生ひ立ちの歌 中原中也

  

   幼年時
私の上に降る雪は
真綿のやうでありました

   少年時
私の上に降る雪は
霙のやうでありました

   十七ー十九
私の上に降る雪は
霰のやうに散りました

   二十ー二十二
私の上に降る雪は
雹であるかと思われた

   二十三
私の上に降る雪は
ひどい吹雪と見えました

   二十四
私の上に降る雪は
いとしめやかになりました……


   II

私の上に降る雪は
花びらのやうに降つてきます
薪の燃える音もして
凍るみ空の黝む頃

私の上に降る雪は
いとなびよかになつかしく
手を差し伸べて降りました

私の上に降る雪は
暑い額に落ちくもる
涙のやうでありました

私の上に降る雪に
いとねんごろに感謝して 神様に
長生きしたいと祈りました

私の上に降る雪は
いと貞節でありました

テキスト・年譜は、『中原中也詩集』(大岡昇平編 1981年6月 岩波書店)から引用した。




















およぐひと 萩原朔太郎

  1. およぐひとのからだはななめにのびる、
  2. 二本の手はながくそろへてひきのばされる、
  3. およぐひとの心臓はくらげのやうにすきとほる、
  4. およぐひとの瞳はつりがねのひびきをききつつ、
  5. およぐひとのたましひは水のうへの月をみる。

テキストは、『筑摩現代文学大系33巻萩原朔太郎・三好達治・西脇順三郎集』(1978年8月 筑摩書房)から引用した。