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文学的文章の読みにおける推測と検証

野浪正隆
のなみまさたか

0 はじめに

 表現の成り立ち・仕組みを明らかにしていく際に、必要であることが分かっていながら、客観的な検証が困難であることから、避けていた、「読み」の仕組みを考えたいと思う。

 表現主体・作品・理解主体を、乱暴だが、プログラマ・プログラム・ハードウェアに譬えて考えてみる。どういう命令を送ればハードウェアがどのような振る舞いをするかが分かっていなければ、プログラマはプログラムを書くことができない。書いたとしても、ハードウェアに期待した振る舞いをさせることはできない。作品を明らかにする時も、表現主体の表現の仕組みを明らかにするときも、理解主体の「読み」の仕組みが明らかになっていなければ、不十分なものに終わる。

 たしかに、表現主体は表現主体であると同時に理解主体でもあるから、理解主体のことを分かって表現しているのだとも考えられるのが、そのように分かっているつもりであっても、誤解や曲解がおきるというところから考えると、その理解は、不十分であるといえる。

 理解主体がどのように「読む」のかを客観的に観察することは、現時点ではもちろん不可能である。が、幾つかの仮説を立てて、不十分ながら検証していくことによって、「読みの機構」が明らかになっていくと思われる。そして、平行して、より詳細に「表現の機構」が明らかになっていくと思われる。

0.1 語の理解における推測と検証

 私のもうすぐ5歳(1989年生まれ)になる娘が、1年前から絵本を自分で読みだした。最初は、一字一字たどたどしく字を音に変えていき、まとまったところでもう一度声に出して読んでいた。同じ絵本を繰り返して読むときは、かなり正確にすらすらと読んでいた。3ヶ月ほどたって、初めて読む絵本であっても語単位でまとめて読むようになった。隣にいて、どこを読んでいるのかと覗き込むと、大体は合っているけれども「嘘読み」になっていることもあった。

 このような読みの発達段階を説明する知見は、認知科学や教育心理学から、すでに提出されているであろうが、読みにおける推測と検証に関るので、仮説を述べてみる。

仮説0
文字単位で読む段階から、語単位で読む段階に進むためは、「推測」と「検証」が必要である。

 一字一字読んでいる段階では、複雑で手間の掛かる操作をおこなっているらしい。

  1. 読んでいる各時点で、「これで語のまとまりか」というチェックを行う。
  2. 語のまとまりらしいと判断する。
  3. 読み始めの字から、語のまとまりらしいと判断した文字までの聴覚映像列(短期記憶している)を再生する。
  4. 語を認定する。
という操作である。「これではしんどくてやりきれない」と思ってであろう、
  1. 最初の幾文字かを見て、「これはきっとあの語であろう」と推測する。
  2. 推測した語を発声し、合っているかどうかの検証をしながら、語を確認する。
という方法に切り換える。この方法をとることで、語単位で読む段階に進むことができる。(「嘘読み」は、検証の不十分さによるのであろう。)

 ここでの「推測・検証」は、ともに「既有知識」を基にした操作である。どれだけの語を既有知識として持っているかが、ここでの発達に大きく影響する。そして、既有知識を「推測・検証」でどう使いこなすかが、より直接的に影響する。例えば、その年齢ならば当然知っているであろう語(ひらがなで書いてある)を、一字一字たどたどしく読む小学校低学年の児童がいる。彼らは、既有知識を「推測・検証」で使いこなせていないから、語単位で読む段階に進んでいないのだと、いえるのではないだろうか。

0.2 文学的文章の特徴

 本稿で取り上げる文学的文章に、どのような特徴があるのか、関連性理論をヒントにして、次のように考えた。

Griceの協調の原理としての公準

量の公準
1 必要な情報はすべて提供せよ。
2 必要以上の情報を提供するな。
質の公準
1 偽と信じていることを言うな。
2 証拠の不十分なことを言うな。
関係の公準
1 関係のあることのみ言え。
様態の公準
1 不明確な表現を避けよ。
2 多義的であることを避けよ。
3 簡潔を期せ。
4 順序よく述べよ。

 「文学的文章は、協調の原理としての公準をちょうど逆にしたものである」と仮定し、以下の公準をたてる。

      「文学的文章表現」の公準「文学的文章理解」の公準>
量の公準
  1. 必要な情報すべてを提供するな。
  1. 必要な情報がすべて提供されていると思うな。提供されていない情報を推測せよ。
質の公準
  1. 偽と信じていることでも言え。
  2. 証拠の不十分なことでも言え。
  1. 偽であるかもしれないと疑え。
    偽は偽でまとまりをつけているかもしれないと推測せよ。
    (虚構・ファンタジーに関係する)
  2. 証拠が不十分であるかもしれないと疑え。
    補充すべき証拠を推測せよ。
関係の公準
  1. 関係のないことも言え。
  2. 関係のあることも言うな。
  1. 関係のないことかもしれないと疑え。
  2. 関係を推測せよ。
様態の公準
  1. 不明確な表現を避けるな。
  2. 多義的であることを避けるな。
  3. 簡潔を期す必要は無い。
  4. 順序よく述べる必要はない。
  1. 不明確な表現を明確な表現に読み換えよ。
  2. 多義的であることを前提に、他義を推測せよ。
  3. 冗長な部分を識別し、機能を推測せよ。
  4. 順序を推測せよ。

 本稿では、文学的文章を以上のような特徴を持つ文章と仮定し、それを読解する際に、「推測・検証」がどのように働くかについて、幾つかの仮説を提出する。

1 文章中の謎と、読み手の推測・検証について

1.1 有力な手掛かりが文章中に無い場合の推測

 Raymond Carver,"Popular Mechanics" 邦題「生活の中の力学」村上春樹訳 は、次のような情景描写で始まる。(『SUDDEN FICTION 超短編小説70』ロバート・シャパード/ジェームス・ト-マス編 村上春樹/小川高義訳 文春文庫 1994 によった。)

事例1

 その日の早いうちに天候ががらっと変わって、雪は溶けて泥水になった。裏庭に面した、肩くらいの高さの小さな窓を、そんな雪溶け水が幾筋もつたって落ちた。暮れなずんでいく外の道路を車が次から次へと泥をはねかえして走っていった。でも暗くなっていくのは家の中も同じだった。
 そして、男が家を出る準備をする場面、赤ん坊を男と女とが取り合う場面があって、次のように終わる。
 やめて!
 両手がはずされてしまったとき、彼女はそう叫んだ。
 この子は放すもんか、と彼女は思った。彼女は赤ん坊の一方の手を掴んだ。彼女は赤ん坊の手首を握ってうしろに身を反らせた。
 でも彼は赤ん坊を放そうとしなかった。
 彼は赤ん坊が自分の手からするりと抜け出ていくのを感じて、力まかせに引っ張り返した。
 このようにして、問題は解決された。

 「解決」が、どのようなものであるのか、書き手は叙述せぬまま文章を終えてしまっている。読み手は、いきなり終わったこの文章のかたをつけるために、次のように様々に推測する。

  1. 赤ん坊の肩が脱臼し、大きな声で泣き喚いたが、男と女は引っ張ることを止めようとせず、その結果赤ん坊は死んでしまった。男は死んだ赤ん坊を女に押し付け、家を出ていった。
  2. 赤ん坊の手が引きちぎれ、あたりが血まみれになって、男と女は我に帰り、男は不良品になってしまった赤ん坊を女に押し付け、家を出ていった。
  3. 赤ん坊のひときわ大きな泣き声で、男と女は自分達の愚かさに気がつき、話し合うことになった。

 引っ張られている赤ん坊がどうなったのか。男と女とは、引っ張ることをどうしたのか。別れることをどうしたのか。読み手は、まずストーリーの謎を解決しようとして、推測する。検証するための有力な手掛かりが、文章中に見つけられないので、ここでの推測は、「読み手の好み」によることになる。「男の残酷さが描かれていればいいなあ」というのが好みの読み手はAやBを推測するし、「子は鎹」的ハッピーエンドが好みの読み手はCを推測する。ABC以外を推測する読み手がいるだろうが、その推測も、やはり、その読み手の好みをもとにして行ったのである。

仮説1
謎がありながら、有力な手掛かりが無い場合、読み手は、自分の好みにしたがって、推測する。

1.2 幾つかの推測が可能な場合の推測・検証
    (先行文脈・後続文脈がない場合)

事例2

バスを待つコートの背中の消しゴムのカスが震えている。

 事例2が単独で文章である場合(短歌俳句などの短詩型文学のように)、読み手は事例2が単に事態を述べたものとは読まない。幾つかの仕掛けや書かれている事態を基に、いろいろなレベルでいろいろなことがらを推測する。私が担当している国語学概説の時間に「この文章からなにが推測できるか」と発問して、学生に答えさせたところ、多くが、

という謎にたいする推測を回答した。
仮説2
読み手が重要と判断した謎について推測する。

 授業中という公の場での発表であるから、「値打ちのあることをいわなければならない」ということであろう。重要と判断した謎に対して、推測したのである。その他に次のような推測を回答した。

仮説3
一般的なものごとを補填し、特殊なものごとを補填しない。

 このように、謎があり、手掛かりがあって、何通りかの推測が可能であり、特殊であることが不明である場合、一般的なものごとを選択して推測を行うようである。

 学生は、視点人物についての推測を行わなかった。事態の中心人物(視点人物の前にいる)の謎に対して推測を行うことに意識が集中してしまったのだろうが。

仮説4
文章中に謎を解く手掛かりがあっても、読み手が採用しない場合がある。その場合は、自分の好みにしたがって、推測する。

 事態の中心人物にたいする視点人物の共感は推測されなかったが、

の謎に対する推測群から、

 「冬の夕方、入試が終わって家に帰る学生が、バスを待ちながら、合格点が取れたかどうか、不安に思っていて、それがコートについた消しゴムの震えにあらわれた。」という話題を、組み立てた。

仮説5
幾つかの謎にたいする幾つかの推測が、意味的統一(仮説1の)するように、各推測を検証し調整し決定する。

 謎の個数を q とし、それぞれの謎にたいする推測の可能性を n(1……q) とすると、推測の組み合わせは n(1) x n(2) x …… x n(q)と膨大な個数になる。読み手は、その膨大な組み合わせを、読み終わりの時点で処理しているのではなく、読み進めていく時点で、可能性の「刈り込み」をおこなっているようである。重要かそうでないかの判断が「刈り込み」の基準として、用いられているようである。

 書き手は、読み手が推測しなければそして推測群を組み立てなければ意味的統一ができないように、謎をしかけ手掛かり群を叙述する。もし事例2が次のようであったら詩的効果に差異が生ずるだろうか。

事例2-aバスを待つコートの背中のセンターテストの消しゴムのカスが震えている。
事例2-bバスを待つ受験生のコートの背中の消しゴムのカスが震えている。
事例2-cバスを待つ私の前の受験生のコートの背中の消しゴムのカスが震えている。
事例2-dバスを待つ私の前の受験生のコートの背中のセンターテストの消しゴムのカスが震えている。
事例2-eバスを待つ私の前の受験生のコートの背中のセンターテストの消しゴムのカスがその心を表すように震えている。

1.3 幾つかの推測が可能な場合の推測・検証
    (先行文脈・後続文脈がある場合)

事例3

00 「午後」

01 歓声が沸き上がる
02 鳩と風船が青空を隠す
03 病人はベッドの上
04 寝返りを打って
05  ボリュームを絞る
    スイッチを切る
06 回診です
07 微熱が続いているんです
08 回復期にさしかかったようですね
09 病人はベッドの上
10 起き上がって
11 スイッチをいれる
    ボリュームを上げる
12 ゲートから
  ランナーが走り込んでくる
13 歓声が沸き上がる
14 赤土のトラックを一人で走る
15 歓声が沸き上がる

1.3.1 即時読みアンケート

 今の詩を、読み手(であるあなた)は、どう読んだだろうか。

 読みがリアルタイムに行われている様を、リアルタイムな読みが組み立てられていく様を、目にみえる形に取り出したいと思い、次のような調査を行った。

 前掲の詩を、黒板に1行ずつ書いて、それに関して、Q1からQ10までの質問に答えてもらうということを、16行分16回繰り返す。最後に、主題と感想を書いてもらう。

 後掲の回答用紙(本物は 0から15まである)に、各時点の読み(に近似したもの)が記述されるということになる。

 もちろん、この調査方法で「自然な読み」をとりだすことはできない。読むという理解行為と、読みを反省し記述するという表現行為とが交じるので。

 それでも、読みの実態に少しでも近づくことができるのではないかと思う。今回は、調査・集計ともに手作業で行ったが、プログラムを書いて、パソコン上で、調査と分析を行いたいと思っている。そうすれば、その質問について、どこを参照して回答したか、回答するのにどれだけ時間がかかったか、を記録することもできるので。

即時読み調査

 1993.12.8 調査者 野浪正隆    
       被調査者 表現ゼミ参加者
 黒板に今書いた部分を読んで、次のような点について細かく詳しく回答用紙に記入して下さい。 Q1.前に書かれた部分で不明であったことが、判明したか? (Yes/No)
 Q1が Yes の場合、
  Q2. どのように判明したか?
 
Q3. 意外さはあったか? (Yes/No)
Q4. 今書いた部分で不明なことがあるか? (Yes/No)
 Q4が Yes の場合
 Q5. なにがどのように不明か?
 Q6. その不明なことは、現在の読みにとって、重要だと思うか? (Yes/No)
 Q7. それは、多分こうであろうと 見当がつけられるか?(Yes/No)
  Q7が Yes の場合
   Q8. どのような見当か?
  Q7が No の場合
   Q9. 見当はつけられないが、先に書いてあると予想できるか?(Yes/No)
Q10. これより先に、どんなことが書いてあると予想するか?

1.3.2 調査結果

 調査結果から、読みの4つの例を取り上げる。ABCDは被調査者、01~15は行番号。【】内は、アンケートからの引用。

Aの場合

 01「歓声が沸き上がる」理由(01時点では手掛かりさえ明示されていないので、完全な空所である)を、【平和的な行事が行われているカラ】、と02で補填した。

 以降、平和にこだわった読みを行った。02「鳩と風船が青空を隠す」場所を、【おそらく反戦集会であろう。あるいは原爆記念日などに行われる行事】と推測し、03の「病人」を、【ある戦争によって入院したのであろう。】と推測した。05でも【なぜ、その集会の様子が映しだされているテレビを消したのか?】という形で空所を発見した。反戦集会以外の可能性を想定しない読みを続けた。06「回診です」の後続を【医者と病人とのやり取り】と推測するが、その時にも、【平和的行事と病人のかかわり】を推測した。11の後続を【テレビの平和的行事のありさま、それを見た時の病人の心情。】と推測した。

 ところが、平和に収束しそうにないと感じたのか、病人の心情を推測の中心に置こうとした。

 時既に遅し、3~5行と、9~11行とを読み落としてしまって対比できなかったので、結局、病人とランナーとを対比し、病人の心情を【病人の健康へのあこがれ、嫉妬。】とした。

 Aは、主題を、【病人の健康へのあこがれ、嫉妬。】とした。

 感想は、【「午後」という言葉の持つ、終局への方向性からくる寂しさ切なさを主人公は、テレビを見つめる自分に見たのでしょう。主人公は回復期にあるという医者の言葉を信じていないように思います。】

Bの場合

 「病人」の心情がどうであるかという空所を設定しなかった。主題を、【静かな病室と歓声の沸き上がるテレビの中の世界は対照的で、病人の健康に対する思いが浮き上がっている。】とした。

 感想は、【鳩が平和の象徴であることから、始めは病人が被爆者かなとも思ったが、ランナーが出てくることからオリンピックかなと思った。ランナーという漠然とした書き方からマラソン選手か開幕式に走っているのか迷ったが、最後までわからず、もやもやした気持ちのままである。病人とテレビの内容の関りがはっきりせず、いろいろと想像をめぐらすが明確に分からず、何か意味があるのではと最後まで気になってしまう。私にとっては、後味の悪い詩である。】

 後味の良い「意味的統一」のためには、中心的空所の発見が不可欠であるらしい。

Cの場合

 Cの場合は、推測を修正することで、読みを深めていったところに特徴がある。02を、【何かの祝いか、お祭りの企画で飛ばした。】と推測し、03を、【病院から見える空に飛んでいて、病院内の人々から歓声が上がった!】と推測したが、05で、【何のボリューム・スイッチか? 歓声と病人は別々の場所?】という空所を発見し、【病人はテレビから歓声を聞き、空を見ていた。】と推測しなおし、12で、【陸上競技場に、ランナーが走り込んできて、観衆が沸いている!病人はさっきも、テレビで歓声や鳩・風船を見ていた!】と修正した。

 Cは、主題を【歓声や青空と無関係のような病院で病と闘う病人と一人で走るランナーとに共通な明るさ・力強さ。】【静かに回復を告げられて、元気になろうとしている病人と、歓声を浴びて一人走っているランナーに共通した点がありながら、対照的である事の哀しさ。】とした。

 感想は、【初めに出てくる明るいイメージの歓声や青空と対照的な病人が出てくるけれど、この病人も回復期にさしかかっていることを聞いて、一人でトラックを走る多分一位のランナーを見ながら、明るい前向きな気持ちになったのではないかと思う。】

Dの場合

 Dは、メタ知識(主題設定法・構成法・叙述法・視点の理解etc)×各文章様式の表現特性の理解)を活用した読みを行った。空所の発見も細かく、検証も文章に即して行った。

 01だけでも、【歓声により大勢の人々の存在!】【何にたいする歓声である】【歓声であるから、何か賞賛すべき事があったのであろう。何にたいする歓声であるのかが明らかになる。】のように、詳細に、空所の発見と推測と後続推測とを行った。

 メタ知識による読みを挙げると、

 Dは、主題を、【病人が、回復しつつあるという喜びの中で、生きる気力が沸いてくるのを感じた事。】【マラソンと病気とは似たようなもので、長時間にわたる自分との闘いである。時には滅入ったり、ゴールが見えると足取りが軽くなったりするのは共通である。】【ある短期のある小さな事で人の気持ちというものは変わるものである。】

 感想は、【心情描写は全くないが、「テレビを消す」→「テレビをつける」という病人の行動描写が、「回復期にさしかかる」という医師の言葉を真ん中において対称しているだけで、落ち込みぎみの病人が回復への意欲を持った事が表現できるという、直接的な表現だけではなく、ことばとことばの関係によってそれを示す方法があり、その方が効果的である事を改めて感じた。マラソンランナーの喜びの表情などが描写されず、歓声だけで表されている分、逆に、マラソンのゴールのあの観客をも巻き込む興奮のようなものが想像されたように思う。】

2. 調査結果からの仮説群

仮説6
後続部を「こうなるに違いない」と推測する確信の度合が強いほど、その時点の空所発見・空所補填が不十分になる。(Aの読み)
仮説7
後続部に空所補填を期待する度合が強いほど、その時点の空所発見・空所補填が不十分になる。(Bの読み)
仮説8
推測に「保留」「確定」(大雑把であるが)のモードの違いがあって、「保留」の場合には、先行部の推測を修正することができる。(Aが修正できず、Cが修正できたのは、これによる)
仮説9
本文中に手掛かりがあり、検証できる場合、「確定」推測できる。
仮説10
本文中に手掛かりがないのに、「確定」推測した場合、誤読になる。(Aの読み)
仮説11
文章に対するメタ知識が、手掛かり群を発見する。(Dの読み)
仮説12
文章に対するメタ知識が、文章を意味的統一する際に、機能する。
 以上のような仮説が成り立つのか、調査を精細にすることで検証できるように思う。そして、「読みの機構」を明らかにすることで、「表現の機構」を明らかにすることができると思う。

 研究の取りかかりの、未検証の仮説の段階であるので、まずは、調査法・分析法の確立が課題であるし、なにより、データの蓄積が現時点での課題である。

参考文献

『ひとは発話をどう理解するか』 ダイアン・ブレイクモア ひつじ書房 1994
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