病室に踏むべくありぬ心あり |
病室に豆撒きて妻帰りけり (石田波郷) 花影婆娑と踏むべくありぬ岨の月 (原石鼎) 美服して牡丹に媚びる心あり (正岡子規) |
叱られてための夜食と野のひかり |
叱られて姉は二階へ柚の花 (鷹羽狩行) だまりこくるための夜食となりにけり (上田五千石) はたはたのをりをり飛べる野のひかり (篠田悌二郎) |
雄鹿の前少年が彫る人夫の顔 |
雄鹿の前吾もあらあらしき息す (橋本多佳子) 梧桐に少年が彫る少女の名 (福永耕二) つひに見ず深夜の除雪人夫の顔 (細見綾子) |
わが湖あり物の命の耐へかねて |
わが湖あり日陰真ツ暗な虎があり (金子兜太) わだつみに物の命のくらげかな (高浜虚子) 曼珠沙華散るや赤きに耐へかねて (野見山朱鳥) |
畑大根ような口なり十三夜 |
畑大根皆肩出して月浴びぬ (川端茅舎) けむり吐くような口なり桜鯛 (藤田湘子) 静かなる自在の揺れや十三夜 (松本たかし) |