一 次の文章を読んで、右の問いに答えよ。


「わすれられないおくりもの」 スーザン=バーレイ 文・絵  小川仁央 やく

 あなぐまは、かしこくて、いつもみんなにたよりにされています。 こまっている友だちは、だれでも、きっと助けてあげるのです。 それに、たいへん年をとっていて、知らないことはないというぐらい、もの知りでした。 あなぐまは、自分の年だと、死ぬのがそう遠くはないことも、知っていました。
  あなぐまは、死ぬことをおそれてはいません。 死んで体がなくなっても、心はのこることを知っていたからです。 だから、前のように体がいうことをきかなくなっても、くよくよしたりしませんでした。 ただ、あとにのこしていく友だちのことが気がかりで、a自分がいつか長いトンネルの向こうに行ってしまっても、あまり悲しまないようにと、言っていました。
  ある日のこと、あなぐまは、もぐらとかえるのかけっこを見に、おかに登リました。 その日は、とくに年をとったような気がしました。 あと一度だけでも、みんなといっしょに走れたらと思いましたが、あなぐまの足では、もう無理なことです。 {1}、友だちの楽しそうな様子をながめているうちに、自分も幸せな気特ちになりました。
  夜になって、あなぐまは家に帰ってきました。 月におやすみを言って、カーテンをしめました。 それから、地下の部屋にゆっくり下りていきました。 {2}、だんろがもえています。
  夕ごはんを終えて、つくえに向かい、手紙を書きました。 ゆりいすをだんろのそばに引きよせて、しずかにゆらしているうちに、あなぐまは、ぐっすりねいってしまいました。 {3}、ふしぎな、でも、すばらしいゆめを見たのです。
 おどろいたことに、あなぐまは走っているのです。 目の前には、どこまでもつづく長いトンネル。 足はしっかりとして力強く、{4}、つえもいりません。 体はすばやく動くし、トンネルを行けば行くほど、どんどん速く走れます。 {5}、ふっと地面からうき上がったような気がしました。 {6}、体が、なくなってしまったようなのです。 あなぐまは、すっかり自由になったと感じました。
 次の日の朝、あなぐまの友だちは、みんな心配して集まりました。 あなぐまが、いつものように、おはようを言いに来てくれないからです。
 きつねが、悲しい知らせをつたえました。 あなぐまが死んでしまったのです。 そして、あなぐまの手紙を、みんなに読んでくれました。
   長いトンネルの
  向こうに行くよ
  さようなら
     あなぐまより
  森のみんなは、あなぐまをとてもあいしていましたから、悲しまない者はいませんでした。 なかでも、もぐらは、やりきれないほど悲しくなりました。
  ベッドの中で、もぐらは、あなぐまのことばかり考えていました。 なみだは、あとからあとからほおをつたい、もうふをぐっしょりぬらします。
 その夜、雪がふりました。冬が始まったのです。 これからの寒いきせつ、みんなをあたたかく守ってくれる家の上にも、雪はふりつもりました。
  雪は、地上をすっかりおおいました。 けれども、心の中の悲しみを、おおいかくしてはくれません。 あなぐまは、いつでも、そばにいてくれたのに−みんなは、今どうしていいか、とほうにくれていたのです。 あなぐまは、悲しまないようにと言っていましたが、それは、とてもむずかしいことでした。
 春が来て、外に出られるようになると、みんな、たがいに行き来しては、あなぐまの思い出を語り合いました。
  もぐらは、はさみを使うのが上手です。 一まいの紙から、手をつないだもぐら切りぬけます。 切リぬき方は、あなぐまが教えてくれたものでした。 はじめのうち、なかなか、紙のもぐらはつながらず、ばらばらになってしまいました。 でも、しまいに、しっかりと手をつないだもぐらのくさりが、切りぬけたのです。 その時のうれしさは、今でも、わすれられない思い出です。  かえるはスケートが得意です。 スケートを、はじめてあなぐまに習った時のことを話しました。 あなぐまは、かえるが一人でりっぱにすべれるようになるまで、ずっとやさしく、そばについていてくれたのです。
  きつねは、子どものころあなぐまに教えてもらうまで、ネクタイがむすべなかったことを思い出しました。
「はばの広いほうを左に、せまいほうを右にして首にかけてごらん。 それから、広いほうを右手でつかんで、せまいほうのまわりにくるりと、わを作る。 わの後ろから前に、広いほうを通して、むすび目を、きゅっとしめるんだ。」
 きつねは今、どんなむすび方だってできますし、自分で考え出したむすび方もあるんです。 そして、いつも、とてもすてきにネクタイをむすんでいます。
  うさぎのおくさんの料理上手は、村じゅうに知れわたっていました。 でも、さいしょに料理を教えてくれたのは、あなぐまでした。 ずっと前、あなぐまは、うさぎにしょうがパンのやき方を教えてくれたのです。 うさぎのおくさんは、はじめて料理を教えてもらった時のことを思い出すと、今でも、やきたてのしょうがパンのかおりが、ただよってくるようだと言いました。
  みんなだれにも、なにかしら、あなぐまの思い出がありました。 あなぐまは、一人一人に、わかれたあとでもたからものとなるような、ちえやくふうをのこしてくれたのです。 みんなは、それで、たがいに助け合うこともできました。
  最後の雪が消えたころ、あなぐまがのこしてくれたもののゆたかさで、bみんなの悲しみも、消えていました。 あなぐまの話が出るたびに、だれかがいつも、楽しい思い出を、話すことができるようになったのです。
  cあるあたたかい春の日に、もぐらは、いつかかえるとかけっこをしたおかに登リました。 もぐらは、あなぐまがのこしてくれた、おくりもののお礼が言いたくなりました。
「ありがとう、あなぐまさん。」
 もぐらは、なんだか、そばであなぐまが、聞いていてくれるような気がしました。 そうですね−きっとあなぐまに−聞こえたにちがいありませんよね。