2009.4. 〜2012.3. 日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)(研究課題番号21530496)
「精神障害者の相互行為における指示手続きとカテゴリー」(研究代表者:串田秀也)


[2009年度の研究成果]

2009年10月12日(月) 第82回日本社会学会大会(立教大学)
Reappraising Garfinkel's notion of "self-organizing" setting: An example of negotiation over treatment at a mental clinic

(概要)
社会学者ハロルド・ガーフィンケルの業績の再評価を狙いとしたテーマセッションにおいて、ガーフィンケルの「自己組織化する」場面という着想が社会的相互行為の分析において重要であることを、精神科診察場面の分析を通じて例証した。一つの診察場面に焦点を当て、精神科医の勧める処置(クスリの増量)に対して患者が抵抗を示す過程を分析した。診察場面では、医師が「専門家」であり患者が「素人」であるというカテゴリー対が基本的に参照される。このことは同時に、「専門家」としての権限に基づく行為(診断や処置の決定)において「素人」が従属的立場におかれることを含意する。しかしながら、これらのカテゴリーが行為に対してどのような意味を持つかは、相互行為のそのつどの局面で異なってくる可能性がある。ここで取り上げた診察場面では、医師が処置を勧めるときに自分の見解を述べる発話形式(「パキシルをもう少し増やした方がいいかもね」など)を用いている。この発話形式は患者に処置を提案して同意を求めるものであり、処置の決定への患者の参加を誘うという意味で、「専門家」としての権限を緩める働きかけとなっている。しかし、提案された処置を患者が受け入れたくないならば、患者は医師の発話に明示的な非同意を返す代わりに、それを「専門的な判断」という「情報」を提供されたものとして応じることができる(たとえば「あ、そうですか」などの形で)。つまり、「専門家」カテゴリーを参照することで、ここでは逆説的にも、患者は抵抗の手だてを見いだしている。このように、「専門家」「素人」カテゴリーは、たんに医師への患者の服従を帰結するのではなく、相互行為の偶発的展開に応じてプラクティカルに利用可能な資源であることが明らかとなった。

[2010年度の研究成果]

串田秀也 2010 精神科外来診察場面における処置提案連鎖
  第26回社会言語科学会大会ワークショップ「精神障害とコミュニケーション」(2010年9月5日、大阪大学)

串田秀也 2010 相互行為における「制度の境界」−精神科外来診察における"応じられない"訴えをめぐる交渉−
  第83回日本社会学会大会(2010年11月6日、名古屋大学)
串田秀也 2010 精神科診察における"糸口"としての留保報告
  エスノメソドロジー・会話分析研究会2010年度大会(2010年11月8日、京都大学)


[2011年度の研究成果]

串田秀也 2011 診察場面の会話分析−精神科病院外来診察室の事例から−
  『月刊日本語学』第30巻2号, pp.42-53.
Shuya Kushida 2011 Intelligibility and sensitivity of a treatment recommendation: examples from psychiatric consultations in Japan.
  Paper presented at 3rd International Conference on Conversation Analysis and Clinical Encounters (13 July, 2011 York)
串田秀也 2011 追加的解決方法を求める訴え−精神科外来診察におけるデリケートな問題提示の一事例
  『大阪教育大学紀要 第U部門』第60巻第1号, pp.1-21.