一 次の文章を読んで、右の問いに答えよ。

a節分の夜のことです。
まこと君が、元気に豆まきを始めました。
ぱらぱらぱらぱら
まこと君は、いりたての豆を、力いっぱい投げました。
「福はあ内。おにはあ外。」
茶の間も、客間も、子ども部屋も、台所も、げんかんも、手あらいも、
ていねいにまきました。そこで、まこと君は、
「そうだ、物おき小屋にも、まかなくっちゃ。」
と言いました。
そのb物おき小屋の天じょうに、去年の春から、小さな黒おにの子ども
が往んでいました。「おにた」という名前でした。
おにたは、気のいいおにでした。
きのうも、まこと君に、なくしたビー玉を、こっそり拾ってきてやりました。
この前は、にわか雨の時、ほし物を、茶の間に投げこんでおきました。
お父さんのくつを、ぴかぴかに光らせておいたことも
あります。
でも、だれも、おにたがしたとは気がつきません。はずかしがリ屋のおにたは、見えないように、とても用心していたからです。
豆まきの音を聞きながら、おにたは思いました。
「人間っておかしいな。おにはわるいって、きめているんだから。おににも、いろいろあるのにな。」
そして、古い麦わらぼうしをかぶりました。角かくしのぼうしです。
こうして、カサッとも音をたてないで、おにたは、物おき小屋を出ていきました。
こな雪がふっていました。
道路も、屋根も、野原も、もうまっ白です。
おにたのはだしの小さな足が、つめたい雪の中に、ときどき、すぽっと入リます。
「いいうちが、ないかなあ。」
でも、今夜は、どのうちも、ひいらぎの葉をかざっているので、入ることができません。
ひいらぎは、おにの目をさすからです。
小さな橋をわたった所に、トタン屋根の家を見つけました。
おにたのひくい鼻がうごめきました。
「こりゃあ、豆のにおいがしないぞ。しめた。ひいらぎもかざっていない。」
どこから入ろうかと、きょろきょろ見回していると、入リロのドアが開きました。
おにたは、すばやく、家の横にかくれました。
女の子が出てきました。
その子は、でこぼこしたせんめんきの中に、雪をすくって入れました。
それから、赤くなった小さな指をロに当てて、ハーッと、白いいきをふきかけています。
「今のうちだ。」
そう思ったおにたは、ドアから、そろりとうちの中に入リました。
そして、天じょうのはりの上に、ねずみのようにかくれました。
部屋のまん中に、うすいふとんがしいてあります。ねているのは、女の子のお母さんでした。
女の子は、新しい雪でひやしたタオルを、お母さんのひたいにのせました。
すると、お母さんが、ねつでうるんだ目をうっすらと開けて言いました。
c「おなかがすいたでしょう?」
女の子は、はっとしたようにくちびるをかみました。
でも、けん命に顔を横にふりました。
そして、
「いいえ、すいてないわ。」
と答えました。
「あたし、さっき、食べたの。
あのねえ……、あのねえ……、お母さんがねむっている時。」
と話しだしました。
「知らない男の子が、もってきてくれたの。あったかい赤ごはんと、うぐいす豆よ。今日は節分でしょう。だから、ごちそうがあまったって。」
お母さんは、ほっとしたようにうなずいて、また、とろとろねむってしまいました。
すると、女の子が、フーッと長いためいきをつきました。
おにたは、なぜか、せなかが{1}するようで、{2}としていられなくなりました。
それで、{3}はりをつたって、台所に行ってみました。
「ははあん―。」
台所は、{4}にかわいています。
米つぶ一つありません。
大根一切れありません。
「あのちび、何も食べちゃいないんだ。」
おにたは、もう{5}で、台所のまどのやぶれた所から、さむい外へとび出していきました。
それからしばらくして、入リロをトントンとたたく音がします。
「今ごろ、だれかしら?」
女の子が出ていくと、雪まみれの麦わらぼうしを深くかぶった男の子が立っていました。
そして、ふきんをかけたおぼんのようなものをさし
出したのです。
「節分だから、ごちそうがあまったんだ。」
おにたは、一生けん命、さっき女の子が言ったとおりに言いました。
女の子はびっくりして、もじもじしました。
「あたしにくれるの?」
そっとふきんを取ると、あたたかそうな赤ごはんと、うぐいす色のに豆が、湯気をたてています。
女の子の顔が、ぱっと赤くなりました。
そして、にこっとわらいました。
女の子がはしをもったまま、ふっと何か考えこんでいます。
「どうしたの?」
おにたが心配になってきくと、
「もう、みんな、豆まきすんだかな、と思ったの。」
と答えました。
「あたしも、豆まき、したいなあ。」
「なんだって?」
おにたはとび上がりました。
「だって、おにが来れば、きっと、お母さんの病気がわるくなるわ。」
おにたは、手をだらんと下げて、ふるふるっと、かなしそうに身ぶるいして言いました。
「おにだって、いろいろあるのに。
おにだって……。」
氷がとけたように、急におにたがいなくなりました。あとには、あの麦わらぼうしだけが、ぽつんとのこっています。
「へんねえ。」
女の子は、立ち上がって、あちこちさがしました。そして、
「このぼうし、わすれたわ。」
それを、ひょいともち上げました。
「まあ、黒い豆!まだあったかい……。」
お母さんが目をさまさないように、女の子は、そっと、豆をまきました。
「福はあ内。おにはあ外。」
麦わらぼうしから、黒い豆をまきながら、女の子は、
「さっきの子は、きっと神様だわ。そうよ、神様よ……。」
と考えました。
「だから、お母さんだって、もうすぐよくなるわ。」
ぱらぱらぱらぱら
ぱらぱらぱらぱら
とてもしずかな豆まきでした。