一 次の文章を読んで、右の問いに答えよ。

あなぐまは、かしこくて、いつもみんなにたよりにされています。
こまっている友だちは、だれでも、きっと助けてあげるのです。
それに、たいへん年をとっていて、知らないことはないというぐらい、もの知りでした。
あなぐまは、自分の年だと、a死ぬのがそう遠くはないことも、知っていました。
あなぐまは、死ぬことをおそれてはいません。
死んで体がなくなっても、心はのこることを知っていたからです。
bだから、前のように体がいうことをきかなくなっても、くよくよしたりしませんでした。
ただ、あとにのこしていく友だちのことが気がかりで、自分がいつか長いトンネルの向こうに行ってしまっても、あまり悲しまないようにと、言っていました。
ある日のこと、あなぐまは、もぐらとかえるのかけっこを見に、おかに登リました。
cその日は、とくに年をとったような気がしました。
あと一度だけでも、みんなといっしょに走れたらと思いましたが、あなぐまの足では、もう無理なことです。
それでも、友だちの楽しそうな様子をながめているうちに、自分も幸せな気特ちになりました。
夜になって、あなぐまは家に帰ってきました。
月におやすみを言って、カーテンをしめました。
それから、地下の部屋にゆっくり下りていきました。
そこでは、だんろがもえています。
夕ごはんを終えて、つくえに向かい、手紙を書きました。
ゆりいすをだんろのそばに引きよせて、しずかにゆらしているうちに、あなぐまは、ぐっすりねいってしまいました。
そして、ふしぎな、でも、すばらしいゆめを見たのです。
おどろいたことに、あなぐまは走っているのです。
目の前には、どこまでもつづく長いトンネル。
足はしっかりとして力強く、もう、つえもいりません。
体はすばやく動くし、トンネルを行けば行くほど、どんどん速く走れます。
とうとう、ふっと地面からうき上がったような気がしました。
まるで、体が、なくなってしまったようなのです。
あなぐまは、すっかり自由になったと感じました。
次の日の朝、あなぐまの友だちは、みんな心配して集まりました。
あなぐまが、いつものように、おはようを言いに来てくれないからです。
きつねが、悲しい知らせをつたえました。
あなぐまが死んでしまったのです。
そして、あなぐまの手紙を、みんなに読んでくれました。
d長いトンネルの向こうに行くよさようなら
あなぐまより
森のみんなは、あなぐまをとてもあいしていましたから、悲しまない者はいませんでした。
なかでも、もぐらは、やりきれないほど悲しくなりました。
ベッドの中で、もぐらは、あなぐまのことばかり考えていました。
なみだは、あとからあとからほおをつたい、もうふをぐっしょりぬらします。
その夜、雪がふりました。冬が始まったのです。
これからの寒いきせつ、みんなをあたたかく守ってくれる家の上にも、雪はふりつもりました。
雪は、地上をすっかりおおいました。
けれども、心の中の悲しみを、おおいかくしてはくれません。
あなぐまは、いつでも、そばにいてくれたのに−みんなは、今どうしていいか、とほうにくれていたのです。
あなぐまは、悲しまないようにと言っていましたが、それは、とてもむずかしいことでした。
e春が来て、外に出られるようになると、みんな、たがいに行き来しては、あなぐまの思い出を語り合いました。
もぐらは、はさみを使うのが上手です。
一まいの紙から、手をつないだもぐら切りぬけます。
切リぬき方は、あなぐまが教えてくれたものでした。
はじめのうち、なかなか、紙のもぐらはつながらず、ばらばらになってしまいました。
でも、しまいに、しっかりと手をつないだもぐらのくさりが、切りぬけたのです。
その時のうれしさは、今でも、わすれられない思い出です。
かえるはスケートが得意です。
スケートを、はじめてあなぐまに習った時のことを話しました。
あなぐまは、かえるが一人でりっぱにすべれるようになるまで、ずっとやさしく、そばについていてくれたのです。
きつねは、子どものころあなぐまに教えてもらうまで、ネクタイがむすべなかったことを思い出しました。
「はばの広いほうを左に、せまいほうを右にして首にかけてごらん。
それから、広いほうを右手でつかんで、せまいほうのまわりにくるりと、わを作る。
わの後ろから前に、広いほうを通して、むすび目を、きゅっとしめるんだ。」
きつねは今、どんなむすび方だってできますし、自分で考え出したむすび方もあるんです。
そして、いつも、とてもすてきにネクタイをむすんでいます。
うさぎのおくさんの料理上手は、村じゅうに知れわたっていました。
でも、さいしょに料理を教えてくれたのは、あなぐまでした。
ずっと前、あなぐまは、うさぎにしょうがパンのやき方を教えてくれたのです。
うさぎのおくさんは、はじめて料理を教えてもらった時のことを思い出すと、今でも、やきたてのしょうがパンのかおりが、ただよってくるようだと言いました。
みんなだれにも、なにかしら、あなぐまの思い出がありました。
あなぐまは、一人一人に、わかれたあとでもたからものとなるような、ちえやくふうをのこしてくれたのです。
みんなは、それで、たがいに助け合うこともできました。
最後の雪が消えたころ、あなぐまがのこしてくれたもののゆたかさで、みんなの悲しみも、消えていました。
あなぐまの話が出るたびに、だれかがいつも、楽しい思い出を、話すことができるようになったのです。
あるあたたかい春の日に、もぐらは、いつかかえるとかけっこをしたおかに登リました。
もぐらは、あなぐまがのこしてくれた、おくりもののお礼が言いたくなりました。
「ありがとう、あなぐまさん。」
もぐらは、なんだか、そばであなぐまが、聞いていてくれるような気がしました。
そうですね−きっとあなぐまに−聞こえたにちがいありませんよね。