雑誌記事の表現特性
〜雑誌『AERA』を資料にして〜






指導教官 野浪正隆教官
大阪教育大学 教育学部
小学校教員養成過程 国語専攻
国語表現ゼミナール
962226   田谷 倫之







<目次>
序章 はじめに
 第一節 課題設定の理由
 第二節 課題解明の方法
 第三節 テキストについて



第一章 雑誌記事の文章構成
 第一節 タイトルと本文の関係
 第二節 本文の構成
 第三節 冒頭部の機能
 第四節 終結部の機能



第二章 雑誌記事の叙述
 第一節 タイトルの叙述
 第二節 冒頭部の叙述
 第三節 終結部の叙述



終章 まとめ 今後の課題











序章 はじめに


第一節 課題設定の理由

 以前から雑誌『AERA』の記事を読んでいて「おもしろい」と感じることがあった。何気なく読んでいるのだが、気がつくと記事を最後まで読んでいることがよくある。それは、「私が記事の内容そのものに興味を持っている」ことと「記事に興味をひかせる工夫がされてい」て、それに興味をひかれたことが理由ではないかと考えた。では、その「記事の興味をひかせる工夫」とはどのようなものなのか、ということを明らかにしたいと思い、この研究を始めようと考えた。




第二節 課題解明の方法

 しかし、一言で「興味をひかせる工夫」といっても、それは様々なものであるし、また「興味」というものについて考えることも大切である。「興味をひかせる工夫」が、本当に「興味をひかせる」のかどうかについても確かめなければならない。よって、まずは雑誌記事の「興味をひかせる」であろう部分について、その表現特性を明らかにしていくことから始めようと考え、記事の部分分析をすることにした。
 雑誌記事には「タイトル」「リード」「本文」がある。読み手の興味をひくものとして、「タイトル」と本文の「冒頭部」があると考えた。「タイトル」と「本文」はどのような関係になっているのか、またどのような書かれ方をしているのか。そして「冒頭部」はどのような機能を持っていて、どのような書かれ方があるのか、について見ていくことにした。また「本文」では興味を持続させるための工夫があるのではないかと考え、本文の構成を見ることにした。そして、「冒頭部」に対する「終結部」では、どのような機能を持っていて、どのような書かれ方をしているのかを見ていくことにした。それぞれを分析していくことで雑誌記事にどのような表現特性があるのか見ていくことにした。

 タイトルと本文はどのような関係になっているのか──→第一章 第一節
 タイトルはどのような書かれ方をしているのか──→第二章 第一節


 本文はどのような構成で書かれているのか──→第一章 第二節


 冒頭部はどのような機能を持っているのか──→第一章 第三節
 冒頭部はどのような書かれかたをしているのか──→第二章 第二節


 終結部はどのような機能を持っているのか──→第一章 第四節
 終結部はどのような書かれ方をしているのか──→第二章 第三節




第三節 テキストについて

 テキストは雑誌『AERA』の記事(目次、投稿欄、広告以外)を、ここで扱うテキストとして選んだ。その理由は、私が記事に興味をひかれることが多い、ということも挙げられるが、主に次のような理由で選んだ。
 雑誌によっては、一つの分野に絞った記事が書かれているものもある。そのような雑誌の場合、読み手は雑誌を買う時点で興味を持っているのであって、「読ませる工夫」が見付けにくいのではないか。
 また雑誌記事全般という広い範囲のテキストでは、その表現に特性が見いだしにくいのではないか。
 このような理由でテキストを『AERA』に選んだ。
『AERA』は朝日新聞社から出版されており、基本的には一週間毎に刊行されている。記事の内容は、事件、政治、スポーツ、芸能などの出来事が、国内外を問わず書かれている。
 またここで扱う資料は、『AERA』の1999年6月21日No.26〜1999年12月20日No.53までのものに書かれた記事を資料とした。
(論文中にいくつか記事の事例をあげている。それらは全て横書きで書かれているが、本来は全て縦書きのものである。)








第一章 雑誌記事の文章構成




第一節 タイトルと本文の関係

 記事には全てタイトルが付けられる。読み手はタイトルを読んでから本文に移る。だから、一番始めにタイトルを読むことになる。つまり、タイトルは読み手と記事との、出会いの場であると言える。では、雑誌記事におけるタイトルと本文の関係は、どのような関係になっているのだろうか、事例を挙げながら見ていきたいと思う。

〔事例1〕

タイトル:お受験殺人主婦の心の闇(『AERA』’99.12.6 No.51)

リード:二歳の女の子が顔見知りの専業主婦に殺された。
   動機の「母親同士の心のぶつかりあい」は、幼稚園ママに共通の悩みだ。

本文:

  1.  (1)東京都文京区大塚(おおつか)の私立音羽(おとわ)幼稚園に長男を通わせる二人の専業主婦がいた。(2)一人は、僧侶(そうりょ)の妻、山田(やまだ)みつ子容疑者、もう一人は会社員、若山一昭(わかやまかずあき)さんの妻。(3)ともに二歳の長女がおり、家族四人で近くのマンションに住んでいた。
  2.  (4)そして事件は起きた。
    (5)警察の調べによると、山田容疑者は十一月二十二日午前、長男を迎えに行った幼稚園で、若山さんの長女春奈(はるな)ちゃんを捕まえ、トイレで首を絞めて殺した。(6)遺体はバッグに入れて運び、静岡県の実家裏庭に埋めた。(7)公開捜査になって二日後の二十五日午後、山田容疑者は夫に付き添われて出頭し、殺人、死体遺棄の容疑で逮捕された。
  3.  (8)動機について山田容疑者は、
    「春奈ちゃんのお母さんと付き合いがあった。その中で、長い間の心理的なもので、表面的にではなく、心のぶつかりあいがあった。言葉では表せない」
    と供述しているという。

    教育熱心な土地柄
  4.  (9)山田容疑者は、地元の高校を卒業後に看護婦資格を得て、静岡市内の総合病院などで勤務した。(10)五年ほど前に結婚して上京、仕事を辞めて専業主婦になった。
    (11)夫が副住職をしている寺の住職によると、山田容疑者は日曜に法事の手伝いに来ることもあった。
  5.  (12)「静かだが人付き合いはよかったと思う。夫婦仲も良かった。」
    近所の飲食店経営者は、家族で歩いている姿を数回見かけた。
    「だんなさんが感じのいい人で、よくあいさつしました。奥さんの方はあまり覚えていません」
    (13)一方で、山田容疑者の夫は、「指定席」があるほど常連のラーメン屋で、よく一人で晩酌していたという。(14)近所の店には、自転車に子ども二人を乗せて夫だけが買い物に来ることが多かったという。
  6.  (15)山田容疑者と若山さんは、音羽幼稚園の行事などを通して親しくなったようだ。(16)ここは小規模で、近所でも評判の「良い幼稚園」だ。
    (17)「子どもを『良い学校』に通わせるために引っ越してきたり、越境入学させたりする人もいる」
    と、住民が言うように、音羽周辺は教育熱心な土地柄だ。(18)周囲には国公私立の幼稚園や小学校がひしめき、みんな「お受験」して当たり前。(19)中でも音羽幼稚園は、有名小学校を受験する人が多い「お受験幼稚園」として知られている。
    (20)山田容疑者も若山さんも、そうした環境にいた。
  7.  (21)幼稚園関係者によると、山田容疑者と若山さんの長男と長女は今秋、ともに国立大学付属小学校と国立女子大付属幼稚園を受験した。(22)だが、若山さんの子どもたちは合格、山田容疑者の子どもたちは不合格だったという。
    (23)これが事件の引き金になった可能性はある。
  8.  (24)主婦の心理について研究している白百合(しらゆり)女子大の永久(ながひさ)ひさ子助手(発達心理学)が、六十代と三十、四十代の専業主婦を比較したところ、子育ての意味は大きく違った。

    子育ての成功とは
  9.  (25)かつてはイエ意識も強く、多産多死で、「男の子を健康に育て上げる」だけで評価された。(26)だが今は子育てが昔ほど難事業ではなく「働きながらもできる仕事」になったため、専業主婦は「自分の仕事は子育て」とプライドを持ちにくい。(27)自分の価値が社会的に評価されるために最も分かりゃすいのが子どものお受験だ。
    (28)「専業主婦は、アイデンティティーを支えるものが子育てしかない。ことに、高学歴や専門職の女性が『子育てに専念するため』仕事を辞めた場合、自分の生き方を肯定するには、子育ての成功、つまりお受験の成功が必要になります。」
  10.  (29)あるカウンセラーは、母親同士の派閥争いに悩む専業主婦を多く見てきた。(30)彼女たちは毎日、子どもが幼稚園にいる午前十時から二、三時間、お茶をしながら噂話(うわさばなし)をする。(31)同調圧力があって抜けられない。(32)子どものいじめのようだ。(33)「幼稚園は『子育てが仕事』と思っている母親同士が、僅(わず)かな差で『良い母度』を競い合う社交場。狭い世界で、精神的に追い詰められ、苛立っていく。専業主婦同士のいざこざは構造的なものです」
  11.  (34)殺人は別だが、そこに至る経過には共感する女性も多いだろう。
タイトル:お受験殺人主婦の心の闇
I (1)(2)(3) 人物の設定
II (4)(5)(6)(7) 事件のいきさつ
III (8) 動機について
IV (9)(10) 容疑者の説明
V (11)(12)(13)(14) 容疑者の説明や評価(近所の人の言葉で)
VI (15)(16)(17)(18)(19)(20) 動機につながる「幼稚園」の存在 幼稚園の説明
VII (21)(22)(23) 動機につながる出来事
VIII (24) 事件とつながる、「子育て」の話題
IX (25)(26)(27)(28) 「子育て」について(白百合女子大の永久ひさ子助手の言葉)
X (29)(30)(31)(32)(33) 現代の子育ての問題点
XI (34) 「殺人は別だが、そこに至る経過には共感する女性も多いだろう」



 段落のIでは人物を具体的に示し、事件のいきさつについて書かれている。そこでは具体的な「いつ(十一月二十二日午前)」「どこ(東京都文京区)」の「誰(山田容疑者)」が「誰(若山春奈ちゃん)」を「どうした(殺害した)」のかということが書かれる。IIIではその理由(動機)を書いている(「春奈ちゃんのお母さんと付き合いがあった。その中で、長い間の心理的なもので、表面的にではなく、心のぶつかりあいがあった。言葉では表せない」)。この部分では主にタイトルの「お受験殺人主婦の心の闇」内の「主婦」ということと「殺人」については具体的に書かれていることが分かる。
 段落のVI・VIIでは、IIIで書かれた「動機」に関わることついて書かれている。VIで「容疑者と被害者が知り合ったのは幼稚園」だということ、VIIで「若山さんの子どもたちは合格、山田容疑者の子どもたちは不合格だった」ということが書かれ、「これが事件の引き金になった可能性はある。」としている。ここで「お受験」という言葉と「殺人」という言葉に関係を持たせている。段落IV〜VIIまでで、タイトル内で言う「主婦(が)お受験(を理由に)殺人(をした)」が書かれていることが分かる。
 段落のVIII〜XIで、「白百合女子大の永久ひさ子助手」や「あるカウンセラー」の言葉によって、子どもを幼稚園に通わせる母親は「精神的に追い詰められ、苛立っていく」ということが書かれており、タイトル内の「(主婦の)心の闇」について書かれている。

 このようにタイトルで書かれているものは、本文の全体を通して、より具体的に書かれれていることが分かる。



〔事例2〕

タイトル:サリン遺族をムチ打つ卑劣(『AERA』’99.9.6 No.36)

リード:松本サリン事件で死亡した被害者の妹が拉致された。
    遺族の気持ちを逆なでする卑劣な行為の裏に、救いようのない闇が広がる。

本文:
  1.  (1)「私は大丈夫だが、妻や娘の心がズタズタにされて……」
    八月二十四日朝に千葉県習志野(ならしの)市の自宅を出たところ、何者かに拉致(らち)された後、名古屋市内で解放された女子大二年生(19)の父親、阿部和義(あべかずよし)さん(57)は、やつれた顔でそう語った。
    (2)阿部さんは五年前の松本サリン事件で亡くなった長男の信州大生裕太(ゆうた)さん(当時19)の父親でもある。(3)阿部さんはオウム真理教と松本智津夫(まつもとちづお)教団前代表などを相手取り、民事裁判を起こした原告の一人だ。

    におわせる出来事
  2.  (4)松本サリン事件被害者弁護団などが今年六月に発行した松本サリン事件報告には、阿部さんら四遺族の手記が掲載されている。(5)阿部さんは、その中で、遅々として進まない裁判にいらだち、
    「殺された者に対してはどのようなリベンジの手段があるのか」
     と書いている。
    (6)また、阿部さんは記者会見にも積極的に出席し、遺族の苦しみを訴えていた。(7)遺族の代表格と見られていたためにターゲットになったのだろうか。
  3.  (8)今回の拉致事件をにおわせる出来事が二つあった。
    (9)一つは、六月十五日に阿部さんの次女が大学のエレベー夕−に乗っている時、二十歳代後半のボサボサ頭の男が入ってきて、
    「裁判から手を引け」
     と脅した。(10)次女は怖くなって途中の階で降りた。
    (11)二つ目は、この出来事の前の六月初めごろ、無言電話が二十〜三十分おきにかかってきた日があった。(12)阿部さんは仕事で家にいなかったが、家人が電話に出て気味悪がっていたという。
    (13)また六月以降に、家の周りを不審な人間がうろついていたという話を阿部さんは妻や次女から聞いていた。
    (14)たび重なる不審な動きとエレベーター事件をきっかけに警視庁や千葉県警が次女の身辺警護にあたっていたが、夏休み中に試験があって登校することを警察側に報告しておらず、スキを突かれてしまった。
  4.  (15)女子大生が連れ去られた車の中で、「裁判をやめないとひどいめにあうぞ」「(死んだ)兄貴と同じ年になったな」などと脅迫されたうえ、無事解放されていることから、被害者の弁護団や関係者の問から、
    「警告の意味合いが込められ、裁判の妨害を狙った可能性が強い」
     という指摘も出ている。

    弱い者に集中する
  5.  (16)阿部さんは首をかしげる。
    (17)「なぜ、娘を狙うのかさっぱり分からない。ただ、こういうのは弱い者に集中するんでしょうね。私はこれからも粛々(しゅくしゅく)と裁判を進めていく。ともかく早く裁判の決着をつけてほしい」
  6.  (18)松本サリン事件被害者弁護団の紀藤正樹(きとうまさき)弁護士によると、遺族への嫌がらせは、裁判をおこした直後にあった。(19)ある遺族は自宅に、オウム真理教の本を直接送りつけられた。(20)また、無言電話も受けた遺族もいる。(21)無言電話にしろ、ちょっとした嫌がらせにしろ、被害者にとっては何十倍もの心の負担となって覆い被(かぶ)さってくるのだ。
  7.  (22)近所の人たちも、
    「(阿部さんの)奥さんも最近は外出したりしてやっと立ち直りかけていた時なのに、ひどいことをする」
     と怒りを露(あらわ)にする。
    (23)阿部さん宅には、ニュースで事件を知った知り合いやサリン事件の遺族から、阿部さんの家族の安否を気遣い、励ましの電話が何本かかかってきている。
  8.  (24)オウムウオッチャーの第一人者で、ジャーナリストの有田芳生(ありたよしふ)さんは、今回の拉致事件について、
    「印象から言うと、全くのスト−カーの犯行か、はぐれオウムの信者、または信者グループかという感じだ」
     としたうえで、気になる点を挙げた。
    (25)「オウム関係者の逮捕者が四百二十八人。うち三百人余りは釈放されたのですが、マインドコントロールがとけず、心の社会復帰ができないまま、教団にも戻らずにオウムの組織の周辺に浮遊している人間が三百人もいるんです。こういう人たちが一体何をしでかすかという不気味さは拭(ぬぐ)えませんね」
タイトル:サリン遺族をムチ打つ卑劣
I (1)(2)(3) 被害者の父親(阿部さん)の説明
II (4)(5) 被害にあった理由(阿部さんが裁判のリーダ格)
III (8)(9)(10)(11)(12)(13)(14) 事件に関わる二つの出来事
IV (15) 事件がどのような意味を持つか
V (16)(17) 阿部さんではなく娘が被害にあった理由
VI (18)(19)(20)(21) 遺族への嫌がらせの例
VII (22)(23) 阿部さんの周りの人たちの言葉
VIII (24)(25) ジャーナリストの有田芳生の予想



 段落のIで、事件の関係者(被害者の父親)による事件に対する評価や、具体的な事件の経過を書いている。またその人物についての説明(阿部さんは五年前の松本サリン事件で亡くなった長男の信州大生裕太(ゆうた)さん(当時19)の父親でもある。)も書かれ、その人物が「サリン遺族」であることを書いている。ここでは、タイトルの「サリン遺族をムチ打つ」であったり、リードの「松本サリン事件で死亡した被害者の妹が拉致された」をより詳しく書いているものである。
 段落IIでは、事件の被害にあった理由解説している(被害者が手記の内容が事件の報告書に書かれていたこと。裁判に積極的であったこと)。IIIでこの事件を予想させる出来事が以前にがあったことを書かれている。そしてIVでこの事件がどのような意味を持っているかということに触れている。これもタイトルの「ムチ打つ」をより具体的に書いたものであると言える。
 段落のVで「弱い者に集中する」と言う阿部さんの言葉を用いたり、VIIで「ひどいことをする」という近所の人の言葉を書いたりすることで、タイトルの「卑劣」やリードの「卑劣な行為」という評価を書いていると言える。
 このように本文ではタイトルで書かれていることに対して、より具体的に書いている。



〔事例3〕

タイトル:「二千円札」は使いにくいのか(『AERA』’99.10.25 No.44)

リード:二〇〇〇年を前に突然、降ってわいた新紙幣構想。なんとなくピンとこない。
    「二」がつくお札は外国では珍しくないが、日本人との相性はいかに──。

本文:
  1.  (1)クリエーティブ・ディレクターの榎本了壱(えのもとりよういち)さんは、密(ひそ)かに「二千円札の原案者」だと自負している。(2)ダジャレを並べた「御教訓カレンダー」(パルコ出版)の審査委員をしていて見つけた、こんな作品がヒントになった。
    (3)「二千円札が出まわっているので御注意下さい」
     二000年と二千円、それに「二セ札」をかけたものだ。
  2.  (4)この夏、源氏物語の絵柄とともに「二千円札」構想を大蔵省の知人に持ちかけ、堺屋太一(さかいやたいち)経済企画庁長官へはファクスを送った。(5)民主党の鳩山由紀夫(はとやまゆきお)代表にも提案した。

    一枚で単行本が買える
  3.  (6)そして十月五日、突然、四十二年ぶりの新札発行が発表される。(7)真の発案者は定かでないが、一週間後、
    「よろしく伝えてほしい」
     という小渕恵三(おぶちけいぞう)首相の言葉が人づてに届いた。
    (8)「いま、千円で買えるものは少なくなった。単行本だって多くは二千円札一枚でお釣りがくる値段。だから、新札は実用的だと思いますよ」(榎本さん)
  4.  (9)一方、新札の意義は薄いとみるのは、数学者の秋山仁(あさやまじん)さんだ。
    (10)「千円と一万円の間にはすでに五千円があるから、二千円札を追加してもねえ……。七進法の世界では十、百、千、万など十倍ごとの通貨が便利なんです」
    (11)果たして、二千円札は暮らしに馴染(なじ)むのだろうか。
  5.  (12)日本では、「二」という数字はあまり好まれない。(13)たとえば、二の次、二の足、二の舞い……。(14)「割り切れる」ので縁起が悪いと、結婚式の祝儀に二万円は禁物だと信じている人も少なくない。(15)実際に冠婚葬祭のマニュアル本をのぞくと、
    「『二』は一対、カップルを表すので、忌数ではありません」
     と書かれているのだが。
  6.  (16)「二」のつくお札が市民権を得ている海外では、アメリカの二十ドル、イギリスの二十ポンド、フランスの二百フランの各紙幣は、いずれも発行枚数全体の四分の一ほどを占める。(17)台湾も来年、二千台湾ドル札を発行する。

    生まれるか2千円商法
  7.  (18)実は、日本にも「二」のつく紙幣がなかったわけではない。(19)明治以降、二十円札は二回、二百円札は四回、金貨は三回発行されている。(20)戦後すぐに二百円札が出たのが最後だ。
    (21)国立歴史民俗博物館の仁藤敦史(にとうあつし)助教授(古代文献史)によると、江戸時代には、二分金(にぶきん)や二朱銀などという単位があった。(22)一分は四朱で、四分が小判の一両にあたり、いわば十六進法だった。
  8.  (23)一九二九年の金融恐慌のころには、印刷が問に合わずに裏が白紙の「裏白」紙幣が出回り、二百円札も刷られた。(24)「二」のつくお金が登場したり消えたりするのは、インフレなど経済の波と無縁ではなかった、と仁藤助教授は解説する。
  9.  (25)本来、大蔵省があたためていた「十万円札」構想も、一万円札の流通量が金額で九割を占めるというのが導入の理由だった。(26)額面が大きくなれば、かさばらずにすむので便利だという発想だ。(27)だが、偽造された場合の被害が大きいことなどから見送られた。
  10.  (28)とはいえ、新しい札ができれば、それに伴う需要も生まれるかもしれない。(29)千九百円均一で服装雑貨を売る「19(いっきゅー)SHOP」を全国十四店舗で展開するオンリー(京都市)の中西浩一(なかにしこういち)社長(53)は「神風」と期待する。
    (30)「うちは消費税込みで千九百九十五円。まさに新札一枚で五円のお釣り。これからは二千円商売が次々生まれるでしょう。日本人は消費税の三円の支払いにも慣れたんやから、心配ありまへん」
  11.  (31)初めはパッとしなくとも、いつしか浸透する。(32)二千円札と小渕首相。(33)どこか似ていなくもない。
タイトル:「二千札」は使いにくいのか
I (1)(2)(3) 二千円札の原案者の紹介
II (4)(5) 提案のいきさつ
III (6)(7)(8) 新札発行の発表 「新札は実用的」(榎本了壱)
IV (9)(10) 対する意見 「新札の意義は薄い」(秋山仁)
V (12)(13)(14)(15) 「『二』が好まれない」 「忌数ではありません」
VI (16)(17) 他の国では「二」のつくお札がある
VII (18)(19)(20)(21)(22) 日本にも「二」のつく紙幣があった
VIII (23)(24) 仁藤助教授の解説(インフレなど経済の波との関連がある)
IX (25)(26)(27) 新札構想が見送られた例(十万円札)
X (28)(29)(30) 中西浩一社長は二千円札を期待
XI (31)(32)(33) 書き手の予想(「初めはパッとしなくとも、いつしか浸透する」)(/font)



 この記事では、リードで「二〇〇〇年を前に突然、降ってわいた新紙幣構想」としているだけで、本文でも「二千円が発行される」という記述がない。本文を通して、「二千円」の「使いやすさ」について解説をしているものである。
 段落Iで「二千円」の原案者を紹介し、構想を提案するいきさつを書いている。段落IIで「新札は実用的」という原案者の評価が書かれている。また段落IVで前段落(「新札は実用的だと思いますよ」)に対立する評価を「秋山仁」の言葉で書いている。
 段落Vで「二」という数字について対立する事例(「二という数字は・・・縁起が悪い」「『二』は・・・忌数ではありません」)を出している。
 また段落VIで海外にも「『二』のつくお札」がある例を挙げ、段落VIIではまた別の例として「日本にも昔は『二』のつくお札があったことを書いている。段落
 VIIIで「新札の構想」には経済的原因があることを解説している。IXで「十万円札」が見送られたことを挙げ、段落Xで期待をしている「中西浩一社長」の言葉を書いている。
 最終的にタイトルの「使いにくい」かどうかについては、書かれていない。「初めはパッとしなくとも、いつしか浸透する」のではないか、という書き手の予想で終わっている。
 これは、タイトルで疑問を投げかけておいて、様々な解説や例を紹介している。
 しかし、この記事は「二千円札は使いにくいか、それとも使いやすいか」という内容について書かれた記事であるから、本文は、タイトルのより具体的な内容を書いていると言える。

 このように三つの事例をもとに、タイトルと本文の関係を考察してきたが、本文ではタイトルの内容をより具体的に書いていることが分かった。





第二節 本文の構成

 本文はタイトルの具体的な内容が書かれていることが分かった。ではその本文ではどのような構成で書かれているのだろうか。事例を挙げながら、見ていきたいと思う。

〔事例1〕

タイトル:超人気ウケ過ぎの誤算

リード:日本映画が米国の週間興行成績で初めてトップを記録した。
    その栄誉を手にしたのはポケットモンスター。
    光ショックは背の話。ウケ過ぎショックが全米に走っている。
  1.  (1)日本の作品を英語に吹き替えたアメリカ版ポケモン映画は「Pokemon:The First Movie」と題され、十一月十日に封切られた。
  2.  (2)翌十一日は第一次大戦の休戦記念日で、ほとんどの小中学校が休みになる。(3)ところが、実際には祝日の混雑を恐れた親が子どもに学校を休ませたり早退させたりして、封切日に観(み)に行くケースが多かったようだ。
  3.  (4)子どもたちが一番乗りでポケモン映画を観に行きたがった理由はほかにもある。(5)映画館のチケットにもれなく付いてくるトレーディングカードである。(6)ゲームに使うもので、これを集めること自体が大ブームになっている。
  4.  (7)しかし、封切口とその翌日だけで、配給会社のワーナー・ブラザースが予想していたより遥(はる)かに多い観客動員数となり、カードの供給が問に合わなくなってしまった。(8)同社は封切り三日後に、カードをもらいそびれた子どもたちのために、チケットの半券と引き換えにカードを郵送するサービスを始めたが、肝心のカードが届くのは六週間後。(9)子どもたちの嘆きが聞こえてきそうだ。

    収集求の買い占めも
  5.  (10)景品の品切れで子どもたちをガッカリさせたのはワーナーだけではない。(11)ファストフード・チェーンの大手バーガー・キングも、予想外の人気で対応に苦労している。(12)同社は、ワーナーと提携して映画の公開に合わせ、ポケモンのオモチャとトレーディングカードを子ども用メニューに景品として付けるキャンペーンを実施している。
  6.  (13)このキャンペーンは、映画公開二日前に開始されたのだが、公開日の翌日には、すでに景品が品切れになる店が続出。(13)楽しみにしていた景品がもらえず、子どもが泣き始め、「準備態勢が出来ていない」と、親が怒り出すといった光景が繰り広げられた。(15)子どものために景品を求めて、近場のバーガー・キングをハシゴして回る親もいたらしい。
  7.  (16)品切れの原因の一つは、ポケモングッズのコレクターによる買い占め行為。(17)シカゴでは子ども用メニューを五百セットも注文して断られた客が現れたという話もある。
  8.  (18)騒ぎを重く見たバーガー・キング社は、社長の名前入りで新聞の全面広告を出し、同社の不備を謝るとともに、景品の供給に全力を尽しているという「努力ぶり」をアピールした。
  9.  (19)過熱人気は、教育現場で、より深刻な問題を生んでいる。(20)例えば、映画が公開されて間もなく、ロサンゼルス・タイムズ紙に、地元の中学生二人が、学校のロッカールームからトレーディングカードを盗んで逮捕されたという記事が載った。(21)二人の少年の家を家宅捜索したところ、百七十一枚のカードが見つかったそうである。(22)ニューヨーク州ではカードをめぐる争いで、九歳の少年が年長の少年を刺すという事件も起きた。

    「真珠湾攻撃だ」の声
  10.  (23)こんな事態に、任天堂とその著作権を管理するエージェンシーを相手取り、カリフォルニア州とニューヨーク州の親のグループが、集団訴訟を起こしてもいる。(24)被告二社はカード間に希少価値の差を故意に付けるよう製造・販売し、本来、遊び道具であるはずのカードをギャンブルの手段にした、というのが親側の言い分だ。
  11.  (25)アニメ番組「サウス・パーク」は最近、こんな話を紹介した。(26)主人公の小学生たちがポケモンにそっくりなキャラクターグッズに夢中になるが、実はこれらのグッズにはアメリカの子どもたちに真珠湾(しんじゅわん)攻撃(!)を潜在的にけしかける日本企業の陰謀が隠されていた、といった筋書きだった。
  12.  (27)もちろん、極端なジョークだが、ポケモン大ヒットの裏に、得体の知れない怖さを感じている人もいるのかもしれないと思わせられる話だった。
超人気ウケ過ぎの誤算
I (1) ポケモン映画が十一月十日に封切られた
II (2)(3) 十一月十一日は祝日なので十一月十日(封切り日)に見に行く人が多かった
III (4)(5)(6) 封切り日に見に行く人が多かった他の理由トレーディングカード
IV (7)(8)(9) ワーナー・ブラザースの対応について
V (10)(11)(12) 同じように景品が足りなくなった例(バーガーキング)
VI (13)(14)(15) 事態の説明
VII (16)(17) 原因の説明
VIII (18) バーガーキングの対応について
IX (19)(20)(21)(22) 盗難や障害にまで発展した例
X (23)(24) 親グループが裁判を起こした
XI (25)(26) テレビアニメの番組でこの事態に似た話題を取り上げていた
XII (27) 「得体の知れない怖さを感じている人もいるのかもしれないと思わせられ」た



 この記事では「ポケモン映画が十一月十日に封切られ」「混雑を恐れた親が・・・封切日に観(み)に行くケースが多かった」という話題から始められている。段落I・IIでそのことが書かれ、段落IIIでその原因を説明している。そしてIVでは「ワーナー・ブラザースの対応」について書かれている。
 また段落Vでは段落I〜IVまでの出来事に似た例(バーガーキングで景品が足りなくなったこと)を挙げて、原因の説明と対応について書かれている。また段落IXでは「盗難や障害にまで発展した例」、段落Xでは「親グループが裁判を起こした」ことが書かれている。
 この記事で、主となる話題はタイトルの「超人気ウケ過ぎ」である。何が「ウケ過ぎ」なのかは、リードの「その栄誉を手にしたのはポケットモンスター」からも分かるが「ポケットモンスター」である。この「ポケットモンスターがアメリカでウケ過ぎている」という出来事を書くために、いくつかの具体的な例を挙げながら解説しているのである。


〔事例2〕

タイトル:「ゲーム機越えるかプレステ2」

リード:大ヒットしたプレイステーションの次世代機が来春発売される。
    DVD再生や通信端末機能など多機能だが、さて消費者の反応は。

本文:
  1.  (1)パーをセーブすると周りに最敬礼、バーディーを奪おうものなら、腰を前後に動かして喜びのガッツポーズ──。
  2.  (2)「プレイステーション」(PS)の人気ゲームソフト「みんなのゴルフ2」に出てくるスズキさん。(3)どこにでもいそうなゴルフ好きのオヤジだが、どこか憎めない。(4)同じく「サルゲッチュ」のピポサルも子供らに人気だ。
  3.  (5)こんな親しみやすいキャラクターたちも一役買って、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のプレステは今や、家庭用のゲーム機首位の座をがっちり握った。(6)その独走態勢を一層確かにするかもしれない次世代機「プレイステーション2」が、来年三月四日に登場する。

    映画ソフトも楽しめる
  4.  (7)世の中、不況というが、たまには景気の良い話も飛び出す。(8)プレステ2はさしずめ、その代表格。(9)何しろソニーCEは発売後二日間で、百万台を売るという。(10)しかも価格は三万九千八百円。(11)子供が簡単に出せる金額ではない。
    (12)「単なるゲーム機ではなく、家庭内のエンターテインメント用のコンピューター」
      プレステの生みの親で、ソニーCEの久多良木健(くたらきけん)社長は九月十三日、内外の報道陣が詰めかけた都内の記者発表の席で、プレステ2をそうぶち上げてみせた。(13)子供向けのおもちゃなどと侮ってはいけないらしい。
  5.  (14)プレステ2の特徴は大きく分けて三つ──。
     (15)@桁外れの高画質の実現ADVDソフトの再生機能Bゲームや映画などのソフトを通信網を介して取り込む情報端末機能──である。
  6.  (16)東芝と共同で開発した128ビットの高性能CPU(超小型演算処理装置)が、高画質のかぎだ。(17)水面のわずかな揺らめきや、風にそよぐ髪も表現すると説明される実写のような映像は、このCPUで可能になった。
  7.  (18)ソフトの媒体として、従来のプレステのCD-ROMと、より高品質のDVD-ROMの両方に対応している。(19)だから、映画ソフトのDVDもすぐに楽しめる。
  8.  (20)「待ち望んでいますよ、我々も」
     (21)ある映画ソフト会社のDVD担当者が、そう興奮気味に語る。(22)プレステ2で、DVDが一気に普及する可能性がみえてきたからだ。
  9.  (23)日本電子機械工業会によると、DVDプレーヤーは一九九六年十一月に国内発売されたが、今年七月までの出荷累計はまだ、五十六万台弱。(24)映画ファンの一部などにしか普及していなかった。

    ソフトの供給細る懸念
  10.  (25)グループ企業のソニー・ピクチヤーズエンタテインメントの石塚俊介(いしづかしゅんすけ)次長も期待を寄せて、
       「DVDの良さを知ってもらうまたとない体験の機会。相当な影響がある」
  11.  (26)ソニーCEは二〇〇一年からケーブルテレビ(CATV)など、各地域のケーブル網を利用して、ゲームソフトをプレステ2に有料で配信する計画。(27)将来は映画や音楽も配信するという。(28)ネット流通への参入を表明しながら、ユーザーの先々への期待感もくすぐる戦略のようだ。
  12.  (29)プレステは一九九四年十二月に発売され、全世界に六千万台以上出荷された。(30)日本での累計も、一千六百万台に上る。(31)「ファイナルファンタジー」「電車でGO!」などの人気ソフトや広告、宣伝の巧みなイメージ戦略でシェアを拡大し、任天堂やセガ・エンタープライゼスをリードしている。
  13.  (32)ただ、不安材料がないわけではない。(33)ゲーム機の多機能化がどれほど需要につながるのか見極めるのは、実は難しい。(34)事実、通信機能などを搭載したセガのドリームキャストは不振だ。(35)また、ハードが高性能になると、それに合わせたソフトの開発費は極めて高額になり、魅力的なソフトの供給が細るという懸念も指摘される。
  14.  (36)和光証券企業投資調査部のアナリスト、土川俊也(つちかわとしや)氏は、
    「あの機能を実現する部品単価などから考えると、五万円にしないと、利益は出ないのではないか。量産効果の表れにくい発売当初は、赤字覚悟の価格でしょう」
     と指摘する。
  15.  (37)プレステ2は、先代と同様、世界に何千万台単位でばらまかれようとしている。
「ゲーム機越えるかプレステ2」
I (1) プレイステーションのキャラクター
II (2)(3)(4) (1)の説明
III (5)(6) 「プレイステーション2」が、来年三月四日に登場する
IV (7)(8)(9)(10)(11)(12) ソニーCE社長の意気込み
V (14)(15) プレステ2の特徴
VI (16)(17) (15)文の@について解説(高画質)
VII (18)(19) (15)文のAについて解説(DVD)
VIII (20)(21) 映画ソフト会社のDVD担当者の期待
IX (23)(24) DVDの実態
X (25) ソニー・ピクチヤーズエンタテインメントの石塚俊介次長の期待
XI (26)(27)(28) (15)文のBについて解説
XII (29)(30)(31) プレステの人気について
XIII (32)(33)(34)(35) 不安材料 多機能化が需要につながるか(ドリームキャストの例)、開発費の問題
XIV (36) 和光証券企業投資調査部 土川俊也氏の予想
XV (37) 「世界に何千万台単位でばらまかれようとしている」



 これは、ソニーから発売される「プレイステーション2」について書かれた記事である。段落Iで「プレイステーション」のキャラクターを示し、段落IIでそれが何であるのかを説明している。それをきっかけとして段落III「プレイステーション2の発売」という話題を示している。段落IVで「プレイステーション2」発売会社である、「ソニーCE」社長の言葉で評価している。段落Vで「プレイステーション2」の機能を挙げ、段落VI・VII・XIでそれぞれの機能を解説しているが、その間に段落VIII・IX・Xで機能のひとつである「DVD機能」を評価している。段落XIIで「プレイステーション」はどのようなものであったのか、ということを述べ、段落XIIIで「不安材料」について書いており、そのことを土川俊也氏の言葉を用いて、もう一度書いている。

 これも「プレイステーション2が発売される」と言う出来事について解説している。解説の仕方は、「プレイステーション2」の機能や、関係者の「評価」や「期待」などをを挙げていることで解説していることが分かる。

 このように記事の本文では、主となる話題について、より具体的な例を挙げ、それを解説していくことが続けられる、という構成が見られた。





第三節 冒頭部の機能

 読み手はタイトルを読んで、次に本文を読む。そして、本文の途中から読む人はまずいないであろうから、本文の冒頭部から読むことになる。読み手と本文とが一番始めに出会うのが冒頭部である。この冒頭部で、読み手を引きつける工夫が見られるのではないかと考えた。ここでは冒頭部の持つ機能について調べてみようと思う。またここで言う冒頭部とは、文章の始めの一文であるとした。
 雑誌記事の冒頭部が持つ機能について書かれている文献はあまり見られない。しかし、一般的な文章の冒頭が持つ機能については、少しであるが、書かれているものがあったので、次に引用する。
 これは相原林司氏の『文章表現の基礎的研究』【※注1】に書かれているものである。
「この冒頭の誘引性というのは、必ずしも特別な技巧をもって読者を文章に引きずり込む、ということを意味するのではない。それは、その文章に興味と関心を持って読もうとする状態に読者を導くこと、または、その文章と自己との距離を読者に測定させることを意味する。」

 ここでは冒頭の機能として、「その文章に興味と関心を持って読もうとする状態に読者を導くこと」と「その文章と自己との距離を読者に測定させること」があげられている。この「その文章に興味と関心を持って読もうとする状態に読者を導くこと」は、読み手が文章に入りやすいように導入するという機能のことである。また「その文章と自己との距離を読者に測定させること」は、読み手がその文章を読む価値があるかどうかを判断させるのことである。
 以上のことをまとめると、冒頭部の機能は

                            があることが分かる。

 しかし、雑誌の記事にはタイトルが付けられる。タイトルは本文の内容が取り立てられていることが、「第一章 第一節 タイトルと本文の関係」で分かった。タイトルは「その文章と自己との距離を読者に測定させる」機能を持っている、と言えるのではないだろうか。だから本文の冒頭部では「文章と自己との距離を読者に測定させる」機能よりも、「文章に興味と関心を持って読もうとする状態に読者を導く機能」に比重が置かれているのではないだろうか。以上のことから本文の冒頭では、タイトルよりもより具体的な内容で「その文章と自己との距離を読者に測定させる」のではないだろうか。また「文章に興味と関心を持って読もうとする状態に読者を導く機能」と言っても、その「興味と関心を持って読もうとする状態に読者を導く」導かせ方にも、様々な「型」があると思われる。

 冒頭部がどのような叙述になっているかについては、「第二章 第二節 冒頭部の叙述」で見たいと思う。





【※注1】『文章表現の基礎的研究』 昭和59年1月二十五日 初版発行  著者 相原 林司   発行所 明治書院





第四節 終結部の機能

 冒頭部があるのであれば、終結部もある。冒頭部では「文章に興味と関心を持って読もうとする状態に読者を導く機能」「文章と自己との距離を読者に測定させる機能」があることが分かったが、終結部にはどのような機能があるのだろうか。(また冒頭部と同様に、最後の一文を終結部とした。)
 市川孝氏は『改訂文章表現法』で、終結部を次のように分類している。【※注2】(市川氏は「結尾」という言葉を用いているが、「終結部」に置き換えても差し支えが無いと考えた。)
  1. 叙述内容の集約としての結尾
     a.主題、主旨、結論、提案などを述べる
     b.話題もしくは課題について述べる
     c.あら筋、筋書きを述べる

  2. 主内容に対するつけたりとしての結尾
     d.筆者の口上、執筆態度を述べる
     e.叙述内容に枠をはめる
     f.感想などを添えてしめくくりとする

  3. 主内容を構成する一部としての結尾


 「叙述内容の集約としての結尾」というのは、文章の最後に内容を要約することである。その場合の終結部は、内容をまとめるという機能を持つ。また「主内容に対するつけたりとしての結尾」というのは主内容に、直接は関係ないが、ひとことつけ足すことで、しめくくりすることである。「主内容を構成する一部としての結尾」は、終結部そのものが、内容の一部となることである。この「主内容を構成する一部としての結尾」に関して、市川氏は「近代小説に多く見られる」と書いている。だから、雑誌記事における終結部の主な機能は「叙述内容を集約する機能」と「主内容に対してつけたりをする機能」があると言えるのではないだろうか。







第二章 雑誌記事の叙述

第一節 タイトルの叙述

 タイトルは本文の全内容を短く取り立てるものであることは「第三章 第一節 第一項 タイトルと本文の関係」で分かった。ではタイトルはどのような書かれ方をしているのだろうか。事例を分析していく中で見ていこうと思う。



〔事例1〕(『AERA』 ’99.11.8 No.46)


 まず、どれも名詞で終わっている。「新政権にメガワティ氏の睨み」では「睨む」を「睨み」となっているし、「大地震で中台関係悪化」では「悪化する」を「悪化」と名詞化していることが分かる。このように基本的には名詞と助詞によって、タイトルが書かれている。これはタイトルの字数制限もあるであろうが、名詞と助詞とで書くことでタイトルに緊張感が現れるのではないだろうか
 また「JCO前社長『雲隠れ』」のように助詞が全く省略されているものも見られた。「大地震で中台関係悪化」はのように一部の助詞が省略されているものも見られた。

 これは、字数に限りがあることも考えられるが、タイトルを名詞と助詞で書くことで、タイトルに緊張感のようなものが現れるからではないだろうか。  以上のことをまとめると、タイトルは



第二節 冒頭部の叙述

 「第一章 第三節 冒頭部の機能」で、冒頭部には「文章に興味と関心を持って読もうとする状態に読者を導く機能」と「文章と自己との距離を読者に測定させる機能」があることが分かった。冒頭部の機能を果たすために、冒頭部はどのような書かれ方があるか見てみた。事例に沿って見ていきたいと思う。

〔事例1〕

超人気ウケ過ぎの誤算(『AERA』 ’99.12.13 No.52)

 日本の作品を英語に吹き替えたアメリカ版ポケモン映画は「Pokemon:The First Movie」と題され、十一月十日に封切られた。
 翌十一日は第一次大戦の休戦記念日で、ほとんどの小中学校が休みになる。ところが、実際には祝日の混雑を恐れた親が子どもに学校を休ませたり早退させたりして、封切り日に観に行くケースが多かったようだ。・・・


 この記事の冒頭部は「日本の作品を英語に吹き替えたアメリカ版ポケモン映画は「Pokemon:The First Movie」と題され、十一月十日に封切られた。」である。
 このように、冒頭で話題(この場合「アメリカ版ポケモン映画が封切られた」)が、客観的に事実として記述されるものが見られた。これは読み手にある出来事を、より簡潔に伝え、その出来事の大まかな筋を伝えるためではないだろうか。


〔事例2〕

マンションが壊れる(『AERA』 ’99.10.25 No.44)

 「マンション業者を信用して買ったのに、これじゃ詐欺ですよ」
 Aマンションに住む五十歳代の男性は、そう言って天井を示した。男性の部屋では、玄関前の外廊下から、室内、さらに外廊下と反対側のベランダまで、天井コンクリートのひび割れが部屋を串刺し状に貫いている。畳をめくると、床のコンクリートにも同じ方向にひび割れが走っていた。・・・


 この記事の場合「『マンション業者を信用して買ったのに、これじゃ詐欺ですよ』Aマンションに住む五十歳代の男性は、そう言って天井を示した。」が冒頭部となる。この言葉は、書き手(記者)が取材に行った「Aマンションに住む五十歳代の男」の言葉である。この記事は「マンションが壊れる」という出来事を書くために、具体的な個人の例を冒頭部にもってきている。このように出来事の説明や評価を取材相手の言葉を用いて書いているもの(会話記述)が見られた。これは客観的な評価というものが難しく、書き手の評価では書きにくい場合に、書き手以外の言葉を用いることで、主観的な評価に客観性を持たせているのではないだろうか。


〔事例3〕

「駆け込み」ノー 中国尼寺事情(『AERA』 ’99.11.1 No.45)

 ヒマワリ畑を抜けると、なだらかな大地が広がった。周囲二百五十キロ、標高二千五百メートル。五つの峰に囲まれた盆地に、四十七の寺院がある。夏を忘れさせるような、風のさわやかさ。中国を代表する仏教名山・山西省の五台山に三つの尼寺があった。
 「うちは、駆け込み寺ではありません。悩みを抱えた女性がよくやってきますが、ここに来ても、解決にはなりません。」・・・


 冒頭部は「ヒマワリ畑を抜けると、なだらかな大地が広がった。」である。これは書き手が取材に行った場所の風景を描写している。このような冒頭部も見られた。取材に行った内容を具体的に書いているという点では、会話記述と似ている。が、このような冒頭の場合、読み手にその場の状況や風景といったものを、あたかも読み手がその場にいるかのように、読み手に伝えることで本文に導かせるのではないだろうか。 

 冒頭部の叙述には、基本的には出来事を客観的に記述したり、会話記述(書き手の言葉ではなく、どこかから引用したものや、書き手以外の言葉)と、より具体的でありより主観的に記述する描写が見らることが分かった。
 次に本文の冒頭部の例を示しておく。

記述

描写

引用(会話記述)



第三項 終結部の叙述

 終結部ではどのようなことが書かれると、「第一章 第四節 終結部の機能」で挙げたような機能を果たせるのだろうか。ここでは終結部でどのような叙述がされているかを見ていきたい。

〔事例1〕

世界はこんなに変わった(『AERA』 ’99.11.22 No.49)

・・・ 冷戦後十年、大局的に見れば世界は米、西欧、日本、韓国、台湾などにとっては、八〇年代とくらべて相当安全な方向に変化した。九七年に日米が合意した新たな「日米防衛協力の指針」(ガイドライン)では、日本の防空、周辺海域の船舶の保護、地上軍の撃退に関し、自衛隊が「プライマリー・リスポンシビリティー」(一義的責任)を持つ、と定めている。日本文では「主体的に実施する」とぼかした表現だが、英文では米軍は本来の日米安保条約の目的だった日本防衛の責任を免れた形だ。これもロシア軍の空洞化で脅威が減少した現実の反映だ。日本にとっても冷戦はすでに終わっているのだ。


 これは記事の最後の一段落である。終結部は「日本にとっても冷戦はすでに終わっているのだ。」となっている。ここでは説明の叙述をすることで、記事の全体的なまとめとしている。このようにある出来事を客観的に記述することで、読み手にある出来事を簡潔に伝えようとしているのではないだろうか。


〔事例2〕

キャラクター進化論(『AERA』 ’99.11.22 No.49)

・・・ ところでポケモンは、米国で空前のブームになっている。リアリズム重視の米国製キャラクターに比べ、日本製のキャラクターは子供っぽくて受けないと言われてきたが、ポケモンはその壁をいとも簡単に乗り越えてしまった。
「ポケモン好きのアメリカの子ども達は、今や日本語を勉強したがっている。日本語がついたポケモンカードが本物のカードだと思っていますからね。
 ポケモンの海外進出は、これからのキャラクタービジネスのひとつの指標になっていくのは間違いなさそうだ。


 これは「キャラクター商品」についての記事である。最後に「ポケモン」がアメリカで「ブーム」になっていることを挙げ、「ポケモンの海外進出は、これからのキャラクタービジネスのひとつの指標になっていくのは間違いなさそうだ。」としめくくっている。「間違いなさそうだ」と説明的ではあるがが、最後に書き手の予想として記事を終えていると言える。


〔事例3〕

「コソボ大虐殺」は幻か(『AERA』 ’99.12.6 No.51)

・・・ NATO軍の入ったコソボではKLAなどアルバニア人によるセルビア人に対する「民族浄化」が進み、かつて二十五万人いたセルビア系住民は六、七万人に激減した。NATO軍の発表では、この五ヶ月間でアルバニア人百四十五人、セルビア人、ジプシーなど百三十五人が殺されたが、人口比がほぼ二十対一であることを考えると、セルビア人犠牲者の比率は高い。
 NATO諸国の指導者やアメリカ、西欧のメディアが唱えた「人道的介入」は大失態の様相を示しつつある。


 これは、「NATO軍がユーゴスラビアを爆撃した」ことに対する記事である。この記事の終結部は「NATO諸国の指導者やアメリカ、西欧のメディアが唱えた「人道的介入」は大失態の様相を示しつつある。」である。「NATO軍の爆撃」を「大失態の様相を示しつつある」と、表現を和らげているが、評価している。このように、記事の最後の一文で、ある出来事に対する評価が書かれるものも見られた。


〔事例4〕

中国語辞書の出版相次ぐ(『AERA』 ’99.9.27 No.40)

・・・ 中国語辞書の盛況ぶりについて、日本の輿水優教授は、「学習人口が増え、大手出版社がビジネスになるとして参入してきたのが大きい。中国語がマイナーからメジャー言語になったといえます」
 と分析する。
 しかし、これだけたくさん出ると、選ぶ方は戸惑ってしまいそうだ。
 輿水教授は、
「帯に短し、襷に長しって感じで、まだまだ改善の余地がある。初級者向けでも親字が七千以上出ており、中国語が理解しやすいように解説や配列に工夫があるものがいいと思います。」
 と話している。


 この事例で見られるように、終結部で書き手以外の人物の言葉を記述することで、記事を終えているものが見られた。会話の内容は主に説明的であったり、評価していたりするものが多い。このように書き手以外の人物による言葉でしめくくることで、記事全体の信頼度を高めているのではないだろうか。



 四つの事例を見ていくことで、終結部では

 「説明」を叙述する
 「評価」を叙述する
 「予想」を叙述する
 「会話記述」を叙述する   ものがあることが分かった。

以下に終結部の例を示す。
説明

予想

会話記述





終章 まとめ 今後の課題


まとめ

 これまで述べてきたことをまとめると、雑誌記事の表現特性は次のようになる。

 本文ではタイトルで書かれたことをより具体的に叙述がする。またタイトルでは、「名詞と助詞で書かれるものが多い」「助詞は省略されることが多い」「タイトル末が動詞の場合は名詞化される」ような叙述をしている。
 また本文は、主話題についての具体的な解説や、似た例を並べる構成を取っている。
 本文の冒頭部は「その文章に興味と関心を持って読もうとする状態に読者を導く」機能と「その文章と自己との距離を読者に測定させる」機能があり。その機能を果たすために、「出来事を客観的に記述する」「出来事に対して会話記述で評価する」「ある場面を描写する」叙述の仕方がある。
 本文の終結部では「叙述内容を集約する機能」と「主内容に対してつけたりをする機能」があり、その叙述は、書き手の「説明」「予想」「評価」といった叙述や、書き手以外の評価を「会話記述」によって叙述するものがある。



今後の課題

 この論文は、雑誌記事の「興味をひかせる工夫」を明らかにしようと始めたものである。しかし「興味」というものについては、何も分かっていないので、今回は雑誌記事の表現特性を見ることで終わった。しかも今回明らかにしたことが、本当に雑誌記事の表現特性と言えるか、ということも疑問である。雑誌記事の表現特性を、雑誌『AERA』という資料だけで言うことは難しいのではないだろうか。また、今回の考察についても、まだ深められる所が残っている。
 今後に残された課題は
 まず「興味」というものについて考え、知ること。そして様々な雑誌記事から資料を集め、本当の意味での雑誌記事の表現特性を明らかにすること。また分析も、部分分析をもっとしっかりすること
    である。







終わりに

 「そんなこと今更・・・」と言われるかもしれませんが、コツコツ進めていくことの大切さを今年一年で実感できたように思います。「雑誌記事の表現特性を明らかにしたい」「その興味のひかせかたを明らかにしたい」と言ったものの、それがどのくらい明らかになったのか、ということを考えると自分の勉強の足りなさを、ただただ思うだけです。しかし卒業論文を進めるうちに、明らかに雑誌記事、もっというと「言葉」というものについての見方が変わっていったことは確かです。また、「自分は一体何がしたいのか」と言うことを常に考えさせられました。今まで自分についてあまり深く考えた経験がなかっただけに、非常に貴重な経験となりました。
 卒業論文が少しずつしか進まない(時には止まっていた)私を見て、周りの方に御心配をおかけしたことかと思います。どんなときにも暖かくご指導してくださった野浪先生を始め、諸先生方に深く感謝のお礼を申し上げたいと思います。また何かとアドバイスを出していただいた院生の内田さんや、励ましてくれた友人にも大変感謝しています。本当にどうもありがとうございました。
平成十二年 一月三十一日  田谷 倫之