンライン４ 』が5回、その他の作品は平均3回と比較的バランスよくランクインしている。 　一方で点数から見た場合、1位はランクイン回数も一番多い『 ブラックアウト 』の47点、2位はランクイン回数も次ぐ『 オンライン４ 』の35点だが、続く3位はランクイン回数3回になる『 完全犯罪のすすめ�U 』の25点である。ランクイン5回の『 落ちこぼれの操炎者�U 』は点数で見れば4位の22点で、5位『 シミ。 』の21点とも大差がない。

　ランクイン回数が3回の作品を20代以下と30代以上に分けると、20代以下は4作で点数合計が63点、30代以上は5作で点数合計が92点となる。これを計算すると、20代以下は平均15.75点、30代以上は平均18.4点となる。従って、30代以上の方が点数が高くなりやすいということが分かり、これは1つの作品に読者が集中する傾向にあるものといえる。より正確に、世代毎に計算したものが次の表に当たる。

　中学生のランキング傾向と同様に考えるならば、ランクインしている作品にばらつきがある方が読者層の幅が広く利用者も多いことに繋がる。つまり、獲得点数が少ないほど利用者が多いと考える場合にこれを表に当てはめてみると、やはり学生2世代の獲得点数が20代以降よりも少ない。従って、利用者層は学生に比重が高いということがいえる。

　同様に女性のランキングについても見ていきたい。

　女性年齢別ランキング上位10作品

　女性のランキング表から読み取れる内、最も特徴的なのは70のランクイン枠に対して66枠が世代を跨いで作品重複しているということである。重複していない作品は中学生にランクインしている『 新選組一番隊やんちゃ班 』と『 高校生日記!! 』、50代以降にランクインしている『 父　光雄 』と『 北嶋勇の心霊事件簿〜第三巻〜 』の4作品であるが、男性のランキングと合わせて見た場合には更に『 北嶋勇の心霊事件簿〜第三巻〜 』にも重複が見られる為、3作品のみが全く重複していないということになる。また、全ての世代にランクインしている作品が3作品あるという点も特徴として挙げられる。この一方で、重複の見られる作品数は男女とも同じ15作品となっている。

　ここで女性のランキング上位10位の内、複数の世代にランクインしている作品とランクインした回数を男性と同様に以下にまとめた。また、点数算出も男性同様に行った。

　この表を見る限り、ランクインの重複に大きな傾向は見受けられない。
　ランクイン回数を見ていくと、重複7回と2回が4作品ずつと最も多く、次いで重複6回と4回と3回が2作品、重複5回が1作品という結果になった。この為、男性のランキングでは比較的差のなかった点数に大きな差があることが分かる。次の表にランクイン回数順に点数をまとめてみた。

　この時点で顕著に差が現れているのは、ランクイン7回の40点差とランクイン6回の37点差である。 　では、これが男性と女性での読者層の差によるものなのかどうかを知る為、各性別毎にランクイン回数毎の平均点数を算出した。結果は以下の通りである。

　男性のランクイン6回に当たる作品は1作品の為、若干点数に差が見られるものの、概ね男女共に順当な数値であるといえるだろう。加えて、このランキングが月間推移であることを踏まえれば、先に述べた女性のランクイン回数で見られる1作品への集中は十分に起こりうる現象と考えられる。これにより、平均値に大差が見られないことから、男女でのランキング差は少なく、読者層に与える影響もないものといえる。
　以上のことから、女性のランキングは男性のランキングよりも多少多めに作品が重複する傾向にあると分かったが、性別によって作品のランクインの仕方に大きな差が見られることはないと判明した。

　ランキングを別の角度からも捉える為に、今度は作品ジャンルのランキングを見ていく。
　作品の投稿されたジャンルを先程のランキング形式と同様の表で次のページから再現した。この際、各作品のジャンルは該当するジャンルが複数の作品にわたっている場合のみ、それぞれ背景色によって色分けを施している。また、各表の下にそれぞれの表を更にグラフ化したものを添付した。

男性年齢別ランキング上位10作品

女性年齢別ランキング上位10作品

　年齢別に見ると、男性は20代以下において「ファンタジー」が常に半数以上を占めていたのに対し、30代以上では「ファンタジー」の割合が一気に減少している。一方で、女性の方も中学生でランキングの高い「ホラー・オカルト」が徐々に順位を落とす形となっている。男女共にそれらの空いた順位を埋める形で「ノンフィクション」が増加を見せる。
　ジャンルを中心に見ると、男性は「ファンタジー」の割合が半分を占めるのに対し、女性は「ノンフィクション」「ホラー・オカルト」「大人の恋」の3ジャンルで均等に割合を占めていることが分かる。この他、女性には「ファンタジー」が一切ランクインしていないことも特徴的である。
　作品のランクインの仕方については男女で差が見られなかったものの、分析がジャンルとなり作品内容に一歩近づいた分、やはり一定の読者層について片鱗が見えてきたといえるだろう。

　ここまでを見ると一見「ファンタジー」が優勢なようにも思えるが、男性における「ノンフィクション」と「ホラー・オカルト」の割合も決して少ないとは言えない。そこで、男女のジャンルを合わせて捉えたものが次のグラフである。

　このグラフを見ると「ファンタジー」と「ノンフィクション」がほぼ同じ割合であるのが見て取れる。「ファンタジー」と「ノンフィクション」は非現実と現実という対極に位置していることから、読者層もこれに従って大きく二分されていると考えられる。
　ここで、念の為作品の重複を除いた純粋な作品ジャンルのランクイン割合についてもグラフ化しておく。

　このグラフを見ると、改めて男性の中学生ランクイン部分が大きな影響力を持っていることが分かるが、その他にジャンルの順位などで大きな変動は見られない。

　以上、ランキングから分析を行った結果確認できた内容は以下の3点である。

　・利用者層は学生の比重が高い
　・作品のランクインに法則性は見られない
　・ランクインするジャンルには年齢性別共に一定の傾向が見られる

作品分析

　ここからは先に研究方法として述べた分析項目に従って、各種分析を行っていく。また、先の分析で得られた結果を用い、各項目で必要に応じて適宜作品ジャンルとの比較も行う。

・視点
　分析した結果は以下の通り。

「一人称単数」

『 【Kill Time】 』 『 Ｒ.Ｂ〜Red Butterfly〜�U 』 『 蒼き蝶に赤き花 』 『 ア･ナルニア王国の王子様 』 『 有明先生と瑞穂さんの非日常 』 『 アンチヒーローズ 正義抹殺者 』 『 異世界始めました。 』 『 異世界迷走紀行 』 『 王様ゲーム 』 『 王様ゲーム−臨場− 』 『 王道の天敵 』 『 俺　様　店　員 』 『 俺の異世界日記 』 『 オンライン４ 』 『 カモフラージュ 』 『 彼氏に腋臭を指摘されました。 』 『 高校生日記!! 』 『 最強人種３ 』 『 シミ。 』 『 新選組一番隊やんちゃ班 』 『 ソロモンの詩篇 』 『 地獄から天国。そしてまた地獄 』 『 父　光雄 』 『 できそこないの救世主 〜Messiah〜 �X 』 『 でき【未】婚。 』 『 デッドランキング 第二章 』 『 パチスロで壱千萬円負けた男(中巻) 』 『 ふたりごと。 』 『 不動産屋の秘密 お裾分け 』 『 ブラックアウト 』 『 ブラックアウト２ 』 『 由美の天下取り 』 『 脇役すらをも憎む奴 』 『 私の整形がバレたとき 〜ラグジュアリー〜 』

（34作品）

「一人称複数」

『 How to make the master 』 『 俺は使い魔チート野郎！？ 』 『 完全犯罪のすすめ�U 』 『 北嶋勇の心霊事件簿〜第三巻〜 』 『 さぁ、始めようか　つー 』 『 「姉弟ほど近く遠いものはない。二度目」 』 『 世界最強はやる気なし 』 『 第二の人生 』 『 魔天の煌帝 』

（9作品）

「三人称単数」

該当作品なし

「三人称複数」

『 ウ、ソ、ツ、キ 』 『 落ちこぼれの操炎者�U 』 『 世界の守護者はお兄様っ！ 』 『 戦国人生 下巻 』

（4作品）

　一番多い作品は「一人称単数」となった。割合で示すと「一人称単数」が72.3%、「一人称複数」が19.2%、「三人称複数」が8.5%となる。
　小数該当となった「一人称複数」と「三人称複数」の作品ジャンルは、「一人称複数」が「ファンタジー」5作品、「ホラー・オカルト」2作品、「大人の恋」と「お笑い・ギャグ」が1作品ずつ。「三人称複数」が「ファンタジー」2作品、「ホラー・オカルト」と「歴史・時代」が1作品ずつであった。
　今回は物語を中心となって進めている視点を基準に分析を行ったが、いづれの作品の中にも必ず一人称となっている部分が存在した。このことから、スマホ小説において一人称での記述は必然的に含まれているものであるということが分かった。これとは逆に、三人称の作品においては著者が三人称に徹しきることが出来ていないという見方も可能になるものと思われる。
　単数と複数で見た場合には単数が約72%、複数が約28%となる。しかし、今回の分析における「一人称複数」では、焦点が移る度にAサイド・Bサイドといった表記がなされていた。加えて、焦点が移るタイミングも話が区切られる時点に合わさっている場合が多い。その為、読み手が受ける感覚としては「三人称複数」の場合とは大きく異なり、一人の登場人物にスポットが当たったまま物語が進むことで、まるで視点がずっと「一人称単数」であるかのようにも取れる。当然、同じ場面を複数の登場人物の視点で記述している箇所も存在する為、「一人称単数」と同じ捉え方をすることはできないが、視点において一人称が重要な位置を占めているということには明らかとなった。

・登場人物
　分析した結果は以下の表の通り。

　まずは登場人物の性別から見ていく。各作品で中心となっている登場人物の性別は男性が30作品、女性が17作品である。これを作品ジャンルと照らし合わせると次のグラフの通りとなる。

　ここでも「ファンタジー」に関する割合は男性のみの登場となった。これまでの分析も踏まえて、「ファンタジー」については作品内容や読み手の関係に関わらず、男性という性別を中心に回っているジャンルといえるだろう。対して、女性が作品の中心となる登場人物になる場合のジャンルは幅広く多岐にわたっている。
　更に、登場人物の性別を読み手側の性別と照らし合わせ、同性と異性どちらになるのかを調べた結果が以下のグラフである。

　登場人物が女性となる作品数自体が男性の場合よりも少ないこともあってか、若干女性の方が異性となる割合が高いが、男女共に基本は同性の登場人物となる作品を好む傾向にあることが分かる。 　この場合、男性の読み手は「ファンタジー」作品を読むことで、まず間違いなく同性という条件を叶えることができる。一方、女性の読み手は同性が顕著に見られるジャンルというものが存在しない為、必然的にジャンルの幅が広がっているものと考えられる。

　続いて登場人物の名前について見ていく。登場人物がフルネームであるかどうか、またその名前が日本人名扱いとされているかどうか、名前が登場しない場合も含めて次のグラフの通りとなった。

　これを見ると、名前のほとんどが日本人と同列に扱われていることが分かる。どのジャンルに対しても区別なく当てはまるもので、登場人物の存在を身近に感じさせると共に登場人物への感情移入をさせやすくする効果があると思われる。この観点は視点の項目で取り上げた一人称の比重と相互的に結びついている。 　この他、名前が登場せず一人称明記に留まった作品は全て著者の「体験」に基づいて書かれている作品である。この観点は設定の項目で述べている為、この場での説明は省略する。また、グラフ上で片仮名と表記されている小数該当名は全て「ファンタジー」のジャンルに分類されている。

　最後に登場人物の年齢と職業について見ていく。職業別の割合は次のグラフの通り。

　グラフ上では5つの区分に分類を行っているが、会社員とアルバイトと店員は全て学生に該当しない登場人物が一般的な形で社会へと参加しているものであり、これを1つの括りとした場合は学生60%、社会人28%、その他13%と見ることができる。
　更に、学生に該当する登場人物が現れる28作品の内、24作品は高校生の年齢に該当し、残りの4作品は大学生の年齢に該当する。この為、登場人物の約半数は高校生、もしくはそれに準じる学生の区分に当てはまる。
　これらの登場人物の観点から総合的に読み取れることは、読み手の境遇に合わせた作品が多いということである。

　勿論、対象作品の多くが一人称によって語られていることから、登場人物の観点で述べたことは未だ逆説的にそのようにいえるだけという見方も可能ではある。では、更にここで今回ジャンル比較との点からも大きく取り上げた「ファンタジー」を例に取っておくと、このジャンルに見られる一部の登場人物は当初現代における普通の学生として登場している。そして、それぞれの展開に従って異世界へと旅立っていくのだが、その過程は目次1つ分程度の紹介で終わってしまう。また、その過程の間も既に学生としての身分を消失していることが多い。それでもなお、学生として人物紹介を行うことには、その登場人物に対するキャラクター性を付随する意思が著者にあるということである。こうした点からも、登場人物の観点は一人称視点と相互に関わりを見せているものと捉える。

・設定
　分析した結果は以下の表の通り。

　舞台設定は一般的な現代社会を基準に現代とし、更に登場人物が登場する場所が各地に限定、集中している場合に用いた。また、学校と学園の区分は現代社会における学校と同様のものを学校、「魔法」など特殊な設定が付与されている場合に学園の表記とした。

　分析方法に則り分類した舞台設定と職業の関連性は以下の通り。

　必然的に職業と舞台設定が結びついているものには、学校を舞台に学生である登場人物が物語を進めているもの、社会人である登場人物が仕事場を舞台にしているものが中心として挙げられる。また、前者の舞台が学校ではなく一般社会全般であったり、後者の社会人の舞台設定に特殊な要素が加えられている場合は関係性がないとまでは言えないが、必然的結びつきとも言えない為に関係性ありと分類した。その為、関連性ありの割合が一番低いものになっている。関連性がないものは、舞台が温泉旅行となっている『 「姉弟ほど近く遠いものはない。二度目」 』の例外を除き、現代から別の舞台へと設定が変化しているものであった。
　つまり、舞台設定が変化していない場合において、登場人物の職業は基本的に舞台設定と関連性があることが分かる。

　次に、物語における要素を割合としたものが以下の通りである。

　物語の要素として最も多く割合的に含まれているものは「恋愛」の38%となった。

　また、この「恋愛」は対象作品47作品中35作品に含まれており、75%と高い割合で作品の要素となっている。次に多く含まれているのは「ファンタジー」と密接に関わる「魔法」で、これは「ファンタジー」に比例して順当な割合である。その「魔法」24作品に対して、意外にも「死」が20作品と大差なく続いている。
　「死」は「ホラー･オカルト」が比較的作品ジャンルの割合を占めることからもある程度の数が見込まれたが、今回は「ファンタジー」ジャンルの作品において、出だしに登場人物が死に至る作品が多く見られた為、このような結果となった。

・目次
　分析した結果は以下の表の通り。

　目次1タイトルにつき、最もページ数が多かったのは『 ア･ナルニア王国の王子様 』の117.25ページ。これに対して、最もページ数が少なかったのは『 高校生日記!! 』の7.11ページである。また、平均ページ数が50ページを超えた作品は『 ア･ナルニア王国の王子様 』の他に『 Ｒ.Ｂ〜Red Butterfly〜�U 』の58.39ページ、『 ウ、ソ、ツ、キ 』の57.92ページ、『 「姉弟ほど近く遠いものはない。二度目」 』の52.1ページの3作品である。

　更に、目次のつけ方について詳しく内容を見たものが以下のグラフの通りとなった。

　多くは作品本文の内容に合わせて各所でバラバラな目次設定がなされていた。しかし、一部はそれらに定期番号を割り振ることで目次としての役割を付加しているものがあった。

　また、定型句とした作品の内から以下にその一例を取り上げておく。

・『 「姉弟ほど近く遠いものはない。二度目」 』…「湯煙○○曲」
・『 異世界始めました。 』…○○始めました。
　それぞれ○○の部分が変化する。

・作品情報
　分析した結果は以下の表の通り。

　完結済みの作品が27作品、連載中の作品は20作品と、現在連載中の作品よりも完結済みの作品の方が多く見られた。また、シリーズ物の作品は29作品であり、二つの要素を合わせると、読者は完結済みの作品を一度に纏めて読む傾向にあることが分かる。この他、完結済みの作品は一部書籍化されていることもあり、再び読者の目に留まるようになったとも考えられる。
　その一方で、1年以上も更新が止まったままの作品もあり、空き時間に手頃な作品を流し読みする以上に、1つの作品を愛読し著者の復帰を待つ読者も多数いることが分かった。

第四章　まとめと今後の課題

第一節　分析を終えて

　今回、スマホ小説の分析を行って分かったことは以下の通りである。

・スマホ小説の利用者は学生に多く見られる。
・男女、年齢によって読者層が好む作品ジャンルに差がある。
・作品内容自体には差があるものの、作品に含まれる要素や性質には読者層全体で一定の傾向がある。

第二節　今後の課題

　今回の研究では、作品本文の分析を十分に行うことが出来ず、結果としてスマホ小説の概要に入るに留まってしまった。また、スマホ小説内で作品や項目を比較して見ていくことが難しく、読者層の把握といった点もかなり不十分なままとなった。
　今後の課題としては、より詳細な分析を行うと共に、更にスマホ小説内において月間推移によるランキング作品と累計ランキング作品などによる視野を広げた比較を行う必要があるだろう。一般書籍や学校教材との比較が行えるまでに発展すれば、中学生高校生大学生と成長に合わせて分かれている年齢別のランキング作品にも、一部発達段階との関わりが見られるようになるものと考えられる。

第五章　おわりに

第一節　おわりに

　研究最初の動機が「自分で読んだことがないから」というまるで逆向きなところに始まり、研究途中でテーマを変更してしまうなどの紆余曲折を経た今回の研究ではあったが、実際に研究を通していく内に作品を熱心に読むようにもなり、新しい小説との良い出会いになったと思っています。これを機に、今後もスマホ小説や電子書籍など新しいものをどんどんと自分の中に取り入れるようにしていきたいです。

　最後に、これまでご指導下さいました国語科の先生方へ感謝の念を述べてこの場を締め括りたいと思います。本当に有難う御座いました。

第二節　研究資料

・E★エブリスタ　　　http://estar.jp/

研究対象