第五節 『避暑地の猫』宮本輝

1 登場人物

2 あらすじ

 物語の舞台は軽井沢である。主人公は、久保修平。彼は三四〇〇坪という広大な別荘を持つ布施家の別荘番の息子として生まれる。彼には足の悪い父と美しい母、そして二歳年上の姉がいる。この家族は、家と言うよりも、小屋と呼んだほうがふさわしいところで暮らしている。布施家の別荘は高い門柱と、真鍮製の特別誂えの門扉があり、苔と蔦が絡まっている。この別荘は名だたる財界人や政界人の別荘と比べても、ひけをとらないばかりか、その門の風情は、一種神秘的なたたずまいをこの広大な邸宅に与えているのである。

 しかしこのおおきな別荘は同時に、背徳のドラマの舞台でもあった。別荘の主人が別荘番の美しい妻と関係し、さらに、その娘とも関係をもつのである。主人公の修平は十七歳の多感な年齢のとき、その秘密の大筋を知り、殺意を抱くのである。

 主人公の修平は現在、三二歳。ある日、スナックで酔っ払いに絡まれ、みぞおちを強打され意識を失い、救急車で病院に運ばれてくる。膵臓破裂で緊急手術を受けたが、いまは、じきに退院できるまでに回復している。

 ところで、殺人の時効は一五年である。時効が成立した翌日、修平はベッドの上で、雨が降っているために急遽軽井沢行きを取り止めた主治医の鍋野医師に「嘘か誠か判別しかねる、告白でもなく懺悔でもなく、ある種の郷愁に包まれた回想でもない、不思議な一夏の出来事」を話して聞かせるのである。

3 作品に登場する猫についてわかること

4 猫の事件との関わり方

5 その他

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