一 次の文章を読んで、右の問いに答えよ。


「なにか、うまい獲物でもいないかなあ。《
 オオカミは、今日もそんなことをつぶやいて歩いていました。すると……。

「オイラと一緒に獲物を探さないか。《
 いきなり誰かが声をかけてきたのです。それは、強そうなクマでした。
“こいつ、いったいどういうやつなんだ。”

 オオカミはずっとこう思っていました。
 a“一人でいるのがいちばん気楽でいい。”
 でも、そのクマはさっさとそばに来てこう言うのです。
「どこかに獲物のいそうなところ知ってるかい?《
“こいつ、オレに見つけさせて横取りするつもりかな?”
オオカミは用心して、
「いや、知らないな。《と答えました。

「オイラはいいとこ知ってるんだ。さあ、行こうぜ。《
 [ 1 ]はそう言って、親しそうに誘ってきます。
 まわりを見ると、[ 2 ]の姿を見てウサギや[ 3 ]が逃げ出していきます。
“待てよ。クマって何を食うんだ? ……そういえばクマってなんでも食うんだぜって[ 4 ]が言ってたっけ。なんでも食うってことは、[ 5 ]も食うのかなあ?”
 オオカミはクマの大きな体を見上げました。

 オオカミはなんだかめんどうくさくなってきて、
「オレはこっちの道を行くからさ。じゃあな。《
 そう言ってさっさとトンネルへ入っていきました。
 ところが、クマも「オイラもちょうどこっちに行くんだ。《
そう言って bトンネルに入ってきたのです。
 オオカミはハッとしました。
“しまった。ここで後ろからかみつかれたら、いくらオレでも……。”
 オオカミは後ろを気にしながら早足で進みました。

 やっとトンネルを通り抜けて、オオカミがほっとして振り向くと、今度はクマが石を拾っています。
 そしてエイッと投げつけてきたではありませんか。
“わわ! あ、危ない!”
 オオカミはとっさに体を丸めました。

 ボン! と木の枝に石が当たって蜂の巣が落ちてきました。
「これうまいんだぜ。《
 クマは半分にした蜂の巣をオオカミに渡してくれました。一口食べてみるとその甘いことといったら。
 オオカミはちょっとうれしくなって、クマのほうを見ました。
 クマはにっこりと笑っていました。

 ところがオオカミが歩き出すと、
「うぐっ、ぐぐっ、ううーー《と後ろで低いうなり声。
 振り向くと、クマが恐ろしい顔をして、片方の手を後ろに隠し、変なかっこうで追いかけてきます。
“こいつ、後ろに棒でも持っているのかな。よし、その棒で襲ってきたら、パッとよけてガブッと足にかみついてやる。”
 オオカミがそんなことを考えていたときです。

 ズルッ!
「あわわっ。《
 崖のふちを歩いていたオオカミは、うっかり足を滑らせてしまったのです。
 崖の下は深ーーい谷底です。
「し、しまったあ。《

 なんとか崖のふちにぶら下がったオオカミが見上げると、クマがものすごい勢いで向かってくるではありませんか。
「ひぇ、もうだめだぁ。《
 オオカミは思わず目をつむりました。
「ほら、早くつかまれよ。《 
優しい声に目を開けると、目の前にクマの太い腕がありました。
「え⁉《

「ありがとう。助かったぜ。《
 やっと崖からはい上がったオオカミがお礼を言うと、
「おう、気をつけろよ。それよりあそこで獲物を捕ろうぜ。《
 そう言ってクマが遠くの川原を指さしました。
 cオオカミはクマがどんなやつなのかわからなくなってきました。
 クマはもう、さっさと河原に向かって歩いていきます。
“うーむ。ちょっとならつき合ってみるか。”

「そっちから魚を送ってくれよ。《
 オオカミが魚を追い、クマが捕まえるのです。
「な、二人でやると簡単だろう。《
「なるほどね。《
クマの言うとおり、確かに二人でやると、あっというまにたくさんの魚が捕れたのです。

 やがて二人は川原で、捕りたての魚を食べ始めました。
 でも、オオカミにはまだ気になっていることがあるのです。
そこで、思い切ってクマに聞いてみることにしました。
「なぁ、さっき後ろに手をまわしていたけど、何か隠してたのかい?《
クマはしばらく黙っていましたが、やっと小さな声でこう言いました。

「実は……さっき蜂の巣を取ったときに……、蜂にお尻を刺されてさ。《
 オオカミは思わず笑い出しました。
「なんでそんなこと隠すんだよ。《
「だ、だって、そんなのかっこ悪いじゃないか。《
 クマはぽうっと顔を赤くしました。
“うふっ、こいつっておかしなやつ!”
 オオカミはなんだかすごくうれしくなってきました。

 オオカミは今でも A“一人がいちばん気楽でいい。”と思っています。
 でも、あのクマを思い出すときだけはクククって笑って、二人で食べた魚の味が懐かしくなるそうです。