弦楽器のウラ技
同じ位置を押さえて高さの違う音を出そう!!
〜ハーモニクス(フラジョレット)奏法で倍音の実験〜
ハーモニクスって何?
ヴァイオリンやヴィオラ,チェロ,コントラバスなどの弦楽器には, ハーモニクスと呼ばれる不思議な奏法があります。 これらの弦楽器では普通,図1のように弦の上のある一点を左指で固く押さえて,右手の弓で演奏します。 それに対して,図2のように図1で押さえた位置と同じ位置に軽く指を触れ(押さえつけずに), わざと振動の節を作ると,
倍音
を得ることができます。 これが
ハーモニクス奏法
です。 この奏法を使って出した音は,指板を固く押さえて出す普通の音より, 柔らかく,澄んだ音になります。
例えば…
ヴァイオリンの弦には,G線(G3),D線(D4),A線(A4),E線(E5)の4本の弦があります。 それぞれの弦を開放弦(何も押さえない状態)で弾いた場合,( )内の音がなります。
それでは,G線を例としてハーモニクスを説明します。
まず,G線を開放弦で弾くと,G3(ソ)つまり基音が鳴ります。
wav(312kb)
mpg(184kb)
次に,G線上の1/4の位置を2通りの奏法で押さえてみます(指で押さえた場所の右側を弓で弾くものとします)。
普通の奏法,つまり弦をぎゅっと押さえると,弦の長さ自体が3/4となり, 固有振動数が変化します。 よって,当然のことながら音の高さも変わり,この場合はC4(基音のすぐ上のド)が鳴ります。
ハーモニクス奏法,つまり弦に軽く触れると,弦の長さ自体は変わらず,固有振動数も変化しません。 振動する弦の長さは,開放弦のときと同様,左端から右端までとなります。 ただし,指によって基音であるG3の振動はさえぎられ, そこが節となる4倍振動(2倍振動の倍なので周波数は基音の3倍)が起こりやすくなるので, G5(基音の2オクターヴ高いソ)が鳴ります。 このとき,同時に3倍以下の振動と奇数倍の振動もさえぎられるので, 音の成分が単純になり,澄んだ響きとなります。 1/2の位置を押さえた場合,どちらの奏法でも同じ音になっていますが,音色は異なります。
普通の奏法
指の位置
ハーモニクス奏法
(基音のすぐ上の
ド
)
wav(277kb)
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1/4
(基音の2オクターブ高い
ソ
)
wav(301kb)
mpg(176kb)
(基音のすぐ上の
レ
)
wav(272kb)
mpg(168kb)
1/3
(普通の奏法1/2の1オクターブ高い
レ
)
wav(251kb)
mpg(176kb)
(基音の1オクターヴ高い
ソ
)
wav(338kb)
mpg(192kb)
1/2
(基音の1オクターヴ高い
ソ
)
wav(313kb)
mpg(248kb)
(基音のすぐ上の
シ♭
)
wav(253kb)
mpg(176kb)
1/8
(基音の3オクターブ高い
ソ
)
wav(297kb)
mpg(136kb)
1/8くらいまでいくと,谷の部分が狭くなって,節だけに触れにくくなるため, ハーモニクスは技術的に困難になります(指が細い方がトク?)。 したがって,ヴァイオリン→ヴィオラ→チェロ→コントラバスと, 楽器が大きくなる(弦が長くなる)ほど,ハーモニクスはやりやすいようです。
更新日 2003/04/15
参考文献
中村健太郎 図解雑学「音のしくみ」(ナツメ社)
恩藤知典ほか スーパー理科事典 (増進堂・受験研究社)
斎藤晴男/兵藤申一 高等学校標準「物理1B」(新興出版社啓林館)