一 次の文章を読んで、右の問いに答えよ。


「父のようにはなりたくない」  阿部夏丸

[ 1 ]は芽吹きの季節だ。
草や木は、いっせいにさみどり色の若葉を芽吹き、
遠くの山々を淡く彩っている。
そんな爽やかな風の吹く四月に、中学校の家庭訪問は行われた。
中学二年生の山本サトシの家でも、母親の由佳里が女性教師と話をしていた。
「いつもお世話になっております。先生、学校で、サトシはどうでしょう?」
「山本君は素直ですし、a特別、問題はないように思えます」
「そうですか?[ 2 ]では口答えばかりして困っているんですよ」
「あら、口答えするところを見てみたいくらいですわ」
女性教師は、そういって明るく笑った。
実際、サトシは〈[ 3 ]のかからない〉子どもだった。
中学校に入ってからは、部屋でごろごろとマンガを読んだり、音楽を聴いたりする時間が増えて、母との[ 4 ]は絶えなかったが、それは中学生の当たり前の生活。
たとえ「うるせーなぁ」が[ 5 ]でも、それなりに勉強もしているようであった。
女性教師は、しばらくの間、サトシの家での生活を由佳里から聞いていたが、ポツンとこういった。
「そういえば、先日、こんなことがあったんです。進路指導の時間に、山本くんにどこの高校に行きたいのって聞いたんです。そしたら、山本君、高校へは行かないっていうんです。ご存じでした?」
「えっ、そんなことを・・・・・・]
予期せぬ言葉に、由佳里は絶句した。
「ええ、高校へは行かずに、何になるのって聞いたら・・・・・・」
「聞いたら?」
「ただ、お父さんのようには、なりたくないって」
「はぁ・・・・・・」
「何になるかは、まだ決めてないのだけれど、お父さんのようにはなりたくない。そういうんです」
「・・・・・・」
「山本君、お父さんと何かありました?」
「いえ、別に・・・・・・」
「仲が悪いとか、ケンカしたとか?」
「いいえ。仕事で帰りが遅いですから、仲よく遊んだり、話をしたりすることはほとんどないですけど、ケンカや口論をしたことなんてありません」
「そうですか。ご両親としては進学を考えておいでですよね?」
b「もちろんです!」
由佳里は、きっぱりとそういった。
「まだ二年生ですし、卒業までには時間がありますから心配はいらないと思うんですが、一度、お父さんも含め、c三人で話し合っていただけますか」
「はい……」
(サトシが高校に行かないなんて、お父さんのようにはなりたくないなんて、そんなことを考えていたなんて……」
由佳里にとっては、それは、いまだ経験したことのない一大事だった。