第六節 『アーサー・カーマイクル卿の奇妙な事件』

               アガサ・クリスティー

1 登場人物 

2 あらすじ

 この作品に登場する猫は、実は、実体を持たない幽霊で、息子のために財産の乗っ取りを狙う、カーマイクル卿の後妻に殺されたため、復讐をくわだてている。ところが、彼女は、猫の飼い主であった。なぜ、自分の飼い猫を殺すようなことをしたのか。

 この謎は、カーマイクル卿の財産を継ぐべき長男アーサーの奇妙な行動と対応する。彼はものを言わなくなり、背中を丸め、全身の筋肉をゆるめて、奇妙なほどひっそりと坐り、ジーッとこちらをうかがっている。飲むものと言えばミルク、それも口をつけて舐めるのである。顔中口にしてあくびをしたかと思うと、ネズミを追いかけ、夕食後はカーマイクル夫人の膝に頭をのせて満足そうにしている。

 一方、猫の幽霊の方は威嚇的になり、ついに夫人を攻撃する。そして、謎は明らかになるのだが、作品中にはっきりと結末が書かれているわけではない。しかし、最後に絶対に動かせない事実が二つ書かれている。「一つは廊下の椅子のクッションが掻き裂かれたこと。もう一つはもっと重大な意味を持ったことだ。図書目録が見つかったので詳しく調べた結果、書棚から無くなった本というのは、古い奇妙な書物で、人間を動物に変性させる可能性に関するものだった。」このことから、夫人はアーサーを猫に変えてから殺したのではないかということが予想できる。

 

3 作品に登場する猫についてわかること

  ・きれいな灰色のペルシャ猫

  ・小鳥の群れに近づいていっても、小鳥は飛び立ちもしない。

4 猫の事件との関わり方

  ・姿は見えず、鳴き声だけだが、夫人を殺そうとする。

  ・長男のアーサーは夫人によって猫に変えられていると思われる。

 

<サスペンスについて>

 この作品のサスペンスは、全て猫に関連している。物語の中心となる事件は、カーマイクル夫人が、義理の息子であるアーサーを殺して猫に変えてしまうというものである。そして、アーサーを猫に変えるかわりに殺されてしまった本物の猫が幽霊となって、夫人に復讐を遂げるのである。そのため、メインとなるサスペンスは、第3段落の「アーサーの様子から何を連想するのか?」と「夫人はなぜ猫がいないというのか?」と第7段落の「夫人が猫に殺されかけるのはなぜ?」という三つのサスペンスである。そこで、本作品のサスペンス表を見てみると、これら三つのサスペンス以外は全て、第5段落において解決しているのである。本作品を読んでいると、第5段落あたりで幽霊の猫は一体何を意味するのか、アーサーがなぜ猫のようになっているのかなど、疑問が積み重なってくる。しかし、第5段落で、猫が殺されていることが分かり、幽霊の猫が夫人を威嚇していることが判明するので、幽霊の猫が何らかの目的を持って行動していることが想像できる。だから、謎の範囲が狭められて読み進めやすくなるのである。また、この作品には伏線がなく、全てが疑問の形で読者に投げかけられている。

 次にサスペンスの長さについて調べてみた。

 

 <サスペンスの長さ>

   『アーサ―・カーマイクル卿の奇妙な事件』(全609行)

サスペンスの内容

行数(行)

全体に対する割合(%)

@セトルは何を隠しているのか?

245

40

A猫を見たことを告げるとセトルが怯えたのはなぜか?

116

19

Bアーサーの様子から何を連想するのか?

239

39

C猫の姿が見えないのはなぜ?

64

10

D夫人はなぜ猫がいないというのか?

349

57

E猫の声は誰を威嚇しているのか?

38

6

F夫人が猫に殺されかける。なぜ?

131

21

     
平均

168.9

27.7

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