一 次の文章を読んで、右の問いに答えよ。


「ポレポレ」  西村まり子

" 友達のピーターがけがをして入院したので、ぼくは毎日のように病院へ行ってっる。
その病院は変わった病院で、aかんごふさんもかん者さんも、
「シャシホ!」
と、スワヒリ語であいさつをする―――。

ぼくの名前は田代友樹。
高波小学校、四年一組。
ピーターは新学期と同時に ぼくのクラスに転校してきた。
最初、ピーターが、小松先生と教室に入ってきた時、クラスのみんながおどろいた。
小松先生が、
「アフリカのケニアから来たお友達です。
お父さんの仕事の関係で、ナイロビの学校から、日本にやって来ました。」
と、ピーターをしょうかいした。
「ハロー、ぼくはピーター=オンハーレです。
ぼくのママは、日本人です。
言葉、分かります。
よろしくお願いします。」
ピーターは、日本語であいさつした。
「ピーターは英語、日本語 スワヒリ語が話せるそうです。
ピーター、スワヒリ語で『こんにちは』は、なんて言うの。」
小松先生がきくと、ピーターは大きな声で、
「ヒャヒホ!」
と、言ったので、みんなは大笑いした。
とにかくピーターは、陽気で人なつっこいせいかくで、よくしゃべる男の子だった。
ピーターは、すぐにクラスの人気者になった。
ある日、ろうかを走っていた五、六人のグループに向かって、ピーターが言った。
「ポレポレでいこうよ。」
ポレポレというのは、スワヒリ語でゆっくりとか、のんびりという意味だそうだ。
日本語で「ろうかを走るな。」と言えば「よけいなお世話だ。」と、けんかになるかもしれない。
でもポレポレなら、なんとなくユーモアがあって、おもしろい。
それから みんなはポレポレという言葉が気に入って、クラスじゅうではやりだした。
そのうちに学校じゅうで、だれもが「ポレポレ、ポレポレ。」と、口にするようになった。
ひどいときは、ちこくをしてきて、先生に「どうかしたの。」ときかれて、「ポレポレ。」とごまかしたり、何かをして最後に残った者には、ポレポレ賞という名よ(?)があたえられた。
ぼくもポレポレが気に入った。
そして、ピーターのことも好きだった。
昼休み、ぼくは教室にいた。
「友樹!」
名前をよばれたのでふり向くと、ピーターが立っていた。
「グラウンドに行こう。」
ピーターは、ぼくのうでを引っぱった。
ぼくは、運動が苦手なので、つい、首を左右にふった。
するとピーターは
「空を見に行こう。」
と、人指し指を天じょうに向けた。
運動場に出ると、大きい子や小さい子が遊んでいた。
さけび声や笑い声が楽しそうだった。
ずーっと、ここちよい風が、ぼくのそばをすりぬけた。
運動場の周囲の木々は、太陽の光を浴びて、わか葉がかがやいていた。
そして、顔を上げると、つばさを広げて飛んで行きたいような、青い空があった。
花だんの近くの岩の上に、ピーターがこしかけたので、ぼくも同じようにすわった。
「ぼくが住んでいた、ナイロという所は、高いビルもあるし、車も走っている。
日本とおんなじです。」
それから、ピーターは、世界で{  B  }番目に大きいビクトリア湖の近くでくらすルオ族の話をした。
ピーターのパパはルオ族の出身で、村には電気もガスも水道もない。
人々はくらしのくふうをして、自然のままに生きている。
村人が病気になって、きとうしの所に行くと、不思議なひょうたんから声がして、薬を教えてくれるという、とても信じられないような話をした。
ぼくはピーターの話に引きこまれた。
それは、ピーターが大切にしているのだから物のような気がした。
その日から、ピーターとぼくとは いっしょにいることが多くなった。
二人で道を歩いていると、ピーターはだれにでも声をかけ、あいさつをする。
「ヒャヒホ ハハリカニ(元気てすか)。」
「オー、ピーター、元気いっぱい、いっぱい。
アサンテ(ありかとう)。」
ぼくはあきれてしまった。
いつのまに、近所のおじいさんにスワヒリ語を教えたのだろう。
あしたから夏休み。
うきうきしていたら、夜の八時ごろ、ピーターから電話がかかってきた。
「いずみが・・・・・・、ゆくえ不明らしい。」
副クラス委員の加倉いずみのことだ。
「今、いずみのママから電話があった。」
「ゆくえ不明って・・・・・・。」
まさかゆうかい!
と、ぼくは思ったけど、口には出さなかった。
話が聞こえたのか、母さんが出てきた。
「友樹、これから出かけるの。」
母さんが止めたけど、ぼくは家を出た。
どこをさがしたらいいかのか。
とりあえず、ピーターとぼくとは、駅に向かって歩いた。
すると、公園の暗がりで、急にピーターが足を止めた。
「ちょっと待って、うらないをするから。」
ピーターは地面にすわりこむと、なぞのような言葉を、ふつふつと唱えた。
数分たっただろうか、
「分ったよ。
高い所にいる。」
と言って、ピーターは立ち上がった。
高い所とといっても・・・・・、ぼくはきょろきょろと周囲を見わたした。
「タワーのようなたて物は?」
ピーターは真けんだった。
ぼくは半分信じてなかったけど、考えた。
「うーん・・・・・・。」
無人のてん望台がある。
あれかな?
ぼくは駅の方向を指さした。
駅の向こう側の、おかの上にてん望台はある。
でも夜は暗くてだれも近づかない。
てん望台の下まで来ると、手入れをしてない草が、ぼうぼうと生えていた。
ピーターはライトを持って先に歩き、ぼくはかにかまれながら、後ろからついていった。
てん望台の中に入ると、お化けが出てきても不思議じゃないような暗さだった。
柱にまきついたらせん階たんが、ぼくのこわさをふくらませた。
ぼくがピーターのティーシャツを引っぱるのと、ピーターがふり返ったのと、同時だった。
上の方から、女の子のすすリ泣く声が聞こえた。
「いずみ!」
ピーターがさけぶと、
「ピーター? ピーターなの!」
おどろきと喜びとが、いっしょになった声が返ってきた。
ピーターとぼくは、顔を見合わせた。
「いずみ、すぐに行きます!」
ピーターは、そう答えてから、ぼくにささやいた。
c「うらないのこと、ひみつです。
村の外で使うと、ばちが当たると言われてる。」

らせん階だんを上ると、待ちかねたいずみが、ピーターに飛びついてきた。
「ピーター・・・・・・、こわかった、こわかった!」
いずみの顔がみるみるうちにゆがんできた。
「たいじょうぶ、もうだいじょうぶ。」
ピーターは、いずみのせなかを軽くたたいた。
いずみの気持ちが落ち着くのを待って、ぼくは言った。
「どうして、こんな所にいるんだよ。」
いずみはピーターからはなれると、早口で答えた。
「置いていかれたのよ。
ここからおもしろいものが見えるって、さそわれて。」
「だれに?」
ピーターがきくと、いずみは下を向いてつぶやいた。
「クラスの女の子・・・・・・。」
いずみが高い所をこわがることは、作文で読んだから、クラスのみんなが知っている。
「あの子たち、わたしのことむかつくって。
わたし、あの子たちと同じはんなの。
給食当番のときや、体育道具のかたづけのとき、あの子たちおそいから、いつもきつく言ってた。
早くしてよって。」
「しかえしされたのか?」
ぼくが言うと、ピーターがやさしく話をした。
「いずみは、なんでも早くできます。
でも、早くできない人、います。
だれでも、苦手あります。
せめたら、きずつくでしょう。
{  d  }、大切です。
急ぐと、人のこと、考えられなくなります。」
とにかく帰ろうと ピーターとぼくは、いずみの手をにぎって、らせん階だんを下りた。
最後の一回りをすぎたところで、いずみが言った。「ピーター、苦手なものあるの?」
「カミナリ!こわいです。」
ピーターがそう言うと、いずみが笑いだした。
そのとたん、いずみが足をすべらせた。
ピーターもぼくも体がよろけて、トトトン、トタントタン、三人とも転がった。
いたっ、起き上がろうとしたぼくの体に、いたみが走った。
うでと足には大きなすりきずができて、血が出ていた。
いずみも、
「いたーい。」
と言って起きてきた。
「ピーター!」
ぼくはさけんだ。
ピーターは階だんの下で、たおれたままだった。
ぼくといずみが ピーターのそばにかけよると、ピーターは右足を動かそうとして、「うっ」と声をあげた。
「ほねが・・・・・・、折れたかもしれない。」
「えーっ!」
ぼくはーしゅん、うらないのばちのことを思った。
「だれかよんでくる!」
ぼくはさけぶと、外に飛ひ出した。
通りに出ると、ぼくの前で、次々に四台の車が止まった。
中からいずみの両親、クラスの三人の女の子、その親たちが、あわてた様子でおりてきた。
ぼくは大声を出した。
「救急車!」
ピーターは、駅から近い西原病院に運ばれた。
けがは右足首のこっ折、入院することになった。
ぼくたちは、ピーターのおみまいが、夏休みの宿題になった。
クラスの三人の女の子たちは、泣きながらいずみにあやまり、「まさか あのままてん望台にいたなんて、信じられない。」
女の子の一人が言った。
いずみは何回も下リようとした。
だけど、こわくて下りられなかったそうだ。
いずみが
「わたし、クラス委員としてがんばろうと思って、無理してあせってたみたい。
これからは、ポレポレ、でいくから。」
ごめんなさい と女の子たちと仲直りをした。
次の日、病室でみんなに囲まれて、ピーターが言った。
「ポレポレ、で仲良くやろうよ。」
病院はたいくつだろうと、ぼくは心配したけど、ピーターは車いすを使って元気に動き回っていた。
そして、かんごふさんやかん者さんをつかまえては、スワヒリ語を教えていた。
いまに病院じゅうでポレポレがはやりだす、そう思うと、eぼくはおかしくてふき出した。k 
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