大阪教育大学 国語教育講座 野浪研究室 ←戻る counter

小説の使用語彙の比較

野浪正隆

0.はじめに

 日本語形態素解析システムとawkscriptを使って、小説に使われている語彙の比較を行う。この研究は実験用具先行の研究であって、何らかの仮説を検証しようという研究ではない。実験用具がどの程度使えるものなのかの見当がつくことを研究の目的にしている。

1.用意するもの

1.1 形態素解析システム茶筌による解析結果較

日本語形態素解析システム茶筌(ChaSen) version 2.0 for Windowsを使って、芥川龍之介『羅生門』と志賀直哉『小僧の神様』の形態素解析を行うと以下の結果を得る。

芥川龍之介『羅生門』
表層語基本形品詞
  記号-空白
連体詞
名詞-非自立-副詞可能
助詞-連体化
暮方暮方名詞-副詞可能
助詞-連体化
名詞-非自立-一般
助動詞
あるある助動詞
記号-句点
EOS
 
志賀直哉『小僧の神様』
表層語基本形品詞
  記号-空白
名詞-固有名詞-地域-一般
名詞-一般
助詞-係助詞
神田神田名詞-固有名詞-人名-姓
助詞-連体化
あるある動詞-自立
名詞-一般
名詞-接尾-一般
助詞-連体化
名詞-一般
助詞-格助詞-一般
奉公奉公名詞-サ変接続
する動詞-自立
助詞-接続助詞
いるいる動詞-非自立
記号-句点
EOS

 表の項目は左から 表層語・基本形・品詞で、語彙を集計するには基本形を集計対象にする。小僧の神様の「仙吉」や「秤屋」は固有名詞やそれに準ずる名詞であるがゆえに解析辞書に載っていなかったのであろう、「未知語」でもいいのに無理に解析して、おかしな結果になっている。ただし、解析結果が場合によって変わるのではなく、常に同じ解析結果になるので(揺れないので)、対応をすればいいだけである。(解析結果に完全を求め、完全な解析結果が出るまでは使用しないという考え方は、ないものねだりである。)

1.2 比較計算用awk script

http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~nonami/awk/goi_hindo22.awk
#----------------------ここから
# いくつかのテキストファイルをドロップすると、並べて表示する。
BEGIN{
	for(i=1;i< ARGC;i++ ){
		n=split(ARGV[i],aaa,"\\");
		sub(".txt.cha","",aaa[n]);
		fname[i]=aaa[n];
		c=1;
		s[i]=0;
		while(getline <  ARGV[i]){
			s[i]=s[i]+jlength($1);
			g[$2 "\t" $3]++;
			d[fname[i],$2 "\t" $3]++;
		}
	}
	printf"抽出した語\t品詞\t逆順\t";
	for(j=1;j< ARGC;j++ ){
		printf fname[j] "/実数\t";
	}
	for(j=1;j< ARGC;j++ ){
		printf fname[j] "/出現率(ppm)\t";
	}
	print "最大値(ppm)\t最小値(ppm)\t最大値(ppm)-最小値(ppm)\t出現率合計(ppm)\t最大値(ppm)/最小値(ppm)";
	for(i in g){
		max=0;
		min=1000000;
		sss=0;
		printf i "\t";
		split(i,aaa,"\t");
		vv=aaa[1];
		sv="";
		ll=jlength(vv);
		for(pp=0;pp< ll;pp++){
			sv=sv jsubstr(vv,ll-pp,1);
		}
		printf sv "\t";
		for(j=1;j< ARGC;j++ ){
			printf"%d\t",d[fname[j],i];
		}
		for(j=1;j< ARGC;j++ ){
			dat=d[fname[j],i]/s[j]*1000000;
			printf"%5.2f\t",dat;
			if(max< dat){max=dat}
			if(min>dat){min=dat}
			sss=sss+dat;
		}
		printf"%5.2f\t%5.2f\t%5.2f\t%5.2f\t",max,min,max-min,sss;
		if(min>0){
			printf"%5.2f\n",max/min;
		}
		else{
			print "-9999";
		}
	}
}
#----------------------ここまで

Windowsのコマンドラインやコマンドプロンプトや「ファイル名を指定して実行」から
c:\copal\mawk32.exe -f goi_hindo22.awk 調べたい小説1.txt調べたい小説2.txt > 結果.txt
と、入力するか(すべてパスを通しておくこと)
Copal32pro(最新版配布場所 http://copalpro.sourceforge.jp/)を使うと、スクリプトを開いておいて、調べたいテキストファイルをドラッグ&ドロップするだけで済む。
Copal32proとmawk32の使い方はhttp://satsuki.ex.osaka-kyoiku.ac.jp/~nonami/joho/6.html
を参考に。
そのページのawk_set.lzhには、copal32proとmawk32とサンプルスクリプトが入っていて、容易に試せる。

 出力結果は以下のようになる。

抽出語品詞逆順芥川
羅生門
頻度
志賀
小僧の…
頻度
羅生門
出現率
(ppm)
小僧の…
出現率
(ppm)
最大値
(ppm)
最小値
(ppm)
最大値

最小値
出現率
合計
最大値

最小値
記号-読点40016269384 24501 69384 24501 44883 93885 2.83
助動詞14521925152 33122 33122 25152 7970 58273 1.32
記号-句点14518725152 28282 28282 25152 3130 53434 1.12
助詞-連体化17813430876 20266 30876 20266 10610 51142 1.52
助詞-格助詞-一般15513326886 20115 26886 20115 6771 47001 1.34
助詞-接続助詞12415221509 22989 22989 21509 1479 44498 1.07
助詞-係助詞11116519254 24955 24955 19254 5701 44209 1.3
助詞-格助詞-一般11510219948 15427 19948 15427 4521 35374 1.29
助動詞8811015265 16636 16636 15265 1372 31901 1.09
する動詞-自立るす707512142 11343 12142 11343 799 23485 1.07

項目は左から、

抽出語
文章中に使われていた語を単語として切り出した語の基本形。
品詞
「名詞-固有名詞-人名-姓」と下位項目が付く場合がある。
作品頻度
語の出現頻度
作品出現率
1000000文字あたり(パーミル)何回出現するかの数。400字詰め原稿用紙で換算したい場合は1000000/400=2500で割ると400字詰め原稿用紙何枚に1回出現するとわかる。
最大値
いくつかの作品の中での比較用。
最小値
いくつかの作品の中での比較用。
最大値―最小値
いくつかの作品の中での比較用。
出現率合計
いくつかの作品の中での比較用。
最大値/最小値
いくつかの作品の中での比較用。-9999は最小値が0の場合。

2.0 語彙比較 

2.1.1 出現率に大きな差がある語

集計表をエクセルに読ませて、

で、並べ替えると片方が頻度0でもう片方の頻度が高い語から低い語への表が得られる。

志賀小僧の神様で頻度が高く、芥川羅生門で出現しない上位10語は次の通り。

抽出語品詞志賀直哉『小僧の神様』
頻度
名詞-一般33
名詞-代名詞-一般32
小僧名詞-一般30
名詞-接尾-一般26
名詞-一般24
名詞-固有名詞-地域-一般23
名詞-一般17
番頭名詞-一般14
あの連体詞13
名詞-一般12
頻度2以上の語()内は頻度
品詞基本形(頻度)
感動詞ええ(3) へえ(3)
形容詞-自立小さい(11) 淋しい(7) 旨い(6) 若い(4) 忙しい(2)
助詞-終助詞ネ(11) ね(2)
助詞-接続助詞ちゃ(2)
助動詞ます(11) です(10)
接続詞そして(10) つまり(2)
接頭詞-名詞接続不(2)
動詞-自立食う(8) 喜ぶ(6) 聴く(6) 入る(6) 立つ(5) 握る(4) 食べる(4) 置く(4) 通る(4) 貰う(4) そう(3) 会う(3) 笑う(3) 食える(3) 潜る(3) 想う(3) 通り過ぎる(3) 歩く(3) かく(2) しく(2) へる(2) ます(2) やる(2) 解る(2) 教わる(2) 向う(2) 坐る(2) 思い切る(2) 出せる(2) 出掛ける(2) 乗る(2) 頂く(2) 渡す(2) 挽く(2) 並ぶ(2) 連れる(2)
動詞-接尾せる(2)
動詞-非自立やる(5)
副詞-一般然(10) 一寸(8) とにかく(3) 段々(3) さぞ(2) どうして(2) まあ(2) 只(2) 殆ど(2)
副詞-助詞類接続直ぐ(7) 全く(3)
未知語憶(3) 此(2) 俥(2)
名詞-サ変接続御馳走(11) 一緒(4) 位置(2) 往復(2) 想像(2) 躊躇(2)
名詞-一般秤(9) 了(9) 気持(8) 暖簾(8) 稲荷(6) 屋台(6) 電車(6) 細君(5) 通(5) かみさん(4) 鮪(4) 感じ(3) 子供(3) 処(3) 番地(3) 腹(3) 名(3) 冷汗(3) お辞儀(2) 横(2) 横町(2) 外濠(2) 喜び(2) 議員(2) 具合(2) 故(2) 自動車(2) 若(2) 手車(2) 宿(2) 出鱈目(2) 場(2) 神様(2) 図(2) 恥(2) 帳面(2) 超自然(2) 夫人(2) 様子(2)
名詞-形容動詞語幹変(9) 主(3) 妙(3) いや(2) 不思議(2) 無闇(2)
名詞-固有名詞京橋(4) 中(2) 掛(2) 平(2) 松屋(3) 統(2) 与兵衛(2) 神田(2) 本(2)
名詞-数三(4) 八(2)
名詞-接尾後(2) つ(5) 銭(3) さん(8) 達(6) 様(6) 方(4) 通(3) 橋(2) 使(2)
名詞-代名詞私(4) 何時(2)
名詞-非自立故(2) ん(7) 風(3)
名詞-副詞可能先日(4) 偶然(2)
連体詞そんな(8)

芥川羅生門で頻度が高く、志賀小僧の神様で出現しない上位10語は次の通り。

抽出語品詞芥川龍之介『羅生門』
頻度
下人名詞-一般44
老婆名詞-一般28
名詞-一般15
屍骸名詞-一般14
名詞-一般12
そうして接続詞11
名詞-一般11
名詞-一般9
梯子名詞-一般9
名詞-一般8
死人名詞-一般8
未知語8

頻度2以上の語()内は頻度

品詞基本形(頻度)
感動詞-じゃ(2)
形容詞-自立長い(4) 広い(3) 高い(3) 低い(3) 暗い(2) 白い(2)
助詞-格助詞より(4) として(3) に対する(3) に従って(2)
助詞-係助詞さえ(4)
助詞-終助詞ぞ(3)
助詞-副助詞ずつ(5) とも(2)
助動詞まい(2)
接続詞そこで(7) しかも(2)
動詞-自立抜く(7) かける(5) 見える(5) 売る(4) とる(3) ふる(3) 棄てる(3) 眺める(3) 動かす(3) 動く(3) 燃える(3) 覗く(3) かかる(2) ちぢめる(2) つかむ(2) つぶやく(2) とまる(2) ともす(2) 往ぬ(2) 押す(2) 干る(2) 見開く(2) 持って来る(2) 重ねる(2) 棲む(2) 挿す(2) 奪う(2) 着る(2) 這う(2) 剥ぐ(2) 抜ける(2) 飛ぶ(2) 喘ぐ(2) 啼く(2)
動詞-非自立る(6) しまう(4)
副詞-一般勿論(6) どうにか(3) どうせ(2) とうとう(2) どうにも(2) 唯(2)
副詞-助詞類接続さっき(6) いきなり(2) やっと(2) 一層(2) 全然(2)
未知語殆(3) 引(2) 掩(2) 暫(2) 頸(2)
名詞-サ変接続憎悪(3) 恐怖(2) 肯定(2) 失望(2) 衰微(2) 息(2)
名詞-ナイ形容詞語幹仕方(4)
名詞-一般女(7) 太刀(7) 髪の毛(6) 右(5) 光(5) 声(5) 盗人(5) 唯(5) 鴉(5) やみ(4) 己(4) 着物(4) 髪(4) 頬(4) 面皰(4) 悪(3) 猿(3) 肩(3) 段(3) 柱(3) 皮(3) 鼻(3) まわり(2) わし(2) 唖(2) 一通り(2) 襖(2) 可(2) 暇(2) 旧記(2) 喉(2) 手段(2) 床(2) 鞘(2) 石段(2) 足(2) 大路(2) 丹(2) 丹塗(2) 膿(2) 白髪(2) 部分(2) 幅(2) 夕闇(2) 裸(2) 洛中(2) 腕(2) 檜(2) 蟋蟀(2)
名詞-形容動詞語幹急(2)
名詞-固有名詞羅生門(7) 京都(3) 松の木(3) 朱雀(2) 聖(2)
名詞-接尾楼(5) 上(3) 片(3) ども(2) 羽(2) 色(2) 帯(2) 段(2) 的(2) 柄(2) 本(2)
名詞-代名詞そこ(2) どこ(2) わし(2)
名詞-非自立程(5) 者(4) 為(2)

2.1.2 出現率に大きな差がある理由

 志賀小僧の神様で頻度が高く、芥川羅生門で出現しない上位10語は
鮨 彼 小僧 屋 吉 仙 客 番頭 あの 店
であった。これらは作品が作り上げている世界の主要な構成物であるといえる。主人公や脇の人物や事物の名称が全く違う世界を作り上げている作品に出ないのは当たり前である。
 気になるのは「あの」である。使われている文を抽出する。(行頭の数字は野浪が施したは文番号)
文番号本文
11「あの家のを食っちゃア、この辺のは食えないからネ」
126「お前さん、あの旦那とは前からお馴染なの?」
175若しかしたら、あの場に居たんだ、と思った。
179そう云えば、今日連れて行かれた家はやはり先日番頭達の噂をしていた、あの家だ。
180全体どうして番頭達の噂まであの客は知ったろう?
183彼は一途に自分が番頭達の噂話を聴いた、その同じ時の噂話をあの客も知っていて、今日自分を連れて行ってくれたに違いないと思い込んで了った。
184そうでなければ、あの前にも二三軒鮨屋の前を通りながら、通り過ぎて了った事が解らないと考えた。
185 とにかくあの客は只者ではないと云う風に段々考えられて来た。
186自分が屋台鮨屋で恥をかいた事も、番頭達があの鮨屋の噂をしていた事も、その上第一自分の心の中まで見透して、あんなに充分、御馳走をしてくれた。
201 仙吉には「あの客」が益々忘れられないものになって行った。
205 彼は悲しい時、苦しい時に必ず「あの客」を想った。
207彼は何時かは又「あの客」が思わぬ恵みを持って自分の前に現れて来る事を信じていた。
209実は小僧が「あの客」の本体を確めたい要求から、番頭に番地と名前を教えて貰って其処を尋ねて行く事を書こうと思った。

 仙吉が寿司を食べさせてくれた「あの客」のことを考える時に「あの」が使われている。回想に伴う遠称である。
 羅生門には過去の出来事を書いた部分が三ヶ所ある。
 一つは、羅生門が現在のようになった経緯「羅生門の修理などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。するとその荒れ果てたのをよい事にして、狐狸が棲む。盗人が棲む。とうとうしまいには、引取り手のない死人を、この門へ持って来て、棄てて行くと云う習慣さえ出来た。そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪るがって、この門の近所へは足ぶみをしない事になってしまったのである。」
 二つめは下人が今の境遇になった経緯「ところがその主人からは、四五日前に暇を出された。前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微していた。今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波に外ならない。」
 以上二つの部分は語り手の解説である。語り手が回想しても構わないのであるが、下人や老婆という登場人物とは役割を分けて小説世界を観察し解説する機能をもたせようとしたのであろう。
 三つめは老婆の言い訳「成程な、死人の髪の毛を抜くと云う事は、何ぼう悪い事かも知れぬ。じゃが、ここにいる死人どもは、皆、その位な事を、されてもいい人間ばかりだぞよ。現在、わしが今、髪を抜いた女などはな、蛇を四寸ばかりずつに切って干したのを、干魚だと云うて、太刀帯の陣へ売りに往んだわ。疫病にかかって死ななんだら、今でも売りに往んでいた事であろ。それもよ、この女の売る干魚は、味がよいと云うて、太刀帯どもが、欠かさず菜料に買っていたそうな。わしは、この女のした事が悪いとは思うていぬ。せねば、饑死をするのじゃて、仕方がなくした事であろ。されば、今又、わしのしていた事も悪い事とは思わぬぞよ。これとてもやはりせねば、饑死をするじゃて、仕方がなくする事じゃわいの。じゃて、その仕方がない事を、よく知っていたこの女は、大方わしのする事も大目に見てくれるであろ」である。老婆は女の死体と伴にいて「この女」と言って「あの女」とは言わない。「いま、ここ、これ」によって現在の緊迫した小説世界を作り出しているのである。

2.2.1 出現率に差がない語

抽出語品詞芥川龍之介『羅生門』
頻度
志賀直哉『小僧の神様』
頻度
羅生門出現率(ppm)小僧の…出現率(ppm)
記号-読点40016269384 24501
助動詞14521925152 33122
助詞-連体化17813430876 20266
記号-句点14518725152 28282
助詞-格助詞-一般15513326886 20115
助詞-係助詞11116519254 24955
助詞-接続助詞12415221509 22989
助詞-格助詞-一般11510219948 15427
助動詞8811015265 16636
助詞-格助詞-一般806113877 9226
する動詞-自立707512142 11343

 句読点と助動詞と助詞と動詞の「する」が出現率に差がない。当然である。日本語の文に必須の成分であるから。
 句点読点は文長や一文中の句の数に関係する。

2.3.1 品詞別 副詞の頻度 両方に現れる副詞

 両方に現れる副詞を出現率の合計でソートした。

抽出語品詞芥川龍之介『羅生門』
頻度
志賀直哉『小僧の神様』
頻度
出現率合計最大値/最小値
そう副詞-一般2172918 7.41
少し副詞-助詞類接続3102033 2.91
こう副詞-助詞類接続371579 2.03
副詞-一般451450 1.09
どう副詞-助詞類接続251103 2.18
もう副詞-一般42996 2.29
まだ副詞-助詞類接続22649 1.15
やはり副詞-一般12476 1.74
何故副詞-一般12476 1.74
きっと副詞-助詞類接続12476 1.74
ともかく副詞-一般11325 1.15
よく副詞-一般11325 1.15
既に副詞-一般11325 1.15
丁度副詞-一般11325 1.15
間もなく副詞-助詞類接続11325 1.15
当然副詞-助詞類接続11325 1.15

 特に小説世界の動きを特徴付ける副詞は見当たらない。一般的に用いられる副詞なのであろう。

2.3.2  副詞の頻度 片方だけに使われている副詞

芥川龍之介『羅生門』志賀直哉『小僧の神様』
抽出語頻度抽出語頻度
勿論6一寸8
さっき6直ぐ7
どうにか3とにかく3
どうせ2段々3
とうとう2全く3
どうにも2さぞ2
2どうして2
いきなり2まあ2
やっと22
一層2殆ど2
全然2
頻度1頻度1
あっと ごろごろ じっと とうに ぼんやり まるで わなわな 一目 何時の間にか 何分 改めて 格別 恐らく 今まで 次第に 存外 多分 大体 同時に 平に しまいに すぐ それほど とても はじめて はっきり 何故 恐る恐る  ああ がつがつ さして ジロジロ どうか どうも ぶらぶら ブルブル もっと 一度 益々 何しろ 何だか 何とか 何故か 結構 忽ち 若し 充分 順に 尚 人知れず 漸く 大分 大変 沢山 如何にも 頻りに 別に あんなに かなり かねて そろそろ ペコペコ もう少し 案の定 再び 再三 初めて 色々 心から 必ず  ああ がつがつ さして ジロジロ どうか どうも ぶらぶら ブルブル もっと 一度 益々 何しろ 何だか 何とか 何故か 結構 忽ち 若し 充分 順に 尚 人知れず 漸く 大分 大変 沢山 如何にも 頻りに 別に あんなに かなり かねて そろそろ ペコペコ もう少し 案の定 再び 再三 初めて 色々 心から 必ず 

 芥川龍之介『羅生門』だけに現れる副詞(頻度2以上)は、芥川の愛用語「勿論」、心理語「どうせ」、時を示す「さっき・とうとう・いきなり・やっと」である。それらを使って、小説世界を語り手が解説し、登場人物の心理を詳細に示し、時を示して動きを見せるという芥川の叙述法が副詞の使用頻度から観察できそうである。頻度1の副詞も頻度2以上の副詞と同じ機能を持っている。

 志賀直哉『小僧の神様』だけに現れる副詞で特徴的なのは、「一寸」である。
「一寸」で登場人物が優柔不断であることを表している。

文番号本文
47彼は一寸躊躇した。
61小僧はいやな顔をしながら、その場が一寸動けなくなった。
79「勇気かどうか知らないが、ともかくそう云う勇気は一寸出せない。直ぐ一緒に出て他所で御馳走するなら、まだやれるかも知れないが」
89「そう……」とAは仙吉を見ながら一寸考えて、「その小僧さんは今、手隙かネ?」と云った。
96 Aは一寸弱った。
113「一寸待ってくれ」
161細君は一寸考える風だった。
171然し、こんな旨いもので一杯にした事は一寸憶い出せなかった。

 最後の2文は細君と仙吉だが、それより前の6文はAの行動や言動内で使われている。
 「一寸」が何度も使われているので気づくけれども、使われている副詞が一般的に使う副詞であると気づきにくいことがある。そういう微妙な表現に気づくことができる可能性が有りそうである。

2.4 接続詞の頻度 芥川龍之介『羅生門』志賀直哉『小僧の神様』両方に使われている接続詞

抽出語品詞芥川龍之介『羅生門』頻度志賀直哉『小僧の神様』頻度出現率合計最大値/最小値
しかし・然し接続詞6112704 1.60
それから接続詞531321 1.91
いや接続詞11325 1.15
すると接続詞11325 1.15
では接続詞11325 1.15

 両方に使われる語には特徴がないということを補強するだけのデータのように見えるが、果たしてそうか。逆接の「しかし・然し」について確かめる。

22: 作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。
23:しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。
前件の「下人が雨やみを待っていた」ことと、後件の「下人は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない」ことの間に、逆接関係は特にない。書かれていない「待っているということは、雨が止んだら何かする予定があると考えるものだ。」を読み手が埋めれば、逆接関係になる。
 このような逆接関係を「間接的逆接関係」と名付けておく。

37:選ばないとすれば――下人の考えは、何度も同じ道を低徊した揚句に、やっとこの局所へ逢着した。
38:しかしこの「すれば」は、何時までたっても、結局「すれば」であった。
これも、「選ばないとすれば何らかの行動を選択することになる」を補う間接的逆接関係である。

64: 下人は、それらの屍骸の腐爛した臭気に思わず、鼻を掩った。
65:しかし、その手は、次の瞬間には、もう鼻を掩う事を忘れていた。
「思わず、鼻を掩った」ことと、「鼻を掩う事を忘れていた」ことは逆接関係である。

82:従って、合理的には、それを善悪の何れに片づけてよいか知らなかった。
83:しかし下人にとっては、この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くと云う事が、それだけで既に許す可らざる悪であった。
「知らなかった」が「知識がなかった」意味を表しているとすれば、「知識がなかったから、どちらかに決定することは出来なかった」を補う間接的逆接関係である。しかし、「知らなかった」が「判断出来なかった」意味を表しているとすれば、逆接関係である。「知らなかった」の解釈で逆接関係か間接的逆接関係かが揺れる事例である。

93:二人は屍骸の中で、暫、無言のまま、つかみ合った。
94:しかし勝敗は、はじめから、わかっている。
「つかみ合うのだから力量は伯仲しているのか」ぐらいを補う間接的逆接関係である。

120:勿論、右の手では、赤く頬に膿を持った大きな面皰を気にしながら、聞いているのである。
121:しかし、これを聞いている中に、下人の心には、或勇気が生まれて来た。
「それまで去就に迷っている時に面皰を気にしていた」ぐらいを補う間接的逆接関係である。迷いから勇気への変化が逆接関係である。

以上6例は、
連文関係例数
逆接関係1例
間接的逆接関係4例
解釈によって逆接関係になるか関節逆接関係になるか揺れる1例
という内訳であった。「しかし」だから「逆接関係」を示していると考えると、芥川龍之介の「しかし」の使い方を正確には捉えられないことになる。

志賀直哉の場合はどうであろうか。

23:仙吉は「色々そう云う名代の店があるものだな」と思って聴いていた。
24:そして、「然し旨いと云うと全体どう云う具合に旨いのだろう」そう思いながら、口の中に溜って来る唾を、音のしないように用心しいしい飲み込んだ。
前件「そう云う名代の店がある」と思うことと、後件「どう云う具合に旨いのだろう」と思うことには逆接関係はない。話題を転換し後件を強調する「しかし」で、漫才師であった故横山やすしの当たりギャグ「怒るでしかし!」と同じである。「話題転換後件強調のしかし」が長いので本論文では「怒るでしかし」と名付けておく。

47:彼は一寸躊躇した。
48:然し思い切ってとにかく暖簾を潜ったが、その立っている人と人との間に割り込む気がしなかったので、彼は少時暖簾を潜ったまま、人の後に立っていた。
「一寸躊躇した。」ことと「思い切っ」たこととが逆接関係である。心理の変化を表している。

61:小僧はいやな顔をしながら、その場が一寸動けなくなった。
62:然し直ぐ或勇気を振るい起して暖簾の外へ出て行った。
「動けなくなった。」ことと「直ぐ或勇気を振るい起して暖簾の外へ出て行った。」こととが逆接関係である。心理の変化を表している。

83: 仙吉はAを知らなかった。
84:然しAの方は仙吉を認めた。
「知らない同士はよくあることである。」ぐらいを補う間接的逆接関係である。心理内容に使っている。

107: 仙吉は大変うまい話のような、少し薄気味悪い話のような気がした。
108:然し何しろ嬉しかった。
「当然疑ってかかるのがふつうである」ぐらいを補う間接的逆接関係である。心理内容に使っている。

144:自分は知らず知らずこだわっているのだ。
145:然しとにかく恥ずべき事を行ったというのではない。
「怒るでしかし」心理内容に使っている。

170:これまでも腹一杯に食った事はよくある。
171:然し、こんな旨いもので一杯にした事は一寸憶い出せなかった。
「よくある」ことと「一寸憶い出せなかった」=「ない」ことが逆接関係である。心理内容に使っている。

175:若しかしたら、あの場に居たんだ、と思った。
176:きっとそうだ。
177:しかし自分のいる所をどうして知ったろう?
「怒るでしかし」で、心理変化に使っている。

190:若しかしたらお稲荷様かも知れない、と考えた。
191: 彼がお稲荷様を考えたのは彼の伯母で、お稲荷様信仰で一時気違いのようになった人があったからである。
192:お稲荷様が乗り移ると身体をブルブル震わして、変な予言をしたり、遠い所に起った出来事を云い当てたりする。
193:彼はそれをある時見ていたからであった。
194:然しお稲荷様にしてはハイカラなのが少し変にも思われた。

「稲荷様かも知れない、と考えた」ことと、「お稲荷様にしてはハイカラなのが少し変にも思われた。」こととが肯定対否定の逆接関係である。心理変化に使っている。

196: Aの一種の淋しい変な感じは日と共に跡方なく消えて了った。
197:然し、彼は神田のその店の前を通る事は妙に気がさして出来なくなった。
「淋しい変な感じが消えて了ったのなら、気にしないで良い」ぐらいを補う間接的逆接関係である。心理変化に使っている。

213:――とこう云う風に書こうと思った。
214:然しそう書く事は小僧に対し少し惨酷な気がして来た。
「小僧に対して無頓着であったのである」ぐらいを補う間接的逆接関係である。心理変化に使っている。

志賀直哉の「然し」は

連文関係例数
逆接関係4例
間接的逆接関係4例
怒るでしかし3例
であった。
 志賀直哉は「然し」の半数を逆接関係のマーカーとして使っていると言える。そして、「然し」を二つの心理内容の間において、対立したり併存したりする関係を示している。

片方だけに使われている接続詞

抽出語芥川龍之介『羅生門』頻度抽出語志賀直哉『小僧の神様』頻度
そうして11そして10
そこで7つまり2
しかも21
じゃが1じゃあ1
それでも1それに1
だから1それにしても1
と同時に1
実は1
従って1
1
尤も1

 芥川「そうして」志賀「そして」の違い、芥川が接続詞を若干多様に用いるという程度のことがが認められる。

2.5 形容詞の頻度 芥川龍之介『羅生門』志賀直哉『小僧の神様』両方に使われている形容詞

抽出語品詞芥川龍之介『羅生門』頻度志賀直哉『小僧の神様』頻度出現率合計最大値/最小値
ない形容詞-自立17104461 1.95
よい形容詞-自立371579 2.03
悪い形容詞-自立441299 1.15
赤い形容詞-自立31672 3.44
いい形容詞-非自立13627 2.62
強い形容詞-自立21498 2.29
大きい形容詞-自立12476 1.74
いい形容詞-自立11325 1.15
少い形容詞-自立11325 1.15
よい形容詞-非自立11325 1.15

『羅生門』の「赤い」は、

52:短い鬚の中に、赤く膿を持った面皰のある頬である。
104:瞼の赤くなった、肉食鳥のような、鋭い眼で見たのである。
114:勿論、右の手では、赤く頬に膿を持った大きな面皰を気にしながら、聞いているのである。
と下人や老婆の顔の部分に使われている。
『小僧の神様』の「赤い」は
122:「もっとあがれませんか」と云われると、仙吉は赤くなって、「いえ、もう」と下を向いて了った。
と変化した顔色に使われている。偶然であろうが。

片方だけに使われている形容詞


芥川龍之介『羅生門』志賀直哉『小僧の神様』
抽出語頻度抽出語頻度
長い4小さい11
広い3淋しい7
高い3旨い6
低い3若い4
暗い2忙しい2
白い2
あかい うい うすい けわしい こい すばやい とぼしい はげしい 鋭い 遠慮ない 黄いろい 寒い 狭い 細い 手荒い 重たい 短い 遅い 欲しい ありがたい うまい くい ずるい たまらない 遠い 何気ない 可愛い 怪しい 嬉しい 恐ろしい 苦しい 軽々しい 厚い 惨い 早い 薄気味悪い 悲しい 力強い

 芥川『羅生門』にだけ使われた形容詞は、ほぼ外形を形容するものであるのに対し、志賀『小僧の神様』にだけ使われた形容詞の中には「淋しい ありがたい ずるい たまらない 何気ない 可愛い 怪しい 嬉しい 恐ろしい 苦しい 軽々しい 惨い 薄気味悪い 悲しい 力強い」などの心理内容や事物に対する評価を表すものが含まれている。

3 おわりに

 以上 5656文字の芥川龍之介『羅生門』と6168文字の志賀直哉『小僧の神様』の語彙を比較した。同じくらいの文字数の作品でどの程度のことがわかるかを調べたことになる。 出現率を出しておいたのは、サイズの違う文章の語彙を比較する時のためである。10KBと100KBというような大きな差がある場合は注意しないといけないが、いろいろなザイズの文章を扱って、出現する語を比較することで、文章表現上の秘密に迫っていきたい。

(のなみまさたか 本学教員)
大阪教育大学 国語教育講座 野浪研究室 △ ページTop ←戻る