大阪教育大学 国語教育講座 野浪研究室 ←戻る counter
提出日:平成29年1月31日
平成28年度 卒業論文

発生方法からみる新語と死語の関連性

大阪教育大学 教育学部 学校教育教員養成課程 
国語教育専攻 中学校コース
国語表現ゼミナール 132206 中本 駿平

指導教員 野浪 正隆先生

目次

序章 はじめに
    研究動機・研究目的

第一章 研究にあたって
 第一節 研究対象
 第二節 研究方法
  第一項 アンケート調査
  第二項 文献調査

第二章 研究結果・考察
 第一節 新語と死語
  第一項 新語について
  第二項 死語について
 第二節 アンケート結果
 第三節 考察
  第一項 新語と死語の関連性
  第二項 死語を生み出す心のメカニズム

第四章 まとめと今後の課題

終章 おわり
 第一節 おわり
 第二節 参考資料

序章 はじめに

研究動機・研究目的

 この世の中は言葉にあふれている。さまざまな業界、コミュニティで使用されている専門用語や芸能人やマスメディアが使用したことで流行した流行語などが混同して現代の言語社会を形成している。しかし言語というものはその時代の社会情勢や、文化、流行などによってさまざまな変容を見せてきた。その変容に関して特に顕著なものとして新語の発生があげられる。今この瞬間にも新語は生まれようとしている。それは時には流行に乗って、時には若者の間のみに通じるコミュニケーションツールとして、これらのように様々なシチュエーションで日々生まれている。しかし、新しく生まれる言葉があれば死にゆく言葉もあるのだ。いわゆる死語というものだ。私は普段親と会話していて、たまに話が噛み合わないことがあり、そのたびに私は「時代を感じる」という言葉を使ってきたが、私は何に対して時代を感じているのだろうと疑問に思った。テレビや雑誌などのメディアのおかげで親の若かった時代の、いわゆるひと昔前の文化に対しては免疫があったためそこに大きなショックを受けているわけではなく、それは親の使っている言葉の意味が理解できないことに起因していることに気が付いた。例えば、「チョッキ」や「パーマ屋」などの、私の世代ではあまり使わない、一般的には死語といわれる言葉を、親や親の世代の人はよく使う。いや、おそらく親の世代にとっては死語ではないから使っているのだろう。使っているということは生きている言葉であるから、親にとってそれは死語ではないのである。これは、私たちが今普通に使っている言葉もいずれは通じることのない死語になりうることを意味している。いつかは自分の子どもの世代と会話が成立しない時代が来るのである。あるいは私が教壇に立っている頃にはすでに来ているかもしれない。そこで私は言葉が消滅するプロセスと新語の発生のプロセスを比較分析し、双方に一体どんな関連性があるのか、また後世まで生き残る言葉とはどのような言葉なのかを考えることにした。

第二章 研究にあたって

第一節 研究対象

 今回の研究にあたって、以下の3つの項目について分析し考察していきたいと思う。
・新語について
・死語について
・新語と死語の関係性

 今回の研究では以下の100個の言葉を死語とし、これらを対象に研究をしていきたいと考える。これらの死語は米川の『若者ことば辞典』(1997)と『新語と流行語』(1989)から、比較的若い世代でも聞いたことがあると考えられる言葉を抜粋した。著書の中の死語には時代を感じるような古い言葉もあれば、もはや消滅してから月日がたちすぎて聞いたことのないものまであったが、聞いたことのないような言葉はアンケートでは死語と判別できないため、アンケートを作りやすいように恣意的に選んだものである。しかし、明らかに造語方法が同じものばかりだと研究結果に偏りが出るため、言葉の構成の方法が偏らずに均一になるように選んだ。

<死語一覧> 
1.トゥギャザーしようぜ
2.ドロンします
3.ナウい
4.バイなら!
5.バイビー
6.バイリンギャル(帰国子女)
7.バタンキュー
8.ばっくれる
9.バッチグー
10.花金
11.鼻血ぶー
12.パーマ屋
13.ひでき感激
14.ホの字(惚れている)
15.マイコン(マイ・コンピューター)
16.マッポ
17.マブダチ
18.マンモスうれぴー
19.ミーハー
20.胸きゅん
21.めろめろ
22.めんごめんご
23.もちのろん
24.もらい風呂
25.よっこいしょういち
26.余裕のよっちゃん
27.許してちょんまげ
28.ランデブー(デート)
29.レッツらゴー
30.レーコー(アイスコーヒー)
31.あじゃぱー(驚き)
32.わけわかめ
33.あばよ
34.いってきマンモス
35.おっはー
36.おそよう
37.アイムソーリーヒゲソーリー
38.そんなバナナ
39.当たり前田のクラッカー
40.オッケー牧場
41.おっとびっくり玉手箱
42.がってん承知の助
43.かわい子ちゃん
44.グロッキー
45.ゲッツ
46.こんばんみー
47.ざまあ味噌漬け
48.じゃむる
49.冗談はよしこさん
50.すっとこどっこい
51せこい
52.あっしー(女性に足として使われた男性)
53.アムラー
54.言うだけ番長
55.いかれぽんち
56.おばたりあん
57.サユリスト(吉永小百合のファン)
58.シティボーイ
59.シノラー
60.しょうゆ顔ソース顔
61.スッチー
62.タカビー(高飛車な態度)
63.チーマー
64.アウトオブ眼中
65.朝シャン
66.アベック
67.アベノミクス
68.イカす
69.イチコロさ
70.インド人もびっくり
71.エッチスケッチワンタッチ
72.オカチメンコ
73.おかんむり
74.お邪魔虫
75.おたんこなす
76.おどろ木桃の木さんしょの木
77.おニュー
78.キボンヌ
79.グリコ(お手上げ状態)
80.くりそつ(そっくり)
81.社会の窓
82.頑張るんば
83.だいじょうV
84.だっちゅーの
85.タッパがある
86.ダベる
87.チャンネルを回す
88.チャック
89.チョッキ
90.タンマ
91.チョベリグ
92.チョベリバ
93.ちょんぼ
94.いただきマンモス
95.KY(空気が読めない)
96.MK5(マジでキレる5秒前)
97.着メロ
98.着うた
99.エスケープする(授業を抜け出す)

第二節 研究方法

 今回の研究では以下の2つの方法で分析していきたいと思う。 ・文献調査 ・アンケート調査  文献調査では、新語についての先行研究を熟読し、それらを参考にしながら死語について研究していく。アンケート調査では、死語についてのアンケート「使っている人を見ると恥ずかしく思う言葉」と「なぜ死語を使いたくないのか」というものを、紙媒体とインターネット媒体の2つの方法にて実施する。これらの調査をふまえて新語と死語の発生方法の関係性について考察していきたい。  アンケート調査は、世の中で死語と言われている言葉100項目を羅列し、この言葉を使っている人を見かけると恥ずかしいと思うか、という質問をして、《1全くそう思わない・2あまりそう思わない・3少しそう思う・4そう思う》の4段階で評価してもらった。対象は大阪教育大学に在籍する学生100名である。  以下がそのアンケートである。 <死語調査>
 以下の言葉を使っている人を見かけると恥ずかしいと思いますか?
《1そう思う・2少しそう思う・3あまりそう思わない・4全くそう思わない》の4段階で評価してください。

1.トゥギャザーしようぜ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
2.ドロンします 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
3.ナウい 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4 
4.バイなら! 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
5.バイビー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
6.バイリンギャル(帰国子女) 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
7.バタンキュー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
8.ばっくれる 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
9.バッチグー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
10.花金 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
11.鼻血ぶー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
12.パーマ屋 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
13.ひでき感激 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
14.ホの字(惚れている) 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
15.マイコン(マイ・コンピューター) 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
16.マッポ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
17.マブダチ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
18.マンモスうれぴー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
19.ミーハー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
20.胸きゅん 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
21.めろめろ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
22.めんごめんご 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
23.もちのろん 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
24.もらい風呂 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
25.よっこいしょういち 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
26.余裕のよっちゃん 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
27.許してちょんまげ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
28.ランデブー(デート) 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
29.レッツらゴー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
30.レーコー(アイスコーヒー) 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
31.あじゃぱー(驚き) 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
32.わけわかめ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
33.あばよ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
34.いってきマンモス 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
35.おっはー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
36.おそよう 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
37.アイムソーリーヒゲソーリー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
38.そんなバナナ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
39.当たり前田のクラッカー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
40.オッケー牧場 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
41.おっとびっくり玉手箱 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
42.がってん承知の助 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
43.かわい子ちゃん 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
44.グロッキー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
45.ゲッツ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
46.こんばんみー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
47.ざまあ味噌漬け 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
48.じゃむる 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
49.冗談はよしこさん 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
50.すっとこどっこい 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
51.せこい 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
52.あっしー(女性に足として使われた男性) 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
53.アムラー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
54.言うだけ番長 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
55.いかれぽんち 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
56.おばたりあん 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
57.サユリスト(吉永小百合のファン) 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
58.シティボーイ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
59.シノラー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
60.しょうゆ顔ソース顔 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
61.スッチー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
62.タカビー(高飛車な態度) 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
63.チーマー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
64.アウトオブ眼中 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
65.朝シャン 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
66.アベック 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
67.アベノミクス 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
68.イカす 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
69.イチコロさ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
70.インド人もびっくり 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
71.エッチスケッチワンタッチ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
72.オカチメンコ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
73.おかんむり 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
74.お邪魔虫 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
75.おたんこなす 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
76.おどろ木桃の木さんしょの木 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
77.おニュー 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
78.キボンヌ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
79.グリコ(お手上げ状態) 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
80.くりそつ(そっくり) 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
81.社会の窓 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
82.頑張るんば 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
83.だいじょうV 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
84.だっちゅーの 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
85.タッパがある 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
86.ダベる 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
87.チャンネルを回す 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
88.チャック 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
89.チョッキ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
90.タンマ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
91.チョベリグ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
92.チョベリバ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
93.ちょんぼ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
94.いただきマンモス 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
95.KY(空気が読めない) 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
96.MK5(マジでキレる5秒前) 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
97.着メロ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
98.着うた 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4
99.エスケープする(授業を抜け出す) 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4

 次に、2つ目にアンケートとして、死語についてのアンケートを実施し、死語というものに対して私たちがどのような思いを抱いているのかを考えることで、死語を作り出す心のメカニズムや、死語が私たちのコミュニケーションにどのような影響を及ぼすのかについて迫りたいと思う。以下がそのアンケートである。
<死語アンケート2>
Q1 死語とはどのようなイメージですか。
  1. 使われなくなった言葉
  2. 使うと恥ずかしい言葉
  3. 使ってはいけない言葉
  4. その他(       )

Q2 あなたは死語を使う人をどう思いますか。
  1.面白い
  2.話が通じない
  3.話したくない
  4.その他(       )

Q3 あなたは友達が死語を使って話しかけてきたらどうしますか。
  1. それは死語だと指摘する。
  2. 指摘せずにそのまま会話する
  3. 意味を尋ねる。
  4. その他(         )

第二章 研究結果・考察

第一節 新語と死語

第一項 新語について

 死語について語るうえで新語の存在は欠かせないだろう。まず新語という言葉の概念の定義からしていきたい。国語学会編『国語学大辞典』(1980)では新語を次のように定義している。
 
「新しくその言語社会に現れた、又は既存の事物や概念を、新しく表現するために作られ、またはその正当なその語の自然な語義変化とは言いがたい度を超えた新しい意義を与えられて、その存在権を社会によって承認された語。それまでそのような語形、そのような意義としてその言語社会の語彙の構成要素ではなかったも語が新たに出現した時、新語と称される。」
 上記のように、新語が生まれるためにはまず新しい事物や概念が生まれる必要があり、それらを表現するためには既存の言葉では役不足であるために新しい言葉が生まれるのである。しかし一言に新語と言ってもそれが生まれるシチュエーションやルーツは多種多様で、若者が造語的に作ったものもあれば業界用語が普遍的に使われるようになったものもある。また、新語は流行語や若者語などに細分化することができ、流行語は『国語学大辞典』(1980)では次のように定義している。
 新語の一種。その時代に適応して、きわめて感化的意味が強く、爆発的な民衆の使用語。多くは徐々に消滅するか、あるいは一般語彙に定着する。はやり言葉とも
。  また、米川は『若者語を科学する』(1998)において若者語を次のように定義している。
 若者語とは中学生から三十歳前後の男女が、仲間内で、会話促進・娯楽・連帯・イメージ伝達・隠蔽・緩衝・浄化などのために使う、規範からの自由と遊びを特徴に持つ特有の語や言い回しである。個々の語についての個人の使用、言語意識にかなり差がある。また時代によっても違う。若者言葉。
 上記のように、流行語は一時的な流行りによるもので、その多くは消滅していく運命にある。また、その作り手の多くはメディアやタレントによるもので、「あの有名な人が言っていたから。」、「時事を軽妙にとらえているから。」というような聞き手の心理的な要因が、広く使われるようになるのに大役を買っているのではないかと考える。それに対して若者語は、字のごとく若者が作り出した言葉であるが、これの多くは一般的ではなく、すべての人が理解できることを目的にしたものではない。定義の中でもあるように、規範からの自由と遊びを特徴に持つ言葉であるため、その瞬間の機微を軽妙に捉えているものである必要があり、若者語の最大の目的は「面白さ」である。したがって「面白さ」を失った若者語は消滅の一途をたどることとなる。また、ある閉じたコミュニティの中でしか通じないような、隠語的で暗号的な要素も含むことも「面白さ」を引き出す要因のひとつではないかと考える。
 次に新語の発生方法を見ていきたいと思う。発生方法に関しては、先行研究にて様々な考察がなされているが、米川明彦は『新語と流行語』(1989)の中で、既存の語とは全く無関係な新しい語を創造する場合と、既存の語を利用して新しい語を作る場合の2パターンがあると述べている。既存の語とは全く無関係な新しい語とは、擬音語や擬態語などがほとんどで、その言葉自体に意味を持たないものが多い。例えば、アラレちゃんが発するいわゆる「アラレ語」がそれにあたる。これらの類は創造することは簡単だが流行するためには多くの人の感性にヒットするような響きを持つものや汎用性の高さなどが必要になってくる。それに倒し既存の語を利用して新しい語を作る場合だが、これによって作られた語は、借用語・合成語・派生語・類推語・省略語・もじりの6種類があると米川は述べている。以下、それぞれについての解説で、米川の解説に加えて現代の新語にも順応できるように私の独自の解説も加えた。下線部は米川の引用である。

・借用語
 借用とはほかの言語から取り入れることで作られた語。外国語からの借用、隠語からの借用、方言からの借用などがある。
radio⇒ラジオ、escape(逃げる)⇒授業から抜け出す、などがこれに当たる。
 
・合成語
 二つ以上の言葉を組み合わせることで作られた語。
 【モダン+ガール=モダンガール】や【文化+住宅=文化住宅】などがこれに当たる。【名詞+名詞】の構成だけでなく、【名詞+動詞】の形をとることによって、英語で言うところの動名詞のような名詞が動詞化する。

・派生語
 既存の語に接頭辞や接尾辞をつけて作られる場合と活用語尾をつけて作られる場合がある。
 「字音性接辞」と「る言葉」が主な派生語で、字音性接辞に関しては中国への逆輸入のパターンもある。中国から輸入してきた漢語に「非」や「超」などの接辞を付けて新語を作る方法だが、「無関係」や「効果的」などの日本で作られた語は現在中国でも同じ意味で使われている。

・類推語
 既存の語系から類推して間違った解釈からできた語で、外国語を日本人が聞き間違えてそれを表記した際に作られる場合が多い。

・省略語
 語の一部を省略して作る方法で、後略語・前略語・前後略語・中略語・短縮語などがある。  現代ではカタカナの長い表記をしているものが増えてきて、それらを日常会話の中にとけこませるために省略する場合が多い。

・もじり
 外来語もどきとも疑似外来語とも呼ぶべきもので、音調が外来語のように聞こえるが、実際は日本語を組み合わせただけの語である。  商品名などを考える際はこの方法が用いられることが多く、「ムシコナーズ」や「サカムケア」などがこれにあたる。最近ではもはや外来語調にするという意識は薄れつつあり、ダジャレの要素が強いものもこれに含む。

第二項 死語について

 上記のように、新語のある法則を持った発生方法があるのなら、それと同様に死語の発生方法というものもあるのではないかと考えた。それについてはまた後に詳述するとして、まず死語について定義したいと思う。
 死語とは、「かつては使用されていたが、様々な理由から使用されなくなった言葉。」と定義することができる。しかし、実際にそのような簡単に説明できるものなのだろうか。死語とは消滅した言葉であるはずだが、実際には完全に消滅したわけではない。どういうことかというと、ある人にとっては死語であっても、ある人にとっては死語ではないのである。世間一般的に死語とされていても、それを死語はとらえずに日常的に使用しているある一定の人の中では、それは死語ではないのである。では、死語とは一体何をもって死語としているのだろうか。ここからが死語であるという、なにか明確なラインのようなものが存在するのだろうか。私は実際にはそのようなものは存在しないのではないかと考える。日本において表現の自由が保障されている中で、使用する言葉の選択はその人の自由であり、ある程度の常識とTPOをわきまえてさえいれば言葉を発することは自由である。そこになにか規制があるのはおかしな話である。しかし現代の言語社会には死語という概念があり、殊、日本においては死語を使う人を嘲笑する傾向があることは否めない。それにより言葉を紡ぐことを生業としている業界の人たちは言葉の変化に敏感に成らざるを得ない。作家が書籍を作る際には当たり前のように使われていた言葉も発刊するころには死語となっているということもあり得るからだ。文字言語をツールとして読者に伝えなければならない作家として伝わらない言葉を使うことは致命的で、その書籍の売り上げにも大きな影響を及ぼすだろう。例えばレコードで音楽を聴いていた時代に書かれた本は、音楽をダウンロードして聞く今の若い世代に親近感を持って伝わることは簡単なことではない。したがって作家は否応にも言葉のチョイスに苦しむし、死語になりやすいカタカナ語を用いることを嫌う作家もいるようだ。
 ある期間に多数の人が使用していただけあってほとんどの人に意味は通じるのに、人々はそれを死語と呼び使うことを避ける傾向にある。しかし、あるコミュニティの間では、死語とされる言葉も気兼ねなしに使うことが許される。それは死語を死語としていない間柄においてである。つまり、死語というのは「過去にある一定人数以上の人が使用し、現在ある一定人数以下の間でしか使用されなくなった言葉。」と定義することができるのではないだろうか。ところが、死語の中には使われなくなった言葉のほかに、使うべきではない言葉というものがある。それは、少数派を嫌う風潮や流行りなどではなく、社会によって規制されるようになった言葉である。それは差別用語やスラングといったもので、かつては多くに国が階級社会で、自分よりも下等な種族や障害を持つような人を揶揄し、蔑視することが当たり前のように行われていた。今回の研究では、これらのような社会の規制によって淘汰された言葉は、消滅した原因が明らかであるため規制語として分類できるためここでは死語とは考えないこととする。
 以上のことから、死語は「過去にある一定人数以上の人が使用し、現在ある一定人数以下の間でしか使用されなくなった言葉で、社会的な規制によって消滅したものではないもの。」と今回の研究では定義したいと思う。

 ある少数のコミュニティでしか使用されなくなった言葉が死語となるということに関連して、逆にある少数のコミュニティでしか使用されなかった言葉が一般化して多くの人に使用されるようになった例もある。例えば「ギロッポン」や「ネタ(お笑い)」、「巻き(急がせる)」などがそれに当たる。これらが前述したような新語として世の中に広まっていくのである。このように新語の発生と死語の発生には何らかの関係性があるのではないかと私は考えた。次にこれに関する私の仮説を述べていきたい。

 死語が生まれるパターンとして考えられるのが、@それに代わる役割を持つ新語の発生と、Aその言葉の持つ概念自体の消滅である。流行語は特に後者が多く、その寿命は5〜10年とされている。その年数は汎用性の高さと使用する人の年齢層も関係していると思われる。汎用性の高い言葉は使い勝手が良いため必然的に使用頻度も高くなってくるし、幅広い年齢層の人が使うことで流行語としての価値が上がり、みんなが使っているからという大衆心理も働くため、消滅するまでにある程度の期間を要することにつながるのではないかと考えられる。また死語を分析するにあたり、その言葉の構成だけではなく、その言葉がどのようなカテゴリーの言葉なのかも重要になってくるのではないかと考える。
 新語が生まれる法則には、借用・合成・派生・類推・省略・もじりの6種類があると米川は述べているが、死語もその法則に準じて考えることとする。実際は死語とは生み出されるものではないため造語的な意味では当てはまらないが、死語となるような言葉の中では、どの法則で構成された言葉が多いのかを見ることはできる。これらを踏まえた上で私の仮説をまとめると以下のようになる。

【仮説】
・死語が生まれるためには、以下の2パターンがある。
@それに代わる役割を持つ新語の発生。(入れ替わり)
Aその言葉の持つ概念自体の消滅。(消滅)

 以上の仮説を検証する形で、アンケート調査を踏まえて考察をしていきたいと思う。
 また、死語を言語学的に考えるだけではなく、心理的な面からも考察をしていきたい。そのために人々が死語に対してどのようなイメージを持っているのかをアンケートによって調査し、死語が私たちの会話にどのような影響をおよぼすのか、また私たちが死語を生み出す心のメカニズムについて考えていきたい。

第二節 アンケート結果

 アンケート結果から読み取れたことをもとに考察を述べていきたい。
 ではまず、アンケート結果をここで示したいと思う。右端の数字は回答者100人が選んだ番号を合計したものである。この点数が高ければ高いほど死語として認知されていると考えることができる。本研究では350点よりも高い点数の言葉を特にピックアップして考えたい。

<アンケート1>

<死語調査>
 以下の言葉を使っている人を見かけると恥ずかしいと思いますか?
1.トゥギャザーしようぜ380
2.ドロンします314
3.ナウい374
4.バイなら!272
5.バイビー376
6.バイリンギャル(帰国子女)243
7.バタンキュー356
8.ばっくれる365
9.バッチグー287
10.花金121
11.鼻血ぶー143
12.パーマ屋314
13.ひでき感激376
14.ホの字(惚れている)299
15.マイコン(マイ・コンピューター)189
16.マッポ243
17.マブダチ199
18.マンモスうれぴー388
19.ミーハー296
20.胸きゅん176
21.めろめろ145
22.めんごめんご345
23.もちのろん322
24.もらい風呂287
25.よっこいしょういち364
26.余裕のよっちゃん387
27.許してちょんまげ379
28.ランデブー(デート)356
29.レッツらゴー377
30.レーコー(アイスコーヒー)373
31.あじゃぱー356
32.わけわかめ313
33.あばよ344
34.いってきマンモス312
35.おっはー245
36.おそよう356
37.アイムソーリーヒゲソーリー374
38.そんなバナナ355
39.当たり前田のクラッカー346
40.オッケー牧場342
41.おっとびっくり玉手箱355
42.がってん承知の助376
43.かわい子ちゃん283
44.グロッキー248
45.ゲッツ367
46.こんばんみー354
47.ざまあ味噌漬け379
48.じゃむる289
49.冗談はよしこさん377
50.すっとこどっこい350
51.せこい146
52.あっしー(女性に足として使われた男性)245
53.アムラー332
54.言うだけ番長329
55.いかれぽんち267
56.おばたりあん388
57.サユリスト(吉永小百合のファン)324
58.シティボーイ366
59.シノラー332
60.しょうゆ顔ソース顔234
61.スッチー312
62.タカビー(高飛車な態度)357
63.チーマー253
64.アウトオブ眼中338
65.朝シャン149
66.アベック246
67.アベノミクス231
68.イカす261
69.イチコロさ348
70.インド人もびっくり346
71.エッチスケッチワンタッチ376
72.オカチメンコ176
73.おかんむり198
74.お邪魔虫245
75.おたんこなす290
76.おどろ木桃の木さんしょの木266
77.おニュー279
78.キボンヌ349
79.グリコ(お手上げ状態)243
80.くりそつ(そっくり)309
81.社会の窓160
82.頑張るんば371
83.だいじょうV350
84.だっちゅーの379
85.タッパがある323
86.ダベる255
87.チャンネルを回す284
88.チャック231
89.チョッキ251
90.タンマ195
91.チョベリグ348
92.チョベリバ354
93.ちょんぼ244
94.いただきマンモス358
95.KY(空気が読めない)327
96.MK5(マジでキレる5秒前)290
97.着メロ324
98.着うた295
99.エスケープする(授業を抜け出す)208
100.ハイカラ329

 アンケートでは、点数の高い言葉が今の大学生にとって死語と認められている言葉であることから、以下の言葉が完全な死語としてみることができる。

トゥギャザーしようぜ・ナウい・バイビー・バタンキュー・ばっくれる・ひでき感激・マンモスうれぴー・よっこいしょういち・余裕のよっちゃん・許してちょんまげ・ランデブー(デート)・レッツらゴー・レーコー(アイスコーヒー)・あじゃぱー(驚き)・おそよう・アイムソーリーヒゲソーリー・そんなバナナ・おっとびっくり玉手箱・がってん承知の助・ゲッツ・こんばんみー・ざまあみそ漬け・冗談はよしこさん・すっとこどっこい・おばたりあん・シティボーイ・タカビー・エッチスケッチワンタッチ・頑張るんば・だいじょうX・だっちゅーの・チョベリバ・いただきマンモス


<アンケート2>

Q1 死語とはどのようなイメージですか。

  1. 使われなくなった言葉…55人
  2. 使うと恥ずかしい言葉…41人
  3. 使ってはいけない言葉…2人
  4. その他(       )…2人
    ・年配の人が使う言葉…2人

Q2 あなたは死語を使う人をどう思いますか。

  1.面白い…5人
  2.話が通じない…11人
  3.絡みづらい…81人
  4.その他(       )…3人
    ・面白くない…1人
    ・昔の人…1人
    ・かわいい人が使うとかわいい…1人

Q3 あなたは友達が死語を使って話しかけてきたらどうしますか。

  1. それは死語だと指摘する…28人
  2. 指摘せずにそのまま会話する…63人
  3. 意味を尋ねる…6人
  4. その他(         )…3人
   ・いじる…3人   

第三節 考察

第一項 新語と死語の発生方法の関連性

 新語の発生方法と死語の発生方法に何か関連性があるのかを考えていきたい。新語の発生方法に関しては第一節第一項で米川の『新語と死語』による引用にて解説をしたが、死語の発生方法も米川の新語の発生方法に準じて考えたいと思う。米川は発生方法として借用・合成・派生・類推・省略・もじりの6種類があると述べておりアンケートで提示した100項目の死語を分類すると以下のようになる。
○借用
ばっくれる・めろめろ・もらい風呂・グロッキー・すっとこどっこい・せこい・アベック・ランデブー・社会の窓・タッパがある・ちょんぼ・エスケープする・マッポ・チャンネルを回す
○合成
トゥギャザーしようぜ・ドロンします・言うだけ番長・シティボーイ・しょうゆ顔ソース顔・パーマ屋・ひでき感激・マンモスうれぴー・オカチメンコ・おたんこなす
○派生
ナウい・じゃむる・イカす・ダベる
○類推
該当語なし
○省略
花金・・マブダチ・マイコン・胸キュン・レーコー・朝シャン・イチコロさ・チョベリグ・チョベリバ・KY・MK5・着メロ・着うた・バタンキュー・タンマ・バッチグー・ミーハー・ハイカラ
○もじり
鼻血ぶー・バイなら・バイリンギャル・そんなバナナ・バイビー・ホの字・めんごめんご・もちのろん・よっこいしょういち・余裕のよっちゃん・当たり前田のクラッカー・許してちょんまげ・わけわかめ・あばよ・おっはー・おそよう・おっとびっくり玉手箱・がってん承知の助・こんばんみー・ざまあみそ漬け・冗談はよしこさん・いかれぽんち・レッツラゴー・インド人もびっくり・エッチスケッチワンタッチ・おかんむり・お邪魔虫・いってきマンモス・おどろ木桃の木さんしょの木・おニュー・キボンヌ・グリコ・くりそつ・だいじょうX・頑張るんば・アイムソーリーヒゲソーリー・かわい子ちゃん・アッシー・おばたりあん・アムラー・サユリスト・シノラー・スッチー・タカビー・チーマー・アウトオブ眼中・アベノミクス・グリコ・だっちゅーの・チャック・チョッキ
○その他
あじゃぱー・ゲッツ
 発生方法ごとに分類してみた結果、もじりに多く集中する結果となった。これは今回選んだ100項目の言葉がもじりに偏ってしまったこともあるが、大学生が死語だと認識している言葉の数も多いということから、近年新語として生まれてきた言葉の中でもじりの絶対数が多いということが考えられる。類推語に該当する言葉がなかったことに関しては、類推語として新しく生まれた言葉は英語になじみがなった時代に日本人が聞き間違えて日本語に帰着させた言葉であるという由来が関係していて、今では完全に消滅してしまった言葉が多くもはや死語だと認識できないほどに日本語として消滅してしまった言葉であるという理由があると考えられる。その他としてあげた2つの言葉は米川の言う「既成の語と無関係の新語」であるため6種類の発生方法には該当しなかった。
 私は米川が示した6種類の方法では近年の死語を分析する上で物足りなさを感じたため、考察をするにあたり死語を言葉としてどのような役割を持つものなのかという観点からいくつかのカテゴリーに分けたうえでそのカテゴリーごとに考えていくことにした。このカテゴリーは第一節第一項で述べた米川の新語の発生方法とは異なるもので、死語を便宜上カテゴライズするための独自のものである。

○ギャグ
 アンケート結果から分かる通り、「オッケー牧場」や「ゲッツ」などのギャグ的要素の強い言葉は死語になりやすい傾向がある。これは、ギャグはその場の空気や振りがなければ成立しないものであり、爆発的に流行る代わりにその消滅していく早さも爆発的なものを感じる。また、ただでさえギャグは人前で披露することに恥ずかしいと感じ、抵抗があるものであることから、だんだんと周りの人が使わなくなったギャグを使うことに尋常ではない羞恥心を覚えることは間違いなく、これがギャグの死語化を加速させる要因であると言っても過言でないだろう。私はこのギャグというものを死語においてのひとつのカテゴリーとして置きた場合、これは大きな割合を占めるものだと考える。
 ここで仮説としてあげた「流行語では特にギャグとして生まれたものは消滅が速い。」について考えたい。消滅までの早さは今回研究の対象外だったため考察することはできないが、ギャグは基本的に面白さのみを求めて作られたものであり、世間の人が面白いと感じなくなればたちまち死語となり、死語を使うことを恥ずかしいと感じる私たちは死語化をさらに加速させる。その点ではギャグは消滅までが早いと考えることができる。
例)トゥギャザーしようぜ・アイムソーリーヒゲソーリー・そんなバナナ・オッケー牧場・鼻血ぶー・レッツラゴー・ゲッツ・だっちゅーの

○もじり
 芸人発信のギャグほど面白さはないが、普段の日常会話にユーモアを加えることができるアイテムとしてもじり系の言葉も数多くある。「よっこいしょういち」や「「もちのろん」はその例で、笑いの要素は少ないが比較的汎用度も高く、味気ない会話に娯楽機能を加えているため流行にまで至った言葉は息が長いものとなりやすい。しかしテンポや面白さを会話に求める若者は、その言葉が飽きてくると一切使わなくなり、そのなってしまうと死語化は早い。そして流行に乗った中年の年代が死語化に気づかずに使い続け周りから冷ややかな目で見られることがパターンとなってきている。ただ挨拶や返事の一種の新語として流行ったものは、一般語として市民権を得ているものもあり、言葉として新語から一般語になるというパターンを最も多くもっているのがこのもじり系であると考える。ここではこのもじり系の言葉をもじりというカテゴリーとして考えたい。
例)ドロンします・バイビー・ホの字・めんごめんご・もちのろん・よっこいしょういち・余裕のよっちゃん・当たり前田のクラッカー・許してちょんまげ・わけわかめ・あばよ・おっはー・おそよう・おっとびっくり玉手箱・がってん承知の助・こんばんみー・ざまあみそ漬け・冗談はよしこさん・言うだけ番長・いかれぽんち・インド人もびっくり・エッチスケッチワンタッチ・おかんむり・お邪魔虫・おどろ木桃の木さんしょの木・おニュー・キボンヌ・グリコ・くりそつ・だいじょうX・頑張るんば

○分類語
 「アムラー」や「シノラー」のようなある界隈の人達のことを指す言葉は、その概念が消滅すると、同じくしてその言葉自体も消滅してしまうことが分かる。特に芸能人の模倣をする人たちの集まりのことを示す言葉はその芸能人が芸能界から消えてしまうと自然と消滅することから言葉の寿命はかなり短いと考えることができる。今でこそファッションも多様化がトレンド化し、海外のブランドが日本に数多く進出してきたこともあり芸能人を模倣することだけがオシャレの最先端とは言われなくなったが、かつてはそうすることがオシャレとされていた。時代を感じることではあるが、未だに現代おいても芸能人や各界著名人の模倣をする人は多くいて、またいずれ新たな言葉が生まれてくるだろう。模倣する人たちとはまた少し異なるが、現代では自分が応援するアイドルグループやバンドの名前をもじって自分たちに一つのグループ名のような名前を付けることがよくある。例えば関ジャニ∞のことを応援する「エイター」や嵐のことを応援する「アラシック」などがあり、ファン同士の団結を強めたり、そのグループに属しているという安心感のようなものが得られたりする効果もあるのではないだろうか。ネーミングセンスも多様化してきており、かつてはその対象の語尾に「-er」を付けるだけのものが多かったのに対し、最近では前述したようなスタイリッシュなネーミングが一般的になってきている。これらをひとつのカテゴリーとして分類語と置きたいと思う。これはある界隈の人達のことを直接的に指す言葉だけでなく、「しょうゆ顔」や「バイリンギャル」のように、いわゆる隠語的に指す言葉も含める。
例)バイリンギャル・ミーハー・おばたりあん・かわい子ちゃん・あっしー・アムラー・サユリスト・シティボーイ・シノラー・しょうゆ顔ソース顔・スッチー・タカビー・チーマー・おかちめんこ・おたんこなす

○借用語
 新しい言葉が生まれるひとつのパターンとして、ある分野や業界でしか使ってこなかった隠語的な意味が含まれる言葉が一般化し、日常会話のフレーズとして当たり前のように使われるようになるということがある。その業界の人が使っていたような専門用語が世の人に認知され始めると、今まで使っていた言葉にマンネリを感じていた人たちが新鮮さを求めて使い出す。その言葉が日常会話にうまくはまると一般化し、当たり前のように新聞やテレビでも使われ始める。このような言葉を借用語というカテゴリーとして考えたい。借用語が死語となる原因は一つで、それよりもスタイリッシュでその時代の生活にマッチしている新しい言葉が生まれることである。
例)ばっくれる・めろめろ・もらい風呂・グロッキー・すっとこどっこい・せこい・アベック・ランデブー・社会の窓・タッパがある・ちょんぼ・エスケープする

○模倣語
 模倣という言葉が出たが、芸能人を模倣するというような流れが言葉の世界にもあり、芸能人が使っている言葉を使うことでその人の精神世界に近づいたように錯覚する効果があるため、私たち一般庶民はこぞって彼らが言った言葉を使いたがる。最近ではサッカー選手の長友佑都が言った「アモーレ」という言葉などがそれに当たり、一時期はみんなが面白いように使っていたが、しかしもうすでに消滅の道を歩み始めている。その言葉が流行した時はあまりのインパクトに多くの人が盲目になりその言葉を使っただけで笑いが起こったりするものだが、ある程度時間がたつとその言葉は芸能人が言うからこそのものであって、私たち一般庶民が使っても何も面白くないことに気づくのである。それに気づいてしまえば後は早いもので、消滅していくのにそんなに時間はかからない。これらのような言葉を模倣語としたいと思う。
例)アウトオブ眼中・マッポ・いってきマンモス・バイなら・ひでき感激・バッチグー・マンモスうれぴー・あじゃぱー・いただきマンモス

○省略語
 次に「朝シャン」や「胸キュン」などの二つ以上の言葉を省略してできている言葉に注目したい。これらの言葉は企業などが広告文句のひとつとして考えたものが多く、流行するものはそれまで多くの人がひとつに定まらずにいろいろな形で表現してきた言葉が、たまたまある企業が広告で使っていた言葉とうまく当てはまり、また多くの人がその言葉を目にしたことで一気にその言葉に統一されていくという流れである。言葉を省略するという発想はどの国にもあるものだが、「朝のシャンプー」や「胸がキュンキュンする」というような、文を省略して単語を作るということをするのは日本人独特の発想であり、それを可能にする日本語の面白さに気づくことができる。省略の形は様々で、単語を動詞化する際にも省略が用いられている。例えば、「タクシーに乗る」という言葉を「タクる」と言ってみたり、「トラブルが起きる」を「トラブる」と言ってみたりと、なんにでも応用が利く便利な活用である。特に語尾に「る」を付けて文を省略する言葉を「る言葉」と言い若者ことばのなかでもかなりの量を占める造語法であるが、昨今若者の日本語の乱れとしてよく批判の対象とされてきた。しかし、実は『春色梅美婦禰』(1841)に書かれている「退治る」が最も古いものであり、最近できた造語法ではないことと、昔の人にも言葉を省略するという感覚が備わっていたことが分かる。しかし、これらの言葉も死語と言われるときは必ず来る。省略されたことでどれだけ便利で汎用性の高い言葉として生まれ変わったとしても、それよりも時代のニーズに合った言葉が生まれてくるとそれはたちまち消えてしまう。これらの言葉を省略語としたいと思う。
例)ナウい・花金・・マブダチ・マイコン・胸キュン・レーコー・じゃむる・朝シャン・イカす・イチコロさ・ダベる・チョベリグ・チョベリバ・KY・MK5・着メロ・着うた・バタンキュー・タンマ

○文化語
 最後に時代の流れによって消えてしまった言葉について見ていきたい。差別用語やスラングのように規制によって淘汰されていった言葉はここでは問わない。時代が進むにつれて様々な発明や文化の発展があった。テレビなどはその代表例で、テレビは1980年代に普及し始め、当時のブラウン管式のテレビは今のリモコンで操作するものではなく、ダイヤル式のチャンネルだった。そのためチャンネルを変える際はダイヤルを右に左に回していたことから「チャンネルを回す」という言葉が生まれた。この言葉は、当時は新語として世に生を受けたわけだが、新型のテレビが開発されリモコンがすべてボタン式になってからはチャンネルをまわすという概念がなくなってしまった。しかし当時のテレビを愛用していた世代の人はいまだにチャンネルを回すという言葉を使っているため、まだ完全に消滅せずに根強く生き残っている。「パーマ屋」もこの類で、一昔前は今でいう美容院の主な役割が髪を切ることのほかにパーマをあてるということだったため「パーマ屋」という言葉が浸透したわけだが、最近では美容院がパーマだけではなくカラーやメイク、ファッションのコーディネートまでその手を伸ばしていることから、「パーマ屋」という言葉では少々言葉足らずになってきているのが現状で、「パーマ屋」が死語になりつつあるのも理解できる。このようにその当時の文化よって生み出された言葉が時代とともに淘汰され、死語となった言葉を文化語としたいと思う。
例)ハイカラ・マッポ・パーマ屋・アベノミクス・チャック・チョッキ・チャンネルを回す
 
 以上のように、死語をひとつずつカテゴライズしていくと、もじりの数が最も多いことがわかる。これは今回戦前に文化的な理由で生まれ消滅していった死語を対象として扱わなかったことが理由として考えられるが、国による規制のように社会的な理由で淘汰されてきた言葉ではなく人々の心理的なおよび文化的な理由によって消滅したものを対象としたため、しかるべき結果になったのだと考える。
 では、アンケート調査によって分かった今の大学生が死語と認めた言葉はどのようなカテゴリーが多いのかを見ていきたい。大学生が死語と認めた言葉を網掛にして示してあるが、ギャグともじりに集中しているのが分かる。なぜほかのカテゴリーには死語と認められた言葉が少ないのだろうか。これは単純な言葉の認知度によるものだと考える。世間的に死語だと言われている言葉でもその言葉を知らなければ死語と判断することはできない。文化語にあるような言葉はもはやその時代に生きた人しか意味がわからず、使っている若い人がいるとしたら、それは親が使っているからそのまま習慣として使っているという場合が多い。逆に、ギャグやもじりにあるような言葉は当時爆発的に流行したものが多いためテレビや雑誌などのメディアによって聞いたことがある、もしくは見たことがあるというような言葉がほとんどである。認知されていないという点では省略語に死語が少ないことも説明がつく。一般人が会話の利便性を求めて言葉を省略してできたものであるがゆえに言葉としては生きるかもしれないが映像として残り若者に伝わるものではないため死語であると認識するどころか言葉の存在を知らない人も少なくないだろう。分類語に死語が少ないのもそれに由来しているものと考えられる。「アムラー」や「オバタリアン」のように完全に言葉として消滅してしまった言葉か「ミーハー」や「しょうゆ顔」のように今もまだ使われ続けている言葉の二極化が最も強く表れているものであるため、今の若い人たちにとっては知っている死語か、単なる知らない言葉として認識されているのだろう。
日常会話の中でかつては盛んに使われていたが今は死語とされているような言葉は現代の大学生でも認知しており完全に死語として認識されている。一方、もはや古すぎて現代の大学生認知されないような言葉は若い人たちにとっては逆に新鮮味を感じられるような言葉であるため使っても冷ややかな目で見られることはない。ここで問題なのが、言葉が死語とは認知されないが言葉の意味も分かっていないためコミュニケーションが成立しないことである。言語社会においてのコミュニケーションは、双方が言葉の意味に共通の理解をしていてこそ成り立つものであり、この場合一方が理解していないことによってコミュニケーションが成立しないのだ。私はこれこそが死語を使うことの弊害であり、私たちが意識下に死語を嫌う原因となるものだと考える。
新語と死語の発生方法の関連性としては、分類語・借用語・模倣語・省略語・文化語は比較的死語になりにくくギャグともじりはその言葉の絶対数も多いこともあり比較適死語になりやすい傾向があることがわかった。
 また、死語の発生理由として以下の仮説を立てたが、これに加筆修正を加えて生きたいと思う。
【仮説】
死語が生まれるためには、以下の2パターンがある。
@ それに代わる役割を持つ新語の発生。
A その言葉の持つ概念自体の消滅。
→上記の2つのパターンに加えて、もう1パターンあることがわかった。これは心理的要因によるもので、死語となった言葉に対して面白さを感じなくなることである。言い換えると、娯楽的要素が大変強くその瞬間に爆発的なインパクトを生み出すためだけに作り出されたギャグなどの言葉は、受け取る側に飽きがくるとその一気に消滅してしまう。その言葉を使えば使うほどインパクトは薄れてくるし、笑いも生まれなくなってくるため、人々が使用する言葉の選択肢から自然と外れてくるのである。このことから3つ目のパターンとして「その言葉の娯楽的要素の欠如」を加えたい。

死語を生み出す心のメカニズム

 これまで死語をその構成から考察し、どのような言葉が死語となりやすいのかを言語学的な見地から考えてきたが、ここからは私たちが死語を生み出す心理的要因について考えていきたい。意識調査として行った2つ目のアンケートの結果から、私たちが死語を生み出す心のメカニズムに迫っていきたいと思う。

<死語アンケート2>
Q1 死語とはどのようなイメージですか。

1. 使われなくなった言葉…55人
2. 使うと恥ずかしい言葉…41人
3. 使ってはいけない言葉…2人
4. その他(       )…2人
    ・年配の人が使う言葉…2人



 ここでは、今の大学生が死語に対してどのようなイメージを持っているかを調べた。辞書に載っているような定義通りのイメージを持っている人が55パーセントを占め、使うと恥ずかしい言葉と考える人が41パーセントを占めている。使ってはいけない言葉だととらえている人とは少なく、死語というものにたいしてある程度受容していることがわかる。その他として、年配の人が使う言葉だという認識を持っている人がいたが、これも間違った認識ではなく、当時流行した言葉を使っていた年代の人は若い人からすれば年配の人であり、その人たちがいまだに根強く死語を使い続けている証拠であると考える。


Q2 あなたは死語を使う人をどう思いますか。

1.面白い…5人
2.話が通じない…11人
3.絡みづらい…81人
4.その他(       )…3人
  ・面白くない…1人
  ・昔の人…1人
  ・かわいい人が使うとかわいい…1人



 残念ながら、死語を使う人に対していい印象はもっていないようである。最も回答数の多かった「絡みづらい」というのも、二番目に多かった「話が通じない」ことに関連していることで、コミュニケーションが成立しないことは現代の若い人のみならず、どこの国のどの世代の人でも望まないことであるため、これらの意見が多かったのだと考える。少数意見だが、かわいい人が使うとかわいいというのは個人的に面白い意見だと思った。死語を使う人は世間的に冷ややかな目で見られがちになるものだが、容姿が整っている人が使うとそれはギャップという効果を生み、逆にプラスのイメージに変わることがある。顔面至上主義の風潮がこのようなところにまで影響を及ぼしているようだ。またこの死語を使う人に対して抱いているイメージが周りに浸透し無意識に敬遠していることからも、自分が死語を使ってしまったときには恥ずかしいという感情が生まれるし、ひいてはそれがまた言葉の死語化を加速させることにつながるのだろう。


Q3 あなたは友達が死語を使って話しかけてきたらどうしますか。

1. それは死語だと指摘する…28人
2. 指摘せずにそのまま会話する…63人
3. 意味を尋ねる…6人
4. その他(         )…3人
   ・いじる…3人


 指摘せずにそのまま会話を続けるという意見が63パーセントと最も多かったが、これは日本人の内向的な性格であるという特徴が大きく反映された結果となった。今回は友達から死語を使って話しかけられたらという設定だったため「死語だと指摘する」と答えた人は28パーセントいたが、実際に目上の人や知らない人から死語を使って話しかけられたらおそらく指摘することはできないだろう。また「意味を尋ねる」という人が少なったことについて、死語を指摘することもできないし、意味を尋ねることもできない私たちは、死語を使っている人に対して絡みづらいというイメージを持ち、彼らを敬遠してしまうのだろう。

 上記の3つのアンケートの結果から、死語を使うことでコミュニケーションに影響が出るということが、私たちが死語を嫌うもっとも大きな要因であることがわかった。いつの時代でも言えることかもしれないが、会話というものは伝達の手段にとどまらず、仲間内での仲のよさを再確認する重要なツールであり、一種の娯楽としてその地位を確立している。特に現代の若者にとって娯楽の要素が重要視されており、会話のテンポや面白さを求めた末に面白さを感じなくなった言葉は淘汰され死語が生まれる。省略語などはまさにそれで、会話のテンポのよさだけを求めた人たちが生み出した言葉も、それよりも小気味のよい新しいことばがうまれるとすぐに死語となってしまう。しかし死語といっても消滅してからある程度の月日を経るとそれは知らない言葉となり、また新たな新語としての再ブームが到来する可能性を私は感じた。言葉の流行はファッションのように流行がめぐりめぐるというような単純なものではないが、過去に流行ったものなら一度は大多数の人が面白いと感じた言葉であり、時代とともに価値観が変わっているといってもその感性はどこか現代の人の中にも受け継がれているはずである。その感性とうまくはまった言葉があればおそらく死語となった言葉の再流行は期待できる。再流行するためには一度完全に消滅する必要がある。しかし問題なのが、アンケートからも読み取れるように、死語が死語ではなかった時代を生きた人たちがまるで流行の最先端にいるような得意顔で、死語と認識せずに使い続ける事例が多々見られることである。そのために消滅するどころか死語が死語として生き続けるというパラドクスを生んでしまうのである。現代の若者は死語を使い続ける彼らを嫌う傾向にあることがわかったが、しかし私たちはそれを指摘せずに容認してしまうため、彼らは今後も何のためらいもなく使い続けるだろう。これがまた死語が死語として生き続けることにつながり、なかなか完全に消滅しない。そしてそのような死語を使っている人と会話すると、死語を使う古い人間だというレッテルを意識下に貼ってしまい、そこに微妙な空気感が発生してしまう。その空気感を嫌って人は死語を使うことを避けるのである。少数意見として出たが、死語を使っても許される人もいるということはとても興味深いものだった。それは容姿が整っているという絶対条件がつくものであるが、このことから必ずしも死語に嫌悪感を抱いていることではないことがわかる。このことから、私たちは死語が嫌いなのではなく、死語を使うことで生まれるその場の空気感を嫌うことがわかった。特に、場の空気を読むことが美徳とされている日本では、その嫌な空気感を作り出すことはご法度であり、若者にもその意識はある。しかし誰かが死語を使ったことでその空気感は作り出されてしまう。そのような嫌な空気感を作り出す死語を使うことを嫌う私たちの心に死語を生み出す本質があるのだと考える。
 そもそも私たちはどのような基準で死語だと判断しているのだろうか。第一節でも述べたようにそこに明確なラインがあるわけではない。人々がある言葉を死語と判断するとき、私は「恥ずかしい」という感情がそこにはあるのではないだろうか。自分が死語だと思っていた言葉を使っている人と会話していると、周りから見ると「死語を使ってコミュニケーションをとっている人たち」とくくられ、そうカテゴライズされることが恥ずかしいと感じるのであると考える。ではなぜ恥ずかしいと感じるのだろうか。人が恥ずかしいと感じる時は「自分が人と違う」と感じた時である。周りの人は使っていない言葉を使っている自分が「人と違う」と感じ、それが恥ずかしいという感情として認識されるのである。「人と違う」感を生み出さないために人はみんなと一緒を求め、そのためには多数派に収まることをいとわない。特に日本は古くから人前で恥をかかないことを美徳とし、現代でも親からのしつけや学校教育にもそれが色濃く残っている。小さいころからその「恥の文化」のもとで育ってきた私たちは当然「人と違う」感を嫌うし、またそれが死語化を加速させる心のメカニズムなのではないかと考える。

第四章 まとめと今後の課題

 では、今回の研究のまとめを述べていきたいと思う。
 今回の研究では、新語と死語の発生方法の関連性について考えた。発生の方法に関しては言葉の構成を基準に考察し、どのようなカテゴリーの言葉が死語になりやすいのかを考えた。言葉のカテゴリーは米川の新語の発生方法を参考にして私が今回の研究を進める上で独自に考えたものであり、ギャグ・もじり・分類・借用・模倣・省略・文化の7種類を提示し、死語として考えた100項目の言葉をカテゴライズした。これによりそれぞれのカテゴリーの言葉がどのような原因をもって消滅して言ったのかを考えていく中で、娯楽的要素の強い「ギャグ」や「もじり」の言葉が新語として生まれる絶対数が多く爆発的に流行することがあるため後世にも残り、今の若者にも認知されていることから死語として認識されやすいということがわかった。また、それぞれのカテゴリーごとの分析を包括的に見てみると、死語が生まれる理由として大きく分けて3つのパターンがあることがわかった。@それに代わる役割を持つ新語の発生、Aその言葉の持つ概念自体の消滅、Bその言葉の娯楽性の欠如の3つで、これらのパターンにひとつでも当てはまればその言葉は死語となる。このパターンは今後死語の研究をしていくにあたりひとつの基盤となっていくだろう。
死語を言語学的に分析していくだけではなく、死語を心理的側面からも研究した。私たちが死語に対して抱いている感情もアンケートによって探ることで、私たちが死語を生み出す心のメカニズムを解明した。私たちが会話の中で死語を使うことでそこに微妙な空気感が生まれ(私たちはその空気感を嫌う)、そのような空気感を作り出す死語を使うことを避けるようになる。また死語を使う人には絡みづらいという印象があるため会話が弾まない。このようなプロセスを普段の生活では意識することはないが、コミュニケーションが成立しないことで相手との間に嫌な空気感を作り出すことや古臭い言葉を使っているというレッテルを貼られることに恥の感情を覚えることが死語を生み出す要因となることがわかった。
 今回の研究の反省として、死語として100項目の言葉を選出しアンケートにて死語を判断してもらったが、恥ずかしさの指数を基準に考えたことで明らかに死語である言葉も死語と判断されない事例がいくつか生じてしまったことが挙げられる。死語の概念が恥ずかしさだけでは計れないものだと今回の研究でわかったため、ほかの観点からも研究し考察を加えていくべきだと考え、これを今後の課題としたいと考える。また、今回は大学生を対象にしたアンケートだったため若い年代の人の捕らえる死語というのが前提だったが、過ごした時代によって死語の捉え方が異なるということも踏まえて、年代別のアンケートを実施することで各年代が思う死語を考察してみるのも面白いかもしれない。

終章 おわりに

第一節 おわりに

 今回の研究を進めるにあたり、さまざまなご指導を頂きました野浪正隆教授をはじめ、アンケートに協力してくれた大阪教育大学の学生の皆様、研究が行き詰った際にさまざまな刺激をくれた野浪研究室の同志達に深く感謝します。

第二節 参考資料

山口仲美 著. 若者言葉に耳をすませば. 講談社, 2007.7
川崎洋 著. 流行語. 毎日新聞社, 1981.11
国語学会 編. 国語学大辞典. 東京堂出版, 1993.7
山田 隆信. 日本人と「恥の文化」. 目白大学短期大学部研究紀要 / 目白大学短期大学部 編.. (44) 2008.1. 1
長野晃子 著. 「恥の文化」という神話. 草思社, 2009.10
米川明彦 著. 新語と流行語. 南雲堂, 1989.12
米川明彦 [著]. 若者語を科学する. 明治書院, 1998.3
イミダス編集部 編 ; 大塚明子 注解. 新語死語流行語 :. 集英社, 2003.12
別冊宝島編集部 編. 〈難解〉死語辞典. 宝島社, 2014.3
米川明彦 編. 日本俗語大辞典. 東京堂出版, 2003.11
米川明彦 著. 若者ことば辞典. 東京堂出版, 1997.3.