終章 本論のまとめ

 本論では、推理小説に登場する猫がどのように描かれ、どのような役割を果たしているのかを探るために作品分析を行なってきた。

~構成分析より~

  八作品のサスペンスを図式化した結果、その仕掛け方を以下のようなパターンに分け

 ることができた。

  1. 偽の解決をつくる
  2. 新しい謎を追加し、古い謎を解決せずに消してしまう
  3. 結果を読者の想像に任せる形で二つ以上の解決をつくる
  4. 同じ謎を別の言い方で繰り返す

 そのサスペンスには次のような特徴が見られた。

     ・偽の解決を含むサスペンスは通常の約2倍の長さである

     ・謎の繰り返しは長編小説においてよく見られる

     ・短編小説と長編小説のサスペンスの長さは作品全体に対する割合ではあまり 

      差がない

     ・メインのサスペンスは、サブのサスペンスよりも長く継続する

     ・導入部分でのサスペンスは、ストーリー全体を通して最後に解決する

 

 以上のことを踏まえて猫とサスペンスの関わりを探ってみたところ、次のような特徴が見られた。

   ▽猫とサスペンスの関わり

     ・猫の登場するメインの謎は、読み手の注意を猫に向かせ、事件解決のヒント 

      を与える

     ・猫の登場するサブの謎は、重要な伏線に結びつく

     ・猫の登場するサブの謎は、メインの事件から目をそらせる気分転換のような

      役割を果たす

     ・猫の登場する伏線は、登場人物の無駄話などでカモフラージュされているが

      事件解決の重要な鍵を握っている

 

 〜叙述分析より〜

   ▽推理小説に使われる猫の性質

     ・神通力のような不思議な力を持っている

     ・人の後をどこへでもついていく

     ・「シャーッ」という威嚇の声をあげる

 

   ▽猫の種類による違い

     ・白猫…………爽やかで高貴な印象をもたらし、飼い主に非常に愛されている

            残酷な場面でもあまり恐怖は感じさせない。

     ・黒猫…………魔女の使いとも言われている不気味な姿を利用し、作品に怖さ

            を出す。黒猫の存在そのものが恐怖と結びつく。

     ・ペルシャ猫…裕福な家に飼われているが、決して飼い主に懐かない妖しい魅

            力を放っている。残酷な場面では姿を見せないので、読み手は

            明示されている事実からペルシャ猫がした行為を想像し、恐怖

            を感じる。

 猫には人間を本質的に畏怖させ、妖怪的な存在としての想像力を喚起させる、不思議な力がある。この性質は、推理小説で起こる殺人事件などの謎と相俟って、恐怖やミステリアスな雰囲気を醸し出すのである。

 

今後の課題

 今後の課題は、サスペンスどうしの関連を調べたり、叙述分析の範囲を広げたり、やり残したことを仕上げることである。

 今回は八作品の分析にとどまったが、猫の登場する推理小説は他にも数えきれないほど存在する。他の推理小説においても猫の果たす役割を探り、さらに恋愛小説や童話についても分析を進めていきたい。

 

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