一 次の文章を読んで、右の問いに答えよ。
#messages_intro:以下の物語を読み、設問に答えよ。
へびもかえるも、土の中にもぐりました。からすが、さむそうに鳴いています。
ある、天気のいい日に、ぼうしをかぶったおにの子は、川岸を歩いていて、みずぎわでねむっているわにに出会いました。
わにを見るのは生まれてはじめてなので、おにの子は、そばにしゃがんで、しげしげとながめました。
そうとう年をとっていて、はなの頭からしっぽの先まで、しわくちゃです。a人間でいえば、百三十才くらいのかんじ。
わには、ぜんぜん動きません。
しんでいるのかもしれない―と、おにの子は思いました。
「わにのおじいさん。」とよんでみました。
わには、目をつぶり、じっとしたまま。
あ、おじいさんでなくて、おばあさんなのかもしれない―と思いました。
「わにのおばあさん。」
やっぱり、わにはぴくりとも動きません。
しんだんだ―と、おにの子は思いました。
おにの子は、そのあたりの野山を歩いて、地面におちている、ほおの木の大きなはっぱをひろっては、わにのところにはこび、体のまわりにつみあげていきました。
朝だったのが昼になり、やがて夕方近くになって、わにの体は、半分ほど、ほおの木のはっぱでうまりました。すると、
「ああ、いい気持ちだ。」
と、bわには、つぶやきながら目をあけたのです。
「きみかい、はっぱをこんなにたくさんかけてくれたのは。」
「ぼくは、あなたがじっとしていてうごかないから、しんでおいでかと思ったのです。」
「遠いところから、長い長い旅をしてきたものだから、すっかりつかれてしまってね、もう、ここまで来れば安心だと思ったら、きゅうに眠たくなってしまってさ。ずいぶん何時間もねむっていたらしいな。ゆめを九つも見たんだから。」
そう言うと、わには、むああっと長い口をいっぱいにあけて、あくびをしました。
「あの、わにのおじいさん?それとも、おばあさんですか?」
「わしは、おじいさんだよ。」
「わにのおじいさんは、どうして、長い長い足袋をして、ここまでおいでになったのですか?」
「わしをころして、わしのたからものをとろうとするやつがいるのでね、にげてきたってわけさ。」
おにの子は、たからものというものが、どんなものなのだか知りません。たからものということばさえ知りません。
とんとむかしの、そのまたむかし、ももたろうがおにからたからものをそっくりもっていってしまってからというものは、おには、たからものとはぜんぜんえんがないのです。
「きみは、たからものというものを知らないのかい?」
わにのおじいさんは、おどろいて、すっとんきょうな声を出しました。
そして、しばらくまじまじとおにの子の顔を見ていましたが、やがて、そのしわしわくちゃくちゃの顔で、にこっとしました。
「cきみに、わしのたからものをあげよう。うん、そうしよう。これで、わしも心おきなくあの世へ行ける。」
わにのおじいさんのせなかのしわが、じつは、たからもののかくし場所を記した地図になっていたのです。
わにのおじいさんに言われて、おにの子は、おじいさんの背中のしわ地図を、しわのない紙に書きうつしました。
「では、行っておいで。わしは、このはっぱのふとんでもうひとねむりする。たからものってどういうものか、きみのめでたしかめるといい。」
そう言って、わにのおじいさんは目をつぶりました。
おにの子は、地図を見ながら、とうげをこえ、けもの道をよこ切り、つりばしをわたり、谷川にそって上り、岩あなをくぐりぬけ、森の中で何度も道に迷いそうになりながら、やっと地図の×印の場所へたどりつきました。
そこは、切り立つようながけの上の岩場でした。
そこに立った時、おにの子は目を丸くしました。口で言えないほどうつくしい夕やけが、いっぱいに広がっていたのです。
思わず、おにの子は、ぼうしをとりました。
dこれがたからものなのだ―と、おにの子はうなずきました。
ここは、せかい中でいちばんすてきな夕やけが見られる場所なんだ―と思いました。
その立っている足もとに、たからものをいれた箱がうまっているのを、おにの子は知りません。
おにの子は、いつまでも夕やけを見ていました。