ある家に小学校入学前の男の子と年少の妹の兄弟、そしてその両親が住んでいました。
当時では高齢出産だったこともあり、この兄弟は両親からとても愛され、好きなことや興味のあることなどはたいていなんでもさせてもらえる環境で育ちました。
そんな幸せなある日、「よし、今から小学校入学のための準備をしていこう!」「オー!!」という声がある家から聞こえてきました。
どうやら、卒園が近づきいよいよ小学校入学が見えてきた男の子のために、今日は家族で必要なものを買いに行くようです。
男の子が「お母さん、今日は何を買うの?」と問うとお母さんは「そうねぇ…。まずは制服を買って、その次は靴でしょ。その次は文房具で…」とメモ用紙を見ながら楽しそうに答えました。
すると、「ランドセルは?ねぇ!僕のランドセルは?」と男の子は焦ってお母さんに叫びました。
あまりに急だったのでお母さんも一瞬驚いたものの、すぐに笑顔で「お買い物の最後に、おばあちゃんも誘って買いにいくのよ。」といいました。
それを聞いた男の子はすっかり笑顔に戻り、「じゃあ早く行こう!」と楽しそうに買い物に出かけました。
制服、靴、文房具…とたくさんのものを買い、さすがに疲れた様子の男の子でしたが、おばあちゃんを迎えに行くと「やっとランドセルだ!」と再び笑顔で楽しそうに言いました。
そして、そうこうしているうちにランドセルのお店に到着しました。
「うわぁ…いっぱいランドセルがおいてある!おいてあるよ!ねぇ!」と男の子は目をキラキラ輝かせながら、両親と妹、そして祖母に話しかけました。
それを見た両親と祖母は笑顔になり、男の子に「どれがいい?好きなもの選んでごらん?」と問いかけました。
すると男の子は一目散に走っていき、「これ!」とあるランドセルを指さしました。男の子はとても笑顔でしたが、両親と祖母は指さされたランドセルと見た瞬間、「え…」と固まってしまいました。
なぜなら、男の子が選んだランドセルは赤色のランドセルだったのです。
両親と祖母は「男の子だから黒のランドセルを選ぶ」と思っていたのです。
なんの迷いもなく。
間違いないと。
しかし、男の子は両親のこの戸惑いを知ることなく、今までお願いしたことはたいていかなえてもらっていたので、今回も必ず赤のランドセルを買ってもらえると思っていました。
確かに両親も祖母も男の子のことは大切なので、男の子の要求をかなえてあげたいとは思っていました。
ただ、実際に使っているところを想像すると、「ほとんどの男の子が黒色のランドセルで、ほとんどの女の子が赤色のランドセルと使っている中で、この子だけが赤色のランドセルを使っていたらいじめられたりするのではないか」という不安が両親や祖母にはあり、その気持ちをなくすことはできませんでした。
なので、「6年生になっても使うから、黒色の方がいいんじゃないかな?」「黒色の方がかっこよくない?」などとやんわり男の子に伝えました。
すると、男の子は絶対に買ってもらえると思っていたので、「どうして?ダメなの?」と不思議に思うとともにとても悲しい気持ちになりました。
たくさんの話し合いの末、最終的には黒色のランドセルを買うことになりました。
しかし、男の子は心から納得したわけではなかったため、少しへそを曲げて帰宅しました。
数か月後、男の子は卒園をし、地元の小学校に入学しました。
ただ、家を出る前からまだランドセルのことに納得がいっていなかった男の子は、家を出てから小学校に行くまでの間も少しムスッとしていました。
そしてその様子を見た両親も不安に思っていました。
しかし、多くの友達と入学式の前に会って、ほとんどの男の子が黒色で、ほどんどの女の子が赤色のランドセルを使っているのを見て、「お母さんたちが言っていたのは本当だったんだ…」「僕一人だけみんなと違わなくてよかった」と心の底から思った男の子は、そこからはいつもの笑顔で過ごすことができました。
そして式が終わり、男の子が笑顔であることを見た両親もホッとして安心することができました。
そしてそれから十数年後、20代になった男の子は急にお母さんと妹に「そういえば…」と十数年前のランドセルのことについて話してきました。
お母さんと妹は「なんで急に?」と男の子に聞きました。
すると、「いや最近、大学に行くために道歩いてたら、女の子でも紺色とか緑色とかのランドセル使ってて、男の子でも赤色に近い黒色とか茶色とかのランドセル使ってるのを見たんよ。それ見たら、今の子たちは俺みたいに、好きな色を好きなように使うことに恥ずかしさを覚えなくてよかったなと思って。」といいました。
それを聞いたお母さんは「ほんとにね。でも、あの時はごめんね。」と申し訳なさそうに男の子に言いました。
"すると、男の子は「いや、一生懸命説得してくれてありがとう。六年生まで使うとか考えずにただ好きな色言ってただけだから。今は黒色でよかったと思ってるから気にしないで。俺は俺で納得してるし、満足してるから。」と笑顔で答えました。
家族そろって、昔と今での常識は常に変化していることを実感した出来事でありました。
ここから山をいくつもいくつも超えたところに、ウサギさんとパンダさんとキツネさんが住んでいました。ウサギさんとパンダさんは本を読んだり、絵を描いたり、料理といった部屋なかでする遊びが好きで、とっても仲良しです。外で、鬼ごっこやボールで遊ぶことが好きなキツネさんは好みの違いから仲間はずれされたようで、いつも二人に意地悪をしていました。ウサギさんとパンダさんはキツネさんの意地悪に耐えながらも、いつも3人で遊んで過ごしていました。部屋の中で遊んだり、お外で遊んだり。
キツネさんの意地悪とは、例えば、ウサギさんやパンダさんの持ち物を隠したり、3人で分けるはずのおやつを一人で食べてしまったりといったことでした。
ある日、3人で遊んでいるときにウサギさんのおなかが「ぐーーー」と鳴りました。そこで、ウサギさん、パンダさん、キツネさんの3人はホットケーキを作ることにしました。パンケーキを作っている間も、キツネさんは何度も何度もウサギさんとパンダさんにいたずらしました。わざと小麦粉をまき散らしたり、たまごを割るときにわざと殻を入れたり、、、
ウサギさんとパンダさんは、なんとかキツネさんの意地悪に耐え、ホットケーキの生地が完成しました。
3人は順番に、焼き始めました。一人当たり2枚分の生地です。
まずは、ウサギさんから。フライパンを温めます。温まったら、作った生地をお玉ですくって、、、と思ったらキツネさんがウサギさんを驚かせて、生地が床に落ちてしまいました。落ちてしまった生地はもう食べられません。2枚目は、キツネさんのよそ見をさせようという意地悪を耐えて、おいしそうに焼き上げることができました。
次は、パンダさん。一枚目は、おいしそうな焦げ目の付いた、パンケーキが出来上がりました。二枚目は、ひっくり返そうとしたときにキツネさんに邪魔をされて失敗してしまいました。最後のキツネさんは、ドジばかりしてしまって、2枚ともうまく焼くことは出来ませんでした。
3人とも焼きあがりました。しかし、最後にきれいに焼きあがったのは2枚だけ。
キツネさんの分は一枚もありません。キツネさんは自分が2人にどれほどひどいことをしていたのか気付きました。そして悲しくなってきて、森へ逃げ出そうとしました。キツネさんが動きかけたその時、ウサギさんが
「この2枚のパンケーキを3人で分けて食べようよ!」
と、言いました。続いてパンダさんも、
「いいね!3人で食べたほうがきっとおいしいよ!」
といってくれました。
一人あたり三分の二枚しか食べられませんでしたが、3人で分けたパンケーキは本当においしかった!
おなか一杯にはウサギさんもパンダさんもキツネさんもならなかったけれど、しあわせな気持ちでいっぱいになりました。食べ終わると、
「そうだ!」
と、突然キツネさんが飛び出していきました。ウサギさんもパンダさんもびっくりしましたが、帰ってきてもっともっとびっくりしました。キツネさんがウサギさんの好きな野ニンジンを、パンダさんの好きな笹を、ほかにもたくさんの木の実を持ってきてくれたのです。はじめ、ウサギさんとパンダさんはきっとキツネさんが独り占めして食べるのだろうと考えました。しかし、キツネさんが
「2人のためにとって来たよ!3人で分けて食べよう!」
といいました。
キツネさんがとってきてくれたニンジンや笹や木の実は本当においしかった。
ウサギさんとパンダさんとキツネさんは、幸せいっぱいおなか一杯になりました。
それからは、キツネさんの意地悪はなくなり、3人で毎日遊んで楽しく暮らしました。
めでたしめでたし!!!
冬はとっても寒い。でもね、僕は大丈夫なんだ。なんて言ったって、僕がいるここにはこんな暖かい布団があるからね。僕はずっとこの布団で寝ている。ずっと居すぎて最近自分の服が小さくなってきた。仮にね、ちょっと寒いところに出たとしても最後にはここに戻って暖かくなれる。僕は幸せ者だ。そういえばね、昨日僕より少し大きくてフワフワな仲間が入ってきたんだ。僕は仲間が増えたのがうれしくて話しかけた。
「こんにちは。君も今日からここで寝るの?」
その子は恥ずかしがりながらこう答えた。
「そうなんだ。でも、まだ私ここに慣れてなくて…。」
少し間が空いてさらにこう言った。
「すごく素敵な布団ね。心地がいいわ。」
僕は嬉しかった。この布団の気持ちよさを共感出来た。
僕は仲間が増えたことが嬉しくて、ずっと話していた。そして、ニユって名前をつけたんだ。僕はニユがすごく好きになった。
いつの間にか夜になって、また寝る時間になった。僕はニユが真ん中で寝られるように譲った。僕は端っこでもすごく幸せ。ニユにこの布団の気持ちよさを体感して欲しい。ニユはすごく幸せそうな顔でぐっすり寝ている。そして僕はまた幸せな気持ちになった。いつの間にかニユが真ん中で僕が端っこで寝る形が普通になっていった。
そんなある日寝ていたら、僕は布団から出てしまっていた。また、すぐ布団の中に戻れる。僕は待っていた。
まだ、月が出ている中、少しまぶしい朝が来た。しかし、僕はまだ待っていた。そしたら、やっと動いた。「やった、また暖かいところで寝られる…。」
ドン……!
僕は急に暗い暗い中に入れられた。「あれ?どうしたんだろう?間違ったのかな?でも、待っていたらあの布団で寝られる。」僕は待っていた。ニユともお話したいな。ニユとまたあの布団でゆっくり寝るんだ。
僕は待っていた…。
あれからどのぐらい経ったんだろう。暗い中だから、何日すぎたのか分からない。でも、何回も暗い中で寝た。初めは布団が恋しくて上手に寝付けなかったが、最近はよく寝れるようになった。慣れたのかな?
夢の中で、『ぬいぐるみってここでいいの?』って聞こえたような気がした。そう思っていたら目が覚めた。そしたら、移動し始めたんだ。僕は久しぶりの移動ですごく嬉しかった。「やっとやっと暖かい布団で寝られる。僕は待っていてよかったんだ。」
ドン…。
次はさっきよりは明るい場所だけど狭いところに入った。そして、少し匂う気がする。周りにはティッシュやぐちゃぐちゃになったプリントがあった。「ここはどこだろう?さっきより暖かいな。僕はまだ布団に入れないんだ。でも、さっき暗いところから連れ出してくれたように待っていたらあの布団に戻れるんだ。」僕はずっと待っていた。
次の日の明け方、僕はよくわからない中に入れられたまま外に出た。「外だ…眩しいな。今日はお出かけか。だから、昨日匂ったのはお弁当だったんだ。ピクニックの準備でティッシュとかプリントとかが入っていたんだ。すっごく楽しみだな。」僕は久しぶりのお出かけがすごく嬉しかった。今日は疲れるからよく寝られそうだ。僕は気分がうきうきだった。家から出て、100歩も歩かないぐらいで立ち止まった。その止まった場所に投げられるように置かれた。僕は疑問を抱きながらも、僕は待っていた。ずっと待っていた。
大きな車がきた。この車で移動するんだ。こんな車見たことないな。今から僕はどこに行くんだろう。
僕は待っていた。
ある街のあるお家の玄関にだいたい15cmくらいのサボテンが置いてありました。初めてこの家に来た時はお父さんもお母さんも娘のももちゃんも毎日話しかけてくれて、「ともぞん」と名前をつけてくれて家族のように慕っていました。ともぞんは太陽が大好きでお水はめったに飲みません。それをいいことに家族はともぞんのお世話をあまりしなくなり、日に日にともぞんのことを忘れていきました。ともぞんはいつも玄関でひとり、家族が出て行って帰ってくるのを見ていました。お父さんはスーツを着て誰よりも早く家を出て疲れて帰ってきます。しかし靴を脱いで家に上がる時には笑顔を作って元気なお父さんになります。ももちゃんは靴を履く時にたまにランドセルを閉め忘れて中に入ってる教科書を撒き散らしてしまいます。学校から帰ってくるとお友達が家の前で待ってくれていて、すぐに公園に遊びに行きます。お母さんはみんなのご飯を作るための食材が入った重いカバンをひとりで持って帰ってきます。毎日、休む暇もなく料理や掃除をしています。みんなともぞんのことはほったらかしです。ともぞんは毎日寂しく過ごしていました。
そんなある日「どうせ僕がいなくなっても気づきやしないさ」と、ともぞんは家出をしました。まず初めに誰にも会いたくなかったので、公園のトンネルの中に行きました。そこは静かで誰も来ないのでひとりきりになれたのですが、ともぞんの大好きな太陽がありません。次にサボテン仲間に話を聞いてもらおうとお花屋さんに行きました。そこにはともぞんよりも10倍くらい大きな長身サボテンやこの街ができたときから生きている年寄りサボテンがいました。その周りにいるバラやユリ、カーネーションたちは美しく咲いていて、こまめにお手入れされていました。ともぞんはサボテンたちに尋ねました。「いつも周りのみんなはお手入れされていて、僕たちはほったらかしでだれもかまってやくれないよ。寂しくなったりしないのかい?」長身サボテンは言いました。「寂しくなんかないさ!なんだって僕たちは何もしなくたってみんなのことを見守ることができるんだから!」年寄りサボテンも言いました。「大切な人のそばにいられることがどれだけ幸せなことか君にはわかるかい?」ともぞんは思いました。いつも玄関にいることで、お父さんとお母さんの頑張りや、ももちゃんの成長を見届けることができていることはとてもありがたいことなんだと。
ともぞんは急いでお家へ帰りました。そしていつもと同じところに戻ったのですが、いつもと気分違います。お父さんが帰ってくると「いつもお仕事お疲れ様?!」と、お母さんがスーパーから帰ってくると「今日も家族のために美味しいご飯作ってねー!」心の中でと叫んでみたり、ももちゃんが外で遊んで汚れて帰ってきたのにとても微笑ましく、心が暖かくなりました。ともぞんの声は届かない。けれど、みんなの幸せそうな姿をみてともぞんも幸せになれる。遠くにいてもその人たちを思っていれば寂しくなんかない。でもたまに寂しくなったときには、みんながお水をくれるようにちょっと枯れてみたり、お花を咲かせてみんなを驚かせたりした。家出をして他のサボテンに出会って気づけたこと、それはわかっていそうでわからなかったこと。その旅で気づいたことをこれからも大切にすると、ともぞんはもっともっと幸せに暮らしてるいけるでしょう。明日もみんなが幸せに暮らせますように。
ある晴れた朝のこと。森には朝日がふり注ぎ、ぽかぽかあたたかい良い天気です。冬眠からさめた動物さんたちが川のほとりに集まって久しぶりの再会です。そこにはキツネの親子がいました。外に出て嬉しくなったキツネくんはお母さんキツネから離れて走り出しました。お母さんキツネは「森で迷うと危険だよ。戻っておいで。」と注意しますがキツネくんにはもう聞こえません。一瞬でキツネくんの姿は見えなくなりました。お母さんキツネがあわてて探しに行きましたがキツネくんはもういなくなっていました。
そのとき、キツネくんはというと森から出て人間の町に迷い込んでいました。キツネくんはこどくです。どこを見ても人間ばかりで悲しくなってどうすればいいか分かりません。
下を向いて歩いていると一人の男の子が話しかけてきました。「どうしたの?お母さんは?森から迷い込んで来たの?」キツネくんは、黙ってうなずきました。すると男の子が「よし。今日は暗いからぼくのお家に帰ろう。明日明るくなったら一緒に森に家族を探しに行こう。」キツネくんはえがおになりました。なんてやさしい人なんだ、と思いました。「ぼくはまさき。よろしくね。」と言い、2人は手をつなぎながら帰ります。まさきくんのお家に行くまでの間にたくさんおしゃべりして2人はとても仲良くなりました。少しの時間だったのにもう大親友です。
まさきくんのお家に着くとまさきの家族が食卓を囲んで待っていました。キツネくんに気づいたお母さんは「あら、いらっしゃい。」と言ってやさしいえがおでむかえいれてくれました。
?夜が明けて朝になりました。まさきくんとキツネくんは森に帰る準備ができて出発しようとしています。ところがどうしたことでしょう。キツネくんが泣き始めました。「どうしたの。」まさきくんが尋ねると、キツネくんが「帰りたくないよ。みんなとお別れ寂しいよ。」と言います。まさきくんも寂しいのは同じです。「じゃあこうしよう。寂しくなったらいつでも家においで。毎日おいで。そしてこれからも一緒に遊ぼう。」2人は小指を出して指切りげんまんをしました。これで悲しい気持ちもなくなり、2人はこれからも大親友です。
それからというもののキツネくんは毎日のようにまさきくんの所へ遊びに行きました。春には桜の木の下でお花見、夏は海に行き、秋はどんぐり探し、冬は雪合戦。どんな遊びも2人は一緒です。楽しいことも嬉しいことも悲しいことも全部を2人で分かち合いました。
そんなある日、キツネくんがまさきくんのお家に行く途中にきれいな紫色のスイートピーを見つけました。紫色のスイートピーは、去年の春に2人でお花のペンダントを作った思い出のお花です。「そうだ。まさきにプレゼントしよう。きっと喜んでくれるぞ。」いくつかを取っていつものようにまさきくんのお家に向かいます。
その時です。
パンッ
なにか大きい音が聞こえたかと思ったら目線が地面になっています。そして体に強いいたみを感じました。そうです。キツネくんは狩人に打たれてしまったのです。キツネくんは細い声で「まさきくん、まさきくん」と呼びます。打ちどころが悪くそのままキツネくんは死んでしまいました。
まさきくんはキツネくんが何日もお家に来ないので心配していました。山へキツネくんに会いに行こうと思い向かっていると、何かが倒れているのが見えます。そのしゅんかんまさきくんは嫌な予感がしました。かけよってみるとそこには死んだキツネくんがいました。まさきくんはキツネくんの体を揺らしながら「キツネくん、キツネくん」何度も呼びます。もうキツネくんの体は冷たく、何度呼んでも返事はありません。ふと目を横にするとキツネくんの手の近くに紫色のスイートピーがあることに気が付きました。スイートピーを見たとたん、まさきくんの涙がこみ上げました。「この思い出のスイートピー、きっとぼくへのプレゼントだったんだろうな。」
まさきくんはキツネくんと、キツネくんのそばにあったスイートピーを家に持って帰りました。
毎日一緒にいて家族のような存在だったキツネくんがいなくなって、まさきくんはぬけがらのようになりました。毎日元気がありません。いつものように何となく過ごしていると、キツネくんを見つけた時にそばにあったスイートピーが目に入りました。「これはきっとキツネくんのかたみだ」まさきくんはそう思いました。当然お花は置いておくと枯れてしまうので、ドライフラワーにして常に持つようにしていました。このドライフラワーを持っていると、キツネくんが見守ってくれているような気持ちになるのです。
それから年月が経ちまさきくんは大人になりなりましたが、キツネくんとの思い出はずっと消えません。今日もスイートピーと共にお仕事へ向かいます。
...
今年もまた、春がやってきた。
でももう、今まで通りの春じゃない。
だって今年は、あの金色のふわふわとした毛並みのハルが、私のとなりにはいないから。
__コンコンコン。窓を叩く音がする。ピイピイピイ。きれいな声で鳴いているのが聞こえる。
あ、今日も来た。
夢から覚めた私が部屋にある南の窓をそっと開けると、そこには真ん丸おめめのミドリちゃんがいた。
小さくて、ピイピイ鳴いて、とても鮮やかな黄緑色の羽で、そして怪我をしているのか、左足をいつも引きずって歩いているミドリちゃん。ミドリちゃんの足元にはどんぐりがひとつ、ふたつ、みっつ。
「今日も来てくれたんだね。いつもプレゼントありがとう」
私がそうミドリちゃんに声をかけると、ピイ、と元気よくミドリちゃんは鳴く。ミドリちゃんは私の言葉が分かるみたい。毎朝、こうやって自然のプレゼントを私に持ってきてくれるのだ。今日はツヤのあるどんぐり、昨日は小枝3本、その前は確か…赤と緑の葉っぱ。ふふ、私の大切な大切なお友達。
「おはようミホ、はい、体温計。あら、このメジロ今日も来てくれたのね」
「ミドリちゃんって言ったでしょ!!メジロじゃなくてミドリちゃん!!」
「はいはい。ミホってば本当、このメジロちゃんと仲良しよね〜」
「もうお母さん!!」
お母さんは私とミドリちゃんとの絆を分かってないんだ。お母さんと言い合いになってしまうのは嫌だったから、ただのメジロじゃないんだからね…と言うのはやめた。ふう、とひとつため息をついて、私はお母さんから受け取った体温計を脇に挟んだ。
ミドリちゃんは、私が名付けたものだ。プレゼントを毎朝運んでくれるミドリちゃんは、私が体温を測り終えたらどこかへ飛んで行ってしまう。でも、次の日の朝にはまたプレゼントを持って、コンコンコン、と窓を叩く。ミドリちゃんがここに初めて来たのは…確か2週間ほど前だったっけ。
ピピピピ…と体温計が鳴る。取り出してみると…ホッ。良かった、今日も熱は出ていない。
「ミホは体が弱いんだから、そろそろ窓は閉めるわよ。ミドリちゃんももういないし、3月って言ってもまだ風は冷たいでしょう」
そう言ってお母さんは部屋の窓を閉めて部屋から出ていった。正直、窓を閉めるのは好きじゃない。確かに肌寒いし、私の体が弱いことも本当だけど…。窓を閉めると、外とつながっていない気がして、閉じ込められているような気がして、好きじゃなかった。外に遊びにも行けないし、友達もほとんどいない。だからこそ、ミドリちゃんは今の私にとってとても大切で大きな存在だ。でもやっぱり寂しいし、気分もそんなに上がらない毎日が続いている。
「ついこの間、1年前くらいまでは、ハルがいたのになぁ。」
私は南の窓のすぐそばにおいてあるベッドから立ち上がって、本棚へと歩く。
ゴールデンレトリバーのハルは、優しくて元気な男の子だった。生まれつき体の弱かった私に一番に出来た友達はハルだった。お互いが小さな赤ちゃんの頃からずっとずっと一緒にいて、一緒に大きくなった。私は今年の春から中学生になるというのに、もうハルはいない。左足の骨に腫瘍が出来たことが原因だった。
本棚からアルバムを取り出そうとした時、バサバサっと他のアルバムまで落ちてしまい、床いっぱいに広がった。
「あーもう…めんどくさいなあ…」
そうつぶやいてしぶしぶ、ばらまいてしまったアルバムを拾い上げていると、はらりと1枚の写真が落ちた。慌ててしゃがんでその写真を手に取ると、そこには私とハルが写っていた。ハルに腕を回して、満面の笑みを浮かべる私と、真ん丸でくりっとした目をきらきら輝かせているハル。ハルと2人で最後に撮った写真だ。
私はそのまま床に座り込み、おもむろにアルバムを開ける。どの写真にもハルがいて、どの写真にもハルとの思い出がいっぱい詰まっていた。
ハル、と呼ぶといつもワウンッ、と元気よくハルは鳴いた。ハルは私の言葉が分かるみたい。それに毎朝、私が体温を測る時には決まってそばに来て、私のことを見守ってくれていた。
「…ああ、そっか。そうだったんだね」
私の頭の中で、ミドリちゃんの重たそうな左足と、ハルの腫瘍のある左足が重なった。真ん丸なおめめも、元気いっぱいに鳴くところも、優しさにあふれているところも…。
ワウンッ、という元気な鳴き声が、遠くの方から聞こえた気がした。
「いつもありがとう」
今日は、ミドリちゃんにそう言った。今日ミドリちゃんが持ってきてくれたのは、私がだいすきな桜の花びら。
うん。
もう、私は大丈夫。
ハルが...
ある町の地下深くに、穴をほるのが大好きな1匹のモグラくんがいました。モグラくんはいつもひとりぼっちで寂しく土の中で暮らしていました。本当はおともだちと過ごしたいと思っているけれど、どうやっておともだちをつくったらいいのか分からないのです。「地上に出たら、おともだちができるのかなあ。」いつしかモグラくんはそんな風に考えるようになりました。そんなある日のこと、「なにか楽しいことはないかな。」モグラくんはそう呟くと、いつものようにスイスイと穴を掘っていきます。「クンクン。」するとどこからか甘い匂いが漂ってきました。「クンクン、クンクンクンクン。」モグラくんは甘い匂いのする方へ、どんどん穴を掘っていきました。夢中で穴をほり続けていると、いつのまにかモグラくんは地上に出てきていました。モグラくんが顔を上げるとそこには町の小さなドーナツ屋さんがありました。いいにおいの正体は、このドーナツ屋さんだったのです。
しかしどうしたのでしょうか、何だかお店の中がバタバタしています。モグラくんが耳を澄ますと、店長さんの声が聞こえてきました。「大変だ!ドーナツに穴をあける機械が壊れてしまった。困ったな。」これは大変です。ドーナツに穴を開けられなければ、ドーナツを売ることができません。モグラくんは困っている店長さんを助けてあげたいと思いました。もぐらくんは何か自分にできることは無いか、一生懸命考えました。そしてモグラくんはひらめきました。「そうだ!ぼくがドーナツに穴をあけるよ!」モグラくんの提案に、店長さんはびっくりしたものの、とても喜んでくれました。「助かるよ、ありがとう。」モグラくんはその日からドーナツ屋さんの一員として働き始めました。「スイスイ、スーイスイ!」モグラくんは得意の穴ほりを活かしてどんどんドーナツに穴をあけていきます。「スイスイ、スーイスイ!」もぐらくんは夢中でドーナツに穴をあけ続けました。
モグラくんが穴をあけたドーナツは、たちまちこの村で有名になり、村一番のドーナツ屋さんになりました。モグラくんの姿を見るために、わざわざ隣の町からドーナツ屋さんに訪れる人もいました。「モグラくんが来てくれてよかった!」「モグラくん、穴をあけるのとっても上手だね!」「モグラくんのつくったドーナツが食べたいよ!」ドーナツ屋さんの仲間たちやお客さんがたくさん褒めてくれました。ずっとひとりぼっちだったモグラくんは、ドーナツ屋さんに出会ってたくさんの仲間と過ごすようになりました。大好きな仲間たちに囲まれているモグラくんは毎日とても幸せそうです。人気者になったモグラくんは地上でのおともだちもたくさんできました。もう寂しくなんかありません。
「スーイスイ!スーイスイ!」モグラくんは今日も元気にドーナツに穴をあけています。あなたが食べているそのドーナツも、もしかするとモグラくんが作ったドーナツかもしれませんね。
木の葉が色づく季節の頃、ある小さな村に、小さな女の子が引っ越してきました。
女の子の名前はななこ。前住んでいた高いビルが立ち並ぶ街から、お母さんのお兄さんが住む村に引っ越してきたのでした。先に新しい家に着いたお母さんの所へ、おじさんが送ってくれます。おじさんの車は少しガタガタしていて、窓から見える景色もなんだかなあとななこは思いました。
ななこが新しい家の扉を開けると、お母さんは先に荷物をといているところでした。
「あら、やっときたの、早く手伝ってちょうだい、お父さんはこれっぽっちも手伝ってくれないんだから」
ななこは黙って手伝いながら、ここでもお母さんの機嫌はなおらないのねと思いました。
次の日からななこは学校に行きました。新しい学校は、なんだか居心地が悪くて、ななこは1日中早く帰りたいとばかり思っていました。
でも、まだ慣れない家に機嫌の悪いお母さんも待っているかと思うと、下校の時刻になってもなかなか足は進みません。
寄り道をとぼとぼ歩きながらふと顔をあげてみると、なんだか知らない脇道がありました。「あれ、こんなとこあったっけ?」
道は赤や黄や茶色の木の実をつけたいろいろな木に囲まれて、草がうっそうと生えています。さわさわとゆれる葉っぱたちがこっちにおいでよと誘っているみたいです。
ななこはあたりを見渡しながら恐る恐る進んでいきました。とても久しぶりに胸がドキドキしていのを感じます。
そしてどれくらいったたのでしょうか、木漏れ日にきらめく広場に出たと思ったとたん、目の前に赤いレンガのおうちが現れたのです。
ななこは恐る恐るおうちの門をたたきました。こんこんこん。しかし返事はありません。扉を開けて中に入ると、そこには数々の小さなドールハウスがあったのです。
「・・・うわあ!」
ななこはドールハウスに駆け寄ってまじまじと見つめました。3階建てのマンションやパン屋さん、そして何より目を引いたのはこの赤レンガのおうちのドールハウスです。子ども部屋やお風呂、キッチンやティーポット、ジャムまで、英国風のお部屋には本当に誰かが暮らしているかのように細かいところまでつくられていました。その部屋の真ん中には金髪の女の子がテディベアをもって、椅子に座っています。ほかにもお父さん、お母さんのような人がドールハウスの中に立っています。
ななこは女の子の人形をよくみようと手を伸ばしたその時、
「触らないでよ!」
ななこは驚いて振り返りました。そこには、金髪の長い髪を持つ、ドールハウスにいた、そのまんまの女の子が立っていたのです。年だけが、この人形より少し幼いように見えます。
「何か御用?」女の子は言いました。
「いや、別に用はないけど・・・
それより、この女の子、あなたよね!すっごく綺麗・・!」
ななこは勢い余って女の子の様子も気にせず言いました。ななこの言葉に、女の子は少し気を良くしたようです。
「まあね。」
そしてドールハウスをもう一度よく見ると、あれ、なんだかおかしなことに気が付きました。ななこが今いる部屋はなんだかとても散らかっているのです。洗濯ものや洗いかけの食器が積み重なり、窓のほこりはもう何年も人の住んでいない家のようでした。
「お母さんとお父さんはどこにいるの?それにこのドールハウス、とってもきれいだけど、この部屋とはずいぶん違うね」
すると女の子の顔はみるみる赤くなっていきました。
「そんなのどうだっていいでしょ!だって・・・」
女の子の目にみるみる涙がたまっていきました。
「!ごめん、ごめんね!…もしかしてお母さんいないの?」
女の子はこくんとうなずきました。作業テーブルの横にあるコルク版を見ると、そこには手紙がとめられてあります。
『ありすへ さみしい思いをさせてすまない。おとうさんは必ず帰るよ、それまでいい子にしておいておくれ。困ったときはさらおばさんに頼りなさい。お前のドールハウスを最高だ きっとうまくいく。・・』
お父さんと思われる手紙は、その下にもたくさん積み重なっています。
なんと、ここにあるすべてのドールハウスはこの女の子が作ったようなのです。
そしてほとんどの家事をこの女の子がしているのだろうとななこは思いました。
ななこは思いつきました。
「このドールハウス、ひとつください」
次の人学校帰り、ななこの足取りはとっても軽く、まっすぐレンガのうちへと向かっています。あの日の夜、ななこはお母さんの手伝いをこれまでにないくらいしました。女の子と、ドールハウスをもらう代わりに家事を...
小学校一年生の健太くんが通っている学校では、一ヶ月後に楽しい運動会が行われる予定です。小学校で初めての運動会であるのにもかかわらず、健太くんは運動会の日が来て欲しくなくてたまりませんでした。そのきっかけは、健太くんが幼稚園のときです。健太くんが友達とかけっこをしていたとき、思いっきりこけてけがをしてしまいました。それから健太くんは全速力で走ることが怖くなってしまったのです。さらに健太くんが嫌なのは運動会当日だけではありませんでした。それは、体育の授業で運動会当日までリレーの練習をクラスでしなければいけないことでした。みんなの前で走ることが嫌で仕方がなく、毎日が憂鬱な日へと変わっていきました。そして、クラスで初めてリレーの練習を行った日。健太くんは仲間から一番でバトンを受け取りましたが、次の人にバトンが渡ったのはクラスで最後でした。みんなに抜かされてしまったのです。それは、その日だけではなく、毎日のようにずっと続いたのでした。
そして、健太くんのチームの最下位が続くこと10日目のことでした。これまでと比べて他のチームとの差が大きくひらいてしまいました。そのため、さらに自分の走りに自信がなくなってしまい、走りたくない、走るのなんて無理だ、もう走ることなどやめてしまいたいととても落ち込んでいました。すると、同じチームのみんなが健太くんのもとに駆け寄ってきて、「落ち込んでいるんじゃないよ、健太なら絶対速く走れるのだからもっと自信をもっていこう。」「みんなで一緒に頑張るんだよ。一位をとることを俺たちまだあきらめてないからな。」「優勝するぞー。」とそれぞれ優しく声をかけてくれました。練習するたび自分のせいで最下位になり、同じチームのみんなに迷惑をかけてばかりの自分なんて突き放されても仕方が無いのだろうと思っていた矢先のことであったため、励ましの言葉をかけてもらえたことにとても驚きました。なんだか気持ちが少し晴れ晴れとしました。
仲間に励ましをもらったので少し頑張ろうと思い、その日から運動会前日まで学校から帰っては友達と遊ぶことはせず、走る練習をし始めました。少しずつ少しずつ、距離やスピードを出していき怖さをなくしていくよう努力しました。そして、不安ながら迎えた運動会当日。ついに健太くんが走る番が回ってきました。「今まで毎日一生懸命走る練習をしてきたのだから大丈夫だ。」と頭の中で何度も繰り返し精一杯走り抜きました。周りが見えなくなるぐらい走っていたため、自分が何位でバトンを渡せたのかわからず、とても不安になりながら顔を上げると、チームメイトがゴールテープを切っていたのです。見事チームは一位でゴールすることができました。「健太が頑張ってくれたから勝てたよ!」「ありがとな。」と仲間に言ってもらえることができてとても嬉しい気持ちになりました。運動会以来嫌いだった走ることが好きになり、休み時間になると友達と一緒に鬼ごっこをして楽しく遊ぶようになりました。
うみ町に住むある女の子、ウミカちゃんはとってもかわいい15歳の女の子。そんなウミカちゃんの隣には、いつもマオくんという男の子がいます。ウミカちゃんとマオくんの家は隣あっていて、2人は同じ日に生まれました。マオくんが「遊ぼう」と言うと、ウミカちゃんは「もちろんよ」と決まって言いました。2人は砂浜で宝探しをしたり、2人して悪さをして怒られちゃったり。ウミカちゃんとマオくんはどんなときでも一緒でした。しかし、2人がずっと一緒にいた日々はそんなに長くは続きませんでした。2人が10歳になって少したった頃、ウミカちゃんに彼氏ができたのです。ウミカちゃんは彼氏と毎日一緒に過ごすようになりました。マオくんがいつものように「ウミちゃん、遊びにいこ?」と言っても、ウミカちゃんは「もうマオくんとは遊ばないの」と言います。マオくんは、なんだか分からないような気持になりました。そうしてウミカちゃんとマオくんが一緒に過ごす時間はどんどん減っていきました。
そうして数か月がたったある日、マオくんが家で宿題をしていました。ふっと窓の外を見ると、ウミカちゃんが座り込んで泣いていました。ウミカちゃんにマオくんが駆け寄ります。
「どうしたの?」
「もう私のことすきじゃないって」
「喧嘩でもしたの?」
「ううん。ほかに好きな子ができちゃったんだって」
どうやらウミカちゃんは、彼氏と別れてしまったようです。
「私のことを考えてくれる人なんているのかしら」
と言って、ウミカちゃんはずっと泣いています。そんなウミカちゃんを見たマオくんは、ウミカちゃんを海に連れていきました。久しぶりに見た海は、夕日が水面に当たって、とてもキラキラして見えました。
「きれい!!」
「懐かしいね。昔はこんな時間まで遊んでいたら怒られちゃっていたもんね」
夕日をしばらく見ていると、ウミカちゃんが突然言いました。
「ねえ、昔みたいに宝探ししようよ!」
2人は宝探しを始めました。砂浜に眠っている貝殻や面白いものを探して回りました。
ウミカちゃんはいつもきれいな貝殻を見つけます。しかし、今回見つけた貝殻は今までのどの貝殻よりもきれいなものでした。いつのまにかウミカちゃんは笑顔になっています。
もうすぐ夕日が沈むころ、2人は海で遊ぶのをやめました。
「マオくん、ありがとう」
「いや、全然。いつでもまたなんかしようよ」
「私なんかといて楽しい?」
「今までも今も楽しいよ?」
また二人は遊び始めました。そのままお母さんたちに怒られるまで、砂浜をあるいたり、昔の思い出話で盛り上がりました。
家の前についたとき、マオくんが言いました。
「またいっぱい遊ばない?」
「私のこと嫌じゃないの?」
「今まで、嫌っていったことある?」
「確かに、ないね」
2人はくすっと笑い合いました。そうやって、2人はまた一緒に遊ぶようになりました。マオくんは、いつもウミカちゃんの隣にいます。また、ウミカちゃんもマオくんと一緒にいて楽しそうです。うまくいかないことがあっても、落ち込んでしまったときも二人で海へ行って宝探しをするのです。もうウミカちゃんの目から涙が流れることはありませんでした。
とある森に、友達のいないひとりぼっちのウサギが暮らしていました。
ウサギは、朝起きると必ず外に出て伸びをし、体操をしてから庭にあるニンジンを収穫し、その新鮮なニンジンをスープにして食べるというのが日課でした。
「私の自まんのニンジンよ、美味しいスープにな・あ・れ〜」
と歌いながらスープを作っています。誰とも話さないので、ここでしか声を出しません。歌が好きなウサギは、一人で無理やり楽しそうに歌うのでした。しかし大切に育てた自まんのニンジンで作るスープは、格別においしいものでした。
スープを飲んだら、森へ散歩に行きます。森にはたくさんの花が咲いていて、季節ごとにうちに持ち帰って花びんに入れていました。また、森には他の動物たちがみな楽しく暮らしていて、いつも一人のウサギにとってはとてもあこがれるものでした。森に行くたびにうらやましい気持ちでいっぱいになるのです。
「今日もぼくはひとりでうちに帰って、ひとりで読書をして、ひとりで紅茶を飲んで、ひとりでご飯を食べて、一日が終わるんだ。」
一人での生活は長いけれど、毎日さびしい思いをしていたのです。
ある日、ウサギのうちの隣に青い小さな鳥が引っ越してきました。鳥もウサギと同じ、ひとりです。しかし鳥はやってきてから毎朝、楽しく歌を歌っていました。また陽気な鳥は、一人で元気よく外を飛び回っています。ウサギにとっては初めてのご近所さんで、とてもワクワクとドキドキでいっぱいでした。鳥の行動が気になって仕方がありません。
「鳥さんと友達になりたい。」
ウサギはそう心に決めました。
次の日、ウサギは鳥のうちに行きました。チャイムを鳴らすのもとても緊張しました。ドアから出てきた鳥に、
「鳥さん、ぼくと友達になってくれないかい。」
とウサギは勇気を出して言いました。
鳥は、
「もちろんさ!ぼくは最近ここに引っ越してきて、森のことを全然知らないんだ。お互いに協力しながら、楽しく暮らそうよ。」
と言いました。
ウサギはホッとして微笑みました。生まれて初めての友達です。嬉しくてたまりません。
友達になってから、ウサギは
「鳥さん、ぼくにも歌を教えてくれないかい?一緒に歌いたいな。」
と鳥に言いました。
「わかった。実はメロディーはね、特に決まっていないんだ。思うがままに歌うんだよ、ウサギさんが今感じている気持ちとかをメロディーにのせてごらんよ。」
「わかった!!やってみるよ!」
いつも一人で歌っていたのに、鳥と歌うとなんと体が弾むことでしょう。
わくわくが止まりません。鳥と一緒に歌うことができて、本当に幸せでいっぱいになりました。
こんな気持ちは初めてでした。それからは、毎朝外に出てニンジンを取りながら一緒に歌いました。ウサギの作るスープも毎日一緒に飲みました。
鳥とは嬉しさや悲しさ、切なさ等の感情と多くの旅の思い出を共有しました。鳥との記憶は様々なものがありますが、ウサギにとっては本当にかけがえのないものです。ウサギは、鳥と出会ったことで人生が何倍も豊かになりました。知らない世界をたくさん感じることができるようになったのです。
さて、今日も二羽の素敵で楽しい一日が始まりました。一体どんな日になるでしょうか。
「今週末は母の日です。今日は、日頃の感謝を込めてお母さんの似顔絵を描きましょう」
そう言うと、図工の先生は画用紙を配った。真っ白で四角い画用紙。子どもたちは、それにうすだいだいのクレヨンで円を描き始めた。
けれど太郎は、むすりと顔をしかめたまま手を動かさなかった。
「太郎くん、似顔絵描かないの?」
先生が心配して声をかけても、太郎は何も言わない。口を尖らせて、右手でうすだいだいのクレヨンを握っているだけだ。
太郎のお父さんは遠くに単身赴任していて、普段はお母さんと二人で暮らしている。けれど太郎は、お母さんのことがあまり好きじゃなかった。いつもガミガミ怒ってばかりいるからだ。今日だって、寝坊した太郎に昨日は何時に寝たのか、宿題はやったのか、朝ごはんはちゃんと食べて行けとうるさかったのだ。ただでさえ太郎には時間がなかったのに!
だから太郎は機嫌が悪く、とてもお母さんに感謝なんて出来なかったし、似顔絵を描くのも嫌だった。けれど、こんな理由はなんだか格好悪い気がして、言えたもんじゃなかった。
仕方がないので、先生は図工室の奥から一冊の本を持ってきた。それは花の図鑑だった。
「母の日にはね、カーネーションを渡すのよ。太郎くんはカーネーションを描きましょうか」
そう言って、赤い花が載っているページを開いた。描くのは難しそうだけれど、お母さんの似顔絵を描くよりずっといい。そう思った太郎はうすだいだいを置いて、赤いクレヨンを手に取った。
「描いた絵は母の日にお母さんに渡しましょう」
先生がそう言ったので、太郎は仕方なく描いた絵を丸めて持って帰った。画用紙を縦にして描いたカーネーション。自分では上手に描けたと思っていたけれど、お母さんに渡すつもりはなかった。
家に帰ってランドセルと丸めた絵を部屋に投げると、太郎はサッカーボールを持って家を出ようとした。けれど、靴紐を結んでいるところで、お母さんがリビングからヒョイと顔を覗かせる。
「太郎、どこ行くの。ちゃんと宿題はやったのよね?」
「サッカーしに行くんだ。宿題は帰ってからするよ。」
「そんなこと言って、昨日だってやらなかったじゃない。」
太郎はむっとした。確かに昨日も、帰ったら疲れて寝てしまったので宿題は出来なかった。
「今日こそやるよ」
でも、太郎は友達と約束していたのですぐに家を出なくてはならなかった。それに、宿題をしてから遊びに行くとすぐに暗くなってしまうのだ。
「俺、もう行くから」
「ちょっと、暗くなる前に帰ってくるのよ!」
「わかってるよ!」
「それから……」
お母さんが言い切る前に、太郎はボールを抱えて家を飛び出した。
友達とサッカーをしている間は夢中になれたが、夕方になって皆と別れると、家に帰るのがおっくうになった。家に帰ったら、またお母さんに宿題をしなさい、お風呂に入りなさい、歯を磨きなさい、早く寝なさいと怒られる。太郎は帰りたくなくなった。けれど、他に行く場所があるわけでもない。
「いっそ、お母さんがいなくなればいいのに」
家に帰ると、中はシンと静まりかえっていた。いつも聞こえる「おかえり」というお母さんの声が聞こえてこない。家中探し回ったけれど、お母さんはどこにもいなかった。どこかに買い物に行ったのかと思ったが、外が真っ暗になってもお母さんは帰ってこなかった。
次の日の朝になっても、お母さんはいなかった。仕方なく太郎は昨日の夜と同じく食パンを食べて、またサッカーをしに出かけた。思いっきり駆け回ってクタクタになって帰ってきても、お母さんはまだ帰ってきていなかった。
仕方なくまた食パンを食べたが、太郎は食パンにもう飽きていた。美味しいご飯が食べたかった。それに、用意の仕方がわからないのでお風呂に入ることもできない。太郎は泥だらけのまま困ってしまった。
ふと、いつもは全てお母さんがしてくれていることに太郎は気付いた。お母さんは温かいご飯を作ってくれて、熱いお風呂を用意してくれて、汚した服も綺麗に洗濯してくれていたのだ。そうして、お母さんがいなくなってしまったのは自分がいなくなればいいと言ったからかもしれないとも思った。
太郎は自分の部屋の隅、昨日投げた絵を広げた。真っ赤なカーネーションが紙いっぱいに描かれている。
「やっぱり、ちゃんと渡そうかな」
ボタリと、涙が画用紙に落ちた。紙が濡れてしまうとわかっていても、ボタボタと涙が溢れてきて太郎にはどうしようも出来なかった。紙を丸めて抱きしめて、太郎は目を閉じて祈った。どうか、お母さんが帰ってきますように、と。
そのうちに眠ってしまったようで、太郎はすっかり明るくなった日曜日の朝、目を覚ました。泣き腫らした目は真っ赤で、二日風呂に入っていないので体はベタベタだった。でも、ふんわりと味噌汁のいい匂いがして、スッキリと目覚めることが出来た。太郎は目を覚ましてから、急いでリビングに向かった。
そこには、いつも通りエプロンをつけて朝食を作るお母さんがいた。
「お母さん!!」
「あらおはよう。」
いつも通り笑って答えるお母さんを見て、太郎の目から涙が溢れた。太郎がお母さんに抱きつくと、お母さんはギョッとした。
よかった、よかったと太郎は安心した。そして、袖で目元を拭うとずっと握りしめていた絵を渡そうとした。
「あれ?」
ところが、不思議なことにくしゃくしゃになったはずの絵はどこにもない。かわりに、真っ赤な一本のカーネーションが太郎の手の中にあった。太郎は驚いた。
「これ、私に?」
太郎が差し出したカーネーションを、お母さんはそっと受け取った。
「……お母さん、いつもありがとう」
温かい味噌汁と炊き立てのご飯の香りが台所に満ちていた。
ここは、とある森の小学校。うさぎやリスなどの小動物たちがおだやかに仲良く生活していた。ある日のこと、みんなで休憩中にお話をしていた時、黒い影が小動物たちを覆った。恐る恐る上を見上げてみると、そこには大きなキツネが立っており、細くつり上がった恐ろしい目で小動物たちをじっと見ていた。「なんでこんなところに…。ここには僕たち小動物しかいないはずなのに…」
みんなはびっくりして木の後ろに隠れた。するとキツネは
「僕の名前はコン。僕はみんなを決しておそったりはしない。安心して。」
そうおだやかな声で言った。するとこの森のリーダーである、うさぎのライは、
「そんな言葉信じちゃダメ。キツネは僕たちうさぎやリスのような小動物を襲うに決まっているんだ。」
と大きな声でみんなに言った。するとコンは
「確かにキツネは小動物をおそうと言われているかもしれない。でも僕は誰もおそわないんだ。みんなが思っているキツネとは違うよ。」
そう強く言った。実はこのキツネのコンは心優しく、誰もおそわないのだ。しかしそんな言葉を信じることができない小動物たちは距離を取りながら後ずさりしていった。
「僕はみんなが信じてくれるって信じているから。」
コンは小さな声でそう言って、切り株で作られた小さな椅子に腰掛けて授業の準備をし始めた。その言葉の通り、数日経ってもコンは誰もおそうことなく、真剣に授業を受け続けていた。コンは仲良くしたいと思い、小動物に話しかけるが、小動物たちは無視をしてすぐに逃げてしまう。そんな日々が続いた。
そんなある日、ライが一人でお昼寝をしている時、大きな影が上に現れた。目を覚ますとそこには大きなワシがおり、じっとライのことを見ていた。
「僕を狙っているんだ。急いで逃げなきゃ。」
そう思い起き上がって走り出したが、ワシはすごいスピードでどんどんと近づいてくる。懸命に走るが、落ちている石に足が引っ掛かりライは転んでしまった。頭を打ったライは意識がもうろうとし始めた。「もうダメだ。」そう思って目を閉じようとしたとき、ワシのうめき声が聞こえた。何が起こったのか驚き、必死に目を開けると、そこには取っ組み合っているワシとコンがいた。
「なんであのキツネがいるんだ…。」
とても驚いた。コンがワシと必死に戦い、ワシはよろめきながら去っていった。コンは床で倒れているライをじっと見つけてゆっくりと近づいてきた。
「やっぱりアイツは僕を食べるつもりなんだ。ワシに取られたくなかったから戦ったんだ…」
どんどんと視界がぼやけていく中そう思った瞬間、コンはライを優しく持ち上げて歩き始めた。意識が遠のいていく中、その腕の温かさは何だか心地よく感じていた。
気が付くとみんながライの周りを囲んで、
「大丈夫か?」
とみんなが心配そうにライの顔をのぞき込んでいた。
「うん、大丈夫。」ライはそう言って、自分の胸に手をあてた。
「僕は生きている。キツネは僕を助けてくれたんだ。」
そう思いながら遠く離れたところで静かに座っているコンの様子を見た。そしてライは仲間の方に向き直して大きく息を吸った。
「みんな聞いて。今日僕はワシにおそわれそうになった。その時、キツネは…いや、コンは、僕のことを命懸けで必死に助けようとしてくれたんだ。そして、倒れている僕を優しくここまで運んできてくれた。僕たちをおそうつもりでここに来たなら、きっと今頃僕はコンに食べられているよ。でもそうじゃなかった。僕たちはみんな、キツネは怖いと思い込んで、コンのことを何にも知ろうとしなかった。僕たちは間違っていたんだ。みんなでコンに謝ろう。」
ライは一人一人の顔を見てそう強く言った。すると他の仲間たちも、
「確かに、僕たちはコンのことを無視してしまっていたのに、コンは何度も話しかけようとしてくれた。コンは僕らのことを信じてくれ続けていたのに、僕らは信じようとしなかった。本当にごめん。」
と次々と謝っていった。
コンはそれに対して
「信じてくれてありがとう。これからよろしくね!」と笑顔で言った。
それからみんなで一緒に遊んで、楽しい時間を過ごした。帰り道ライとコンは二人きりになった。その時にライは
「なあコン。俺はコンのことを無視してしまっていたのに、なんで今日僕がワシにおそわれていた時、命懸けで助けてくれたんだ?」
と聞くとコンはすぐに
「一緒の教室で過ごしている仲間がピンチの時に助けるなんて当たり前だよ。」そう言ってニコッと微笑んだ。それまで怖いと思っていた、コンのつり上がった目が今日はなんだかとても優しく温かく見えた。
「おはよう。」いつもの朝、僕は廊下ですれ違ったひいおばあちゃんに笑顔で言った。リビングの棚に飾ってあるのは僕とひいおばあちゃんが一緒に折った折り鶴。台所の暖簾は僕とひいおばあちゃんで一緒にビーズを糸に通してつくったもの。今日も学校に行く僕の背中をひいおばあちゃんは部屋の窓から見送ってくれる。いつもと同じ毎日だったのに、家に帰ったときのお母さんの様子がおかしかった。「さとる、早く車に乗りなさい。」お母さんはそれだけ言って急いで僕を後部座席に乗せた。外は急に暗くなり、大雨が降りだした。僕は何が起こったのかわからなかったが、何か嫌な予感がしたのは間違いなかった。しばらくすると、病院が見えてきた。ひいおばあちゃんが道端で急に倒れ、救急車で運ばれたらしい。僕たちが病院に着いた頃にはもう手遅れで、この日ひいおばあちゃんはいつもの毎日から姿を消した。
僕はひいおばあちゃんが大好きだった。学校から帰ってきたらひいおばあちゃんにその日の出来事を話したり、一緒に遊んでもらったりしていた。僕の日常からひいおばあちゃんがいなくなって、僕はあまり笑わなくなり、家でも口数が減った。ご飯も喉を通らず、学校にも行かなくなってしまった。それから二週間が経ち、降り続いた雨もようやく上がり、空には虹がかかった。僕はその虹をひいおばあちゃんの部屋の縁側から眺めていた。すると、下の方から「ニャーニャー」という鳴き声が聞こえてきた。縁の下をのぞくと、そこには一匹の黒猫が僕を呼んでいるかのようにキラキラした瞳でこちらを見つめていた。「きれいな猫だなあ」僕が手を伸ばしてなでようとすると、黒猫は歩き出し、止まっては何度もこちらを振り返った。僕は黒猫についてこいと言われているような気がして後をつけてみることにした。どこに向かうのかと思いながら歩いていると急に黒猫が立ち止まったので、あたりを見回してみるとここは昔ひいおばあちゃんとよく遊んでいた林の中につくった秘密基地だった。「懐かしいな」僕はここでひいおばあちゃんとの思い出に浸りたい気持ちになった。するとまた黒猫がスタスタと歩き出したので、僕も見失わないように黒猫の後を急いだ。今度はひいおばあちゃんとよく一緒に食べたアイスクリーム屋さんに着いた。懐かしいアイスクリームの味が恋しくなり、チョコ味のアイスクリームを買った。「おいしい」僕はなぜだか涙が止まらなくなって、泣いているのがばれないように夢中でアイスクリームをほおばった。その間も黒猫はどこにも行かず、ずっと僕のそばにいてくれた。涙も乾き、家に帰ろうとしたところで、下校中のクラスの友達にばったり会った。「さとる!こんなところでなにしてるんだよ。いつまで学校さぼる気だ?みんな心配してるんだぞ、早く戻ってこいよ。」そう言われて、僕は次の日から学校に通うようになった。
学校に行くと、クラスのみんなが僕を出迎えてくれた。「心配したよ、どうしてたの?」「なんで学校来なかったんだよ、早く一緒に遊ぼうよ。」こんなに心配してくれる友達がいるとこを僕は忘れていた。学校を休んでいた理由を友達に話すと、なんだか心がすっきりした。それから毎日学校へ行き、ご飯もたくさん食べ、よく笑う、ひいおばあちゃんがいたときの僕に戻った。
あのときの黒猫はどこに行ったのかと思って何日も縁の下をのぞいても見つからない。「もしかしてあの黒猫はひいおばあちゃんだったのかなあ」僕はそう考えた。「ひいおばあちゃんがいなくなって悲しんでいた僕に元気を出してもらうために、思い出の場所に連れて行ってくれたり友達と出会わせてくれたんだ。」僕は今、毎日楽しく生きている。ひいおばあちゃんとの思い出を大切に僕は今を全力で生きる。
あいりは、お母さんもお父さんもおじいちゃんもお友達もみんなのことが大好きな10才の女の子です。しかし、そんなあいりにも嫌いな人がこの世にたった一人だけいます。それはあいりのおばあちゃん、ゆりおばあちゃんです。あいりにとってたった一人のおばあちゃんですが、お節介で口うるさいゆりおばあちゃんのことが、あいりは大嫌いです。夏休みや冬休みにはお母さんとお父さんと一緒に、ゆりおばあちゃんの家に遊びに行きます。しかし、あいりにとってその時間はとても辛いものでした。この前の夏休みには、ゆりおばあちゃんは、あいりにすくすく育ってほしいからたくさん食べ物を作ってくれます。ですが、あいりは少食です。それでもゆりおばあちゃんは「食べな、食べな。」とすすめてきます。あいりはがまんの限界をむかえとうとう泣き出してしまいました。他にも、「体力をつけるためにお外で遊んできなさい。」とか「勉強しなさい。」などことごとくあいりに口出しします。そのたびにあいりは、泣いてしまうのです。あいりにとってゆりおばあちゃんは、いつも自分を泣かせてくる嫌な人というイメージがあり、口を利くことさえ嫌がっていました。
ある日のことです。あいりは親友のみおうと遊んでいました。あいりは、みおうにこの前の夏休みに、ゆりおばあちゃんの家に遊びに行った時のことを話しました。「もう、本当にゆりおばあちゃんなんて大嫌いだもん!」すると、みおうはこう言いました。「私はあいりがうらやましいよ。」「どうして?」とあいりが尋ねると「だって私、おばあちゃん死んじゃったんだもん。私が3歳の時にがんでね。だから私、おばあちゃんの顔もおばあちゃんとの思い出もほとんど覚えてないの。あいりが本当に羨ましいよ。」と、みおうは今にも泣きだしそうな顔をして言いました。ですが、まだあいりにはみおうの気持ちが分かりません。なんてったってあいりはゆりおばあちゃんのことが大嫌いなのですから。あいりは言いました。「でも嫌いな人が生きていても私もいい気持ちになんてならないよ。」するとみおうは「人の命がこの世で一番大切だよ。周りのお母さんやお父さん、友達がいることは当たり前のことではないんだよ。もちろんゆりおばあちゃんが元気でいることも。だから、今の時間に大切にしてあげて。」と泣いて訴えたのです。
いつも元気で笑顔なみおうが泣いてしまったことにあいりは驚き、みおうの言っていたことを考えるようになりました。なかなか理解することはできませんでしたが、あいりは「おばあちゃんのことを大切にしよう。ちゃんとお話しよう。」と思えるようになってきました。そして、あいりはお母さんに「ゆりおばあちゃんのお家に遊びに行きたい!」と言いました。それはあいりにとって、とても勇気ある決断でした。お母さんも驚いた顔をしましたが、お母さんは「また今度ね。」と答えます。来る日も来る日もこの答えです。そしてついにお母さんから「もうゆりおばあちゃんには会えないの。」と言われました。小さいながらに理解したあいりは後悔で泣き出してしまいました。ですが、その涙と同時に人の命を大切にしよう、と心に誓ったあいりなのでした。
ユキはピアノを習う小学3年生の女の子です。ユキはピアノを弾くのが大好きでした。しかし、最近ユキは元気がありません。あれだけ楽しかったピアノのレッスンが嫌でたまりません。最近ユキは怒られてばかりだからです。来月にはピアノの発表会を控えているので先生の指導にも熱が入り緊張感が漂っています。どれだけ練習を頑張ってもピアノの先生に「全然できていないよ。もっと練習をがんばろう。」といわれてしまいます。いつも完璧に演奏をすることを求められ、ミスをすることが怖くなってしまいました。そうして、最初はピアノのレッスンだけが嫌だったのがとうとうピアノを弾くこと自体、もう嫌になってしまいました。「ユキもうピアノしない!レッスンにも行かないし、発表会にも出ないもん!!」そういってユキは泣き出してしまいました。ユキがピアノを弾くのをやめてから2週間がたちました。相変わらずユキはピアノが嫌でピアノを弾こうとはしません。
そんなある日、学校の帰り道にユキはどこかからか流れる不思議なメロディーを聞きました。「ピアノだ!」ユキはあまりにも楽しそうなそのメロディーが気になって、その音がするほうへと歩いていきました。すると小さな赤い屋根の家にたどり着きました。「この中で誰かが弾いているんだ」そう思い、ユキは家の窓から中の様子をのぞいてみました。中には少女がピアノを弾いていてその周りを不思議な動物たちが踊っていました。あまりにも不思議な光景に目が釘付けになっていると中にいる少女が振り返り、ユキを見て「いっしょにピアノを弾こうよ。」といいました。中に入ると少女は「このピアノは不思議でね、弾いた曲のイメージが現実になって現れるの。不思議でしょ?試しに弾いてみて。」とユキに言いまいした。ユキは少女の言ったことが良く理解できず、とりあえずカエルの合唱を弾くことにしまいした。ユキがピアノを弾き始めた途端、カエルがピアノの周りに現れメロディーに合わせ一斉に合唱を始めました。ユキは楽しくなり色んな曲を弾きました。少女は「子犬のワルツが聞きたい」と言いました。しかし、その曲はユキが発表会で演奏する曲でした。「それは弾けないよ。難しくてミスばっかりしちゃうんだもん。」とユキは困ったように言いました。すると少女は「間違ったっていいんだよ。ユキが楽しかったらそれが正解なんだよ。何事もまずは音を出さないと始まらないよ。」と言いました。ユキはゆっくりと子犬のワルツを弾き始めました。すると一匹の可愛い子犬が現れました。しかし元気がなさそうです。ユキは子犬を元気づけようともっとテンポを上げてリズムよく弾きました。すると子犬はみるみるうちに元気になり部屋中を駆け回りました。それが嬉しくて気が付くとユキの顔には笑顔が戻りピアノを無我夢中で楽しんでいました。「そろそろ帰るね、今日はありがとう。すごく楽しかったよ!私ミスばっかりしちゃってずっとピアノが嫌いになっていたの。だけど本当に大切なのは楽しむことなんだってわかったからもうピアノをやめたりしないよ。」ユキは言いました。少女は静かに微笑んでいました。
それからというものユキは毎日ピアノの前に座り曲を演奏しました。家のピアノでは子犬は現れたりはしなかったけれど、ユキの頭のなかにはたのしく野原を駆け回る子犬たちが軽やかなメロディーを奏でています。ユキは失敗をすることがもう怖くはありませんでした。純粋にピアノを弾くことを楽しむことができたのです。そしてとうとう発表会当日になりました。どんどんユキの出番が近づいてきて緊張がたかまります。「楽しもう!」ユキは心の中でそう言い聞かせました。発表会は無事に終わり、ユキは子犬のワルツを完璧に弾き終えることができました。あの時の少女にお礼が言いたいと思い、もう一度あの家の場所へ向かいましたが、そこはさら地になっていてあの家も少女もいませんでした。あの少女はきっと私をピアノの道に連れ戻してくれたピアノの妖精なのだ、そうユキは感じました。ユキにピアノの楽しさを教えてくれた少女のようにユキも誰かにピアノの楽しさを教えられるような人になろうとユキは心に誓いました。
マイは、幼い時からひとりで遊ぶのが好きな女の子でした。絵を描いたり、絵本を読んだり、ブランコをしたり…、マイは楽しい遊びをいっぱい知っていました。学校の先生にも、お母さんにも、お父さんにも、マイが見つけた面白い遊びをたくさん教えてあげました。今日も明日もやりたいことがいっぱいで大忙しです。でも、友だちみんなといっしょに鬼ごっこやかくれんぼをして遊びたいと思うこともありました。しかし、マイはどうしてもみんなの輪の中にうまく入っていくことができません。そして、そんな日が続くこともマイにとっては珍しくなかったのです。いつもみんなに囲まれて楽しそうにお話をしたり笑ったりしている友だちは、マイにとって憧れでした。「私があの子だったらよかったのに」、なんて考えて、少ししょんぼりすることもありました。マイは自分だけの楽しい遊びはいっぱい知っていましたが、いつもどこか寂しい気分だったのです。彼女はそんな自分がときどきイヤになりました。
そんなマイも今ではお母さんになりました。小学校1年生のメイという娘がいます。メイも、お母さんのマイによく似た女の子でした。ひとりで遊ぶことが大好きで、にぎやかな公園に行ってもひとりで遊びます。マイが座っているベンチから少し離れたところで、すべり台や砂場で静かに遊んでいることがほとんどです。そんなメイのことをマイは特に心配していませんでした。しかし、メイは時々、友だちどうしで笑い合う同い年ぐらいの子どもたちを寂しそうに見つめている時があったのです。マイはそれに気付いたとき、「あ、私といっしょだ。」とすぐに思いました。メイのそんな様子を見て、マイは子どもの時の自分を思い出しました。もちろんひとりで遊ぶこともとっても楽しかったけれど、クラスの友だちや近所の友だちみんなと遊んでみたかったな、改めてそう思いました。そんなマイは、娘のメイの気持ちがわかるような気がしました。マイは、みんなの輪の中に入ることが苦手なまま大人になり、それを少し後悔していたのです。その後悔は、自分と似た娘の姿を見て、さらに大きくなりました。自分に似たのか偶然なのかはわからないけれど、娘には同じことで後悔してほしくない、そう強く思い、「まずは自分が変わってみよう」と小さく、しかしはっきりと声に出して言いました。
そして、次の日からマイは変わり始めました。メイといつもの公園に行く途中、妊婦さんや犬の散歩をするおばあさん、手をつないで歩く親子などすれ違う人みんなに元気にあいさつをしました。最初は恥ずかしくてもじもじしていたメイも、いつからかマイに負けないぐらい大きな声であいさつをするようになりました。それから少し経ったころには2人には知り合いがたくさんできていました。いつもの道を歩くだけで心があたたかくなる感じがするのです。そして、メイは公園でも自慢のあいさつで声をかけ、友だちをたくさんつくりました。幼いころの自分を見ているようだった娘のメイは、いつのまにか、マイがずっと憧れていたような女の子に成長していました。メイは、今日もたくさんの友達と元気に走り回っています。そんなメイを少し離れたベンチで見守るマイの隣にも、2人の友達がいます。娘のために変わったマイでしたが、自分も成長していたことを感じました。あのときメイの視線に気が付いていなかったら、変わろうと決心していなかったら、今もマイとメイはどこか寂しい気持ちで公園に来ていたことでしょう。変わるのに遅いなんてことはない、友達と雑談しながら、マイはふとそんなことを思いました。
真っ黒な寒空が広がる晴れた兵庫県のキャンプ場、渡辺と植森という男二人が火を囲んで温まっていた。夕食も済ませ、近況もひと通り話し終わり、ただ静かな空間が広がっていた。
「なぜ、君はそれだけ自分に自信をもって人生を歩むことができるんだ。今の君の会社を辞めてひとりで生きていこうとするなんて普通じゃない。もしそれが可能でも、初めの1歩を踏み出す勇気はどこから湧き出てくるものなんだい。」
植森が突然沈黙を破ったことで、渡辺はすこし動揺しながら答えた。
「普通じゃないって…ひどい言い方をするなあ。」
「いやいや、○○大学に入学して、そのままさらに△△社に入社。誰もが憧れる人生のルートじゃないか。収入もそれなりにあるんだろ。2年強も務めて、せっかく仕事も安定してきたのにいきなり辞めて山に籠って芸術の道に進むなんて。僕に言わせればもう絶対に真似できない芸の1つだよ。」
「ううん、僕に自信がある理由か…」
渡辺はまるで、本当は話したくないかのような口調でゆっくり話し始めた。
その日はひどく寒い日で、授業参観。先生が僕らに将来の夢を発表させていた。僕の名前は「わ」から始まるから順番が回ってくるのはまだ先だ。Kさんはサッカー選手になりたいらしい。Sさんは社長になりたいらしい。
「じゃあ最後、渡辺。渡辺の将来の夢を聞かせてくれ。」
「はい。僕の将来の夢は、何の変哲もないふつうの会社に就職して一人でひっそりと暮らすことです。」
教室はいっそう静まり返った。先生はそれっぽく褒めてくれたが、僕の親はそうではなかった。それからというもの、親は僕に色んな習い事を押し付けた。学習塾、英会話、プログラミング。挙げたらキリがない。
僕は正直に言うと、習い事なんて1つもしたくなかった。そもそも家族以外の人に会うのが怖いし、わざわざお金を払ってそんなことをするなんて考えられない。でも、「習い事を辞めたい」なんて言ったら絶対にぶたれてしまう。
みんな僕のことをどうでもいいと思ってるんだ。だから、僕がしたいことをするとみんな冷たいことをするんだ。
その数ある習い事のひとつ、そろばん教室である女の子と出会った。その子も僕と同じでいろんな習い事をしているそうだ。毎週木曜日の18時から僕たちはそろばんの練習をして、19時30分に解放される。どこかで気が合ったのか、よく話すようになった。今週あった楽しかったこと、悲しかったこと、面白かったこと、悔しかったこと。話す機会はそろばん教室を出て彼女の家を通り過ぎるまでだから20分もなかった。でもだからこそ、話は絶えなかったし、それだけで幸せだった。
もうすぐで夏休みに入ろうとするとき、僕は小さな勇気を出した。
「井上さん、良かったら四条畷のショッピングモールまで遊びに行かない?」
「いいよ!他に誰を誘ってるの?」
僕はとても小さな落胆を感じたまま続けた。
「いや、2人で行きたいなって思って…」
「…なんか…デートみたいだね…」
「デートだったらいいなって思ってる。」
?――もうすぐ冬休みが終わる。郵便受けの蓋を開けたらその子からの年賀状が入っていた。年賀状の最後には「大好きだよ」と小さく書かれていた。僕は初めて、ありのまま自分を認めてくれる人を見つけた。
ゆうたはお父さんのことがきらいでした。
ゆうたのお父さんはめったに笑顔を見せません。そのうえ、お父さんはゆうたに色々な小言を言います。ゆうたは、もっとやさしいお父さんがよかったと思っていました。
ある日、お父さんはゆうたに
「明日、つりに行こう」
と言いました。
ゆうたはよくお母さんに「魚つりに行こう」とせがんでいました。テレビでマグロの一本づりの様子を見てから、ずっと魚つりをしたいと思っていたのです。庭の倉庫につりざおを見つけたときは、心がおどりました。
しかし、まさかお父さんにさそわれるとは思いませんでした。魚つりに行きたいことはお母さんにしか言ってなかったし、仕事のいそがしいお父さんが連れて行ってくれるとは思ってもなかったのです。ゆうたは返答に困りました。魚つりに行きたい気持ちは山々なのですが、お父さんと二人で行くのは、少しいやでした。
しばらく迷ってから、
「うん」
と一言答えました。
次の日の朝5時、ゆうたはお父さんにおこされました。ねむい目をこすりながら、服を着がえて、車に乗りました。エンジンをかけて待っていたお父さんは、
「よし」
と言うと、車を走らせました。
家を出発して30分、お父さんは海に面した堤防に車を停めました。
車中では、学校のこと、勉強のこと、友達のことなどをお父さんにたずねられ、ぎこちなく返答するのを何回かしました。いつもならいやな時間ですが、このあとのことを考えるとゆうたはワクワクしていました。
ゆうたが車をおりようとすると、
「冷えるよ、これを着なさい」
と、一枚の上着をゆうたに着せました。
冬に海に来たのは初めてでした。こんなに暗い海は初めて見ました。しばらくその光景を見つめていると、
「準備できたぞ、ほら」
とお父さんがゆうたの分のさおを差し出しています。
お父さんに教えてもらいながら、ゆうたは海につり糸をたらして、魚がかかるのを待ちました。しかし、魚はなかなかかかりません。たいくつでゆうたがソワソワしていると、
「焦ったらだめだよ。魚にバレてしまう。つりはじっと待つことが大切なんだ」
とお父さんが注意しました。
ゆうたはつりのとちゅうにも小言を言ってくるお父さんに少しムッとして、
「お父さん、ぼくはあっちでつってくるよ」
と言いました。そして、お父さんから少しはなれた場所でつり糸をたらしました。空はだんだんと明るくなってきています。
? ゆうたが、ふと水面を見ると、水面に自分の顔が映っていました。いや、ちがいます。よく見ると、それはゆうたの顔ではありません。ゆうたによく似ているけれど、少しちがいます。この顔は、
「お父さん?」
おばあちゃんの家にかざってある、お父さんがゆうたと同じ年のころの写真によく似た顔が映っていたのです。その顔は、目を細めて水平線のむこうを見たあと、ニッコリと笑いました。
すると、水面に映る小さいころのお父さんがさおを振って、つりばりを飛ばしました。その顔は、今のお父さんからは想像できないほどの笑顔でした。
「お父さん、こんな顔するんだ……」
ゆうたはそうつぶやいて、水面をじっと見つめていました。
お父さんはつり糸をたらしながらじっとしています。ゆうたがたいくつに思っていた時間も、小さいころのお父さんは楽しそうにしています。
「お父さん、楽しそうだなぁ……」
ゆうたは無意識にそうつぶやきました。
そのとき、水面に映るつり糸がゆれました。
ふいに、ゆうたの持っているつりざおのつり糸がふるえて、水面に波紋が広がりました。
ゆうたのつりざおは海に強く引かれます。突然のことに、ゆうたは大あわてでお父さんを呼びました。
「お父さん! 何かかかった! 何かかかったよ!」
それを聞いたお父さんは、急いでゆうたの元へとんできます。お父さんは後ろから、ゆうたを包みこむようにさおをにぎりました。
「これはっ……大きいなっ……!」
お父さん驚いたような声をしぼり出しました。
さおは大きくしなり、糸はピンと張っています。二人は必死になって、つりあげようとします。
ゆうたはつり糸の先にいる魚に期待をふくらませ、強くにぎったさおを引っ張ります。
10分の格闘の末、30センチのメバルがつりあがりました。
ゆうたは、あまりの大きさに目を丸くします。まだ熱の残る手のひらを見つめ、後ろにいるお父さんの方を見ました。
お父さんはつりあがったメバルを驚いた顔で見つめています。ゆうたのしせんに気づくと、ゆうたと目を合わせ、
「やったな、ゆうた! こんなに大きな魚はめったにつれないよ」
と言いました。
ゆうたはお父さんの笑顔と、水面に映った小さいころのお父さんの笑顔が重なったような気がしました。
「お父さんはつりが好きなの?」
ゆうたがたずねると、お父さんは少し驚いた顔をしたあと、
「好きだよ。ゆうたぐらいのころは、ここでよくつりをしたんだ」
と嬉しそうに言いました。
ゆうたはそれを聞くと、
「いつもそれぐらい笑えばいいのに」
と少しからかうように言いました。
お父さんは、
「そんなに笑ってなかったか?」
と恥ずかしそうな、申し訳なさそうな顔で答えました。
ゆうたは、そのお父さんの顔を見ていると、自分がお父さんをごかいしていたのだと思いました。
そしてゆうたは、
「お父さん、いっしょにつりをしよう。もう一回つり方を教えてよ」
と言いました。
お父さんはそれを聞くと、とても嬉しそうな顔をしました。
そのあと日が暮れるまで、二人は並んでつりをしていました。
帰りの車内は、その日つれた魚、お父さんが小さいころにつった魚の話でもり上がりました。
家に着いてから、ゆうたは言いました。
「お父さん、ぜったいにまた行こうね」
僕は「ライオン」という犬で、この名前は1人目の飼い主からつけたの。実は私が小さくて、真っ黒な犬だった。生まれてから母に見離され、体が弱くて醜いから。不幸中の幸い、1人目の飼い主は僕を連れて帰って、見守ってくれた。彼女は「レイちゃん」といい、遊んでくれ、美味しいものを食べさせられる家族だ。
でも、成犬になるとたん、再び嫌な雰囲気を感じた。
「結婚したら、犬をやめよう...」レイちゃんの彼氏そう言った。
「絶対、無理!ライオンが私の家族だって」レイちゃんが強く言った。
ある日、こんな対話を聞いた。でも、レイちゃんは僕が大好き、小さいから言われてたから、自信があるよ。
二人が結婚したから二年目、レイちゃんが子供を産んだ。「1ヶ月ぶりレイちゃんと見合えて、妹も初めて見えて、よかった」僕が興奮して、その時、妹を抱えているレイちゃんをぶつけてしまった。レイちゃんが責めてくれなかったが、妹が大泣きしてしまった。その後、半年ぐらいほどんと妹をみせられなかった。
ある日、レイちゃんが僕を親友のところへ連れて行った。
親友さんが「レイちゃんが迎え帰るまでに、ここで一緒に生活しよう。よろしくね」といった。
「ワン!」積極的な声で返事したが、まずい気持ちだった。
1ヶ月後、レイちゃんが妹を抱えて、僕のところへ見てくれた。
「会いたかったよ、やっと迎えてくれたの」僕がそう言った。が、レイちゃんが帰る時、また僕を遺した。
「妹がまだ小さいから、もう少し待っててね」親友が僕を慰めてくれた。
その後、1ヶ月、2ヶ月、レイちゃんが定期に見てくれた。その状況を半年ぐらい続いて、親友さんも迎え帰る話もなかった。3ヶ月以上見に来なかった。「レイちゃんが僕を遺した、最初から僕を迎え帰る気がなかったかも...」という考えが頭に浮かべた。もう耐えない、すぐにレイちゃんに見に行きたい。機会を見つけて、親友さんの家から飛び出した。でも、迷ってしまった。
「おい、君が誰だ」ゴミ箱の隣に寝てた僕が後ろに声を聞こえた。
「僕はライ…ライオンと言います」
「ライオン?ウケる」
「名前ですけど。。。」小さい声で返事した。
「なんで私の領地で、いるの?まさか、人に棄てたのかなぁ」
「すみません、今すぐ離します」僕が悲しみ顔を出されて、もっと醜くなってしまった。
「実はね、私が君と一緒だ、人に棄てられた」
「えー!信じらない、かっこいくて、健康な犬までも...」
「その話、やめよう。さぁ今日から、私が君のお兄になるぞ」
「えっ?そんな」
それで流浪の生活を始めた。
通常の通り、ゴミ箱の付近で食べ物を探して、一人の少年がこっちに向いて来た。「1ヶ月前からよく見えたよ、この辺に住んでいる人の犬ちゃんでないだろう」と尋ねた。
「食べてね、この以降毎日、飼いに来るよ」肉などの食べ物を僕の前に置いて去った。
その夜、兄ちゃんをここに連れて、その話をした。
「この辺の少年?中高生が怖っ、俺が食べない。」兄ちゃんそう言ったから、僕も食べなかった。
それ以降、この少年は毎日同じところで、食料を持って来た。この辺に住んでいる猫ちゃんも食べていて、無事だったから。毎回少年が帰ったら、僕が食べる。
「捕まったよ」突然後ろから抱えて、僕を驚いた。
「でも、頭を優しく撫でて、気持ちいい」一瞬、レイちゃんを思い出した。
こんな生活は半年ぐらい続いた。
ある日からパッと止めた。少年が消えて、一言も残さず…
その後の一か月間、ライオンも同じところで待っていた。だが、少年が現さなかった。
「言いただろう、人間を容易に信じないで」お兄ちゃんがため息ながら言った。
そう、再び棄てさせた。もう人間信じられない。
「百パーセントの愛情を持っていたのに。。。
なんで私を飼いたかったの、大好きと言ったのに、レイちゃんも少年も、
全部嘘だ」色々な考えを一瞬に飛び出して、頭が痛くて、苦しい。
その時、「母ちゃん見て、かわいそう犬ちゃん、」小さい女の子が言った
「そうね、飼い主を探しているのかなぁ」その大人を言った。
「違うよ、飼い主なんて、いらん」ライオンが言った。
「ワンワンワン...」
「ママ、犬ちゃんが返事くれたそう、飼っていい?」
「それはそれは、ユキちゃんは責任をちゃんと取れればいいけどなあ...」
「えっ、また?」ライオンが一瞬に失語だった。
ケンのわがままなことといったら。きらいなものは一切食べない、授業中は寝てばかり。自分の好きなことだけをして朝から晩まで遊びほうけている。見かねたお母さんがいつも注意するんだけど、聞いているのかどうか全く手ごたえがない。今日も遊びに夢中になっているみたいだ。
「勉強なんてやってられるか。遊びに行くぞ。」
お気に入りのバットとグローブ。
「ケン、宿題やったの。」
「勉強なんて、しなくても大丈夫だよ。」
ケンの姿はもうはるか彼方。ため息をつきながら、母は今日もまたお皿に残った野菜を片付けた。
(急げ急げ、今日こそ隣町の野球チームに勝つんだ。)ケンは、目一杯の力で走った。野球グラウンドまでは3キロメートル。全速力で走って20分もかかるきょり。はしごのついた銭湯のえん突が目印だ。
すると、突然強い風が吹いた。
「うわっ、なんなんだよ。」
ケンは思わず目を閉じた。
風はごうごうとものすごい音を立てながら、ケンの周りを通り過ぎていく。
転がる空きかん、バタバタというトタン。
しばらくすると風がおさまり、ケンはそっと目を開けた。
「あれ、おかしいぞ。道を間違えたかな。」
辺りを見回すと、目印にしている銭湯のえん突が見えない。
「いったいどこに来てしまったんだろう。」
不安な気持ちにおそわれながら、ケンはゆっくりと歩きだした。しばらくすると、見覚えのあるえん突が見えてきた。ほっとした気持ちとあせりにかられながら、ケンはまた走り出した。この角を曲がると、いつもの銭湯がある。
しかし、そこに銭湯はなかった。あるのは、ギシギシと音を立てて回る歯車のついた見たこともない機械とたくさんの人達だった。高校生、いや中学生くらいだろうか。白地に赤い丸がかかれたハチマキをして、けん命に何かを作っている。
ケンはおそるおそる近づいて行った。どうやら飛行機を作っているようだ。
「こら、何してる。」
突然、深緑色の服を着た男がうでをつかんできた。ケンはなんとか手をふりはらおうとしたが、男の力の方がケンよりもずっと強かった。ケンはその男にだきかかえられ、そのしせつの入り口にほうり出された。
「きさま、あそこで何をしていた。」
男の目は血走っており、今にもおそいかかってきそうだ。ケンは遠足で行った動物園で見たライオンを思い出した。
男はものすごい形相でケンのことをにらむ。
「ごめんなさい。ただ、あそこで何を作っているのかが知りたくて。」
ケンは泣きそうになりながら答えた。
「お前の知ったことじゃない。さっさとどこかへ行け。」
そう言うと、男は来た道を帰っていった。
「なんなのさ。」
ケンは歩き始めた。とは言っても、ここは知らない場所である。ケンは途方にくれ、近くにあるベンチにこしをかけた。
「野球の試合、もう始まっちゃったかな。」
そう思いながらも、頭の中は男の言動でいっぱいだった。
「どうしたの。」
急に声をかけられ、ケンは声の方に目を向けた。
「お前だれだよ。」
ケンは動ようしながら、男の子にたずねた。ぼくと同じくらいの年れいだろうか。さっきの男が着ていたような服を着ており、背中には茶色のはげかかった四角いランドセル、頭にはヘルメットのようなぼうしをかぶっていた。
「ぼくの名前はタロウっていうんだ。良かったらいっしょに遊ぼうよ。」
そう言うと、タロウは手をさし出してきた。
「いいよ。」
ケンはそのごつごつとした手をにぎり返した。
ひらけた場所に移動し、キャッチボールが始まった。
「いくよー。」
そう言いながらタロウはボールを投げてきた。投げたボールが風を切って、ケンのミットにおさまる。なかなかうまいものだ。
しばらくキャッチボールを楽しんでいたが、ケンはあの男のことが頭から離れず、ずっとモヤモヤしていた。
「どうしたの。顔色が悪いよ。」
タロウはそう言ってキャッチボールをやめた。ケンは今までにあったことを全てタロウに話した。道に迷ってこの町にたどり着いたこと、間違って入った施設で男に怒鳴られ、つまみ出されたこと。
「なるほど。工場の中に間違えて入っちゃったんだね。」
「工場。」
ケンは聞き返した。
「うん。あの工場は、戦争に使う飛行機を作っているんだよ。ぼくの兄ちゃんもあの工場で働いているんだ。」
ケンはこわくなった。日本が戦争をしているとは聞いたことが無かったからだ。
「日本は、戦争をしているの。」
「そんなことも知らなかったの。当たり前じゃないか。」
タロウは言った。中国と日本とが戦争をしていて、食べ物を満足に食べることができないこと。学校の授業もほとんどなく、やりたい勉強もできず運動ばかりしていること。家族が自分以外全員工場で働いていること。
「そうなんだ。」
ケンはむねのおくがきゅっとした。
「日本が戦争に勝ったら、今よりずっと豊かになるさ。」
そう言うとタロウはまたボールを投げ始めた。ケンは、野球の試合のことなんてもうどうでもよくなっていた。
「じゃあ、ぼくはもう帰るね。」
しばらくキャッチボールを続けた後、タロウはそう言うと走り出した。辺りはもう日がしずみかけている。(早く帰らなくちゃ)。そう思いながらケンも走り出した。と言っても、どこをどう行けば家に着くのか全く分からない。ケンは泣きそうになりながらひたすら走った。
その時だった。また風が吹きだし、ケンはぎゅっと目を閉じた。ものすごい砂ぼこりだ。風は、ごうごうと音を立てながら、ケンの周りを通り過ぎていく。
風がおさまり、ケンはゆっくりと目を開けた。そこにはいつもの見慣れた風景。銭湯のえん突も見える。辺りはもう夕方だった。
(帰ってこれたんだ)。ケンは全速力で家に向かった。
家の窓にはもう明かりがついており、母が夕飯を作っているにおいがしていた。
ケンは家に着くとすぐ、今日あった出来事を母に話した。
「それは、日本が戦争をしていた時の話とよく似ているね。」
昔日本は、中国やアメリカといった国と戦争をしていたこと。国民は、きびしい節約生活を強いられていたこと。銭湯のある場所には、軍の工場があったこと。それらのことは、タロウが言っていたことと全く同じだった。
(いっしょにキャッチボールをしていたタロウは、昔の人だったんだ。)
ケンは確信すると同時に、自分の生活について振り返り、その時代を生きていた人たちに申し訳ないと感じた。
ぼくは毎日ろくに勉強もせず、遊んでばかりで食べ物の好き嫌いも多い。学校は休みがちで、行っても寝てばかり。なんてめぐまれているんだ。ケンは、宿題をしようと自分の部屋に向かった。
それからケンは変わった。宿題を毎日欠かさずするようになって、食べ物の好ききらいもしなくなった。担任の先生もお母さんも、どうしたことかと目をまん丸にしていたよ。なんせ以前と全く別人になってしまったんだから。そうそう、ぼくといっしょにしたキャッチボールは覚えているかな。
ある日のこと、小さな町にある1本の木にキューくんというすずめが住んでいました。キューくんは体が弱く、飛ぶことすらやっとの状態でした。そんなキューくんをお母さんはずっと笑顔で応えんしていました。しかし、病気がはやり、お母さんは病気で死んでしました。お母さんがいなくなったキューくんは友だちがほしくなり、遊ぼうよと誘っても、飛べないことが理由で町の他の鳥からは
「鳥なのに飛べないのははずかしいよ」
「体がよわいから仕方がないよね」
「飛べない子とは遊ばないよ」
とひどく言われたりして、仲間はずれにされ、いじめられていました。キューくんは
「なんでみんなそろって僕をいじめるんだよう。」
「僕だってみんなと同じ鳥じゃないか。」と毎日悩み、しくしく泣いていました。そこでキューくんは思いつきました。
「誰とも話したり、会わなかったりしなければいいんだ。」
と。そのときをきっかけにキューくんは他の鳥とも関わるのをやめ、ましては必要なとき以外は外にすら出ず、巣の中だけで過ごしました。なので、キューくんの体はげっそりとやせ細り、やっとの事で飛べていたことも飛べなくなってしまいました。
「みんなのせいでこんなことになっちゃった。みんななんか嫌いだ。」
ぼそっとつぶやいたとき、
「きらいだなんていわないで」
とどこからか聞こえてきます。
「わたしは隣の町に住むすずめ、ピーちゃんって言うの。あなたがとても悩んでいたから話しかけちゃった。」
キューくんはきょとんとしています。
「なんでぼくなんかに…」
「わたしは困った顔をしているのを笑顔にするのがすきなんだ。」
ピーちゃんは明るく笑顔でした。そのえがおにキューちゃんはどこか不思議な気持ちでいっぱいになりました。
「なんでピーちゃんはそんなにえがおなの?」
「えがおになるとなんだってへっちゃらな気持ちになるんだよ」
気づけばピーちゃんになんでも話して、ほかの鳥と話すことが楽しいと思えるようになってきました。
「ぼく体弱くて、しかも飛べなくなったんだ、鳥のくせに…」
キューくんは一番悩んでいたことを話したとき、
「諦めたらだめだよ!いっぱい練習してみんなに認めてもらおうよ!」と
ピーちゃんは応えんしてくれました。
キューくんの目にはなみだが。
そこからピーちゃんとキューくんの練習が始まりました。はじめは全然飛べなく、
「ぼくなんかできないんだ」
「そんなことないよ。もっと練習すればできるよ」
練習を始めて一年たったある日
「できた!!!とべた!!!」
二羽の声が響き渡りました。
そうなのです。飛べたのです。キューくんは飛べたのです。
「ありがとう!ピーちゃん!ぼく飛べるようになった!」
「おめでとう。キューくんやればできるっていったでしょ」
いつしか泣いてばかりいた顔も笑顔に変わっていました。
「いまから町の他の鳥にも見せてくるよ」
バサバサッ……
「すごいじゃんキュー!」
いじめていた鳥もキューの努力をみとめました。
そこからキューは他の鳥たちと飛び回って遊びました。
「みんな大好き」
ピーちゃんにこのことを話そうと家に帰るとピーちゃんはどこにも見当たりません。
「ピーちゃんはどこ、ピーちゃんはどこ」
やっぱりいません。
でも空を見上げると太陽が笑っているかのように照っていました。
「ところでピーちゃんの笑顔どこかでみたような……」
ゆうき君はおじいちゃんのことが大好きな男の子だった。
そんなゆうき君の9歳の誕生日におじいちゃんが新しい自転車を家に持ってきてくれました。ゆうき君はだんだん体も大きくなり、5歳の時におじいちゃんに買ってもらった初めての自転車はもう乗れなくなっていたので大喜びでした。
初めて買ってもらった自転車はおじいちゃんと一緒にいっぱい練習をして乗れるようになりました。9歳の誕生日にもらった新しい自転車で今度はおじいちゃんと一緒にいろんなところに遊びに行きたいなとゆうき君は思いました。
ゆうき君とおじいちゃんは、自転車に乗って近くの川に釣りをしに行ったり、公園に虫取りに行ったり、おじいちゃんが大好きだったパン屋さんにパンを買いに行ったり、楽しい思い出がたくさんできました。
しかし、そんな楽しい日々も長くは続きませんでした。ある日、おじいちゃんが病気で入院してしまったのです。そして、ゆうき君は毎日のように自転車でおじいちゃんのお見舞いに行きました。でも、おじいちゃんともう一度一緒に自転車に乗って出かける日は来ませんでした‥‥‥。
ある日、ゆうき君が自転車に乗っていると道端で泣いている女の子を見つけました。一度通り過ぎたのですが、やっぱり気になって女の子のところに戻り聞いてみました。
「どうして泣いているの?」
すると女の子は、
「赤ちゃんがもうすぐ生まれるの。ママのところに早く行かないと。」
ゆうき君がくわしく話を聞いてみると、病院は隣町の少し離れたところにあるということが分かった。
かばんも何も持っていないのを見ると、この女の子はよっぽど急いで家を出てきたのだろうとゆうき君は思い、そうだこの自転車を貸してあげれば病院に間に合うかもしれないと考え、その女の子に
「よかったらこの自転車を貸してあげるよ。」と言いました。
すると女の子は、とまどいながらも
「いいの? ありがとう。」
と言って、急いで自転車にまたがり隣町の病院に向かって自転車を走らせていきました。
ゆうき君は女の子が見えなくなるまで見送った後に、ふと女の子の名前や連絡先を聞いていないことに気づき、とぼとぼと家まで歩いて帰って行きました。
女の子は男の子に自転車を貸してもらったおかげで赤ちゃんが生まれる瞬間に間に合うことができ、オギャーという元気な産声を聞くことができました。
いよいよ赤ちゃんとのご対面です。ママが、「弟だよ。」と言いました。弟の顔を見た時に、「あっあの男の子の名前や連絡先を聞くのを忘れていた」ということに気づきました。
そして、ママに病院に来るまでの出来事を話しました。
するとママが、男の子の似顔絵や特徴をかいたはり紙を自転車を貸してもらった近くのお店にはらせてもらったらどうかなと提案してくれました。女の子は家に帰ってさっそくはり紙を作りました。
男の子に自転車を貸してもらった場所の近くにパン屋さんがあったことを思い出し、お店の人にお願いしてはり紙をはらせてもらえることになりました。
ゆうき君は友達の家に遊びに行く途中、パン屋さんにはられていたはり紙を見て、もしかしてこれは僕のことかもと思い、お店の人に聞いてみました。するとお店の人が、女の子に連絡してくれることになりました。
少し待っていると見覚えのある自転車に乗った女の子がうれしそうにやってきました。女の子は息を切らせながら、
「あの時はありがとう。おかげで弟が生まれるのに間に合ったよ。」と言いました。
それを聞いた男の子は、
「弟が生まれたんだね。間に合ってよかった。」とホッとした表情をうかべました。
女の子は、「ところで名前はなんていうの?」と男の子に尋ねました。
すると男の子は、
「僕の名前はゆうき、ゆうきっていうんだ。」
それを聞いた女の子は驚いた表情で、
「えっ弟と同じ名前だ。」
ゆうき君は、
「えっ」
二人はお互いの顔を見合わせて、
「わっはっはっは」と笑いました。
これはある小さな男の子の話です。その男の子の名前はそうた。そうたは元気いっぱいの男の子でした。彼の周りにはいつも人が集まってきました。「そうたくんあそぼうよ」 小学校の昼休みになると、いつもこのような声が聞こえてきます。そんなそうたはお父さんとお母さんが大好きでした。彼はいつも自分を生んでくれたんだことに感謝していて、お父さんとお母さんの誇りに思えるような子供に成長しようと考えていました。
そんなある日、そうたは突然人が変わったように冷たくなってしまいました。おともだちがあそぼうといっても、「おれもうそとであそんだりしないから。」と言ったり、お母さんが、「おともだちをいえにさいきんよんでないけどいいの?」ときいたら、「もう家にお友達を呼ぶことはないから。」と言って今までと全く違った態度をとっていたのです。
学校でけがをしてきてもお母さんが大丈夫と聞いたら「大丈夫だから心配しないで。」とどれだけ痛そうなときも、またどれだけ暗い顔をしているときも大丈夫だからと言って彼は強がっていました。
そんなある日そうたの友達のかおる君のママと、そうたくんママが話すことがありました。するとかおる君ママから「最近大丈夫ですか。」と不思議な質問をされました。そうたくんママは、一体どういうことなんだろうと疑問に思いましたが、かおる君ママが続きを話してくれました。「そうたくんは夜にお母さんとお父さんがお金が最近足りてないかもしれないという話をしていて、その話を聞いて自分はできるだけお金がかからないように負担にならないようにってかおるにだけに話していたんですよ、それを私はかおるから聞いて本当に大丈夫か気になって」そういわれてそうた君ママは泣きそうになりましたそんなことを考えてくれる優しい子に、そんな我慢をさせていたなんてとそうた君ママは急いで家に帰りました。そうたくんママは家まで帰る時間が今までで一番早く感じました。
家に帰ってからすぐにそうた君とママはお話をしました。するとそうたくんは大粒の涙を流しながら話し始めました。「今までけがをしてても黙っていたのはばんそうこうにお金がかかると思っていたからなんだ。今まで学校でつらいことがあってもお母さんに話さなかったのは今でさえお母さんは困っているのにこれ以上自分で迷惑をかけたくなかったからなんだ。本当はいっぱいいっぱい話したいことがあったんだよ。」この話を聞いてそうたくんママは自分の子供が私たちを思ってやったことに対して涙を流しました。
そしてそうたくんママはいいました。「私は確かにお金で困っているよそれは間違いないでもね、何よりも大切なあなたの幸せはお金で買うことはできないものなの自由に生きてあなたらしく生きて。」そういうとママはハグをしました。そうたは今まで感じたことのない暖かさを感じることができました。
今ではそうたは休み時間に元気で遊んでいますそして家に帰ったら親に向かって今日会った楽しいことや辛いこと全部話しています。そうたはけっして強がりではなくなったのです。
あの日は少しいつもより空が静かな日だった。
第二次世界大戦が続くこの東京という町も、大きな被害にあい、多くの人が亡くなっていた。
その東京の町外れに3人の家族が住んでいた。静かなお父さん、何事にも厳しいお母さん、そして小学校5年生の翔太、とても仲が良い3人家族だ。3人は、苦しい生活ながらも笑顔を絶やさず、毎日を楽しく生活していた。
ある日、翔太がいつものように新聞をポストに取りに行くと、赤い紙が入っていた。翔太はこれが、お国のために戦うことを伝える紙だということを学校で先生から習っていた。
翔太は新聞と赤い紙をお父さんとお母さんに手渡した。気のせいだったかもしれないが、お父さんとお母さんの顔が一瞬強ばったように見えた。
それから、いつもと変わらない毎日を過ごし、あの紙が届いてから1週間間もしたある日、お父さんが戦争に行く日になった。
見送る時が来た。お母さんも周りの人もみんな笑顔で手を振っていた。お父さんも笑っていた。でも、翔太はまたしてもお父さんとお母さんの顔に違和感を感じた。
お母さんと二人で過ごす日が続き、戦争も激しくなったある日、翔太は東京の町が危ないということで学校のみんなと九州の長崎に疎開をすることになった。
出発する日になり、別れの時が来た。お母さんが「お母さんのことは心配しないで!翔太はいつも元気で笑顔でいるのよ!弱音を吐いたらいかん!男たるもの強くあれ!」いつものように厳しく強い言葉でと伝えてきた。翔太は、お母さんのことが気になっていた。いつも元気でとても厳しく元気なお母さんが、お父さんが戦争に行ってから元気が無くなっていたからだ。たけど、お母さんに怒られないように、そして弱いところを見せないようにお別れ時はなるべく笑顔で元気でお別れするように翔太は心がけた。しかし、やっぱり寂しかった。
疎開先では、寂しさを抱えながらも一生懸命農作業に没頭した。その間もお母さんとは手紙でやり取りをし、元気を貰っていた。お父さんのことも気になっていた。
月が流れたある日、空にアメリカの戦闘機を見る日があった。翔太はその時特に何もと思っていなかった。
九州に行ってから2ヶ月経ったある昼間、翔太達は畑で農作業をしていた、その時翔太の頭上で大きな音と大きな光が鳴った。それは突然のことだった。
それと同じぐらいに、お母さんの所に手紙が届いた。お父さんが戦争で命を落としたという訃報だった。お母さんは、1人で苦しい生活を続けながらもお父さんの帰りをずっと待っていたのだ。いつも元気で弱いところを見せないお母さんも、この時ばかりは悲しみを隠すことができなかった。そして、お父さんが亡くなったということを伝えるために翔太に手紙を出すことにした。
1週間、2週間、待っても待っても返事が返ってくることはなかった。
「翔ちゃん、いつも怒ってばっかでごめんね。
もっと3人で笑いたかったよ。母ちゃんより」
返ってくることのない手紙をお母さんはそっとお墓に置いた。
あるところに、ナナちゃんという子がいました。ナナちゃんは夢ばかり見てなかなか行動しない子。行動したとしてもすぐに諦めちゃう子。
「私はね、大きくなったら学校の先生になるの。」そんなことを言いながらも、何にも努力しないでいつも遊んでばかりいました。
そんなある日、ナナちゃんが部屋から空を見上げると虹がかかっていました。そう、ナナちゃんは空を見ることが好きで、特に虹が大好き。リビングにいたママのところへ喜んで走って行きました。
「ママ、空にきれいな虹がかかってるよ。来て来て!」
ママと一緒に虹を見ることができて、ナナちゃんはとても満足そうにしています。
その時、ママがぼそっと言いました。「ナナも虹のような子になってほしいなぁ。」
あまり聞こえなかったナナちゃんは聞き返しました。すると、ママがナナちゃんにこう言いました。
「虹って、いつでもかかるわけじゃないでしょう。雨の後にかかるのよ。しかも、雨が降ったって必ずかかるわけではないの。」
ママの言葉を理解することはできなかったけれど、ナナちゃんは何だか急に虹のところへ行きたくなりました。だから家を飛び出て走りました。虹の方へと必死に走りました。
どのくらい走ったのでしょう。気づけばずいぶん遠いところまで来ていました。
虹に近づきたくて、虹のふもとまで行きたくて、ここまで走ってきましたが、もう疲れちゃいました。もう諦めて帰ろうとしたその時、少し遠くに何か光るものを見ました。
気になってもう少し進んでみると、光っているのは虹のふもと。
ナナちゃんはびっくりして、恐る恐る近づいてみました。
すると、ナナちゃんの前に妖精が現れました。
「こんにちは、どうしたの?」妖精が話しかけてきました。
「こんにちは、大好きな虹に近づきたくて走ってきました。」ナナちゃんがそう言うと、
妖精は「私は魔法を使える妖精。困っている人を魔法で助けてあげるんだ。」と言いました。
「だけど…あなたには魔法は必要なさそうね。」妖精が続けてこう言いました。
ナナちゃんはびっくりしています。「どういうこと?」
「あなたに足りていないのは努力だと思うの。今まで、夢ばかり見ていたでしょう?その夢を実現しようと努力しなきゃ、何も変わらないんだよ。努力は魔法じゃどうにもできないの。」
妖精にそう言われたナナちゃんは考えてみると、確かに努力していないことに気づきました。「私、いつも遊んでばかりだった。夢なんて、簡単に叶えられると思ってた。妖精さん、気づかせてくれてありがとう!」
ナナちゃんがそう言うと、妖精は笑顔で消えていきました。虹も一緒に消えていきました。
気づけばナナちゃんは自分の家に戻ってきていました。
もうすぐ夜ご飯の時間。だけど、夜ご飯まで時間はあります。ナナちゃんは、机に向かってみました。そして、教科書を開いて問題を1つ解いてみました。すると、勉強は遊ぶことと同じくらい楽しいことに気づきました。もう1問、さらにもう1問と解いていくうちに、勉強がだんだんと好きになっていきました。分からない問題も出てきましたが、それでも諦めずに勉強してみました。
そして、夜ご飯の時、ナナちゃんはママに今日の出来事をお話ししました。そして言いました。「私ね、大きくなったら学校の先生になる。そのために努力する。」
ママはとっても嬉しそうでした。
それから、ナナちゃんはその言葉の通り、努力し続けました。勉強はもちろん楽しいことばかりではありません。辛いこともたくさんありました。辛い思いをしたのに報われないことだって何度もありました。
それでも諦めずに努力し続けたから今のナナちゃんがあります。
今日、ナナちゃんは新品のスーツを着て、緊張しながら子どもたちの前に立ちました。
空を見上げると、虹がかかっています。
私はわがままだった
幼稚園の頃は、自分の好きなようにならなければ拗ねた
嫌なことがあれば泣き出した
上手くいかなければ物に当たった。
など子供らしいとも言えるが、わがままだった。
小学校の時は生徒会会長に憧れいろんな人に推薦してもらうよう言ったのに、いざ生徒会会長になると面白みもなく、嫌なことばかり押し付けられやめてやると大勢の前で啖呵を切った。
結局辞めることは無く職務を全うしたが、文句を言いながらわがままな行動をとっていた。
中学校の頃は、野球部に入部し野球に勤しんでいたが、この性格が治ることはなかった。
「打てなかったら、ボールのせい、打てたら自分の努力の結晶。試合に負けたら自分以外の打てなかった人、抑えれなかった人のせい、勝ったら自分の手柄」
ということをもっとうに野球部に所属していた。
だが、ここでひとつ心情の変化が生じるきっかけがあった。
それは中学時代の野球部の顧問の発言であった。
「君が生きていく上で今の性格のままでは得るものより失うものの方が多くなる」
「他人にして欲しいことを他人にしなさい。そうしたら自分の中で欲していたことをされたように感じる。そこから始めなさい」
この言葉を聞き、僕はわがままで、僕が行ってきた行動は人に対してでは無く自分のためだけに行ってきた行動だと気づいた。
それからはわがままな性格は多少は治ったが根本的に子供っぽい性格は治らなかった。
高校進学後は陸上部に所属した。今考えると、「中学時代のように負ければ他人のせい、勝てば自分のおかげ。」という感情は少なくはなくなったが、それでも人のために行った行動なのに、何も恩恵を受けることがないと感じた時、他人に求めていることをされない時などは拗ねたりして、他人に多くを求めていた。
それは高校を卒業してからの職場でも続いた。
それまでは、今は考え方が子供で、いずれ大人になったら寛容になっていき、子供っぽさはおろか人の悪口や文句を言うことは無くなると思っていた。
ここでひとつ心情の変化が生じるきっかけがあった。
その職場で学んだたくさんのことにより、私は寛容になり子供っぽさが抜けたと思う。
それは大人の汚さと自分勝手さを目の当たりにしたからだ。
これは個人的な話になるが、働いていた職場で年末アンケートというものがあった。
それは1ヶ月ほどで約500人くらいの利用者に向けたアンケート調査を行うという内容だった。
量が多いことに加え時間もかかるので上司Aは自分は避け僕に全責任を任せた。
結局僕は一人で利用者の方のアンケートを実施し結果を入力し、図やデータなどでまとめるなどの作業を何十時間もかけて完成させた。
サービス残業をしたり、いろんな仕事を抱えながら完成させた仕事だったので、完成した時に泣きそうになる程キツかった仕事だった。
なので、別に褒めて欲しかったわけではなかったが、自分の頑張りを認めて欲しかった。
だがそこで言われた言葉は、「遅い、もう少し早く終わらせて欲しかった、次は急ぐよう心がけなさい」という言葉であった。
その後上司Aは上司の上司に、上司Aが一人で完成させた。と言い僕の手柄は全て持っていかれた。
ここで学んだことは、大人になるから寛容になるというわけではなく、その人自身が寛容ではないことに気づき心がける必要があるということと、汚い大人がいるので自分自身が寛容な性格になる必要があるということを学んだ。
こう言ったことによって、僕のわがままで子供っぽい性格が寛容な性格に変わったと思う。
「面白くない」
放課後、誰もいない教室の、一番後ろの席で突っ伏している前髪で顔が半分隠れている彼女は、ため息の後、一言つぶやいた。
彼女は友達がいない。
いや、本人は「いないんじゃなくて、作らないの!」なんて、いいそうだ。
ま、彼女には、そんなこと言う相手すらいないのだろうけど。
授業中も、彼女は、ずっと窓の外を見ているか、机に突っ伏している。
先生にあてられた時には、すぐ答えるので、寝てはいなさそう。
たまに、熱心にノートに何かを書き込んでいるのを見かける。
この間、こっそりのぞいてみたが、素敵な絵だった。
彼女は、絵が好きなのだろうか。
とても美しい、人を惹きつけるような絵だ。
少なくとも、僕は、感動した。その感動を彼女に伝える手立てはないのだけれど。
こんなきれいな絵が描けるなら、きっかけがあれば、みんなと仲良くできるだろうに、僕は思う。
何か、きっかけがあればいいのに。
僕にできることは何もない。
ただ、願うだけ。
ガラガラ、彼女が椅子を引いた。
「はぁ、そろそろ帰ろー」
バイバイ。また明日。
ある日、事件が起こった。
事件といっても、みんなにとっては、多分、ちっぽけなこと。
でも、彼女にとっては、大きなこと。
その日、彼女は休憩時間に絵を描いていた。
いつも彼女は、授業中にノートをとるふりをしながら、絵を描いている。
休憩時間は基本的に絵を描かず、机に突っ伏しているのだ。
きっとほかの人に見られるのが、恥ずかしいのだろう。
しかし、今日はペンの調子が良かったのか、休憩時間まで熱中して絵を描いていたのだ。
「絵、うまいね。」
クラスで一番人気の男子が、それを見つけ彼女に声をかける。
「え、わ、わ、私ですか?い、いや、そ、そんなことな、ないですよ。」
緊張しすぎ、言葉に詰まりすぎだ。
「いや、とってもいいと思う。素敵な絵だね。」
男子は、笑顔で、僕も惚れてしまいそうなほどの笑顔で、彼女に言った。
「あわわわわわわ」
彼女の思考回路はショート寸前、訳の分からないことを言いながら、走って教室から出ていってしまった。
放課後、やっぱり彼女は教室のいちばん後ろの席で一人。
でも、なんだかいつもと様子が違う。
気分がとても良さそうだ。
絵を褒められたことが、きっととっても嬉しかったのだろう。
ガラガラ、いつもより早い時間に彼女は帰り支度を始めた。鼻歌は歌っていないが、頬が緩んでいる。スキップはしないまでも、軽やかな足で教室を出ていった。
バイバイ。また明日。この調子で、友達がたくさんできるといいね。
次の日、彼女は、髪を切ってきた。顔を隠していた前髪はなくなった。
初めて見た。
綺麗な顔だ。クラスのみんなが、彼女を囲んでいる。
クラスメイトがいろいろ質問している。
彼女は、言葉に詰まりながらも嬉しそうに答えている。
あの、人気者男子が登校してきた。
「その髪型、似合ってるね。」
彼女は、より一層嬉しそうだ。
その後も、彼女はクラスの注目の的。
その中で、同じ絵を描くことが趣味の友達もできていた。
放課後、教室にはもう誰もいない。
彼女は、放課後に一緒に遊ぶ友達ができたのだ。
バイバイ。幸せになってね。
「タロウ、起きろい でかけるぞ」
おとうさんの声が聞こえてタロウははっと目が覚めた。大きなあくびをしていると、
「ほら、はやくしないとおとうさんに置いていかれるわよ」とおかあさんに言われて、
「わかってるよお」と目をこすりながらタロウは朝の支度をはじめた。
タロウはおとうさんと遊ぶのが大好きだった。
今日はずっと楽しみにしていた「きかんしゃ」を初めて見に行く日。
「いってきまーす!」
元気な声で家をとび出ておとうさんと手をつないで家を出発した。
小高い丘を越えた先の駅に「きかんしゃ」はとまっていた。
「わあー、おっきい 」
空のてっぺんまで届きそうな「きかんしゃ」にタロウが目をまん丸にしていると
「どうだ でかいだろ。また今度乗せたげるよ」となんだかうれしそうにおとうさんは言った。
タロウは日が暮れるまでおとうさんと「きかんしゃ」と一緒にいた。
「また今度来ような」
そう言われ、タロウは笑顔でうなづいた。
2週間後、おとうさんは「せんそう」に行くことになった。タロウとおかあさんは駅までおとうさんを見送りに来た。
タロウはなんだか寂しくて、おとうさんのそばから離れようとしなかった。
「ほら、タロウ こっちにおいで おとうさんがこまっているじゃない」
「タロウ 帰ったらまた遊ぼうな」
そう言っておとうさんは「きかんしゃ」に乗って行ってしまった。
「タロウ 朝よ もう起きなさい 」
それから1週間が経った。おとうさんはまだ帰ってこない。
「あかあさん、おとうさんはまだ帰ってこないのー?」と聞くと
「おとうさんはね、タロウやおかあさんのために頑張ってくれてるのよ 」とおかあさんは言った。
「おかあさん、せんそーって楽しいのー?」と聞くと
「寂しいものよ」と言ってタロウをそっと抱きしめた。
次の日からタロウは1人で「きかんしゃ」を見に行った。小高い丘の上に座って駅に止まっている「きかんしゃ」をながめていた。
「おとうさんまだかな 早く遊びたいな」
タロウはつぶやいた。
戦争が終わってもおとうさんは帰って来なかった。
「タロウ、起きろい」声が聞こえた気がして、タロウはゆっくり目を開けた。タロウはそっと布団からでると大きく深呼吸をしてからカーテンを開けた。まぶしい朝日を体いっぱいに感じながら窓を開けた。外では朝から開発工事が行われていて騒がしい。
戦争が終わって20年がたった。タロウはおかあさんの元からはなれ、東京ではたらいていた。
今日は久しぶりに実家に帰る日で支度をしてから
「いってきます」
しずかな家をあとにした。
実家に着くとおかあさんが出迎えてくれた。東京では頑張っているか、とか元気だったか、だとか毎回同じことを聞いてくる。
ご飯と世間話を済ませるとタロウは散歩に出かけた。
戦争が終わるとすぐ、「きかんしゃ」があった場所は鉄道博物館になった。
タロウは小高い丘の上に来た。
太陽は山の向こうに沈みかけていた。
「ただいま、おとうさん」
タロウはつぶやいた。
とある人里はなれた山奥の集落に、まこと君という小学2年生の男の子がいました。まこと君は、今とても熱心に取りくんでいることがあります。それは、クワガタムシのおせわです。
まこと君は夏やすみに、家の近くの林へ出かけてつかまえてきたクワガタムシを、まるでじぶんのおとうとのように、たんせい込めて一生けんめいにお世話しています。まこと君は毎朝虫かごのふたを開けては、ついさっき畑でとってきたきゅうりを小さく切ったのを入れてやります。「どうだ、うまいだろう。ぼくがそだてたんだぞ。」まこと君はクワガタムシがきゅうりをたべているすがたを見てとてもうれしそうです。「いっぱい食べて大きくなるんだぞ。」
夏休みがあけてからまこと君は、小学校で、友だちのかずま君とクワガタムシの話をしていました。「まことくんはクワガタムシを何びきかっているんだい?」「一ぴきだけだよ。かずまくんは?」「ぼくは二ひきをいっしょにしているんだ。そのほうがクワガタもさびしくないだろうからね。」
まこと君はオスのクワガタムシしかかっていませんでした。「あいつ、一ぴきだけですごすのはさびしいかもしれないな。」そう思ったまこと君は、つぎのやすみの日に、いつもの林へと出かけていきました。「あいつも、仲間がいればよろこぶだろうな。」まこと君はメスのクワガタムシをさがしに来たのです。
「やったぜ。いたぞ。メスのクワガタムシだ。」林に入ってすぐに、まこと君はめあてのクワガタムシを見つけました。まこと君はうれしそうです。ところが・・・
まこと君はうれしさのあまり、クワガタムシのあたまのほうから手をのばしてつかんでしまったのです。クワガタムシのほうも、いきなりやってきた、えたいの知れないものを見ておどろいたのか、まこと君のこゆびの先をぎゅっとはさんでしまいました。それもゆびのやわらかい所をすこしだけ、つよくはさんだものだから、とてつもなくいたいのです。
まこと君は今までにクワガタムシにはさまれたことがなかったので、「うわ、いたい!」とおどろいて、それからいたさのあまりに泣いて、走って家にかえってしまいました。
それからというもの、まこと君はクワガタムシがこわくなって、まったくさわることができなくなってしまいました。そして、大せつにそだてていたクワガタムシさえも、かつて取ってきた林の中にかえしてしまいました。
「まことくん、クワガタムシはもうかわないのかい?」「クワガタムシはもうこりごりだよ。」
ある山の中に、オオカミがすんでいました。他のオオカミはその山にはおらず、ごはんを食べる時も、あそぶ時も、さんぽに行く時もずっと1人でした。オオカミはずっと友達が欲しいと思っていました。たまに山にやってくる人間と友達になりたいと思い、近づいて行くこともありました。しかし、山にやってきた人間は「オオカミだ!食われる、にげろ!!」とオオカミを見るなり、すぐににげていきました。オオカミはなぜ人間が自分を見てにげて行くのかを知っていました。ある時、水面にうつった自分を見た時、黒い体に、するどい目、おそろしいキバがそこにはあったのです。その時に、自分がおそろしい見た目をしているからだと気付きました。それからも、ずっと友達ができず、オオカミは友達を作るのをあきらめていました。
ある日のことです。いつもと同じように、オオカミは山の中でえさを探していると、どこか遠くで泣き声のような音が聞こえてきました。ふと、オオカミは気になって見に行ってみると、女の子が1人悲しそうな顔をしながら座りこんでいました。オオカミは、女の子に見つからないように木の後ろからそのようすをうかがっていました。すると、女の子は「おなかがすいた」と大きい声で言いながらまた泣きだしてしまいました。そこでオオカミは木の後ろからすっとでてきて、先ほどひろってきたりんごを女の子に1つさしだしました。すると、女の子は「ありがとう」と言い、オオカミの頭を撫でました。オオカミはおどろいて、「オレがこわくないのか?」そう女の子に聞くと、女の子は「こわいわけないじゃない、りんごをくれたんだもの!」そういうと、またオオカミの頭を3回ほど撫でました。オオカミは初めて人間と話をすることができました。すると、女の子は「オオカミさん!いっしょにりんごを食べよう」といって半分オオカミにりんごをさしだしました。オオカミは半分りんごをうけとり、女の子といっしょにりんごを食べました。オオカミは初めて人間とごはんを食べました。一人で食べていたごはんとは違い、他の人と食べるごはんはこんなにおいしいのか!そうオオカミは思いました。オオカミはついに友達ができました。
それからの日々はオオカミにとってとても幸せな毎日でした。一緒に山へピクニックへ行ったり、川へ魚をとりに遊びに行ったり、たくさんの楽しい時間を二人で過ごしました。あるとき少女がオオカミに言いました。「まだ名前を聞いていないわ。なんて名前なの?」オオカミは返事に困りました。自分の名前なんて考えたことがなかったからです。「名前は…ない。」オオカミは少し悲しそうに答えました。すると少女は「私が名前を決めてあげるわ!」とキラキラした目で言います。「そうねぇ。毛が黒いから…クロにしましょう!」オオカミはなんとも言えない嬉しさが胸の内から込み上げてくるのを感じました。目からおおつぶの涙があふれてきます。「なんで泣いてるの?」少女が不思議そうにたずねます。「なんでだろうなぁ」オオカミはどこか気恥ずかしそうに答えました。「じゃあクロ!次はチョウを捕まえに行くわよ!」そう言って二人は一緒に草原に走って行きました。
「しんちゃん、走るのはやめなさい。」
晴天の空の下、春風に吹かれながらまだ幼い子供があぜ道を走る。
後ろを母親らしき人物が追いかける。
私はここで何度もこんな光景を見てきた。
田園が広がるどこかの町、古いお寺の隣で私は長い間ずっとここにいる。人間や動物は私よりもずっと後に生まれて、すぐに亡くなってゆく。この子供もあっという間に成長し、あっという間に老いてゆくのだ。そう考えると少し悲しくなるが、もう気にもしていない。
?梅雨の時期。雨がたくさん降る季節。私は梅雨の季節が大好きだ、生きている心地がするから。
でも人間は傘を差し、ほとんどの人は雨を嫌っているみたいだ。
「はやくはやくー、もう日が暮れてしまうよ。」
「まってよ、本当に元気なんだから。」
あの少年とお母さんだ。少年はもう小学生になったらしい。人間の成長とは早いものだ。私とは違う。
「あ、ご神木様だ。早く雨がやみますようにー!」
少年は私の前で手を合わせ、頭を下げた。しかしそんなことも束の間、すぐに走り去って行った。
母親が後をつける。前見た時よりも少しやつれて見えるが気のせいだろう。
??夏真っ盛り。強い日差しが照り注ぐ季節。梅雨の次に好きな時期だ、まだまだ成長できる気がするから。
「ほんとあっちいよな、なんで夏ってこんなにも人間を苦しませるんだ。」
中二病のようなことを言う、いつもの少年が現れた。いや、本当に中学生になったみたいだ。
学生服を着た少年は、母親ではなく別の少年と歩いていた。どうやら学校帰りらしい。
しかし、事あるごとに人間は暑いとか寒いとか文句を垂らすのに、いつもまじめに仕事や学校に通うのは不思議で仕方がない。
「俺ちょっと今日、寄り道するわ。」
しんちゃんと呼ばれる少年は別の少年とは別れ、かけ足で私の目の前まで来た。
「ご神木さんよー。最近、かあちゃんの調子が悪いみたいでよ。今までもそんな事はあったからあんまり気にしていなかったけど、ちょっと長く続きすぎなんだよな。とりあえず体調だけでも良くしてくれないかな?」
少年は両手を合わせて、私に問いかけた。
(無理だ。本人じゃないのに私がどうにもできることではない。)
人間たちは御神木様と私を呼ぶが、私には求めている神のような力はない。そこら中に生える、ただの木だ。
私が返事することはなかったので、少年はしぶしぶ家に帰った。
??急に肌寒くなった。食欲、睡眠、読書、運動、なんでも得意な秋の季節がやって来たのだ。
まあ、私に肌なんかないのだが。
暇つぶしにセルフ漫才を考えていると、各段と身長の伸びたいつもの青年が正面に立っていた。
少年の着る服に見覚えのある校章が付いている。ああ、地元高校の制服か。
「おまえ、ご神木じゃないのかよ!」
涙ぐむ青年になぜか急に怒られてしまった。
青年の様子は普段と全く異なっている。なにか大変なことがあったらしい。
「中三の夏から俺はずっと祈り続けた。でもなんで母さんの体調は良くならなかったんだ。ましてやこの1ヶ月、本当に苦しそうだった。この前、かあさんは...かあさんは...」
そうか、だからもう投げやりな気持ちで、青年は私に全ての責任を押し付けているのか。
しかし勝手に勘違いされては困る。私は御神木ではない。普通の、どこにでもある、ありきたりの木なのだ。
「なあ、俺はこれからどうやって生きていけばいいんだ。頼る相手がいない今、どうしたら…」
涙はもう流していないが、これからの人生に希望を持てていないようだった。
(まだまだ君の人生は長いんだから、簡単に諦めないでくれ。)
そう声を掛けたかったが、彼の耳には届かない。
散々私には怒っておいて、涙が収まるとすっきりしたのか彼はすぐに消えてしまった。
そう、これでいい。私には君と話す術がない。だって私はただの木なのだから。
どんなに辛いことがあっても、これからの出会いがどれも忘れ去ってくれるよ。
秋の冷たい風が、私の枯葉を乗せて彼の背中を押した。
生物が眠る季節。次の春に向けて力を蓄える季節。そう、冬の到来だ。私もぐっすり眠りたい。
うとうとし始めていると誰かが歩いてきた。早く寝たいのに。
いやいや、苛立ってはいけない。あくまでも私は御神木なのだから。
現れたのは大学生2人組だった。一方はいつもの青年だが、もう片方は見知らぬ女性だった。
「これはね、この町のみんなが御神木って呼ぶ木なんだ。御神木だから何か不思議なパワーがあるんじゃないかとずっと思って祈ってきたんだけど、なんの助けにもなってない気がする。御神木って僕にはよく分からないな。」
(いやー、面目ない。私にはなにも力がなくてね。)
「きっと不思議な力はあるよ。だって心は今も元気で暮らせているじゃない。」
優しい女性だな。おそらくしん君の彼女だろう。
こんな素敵な女性と付き合っているなんて、しん君はなんてラッキーなんだ。
「心、い...
ある街に夫婦がいました。彼らはここ最近田舎の国からこの街へ引っ越してきて、街のはずれにあるアパートを一部屋借りて過ごしていました。引っ越しの費用や新しい仕事を探したので、お金はあまりありませんでしたが楽しそうに暮らしています。彼らがこの街へやってきたのには訳があります。それは住んでいた国から彼らが追い出されたからです。では、彼らが何か悪いことをして罪として追い出されたのかというとそうではありません。その国では代々心優しい王様が国を治めていてあまり農作物などは実りやすい土地ではありませんでしたが、年貢なども重いものではなく、国民たちも王様のことを大変慕っていました。そのため夫婦も少しでも王様に恩返しをしようと思い、家で育てているかぼちゃを使ったスープやお菓子などをお城のパーティーへ持っていっていました。彼らや国の人々はこんな幸せな生活がこれからもずーっと続いていくものだと信じて疑いませんでした。
しかし、前の王様が急に倒れてしまいそのまま死んでしまったのです。跡継ぎがいなかったことから城の中では次の王様を誰にするのかという話し合いが数日行われており、国の人たちも不安がっていました。何日か経ち最終候補に二人の名前が上がりました。一人はブッフという前の王様の弟にあたる人で性格は穏やかではありましたが、優柔不断で自分の意見が無い様な人でした。もう一人はサルエルという前の王様の側近です。彼は勇敢で国の将軍を務めていたという経歴もありますが、少し乱暴で怒りやすい性格でもありました。王様の決定は村民の多数決によって決まることとなり、彼らは非常に悩みましたが勇敢なサルエルの方が国を盛り立ててくれるだろうということで次の王様はサルエルに決まりました。そして王様の正式なお披露目会が行われた後、新しい国王になったサルエルは広場の国民に向かってある決意を表明しました。
「私は将軍もした経歴を持っておりゆくゆくはこの国を強い国にしていきたい。そこでお金が必要になるので今までよりもっと年貢や賦役を重くしようと思う。異論はないかね?」とサルエルは声高々と述べました。国民は一瞬静まり返りましたが次々と新国王に向かって文句をいいました。それはそうでしょう。今まで優しい王様のおかげで自分たちは苦しまずに生活していましたが、戦争もして年貢も重くするという新しい王様の言葉は国民にとって嫌で仕方がなかったのですから。
そんな国民たちをみてサルエル王はものすごい顔で怒鳴りました。「俺はこの国を豊かにしてやる気持ちで言ってやっているのに、お前たちは愚痴ばかり言いやがって何様のつもりなのだ。大体今までが甘すぎたのだ。俺が決めたことだから年貢を厳しくすることは決まりだ。それに従わないものはその家を壊して国外追放だ。」
もうこんなにサルエルを怒らしてしまえばだれも手のつけようがありません。家来たちは皆怖気づいて国王の言った通り、反対したもの達の家々を壊して回りました。唯一、前の王様の弟であるブッフがサルエルに注意しましたが激怒している彼は聞く耳を持たず、ブッフを城の地下牢に閉じ込めてしまいました。夫婦も王様に対して文句を言っていたので家を取り壊され国外追放の手紙を渡されました。
こうして追い出された夫婦はあるだけのお金と家具をもって、街へと引っ越してきたのです。少し街での生活も慣れて夫婦の男は王様サルエルのことについて考えてみました。
…確かに年貢や賦役を重くしたりするのは嫌ではあったけど、彼は国を豊かにしようとしたかっただけであり悪い王様と断言はできない。そもそも勇敢というで王様をサルエルにした自分たちにも責任があるのではないか。…しかしもう家を壊されて国を追い出された彼らにはどうしようもできないのです。
よく晴れた朝、冬の体育館に声が響く。
「集合!」
太郎が副キャプテンを務める地元のバスケットボールチームのコーチである平井さんの声にチームのみんなが平井さんの元に駆け寄る。
「今日が大会までにできる最後の練習試合だ。来週の試合を想定して試合に 臨むように。」 小学六年生の太郎達はもう少しで中学生。色々な地域の子達が集まっているこのチームは中学生になればみんな中学がバラバラで、このチームでするバスケットボールは来週の大会で最後なのだ。しかし、この日の練習試合の結果は最悪なものだった。二十点以上もの点開けられて敗北した上にエースのゆうだいが怪我をしたのだ。試合が終わったあとキャプテンのともきは怒っていた。
「太郎!なんであの時パスしなかったんだよ!」
「ともきがパスを出せる場所にいなかったからだろ!そもそも、お前もシュート を外し過ぎなんだよ!」
「お前も何回もパスを取られていたじゃないか!」
ともきが言ったことに、イライラしている太郎も負けじと言い返し、さらに言い返すともき。2?人の口論は止まらない。ともきと太郎はいつも2人で帰るのに、この日はともきは太郎が着替えている間に先に帰ってしまったようだ。
「なんだよ、あいつ。」
そう呟いた太郎は体育館を出て、ひとりで帰り道を歩き始めた。朝よく晴れていた空はいつのまにか暗い雲で覆われていた。
あの練習試合の後にチーム練習が二、三回あったが、太郎はともきと一言も言葉を交わさなかった。平井さんは練習後チームのみんなを集めて話し始めた。
「明日はこのチームでの最後の試合ですが、先週の試合後からのここ一週間チームの雰囲気が良く無かったですね。特にキャプテンと副キャプテンが練習に身が入っていなかったように感じます。」
太郎はそれを聞いてドキッとした。
「二人だけではありません。他のみんなもその状態を変えようと何か行動しましたか?それに、エースであるゆうだいも先週のケガが治りきっていません。明日の試合に出られるかどうかがわからない状態です。ということは残っているみなさんでゆうだいの分まで戦わなければいけない可能性もあります。その自覚がみなさんにはありますか?」
平井さんが話す度、太郎は胸に重い石が積み上げられていくようだった。
その夜、太郎は家で夕食を食べている時にお母さんにともきやチームについて尋ねられた。ここ最近の、太郎の様子が少しいつもと違っていたことを感じ取っていたのだろう。太郎はお母さんにともきとの今の関係やチームの状態について話した。
するとお母さんに
「まず、あなたはともきくんに何か悪いと思ったり謝らないと思ったりすることはあるの?」
「うん。」
「じゃあ、どうしてそれを話し合わないの?」
「、、、」
「思っていることがあるならそれをちゃんと、ともきくんと話し合わなきゃいけないわ。それにあなたはチームの副キャプテンよ?キャプテンと一緒にチームを導いていかなきゃいけないの。」
と言われ、布団の中で太郎はこれまでの自分の行いをふりかえり、ともきが悪いと一方的に決めつけて謝ったり何も話そうとしたりしなかったことやチームメイトを置き去りにしてしまったことを後悔した。明日の試合前にちゃんとチームメイトやともきと話そうと思い眠りについた。
次の日、試合の歓声で沸き立つ体育館の上には雲ひとつない青空が広がっていた。
今年の夏も暑い日々が続いている。「いってきます!」。けんたは今日も走って家を出ていく。けんたは虫採りが大好きだ。毎日のように、家の裏側にある山や近所の公園に虫を捕まえに行っていた。けんたの首からはいつも虫かごがぶら下がっていて、右手には虫採り網があった。捕まえた虫はぶら下げた虫かごに入れて、虫かごがいっぱいになるほど虫採りに夢中になり、日が沈んでしまうことさえあった。
ある日、いつものように虫採りに夢中になっていると公園の前を通りがかったお母さんに声をかけられた。「けんた、今晩はけんたの大好きなハンバーグだからね。早く帰っておいでね。」「やったー!すぐ帰るね!」とけんたは答えた。それからけんたの頭の中はハンバーグでいっぱいになって、とてもお腹がすいてきた。そしていつもより早く虫採りを切り上げて家に帰った。いつもは虫かごから虫を逃がしていたのに、それをすっかり忘れて。
翌日、虫かごと虫採り網を持って虫採りに行こうとしたけんたはある異変に気付いた。そして虫を逃がし忘れてしまったことを思い出した。虫かごのなかでぎゅうぎゅう詰めになって放置された虫たちは、1匹残らず死んでしまっていた。けんたはとても驚き、ショックを受けた。そして、家の裏にある山に虫を埋めに行こうと思い、家を出た。山に着き、虫を埋め終わったけんたが家に帰ろうとすると、突然バッタの大群に追いかけられ、いつも虫を採って慣れているはずの山なのに迷ってしまった。家に帰ろうと、知っている道を探すも見つからず蜘蛛の巣に絡まったり、ハチの巣が落ちてきたりと思うように身動きが取れなかった。けんたは怖くなって無我夢中で山を駆け回り、気づくと家の前にいた。けんたは今日のことを考えるのが嫌で、ご飯もそこそこにベッドに入りすぐに眠りについた。
「息が苦しい。」ふと目を覚ましたけんたはこう思った。「狭い。暗い。」けんたは泣き出しそうになった。恐る恐る周りを見渡すと空間いっぱいにけんたが埋めたはずの虫たちが大きくなって自分を見つめていた。けんたはやっと自分が虫サイズになって虫かごの中に入れられていることを理解した。「ほんとうにごめんなさい。」虫も尊い命を持っている。自分のように生きている。自分の思いだけで好き勝手にしてはいけない。そのことを強く心の中で思った。
次の瞬間、けんたは自分のベッドの上にいた。昨日今日の不思議な出来事を体験したけんたは自分のこれまでの行動を見つめなおそうと決めた。
今も昔もけんたが虫好きであることは変わらない。変わったとすれば、けんたはむやみやたらに虫を捕まえなくなった。捕まえた虫は、快適に整備した虫かごの中で飼うようになった。またお小遣いを使って虫の図鑑を買い、虫を捕まえずとも虫を見ることができるようになった。けんたはこの出来事より虫や自分に限らず、命があり、生きているすべてのものに対して自分の勝手な思いだけで行動してはいけないなと思うようになった。
ある街にある小学生がいました。名前を「ゆうや」と言います。ゆうやは運動神経抜群で、成績優秀でリーダーシップもあり、俗に言う優等生でした。ゆうやの周りには自然と友人が集まり、先生も彼に怒ることは滅多にありませんでした。そんなゆうやにも苦手なものがありました。それはニンジンです。ニンジンは給食で毎日といっていいほど出てきます。ゆうやはあのオレンジ色といい、食感といい全てを受け入れることが出来ずに、毎回ニンジンだけを残していました。クラスの友達はそれを見て、
「優等生はニンジンを食べれないらしいぜ。」
「ニンジンも食べれないなんてだっせぇ。」
とバカにしてきて、毎回給食の時間になると、ニンジンが入ってませんようにと願うばかりでした。ゆうや自身もニンジンを絶対に食べれるようになりたいと家でも練習したり、一気に食べたりと克服しようと必死になって努力しましたが、やはり受け入れられずに何年も月日が流れていきました。
小学五年生の夏休み、ゆうやは北海道にいる米農家の祖父母の下に旅行することになりました。祖父母のもとに行くのは8年ぶりで、久しぶりに会うことをとても楽しみにしていました。ゆうやは一緒に農業を手伝い、一緒に川に遊びに行き、一緒にバーベキューをしました。しかし、そのバーベキューでニンジンが出てきました。しかも、祖父母が育てたニンジンだというのです、小学5年生の幼い少年でありましたが流石にここでニンジンを食べないのは失礼に値すると知っていました。そこで祖父母に正直に自分がニンジンが苦手で、給食で恥ずかしい思いをしていることを伝えると、祖父は
「なあぁに、男がそんなことでうじうじすんな。明日一緒にニンジンを収穫しよう。」
と言いました。ゆうやはニンジンの姿も見るのが嫌だったので、まったく乗り気ではなかったのですが仕方なく小さくうなずきました・
次の日、約束通り祖父と一緒にニンジンを収穫しに行ったのですが思った以上に力仕事で、へとへとになるまで働きました。
「何でこんなに疲れてまで、ニンジンを収穫しないといけないんだ。」
とますます嫌いになりそうな思いでいっぱいでした。その日の夜、ハンバーグやロールキャベツが夕飯だったのですが、疲れていたせいかとても美味しく感じました。しかし、祖母が衝撃の一言を言いました。
「今の料理、ぜーんぶニンジン入っていたんよ。」
そう、ゆうやはいつの間にかニンジンをたくさん食べていたのです。ゆうやにとっては衝撃の出来事でした。
それから、ゆうやはニンジンをまったく嫌いだと感じることは無くなりました。逆にニンジンを率先して食べるようになりました。給食にあるカレーもシチューも全部綺麗に食べてしまうようになりました。そして、ニンジンを食べる度に祖父と一緒にニンジンを収穫したことを思い出しながら、美味く食るのでした。友人たちからも、もう馬鹿にされることはなくなり、逆に
「ゆうやは何でもできていいなあ。」
と羨ましがられるほどでした。それから
それから10年たち、一人暮らしを始めてゆうやはスーパーマーケットに行くと、真っ先にニンジンを手に取り、ニンジンを中心としたメニューを考えるほどになりました。そしてつぶやくのです。
「ニンジンしか勝たん。」
pirates
ここはとある海辺にあるにぎやかな街です。この街では海に近いこともあり漁業が盛んであり毎年たくさんの海の幸に恵まれています。街の人々はみんな楽しく暮らしていました。ある時海に出ていた小舟が一日中帰ってこないことがありました。街の人々は不思議に思い海へ探しに出ました。しかし、その日海へ出た人たちは帰ってきませんでした。街の人々は何かがおかしいと感じ、不穏な空気が流れていました。そしてこの不穏な空気の中あるうわさが流れだします。そのうわさとは、いなくなったはずの海賊がまた現れて海に出た人を襲っているといううわさです。すると、街に住んでいる老人が古い昔にこの街には海賊伝説があったと言い出しました。それをきっかけにこのうわさは本当かもしれないと人々が思うようになりました。それ以降人々は恐れて海に出ることもせず、かつての賑わいはなくなってしまいました。数年後ある少年が本当に海賊の仕業なのかを確かめるために海へ出る決心をしました。街の人々は止めましたが少年の意志は固く、海へ出ていきました。?
海へ出て数時間が立ち、普段漁業をしているポイントを過ぎだいぶ沖のほうへと来た時に少年は異変を感じました。突然海が渦を巻き始め流れは急に速くなり歌が聞こえてきました。そして、渦の中から人影がたくさん見えます。そう、人々がうわさをしていた海賊たちが現れたのです。少年は言葉を失いましたが、恐怖はあったがなんとか意識は保っていた。するとある一人の海賊が近づいて話しかけてきました。「君はあの街の人か?」と聞いてきました。少年はおびえながらも「そうです。」と答えると海の中へ連れていかれそしてしばらく海賊と話をすることになりました。不思議なことに海の中でも呼吸ができています。海の中は信じられない光景が広がっていました。海の中に街が形成され海賊たちが海の中で暮らしていたのです。そして海の中で海賊としばらく話をしました。話によると少年たちより先に海賊たちと出会った人たちは海賊の姿を見るや否や恐怖のあまり気絶してしまい海に沈んでしまったということだった。少年は海賊たちが出会った人を殺したことを隠すためにうそをついていると最初は思ったが、海賊たちがうそをついているようには感じなかった。すると突然海に別の国の船が現れてこの国の海の資源、幸を奪い取ろうとしていた。海賊たちはいっせいに攻撃をはじめ船を追い払った。ここで少年はあることに気が付きます。自分たちの街が海の幸に恵まれていたのはこの海賊たちのおかげだったのだと。?
海賊の話によると昔は街の人々と海賊は交流を持っており仲良くしていたと。しかしながら国同士の戦争が始まってしまい海賊たちの強さを戦争の戦力に使おうと国の重役たちが言い始めた。海賊たちはかたくなに戦力になることを断りこれを機に海賊たちは心を閉ざしてしまい、人間を信用できなくなっていました。長年の月日がたち国も平和になり元の街の姿に戻ってきた今に海賊たちはもう一度昔のように交流を持ちたいと思って現れたということを少年は聞いたのです。少年は街に帰り自分の身に起きたことをすべて人々に話しました。自分たちの街が海の幸に恵まれていたのは海賊たちのおかげだったと思い、海賊たちに対する人々の見方が大きく変わりました。海賊たちと仲良くすることに皆が賛成し、昔のような賑わいのある街の姿に戻りました。この町に残る海賊伝説というのは人と海賊が交流を持っていたという伝説です。かつての姿に戻り街は一層賑わいを増しました。この街の名前はSeaside of Pirates town。海賊たちと交流があった街。?
5年前のことである。冬のある寒い夕方、僕は道端に捨てられている犬を見つけた。なんの犬種だったのだろうかとても分からなかった。なぜならば毛は汚れて抜け落ち、体はとても痩せ細くなっていたからである。おそらく飼い主に捨てられてからなにも食べられていないのだろう。僕は可哀想な気持ちになったのと同時に、捨てた飼い主に対して怒りを覚えた。僕はその犬を拾って助けてあげたい、そう強く思った。しかしながら僕の家では母親が犬嫌いであったため、犬を飼うことは禁止されていた。そういった理由もあったため、僕はその犬の前を通り過ぎようとしたが、犬の目を見ていると、僕に対して「助けて‥」と言っているような気がして、とうとう僕は母親に叱られる覚悟で家にその犬を連れて帰った。思った通り母親は僕が犬を連れてきたことに対して怒った。「家では犬を飼えないって言ってるでしょ、何度言ったら分かるの。」と強く言われた。「今日はもう遅いから明日その犬をもとの場所に返してきなさい。」と言われ、僕は仕方なくうなずいた。次の日の朝、母親が慌てていると思ったら、財布を無くしたそうだ。「どこにいったのかしら、昨日の夜はあったのに。これじゃ仕事に行けないわ。」と非常に困っていた。家族全員で母親の財布を探した。そしてとうとう見つけることが出来た。見つけたのは家族の誰でもなく、昨日連れて帰ってきた犬だった。母親はとても嬉しがっていた。僕は母親にもう一度聞いた。「母さん、この犬飼っちゃだめ?」と。母親はやはり少し悩んでいたが、とうとう「いいわよ、けどきちんと面倒見るのよ。」と許してくれた。僕はすごく嬉しかった。犬に対して「よくやったぞ?!」と褒めた。それからのこと僕はその犬の名前を「ぽち」と名づけ、毎日面倒を見た。そしてぽちはみるみるうちに元気になっていった。「ありがとう、ぽち。」
ある男の人は、妻と子供二人を持つ幸せな家庭をもっていた。?男は去年の春に小学校に上がり、次男も幼稚園に入園したばかりだった。仕事のほうも順調で何も不自由のない順風満帆の生活だった。しかし今年に入ってから体調が悪くなることが頻繁に多くなってきた。最初のうちは、頭が痛くなったり、体がだるくなっていったりするだけだったので、特に気にすることもなく生活していたが、あまりに?く続くため、不審に思った妻が男の人を病院に行くように勧めました。しかし、男の人は「大丈夫、そのうちなおるから。」と心配する妻をよそに、しばらく様子を見ていました。そこから一か月たったある日、夜寝ていると突然男は苦しみだし、意識をなくしてしまった。すぐに気が付いた妻が、救急車を呼び病院に搬送されると、その日の朝目を覚ました。医者が「一度 検査をしてみる」といい、検査してみると、男はがんを患ってしまっていたのだ。これを 聞いた男と妻はひどく落ち込んだ。 特に妻は、ショックのあまり、寝込むようになってしまった。ご飯なども食べなくなっ てしまいどんどんと弱ってしまっていった。男は家族を想い、特に子供には普段と同じように、外で遊んだり出かけたりする機会を作ってあげていた。そんなある日、男は夜眠りについたかと思うと、見たことのない神社の前に立っていた。その神社には金色に塗られているお賽銭箱を見つけた。男は「これは夢か」などと考えていたが神様に頼るほかない と思い、ポケットに入っていたお金をお賽銭箱の中に入れ願った。「死にたくないです。どうか神様、私を助けてください。」 そう願うと男は白い霧に囲まれた。何とも言えない、居心地の良い感じがすると思うと、 夢から覚め、朝になっていた。隣には、ショックで寝込んでしまっている妻と、寝相が悪く布団からはみ出しながらも、幸せそうに眠っている子供たちがいた。男はあることに気が付いた。「あれ、昨日までに比べて体が楽になってる。」そう思うと男はすぐに家を出て、 病院に向かった。そこで医者から、「信じられない、完全に治っている。こんなことは奇跡だ。」とひどく驚いた。男は完全にがんが治り、健康体そのものになっていた。男は診 断結果を妻にすぐさま報告すると、妻もまた元気を取り戻し、前と同様幸せな家庭になっていった。男は、「あの夢に出てきた神社のおかげだ。」といった。 それから、何十年もの間、男は一度も病気にかかることもなく、常に健康で生きていくことができていた。妻はもう 10 年ほど前に亡くなってしまい、子どもたちも去年なくなってしまった。男は最愛の妻や家族を失ってしまい、孤独となってしまった。この世に思い残すことはなく、そろそろ家族を追いかけたいと思うようになっていたがなぜか彼は死ぬことができなかった。交通事故にあった時も、自分の周りの人はけがをしたり、 なくなったりしている人もいたのに、唯一一人だけは無傷だった。何が起きても、自分の周りだけは安全になってしまっている。そこで男はふと思いひどく後悔した。「あの神社 であんなこと祈るんじゃなかった。」
とある町のごくごく一般的な家庭に生まれた少年は、両親の愛情を受けながらすくすく育ち、今年10歳になりました。少年の家族はお父さんとお母さんと4つ下の妹です。ある日、いつも外で一緒に遊んでくれるお父さんは仕事で出張に出かけてしまいました。1週間ほど帰らないと聞かされていましたが、今までにも同じことがあったので、少年は寂しさのかけらも見せず、笑顔で見送りました。しかし、その日の夕方に妹が39℃の高熱を出してしまい、お母さんと一緒に近所の病院に行ってしまいました。少年は妹の体調がとても心配でしたが、少年自身、病院が嫌いだったので、ついていかず、家で留守番することにしました。もう10歳になったから、一人で留守番することくらい平気でした。誰もいなくなった家で少年はテレビを見たり、漫画を読んだり、好きなことをして過ごしていました。しかし、いつまでたっても、二人は帰ってきません。気づけば2時間も時間がたっていました。「遅いなあ」少年は誰もいない家の中でつぶやきました。
さらに30分の時がたち、少年は空腹感を感じ始めていました。「おなかすいたなあ」少年は静まりかえった部屋で再びつぶやきます。すると部屋の隅に置かれている電話が急に鳴りだしました。驚いた少年はだんだん恐怖を感じました。いつもはなんなく電話に出られるのに、今はその呼び出し音が誰かの不気味な笑い声のような気がしてくるのです。「怖いよお」消え入りそうな震えた声でつぶやきました。電話の呼び出し音は消えました。しかし、少年の恐怖心はまだ消えません。それどころかその恐怖心は風船のようにどんどん膨らんできます。少年は何もないただの白い壁や、窓際に置かれた観葉植物、見慣れている部屋のものが、今にも自分を飲み込もうとしているのではないかと錯覚してしまいます。静まり返った部屋で壁にかけられた時計がチクタクと時を刻みます。少年は布団にもぐり、ぶるぶると震えました。ついさっき感じていた空腹感はどこかに消えていきました。(今の電話はだれだったんだろう…お母さんだったのかな…怖いなあ…またかかってきたらどうしよう…)少年の心情を読み取ったかのごとく、また電話が鳴り響きます。少年はビクッと体を震わせて、目をぎゅっとつぶり布団の中を泳ぐように腕をじたばたさせました。すると指先に何かが当たりました。布団水泳をやめ、恐る恐る手に当たったものを引っ張り出してみると、それは数時間前読んでいた漫画でした。その表紙にいる主人公はどんな困難にも立ち向かうヒーローでした。それは少年の憧れでもありました。「ヒーローはピンチを楽しむんだ!!」少年はその漫画の中で一番好きなセリフを叫びながら、鳴り続ける電話に飛びつきました。
そこからは生まれてから何度も聞いたお母さんの声が響いてきました。
「もしもし、遅くなっちゃってごめんね。今お医者さんに診てもらったから、もうすぐ帰るよ。」
「ふーん、そーなんだ、わかった。」
少年の声はまだ少し震えていました。
「大丈夫?元気がないみたいだけど、なにしてたの?」
「テレビを見てただけだよ。元気がないのはおなかすいちゃったからだよ。」
少年は精一杯強がってみせました。
「そっか、じゃあ今日はあなたの大好きなカニクリームコロッケを買って帰るからもう少しだけいい子にお留守番しててね。」
「うん。わかった。早く帰ってきてね。ばいばい。」
電話が切れた後、少年はぐるりと部屋を眺めてみました。そこにはいつもの部屋があるだけでした。少年は不思議な気持ちで立ち尽くしていましたが、だんだん笑いがこみ上げてきました。(僕は何に恐れていたんだろう)少年はスキップで布団のところに戻ると読み終えた大好きな漫画をもう一度読み始めました。しばらくすると家の鍵が開いた音がしました。
「ただいまー。」
「おかえり!」
少年はコロッケのいい匂いがする玄関へ駆けていきました。
南半球のある町に、メアリーとハナという6歳の双子の姉妹とそのお母さんが暮らしていました。家庭は貧乏でお母さんは2人にプレゼントをあまり買ってあげられなかったので、7歳の誕生日にはどうにかして喜ばせてあげたいと思っていました。
ある日2人が学校から帰ってきて、
「ここよりもっとずっと北にある国には、サンタさんっていうおじいさんがいるんだって!」
「真っ赤な服を着て、白い髭と髪の毛のおじいさんなの。12月24日に、良い子にしてる人にプレゼントをくれるんだって!」
学校の先生が教えてくれたというサンタさんについて2人は楽しそうに話しました。お母さんはサンタさんについて初めて聞き、童話か何かだろうと思って聞き流していましたが、心のどこかで何か希望を感じていました。
それから日がたち、2人の誕生日が1ヶ月後に迫った夏の日、プレゼントをどうしようかとお母さんは悩みました。するとメアリーとハナがおそろいの赤い靴を履いて、学校に行く準備をしていました。
「もしもサンタさんが本当にいるのなら、優しいこの子たちのためにプレゼントを届けにきてくれるかもしれない。」
とお母さんは考えました。
2人が帰ってくるとお母さんは、
「サンタさんにプレゼント、お願いしてみようよ。風船を飛ばしてお願いしてみよう。きっとメアリーとハナのところに来てくれるよ。」
と提案すると、子どもたちも大喜びして、早速サンタさんにお手紙を書き始めました。
「サンタさんへ 私たち双子はとても幸せです。それはお母さんがいつも頑張ってくれるからです。どうにかしてお母さんを喜ばせてあげたいです。お母さんに大きな花束をプレゼントしてください。メアリーとハナより」
2人はお母さんに手紙の内容がバレないように封筒に入れ、風船にくくりつけました。
「せーのっ」
と2人で一緒に紐を離し、3人は両手を合わせて届きますようにと祈りました。
2人の誕生日の当日、お母さんは2人が寝た後にせかせかと作っていた手作りの赤いお洋服をあげました。お母さんはみんなと同じようにゲームやおもちゃを買ってあげられないことを悲しく申し訳なく思っていました。2人が喜んでくれるかとても心配でしたが、2人は踊り出すほど大喜びをしてくれました。
しかし、その日サンタさんは来ませんでした。お母さんはがっかりしましたが、2人は幸せそうにご飯を食べていたので、お母さんも幸せな気持ちになりました。
そして2人の誕生日から1ヶ月が経った頃、玄関のチャイムが鳴り、お母さんが扉を開けるとそこには、赤い半そでに白い髭を生やしたおじいさんがそれはまあ大きな花束を持っていました。
「メリークリスマス、2人のお子さんからのプレゼントですよ」
と言いその花束をお母さんにプレゼントしました。お母さんは目を丸くして驚き、同時にとても嬉しくて涙が溢れました。
「お母さんの愛が子どもたちへの最大のプレゼントですよ。」とおじいさんは言い、
2人がやってきて
「サプライズ大成功」
と2人は大喜びしてまたまた踊り出しました。お母さんもおじいさんも踊り出しました。
お母さんは2人を抱きしめ、メアリーとハナも大好きなお母さんを抱きしめました。
とっても素敵な夏のクリスマスでした。
魔法のあんこぱん
「菜々子ー!あんたまた宿題もせんとスマホばっかりいじって!!」
夕焼けの綺麗な冬の空にいつもの母の説教が響く。
パートが終わり帰ってきた母の声が。
「後でやろうと思ってたんよ!」
「そんなこと言うて!この前もやってなかったやんか!」
「今日はやろうと思ってたのに!!」
やろうとしてたのは本当なのに。かえってやる気が失せる。
「はよ宿題やってまい!」
私は何も言わず二階の自室に戻りベッドに寝転がった。
「なんで毎日あんなにガミガミ怒るんやろう」
去年、町のテニスクラブに入った私は、テニスに力を注いでいた。
私の通っているテニスクラブはとても小さなテニスチームで、所属しているのは私と同じ初心者ばかりだった。去年まで弱小チームと言われていた私たちは、今では近畿大会出場までの実力になっていた。
テニスの練習は楽しく、日に日に強くなっていると実感している。
その代わりなのか、苦手な勉強の手が進まないのも事実。
私の通っている小学校では、生徒たちの多くが中学受験をする。
私は今5年生。この冬が終わると受験生。
わかっているのにわかっていない。
勉強はしたくないが、私の実力ではスポーツ推薦は狙えない。
もし受験に失敗したら…そう考えると怖くなる。大好きなテニスも出来なくなる。友達は進んで私1人だけ取り残されるような、そんな感じだ。
周りには、もう勉強を始めているという声をちらほら聞く。
今までいくら頑張っても勉強でいい成績を取れたことはない。理解しようと頭をひねり、時間を割いて勉強をしたけれど、テストの点数はひさんなものだった。
そんな私には、テニスでの伸びは、やっと認められた感覚を味わえた唯一のものだったのだ。
勉強は努力しても報われない。テニスは報われた。
やる気の向く方向はテニスになって当たり前だった。
「受験なんかなければいいのに…」
「菜々子!!ご飯!!」
母の声で飛び起きる。
直ぐに時計を確認する。
「もう6時…」
私はベッドに寝転がってそのまま寝こけてしまったのだ。
宿題も終わっていない。また確実に母に叱られる。
「菜々子ぉ!」
「はーい!!」
憂うつなまま階段を降りる。
「あ、ななちゃん」
「おばあちゃん」
階段を降りると、ちょうど祖母も部屋から出てきた。
私たちが住んでいる家はいわゆる二世帯住宅というものだ。だが、祖父は私が産まれる前に他界してしまったそうだ。私の両親は離婚しており、父は一緒には住んでいない。そんな中、祖母1人では心細いだろうと一緒に住むことになったのだ。
祖母はとても温和な人で、私は優しい祖母が大好きだった。
怒りっぽい母とは真逆だった。
もちろん母のことも嫌いな訳では無い。だが怒りっぽいのはあまり好きではない。言い合いもしたくない。
「宿題終わったん?」
リビングに入るなり聞かれる。
「終わってない。疲れてて寝てもたんよ。」
嘘をつくとさらに怒られるので正直に言う。
「やっぱりな。後で絶対しーや。」
そんなんわかってる、という言葉を飲み込む。
これ以上ややこしくなるのはごめんだ。
「まーた無視かい。」
「まぁまぁお母さん、ななちゃんも練習で疲れとったんやろ。」
そうだそうだ。
やっぱり祖母は私のことをよくわかってくれる。
「おばあちゃんは菜々子に優しすぎるんよ。来年はもう受験生やってゆうのに焦りもせんでこの子は…」
その母の言葉にカチンと来てしまった。
知ったような口振りで私に不安がないと母は言い切った。
「なんにも知らんくせにっ!!」
気がつくと叫んでいた。
「私の気持ちなんかなんにも知らんくせにっ!!いつもいつも決めつけてくるのはそっちやろ!!」
頭に血が上り、涙と共に押さえつけていた気持ちが言葉になってあふれた。
「私がどれだけ頑張って、がんばって勉強してたかも知らんのに!結果だけで判断して!!私やって不安で仕方ないのに!!それもわかろうとしてくれへんやん…」
胸が苦しくなってリビングを出る。
「菜々子っ…」
母に呼ばれたが無視してそのままベッドにもぐり込む。
その夜は1人で泣いて過ごした。
翌日、無気力感で学校にも行きたくなく、学校を休んだ。
仮病の後ろめたさもあったが、こんな気持ちのまま勉強もテニスもしたくない。
母は日中はパートに行っている。
の...
【事件前】
駿太はサッカー部のエースストライカーです。
週末にひかえたサッカーの県大会でも、みんなから期待されています。
しかし最近、駿太は思ったようにプレーすることができず悩んでいました。
駿太はサッカーが大好きでサッカー選手になりたいので、毎日毎日練習を頑張っています。
サッカー部のかんとくに、
「道具を大切にしなかったり、周りの人に感謝できなかったりする人はいくら練習しても上手になれないよ。」
と教えてもらってから、スパイクやボールをチームの誰よりも大切に使っているし、周りの人への感謝も忘れたことはありません。
練習だって人一倍頑張っているつもりです。
それなのに、プレーはうまくいきません。
今日の練習でもきのうの練習でも、シュートをたくさん外してしまいました。
ボールも敵にうばわれたし、ドリブルもパスもうまくいきませんでした。
「ぼくには、サッカーの才能がないのかもしれない。」
県大会を前にして、駿太はすっかり自信を無くしてしまいました。
【事件】
県大会3日前、サッカーの練習が終わっても、駿太は一人残って自主練をしていました。
ボールをけってもけっても、自分の納得するようなシュートになりません。
「どうしよう、、、」
駿太はもう泣きそうでした。
「サッカーしてるの?」
とつぜん声をかけられてふりむくと、誰もいなかったはずの校庭に一人の男の子が立っていました。
男の子は3,4年生くらいで、6年生の駿太よりも小さく、半そで半ズボンで手にサッカーボールを持っています。
駿太がおどろいて何も言わずに立っていると、男の子が、
「ぼくとサッカーしようよ。」
と、言ってきました。
「いいけど、」
「じゃあ、やろう!」
駿太は、男の子と一対一でサッカーをしました。
男の子はサッカーがとっても上手でした。
「上手だね、どこのクラブに入っているの?」
「どこにも入ってないよ。サッカーが大好きなだけ!お兄ちゃんもサッカー上手だね。」
「上手じゃないよ。最近は思ったようにプレーできないし。チームじゃ、“エースストライカー”だなんて呼ばれているけど、チームの役に全然立ててないんだ。3日後には県大会があるのに、、、。」
駿太の話を聞いた男の子は、きょとんとした様子で言いました。
「お兄ちゃんはサッカーするの楽しい?」
その言葉を聞いて、駿太ははっとしました。
それから、しばらくたってこう言いました。
「楽しいよ。サッカーが大好きだから。」
【事件後】
駿太と男の子は、そのあとも日が暮れるまでサッカーに没頭しました。空にはうっすらと星が出ています。
「楽しかったぁ、またサッカーしようね。」
駿太がそう言うと、男の子は少し笑って言いました。
「県大会頑張ってね。」
「うん!ありがとう。」
次の日の練習から、駿太はすっかり調子を取り戻していました。
男の子とサッカーで遊んだ話をかんとくに話すと、かんとくは笑って、
「それはきっとサッカーが大好きな子の前にしか現れないゆうれいだよ。調子の悪かった駿太を助けてくれたのかもしれないね。」
と、言いました。駿太は今までゆうれいの存在を信じていませんでしたが、不思議とあまりおどろきませんでした。
県大会、駿太はシュートを2本も決めて、チームはみごと優勝しました。
あれから男の子には一度も会ってません。
「またサッカーがしたくなったら出てきてねー。」
練習終わりの校庭に向かってそう叫ぶと、駿太は今日も自主練をするために校庭に走っていきました。
「ごちそうさまでした。」
給食の時間が終わると私は一目散に教室の外へ駆け出していく。今日は水曜日。まず向かうのは給食室だ。毎週水曜日は給食にパンが出る日だから各教室で余ったコッペパンを大量にもらえるのだ。コッペパンが沢山入ったビニール袋を抱えたまま外靴に履き替え、目的地まで走る。
「ご飯持ってきたよー。」
着いたのはウサギがいる飼育小屋。私は飼育委員会に入っているのだ。小学校では高学年はなんらかの委員会に入ることが決められていた。動物が好きだったため、飼育委員会に入った。ウサギのお世話をするのはとても楽しかった。給食室からもらってきたコッペパンをウサギたちの口の前に持っていくと喜んで食べた。小さな口でちょっとずつもぐもぐと食べている姿が可愛いらしいのだ。
天気の良い日は校庭の中にあるウサギとのふれあい専用の広場に10羽近くいるウサギ達を飼育委員みんなで力を合わせて連れていき、ふれあいタイムを行った。頭をなでたり抱っこしたりとウサギ達は学校のみんなに大人気であった。
10羽近くいるウサギの中でも私に懐いてくれているウサギがいた。そのウサギはグレーの毛並みが特徴的で「グレコ」という名前を付け、みんなで可愛がっていた。特に、移動すると後ろを追いかけてピョンピョンとついてくる姿がとても可愛かった。
こんな風にウサギ達と楽しい日々を送っていたのだが悲劇は突然やってくる。
ある日の夜、家に飼育委員会の先生から電話がかかってきた。電話を受け取った母からグレコが亡くなったことを伝えられた。あまりのショックに涙が止まらなかった。その日の夜はグレコのことで頭がいっぱいでなかなか寝付けずにいた。
目が覚めるとなぜか見慣れない原っぱで横になっていた。
「目が覚めた?」
という声が背後から聞こえ振り向くとそこには亡くなったはずのグレコがいた。
「グレコ!生きてるの?しかもしゃべれるの?」
「いや、死んじゃったのは事実なんだけど、天国に向かうまでの途中にガラポンを引くところがあって、そこで1等を当てたから神様が1つだけ願いを叶えてくれることになったんだ。だから最後にもう1度会いたくて会いに来たんだよ。」
とグレコが言った。よく見るとグレコの頭には天使の輪があり背中には羽が生えていた。
「私ももう1度グレコに会えてすごく嬉しいよ。それに会話もできるなんてなんだか夢みたい。」
グレコと私はそれからすっかり話し込んでしまい、気がつくと夕暮れ時になっていた。
するとグレコが何かを私の手に渡してきた。
「今までいっぱい可愛がってくれてありがとう。君にとても感謝しているよ。もう悲しまないで、これからも楽しく小学校で過ごしてね。これは幸せが訪れるお守りだよ。」
渡されたのは4つ葉のクローバーだった。
「お礼を言いたいのは私の方だよ。一緒に過ごせて楽しかったよ、ありがとう。長生きさせてあげられなくてごめんね。グレコのことずっと忘れないからね。」
そう私が言うと、グレコは安心した表情を浮かべだんだん体が薄くなっていき、とうとう目の前から消えてしまった。
しばらく経って遠くから聞き覚えのある声がなぜか聞こえてきた。その声はどんどん大きくなってきてついに耳元で
「いい加減起きなさい!」
という声が響きびっくりしてとび起きた。
ふと足元を見てみると四つ葉のクローバーが落ちていた。
午前六時半のことです。ピピピピとけたたましくなるアラームの音がうるさくて、きぼうちゃんは目を覚ましました。きぼうちゃんは朝が苦手です。なんたってほんの三十分前、おなじようにしてきぼうちゃんは目を覚ましたのに、アラームを止めてすぐ寝てしまいました。だけどきぼうちゃんはあらかじめスマホのアラームを二つセットしていたので、スマホはきぼうちゃんの指示通りに元気よくきぼうちゃんに朝をたたきつけるのでした。さらに辛抱ならずに階段を上がってきたお母さんが希望ちゃんの部屋の壁をどどどんと叩くものですから、きぼうちゃんは飛び上がるように朝の準備をし始めました。
きぼうちゃんが居間に行くと、もうすでにご飯が用意されています。椅子に座ってご飯を見やると、きぼうちゃんの味噌汁、ご飯、(いらないけど)野菜のおひたし、さらに好きな卵焼きがお皿の上に乗っていました。お母さんの作る卵焼きはふかふかでおだしがおいしくて、きぼうちゃんがいっとう好きなのでした。だけど時計を見るともうあと十分で学校にいかなければいけなかったため、大急ぎで食べなければいけませんでした。
学校にはきぼうちゃんにとって一番の地獄です。朝運が悪ければ遅刻するし、授業前にはやり忘れた宿題をどう取り繕うか考えないといけません。しかも、きぼうちゃんは両親からきちんと悪いことと良いことを教えられていたので、嘘をつくことがすごく苦手なのでした。
同じようにして宿題を忘れている男の子はいつも友達に囲まれて楽しそうにしているので、「良いご身分だこと」ときぼうちゃんは心の中でぼやいていました。きぼうちゃんの唯一のお友達は、好きな先生のところに走って行ってしまいました。きぼうちゃんに好きな先生はいません。それどころか好きな教科も、特別自信のある趣味もありません。絵を描くことは好きです。休み時間はたまにノートに落書きして、いつか絵描きさんになることを夢見ていました。でもある日きぼうちゃんは気づいたのです。自分は言われたことに従って描いているだけだったのです。きぼうちゃんにとっての休み時間はおひるねするだけの時間になってしまいました。
全部の授業がが終わってやっと帰宅することができます。
玄関までついたきぼうちゃんははっとしました。
「鍵がない」
つい昨日も、その先週も、そのずっとまえからきぼうちゃんは鍵を忘れないようにとお母さんに怒られたばかりでした。さすがに、こんな気持ちで家の玄関のチャイムをならして、お母さんに嫌みを言われるのはもううんざりでした。なんとかして家に入ろうと、駆け足でちかくのおばあちゃんの家に鍵を取りに行きました。おばあちゃんの家にはお父さんがいるけど、笑われたくないのですぐに家に向かいました。まだ怒られていないのに、きぼうちゃんはうんざりした気分がなおらなくて、とぼとぼと歩いていました。
なんだか、自分についてる希望って名前が恥ずかしくなってきました。
きぼうちゃんはお母さんのことがだいすきだけど、いまだけはお母さんがきぼうちゃんのお母さんであることが悲しくなりました。いいえ、ちがいます。きぼうちゃんがお母さんの子どもであることがとっても申し訳なくて、いたたまれない気持ちでした。年を取るたびにお母さんは「そろそろできるようになりなさい」ときぼうちゃんに言うことが増えました。きぼうちゃんはそのどれもがみんなにとって当たり前のことなのだということを知っていましたが、きぼうちゃんにはぜんぶやりかたがわかりませんでした。だって、きぼうちゃんのわすれんぼとあわてんぼ、マイペースの三種は生まれつきの一級品です。メモに残してもそのメモを見るのを忘れるし、アラームをつけてもあわててほかのことをしているといつのまにか忘れているのでした。
おうちに帰ったきぼうちゃんは、いつもは元気に飛び込んでいく居間の扉を、びくびくしながら通っていきました。頭をずんとまるめこみひたりひたりと駆け足で自分の部屋に入り、扉を閉めてしまえば身体がど・・とじべたに落ちていきました。
ふときぼうちゃんは、朝ご飯のたまごのことを思い出しました。
正確には、お母さんがキッチンで捨てていたたまごのことです。大雑把なお母さんは、消費期限が過ぎて食べられなくなってしまったものは全部生ゴミのゴミ箱に捨ててしまうのでした。
「みんなかわっていくのに、わたしだけかわれないまま、腐っていくのだね。」
床に張り付いてうごかないきぼうちゃんは、ベッドの下に小さなブレスレットが落ちているのに気づきました。きぼうちゃんが幼稚園の時におそろいのものをお友達がくれたのでした。きぼうちゃんはふふふと小さく笑ってブレスレットを手にとり、それを抱えたままゆっくりと眠りの中に入りました。ブレスレットは、ほこりのにおいがしていました。
これは、ある町に住んでいるある男の子のお話です。彼は、毎日毎日いたずらばかりしていました。どんないたずらかって?それはもうたくさん。食べ物を盗んだり、町中に落とし穴を掘ったり…。そんな彼には、もちろんクリスマスにサンタクロースが来るはずはありません。毎年クリスマスの時期になると学校では、サンタクロースに何をもらうのか、あちこちでその話ばかりが飛び交っています。
「ふん、なにがサンタクロースだ。プレゼントをもらうより、いたずらをしている方が楽しいじゃないか。」
今まで一度もサンタクロースが来たことのない彼にとって彼らの話は全く理解できませんでした。
「今年のクリスマスは、盛大ないたずらをしてやろう。」
あくる日。彼はいつもと同じように町中の人々にいたずらをしていました。
「あははは。やっぱりいたずらは楽しいな。あそこの八百屋のおじちゃんの驚いた顔。すごく面白かったなぁ。」
満足げな様子で大通りを歩いていると、帽子を深くかぶり、少し汚れたコートを身にまとっているおじいさんが向こうから歩いてきました。「いっちょ、あのおじいさんにもいたずらしてみるか。」男の子はそう考え、近くの物陰に隠れました。コツコツ、コツコツ。おじいさんの足音が近づいてきます。男の子が隠れている場所まで、あと一歩のところでピタッと足音が止まりました。男の子は不思議に思い、そっと顔を出して覗いてみると、そこには誰もいません。「あれ、おかしいな。」そう思った瞬間、後ろから、
「わしを驚かそうとしていることわかっておるぞ。」
とおじいさんが声をかけたのです。
「わぁっ!」
男の子はすごく驚き、しりもちをついてしまいました。おじいさんは言いました。
「おまえは今までずっと悪いことをし続けているな。そんなおまえには、この魔法をかけてやる。」
そう言って魔法をかけると男の子の体はパッと透明になってしまいました。気が付いた時にはおじいさんもいつの間にか姿を消していました。
男の子はというと…。逆に好都合だと言わんばかりにさらにいたずらを続けようとしました。
最初は楽しくいたずらを続けていたものの、自分の体が透明のせいで、だれにも気づかれないことにだんだん悲しくなってきました。
「もとに戻りたいよう。もういたずらはしないから。いい子にするから。」
と言って、とうとう男の子は泣き出してしまいました。すると、さっきのおじいさんがどこからともなく現れて、男の子にこう言いました。
「本当にもういたずらをしないと約束できるか。」
「約束します。もう二度といたずらはしません。」
男の子は言いました。
「ならば、もとの体に戻してやろう。その代わり、クリスマスの日は出会う人全員の手伝いをするのだ。」
そう言い残しておじいさんは姿を消してしまいました。
クリスマスの日。男の子は出会う人、出会う人のお手伝いを自分からするようにしました。今まで、彼のことを不快に思っていた町の人々も男の子の人が変わったような仕事ぶりにとても驚いたのですが、この行動を認めた町の人々は徐々に男の子に対して優しくなりました。その日の晩、男の子は町の人たちのお手伝いで疲れてぐっすり眠ってしまいました。すると、窓の外に見慣れた人影が・・・。次の日、男の子が目を覚ますと、ベッドの近くにプレゼントが置いてあるのが見えました。あのサンタクロースが自分の家にも来てくれたのです。
「やったあ。サンタさんありがとう。」
小学校一年生のハナという女の子がいました。ハナは走ることが苦手で、体育の時間が嫌いでした。そんなハナにとって、気がかりな行事がもうすぐやってきます。それは運動会です。ハナにとって小学校での初めての運動会は、楽しみでありながらも、不安な気持ちでいっぱいでした。運動会の2週間前、運動会の種目、50メートル走で、一緒に走るメンバーと順番が教室に張り出されました。ハナの順番は、注目が大きいクラスの最終組、隣で走るのは、クラスで一番速いハヤトくんでした。「体育大会なんて嫌だ。出たくない。」ハナはボソッと口に出して言いました。すると、「どうしてそんなに嫌なの?僕のことが嫌いだから?」一緒に走ることが決まったハヤトくんがハナに尋ねました。ハナは首を横に大きく振りながら暗い表情で答えました。「私は走るのが遅くて走ることに自信が持てないの。ハヤトくんみたいに、速くてカッコよく走る人に私の気持ちなんて分かるわけない。」
ハヤトくんは、唾をぐっと飲み込みました。そして、力強い声色でハナに伝えました。「『ゴールに向かって一生懸命走ること』これ以上にかっこいいことは無いんだよ。周りなんて気にしなくていい。『頑張った』自分でそう思えることが一番なんだ。」ハナは、この言葉に心を大きく動かされ、「運動会までの朝、一緒に走る練習してくれない?」とハヤトくんにお願いしました。次の日の朝、ハヤトくんと一緒に走る練習を始めました。誰かと一緒に走ることは新鮮で、なんだか身体が軽く感じました。そして、今までは走るたびに感じていた心の重しが取れていくような感覚になっていました。この次の日の朝、ハヤトくんがクラスメイトの2人を誘ってきました。「たくさんの人と走ると楽しいよ。」そう言って練習を始めました。次の日、また次の日と、どんどん練習に来る人が増えていき、運動会の前日にはクラスの全員が練習に来ていました。「明日は頑張るぞ!」この言葉を掛けながら、みんなと練習している時間は、今まで感じたことが無いぐらい気持ちよく、ハナは走ることを心から楽しいと思えた瞬間でした。
いよいよ運動会の日がやってきました。ハナは、ドキドキする気持ちと、心配する気持ちが入り混じったような不思議な感覚で当日を迎えました。ついに、50メートル走のハナのクラスの番になりました。「位置に付いて、用意、ドン!」この言葉とともに、クラスメイトが走り出します。昨日まで一緒に練習してくれた仲間の頑張る姿はかっこよく、輝いて見えたのです。そして、ハナとハヤトくんのいる最終組になりました。走り終えたクラスメイトが大きな声で応援する声が響いています。「位置に付いて」の合図でハナとハヤトは顔を見合わせた後、スタート位置につきました。お互いの顔が凛々しくなっています。静まり返った時、「用意、ドン!」の合図で走り出しました。ハナは背中を押してくれるような爽やかな風や仲間の声、頑張りたいと思う気持ちで最後まで走りぬきました。結果は、ハヤトくんが一番で、ハナは最下位でした。でも、ハナは、達成感にあふれ、嬉しそうな表情をしています。そして、ハナは思いました。「『頑張った』そう思えることが一番なんだ。」と。
僕は学校が大好きだ。毎日たくさんの友達と話して休み時間にはおにごっこをして授業ではみんなに頼られて、すごく充実した日々を過ごしている。自分で言うのもなんだかなあ、と思うが僕はみんなに好かれていると思う。そしてだからこそ毎日みんなに囲まれて楽しい日々を過ごせているのだと思う。だけど僕のクラスには友達が一人もいない子がいる。隣の席の田中さんだ。彼女はいつも一人だ。休み時間も授業中も誰かと話しているのは見たことがない。だけど毎日学校に来ている。ずっと本を読んでいる。いじめられているわけではないけど、誰も彼女と話そうとしないし、それは彼女も同じだった。周りに友達がほとんどいない生活なんて考えられない。僕はどうして彼女が学校に来るのか分からなかった。
金曜日の2時間目、いつものように算数の授業が終わった。20分休憩にみんなでおにごっこをするためにクラスの子たちに続いて教室を飛び出そうとした時、ふと後ろを振り返った。次々と友達が教室から出ていく中、僕の目はたった一人太陽の光に照らされながらいつものように自分の席で本を読んでいる田中さんにくぎ付けになった。なんとなく声を掛けてみたくなった。
「田中さ…」
「おーい、何してんの?おにごいかねーの?」
田中さんは僕を見ていた。
僕も田中さんを見ていた。だけど僕はきびすを返して駆け出した。
「ごめん、すぐ行くー!」
3時間目、国語の時間。先生の本読みを聞きながらちらりと横を見た。田中さんは笑っていた。先生はごんぎつねが食べ物をお供えするところを読んでいた。しばらくして田中さんを見ると今度は泣きそうな顔をしていた。先生はごんぎつねが死んだところを読んでいた。
4時間目、社会の時間。田中さんは眠そうだった。
昼休み、運動場に向かう前に僕はまた振り返ってみた。田中さんは机の中から本を取り出そうとしていた。
「田中さん!」
今度は声を掛けられた。
「…」
「あ、えーと、その本面白いの?」
こくん、と田中さんは小さくうつむいた。
「本を読むのが好きなの?」
こくん
「国語の授業が好きなの?」
こくん
「社会は嫌い?」
こくん
なんだか田中さんととても仲よくなれた気がした。
僕は勇気を出してこういった。
「…学校は楽しい?」
こくん
「そっか」
僕はそのまま教室を出た。なんだかいい気分だった。おにごっこでは久しぶりに最後まで逃げ切れた。5時間目も6時間目もいつもよりも授業が楽しかった。
土曜日と日曜日の二日間の休みの間、友達と遊んでいる時も家族でご飯を食べている時もテレビを見ている時も田中さんのことが頭にちらついていた。僕が月曜日の学校を楽しみにしているのと同じように田中さんも楽しみにしているといいなと思った。
月曜日、2時間目が終わって20分休憩の時間になった。いつものようにみんなで教室から出る。振り返った先にいた田中さんは本を読んでいた。楽しそうに本を読んでいる彼女の姿は本当に綺麗だった。今日も学校は楽しい。
サキちゃんは、かわいいものが大好きな、少し怖がりの2年生の女の子です。夜にトイレに行くのも、どこへ行くにも1人では怖くて行けません。そんな時は、いつもお母さんについてきてもらうのでした。
「ひとりじゃむりだよ。ついてきてよ。」
これがサキちゃんの口癖です。
ある日、お母さんと一緒に手をつないで買い物に行きました。ほんとうは、お母さんはサキちゃんにおつかいをたのんでいました。でも、サキちゃんはこわがりです。
「ひとりじゃむりだよ。ついてきてよ。」
結局、お母さんとふたりで行くことになりました。
とちゅうで近所のおばさんに会いました。
「こんにちは。」と声をかけられたので、サキちゃんはお母さんのうしろにかくれながら、小さい声であいさつしました。お母さんはそれからその人との話にむちゅうになってしまい、サキちゃんはつまらないな、と思いました。
「ねえ、早く行こうよ!」と言っても、お母さんは「ちょっとまってね。」と言い、なかなかお話が終わりません。ふと、目を向けた道ばたに白いふわふわのきつねがいました。その白いきつねは、なんだかきょろきょろしています。かわいい!そう思ったサキちゃんは、いつのまにかお母さんとはなれ、きつねのところへ近づいていきました。
「どうしたの?」
サキちゃんはきつねに聞きました。
「まあへんじがかえってくるわけないか。」
そうひとりごとをこぼしました。
「おつかいにきてるんだ。」
きつねから声がしました。サキちゃんは、
「なんできつねがしゃべってるの!!!」とおどろいて、しりもちをつきました。
「きみがしゃべりかけてきたんじゃないか。」と、きつねは少しふまんそうに言いました。たしかにそうだな、と思ったサキちゃんは、すなおにあやまりました。きつねは、
「いいよ。おつかいをたのまれているから、またね。」と言い、歩きだしました。サキちゃんは、なんとなくひとりでいるきつねが気になって、そのきつねについていくことにしました。
「ひとりなの?お母さんは?」と聞くと、きつねは、妹が小さいから、自分がかわりにおつかいにきていると答えました。サキちゃんは、ひとりでおつかいに行ったことがないので、おどろきました。「すごいね。」と言うと、きつねは照れながら「お母さんのお手伝いがしたいから。」と言いました。サキちゃんはお母さんのためにひとりで何かをしようと思ったことはありませんでした。それよりも先に、こわい気持ちがかってしまうのです。お手伝いのためにひとりでおつかいにきたきつねを「かっこいいな。」と思いました。
気づくと商店がいに出ていました。見たこともない商店がいです。お店の人は、みんなきつねでした。
「いらっしゃい。おつかいかい?えらいねえ。」きつねといっしょに、サキちゃんもほめられました。それがとってもうれしくて、サキちゃんもきつねも、おなじようにかおを赤くして、てれるのでした。
空がオレンジ色になっています。
「おつかいを手伝ってくれたおれいに、おかあさんのところまでおくっていくよ。」ときつねがいいました。そういえば、お母さんをおいて、初めてしらない場所へ歩いていました。
「ありがとう!」とおれいを言い、また、同じ道を歩いていきました。お母さんとはなれているのに、ふしぎとこわくはありませんでした。
お母さんが見えてきました。
お母さんはまだおばさんとしゃべっていました。
「お母さん!」と声をかけました。
「そろそろお買い物にいこうか。」とお母さんは言いました。お母さんはサキちゃんがいなくなったことをまったく気づいていなかったのです。サキちゃんは長い時間歩いていたはずですが、まだ空は青々としていました。おかしいな、と思いましたが、すぐに
「きっときつねさんといた時は、おかあさんのところの時間はとまっていたのね。」と思いました。気づくとあの白いきつねはいませんでした。
お買い物からかえって、サキちゃんは自分のへやで白いきつねのことを思いだしていました。なにか手伝えることはないかな、と思いリビングへ行くと、おかあさんがこまっていました。「どうしたの?」ときくと、「しょうゆを買いわすれてしまったの。」と言いました。
サキちゃんは、「サキが買いにいってくるよ!」と言いました。ひとりでもおつかいができるきつねのこと、おつかいをほめられたことを思い出すと、なんだかゆうきがでてくるのです。お母さんは、とってもおどろいていましたが、うれしそうに「ありがとう。」と言ってくれました。
サキちゃんは、こわがりな女の子です。でも、前よりもちょっとだけ、ゆうきをもてるようになりました。
ある街に、一人の男がいた。その男は、少し街から外れたところに小さな料理店を経営していた。男の見た目は大柄で、いつも不愛想な態度であり、周りの人からも少し敬遠されていた。そんな店の場所や男の雰囲気からか、店に入る客は少なく、いつも活気がない雰囲気があった。「そろそろ店をたたんで、田舎でゆっくり過ごそうかな。」男がそうつぶやくと、店の扉がガラガラっと開いた。男が扉のほうに目をやると、一人の小さな女の子が立っていた。「お店やっていますか。」女の子がそう聞くと、「やっているよ。」と男は返した。女の子はとてもやせ細っているように見え、何日もご飯を食べていない様子だった。すると女の子が、「10円しかないですけど、これで何か食べさせてください。お願いします。」といってきた。男は少し戸惑ったが、「よし、わかった。何か作ってやるよ。」と言い、厨房で何かを作り始めた。女の子は無理なお願いが叶ったことに少し驚いていたが、笑顔で料理の完成を待っていた。
「はい、お待ち。」男がそう言いながら出してきた料理は、うどんに唐揚げ、卵焼きと、とても豪華なものだった。「おじさん、本当にこんなに食べてもいいの。」と女の子が聞くと、「もちろん。好きなだけ食べな。」と返した。女の子はその言葉を聞くと、とてもお腹が空いていたのだろうか、すごい速さでご飯を食べていった。ご飯を食べ終えると、女の子はさっきまでとは違い、とても明るくて元気のいい表情を浮かべていた。「ごちそうさま。おじさん、本当にありがとう。こんなにおいしい料理なのに、お客さんが全然来ないなんておかしいよ。」女の子がそういうと、男が昔の話をし始めた。「お嬢ちゃんにこんなこと話しても意味がないかもしれないがね、数年前に妻を亡くしたのだよ。どんなにつらい時でも、妻が笑って支えてくれたんだ。でもそんな妻が亡くなってから、何もかもやる気が無くなっちまってね。」そういうと女の子は「じゃあ、私がお店のお手伝いをしてあげる。学校の友達にもこのお店のことを紹介するね。」と、店の手伝いを始めた。男は女の子の勢いに困惑したが、「じゃあ、お願いしてみようかな」と手伝ってもらうことにした。
次の日、女の子が店に来ると、早速店の前で宣伝を始めた。「ここの料理はすごくおいしいですよ。ぜひ一度食べてみてください。」と宣伝をすると、お客さんが少しずつではあるが、入ってくるようになった。どのお客さんも最初は男の雰囲気に驚いていたが、料理のおいしさに気づくと、「とてもおいしかったです。私の友達にも勧めますね。」と評判が広がっていった。そうして女の子のお手伝いのおかげで、男の店は繁盛し、とても活気のある店になった。男自身も、お客さんとの会話が増えたことで、明るく振る舞うようになった。その後、女の子のおかげで繁盛したので、何かお礼をしようと考えた男は、店が終わったらごちそうを振る舞うことにした。しかし、女の子はその日から来ることはなかった。「最近は忙しいのかな。」と思った男は、少し残念そうにしたが、次の日に女の子が来ることを期待した。しかし次の日も、またその次の日も、女の子はくることはなかった。それでも、男の店はその後も繁盛し続けた。
それは私がまだ20歳になってすぐ、地方の大学に通っていた時のことだった。
都会生まれの都会育ちで、同じ町で18年生きていた。大学も第一志望は生まれ育った都会の旧帝大だったが、実力が伴わなかったのかはたまた運がなかったのか、あえなく不合格。第二志望だった北海道の大学に進学した。慣れ親しんだ町と友人と離れることになり、進路を決めたときはそれはそれはナーバスになっていたものだが、進学してもう2年がたつ。新たな出会いと膨大な時間がそんな気持ちを吹き飛ばしていた。ちょうど大学に通える範囲におじさんの家があり、4年間そこに住むことになった。家賃がうくことは大学生にとってかなりメリットであった。その分おじさんが営む養鶏場を手伝うことになったが、学業を一番に考えてくれているのでそこまでつらいことはない。小学生の時に学校で飼っていた亀と、呼んでもいないのに我が家に不法侵入してくる蝶、学校の帰り道をいつも同じ時間に散歩していたゴールデンレトリバー以外生き物と触れ合ったことがなかった私にとって、鶏舎一面にいる鶏は物珍しかった。別に動物系の学部に進学したわけではないが鶏と接する時間には飽きがこず、人と接するのとはまた違う楽しさがあった。
普段はおじさんと一緒に世話をしているが、おじさんにも予定がある。旅行好きの彼は鶏の世話をしてくれる人がいなかったからなかなか遠出ができなかったのだ。そんな中突如として現れた「私(人手)」は、彼にとっても非常にありがたかったようだ。私は家賃がうく、おじさんは遠出ができるということでいわゆるウィンーウィンの関係だった。大学1年目にしっかりと養鶏について叩き込まれ、もし就職活動に失敗したとしてもそのままおじさんの養鶏場に就職できる程度には知識と経験を得た。私はその指導にかける情熱が旅行に行きたいものから来るのか、引退後の跡継ぎを見つけたいものから来るのか分からなかった。おじさんといってもおじいさんくらいの年齢ではある。体力のいる養鶏はあと数年で厳しくなるだろう。私の意思を尊重するため特に引き継ぐうんぬんの話はしてこないが、そういう思いは持っているはずだ。正直特に就きたい職が今あるわけでもないので、引き継いでもいいと思ってはいる。とにかく、おじさんは私に鶏を任せて遠出することがよくあった。それも1日で帰ってくるものもあれば3日帰ってこないときもある。長旅であっても私に期待して悠々と楽しんでくる、それが彼なのだ。
3月下旬のある日、晩ご飯の鶏鍋を囲みながらおじさんと二人で話していた。おじさんは明日からタイへ旅行に行く。かれこれ一週間は帰ってこない。これほど長い不在は初めてだが、それが認めてくれているようにも思えた。少しうれしいが、そのうれしさよりも一週間も擬似一人暮らしができる喜びが勝っていた。育ち盛りの大学生、新たなチャレンジにはワクワクするものである。おじさんが鍋を食卓へ持ってきたので、手に持つものを本から箸へ変えた。
「明日からの世話は任せたぞ」
「うん、任された」
「最近近くの養鶏場で鶏の不審死が相次いでいるらしい。まぁ遭遇せんだろうが、一応伝えておこう」
「不審死?野生動物に襲われてるの?」
「いや、フェンスが張られているところだからその線はないだろうな。よくわかっていないから不審なんだよ」
「もし出会ったらどうすれば?」
「もし目の前で起きたら?いったいうちに何匹の鶏がいると思ってるんだ?」
そういっておじさんは笑う。しかし、いつものような純粋な笑いではない。どこか起こる可能性を感じている、そんな気がした。
「もしもの話。仮定だよ」
もしも。そう言って起こってほしくない事実にフィルターを張って心を守る。
「そうだなぁ、どんな様子だったのかしっかりと記録しておいてくれ」
「鶏が生きようと苦しんでたら?」
「お前まだ1匹だって屠殺したことないだろ。見守ってやれ」
そう、まだ私は鶏の世話をするだけで、殺めたことは一度もない。都会に住んでいたときからゴキブリ退治をするのも苦手だった。
「まぁ遭遇したらそのときはそのときだね」
それを最後に、暗い話題は旅行の明るい話題へ変わっていった。
翌日、おじさんが空港へ向かった後、私は早速養鶏場へ向かった。大学は春休み、一日予定はない。鶏と戯れて一日を過ごす。他所ではなかなか経験できない、なんともいえない贅沢だと思う。昼に冷凍のチキンナゲットを食べ、養鶏場へ再度足を運んだ時のことだった。ほんの些細な変化だが、確実にいつもより鶏同士の距離が空いているスペースがあった。その中心には一匹の鶏がぽつんといた。嫌な予感がした私はその子のもとへ駆け寄った。私が歩くと鶏はさっと道を開ける。いつもならそれが私をモーセの気分にさせるが、その時はそんな余裕はない。私がたどり着いたか着かないか、その鶏は地面に倒れた。うす暗い場内ではよくわからないため、抱えて外へ連れ出す。運んでいるときでも刻一刻と小さな命がなくなりそうになっていることが分かった。外へ出て地面におろした時にはもう彼は虫の息であり、もう時間の問題だった。あとどれだけ生きられるのか、どれだけ苦痛にさいなまれるのか。町の獣医にみせにいくにも間に合わないだろう、そう勘が告げていた。もう助からないのであればここでいっそ。いや、頑張って生きようとしているからそれは。私は思考が二転三転したが、結局、その日が初めて鶏を殺めた日となった。
その日はもう他に活動する気力もわかず、ご飯も食べずに横になった。タイにいるおじさんに連絡をとる手段はない。あと6日は一人で過ごさなければならない。昨日感じていたワクワク感などとうに霧散した。横になれども寝れるはずもなく、今日のことについて何度も何度も思い出した。これまで、まるで友人のように過ごしていた鶏が、弱者と強者の関係に思えた。明日養鶏場に向かった時、どう見えるだろうか。小さな命の集合としか思えないのではないか。その恐怖が合わさり、その日、目を閉じても意識を手放すことはなかった。
朝、養鶏場へ足をむける。恐怖がなくなったと言えば嘘になるが、エサを準備しないと鶏たちが死んでしまう。これほど受動的に養鶏場へ向かったことはなかった。ただ一方で、昨日の出来事を経ることで真に養鶏場を継ぐ資格を得たようにも思えていた。友人としてではなく命としてみる。今までの接し方のほうが非日常だったのかもしれない。鶏舎が見える位置まで歩いてきた。さて5日後に帰ってくるおじさんにはなんと言おうか。そんなことを考えながら私は視界から鶏を外した。
「おかえりなさい、ご飯できてるよ」
「ただいま、何のご飯だい?」
おじさんが帰ってきた。身につけていた上着をラックにかけ、席につく。
「チキンステーキ」
「ほう、おいしそうだな」
キッチンから皿を持っていき、私も座る。
「いただきます」
そう言って私は肉一かけ一かけを味わいながら、おじさんのお土産話に耳を傾けた。
おおきなおおきな空の中、生まれたときから旅をする、小さい星が一つありました。彼はどんな星よりも小さくて、どんな星よりも荒れていました。サラサラ流れるきれいな川も、ゆらゆら揺れる大きな森も、彼にとっては夢の中でのことでした。
そんな岩と砂だけでできた星くんはいろんな星に憧れを持っていました。いつでもアツアツでキラキラ輝く恒星くん。真っ白な尾を引いてスイスイ流れる彗星くん。きれいな模様と輪っかを持った惑星くん。自分が持っていないものばかりが気になって、岩と砂まみれの自分の体を見てはため息を付き、
「あーあ、どうして僕は、きれいな輪っかもアツアツの光も持っていないんだろう」
いろいろな星の近くを通るたびに、こんなことを一人でつぶやくのでした。
そんなあるとき、遠くの方で大きな光が広がったのが見えました。星くんは気になって、そっちに向かって旅の行き先を変えました。
しばらくすると、自分と同じくらいの大きさの一つの星を見つけました。
星くんが遠くの方からその星を見ていると、こちらに気づいてやってきました。
「きみは、どこから来たの?」星くんは聞きました。
「僕はもとからここにいたんだけど、さっき大きな爆発があって、小さくなったんだ!」
「君こそどこからきたんだい?」
「僕はここからずっと遠いところから、旅をしてきたんだ。光が見えたから、こっちに来てみた。」
「そうなんだ!ここで出会ったのもきっとなにかの縁だね、そうだ!僕この体になってまだわからないことが多いから、色々教えてくれない?多分僕はちょうど君と同じような体をしている気がするし…」
「別に構わないけど、いいことなんて一つもないよ」
「いいさ!教えてくれ!」
「わかった。まず1つ目は、体が小さすぎること。大きな星に気づかれずにぶつかりそうになったことだってあるし、いくら話しかけても無視されることだってある。それに、大きな星は小さな星を見下すんだ、この間だって…」
「なるほど!てことは、周りの目を気にせずに生きていけるんだね?体が大きかったときはいろんな星に見られて話しかけられて、すごく大変だったんだ、身だしなみにだって気を使わなくちゃいけないし…でもこれからはそんなこと気にしなくていいんだ!それに、体が小さいからどんなところにだって行けるしね!すごくいいじゃないか!!」
「う、うん」
星くんは、予想外の返答をされて驚いてしまいました。今まで自分の体の小ささを「いい」と思ったことは一度もなかったからです。
「つ、次は、体が砂と岩しかないこと。キラキラ輝く恒星くんにだってなれないし、きれいな輪っかを持つこともできない、こんな地味な体じゃ、毎日嫌になってくるよ…」???
「てことは、毎日あの無口な輪っかと顔を合わせなくてもすむっていうこと!?そんな日が来るなんて信じられない!!それでいて砂と岩だけ!?最高にクールじゃないか!」
星くんは、最初何のことを言っているのかわかりませんでしたが、もともと大きな星であったことを思い出し、輪っかを持っていたんだ、と気づきました。
そして、また驚きました。まさか、こんな岩と砂だけの体を「いい」と思える星がいるなんて信じられなかったからです。
「君は、本当にこんな体がいいと思っているの?」星くんは、自分のことを気遣っていっているのではないかと疑って聞きました。
「当たり前じゃないか!君こそどうしてそんなに自分のことを嫌うんだい?」
「だ、だって、他の星よりきれいじゃないし、小さいし…」
星くんは、自分の嫌なところを考えてみましたが、なんだか恥ずかしくなって口ごもってしまいました。
「僕は、そんなことないと思うな。君はとても素敵な人だよ?初対面の僕に色々教えてくれる優しさを持っているしさ!他の星ならきっと、『急いでいるから』って言って僕なんか無視しちゃうね!」そう言って彼は笑いました。
「そうだ!そろそろ僕も旅に出るね。こんなにいい体になったんだ、色んな所に行って、色んなものを見てきたくなってきたよ。そうすれば僕も君ぐらい優しくなれるかな!」
そう言って彼は、星くんの返答も待たないうちに飛び出していってしまいました。
星くんは、彗星のように現れた彼を、はじめは夢でも見ていたんじゃないかと思いました。
突然現れて、突然目の前から去っていくそんな彼を。しかし、彼がくれた言葉は本物であり、星くんの心のなかでぐるぐるとうずまき、まるでぐっすりと寝た次の日の朝のような気持ちにさせてくれました。そして少し笑顔にさせてくれました。
それから長い年月が経ちました。星くんは、今も長い長い旅を続けています。ただ、昔と違うことは、自分のことを誇らしげに思っているところです。
キラキラ輝く恒星くんを見ても、きれいだな〜と思うだけで、決して自分と比べるようなことはしませんでした。輪っかを持った惑星くんを見ても、きれいだな〜と思いつつも少し不憫に思うだけでした。
そうして星くんは、果てしない旅を続けるのでした。
これからの自分
今日の明日は明日の今日。昨日は昨日の今日。一日一日と全く同じ日というものは存在しない。これは一日一日を過ごすはるか君の物語。
はるか君は毎日毎日ダラダラと何となく過ごしています。特にこれといった趣味もなく、毎日を適当に過ごしています。自分のしたくないことは後回し、自分にとって楽しいことであるゲームやテレビ映画鑑賞などとりあえずダラダラしたような生活をし続けていました。毎日毎日やりたい事だけをしてきたはるか君は遂にやりたいことすら無くなってしまいました。残ったものはたくさんのやりたくないことだけです。
渋々動き始めてまず最初にしたのは宿題です。今までやってこなかった分たくさんの宿題が残っています。そのひとつの生き物の宿題をやって行くうちにはるか君は様々な生き物に興味を持ちました。
次にやることはおじいちゃんのお手伝いです。おじいちゃんが大切にしている畑仕事のお手伝いです。今まで部屋にひきこもっていたはるか君にとってはちょっとの動きも大変です。気づいた時にはもう夕方でした。汗をたくさん流して動いたからかはるか君は気持ちがいいことに気づき次は体を動かすことに興味を持ちました。こうしてやらないといけないことを沢山していくうちにはるか君には自分がしたいことが沢山増えてきました。そしてやるべきことが終わって遂にしたい事だけをできるようになった時、はるか君は気付きました。今自分がしたいことは前までのしたいことと全くの別物だということに。?
そこからのはるか君は両親や祖父母にも驚かれる程の別人になりました。手伝いなども進んで行い、宿題も毎日の日課に、更には運動もするようになりました。「なんでそんなに変わったの?」と聞かれれば「やりたいことをやってるだけだよ」と答えるくらいまではるか君は別人のようになりました。ある日昔みたいなやりたいことをやってみようと思っても前ほど丸1日費やせるほどではなく、色んなことをしたいと思っていました。その時はるか君は気づきました。やりたくないことをしていくうちにやりたいことを見つけることが出来る。そのためのものだということにです。それに気づいた時はるか君は今までの自分の過ごしきた日々をとても後悔していました。しかし、「そのような日々も今の自分を見つけれたいい経験」とアドバイスを受け、それもまた前向きに感じることが出来ました。はるか君はそれからも周りが嫌がるようなことであっても自分から進んで動いていくようになりました。
ケンは売れないシンガーソングライター。生活は決して楽とはいえず、苦労していました。
「いつか絶対に有名になってやるぞ。」
ずっとそう思い続けていますが、ケンにとってそれはただの理想でしかありませんでした。それでもケンは、いつかは大きな会場でコンサートをできるくらい有名になるよう、毎日夕方になると、路上で歌を歌っていました。
ある日、歌を歌うための場所に向かっている途中で、小学校低学年くらいの小さな男の子がいました。その男の子はとても悲しげな顔をしていて、ケンはすごく心配になりました。
「何かあったの。」
ケンが声を掛けると、その男の子は泣きながら
「お父さんが死んじゃって、お母さんは毎日毎日朝から晩まで働いてる。全然会えてないんだ。今日はお金がテーブルに置いてあって、紙に『このお金でご飯を買ってきなさい』って書かれていたから、一人で買い物に行ってたんだ。」
と答えました。
「そうだったのか。だから元気がないんだね。よし、それならお兄ちゃんがいいものを見せてあげるね。だから元気出して。」
そう言って、ケンはギターをケースから取り出し、今子供たちの間で流行している曲を弾き語りしました。すると男の子は泣き止み、元気を取り戻しました。
「お兄ちゃん、なんだかすごく元気が出た。ありがとう。また明日も、ここに来てくれるの?」
男の子はすごく嬉しそうな表情で目をキラキラさせながらケンに聞きました。
「分かった。君が元気になってくれるなら、ぜひ明日もここに来よう。」
「絶対来てね。僕、待ってるから。」
ケンは男の子と別れました。
その日の夜遅く、歌を歌うきっかけを作ってくれた師匠から、電話がかかってきました。
「さっきいい話を聞いた。今から私のところに来るんだ。」
「きゅ、急にどうしたんですか。」
「実はな、東京の大きなホールで歌を披露できるチャンスをもらったんだ。そこでいろんなシンガーソングライターが歌を歌うんだが、そのうちの一人が急に出れなくなったんだ。その代わりを探しているらしくて私はお前にぜひ出てほしいと思ったんだ。このチャンス、逃さないわけがないよな。」
「明日しか、ないんですかね。」
「当たり前だ。そのイベントは一日だけだ。」
「そうなんですね…。」
ケンはすごく悩んでいました。大きなホールで自分一人で歌えるという、もしかすると有名になるきっかけになるかもしれないチャンスをつかみたいという気持ちと、という気持ちが、ケンの心の中で揺れていました。
師匠が言いました。
「じゃあ、今夜待っているからね。よろしくたのむよ。」
ケンはついに決断しました。
「ごめんなさい。明日のイベントはやっぱり行けないです。」
「なぜなんだ。こんなチャンス二度とないと言ったじゃないか。有名になる可能性だって、十分にあるんだぞ。」
「私、明日とっても大切な約束をしたんです。」
「そうなのか…。まあ決めるのは君だから仕方ないか。分かった。ではその大切な約束、ちゃんと果たすんだぞ。」
「ありがとうございます。」
翌日の夕方、男の子と前日出会った路上で、1人の男の子のお客様だけを前にして、売れないシンガーソングライターは、素敵な歌を歌いました。
ある日、うさぎさんとくまさんとりすさんは3人でピクニックに行きました。それぞれ、お気に入りの服を着て、お気に入りのカバンを持って出発しました。この日はとてもいいお天気でピクニック日和でした。丘を登っていくと、3人はさまざまな動物に出会いました。とりさん、へびさん、とかげさん、たぬきさん、かまきりさん。3人はたくさんの友達や自然に触れ合いながら丘の頂上へと向かいます。そして、12時ごろに丘に到着しました。「おなかすいたー」とリスさんが言うと、「お昼ご飯にしよう!」とうさぎさんが言いました。カバンに入れてきたお弁当を取り出して、3人はお弁当の見せ合いっこをしました。うさぎさんのお弁当にはケチャップで書かれたうさぎのオムライスと鮮やかに光るトマトが入っています。くまさんのお弁当にはお弁当いっぱいのハンバーグとその横にまんまるのにんじんがあります。りすさんのお弁当は大きなおにぎり2つとその横に大きなブロッコリーが並べられています。
うさぎさんは顔をしかめて「私トマトきらいなの」と言います。するとくまさんが「トマトはね太陽さんの光をしっかり浴びて元気をもらって真っ赤になっているんだよ、だからトマトを食べるととても元気になるの!」そう言われて、うさぎさんはトマトを食べてみると、口の中で元気よくはじけ、あまみが口いっぱいに広がりました。うさぎさんはなんだか元気になるパワーをもらった気がしました。「トマトおいしい!」次にくまさんが顔をしかめて言いました。「ぼく、にんじんきらーい」。すると横のりすさんが「にんじんはね、夕日のようにみんなを癒してくれる野菜なんだよ」と言いました。くまさんはにんじんを食べると、なんと夕日のように体と気持ちがぽかぽかしてきました。くまさんはあたたかい気持ちになりました。「にんじんおいしい!」最後にりすさんが顔をしかめて「わたし、ブロッコリーが食べられない」と言いました。すると、うさぎさんが「ブロッコリーはね、食べるとまるで自分がお花畑にいるかのような気持ちになれるよ!」そう言うと、りすさんはブロッコリーを口に運びます。すると、まるでとても大きなお花畑の中に自分がいて、とても幸せな気持ちになりました。「わたし、ブロッコリー大好き!」
3人はおいしいお弁当を全て食べ終わり、うさぎさんはトマト、くまさんはにんじん、りすさんはブロッコリーと、3人は嫌いだった野菜が今や大好きになりました。そのあと、丘の上でおしゃべりしたり、おにごっこをしたり、かくれんぼをしたりしてとても楽しい時間を過ごしました。3人はとてもワクワクした気持ちになりながら丘を降りていき、丘に向かうときに出会ったとりさん、へびさん、とかげさん、たぬきさん、かまきりさんにもそのことを共有しました。幸せを分かち合うことでみんなをよりワクワクした気持ちにさせました。くまさんが「また一緒にピクニック行こうね!」と言うとみんなが「うん!」と言い、3人は仲良くスキップしながらおうちに帰りました。3人は家に帰ったあとも、おうちでそれぞれトマト、にんじん、ブロッコリーを食べて家族で今日のピクニックでの出来事を話しながらあたたかい時間を過ごしました。みんなとても幸せな気持ちになりました。
タスキ村に1人の少年と母親の2人暮らしをしている家族がいた。2人は、村役場で働いており、平凡な日常を暮らしていた。しかし、ある日突然、母が体調をくずした。熱は39度まで上がり極度の頭痛にさいなまれている。村にいる医者が様子を診に来てくれるも原因は不明。母親の病状は悪化していくばかりで、1週間経過しても良くならない。遂に、意識はもうろうとしきとく状態が続いた。
「この病状が続けば、あと1週間もたないかもじゃな。」
年老いた医者は言う。
「1000里先に名高い名医がおる。その名医が持つ秘伝の薬を飲めば、きっとよくなるだろう。これまで、それを飲んで治らなかった者はいない。」
「本当ですか!」
少年は目を光らせて返した。
「しかし、1000里先のその場所へ行くことは簡単じゃあない。幾多の試練が待っているぞ。」
「母親を救えるなら何でもします。その場所を教えてください!」
少年の真っ暗だった瞳に一瞬の光が差した。
「お前さんが死んでしまうことが母親にとっては、一番悲しいことだ。決して無理はするなよ。」
といい、医者は1000里先の名医がいる場所が載った地図を少年に渡した。
「ありがとうございます!絶対に秘伝の薬をもって、帰ってきます!」
少年は荷造りをし、その日の夜に名医の場所を目指した。
「おっかあ。待っててね!絶対に助けるから。」
まず最初に少年を待っていた試練は、崖だ。高くそびえたつ崖を越えなければならなかった。
「こんな高い崖、登れるわけないよ。どうしたらいいんだ。」
少年は絶望し、泣きわめいた。すると、一人のろうばが少年を見つけ声を掛けた。
「おまえさん。どこからきたのじゃ。」
「タスキ村から来ました。母親を助けるために秘伝の薬のありかを目指しているんです。この崖を登れる方法を教えてください。」
ろうばはこくりとうなずき、奇妙な指笛を鳴らし始めた。すると、なんてことだ。大量のサルたちがろうばを囲み始めた。指笛を止め、サルに何かを訴えかける。すると、サルは崖へ登り始め、一匹、二匹、三匹と自らの身体を使いハシゴのようなものを作り始めた。あっという間に崖のてっぺんまでサルハシゴを完成させた。
「サルをつたっててっぺんまで行くのじゃ。決して落ちることはない。」
ろうばは言った。そして少年は崖を超えることができた。
「おばあさん、本当にありがとう!絶対に薬をもらって帰るね!」
少年は嬉しそうな表情を浮かべ、足を進めた。2日ほど、少年は歩き続けた。茨道も山道もいくたの苦境を乗り越え、寝る間も惜しまず薬のありかまで進めるだけ足を進めた。そして、名医の所まであと少しという所まで来た。
「あともう少しだ。待っててね、おっかあ。」
しかし、そう簡単には薬を持つ名医の所までありつけなかった。今まで一番大きな試練だ。茨道を抜けると、目の前には海が広がっている。そして、その広大な海にポツンと小さな島がある。名医がいる場所だ。
「どうしたらいいんだ。」
海を見たことがない、少年は未知の世界に迷い込んだような気持ちになった。
「この海を渡り島にたどり着けば、きっと薬をもらえるはずだ。」
少年は前向きだった。しかし、少年は泳ぐ方法を知らない。少年はひらめいた。
「海に住む魚たちに協力してもらおう!」
少年は海に住む魚たちに自分の思いを伝えようと何度も試みた。
「おっかあを助けたい。おっかあを助けたい。おっかあを助けたい。」
涙を流しながら熱い想いを魚たちに何度も語り掛けた。するとなんとことだ、大量の魚が群れを成し、少年の方へ近寄ってくるではないか。そして、巨大なクジラがしぶきをあげながら、少年の目の前まで接近してきた。少年はクジラに乗った。クジラは島まで少年を運んだ。
そして少年は、薬を持つ名医の所まで足を進めた。少年は無事に秘伝の薬をもらうことが出来た。
少年はくじら、そしてろうばが率いるサルたちに協力してもらい、村へと帰ったのであった。そして、秘伝の薬を母親へ渡し、飲んでもらった。すると、なんということだ。見る見るうちに母親の病状は良くなり、次の日にはすっかり元気なおっかあに戻ってしまった。
なんでこんなにも僕はついていないんだろう。
今日も朝から通学中にからすにフンを落とされたし、フェンスに新しいニットのすそをひっかけてダメにしてしまった。さらには、学校へ着いてトイレの鏡を見てはじめて気づいたけど、寝ぐせで髪の毛がはねていて、とってもぶかっこう。
ただ、誰もぼくのことをそんなに見ていないし、これくらいのこと、気づかれない。
そうか、気にするだけむだかもしれない。
私ってほんとうについてる。
小さいときからみんなから褒められるしうらやましがられる。
今日はこの前ママに買ってもらったワンピースを着てきたから、いつもよりも学校が楽しみだなあ。みんな褒めてくれるかな。
今日は家に帰ったら友達のはなちゃんとはなちゃんのお母さん、私のママと4人でスイーツの食べ放題に行く約束をしている。楽しみすぎる。
いつもと変わらない一日が、今日も始まります。
6年2組の朝は、いつも通りにぎやかです。友達とおしゃべり、忘れ物にきづいてアタフタ、運動場で遊んでいる子も。
もうまもなく、授業が始まります。
先生がやってきた。1時間目から国語か。教科書をみんなの聞いている中で読むのって、なんか苦手。当たりませんように。
なんて思っていたら当たってしまう。やっぱりぼくは僕だ。
教科書を持って立ち上がり、大きく息を吸ったその時、一瞬時が止まったような気がした。ぱっと前を見ると先生が僕の方を見ている。しかし、何かがおかしいことに気づいた。誰かの鼻歌が聞こえる。僕がきんちょうしながら発表しようとしているのに、鼻歌を歌うなんて、ひどい人がいるもんだ。
国語の時間って大好き。物語を読むのはわくわくするし、とくに気持ちを込めて音読したら、先生に褒めてもらえる。この前から勉強している物語は、リズムが心地良いし、ハッピーエンドだからとくにお気に入り。思わず心の中で鼻歌を歌っていると、急に静まりかえって一瞬時が止まったような気がした。
すると、
「僕がきんちょうしながら発表しようとしているのに、鼻歌を歌うなんて、ひどい人がいるもんだ。」
私に言われているのかと周りを見渡すと、寝ぐせのついた鈴木くんが教科書を音読していた。今の何だったんだろう。
だけど、鈴木くん、音読するの意外と上手なんだな。
1時間目がおわってから、鈴木くんの席のところへ行った。
「鈴木くん、さっきの音読すごく上手だったね。」
「えっ。そうかな。」
「うん。私この話すっごく好きなんだけど、鈴木くんもそうなのかなって。」
「そうなんだ。おもしろいよね。」
「だよね!やっぱりそうなんだ。」
三宅さんが僕に向かって、この物語の好きなところを一生懸命、楽しそうに話している。
休み時間、やっと苦手な国語の時間が終わってほっとしていると、急にクラスの人気者に話しかけられた。僕は内心あわてて、今も作り笑顔でうなずくのが精一杯だ。
「あ、もう休み時間終わっちゃう。また話そうね!」
あの出来事があってから、僕は少しだけこの物語と国語の時間が好きになった。前までは、誰もぼくの音読なんて気にしてないしって思っていたけど、今は気持ちを込めて読むのが楽しいって気持ちが分かるようになった気がする。
ついてない僕だけど、どんなことも自分で楽しいって思いこんだら、本当に楽しくなるのかも。
三宅さんと話すのもすごく楽しい。学校へ行くのもちょっと楽しい。
最後に観覧車を見たのはいつだろう。もうずいぶん見ていない。というか避けているのだ。?
彼女は「きれいやね」と言った。僕は「そうだね」と言った。緊張していた。?
今、目の前に僕の貸した上着を羽織った彼女がいる。それだけで僕は心臓がドキドキして、ドキドキしすぎて疲れてしまうほどだった。?
下につくまでの時間が授業で時計の針が進まないのと同じように、それくらい、長かった。?
彼女の顔は一度も見なかった。見れなかった。?
きっと僕は迷子になった子どものような顔をしていた。それでも彼女はにこにこしていた。?
下につくと「高いところ苦手やった?」と聞かれた。その瞬間、僕は泣きそうになった。「そんなことない、楽しかった」と言いたかったが「うん、実は」と思ってもいないことを言った。今思い出しても笑ってしまう。僕はマンションの14階にすんでいるのに。彼女は「もう、先に言ってよね!」とハツラツに言い放った後、何かを取り戻すようにベラベラと話し続けた。彼女が何の話をしていたのか、僕は一つも覚えていない。彼女は僕の上着を着たまんま家に帰った。それだけがなんだか嬉しかった。?
そんな彼女にばったりあったのは4年後の12月だった。?
「○○君?」誰かに声をかけられた。前を見ると彼女がいた、いやこの人はあの彼女なのか??
一瞬、いやしばらくの間困惑した。僕は150円でポテトLサイズが食べられるクーポンを慌てて直し、テリヤキバーガーとウーロン茶を頼んだ。そんな僕の焦りをよそに「食べ終わったら30分だけまってて!あと30分であがりなの!」彼女は言った。「うん」僕は気づいたら返事をしていた。懐かしい、いつもそうだった、彼女はいつもいつも自分のペースに他人を巻き込む。そんな彼女が好きだった。僕は久しぶりにドキドキした。さっきまで空いていたお腹も名前の付けられない感情でいっぱいになってしまった。テリヤキバーガーを食べた。味はしなかった。そらそうだ。だって30分後に彼女が来るのだから。僕は混乱状態の中でグルグル頭を働かせた。何を話そう、何を話そう、何を話そう、それから何を話そう、そればかり考えた。?
「おまたせ」、彼女が来た。「お疲れ様」僕は言った。?
「ここでバイトしてるんだ、君らしいね」?
「そうかな?○○君はなんのバイト?」?
「塾講師」?
「意外!生徒とちゃんと話せるの?」?
「話せるよ」?
「え〜!成長したね」彼女は少し顔を暗くして、どこかをぼーっと見ていた。?
僕は構わず「君は変わらないね」と言った?。
「変わったよ、○○君が分かってないだけ」?
可愛いな、そう思った。彼女は変わっていない、あの頃と同じ、僕が好きだった彼女だ。?
「家まで送るよ」僕は言った。彼女はかなり薄着だったので僕は上着を貸した。?
「ありがとう」彼女は珍しく照れていた。僕は嬉しかった。あの日と比べて成長した自分、今の自分であの日をやり直そうとしていたのかもしれない。沢山話した。今度は彼女ではなく、僕が話した。すぐに彼女の家についてしまった。時間はあっという間だった。「送ってくれてありがとう」と彼女は僕に上着を返した。?
今はもうまともに観覧車がみれるようになった。?
でも彼女にもう会うことはなかった。?
「ねえ、ねえ、梅太郎くん。何読んでるの。」
と海は聞く。
「・・・。」
梅太郎は一向に答えようとはしない。黙って本を読んでいるままである。梅太郎は人と関わるのが苦手で、どんな人に話しかけられても答えることはない。海だけではなく、他のクラスメイトも同じである。一方で海はいつも明るく、クラスの人気者である。そんな梅太郎にいつも海は話しかける。
「ねえ、ねえ、梅太郎くん。今日は学校終わったら何するの。」
「・・・。」
次の日も話しかける。
「ねえ、ねえ、梅太郎くん。今日の給食のカレー美味しかったね。」
「・・・。」
また次の日も話しかける。
「ねえ、ねえ、学校終わったら、一緒に遊ぼうよ。」
「・・・。」
梅太郎に答える気配はない。いつも本と向かい合っている。しかし、そんな梅太郎も家では、
「お母さん、今の給食がカレーでね。すごく美味しかったんだよ。」
「いいわね。お母さんも食べたいわ。」
「それでね、それでね、算数のテスト満点だったんだよ。すごいでしょ。」
と満面の笑みで、お母さんが困るくらいに話している。実は梅太郎は海ともこのように会話したいのである。しかし、恥ずかしくていつも黙っちゃうのである。そんなことを海は知る由もない。
そんなある日、学校の授業で学校の裏山を探検することになった。
「今日は裏山に探検しに行きます。裏山で好きなものを見つけたらスケッチしてきてください。一人で行動すると危険なので、二人一組でペアになって、行動してくださいね。川は危険なので入らないようにね。」
と先生は言った。そこで海は梅太郎に声を掛けた。
「ねえ、ねえ、梅太郎くん、一緒に探検しよう。」
「・・・。」
返事はしなかったが、自分の行く方向に付いてきたのでペアになったみたいだった。海は嬉しかった。ある程度歩いたあと、きれいな花を見つけたので海は梅太郎に言おうと後ろを振り返った。しかし、梅太郎の姿は見当たらなかった。周囲を見渡してみると、川に入ろうとしている梅太郎を見つけた。
「待って、梅太郎くん。先生が川は危ないから入ったらダメだって言ってたよ。」
海は急いで梅太郎の所に向かった。
「梅太郎くん。」
あと少しで梅太郎の所に着くという所で海は石につまずいて転んだ。転んだ海は梅太郎にぶつかり、一緒に川の中に入ってしまった。
「ごぼっ、ごぼっ。」
梅太郎と海の二人はそのまま意識を失った。しばらく経って、二人は目が覚めて、顔を見合わせた。
「ここはどこだろうね。真っ白だね。」
と海が言った。あたり一面真っ白で、そこには梅太郎と海しかいない。
「海くんと一緒だ。良かった。」
と梅太郎が言ったように聞こえた。海は腰が抜けるくらいに驚いた。梅太郎が話したからである。それも自分と一緒なことに喜んでいるのである。こんなにも嬉しいことがあるのかと踊ってしまうほどだった。そこで、
「今、なんて言ったの。」
と海は思わず聞き返した。
「何も言ってないのに、海くんはどうしたんだろう。」
と梅太郎は心の中で思った。
「聞き間違えなのかな。」
と海も心の中で思った。
「えっ、何も言ってないのに。なんで海くん分かるのだろう。もしかして、心の声が漏れてるのかな。」
と梅太郎もまた心の中で思った。
「今も聞こえたよ。僕も漏れていたのかな。心の声が漏れてるのかもね。」
と海は言った。
「そんな・・・。」
と言いながら、梅太郎は顔を赤くした。そして二人は顔を見合わせた。そこで、梅太郎は腹をくくった。
「海くん、実はいつも話しかけてすごい嬉しかったんだ。ただ、恥ずかしくてなんて返せばいいか、わからなくて。」
「そうだったの。僕も梅太郎くんがそう思ってくれててすごい嬉しいよ。これからいっぱい話そうね。」
そして、二人は真っ白な空間で話し続けた。しばらく経ったあと、二人はフッと気を失った。
「梅太郎くん、海くん、二人とも大丈夫、大丈夫。」
目を開けると先生が叫んでいた。どうやら川のそばで寝ていたらしい。二人は何が何だか分からなかったが、顔を見合わせると二人は笑った。
しばらく経ったある日、
「ねえ、ねえ、梅太郎くん、学校終わったし、これから公園に虫取りしに行かない。」
「うん、行きたい。家帰って宿題したら、海くんの家に行くね。」
「わかった。ほんじゃ、待ってるね。」
梅太郎は大急ぎで家に帰ると、すぐに宿題に取り掛かった。
「梅太郎、どうしたの。そんなに急いで。」
「今日、海くんと虫取りに行くんだ。」
「そうなのかい。あまり遅くならないようにね。」
「分かった。」
宿題も終わり、梅太郎が海の家に向かっているとき、梅太郎はすごく幸せな気分だった。今では海くんと話したり、遊んだりできるのだ。他のクラスメイトとも話すようになった。すべてはあのことが起きてからだ。不思議な経験だったな。こんなこと考えていると海の家に着いた。
「海くん、あ〜そぼ〜。」
「おれはいつだって一番でえらいんだ!」
ひいろはいつもそうやってぼくたちにえらそうにして、勝手にクラスの物事を決めてしまう。この前だって、クラスで何のスポーツをするか決めるときに、ひいろがバスケットボールをしたいと言った。それでクラス全員が言うことを聞くことになって、バスケットボールをすることになった。ひいろのことはきらいじゃないけど、苦手だ。全員の意見も聞いてほしいな、、、楽しかったけど。
でも、勝手に物事を決めて、自分が一番えらいと思っているひいろでも、いつもとはちがうすがたを見せるときがある。それは、6年生であるぼくたちよりも年下の子どもたちと接するときだ。いつものような姿とはちがって、まるで兄のようなやさしい顔で、しぐさで年下の子どもたちと接し、遊んでいるのだった。あんないつもはわがままなのに、年下にはやさしくできるんかと、ぼくはとてもとてもふしぎに思っていた。
そんなある日、ぼくは友達と遊び、別れたあと家へ帰っている途中で、ひいろが保育園の前で立っているすがたをぐうぜん見かけた。なんであんなところにと、思っているところで保育士さんに連れられて4さいぐらいの女の子が出てきた。女の子は、ひいろを見つけると元気よく走り出してひいろに近づいていった。ひいろは笑顔で出迎えてやると、女の子もうれしそうだった。保育士さんと少し話をしたあと、ひいろと女の子は一緒に帰っていった。
ひいろが年下の子たちに優しかったのは、妹がおったからなんかと、ぼくは思った。ぼくは、少しひいろのことが気になったので気づかれないようにつけてみることにした。ちょっといったところで、ひいろと彼の妹は同じ保育園の子どもが母親と楽しそうに帰っているすがたを見つめているところだった。
声が聞こえるところまで僕は近づいて、「お母さんと、いっしょにかえりたい」とひいろの妹がさみしそうな顔で言ったのが聞こえた。すると、ひいろが「大丈夫やで!俺がおるからなんもさみしいことなんてない!なんたっておれはえらいんやから!」と元気よく、妹をはげますために言ったのだ。そんなようすを見て、僕は驚きながらその日は帰ることにした。
次の日も、そのまた次の日も僕は悪いと思いながらも気になって同じ時間に保育園に行き、妹と変えるひいろを見続けていた。そんなことをくり返すうちにぼくは、妹に顔を見られていないときに、ひいろも妹と同じさみしそうな顔をすることに気が付いた。ひいろもさみしがってる?
ひいろは相変わらず、クラスではえらそうにしていて、年下の子どもや妹に見せるようなやさしさはみせない。けれど、ぼくはあんなにやさしい顔、そしてさみしい顔をするひいろがただ元気に見せているだけで、本当の気持ちをかくしているだけなんじゃないかと思うようになっていた。ひいろと話をしてみよう。ぼくはそう決心した。
昼休みにぼくはひいろに話しかけた。
「ごめん。ひいろがいつも妹をむかえに行くの知っててだまってた。」
ひいろはおどろいた顔で「ほんまか!?いつからや?」「10日前くらい、、」ぼくは言った。
そして、「年下の子にいつもやさしくするみたいに、ひいろの妹にやさしく笑ってるの見たら、ひいろはえらいな思った!」と正直に思っていたことを伝えた。ひいろははずかしそうにした。ぼくはこんなしぐさをするのかとおどろいた。
「そんなん当たり前やろう、お母さん仕事でいそがしいんやから。」ひいろはいつも通りの様子にもどって言った。「そんなことないで。ぼくはえらいと思う。」それに、「ひいろもお母さんがいないくて、さみしがっているのに妹のために元気にいてやれることはほんまにすごい。」ひいろが本当にこう思っているのかわからないが、はっきりと言った。?ッとした顔をして、ひいろはもっとおどろいた。さらには、少しなみだ目にもなった。
「なんでわかるんや?」ひいろは言った。「だっていつも見てたらわかる。ひいろのこと苦手やと思ってたけど、あの顔みたらほっとかれへん。」だから、「ぼくもいっしょにひいろの妹むかえに行って、遊ぼう!!」ひいろにいやなことを言われるかもしれないけど、ぼくは思い切って言葉を伝えた。
「--------------。しゃーないな。ついてこい!」そうやっていつもと変わらないえらそうな様子で言った。少し笑ってうれしそうにしながら。
小学校3年生のまさきははじめてひとりでお出かけをします。寂しがりやで怖がりなまさきは、これまで一度もひとりでお出かけをしたことがありません。今日は隣街に住むおじいちゃんとおばあちゃんに電車に乗って会いに行くことになりました。おじいちゃんへの誕生日プレゼントを入れたかばんを手に持ち、小さくて丸い真っ赤なポーチを首からさげました。ポーチの中には、電車に乗るためのきっぷと少しのお金、そしてお母さんが作ってくれた特別なお守りが入っていました。お母さんはまさきが一人で出かけることができるのかとても心配しています。「いってきます。」まさきは小さく細い声でお母さんに挨拶をして、家を飛び出しました。まさきの家は長い坂の上に建っています。おじいちゃんとおばあちゃんに会えるワクワクとそれ以上のひとりでお出かけする不安やドキドキでいっぱいのまさきは全力で坂をくだっていきました。駅までの道のりで立ち止まることは一度もありません。まさきはきっぷを改札に通し電車に乗りこみました。おじいちゃんとおばあちゃんが住む隣街までは30分ほどかかります。窓から外の様子をぼーっと眺めていたまさきは、いつのまにか眠ってしまっていました。
目を覚ましたとき、まさきはもう電車から降りていました。しかし、降りた場所はおじいちゃんとおばあちゃんの住む見覚えのある街とは違います。「ここはどこだろう。」知らない街で一人になったまさきはどうしたらいいのかわからなくなってしまいます。少しのあいだじっとしていたまさきは、「歩いたらおじいちゃんとおばあちゃんの住む街につくかもしれない。」そう考えて歩き出しました。街は真っ暗であたりにはお店も病院も人の住む家もありません。ひとりでひたすら歩くまさきは今にも泣き出しそうです。そんなとき、ふとお母さんが作ってくれたお守りのことを思い出し、そのお守りが入った真っ赤なポーチをギュッと握りました。お守りを握りしめたまま、まさきは気づけば海のそばにいました。そこではザァザァと荒れた波の音が響いています。「お父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃん、心配しているかな。今頃なにをしているのだろう。みんなに早く会いたいなぁ。」思いが込み上げこらえることができなくなったまさきは、大きな泣き声を出しながら空を見上げました。そこにはピカピカとかがやく星があたり一面に広がっています。じっと見つめていると、星が話しかけてきました。「あなたのお名前はなあに。」「なにをしているの。」「一人でお出かけしているなんて素敵だね。」星とゆっくりこれまでのお話をしました。星はキラキラ光る体でまさきを励ましてくれます。「だいじょうぶ、自分を信じてごらん。」「あなたは怖がりじゃないよ。」「きっと楽しいことがたくさんあるよ」まさきは、「家を出てからずっとずっと不安だった。一人で居るのが怖かった」。この思いを星にいっぱい伝えたことで心がすっきりしました。「これは僕たちの秘密だよ。」そう星に話しかけられたまさきはふと家族を思い出し、またお守りをギュッと握りました。そしてそのまま眠ってしまいました。
目が覚めると、また電車に乗っていました。もうすぐおじいちゃんとおばあちゃんの住む街の駅に到着するころです。窓の外を眺めると太陽が顔を出し、街が明るく照らされています。まさきはここまでの出来事をくわしくは覚えていません。しかし、星との秘密のお話だけはしっかりと覚えています。駅に到着すると、おじいちゃんとおばあちゃんが笑顔で待っていました。まさきはひとりでお出かけすることが大好きになり、今では休みの日にはたくさんの場所に出かけています。
ある街に、たつやという中学生がいた。たつやは、小さな頃から父親がおらず、母親と二人で暮らしていた。母親は一生懸命に働いたが、それでも貧しかった。小学生のころ、たつやは欲しいゲームがあった。今まではどんなことも我慢してきたたつやだが、どうしてもこのゲームだけは欲しかった。しかし、母親は「ごめんね。お母さん、お金がなくて、買ってあげられないの。」とゲームを買い与えなかった。するとたつやは、「もう我慢ならない。二度と言うことなんか聞くもんか。」といい、それ以来母親の言うことを聞かなくなった。そんなたつやも中学3年になり、進路を考える時期になった。たつやは、大嫌いな母親のもとを一刻も早く離れたいと思い、就職することに決めた。先生には、「就職するなら、しっかりとお母さんにも説明するんだ。」とは言われたが、相談する気にはなれず、勝手に決めてしまった。そして中学卒業と同時に、住み込みで働ける場所を見つけ、何も言わずに出ていった。
7年後、たつやはすでに仕事も板につき、一人で仕事を任されるくらいに成長した。親戚とは縁を切っていたため、母親がどうなっているのか、たつやは知らなかった。ほとんど母親のことを忘れかけていたある日、身に覚えのない電話番号から電話がかかってきた。「もしもし。」たつやが電話に出ると、幼いころ住んでいた場所の近くにある大きな病院からだった。「たつやさんのお電話でしょうか。お母様のことでお話したいことがあるのですが。」そう言われたため、たつやは少しとまどったが、病院に行くことにした。病院に着くと、母親の顔には白い布がかけられていた。たつやは突然のことに頭が真っ白になったが、すぐに理解すると、涙が止まらなくなった。「何で、何で涙なんか出るんだよ。俺に何もしてくれなかった人じゃないか。」たつやはそのまましばらく泣き続け、母親のもとを離れることができなかった。そうして病院の人からお話を伺い、手続きを済ませて、母親の葬儀の準備をした。
葬式の日、たくさんの親戚の人が集まる中でたつやは母親のことを考えた。「俺が出て行ってから、お母さんはどうしていたのだろう。」そう考えていると、遠い親戚のおじさんに呼び止められた。「たつや君。お母さんが亡くなる前に、お母さんからたつや君に渡してほしいと言われたものを渡すよ。」と言われ、一通の手紙を受け取った。そこには、母親のとてもか細い字で書かれた文があった。「たつやへ。最後までお母さんらしいことをしてあげられなくてごめんなさい。たつやが出ていったあの日、お母さんは治らない病気にかかっていることがわかりました。本当はたつやにも伝えたかったけれど、これ以上迷惑をかけたくないから、連絡しませんでした。いつまでも幸せに過ごしてください。最後に一目で良いから会いたかった。 母より」その手紙を読み、たつやは号泣した。たつやの涙には、母親の死の悲しみだけでなく、最後まで母親の愛に気づけなかった自分への怒りも混じっていた。
ある国に、高いところが怖い臆病者のサンタクロースがいました。
クリスマスの時期は子ども達にプレゼントと渡すために煙突に登らなければいけません。しかし、高いとこが苦手なサンタクロースは、クリスマスの夜になってもプレゼントを配りに行ったことがありません。いつもプレゼントを配ることを他のサンタクロースにまかせきりにしていました。先輩サンタクロースからや友達サンタクロースからはいつも、「あなたはとても臆病者だね。」「サンタクロースが高いところを怖いなんて恥ずかしくないの?」と毎日バカにされています。笑われることは辛くて悲しいですが、何も言い返すことはできません。高いところを克服しようして、家の屋根にはしごをかけて練習もしていますが、一向に克服できる兆しは見えません。相棒のトナカイ君も、クリスマスの夜に空を飛ぶことができなくて毎年寂しそうにしています。そうこうしているうちに12月になりました。今年も、クリスマスの夜が近づいてきています。今年もこのサンタクロースは、お家に閉じこもっているのでしょうか。
12月のある日、高いところが怖いサンタクロースは寒い町中をぶらぶら散歩していました。町はたくさんのイルミネーションやクリスマスの飾り付けでとても賑やかです。子ども達が元気に走り回っている様子も見られます。散歩を続けていると、「今年も僕にはサンタさんは来ないんだ。」と座り込んで泣いている男の子を見つけました。高いところが怖いサンタクロースはその男の子に近寄って、「どうして君のところにサンタクロースはこないとわかるんだい。」と声をかけました。座り込んで泣いている男の子は涙をふきながら顔を上げました。そして、「僕の家には煙突がないんだ。だから、サンタさんが煙突をたどってお家に入ることができないんだよ。」と説明してくれました。怖いところが苦手なサンタクロースは、これはチャンスだと思いました。煙突がないお家もあるのだと気づいたからです。きっと、この男の子以外にも煙突がなくてクリスマスを楽しみにできない子どもがいるにちがいありません。煙突をくぐらなくても、プレゼントを渡す方法はあるはずです。
サンタクロースは急いで家に帰ってプレゼントの用意を始めました。毎年届けることはできなくても、プレゼント集めだけは行っていたのでお家にはたくさんプレゼントがあります。今の子ども達は何がほしいのだろうとたくさん考えながら白い袋に詰めていきます。お菓子や本、おもちゃがどんどん詰まっていき、白い袋の中にはプレゼントで溢れかえりました。そして、12月24日の夜になりました。相棒のトナカイ君と一緒にそりで空に飛び立ちました。空は高くて怖いですが、トナカイ君がついているから安心して飛ぶことができました。煙突がないお家を探して、お家の玄関前にプレゼントをおいていきます。何人か配った後、あの男の子のお家の前に来ました。気持ちを込めながらプレゼントを置きました。男の子が朝起きてこれを見たときのことを考えると、とてもワクワクします。とてもすっきりとした気持ちでサンタクロースは家に帰って眠ることができました。次の日、町中を散歩しに行きました。男の子の反応を見たかったからです。すると、「ママ見て!プレゼントが置いてある!サンタさん来てくれたんだ!」と喜ぶ声が聞こえました。男の子は四角包みのプレゼントを空に掲げながらとても喜んでいました。プレゼントを渡すことができて高いところが怖いサンタクロースはとても嬉しい気持ちになりました。それから毎年、サンタクロースはプレゼントを渡すために空を飛びます。先輩サンタクロースや友達サンタクロースから笑われても、もう悲しくありません。子ども達の笑顔がとても嬉しい気持ちにさせてくれるからです。あなたは家に煙突がありますか。もしなかったら、高いところが怖いサンタクロースが届けに来てくれるかもしれませんね。
田んぼや畑に囲まれた山の中にあるおばあちゃんがひとりですんでいます。おばあちゃんにはいっくんというしょうがく2ねんせいのまごがいます。いっくんは元気いっぱいな男の子です。だけど、いっくんは野菜がだいだいだいだいだいだいだいだいきらいです。昨日給食ででた野菜スープも、おとといお母さんが作ってくれたカレーも野菜だけ残しました。誰に何を言われても「絶対に食べへん!」と言って野菜を食べようとしません。おばあちゃんはひとりがさみしかったのでいっくんを自分の家にしょうたいしました。
おばあちゃんはいっくんがおうちにきてくれておおよろこびしました。おばあちゃんはいっくんがやさいがきらいなのを知らなかったのでいっくんのために畑で大切に育てたにんじんがたっぷり入ったシチューを作ってくれましたが、いっくんはにんじんが嫌いなので「絶対に食べへん!」とおばあちゃんに言いました。結局その夜、いっくんはキレイににんじんをお皿の外につまみ出して野菜なしのシチューをおなかいっぱい食べました。
その夜、おばあちゃんはどうしたらいっくんが野菜のおいしさを知ることが出来るかを考えました。すごくすごく、う〜〜〜〜んと悩んでいると、、おばあちゃんの目の前にてのひらぐらいのおおきさのにんじんの形をしたこびとが現れました。おばあちゃんは、わ!と腰を抜かしておどろきましたが、にんじんのこびとが泣いていることに気が付きました。「どうしてないているんだい?」とおばあちゃんはこびとにたずねました。するとにんじんのこびとは「いっくんがボクを食べてくれなかったから泣いているんだ!ボクのこときらいっていうんだ!」と泣きながら言いました。このにんじんは今晩いっくんが皿からつまみ出したにんじんのこびとだったのです。そのことに気付いたおばあちゃんは、にんじんのこびとといっしょにいっくんがどうやったら野菜を食べてくれるか考えることにしました。にんじんのこびとは「ボクたちやさいはすっごく栄養たっぷりなんだよ。どんな食べ方をしてもいっくんを元気にできるんだ!どんなカタチでも、どんなおおきさでも!細かくみじん切りしたって変わらないんだ………」「「あ!!!!」」おばあちゃんとにんじんのこびとは同時に同じことを思いつきました。
次の日、おばあちゃんは畑からいちばん大きくてずっしりと重いにんじんを1本ぬいてきて、きのう思いついた作戦をもとに、にんじんのこびとと一緒におひるごはんをつくります。にんじんのこびとはおばあちゃんがとってきたにんじんを小さく小さくちぎりました。おばあちゃんは小さくなったにんじんをお肉と一緒に丸めて特製のハンバーグを作りました。おいしい匂いに誘われていっくんがテーブルにそそくさと座っています。。
今日のお昼ごはんはおばあちゃん特製大きなまんまるハンバーグです。いっくんはハンバーグをパクパク食べました。にんじんが入っていることに気付いていません。いっくんはたべながら「おばあちゃん!ハンバーグすっごくおいしいで!なんかのオレンジ色のところがあまくておいしい!」と言いました。おばあちゃんとにんじんのこびとはうれしくてハイタッチをしました。おばあちゃん以外にはにんじんのこびとはみえないので、いっくんはおばあちゃんの1人でハイタッチしている様子を不思議に思いながらも「このオレンジ色のところはなんていうたべものなん?」とおばあちゃんにたずねました。「それはね、きのういっくんが食べられなかったにんじんなんだよ。いっくんは食べずに残していたけれど、それだと残された野菜もかなしいでしょう?おやさいはおいしいものだと少しずつ知っていけばいいからつぎからもたべてみようね、」いっくんはいつもより元気よく「うん!」と返事をしました。
いっくんがお家に帰り、おばあちゃんはまたひとりですごします。そしてそのとき以来おばあちゃんはにんじんのこびとをみていません。けれどもおばあちゃんはすごくしあわせです。いっくんがおいしく野菜を食べているしょうこなのだとおもえたからです。
「ストライク!バッターアウト!」 やってしまった、見逃し三振だ。
ここ最近ずっとこれだ。全くバットが振れない。自分がヒットを打っている想像ができない。彼は極度のスランプに陥っていました。
「おい、中津、何してんねん!やる気ないんやったら帰れ!」監督に叱られた。僕だってしたくて三振してる訳じゃない。でも、どうしても打てる気がしない。最近はずっとこうだ。野球では全く上手くいく想像ができない。それだけじゃなく、友達とも上手くいってない気がする。何がいけないのだろう。
彼は、悩みの種がどこにあるのかすらわからなくなっていました。
「最近、あいつ元気ないよな。なんか遊んでてもすぐに拗ねるし、全然楽しくないよな」「わかる、なんか変わったよな」朝倉と那須川の会話が聞こえてきた。「おれ、どうしたらいいんだろう」自分で自分が分からなくなってくる。
今までこのようなことで悩んだことがなかったため、彼はどうしていいかわからなくなっていました。野球では四番としてチームの中心的存在となっていて、小学校でもクラスの中心として常に友達に囲まれていたような生活だったので、初めての挫折と言ってもいいでしょう。
ある日、中津のお父さんが野球の練習試合を見に来ました。中津の父は物静かで、あまり彼にはものを言わないようなタイプです。初めて父が試合を見に来たことに彼は驚きを隠せませんでした。
普段何も言ってこうへんのになんでこんな日に来るねん、俺のことなんかなんも考えたことないくせに。
心の中で少しいらだちすらも覚えていました。その日もやはり彼は不振で、まったく成果を出せず、いらだちと自分への嫌気が募り、どうしようもない状態でした。家に帰ると、父が一人で何かを見ています。
何をやっているんだろう。彼はばれないようにそっと覗き込みました。すると今までの父からは想像できないような光景が見られました。彼の打席の映像を見て、事細かに研究していたのです。そして父の隣には大量のメモがありました。父がいなくなった隙に彼はメモを覗き込みました。そこには、父が監督や友達の保護者さんから、最近の彼についてたくさんの聞き取りを行っていた跡がありました。
「どうして、、」今まで、自分のことなんかまったく考えてくれていないと思っていた父のこのような姿に彼は驚くとともに、涙を流しました。
自分のことを考えてくれている人がいる。自分のためを思って、たくさんの人を訪ね、原因を考えてくれている。こんなにも心配してくれる人がいるんだ。
彼は気づいたのです。
?その日の夜、父はいつものように静かにご飯を食べ、自分の部屋に入っていきました。結局本人とは一切試合の話はしませんでした。しかし、本人には確かに伝わっていました。今までの自分がいかに未熟であったか、他人のことを考えられない自分のことばかり優先してしまう人間であったか。なんて未熟なんだ。
彼は自分を恥じました。そして今まで悩んでいたものが吹っ切れた気がしました。それから野球の試合では、明らかに動きが変わりました。今までの調子を取り戻しただけではなく、打てないときもチームのために声を出して鼓舞するようになりました。監督からも確かな成長をほめられ、友達ともまた楽しく遊ぶようになりました。その後も彼は父とはあまり話すことはありません。それでも、今までとは明らかに父への見方は違いました。
自分を思う人がいる、自分も他人を思った行動をする、僕は生まれ変わったんだ。
他者への思いやりという気持ちが彼の心に芽生えるようになりました。
ぼくは毎週金曜日学校が終わると、学校の近くにあるおばあちゃんの家に遊びに行く。
ぼくはおばあちゃんがとても大好きだ。
夏の暑い日にはキンキンに冷えた麦茶と僕の大好きなアイスを用意してくれる。寒い冬の日にはほくほくの焼き芋が用意されたりしている。家に帰ったらいいにおいがするんだ。優しくて大好きだ。
ぼくはおばあちゃんがだいきらいだ。ランドセルや靴下をそのままにしていると「ゆうちゃんお片付けしなさい」と怒られる。めんどうくさいな。そのままでもいいじゃないか。
ぼくはおばあちゃんが大好きだ。雨が土砂降りの時、ぼくは自分の傘を持っているのに決まって傘を二本もって学校まで迎えに来てくれる。わざわざ迎えに来てくれなくてもいいのに。優しくて大好きだ。
ぼくはおばあちゃんがだいきらいだ。友達と学校で遊んでいると決まって「ゆうちゃん、遅いよ」と迎えに来るんだ。もうちょっと遊びたいのに。
ぼくは中学生になっておばあちゃんの家に行かなくなった。おばあちゃんの家が学校から遠くなったことと、部活や塾に通うようになり忙しくなったからだ。
たまにおばあちゃんから電話がくる。「また学校帰りおいでなあ。ゆうちゃんの好きなアイス買ってるから。」と。いつもそんな感じだ。ちょっとめんどうくさかった。こっちは忙しいんだ。
夏の暑い日、おばあちゃんが死んだ。
学校で授業を受けていると、いつもと違う様子の先生から呼び出されて「おばあちゃんが危ない状況だから早退して病院に行ってきなさい」と言われた。そんなわけがない。
おばあちゃんが病気なことなどなにも知らなかったし、急に言われても信じられなかった。
先生は強制的にぼくを早退させて病院に行くように言った。でも病院には行かなかった。
人が死ぬことがわからなかった。ましてやおばあちゃんが死んでしまうことなんか、まったく想像がつかなかった。
家の近くをふらふらしていると、病院に来ない僕を探していた母親につかまり、そのまま病院に連れて行かれた。
病室には親戚がたくさん集まっていた。空気が重かった。すでに医者はいなかった。
ぼくは気づいた、おばあちゃんはもう死んでしまっていることに。
お通夜があってお葬式があって、おばあちゃんはいなくなった。
たまに来ていた電話は来なくなった。
何が何だかよくわからないまま、なんとなくおばあちゃんの家に行った。
久しぶりに行ったおばあちゃんの家は何も変わっていないように見えた。
ぼくは靴をそろえて家に入っていった。
なんとなく昔のようにカバンを乱雑において、靴下をポイポイと投げ出して、冷蔵庫を漁った。冷えた麦茶と僕の好きなアイスが変わらずそこにあった。
アイスの箱は空いていなかった。それを勝手に開けて寝転んで食べた。
何も変わっていなかった。
おばあちゃんがいないことがいまだによくわからない。
かばんや靴下をそのままにしているのに何も言われない。「ゆうちゃん」と叱る声は聞こえないのだ。
それが何だか変な感じがして、きちんとカバンを置きなおして靴下をはいた。
ふと昔のことを思い出した。
やさしかったなあ。大好きだったなあ。
おばあちゃんが僕のために買ってくれたアイスはまだまだ残っている。また食べにこよう。
おばあちゃんの家はとても大好きだ。
小学6年生であるぼくには、人生の一大イベントが待っていた。そう、受験だ。しかし、そんなことよりもぼくにはもっと大きな問題があった。口うるさい親だ。6年生になるまでは、なにもうるさく言われることはなかったのに、
「遊んでいないで、勉強しなさい!」
「この学校とかいいんじゃないか?」
「お隣の…くん…なん…だって」
「こ…間の試験の結果はどう…んだ?」
「この…までは、志…校にはとどか…い…」
「言い…こと…ったら…な…い」
うるさい。
ぼくだって頑張っているし、言われなくても自分のことは自分が一番よくわかっている。そして実際はかなり勉強ができていなくて、内心焦っていた。
勉強をしなくちゃいけない、でもなぜか体が動かない。頑張らなくちゃいけないのに…、なぜ勉強していい学校に行かないとだめなのか?
こんなことが一日中頭をぐるぐるしていて、勉強どころではない。それなのに、ぼくが何もしていないことを見てただ注意するだけの大人、結果だけを見てどうこういう大人、うんざりだ。もう受験なんてやめてやろうか、そう思い、いっそのこと言いたいことをすべて言ってから勉強をやめてやろう、と意を決して、強く、しかし弱い足取りで父と母のいるリビングへと向かった。
そしてぼくは、今まで思っていたこと、ぼくが感じていた疑問、正直うざかったこと、すべてを吐き捨てるように話した。そして言いたいことを言った後、なにか怖くなって、あわてて塾へ行くという体で家を出た。お金も何も持ち合わせていなかったので、ただぶらぶらしたり、公園でぼーっとしていた。いつのまにか夕日はいなくなり、月が頭上に浮かんでいた。季節も秋が終わり、もうじき冬かという時期だったので少し肌寒く感じ、正直お腹も減っていたのでしぶしぶ家に帰ることにした。この時は自分が昼間起こした騒動のことなどすっかり忘れていた。
そしてそっとドアを開け、玄関に差し掛かったところで母の姿が見えた。目を合わせず、耳だけ意識していると、
「お話があるからこっちへ来なさい」
と、かなり冷静に言われた。塾に行く前に話したことを思い出して、またうるさいことをいわれるなと思い、うつむいたままリビングへ向かった。
机を挟んで、父と母と対峙した。そして父が一言
「す…な…」
といった。
いつもといわれている内容が違う気がしたので、そっと耳を澄ませてみると、
「すまない」
確かにそう聞こえた。
あの時、いろいろとぼくが言ったことに、両親も思うところがあったらしい。
それからぼくと両親は日をまたぐまで、長い間話し合った。なかなか勉強に手を出していないぼくのことを見て、悪い未来が浮かんでしまい、口うるさく言うようになってしまったこと、ぼくもぼくなりに頑張っているんだということ、本当にたくさんのことを話し合った。
誰かに自分の考えを伝えるようなことはしたことがなかった。だから、すごく言葉が詰まった。自分の考えを包み隠さず伝えるということは難しいということを知った。そんなぼくの姿を見ても、あきらめずに一生懸命ぼくの話を聞こうとしてくれた。そしてお互いに、お互いが考えていることを理解することができた。
最後に父が
「言いたいことがあったら、いつでもいいなさい」
と言った。はっきりと聞こえた。不思議とうるさいとは感じなかった。そしてぼくは
「お互いにね」
そう言ってリビングを後にした。
むかしむかし、ひとざとはなれたやまのおくにおじいさんとおばあさんがすんでいました。おじいさんとおばあさんはわかいころにけっこんしていて、子だからにもめぐまれ、三人のこどもがいました。一人目にうまれたこどもは「一郎」と名づけ、体が大きく力づよいこどもで、大人になった今は人の住む村で消防をたんとうするしごとについています。二人目に生まれたこどもは「二郎」と名づけ、こちらも体がおおきく、明るいこどもで、大人になった今は人の住む村でしょくりょうをうるしごとをしています。三人目のこどもは「三郎」と名づけました。三郎は、前のふたりとちがい体も小さく、おとなしい性格でいつも泣いてばかりいました。
おじいさんとおばあさんは三郎の子そだてにいつもなやまされていました。一郎と二郎は、村のがっこうでもにんきもので、たいいくの時間はクラスの中心となり、まとめる役をまかされたりしていました。しかし、三郎はべんきょうこそできましたが、クラスではいつもどくしょをしていたり、ひとりでいることがおおく、たまに、クラスの数人にいじめられてしまい、なきわめく日々を送っていました。そんなときはいつもお兄ちゃんの一郎、二郎に助けてもらっていました。しかし、その後、一郎、二郎に言われるセリフは
「三郎が弱いから、こうしていじめられてしまうだよ。」と強い口調で怒られるのでした。三郎は、怒られた後、またわめき泣いておじいさんとおばあさんにすがるのでした。おじいさんとおばあさんは毎日毎日、三郎がまたなかされないか、心配で心配でしかたありませんでした。三郎自身も、そんな日々や自分の弱さを自覚していて、じぶんをかえたいと思っているのでした。おじいさんとおばあさんはそんな生活をおくっている三郎をせめずにいつも味方になって、話をきいたり、なぐさめたりしていました。三郎はゆういつおじいさんとおばあさんに心を開き、言葉では表さないのですがかんしゃしているのでした。
ある日、一郎と二郎が村に出かけていて、家にはおじいさんとおばあさんと三郎だけになる日ありました。お昼ご飯をたべるころ三郎がおじいさんとおばあさんの部屋をのぞくと、いえが煙臭いことに気が付きました。火事です。火はだんだんつよくなってきて家をぜんぶつつみこむぐらいに大きくなっていました。家には一郎も二郎もいません。おじいさんとおばあさんを助けるのは三郎しかいません、三郎は必死に考えました。見ると出口が火でふさがれています。三郎はひらめきました。落ちていた木でよこのかべをこわして外に出ました。三郎のかしこさのおかげでおじいさんとおばあさんを助けることができました。おじいさんとおばあさんは三郎に、
「ありがとう。三郎のおかげで助かったよ。三郎に大きい体も力づよさもいらないよ。それをひつようとしないかしこさがあるじゃないか。」
このことばに三郎はとてもすくわれました。
おとなになった三郎は、村でいえやたてものをつくるときの設計士のしごとにつきました。三郎は力をひつようとするしごとではなく、頭を使ってひとびとを助けるしごとで周りには仲間ができ、村中でかんしゃされる人になりました。三郎は大人になった今も、おじいさんとおばあさんの言葉をむねに生きているのでした。
おさむは三年生。お父さんとお母さんといもうとと4人でなかよくとうきょうでくらしていました。おさむは学校には友達も多く、クラスの中心にいるリーダー的なそんざいでした。そしてご近所さんたちからも好かれる人気ものでした。学校でとくになかがよかったようじろうとは、ようちえんからのおさななじみで、ほんとうにまい日のようにあそんでいました。好きなゲームも、おやつにどらやきを食べるのもにていて、時には好きな子が同じになってけんかしてしまうこともあるほどでした。そんなにたものどうしの二人は、ある日をさかいにはなればなれになってしまうことになりました。?
三年生の10月のはじめ、ようじろうがおさむをよび出して、?
「ちょっとはなしたいことがあるんだ,,,。」?
と少しくらいかおで言いました。おさむは、?
「そんなくらいかおしてどうしたの?もしかしてさくらちゃんにふられたのか?」?
とじょうだん交じりに言いました。ようじろうは?
「今回はそんなことじゃなくてしんけんな話だよ。」?
とへんじをしたので、おさむはすごくいやなよかんがして、せすじがスーッとなりました。ようじろうはつづけて、?
「お父さんが11月から大さかではたらくことになったから、二しゅうかんごにひっこすことになったんだ。だからおさむとあそんだりできるのもあとちょっとだなと思うとさみしくてさっ。」?
おさむはそれを聞いてむねがあつくなってなみだが目にうかびました。それでもおさむは?
「そっか、じゃああとの二しゅうかんいーっぱいあそぼうぜ。」?
と明るくふるまいました。ようじろうも目になみだをうかべながら?
「うん。よろしくな。」?
といいました。ふたりは今までいじょうにたくさんのじかんをすごしました。そんな二しゅうかんはあっという間で、ついにようじろうがてんこうする日をむかえ、ふたりははなればなれになってしまいました。?
それからというもの、今までクラスのみんなとなかがよく人気もので明るいせいかくだったおさむは、ようじろうとのおわかれのショックからだれともはなさないで、休みじかんもずっと自分のせきでねていました。これにはクラスのみんなも先生もおどろいて、こえをかけましたが、なかなかおさむは元のようすにもどりませんでした。?
ようじろうがてんこうしてから2しゅうかんがたっても、おさむはまだ元気がなく、しゅんとして一人ですごしていました。そんなある日、おさむが家にかえって手をあらっておやつにどらやきを食べてゆっくりしていました。すると、きゅうにしかいが暗くなって目の前にようじろうがあらわれました。?
「ようじろう!なんで!会いたかった!」?
といったおさむに、ようじろうは?
「なにしてるんだ。おさむのいいところはみんなとなかよくできるところだろ!ぼくがいなくなったからって、くらいかおしてたらだめだよ!みんなもこまってるよ。みんなとなかよく楽しくすごしているおさむがすきだよ。さみしくても大丈夫。ずっとそばにいるよ。」?
とおさむに思いをつたえました。おさむの目からひとつぶのなみだがこぼれて、目が覚めると同時に夢だったことに気づきました。?
つぎの日、学校でおさむはいつものように自分のせきでねようとしていました。でもようじろうのことばをおもいだし、クラスのみんなとひさしぶりに話しに行きました。クラスのみんなは、?
「おさむ!やっともどってきたか!」「しんぱいだったんだぞ!」?
とあたたかくむかえてくれました。?
その日からおさむは人気もののおさむにもどって、今までいじょうにクラスのみんなとなかよく楽しくすごすようになりました。おさむは、ようじろうに手がみをおくることにしました。その手紙には、?
「ようじろうのことばのおかげでぼくはまた大きくなったよ。さみしくても大丈夫。」?
と短い文でかんしゃの気持ちを伝えました。おさむはへんじをまだかまだかとまっていましたが、ようじろうから手紙が来ることはありませんでした。?
壮ちゃんは中学生の時、いわゆる不良であり、先生たちの話も全く聞かず、だれも手の付けられない子どもでした。そんな壮ちゃんのことを先生たちも諦めたように見るようになり、入学当初は注意を良くされていましたが、今では放任されるようになりました。そのような先生たちの態度に壮ちゃんは納得いかず、さらに反発をするようになりました。そんなせいもあって、入学当時は素行には問題はあったものの成績も良好であったのですが、勉強を全くしなくなり成績はほとんど最下位の成績になってしまったのです。そして、2年生の後半に差し掛かったころには公立の高校に行くことが出来ないと言われていました。そのころの壮ちゃんは、もうほとんど授業をまともに受ける事がなく、授業中に教室にいないことがおかしいことではないようにまでなっていました。そんな壮ちゃんも決して人当たりが悪いわけではなく、同級生の子どもたちにはとても人気があり、仲間内にはとても人当たりの良い子供だったのです。
そんな状態で壮ちゃんが三年生になった時に、ある一人の先生が転任してきたのです。そして、壮ちゃんのクラスの担任をすることになったのです。ある日、壮ちゃんがいつもと変わらず、好き勝手しているとその先生が叱ってきました。しかし、壮ちゃんは全く聞く耳を持たず、無視をしていました。壮ちゃんにとってそれはいつものことであり、少しすれば先生は諦めて注意しなくなってくるだろうと考えていました。しかし、壮ちゃんの考えとは裏腹に、先生は壮ちゃんが悪さをすると何度も何度も必ず叱ってくるのです。先生の眼が諦める事はありませんでした。この出来事は壮ちゃんにとっては全く持って予想外でした。いつもであればすぐに諦めてしまう先生しかいないのにその先生は諦めるどころか日に日に壮ちゃんに話してくるようになるのです。その先生と壮ちゃんの攻防が1か月に差し掛かった時、壮ちゃんが無視をすることをやめました。壮ちゃんと先生の攻防は先生の勝ちとなりました。
その日から、壮ちゃんは先生のことを認めるようになり段々先生に心を開くようになりました。そして、授業にも出席するようになりました。先生も相変わらず壮ちゃんが悪さをすると注意をするので、言い争いをすることも少なくありませんでした。しかし、壮ちゃんは反抗するだけではなく、先生の言うことに納得して理解を示すようになってきました。そんなころから壮ちゃんは勉強にも一生懸命に取り組むようになり、成績も上がってくるようになりました。そんな壮ちゃんを先生は一生懸命にサポートして、さらに壮ちゃんの成績は良くなっていきました。これまできちんとしてこなかった分壮ちゃんの努力は大変なものでしたが、壮ちゃんは苦痛のようではありませんでした。それは、壮ちゃんには密かに先生のような大人になりたいという考えが芽生えていたからです。その後壮ちゃんは晴れて地元の公立高校に入学することが出来、壮ちゃんと先生の交流は今でも続いています。
土曜日の朝、ひろしはいつものように午前6時に起きて、準備をはじめる。野球の練習に行くためだ。だけどひろしは野球が好きではない。それは、身体も小さいし、野球もうまくないからだ。ボールを遠くに投げることも、バットを振るのも苦手だ。試合に出たこともほとんどない。
ひろしのチームは人数は少ないがとても強い。ひろし以外はみんなうまいのだ。なかでも4番でピッチャーのなおきは特別うまい。投げてはプロ野球オリックスバァファローズの山本由伸みたいな速い球を、打っては吉田正尚みたいな鋭い打球をその大きい身体から放つのであった。ひろしはなおきがうらやましかった。
「ぼくもあんなに身体が大きくて、野球がうまかったらなぁ」
最近のひろしの口癖だ。ひろしはもう野球をやめようかと考え始めていた。
ある日の土曜日、ひろしはいつものように早起きして野球をしににいった。その日は公式戦だった。すると、1人の選手が風邪をひいて来られないと、監督やコーチがそわそわしていた。なぜならひろしのチームは全員で10人しかいないので、ひとり休んでしまうとひろしが試合に出るしかないからだ。県大会につながる大会の1回戦。絶対に負けられない試合だ。そんな試合にスタメンで出ることになったひろしは、心臓がとびでるくらい驚いた。心臓の音がはっきりと聞こえた。そうこうしているうちに試合は始まった。ひろしは9番ライトで出場した。ひろしは守備についているあいだ、ずっとドキドキしていた。
「とんでくるな、とんでくるな」
ひろしはずっと心のなかで唱え続けた。ひろしの願いが叶ったのか、奇跡的に打球が飛んでくることはなかった。ただ、打つ方はさっぱりだった。6回が終わり同点のままむかえた最終回、なおきがあいての4番にソロホームランを打たれて1点を先制されてしまった。1点差のビハインドで、ひろしのチームは7回裏の攻撃にはいった。
最終回の攻撃は4番のなおきから。しかしなおきは三振に倒れた。5番のなおとはショートゴロで、あっという間にツーアウト。もう負けてしまう、とだれもが思った。しかしそこからまさかの3連続ヒットでツーアウト満塁のチャンスでひろしにまわってきた。ひろしはここまで3三振。だれもがもうだめだと思った。そんななか、ひろしは無我夢中でバットを振った。すると打球はピッチャーの頭を超え、センター前ヒットになり、チームはサヨナラ勝ちした。試合の後、ひろしは生まれてはじめて野球のことでみんなからほめられた。
「ナイスバッティング!」
「すごいなひろし!」
そしてなおきには、
「ひろしほんまにありがとう、おまえがおらへんかったら試合負けてたわ。」
この試合があってから、ひろしは野球のことを好きになった。
むかしあるところにとても貧しい少年が住んでいた。その少年は親と一緒に住んでおらず、小さな馬と一緒に生活していた。とても貧しかったので、山に行って動物を狩ったり海に行って魚を捕ったりしていた。
そして、自分で捕まえた獲物を持って街に売りに行くという毎日を過ごしていた。街に出て売ってできたお金は、少年が一人で動物や魚を捕まえた分だけであったので、とても少なかった。その日のうちに食べる自分の食べ物と馬のエサを買うだけのお金しか手に入れることはできなかった。
動物や魚を捕まえることができなかった日もあったので、そんな日は友達に「今日は捕まえられなかったから、僕と馬の分の食べ物を分けてほしい。」と頼んで、食べ物を分けてもらった。その日を生きることで必死だったので、学校に行くことはできなかった。そんな貧しい生活をする少年でしたが、数年後には少年は大きく成長し、小さかった馬はとても立派な馬へと育った。
ある日、獲物が取れなかったので友達の家に食べ物を分けてもらいに行きました。そのとき、友達からこんなことを言われた。
「隣町で祭りがあるらしいよ。一緒に行かない?」
「いいよ。行こう。」と少年は言った。
それは、馬のレースでした。優勝するとたくさんのお金がもらえるので、少年は自分の馬を参加させてみることにした。
「おまえなら勝てるよ。」と自分の馬に言い聞かせた。
レースが始まると少年は「がんばれー!がんばれー!」と一生けんめい応援した。
すると少年の馬はどんどんスピードを上げて、他の馬を抜かしていきました。そして、少年の馬は優勝した。
「よくやったぞ、おめでとう」と少年は馬のことを褒めた。
友達がやってきて、「お前の馬、優勝したのか?」と言った。
「うん、僕と一緒に育った立派な馬だからね。」と少年は言った。
「まさか優勝するとは思わなかったよ」と友達が言った。
「僕が応援したからかな」と少年は言った。
そんな風に話しているうちに表彰式が行われて、少年はたくさんのお金を手に入れることができた。
たくさんのお金を手に入れた少年は、今までのような貧しい生活をしなくてもよくなった。大きな家を買い、馬にも立派な馬小屋を買ってあげることができた。山や海に行って獲物を捕ってきて、街でそれを売ることもしなくてよくなった。友達の食べ物をもらいに行くこともなくなった。小さいころにはいくことができなかった学校にも行くことができるようになった。
友達は「優勝して生活が変わったな。」と言った。
「毎日苦労して食べ物を手に入れなくてもよくなって、うれしいよ。」と少年は言いった。
「おれに食べ物を分けてもらいに来ていたのに」と友達は笑った。
「これだけ生活が変わると、前の貧しい生活がなつかしいよ。生活が変わっても一日一日を必死で生きていくことには変わりはないよ。」と少年は言った。
少年は、前の貧しい生活とは正反対の裕福な生活を送った。その後も、馬と一緒に生活し、少年は立派な大人へと成長した。
8月31日、今日は中学3年の夏休み最後の日。去年までは部活三昧でろくに遊びにも行けなかったし今年こそはと意気込んではいたものの、そう思っていたのは僕だけ。遊びに誘ってもみんなは高校受験の勉強と言って全く聞く耳をもってくれなかった。
今日も退屈だと思いながらする勉強に僕は身も入らず、まるでサウナにでも入ったかのような息苦しい蒸し暑さと、やたら耳につく蝉の大合唱を聞きながら今日も朝から外に出る。
「今年はたくさん遊びたかったな。」
とボソボソ小さい虫のような声で呟きながら街を歩いていると、昔よく仲の良かった友達と集まっていた河川敷の高架下までたどり着いた。薄暗くて段ボールが散乱しているなんにも変わっていない高架下。僕は懐かしくなって気がついたら高架下に潜り込んでいた。
昔は何も言わなくてもここに集まって来れたあの3人はもう変わってしまった。昔はあいつらと毎日がお祭りのようにどんちゃん騒ぎしていたこの場所も、いまは夏祭りが終わったあとの神社のようなどこか寂しい空気が流れている。昔は、昔は、、、
段ボールに腰を下ろしながらそんなことを考えていると、僕は涙が止まらなくなっていた。最初は夏の暑さで顔を滴る汗かと思ったが、目頭の熱さでそれが涙だと分かった。滅多に泣かないこの僕でも、近所の溜池のように深いこのギャップには心が溺れて息ができなくなってしまったのだろうか。それとも毎日同じことをロボットのように繰り返す受験勉強のストレスで心が壊れかけていたのだろうか。答えはわからなかったが、涙は止まらなかった。
時間が経ち、太陽が一番高いところから偉そうに僕らを見下ろしてくるようになった頃、突然僕の目に見覚えのある3つの人影が映った。涙でかすんだ視界とゆらゆら揺れる陽炎で、僕の目にはぼやけて映っていたが僕には確信があった。“あいつら”だ。
「おーい!久しぶりだな!」
僕は蝉の大合唱にも負けない大きな声で叫んだ。しかし返事はない。
「おーい!どうしたんだよ。おーい」
何度呼びかけても返事はない。それにこっちに来る気配すらなかった。
僕は何か妙な違和感を感じたため、涙で溢れた目を擦り、そして目を凝らしながら近づいた。するとあいつらの姿は無かった。僕は一瞬理解できなかったがすぐにあいつらの正体がわかった。
「これが蜃気楼か。」
そう、蜃気楼だ。この前塾で習った。空気中の温度差が広がりやすい夏の昼間などに、光の屈折の関係で本来見えないはずの虚像というものが見えるという。本当に起こるんだなと思いながら僕は馬鹿らしくなって笑ってしまった。だけどすぐに、もう一度蜃気楼が作り出すあいつらの虚像を見たくなった。
僕は水を飲むのも忘れて何回も何回も虚像を見た。あいつら以外の虚像もたくさん見た。同じクラスの面白いあの人、僕のお気に入りの後輩、そして僕の大好きなあの子。会ったことのない虚像くんとも友達になれた。そのたくさんの友達と僕は目一杯遊んだ。まるで夏休みをもう一周するかのように。
ふと気がつくと顔を赤くした太陽と目が合う時間になっていた。息苦しい蒸し暑さも少し息を潜め、蝉の合唱団たちもそろそろと解散し始めていた。いつもなら心地よいこの時間も今日だけは嫌だった。もう、あのたくさんの友達と会えなくなるから。
「家に帰ろうかな。今日はいっぱい思い出ができて楽しかった。」
そう言って腰を下ろしていた段ボールから立ち上がると、突然目眩がして僕は倒れてしまった。
「…丈夫ですか?大丈夫ですか!?」
目を覚ますと病院のベッドの上で看護師さんが心配そうに僕に声をかけていた。
「あなたひどい脱水症状だったんですよ。あんな蒸し暑い日に水も飲まずに何をしていたんですか?」
看護師さんにそう聞かれたが、僕は何も答えられなかった。いや、答えなかった。あの、僕にしか見えない友達との思い出を心の引き出しに鍵をかけて大事にしまっておきたかったから。
中学3年の夏休み最後の日、終わりは少し慌ただしかったけどいい思い出ができた。明日の学校は休まないといけないかな。そんなことを思いながら、弱った僕は病院のベッドからすっかり暗くなった窓の外を眺めると、さっき出会ったあのたくさんの友達がこちらに手を振っていた。
「あ、みんなきてくれたんだ。また会いに行くよ。」
女の子は人気者だった。モデルにテレビに引っ張りだこ。クラスでも中心的存在。「京子!遊びに行こーよ!」放課後は毎日遊びに誘われる。京子はそんな毎日にとても満足していたが、心の中はすこし曇っていた。
そんなとき、両親の仕事の関係で東京から離れることが決まった。それを聞かされたとき京子はとても反対した。東京で自分が作り上げたものを捨てるのが嫌だったのだ。人間関係、仕事、それらを全てゼロから作っていくのは京子にとってはむりだった。「私、一人で東京に残る。」と京子が言うと、「なにをゆってるの、高校生のあんたが一人で生活できるわけないでしょ。」と母は聞く耳をもたない。「わたし仕事もしてるからお金稼げるもん!田舎になんか行きたくない!」それだけ言い残して京子は家を飛び出した。外に出て少し歩くと、きらびやかで華やかな街並みが京子の目に飛び込んでくる。しかし、しばらくその景色を眺めていると華やかな街のなかに少し寂しさが感じられた。まるで京子の心そのもののように思えた。
結局京子は東京を離れることに決めた。自分でもなぜかはまだわからないが、東京から離れた方が良い気がしたのだ。引っ越し先は東京の華やかな街とはかけ離れた離島。島へ行く車のなか景色をみていると京子は後悔した。「こんなに田舎なん、、、、」引っ越し先に着くと島のみんなが親睦会を開いてくれた。しかし当然その雰囲気に馴染めるわけもなく、京子は一人で外を歩いた。海沿いを一人歩いていると、海の中に人影を見つけた。近寄ってよく見てみると、男の子が一人泳いでいた。髪は金色、身体はすらっと長いモデル体型。京子はその子から目が離せなかった。その子と目が合った。近づいてくる。京子の心臓は自分でも聞こえるくらい音をたて、まるで波のように高鳴っていた。その子は目の前に立って京子の口に人差し指を当て、「ここで見たこと誰にもゆーなよ。」それだけ言って走り去っていった。次の日、学校に行くとその子は窓際の1番角に座っていた。その子は島のみんなと比べると明らかに異質だった。そんな姿に京子はどんどん惹かれていった。
それから京子はその子に猛アタックした。「わたし京子!あなたは?」「マサキ。」「昨日なんであそこにいたの?」「言うなゆーたやろ。」「気になるよ。」「この島におるのは息苦しいんじゃ、やからよー海に入って忘れるんや。」それを聞いたとき、京子の心は踊った。それからは毎日マサキと過ごすようになった。2人でいろんな話をした。東京で自分がモデルをしていた話、島を忘れるためにマサキがどんな場所に行くのか。そんな話をしてるうちにマサキも京子に惹かれていった。2人の心は満たされていった。
そんなある日カメラマンの田中さんが訪ねてきた。京子に自分の雑誌のモデルをしてほしいとのことだった。どうやら京子が東京でモデルをしていたことを知っていたらしい。しかしその仕事を引き受けると東京に戻らなければならない内容だった。あれだけ戻りたかった東京に戻るチャンスが遂にきたのだが、マサキと一緒にいたい自分もいる。マサキはもちろん頑張ってこいと応援してくれるが、そんな簡単な話ではない。東京にいた頃どこか埋まらなかった心をマサキは埋めてくれる。そんな人をおいて東京に行けるはずがない。京子は最後の願いをこめてマサキに聞いた。「本当に行っていいの?」マサキは真剣な顔で「行くな。」と一言だけ。京子の願いは届いたのである。この島の景色は華やかではないが、暖かかった。
僕は昆虫が好きだ。放課後、よく校庭に行き、昆虫を見つけてはどんな特徴があるのかを観察している。昨日は大きなアゲハ蝶を見つけた。羽がとてもきれいで、右翼と左翼をくっつけるとピタリと合わさるところは本当に魅力的である。家に帰ると、私の大切なペットが待っている。アリだ。アリの観察キットはお父さんが買ってくれた。実はお父さんも昆虫が大好きなのだ。アリは言葉で表すことができないほどのすばらしさをかねている。女王アリの世話をするアリ、卵や幼虫の世話をするアリ、えさの運搬などをするアリなど、役割分担をしながら協力し合うところは、まるで人間みたいだ。
「お前も大きくなったらこのアリのようにみんなのために働くのだろうなあ」
お父さんはいつも僕を昆虫のように例える。昆虫が好きなお父さんは好きだがこういうところは嫌いである。
月に一度、お父さんとよく昆虫博物館に行く。お父さんと一緒に昆虫を観察することは大好きで、いつもこの日を楽しみに頑張っている。だけど、ここでもしょっちゅう僕のことを昆虫に例えるのだ。まったくお父さんってやつは。
ある日の学校の休み時間、私はいつものように、校庭で昆虫を観察していると、この間見つけたアゲハ蝶がいた。相変わらずきれいだ。その時、後ろから誰かがやってくる足音が聞こえた。振り返ってみると、そこにはクラスで一番やんちゃなそうま君が二人の仲間である
りょうた君と、もとなり君が立っていた。
「お前、いつも一人で虫ばっかりいじって楽しいのかよ」
そうま君が言った。後ろではりょうた君ともとなり君がうなずいている。
「僕はいじってなんかない。観察しているんだ。」
「嘘つけよ、そんな虫観察してても仕方ないだろ。僕と遊べよ。」
「いやだよ、昆虫が好きだもん。」
そう言うと、そうま君は口を膨らませてアゲハ蝶の羽をちぎった。
「僕の言うことを聞かないからこうなるんだ。」
そうま君の後ろではりょうた君と、もとなり君がうなずいている。
アゲハ蝶はもう飛べなくなっている。羽がなくなって芋虫みたいになっている。羽があるうちは、仲間といろんな場所に飛び立っていただろうに。
僕はショックだった。まるで家族を失ったかのようだった。アゲハ蝶を拾ってあげると飛ぼうと必死にもがいている。僕はそっと土の上においてあげた。
次の日の朝、学校に着くと、誰かが泣きながら教室に入ってきた。そうま君だ。そうま君はりょうた君と、もとなり君にこう言った。
「僕の愛犬が昨日死んじゃったよー!」
りょうた君と、もとなり君は困惑した顔でそうま君を見ている。
それから理科の授業が始まり、授業で学校にいる昆虫を観察しようというテーマの授業が行われた。そうま君たちは校庭に行き、昆虫を観察した。僕は校庭に行くのは嫌だったので違う場所に行った。そうま君はそこでアゲハ蝶を見つけ、悲しそうにみているのだった。虫でも愛犬と同じ命が宿っているのだと。
事件前
とある田舎の一つの小学校の4年生にけんご君という男の子がいました。けんご君は、授業中にじっとしていることができず、先生の話を黙って聞くことができなかったり、黒板に書かれたことを周りの同級生のようにノートに取ったりすることができませんでした。しっかりと授業を受けている同級生に消しかすや紙くずを投げてしまうなどといったようなちょっかいを出してしまうことがたくさんありました。また、彼は、周りの同級生に比べて成長が早かったので、体が一回りも二回りも大きく、自分が一番えらくて強いということを周りに示すようにいばっていました。また、周りの同級生ともっと仲良くなれると思ってちょっかいを出したり、自分の強さを周りに示したりすることによって、自分についてきてくれると思っていたのですが、逆に周りの同級生がけんご君から遠ざかってしまう原因になってしまったのです。しかし、彼はそのことに気づくことができず、同じようなことをずっと繰り返してしまい、同級生との間にぽっかりと穴ができてしまいました。
中心事件
ある日、けんご君の家に学校から電話がかかってきました。けんご君のお母さんは、けんご君がなんの問題もなく、元気に楽しく学校に通っていると思っていたので、学校から電話がかかってきたときは、不思議そうな顔をしていました。なにやら、けんご君のお母さんと担任の先生が彼の授業中の態度や周りの同級生への言動や行動について、長い時間、深刻そうに話しています。電話が終わり、けんご君のお母さんは、彼を呼んで、いろいろなことを厳しく叱りました。彼は、自分から周りの同級生が遠ざかってしまっていて、ぽっかりと穴ができてしまっていることにそれまで気づいていませんでしたが、お母さんから叱られたことをきっかけに、そのことに気づくことができました。それと同時に、彼は相当なショックを受けてしまいましたが、周りの同級生と仲良くなることができるように、自分なりに反省し、悪かったことや直さなければならないことを考えるようになりました。
事件後
次の日、けんご君は、授業中に周りの同級生にちょっかいを出すこともなく、黙って集中して授業に参加し、黒板に書かれたことや先生の言ったこともノートにとるようになりました。また、自分が一番えらくて強いといばることもなくなり、周りの同級生は、けんご君が別人になったかとざわざわしていました。それだけでなく、力が強いことを良い方向に活かすために、掃除のときに机を誰よりも多く運んだり、重いものを運んだり、どかしたりするなど、人の役に立つことを積極的に行うようになりました。彼にとって、自分を良い方向に変えることは決して簡単なことではなく、ストレスが溜まったり、上手くいかないことも多かったりするなど、難しいことばかりでしたが、めげずに頑張って続けました。そのようなことを続けているうちに、周りの同級生もだんだんとけんご君に話しかけるようになり、仲良くなることができました。休み時間には、楽しく話をしたり、外でサッカーや鬼ごっこをしています。そうして明るく楽しい学校生活が始まったのです。