女人咳き梅雨の車窓に刷り上がる |
女人咳きわれ咳つれてゆかりなし (下村槐太) さよならと梅雨の車窓に指で書く (長谷川素逝) 木の葉髪無職の名刺刷り上がる (高柳重信) |
イエスより飼はれて鉄の袖袂 |
イエスよりマリアは若し草の絮 (大木あまり) 熊の子が飼はれて鉄の鎖舐む (山口誓子) 初蝶やわが三十の袖袂 (石田波郷) |
春暁の唸れる虻を主婦を抱く |
春暁の大時計鳴りをはりたる (木下夕爾) 大空に唸れる虻を探しけり (松本たかし) 坪内氏、おだまき咲いて主婦を抱く (坪内稔典) |
月に行く鷹なくあそぶただひそか |
月に行く漱石妻を忘れたり (夏目漱石) 鷹匠の鷹なくあそぶ二月かな (安東次男) 寒星や神の算盤ただひそか (中村草田男) |
一見にごとく家出てほしくて咲く |
一見に如かず王子の狐火へ (大庭紫逢) 勤めあるごとく家出て春の泥 (鷹羽狩行) 昼顔は誰も来ないでほしくて咲く (飯島晴子) |