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2011 小専国語 火曜4限 物語習作集

学籍番号ペンネームタイトル物語本文自己評価
93205クールオリジナル烈火の炎忍者を理想とする烈火は、花火屋の息子として育った。烈火は、自分に勝てたら、その人の忍びになろうと思っていた。また、烈火は不思議な能力を持ち、指をこすりあわせると炎を生み出せる力があった。また、口からも炎をはき出す能力があった。
 ある日、烈火は公園でナンパされている女の子と遭遇する。その女の子の名前は柳。烈火は、柳を助けようとし、傷を負ってしまう。その時、柳は傷を治しだした。柳は実は治癒の能力を持っていたのだ。それから、烈火は柳を守る忍びになることを決意し、柳を姫と呼ぶようになる。そして、烈火は柳に自分の能力を見せようと人がいない倉庫に連れて行き、炎を披露する。口から炎をはいたりなど体全身から炎を出した。
「烈火君、すごーい!」
柳は自分も炎が出せないかと指をこすりだし、烈火と遊んでいたその時、そこに謎の女性、影法師が現れ、烈火は魔道具の存在を聞かされる。魔道具を手に入れた幼なじみの風子、土門、昔の柳の恋人水鏡を仲間にし、治癒能力を欲し、世界征服を企む森光蘭との柳を守る戦いが始まる。
 ある日のこと、烈火は、勉強が嫌いだったが、歴史だけは好きだったので歴史の先生の家に遊びに行った。
「烈火、火影道具って知ってるか?、これを見てみろ。」
と先生の持ってきた火影道具の絵巻を見ると水鏡、風子、土門の持っている火影道具が載っていた。
「これ、あいつらのじゃねーか。」
 そして、歴史の先生は続けた。
「火影の君主は火を操っていたらしい。」
烈火は思った。
「まさかな・・・」
とそんな中、もう一人の炎術士、森光蘭と手を結んだ紅麗とその部下が、柳を狙ってきて、柳をさらっていってしまう。
 烈火は、水鏡、風子、土門と共に紅麗の館に向かう覚悟を決めた。
「宣戦布告だぜ。」
 と烈火は、大砲を撃ち、館を大爆発させ、烈火たちの戦いが始まった。
大砲を撃つとすぐに烈火は炎を出し、紅麗に向かって叫んだ。
「俺は最強!姫は帰してもらう!!」
烈火は勢いよく乗り込んだ。
館では魔導具を持つ敵達が待ち構えていた。そして、また、烈火のように特殊能力を持っている敵もいた。ゴムのように体を伸ばすゴム人間や体が煙になり、窒息死をはかってくる敵、そして、舞空術を使いこなし攻撃してくる敵など様々だったが、仲間達の協力により最後の部屋へとたどり着き、烈火は紅麗と対決する。しかし、紅麗の炎、“アンビエント”の力の前に烈火達は歯が立たなかった。アンビエントとは古代ギリシャの時代の赤い鷹型の炎だった。窮地に陥った烈火は、影法師の助言により自身の炎を抑える手甲を外す賭けにでる。手甲は烈火の炎の潜在能力を引き出す可能性のあるものだった。手甲を外したことにより、烈火の中に眠る炎、“シャドウ”が目覚めた。シャドウとは黒い炎で覆われた竜だった。烈火は姫のため、シャドウの土下座し頼み込み、なんとかシャドウの力により紅麗を退け、柳を救い出すことに成功した。しかし、シャドウは昔人間に裏切られたことのある竜で人間をひどく恨んでいた。影で生きてきたのでシャドウといわれているように烈火にはおもわれた。
紅麗の館での対決後、烈火たちは、影法師から、自分と紅麗が火影の里に生まれ、2人とも時空流離によって時を流れてきたということを知らされる。時空流離とは、巫女のできる不思議な技だったが、その技により永遠に死ねず、しかし、年はとってしまうという恐ろしい技だった。影法師の顔を見るとしわだらけだった。そして、烈火は影法師から自分が母親だと告げられる。
「俺、この時代の人間じゃないのか・・・」
烈火は複雑な気持ちになったが、母親を死なせてあげるため、呪いを解く方法を探ることを決意する。
そして、紅麗との決着をつけるため裏武闘殺陣という殺し合いの大会に出場することになった。その大会は、賭け品として何かを差し出さなければならなかった。大会には、すでに森光蘭の手が回され、柳が賭け品となり、出場することになった。
「絶対に姫は渡さない!」
大会では、シャドウを徐々に従えていった。シャドウは命がけで戦っている烈火たちを見て、徐々に人間を信頼し始め、力を貸すようになっていた。一番のきっかけはシャドウが烈火たちは勝ち進み、ついに紅麗率いるチーム麗と激突する。一回戦では土門対最強戦士うば。うばは人間ではなく、人間を操ることができるサイボーグ型人工知能だった。うばは土門の体を追い求め始め、そんなに戦わず、土門の体を傷つけずに土門の体をのっとりサイボーグとしようとした。サイボーグ型人工知能は土門の中に入り込み、土門に精神的に苦しい幻影を見せつけたが、土門の果てしない精神力がサイボーグ「うば」の見せる幻影を上回り、サイボーグ型人工知能「うば」を破壊し、見事、勝利を収めた。
 2回戦は水鏡対戒。閻水で次々に技を繰り出していった。
「くらえ!水鉄砲!!」
しかし、戒には効かなかった。それどころか水鏡よりももっと大きな水鉄砲で攻撃を仕掛けてきた。
「我が閻水でおまえを殺してやる。くらえ、ハイドロポンプ!」
「ふはは、その程度か、水鏡・・・」
戒は奇妙な道具を使い、全身を氷で覆い、攻撃を防いだ。
「な、なんだそれは・・」
なんと水鏡と同じ閻水を手に持っていたのだ。戒は閻水を作り出していたのだ。そこから戒は攻撃に出、水鏡を追い詰めていき、ついに最後の大技、閻水の水をすべて使って、氷なる蛇を水鏡に向かってくらわし、とどめを刺そうとした。が、その時、水鏡は閻水の水を利用し水蒸気を発しだした。戒は水鏡の場所がわからなくなり氷なる蛇が打てなかったが、気配を感じその気配の方にくらわした。
「な、何・・・」
なんと水で作った分身だった。水鏡も戒ももう水が残っていなかったので肉弾戦での勝負となった。水鏡は初めにやられた傷からの出血がひどく、その分リスクを負い、テンダウンし負けてしまった。
3回戦は風子対命。命は残忍、卑怯であった。実力が全然なく、風子に防戦一方だった。
「お願いだ、ほんとは戦いたくないんだ。でも紅麗に無理矢理この大会に出さされて・・・
 助けてくれ。」
そんな命の涙を見て風子の中の闘争心が消え、
「もう悪さすんじゃねーぞ。」
と後ろを向いたその時、命は風子に向かって攻撃し、そして、体を膨らませていった。
「何するつもりだ?」
「自爆するのさ、この会場ごと消してやる、ひゃはは。」
「そんなことさせるか。」
と風子が攻撃した瞬間、規模は小さいが爆発が起こった。風子と命は吹っ飛び二人とも戦闘不能になり3回戦は引き分けに終わった。
 1勝1敗1分けで迎えた最終戦烈火対紅麗。ついに時空を超えた4回戦が始まった。
「シャドーーーー!」
「アンビエント・・・。」
二人はいきなり炎を召喚しだした。アンビエントが攻撃し、烈火を押さえつけ、紅麗の激しい攻撃が始まった。観客が恐ろしくなるほどの強さだった。しかし、烈火はあきらめなかった。シャドウが烈火を助け、反撃を開始した。
 最終戦が行われている間に裏武闘殺陣を眺めていた森光蘭がある計画を遂行していた。それは紅麗暗殺計画。森光蘭は不死になるための魔道具の存在を知り、紅麗を不必要と考えたのだ。会場にいくつもの強力な爆弾を仕掛け、紅麗だけでなく烈火も爆発させ邪魔者は排除しようという考えだった。
 裏武闘殺陣では、実力が拮抗しており、会場は火花が散っていた。しかし、紅麗はまだ実力を出していなかった。次々に技を出していった。分身の術では分身が烈火を捕まえ、アンビエントと紅麗が烈火を攻撃していた。
烈火が死にそうになったとき烈火の体がいきなり燃え始めた。潜在能力が解放されたのだ。しかし、烈火には感情がなくなっており紅麗を圧倒的な強さで上回ったが、紅麗だけでなく仲間にまで攻撃しようとし出した。そして、ついに柳に攻撃しようとしたとき、烈火は苦しみ始めた。
「烈火君、やめて。」
柳が烈火を抱きしめた瞬間、烈火は元に戻った。これにより、紅麗に相当のダメージを負わせ、烈火と紅麗はお互い肉弾戦となった。互いの精神と精神がぶつかり合い、会場には衝撃波が飛び散った。
とその時、会場が爆発しだした。
「紅麗、烈火死ね。」
「光蘭・・・。」
紅麗は裏武闘殺陣から身を引いた。烈火たちも逃げ、裏武闘殺陣最終戦は決着がつかないまま終わった。
裏武闘殺陣での戦いから数日後、烈火たちはしばらくの休息をとっていた。学校生活を平穏に送っていたある日、森光蘭から刺客が送り込まれてきた。目的はやはり、柳をさらうことだった。不老不死には、魔道具「天童地獄」と呼ばれるものと柳が必要だった。柳は精神コントロールをされ、自らついて行ってしまった。烈火たちは柳を救うため、森光蘭のアジトに侵入することになった。森光蘭のアジトでは血を固めて、武器にする男や雷を扱い人を攻撃する男、人をだまし色気で誘惑し、男を倒してしまう女など様々だったが烈火たちは何とか敵を退け、森光蘭のところまで、たどり着いた。しかし、その頃には柳は、精神コントロールされ、全く意識のない状態だった。森光蘭も魔道具を体の中に取り入れ、後は、柳を取り込めばいいという状況だった。烈火たちは柳を何度も呼びかけ、森光蘭のところから柳を助け出そうとした。柳は徐々に意識を回復しだし、
「烈火君・・・。」
と何度も呼び出した。烈火は炎をぎらぎら燃やしながら、柳に答えるため森光蘭を倒そうとした。
 その時、紅麗が姿を現し、森光蘭を攻撃しだした。烈火と紅麗が手を組み、柳を救い出した。柳の精神を元に戻すには、森光蘭を倒すこと、烈火は、最後の力を振り絞って、今までにない巨大な炎を作り、思いっきり森光蘭を攻撃し、ついに倒したのであった。
 柳は元に戻り、烈火たちのところに帰ってきた。
「お帰り、姫。」
「ただいま。」
 こうして、烈火たちの戦いが終わった。水鏡、風子、土門、そして、柳と烈火が普段通りの学校生活に戻っていった。
8
93211 もやし 名探偵コナン  俺の名前は工藤新一。帝丹高校2年生である。持ち合わせた推理力とサッカーで鍛えた運動神経で数々の難事件を解決していた。世間では高校生探偵と呼ばれている。
ある日、俺は幼馴染である毛利蘭と遊園地に遊びに行った。その遊園地へ行った帰りに俺は、黒ずくめの男の怪しい取引現場を目撃する。その取引に夢中になっていた俺は、背後からやってきたもう一人の男に気付かずパイプで頭を殴られてしまった。口封じのために黒づくめの男に薬を飲まされ、目が覚めると、体が縮んでしまっていた。黒づくめの男たちが知らなかった薬の副作用によって俺は幼児化したが、命は助かり生き延びることができた。
しかし、行き場をなくした俺は隣人の阿笠博士に事情を説明し協力を得ることに成功した。
「もし工藤新一が生きていると知られたら、また黒ずくめの奴らに命を狙われる。君の正体が工藤新一だということは決して誰にも言ってはならん。」
と言われた俺は正体を隠すことにした。阿笠博士と話し終えた途端、俺を捜していた蘭に見つかり、とっさに『江戸川コナン』と名乗った。「探偵事務所に住んでいれば、黒ずくめの男たちの正体の情報が入ってくるかもしれない。」と言う博士のアドバイスで蘭の父親・毛利小五郎が営む探偵事務所に共に住むことになった。そこで周囲で次々に起こる事件を持ち前の推理力で解決しながら、謎に包まれた黒の組織を追っていくことにした。
 間もなく、十億円を強奪犯の3人組の行方が世間を賑わす中、小五郎の下に山形から来た少女が父親探しを依頼する。その後父親はすぐに見つかり、父娘は再会。しかし翌日父親は首吊り死体で見つかり、少女も姿を消してしまった。少女の行方を追っていた俺は、別の男が少女の父親と同じ男性の行方探しを別の探偵に依頼していたことを知った。翌日、別の男も死体で見つかった。この時俺は、十億円の強盗犯がこの3人組だと気付き、少女を追跡した。遂に少女を発見することに成功したが、時すでに遅く、その少女は黒ずくめの男たちの手にかかり殺されてしまった。この少女は黒づくめの男たちに利用されていただけだった。
 知人の結婚式へ出席するため、京都へ向かう小五郎たち。その新幹線の中で俺は、自分に謎の毒薬を飲ませた黒ずくめの男たちに遭遇する。彼らが企む「新幹線爆破」の計画を聞いた俺は、爆発物を持たされた取引相手を探し始める。犯人を捕まえることができたが、その計画を聞いていた途中で黒づくめの男たちの名前を知った。ジンとウォッカ、この名前を俺は一生忘れることがなく、同時に絶対捕まえてやると決意した。
 ある日突然、毛利探偵事務所にコナンの母親と名乗る女性がやってきて俺は連れ出されてしまった。女性を怪しむ俺は彼女の正体を突き止めようとするが、何と彼女は俺が新一だということを知っていた。「彼女は一体何者なのか。」と戸惑いを隠せない。俺は罠にはめられ、殺されそうになったが、結局それは、彼女の演技で彼女は俺の本当の母親、工藤有希子だった。有希子は阿笠博士から事情を聞いて、俺の心配をしに来てくれたのだった。
 麻生圭二という人物から依頼状を受け取った小五郎達は、麻生がいる月影島へ向かった。ところが島の村役場で調べると、麻生は10年以上前に死んでいたことが判明する。間もなく村長選挙が行われるというこの村で、連続殺人が起こる。俺は連続殺人の犯人を突き止め、事件を解決した。と思っていたが、犯人に逃げられ自殺させてしまった。「犯人を推理で追いつめて自殺させてしまう探偵は殺人者と変わらない」と心に残った忘れられない事件になってしまった。
 工藤新一を訪ねて、西の名探偵と言われる服部平次がやって来た。時を同じくして、外交官の妻が息子の恋人の素行調査を依頼しに来る。ところが彼女の自宅へ向かうと、彼女の夫が死んでいた。東西の名探偵の推理対決が始まる。平次は勝つことにこだわり、細かい点を見逃してしまい。軍配は東の名探偵である俺が勝った。しかし、「推理は競争じゃない。真実はたった一つなんだ。」と平次に言った。
 小五郎が監修を務めた推理ゲームの発表会へ招待された俺達。会場のホテルで俺は偶然遭遇した謎の大男が「ジン・ウォッカ」の名を口にしているのを聞く。大男が「黒の組織」の仲間だと確信した俺は彼を追跡しようとするが、突如ホテルのトイレで爆破事件が発生し、その大男も犠牲となってしまう。ジンとウォッカの手がかりが掴めなかった。
 眠っている俺の眼鏡を外した蘭は、その顔に見覚えがあるのに気付く。一方、小五郎の妻・英理の紹介で毛利探偵事務所にやって来た女性から、亡くなった夫の死の真相を突き止めて欲しいとの依頼を受け彼女の屋敷へ向かった小五郎達。そしていつも通り俺が小五郎の推理をフォローするが、これがきっかけで俺の正体が蘭にバレかけてしまった。 新一ではないのかと蘭に詰問され、窮地に陥った俺だったが、有希子の計らいで何とかその場を凌いだ。翌日、有希子の幼馴染みに頼まれ、群馬へやって来た俺と有希子。幼馴染みによれば、ブラジルから帰国したばかりの彼女の叔父の雰囲気が違うような気がするという。やがて殺人事件が発生する。
 世間を騒がせる「怪盗1412号」が、鈴木財閥が所有する世界最大の黒真珠を盗むと予告してきた。俺は密かに「怪盗1412号」こと怪盗キッドを追うが、キッドの駆使する手品と変装術に翻弄され苦戦を強いられ、黒真珠はキッドに奪われてしまった。俺の推理と怪盗キッドのマジックで対決した。
 俺たちのクラスに、灰原哀という少女が転校してきた。彼女を仲間に加えた探偵団は早速、行方不明になった兄を探してほしいという依頼を受ける。依頼者の少年から、黒ずくめの女の存在を聞かされた俺は、今度こそ追いつめようとする。灰原哀の正体は、俺が飲まされた薬「APTX4869」の開発者・宮野志保だった。彼女は俺と同じ薬を飲んで体が幼児化し、黒の組織から逃げ出し、阿笠博士に匿われていたのだ。彼女の知っている情報を頼りに、大学教授の広田正巳のもとへ向かうが、教授は密室状態の自室から死体で発見された。俺は事件を解決したが、その推理力を見た灰原は、「どうしてお姉ちゃんを助けてくれなかったの」と号泣した。灰原の姉は、十億円の強盗犯の一人で、黒ずくめの男に殺されたあの少女だったのだ。
 街で待ち伏せていたジンに殺されるという不吉な夢を見た灰原は探偵団の面々を組織に巻き込む訳にはいかない、と米花町を去ることを考える。そんなある日、町で偶然50年前のクラシックカーである黒のポルシェ356Aを見つけた俺は物珍しそうにそれを眺めるが、灰原はそれがジンの愛車でもあることを恐ろしげに告げた。
 キャンプにやって来た少年探偵団。薪集めに森の中へ入ると、鍾乳洞を発見。徳川の埋蔵金が隠されているのではないかと意気揚々と入っていくが、そこで死体を運ぶ男達と鉢合わせ、俺は拳銃で撃たれてしまった。輸血が必要となり、俺の正体が新一だと薄々感づいていた蘭は、俺の血液型と同じだと言い、血液を提供した。それで蘭はコナン=新一だと確信した。そして平次がある決心をし、灰原はコナンに銃口を向ける。帝丹高校の学園祭で、蘭のクラスの劇「シャッフルロマンス」上演中に、客席でOBが死亡する。そして……灰原が作ったAPTX4869の解毒剤(試作品)を服用した俺は工藤新一に戻った。
 学園祭も無事終了、俺が側にいることに安堵する蘭。新一に戻った俺は蘭を展望レストランでの食事に誘う。同じビルではゲーム会社のパーティーが行われていたが、その社長がエレベーター内で殺された。蘭を席に残し、俺は現場へと向かった。事件を解決して、蘭の待つ席に戻ろうとしたのだが、薬の効果がきれて、俺はコナンの姿に戻ってしまった。
 東京スピリッツの優勝パレードを見物に来た少年探偵団。そこにはパレード中に何かが起こるという脅迫状を受けた警察が変装して張り込んでいた。そんな中、パレードを撮影していた光彦のビデオが盗まれる。更に変装した高木刑事を見た佐藤刑事の様子がおかしくなる。佐藤刑事の記憶に強く刻まれた過去の事件。それは、彼女が大切な人を失った忌まわしい事件だった。その事件の犯人が再び警察を狙って爆破事件を起こそうと動き出す。爆弾はどこに仕掛けられたのか、そして佐藤は過去を吹っ切ることができるのか。
 ある日、囲碁、チェス、将棋の3つのソフトの開発を引き受けたプログラマー、板倉卓が行方不明に。彼は黒ずくめの男・テキーラと関わりが!? 何とか居場所を突き止めた俺だったが、板倉は死亡した後だった。俺は板倉が遺した日記のフロッピーディスクを手に入れようとする。板倉の日記から、黒の組織は板倉の開発したあるソフトを欲しがっていることが判明。ウォッカとの駆け引きで、俺はソフトの取引の約束を結ぶことに成功し、取引の場所へ向かう。しかし、その途中で阿笠博士の車がパンクしてしまい、俺と博士はヒッチハイクで捕まえた車に乗ることにした。
 俺や小五郎宛にハロウィンパーティーの招待状が届いた。差出人はベルモット。罠かもしれない、殺される可能性もある、それを覚悟で俺はベルモットに挑んだ。 そしてコナン(新一)の自宅にも人の気配が……。ジョディの過去と正体も明らかになる。
 沖野ヨーコに頼まれ、アナウンサー・水無怜奈の依頼を受けることになった小五郎。彼女は最近、自宅マンションでピンポンダッシュに悩まされているという。事件解決後、偶然が重なり、水無が黒の組織の一員であることが判明。そして俺は組織による暗殺計画を知り、同じく計画を阻止しようとするFBIのジョディらと共闘した。
 服部平次から水無怜奈に関する情報が手に入ったとの連絡が入る。博士と哀とともに本堂瑛祐の父親と親しくしていたという老人の孫の家を訪ねると、彼の自宅のパソコンのデータが消され、何者かが侵入した痕跡があった。俺はFBIとともに水無のいる杯戸中央病院へ行く。病院に組織の一員が水無怜奈を探して潜伏していることを知ったFBIと俺は、スパイを割り出すことにした。黒の組織のスパイを捕まえた俺達だったが、既に組織は水無怜奈の入院している病院を特定していた。俺とFBIの面々は怜奈を病院から逃がそうと計画を立てたが、病院の近辺で食中毒、火事、体調不良が同時に起こって病院に患者が押し掛け、脱出が困難になってしまう。それと同時に、病院に謎の植木鉢が大量に送りつけられて来る。時を同じくして、病院のテレビには番組復帰のコメントをする水無怜奈の姿が。俺と赤井は最終手段に出てその場を凌いだ。
 組織の新しいメンバーが動き出したという水無の情報がジョディより届く。下校時に探偵団に依頼が来たため、翌日依頼人のアパートを訪れるが、アパートは火事で全焼。そして、弓長警部とアパートの住人3人を前にして、灰原は組織の気配を感じ非常に怯えた。

まだまだ俺と黒の組織との戦いは終わらない。
6
93215 こっけい ライオンがいたサーカス <1はじめ>
「ガォーッ」
ライオンが雄叫びをあげる。ここはとあるサーカス。サーカスにはライオンやピエロがいてお化け屋敷もある。この町にサーカスがやってくるのは久しぶりで、お客さんが続々とやってきた。
次はライオンの火の輪くぐりの番。5枚の鉄の輪に火がともり、火の輪はメラメラと燃えたぎり、煙はモクモクと立ち込める。団長がムチをならすとライオンのガオは起き上がり檻から出される。ライオンはメラメラと燃えたぎる火の輪に向かっていき、シャキっと火の輪をくぐる。火の輪をくぐり抜けたライオンのガオは誇らしげな顔でポーズを決める。パチパチパチと観客は鳴りやまないほどの大きな拍手をした。ライオンのガオはサーカスの英雄であった。

<2ライオンのガオが死の宣告を受ける>
団長はいつも通りライオンのガオに火の輪くぐりをさせようとして、ムチをならした。ライオンのガオは何とか火の輪をくぐる。今までシャキっと火の輪をくぐっていたライオンのガオだが、どうも様子がおかしい。ライオンのガオも年のせいか動きが鈍くなってしまい、決めポーズもなんだか弱々しくなってしまった。観客の拍手も少しずつだが着実に減りつつあった。
ライオンの様子がおかしいことに気が付いた団長は、獣医にライオンを診察してもらうことにした。獣医はライオンと団長にこう告げた。
「うーん、このライオンはもう長くないな。安楽死させるのも一つの手だよ。」
ガオ「―。」
団長はガオと獣医にこう言った。
「こいつにはもっともっと稼いでもらわないと困るんだよ。」
死の宣告を受けたガオだったが、団長は今まで通りムチをならし、ライオンのガオはサーカスで火の輪をくぐり続けた。ライオンのガオには火の輪をくぐり続けることしかできなかったのだ。もうすぐ死ぬと知りながら―。

<3ガオの失墜>
いつものように団長がムチをならした。しかし、ライオンのガオはもう体力の限界だった。団長がもう一度ムチをならす。よたよたとライオンが火の輪をくぐろうとした。しかしその時、ライオンは火の輪くぐりに失敗した。メラメラと燃えたぎる火の輪が倒れ、テントには火が燃え移り、辺りは火の海、観客はパニックに陥り、大慌てで我先にサーカスから逃げ出した。消防車が到着したころには観客は全員テントから逃げ出し、中にはけがを負っている客もいた。なんとかパニックを落ち着かせた団長であったが、テントが燃え尽きてしまい、観客はサーカスとライオンを怖がり、サーカスが続けられる状態ではなくなってしまった。
観客のひとりがぼそっとつぶやいた。
「ライオンさえいなければこんなことにはならなかった。」
周りの観客もつられるように言った。
「そうだ、ライオンが火の輪くぐりを失敗しなければ、こんなことにはならなかった。」
「ママ、足が痛いよ。」
「あのライオンがけがをさせたんだ。」
「そうだ、ライオンのせいだ。」
ガオは一瞬にして英雄なんかではなくなり、悪者になってしまった。また、ライオンのガオもやけどを負い、火の輪くぐりもできなくなっていた。さらに、追い打ちをかけるように団長はライオンに、
「もうおしまいだ、お前のせいでこうなったんだ。お前はただの悪者だ。火の輪くぐりができないライオンなんてこのサーカスにおいておく必要はない。まあいい、どうせお前はもうすぐ死ぬんだ。明日の朝にでも殺して獅子鍋にしてやる。」
と涙を流しながら町中の人に聞こえるように叫んだ。ガオは思った。
『どうせおれは死ぬんだ。いつ死んでも同じさ―。だったらこのまま―。』

<4男の子との出会い>
その日の夜、団長はライオンの檻のカギがかかっていることをしっかりと確認して、燃え尽きたサーカス小屋から出て行った。しかし、ガオはカギも燃えてしまっており、外に出られることに気が付いた。ガオは悩んだ。
『どうせおれは死ぬんだ。どこで死んでも同じさ―。』
と思いながら、こっそりと檻から抜け出し、町をよたよたと歩いた。夜だったためか町は静まり返り誰もいない。街灯、車、電車、自動販売機・・・何もかもがガオにとっては新しいものだった。でも、ガオが町で見たものの中で生きていると呼べるものはなかった。ガオはふるさとのことを思い出していた。ガオのふるさとはアフリカのサバンナ。ガオのお父さん、お母さん、お兄さん、妹、いつも仲良く暮らしていた。ガオはなんだかさみしくなった。ガオがサーカスへ戻ろうとしたとき、後ろから
「ライオンさん。」
と呼ぶ声がした。ガオはびっくりした。振り返ると一人の男の子が立っていた。
「ライオンさん、こんばんは。」
と、男の子はもう一度声をかける。ライオンは小さな声で
「しっー。」
と言い、辺りを見渡した。ライオンは
「ぼうや、どうしたんだい。」
と男の子に聞く。男の子は、
「ぼく、ひとりなの。ライオンさん遊ぼうよ。」
ライオンのガオは男の子に、
「おれのことこわくないのか。」
と聞いた。男の子は、
「ううん。ぼく、ライオンが好きだもん。ぼくは一回も見たことないけど、ライオンはかっこいいし、サーカスの英雄なんでしょ。」
ライオンのガオは、男の子に
「もう、英雄なんかじゃないさ。ただの老いぼれたライオンだよ。」
と言った。すると男の子は力を込めて言った。
「そんなことない。ライオンはサーカスの英雄なんだ。ようやくお小遣いがたまったんだ。明日、英雄を見に行くんだ。」
ガオは、なんだか嬉しくなった。ライオンは答えた。
「そうだな・・・。サーカスのライオンもきっとよろこぶよ。」
ガオは男の子といっぱい話をした。男の子のこと、サーカスのこと、ライオンのこと・・・。ただ、ライオンのガオがもう長くないことは言えなかった。
ライオンのガオは男の子に、「今日はもう遅い、ぼうやは家に帰りな。おうちの人が心配してしまうよ。家まで送って行ってあげよう。」と言った。
男の子は、「うん。ライオンがいれば暗い道もへっちゃらだね。」と言い、ライオンのガオは男の子を家まで送り届けた。男の子の家は真っ暗だった。男の子の家に着くとライオンのガオは、「じゃあな、おれも帰らなきゃいけない。」
男の子は、「ライオンさんはどこへ帰るの。」と聞いた。
ガオは考えてしまった。『おれはどこへ帰るのだろう。』
ライオンはとっさに答えた。「さあな。風の吹くまま、気の向くまま・・・。」
男の子はライオンの言葉がわからなかったみたいで「ふーん。じゃあまたね。」と答えて家へと向かった。男の子の部屋の電気がついたことを確認したガオはその場を立ち去った。
よたよたと歩いている間、ガオは悩んでいた。
『どうせおれは死ぬんだ。どんな風に死んでも一緒さ―。』
ガオは数時間夜の町をさまよったが、いつの間にかサーカスの檻へと戻っていたのだった。
もうすぐ夜明け。辺りが明るくなってきた。

<5ガオの決断>
しかし、ガオが異変に気づく。夜明けだから辺りが明るくなるのは当たり前の光景だ。でも、どうもおかしい。いつもより明るすぎる。ふと見ると町のほうが赤い炎に包まれていた。昨夜話をした男の子の家が火事になっていたのだ。一度炎を制したガオは知っていた。男の子の家は火の回りがとても早いこと。しかも、男の子の家までの道は入り組んでいて消防車が来るのに時間がかかること。その上、1階から火が出たのであれば、男の子の逃げ場はないこと。一方、朝の静寂の中、何やら話し声が聞こえてきた。ガオは一瞬で分かった。団長と獣医の声だ。
「何も思い残すことはない。悪者のライオンめ、一発で仕留めてやろう。」
団長が銃を抱えて近づいてきている。
ガオが悩む間もなく、決断した。
ガオは勢いよく檻から飛び出した。団長は逃げ出したガオに気付き、銃を撃つ。団長が撃った一発の銃弾がガオの足をかすめる。ガオは足にけがを負った。それでもガオは全力で走った。振り返ることなく、ひたすらに走った。

<6男の子の家>
男の子の家がメラメラと燃えており、煙はモクモクと立ち込めていた。家の周りには大勢のニンゲンが集まっていた。
「2階に男の子が残っている。だれか助けろ。」
「駄目だ、この炎だ。助けに行けない。」
「消防車はまだこないのか。」
ニンゲンがあれやこれやと騒いでいた。その時、一頭のライオンが男の子の家に飛び込んだ。ライオンは男の子のいる2階へと急いだ。煙の中、ライオンは男の子を必死に探した。ここにもいない。ここにもいない。ようやく男の子が倒れているのをライオンは見つけた。ライオンは男の子をやさしく抱きかかえ、外へ出ようとした。しかしライオンは窓までたどり着くのが限界だった。この高さだ、窓から飛び降ればライオンも男の子も無事ではすまない。窓の下を見ると、どうやら外には消防車が到着しているようだ。
「ガォーッ」
とライオンが雄叫びをあげる。ライオンの雄叫びを聞いた消防士は、2階の窓に男の子がいることに気がついて、梯子を伸ばした。そして、男の子は無事に消防士に引き渡された。子どもを渡した瞬間、煙がライオンと消防士の間を引き裂いた。煙が消えた後、消防士はライオンも助けようとしたが、その場にライオンの姿はなかった。不思議に思った消防士だったが、火も回りが予想以上に早く、ライオンを助けには行けなかった。誰もがあきらめかけたその時、
「ガォーッ」
とライオンの雄叫びが聞こえた、その瞬間、家が崩れ、大きな煙が上がった。その煙はライオンが誇らしげな顔でポーズを決めた形をした煙だった。ライオンの煙を見たひとりがパチパチパチと拍手を送った。それにつられて周りの人もパチパチパチと拍手を送った。ライオンは男の子を救った英雄となったのだ。

<7ライオンがいたサーカス>
その日の昼、サーカスは燃えてしまったので開ける状態ではなかった。それでも、そこにはいつもより多くのお客さんが並んでいた。そこには男の子の姿もあり、サーカスが始まるのをいまかいまかと待っていた。次はライオンの火の輪くぐりの番。5枚の鉄の輪に火がともる。火の輪がメラメラと燃えたぎる。団長がムチをならすとライオンの檻が開かれる。お客さんと男の子は一生懸命拍手を送った。そこにはライオンの姿はないのに―。

(4108字)
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101101 momoka21 満月の夜に もうすぐ中学生になるエミリーには、家族といえる存在はいない。赤ん坊のころから一人ぼっちだった彼女は孤独に慣れきっていて、かわいらしい容貌からは想像できないほど、冷たい人間だった。エミリーはずっと孤児院で育ってきた。そこの子どもたちとも、職員とも、もちろん学校の友達とも、いっさい話をすることはなかった。エミリーは一人のほうが何も失うものはなく、楽だと思っていた。だから、一人で生きていける、これからも一人で生きていこうと思っていた。
エミリーが生活している孤児院では、月に一度地域の人々との交流会が行われている。参加者のほとんどが裕福な身なりをした、かなり年配の人である。孤児院としては、家族のいない子どもたちにおじいさんおばあさん特有の温かみを感じさせたかったのだろう。しかし同時にそれは、養子になるための選考会でもあると言える。だから子どもたちは必死に話をし、自分をアピールしていた。しかしエミリーはというと、相変わらず話をしようとせず、いつもだるそうにしてつったっているだけであった。
ある日の交流会でのことだ。いつも通り無愛想な顔でつったっていたエミリーに、八十歳くらいの、私はお金持ちよといわんばかりの身なりをした、一人のおばあさんが話しかけてきた。
「私はリサというの。あなたは確か、エミリー…だったわよね?あなたのふさふさした髪や、つるつるの肌、いつも見惚れていたの。本当に若いっていいわね。うらやましい限りだけど、みているだけでも元気がでてくるわ。そうだわ、エミリー。私と一緒に暮さない?」
エミリーは何も答えず、いつも通り無視をしていた。しかしその様子をみていた職員が駆け寄ってきて、エミリーに言った。
「いいお話じゃない、エミリー。リサさんはとても立派なご婦人よ。あなたをきっと幸せにしてくれるわ。そうよ、きっとそうよ、エミリー。一緒に暮させてもらいないさい。」
 この会話がきっかけとなって、エミリーはリサに引き取られることになった。エミリーは孤児院でもけむたがられていたから、驚くほど話はとんとん拍子に進み、すぐにリサとの生活が始まった。
 リサはやはり、大金持ちだった。だからエミリーは好きなだけかわいい服を買うことができたし、俗に言う、夢のような暮らしをしていた。孤児院での暮らしとはくらべものにならないほど、何不自由のない生活をおくっていた。ただ、エミリーとリサには、ひとつだけ約束があった。それは、食事は必ず一緒にとること。エミリーにとってそれは、苦痛でしかなかった。孤独しかしらないエミリーは居心地が悪く、どうふるまってよいのか分からなかった。リサはエミリーに無視されても、話しかけ続けた。その努力が実ったのか、しばらくすると二人の食事の時間は自然なことになっていた。むしろ、誰とも話さない、誰にも心を許してこなかったエミリーにとってその時間は、心が安らぐ時間となっていった。次第にエミリーにとってリサは、唯一心を許せる存在になっていった。
 そんなある日、事件は起こった。その日は満月の夜だった。いつも通りリサにおやすみのキスをしに行った。
「愛してるわ、リサ。おやすみなさい。」
「私もよ、エミリー。おやすみなさい。」
そしてそのあとすぐに、エミリーは眠りについた。しばらくして、目が覚めた。呪文のような、聞き覚えのある大きな声が聞こえる。リサの声だ。エミリーは必死にベッドから起きようとしたけれど、思うように体が動かない。そしてそのまま意識を失った。
 太陽の光で、エミリーは目を覚ました。あれは夢だったのかとひと安心して、ベッドから起き上がろうとした瞬間、腰に激痛がはしった。
「あれ・・・」
よくみてみると、手も、足も、しわしわになっている。体を動かすたびに関節に痛みがはしる。鏡を前にして、エミリーはようやく気付いた。これは自分の体ではない、リサの体であると。
 ドアの前には自分が、正しくは自分の体をしているリサが立っていた。
「なんてみすぼらしい姿なの。ほんと嫌になるわ。やっとこの体を手に入れることができたわ。なにが愛している、よ。魔女の私にむかってよくそんなこと言えたものね。お前なんて初めから、体目当てだったんだよ!」
そう言い捨ててリサは姿を消した。
 エミリーは泣き崩れた。自分の体を奪われてしまったことよりも、一緒に暮らして、初めて心を許せていた存在の裏切りは、エミリーを再び孤独の底に陥れたのだった。
 それから間もなくして、エミリーは身寄りのない老人が集まる施設で暮らすことになった。リサがエミリーの知らない間に手続きをしていて、ある日突然施設の職員が迎えに来たのである。エミリーは嫌がったけれど、意味がなかった。人の温かさなど少しもないところで、入居者全員がまるで厄介者の、むしけらのような扱いを受けていた。エミリーがあの事件のことを話しても、頭のおかしなばあさんとしてしか扱われなかった。
 しかしある日、アンナという自分と同じくらいにみえる年齢の老婆が、部屋を訪ねてきた。そしてアンナはエミリーの顔をまじまじと見て、聞こえるか聞こえないかわからないくらい、小さな声で言った。
「私もあなたと一緒よ、エミリー。私も魔女に体を奪われたの。」
エミリーは一瞬なにが起きたのかわからず、何も反応しなかったけれど、しばらくすると涙があふれてきた。アンナは泣いているエミリーの背中をさすり続けた。そしてエミリーに言った。
「一緒に頑張りましょう。絶対に元の体を取り戻すのよ。」
 それから二人は時間のゆるす限り図書館に通った。あらゆる手段を使って、元の体を取り戻す方法を調べ続けた。毎日毎日、お互いの部屋を行きかった。それはその日得た情報の共有だけが目的ではなかった。何気ない世間話をすることもあった。つらい時は励まし合い、決して希望を捨てることはなかった。
 それから五年後、ついに二人は元の体を取り戻す方法をみつけだした。それは“満月の十三日の金曜日、十三回目の鐘が鳴り終わる前に、赤の糸で結ばれた星のなかで呪文を唱える”ことだった。しかしこれは、容易なことではなかった。満月で、十三日の金曜日の夜というのは、ごく限られた日である。その上、十三回以上鐘をならす場所をみつけること、みつけたとしても、番犬が何頭も飼われていて高い塀で囲われている施設を、どうやって抜け出しその場所までたどり着くかという問題があった。条件にあう日は、偶然にも三ヶ月後にやってくることに気付いた。二人はその日を実行日に決め、作戦を練った。
 ついに実行日の夜になった。いつも通り就寝前の点呼を済ませた。施設の明かりが完全に消えたころ、二人は動きだした。事前に調べておいた、見回りの職員が通らないルートを通って外に出た。やはり今日も番犬がいる。エミリーはポケットから夕食のときにくすめておいたソーセージを取り出して、犬に投げつけた。番犬の意識がソーセージにむいている間、二人は全身の関節が痛む体にムチをうって、全力で走りぬけた。高い塀にぶつかった。アンナはシーツをとりだして、塀の釘に引っ掛けよじのぼった。エミリーは下からアンナを押した。アンナが登り終えると、今度はエミリーが塀を登るのを手伝った。そうして施設を抜け出した二人は、教会にむかってまた全力で走った。
 どれくらい走ったであろうか。ただでさえ八十を超えた体をしている。二人の体力は限界に近づいていた。しかし二人はあきらめなかった。全力で走り続けた。
 教会に着いた。ちょうど一つ目の鐘が鳴り始めたころであった。急いで二人は手にもっていた赤い糸でそれぞれ、星型をつくった。そしてその中に入り、向かい合って、最後の力を振り絞り、教会中に響き渡るほどの大声で、あの呪文を唱えた。すると突然カミナリのような大きな物音と、目をあけていられないほどの閃光が、二人を包みこんだ。そしてそのまま、意識を失った。
 エミリーは目を覚ました。近くには見覚えのある二人の老婆が倒れている。向かいには、とてもあでやかな髪をした、きれいで、でもかわいらしい女の子が横たわっている。エミリーは混乱したけれど、自分の手や足、髪の毛をみて確信した。自分は元の体を取り戻せたのだと。しばらくして、向かいに横たわっている女の子も目を覚ました。
「アンナ…なの?」
エミリーはおそるおそる聞いた。
「エミ…リー?」
「そうよ、エミリーよ。あなたアンナなのね。私たち、自分の体を取り戻せたのだわ!」
そう言ってエミリーはアンナのそばに駆け寄り、抱きついた。
「やったのね、私たち。」
アンナはそういうと、エミリーの腕の中で声をあげて泣いた。エミリーも涙が止まらなかった。
 近くに倒れている二人の老婆は、リサと、キャロルというアンナの体を奪っていた魔女だった。彼女たちの体を奪っていた魔女たちは、そのまま目を覚ますことはなかった。
 それから、エミリーの新生活が始まった。一度は孤児院に戻ったエミリーだったけれど、大学入学を機に、一人暮らしを始めることになった。アンナもまた、一人暮らしをしていた。二人は今ではあの施設に入っていたときのように毎日は会えないけれど、頻繁にお互いの家を行き来していた。エミリーは以前とは見違えるほど笑顔であふれている。大学にもたくさん友達ができた。そして今、孤児院の職員として働くために、毎日勉強に励んでいる。エミリーが育った孤児院に、理想の職員がいたわけでも、もちろん昔からの夢でもない。エミリーが数年前のエミリーと大きく違うのは、自分の居場所をみつけたということだ。エミリーには、アンナという友達ができた。彼女はエミリーにとって一筋の光だった。エミリーという存在を認め、大切にしてくれた。つらい時は励ましてくれて、元気をくれた。そんなアンナの温かさにエミリーは触れ、孤独の底から救われたのであった。だから今度は私が光になりたいと、エミリーは思ったのである。あの時失ったものは数えきれない。しかしエミリーは言う。
「人は一人でなんて生きていけないわ。そう教えてくれたリサに、私は感謝してるわ。」
 
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101102 ちょるる リトル・マーメイド  この世の中には、私たち人間の世界の他にも、私たちが知らないたくさんの世界が存在します。ここからは、そんな海に住む人魚の世界でのお話です。
 人間にその姿を見せてはならない人魚たちは、深い深い海の底でたくさんの魚たちと一緒に暮らしていました。陸に近い岩の上で、魚の友達フランダーと一緒に、カモメの友達フラットルと話し込んでいるのは、今日16歳の誕生日を迎えたばかりの、美しい人魚姫アリエルです。アリエルは7人姉妹の末っ子で、人間の世界に強い憧れを持つ、好奇心旺盛な人魚姫です。「これを見て!スカットル!とってもすてきでしょ!これ…人間たちはどうやって使っているのかしら。」アリエルは不思議そうにフォークを眺めながら、物知りのスカットルに尋ねます。「簡単さ!人間たちはね、これをこうやって使うのさ。」そう言いながら自信満々に、スカットルはフォークで頭のてっぺんの毛を整えながら言いました。「アリエル…早く帰ろうよ。そろそろパーティーも始まるころだよ。」フランダーはフォークで髪を梳かし始めるアリエルに心配そうに言います。「まぁっ!いけない!すっかり忘れてたわ!!またお父様に怒られちゃう。スカットルありがとう。またね。」そう言ってアリエルとフランダーの2人は、急いで海へ戻ります。
 そのころ、色とりどりの魚たちや海藻たちは、音楽を奏でたり、歌を歌ったりなどして、アリエルの登場を今か今かと待っていました。今日は16歳になったアリエルをお祝いする誕生日パーティーが行われる日。人魚の世界では、16歳からは大人の人魚として認められます。アリエルの父トリトンとお姉さんたちも、この時を楽しみに待っていました。そこへ、父トリトンの使いである蟹のセバスチャンが登場し言います。「おっほん…それではお待たせしました。16歳になりました、アリエル姫の登場です!!」会場は、アリエルの登場とあって大いに盛り上がります。しかし、もちろんアリエルの姿はありません。「これはどういうことだ!アリエルはどこへ行ったのだ!!」父トリトンは、怒りに震えています。このように、いつも勝手なことばかりするアリエルに、父トリトンは今日こそ我慢の限界にきていました。
 パーティーも終わったころ、アリエルたちはようやく帰ってきました。「アリエルこっちへ来なさい。今日は何の日だ?わしはお前に何と言っておったか覚えておるか?」父トリトンはアリエルを呼び止め尋ねます。「はい、お父様。今日は私のパーティーの日です。でも…忘れていたわけじゃないのよ…ヒレが石と石の間に挟まっちゃって動けなかったのよ…ごめんなさい…」そう言ってふと目線を下したアリエルは、自分の手に握られたフォークに気付きました。「あっ…」慌てて隠しましたが、父トリトンは見逃しませんでした。「それは何なんだアリエル!!どうせ、また陸に上っていたのだろう。あれだけ海の上には上るなと言っておっただろう!人間は危険だ。もう二度と海の上に行くのではない。人間にも、人間に関わるものすべてにおいても、二度と関わるのではないぞ、いいな。」そう言うと、アリエルの持っていたフォークを取り上げて、父トリトンは部屋へ戻って行きました。
 「お父様は分からずやよ!人間が危険だなんて。人間の素晴らしさを分かってないのよ。」やはり人間の世界への憧れが消えることのないアリエル。気付くとアリエルは一人、海の上へ顔を出していました。アリエルの目の前には、大きな船が浮かんでいます。船からは、楽しげな音楽と人間の声が聞こえてきます。アリエルは興味深々で船へと近づいていきます。船に開いた小さな穴から、アリエルはそっと中を覗き込みます。「わぁ…人間だわ。こんなに近くで人間を見たのは初めてよ。」アリエルは感動していました。今日は国王の息子、エリック王子の誕生日を祝うパーティーが船の上で開催されていたのです。そこへ、もさもさとした不思議な生き物と遊ぶ一人の男がアリエルの目に入ってきました。それは、愛犬マックスと遊ぶエリック王子でした。「不思議な生き物ね。初めて見たわ。」アリエルが目を丸くして見ていると、その視線に気付いたマックスが鼻をクンクンとさせながらアリエルの方へ近づいてきました。アリエルはとっさに船の陰に隠れます。「どうしたマックス。こっちへおいで。」そんなマックスをエリック王子は向こうから呼びます。「はぁ…なんてすてきなの。」アリエルは穴から見えるエリック王子を見てうっとりとしていました。するとその瞬間、強い風がビューンっと吹いたかと思うと、天気は一変し、外は嵐になりました。同時に船も大きく揺れ出しました。船の上では人間達がパニックになっています。さらに、船の揺れでロウソクの火は燃え移り、船からは大きな火が上がっています。人間達は次々と海に飛び込んでいきます。エリック王子も飛び込みました。しかし、マックスは恐怖のあまり海に飛び込めません。「マックス!」エリック王子は船に戻るとマックスを抱きかかえ、海で緊急ボートに乗る使いたちにマックスを託しました。それと同時に、船は傾き、エリック王子も海へと投げ出されてしまいます。「王子―!!」使いたちはエリック王子の姿を見失ってしまいました。そんな様子を見ていたアリエル。ふと先を見ると、そこにはエリック王子が浮かんでいました。「大変!!」アリエルはすぐさまエリック王子を抱え、岸へと運びました。「どうしたらいいの…」アリエルはどうすればよいのか分からず、気持ちを込めて歌いながら王子の回復を願うしかありませんでした。すると、そんなアリエルの美しい声に王子は目を覚ましました。「あっいけない。」アリエルは姿を見られては困ると急いで海へと帰りました。「僕を助けてくれたのか。それにしてもあの美しい声は…」王子の耳にはアリエルの美しい声が残っていました。
岩陰に作ったアリエルの秘密のコレクション部屋。そこには、陸や沈んだ船の中で拾ったもの、またスカットルからもらったものなど、人間に関わるものがたくさん飾ってあります。これらを見ながら、アリエルは寝ても覚めても、あのエリック王子のことを考えていました。 アリエルはエリック王子のことを考える度、そこへ通います。しかし、度々どこかへ出かけていくアリエルを見て不思議に思った父トリトン。また人間に関わっているのではないのかと思い、使いのセバスチャンに、アリエルのことをずっと見張っておくように命じます。
そんなことなど知らないアリエル。今日もいつものようにコレクションの部屋に向かいます。その後ろを、セバスチャンもこっそりと付いて行きます。そして、コレクションの部屋にたどり着いたセバスチャンは言葉を失いました。「こ…これはすごいぞ…」セバスチャンも見たことがないものがたくさん飾ってありました。「これは、王様にバレでもしたら…僕の首までとんでしまうぞ。だまっておいた方がよさそうだ。」そう思い、見なかったことにしようと帰るセバスチャンでしたがその帰る途中、運悪く王トリトンに出会ってしまいます。「おう、セバスチャン。最近のアリエルはどうだ?人間に関わったりはしていないだろうな?」頑張って平然を装いますが、嘘がつけないセバスチャン。「は…はい…関わると言っても…人間の道具をコレクションしているくらいで…あっ…」思わず口を滑らせたセバスチャンは体をブルブルと震わせます。「何だと?コレクション?あれだけ人間のものにも関わるなと言っておいたのに!!」そう言うと、セバスチャンを引き連れて、父トリトンはアリエルの元へと向かいます。
 「やっぱり人間は素晴らしいわ。あぁ…人間に会いたいわ。」アリエルはコレクションを見ながらうっとりしています。そこへ、「アリエル!!見つけたぞ!!何と…こんなにも危険なものを隠し持っておったとは!!」セバスチャンの案内でたどり着いた父トリトンは、アリエルのコレクションを見るなり怒りで震え出しました。「お父様!どうしてここが?」アリエルは驚きました。「そんなことどうでもいいのだ!こんなもの消えてしまえ!!」そう言うと、父トリトンは持っていた魔法の矛でコレクションを壊していきます。ガシャーン!ドシャーン!「やめて、お父様!!お願いだから!」アリエルの目の前で、宝物が次々に壊されていきます。そしてとうとう父トリトンは、アリエルの宝物を1つも残さず消し去りました。それからというもの、アリエルは泣いてばかりいました。父トリトンに人間と関わるなと言われれば言われるほど、アリエルの人間の世界への憧れは強くなっていくのです。
 そんなアリエルの様子を、魔法の水晶で笑みを浮かべながら見ていたのは、海の魔女アースラ。アースラには、アリエルの父トリトンに、昔人魚の世界から追放されたという強い恨みがあります。「これはいいチャンスじゃないか。トリトンはアリエルのことになったら、きっとあの矛を私に手渡すだろう。ふっふっふっ、この娘を利用して、今度こそこの私が海の女王になって、この海のすべてを支配してやるわ。あっはっはっはっ…」トリトンの持つ矛は偉大な魔力を持ち、その矛を持つ者が、海を支配出来るとされているのです。
「元気だしなよ、アリエル。」友達のフランダ―は、岩陰で泣いていたアリエルをなぐさめています。そこへ、「どうしたんだい、おじょうちゃん。」不気味な魔女アースラは優しい言葉をかけます。「私はね、魔法使いなのさ。おじょうちゃんがどうして悲しんでいるのか、そして何を願っているのかはすべてお見通しなのさ。おじょうちゃん、人間になってはどうかい?分からずやなお父さんからも解放されたくはないかい?」「どうして分かるの?ほんとに魔法使い?…なれるの?人間に。」「なれるとも!しかし、それには条件がある。そうだなぁ…おじょうちゃんの声を私にくれるだけで構わないよ。声はなくても、王子の心を捕らえることなど簡単のものさ。それと人間の姿でいられるのは3日間だけ。その3日を過ぎたら、おじょうちゃんには私の手下となってもらおう。ただし、その間に王子とキスをしたら、永遠におじょうちゃんは人間のままさ。」そう言うと、アースラは、アリエルの声を閉じ込めておく貝殻と、誓約書を取り出しました。「さぁ、うったって!この貝の中に声を吹き込むのよ!そしてここにサインを…」「だめだよアリエル!一生海に戻って来れなくなっちゃう。」フランダ―は必死に止めますが、アリエルは高ぶる感情のまま、その美しい声で歌いながら誓約書にサインをしてしまいました。アリエルの声は貝の中へとするすると吸い込まれていきます。すると次の瞬間には、アリエルの人魚のヒレは二本の人間の足へと変わっていき、息も苦しくなっていきました。「苦しい…」
フランダ―は苦しがるアリエルを一生懸命に引っ張り、アリエルももがいてもがいて、やっとの思いで陸に上がりました。そのとき、空を飛んでいたスカットルはアリエルを見つけて言いました。「アリエルじゃないか、どうしたんだ?」しかしアリエルの返事はありません。フランダ―は今までのことをスカットルに説明しました。「そういうことなのか。とりあえず、服を着なきゃだな。」そう言うと近くに落ちていた布をアリエルの体にぐるぐると巻きつけます。「これで完璧だ。」すると、遠くの方からこえが聞こえてきます。「マックス!」あれはエリック王子の声です。フランダ―とスカットルは岩陰から見守ります。アリエルはエリック王子を呼ぼうとしましたが、やはり声は出ません。落ち込んでいると、マックスがアリエルの元に走ってきました。エリック王子もそのあとを追ってやってきました。「やぁ、こんにちは。こんなところでどうしたんだい?…君、どこかで会ったかい?」アリエルは身振り手振りで説明しますが伝わりません。エリック王子は美しいアリエルを見て、美しい声を持ったあのときの女の人を思い出しました。しかし声が出ない様子を見て、エリック王子は自分の勘違いだと思います。「その洋服…とりあえずこっちへおいで。」汚れた布をまとったアリエルを、心優しいエリック王子は自分の城へと連れていきました。
 身寄りのないアリエルを,少しの間城に住まわせることにしたエリック王子でしたが、アリエルの美しさに、徐々に心を惹かれていきます。そんな様子を見ていたアースラは、アリエルにキスをされてはならないと焦ります。そこで、自ら美しい女の姿となり、自分がエリック王子の気を引いて、2人の仲を引き裂こうと考えます。アースラは、アリエルの声を使って歌い、エリック王子がそれに気付くのを待ちました。そこへ、アースラの思惑通り近くを通りかかったエリック王子が、その聞き覚えのある美しい歌声に気付き、歌う女に近づきます。「この歌声は…あなたはもしかして、あのとき僕を助けてくれたお方ですか?」目の前で歌う女を、エリックは、事故以来ずっと探し求めてきたあの運命の人だと信じてしまいます。「は…はい。私もあなたのことをずっと探していました。」そういうと女はにっこりと笑いました。「ようやく見つけた!君は僕の運命の人だ。今すぐにでも、僕と結婚してください。」エリック王子はすぐさま城に戻り、この美しい女との結婚式を今すぐ挙げるように使いたちに手配させました。
 船の上では結婚式の準備が次々に進んでいます。エリック王子の結婚の話はすぐに町中に広がり、海にまでもその話は広がりました。もちろん、アリエルの耳にも入ってきました。アリエルはどうすることもできずに、ただ涙を流すばかりです。「ふっふっふっ。思い通りにいった!」女は結婚式の準備をしながら、鏡を見て笑っていましたが、その鏡の中に映るのは悪い笑みを浮かべるアースラの姿でした。そこへ、たまたま窓の外を通りかかったスカットルは驚きます。「な…なんてことだ!あれは間違いなくアースラだ!王子が結婚する相手というのは、アースラなのか!大変だ。アリエルに知らせなければ!」急いでアリエルの元へと飛んで行きます。そのころ、船の上では既に結婚式が始まっていました。「この度、王子がご結婚されることになりました。」司会者の言葉で周りの人々も大いに盛り上がっています。事態を知ったアリエルも船へと急ぎますが、人間の姿ではどうしても泳ぎが遅いのです。「頑張って、アリエル。もう少しだ。」そんなアリエルを、スカットルは必死に海に浮かぶ船の元へと引っ張って連れていきます。
 そんな一方で、フランダ―はトリトンにこの事態を伝えにいきます。これまでの話を聞いたトリトンは、アリエルの命が危ないと知り、急いでアリエルの元へと向かいます。「なんてことだ。今日で3日目だ…急がなければ。」
 「それではお2人、誓いのキスを…」船の上で、牧師が2人に優しく言います。アースラにエリック王子がキスをしようとしたそのとき、「待って!!」アリエルがやっとの思いで到着しました。しかし、そんなアリエルをあざ笑うアースラ。「あっはっはっは、もう遅いぞ。今日で約束の3日目だ。残念だったな。お前は約束通り、私の手下となるのだ。」そういうと、アースラは今までの美しい人間の姿からいつもの不気味な魔女の姿へと変わり、アリエルを捕らえました。「たすけて…」そこへ、父トリトンが到着します。「アースラ、今すぐアリエルを離すのだ!さもないとどうなるか分かっておるな?」トリトンはそう言うと、魔法の矛をアースラに向けました。「ふっ、そんなことして、お前のかわいい娘がどうなってもいいのだな?私にその矛を渡せ。そうしたら、この娘は解放してやる。」アースラもそういうと、アリエルの首に手を強く巻きつけ、アリエルに魔法をかけようとします。「やめろ…わかった。アリエルを手下にする代わりに、わしをおまえの思うままにするがよい。だからアリエルを解放するのだ。」「なんて娘思いの父親なのかしら。お前がそう望むのなら、そうさせてもらおう。」そういうと、トリトンから矛を奪い、トリトンを醜い姿へと変えてしまいました。「だめよ!お父様!!」アリエルは叫びましたが時はもう遅く…「やっと、やっとこの瞬間が来たぞ。これで私が海の王よ!」アースラは大きな高い声で笑いながら、手にした矛で魔法を使って嵐を起こし、船を沈めようとします。「みんなそろって海の底へと沈んでしまうがよい。はっはっはー」と、その時でした。パリーン!!船が大きく揺れたため、アースラの首から提げてあった貝殻は勢いよく飛んでいき、船の床へと叩きつけられました。割れた貝の中からはアリエルの美しい歌声が聞こえたと同時に、声はアリエルの口の中へと吸い込まれていきました。「声が戻ったわ!」その様子を見ていたエリック王子もようやく今までの事を理解しました。「僕は今まで何をしていたんだ!アリエル!君があのとき僕を助けてくれた人だったんだね。あれからというもの、君のことを忘れたことなんてないよ。ずっと君を探していたんだ。」「やっと気付いてくれたのね。嬉しいわ。私もあなたのことを忘れたことなんて1日もないわ。」そういって、2人は手を取り合いました。「くっそー!!しかしもうどうだってよい!2人一緒に海へと沈むのだ!」アースラは魔法の矛の力でどんどん大きな体になっていきます。そしてその体でさらに大きな嵐を巻き起こし、ブンブンと船を大きく揺らします。そんな中、エリック王子も負けじと船の舵をとり、船のバランスをとります。「ここで船を沈めてたまるものか!」ジャッバーン!ジャバババーン!アースラとの戦いは激しくなります。そのとき、ぐさっ!!「ああーー!!!!」エリックが舵を執る船の先端がアースラのお腹へとぐさりと刺さりました。「あ…あ…」そして長い戦いの末、アースラは海の泡へと消えてゆきました。父トリトンも、魔法がとけて元通りとなりました。
 「お父様。本当にごめんなさい。お父様がこんなにも私の事を思ってくれていたことに、今まで気付かなかったわ。お父様、大好きよ。」アリエルは泣きながら、父トリトンに謝りました。「もういいんだよ、アリエル。わしも、お前のことを理解しようとしていなかったのかもしれん。許してくれ、アリエル。」父トリトンも謝ります。「お前はやっぱり、この王子が好きなのか?」さらに続けてトリトンは尋ねます。「はい。エリック王子が大好きです。」アリエルもそれに答えます。「そうか。お前の気持ちは十分分かったよ。」そう言うと、父トリトンは取り返した魔法の矛でアリエルに魔法をかけます。シャラ―ン。「アリエル。これでお前はもう永遠に人間じゃぞ。このエリック王子と幸せになるのだぞ。しかし寂しいから、たまにはわしにも会いに来てくれ。」「お父様!!本当に本当にありがとう。私、幸せになるわね。」アリエルはエリック王子と目を合わせ、幸せそうに微笑み合いました。
 それから後、アリエルとエリック王子は結婚し、2人の間にはメロディという元気な女の子も生まれました。そして、今まで別の世界に住んでいた、海の生き物と人間たちも、仲良く暮らしました。
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101103 #28YUI 魔法にかけられて ♪「真実の愛のキス いつか王子さまが アアアアアーアアアアアーアアアアアアアー、アアアアアー アアアアアー アアアアアアアー」歌うことが大好きなブリッジット姫。素敵な王子様と出会うことを夢見て、森のお友だちと一緒に楽しく暮らしていました。彼女の住む世界は、幸福なアニメの世界、アンダレーシア。
「ねえ、みんな、運命の人と出会ったとき、想いを伝えるには何をする?」
「しっぽをひっぱるのかな?」
「種をあげるのかなあ?」
♪「ううん、もっと素敵なことなのよ 真実の愛のキス いつか王子様が くれる幸せのしるし 唇はそのためにとても大事なもの そう真実の愛を伝える 運命のキス」
コンコン、コンコン。」ドアをノックする音が聞こえます。そこへやってきたのは、アンダレーシア国のカイへ王子です。目が合ったとたん二人は歌いだしました。
「なんて美しい人 これは運命の出会い 目と目が合ったとき恋に落ち 愛が芽生えた
真実の愛のキス」お互いに惹かれあった二人は、その日のうちに婚約しました。そのことは、すぐに国中に広まりました。しかし、カイへ王子の継母である悪の女王グレッタは、自分が女王の座を奪われることを恐れます。グレッタはりんご売りのおばあさんに変装し、ブリジット姫に近づきました。
「ブリジット姫や、ブリジット姫や。」
「なあに?おばあさん」
「今日結婚式をあげるそうだね。きれいなウエディングドレスだこと。お祝いにこのとってもおいしいりんごをあげよう。」
「ありがとう、じゃあ1つだけいただくわ。」
「そうかい。そうかい。おいしいから今すぐおたべ。」
ブリジット姫は、そのりんごを一口かじりました。すると、途端にめまいがしてきました。
ブリジット姫の足元には、別世界につながる井戸があります。めまいでふらふらしているブリジット姫をグレッタは、ポンッと一押し。ブリジット姫はまっさかまに井戸の中に落ちていきました。
「ヒッヒッヒッ、これで、この国は私のものだ。」
ブリジット姫がたどり着いた場所、それは、「永遠の幸せなど存在しない世界」現代都市のニューヨークでした。ニューヨークのど真ん中、工事中のマンホールのふたがポンッとはじけるような音とともにふっとびました。中からでてきたのは、ウエディングドレスをきたままのブリジット姫です。彼女は、ビルの高さや、溢れ返るような人の多さに驚きながら、愛するカイへ王子の名前を叫びます。
「カイへ王子!カイへ王子!私はここよ!早く助けにきて。」
気がつくと、辺りは暗くなってきています。ニューヨークの夜が近づいてきています。途方にくれているところへ、一組の父子が通りかかりました。仕事帰りの弁護士ベンと娘のローレンです。ローレンはブリジット姫を指差していいます。
「パパ、あそこにお姫様がいるよ!」
「そんなわけないだろう?」といって、ローレンの指差す方をみたベンは唖然としました。まるで、おとぎばなしから抜け出てきたようなお姫様がいるではありませんか。ベンとローレンは浮世離れしたブリジット姫の言動に困惑しつつも、彼女を助けます。二人は、天真爛漫なブリジット姫の人柄に触れ、次第に家族のように打ち解けていきます。
 一方、ブリジット姫が異世界につながる井戸に落っこちてしまったときいた、カイへ王子と勇敢なリスのコーピーは彼女を救いだすため、後を追い、現実の世界へと駆けつけます。しかし、悪の女王の手先のダザニエルの必死の妨害に悪戦苦闘し、なかなかブリジット姫を見つけることができません。
 ブリジット姫は、アンダレーシアという魔法の世界のお話をベンとローレンに聞かせます。もうすぐ、カイへ王子が助けにきてくれるということも。ベンとローレンは、ニューヨークのお話をします。ブリジット姫は、ベンにキャシーという恋人がいることを知ります。ベンとキャシーはお互いに忙しく、最近はすれ違いの日々をおくっていました。キャシーとの恋愛に思い悩み、
「恋愛なんて、そんなうまくいくもんじゃないさ。」
というベン。ブリジット姫は、現実の世界での恋愛の仕方と、自分の住む魔法の世界、アンダレーシアでの‘永遠の愛’との違いを知ります。ブリジット姫は、ベンの力になりたいと思い、ベンにある提案をします。
「ねえ、ベン。こういうのはどうかしら?キャシーにとってもきれいな花をプレゼントするの!かわいいハート型のリースにして。そうねー、私のお友だちのことりさんたちに運んでもらいましょう!あっ、あと、ダンスパーティの招待状もつけてね!」
そういうと、ブリジット姫は歌いだしました。
「アアアアアー アアアアアー アアアアアアアー アアアアアー アアアアアー アアアアアアアー」
彼女の素敵な歌声に、どこからともなくことりたちが集まってきました。歌いながらみんなでリースを仕上げていきます。
「よし、これで完成。キャシー、絶対に喜ぶわ!とっても素敵だもの。じゃあ、ことりさんたちお願いね!」
そういうと、ことりたちは、リースをくわえ、窓から出て行きました。少ししてから、ベンの携帯電話がなりました。キャシーからです。
「ベン!どうしたの?こんな素敵なプレゼント!本当にうれしい!!ダンスパーティにあなたがさそってくれるんんていつぶりかしら?楽しみにしてるわね!」
喜ぶキャシーからの電話をベンのそばできいていたブリジット姫はなぜか、素直に喜べていない自分に気付くのでした。
 そして、ダンスパーティ当日。ブリジット姫は、複雑な心境のまま、パーティ会場にいました。それもそのはず。一緒に生活するうちに、ベンに惹かれつつあったのです。そんな自分に気付き、戸惑いを隠せなくなっていたのでした。しかし、それは、ベンの方も同じだったようです・・・。パーティが始まり、音楽が鳴り始めたその時、数々のダザニエルの妨害を乗り越えた、カイへ王子と、リスのコーピーが現れました。カイへ王子は、ブリジット姫を見つけると、駆け寄り、姫の手をとりました。
「やっと会えた!ブリジット姫、おまたせいたしました。さあ、アンダレーシアに帰りましょう!」
ブリジット姫はとてもうれしく思う反面、素直に喜べていない自分に気付きました。
「ねえ、カイへ王子。せっかくだから、ダンスパーティに参加していきましょうよ!」
ブリジット姫の複雑な気持ちとは裏腹に、周りでは、軽快なダンスミュージックが流れ出しました。ブリジット姫はカイへ王子と、ベンはキャシーとダンスを踊ります。はたから見ると、とても幸せそうな二組のカップルです。曲調が変わり、うっとりするような音楽が流れ出しました。と同時に、アナウンスが流れました。
「お楽しみのみなさん、近くにいる人とパートナーを交換してダンスを楽しみましょう。」
ベンはブリジット姫と、カイへ王子はキャシーとペアを組みます。一緒に生活した時間は、ベン、ブリジット姫、お互いの思いを少しずつ大きくさせていたようです。ブリジット姫は、ベンへの想いを抑えきれなくなっていました。とうとう告白しようと、口を開きかけたその時、アナウンスが入り、音楽が変わり、パートナー交換タイムが終了しました。少し1人になろうと考えた、ブリジット姫は階段を上がり、隅の方に腰を下ろしました。
「パーティはたのしいかい?ヒッヒッヒッ・・・」
声のする方を見上げてみると、いつかのりんご売りのおばあさんが立っていました。
「あっ、あのときの・・・」
「疲れているようだね、ヒッヒッヒッ。このりんごをお食べ。すーぐに力が湧いてくるから。」
ブリジット姫は手渡されたりんごにすぐにかぶりつきました。
「ポトッ、コロコロコロ・・・」
りんごはブリジット姫の手からすべり落ち、階段を転げおち、カイへ王子の足にあたり、とまりました。カイへ王子はりんごを手に取り、辺りを見渡すと、階段の上でブリジット姫が倒れています。
「ブリジット姫―!!」
王子は叫びながらブリジット姫を抱きかかえ、近くのソファに寝かせました。ブリジット姫の手を握り、涙を流すカイへ王子の耳に小さな歌声が聞こえてきました。
「真実の愛のキス いつか王子様が・・・」
カイへ王子が音のほうを振り返ってみると、リスのコーピーが歌っていました。コーピーは、身振り手振りで、ブリジット姫にキスをするように伝えます。
「ああ〜!」
カイへ王子はそっとブリジット姫に口付けをしました。しかし、姫は目を覚ましません。もう一度、そして、もう一度、カイへ王子はブリジット姫に口付けをしますが、それでもやはり、姫は目を覚まそうとしません。カイへ王子は思い出したように、立ち上がり、ベンのところまでつかつかと歩いていきます。そして、ベンの手を掴み、ブリジット姫のところまで連れて行きます。そして、こういいました。
「私じゃない、きっとあなたなんだ。」
「そんなばかな・・・、そんなことあるはずが・・・」
ベンが動揺していると、コーピーがベンの肩に飛び乗り、また、歌い始めました。ベンは腰をおろし、ブリジット姫の頬に触れ、やさしく口付けをしました。すると・・・、ブリジットは目を覚まし、ゆっくりと起き上がりました。その様子を見ていた、ダンスパーティの招待客からは大きな拍手が生まれました。
「バリバリガッシャ−ン!!」
大きな破壊音が聞こえ、みんなが振り向いた視線の先には、グレッタが恐ろしい竜に姿を変えて、暴れていました。
「ブリジット、お前は本気で私を怒らせたようだ!」
そういうや否や、グレッタは長い手を伸ばし、ベンを一気に縛り上げてしまいました。
「こいつを返してほしけりゃ、上で勝負しようじゃないか。」と言い残し、さっさとホテルの屋上へと飛んでいってしまいました。それを見たブリジットは、カイへ王子から黄金の剣を借り、竜になったグレッタの後を追い、ビルの屋上へと上っていきました。
「アンダレーシア国の女王はこの私だけだー!」そう叫びながらブリジットを威嚇していました。ブリジットは、ベンを助けだそうと必死に黄金の剣で立ち向かいます。しかし、ついにブリジットはビルの端へと追いやられてしまいます。
「あれあれかわいそうなブリジット姫。これで、お別れだね。ヒッヒッヒッ・・・」
猛烈な火の玉をブリジットに噴き出したその時、グレッタの居た場所の地面が、重さに耐え切れず、音をたてて崩れ始めました。
「わあああああー、なんてことだ、私の、私の女王の座が・・・!!!」
そういいながら、グレッタは高い高いビルの屋上から真っ逆さまに落ちていきました。街の人がいうには、ビルから竜の形をした炎が落ちてきて、最後にはきれいなしずくとなって地面に降って来たのだそうです。
ベンは竜からは解放されましたが、気を失っています。
ブリジットはベンを抱きかかえ、涙を流しながら、彼にそっと口付けをしました。
ベンは目をさまし、二人は見つめあい、キスをしました。
「ローレンの待つ家に一緒に帰ろう。」
「アアアアアー アアアアアー アアアアアアアー・・・」
どこからともなく動物たちがやってきて、二人を祝福するかのように声をそろえて歌い始めたのでした。
「真実の愛のキス いつか王子様が くれる幸せのしるし 唇はそのためにとても大事なもの そう真実の愛を伝える 運命のキス」

8
101105 atsutyaku ペインの想い 渦の里のうずまきナルトは、出生時に仮面をした男の陰謀により、里が窮地に立たされ、その結果、尾を持つ獣である尾獣(びじゅう)「九尾(きゅうび)」を体に封印されました。それを狙い、世界平和という名の世界征服をしようと企む、犯罪組織集団「暁(あかつき)」から身を守るために、渦の里から遠く離れたところにある、蛙の国「妙木山(みょうぼくざん)」で、仙術を習得する厳しい修行をしていました。ナルトが修行をしている一方で、暁では、ナルトの師「自来也(じらいや)」を死に追いやった「ペイン」と名乗る者が、徐々に渦の里に近付きつつありました。渦の里は、ペインに関する情報は自来也がペインとの死闘でわずかながら残してくれたものしかなく、ペインがどのような奴なのか、どのような能力を使うのかは全くもって未知数であるのです。里を脅かすであろう暗雲が近付いていることを知らないナルトと宿敵ペイン、両者が対峙する時は、もう間もなくであります。
 ナルトが妙木山(みょうぼくざん)で修行をしているなか、「暁(あかつき)」のペイン達は渦の里近郊にまで近付いていました。これから、壮絶なる戦いが、起こるであろうことを知らない、里の者達は平和に穏やかな生活を送っていました。しかし、そんな中、里に張っている結界に侵入者を感知し、何が引っかかったのか詳細を知るために現場に上忍達を遣わせ、向かっていると、なんとそこには「暁」の衣を纏った全身からくりだらけの奴が里を壊し始めていました。現場に向かった忍達がその新たな敵と戦っていると、上空から突如、大きな怪物が降ってきました。渦の国全体がその大きな怪物たちにひるんでいると、さらに、その後ろには人影がおり、その人影が「口寄せの術」により入口で戦っているからくり野郎を含め、さらになにかを5体召喚しました。「口寄せの術」によって合計で6体が舞い降りてきました。そう、ペイン達が里に結界に張っているにも関わらず、上空からあっさりと侵入してしまったのです。しかもペインは1人ではなく6人もいたのでした。奇襲にうろたえながらも忍達は里を守るために戦い、ペインはナルトを捜し出すために里を破壊していき、両者の戦いは激しくぶつかり合い、渦の里は戦場と化してしまいました。ペイン6人は「ペイン六道(りくどう)」と名乗り、世界の平和が望みだと、そのためにはこの世界を一新し、新たな世界、新秩序を作りだす、と言いながら現れ、それぞれ「天道(てんどう)」、「餓鬼道(がきどう)」、「人間道(にんげんどう)」、「地獄道(じごくどう)」、「修羅道(しゅらどう)」、「畜生道(ちくしょうどう)」という強大な6つの力を使い、里を苦しめていきました。その中でも「畜生道」のペインは相手の頭に触れることで、瞬時にその対象者の記憶を読み取り、さらには魂まで抜いてしまう、といったとても厄介な能力を持っていました。そんな中、里がこれまでにないくらいの危機に瀕している様子を見て、ナルトの修行の成果は、恐らく、十分戦力になると考えた里の長「火影(ほかげ)」は、妙木山のナルトに対して一刻もはやく修行を完成させて里に戻ってくるように伝令役のカエルを遣わしました。しかし、その伝令役のカエルは里の何者かによって暗殺され、ナルトへの情報は一切断ち切られてしまったのです。その伝令役を始末した奴というのは、現在の「火影」のことをあまりよくは思っていない「ダンゾウ」という、火影の護衛や不安要素を排除するための機関である、暗部「根」を束ねるトップで、隙あらば自分が火影にとってかわってやろうと企んでいる輩でありました。ダンゾウはナルトの腹の中の九尾を決して「暁」には渡してはならないと考えており、もし、「暁」の手にナルトの居場所の情報が渡ってしまったなら、里どころか自分のもくろみも国も崩壊してしまうといことを危惧し、このまま、ナルトが渦の里からとても遠く離れたところに位置する「妙木山」にいるのなら居場所がばれることはないし、また、何があってもばらしてはならないので、すかさず伝令役のカエルを殺したのでした。また、敵の手にナルトが渡ろうなどということがあれば、ダンゾウ自らナルトを始末し、九尾を渡すまいとまで考えていたのでした。そのようにして、外界から一切の情報が遮断されたナルトは果たして渦の里の危機に間に合うのでしょうか。
 一方でナルトはカエルのフカサク様と大気から自然エネルギーを取り入れる修行に励んでいました。ナルトは自然エネルギーを取り入れただけで、自分の体に一体どんな変化があるのか信じられず、また取り入れた自然エネルギーのバランスが崩れると蛙化してしまい、化石と化してしまうという疑問や不安要素を持っていたので、フカサク様は見本として自然エネルギーを取り入れてみせました。すると、ナルトの足元ぐらいの身長しかないフカサク様は雲を突き破るほどの大岩の前に立ちました。ナルトはなにをするのだろうかと不安そうに見守っていると、突然フカサク様はその大岩を持ちあげ、隣に移動させて見せました。そう、自然エネルギーを取り入れると、通常の身体能力の何倍以上もの力が発揮されるのでした。それを見たナルトは自分の目標がきちんと見えたので、ますますやる気になり、修行に集中するのでありました。こうして、修行をしていくなかで、ナルトは自然エネルギーを取り込み、無事蛙化もすることなく取り入れることに成功したのでした。
 ナルトの到着を待つ渦の国の忍達。しかし、忍達は安堵の息をつくのも許されない程のペインとの壮絶な戦いの前に次々と散っていくのでありました。里の各地で戦いが繰り広げられているなか、自来也(じらいや)が持ち帰ってくれた情報のなかにある、ペインの死体には黒い杭のようなものが体の至るところに刺さっているのだが、それが、戦っているなかで、熱を持ち、反応をし始めたのでした。そのことを情報部に伝えるために、「火影」の部下であるシズネがその黒い杭を持ち情報部へと向かおうとしたところに、オレンジ色の髪で「暁」の赤い雲模様の衣を纏っている女の姿をしたペインの1人と首が3体もある化け狼に出会ってしまったのでした。なんとしてでもその有力な情報を情報部に伝えないといけないので、シズネの護衛隊がその女のペインと戦い、足止めをしておくので早く行くようにとシズネ達に伝えました。ある程度敵と距離をとりながらシズネ達は移動していき、一旦周りの様子を立ち止った、その瞬間、シズネの頭が何者かに鷲掴みにされ、仲間たちは一歩も動けず、成す術なくシズネは体から魂を抜かれ、その場に倒れ込んだのでした。シズネの頭を鷲掴みにした奴は、さっきの化け狼といた奴と少し似ていて、オレンジ色の長髪で、同じ用に赤い雲模様の衣を纏っているペインの1人でした。そのペインは魂をただ抜き取るだけでなく、体内に蓄積された記憶を瞬時に読み取る「畜生道」のペインだったのでした。一瞬にしてシズネは魂と記憶を抜き取られ、ナルトがこの渦の国にはいないということがペインにすぐに露呈してしまったのでした。それでもなお、親兄弟、子、老人達を守り、戦う忍達の前に、ペインは無情にも用がなくなった渦の国に対して、「天道(てんどう)」の力を使い、里を丸ごと吹き飛ばしてしまいました。人々はつい先刻まであった里の姿の消失に崩れ落ちるかのように意気消沈し、苦しみ、絶望の淵に立たされた、その時、立ち込める煙の中から一人の男が現れました。そう、ナルトが厳しい修行を終え、里に帰ってきたのでした。立ち込める煙が晴れ、ナルトの目に真っ先に映ったもの、それは、無残にも跡形もなく消し飛ばされた渦の里の姿でありました。怒りが立ち込めるナルトは、新しく手に入れた「仙術」の力を使って、外気にあふれる生命エネルギーを取り入れ、「仙人モード」という普通の何倍もの力を発揮することができる能力を使い、怒りに身を任せてペインに突っ込んでいきました。「仙人モード」のナルトは完成形「風遁 螺旋手裏剣(ふうとん らせんしゅりけん)」という大技を使い、ペイン達に苦戦しながらも、なんとか、ペイン六道のうち5人を倒していきました。しかし、最後の一人になった時、「仙人モード」のナルトはペインの力の源を逆探知し、ペイン六道の本体は別の人物がどこかで遠隔操作をしていることが判明した。ナルトは本体とケリをつけるため、最後の1人を九尾の力が暴走しかけつつも、やっとのことで倒し、逆探知した場所へと向かったのでした。到着したナルトの目の前にはペイン同様赤い衣を纏った紙を操る女「小南(こなん)」と、恐らく、黒幕であろう、やせ細っており、椅子に腰をかけている男「長門(ながと)」がいました。長門はナルトに対して、「真の平和とは存在しない。平和の裏側には必ず、悲しみと痛みが存在するのだ。」と言い、ナルトに「平和とは何なのか?」という問いを与え、過去に平和を求め、仲間と活動していたが、その仲間が策略によりはめられ、みすみす死なしてしまったという出来事をナルトに話してくれたのでした。ナルトはその話を聞いたが、長門の問いに対する答えはまだ出ず、とても悩んでいました。さらに、長門の昔話を聞いていくうちに、長門とナルトは今は無き渦潮の国の同じうずまき一族であり、同郷であることが判明しました。長門はナルトにとって最後の同じ一族の生き残りであり、大切な存在であるが、渦の里を壊滅状態に追いやった張本人であるため、許せずにおり、激しい葛藤の中にいるのでした。しかし、そんな中ナルトは答えを導き出したのでした。その答えというのは、「長門の痛みはとてもよく分かった。だから、その痛みもすべて俺が引き受ける!その痛みを忘れず、俺が世界の痛みを引き受けてやる!」という言葉を放ちました。とても漠然とした答えではあるのだが、その言葉が長門の心に深く影響を与え、長門はナルトのことを信じてみようという気持ちに変わりました。そして、ナルトに自分の想いを託し、ナルトとの戦いで力を使い果たした上に、赤髪が白髪に変わるぐらい最後の力を振り絞り、この戦いで犠牲になった者を甦らせたのでした。その結果、渦の里の人々は甦り、その裏側で長門は力尽きたのでした。こうして、ナルトとペインの壮絶な戦いは終わり、ナルトの長門の想いをきちんと受け取り、平和をさがしていくのでした。
6
101106 さっと アンパンマンとチーズはじめてのけんか ある晴れた日のことです。にこにこ村というところに、一軒のパン工場がありました。
「おひさま、おはよう!今日もいい天気だなあ」
そのパン工場の窓を開けながら呟いたのはアンパンマン。アンパンマンはジャムおじさんのパン工場で生まれました。ジャムおじさんの作ったあんパンに「いのちのほし」が落ちてきて、いのちがめばえたのです。ジャムおじさんはとても喜んで、アンパンマンと名づけました。
「さあ、少しおなかがすいたなあ、昨日ジャムおじさんに作ってもらったあんころもちでも食べようかなあ!」
アンパンマンはこのあんころもちをとても楽しみにしていました。食べられる喜びに、にこにこしながら、あんころもちを入れておいた戸棚を開けました。
「あれ!!あんころもちがない!!!」
なんということでしょう。昨日確かにしまっておいたあんころもちがなくなっているのです。
「どこにいったんだろう・・」
アンパンマンがきょろきょろと辺りを見回していると、アンパンマンの声を聞いてジャムおじさんがやってきました。
「アンパンマン、どうしたんだい?」
「ジャムおじさん!それが、昨日ジャムおじさんに作ってもらったあんころもちがなくなっているんだ。ジャムおじさん、どこか別の場所にしまった?」
「いや、わたしは知らないよ。どうしてないんだろう?別のところに入れておいたんじゃないのかい?」
「ううん、ここにしまったはずなんだけど・・」
アンパンマンがしょんぼりしながら、あたりをきょろきょろと見回していると、パン工場に住んでいる名犬チーズがやってきました。チーズはアンパンマンが大好きで、二人はとても仲良しなのです。
「ワン!(どうしたの?)」
「チーズ!実は・・」
事情を説明しようとチーズの方を向いて、アンパンマンは言葉を失いました。チーズの口のまわりに、あんこがいっぱい付いていたのです。アンパンマンはびっくりして聞きました。
「チーズ、もしかしてここにあったあんころもちを食べたのかい?」
「ワン!ワンワンワン!(食べたよ!とってもおいしかった!!)」
アンパンマンは昨日から楽しみにしていただけにショックでした。しかし、食べてしまったものは仕方ありません。それは分かっているのに、少し悲しくなってしまいました。
「チーズ・・あれは昨日から僕が楽しみにしていたあんころもちだったんだ・・」
「ワン?ワンワン!ワワン!(そうなの?ごめんなさい!でもおいしかったよ!)」
チーズのあまり悪びれていない態度にアンパンマンは怒ってしまいました。
「言っていなかった僕も悪いけれど、君のその態度もなんなんだい!」
怒ったアンパンマンを初めてみたジャムおじさんは
「まあまあ、アンパンマン、あんころもちぐらいいつでも作ってあげるから・・」
と、なだめようとしましたが、
「僕はあんころもちが欲しくて怒っているんじゃない!チーズのその態度に怒っているんだ!」
アンパンマンは本当に怒っているようでした。そのようすを見てチーズは
「ワン!ワン!(アンパンマン!ごめんよ!)」
と謝りましたがアンパンマンは
「もういいよ、パトロールにいってくる・・」
そう言って空へと飛んで行ってしまいました。
「ワン・・(アンパンマン・・)」
チーズはしょぼんとしてアンパンマンの姿をずっと見つめていました。

アンパンマンは空を飛びながら反省していました。
(チーズは悪気があったわけじゃないのに、きつく言いすぎてしまったなあ・・。帰ったらすぐに謝らないと・・)
そんなことを考えながらパトロールをしていると
「わーん、おなかがすいたよう」
 地上から泣いている子供の声が聞こえました。アンパンマンは急いで声のする方へと空から降りました。子どもはひとりで泣いていました。
「君、どうしたの?」
アンパンマンは心配そうに聞きました。
「気付いたらお母さんいなくなっていて・・迷子になっちゃったの。お母さんのことを探していたらお腹もすいてきて、我慢できずに泣いちゃったの。」
子どもは答えました。
アンパンマンはにっこり笑って
「迷子になったときは泣かずに我慢したんだね、えらいね」
そう言って子どもの頭をなでると子供に自分の顔の上のほうをちぎって
「僕の顔をお食べ!きっと元気になるよ!」
「いいの?だいじょうぶなの?」
「大丈夫!ちょっとぐらいへっちゃらなんだ!さあ、はやくたべて!」
子供は泣くのをやめてパンを食べました。すると、みるみる元気になって
「ありがとう!とてもげんきになったよ!」
本当に元気に満ちた笑顔へと変わりました。アンパンマンはほっとしました。
「じゃあ、お母さんの所へ帰ろう。僕の背中に乗って。」
アンパンマンは子どもを乗せて、空を飛び始めました。
その様子を見つめる黒い影。
「アンパンマンめ・・!いつも正義の味方ぶって・・どうせ俺様は・・!!!!」
 この人はばいきんまん。アンパンマンを倒すためにバイキン星からやってきたのです。
「今日こそコテンパンにしてやるぞ!」
そう言って急いでアンパンマンの後を追いました。
アンパンマンは子どもをお母さんの元へと送りました。この村の人にはいつも笑顔でいてほしい。それがアンパンマンの願いなのです。親子と別れてからアンパンマンは思いました。
(チーズにもわらっていてほしい。一回帰ろう!)
そしてパン工場へと引き返しそうととぼうとしたそのとき、アンパンマンの目の前にばいきんまん号がやってきました。そのばいきんまん号からばいきんまんが降りてきました。
「アンパンマン!今日こそお前を倒すぞ!」
と、ばいきんまんは笑いながら言うと、ばいきんまん号に乗り込んで、ボタンを押してニヤッと笑いました。すると、空を飛ぶためのばいきんまん号がみるみる変形して、ホースを2本もったロボット型になりました。アンパンマンは驚きました。
「何をする気だ!」
それと同時にばいきんまんは
「くらえーーっ!」
と言ってホースから水を出して、アンパンマンの顔にかけようとしました。アンパンマンは「やめろ!」と、飛び上がり、ホースをつかみました。
「もうやめるんだ!ばいきんまん!!」
しかし、ばいきんまんは「うるさーい!」と言って、もう一個のホースでアンパンマンの顔にみずをかけました。少しアンパンマンの顔に水がかかりました。アンパンマンは一瞬ちからがゆるんでしまいましたが、これぐらいではやられません。どうにかして水をかけるのをやめさせようと2つのホースをつかみました。(やった!)と思った瞬間、ばいきんまん号からもう一本ホースが出てきたのです。
「なに?!」
アンパンマンが気配を感じて振り向いた瞬間、顔に思い切り水をかけられてアンパンマンはふらふらと倒れこんでしまいました。
「顔がぬれて力が出ない・・・」
そうです、アンパンマンはパンの顔が汚れたりぬれたりすると、力がでなくなってしまうのです。それを見たばいきんまんはうれしそうに言いました。
「はっひふっへほー!!アンパンマンはいつもツメがあまいんだよ!これでこの町の人気者は俺様だ!!」
そのようすを木の陰から見ていたチーズ。チーズはアンパンマンがパン工場を出た後、仲直りをしようと、アンパンマンのあとを追いかけていたのです。アンパンマンが倒れたのを見てチーズはびっくりして震えていましたが、早く助けなくては、と思いあわててジャムおじさんのパン工場へと伝えに行きました。

力が出なくなって倒れているアンパンマンにばいきんまんはとどめをさそうとしていました。
「アンパンマン!これで終わりだー!」
ばいきんまんはそう言ってばいきんまん号から足を出すボタンを押しました。そして、とどめをさそうと、アンパンマンを踏もうとしたその時
「アンパンマン新しい顔だよー!!」
というジャムおじさんの声と共に新しいアンパンマンの顔が飛んできました。新しい顔はアンパンマンの濡れた顔を押し飛ばし、代わりにアンパンマンの体の上に落ち着きました。すると、アンパンマンはみるみる元気になって
「元気100倍!アンパンマン!」
と、空を飛び回りました。
ばいきんまんは顔を青くして「これはまずい!」と逃げようとしましたが、アンパンマンは追いかけます。
「まてー!ばいきんまん!!」
ばいきんまんはばいきんまん号のスピードを最大にして逃げきろうとしましたが、おおきな石にぶつかってこけました。
「うわあ〜」
とばいきんまんがいろんな操作をしながら焦っているうちにアンパンマンはばいきんまんを捕まえました。
「もう許さないぞ!ばいきんまん!アーンパーンチ!」
と、アンパンマンお得意のパンチをばいきんまんに与えると、ばいきんまんは空の果てに飛んで行ってしまいました。「ばいばいきーん」と言いながら…
アンパンマンは、ジャムおじさんのもとにかけよりました。
すごくうれしそうな顔でアンパンマンは言いました。
「ジャムおじさん、新しい顔をありがとう!おかげで本当に助かりました!」
するとジャムおじさんは、ゆっくりと首を振って
「いやいや、チーズが教えてくれたんだよ。アンパンマンが危ないって。チーズはあのあと仲直りしたくて、アンパンマンのことを追いかけていたんだ。」
と、チーズを見下ろしながら言いました。
「チーズが?ぼくあんなにひどい態度をとったのに・・」
アンパンマンがチーズの方を見ると
「ワン・・ワンワン!(ごめんなさい・・ほんとうに!)」
「チーズ、ぼくこそ本当にごめん。それから、たすけてくれてありがとう!」
「ワン!!!(アンパンマン!)」
チーズは嬉しそうに吠えると、アンパンマンにすり寄りました。
その光景を見ていたジャムおじさんはにっこりとわらって言いました。
「よし、じゃあ仲直りもしたことだし、帰ってみんなであんころもちを食べよう!」
アンパンマンとチーズは顔を見合わせて
「やった!」「ワン!(やった!)」
と声を合わせて言いました。そしてチーズを背中に乗せて、仲良くパン工場へと帰って行きました。
6
101107 KAT0R1BUTA 新しい色
 私はリサ。このあたりでは珍しい、レンガ造りで縦に長い家に住んでいる。この家の女主人。娘のアンと二人暮らしをしている。
 最近あった素敵な出来事を、たくさんの人に聞いて欲しくて、今これを書いている。

 彼と出会ったのは、綺麗な桜の木が、家へと続く遊舗道を鮮やかにしてくれる春だった。アンが小学校へ進学するこの年、学生に部屋を貸す決意をした。理由はいろいろあった。家で龍の置物を作る仕事をしているため、アンと遊ぶ時間を作れていなかったから、代わりに遊んでくれる人が欲しかった。余っている部屋がたくさんあったし、大好きな料理をもっといろんな人に食べてもらいたかった。そんな理由から、「子どもが好きな人、龍が好きな人、私の料理をおいしいと言って食べてくれる人」という少し変わった条件を付けて、下宿人を募集した。すぐに今年の春、芸術大学に進学し、ちょうど下宿先を探していたという男子学生から連絡があり、条件も飲めるということだったので、今日来ることになっていた。
 初めてのことでどきどきする気持ちと、楽しみでわくわくする気持ちが混在していた。気を落ち着かせようと、新しい龍の置物を作ることにした。
 私の作る龍はただの置物ではない。彼らは息をし、空を飛び、火を噴いた。生きているのだ。
アン「ママ、もうすぐ来る?」
リサ「そうねぇ……。約束の時間はとっくに過ぎているわ。」
アン「龍を作るの?今作りだしたら、お出迎えできないじゃない。」
リサ「そうね、アンがお出迎えしてちょうだい。来たら呼んでね。」
私はアンに言い、「龍の部屋」へ入った。「龍の部屋」とは、今までに生まれた龍がたくさんいる部屋で、私の仕事場だ。私は仕事に取りかかった。まだ顔も見たことのない、新しい家族を思い描いて、粘土をこねた。この家に住む者はみんな自分の特別な龍を持っている。だから、彼にも1頭プレゼントしようと思い付いたからだ。

「ピンポーン。」
アン「はぁーい。」
インターホンの音に気付かなかった私の代わりに、アンが出た。そして、すぐにアンの大きな声が聞こえた。
アン「ママ―!来たよー。早く早く!」
私はその声に急いで手を拭き、階段を降りて玄関に向かった。そこには栗色の髪に、真っ黒な目をした青年が立っていた。
青年「今日から下宿させていただくことになっていたナオキです。遅くなってしまってすみません。あまりにも外の桜が綺麗だったものですから、見とれてしまって……。」
リサ「そう、ふふっ。私がここの主のリサよ。こちらこそごめんなさい。バタバタしちゃて……。こんな恰好だし。」
私が来ていたエプロンは緑色の絵具で汚れ、手にも顔にも絵具がとんでいるのが、玄関の鏡に映った姿で分かった。
リサ「そうそう、こっちは私の娘のアンね。」
私の紹介に、アンはニタっと笑顔で応えた。
リサ「じゃあ上がって待っててくれるかしら。もう少しなの。アン、後よろしく。」
そう言い残して私は階段をバタバタと駆け上っていった。
ナオキ「どうしたの?」
アン「新しい龍が生まれるの。作り始めたら最後までやりきりたいみたい。」
そう話す二人の声が聞こえたが、「龍の部屋」に入り、
リサ「みんな見たかしら?彼が新しい家族よ。きっと彼に似た素敵な龍が生まれるわ。」

 私はナオキを想って龍を作り始めた。ナオキの目は綺麗な黒だったけれど、その奥に鮮やかな色を感じ取れた。きっと彼の描く絵はさまざまな色であふれているのだろうと思った。そんなことを考えながら粘土をこねた。太くしっかりした足に長い尾、緑色のうろこに、大きな翼。ナオキによく似た格好いい龍ができた。
リサ「できたわ。さぁ、命を吹き込みましょう。」
私はいつものように、龍の口元に息を吹きかけた。すると、龍が(筆とスケッチブックが欲しい)と伝えてきた。どうしてかわからなかったけれど、私は2つを持たせてあげた。
リサ「あとは焼くだけね。じゃあ、みんなよろしく。」
私はそう部屋にいた龍たちに頼み、「龍の部屋」を出た。階段の下を見ると、ナオキが不思議そうな顔で、「龍の部屋」のドアを見上げていた。「ハァ〜。」というため息のような音が響いていた。
 
 ナオキはアンから家中を案内された後で、自分の部屋へ行くところだったらしい。
ナオキ「今から絵を描くんです。ここは、とても素敵なところだから、きっといい絵が描けると思います。」
ナオキは部屋へ向かった。とても嬉しいことを言ってくれたので、早く龍をプレゼントしたくなった。

アン「もうすぐできる?」
リサ「ええ、もうすぐよ。今みんなが焼いてくれているの。」
アン「後で見せてもらおう!」
リサ「ナオキは今から絵を描くみたいよ。紅茶とお菓子を差し入れしましょう。」
アン「私が運ぶ!!」
私とアンは紅茶と朝焼いたチーズケーキを持って、ナオキの部屋へ向かった。少しドアが開いていた。絵具のにおいが漏れていた。
アン「入ってもいい?」
ナオキ「どうぞ。」
リサ「進み具合はどうかしら。これ良かったら食べてね。」
ナオキ「ありがとうございます。いただきます。……絵は……、なかなか思うようにいかないんです。来る道の風に吹かれる桜や、庭の花、公園にいた生き物、この家の温かい雰囲気、描きたいものがたくさんあって、このドキドキする気持ちを、上手く色で表せられないんだ……。」
とナオキは言った。私ははっとした。
リサ「だから筆とスケッチブックをお願いしたのね。」
つい小声で答えてしまった。
ナオキ「何?」
訳がわからないという顔をナオキがしていた。彼は私の仕事を詳しくは知らない。龍の持ち主が龍に名前を付け、愛してあげると、いろいろと手を貸してくれる命ある龍を生んでいるということを……。
リサ「大丈夫よ。もうすぐ助っ人ができるの。そうね、しばらく休憩するといいんじゃないかしら。」
まだよくわからないとナオキは首をかしげ、筆とスケッチブックを机の上に置いた。私は「龍の部屋」へ戻り、様子をみた。ナオキの龍は焼けていて、綺麗な緑色の鱗が輝いていた。
リサ「あなたは彼を気に入ったのね。彼と一緒の筆やスケッチブックを持ちたいだなんて。さっそく手伝ってあげて。」
私は彼に小さなベレー帽をその場にあった布で作り、被せてあげた。

 龍を持って、ナオキの部屋に戻った。ドアの隙間を廊下から覗くと、部屋を出たときと同じで、ナオキは椅子に座って、うなだれていた。机の上の絵具が少し渇き始めていた。アンがナオキのそばで彼を慰めていた。
アン「大丈夫よ。才能があるから芸術大学に入れたんでしょ。私絵の才能はないけれど、きっとない才能を何とかするのは難しいけれど、ある才能を何とかするのは簡単なことなのよ。なにかきっかけがあればまた描けるようになるわ。」
廊下で盗み聞きしていた私は、アンの成長ぶりに私は驚いた。小学生になるアンが更にどんな成長をみせるか楽しみになった。
アン「それにね、あぁ早く来ないかな。早く会いたい。」
ナオキ「何に?」
アン「それは秘密よ。楽しみがなくなっちゃうわ。」
ナオキ「でも、気になるじゃないか。」
アン「うーん……、新しいお友達!あなたを助けてくれる新しいお友達!」
ナオキ「さっきリサが言っていた?」
アン「そうそう。私にもいるんだけど、“ムーくん”っていって、いつも私がさみしいときとか、悲しい時に歌ってくれるの。」
ナオキ「へぇ、でも、リサは“できる”って言ってたよ。人じゃないの?!」
ナオキが本当に意味が分からないという様子で、困っていたので部屋の中に入った。
アン「来た、来た来た!」
リサ「お待たせ。アンからいろいろ聞いていたみたいだけど。」
私はいたずらっぽくナオキに言ってみた。
ナオキ「でも、よくわからなくって……。」
リサ「そうね。」
アン「でも、頑張って説明しようとしたのよ。」
リサ「わかってるから大丈夫よ。」
私はアンの頭に手をおいた。本当に大きくなったと実感した。
リサ「さぁ、これよ。ナオキにプレゼント。彼がさっきから話題の助っ人よ。」
ナオキ「えっ?龍?あっ、でも素敵な龍ですね。恰好いい!筆にスケッチブックに、ベレー帽。僕にぴったりですね。ありがとうございます。大切にします。でも相談するって……。」
リサ「ずっと好きでいてね。」
アン「ねぇねぇ、名前!名前を付けて!」
口々に言いたいことを言ってしまってナオキは困惑していた。でも困った顔が可愛くて、少し笑ってしまった。

ナオキ「え?名前?この龍に?」
アン「そうよ、早く!じゃないと助けてくれないんだから。」
ナオキ「うーん、良く分からないけれど……、じゃあ……“ズーキー”。」
ナオキがそう名付けると、龍はその名前を気に入ったのか、羽ばたき始めた。そしてどんどん、どんどん大きくなり、部屋いっぱいになった。これには私も驚いた。アンの龍も私の龍も大きくなったりはしたことがないからだ。
ナオキ「えっ、何?どういうこと?本物だったのか?置物じゃなかったのか?」
アン「わぁあ……。」
私も無言で見上げてしまっていた。すると、ズーキーがこちらを見て言った。
ズーキー(助けてあげたいんだ。僕らの世界に連れて行くよ。)
リサ「ナオキ、ズーキーが助けてくれるって。名前が気に入ったみたいよ。」
作り親と名付け親は彼らの言葉が心に直接届くことを知らないナオキは、目を丸くしてこちらを見た。
リサ「耳を澄ませて心に聞いてごらん。あなたの龍だから、きっと想いが伝わってくるはずよ。」
ナオキは私が言ったことを素直に聞いて、手を胸にあて、ズーキーの目をじっと見つめた。
ナオキ「背中に乗れって……。」
ズーキーは大きくうなづいた。そして、ナオキの襟を銜え、背中に乗せた。
ナオキ「わぁ!」
リサ「彼がいいところへ連れて行ってくれるわ。私とアンはそこへは行けないの。『守り人』の役割があるから……。ちゃんと見守っているから、信じて行っておいで。」
新しい旅立ちを見送るように少し切なくなったのは、龍の世界の存在を忘れていたからのような気がした。私はどんな顔をしていたのだろうか。少し間が開いて、ナオキが笑顔で言った。
ナオキ「ここへ来て不思議な想いをするばかりで、今すごく困惑しています。でも、それは、ここの下宿人募集のチラシを見たときからそうだったし、それ以上にあなたたちには本当に良くしてもらっているし、なんだか楽しいです。僕はリサさんとアンを信じているので、ちょっと彼に連れられて行ってみます。」
私はナオキの言葉が本当に嬉しかった。
リサ「ありがとう。帰ってきたらきちんと説明するわ。」
アン「1日かけてお話してあげる。」
照れ笑いを浮かべてしまっている私に対し、屈託のない笑顔を見せるアンと、ズーキーに跨り、きりっとしまった笑顔を見せるナオキに私は一人心に誓った。龍だけの『守り人』ではなく、2人の『守り人』にもなろうと決心しました。

ズーキー「グォー!」
ズーキーが吠えるとともに、風が勢いよく吹き込み窓を開け放つと、ナオキを乗せて窓から飛び立った。アンは窓のそばへ駆け寄り、小さくなっていくズーキーたちに手を振り続けていたが、私は急いで自分の部屋に向かった。

 部屋に入ると、右手にある本棚の戸を開けた。淡い橙色の私の龍“ローズ”が置いてあるからだ。
リサ「ローズ、久しぶりに目を貸してくれるかしら。」
私の特別な龍はアンの龍みたいに歌ってくれたり、ナオキの龍みたいに背に乗せてくれたりはしない。でも、目を貸してくれる。彼女が見た風景を私が見ることができるのだ。龍の世界へ行くことは出来ない私の代わりに、ローズに見て来てもらおうと思ったのだ。大丈夫とは思っているが、ナオキが心配で仕方なかった。
ローズ「いいわ。あなたの頼みは断れないわよ。私たちのお母さんなんだから。」
そう言って、すぐに翼を広げ、部屋の窓から飛び立って行った。
リサ「ありがと。」

 ローズが出て行った後、私は椅子に座り、目を閉じた。すると、まぶたの裏が明るくなり、青く澄み切った空が見えてきた。しばらくすると、緑にあふれた島が見えてきた。龍の世界に着いたのだ。来るのは2度目だけれど、本当に綺麗で素敵な世界だと思う。たくさんの龍が自由に暮らしている。島の中央には高くそびえたつ山があり、この世界の主の“ハイドン”が頂上で暮らしている。彼は唯一の本物の龍だ。たくさんいる龍だが、彼以外は私たちが生んだ龍たちだった。
彼の漆黒の鱗と大きな翼、鋭くとがった尾は他の龍も怯えるほどだった。
 ローズはハイドンが住む山の少し手前にある、小さな丘の上に降りた。あたりを見回すと、龍たちが集まっているところがあった。ローズはそこへ飛んで向かった。
ナオキ「あ、今度は淡い橙色の龍だ。本当に綺麗だなぁ。」
ナオキがその龍たちの作る円の中心にいた。ナオキの目はキラキラと輝いていた。突然ものすごい突風が吹いた。頭上を一頭の龍が飛び去っていったのだ。きらりと何かが太陽の光を反射させながら落ちてきた。
ナオキ「何だろう……。あっ、鱗だ!」
ナオキの足元へ飛び去った龍の鱗がはらりと落ちた。それは透き通るような薄い青色だった。
ナオキ「綺麗……。」
その鱗を持ち上げ、ナオキが言った。鱗を指でなぞると、指の熱で色が溶け、絵具のように指に付いた。ナオキはそれを無言で見つめていた。ズーキーはその横で振り返って、自分の背中の緑色の鱗を見ていた。

 すると、突然大地を震わせるくらいの大きな鳴き声が聞こえて、ハイドンが飛び降りてきた。怒っているようだ。ナオキを囲んでいた龍たちは驚いて飛び立って行ってしまった。ナオキはただただ驚いている。少しの間が開いて、ナオキが後ずさりをしながら、手を振りだした。
ナオキ「違う違う。君を退治しに来たんでも、龍たちを追い出そうとしに来たんでもないよ。ただ僕は……。」
どうやらハイドンが余所者を追い出しに来たみたいだった。その場へ行けない私と、硬直してしまったローズは、ただただその様子を見ていることしかできなかった。
ナオキ「僕は色を探しに来ただけなんだ。落ち着いて!」
ハイドンは唸り声をあげながら、どんどんナオキに近づいていく。
ナオキ「どうしよう……。」
ナオキはきょろきょろとあたりを見回し、そして自分の手を見た。さっき拾った鱗が握られていて、人差し指に絵具が付いていて、その絵具のシミからどんどん色が溢れ出ていた。ポタポタと垂れる滴を見て、ナオキははっとしたような表情で次にズーキーを見た。ズーキーはナオキを助けようと、構えていた。
ナオキ「ズーキー!」
ナオキが名前を呼ぶと、ズーキーは飛んできて、ナオキを背に乗せた。ハイドンもズーキーを追って飛び立った。2頭はすごいスピードで飛んでいた。
ナオキ「ズーキー、痛いかもしれないけれど、我慢してね。」
そう聞こえた。激しい空中戦の中、彼は、ズーキーの鱗を1枚つまみ取った。ズーキーは少し表情を歪めたが、そのままハイドンを避けながら飛び続けた。ナオキは、2枚の鱗の色を混ぜ合わせ、出来た色をポタポタとハイドンに向かってこぼした。ハイドンは最初は驚いて、スピードを落としたが、ただの絵具とわかると再び追いかけ始めた。しかし、ナオキは滴をたらし続けた。気付けば、少しずつだが漆黒の色だったハイドンの鱗がエメラルド色に染まりはじめていた。
ローズ「彼はすごいわ。ハイドンをあんなに綺麗な色に染めようとしている。あの一瞬でハイドンの優しさとさみしさに気付いたのよ。」
ローズが感心したように伝えてきた。本当に綺麗な色だった。心が落ち着く優しい色だった。そして、その色はハイドンに似合っていると思った。

 ハイドンが追いかけるのをやめ、地面に降りてきた。自分の体中を見回すようにその場をくるくると回った。そのそばへズーキーとナオキが降りてきた。私たちも近くへ寄った。ハイドンは回るのをやめると、ナオキをみつめた。何を話しているかローズを通して見ている私にはわからなかった。ローズもあえて教えようとはしなかった。
ナオキ「僕は、君たちの色が大好きだよ。もちろん君の漆黒も良かったけれど、君には今の色の方が合っているよ。」
そう言って優しく笑いかけた。他の逃げて行った龍たちも変わったハイドンを見に集まってきた。たくさんの龍に囲まれたハイドンは、照れるように少し笑った。

 私は目を開けた。涙が自然と流れてきた。心がとても温かかった。この感動は言葉では表せないと感じた。
アン「ママ?」
アンが扉をゆっくり開けて、覗き込んでいた。
リサ「あら、どうしたの?」
アン「泣いているの?」
リサ「ちょっと、いろいろあってね。そうだ。もうすぐナオキたちが帰ってくるわ。ごちそうを用意しましょうか。夕食の時に、お話を聞きましょう。」
アン「パーティー?!」
リサ「えぇ、みんなを招待しましょ。私たちの特別な龍と、龍の世界の龍たちを……。」

 ナオキは帰って来てから、たくさんの色を使って新しい色を生み、たくさんの賞を受賞した。「龍を愛する画家」として有名になった。彼の絵には毎回龍が登場するからだ。どの作品も透き通るような色で溢れていた。そして今私がこの物語を書いている間も、彼は絵を描いている。プレゼント用の絵らしい。さっき覗いたら、エメラルド色の龍がキャンパスいっぱいに描かれていた。ハイドンの生活も、私たちの生活も、彼のおかげでこれからもっと様々な色に色付いていくことだろう。

おわり
9
101108 bell 白雪姫  あるところに肌が雪のように白く、頬がリンゴのように赤い白雪という姫がいました。白雪は幼い頃に母親をなくし、父はこの国の女王と再婚しました。しかし、父もそれからまもなく、病気で亡くなってしまい、白雪は継母である女王に育てられることになりました。女王は白雪のことを愛してはいませんでした。父が死んでからは、お城も暗く荒んでしまい、お城を訪れる人もいません。女王は白雪に、あまりきれいとは言えない服を着せ、掃除や洗濯をやらせます。白雪は、毎日辛い思いをしていましたが、お城から見える隣の国のお城を見て、いつか素敵な王子様と暮らすことを夢見ていました。
 ある日、白雪が掃除のために井戸に水を汲みに行った時のことです。白馬に乗った王子が現れたのです。それは隣の国の王子でした。二人は時間が止まったように見つめ合いました。「なんと、美しい。」王子は一言そう言って、白雪の手をとります。しかし、白雪ははっとして「ごめんなさい。わたし…お掃除しなくちゃ。」そう言ってお城に戻っていきました。白雪はこの国の姫とは言え、みすぼらしい服を着ています。王子との暮らしの違いを感じ、恋に落ちてはいけないと思ったのです。しかし、胸の鼓動は早まり、熱があるように顔が熱くなっています。白雪は頬を赤らめながら目をつぶりました。
 その様子を見ていた女王は、それが気に入りません。「鏡よ、鏡。この世で一番美しいのはだあれ。」と魔法の鏡に向かって尋ねました。いつもなら、「もちろん、それは女王様、あなたです。」と答えるのです。それを聞いて優越感に浸るのが女王の日課なのです。しかし、この日は違いました。「それは、白雪姫です。」と、答えたのです。女王は驚いて鏡を見つめます。そして、ゆっくりともう一度問い掛けました。「鏡よ、鏡。この世で一番美しいのはだあれ。」「それは、白雪姫です。」怒った女王は何度も何度も鏡に問いなおしましたが、答えは変わりませんでした。そこで、女王は再びこの世で一美しくなるために、白雪の暗殺を考えつきました。召使である木こりを呼び、「この箱に白雪の心臓を持って帰れ。」と命令しました。「はい、お任せ下さい。」
 木こりは森へ花を摘みに行く白雪について行きました。白雪は「木こりさん、あなたにもお花を。」と、木こりに優しく笑いかけます。木こりはナイフを何度も握りましたが、ついに、涙を流しました。「まあ、木こりさん。どうなさったの?」白雪は心配そうに木こりに近づきます。「女王があなたの命をねらっています。私にはあなたを殺すことなどできません。森の奥へお逃げなさい。」「なんですって!」それを聞いた白雪は戸惑いながらも森の奥へ走って行きました。木こりはブタの心臓を箱に入れてお城へと帰りました。
 森の中はお昼でも真っ暗でした。どこを見ても同じ道を走っているように見えます。白雪は恐怖と不安で泣きながら進みました。しばらくすると、少しだけ明るい光の差し込む場所へたどり着きました。しかし、ここは森の真ん中。どこへ行ったらいいのかわからず、白雪は座り込んでしまいました。カサカサッ。びくっとして白雪は音のした方を見ます。すると、小さくてかわいらしい子リスがこちらを覗いていました。「まあ。」白雪がぱっと笑顔になると、ほっとしたように子リスは白雪に近寄りました。それを見ていたのか、子リスに続いて、森の奥からたくさんの動物たちがやってきました。白雪は少し心が安らいだ気持ちで、動物達に今まで起こった出来事を話しました。「…ということなの。これからどこに行ったらいいと思う?」白雪は最後に問い掛けました。動物達は驚いた様子で話を聞いていましたが、小さな声で話し合うと、大きな鹿を先頭にどこかに向かって進み始めました。小鹿やウサギが後ろから白雪の背中を押します。「どこかに案内してくれるの?」真っ暗な森も動物達と一緒なら怖くありませんでした。少し歩くと明るい光いっぱいで、小さな川も流れている素敵な小屋の前にたどり着きました。「まあ、かわいらしい。」白雪はとんとん、とドアをノックしました。しかし、返事がありません。「誰もいないのかしら。」そっとドアを開けて白雪はびっくりしました。床にはほこり、天井にはクモの巣。シンクにはたくさんの洗い物がたまっています。毎日掃除をしてくらしていた白雪は、「これは大変ね。みんなでお掃除しましょう。」と言って、掃除を始めました。動物達とのお掃除は楽しく、鼻歌を歌いながらあっという間に終わってしまいました。小屋の中は見違えるほどきれいになっています。2階に行くと小さなベッドがたくさんありました。ベッドには何かが彫ってあります。「せんせい、ごきげん、おとぼけ、おこりんぼう、ねぼすけ、てれすけ、まあ、くしゃみなんてものもあるわ。ああ、少し疲れてしまったわね。」そう言うと、白雪は小さなベッドでひと眠りしてしまいました。
 「今日も疲れたなあ。」「やっと家に着いた。」小屋の住人達が帰ってきたようです。「おい、何かおかしいぞ。」「わああ、埃がちっともない。」「お皿も全部きれいだ。」小人たちはそれぞれ武器を片手に、誰かいないか小屋の中を捜しまわりました。全員で2階の部屋にあげると、「すー、すー。」静かな寝息が聞こえてきます。敵を起こさないようのっそり、のっそりとベッドに近寄ると、見た目はみすぼらしいが、とてもきれいなお姫様が眠っていました。「なんて、美しいお姫様なんだ。」小人が思わず呟いたその時、白雪が目を覚ましました。小人たちはびっくりしてベッドの陰に隠れます。「あら知らない内に眠ってしまったわ。あらっ!」眼鏡をかけた小人と目が合いました。「わ、わたしはせんせいと申します。あなたは誰ですか。」「せんせい…こんにちは。私は白雪と申します。」次に、にこにこした小人が話しかけました。「白雪姫ですな。ははは。なんて美しい。」「ごきげん?こんにちは。ふふふ。ベッドに書いてあるのは皆さんのお名前ね。」「小屋をお掃除してくれたのは、は、ハクシュンッ。あなたですか?」「あなたはくしゃみね。そうなの。勝手に入ってごめんなさい。」「どうしてこんな小屋にいらっしゃったのです?ふぁーあ。」「ねぼすけかしら?私、お家にいることができなくなってしまって…森で迷っていると動物達がここに案内してくれたの。」「それは大変だ。」そう言った後、真っ赤になって隠れてしまう小人がいます。「てれすけ!しっかりしろよ。全くもう。」「てれすけにおこりんぼね。ということは、あなたはおとぼけかしら。」にこにこして上の空の小人を指差して白雪は言いました。「白雪姫。そう言うことでしたらぜひこの小屋を使ってください。」そう言ったのはしっかり者のせんせいです。それを聞いたおこりんぼは驚いた顔をして、ふてくされています。そんな、おこりんぼをよそにごきげんは言いました。「それはいい。一緒に暮らしましょう。」「まあ嬉しい。お言葉に甘えさせていただくわ。」こうして白雪と、小人たちの暮らしが始まりました。
 その頃、女王は木こりの持ち帰ったブタの心臓を見て満足していました。気分が良く、毎日お酒を飲んで暮らしていたのです。ある日、思い出したように、鏡に向かって尋ねました。「鏡よ、鏡、この世で一番美しいのはだあれ。」鏡は答えました。「それは白雪姫です。」「なんですって!」女王は驚いて木こりを呼び出しました。しかし、木こりは何も言わずにうつむいています。女王は怒りに震え、「白雪姫はどこにいるんだい!」と鏡に向かって叫びました。「森の奥の小人の家です。」それを聞いた女王は木こりを牢屋に閉じ込めると、冷たい地下の実験室へと向かいました。闇の魔術の書物を取り出し、ぶつぶつと呟きながら、様々な薬を混ぜ合わせます。そこにとても綺麗な真っ赤なリンゴを浸した。リンゴは一瞬紫色に染まり、また綺麗な赤色へと戻りました。そして、女王は醜い老婆へと変身しました。「ひっひっひっ。これで私だとはわかるまい。この毒リンゴで白雪を殺してやる!!」
 白雪は、小人たちとの暮らしを楽しんでいました。暗くて冷たいお城とは違い、小屋での生活は愛と暖かさに満ち溢れていました。白雪は毎朝、7人の小人のおでこにキスをしてお見送りをします。この時ばかりは、おこりんぼも顔を真っ赤にしておでこを出すのでした。「みんな気をつけてね。」「白雪姫も気をつけて。知らない人が来たら出ては行けないよ。」白雪が女王に命を狙われている事を知ってから、せんせいは毎日そう言って仕事に行きます。「ええ、わかったわ。」今日も、白雪は仕事に行く小人たちを見送り、家で動物たちと留守番です。「さあ、みんな。今日はお仕事を頑張っているみんなの為においしいケーキを作りましょう。」鼻歌を歌いながら白雪はキッチンに立ちました。小鳥が小麦粉をふるいにかけ、子リスが卵を割ります。子ウサギは牛乳を入れているのでしょうか。白雪がそれを混ぜました。生地を型に流し込み、レンジに入れました。「さあ、あとは焼きあがるのを待つだけ。お外で一休みしましょう。」その時、黒い頭巾をかぶった老婆がこちらに向かって歩いてきました。リンゴがいっぱい入ったかごを提げています。「あら、かわいらしいお嬢さん。おいしいリンゴはいかが。」「まあ、とてもおいしそう。でも申し訳ないわ。」「そんなことを言わずに、さあ、一口食べてごらん。」老婆は真っ赤なリンゴをひとつ差し出しました。「じゃあ、一口だけ…。」ばたっ。真っ赤なリンゴを口に運んだ途端、白雪は倒れ込みました。「はっはっは!これでこの世で一番美しいのは私!!」笑いながら老婆は森の奥へと消えて行きました。
 動物達は心配そうに白雪の顔を舐めたり、体をつついたりしました。しかし、白雪は倒れた姿勢のまま動きません。動物たちは急いで小人たちを呼びに行きました。小人たちは歌を歌いながら陽気に仕事をしていましたが、走ってくる動物達を見て手を休めました。そして、動物達に連れられ小屋へと戻ってきました。倒れている白雪を見て小人たちはびっくりしました。「白雪!」そう言いながら、一番先に白雪に駆け寄ったのはおこりんぼです。おとぼけはおろおろと泣いています。いつも機嫌の良いごきげんも険しい顔で言いました。「きっと女王の仕業だ。」「僕らで女王をやっつけよう。」先頭に立ったのはもちろん、先生。白雪をベッドに寝かせると、女王を追いかけ動物達と森の中へと入って行きました。
 どのくらい走ったでしょう。いつの間にか空は真っ暗に、おまけに雨まで降りはじめています。しかし、小人たちは見つけました。「わたしは世界一美しいのだ!」と高笑いしながら、歩く老婆が前をあるいているではありませんか。「あいつだ。あの老婆は女王だ!」小人たちは老婆を追いかけました。それに気付いた老婆はどんどん森の奥へと逃げていきます。一生懸命走りましたが、気がつくと小人たちは老婆を見失っていました。途方に迷っていると、突然、小人たちの頭上のから声が聞こえました。「お前たちもこれでおしまいよ。」崖の上から大きな大きな岩のかたまりをを小人たちに向かって落とそうとしています。あんなものが落ちてきたら命はありません。「やめろ!!」小人たちが叫んだのと同時に強い稲妻が光りました。それに驚いた老婆は足を踏み外し、高い崖の上から、真っ逆さまに落ちて行ったのです。
 小人たちは急いで小屋へと戻りました。白雪はまるで眠っているようでしたが、小人たちが声をかけても起きる事はありませんでした。
次の日、小人たちは大好きな白雪を美しい棺に入れました。そして、森の中の花がいっぱい咲いた場所へと運びました。しっかり者のせんせいも、いつもにこにこしているごきげんも、普段は眠たそうなねぼすけも、照れてばかりのてれすけも、ずっとくしゃみをしているくしゃみも、何もわかっていなさそうなおとぼけも、いつもは白雪に冷たくあたるおこりんぼも、みんな涙を流して白雪を囲みました。動物達も毎日、白雪のそばを離れませんでした。みんなで白雪が目覚めるようにと、祈り続けました。
 ある日、隣の国の王子がそばを通りました。そう、白雪が恋に落ちたあの王子です。王子は何かに惹かれたように、小人たちの間をすり抜け、白雪へと近づきました。「なんと、あの時の姫ではないか。」そう呟くと、王子は白雪にそっとくちづけをしました。すると、なんということか。白雪の目がそっと開いたのです。「白雪っ!!」小人たちは泣いて喜んでいます。少し戸惑った顔をしている白雪に、王子は言いました。「美しい姫。以前出会ったときからあなたを忘れたことはありませんでした。どうか私と結婚してくれませんか。」白雪は驚いた顔をしましたが、「ええ、喜んで。」頬を赤らめながら、そう答えました。
 次の日、隣の国のお城では白雪と王子の結婚式が行われました。美しいドレスを着た白雪は、まさに、この世で一番美しい白雪姫でした。7人の小人たちも、白雪と共にお城に迎え入れられ、みんな一緒に幸せに暮らすこととなりました。
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101109 みはえる さるかに合戦 ここは、小さな小さな島にある、小さな小さなとある村です。この村では、いろいろな生き物が仲良く暮らしていました。この村に暮らすかにくんは、ちょっと前に3匹の子がにが生まれて、幸せいっぱいです。でも、かにくんの奥さんがには体が弱く、子がにたちを産むとすぐに死んでしまったのです。それでも、せいいっぱい働き、みんなの協力もあって、3匹の子がにたちになんとか食べ物をあげていました。
「僕の宝物は、この子がにたちだなぁ・・・。こいつらが大きくなるのがとっても楽しみだなぁ。」親がには、そういって子がにたちを見ると、自然と笑顔がこぼれました。
ふと親がには、よく晴れた外を見ると、子がにたちとさんぽに行きたくなりました。
「ようし、おにぎりでも作って、こどもたちとでかけよう。」親がにはそう意気込むと、ちいさな手でせっせとおにぎりを作りました。
「しゅっぱーつ!」とことことことこ・・・。ほかほかのおにぎりを持って、るんるんとかにの親子が歩いていると、向こうからさるくんがにやにやしながら歩いてきました。さるくんは、最近この村にやってきたので、かにの親子はさるくんのことをよく知りませんでした。
すれ違いざま、さるくんは、「こんにちは。かにくん。いい天気だねぇ。」と笑いかけてきました。そして、さるくんは、手に持ったなにかをかにの親に見せました。かにくんは興味を引かれ、さるに問いかけました。
「やあ、さるくん。それはいったいなんだい?」するとさるくんは、手に持ったものを少し隠すようにしながら、「あっ、これかい?これは・・秘密だよ・・・」そういってさらにさるくんが隠そうとするので、かにくんは余計に気になりました。
「なんだい?気になるなぁ。教えておくれよ。」かにくんがもう一度尋ねると、さるくんは言いました。
「仕方ないなあ。みんなには秘密だぜ。実はこれは、すばらしい柿の種なんだよ。なんと、一粒埋めると、たあっくさんの柿の実がなるんだぜ。食べきれないぐらいのね。」「なんだって!!!?」かにくんはびっくりしました。そんな柿の種があるなんて!柿の実がたくさんなれば、食べ盛りの子がにたちにおなかいっぱい柿の実を食べさせてやれます。子がにたちは柿の実がだいすきなのです。
そんなかにくんの様子を見ていたさるくんは、またにやにやとしながらこういいました。
「特別に、ほんとうに特別に、かにさんの持っているそのうまそうなおにぎりと、このすばらしい柿の種を交換してあげるぜ。」
そう言うさるくんは、かにくんの目には、とても優しい顔をしているように見えました。「交換してくれるのかい!?で、でも、このおにぎりは一生懸命作った大切なおにぎりだしなぁ・・・どうしよう・・・」
「いやいや、この柿の種ほどすばらしいものはないぜ。なんたって、柿の実が山ほどなるんだから。きみはこの種を地面にうめておくだけでいいんだぜ?こんなにいい話はまたとない。」さるくんは赤い顔をして、かにくんに言いました。
「うん、そうだよなぁ・・・」かにくんは、そう言うと、自分のおにぎりと、さるくんの柿の種を交換することにしました。
「ようし、さっそく家に帰って、この柿の種をうめよう!」かにくんはそういうと、子がにたちを連れて、るんるんと軽い足どりで家にかえりました。
「よーし、どこにうめよう、ここがいいかな。」かにの親は、柿の実がたっくさんなった時のことを考えながら、わくわくとして柿の種をうめました。そして、「芽でろ芽でろ柿の種。出さなきゃはさみでちょんぎるぞ。芽でろ芽でろ柿の種。出さなきゃはさみでちょんぎるぞ。」かにくんがそう歌うと・・・
あら不思議!!!柿の種からすごいスピードで、にょきにょきと芽が出て、葉っぱをつけ、花が咲き、あっというまにたっくさんの柿の実がなったのです!
「わああああ!ほんとうにすごい量の柿の実がなったぞ!わああい!!」かにの親はおおよろこび。子がにたちも、びっくりして柿の木を見ています。
「さるくんのいったとおりだ!さっそくさるくんを呼んで、みんなで柿の実を食べよう。」かにの親は、なんでもみんなで分けて食べることが大好きなのです。ひとりでおいしいものをたらふく食べるより、みんなで少しずつおいしいものを食べたい性格なのです。
「おーい、さるくん!」かにくんがさるくんを呼ぶと、さるくんはすぐにいそいそとやってきました。そして柿の木を見ると、「うわあ!いっぱいだ!!!」そして、「よし!俺がかにくんたちのぶんも柿の実をとってやるよ!」そういうと、するすると柿の木にのぼりました。
ところが、柿の木の下でかにの親子が待っていても、いつまでたってもさるくんはかにの親子に柿の実をとってくれません。ぱくぱくと、さるくんは自分だけおいしそうに柿の実を食べています。
「おーい。さるくん。ぼくたちのも柿の実を投げておくれよう。」かにの親がそういっても、
「もうちょっと待てよ。もうちょっとだけ、もうちょっとだけ。ああ、なんてうまい柿の実なんだろう。うまいなあ、うまいなあ。」さるくんはそういって、いつまでも投げてくれません。
「おうい!!!さるくんったら!!!!」かにの親がいままでで一番の大声を出しました。するとさるくんは、
「うるせぇ!!!」そう怒鳴ると、思いっきり力をこめて、まだ青い、かちかちの柿の実をかにの親めがけて投げたのです。
バシッ!!!!かたいかたい柿の実は、かにの親にぶつかり、かにの親はそのまま死んでしまったのです。
柿の実を投げつけたさるは、そのままどこかに行ってしまいました。
「えーん。えーん。」大切な大切な、たったひとりの親を失ったかにの子たちは、泣いて、泣いて、悲しみました。

そして、それから2年後・・。3匹のかにの子たちは、すっかり大きくなりました。
しかし2年がたった今でも、かにの子は、親をさるに殺されたということを忘れられないでいます。大好きな、大好きな、たったひとりの親をさるくんに殺されたのですから。
「なあ、みんな。僕たちはさるのやつに仕返しをするべきじゃないかな。もう子どもじゃないんだ。僕たちはさるをこらしめてやらなきゃ。」「でも、どうする?僕たちだけじゃ、力が足りないよ。」「どうしよう。」かにの子たちは、口々に相談しました。そして、村で仲良しの、くりくん、はちくん、うんちくん、うすくんに相談することにしました。
子がにたちの家にやってきた4人は、親がにくんの写真を見ると、ぽろぽろと涙を流しながら、こう言いました。「俺たちに任せろ。さるのやつをとっちめてやる。俺たちは正直者で、優しいかにくんが大好きだった。それなのにさるのやつは、そんなかにくんを殺した。許せるはずがない。」
「ようし。俺は水がめに隠れよう。」はちくんは、自慢のお尻のとげを触りながら、水がめに隠れました。
「じゃあ、おいらはここだな。」うんちくんは、ぬるぬるとしたじぶんの体を、さらにぬるぬるとさせながら、暗い暗い地面に寝そべりました。
「それでは、わたしは、うんと高いところに。」そういうとうすくんは、重いからだをふぅふぅと屋根の上に運びました。
そうして、はちくんは水がめに、うんちくんは暗い地面に、うすくんは屋根の上にそれぞれ隠れました。
「さるのやつを、きみたちの家に呼ぶんだよ。」くりくんは、かにの子たちにそういい、自分はとげとげの体を磨きながら、囲炉裏に隠れました。
かにの子たちはさっそく、くりくんが言ったとおり、さるくんを家に呼ぶことにしました。
「さるさん、さるさん。さるさんは、明日誕生日だよね。一日早いけど、僕たちはさるさんの誕生日をお祝いしたいんだよ。だから、僕たちの家に来ておくれよ。」かにの子たちはそういって、さるくんを家に呼びました。
「誕生日なんて、よく覚えてくれていたもんだ!ははは。やっぱり俺は人気者だなぁ。」さるくんはにこにことしながら、かにの子の家にやってきました。さるくんは、昔、かにくんのおにぎりと自分が持っていた柿の種を交換し、たくさんなった柿の実をお腹いっぱい食べ、そしてしまいに、口うるさいかにの親にあおいかたい柿の実を投げつけてかにの親を殺してしまったことなど、すっかり忘れて、うきうきしながらかにの子の家にやってきました。
かにの子の家に着いたさるくんは、「ふーう。やっと着いたぜ!それにしても、今日は寒いぜ。凍えるったらありゃしない。なんて寒い家なんだよ。ちっとも俺を歓迎しているようにも見えないし。仕方ねぇ、あそこにある囲炉裏であったまろう。」
と、いらいらしながら言い、囲炉裏に手をかざそうとしました。すると・・・
バシッ!!!
「いてっっ!!」囲炉裏から力いっぱい飛び出してきたとげとげのくりくんが、さるくんの体にぶつかってきました。バシバシッ・・・
「あつい!あつい!水!水!」さるはそう叫ぶと、体を冷やそうと水がめに近づき、水がめのふたをとりました。すると・・
ブーンッ!!!
「いてぇっ!!!」水がめからはちくんが勢いよく飛び出してきました。さるくんは、顔中を刺されて、顔が真っ赤に腫れてしまいました。ブーン、ブンブン・・・
「なんなんだ、なんなんだよお!とりあえず、この家から逃げよう。」そういって家の外に飛び出そうと全速力で走ったさるくんは、
ツルツルツルーンッ!!!
「いていてっ!いてっ!」なんと、暗い地面に隠れていたうんちくんに、さるくんはおもいっきりすべってしまったのです。ツルツル、ツルツル・・・
そして、ついに、
ドーーーーーーーーーンッ!!!!!
「いっ!!!!」
さるくんの頭の上から、重い、重いうすくんが、さるくんめがけて落ちてきたのです。
そんな重いものが高い屋根の上から落ちてきては、ひとたまりもありません。さるくんは、ぺっちゃんこになって死んでしまいました。
その様子を見ていたかにの子は、
「わあい!やったぁ!ついに、さるに仕返しできたぞお!」そういって、おおよろこびをしました。
「くりくん、はちくん、うんちくん、うすくん。ほんとうに、ありがとう。きみたちのおかげで、ひどいさるをとっちめてやることができたよ。ありがとう。」
「どういたしまして。」くりくんは、にこにこして言いました。
「いいってことよ。」はちくんは、胸を反らせながら誇らしげに言いました。
「おいら、がんばったよ。」うんちくんも言いました。
「おう、みんなの力がひとつになったのだよ。」最後にうすくんが言いました。

さるくんのように、だれかに悪いことをすると、いつか自分に返ってくるのです。いつも、ひとのためになることをしなければいけませんね。
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101110 とみー ピーターパン ロンドンの郊外のとある場所に、ダーリング一家が暮らしていました。ダーリング家には、ウェンディ、ジョン、マイケルの3姉弟がいました。3人は『ピーターパン』の冒険物語が大好きです。
ある日、ウェンディたちのお父さんとお母さんはパーティーに出席する準備をしていました。”ピーターパンごっこ”をしていたずらをしたジョンとマイケルを、お父さんはとても怒りました。お父さんは、ジョンとマイケルにピーターパンの物語を話したウェンディに「もうピーターパンの話をするな」と言い、さらに「早く大人になるんだ!明日から一人部屋で寝なさい」と言い出します。ウェンディは明日、子供部屋から一人部屋に移らなければならなくなりました。そしてお父さんとお母さんはパーティーに出かけて行きました。「ウェンディ…もう一緒に遊べないの?」と一番下の弟のマイケルが寂しそうにウェンディに問いかけます。ウェンディはマイケルをぎゅっと抱きしめました。「大人になんてなりたくないわ」ウェンディは大人になるのが嫌で仕方ありませんでした。子供部屋で過ごす最後の夜となってしまったウェンディ。ベッドで寝ていると、ウェンディたちの部屋にピーターパンと妖精のティンカーベルがしのびこんできました。彼は前の夜にウェンディたちの部屋で遊んでいたときに、部屋に自分の影を忘れていってしまっていました。ピーターパンはその影を取り戻しにやって来たのです。彼は部屋の中を探し回り、引出しの中にしまわれてあった自分の影を見付けることができました。ピーターパンは、逃げる自分の影を追いかけ、やっと影を捕まえることができました。その物音でウェンディは目を覚ましました。ピーターパンは石鹸を使って影をくっつけようとしますが、なかなか影をくっつけることができません。「ピーター!きっと影を取りに戻ってくると思ってたわ。影をしまっておいたのよ。そこへ座って。わたしが影をくっつけてあげる」とウェンディが話します。ウェンディは針と糸でピーターパンの影を縫いつけることができました。影を縫ってもらっている間に、ウェンディが明日から大人にならなければいけない、という話を聞いたピーターパン驚きました。「なんだって!それなら"ネバーランド"に行けばいいさ!ずっと子どもでいれられる!」と話します。「でも、わたしたち飛べないわ」とウェンディが言います。「飛べるさ!」ピーターパンがティンカーベルの妖精の粉をウェンディたちにふりかけました。すると、なんとウェンディたちの体が宙に浮いたのです。「さぁ、うんと楽しいことを考えろ。羽がはえたと同じになる!」ピーターパンはウェンディたちに空の飛び方を教えてあげました。「あらすごい!浮いてるわ!」「「「みんな飛んでる!」」」ウェンディたちは、妖精の粉とピーターパンのおかげで空を飛べるようになったのです。「いざ、ネバーランドへ!」ピーターパンに連れられ、右から2番目の星を目指してロンドンの空をまっすぐに飛んでいったのです。
その頃ネバーランドでは、フック船長がピーターパンのことを探していました。「ピーターパンめ…どこにいるんだ!!人魚の入り江か…インディアンの村か…?それとも…」と考えていると、「チク、タク、チク、タク…」とリズムよく時計の音が聞こえてきました。時計ワニです。フック船長は前にこのワニに左腕を食べられてしまってから、このワニが大の苦手なのでした。「スミー!!!」と横にいるミスタースミーに飛びつきました。そしてミスタースミーはワニをしっしと追い払いました。フック船長がガクガク震えていると、「ピーターパンがいたぞー!」と見張り番の海賊が叫びました。「ピーターパンを打ち落とせー!」フック船長が叫び、海賊たちは急いで大砲の準備をしました。
一方、朝まで空を飛び続けたウェンディたちは、洞窟を通り滝を突き抜け湖から飛び出し、ようやくネバーランドの上空に到着しました。「見てごらん。あれがネバーランドさ!」「すてき!人魚の入り江に、インディアンの村まで!」「見て!フック船長の海賊船があるよ!」とマイケルが海賊船を指差したその時、海賊船から大砲が放たれたのです。「みんな伏せろ!」ピーターパンが叫びました。「ティンク!みんなを隠れ家まで連れて行くんだ!」それを聞いたティンカーベルは、そっぽを向いて、一人で飛んで行ってしまいました。「待って、ティンカーベル!そんなに早く飛べないわ。ねぇ、ティンカーベル!待って!」ウェンディは急いで飛びましたが、ティンカーベルには全く追いつきませんでした。
そして、ティンカーベルは一人でピーターパンとロストボーイズが暮らしている隠れ家に着きました。寝ているロストボーイズをたたき起こして、ウェンディを撃ち落とすように頼みます。ロストボーイズはパチンコや棒、おもちゃの剣や鉄砲などを持って外に出ました。「1、2の、3!!」ロストボーイズは、ティンカーベルを探しながら空を飛んでいるウェンディに向かって、鉄砲を撃ったりパチンコを飛ばしたり剣や棒を投げたりしました。「きゃー!」ウェンディは森の中へ落ちていきました。岩の上に落ちそうになった瞬間、ピーターパンが飛んできてウェンディを抱きかかえました。「あぁ、ピーター、助けてくれてありがとう」その様子をずっと見ていたティンカーベルは、とても悔しそうにそばにあった花を蹴散らして、怒って飛んで行きました。
ロストボーイズがはしゃぎながらウェンディたちのもとへやってきました。「整列!」ピーターパンがロストボーイズに向かって叫びました。ロストボーイズは整列し、ピーターパンに向かって敬礼をしました。「君たちのお母さんを紹介する」「お母さん?」ロストボーイズが聞きました。ウェンディが微笑みながら頷きます。「君たちはお母さんを撃ち落したんだ。」ピーターパンがそう言うと「ティンカーベルが鳥だって言ったから…」ロストボーイズがの1人が泣きながら言いました。「ティンクが、何だって?」「ティンカーベルが打ち落とせって!」そばでピーターパンたちのやり取りを聞いていたティンカーベルは、そうっと葉っぱの影に隠れました。「ティンカーベル」重々しい声でピーターパンが呼びました。「ティンク、こっちに来い。なんでこんなことしたんだ」しかしティンカーベルは何も答えません。「彼女を殺そうとしたんだぞ」とピーターパンが言うと、ティンカーベルは笑顔で頷きました。それに怒ったピーターパンは「もういい!君を追放する!」と、ティンカーベルを追放してしまいました。そしてティンカーベルはふんっと機嫌を悪くして飛んで行ってしまいました。「ねぇピーター。そこまでしなくても」ウェンディが言うと「いいんだ、すぐに帰ってくるさ。それよりウェンディ、君に島を案内するよ」とピーターパンは言いました。「まぁ、ピーター!人魚の入り江に行けるの?」とウェンディ。「僕はインディアンをやっつけるんだ!」マイケルが言いました。「ではみんな、インディアンを捕まえに行け」ピーターパンがロストボーイズに命じました。彼らは敬礼で答えます。「ジョン、君がリーダーだ」ジョンは「リーダーとして全力を尽くします」と敬礼しました。そしてジョンを先頭に、ロストボーイズとマイケルが続き、インディアンの村に向かいました。「ではウェンディ、人魚の入り江に」ピーターパンはウェンディの手を引き、空を飛びました。
ジョンたちは森の中を進み、開けたところに出ました。「見ろ!インディアンの足跡だ!」ジョンが言い、ロストボーイズと足跡を囲んで話をしていました。すると、木の葉っぱを被ったインディアンたちが、ジョンたちに近づいてきました。マイケルはそれに気づき、ジョンやロストボーイズに伝えようとします。しかし会話に夢中になっていてジョンたちはそのことに気付きません。周りを囲まれたその時、一瞬にしてとらえられてしまいました。インディアンの酋長の娘のタイガーリリーが何者かに誘拐され、子どもたちはその犯人と疑われて捕まってしまったのです。「娘が戻らなければ火あぶりにするぞ」と酋長が子どもたちに言いました。
一方、ピーターパンとウェンディが人魚の入り江まできて人魚たちと遊んでいると、フック船長とミスタースミーがタイガーリリーをさらっていくのを見付けます。2人はタイガーリリーからピーターパンの隠れ家を教えるように迫っていたのです。ピーターパンはタイガーリリーをフック船長とミスタースミーから助け出し、インディアン酋長のもとに送り届けます。タイガーリリーを救ったことで、ピーターは酋長から「空飛ぶ鷲」の称号をもらいました。ロストボーイズとジョンとマイケルは、インディアンと一緒に酋長が開催した祭を楽しみました。インディアンの祭を遠くから見ていたティンカーベルは、フック船長からティンカーベルを捕まえてくるように命令されていたミスタースミーに捕まえられてしまいました。
隠れ家に帰ってきても、興奮のあまり寝ようとしないジョンとマイケルに、ウェンディが”お母さん”の存在を思い出させました。そして3人はロンドンに帰ることを決意します。「この島を出たら二度と子どもには戻れないんだからな!二度と!」というピーターパンと対立した子どもたちは隠れ家を出ていきます。「さようなら、ピーター」ウェンディは扉越しにピーターパンに別れを告げました。この機会を利用しようと、フック船長はウェンディら子どもたちを誘拐してしまいます。子どもたちが隠れ家から出て行ってしまったことで、ピーターパンはいじけています。ピーターパンにタイガーリリーを奪い返されてしまったフック船長は、「愛するピーターへ、ウェンディより。6時になったら開けてください」と手紙をつけて、ウェンディからの贈り物と称した時限爆弾をピーターパンに仕向けます。これを知ったティンカーベルは、命がけでピーターパンを爆弾の爆発から守りました。そして、ピーターパンとティンカーベルはフック船長の海賊船へ向かいます。
子どもたちがフック船長の船の上で海賊入隊の刺青を入れられそうになっているとき、ウェンディは手を縛られ、海に飛び降りるように海賊たちに迫られていました。「さぁ、早く飛び込むんだ!」ウェンディは涙をこぼし、そしてついに船から飛び降りてしまいました。しかし、おかしなことにウェンディが海に落ちた音がしません。不思議に思った海賊たちがおそるおそる海をのぞきこもうとしたとき、ウェンディを抱きかかえたピーターパンが現れました。「フック!覚悟しろ!」ピーターパンは次々と海賊をやっつけてフック船長と戦いました。そしてピーターパンはフック船長をワニの口の中へつき落としたのです。子どもたちは海賊から助けられました。子どもたちは大喜びです!
そしてピーターパンは、海賊のいなくなった海賊船の上で「帆を上げろ!」と言いました。「ピーター!…キャプテンピーター、この船の行き先はどこですか?」とウェンディが問います。するとピーターパンは言いました―――「ロンドンです」なんと、彼はウェンディたち3人が大人になることを許してくれたのです。「ジョン!マイケル!家に帰るわよ!」ウェンディは嬉しそうに2人の元へ駆け寄りました。「船を出すぞー!錨を上げろー!」そういって舵をとりました。ティンカーベルは、船に妖精の粉をかけて”空飛ぶ海賊船”を作りました。そしてその黄金の船はネバーランドを離れ、ロンドンへと向かうのでした。
ピーターパンのおかげで、ウェンディたちは無事ロンドンに帰ってくることができました。ロンドンに帰ったあと、ウェンディは自分のベッドを離れて窓のそばで寝ていました。そこに、社交パーティーからお父さんとお母さんが帰ってきました。ウェンディはお父さんとお母さんに「わたし、大人になることにしたわ」と告げるのです。ウェンディは、ネバーランドでの数々の冒険の物語を話した後で、空に飛んでいる海賊船形の雲を指差して「ねえ、ピーターって素敵でしょ。船を操るのも上手だし」と言いました。海賊船の雲をみたお父さんとお母さんはびっくりです。「あの船なら前にも一度見たことがあるよ。ずっと昔、わたしがまだ子どもだったころのことだ」とお父さんが言いました。そして、ウェンディ、お父さん、お母さん、犬のナナが寄りそって、ピーターパンの船をずっと見届けたのでした。
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101111 mana1150 おおかみと七匹の子やぎ
 ある国の小さな森に七匹の子やぎが生まれました。お母さんやぎは七匹の子やぎを大切に育てました。子やぎたちはみんな元気に大きくなり、いつも森で走り回って遊んでいました。七匹ともそれぞれ個性がありましたが、一番末っ子の子やぎのシロは他の六匹よりもとりわけ賢い子やぎでした。みんな仲がよくお母さんやぎのことが大好きでした。森に遊びに行くときに、いつもお母さんやぎが子やぎたちに言います。
「森の奥には怖いおおかみが住んでいるから気をつけてね。」
 決まって子やぎたちは言います。
「大丈夫!おおかみが来たってやっつけてやる!」
「おおかみなんかこわくないよ!」
 みんなまだ、おおかみがどれほど恐ろしいものか知りませんでした。
「おおかみはね、すごく大きくて怖くて僕たちなんかペロリと食べちゃうんだよ。」
末っ子のシロだけが本を読んで知っていました。
 
「うーん、うーーん」 
一方、森の奥からは唸り声が響き渡っています。
大きくて恐ろしいおおかみがうろついていました。
「お腹がすいて倒れそうだ…。早く何か食べないと…。」森の奥にはおおかみを怖がって動物はほとんどいませんでした。草や木の実を食べて空腹をしのいでいましたが、そろそろ限界でした。しかし、おおかみには作戦がありました。「森の入口にうまそうな子やぎが七匹もいるのを知っているんだ。逃げられては困るから母やぎがいないときに食べてしまおう。」七匹の子やぎ…考えただけでよだれが出そうでした。おおかみはお母さんやぎが出かけるのを今か今かと待っていました。
ある日のことです。お母さんやぎはおおかみがそんなことを考えているとは知らずに子やぎたちを置いて買い物に出かけました。
「お母さん以外の人が来てもドアを開けちゃだめよ。特に、黒い手と足でしゃがれた声のおおかみには気を付けてね。おおかみは悪賢いからお母さんのふりをして家に来るかもしれないからね。」
「わかってるよ!お留守番なら僕たちに任せて!」子やぎたちは元気に返事しました。
「お母さんってちゃんとわかるまでは絶対にドアを開けないよ!」シロも自信をもって言いました。
「じゃあ、いってくるわね。」
お母さんやぎは買い物に出かけると子やぎたちは家の中で遊び始めました。
それを見てお腹をすかせて待っていたおおかみが動き出しました。
「やれやれ、やっとお腹いっぱい食べられるぞ。」
おおかみは高鳴る胸をおさえながらのっそりと子やぎたちの家に近づき、ドアをノックしました。
トントントン
子やぎたちは反応します。「あれ?お母さんもう帰ってきたのかな?」
するとシロが、「声を聞かせてくださいな。お母さんだったらきれいで優しい声だよね。」と言いました。
おおかみは声を高くしてしゃべりました。「お母さんよ、あけてちょうだい」
ところがその声はお母さんやぎのきれいな声とはちがってしゃがれた声でした。
子やぎたちは「お母さんはそんな声じゃない!おおかみなんかにだまされないぞ
!」と言ってドアを開けませんでした。

「声でばれてしまうとは思わなかったなあ…うーん、どうしたものか。あ、そうだ!」
悔しくて仕方がなかったおおかみは街で薬屋に行くとチョークをもらって飲み込みきれいな声にしました。
今度こそ食べてやるぞ、とおおかみは考えながらドアをノックしました。
トントントン
「お母さんよあけてちょうだい」
「きれいな声だ!お母さんが帰ってきた!」と子やぎたちはドアを開けようとしました。
すると末っ子のシロが「ちょっと待って!みんなドアの下を見て!」と言いました。
ドアの下から見えたのは、なんと真っ黒の足でした。
「おかあさんの手は黒くない!おおかみなんかにだまされないぞ!」と言ってドアを開けませんでした。

「今度こそばれないと思ったのに…くそっ!足を白くするにはどうしたものか…あ、そうだ!」

おおかみは街のパン屋で店主を驚かしてでもらった小麦粉を手足につけて白くしました。
「これで準備万端だ」おおかみは舌なめずりをしました。
またドアをノックします。
トントントン
「お母さんよあけてちょうだい」
「きれいな声で白い足…お母さんが帰ってきた!」と子やぎたちは喜んでドアを開けました。末っ子のシロが鍵穴から確認してからにしようとしましたが、そんな間もなく他の子やぎがドアを開けてしまいました。

その瞬間、恐ろしいおおかみが勢いよく家の中に入ってきました。
「うぉーーー!なんてうまそうな子やぎだ!」
みんなびっくりして急いで隠れました。
一匹目は、机の下。
二匹目は、ベットの中。
三匹目は、火の入っていないストーブの中。
四匹目は、台所の戸棚の中。
五匹目は、洋服ダンスの中。
六匹目は、洗たく桶の中。
七匹目は末っ子のシロで、大きな時計の中です。
「ぐふふふ。どこに隠れても無駄だぞ。みんな見つけて食ってやる。」
よだれをたらしながらおおかみは言います。
オオカミは次から次へと子やぎを見つけるとゴクリゴクリと丸呑みにしてしまいました。
「あーーうまかった。さすがに六匹も食べたらお腹がいっぱいだ。」
オオカミは外に出ると木の下でぐーぐーと眠り込んでしまいました。


その様子を見ていた子やぎが一匹だけいました。大きな時計のなかに隠れていて無事だった末っ子のシロでした。シロは「どうしよう!みんな食べられちゃった!」と泣き出しました。
 そのときまたノックの音がしました。
トントントン
「ぼうやたち、お母さんよ、開けてちょうだい。」優しい声がしました。
お母さんが帰ってきたのです!
急いでドアを開けてシロはお母さんやぎに抱き着きました。
お母さんやぎは部屋が荒らされているのにびっくりしましたが、優しくシロに聞きました。
「何があったの?みんなはどうしたの?」
シロは泣きながら話しました。「きれいな声で白い手をしていたから、お母さんだと思ってドアを開けちゃったの。そしたらオオカミで、みんな急いで隠れたんだけど見つかって食べられちゃった!」

それを聞いてお母さんやぎは悲しくて泣き出しました。
お母さんやぎとシロは泣きながら家の外に出ました。するとシロが気づきました。
ぐーーぐーーー
「あれ?なにか音がするよ…!」
お母さんやぎも耳を澄ませると確かに何か唸り声のような音が聞こえます。
ぐーーぐーーー
「本当ね、なんの音かしら。」
二人は音の出どころを探って森の中を歩き回ります。
ぐーーぐーーー
音のそばまで来たそのとき、
茶色い岩がもこもこと動いているのが見えました。
「あれは何だろう…?」
お母さんやぎとシロはおそるおそる近寄ると…
なんとオオカミがすごいいびきをかいて寝ているではありませんか。
そしてその大きく大きく膨れたお腹がひくひく、もこもこと動いているのです。
それを見たお母さんやぎはまだ子やぎたちは生きているかもしれない!と思いました。
そして「シロ、はさみと針を持ってきてちょうだい。」と言いました。
シロははっとお母さんやぎの顔を見て、急いで家に走りました。
「お母さんはみんなを助けるつもりなんだ!いそがなくちゃ!」
飛ぶようにシロは走りあっという間にはさみと針と糸を持ってきました。
シロからはさみをもらったお母さんやぎは、ぐっすりと眠っているおおかみのお腹をチョキチョキと切りだしました。
相当お腹がいっぱいだったのでしょう、おおかみはよだれを垂らしたままぐーぐーと眠っています。
お母さんやぎがはさみを進めると白い小さな耳が見えました。ピョコピョコっと動くと一匹子やぎが飛び出しました。
お母さんやぎは「よかった!生きていたのね!」と喜びました。
「うん!お母さんありがとう!ほかのみんなもお腹の中にいるから早く助けてあげて!オオカミのお腹の中はまっくらで狭くて怖いんだ。」
急いではさみを進めると
二匹、三匹と、子やぎが生きたままぴょこぴょこ出てきました。
「わーい!お母さんが助けに来てくれた!」
六匹とも助かったのでみんな嬉しくて抱き合いました。
するとおおかみの様子を見ていたシロが「大変だ!もうすぐオオカミが目を覚ましちゃう!」と言いました。
みんなを助けることしか考えていなかったお母さんやぎは「どうしましょう!」とおろおろしてしまいました。
そんなお母さんやぎを見てシロは言います。「ぼくにいい考えがあるよ。みんな石をいっぱい集めてきて!」
「まあ、石なんか集めてどうするの?」
「いいからいいから!」シロはよほど自信があるようです。

そんなシロを見たみんなは石を集めました。
「次はどうするの?」
「この石をおおかみのお腹の中にいっぱい詰め込むんだ!」
「おおかみ起きちゃわないかなあ?」
「大丈夫!まだ起きないよ!」
みんなはオオカミのお腹に石をいっぱい詰め込みました。
するとお母さんやぎが「あとは、お母さんに任せて!」と言っておおかみのお腹を縫い合わせました。
「もうすぐオオカミが目を覚ますよ!みんな隠れて!」シロは言いました。
「ふわーーあ、よく寝た。あれ?なんだか少しお腹がおもいなあ…まあ六匹も食べたんだから当たり前か!」
オオカミはさっきのことを思い出して満足したように笑いました。
「母親やぎが帰ってきたらあいつも食べてやろう。まだ一匹残っている子やぎと一緒に食べてやろう。」
お腹の中に石が入っているとは夢にも思わず、オオカミは呑気なことを言ってます。
一方隠れてその様子を見ていたお母さんやぎと子やぎはその恐ろしさにぶるぶると震えました。「絶対にゆるさないぞ!やっつけてやる!」
 目を覚ましたおおかみはのどがかわいたので池に水を飲みに行こうと思いました。
「なんだかお腹が重いなあ…よいしょ。おっとっと。」
お腹に石をつめられたオオカミは重みでよろよろしています。

「そーっと水をのもう…」おおかみが池に顔を付けたそのとき、
「みんな!いまだ!」
シロが叫びました。
すると隠れていた子やぎたちとお母さんやぎが出てきておおかみの背中をどんっと押しました。
「えいっ!」
ばっちゃーーーん
派手な音をたててオオカミは池に落ちてしまいました。
お腹に石をつめられたオオカミはお腹の重みで池の底へ沈んでしまいました。
「やったーーー!!おおかみをやっつけたぞ!」

お母さんやぎと七匹の子やぎたちは飛んで喜びました。

みんなで家に帰ってごはんを食べているときにお母さんやぎが言いました。
「みんな無事だったから良かったけど、今度からはもっと気を付けないとだめよ。」
すると子やぎの一匹が言いました。
「次はもっと気をつける!みんなでシロを見習うことにしたんだ!」
一人だけオオカミに対して慎重だった末っ子のシロをみんなは見習うことにしたようです。
「そうね、今回のシロは偉かったわ。これからもよろしくね。」
シロは照れくさそうに笑いました。



それからも幸せに暮らしました。



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101112 さえ 赤鼻のトナカイ  みなさんは、サンタのそりをひくトナカイは毎年変わっていると知っていましたか?
 実は、クリスマスにそりをひいて世界中をまわるにはとても体力が必要なのです。そこで、トナカイたちの中で毎年体力テストを行い、上位9匹だけが合格となり、クリスマスの日にサンタのそりをひくことができます。選ばれたトナカイは、クリスマスの1週間前からサンタの家へ行き、クリスマスに子どもたちに配るプレゼントの確認をしたり、仕分けを手伝ったりして、クリスマス当日を迎えます。
世界中のトナカイたちが体力テストを受けるので、サンタのそりをひくことはとても名誉とされるのです。

 そして、これはある年のクリスマスでそりをひくことになったトナカイのお話。

 この年選ばれたトナカイの中に、1匹だけ見た目の変わったトナカイがいました。このトナカイは普通のトナカイと違い、鼻が赤かったのです。この赤鼻のトナカイの名はルドルフ。
 彼はやっとのことでテストに合格し、この喜びをすぐ伝えようと友達の元へ走っていきました。
 タッタッタッタッ・・・バタン!
「みんな!僕、テストに合格したよ!」
 ルドルフの声に、友人たちは一瞬びっくりしました。
「なんだよー大声出して部屋に入ってくるなんて・・・。それでお前、今何て言ったんだ?」
「だから、僕、テストに合格したんだってば!サンタさんのそりをひけるんだよ!」
 みんなが息をのみました。
「お、おい!ルドルフ!お前すげぇなぁ!」
「ほんとだよ!テストに合格しちまうなんて!」
 友人たちそう言いながら自分のことのように喜びました。
「へへっ。これで僕の夢は叶ったんだ。だから、一生懸命頑張ってくるね!」
 そう言ってルドルフは満面の笑みを浮かべました。

 こうしてクリスマスの一週間前になり、ルドルフはサンタの家へと向かいました。
「やっと着いた・・・ここがサンタさんの家か!嬉しいな、サンタさんに会える!」
 ルドルフはサンタの家のドアの前に立ち、一息ついてから中へ入りました。
「ごめんくださーい!今年のそりをひくことになったルドルフです!」
 そう言ってドアを開けると、部屋の中にはすでに他の8匹のトナカイたちがいました。
「あ、こんにちは!僕はルドルフっていいます!よろしく!」
 そう言ってルドルフは他のトナカイたちにあいさつしました。
 しかし、トナカイたちはあまりあいさつを返してくれません。中には、口元に笑みを浮かべ、向こうをむいてしまう者もいました。
 どうしてあいさつを返してくれないんだろう・・・?
 そんなことを思っていると、奥のドアからサンタが出てきました。
「ほっほっほーう!みんな揃ったかのう。今年も子どもたちにプレゼントを届けるために、よろしく頼むぞ。」
 そう言ってサンタは笑い、トナカイたちに自己紹介するよう言いました。
 トナカイたちが順番に名前を言っていく中、ルドルフは念願のサンタに会えてとても心が躍り、さっきのトナカイたちの態度なんか忘れてしまいました。

 サンタの家に行った初日から大忙しでした。
 なんといっても、世界中の子どもたち全員にプレゼントを配るのですから、プレゼントは山のようにあるのです。長いじゅうたんのようなプレゼントのリストを見てどの子にはどのプレゼントなのかを確認し、国や町によって袋を分けていきます。
「サンタさんって大変なんだなぁ・・・でも、僕は選ばれたトナカイなんだ!しっかりサンタさんのお手伝いしなきゃ!」
 ルドルフはサンタのために、そして世界中の子どもたちのために、せっせと働きました。

 その晩、やっと一息ついたところでルドルフ以外のトナカイたちは、みんなが集まる部屋で話し始めました。
「あいつさ、なんか変わってるよな?」
「俺も思ってた!鼻が赤いってなんか変だよなぁ・・・」
「赤い鼻ってさぁ、なんかピエロみたいじゃねぇか?」
「たしかに!お前例えるのうまいなぁ!」
 そう言ってトナカイたちは笑いました。
 そのとき、ルドルフが遅れて入ってきました。
「ねぇねぇ、みんななんか楽しそうな話してたけど、なんの話してたの?」
 ルドルフは笑顔で聞きました。
 すると、トナカイたちはどっと笑いました。ルドルフが訳も分からずポカンとしていると、トナカイたちは、次々に答えました。
「お前の鼻がピエロみたいだなって話してたんだよ!」
「そうそう、それなのに『なんの話?』って・・・!」
「君の話だよ、赤っ鼻のトナカイさん?」
 トナカイたちはルドルフをからかい始めました。
 これを聞いたルドルフは何も言い返せず、すぐにその場を立ち去りました。
 自分の部屋に戻ったルドルフは、どうしてあんなことを言われ、笑われたのか分かりませんでした。
 赤い鼻をからかわれたことなど今まで一度もありませんでした。それもそのはず、彼の村では鼻が黒ではないのが当たり前だったからです。ルドルフの友達も、青や黄色の鼻をしていたので、それが普通と思って暮らしていました。
「鼻が赤いのってそんなに笑われることなのかなぁ・・・。」
 そう言ってルドルフは一人で先に寝てしまいました。

 それからというもの、他のトナカイたちはいつもルドルフをからかい、仲間外れにしていました。
「どうして赤鼻だからってからかわれなくちゃいけないんだよう・・・。やっぱり僕は変なのかなぁ・・・。」
 ルドルフはしょんぼりとして、一人でいることが多くなっていきました。
 そんな様子に気づいたサンタは、ルドルフに声をかけました。
「ルドルフ、最近元気がないようじゃが、なにかあったのかい?」
 ルドルフは少し悲しそうに言いました。
「あ、サンタさん・・・!実はね、僕・・・鼻が赤いからって、みんなにからかわれてるんだ・・・。」
 そう言ってルドルフは肩を落としました。
「おや、そうだったのか。しかしな、ルドルフ。その鼻は自慢の鼻なんじゃよ。お前の鼻はピカピカに輝くから、暗い夜道でそりをひくには、とっても役に立つんじゃ。」
 すると、それを聞いたルドルフはぱっと顔をあげました。
「サンタさん、ほんと?僕の赤鼻って役に立ってるの?」
 サンタは微笑みながら言いました。
「本当じゃよ。だからクリスマスには、ルドルフには先頭を走って夜空を照らしてもらおうかのう。」
 ルドルフは大喜びし、元気を取り戻しました。
「やっぱり、僕の鼻は変なんかじゃないんだ!」
 そう言って、あたりを嬉しそうに駆けまわりました。

 そしてクリスマス当日、ルドルフはサンタに言われた通り、そりをひくトナカイの列の先頭の方へ歩いて行きました。
 すると、周りのトナカイたちは、いつものようにルドルフをからかってきました。
「おい、赤鼻のくせになんで先頭を走ろうとしてるんだ?」
「そーだよ、ピエロはトナカイじゃないんだから、そりなんかひいちゃいけないだろー?」
 そう言ってトナカイたちはルドルフを笑いました。
 しかし、ルドルフはいつものように落ち込みません。ルドルフは胸を張って、他のトナカイたちに言いました。
「僕の鼻は自慢の鼻なんだ。君たちの鼻と違って、闇夜を照らすことができるんだ!だからもう何を言われたってへっちゃらさ。サンタさんにだってほめてもらったんだから!」
 ルドルフはそう言って、列の先頭へと向かいました。
 他のトナカイたちはルドルフが言い返してきたことにびっくりしてその場で立ったままでいました。
 そして、あるトナカイが口をひらきました。
「おれたち、今までルドルフがみんなと違うからってバカにしてきたけど、あれはルドルフの良いところだったんだ・・・。」
 すると、次々にトナカイたちが言いました。
「うん・・・。違うからっておかしいわけじゃないんだ。」
「そーだよな。なぁみんな、今までのこと、ルドルフに謝りに行こうぜ。」
「そうしよう。」
 そして、トナカイたちはルドルフのもとへ行き、声をかけました。
「ルドルフ!」
 列の先頭にいたルドルフはみんなの方へ振り返りました。
「ルドルフ・・・今まで赤鼻のことからかってごめんな。」
「ごめん。」
 トナカイたちはみんなで謝りました。
 ルドルフは少しびっくりしたような表情を浮かべましたが、すぐまた微笑んで言いました。
「いいよ、もう気にしてないから。みんなが僕の良いところに気づいてくれただけで十分さ。」
 ルドルフが笑顔を見せたので、それを見たトナカイたちも笑顔になりました。
 こうして、トナカイたちはみんな仲良くなることができました。

 そしてそんな中、あるトナカイが言いました。
「鼻が黒じゃないってどんな感じなのかなぁ・・・。」
 それを聞いたルドルフは、あることを思いつきました。
「そうだ!僕の村では、鼻が黒くないのが当たり前なんだけど、みんなも黒以外の色の鼻にしてみない?たしか、部屋に絵の具があったよね?みんなでいろんな色の鼻になってみようよ!」
 すると、他のトナカイたちは大賛成しました。
「おー!楽しそう!」
「今日だけでもちょっとやってみたいな!」
「そりを引く前に、みんなでやるか!」
 こうして9匹のトナカイたちは、互いに鼻を絵の具で塗り合い、みんな様々な色の鼻に変身しました。
「ねぇねぇ、緑の鼻とかどう?」
「お、意外と似合ってるよ!」
「なんか黒じゃないって不思議だけどいいねぇ!」
 赤い鼻なんて、とルドルフをからかっていたトナカイたちも、とても楽しそうにしていました。
 そこへ、サンタがやって来ました。
「ほっほっほーう!みんな楽しそうじゃのう!」
「サンタさん!」
 ルドルフがサンタの方に駆け寄りました。
「サンタさんのおかげで、みんな僕の鼻が変じゃないってこと、分かってくれたよ!サンタさん、本当にありがとう!」
 するとサンタは嬉しそうに笑いました。
「そうか。みんな分かってくれたか。仲良くなれて、本当に良かったのう。」
「うん!」
 ルドルフは満面の笑みでサンタに返事をしました。
 そこで、サンタはみんなに向かって言いました。
「さぁ、みんな準備はよいかな?そろそろ出発するぞ。」
 そして、暗い夜空に負けない明るさを放ちながら、そりは出発するのでした。

(4022字)
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101113 ゆい 魔法のランプ お城に、ジャスミンというお姫様がいました。とても美人で、他の国からもたくさんの王子様が結婚を申し込んできました。しかし、ジャスミンはどの人にも愛を感じられず、結婚の申し込みを断っていました。
  「どこかに素敵な人はいないかなぁ。」ためいきをつくお姫様に、隣でいつもお姫様の話を聞いているお手伝いさんはこう言いました。「お城の外に出て、街を歩いてみてはどうですか?」お姫様は目を輝かせました。「それは良い考えね!お父様にきいてみるわ!」ジャスミンはすぐに部屋を飛び出していきました。「お父様!街にお出かけしてもいい?」もちろん王様は大反対。「街には変なやつがいっぱいいるのだぞ?絶対にダメじゃ!」「そんな…」ジャスミンはどうしても諦めきれず、お城を抜け出していきました。
  街を歩いていると、とても美味しそうなリンゴを見つけました。「真っ赤なリンゴね。」お腹がすいていたジャスミンは、リンゴを手に取り、お金を払わずに食べてしまいました。店主はびっくり。「お嬢さん、お金を払わずに大事な商品を食べてもらっちゃ困るよ。」「え?ごめんなさい…お金ならお城にたくさんあるはずよ?」「お城?そんな冗談を言ってもらっちゃ困るね。」店主がジャスミンを警察に連れていこうとすると、「ちょっと待って、僕のリンゴをあげるから、許してあげて」と声が聞こえました。彼は袋いっぱいのリンゴを差し出しました。「なに?リンゴ?」店主は一口そのリンゴを食べました。すると、目を輝かせて、「なんて甘いリンゴだ!このリンゴをくれるのか?」といって、リンゴを両手いっぱいに持ち、上機嫌で店に戻っていきました。
「ごめんなさい、ありがとう。」ジャスミンは彼にお礼を言いました。「気にしないで。お腹がすいていたんだろ?君もこのリンゴを食べてみるかい?」 と言って彼はまた袋からひとつリンゴを取り出しました。「まぁ、ありがとう。」彼のリンゴを食べてみると、さっき食べたリンゴとは大違い。「とっても美味しいわ!このリンゴはどうしたの?」「おれが向こうのリンゴ畑で作っているんだよ。時々、街に出てこのリンゴを売っているんだ。「リンゴ畑?!行ってみたいわ。」「いいよ、見においで!」
 森の奥へ入っていき、彼のリンゴ畑に行きました。動物たちも彼とは仲良しで、彼が歌を歌うと、小鳥が一緒に歌い、ぞうがリンゴ畑に水をまき、さるが赤くなったリンゴを取ります。「素敵なところね。」ジャスミンも動物達とすぐに仲良くなり、一緒に歌を歌いました。「♪美味しいリンゴになぁ〜れ、愛情たっぷりそそぎます〜♪」歌が歌い終わると、「そろそろご飯の時間だね、手伝ってくれる?」そう言って彼はまた歌いながら台所に行きました。「♪美味しいシチュ〜、にんじん、たまねぎ、グツグツ〜♪」ジャスミンや動物達も手伝い、美味しそうなシチューが出来上がりました。テーブルにシチューを並べ、動物達と一緒に楽しく食べました。
 「ところで、あなたのお名前は?」「僕はアラジンっていうんだ。君は?」「私の名前はジャスミンよ。」「ジャスミン、良い名前だね。どこから来たの?」「信じてもらえないかもしれないけど、私はお城に住んでいるの。」「え?ジャスミン姫?うそだろ?どうしてお姫様がこんな格好で?」「街に出てみたかったの。この格好なら、誰も私がお姫様だなんて思わないでしょ?」「そうだったのか…僕が王様だったら。」この国は、お姫様は王子様と結婚しなければならないという法律があるのです。「…そろそろ帰らないと。」ジャスミンがそう言うと、「ずっとここにいればいいじゃないか。」アラジンはジャスミンの手をにぎります。動物達もジャスミンの服をひっぱり、ひきとめているようです。「王様が心配するわ、ごめんなさい。アラジン、愛しているわ…」
ジャスミンが帰ってしまい、アラジンは悲しんでいました。その時、ドアのベルが鳴りました。「誰だろう?」アラジンが外に出てみると、女の人が立っています。「道に迷ってしまったのです。家の中に入れてもらえませんか?」その女の人は寒さでふるえていました。「寒かっただろう。どうぞお入り。」優しいアラジンは女の人を家の中に入れ、暖炉の前に座らせてあげました。「どうぞ、あったかいココアです。」「まぁ、ありがとう。」次の日、アラジンが起きるとおばあさんはもういませんでした。そのかわりに、「ありがとう。お礼にどうぞ。」という置手紙と一緒に、ランプが置いてありました。「素敵なランプだなぁ。まるでジャスミンのようだ。」アラジンがランプをこすると、「♪ジャジャーン!僕はジーニー!3つまでなんでも夢を叶えるよ♪」という歌とともに、魔法使いがでてきました。「え?魔法使い?」アラジンはとても驚いています。「そうだよ!ご主人様!お願いごとは?」「えっと…僕を王様にしてくれる?」「お安い御用だ!」ジーニーがパチッと指をならすと、あっという間にアラジンは素敵な服に身をつつまれ、王子様のようになりました。「これはすごい!これでジャスミンと結婚できる!」アラジンはさっそくお城に向かいました。
一方、お城に帰ったお姫様はずっと泣いていました。「会いたいわ…。」それをみた王様は「お?!結婚相手が決まったのか?!誰じゃ?誰なのじゃ?」と大喜び。「えっと…」アラジンが王子様ではないため、お姫様は本当のことが言えませんでした。その時です、アラジンがお城にやってきました。白馬に乗って、とっても偉そうにしています。「また偉そうな王子様か…」ジャスミンは、はぁ〜っとためいきをつくと、部屋に戻っていきました。「ジャスミン姫!僕と結婚しよう!」外からアラジンが叫びます。「いやよ。帰って。」お姫様は窓から言いました。「このリンゴを食べてみる?」「…?!アラジン?」お姫様はあわてて部屋を飛び出しました。「どうしてあなたがこんな格好をしているの?」「お城に来たかったからだよ。この格好なら誰も僕が森でリンゴを作っているなんて思わないだろ?」二人は笑って抱き合いました。「お父様!あたしが結婚したいのはこのアラジン王子よ!」「お?そうなのか?それはめでたい!明日は結婚式じゃ!」
その日の夜、アラジンがこっそりとまたランプをこすると、「♪ジャジャーン!僕はジーニー!3つまでなんでも夢を叶えるよ♪」ジーニーが歌いながら出てきました。「ありがとうジーニー!これで幸せになれるよ!」「お安い御用です。あとの願いは?」「僕はもう十分だよ!ジーニーだったら何を願う?」「僕?そんなこと初めて聞かれたよ。僕だったら…自由になりたい!この小さなランプでの生活はもう飽きた!」アラジンはにっこり笑うと、「分かった。参考にするよ!」と言いました。
アラジンの様子を見ていた魔女、アジャーがやってきました。「あの王子は何かおかしい。」アラジンが寝ているところをのぞくと、アラジンは大事そうにランプを抱えて寝ています。「あれはなんだ?」アジャーはランプをそっと盗み、部屋から出て行きました。「あ〜外は寒い。」そう言いながらアジャーがランプをこすると…「♪ジャジャーン!僕はジーニー!あと2つなんでも夢を叶えるよ♪」という歌とともにジーニーが飛び出してきました。「お前は誰だ!」「あれ?さっきとご主人様が違うなぁ…まぁいいや!3つまで願いを叶えるよ!願いは何?」「私を世界一の魔法使いにしてくれ!」「お安い御用さ!」ジーニーがパチッと指をならすと、アジャーは巨大な魔法使いになりました。「そういう意味じゃない!世界一大きくしてなんてゆってない!元に戻してくれ!」「あれ?違うの?」そう言ってジーニーがパチッと指をならすと元通りになりました。「ご主人様!最後のお願いは?」「私はまだ1つしか言ってないはずだ!」「いえ、2つ言いました。世界一の魔法使いにしてくれ、元通りにしてくれ、ほら、2つでしょ?」「くそ!私はこの国を私のものにしたいんだ!私を世界一すばらしい魔法使いにしてくれ!」ジーニーは少し嫌な顔をしながら、「ご主人様の言うことだから、仕方ないなぁ」と言い、パチッと指をならすと、魔女は光をはなっています。「これはすごい!これでこの国は私のものだ!」
  次の日、アラジンが目を覚ますとランプがどこにも見当たりません。「あれ?どこにいったんだろう?ジーニー?」ジャスミンも起きてきて、アラジンの様子に気が付きます。「どうしたの?何かなくしたの?」「あぁ…ちょっと大事なランプをなくしてしまったみたい。」
「ランプ?見つかるといいわねぇ…」その時、「ランプとはこれのこと?」魔女がやってきました。「それだ!返せ!」アラジンが魔女に近づこうとすると、魔女はステッキをひとふり。アラジンが地面にたたきつけられました。「なんてことをするの?!」ジャスミンは魔女にどなりました。「お前もこうしてやろうか?」魔女がステッキをふろうとすると、アラジンが「やめろ!ジャスミンにだけは手を出すな!」と魔女を抑えました。「ふんっまぁ、この国はどうせ私のものだ。」そう言い、部屋から出ていきました。「ジャスミン、ごめん。あのランプは魔法のランプなんだ。」「魔法のランプ?!」「あぁ、俺が王様になれたのも、あのランプのおかげだよ。絶対に取り返して、魔女の言うとおりなんかにさせないからな!」
 魔女はもう3つの願いを使ってしまったため、もうランプやジーニーは必要ありません。「もうこんなただのランプは燃やしてしまおう!」そう言って魔女はランプを暖炉に投げ入れてしまいました。それを見ていた動物が、すぐにランプを取り出しました。この動物はアラジンと仲良しの、リンゴ畑にいたお猿さんです。そして、すぐにアラジンのところに持って行きました。「ウキーッ!キキーッ!」アラジンはすぐに気付き、「お前!どうしてこれを?すごいぞ!でかした!」アラジンはランプをこすりました。「あぁ…僕はもう願いをかなえられないよ。あなたを世界一の魔法使いにしちゃったからね。」と泣きそうな顔でジーニーが出てきました。「ジーニー!!!」「…あ?!さっきのご主人様!僕は悪い魔女に悪い魔法をかけちゃった…。」「大丈夫!僕の願いはまだ叶えてくれる?」「もちろん!あと2つ願いを聞くよ♪」「あの悪い魔法使いを遠くの星まで投げてくれる?」ジーニーは顔を輝かせ、「お安い御用さ!」といって指をパチッとならしました。すると、魔女の叫び声とともに、空へ飛ばされていくのが見えました。「さぁ、結婚式だ!…と、その前に、ジーニー、もうひとつ願いがあるんだけど!」「何でございましょう?」「ジーニーを自由にする!!」「…え?本当にそれでいいの?」「ご主人様の命令だぞ!」「…お安い御用!」ジーニーがパチッと指をならすと、ランプが消え、ジーニーは自由に空を動きまわりました。そうして、アラジンとジャスミンは結婚して、いつまでも幸せに暮らしました。
 めでたし、めでたし。
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101114 ふじば 君と僕 この物語の主人公であるくるみはごく普通の女の子。ひときわ可愛いというわけ
ではないが、とても明るく友達は多い。同じクラスの拓哉はくるみの幼馴染で昔
からよく一緒に遊んでいた。くるみと拓哉は親同士も仲良くたまに家族ぐるみで
食事に行くこともあるほどの仲である。そして、今回くるみが恋をした相手は同
じクラスの智志。彼は誰にでも優しくいつも笑顔の青年。みんなからの信頼も厚
くクラスの人気者である。


窓際の席でいつものように男たちと遊んでいる智志を見るくるみ。
くるみ「智志くんっていつも楽しそうにしてるな。周りの子もみんな笑顔で楽し
そう。」

そんな智志に歩み寄るのはクラスで1番の美人と言われているみか。
彼女の容姿は他のクラスでも噂になるほどの美しさ。そのくせ少し高飛車な部分
があるところが唯一の欠点ではある。

みか「智志〜。これこの前に貸してくれたCD。すごく良かったよ!私もハマっち
ゃった。お礼にクッキー焼いて来たからよかったら食べて。」
智志「全然いいのに。わざわざありがとう。うわ!このクッキーめちゃめちゃ美
味しいじゃん!」
みか「ほんと!?ありがとう。そう言ってくれると頑張った甲斐あったよ。」

その風景を遠くから見つめるくるみ。

くるみ「あ〜あ。やっぱり智志くんにはくるみちゃんがお似合いだなー。私なん
かが高望みするんじゃなかったかなー。」

そんなことを考えながらボッーっとしてると幼馴染の拓哉がくるみのもとに歩み
寄ってきた。

拓哉「おーい。くるみー。なにボーっとしてんの?お前が悩み事なんて珍しいな。

くるみ「あっ拓哉。いや、別になんでもないんだけどね。」
拓哉「そかそか、なら別にいいけど。」


そんな平凡な日々がゆっくりと流れていく中、運命の日は突然訪れたのであった。
廊下をものすごい勢いで走ってくるのはくるみの幼馴染の拓哉。
拓哉の表情はいつもと違って焦っていた。

拓哉「くるみ!落ち着いて聞いてくれ!」
くるみ「どうしたの。そんなに慌てて。」
拓哉「ハァハァ。みかが今日の放課後に智志を呼び出しんだ!」

突然の事に驚き、動揺を隠せないくるみ。

くるみ「えっ!!で…でも…な…なんでそんなこと急に私に…?」
拓哉「もうわかってるんだって!くるみがずっと智志のこと好きなのは!!」

戸惑うくるみ。
それに構わず喋り続ける拓哉。

拓哉「どうすんの!?みかに智志とられてもいいの!?」
くるみ「そ、それは…」

下を向くくるみ。
蚊の鳴くような小さな声でぶつぶつと何かを言っている。

くるみ「そんなこと言ったって相手が悪すぎるよ。私なんかがみかに勝てるわけ
ないよ…」

それを聞いた拓哉がくるみの手を強く握りしめる。

拓哉「くるみはいつからそんな小さい女になったんだよ!今何もしなくて後で後
悔するようなことは絶対するなって!」

いままでにないような拓哉の必死な顔。
それに胸を打たれたくるみ。

くるみ「…そうだよね…よし!決めた!拓哉ありがとう!私も智志に気持ち伝える!
今日みかが智志くん呼び出した時間と同じ時間に智志くん呼び出す!」
拓哉「そうだよ!くるみはそうでなくっちゃ!」

そうしてくるみを笑顔で送り出した拓哉。
しかし、拓哉はその表情の裏にある自分の本当の気持ちを抑えていたのであった。

昼休みが終わる前、いつものように窓際に座る智志に歩み寄るくるみ。

くるみ「智志くん。今日ちょっと大事な話があるんだけど、放課後17時に学校の
裏の駅にきてくれないかな?」

17時とは智志が今日みかから呼び出されている時間と同じ時間である。
少し戸惑う智志。

智志「今日の17時…もう少し遅くじゃだめかな?」
くるみ「17時にきてほしいの。私の今の気持ちを伝えたいから。」

そう言うとくるみは智志の前から立ち去った。

学校が終わり1人駅へ向かうくるみ。その顔は後悔よりもどこかすがすがしい顔
であった。
駅へ着き時計を見るとまだ16時30分。

くるみ「ちょっと早く来ちゃったかな。智志くん来てくれるかな…」

ふと周りを見渡すと仲良く腕を組み帰宅しているカップルがちらほらいる。
可能性は少ないと思ってはいてもどこかでもし付き合えたらと想像してしまうく
るみ。
帰宅中のカップルに自分と智志の姿を重ね合わせるようにして。

そんなことを考えている間に時刻は17時を告げる。それと同時に17時を告げる鐘
が駅に響き渡る。周りを見渡すくるみ。そこに智志の姿はなかった。それでもま
だ待ち続けるくるみ。

しかし、どれだけ待てども智志の姿はあらわれず呆然と立ち尽くすくるみ。
そこに拓哉から電話が掛かってきた。

くるみ「もしもし?」
拓哉「くるみ?今大丈夫?」
くるみ「うん…私みかに負けちゃったよ…」

その時のくるみの声は自身の辛さを隠しきれていなかった。
今にも泣き出しそうなくるみに拓哉から衝撃の言葉が発せられる。

拓哉「…おれさー今智志といるんだ。」
くるみ「え!!?」
拓哉「とりあえずちょっと智志に代わるわ。」
くるみ「え!?ちょっと待って!待って!!」

電話越しに耳をすますくるみ。
ほんのひと時の沈黙。

智志「くるみちゃん…?」
くるみ「…はい…」
智志「今日は約束の時間に行けなくてごめんね。今からちょっと大事な話がある
から聞いてほしいんだ。俺、みんなにはまだ言ってなかったんだけど来月からア
メリカに行くんだ。だからみんなとはいい友達のままお別れしたいんだ。」
くるみ「え…」

智志の言っていることがすぐに頭で理解できないくるみ。

智志「それともう一つ大事な話。くるみちゃんのことを今一番考えてくれて大切
にしてくれる人って案外近くにいるもんだよ。」
くるみ「え…」

とっさに智志から携帯を取り上げる拓哉。

拓哉「くるみ!今のは気にしなくていいからな!じゃあな!」

すぐに電話は切れ、嵐が過ぎ去ったかのようにくるみの頭の中は真っ白になって
いた。

次の日。
昨日の出来事が全く整理できないまま学校に向かうくるみ。
学校ではいつものように拓哉がいて智志がいる。ただみかの目だけは赤く、昨日
の夜泣いたかのような目をしていた。
そして朝の会が始まる。先生がいつもとは少し違う雰囲気で前に立っていること
に気付いた生徒たちはみんなすぐに静かになった。

先生「今日はみんなに少し悲しいお知らせがある。来月から智志が家の事情でア
メリカに行くことが決まった。だからみんなと一緒に過ごせるのも今月いっぱい
で終わりだ。」

静まり返る教室。
生徒たちの開いた口が塞がらない。たった数秒のことだが長時間時が止まったか
のように思えた。
その沈黙は1人の女の子の泣き声で破られた。
それはクラスで1番の美人であるみかであった。
その泣き声とともにみんなは先生のもとに集まった。

生徒たち「う…うそだろ…なあ先生!!うそって言ってくれよ!」
先生「残念ながら本当のことだ…」

その言葉を聞き智志のほうを見る生徒たち。
いつも笑顔でいっぱいの智志の目にもこのときばかりはうっすらと涙が浮かんで
いた。

それからというもの智志の周りにはいつも以上に人だかりができ、一緒に写真を
撮るものや、手作りのストラップを渡すものなどさまざまであった。
中には智志のことが好きでしたと告白するものもいた。
そんな風にして智志の日本での学園生活は終わりを迎えていった。

そして智志が日本を旅立つ日。
朝早くに飛行機で出発するにも関わらず空港に着いた智志が目にした光景はクラ
スの生徒たちだけでなく他のクラスの生徒までが智志のために朝早くから集まり
空港に見送りに来てくれていたことだった。
さすがの智志もその時ばかりは目から大粒の涙を流し、恥じることなく大声で泣
いた。
生徒たちもそんな姿の智志を見たことがなかったので笑顔で見送るつもりが智志
とともに涙を流すものが多くいた。
そんな中でもみんなとの最後の時間を智志は思う存分楽しんだ。
そして、全員で集合写真を撮ったあと涙で見送られながら智志はアメリカに旅立
った。旅立つ最後に拓哉に何かを耳打ちをして。

智志をみんなで見送った帰り道、家が近い拓哉とくるみは2人で一緒に帰ってい
た。
しかし、智志と別れてからというものどこか様子がおかしい拓哉。もちろん幼馴
染のくるみはそのことに気づいていた。

くるみ「ねえ拓哉。さっきからなんか変だよ。どっか落ち着きがないっていうか。
そう言えば智志くんと別れる前に何か話してたよね?何話してたの?」
拓哉「えっ?いや、なんでもない。」
くるみ「え〜!絶対うそだ!なんかあるって。教えてよ〜。」

拓哉の脳裏に先ほど智志と交わした会話が蘇る。
(智志「拓哉!ちょっといい?」
 拓哉「何?何?最後に?」
 智志「拓哉はくるみちゃんに自分の正直な気持ち伝えないの?」
拓哉「え…いいよ別に。」
智志「駄目だって!もったいないよ。幼馴染だからっていつまでも近くでくるみ
ちゃんを見ていられるとは限らないんだよ。俺は拓哉に幸せになってもらいたい。
もちろんくるみちゃんにも。今のくるみちゃんを一番幸せにできるのは拓哉だけ
だって!」)

拓哉「なあくるみ。ちょっと真剣な話してもいい?」
くるみ「珍しいね〜。いいよ〜。」
拓哉「ん〜でもやっぱいいや!」
くるみ「え!なんで、なんで!教えてよ!」

2人は歩みを止める。
下を向く拓哉の顔をくるみが覗きこむ。
話に興味深々なくるみ。
下を向き必死で目線を外す拓哉。

くるみ「ね〜ね〜お願いだから教えてよ。」

拓哉の体を揺さぶるくるみ。

その時だった。
くるみの体を包み込む何か。
すごく温かくて懐かしい香り。
目を開けたくるみは拓哉に抱きしめられていた。

拓哉「ごめん。いきなり。でも許して。」
くるみ「拓哉どうしたの?すごい心臓がドキドキしてるよ。」
拓哉「俺さ…ずっとくるみのことが好きだったんだ。」
くるみ「えっ…」

拓哉の突然の発言に目を丸くするくるみ。

拓哉「正直な今の気持ちを言う。俺と付き合ってほしい。」

拓哉がくるみを抱きしめたまま少しの時間が過ぎる。
時間が経つにつれ不安の色を隠せない拓哉。
その時だった。

拓哉の背中を包み込む小さな手。
精一杯の力でくるみは拓哉を抱きしめ返した。
そして最後にくるみこう言った。

くるみ「ありがとう。くるみも大好きだよ。」
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101115 SACHI* 地獄のそうべえ はじめ
あるところにそうべえという男がいました。そうべえは、軽業師で、毎日曲芸をして見る人を楽しませていました。
 そんなある日のことです。
「とざいとうざい。軽業師のそうべえ。一世一代の軽業でござあい。」
 いつものように軽業を披露すると、お客さんは大盛り上がり。大歓声があがりました。「そーれ、いけいけ!」
「いいぞ!もっとやれ!」
そうべえは嬉しくなって次々に大技をきめていきます。
「さてみなさん、残念ながらこれが最後の演目となってしまいました。これから私の得意技、綱渡りをご覧にいれましょう。」
 そーれ ぺペン ペンペン ペーン
“きょうは調子がええなあ。お客さんも盛り上がってる。最後にすごい技見せたろう”とそうべえは思いました。そして、ヒョイ、ヒョイっと片足で大きく跳ねてみせたり、綱の上で逆立ちをしてみせました。完璧な演技です。
「わー!!!」お客さんは大喜び。そんなお客さんの反応を見てそうべえも大得意。
“お客さん喜んでくれたなあ。今日は大成功や!”ふと気持ちが緩んだその時…
 おっとっとっとっと…あ―――――っ!……くぅ
なか
気がつくとそこは暗くて細い道。白い着物を着て、頭に白い三角の布をつけた人たちが、杖をつきながら通り過ぎていきます。
「ここ、どこやろか。死んでしもたんや。心細なってきたなあ。」
がったんがったんがったん。後ろから何か走ってくる音がします。めらめらと炎が上がっているのです。
「おっ!ええ所へ車が走ってきよった。あれに乗せてもらお!せやけど、なんかけったいな乗りもんやで。まあええわ、お――い!!わしも乗せてくれ―――!」
そうべえが手をふって呼びかけたそのとき。
「それっ」
車の中から3人の男が飛びおりました。
「なんやなんや!?おまえらだれや?」
顔が大きく、まだ若い男が答えました。
「わしは、歯抜き師のしかいといいます。よろしゅうに。」
続いて白いひげを長くのばし、眼鏡をかけた老人が自己紹介をしました。
「わたしは医者のちくあんと申す。」
3人目は、髭も髪の毛も伸び放題で、手には数珠を持った男が
「拙者は山伏のふっかいでござる。」
と名乗りました。
「わしら3人、上手いことゆうてあの車に乗せてもろたんはいいけど、あれが有名な火の車やったんやなあ。地獄への超特急やったんや。ああ、こわあ!」
しかいが言いました。
「そうやったんかいな!わしももうちょっとで乗ってしまうとこやったわ。よかったー。しかいさん、ちくあんさん、ふっかいさん、ここで出会ったのも何かの縁や。いっしょにいきまひょ。」
そうべえ、しかい、ちくあん、ふっかいはこれからの道を共にすることにしました。
しばらく歩くと大きな川が見えてきました。そこにはひとりの老婆がいて、来るものの着物を次々に剥いで行きます。
「あれが、しょうずかのばあさんや。死んだもんの着物を剥ぎ取ってしまうんや。」
「うわあ、あっという間に裸にされてしもた。ふんどしだけは許してくれたけど。」
「この三途の川を渡ったら、向こう岸はいよいよ地獄やで。」
「あーわしらどうなってしまうんやろか。」
二人の鬼がやってきて、死んだ者たちを小舟の中に放り込み、舟を出します。
「絶対に舟から落ちるなよ。落ちたら生きるぞ。」
赤鬼が言いました。
「聞いたか?生き返るんやって!はまりたいなあ。」
「これこれ、何を言う!こんな所で生き返られたらわしの責任になる!もっと中の方へはいっとれ!」
舟の外に降りようとしたしかいを、青鬼がぐいと引っ張り舟にしっかりと乗せました。
いよいよ向こう岸が近づいています。
「さあ、さっさと降りろ!閻魔さまがお待ちじゃ!」
鬼たちに押されて閻魔大王の前に並べられたそうべえたち。
「あれが閻魔大王か。えらい怖いかおやのう。」
「後ろにあるのが浄玻璃の鏡や。あの鏡に今までやった悪いことがぜーんぶ映ってしまうんやから嘘ゆわれへんで。」
「うそゆうたら舌ぬかれるぞ。」
そうべえたちが小声でこそこそ話している間、閻魔さまは鏡を見ながら死人を地獄行きと極楽行きに分けています。
「今日は死んできたもんの数が多いなあ。わしも少し疲れてきたわい。これから呼ぶ者は前に出い。医者のちくあん。山伏のふっかい。歯抜き師のしかい。軽業師のそうべえ。お前ら4人は地獄行きじゃ!後のものはそうやなあ、邪魔くさいからみんな極楽へとおしてしまえ!」
閻魔大王は鬼たちに言いました。そうべえたちは納得できません。
「閻魔さん、なんでわたしら4人だけが地獄へ行かなあきませんの!おかしいやないか!」
ちくあんが言いました。
「ちくあん、お前は治る病人でも死なしてしもたり、聞かぬ薬を売って金もうけしていた罪で地獄行きじゃ。ふっかい、お前は、怪しげなまじないをして金もうけをした罪、しかいは良い歯まで抜いて金もうけをしておった罪で地獄行きじゃ!そうべえ、お前はええと…そうじゃ!はらはらするような綱渡りをして見る人の命を縮めた罪で地獄行きじゃ!」
「そんなむちゃな。それが商売やのに。」
そうべえが言うと
「うるさいうるさい!これ、鬼ども、その4人を地獄へ連れてゆけ!」
おわり
 閻魔大王によって地獄行きを言い渡されたそうべえ、ふっかい、ちくあん、しかいの4人。
「閻魔さん、この4人のもの、地獄のどこへ放り込みましょ?」
鬼の一人が言いました。
「そうじゃな、むさくるしい奴らじゃから、糞尿地獄へ放り込め!」
「へーい」
4人は大きな穴の中へ投げ入れられてしまいました。閻魔大王と鬼たちは4人の様子を見ています。ところが…
「あんまりくそうないなあ。こんなんやったらうちのトイレの方が臭いくらいや。」
4人には全く効きません。それを見て閻魔大王は、
「えーい。しかたない。それでは人呑鬼(じんどんき)を呼べ。この4人を人呑鬼に喰わしてしまうことにする!」
「へーい」
ドシーン ドシーン 地響きとともに人食い鬼が近づいてきます。その大きさといったら、そうべえたちの10倍はあります。とても敵いそうにありません。
「これであいつらも終わりじゃ。」
閻魔大王は満足そうです。
「おっ!久しぶりに活きの良いごちそうじゃわい。よく太ってうまそうじゃ。」
人呑鬼が4人をつまみ上げ、大きな口を開けて飲み込もうとしたその時です。
「鬼さん、あんたえらい虫歯があるなあ。」
としかいが言いました。
「わかるか?」
人呑鬼がいいました。
「そらわしは歯医者やからなあ。せっかくや、抜いてったるわ!」
「そんなことできるんか?」
「それが商売やからなあ。それー!」
しかいは人呑鬼の歯を全部抜いてしまいました。
「うえ〜〜〜歯抜けにしよった〜〜〜!!!」
驚いた人呑鬼はごくりと4人を丸飲みにしました。
「うわ――!」
 暗い管の中を通って辿り着いた人呑鬼のお腹の中には面白いものがいっぱい。そうべえが医者のちくあんに聞きました。
「ちくあん先生、これ何ですか?」
「ああ、それ、ひっぱってみ。鬼がくしゃみしよるぞ。」
ギュ。
「ハ、ハ、ハクショ――――ン!!!」
「ああおもろい。こっちの棒は何ですか?」
ふっかいが言いました。
「その棒をこっちに引くとなあ、鬼が腹痛起こしよるぞ。」
「ほんまかいな。えいっ!」
「あいたたたた!!!」
「こっちの玉をこそばしてみ。鬼が笑いよるぞ。」
「こうか?」
しかいがコチョコチョと玉をこそばすと
「わっはっはっは!!!」
「今度はこの袋や。それを蹴ってみ。」
「これですか。えいっ!」
そうべえが思い切り袋を蹴ると…
ぶう
「わーこりゃおもろい!!」
4人は大はしゃぎ。
「この鬼ちょっと苦しめたろ。みんなで手分けして、ぜーんぶいっぺんにやったろうやないか。いくぞ!それー!!!」
ちくあんの号令で、しかいが玉をこそばし、ふっかいが棒を引き、ちくあんがひもを引っ張り、そうべえが袋を蹴りました。
わっはっは あいたたたた ハックション ぶう
その勢いで4人は鬼の体の外へ吹き飛ばされました。人呑鬼は転げまわって苦しんでいます。
「やったー出れたぞ!」
それを見て閻魔大王は大慌て。とても怒って叫びました。
「その4人を熱湯の釜へたたきこめー!!」
 ぼうぼうと燃える炎のなかにプールほど大きな釜があります。中では熱いお湯がグツグツグツ。大きなフォークのような棒を持った鬼が、後ろから、そうべえたちを突き落とそうとじりじり迫ってきます。
「うわっ、押すな押すな!もうおしまいや〜〜」
みんなが諦めかけたとき…
「わしに任しとけ。」
山伏のふっかいが呪文を唱えます。
「ちちんぷいぷいのぷい!」
「わ――!」
ドボン
「ああ…ええ湯やなあ。」
「気持ちええなあ。」
「こりゃいいわい。」
ふっかいの呪文で煮えたぎる湯は、温泉のようにいい湯加減に。鬼たちは慌てて薪をくべて火を燃やし、日を強くしますが効きません。
「閻魔様、地獄の薪が無くなりましたー!!」
「うーん弱った…それならばこいつらを釜から引きあげて、針の山へ放り上げい!」
「へーい。」
 次に目の前に現れたのは、ドキドキするような針の山。こんな所を歩いたらひとたまりもありません。そのとき、
「ここはわしに任してもらお。わしは軽業師や。わしの足の裏は板みたいになっとる。こんなんなんでもないわ!」
そうべえは他の3人をぐいっと肩に担ぐと、ギラギラ光る針の上をひょいひょいと渡り歩き、難なく頂上まで辿り着きました。
「うへへへへ…もうこいつらにはかなわん。もう地獄から放り出してしまえ。」

「あっ目開いたで。生き返ったわ。あんたよかったなあ。」
そうべえが目を開けると。そこは見慣れた自分の家。奥さんと子どもが涙を流して喜んでいます。
「お医者さんを呼びに行ったら、お医者さんも風邪こじらして死んだっていうし、大変やったんやで。」
「きっとそのお医者さんも今頃生き返ってはるわ。」
番外編
そのころ地獄では鬼たちが会議をしていました。
「なんであいつら4人には地獄の処刑が効かんかったんやろか。」
「案外、地獄の処刑って思ってるほどきつないんちゃうか?」
「そうかもしれんなあ。点検に行ってどんなもんか試してみよか。」
「そうしよか。」
鬼たちはぞろぞろと地獄の処刑上へと移動しました。
「まずは糞尿地獄や。おい黄色、お前入ってみろ。」
「よっしゃ、いくで!」
ぴょーん。黄色の鬼が穴の中へ飛び込みました。
どしん。そこに着いたようです。
「おい黄色、どうやー?」
「…く…くさい…」バタン
上から他の鬼が覗き込んで見ると、黄色い鬼は泡を吹いて倒れていました。
「黄色…。あいつ素直でええやつやったなあ。…よし、次いこ。」
鬼たちはまたぞろぞろと移動し、熱湯の釜につきました。
「あいつら気持ちよさそうに風呂浴びとったで。わしも久しぶりに風呂入りたなったわ。」
「わしもや。」
「ほんなら、緑と紫、ちょっと入って湯加減見てみ」
「よっしゃ、まかしとけ!そーれ!」
ザブン。
「あちち!熱い!引きあげてくれ!煮えてまう〜!」
「そんなことゆうて。気持ちええんやろ。ええなあ。」
「あつい!…たすけて…」
緑と紫の鬼の体がだんだん丸っこくなっていきます。
「なんかピーマンとなすが茹でられてるみたいやなあ、わはは!」
「おい、見ろ!本間になすとピーマンになってしもた!ふっかいの呪文がのこっとったんや!」
とうとう緑と紫の鬼は野菜に変身してしまいました。
「緑は本間におもろいやつやった。紫は気が効くし…残念やけど…次いこか。」
またまた鬼たちはぞろぞろと移動します。今度は針の山です。
「さすがにこれは刺さったら痛いぞ。」
「だれか試してくれ。わしはやりたない。」
「でも、あいつらが平気やったんやから、大丈夫やろ。わしがちょっと触ってみるわ!」
ツン。青鬼が針に手を伸ばしました。
「いった〜〜〜〜〜!!」
青鬼の指からはたくさん血が出ています。
「あ、やっぱり痛いんや。これはこれからも使えるな。」
「だれか〜ばんそうこう!」
「大げさな。自分で舐めとけ!さあ、最後は人呑鬼やな。」
「赤鬼さん、人呑鬼はもうここにはいまへん。」
「おらんやと?どうゆうこっちゃ!」
「へえ、それが…そうべえたちにえらい目にあわされ、もうかなわんと逃げてしもたんです。」
「逃げた!?あの4人のものただもんとちゃうなあ。地獄におられたら、今度はわしらがえらい目にあうとこやった。一生生きとってくれたらいいのに。」
《おしまい》
6
101116 ぴよぴーよぴよぴよ 桃太郎  むかしむかし大むかし、あるところに、優しいおじいさんとおちゃめなおばあさんが仲良く二人で暮らしていました。おじいさんの仕事は農業です。おばあさんは家事をしながら、おじいさんの仕事を手伝っていました。今日もおじいさんとおばあさんは畑仕事の真っ最中です。
おじいさん「おい、ばあさんよ。今日は良い天気じゃのう。とても気持ちが良い!こんな日は仕事もはかどるなあ。」
おばあさん「そうですねえ。今日もおいしい野菜が取れるといいですねえ。」
おじいさん「さあ、もうひと頑張りだ。」
おばあさん「その前にそろそろお昼ご飯にしませんかねえ?」
おじいさん「そうじゃのう。ばあさんの作ったご飯は絶品じゃ!」
おばあさん「ふふふふふ。」
おじいさんの作った野菜はとてもおいしく、おじいさんとおばあさんは、おじいさんの作った野菜を売って、ほのぼのと生活をしていました。
ある日、おじいさんは山へ芝刈りに出かけました。おばあさんは、洗濯をしようと川に出かけました。おばあさんが川で芝刈りをしていると、川の向こうからドンブラコ〜ドンブラコ〜と、何かが流れてきました。
おばあさん「わあ!あれはなにかしら?」
おばあさんのところに近づいてくるにつれ、それが大きな大きな桃だということがわかりました。
おばあさん「あら大きな桃だわ!これはいいおみやげになるわねえ。おじいさん、喜ぶかしら?ふふふ。」
おばあさんは大きな桃を川から拾って、家に持って帰ることにしました。
 家に帰り大きな桃をおじいさんに見せると、おじいさんもすごく驚きました。
おじいさん「これはすごい。ちょうどおなかがすいてきたなあ。」
おばあさん「食べてみましょうかね。」
そう言って、おじいさんとおばあさんは大きな桃を食べることにしました。おばあさんが大きな桃を切ってみると、なんと中から元気の良い男の赤ちゃんが出てきたのです!!
おじいさんとおばあさんは、すごくびっくりして顔を見合わせました。しかし、子どものいなかったおじいさんとおばあさんは、大喜びです。おじいさんとおばあさんは、桃から生まれたその男の子を「桃太郎」と名付けました。
 桃太郎は、おじいさんとおばあさんに大切に育てられて、元気で立派な男の子になりました。桃太郎は、いつも、イヌやサルやキジと仲良く遊んでいました。追いかけっこをしたり、ヒーローごっこをしたりしていました。桃太郎と動物たちは、本当のヒーローになるのをずっと夢見ていました。
 そんなある日、鬼ヶ島にいる鬼たちが悪さをしに、桃太郎たちの住んでいる村にやって来る、という噂を桃太郎は聞きつけました。ヒーローになりたかった桃太郎たちはすぐさま鬼退治に行く準備をしました。
桃太郎「これは、僕たちが退治するしかない!」
イヌ「そうだよ桃太郎!僕たちの出番だ!!」
サル「でも…鬼は何をするかわからないよ…」
キジ「何を言っているんだサル!僕たちが鬼退治に行かないと村が大変なことになってしまうよ!」
桃太郎「そうだよ!みんな!僕たちで鬼退治に行こう!!」
イヌ、サル、キジ「おおー!」
桃太郎たちは、村のみんなのために鬼退治に行くことにしました。
桃太郎「おじいさん、おばあさん。僕たち、鬼ヶ島へ行って、悪いことをする鬼を退治しに行ってきます。」
おじいさん「本当か?桃太郎…。気をつけて行くんじゃよ。」
おばあさん「桃太郎…心配だわ。あ!そうだ!これを持ってお行き。大変なときにこれを食べると力がわいてくるからね。」
おじいさんとおばあさんはそう言って、桃太郎にきびだんごを持たせてくれました。
桃太郎「ありがとう。おじいさん、おばあさん。行ってきます!」
おじいさん、おばあさん「いってらっしゃい。気をつけるんだよ。」
そして、桃太郎とイヌ、サル、キジは鬼退治に行きました。
 そのころ、鬼ヶ島では…。
村の桃太郎という少年が鬼たちをやっつけに来るという話で持ちきりでした。
赤鬼「やばいよ、やばいよ!桃太郎とかいうやつが、俺たちを倒しに来るらしいよ!」
青鬼「俺たちは、村に行って人間たちと仲良くしようと思っていただけなのに…。」
黄鬼「俺たちが村に行って悪いことをしようとしているっていう噂があったんだって。」
鬼たちは、悪さなどする気はなく、ただ、人間たちと仲良くしたいと思っていただけだったのです。しかし、桃太郎たちはそうだとは知らないので、鬼たちを倒す気満々でやってきました。
桃太郎「着いたぞ。いた!鬼!もう逃げられないぞ。」
イヌ「わん!」
サル「ウキー!」
キジ「キャー!」
桃太郎たちは一斉に鬼めがけて飛び込もうとしました。
赤鬼「待ってくれ!俺たちはお前たちに悪さなんかしようとしてないんだよ!」
青鬼「そうなんだ。仲良くしたかっただけなんだよ!」
黄鬼「だから、待ってくれよ。」
鬼たちは誤解を解こうと一生懸命説明しましたが、桃太郎たちは聞く耳を持ちません。
桃太郎「そんな言い訳はやめろー!みんな、かかれー!」
桃太郎のその合図で、イヌは鬼のおしりにかみつき、サルは鬼の背中をひっかき、キジは鬼の目をくちばしでつつきました。そして、桃太郎も刀を持って大暴れです。
そうこうしているうちに、鬼たちは桃太郎に倒されてしまいました。
桃太郎「やったー!僕たちで鬼を退治したぞ。これで僕たちもヒーローさ!!」
桃太郎とイヌとサルとキジは大喜びで、鬼たちの宝物を持って、元気よく家に帰って行きました。それを、陰からこっそり見ていたのは倒された鬼の子どもたちです。子どもたちはまだ小さかったので怯えるばかりでした。しかし、そんな姿に桃太郎たちは気付きませんでした。
 帰ってきた桃太郎たちの元気な姿を見ると、おじいさんもおばあさんも安心しました。そして、鬼ヶ島から持って帰ってきた宝物のおかげで桃太郎たちは幸せに暮らしていました。
 しかし、その十年後…。
子赤鬼「お父さんを倒したあの桃太郎!許さないぞ。」
子青鬼「お父さんたちは一生懸命、誤解を解こうとしたのに!」
子黄鬼「本当だ!桃太郎を倒すぞ。おー!」
親を桃太郎に退治された鬼の子どもたちが大きくなって、桃太郎を逆に退治しようと村にやって来たのです!
桃太郎はいきなりやってきた鬼にびっくりしました。
桃太郎「お前たち何でこんな所にいるんだ。倒したはずなのに。」
子赤鬼「お前たちはお父さんの話も聞かずにお父さんたちを倒してしまった!だから、お父さんたちの代わりにお前たちを退治しに来たんだ!!」
桃太郎「ちょっと待ってくれ!どういう意味なんだ?話を聞かせてくれ。」
鬼の子どもたちは、そう言う桃太郎に十年前の話を聞かせてあげました。
桃太郎「そうだったのか…。それは本当に悪いことをした。本当にすまなかった。」
と、すごく反省しました。鬼の子どもたちもそんな桃太郎の姿を見て、桃太郎を許してあげました。そして、鬼の子どもたちと桃太郎は仲良くなり、一緒に遊ぶようになりました。
桃太郎「僕も君たちと仲良くなれて嬉しいよ!」
子赤鬼、子青鬼、子黄鬼「僕たちも!あはははは!」
桃太郎たち人間と、鬼ヶ島の鬼たちは、それからも仲良く暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。

6
101117 ジーザス リトル・マーメイド ここは人魚たちが暮らす海の底。
王様トリトンの末の娘アリエルは冒険が大好き。執事のセバスチャンのとめる声も聞かず、友達のフランダーと共にいつも海上へ出て遊んでいた。
「アリエル、人間の世界に興味を持つのはやめなさい。お前は人魚なのだから。人間とは仲良くできん。」王様はいつも厳しい顔でこう言う。そのたびにアリエルは反発しながら、どんどん縛られることのない人間の世界に思いを寄せ始める。「だって、パパ、海にはなんにも楽しいことはないわ。海の上の人間たちはどんな風に暮らしているのかしら・・」
 ある日、夜に海上へ顔を出したアリエルはとても楽しそうな音楽を聴いた。「この音はなにかしら?」近くには大きな船がある。こっそり近づいて行くとどうやら中では宴が行われているよう。アリエルはその中にとてもハンサムな男性を見つけた。うっとりと眺めていると、突然、空模様が怪しくなり嵐になった。驚いたアリエルとフランダーは海へもぐる。しかし、アリエルはどうしても彼が気になり、荒れる海の中、もう一度海上へ出てゆく。「彼は溺れているのじゃないかしら・・」すると船から放り出された彼がぐったりとして海に浮かんでいた。アリエルは彼を連れて急いで陸へと向かう。しかし、足ではなくヒレのあるアリエルは人間に姿を見られてはいけない。彼の意識を確認したあとに海へとかけ戻った。「なんてハンサムなの・・もっと彼を見ていたかったわ」
 それからのアリエルは彼を思って何にも手の付かない様子だった。人間の世界に憧れ、海を出たいとばかり願っていた。「あんなにハンサムな人って海にはいないわ。ねぇフランダー彼にもう一度会えたらどうしましょう!」
アリエルが人間になりたがっていることを聞きつけたのは王様を目の敵にする海の魔女、アースラー。ある日アリエルを自分の元へと呼びつけた。アースラーはアリエルに擦り寄って囁いた。「アリエル、お前人間になりたいそうだねぇ、いいものがあるよ・・」アリエルは本当に人間になりたかった。「アリエル、本気じゃないよねぇ?海の世界を出て行くの?王様はどうするの?きっとひどく悲しむよ!ダメだよ!アリエル!!」フランダーの引き留める声もアリエルには聞こえない。全てを捨てるかもしれない覚悟でアースラーの言葉に従い、自分の声と引き換えにヒレを足にしてもらった。「ふふふ、いい子ね。これであなたも人間の仲間入りよ。素敵な王子様とも出会えるんじゃないのかしら。無事に海から出られたらのお話だけれどね・・ハーッハッハッ!」人間になったアリエルは海の中では無力だった。フランダーとセバスチャンに支えられて、アリエルは何とか海の上へ出ることができた。三人が出て行った海の中でアースラーは一人ほくそ笑んでいた。「一週間後の日没までに真実のキスをすることができれば人間になれるだって・・?あたしも悪だねぇ、そんなことさせるわけないじゃないの!あの子を人質にさえ取れば王の座は私のものよ!」
「アリエル、大丈夫かい?」砂浜を立って歩こうとしたけれど、慣れない足はいうことを聞いてくれない。何度もこけながら歩くアリエルをフランダーとセバスチャンは海の中から見守っていた。「僕たちが支えてあげられればいいのに。」どうすることも出来ないもどかしい気持ちが二人を悩ませた。すると、遠くから声が聞こえた。「待ちなさいっ!こらっ!」その言葉と共に一匹の犬が走ってきてアリエルへと飛びついた。「(やだ!くすぐったいわ!)」「ワンワンッ!」「おーい。君、大丈夫?」さらにその後から駆けてきたのは近くの城に仕える執事だった。彼があのハンサムな王子を助けた時にいた執事だと気付いたアリエルは犬と遊んでいた手を止めて立とうとした。「(ゴソゴソ・・ドタッ)」しかし、上手くはいかない。「歩けないのかい?」執事は驚いた。「(コクコク)」アリエルは悲しい気持ちで頷いた。「そんなに汚れてしまって・・とにかく私の城へおいで。シャワーを浴びて、あったかいスープでも飲みましょう。」セバスチャンとフランダーはその様子を見て一安心。お城に入って行くアリエルを見守りながら自分たちもお城の近くまで泳いで行った。
 その執事に連れられ、城の中で汚れた体を洗うように言われたアリエルは、自分が過去に王子様を助けたことを伝えようとする。が、声は出なかった。「あら、あなた声が出ないの?」別の執事が尋ねる。「(コクコク)」更に別の執事が重ねて聞く。「おうちはどこなの?困ったわねぇ。」お城の執事たちは声の出ない、うまく歩くことの出来ない可憐な少女に興味津々なのだ。しかし何を尋ねられても、黙ってうつむくアリエル。状況を察した執事はアリエルがしばらくの間、城で過ごすことが出来るよう、とりはかってくれた。
そしてその夜の食事会にアリエルは招かれ、王子様と対面することができた。「君は・・どこかで出会ったことがあったかな?」「(コクコク)」アリエルは王子になんとかして気付いてもらいたかった。「でも・・・思い出せないや」自分が声を出して伝えることさえ出来れば思いは告げられるのに、と下を向いたアリエルが見たのは、ずっと憧れていたスプーンやフォーク。海でカモメにフォークは髪をとかすものだと教えられていたアリエルは得意げな顔で髪をとかした。王子様や執事はびっくり。「君は・・いったいどこから来たの?」何か間違ったことをしてしまったのかと戸惑うアリエル。「・・・ぷっ」「君!とてもユニークだね!うん、声が出るようになるまでうちで暮らすといいよ。」アリエルはとびっきりの笑顔でうなずいた。そうしてアリエルは王子様に気に入られ、しばらくの間お城で召使として雇ってもらえることになった。
 「(王子様!早く行きましょうよ!)」アリエルの嬉しそうな表情は言葉が出なくとも、王子に語りかけていた。アリエルと王子は二人で遊びに行くことが出来るほど仲良くなり、セバスチャンとフランダーは何とかして二人にキスさせようとした。なぜなら約束の日没は明日までに迫っていたのだ。アリエルが声を取り戻して本当の人間になるチャンスはもうほとんど残されていない。「どうすれば二人にキスさせることが出来るだろうか」セバスチャンとフランダーは頭を悩ませた。しかし、アースラーは二人の邪魔をしようといろいろな方法で近づいてくる。「あんたの好きにはさせないよ、ハッ!」アリエルと王子の仲睦まじそうな様子を盗み見ては、悪巧みをした。時には人間に、時には鳥や魚や猫に変身して二人の良い雰囲気をぶち壊すのだった。約束の最後の日、セバスチャンは危険を顧みずにアースラーへと向かって行き、何とかアリエルの声が入った貝を割ることが出来た。
 「あああ〜あああ〜♪」アリエルの喉が震えた。「王子様」久しぶりの声。王子に初めて響くアリエルの声。「君、、声が戻ったのかい!?」驚いて振り向く王子。「(コクコク)」アリエルは思わずいつものように頷いてしまった。「もう一度声を聞かせておくれ。君の名前は・・?」少し照れながら答える。「アリエルです。以前、溺れていたあなたを助けたのも私なの。」王子は溺れていたのを助けられたことを昨日のことのように覚えており、またその少女にいつかお礼を言いたいとずっと思っていたのだった。「やっぱり君だったのか!また会え本当に嬉しいよ。本当にありがとう。」「私も・・」と二人がキスしようとしたその時、最後の日が沈んでしまった。
「アッハッハ!!」「お前たち、残念だったねぇ、あぁ私のかわいいアリエル。そんな怖い顔しないで。でもね、もう日没は終わったのよ!ハッ!」アースラーが巨大なタコとなり、二人を海へと引きずりこんだ。「あぁっ!」そしてアリエルはアースラーの魔力で元の人魚に戻ってしまった。アースラーが作り出した大きな渦の中、王子は沈んでしまう。「王子様っ!やめて!彼は何も悪くないわ!!」何とか近くの船へと王子を移動させたアリエルは一人でアースラーへと立ち向かうが、うまくかわされ攻撃されてしまい気絶してしまった。一部始終を見ていたフランダーはすぐさまアリエルの元へと駆け寄り、セバスチャンに王様を呼ぶよう伝えた。「王様に伝えてくれ!あなたの大事な娘のピンチだ、って!きっと来てくれるはずだ。」
 一方、王子は船の上で目を覚まし、戦いに敗れる人魚のアリエルの姿を見た。彼女が人魚であったことに驚いたが、だからこそ海で溺れている自分を助けることができたのだと合点がいき、より彼女を愛おしく思うと同時に、彼女を助けなければならない!という思いが強く動いた。「くそう、、どうして私は人間なのだろう。無力だ、、はっ!あるじゃないか!私にもできることが!!」王子の目の端に移ったものは近くに泊まっていた船だった。そしてその船を操ってアースラーの元へ突っ込んだ。アースラーはバランスを崩して自分の作った渦へと呑まれてしまい、死んだ。
あとから駆けつけた王様は全ての状況を一目見ただけで理解した。「アリエル・・お前は本当にこの男が好きなんだね。自分の命と引き換えに出来るほど。」王様の表情は優しかった。「ええ、、パパ、許して。」アリエルは今にも泣き出しそうだ。「私は分からず屋ではないよ。・・これは親の愛だ。」シャラララ・・「わぁ!!」アリエルのヒレは本当の人間の足になった。「パパ・・!」「本当にありがとう。」「さぁ早く彼の元へ行きなさい。」父と娘はしっかりと抱きしめあった。「行ってくるわ。」アリエルはしっかりとした足取りで、迎えに来たお城の船に乗る王子の元へと向かった。「アリエル、本当にありがとう。そして、私と結婚してくれませんか。」「はい、喜んで。」こうしてめでたくアリエルは王子様と結婚し、憧れていた人間の世界で暮らすことになった。めでたし、めでたし。
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101118 みかん ララの物語 ある静かな森の中に小さな家がありました。その家にはララという可愛い女の子とお母さんと二人で暮らしています。お母さんはララを残し買い物に出かけて行きました。一人になったララは「んー今日もいいお天気♪あ、あのお花、とっても綺麗だなあ〜…」と窓の外をうっとりと眺めながらいいました。ララはお母さんと”外へ決して出てはいけない”という約束をしていたので、窓から素敵な外の世界を眺めることしかできないのです。
 すると突然、男の人が窓から部屋の中に入ってきました。ビックリしたララは、叫ぼうとしましたが、それに気づいた男の人は、あわててララの口を抑え、ララと一緒に物陰へと隠れました。外から「どこへいったんだ…すばしっこい奴め。」という声が聞こえてきました。追手は男の人を見失ったようです。そのまま二人の追手は、違う場所へと探しに行きました。
男の人は「ふぅー。なんとか撒いたぜ。」と安堵の表情を浮かべていました。ララが、早く手を離せと言わんばかりに、じたばたし始めたので、その男の人は抑えていた手を離しました。なにが起こったかさっぱり分からず、呆然とした表情で、ララは「あ、あ、あ…あなたは一体…誰なの??」と聞きました。男の人は「あ、ごめん、ごめん。自己紹介するのを忘れていたよ。申し遅れましたが、俺の名前はユウ。君の名前は?」「私は、ララ。…あなたは…なぜ追われていたの?」とララは、初めて見るお母さん以外の人、その上男の人に、少し警戒しながら、恐る恐る聞いてみました。「突然驚かせて、すまなかった。怪しい者じゃないから、ゆっくり俺の話を聞いてくれ…」とユウは言い、事情と少しだけ生い立ちを説明しました。ユウは幼い時に家族を亡くし、ずっと一人で生きてきました。その内、だんだん生活が苦しくなってきて、ユウは街にある食べ物を盗んでしまいました。それからというもの、盗んでは逃げ、盗んでは逃げ…を繰り返し、とうとう“盗賊”と手を組むようになりました。今回ユウは、追手の二人と一緒に、お城にあるお姫様のティアラを盗んできました。三人で協力して盗んだティアラでしたが、三人で分けることが惜しくなったユウは、ティアラを持ったまま、二人から逃げてきたそうです。説明をし終わった後、ユウはララにティアラを見せようと、鞄に目をやると、入れていたはずのティアラがありません。慌ててユウは部屋の中を探していると、突然ララが「これのこと?」と言いながら、ティアラを指でくるくると回し、頭の上にティアラを乗せ、にこっとユウに微笑みかけています。隠れている時に、ティアラは鞄から落ちたようで、ララはこっそりと拾って持っていたのです。「ああ!それそれ!見つけてくれてありがとう。」と言い、手を差し伸べたが、ララは返してくれません。「急にどうした?早く返してくれよ。」とユウはもう一度ララに言ったが、ララは首を大きく横に振りました。「返して欲しかったら…私を外の世界へ連れて行って。私、一度も外へ出たことがないの。」とユウに言いました。そんな面倒くさいことはごめんだと、ユウはララに言い続けましたが、ララは一歩も引きません。沈黙がしばらく続いた後、「…ああーもうわかった、わかった。外へ連れて行けばいいんだろ?連れて行けば。」とユウが折れました。やったー!!と大はしゃぎするララの手を引き、ユウは渋々、一緒に外へ行くことになりました
外へ出るとララは目をキラキラ輝かせながら「わあーわあー。」と言葉にならない声を上げました。そして森の中をぐるぐる走り回り、「うさぎさんこんにちは。お花さんこんにちは。」と、出会う生き物全てに挨拶をし、そのたびに満面の笑みを浮かべました。そしてユウの傍に帰ってくると、「とっても気持ちいいね!」と言いながらララは大きく背伸びをし、草むらの上へバタンと寝転がりました。ユウに連れられて、初めて外の世界へ出たララは、とても生き生きとした表情をし、全身で外の世界を感じているようです。「なんて素敵なところなのだろう…。」と空を見つめながら、うっとりしていました。ユウは幼い頃から、外の世界にたった一人で過ごしていたため、ララの気持ちが全然わかりませんでした。一方ララは、草の上でごろごろしたり、お花が鼻に付くぐらい近くで見つめたりと、堪能しました。しばらくすると、「ねぇ、ユウ!私もっともっと色々なところに行ってみたい!」とララはユウにお願いをしました。ララを見ていると、「家族と暮らしているのに贅沢な…」と思ってしまう黒い自分がちらつき、心苦しくなってしまうので、あまり乗り気ではありませんでした。しかし、ティアラはララが持っています。「そうだ、街へ連れて行って、ララが夢中になっている間に、こっそりティアラを盗み、逃げよう。」と思い、ユウは渋々、お城のふもとにある街へとララを連れて行きました。
街では、素敵な音楽が流れ、街のみんなはとても楽しそうに、商売をしたり、歌ったり、踊ったりしています。それを見たララは、先ほどよりも目をキラキラと輝かせ、感激しました。「うわあー!ユウ見て、見て!とってもおいしそうなものが売ってあるよ!!」と言い、ユウの手を握り引っ張っていきました。ララは、食べ物やアクセサリーを買ったり、一緒に町の人や渋るユウを促して踊ったりなど、とても楽しい時間を過ごしていました。ユウはへとへとになりながらも、ララの楽しそうな顔を見ると、嫌悪感が次第に薄れていき、一緒に楽しい気持ちになっている自分がいました。するとララが、「街ってこんなに素敵なところだったのね!ユウ連れてきてくれてありがとう!!」と、眩しくなるぐらい素敵な笑顔をララはユウに向けました。ユウは“ドキッ”とし、胸の鼓動がどんどん速まるのを感じました。しかし「いや、いや、そんなはずは…」と自分に言い聞かせ、ユウは自分の気持ちに気づかないふりをしました。
ララとユウが街で楽しんでいる間、お母さんが家へと帰ってきました。「ララー、ただいま。たくさん買い物してきちゃって、重たいから、家の中へ運ぶの手伝ってくれるー?」と家のドアの前で声を掛けました。しかし、返事がありません。いつもなら「はーい。」と可愛い声で返事をし、家の扉を開けてくれるはずなのに…聞こえていなかったのかなと思い、もう一度ララを呼びましたが、やはり返事はありません。「もしかして…」お母さんは持っていた荷物を放り出し、慌てて扉を開け、「ララー!ララー!どこなのー?」と叫び回りました。家の中を何度も何度も探しましたが、ララはどこにもいません。お母さんは呆然としました。「…あれほど、家から出てはいけないと言っていたのに…」すると、だんだんお母さんの顔色が暗くなっていきました。目つきは鋭くなり、今までに聞いたこともないような、低く恐ろしい声で、「絶対…絶対探し出してやるわ…。」とつぶやき、森の奥へと消え去ってしまいました。
ララは街で遊んでいる時に、高くそびえる白くて綺麗なお城がずっと気になっていました。街で遊んだ後に、思い切って「お城へ行きたい。」とララはユウに言いました。しかし、断られてしまいました。それもそのはず、ユウはお城にあったティアラを盗んだため、いつお城の兵隊や追手の二人組に見つかるかわからないからです。ララもそのことは分かっていたのですが、好奇心旺盛な性格のため、どうしても断られると余計行きたくなり、ユウの目を盗み、こっそりお城のもとへと行ってしまいました。
「うわ〜なんて綺麗なお城なんだろう。私もこんなところで、暮らしてみたいな…ん?あれはなんだろう。」ララは何かを見つけ、さらにお城に近づいていきました。するとお城の外壁に、大きな、大きな絵が飾られていました。その絵には、国王様と女王様、そして女王様の腕には、可愛い赤ちゃんが大切そうに抱きかかえられている様子が描かれていました。絵をじっと見ていると、「はあ、はあ…やっぱりここにいたか。俺はお城のものを盗んだから、お城の近くには行きたくないとあれほどいったのに…。」と言いながらララの元へ走ってきました。ララは「ごめんね。どうしても気になっちゃって。」と言い、すぐお城の外壁へと目をやりました。ユウもつられて、ララ視線の先へと目をやりました。すると、「…あれ?この赤ちゃん…ララに似てないか?」とユウは、驚いた顔をしながらララへ話しかけました。「…ユウも…そう思うの?私、小さいころの写真がなくて、どんな顔だったか分からないから自信がなかったんだけど…なんとなく、私に似ていると思っていたの…。」ユウは、ララの話を聞きながら、昔街のみんなが言っていた噂を思い出しました。「そういえば、このお城のお姫様。赤ちゃんの時に突然いなくなって、今でもお城の兵隊たちが行方を探しているのだけど、まだ見つかってないって街の人たちが言っていた…もしかして、そのお姫様って…ララじゃないのか?」「でも、私はお母様と森でずっと暮らしているのよ。そんなことあるわけ…」「いや、わからないぞ。自分の娘に“外へ決して出てはいけない”と約束して、一歩も外出さないっていうのは、会った時からおかしいと思っていたんだ。もしかしたら…ララがお母さんと思っている人は、本当のお母さんじゃなくて、ララを幼い時にお城から連れ去って、人目のつかない森で、ララを閉じ込めていた犯人かもしれない。」とユウは言いました。ララはユウの言葉が頭の中でぐるぐるまわり、困惑した表情を浮かべ、「そんなことって…。」と言い、その場で佇んでしまいました。
そこへ、ユウを追っていた二人組が現れました。「やっと見つけたぜ…。」「ユウ覚悟しろ。」と言い近づいてきました。「しまった…ララ!危ないから離れてろ!」と言いララに危害が加わらないように、あえてララから少し離れました。ところが、追手は二手に分かれ、関係ないはずのララにまで襲いかかってきました。「やめろ!こいつは関係ない。お前らの相手は、この俺だろ?」と言い、ララの前へ立ちふさがりました。ララを必死に守りながら戦いましたが、ユウは捕まってしまいました。「やめろー!ララに手を出すな!!」とユウは叫びましたが、追手はララの方へ一歩、また一歩と歩み寄ってきました。ララは逃げ出そうと足に力を入れたのですが、怖さからか、走ることもできず、その場にしゃがみこんでしまいました。ララが危ない…と思った瞬間に、突如ララのお母さんが現れ、ララの前に立ちふさがり、追手に向かってナイフを突きつけました。「これ以上こっちに来たら、容赦しないよ。」と叫び、ララを必死にかばっています。追手は慌てて、ユウを連れて、どこかへ逃げ去っていきました。ララは「ユウー!ユウー!…」と何度も叫びましたが、なす術はありません。大粒の涙がポロポロと、地面へ落ちていきました。
お母さんは、ララを抱き上げ、「ララどこへ行っていたの?あの野蛮な男に連れ去らわれてしまったのね。ああ、愛しのララ。心配したんだから…無事でよかったわ。」と涙を流しながら、言いました。「さあ、お家に帰りましょう。」優しく包み込むようにそう声を掛け、ユウを失い呆然とするララの肩を抱きました。ララは、怪しげに口元を“にやっと”させたお母さんに気づかず、肩を抱かれながら、森へと歩き始めました。
しばらく歩くと、どこからか「ララー!」と呼ぶ声がかすかに聞こえました。「…ユウ?」とつぶやくと、再び「ララー!ララー!いたら返事をしてくれー!」という声が聞こえました。「ユウー!!」とララは大きな声で叫びました。お母さんは舌打ちをし、ララの腕を掴み、全速力で走り始めました。「お母さん?急にどうしたの?ユウがいたの。走らなくて大丈夫だよ。止まって!」と言いましたが、お母さんは何も言わず、そのまま走り続けました。ララはお母さんの様子がおかしいことに気が付き、慌てて「ユウー!ユウー!ここよー!」と叫びました。ユウはララの声を頼りに、全力で走りました。
「はあ…はあ…はあ…やっと追いついたぜ。」ユウがララ達の前に現れました。「ユウ…無事だったのね。」「ああ、ちょっと手こずったけどな。それより、そこのお前、ララの手を離せ!」と言い、お母さんの腕を掴み、ララを引き離しました。「え?ちょ…ちょっと待って、ユウ。この人がわたしのお母さんなの。だから大丈…」「ララ、落ち着いて聞いてくれ。そいつはお前の本当のお母さんじゃない。俺たちを追手の二人組に襲わした黒幕であり、お前を小さい時に誘拐した犯人なんだ!」「え…」「追手がお前まで襲ったのといい、タイミングよくお母さんが現れたのといい、お城の外壁のこともあって、変だと思ったんだ。追手をやっつけた後、二人から真相を聞き出したんだ。あいつは、ララを家へと再び連れ戻すために、あの二人組にララを襲うように交渉したんだ。そして、襲われそうになったところを、自分が助けて、外の世界は怖いという印象を与えながら、ララが自分を頼るように仕組んだというわけさ。」「そんな…」動揺するララをユウは自分の後ろへと引き寄せました。
「ふ…バレちゃあ、しょうがない。あんたの言う通りだよ。私はララの本当のお母さんじゃない。ララを誘拐した犯人だよ。」
とある王国の国王様と女王様の間に、女の子が生まれました。名前は“ララ”です。ララはみんなから愛され、国王様と女王様は、ララと共に幸せな生活を送っていました。ところが、大雨が降り、雷が鳴っていたある晩に、事件は起きました。女王様が、ララの様子を見ようと、部屋へ入り、明かりをつけると、ララがどこにもいないのです。慌てて国王様も女王様も家来達も、お城中を必死で探しましたが、見当たりません。みんなはひどく悲しみました。来る日も来る日も、お城の中や外を家来たちは捜索していたのですが、ララはどこにもいませんでした。そこで国王様は、お城の外壁に家族三人の大きな絵を掲げ、国民のみんなに「ララがいたらお城へ連絡するよう」に呼びかけることにしました。ララは事件の晩、ベビーベットですやすやと眠っていました。女王様が少しの間離れて、一人きりになった瞬間に、見ず知らずの女の人が窓から忍び込み、ララを抱きかかえ、自分の住む森へと連れ去らって行きました。その女の人が、実は「お母さん」だったのです。
お母さんは昔話のように、ララとユウへ真相を語りました。ララは大粒の涙をポロポロとこぼしながら、その話を聞きました。「じゃあ…お母さんは、私の本当のお母さんじゃないの…?」とララは声を震わせながら、か細い声で尋ねました。「ああ、違うよ。お前の本当のお母さんは、お城で暮らす女王様だよ。外へ出るなと言ったのも、お城の奴らにばれないようにするためさ。」と開き直ったようにきつい口調で言いました。その言葉に、ララは深く傷つき、涙がボロボロとこぼれていきました。黙って聞いていたユウは、怒りが頂点にまでのぼりました。「くそう…そんな言い方ないだろ!何十年も一緒に暮らしてきたじゃねえか!」と叫んだ時、お母さんが発狂してユウに襲いかかってきました。「あんたのせいで、めちゃくちゃになったんだよ!!ララと二人で仲良く暮らしていたあの時間を返せ!!!」持っていたナイフでユウを切りつけました。ユウの左袖が、ハラリと地面に落ち、じわっと赤い血が滲んできました。それを見たララが「キャーーー!」と叫んだと同時ぐらいに、お城の兵隊が大勢で現れ、お母さんの周りを囲みました。ユウが事前にお城へ通報していたのです。「やめろー離せー!!」というお母さんの叫び声と共に、兵隊はお母さんをお城へと連行しました。お母さんは子どもを誘拐し、監禁した罪により逮捕され、牢屋に入れられました。
 ララはユウの胸で泣き続けました。ユウはララを抱き、ララが落ち着くまで優しく見守っていました。しばらく泣き、ララが落ち着きを取り戻し始めている頃、「ララ…なのか?」
と声が聞こえてきました。ララとユウが声のする方へ振り向くと、そこには国王様と女王様がいました。「ララ…お父さんとお母さんだよ…お前に出会える日をどんなに待ち望んでいたことか。ララ…大きくなったなあ。」と目に涙を浮かべながら、とても優しい口調で国王様は言いました。「とっても心配していたのよ…無事だったのね…。」と綺麗な涙を流しながら、女王様は言いました。ララは立ち上がって「……お父さん…お母さん…」と言いながら、二人の元へ駆け寄り、二人の胸へと飛び込んでわんわん泣きました。ララは本当の家族である、国王様と女王様と再会し、みんなで涙を流し、喜びを分かちながら抱き合いました。
 家族三人の時間を堪能した後、ユウがララの元へと歩み寄り、ララの鞄からティアラを取りだし、「これ…ララのだったんだな。本当の家族に会えて、幸せそうでよかった。盗ったりして悪かった。ごめんな。」と言い、そっとララの頭へティアラをのせました。そして、国王様と女王様に盗んだことを謝り、牢屋で反省すると伝えました。しかし、国王様は「盗みをしたことはいけないことだったな。でも、私の娘を助け出し、支えてくれた、心の優しいお方だ。感謝しているよ。今回のことは、なかったことにする。その代り、もう二度と盗みをしないことを誓い、ララの傍にいてやってくれないか?」と言いました。ユウは涙を流し、何度もお辞儀をしながら、もう盗みをしないことを誓いました。
こうして、ララは本当の家族とユウと、幸せな生活を送りましたとさ。おしまい。

7
102506 牛乳パック Finale

   夏の草原に 銀河は高く歌う
   胸に手をあてて 風を感じる


 1年生から3年生までぎっしりと生徒が詰まったN高の体育館に、美しい歌声が響いていた。高校1年の6月。初めて聞く3年生による合唱コンクール、その最後のクラスである3年4組はミマスのCOSMOSを歌っていた。


   君の温もりは
   宇宙が燃えていた 遠い時代のなごり 
   君は宇宙 百億年の歴史が 今も身体に流れてる


 とても優しくて、美しい歌詞が綺麗なハーモニーに乗って合唱を聞いている僕たちの心にすっと入ってきた。曲は少しづつサビに向けて盛り上がりを見せ、宇宙のとてつもなく長い歴史が、存在感が自分の中に受け継がれて確かに流れているのではないかと思うほど力強いクレッシェンドが聴衆の心をつかむ。


   光の声が 天高くきこえる
   君も星だよ みんな みんな


 歌う3年4組の先輩たちは本当に誰もが満足そうで、きらきらと輝いているような笑顔に見える。そして、彼らが紡ぐメロディーも。ピアノと、合唱の音の余韻が体育館に木霊する。もっとこの余韻に浸っていたかったが、無情にもきらきらと輝いていたハーモニーは徐々に小さくなり、やがて体育館は痛いほどの静けさに包まれた。

ああ、終わってしまった。

そんなことを思っていた自分に驚いた。中学校の時の合唱コンクールでは感じたことのない感情が僕の心の中を満たしていた。
それは隣にいたカヤトも同じだったようだ。
ぽかん、と呆けた顔でステージを見つめている。

 やがて、体育館は爆発するような拍手の音でいっぱいになった。



 「じゃあうちのクラスの指揮者は日下に決まりでいいなー。」

 担任がそう言うと、クラスのみんなは前に立っているカヤトに向けて拍手を送った。
来たる2ヶ月後に迫る校内合唱コンクールの我らが4組の指揮者が決まったのだ。
それも僕の中学の頃からの部活仲間である日下カヤトに。
終礼が終わり、クラスメートが下校していく中で、僕はまだ一人帰る準備をしているカヤトの肩を叩いた。

 「指揮者おめでと。よかったな。」
 「ありがとう!めっちゃうれしい!」
 「お前ずっと指揮やりたいって言ってたもんなあ。」

 カヤトは1年の時のあの合唱コンクールを見て大きく感銘を受け、それ以後はずっと指揮者をやりたいと言い続けていた。
ふと、カヤトの机の上に積まれている本を見てみるとそれは教科書やノートではないことに気が付いた。

 「もしかしてこれ全部合唱の曲集?」
 「そうやで。もう大体目星もつけてある。4組は絶対優勝するんやから!」

 こいつは指揮者になる前から曲選びをしていたのか。
カヤトのやる気に思わず笑ってしまったが、内心僕はこの友人を頼もしく思っていた。
高校3年の4月の末・・・合唱コンクールまであとの長い道のりが始まった。




指揮者が決まってから1週間。

合唱練習の体制作りはカヤトを中心に進められた。
彼のリーダーシップ、と言えば聞こえはいいが、時に強引とも思えるやり方で物事は決まった。
例えば、各パートの練習をまとめるパートリーダー決め。
ほかのクラスがそれぞれ立候補で決めているというのに、4組だけは指揮者による指名だった。
さすがにこれには難色を示した担任に対してカヤトは、

 「このメンバーなら絶対優勝できると思うんです。それに、彼らもやる気はありますし、複数立候補ならどうせ先生と俺で決めるでしょ?」

 と、見事に言いくるめて納得させてしまったのだから大したのものだ。
こうして各パートのパートリーダーには(僕も含めて)彼と仲のいい、そして合唱が好きなチーム・カヤトとでも言うべき人間が選ばれていた。
自分も選ばれたのが嬉しくないと言えばうそになるが、カヤトの強引な手法には少々不安を感じた。実際に、パートリーダーに立候補するつもりだったという同じ班のゲンキは、パートリーダーの決定が担任から知らされるとこうつぶやいた。

 「俺たちには立候補する権利すらねぇのかよ。」

 しかし、彼は合唱コンクールのもっとも大事な部分である選曲においてもそのワンマンなやり方を変えなかった。
カヤトは選曲に「COSMOS」を出した。かつての4組が名演と絶賛された、あの曲だった。
もちろん、他にも多くの曲が選曲の候補にあがっていた。
中でもクラスで人気が高かったのは「河口」だった。
久留米音協合唱団の5周年記念委嘱作品として作曲された混声合唱組曲「筑後川」の最終楽章であるこの曲は、組曲の中でも単独で取り上げられることも多い名曲だ。
僕個人としてはあの「COSMOS」を一度歌ってみたい、という気持ちはあったが「河口」にも気持ちは揺れていた。つまりどっちつかずだ。
「河口」は「COSMOS」とは全く違ったタイプの合唱曲だが、特に終盤の部分はやはり心にくるものがある。


   筑後平野の 百万の生活の幸を
   祈りながら 川は下る 有明の海へ
   筑後川 筑後川
   その終曲(フィナーレ)  ああ


 この曲の最終盤へと力強く向かっていくところは聞いているだけでも熱くなってくる。
ただし、河口は僕が所属するテノールパートやソプラノパートの音が非常に高く、中学生や高校生が歌うには音程が取りづらくとても難しい曲でもある。
でも、もしあれが歌いきれたら・・・どれだけ気持ちいいことだろう。そう考えるとなかなか気持ちが定まらなかった。
そんな僕の悩みをあざ笑うかのように、選曲はあまりにあっさりと決まった。
放課後にパートリーダー会を開いたカヤトは平然とこう言ってのけた。

 「パートリーダーと指揮者だけで、多数決をとるから。どうせ他は曲なんかどれでもいいと思ってるだろ?」

 結局、僕を含めて全員が「COSMOS」に票を投じた。
だが、選曲会のあっけない幕切れにさすがに僕も口を出さずにはいられなくなり、CDコンポを準備しているカヤトに声をかけた。

 「なあ、さすがに選曲くらいはクラス全員で票取った方がいいんじゃないか?どれでもいいって思ってる奴もいるだろうけど、一生懸命考えてくれてる奴もいるんだしさ。」
 「でもさあ、どうせ「COSMOS」になるって。お前を含めてパートリーダー全員が入れてるんだしみんな追随するっしょ。ちゃんと俺が上手く言うしさ。」
 「・・・とは、言うけどなぁ。」
 「ミツルは昔から心配しすぎだって。これは部活じゃないんだから、大丈夫だよ。」

 僕とカヤトは吹奏楽部に所属しているが、部内では選曲を巡る対立は演奏会ごとにあるといっても過言ではない。
それだけ部員が演奏会に向ける気持ちが強く、推している曲への思い入れが強いということなのだろうが・・・。
結局この日、僕はカヤトの言葉に引き下がってしまった。
後から考えればここが最終ラインだったのだろう。・・・と思う。




 「もうやってらんねぇんだよ!」

 そう怒鳴ったのはゲンキだった。
ついに、恐れていたことが起こったか。僕は内心でそう思っていた。
合唱コンクール7週間前、カヤトはどのクラスよりも早く放課後練習を入れる事を提案した。
提案、というよりは決定事項の報告といったほうが正確かもしれない。
確かに合唱コンクール前にはどのクラスも放課後に時間をとって練習に励む。
しかし、あくまでそれはコンクール2週間前を切った頃が慣例だった。
まだ隣の5組は曲もまともに決まっていないというのに、カヤトはそれを1か月以上も繰り上げて実施することを決めたのだ。

もちろん、4組の優勝の為に。

それはみんなわかっているのだけれど。

 「練習しないと、優勝できないんだよ。ゲンキは優勝したくねぇのかよ?」
 「優勝したくないわけじゃねぇよ。けど、俺たちは受験生だぞ?中間試験もある。何もこんな時期から拘束する必要なんかねぇだろ!」
 「こんな時期だから、やるんじゃねぇか。」

 カヤトは非常に冷静にゲンキに反撃している。
冷静、というより冷徹に、かもしれない。
あいつにとってこの合唱コンクールは3年間あこがれ続けてきた夢の舞台なのだ。
そこで、あの「COSMOS」を歌って優勝する・・・それがあいつの追い続けてきた目標だった。
だからこそゲンキの怒りが理解できないのだろう。

受験だからなんだ、と。
ちょっと拘束時間が増えて帰るのが遅くなるくらいで何なんだと思うのだ。

だが、現実はそんなに甘くはない。
つい一昨日に返却された模試の結果はゲンキを始め芳しくなかったクラスメートは大勢いる。
僕もそうだった。
国公立文系クラスである3年4組の生徒にとっては、この1か月は次の模試に向けての貴重な挽回の機会だ。

 「くそっ・・・なんなんだよ、パートリーダーも曲選びも、何もかもお前ばっかりが勝手に決めて・・・!俺たちの意見は無視かよ!?」
 「俺は指揮者だ。優先されて当然だろ。」
 「指揮者ってそんなに偉いのかよ!?」

 ゲンキはそう叫んだあと壁を叩きつけ、教室から出て行った。
彼だけではない。
カヤトの強引なやり方に不満を持っていたクラスメートが次々と出ていく。
パートリーダーも、「今日は無理だよ。やめよう。」と言って一人、また一人と去って行った。

結局、教室にはカヤトと僕だけが残っていた。

 「なあ、ミツル。お前も俺のせいだと思うか?」
 「・・・」

 クラスメートとの関係は最悪。ある意味学級崩壊してしまった。。
明日からまともに合唱練習なんてできるわけもない。
カヤトの気持ちもわかるが・・・ゲンキの気持ちもよくわかる。
両者が歩み寄れなければバラバラになった4組がまた1つになることはできない。
ここで僕は声をかけなければ。

また、がんばろう。
みんなと話し合おう。

たったそれだけなのに、僕はカヤトに声をかけることができなかった。

お前のせいだろ、やりすぎだ。
だから言っただろ、あれほど。みんなの意見を聞かなくていいのかって。

心のどこかで燻っていたそんな気持ちをぶつけることもできなかった。
何と声をかけていいかわからない。
責める言葉も、慰める言葉も見つからない。
だが、こんな時に頼れる人には1人だけ心当たりがあった。

 「カヤト、今日I中に行くぞ。」
 「え?」

 わけがわからず唖然としているカヤトを引っ張り、教室を出る。
こうなったら僕らの母校であるI中に行くしかない。
先生ならきっと力になってくれる。僕は半ば祈るようにそう信じていた。




 「なるほど、急に訪ねてきたと思ったらそういうわけか。」

 僕らはI中の音楽科準備室にいた。
カヤトにかける言葉が浮かばなかった僕は、二人の音楽の師である吹奏楽部顧問の立石先生に助けを求めたのだ。
先生は急に訪ねてきた僕のしどろもどろな話を黙って最後まで聞き続けてくれた。

 「まずはカヤト、お前に言うことがある。」
 「な、なんですか・・・?」
 「お前は何を中学校時代に部活で何勉強してきたんだ。バカ。」

がつん、とまずは一発。
カヤトの顔が見る見るうちに紅潮していった。

 「指揮者ってのは確かに音楽作りの中心だ。それは吹奏楽でも合唱でも間違いない。だけどな、中心は中心でも指揮者は台風の目のようでなくちゃいけない。」
 「どういうことですか?」
 「指揮者ってのは常に周りの仲間の状況を誰よりも冷静に見ていないといけない。どんな気持ちで練習に参加しているのか、どんな悩みがあってどんなことをやりたいのかってな。そして、周りの仲間の熱い力を上手く引き出して誘導してやるのが仕事なんだよ。お前のやり方みたいに自分が台風みたいに勝手に先走ってゴンゴン引っ張っていこうとすれば、お前のやり方についていけない仲間はどんどん置いていかれていく。だがな、気が付けば一人ぼっちなのはお前なんだよ。カヤト。」

 だから、指揮者は中心は中心でも台風の目でないといけない。
周りの仲間の激しいパワーをうまく冷静に誘導して、常に自分はそのパワーの中心にいる。
指揮者がパワー全開でいくようなチームが上手くいくわけがないんだよ。

先生の言葉は相当カヤトにショックを与えたようで、カヤトはしばらく黙り込んでしまった。
僕は相変わらず、声をかけることもできず、ただじっとカヤトが口を開くのを待っていた。

 「俺でも、指揮者できますかね。」
 「なに?」
 
 やっと口を開いたカヤトはかすれるような小声でそうつぶやいた。
 
 「俺、指揮者に選ばれたとき本当に嬉しかった。あの時の先輩たちみたいに、心にくるような合唱を指揮したかったから。あんな合唱ができたらどんなに最高だろうってずっと思ってました。でもいざ指揮者になってみると本当は自信が無かったんです。」

 あれだけ強気だったカヤトの内面は、こんなにも臆病だったのか。
あの強引とも思えるやり方は、
『優勝しなければならない』
『いい合唱をしなければならない』
という気持ちに囚われてしまった自分の中での「理想」と「現実」を無理やり近づけようとした結果だったのかもしれないと僕は思った。
「COSMOS」にあれだけ固執したのも、かつてのあの感動への強い憧れがあったから。

 「できるさ。俺はカヤトならいい指揮者になれると思ってるよ。お前は音楽に対する熱意もあるし、頭の回転も早い。ただな、1つだけアドバイスをするなら・・・」
 「なんですか?」
 「お前が感銘を受けたっていうその合唱みたいにやりたいと思っちゃダメだな。カヤト、その合唱を越えてみろ。その為に必要なのは、仲間との協力だろ?」

 本当にこの人には敵わない。カヤトを今日先生のところへ連れてきたのは正解だと思った。
この人はいつまでも、僕たちにとって、越えられない大きな壁であり、頼れる師だ。

 「カヤト、まずは皆に謝ろう。一から頑張ろうぜ。僕も明日一緒に皆に話すからさ!」
 「・・・ありがとう。」

独裁指揮者は涙を流していた。
気づけば、僕も。そんな情けない弟子たちに師匠はそれは熱い熱いお茶を煎れてくれた。
そのお茶が、心をじんわりと落ち着かせてくれたような気がした。

そうだ、先生の言うとおり。
一緒に越えるんだ。
あの日の「COSMOS」を、今の4組の皆の力で。



 1年生から3年生までぎっしりと生徒が詰まったN高の体育館に、力強い歌声が響いていた。
高校3年の6月。最初で最後の合唱コンクール、その最後のクラスである3年4組は。


   時の流れに 生まれたものなら
   ひとり残らず 幸せになれるはず
   みんな生命を燃やすんだ
   星のように 蛍のように

   光の声が 天高くきこえる
   僕らはひとつ みんなみんな
   光の声が 天高くきこえる
   君も星だよ みんなみんな

   君も星だよ・・・


 体育館に拍手の音が響く。

終わった。

僕は前にいるカヤトに視線をやる。奴はこんな時でも不敵な笑みを崩していない。
この状況でその表情を見せるとは本当も大したやつだ。

 『3年5組の合唱でした。続きまして、3年4組によります本日最後の合唱です。』

 5組がステージから降りていくと、ついに先頭のカヤトを筆頭に4組のメンバーがステージに上がっていく。
バスパートのゲンキと目があい、お互いニヤリと笑いあった。

こんな余裕があるとは、僕もカヤトと大差ないんじゃないか?

全員がステージに上がり終わったのを確認して、カヤトが指揮台に上り、クラス全員に笑顔を見せる。
僕を始めパートリーダーが一人ずつ頷くと、カヤトは指揮棒を構えた。

終曲(フィナーレ)へ向けていよいよ、始まる。



 1年生から3年生までぎっしりと生徒が詰まったN高の体育館に、力強い歌声が響いていた。
高校3年の6月。最初で最後の合唱コンクール、その最後のクラスである3年4組は。



 3年4組は、「筑後川」を歌っていた。
7
102511 gengen ぼくらのバンド 「なぁ、篤、俺らとバンドくまねぇか?」

『ドサッ!』
大きな音と背中の痛みで目が覚めた。
「いててて・・・。夢・・・か。えらい懐かしいもん見たな。」
部屋を見渡すと住み慣れた自分の部屋に1本のギターが置いてあるのが見えた。
「あれからもう6年か・・・」
そこでふと時計が目に入った。
8時45分を指していた。
「やばい!遅刻遅刻!!」
大急ぎで用意をして家を出た。

行きの電車に揺られながら光はさきほど見た夢のことを思い出していた。
「あいつら元気かなー・・・」


6年前―
「なぁ、篤、俺らとバンド組もうぜ!」
サークルが終わって、着替えていた時のことだ。
サークル仲間の篤に、これまたサークル仲間の浩・圭と3人で声をかけた。
篤「なんだいきなり。というかおまえらバンドなんてやってたのか?」
圭「いや!やってない!これからだ!!篤、バンドに興味あるってこないだ言ってただろ?俺と篤と光と浩志、この4人でバンドを組もう!ほんとならもう一人ほしいがとにかくこのメンバーで俺はやりたい!だから篤、俺らとバンド組もうぜ!青春だぜ!」
これがおれたちの始まりだった。
それからは日を決めて定期的に練習していた。
楽しかった。
ボーカルの圭、ギターの光、ベースの篤、ドラムの浩。めちゃくちゃうまい、というわけではなかったが、互いに刺激し合って、互いを高めあって・・・最高のメンバーだった。

そしてバンド結成から1年たったころだ。
つまりはマンバー全員が無事に2回生になって、大学にも後輩たちが入ってきたころだ。
サークルにもたくさん後輩がやってきた。
ある日、圭がいきなりこんなことを言ってきた。
圭「あ、明日の練習から新メンバー来るから。」
皆「えええええええ!!!!!聞いてないよそれ。」
圭「うん、今はじめて言ったもん。」
篤「だれがやってくるんだ?」
圭「んー。詳しくは内緒だけど、とりあえずキーボードの子だよ。」
浩「おおおお!!!念願のキーボーダー!」
圭「キーボーダーってなんだよ(笑)ま、そんなわけで明日の練習楽しみにしてて!」
皆「おう!」

そして次の日、スタジオ内でのこと。
篤「なぁ、新しいメンバーのことなんか知ってるか?」
光「さぁ?キーボーダーってことしか知らないや。」
浩「あ、なんか1回生らしいよ。サークルの。」
光「へーそうなんだ。」
篤「ってか圭とその1回生とやらは?」
浩「なんか授業が長引いてるらしくて、終わったら来るってさー。圭じゃそのお迎えー。」
光「そうかー。んならその前に1回ぐらい合わせとこうぜ!新メンバーに恥ずかしい顔は見せらんねぇ!」
二人「おぅ!!」

ギターを手にとって軽くチューニングをする。
あぁこの感触・・・。バンドって感じがほんとに好きなんだよな!
そしてセッションが始まった。
といってもボーカルなしだが、やはり楽しかった。

セッション中に扉が開き、二人、入ってきた。
圭と・・・あとは見知らぬ誰か。どうやらそれが新メンバーのようだ。
緊張しながらそいつは入ってきた。

圭「おっ!やってるな。おーいみんな、連れてきたぞ!」

演奏していた3人は手を止め、入ってきた二人の方に向き直った。
圭「新メンバーの幹久だ。みんな仲良くしてやってくれ!」
幹久「1回生の幹久です。キーボードです。サークルでもお世話になると思います。よろしくお願いします。」
皆「よろしくー!ようこそ、うちのバンドへ!」
圭「実は幹久はな、1年浪人してるから俺らと同い年だ。むしろ年上のやつもいるんじゃないか(笑)なぁ篤に光。」
篤「むぅ・・・。ま、そういうことだったら幹久、敬語は使わなくていいぞ。」
光「そうだよー。ここはそういう場所だからねー。」
幹久「それは流石に・・・。」
圭「いいぞ?気にしなくても。」
浩「うん、何の問題もないね!」
幹久「じゃぁ・・・お言葉に甘えます。」

新メンバー、キーボードの幹久を加え、結局5人でやって行くことになった。
その日の練習はというと、今までになく、新しいものとなった。
というよりも幹久の腕前がよすぎた。
うまい。初見の楽譜で弾きとおして見せた。
今まで以上にこれからが楽しみとなった。



メンバーを増え、演奏の幅もひろがり今までどおり仲よくやっていた。
そんな時、第1の事件が起こったのだ。
原因は篤だった。
なぜか全く練習に来なくなってしまった。
今までがうまくいっていただけにここにきての協調性のなさは他の4人の癇に障るところとなった。
一番怒っていたのは俺だったかもしれない。
なんせ篤に向かって
「お前がバンドやめるか、もう片方でやってるほうをあきらめてこっちに戻ってこないなら俺がバンドから抜ける!」
とまで言ってしまった。
それほど俺はこの自由に音楽ができる、このメンバーでやる音楽が好きだった。
それをなおざりにしている篤が許せなかった。

結局、篤はそのままやめていった。
もう片方の方はどうしても抜けられなかったようだ。
バンドに迷惑をかけるぐらいなら、とあいつは最後までバンドのことを考えていた。
いいやつだったな・・・。

「あいつの分まで、残った4人で頑張るか!」

誰か忘れたが、不意に聞こえたその言葉で、少しだけ、気が晴れた。
あいつはもうバンドのメンバーじゃない。残ったメンバーを大切にしよう。
自然とそう思えた。

そこからは4人での練習が始まった。
形は今までと特に変わらず、毎週日を決めてその日にスタジオに集まってひたすら曲を練習するのだ。

正直、物足りなかった、いや、寂しかった。

ベースという低音のないバンドは本当に寂しいものがあった。

やっぱり俺らのバンドは5人そろって初めて完成するのだ、本気でそう思えた瞬間だった。

だが、それでも篤はもういない。俺らのバンドはもう4人になってしまったのだ。
まぁ4人でも楽しかったから十分やっていけたのだが。

バンドメンバーが4人になって、1年ぐらいたった。
いろんなジャンルの曲に挑戦し、そろそろ学園祭とか、ライブをしてもいいんじゃないか、というがはなしが出てきたころのことだ。

圭「ライブをするならオリジナル曲だろ!」

と圭が息を弾ませながらいった言葉で、バンドを結成してから初めてオリジナル曲を作ることが決まった。

先ずはみんなでそれぞれが考えた歌詞を持ちより、あとからみんなでメロディーをつけていこうと決まった。

俺自身、曲なんて作ったことがないから当然歌詞を考えるのも、メロディーを考えるのも初めてだ。
先ずはネットや本でいろいろ勉強して歌詞から考えていった。
正直難しかった。慣れないことはするものじゃないなと何回思ったことか。
でも歌詞を考えるのは楽しかった。自分のイメージがかたちになっているようで、やりがいがあった。
冗談で将来作詞家になってもいいよな。と圭たちと馬鹿騒ぎしたものだ。

2週間後、練習が終わってから考えた歌詞をみてみようという話になった。
練習後、駅の近くのマクドナルドに入り、みんなが
考えてきた歌詞を見せ合った。

さすがに恥ずかしかったな。
特に俺のは洋楽だったし、
英語が正しいかの自信もまったくなかったので、まさかあんなことになるとはおもいもしなかった。
そう、俺の歌詞が選ばれてしまったのだ。

みんないい歌詞を書いていた。わかりやすくてまっすぐで・・・歌いやすそうな歌詞だった。
韻もしっかり踏んでいたし、自分のよりよっぽどよかったのにどうして自分の歌詞なんかが・・・?

と思っていたが、どうやらみんなによると、英語の歌詞が自分達のバンドのイメージっぽいから、だそうだ。

そんなことまで考えたことはなかった。
自分が洋楽好きだからたまたま英語で歌詞を作ってみようと思っただけだったので、この反応はびっくりしたが、同時に嬉しかった。

圭「じゃぁ光、作曲たのんだ!」

…どうやらとても大変なことをしてしまったようだ。
作曲までするのか・・・。と少し困っていたが、同時に楽しみでもあった。

その日の夜から作曲にとりかかった。
作詞よりもはるかに苦労した。
たっぷり時間をかけ、完成した後、それを披露する日がやってきた。
作詞の時と同じように練習後のマクドナルドでの披露ということになった。

その日はたまたま圭と幹久が授業の関係で遅れていた。
だから浩と二人だった。
浩「なぁ光、作曲どんな感じなんだ?できたか?」
光「まぁ・・・素人なりには出来たと思うんだが・・・。まぁ見てみてから考えてくれ。」
浩「楽しみだな!」
光「そこまで期待するなよ。」
浩「えー。・・・あ!」
光「なんだ?」
浩「この曲って、作詞も作曲も光だよな!?」
光「ん?あぁそうだな。」
浩「じゃぁ光がボーカルしたらいいのさ!」
光「・・・へ?」
浩「だって光は洋楽めちゃくちゃうまいし、この曲は光のものみたいじゃんか!」
光「そんなそんな・・・。圭がなんていうか・・・。」
浩「でも俺はこの曲光に歌ってほしいなー。」
光「そうか・・・。まぁ圭にも話してみようよ。」
浩「おう!光のボーカルかぁ・・・。楽しみだなぁ・・・。」

圭「よう!遅れてすまん!今日の練習始めようぜ!」
幹久「ごめんよー。」
浩「おっ!やっときたきた。やろうぜー。」
光「・・・。」

正直、混乱していた。
まさか俺がボーカルを薦められるとは思っていなかった。
自分のかいた曲を歌えるのは嬉しかったが少し複雑だった。
なにせこのバンドのボーカルは圭だ。
しかもバンド初のオリジナルソング。
圭が歌いたがるのは当然だと思った。
でも、どちらかといえば歌いたいという思いの方が強かった。
何せ作詞から作曲まで全てひとりでやりとおした曲だ。
しかも大好きな洋楽ときたら歌うしかないだろう。
それにボーカルがひとりなんて、そんな決まりはどこにもない。
むしろひとりだけというのは俺の求める自由なバンド性に反する。
まぁ全ては今日の練習後、圭と話してから決めよう。

圭「光どうした?」
光「いや、なんもない。練習するか!」
圭「おう!」

そしていつも通りの練習が終わって、ついに作曲披露の時がやってきた。
場所はまたマクドナルドだ。
作曲したものをみんなに見せると、圭と幹久もいいと言ってくれた。
圭「コード進行はかなりしっくりくる。あとは実際弾いてみてどうなるかだな。」
幹久「今日演奏してみればよかったよね。」
圭「あー。確かに。やっちまったなぁ・・・。」

なかなかの高評価だ。
さて、あの話を切り出す時が来たな。
光「なぁ圭。この曲なんだが、浩とも話してたんだが、俺がボーカルしたらだめか?」

圭の雰囲気が明らかに変わった。

圭「・・・。なんで?」
光「この曲は俺の曲だ。作詞も作曲も俺がしたしな。それに洋楽だ。自分で言うのもあれだが俺の得意分野だ。」
圭「このバンドのボーカルはだれだっけ?」
光「今は、圭だ。」
圭「そう。俺だ。このバンドのボーカルは俺。その誇りを譲ることは出来ない。」
光「・・・。」

その日は険悪なムードのまま解散となってしまった。
途中の駅まで圭とは同じ電車だったが、一言も話さなかった。

次の練習の時、もう一度話してみた。
光「なぁ圭。どうしても俺がボーカルはダメなのか?」
圭「あぁ。」
光「ボーカルは1つのバンドに1人までって決まってるのか?」
圭「うちのバンドではそうだ。」
光「それは俺が目指す自由なバンドに反するとわかって言ってるのか?」
圭「・・・あぁ。」
光「そうか。」

次の練習に俺は行かなかった。
完全な決裂だった。
もうやめるつもりだった。
あの曲を俺以外に歌ってもらうつもりはなかったし、バンドの自由性を乱す圭にももう幻滅していた。

バンドメンバーに辞めることをメールで伝えた。
返信は返ってこなかった。

次の日、篤に相談してみた。
光「なぁ篤、俺バンドやめるわ。」
篤「お?あんなに熱心だったのに。何が?」
光「実はかくかくしかじか。」
篤「ははは!実にお前らしい!おまえがそれでいいというのならいいんじゃないか?後悔しないならな!」
光「・・・あぁ!」

やっぱ篤はいいやつだった。一気に吹っ切れた。もう迷いはない。後悔もしない。
今はただ、自分の思うことを出来ればそれでいい。

そんな時だった。圭からメールが来た。
「昼休みにでも集まって話そう。出来るだけ早い方がいい。明日はどうだ?」
と書かれていた。いい機会だと思った。
了承の胸を返信し、メールのやり取りが終わった。

次の日、昼休みにいつもご飯を食べている友人たちには断って、バンドメンバーが待つところへと言った。

もうみんないた。

光「よう。またせたな。」
圭「あぁ。」
浩「光、考えは変わらんの?」
光「あぁ。変わらないね。こんな自由性のないバンドは俺の目指すバンドじゃない。そんなところにはいられない。いても協調性を乱すだけだ。」
圭「光がそこまで決心しているなら俺たちが何と言っても無駄だろう。非常におしいが、ここはあきらめざるを得ないのか・・・。」
幹久「圭がボーカルを譲るか、光があきらめるか、という選択肢はないの?」
光&圭「ないな。そこだけは譲れない。」
同時に言った。互いの頑固さに少しだけ笑いがこみあげてきた。
光「すまんな。まぁ圭もギターはできるから困りはしないだろう。」
圭「・・・。あぁ。」
浩「さて・・・。これから3人でどうする?」
幹久「新しい人を引っ張ってくるか、もうバンド活動をあきらめるか、の2択かな。いや、このままっていう選択肢もあるのか。」
圭「うーん。3人でやりつつ新しいメンバーを探そう。俺はバンドは辞めたくない。」
浩「ま、一人でも辞めたくないなら続けるのが得策かな。俺も辞めたくはないし。」
幹久「俺も。」

というわけで、俺はバンドを脱退した。
残る3人はそのままバンド活動を続けるそうだ。

この話を篤にした。
すると篤は
「俺ら2人でデュエットでもするか?!」
といとも簡単に言ってきた。
だが、面白そうだ。
篤はいろいろルーズな面はあるが、バンドに関する考え方は俺と似ていた。
こいつとならやっていける。そう思った。


今―

「ふふふ。そんなこともあったな。懐かしい。」
今の俺たちは普通に社会人として暮らしている。

あのバンドがどうなったのかあれからはわからない。
圭や浩、幹久とは今でも友人でちょくちょく会ってはいるが、バンドの話をすることはない。

篤はというと、
今は俺と二人で組んでいる。
本当にデュエットが実現してしまったわけだ。
仕事の合間に練習して、今度1stシングルをリリースする。
多分、店頭に並ぶほどではないと思うが、ライブの時などに販売する。
そのライブは明後日だ。今日も仕事が終わったら篤と練習する。

・・・

ライブ当日。
久々のライブで少し緊張していた。
今回のライブのことはほとんど知り合いには伝えてない。
CDの販売もあるのだ。恥ずかしいそんなの。

ステージに立ち、観客席を見渡すと見知った顔がいくつかあった。
その中にあのメンバーがいた。おかしいな、伝えてないのに。
少しどうようしつつも1曲目を歌い始める。
篤の心地よいベースの低音から始まるこの曲はあの曲、だった。
7
102527 レッドクリーム スリー・オブ・アス  毎日いくつもの鉄の四角形のある柵を通して外の景色を見ることに俺は飽き飽きしていた。周りを見回しても時計やソファがあるだけで、いつも何の変哲もない。この家に来てからもう3年になる。朝昼晩決まった時間に飯をくれるこの家に特に不満はないけれども、この中では走って車をカラカラと回すしかすることがなく、単調な生活に嫌気がさしてきたのだ。そのことを忘れるために最近は1日の半分以上は寝ている。
 しかし、一ついいことを思いついた。この場所にずっといるからつまらないだけで、ここから出ていけばもっと楽しいことがまた多くなるのではないのか。きっとそうだ。いや、絶対そうだ。そのためには外へ逃げ出す「準備」をしなければならないので、ひとまず食料を蓄えておく。いつも1食にナッツ類が10粒だから、その半分は蓄えにするために隠した。一日15粒の蓄えの計算だ。またそれから寝て、車を回し、食糧を蓄えといった生活を繰り返したんだ。そうしているうちにどうやらリュックサックの中にいっぱいナッツが貯まったみたいだ。
 そろそろ脱出する時期だと思っていたところ、ちょうどここの家族が揃って外出していった。でも、この鉄の柵には鍵がかかっていてタダでは開かない。仕方なく柵の隙間からすっと抜けだそうと思って身体を入れてみると、なんとすっと入るじゃないか。飯をずっと半分しか食べておらず、痩せてしまっていたからな。柵の外に出ると、リュックも引っ張り出してさっさと家を飛び出した。

 外に出てみると、大きな木ばかりが立ちはだかっていた。前を見ても後ろを見ても木しかなく、行く手も分からなかったが、リュックの中のナッツを少し取り出しつまみながら歩いた。久しぶりの外もいいもんだと思いながらも、歩き歩きするうちに途方に暮れかけていた。俺は飽き症なんだ。
木の中でもひときわ大きい木にもたれかかって休み、うとうとし始めたとき、少し離れたところから何かの声が聞こえた。耳を澄ますとギャーやグワァーといった、どちらかと言えば悲鳴に近いものだったので、あまりそっちの方へ行きたくはなかった。しかし、それが徐々に大きくなってきたため、少し興味がそそられて見に行くことにした。風が一瞬吹き荒れ、木の葉がザザッと音を立て俺は思わず飛び上がってしまった。ある程度ビビっていたからな。またゆっくりゆっくりとそっちの方に歩き始めると、また風もないのにザザッという音がして身を縮こめた。何かと思って上を見ると黒い毛をしたサルが木の上に立っていた。そいつがそこから俺に話しかけてきた。
「いい天気ですなぁ。どちらに行かれるんですか」
「声が聞こえたからそっちの方に行くんだが」
「それは・・・それはやめときなされ」
「何かあるのか」
「でかい犬にハトが食われているところなんですが」
内心は恐怖であふれてしまった。それとともに好奇心も流れ込んできた。
「たしかに、それなら行かないほうがよさそうだな。ただ、どんなもんか見てみたいな」
「痩せ我慢はしなさんな。もといたところに帰った方がよろしいですよ」
「いや、なんか引きつけられるもんがあるんだよ」
やめろと言われたらやりたくなる法則があるけれども、それなんだ。
「そこまで言うのなら、お気をつけてとしか言えませんなぁ。あ、ちなみにあなたの名前は?」
「スティーヴ。君は?」
「デイヴィッドです。でも本当にお気をつけて」

 振り返るとデイヴも小さくしか見えなくなったころ、羽音が耳に入ってきたのと同時にその光景が目に入ってきた。相当まずい状態だった。捕まえられて体力もだんだんなくなってきて、ほぼ動けない状態になっていたみたいだった。俺はそれをじっと見ずにはいられなかった。こんなところに出くわしたことがなかったし、下手に動いて物音を立てたら俺が食われるだろうからな。しかし、見過ぎていたためにハトと目が合ってしまった。すかさず目をそらそうと思ったが、あいつが蚊の鳴くような声で言った。
「た・・・た、助けてくれ」
ハトを捕まえていた犬は声のゆく方向に目を向けた。次は犬と目が合ってしまった。
「ん、何だお前は」
「いやいや申し遅れた。スティーヴだ」
「あぁそうかい。食われたくなけりゃさっさとどっかにいけよ」
「わざわざ忠告ありがとな。ただそのハトなんか食ってずに」
俺はリュックをごそごそと探った。
「ん?」
「これでも食ったらどうだ」
思い切りリュックの中の大きめのナッツ1粒を投げたんだ。遠くへ放り投げて犬に取らせにいこうとしたんだが、犬の右目に命中してしまった。さっきから言っていることだけれど、ちょっと怖くて、力加減というかコントロールがつかなくなったんだ。犬が痛さにもがき始めたのを見てハトが渾身の力を振り絞り、忙しげに飛び、俺のいるところの近くの木の枝に止まった。そうして眺めてはいられないことが徐々に分かってきた。
「お前、やりやがったな・・・」
いきなりこっちに目がけてすっ飛んできやがったから、あわてて俺も木の上にダダダっと登ったはずだったんだが、どうやら気持ちだけが先走りすぎて、体が付いていってなかったみたいだ。登ってる途中で足を滑らせて、そこから先は覚えていない。

青い空が広がっていた。鳥が見えた。しかもその顔がでかでかとこっちを覗きこんだ。
「お、目を覚ましたみたいだなー。大丈夫かい」
「ん、なんだ、お前こそ無事だったのか」
「君のおかげで助かったんだよ。本当にありがとう」
「それほどのことはしてないけどな。それで、なぜ俺はここにいるんだ」
「木から真っ逆さまに落っこちて気を失ってたんだよ。そのままにしちゃ逆に君が犬に食われるから背中に乗っけてここまで逃げてきたわけー」
「こちらこそありがとう、だな。俺はスティーヴ。君の名前は何ていうんだ」
「エリックだよ。」
「それじゃ、エリック、俺は先に行くとするぜ」
「どこに行くんだい」
そういえば決まってなかったな。
「いや・・・特にどこに行くでもない」
「そうなのかー。どこへ行くでもいいけど、僕も一緒に行ってもいいかい」
「別にいいぜ。一人よりも二人のほうがいいからな」
「何か君に恩返ししたいからね」

 今まで木の幹と枝と葉しか見えなかったのに、今は下を見ると緑の塊が見えた。こんなふうにいつも見てるやつがいるんだな。うらやましいと言うか何と言うか。
「僕は君の専属タクシーみたいなものだから、いつでも降りたいときに言ってくれよ」
また風が気持ちよかった。どこまでも眺めが広がった。そこはかとなく感情が高まって、すぐに沈静する。
「そこの湖の岸のところに降りてくれよ」
「オーケー!」
とりあえず水を飲もうと思ったんだ。その水が冷たくてうまいのがよかった。そしてそこらに腰を落ち着けた。
「エリック、ナッツは食えるか」
「うん、食べられるよ。僕はたいていのものは食べるからね」
「そうか。それなら、俺のおすすめのアーモンドを。」
「お、ありがとう。ん〜、上品で味わい深いなー。」
俺は一つピーナッツを手に乗っけて食べた。
「私にもくれませんかな」
どこからともなく聞こえてきた。でもエリックの声ではなかった。
「今何も言ってないよな」
「言ってないよ」
「ちょいと後ろを向いくださいな」
カエルがいたんだよ。たぶん殿さまガエルで、少し年をくっていた。
「腹がものすごく空いていましてな。よろしければくださりませんかな」
別にあげちゃいけない理由もないしな。
「どうぞ」
カエルの目の前にカシューナッツを置いたと同時に食い始めたんだ。
「世の中にこんなうまいものはありますかな。もしよろしければもう一つくださりませんかな」
またカシューナッツを置いた。
「いやぁ、ありがとうございました。私はエドワードと言いましてな、この湖にもう30年も住んでおりまして、まわりの者からは主と呼ばれておりますな」
「へー、そうなんだー。主なら食べ物くらい誰かが用意してくれるだろうにね」
「それがここ三日間みんな旅行に出ておりましてな。一週間後ぐらいには帰ってくる予定ですがな、私も一人じゃ食べ物も取りに行けないぐらいじじいになってしまいましてな」
たしかに、最初に見たときよりもより年寄りに見えてきた。
「そりゃかわいそうだな。20個ナッツを置いてくぜ」
「何から何までありがとうございますな。そうです、これを持っていきなされ」
きれいな四角の形をした青色に光る石粒を渡されたんだ。
「それは友情の証ですのでな、しっかり持っていてくださいな」

太陽と月が7回顔を出すのを見た。この晩は細長い三日月と一番星が横に並んだ空だった。空に光って見えるものはいつ見てもおもしろい。別に星座を知ってるわけでもなく、何の知識もないんだけど、見てるだけで幸せになって寂しくなる。心が吸い取られていく感じなんだ。分かるかなぁ。まぁ、分からなくても俺はそんなんなんだ。
「スティーヴはどこに住んでるんだい」
ぼーっと夜空を眺めてたもんだから、少しびっくりした。
「あの森の中の小さい家だよ」
「ということは誰かに飼われてたのかい」
「まぁ一応そういうことだな」
「家の人、心配してるんじゃないかなー」
「それはそうかもしれないな」
「そろそろ帰ってあげた方がいいんじゃない」
もう十分な気もした。食糧が少なくなってきたということもあるが、何の変哲もないあの家に戻りたくもなってきた。そんなに俺は寂しがり屋だったかな。
「そうだ、エリックはどこにいたんだ」
「僕は珍しく渡り鳥なんだ。空を移動してるときに少しよそ見をしていたらはぐれちゃって、ちょっと森の中に降りて歩いてたんだ。そしたら、あの犬に襲われてね・・・」
「そういうことだったのか」
あの事件からもう7日も経ったのか。短いように見えて長かった。と言うよりは長いようで短かったというべきなのか。分からない。時間ってものは不思議なものだ。勝手に過ぎていって、昔の自分が取り残されるんだよな。時間というよりも記憶の問題なのかもしれない。かなりしんどい状況にいた自分があったけれど、今は何ともなく暮らしている。その時の自分と今の自分が同じだっていうのも変な感じがする。こんなことを考えるのもこの夜の空のせいなんだろう。
「俺、明日帰ることにする」
「そうかー。それじゃ、明日連れていくよ」
「頼んだ。エリックはどうするんだ」
「んー、どうしようかな」
「俺の家に一旦いればいい」
「え、本当に!それはありがたいなー」
俺はどうせ家に帰ったところで、一人で、特にすることもないからな。またナッツを食って、車を回して、寝るだけのパーフェクトかつ退屈な生活をしなくてはならない。話し相手が欲しいところだった。元から誰か話すやつがいれば外に出てくる必要もなかったようにも今では思える。
「おもしろいものは一つもないけど我慢してくれよ」
「そんなものはなくても、一人じゃないんだからそれだけでいいよ」
もう真っ暗と言っていいぐらいに空も暗くなった。月も星も飲みこまれていったみたいだった。エディにもらった石を取り出してみたけど、これだけ暗かったら光るはずもなかった。

この日の朝はブラックホールの中にある太陽が光っているようだった。でも寝起きはすっきりしていたんだ。草のにおいも心地よく、いいことが起こりそうな日だった。久しぶりに家に帰るってこともあるからかもしれない。
「準備はできたかい」
「あぁ、オーケーだ」
また風がスーっとして宙に浮いている気分になった。本当に浮いているんだけど。青、緑、茶、様々な色を通り越して、そして混ざり合った。あの森もすでに大きく見えてきた。懐かしい匂いとともに俺たちは降り立った。
「久しぶりだな」
「うん、本当に久しぶりだなー」
「家に戻るタイミングが肝心だな。心配かけてると思うから、いきなりカゴの中に戻ってるのもどうかと思うよな」
「家の人がいるときに戻ればいいじゃないか」
「やっぱりそうだよな」
俺たちは歩いてたんだけど、さっきから何かが後ろからついてきてる気がしたんだ。つけられていたと言ってもいいかな。ちらと後ろを見てみた。やっぱりだよ。
「お前らちょっと待て」
少し予想が外れてて、ざっと数えて5匹も例の犬がいた。
「俺たちはお前らが来るのを飲まず食わずで待ってたんだ。少ないが、今日のランチになってもらうぜ」
ぐるぐると俺たちの周りを囲みだした。言うまでもなく逃げ場がなくなった。これは敵が多すぎてどうしようもないな。
「スティーヴ、背中に乗って」
俺はエリックにがっしりつかまって、木の上に飛び移った。ここから先は・・・どうすればよいのか分からなくなった。
「エリック、どうする」
「このまま飛んで逃げてもいいけど、あいつらはどうせこの森に居続けるからまた出くわすと思うよ」
ナッツを投げても絶対に当たるわけでもないからやめておこう。家の中に入ってしまえば来られないだろうけど、家の人が襲われてしまうかもしれないからやめておこう。考えをいろいろと巡らしていると、3匹が交互に木にぶつかって倒そうとしていた。
「ちょっと離れたところに移動しよう」
でもまたあいつらが走ってついてくる。何度か場所を変えているとサルのデイヴに会った。
「スティーヴさん、お久しぶりです」
「知り合いなのかい」
「うん、そうだ。久しぶりだな、デイヴ」
「今は何をしてらっしゃるんですか」
「少し下を見てくれよ」
また犬たちが追いついてきていた。
「あら〜、これはまたまずいことになっとりますなぁ。わしも今回はチキンじゃいけませんなぁ。ちょっと待っといてください」
木をひょいひょいくぐり抜けていって、またひょいひょい戻ってきた。片腕にはどっさり石を抱えて。
「これをあいつらに投げつけましょ」
俺たち3人組は一斉に投げ始めた。流星のごとく。俺がつかめたのは本当に小さい石だったけど。だんだんあのブラックドッグたちは後ろに下がっていった。次の瞬間、1匹がものすごいスピードで突っ込んできて、俺らの乗ってた木がバキっと倒れた。今回は気絶しなかったけど、リュックがすっ飛んでしまった。
「おい、みんな大丈夫か」
「んー、なんとかー」
「大丈夫です・・・」
顔を上げるとまた犬に囲まれていた。こちらを睨みつけていた犬の片目は赤く充血していた。手元には何も残っていない。俺は蹴飛ばされて宙に舞った。
「チビなリスさん、態度だけはでかいな。お前は飯にもならん」
また宙を舞ったが、今度は三倍吹っ飛んでどさっと落ちた。ふわふわとした感じがしている中、リュックが青く光っているのが見えた。その向こうから無数の石ころが跳ねてくる。ゲ、グワッ、ゲコという音が重なって大音量が転がってきた。その中の一つが俺に何か話しかけてきた。
「そのリュックはあなた様のものですか」
「そ・・・そうだ」
「私どもは湖の主エドワード様からお許しを頂き、少々旅行をしていたカエルの一行です。石の光を見つけて駆けつけたのです。あの石を持っているということは主のお友達ですね」
「そういうことになるな」
「なぜそんなに傷だらけなんですか」
俺は指をさした。エリックもデイヴも死んではいないようだった。
「・・・私どもにお任せください。皆の者、突撃だ」
一気に全員が跳んで行って、5匹の全身に張り付いた。隈なくという言葉がぴったりだ。
「な、何なんだ、これは」
「私どもはドクガエルでございます。5分後に地獄行き列車が到着します。黒い線の内側にお下がりください」

 転がっている5匹を見たときにはすでにカエルたちはどこかへ行ってしまっていた。たぶん湖に帰ったのだろう。
「俺たちは助かったんだな・・・」
「そうみたいですなぁ」
「死ぬかと思ったよ」
皆傷を負いながらもしっかり立っていた。
「エディに礼を言わないとな。」
「そうだね。でも、ひとまず家に帰ろうよ」
「いや、帰るのはまた今度でいい。もう少し皆と旅をしたい」
俺たち3人組はまた森の外へと歩きだした。
6
102544 ヨネダ ネバーギブアップ!! 雲一つないない快晴。
季節は夏真っ盛り。
茹だるような暑さ、不快感を高める湿気、容赦なく照りつける日射し。
そんなよく晴れた夏の空の下で日本(ひのもと)晴一(せいいち)はバイト先に向かっている。
「今なら液体の気持ちになれる気がする……」
新たな境地に達しようとした晴一の視界に涼しそうな喫茶店の店内で高校生らしきカップルが二人で一つパフェを食べている姿が映る。
この暑いのにわざわざ外に出て、熱くなるのに二人でくっつきながら歩いてきたのだろう。
呆れながらもカップルを睨み、怨念を送ってみるが向こうはこちらに気づく様子もなく楽しそうに喋っている。
 家に帰って人目につかないとこでアイスでも食ってろリア充が。
心の中で毒づきながら晴一は歩き続ける。
本当は大枚をはたいて買ったエアコンの空調が効いた部屋で一日を過ごしたい。
しかし、親の反対を押し切って実家から離れた大学に進学し、ボロい安アパートで一人暮らしをしている晴一にその選択を取ることはできなかった。
一人暮らしが決まった際に勘当同然の勢いで追い出されたので資金の援助は望めない。
せめてもの情けで学費だけは払ってくれているがそれ以外の資金は全て晴一自身が稼がなければならない。
それゆえ現在脱水症状になりそうなほどの炎天下の下でもバイトに向かわなければならなかった。
灼熱の太陽と熱せられたアスファルトの照り返しによる容赦の無い熱気にあてられバイトをサボりたくなってくるが生活がかかっているので我慢する。
歩くたびに体から滝のように汗が吹き出てくるような感覚に嫌気がさしたので、どこか涼めるところはないかと辺りを見回しながら歩く。
暑さにうんざりしながらも、しばらく歩いていると目の前にコンビニが見えてきた。
バイトまでしばらく時間もあったので晴一はそこで時間潰しをすることにした。



「いらっしゃいませー」
店員の元気な声と冷房のゆるめに効いた空気が心地よく出迎えてくる。
汗が引いていくのを感じながら晴一は水分補給用にスポーツドリンクを手に取りレジに向かう。
レジカウンターに立つ中年男性の店員に商品を渡す。
「お会計一点で百五十円になります」
晴一は財布から百五十円丁度を出して店員に渡し会計を済ませる。
外を見ると、陽炎が見えそうなほどの熱気が店内から見ても伝わってきたので、雑誌を読んでもう少し時間を潰すことにした。
雑誌の棚に近づき求人雑誌を手に取る。
もうすぐ大学が夏休みに入るため、短期や単発で収入の良いバイトを探していた。 
ざっと見てなかなか時給のいいバイトは多い。
リゾート地のホテルや民宿での住み込み、海やプールの監視員、テーマパークの臨時増員など、この夏限定のバイトも多く記載されていた。
その中でふと、一つの募集に目が止まる。

イベント・大会設営スタッフ。

その中で、イベント・大会という言葉からある言葉を連想する。

賞金。

もし、賞金付きの大会で優勝すれば中々の稼ぎになるのではないか。
参加費が無料であればその日一日を潰すことになるが、大金を稼げる可能性を得ることはできる。大食い大会ならただ食いをすることもできるだろう。
晴一は求人情報誌を棚に戻すと、イベント関連を紹介している雑誌を手に取り、読み始める。
探してみると想像よりも多くの大会の告知が載っていた。
その中でよさそうなものはないか吟味していく。
カラオケ大会。
歌に自信はあるが意外に参加費の高い大会が多いので却下。
ゲーム大会。
格闘ゲームやシューティングゲーム、カードゲームなど幅広いジャンルがあるが最近めっきりゲームをしていないのでこれも却下。
参加費が不要でも開催場所に行くまでの移動費が高くなるものも多く、良さそうなものは見つからない。
諦めようか。
そんな時、ある大会の広告に目が止まる。

『スプレームス』

聞いたこともない大会だった。
どこかの国の言葉なのか、カタカナで表記されているその名前からは何をする大会なのかは分からなかった。
それなのに何をする大会なのか説明文や紹介文といったものが一切書かれていない。
不思議に思いながらも続きを読んでいく。

開催期間:8月○日〜未定
参加条件:応募による審査
応募資格:不問
応募期間:開催日前日の23時59分59秒まで
開催場所:参加者のみに告知

続きを読んでも不明なことだらけだった。
参加人数も開催場所も分からないので大会の規模も検討が付かない。
怪しすぎるし、そもそも応募する奴がいるのか。
様々な疑念を持ちながら続きを読む。
 

優勝賞金:五億円


「はぁ!?」
思わず声を上げてしまい周りの客の視線が集まる。
肩身の狭さを感じながら晴一は考える。
五億円。
日本人が大学を卒業して企業の正社員として稼ぐ生涯賃金のほぼ倍。
人生を二回順風満帆に過ごしてやっと稼げるかどうかという大金。
フリーターなら人生を十回は繰り返さないと稼げない。
それほどに途方もなく、とてつもなく、とんでもない金額。
それがこのような怪しい大会の優勝賞金として用意されているなど冗談の類としか思えない。
印刷ミスでなければ、個人情報収集のための餌といったことも考えられる。
大会参加のための応募と称して個人情報を集めている可能性もあるがそれにしては金額が大げさ過ぎる。
百万円ならまだ食いつく者もいるだろうが五億円など誰も信じず、応募しようとする者などほとんどいないだろう。
ならばこれは本物なのか。
それとも印刷ミスか。
個人情報を手に入れるための釣り餌か。
しばらく考えた後、晴一は広告の一番下に載っていた応募用のアドレスに必要事項を記入して送信した。
個人情報が売られても、まあ死ぬことはないだろ。
それぐらいの軽い気持ちだった。
開催日の予定日とされている8月○日は明日。
今から送って当選するとは思えなかったが、とりあえず試してみようと考えた。
メールを送り終えた後、時計を確認するとバイト先に向かうには丁度良いぐらいの時間になっていた。
再び外の熱気にさらされなければならないと思うと気が滅入る。
思い、足取りで店を出る。
変わらず降り注ぐ日射しに当てられ早くバイト先に向かうことにした。
暑さにうんざりしすぎたせいか、大会のことはすぐに忘れてしまった。



夜9時頃、晴一は疲れた足取りで自室のアパートの扉を開ける。
「あぁー、今日も疲れたなあ」
晴一は部屋に入り、エアコンの電源を入れ、持っていた袋をガラス製の卓袱台のような机の上に置いた。
中には様々な食材の残り物が入っている。
レストランでバイトをしている晴一は度々余った食材を分けてもらって食費を浮かせていた。
今日はランチメニューで余った野菜と豚肉を貰えたので、体は疲れていたが気分は悪くなく、むしろ気づいたら鼻歌を歌っているほどに気分が良かった。
自炊するのは面倒だが食費が浮くので文句は無い。
最近は料理の楽しさに目覚めつつある晴一が豚肉の冷製サラダでも作ろうかと考えている時に携帯からメールの着信を知らせる音楽が流れてきた。
手に取り、開いてみると知らないアドレスからだったので、広告か迷惑メールの類かと思った。
メールの件名は『審査結果』という簡素なものだった。
なんのことだろう、と少し考えて昼頃に『スプレームス』という謎の大会に応募したことを思い出した。
大会の存在が半信半疑だったので返事が帰ってきたことに驚いた。
しかし冷静に考えてみれば返信が来たところで大会が真実であることの証明にはならない。
本当は個人情報を集めるだけの餌だが一応律儀に落選したという旨のメールを送ってくる変わった連中という可能性もある。
とりあえず内容を読んで見ようと思い晴一はメールを開いた。

件名:審査結果
本文:日本 晴一様
   合格
   当日お迎えにあがります

「なんだこりゃ?」
メールの内容の不明瞭さに思わず声が出てしまった。
合格したということは大会の参加資格を得たということだろうか。
何もかも謎だらけの。
存在すら怪しい大会『スプレームス』。
しかし、優勝賞金は5億円。
言葉通り、遊んで暮らせる程の大金。
それを手に入れるチャンスなのか。
それとも壮大なドッキリなのか。
「当日お迎えって、大会は明日なんだよな……」
何が真実か分からないまま、何の実感も湧かないまま晴一はしばし呆然としていた。
解決されない疑問を抱えながらも、夕食を作り、シャワーを浴びた後、晴一は早々と寝ることにした。
一晩寝たらすっきりするだろうと考えながら布団に入り、深い眠りに落ちた。
 



 
瞼越しに明るさを感じ、晴一は眠りから覚める。
そして目を覚ます前に違和感を感じた。
布団の感触が無く、代わりに背中越しに硬い床の感触が伝わってきた。
居間から出るほど激しい寝相だったのだろうか。
そしてまた別の違和感を感じる。
周りが何やら騒がしい。
部屋の外がうるさいというものではなく近くで何人もの人間が話しているかのようだった。
不思議に思いながら上体を起こして目を開けてみる。
そして自分の目を疑った。
視界に飛び込んできたのは見慣れたアパートの自室ではなかった。
子供の頃、一度だけ親と一緒に野球観戦に行った時のドーム球場を思わせる程に広い部屋。
ぱっと見ただけでは数え切れないほどの人。
晴一の全く知らない空間がそこにあった。
夢でも見ているのかと思い、ベタな方法ではあるが頬をつねってみる。
痛みはある。
ついでに手もつねってみる。
やはり痛い。
流れに乗って全身を色々とつねってみる。
どうやっても痛い。
目の前で何が起こっているのかは欠片も理解できないが紛れもない現実であるということを諦めて認めざるをえなかった。
「やあ、確認は済みましたかな?」
声をかけられたので振り向いてみると一人の男がいた。
頭にバンダナを巻き、メガネを掛けてチェック柄のシャツをジーンズのズボンに入れた晴一よりもやや身長の低く晴一と同年代らしきその男は、一言で表すとオタクそのものだった。
様々な服装の人々がいるこの空間の中でも、この男の格好は浮いているように感じる。
そんな男の言葉の意味が分からず警戒しながら黙ったままでいると、続けて喋り出した。
「ああ、申し遅れましたな。小生、萬(まん)田(だ)学人(がくと)と申します」
相手が丁寧に名乗ってきたので晴一もそれに応える。
「日本……晴一。俺になんか用か?」
いきなり話しかけてきた学人の意図をつかめず、探るように晴一は問いかける。
「なに、日本殿の行動が少し気なりましてな。起きてから頬をつねる者はいましたが、全身をつねったのは日本殿だけでしたので」
 学人は口の端を歪めながら答える。
「俺が起きた時からずっと見てたのか?」
「いえ、たまたま見たらちょうど全身をつねってるとこでしてな。面白かったので声をかけさせてもらった次第ですな」
「そうか。ならここについて俺よりは知ってるはずだよな?ここはどこなんだ?」
 現在の状況を少しでも把握したいが故の質問に、学人は肩をすくめながら言う。
「こっちが聞きたいぐらいですな。小生も目が覚めたらここにいたのでどこか分からないのは日本殿と同じですな。そしてこれから何が起こるかも分からない。どうです、ここはひとつ手を組もうではありませんか」
「どういうことだ?」
「なに、簡単な話、何が起こるか分からないので、何か起こったときにできるだけ協力してお互いをサポートしましょうと、そういう話ですな」
 その提案を聞いて晴一は納得した。
 確かに、現状何も分からない分、いざというときに協力者がいれば色々とやりやすいかもしれない。
「そういうことなら大歓迎だ。いっちょよろしく頼む」
 そう言って手を差し出すと学人は意外そうな顔をする。
「えらく素直ですな。初対面の、しかも小生のような者からの提案などもう少し疑ってくると思っていたのですが」
「別に信用も何もしてねえよ。協力がデメリットにしかならなさそうならさっさと手を切るつもりだ」
「なるほど、なら見限られないように頑張りますかな」
 学人は差し出された手を握り返した。
 萬田学人という男は変わった風貌で妙な喋り方をする怪しいやつだが、協力関係を持ち出してくるあたり、そこそこ頭が良くて悪い奴ではないのかもしれない、というのが晴一の評価だった。


「全員目覚めたようですね」
 晴一と学人が協力関係を結んだ直後、広い空間に突如スピーカー越しの男の声が響きわたる。
 上を見ると、天井付近にいくつものスピーカーがあった。
「この状況に察しが付いている人もいるかと思いますが、戸惑っている人も多いので、説明します。先ず、ここは『スプレームス』の会場です。都合によって何処かは分からないようにしてありますのでご了承ください」
 『スプレームス』という言葉を聞いて晴一は昨日までの記憶が蘇ってくる。
 本当に実在したのか。
「ということはまさか」
 スピーカーの向こうの男に晴一の言葉が聞こえるはずもないが、まるで質問に答えるように続けて話し出す。
「次に、優勝賞金5億円というのは半分本当です」
 会場中がざわめいた。
「これはとんでもないことになってきましたな」
「でも、半分ってどういうことだ?」
 晴一はと同様に、今起こっているざわめきの大半は「半分」という言葉に対する疑問のようだった。
「この大会は参加者の皆様に様々なイベントをクリアしていただき、その時に発生するポイントによって優勝賞金を決定いたします。なので場合によっては賞金の倍の金額を得ることもあれば、逆に優勝してもほとんど賞金が得られない場合もあります」
 優勝してもほとんど賞金が得られない、そんな状況が起こり得るのだろうか。
 しこりのような違和感が晴一の思考に残った。
「最後に、今から早速イベントを行うのでその概要を説明します。周りの壁をご覧ください」
 スピーカーの声に従い壁を見てみると、周りにいくつもの扉があり、その隣にはインターホンの様なものが付いている。
「今からその扉に入ってください。扉には一度だけ入れます。一人でも構いませんし、何人で入っても構いません。その際、条件として必ず全員に何かしらの共通点を持たせ、扉の横のインターホンを押して人数と共通点を明言してください。何でも結構です」
 晴一はざっと数えてみたが大体百個ほどの扉があった。
 この扉の奪い合いになるのだろうか。
 そう考えながらも放送は続いていく。
「ただし、誰かが使った共通点はもう使えません。共通点を複数合わせて一つにまとめても構いませんが、既に使われている共通点と被っている点があれば無効とします。一人で通る場合は共通の相手はいませんがいるという仮定で共通点を明言してください。通過後に確認を行います。確認の様子はモニターを用意しましたので、そちらでご覧になれます」
 すると、扉と天井の間の壁がいくつか分かれ、4つの巨大な画面が向かい合うように出現した。
「制限時間はありませんが、入る扉がなくなり次第終了となります。この会場の人数は千人、扉の数は百までありますので、ちゃんと考えてから扉を通過することをおすすめします。では、初めて下さい」
 放送が終了したあと、しばらくの間静寂に包まれる。
 そして誰かが喋りだし、それが広がり、またたく間に会場内に広がっていった。
「とても簡単そうですな。簡単な条件で早めに終わらせましょうかな?」
 学人の提案に晴一は首を横に振る。
「簡単な条件で通ってもそのあとの確認が何をしてくるか分からない。誰かの確認の様子を見てからでも遅くはないだろ」
「なるほど。それも一里ありますな」
 学人はひとまず納得した様子で引き下がる。
 5分ほど立つと、巨大な4つの画面全てに電源が入った。
「通過者5名。共通点【人間】。確認を行います」
 表示された画面にはここより少し狭いぐらいの空間に高校生ぐらいの少年3人と少女2人が映っていた。
 全員が髪の毛を染め、ピアスをいくつも付け、真面目そうな雰囲気ではなかった。
 楽しそうに喋っている様子を見るとどうやら全員知り合いのようだ。
「つかマジ頭いいべ?人間とかもう見たまんまだから確認取るまでもねえもんな!」
「だろー!?これからは俺のこと天才って呼べよぉ」
「ぎゃははは!そりゃねーわ!」
 頭の悪そうな奴らだなあ、というのが晴一の正直な印象だったが、これで確認というものがどのようなことを行うのか情報を得ることができる。
 しばらくするとスピーカーから先ほどと同じ男の声が流れ出した。
「では、これから確認を行います」
 画面の向こうの若者達はまだはしゃいでいる。
「それでは、いまからあなた達が人間だということを一言でも構わないのでそれぞれ別の理由で証明してください」
 スピーカーの言葉に若者達は一瞬キョトンとした後、すぐにわめき散らし出した。
「はあぁ!?俺らが人間なんてこと見りゃ分かんだろ!ふざけんなよ!」
「そうだろ!さっさと次に進めろや!」
「おいこら何とか言えやぁあ!!」
 3人の少年が騒ぎ立てるのを少女二人が宥める。
「まあまあ、一言でもいいって言ってたじゃん?火が使えるとかでもいいんでしょ?」
「そうだよ。ほら、そんな簡単なことでいいんだよ?」
 少女2人の言葉に少年たちは落ち着きを取り戻す。
「たく、しゃあねーな。じゃあ俺もそれで」
「俺も、火が使えまーす」
「右に同じ」
 少年達の適当さに少女達は呆れかえる。
「別々の理由って言ってたじゃん?それで大丈夫なの?」
「んなこと急に聞かれても分かんねえべ」
「そそ、それに使ってる言葉が違うから良くね?」
「確かにー。ってか何?何か他にあんの?」
よく見ると一人だけピアスを付けていない茶髪の少女は少し考えたあとに答えた。
「信仰を持ってる……とか?」
 この答えに他のメンバーが盛り上がり始めた。
「はあー、何それ?意味わかんねんだけどどゆこと?」
「いや、なんかこの前適当にテレビ見てたらそんな番組があってさ。それ思い出したから言ってみた」
「やべ、何か一人だけ頭良さそうじゃね?」
 5人が騒いでいるとまたもスピーカーから声が流れ出す。
「確認の結果が出ました」
 騒いではいたが一応結果が気になるのか皆が放送に耳を傾けた。
「先ず、それぞれ別々の理由で証明という確認に対し、3人が前の回答者と同じ答えを示すというやり方をとったので、この3人を失格とします」
 この言葉に少年3人が怒り出すが、少女達は自業自得だと言わんばかりの呆れた目で見ていた。
「次に、火を使うという答えですが、教育次第では人間以外の動物でも火を使うことが出来ることが分かっています。よって人間の証明としては甘いと判断され、失格となりました」
 ピアスを付けた金髪の少女は少し残念な表情をしていたが、別段悔しがる様子もなくおとなしくしていた。
「最後に、信仰を持っているという回答ですが、人間以外が自ら宗教を信仰しているという例はないようなので、合格とします。次の場所に移動してください」
 画面の奥の方からポーンという電子音が聞こえる。
 よく見ると非常口の標識のような緑色のランプの下にガラス製の自動ドアらしきものがあった。
 あそこに入って次の場所へ向かえということだろう。
「じゃあ、ちょっと悪い気もするけど行ってくるわ」
「一人だからって寂しがんなよー?」
「どうせなら優勝して何かおごってくれよぉー」
「つか俺らはどうやって帰んの?あのエレベーターで戻んのか?」
 扉を通過したあとエレベーターを使ってあの部屋に行き確認を行う、ここまでの情報を得ることはできた。
 問題は確認に失敗したものはどうなるのか。
茶髪の少女が自動ドアを通った直後のことだった。
「それでは、不合格者には退場していただきます」
 スピーカーの宣告が終わる。
 それと同時に、モニターの画面が消えたので、何が起こったかは分からなかった。
「あの残った奴ら、どうなったんだろうな」
「画面が消えたおかげで何も分かりませんが、おそらく家に返されたか、最悪の場合は……、まあ、あまり想像したくないですな」
 晴一と学人は失格者は最悪の場合どうなるか、ということについて同じ結論に至っていた。
 参加費を一切取られない大会の異常なほど高額の優勝賞金。
 その資金源にされたという可能性に。
 周囲の人々もそこまで考えたのか、予想外の確認の対処法を考えているのか、次の挑戦者はすぐには現れなかった。
「これは、誰よりも早くクリアできそうな項目を見つけたほうが良さそうだな」
「どうも問題はそれだけではなさそですがね」
「どういうことだ?」
「仮定の話ですが、一人でいいところをわざわざ複数人で通れるようにしたこのイベントのあと、次の場所ではどんなことが行われると思いますかな?」
 少し考えたあと、晴一は学人の言いたいことが分かった。
「通過したグループで協力してクリアするイベントがくるかもしれないってことか?」
 学人は頷いて晴一の意見を肯定した。
「グループを組んでその中で競わせるならわざわざ共通点を見つけてまで組む必要はないですし、そもそも一人でも扉を通っていいというルールがあるからにはグループ内での潰し合いとなると無条件でさらに次に進めてしまうので公平さを考えたら可能性は無さそうですな」
「となると俺たちの目下の課題は頼れる協力者を募ることになるか」
「そうなりますな」
 この広い会場で未だ千人に近い数の中から優秀な人材を見つけ出すのは骨が折れそうな作業だと晴一は考えていた。
「時間かかりそうだなあ」
 思わず呟きが漏れ出てくる。
「実は一人、優秀な人材に心当たりがあるのですが」
「え!?本当か?」
 驚き、学人の顔を見ると何故か危なげな笑みを浮かべていた。
「日本殿に声をかける前に、とんでもない人物を発見しましてな。味方になってくれるならとても頼もしい存在となるでしょうな」
 自信満々に学人は語ったが、誠一にはある点が気になった。
「そんな奴がいるのに、何で萬田はこんなしがない大学生に話しかけたんだ?さっきの話持ち出すならそっちのやつの方が良かったんじゃないか?」
 晴一が質問した途端に学人の笑みが悲しげなものに変わった。
「日本殿」
「な、何だ?」
「小生を最初に見たとき、警戒心を抱いていませんでしたか?」
「……ああ」
 晴一はつい先ほどの場面を思い出し、何となく察しがついたが、学人は続けて喋り出した。
「日本殿は警戒しながらも小生の話を聞いてくれましたが、大概の人は小生の話を聞くどころか近づいたら逃げ出す者もいましてな。その人物もそうとは限りませんが逃げられたら傷つくので遠慮した次第ですな」
「そうか、分かった。なんか悪いこと聞いちまったな」
「そんなことはありません。弾かれ、避けられるのは慣れていますからな」
 自嘲気味な笑みを浮かべながら学人は肩を震わせる。
 晴一は強引に話を戻すことにした。
「そういえば、結局のところお前の心当たりの人物って誰なんだよ?」
 晴一の質問で学人は我に帰る。
「おお、そうでしたな。場所を移動していなければ向こうにいたはず」
学人は人ごみの間をすり抜けながら歩きはじめた。
「確かこの先の壁のところにいたのですが、ああいましたあそこですな」
 学人が指で方向を指し示したのでその先を見てみる。
 その先にいたのは異質の存在だった。
 首から下の全身は白いタイツで覆われている。
 そして頭には白い球形の被り物。
 そんな奇妙な格好をしているのに、体型はやけにがっちりしているのがピチピチのタイツの越しに伝わってくる。
 周りの人ごみはこの異質な存在を避け、遠巻きにするために発生したようだ。
「おい萬田、まさかあいつか?確かに体力面で凄い頼りになりそうではあるけど」
「違います、あのような得たいのしれないものは小生も存じ上げませんな」
 どうやら違うようで晴一は安堵した。
「じゃあどこにいるんだよそいつは?」
「ほら、あの白いのの向こうで壁にもたれかかって座っているではないですか」
 その指摘を受けてようやく晴一は学人の言っている人物を発見した。
 無表情なうえに少し眠たげな半開きの目をしているが整った顔立ちをしており、腰まで届きそうな綺麗な黒髪も相まってどこか神秘的な印象的があった。
 晴一は学人を睨みつけた。
「おい、どういうことだ。あれが頼れる協力者か?」
「まだ協力してくれるとは決まっていませんが、あてにはしていますな」
「あんな女の子にか?どう見ても小学生くらいじゃねえか」
 学人推薦の人物は小学校高学年くらいの女子だった。
「まあ、落ち着いて聞いてくださいな。あの子は橘棗。日本ではあまり知られていませんが、十二歳にしてアメリカの超一流大学に飛び級で進学した神童ですな。そんな奇跡のような頭脳が味方になったら心強いでしょう?」
 確かに、それほどの頭脳を持っているならとても頼りになる。
「よし、ものは試しだ。行ってみようぜ!」
 すると、学人は首を横に振った。
「すみませんが、勧誘は日本殿だけで行ってもらえませんかな?」
「何でだよ?」
 すると学人は気まずそうに目線を逸らしながら答える。
「その、間近で見ると……興奮してしまいそうでしてな。それだと気味悪がられて勧誘に応じてもらえないかもしれない……、というより十中八九断られるでしょうからな」
「お前なりに気を使ってんだな。分かった、俺だけで行ってくる」
 晴一は白い男の横を素通りして最短ルートで棗に近づいていく。
 白い男の傍を通るさい、不気味なプレッシャーを感じたので、戻るときは迂回していこうと考えていた。


「ちょっといいかな?」
 棗は目の前に立ってもこちらを見向きもしなかったのでしゃがみこんで話しかけてみた。
「何?」
 タメ語かよ、と思いながらも顔を上げて反応してくれたので、表情に出さないように努める。
「実はお兄さんちょっと」
「その変な喋り方やめて。普通に話して」
 命令系かよ、と思いながらも表情には出さない。
「頼みたいことがある。あそこにいる俺の連れからお前のことを聞いた。力を貸してくれ」
「いいよ」
「そうか、え?」
 思わず聞き返してしまう。
「え?いいのか?」
「だからいいって言ってるでしょ」
 余りにもあっさりと勧誘に成功したので晴一は拍子抜けした。
「ただし、二つ条件があるけどいい?」
「ああ、構わねえよ。何だ?」
「共通点は私に決めさせて。そしてそれに一切文句を言わない。それでよければ協力するけど」
 無表情の棗の顔を見て問いかける。
「それはひょっとして協力するのにふさわしい人物か、確認のイベントを使って試させてくれってことか?」
「そういうこと。察しいいね」
「分かった、ただ一応相方の意見も聞いておく」
 何となくだが、晴一は自分と学人が同じ考えにたどり着く気がしていた。


「ええ、小生はその条件で構いませんな」
 言葉では平静を保っているように思えるが、息が荒いので興奮しているのが丸分かりだった。
「二人ともあっさりと受け入れたけど何で?脱落するかもしれないんだよ?」
 棗の疑問に晴一が答える。
「どうせ、優勝しようと思ったらどっかで脱落するかしないかをかけなきゃならないんだ。それが今か後かになるだけだ」
「ふーん。そんなもんなんだ」
 扉の前につくと棗がインターホンを押す。
「通過者3人。共通点は『全員クイズが得意』」
 棗の言葉が終わると扉が開いた。
3人は扉を通るとすぐ目の前にあったエレベーターに乗り、下の階に降りていった。
 共通点はクイズ。
 ならば確認でもクイズを出してくるだろう。
 どのようなクイズを出してくるのか、晴一は不安で押しつぶされそうになる。
 そういえばこの夏はクイズ大会に出てみようとかも考えてたな、といったことを考えていると下の階に着き、エレベーターのドアが開いた。
画面越しに見ていた部屋は実際に入ってみると途方もなく広く感じる。
「それでは、今から確認を行います」
 スピーカーから男の声が流れだし、晴一と学人は覚悟を決めた。
「それではこれから3問クイズを出しますので分かった方は挙手して答えてください。1問でも答えられたら合格とします。グループの人とはヒントや答えとなるやり取り以外は何を話してくださっても結構ですが、こちらが、会話の中にヒントや答えが含まれていると判断したら与えた方も与えられた方も失格となりますのでご注意下さい。問題文は私が読み上げますが、出口の隣にモニターがありますので、そちらでもご覧になれます」
 一端放送が切れると出口の隣の壁の一部が上下に分かれ巨大な画面が出現する。
 しばらく静寂が続き、放送が再開される。
「第一問。
一枚100グラムの金貨が10枚ずつ入った袋が10袋あります。
しかし、そのうちの一袋は10枚とも一枚90グラムの質の悪い金貨が入っています。
どの袋に悪質な金貨が入っているのかを一度だけ秤を使って調べるにはどうしたらよいでしょうか?」
 予想通りの高難易度だった。
 晴一はどれだけ考えても答えは思い浮かばない。
「あ、なるほど」
 隣で学人が呟いた。
「小生、答えてもよろしいですかな?」
 棗はどうぞと言わんばかりに手のひらを学人に向け、晴一は黙って頷くしかできなかった。
 学人は晴一の様子が心配になりながらも手を上げる。
「回答をお願いします」
「では、第一の袋から一枚、第二の袋から二枚、第三の袋から三枚、以下同様に第九の袋から九枚の金貨を取り出して、合計45枚
の金貨の重さを量ります。
 それが4500グラムなら悪質な金貨は第10の袋にそれよりも軽い場合、例えば4490グラムの時は10グラム軽いので第一の袋に入っていることになりますな。このようにすれば一度で調べることが可能ですな」
「正解です。合格とします」
 学人は小さくガッツポーズをとった。
「さあ、日本殿も続いていきましょう」
「お、おお……」
 晴一が力なく返事すると次の問題が始まる。
「第二問。あなたはもうすぐ分かれ道に着きます。1つの道は天国に、もう1つの道は地獄に行く道です。そこにはあなたを導くため、3人の人が立っています。あなたは、そのうちの2人に1回ずつ(または1人に2回)、「はい」か「いいえ」で答えることができる質問ができます。彼らも「はい」か「いいえ」でしか答えません。天国に行く道が分かるように質問をしなさい。
 3人はみな同じ格好なので、見た目では誰が誰だか分かりませんが、3人は天使、悪魔、人間で、この、3人はもちろん正しい道を知っているし、お互いに誰が誰だかも分かっています。
 天使はいつも本当のことを言います。悪魔はいつも嘘をつきます。そして人間は勝手気ままに返事をします。

 晴一は頭を抱える。
 欠片も閃かない。
 焦燥感が頭を支配していき、まともに思考ができなくなる。
「この様子じゃ無理そうかな」
 晴一の様子を見てから棗が挙手する。
「回答をお願いします」
「先ず、3人のうちの1人に、残りの2人のどちらか一方をさしながら、【あなたは『この人は人間ですか』と聞かれたら『はい』と答えますか?】というような質問をして、「はい」って言ったら指さした人と逆の人に【あなたは『この道が天国ですか』と聞いたとき『はい』と答えますか?】、「いいえ」と答えたら指さした人に同じ質問をすれば天国への道がわかるよ。たまたま最初に質問した人が人間でも、答えに関係なく残りの2人に先の質問をすればいいからね」
「正解です。合格とします」
 とうとう残り一問になってしまった。
 焦りが、不安が、恐怖が晴一のまともな思考を奪っていく。
 それでも最後の問題は容赦なく始まった。
「第三問100=0.01この式に直線を一本足してイコールを成り立たせて下さい。当然、イコールを成り立たせるのでノットイコールは認めません」
 何とか分かりそうな問題が出てきたので、晴一は少しだけ希望を抱いた。
 どこかに適当に直線を加えていけば分かるかもしれない。
 晴一は頭の中で考えた。
 制限時間は特に設けられていないが、余りにも遅いと失格となるかもしれない。
 焦りは禁物だが、じっくり考える時間はそれほどないだろう。
 この数分間は人生で一番頭を使ったかもしれない。
 しかし、晴一は問題を解くことができなかった。
 冷や汗が溢れ出し、脳裏を脱落の二文字が支配していく。
 そんな晴一に追い打ちをかけるようにスピーカーから声が流れ出す。
「これ以上は考えても答えがでなさそうなので、制限時間を設けます。今から3分経過しても正解できない場合、失格とします」
 きた。
 今までは他の二人が早々と答えたから何も言わなかったが、やはり制限時間はあった。
 様々な感情が入り乱れ、晴一は視界が歪んでいくように感じた。
「残り1分」
 もう諦めようか、そんなことさえ考えた。
 何も答えずに終わることはしたくなかったので、晴一は苦し紛れに手を上げた。
 適当に線を引いたらもしかしたら当たるかもしれない。
 わずかな可能性に賭けてみることにした。
 そう確率は0パーセントではないはず。
 0パーセント。
 そのとき、晴一は頭に電流が流れたような衝撃に襲われた。
 まさか、これなのか?
 時間はない、これでいくしかない。
「回答をお願いします」
 口の中はカラカラに渇いていたが、何とか声を絞り出す。
「100の0と0の間に直線を引く……。そうすると1%=0.01に見えなくもない…………」
 しばらく沈黙が続いた。
 それはほんの数秒だったかもしれないが、晴一にはその何百倍も長く感じた。
 重圧で押しつぶされそうになる。
 早く回答を出してくれ。
 いや、何も言うな。
 相反する感情がいつまでも終わることなく晴一の中でぶつかり合う。
 吐き気さえこみあげてくる重圧の中。
 その時は来た。

「正解です。合格とします」

 叫んだ。
 普段の自分からは想像もつかない心の底からの咆哮だった。
 慣れない大声を出しすぎて途中でむせ返る。
「いやぁ、本当に良かったですな、日本殿。小生、もう駄目かと思いましたが、お見事でしたな」
「本当に危なかったぜ。けど、最後まで悪あがきしようと思ったおかげで何とか首の皮一枚繋がったな」
 晴一は片手を上げ、学人はその手にハイタッチで答える。
 浮かれた気分で祝福し合っていると呆れ顔の棗が二人の間に割って入ってきた。
「何でもう終わった感じになってんの?大会はまだまだ始まったばっかでしょ」
「ああ、そうだったな。でも、今だけは浮かれさせてくれよ」
「全く……。でもまあ、最後のあれは確かに凄かったかな」
「約束通り、これからは俺達は協力していくからな」
「もちろんそのつもりですとも」
「分かってるって。これからよろしく」
 最初の関門で脱落の危機にあったが何とか乗り越え、晴一は二人の頼れる仲間を手に入れた。
 この先、どんな困難が来てもこいつらと一緒なら何とかなるように思えた。
 希望を抱きながら三人はガラスの自動ドアをくぐっていった。
 この先にどんな難関が待ち受けていても跳ね返していけると信じて。
7
102701 北摂 ドラゴンボール ここは世界のどこか、時代もいつのことか分かりません。しかしこの世界には、「ドラゴンボール」という7つそろえるとどんな願いも一つだけ叶うという不思議なボールが存在するのです。そんな世界が舞台の物語です。
「あー腹減っちまったなぁ」ある少年がくたびれた様子で言いました。彼の名前は孫悟空。元気で明るく、正義感の強い少年です。彼には少し変わったところがあり、尾が生えています。彼は偶然ドラゴンボールの一つを持っていて、7つそろえるため、冒険の旅に出ました。その途中様々な人や、ドラゴンボールを悪用しようとする、自分よりも強い相手に出会い彼は誰よりも強くなりたい、そう思うようになりました。そこで旅の途中で出会った亀仙人という人のもとで毎日毎日稽古に励んでいます。最近稽古にどっぷりで、ドラゴンボールを集めるということはすっかり忘れていました。
「あ、ドラゴンボールと荷物忘れちまったよ。」悟空が言いました。「いいよ、お前疲れてるだろ。俺が取ってきてやるよ。」そう言ったのは、亀仙人のもとでともに修行に励むクリリンという少年でした。二人はお互いにライバルはありましたが、兄弟のように仲が良く、いつも一緒でした。「そっか、悪りぃなクリリン。」今日は何食べようかな・・・ラーメンにチャーハンに豚まんにそんなことを悟空は考えていました。
そのときです。「ぎゃーっ!!」クリリンの叫び声がしました。「クリリンの声だ!!」悟空や亀仙人がその声に反応し、駆けつけます。「クリリン!!」悟空は声をかけながらクリリンのもとへ急ぎましたが、そこには変わり果てたクリリンの姿がありました。「ク、クリリンが・・・クリリンが殺された。」怒りと悲しみに満ちた表情で悟空はクリリンの亡骸を見つめていました。「いったい誰が・・・。悟空、荷物とドラゴンボールはどこじゃ」亀仙人の声にやっと我にかえった悟空が周りを見渡しますがどこにもありません。「また誰かがドラゴンボールを・・・。しかしクリリンの命を奪うとはなんてやつじゃ。」「絶対に許さねぇ!!まだそう遠くには行ってないはずだ。筋斗雲―!!」悟空は駆け出しました。「待て、待つんじゃ悟空!!踏みとどまれい!!」しかし亀仙人の声は、悟空の耳に入らず、空飛ぶ不思議な雲、筋斗雲に乗って悟空は行ってしまいました。「もうそんな体力は残ってないじゃろうに・・・。相手はクリリンを簡単に打ちのめすほどの相手じゃぞ・・・。」不安そうな顔を浮かべながら亀仙人はクリリンの亡骸の前に座り込みました。
その頃悟空は筋斗雲に乗り、クリリンを殺した相手を探していました。すると目の前に羽根の生えた奇妙な怪人を見つけました。体中から悪の気が満ちあふれています。「あいつだ!!」悟空は筋斗雲を加速させ、一気に目の前に回り込みました。「クリリンの命とおらのドラゴンボールを返せ!!」「ん?あいつ死んだのかそれはよかったな。くっくっく。」「なんだと!!」その言葉に悟空の怒りは頂点に達しました。「この野郎!!」悟空は怪人に飛びかかり、痛烈な拳を浴びせました。怒りで空腹や疲れのことなど忘れてしまっています。「な、なんだこいつは・・・。」怪人はいきなり現れた少年の強さに動揺を隠せません。次々悟空のパンチや蹴りが怪人を捉えます。「まずドラゴンボールだ!!」悟空はドラゴンボールの入った袋を取り返します。ここには5つのドラゴンボールが入っていました。「次はクリリンの恨みだ!!くらえ、かめはめ波ー!!」悟空の手の平から、青色の閃光が飛び出しました。悟空の必殺技、かめはめ波です。「ぎゃ・・・」一瞬のうちに怪人は跡形もなく吹き飛びました。「あと2つのボールを集めて絶対クリリンを生き返らせるんだ。でも他の誰かがドラゴンボールを狙ってる・・・。そうだ、一つはおらが。」悟空は6つのうち一つを自分の懐へ入れました。少し気がゆるむと、また疲労と空腹が襲ってきます。「もうだめだ・・・。」そう言って筋斗雲に寝転んだ瞬間、急に誰かが悟空の上に現れました。「よう。」見たこともない姿をした、先ほどの怪人とは比べものにならないくらい強い相手だということはすぐに悟空は察しました。「誰だ!!お前!!」悟空は立ち上がって戦おうとしますが、もうそんな体力は残っていませんでした。目にもとまらぬスピードで悟空めがけて拳が飛んできます。激しい衝撃音とともに、意識をなくした悟空は以上へ落ちていってしまいました。「くっくっく。これであと1つか。しかし我が弟を簡単に打ち破るとは何者だったんだ・・・。また武術の達人に封印されてはかなわんからな。ああいうやつは消さねばならん。」このおそろしい敵の名はフルート大魔王。昔この世界を恐怖に陥れた大魔王です。昔亀仙人を戦い敗れ、封印されましたが、その封印がとけてしまったのです。彼の目的はただ一つ、ドラゴンボールで世界を手に入れることです。その昔ドラゴンボールを集めようとしましたが、亀仙人に封印され、封印がとけたいま、もう一度世界を手に入れるため、ドラゴンボールを探し悟空が見つけていない2つのうちひとつはこのフルート大魔王が持っていました。
「むう・・・。夜が更けても帰って来んとなると、もう無事ではないじゃろう。」夜空を見上げながら亀仙人が言いました。「さて、どうしたらいいものか・・・。」亀仙人はクリリンの前で正座し、その夜を過ごしました。一方悟空は・・・。
夜が明けると同時に悟空は気がつきました。どうやら命だけは助かったようです。「いててて・・・。そうだ!!あの野郎!!」気がつくとすぐに悟空はすべての事を思い出しました。しかしお腹がすいてどうもいつもの調子ではありません。「くっそー、でもまず飯食わねぇと。あいつにゃ勝てねぇ。ん?このにおいは・・・魚だ!!」人よりも鼻のきく悟空はすぐににおいの方へ駆け出しました。「あった!!これだ!!」自分の体よりも大きな魚に悟空は飛びつき、あっという間に魚は骨だけになりました。「よし、これで力満タンだ!!これならあいつにだって勝てるぞ!!筋斗・・・。」そう言いかけたとき、悟空めがけて岩が飛んできました。悟空は間一髪岩をかわして叫びます。「誰だ!!」すると目の前に小太りの男が立っていました。「誰だじゃねぇ。その魚は俺が釣って俺が焼いてたんだ。」しかし悟空にはそのことがまったく分かりません。「嘘だ!!ここにおいてあったんだ!!」「こんなところに焼き魚がおいてあるか!!このちび!!」まだ悟空には意味が分からず、ちびと言われて頭にきたようです。「なんだとこのデブー!!」走り出した悟空は勢いをそのままに小太りの男に跳び蹴りを浴びせようとしますが、かわされてしまいました。「くっそーやるじゃねぇか。ん?その首から提げてるのは・・・。」悟空は小太りの男が首から光る球を下げているのに気づきました。「ドラゴンボールだ!!その球俺にくれよ!!」悟空は態度を一転させ必死で頼みこみます。これで取られたボールを合わせてドラゴンボールが7つそろいます。「やだよ。これ俺が拾ったんだ。」「頼むよ!!さっきのよりでかい魚食わせてやるからさぁ。オラにはそれが必要なんだ!!」「ちぇ、絶対だからな。」そうしてその男は首から提げたドラゴンボールを悟空に渡しました。「ありがとう!! ・・・。そういやまだ名前聞いてなかったな。オラ、孫悟空だ。」「俺か?俺はヤジロベーだ。」「そっか。ヤジロベーありがとう!!ここで待っててくれよな。」「早く食わせてくれよ。俺は気が短いんだ。」「筋斗雲よーい!!」悟空は筋斗雲に飛び乗り、まず亀仙人の家へ向かいました。「じっちゃん!!」「おぉ、悟空、無事じゃったか!!ひとまずこれで安心じゃわい。ところで何があったんじゃ?」悟空は亀仙人に事情を話しました。「そんなやつはあやつしかおらん。そいつはフルート大魔王じゃ。」「誰なんだ?そいつ。」「その昔ドラゴンボールをねらい、圧倒的強さで世界を恐怖に陥れたやつじゃ。若い頃のわしが何とか封印したんじゃが・・・。年のせいかもう封印の力が弱くなってしもうたか。」「悪いやつなんだな!!オラがぶっ飛ばしてやるよ。」「いや今のお前じゃやつに勝てん。これをお前にくれてやろう。」そう言うと亀仙人はある棒を悟空に渡しました。「なんだ?これ。」「如意棒といってな、意のままに伸び縮みしどんな刀にも負けん強さじゃ。わしもそれがあったから何とか封印することが出来たが年老いた今、やつは封印するより倒してしまった方がよい。任せたぞ。悟空。」「分かった!!あいつは・・・。あっちだ。すげぇ力を感じるぞ。じゃあじっちゃん行ってくる!!」「気をつけるんじゃぞ。」こうして悟空は如意棒という新しい武器を手に入れ、フルート大魔王のもとへ飛び立ちました。
「待っててくれよ、クリリン。近いぞ!!いた!!」悟空は筋斗雲から飛び降り、フルート大魔王の目の前に着地しました。「驚いた、生きていたのか。しかし我が弟もこんなガキにやられるとは情けないことよ。偶然武道大会の会場でドラゴンボールをみつけ奪ったところまでは良かったものの・・・。まぁいい、何の用だ。」ドラゴンボールを返せ!!」「それは出来んな。これがなければ世界を手に入れることが出来ん。あとひとつでそれが叶うんだ。誰にも邪魔はさせんぞ!!」そう言うとフルート大魔王の手から衝撃波が飛び出しました。ぎりぎりのところでかわした悟空は早速如意棒を取り出し振りかざします。「如意棒か、しかし甘いわ!!」フルート大魔王はまた衝撃波を繰り出し悟空は如意棒を手から離してしまいました。「残念だったな。これで終わりだ。」「そうはいくか!!」悟空はかめはめ波を繰り出しなんとか次の攻撃を防ぎます。悟空はもう一度如意棒を手にし、「棒よ、伸びろ!!」と叫ぶと棒は伸びて大魔王のお腹に刺さりました。「ぐぅ・・・。貴様何者だ。古来より伝わるこの如意棒は真の持ち主の手に渡るとその威力は倍になると聞く。その昔こいつを操るやつに封印されたがこんな威力はなかった。うっ・・・。」そう言うと大魔王は倒れ、懐に入れていたドラゴンボールが当たりに散らばりました。「よし、これで願いが叶うぞ!!」悟空は持っていた2つのドラゴンボールを取り出し並べました。「出でよ神龍、そして願いを叶えたまえ!!」悟空がそう言うとドラゴンボールは光だし、あたりは真っ暗になりました。そして轟音とともに大きな龍が現れました。「どんな願いも一つだけ叶えてやろう。」低い声で神龍が言いました。「クリリンを生き返らせてくれ。」「たやすいことだ。」そう言うと神龍の目が一瞬妖しく光りました。「願いは叶えてやった。ではさらばだ。」そういうと神龍は消えてしまいドラゴンボールは空へ飛んでいってしまいました。「よしっ!!あっヤジロベーに魚・・・。ま、いっか。」そういうと悟空は亀仙人のもとへ戻りました。するとそこには生き返ったクリリンの姿がありました。「ありがとう!!悟空。」「クリリン生き返ってよかったな。」そう言いながら二人はお互いの手を取りました。「ようやったぞ悟空。しかしフルート大魔王を一撃とは・・・。もしやこいつは真の・・・。」亀仙人はそうつぶやきました。「なんだ?じっちゃん。」「いや、何でもないわい。しかしこれより強い相手がいつ現れるやも知れん。二人ともこれからもっと修行にはげむのじゃぞ!!」「はい!!」二人は口をそろえて威勢の良い返事をしました。
さて、これからどんな冒険が待っているのでしょうか・・・。

終わり
5
102703 なめくじ ファントムの法則 『第一章: 噂』
  
小さいころ、交通事故にあった。意識不明の重体だったらしい。俺は覚えているわけもなく、目が覚めたら病院だった。けれど、異変にはすぐに気がついた。俺の目は時々蒼く光る。それが何なのかは分からない。分かりたくもなかったんだ。けれど、この目のせいで俺の人生は変わってしまった。  
  
  

【半霊】:人間と幽霊の中間的存在。霊能力が使える存在。
  【悪霊】:人にたたりを与える霊。半霊を喰らうもの。
  【守護霊】:現世の人間を災厄から守ってくれる霊。
  【指導霊】:霊能力者に力を与える霊。
  
 「ふーん。霊にも色々な種類があんだなぁ」
とある町のとある高校生。木島貢一が休み時間に辞書で霊について調べていた。
 「何が霊だって? またそんなことを調べているのかコウ」
その友人である、峰竜一が笑いながら近づいてきた。
 「なんだよリュウ。お前は興味ないのか? あの噂」
 「ばかいえ、あるに決まってんだろ。幽霊ショップなんて何が売ってんのか知りたいじゃねーか」
幽霊ショップ。最近、ワイドショーでも取り上げられている噂で深夜2時〜3時ぐらいに出現すると言われている。その内部を見たものは誰もおらず、噂だけがひとり歩きしていた。
 「死体とか売られてたりしてな」
コウが少し低いトーンで話していると
 「もぅ! バカなこと言ってないで、少しは中間テストの勉強でもすれば?」
同じクラスでコウとリュウの幼馴染である女の子、西園寺茜が二人に話しかけてきた。
 「おぅ、茜。お前は興味ないのか?」
リュウが軽く右手を出して挨拶した後質問する。
 「あるわけないじゃない! ばかばかしい。そんなオカルト誰が信じるのよ」
 「まぁな、確かに嘘くさいよな」
コウが茜の言葉に頷く。
 「おいおい、コウ。そりゃないぞ! 今日ちゃんと行くよな?」
リュウは今日幽霊ショップが近くの公園に来るという情報をあらかじめ入手していたため、コウと共に行く約束をしていた。
 「あぁ、そりゃもちろん行くけどな」
 「ちょっと、やめときなって!」
茜は少し不安そうな顔で二人の行動を止めさせようとする。
 「大丈夫大丈夫」
―――ガラッ。
コウがそんな茜の言葉を軽くいなした直後、タイミングよく教師が入ってきた。
こうして、放課後まで3人はいつもの日常を送った。
 その日の夜、二人は約束場所の公園に集まった。
「ごめんごめん! 遅くなっちまった!」
 コウが手を合わせ謝りながらリュウへと走って行った。
「ばか! しゃがめ!」
リュウはそんなコウの謝りなんか全く気にせず、あせった表情で要求した。
コウも潔く腰をしゃがめながら、リュウへと近づいた。
「なんだよリュウ。公園の入り口でこそこそしてたら警察くんぞ?」
「バカかお前ってやつは。主旨を思い出せ主旨を!」
「いやそりゃ、幽霊ショップ発見だけどさ〜そんな都合よく待ち合わせの公園に・・・・アハハハ」
 コウはやっと気がついた。人気のない暗闇の公園のド真ん中に、見覚えのない巨大なテントの存在に。
「嘘だろ? だってあんなに普通にあるもんなの?」
「俺だって来た時はびびったさ・・・こんなに簡単に見つかるなんて」
「「あははは・・・・はぁ」」
二人は見つめあって、微妙な顔をしながら笑い、ため息をついた。
「入るかリュウ?」
「・・・ごく・・・おう」
――ザッ
 二人は足に力を入れ、立とうとした瞬間。
「お〜〜い! ふったりとも〜〜!」
「うげっ! 西園寺!」
「茜!」
リュウとコウが驚き慌てて人差し指を口にあて静かにしろと促した。
「なによ! 二人とも、驚いちゃってさ・・・はっは〜、さては私を幽霊だと思ったんでしょ? 大体なんで私がいるって? そりゃ私だって興味はあるし? それにあんたたちは私がいないとやっぱり駄目なんだからさ」
 茜は腕を組みつつ得意げな顔をして早口で喋った。
 二人はというと、慌てるを通り越してあきれた顔で怒鳴った。
「「しゃがめバカ!」」
 


『第二章: 幽霊サーカス』

「レディース・アンド・ジェントルメン。お待たせしました。世紀のショーの始まりです」
3人はその後ちょっとしてから、テントに入ると既に何かが始まっていた。何かというのは3人の主観であり、第三者からしてみれば、それは明らかにサーカスのショーの類であった。しかし、不気味なことに真ん中の舞台を囲むようにして置いてあるパイプ椅子には誰も座っていない。それでもお構いなく司会はショーを進行させた。
3人は唖然としてその場に立ち尽くしていた。最初に口を開いたのは茜だった。
「・・・は。はは! なんだなんだ! 幽霊ショップなんかじゃないよ! ただの人気のないサーカス劇場じゃん!」
 それに続きリュウも吹き出した。
「ホントだな。なんだよこれ。幽霊って人気なくて誰もいないショーなだけかよ。金をとってないってことはチャリティーかなんかか?」
 コウはそんな二人と違い少し気分悪そうに黙っていた。
「なに黙ってんのさ木島?」
茜がそんなコウを見て不気味がる。
「え? だってあの・・・」
コウが茜とリュウに何かを言おうとした瞬間、司会の声が邪魔をした。
「みなさん! どうぞ見てください! これを!」
3人は思わず舞台の方に目を向けた。茜は口を右手で覆ってしゃがみこみ叫んだ。
―――キャァァァァ
舞台の上には全身黒服で体を覆い、マジシャンハットを被る人間がいた。そいつの印象はそれだけで、別段身長が高いというわけでもなくがたいがよいわけでもない。
 ただ・・・・そいつのお腹には長剣が貫通していたのだった。
「ぁ・・はは。ありゃ、ただのマジックだって」
リュウは、余裕を見せようと無理に笑いつつ2人に言った。
茜は依然としてしゃがんだまま。しかしそんなリュウの言葉に首を真っ先に横に振ったのも茜だった。そして茜は『マジシャン』に指をさしリュウの言葉を否定した。
「違うよ! あれ・・・・血が・・・血が出てる!」
「ば・・・あれもマジックを盛り上げるための・・・なッ! コウ! お前もそう思うだろ?」
 リュウが困ったように話をコウにふった。しかし、コウは依然と黙ったまま。
「なんだよコウ! おまえまで!」
リュウがコウの胸ぐらをつかんで叫ぶ。
「しっかりしろよ! コウ!」
コウはリュウの言葉に少しずつ動かされるように指を舞台の方に指して言った。
「・・・・あ・・・あの司会者・・・・」
コウは言い始めの言葉は小さかったものの最後ははっきりと言った。
それは・・・・。
「足が消えてる」
幽霊と決定づけてもいいほどの事実であった。

『第三章: 悪霊』

「足が消えてる」
コウがその言葉を発した瞬間、劇場内の証明がすべて消えた。
「え! 何!?」
茜が慌てて声を出す。
しかし、茜の声が二人聞こえるはずがなく、劇場内には証明が消えたと同時に司会者の声が響いていた。
「皆様、お待たせしました。今宵のショーはここが盛り上がり。皆様ご賞味あれ!ベルウルフの登場です」
―――ウォォォォォォ
「嘘・・・」
茜が自分自身の目を疑った。それは茜だけではなかった。
「なんだよ・・・これ。どーなってんだよ」
リュウも、そして
「そんな・・・・嘘だ」
コウも。三人はそれぞれ自分自身の目を疑い、それぞれの反応を見てまぎれもない事実であることを知った。
そう、三人が目を疑うほどの事実というのは。
――ウォォォォォ!
――キャァアア!
先ほどまでがらがらであったパイプ椅子が全てお客で埋め尽くされているということだった。
「マジで、さっきまでガラガラだったよな?」
リュウは先ほどまでの慌てた感じとは打って変わって冷静に状況を判断しようとしていた。
「うん・・・。なんだろ、この嫌な感じ。寒い」
茜も先ほど取り乱してからは大分落ち着いていた。
――グルル。
「茜の言うとおりだな。ここはとにかく離れたほうがいい」
リュウが二人を出口へと促そうとした。
しかし、一人動かない。
―――グルルルルル。
「おい! コウ! ほら固まってないで後ろ向いて出口行け!」
――――グルルルルル
「リュウ・・・・後ろ・・・・・」
コウはリュウの後ろの何かを指差して、尻もちをついた。
「・・・」
リュウはゆっくりと後ろを振り向こうとする。茜はその場にしゃがみこんで両手で顔を覆っている。
―――グルルルルルガルルルラァ
「うえわぁああああああああ!」
そこには、2つの狼の顔を持ち、二本の足で立つ巨大な怪物がいた。
その狼の類であろう怪物が口を開けた。
「ガァァァアアアアアアアア」
「その辺にしとけよ」
――ピタ
怪物が大きく口をあけたまま止まった。三人は九死に一生を得た。
さらに、その怪物は先ほどまでの恐怖をあおるような顔つきではなく、少し笑っていた。
「がはははは、すまねぇな坊主たち」
そして喋った。
「「「え?」」」
三人は泣きながら、あっけらかんとしていた。
「お? あぁ、すまねぇすまねぇ、少し待ってろよ」
目の前の怪物がそう声を出すと同時に二つ首の狼はみるみる姿を縮めて行き、ひとりのがたいのよいオヤジと狼に分裂していた。狼は機嫌よく鳴く。
―――アゥーーーーン
「ふぅ・・・。 あぁ? なんだ坊主たち、金魚みたいな顔をして」
「そりゃそうですよ、子どもたちは霊体じゃないのですから」
――カツカツカツ
オックスフォードの靴の音を立てながら歩いてきたのは、先ほど舞台の上でマジシャンの格好をしていた人であった。
「驚かしてすまなかったね、僕たちは脅かすことが得意なんだよ」
丁寧にお辞儀をしたその人は落ち着きのある雰囲気で、とても好感がもてる人であった。ただ、剣がお腹を貫通しているままを除けば。
「おぃおぃクロロまず剣を抜け剣を」
オヤジがあきれ顔でクロロという名のマジシャンに言った。
「おや、すまないすまない。アレンもういいぞ」
クロロがそういうと、お腹を貫通させていた剣は光輝きだし周りの目を眩ませた。
次に目を開けるとクロロのお腹には剣はなく、その代わりに女の人がいた。
「私の名はアレン。女だからといってなめてもらわないでいただきたい」
「相変わらずアレンはお堅いな」
オヤジが笑いながらアレンの肩をたたいた。
「一体何なんだここは・・・」
リュウがほうけた顔でそんなことを言うとクロロは人差し指を自分の口にあてて黙るように指示を出した。
「どうやら、お客様が来たようだ。ジェパンヌ! 彼らを隠してくれ!」
――ズズズ
三人の影が肥大していき、自分の影に飲まれそうになる。
「うぉ!」
コウが慌てて逃げようとするが、クロロがそれを止める。
三人は誰だかわからない名前を聞いてから一切音が聞こえない暗闇の世界に閉じ込められた。
それと同時に、全身赤い服で八重歯が特徴である男が劇場に足を踏み入れた。
「匂いがする」
「すみません、ショーは終わってしまいました」
その男の発言の不気味さにいち早く対応をするクロロ。赤い服の男はクロロを無視して、中にどんどん入ってくる。
「ここにいた。今気配がない」
クロロは片づけていくよう誰かに目配せをした。すると、舞台の真中にある檀上はどんどん縮んでいき、パイプ椅子も勝手に折りたたまれていた。
「すいません、この通り・・・!」
クロロは嫌な予感がした。そのために赤い服の男から一瞬で遠ざかった。
「どうしたんだクロロ?」
オヤジが怪訝な顔でクロロに行動の説明を求めた。
「こいつは・・・」
クロロは振り返ってジェパンヌに向かって叫んだ。
「逃げろ!」
―――見つけた。
クロロとオヤジの前に先ほどいた赤い服の男が消えていた。
ジェパンヌは、影となりテントの外へと逃げようとする。
―――出せ。
赤い服の男が、影を追う。
影の早さも赤い服の男の早さも尋常ではなかった。
目に見えぬ速さのため、どちらが早いとかは判断がつかないが結果から見ればそれは一目瞭然であった。
―――出せ。
 影の上に赤い服の男がたつ。ジェパンヌはつかまっていたのだった。
「ジェパンヌ!」 
クロロは、手に剣を持ち赤い服へと襲おうとする。
オヤジもあの怪物になっており、クロロと同じく襲おうとした。
しかし、時は既に遅かった。ジェパンヌは影としての姿ではなく、子どもの姿をして倒れていた。そして、ジェパンヌが隠していた子どもたち3人もジェパンヌの後ろに姿を現していた。
―――見つけた。
赤い服の男が手を使い子どもたちに向かって「突き」をくりだす。
「させませんよ!」
クロロがその攻撃を止めた。
「みなさん、逃げてください!」
―――見つけた。殺す。
「おらぁ!」
オヤジが赤い服の男にひっかく。しかし、素早い移動でよけられた。
「坊主たち! 殺されたくないなら早く逃げな!」
3人は、状況が飲みこめないまま座り込んでいた。何かの映画を見ているのだろうか、現実なのだろうか、そんな言葉が頭の中で何度も繰り返された。
――ギリッ
「皆逃げよう!」
歯を食いしばって、いち早く声を出したのはコウであった。コウの力強い言葉に他の2人も頷き、テントの外へと出て行った。


『第4章: ネイフェル』
「ふぅー、ふぅー」
「はぁ・・・はぁ・・・」
「ちょっと待って・・・」
3人は、公園から10分ほど走り続けた。別に何かが追いかけてくる気配があったというわけではない。怖かったからだ。中で起きた出来事もそうだが、一番恐怖を感じたのはテントから出た後。そこはもちろん公園であって、いつもの見覚えのある風景であった。しかし、いつものだ。3人にとっては「いつもの」だったのだ。そう、あのテントが消えていたのであった。
「ったく・・・・。一体・・・なんだっていうんだよ」
リュウが息を切らしながら喋る。
「ホント・・・何よこれ! もぅ帰る!」
茜が息を無理やり整え、家のある方向へと足を運ぶ。
「だな・・・コウお前も帰るだろ?」
「あぁ、帰る」
コウは、何かしっくりきてない感じで答えた。
「なんだ? どうしたんだよ?」
「いや、アレは・・・夢だったのかなって」
「・・・・」
二人は黙りこむ。
――キャァアアアアアアアアアア。
「「!?」」
二人は、茜の声の方向をむいた。
「「なっ!」」
茜の前には、テントの中にいたあの赤い服の男がいた。
「ちょっと離して!」
赤い服の男は茜の腕をつかんでいた。
「茜!」
リュウが叫ぶが、足は震えていた。
――貴様たちのどちらかだろう。
「何わけわかんねぇこと言ってんだ!」
コウも同じように足が震えていた。
――どちらかを助けてやる。どちらかが私と来い。
赤い服の男は茜の首元にナイフをつきつけていた。さらには、赤い服の男の後ろに不気味な影が出ている。そして、そんな影の不気味さを強調するかのごとく月の色は赤かった。
「・・・俺だ」
静かに手をあげたのは、リュウだった。
「おい、何言ってんだよリュウ!」
「俺が行く・・・」
「おい! なんでだよ!」
コウは、俺が内心ほっとしていた。自分ではない、リュウが行ってくれると。そう思う自分が悔しかった。だから声を荒げる。
「ふざけんなよ! こんなのなんだよ! おかしいだろ!」
赤い服にそんな怒りの言葉をぶつける。
「コウ・・・・」
リュウは、そんなコウを見て泣き出しそうになった。
――早く来い。 
「あぁ」
弱気なことを考えてはいけない。コウを助けるんだ。他人のことを助けるという思いがリュウの足を動かした。自分が死ぬことを考えてはダメだ。コウを助けるんだ。だから足を動かしているんだと。
「ふざけんなーーーーーーーーーーーー」
コウの目が蒼く光った。
「テメェの好き勝手にやらせてたまるか!」
コウの手にはいつの間にか蒼く光る剣が握られていた。
――っく。貴様の方だったか。
「うぉおぉぉぉぉぉぉ」
コウはその剣を振り上げる。
――ふ。まぁよい。我は悪霊の王ネイフェル。また会おう蒼い目の少年。
目の前の赤い服の男が姿を消した。それと同時に振り上げていた剣も消えており、コウは力尽きるように倒れた。

――カツカツカツ。
コウが倒れてしばらくして現れたのは、クロロとオヤジであった。
「こいつがそうなのかクロロ」
「ええ。間違いありませんね。良かったですよ連れ去られなくて」
「それにしても、こんなガキんちょがねぇ」
「まぁそう言わずに、この子が霊界を助けるカギなのですから」
7
102704 ホームズムズ 白と黒  時は近未来。都会のある高層マンションの一角。ここに青年ホワイトは住んでいた。ホワイトはここに3年間、自分の部屋から1歩も出たことがなかった。ご飯は毎日母が持ってきてくれるし、生きていることに不自由することはまったくない。
「なんでこんな風になっちまったのかなあ」
 ホワイトは一人呟いたものの、本当は自分でもその原因をわかっていた。優秀すぎる弟のブラックだ。弟に比べて何も持っていない自分に嫌気がさし除々にすさんでしまったからだ。ホワイトが唯一弟に勝てそうなものと言えばせいぜい想像力ぐらいだった。小さいころから想像力だけは豊かで、なんでも空想するのが得意な子どもだったがそんなものは生まれてから一度も評価されたことはなかった。今となっては弟とは一切連絡を取っていない。どうもどこかの名門大学に受かって、今家にいないことはわかっているし、今さら関わることは一生ないだろうと思っていた。

 そんな毎日を過ごしているホワイトにある日1通のメールが届く。そのメールはある機密機関からのメールであった。内容は

  あるテロ組織が動き出そうとしています。
  組織のリーダーはあなたの弟のブラックです。
  彼をとめられるのはあなたしかいません。
  どうか力を貸してほしい。

 ホワイトは初めはくだらないイタズラだと思っていた。しかしこれが本当のことで世界をまきこむ大事件につながるとは知るよしもなかった。

 メールが届いてから数日後、ホワイトは部屋のベッドでダラダラしていた。その時玄関のベルがなった。両親は仕事に出ていたのでホワイトはいつも通りの居留守でやり過ごそうとした。
 カタカタカタ…ガチャ ドアの開く音が聞こえた。ホワイトは一瞬、家族の誰かが帰ってきたのかと思った。しかし、それならばベルをならす必要がないし、それにカギを開けるのに時間がかかりすぎていた。ホワイトは空き巣か?と思ったが耳をすますとそれはちがう様な気がしてきた。なぜなら入ってきた人の気配が一人や二人ではないからだ。ホワイトはとりあえず、ベッドの下に隠れてやり過ごそうと思った。その時、ホワイトの部屋の扉が開いた。すると5,6人の男達がドカドカと入ってきた。だがホワイトにはその数よりも見た目の方が強烈であった。全員黒のスーツに黒のネクタイにサングラス、そして髪型はなぜかオールバック。その先頭に立っている男が口を開いた。
「私はコードネーム『猫』という者だ。君を迎えに来た。君の弟のブラックの野望を阻止するためについてきてほしい。」
そう言って『猫』という男はホワイトの腕をつかんだ。ホワイトは振り払おうかとも考えたが、相手は大勢だ、ここはおとなしく従った方が身のためだと思い直した。ホワイトは強引に外に連れ出され黒い車に乗せられた。車に乗り込むと男の一人が話し始めた。
「自己紹介が遅れましたね。我々の組織はSPLEENという。国際的な秘密機関だと理解してくれればいい。そして私のコードネームは『親玉』というものだ。以後よろしく頼む。」
「私はシャーロックだ」「サブローだ」「スパームだ」「ベルリンだ」
サングラスをしたままだと自己紹介されたところで全員一緒に見えるんだよ。そんなことを思いながらも、一通りの自己紹介が終わる頃にはホワイトは落ち着いていた。どうやらこちらを傷つける気はないようだな。そのように感じていたからだ。するとベルリンが話し始めた。
「以前君にはメールを送ったはずだ。覚えているかい。」
「……ブラックがどうこうとかってやつ……?」
「そうだ。メールにも書いていたように君の弟のブラックはテロを起こそうとしている。我々も精いっぱい対抗はしているが、正直戦局はかなり厳しい。」
「正直言って君たちの言っていることは信じがたい。それに仮に本当のことだとしても、オレなんかを味方に入れても意味はない。何一つブラックに勝っているものなどないんだ。」
 SPLEENのメンバーの一人「親玉」は答えた。
「オレたちがこれから戦うのはバーチャルの世界だ。現実での力は関係ない。」
「バーチャルの世界…?」
 何時間かして車はあるビルに到着した。ホワイトはその中の一室に入れられた。その中には今まで見たことのないたくさんの機械がおいてあった。
 SPLEENの一人スパームはホワイトの体に強引に機械を取り付け、スイッチをONにした。「そんな急に……」ホワイトは意識が遠のいていくのを感じた。

 ホワイトは気がつくと別世界に転送されていた。そこは全てが真っ白な世界だった。遅れてSPLEENのメンバーが転送されてきた。全員の転送が終わるとシャーロックが話し始めた。
「簡単に今いるこの世界について説明しよう。ここは言うなれば意識の世界といったものだ。今ここで君は自分自身に生身の体がある様に感じていると思うが実際に存在しているのは君の意識だけだ。まあ脳の電気信号が送られていると思えばいい。ここで発揮される戦闘能力は君のイメージによって決まる。つまりこの世界では人間の身体能力は無限になるんだ。というよりは身体能力などといった概念はなくなると言った方が正しいかな。戦い方に関しては実戦を通じて答えていくとして、他に何か聞きたいことはあるかい?」
「二つある。」
ホワイトは言った。
「一つ目はなぜこの世界で戦うことがブラックのテロを阻止することに繋がるのか。こんな仮想の世界で戦った所でオンラインゲームみたいなものじゃないのか。もう一つはこの世界での体のダメージは現実での体にどの様に影響するかだ。」
シャーロックは答えた。
「一つ目の答えは、今や現実世界はインターネットを中心に回っているといっても過言ではない。ネットを支配するものは世界を支配するといってもいいぐらいだ。実際の所、社会には知られていないが、今は世界各国がネット上で戦争している。日本も例外ではないほどだ。そしてブラックはこの世界に勝手に入り込み暴れまわっているといった所だ。そして二つ目の答えは、この世界でのダメージは、はっきり言って現実の体に極めてリンクしている。この世界で死ぬことは現実世界の体から意識が永久に失われ、植物人間になることを意味している。だから正直覚悟を決めてほしい。」
「取りあえずは理解した。だが俺は今からここでどうしたらいい?」
「この世界での戦い方を身につけてもらう。」
その一言が発せられて以降、6人からホワイトへの過酷な修行が始まった。ホワイトはそんな中でこの世界での戦い方を少しずつ理解していった。武器はイメージすればどこからともなくわいてくること。始めは剣などの単純な武器しかでなかったが、イメージ次第では複雑な銃器も取り出せること。想像力こそがこの世界での強さに繋がることを。
 二か月ほどの修行が終わるとホワイトは一通りの技術は身に付いたと一旦現実世界に戻された。
 ホワイトは現実世界に戻ると組織のメンバーに訊ねた。
「今さらだがどうしてブラックと戦うのは俺なんだ。別に他で訓練を受けた人間ではだめなのか。」
 猫が答えた。
「ブラックな仮想世界の一部に特殊な世界を作り上げた。その場所では送られてきた人間の遺伝子情報によって動きやすさが大きく変わってくる場所なんだ。いくら優秀な戦士を派遣してもそこではブラックにまるで通じない。そこでブラックと遺伝子の近い兄の君が選ばれたんだ。それに君はたぐいまれな想像力を持っている。あの世界では想像力こそが全てだときみも気付いたはずだ。」
「だからって俺に戦わせるのは無責任じゃないかよ。お前らで勝手に戦っとけよ。死んだら一生意識が戻らないんだろう!!」
ホワイトはつかみかかった。するとその手をつかんだ親玉が言った。
「そのブラックの作り上げた特殊な世界でも唯一我々が自由に動けるようになる方法は存在する。それは我々の意識を完全に現実の体から引き離すことだ。そうなると我々は永遠に現実世界に戻ることができなくなる。もちろん我々にその覚悟はできている。それに君が死ぬことのないよう全力でサポートもしてみせる。だから我々を信じてついて来て欲しい。」
「……そんなことはさせない……」
 ホワイトは答えた。
「俺一人の力でブラックに勝ってみせる。君たちにそんな道は歩ませない。」
ウーウーウー
その時部屋にサイレンが鳴り響いた。サブローが叫んだ。
「ブラックがアメリカの中枢に攻撃を始めようとしている!早く止めに行かないと大変なことに…!」
その言葉を聞いてホワイトは言った。
「俺一人で行かせてくれ。ブラックを必ず倒して見せる!」
 ホワイトは自ら機械を取り付け、転送先をブラックの作り上げた世界に設定し、スイッチを押した。
ホワイトは仮想世界に転送された。目の前には弟ブラックがいた。
「来るのを待っていたよ。兄さん。あなたは僕の全てを知りすぎている。ごめん。死んでくれ。」
ブラックは銃をかまえてホワイトに発砲した。
「いきなりかよ…!!」
ホワイトは終わったと思った。しかし、ホワイトは弾丸がスローに見えた。ホワイトは弾丸をよけた。そこから二人の戦いが始まった。
 その後二人の戦いは3時間におよんだ。ホワイトは想像力を駆使して戦ったが徐々に戦局は苦しくなってきた。
ブラックがホワイトに馬乗りになった。ブラックが銃をホワイトの顔に構えた。
「さようなら。兄さん。」
ホワイトは死を覚悟し目を閉じた。
その時ブラックが吹っ飛んだ。
顔を横に向けるとSPLEENの「猫」「シャーロック」「親玉」「スパーム」「ベルリン」「サブロー」が転送されていた。
 7対1での戦いが始まった。たくさんの武器がうなりをあげる。7人は遂にブラックを追い詰めた。
 その時突然仮想世界がゆがみ始めた。
ブラックが話し始めた。
「どうやら俺の転送元の現実世界に攻撃の手が入ったようだ。この世界は崩壊する。逃げるなら急ぐことだな。」
 そういうとブラックの体は消滅した。
「急いだ方がいい。」
 SPLEENのメンバーに促され、ホワイトは現実世界へ繋がるゲートへと走り出した。ゲートに到着すると親玉が話し始めた。
「我々の意識は完全に現実の体から離脱してしまった。ゆえに現実世界に戻ることはもうできない。元の世界へ戻るのは君だけだ。」
「そんな…」
「気にするな。我々は自分の意志でこういう道を選んだんだ。だが最後にお願いがある。これからも仮想世界でのテロはきっと起こる。その時は我々に代わって戦って欲しいんだ。」
「…わかった。僕は戦い続けるよ。今まで本当にありがとう。」
そういってホワイトはゲートを通り現実世界へと帰って行った。
10以上
102705 f.c.gt 星の鳥 「あー、またかー。」
かけられた召集命令に、食事中の手を止め、列になって、かけていく男たち。
「次はどこに行かされるんだろうな。」
「うーん、次は竜のうろことかかなぁ?」
「そんなのだったらまだましなんだけどなぁ。その辺の魚のうろこでも渡しとけば何とかなる。」ずるがしこい兵士がそう言いました。
「そうだなぁ。」
そんな話をしながら、全身を覆う鎧を手際よくつけていく。
大きな広間にきっちりと整列した鎧の男たちの目線の先には、大きく、飾りの豪華なイスにちょこんと座った小さな人がいる。
その人が整列した兵士に向かって「星の鳥を捕えよ。」と命じた。
兵士たちはざわざわし始めました。余りに無茶な命令に驚いたのか、それとも星の鳥を恐れたのか。ある兵士はただじっとうつむき、またあるものは音も立てずに座り込んでいた。そして兵士のうちの一人が恐る恐るたずねる。
「王様、星の鳥とはどのようなものなのですか。」
王様は「星でできた鳥だ。」と答え、「さっさと行って来い。」と兵士をせかした。兵士たちはざわめきながらも広間を後にする。

兵士たちはまず、作戦を立てることにした。
「星の鳥ってまず何処にいるんだろう。」
「うーん。星の鳥って言うくらいだから、夜の空に居るんだろうなぁ。」
「じゃあ、まず、何処までも高く飛べる飛行機が必要だ。」
その意見に他の皆も納得した。
「それから、どれくらいの大きさなのかも知っておかないとなぁ。」
「夜空に見える星はとっても小さいから、星の鳥もそんなに大きくないかもしれないよ。」
そんなことを言ったのは、いつもフラフラとして何を考えているのかよくわからない、のんびり屋の兵士。それに対して、いつも本を読んで、まじめな物知りの兵士がこう言った。
「そんなわけがないよ。夜空の星が小さく見えるのは、あの星がとんでもなく遠いところにあるからだよ。ほら、向こうにある広間の扉を見てみなよ。あんなに小さく見えるだろう。それと一緒だ。だから多分、星の鳥はとんでもなく大きいんだ。」
なるほど。と、皆納得した様子である。しかし、のんびり屋の兵士は、少しむくれている。
「よし、じゃぁ城にある一番大きな虫網を持っていこう。」
作戦を立てた兵士たちは、手分けをして準備を始めた。城の倉庫の奥の方にあったほこりをかぶった。道具を引っ張り出して、カンコンカンコンと音を鳴らしながら、一晩かけて準備をした。

「よし、準備完了だ。」
兵士たちは整列して、ざっざっと足音をそろえて、城から離れていった。
兵士たちはとりあえず、近くにある一番高い山に登って夜になるのを待つことにした。
いっぱいの荷物を抱えて、テントを張って、ご飯を作って、それでもまだ日が落ちていなかったので、少し遊んだ。そうこうしているうちに日が落ちて、兵士たちは各々が担当する配置についた。
「みんな、見逃すんじゃないぞ。」
「分かってるよ。」
「後で王様に何を言われるかわかったもんじゃない。」
兵士たちは目を凝らして星のちりばめられた空を見上げた。あるものは双眼鏡で、あるものは望遠鏡で、またあるものは虫眼鏡で。でも、一向に現れる気配はない。それでも兵士たちは現れるのを待った。一晩中一睡もせず。ご飯も昼間食べたきりで何も食べていない。とうとう星の鳥は現れないまま日が昇ってきてしまった。
「今日は現れなかったなぁ。」
「仕方ない。次の夜も星の鳥を探すぞ。」
次の夜もその次の夜もまたその次の夜も星の鳥は現れない。ついには一カ月もたってしまった。
「どうしよう。」
「あれから一か月も探し続けたのに全く見つからない。」
「王様になんて言ったらいいんだろう。」
「しかたない。一度帰って王様にありのままを報告しよう。僕たちは一か月も頑張ったんだ。王様も仕方ないと許してくれるさ。」
疲れ切った兵士たちはずるずると足音を立て城へと帰って行った。

「見つからなかっただと。馬鹿ものどもが。」
広間に雷のような大声が響き渡った。
あまりの大声にひっくりかえった兵士もいたほどである。
「星の鳥を取ってこいと命じただけなのに、一か月もかけ、しかも見つけられなかっただと。この役立たずどもが。」
「しかし、星の鳥がどのようなものかもわからず、どこに現れるかもわからなかったので仕方なく…」兵士がそう言いきる前に王様が「言い訳はよい。今すぐ支度を整えて、もう一度行ってこい。」と言い放った。
さすがに無茶な命令だったので、我慢できなくなった兵士が言った。
「もうやってられるか。おれは我慢の限界だ。王様のわがままに付き合うのはこりごりだ。」
そう言いながら、広間の扉をぐわっと開け出ていってしまった。
「僕もこりごりだ。」と初めの兵士に続き次々と兵士が出ていく。
「なにをしておる。早くわしに暴言を吐いた者どもをひっとらえて処罰せい。」
王様は叫びました。しかしみんな王様の声に耳を傾けることなく、広間からぞろぞろと出て行った。

広間に残ったのは、のんびり屋の兵士と、まじめな兵士の二人だけだった。
まじめな兵士は王様の命令に従いみんなを止めるために追いかけたが、みんなが聞く耳を持ってくれなかったのであきらめて帰ってきた。
のんびり屋の兵士はただボーっとしていたらいつの間にかみんないなくなってしまったのでどうしようか考えながらボーっとしていた。
王様はみんないなくなってしまってさすがに寂しくなったのか、穏やかな口調でこう言った。
「お前たちは残ってくれるのか。」
まじめな兵士が「もちろんです。」と答える。
のんびり屋の兵士はまだボーっとしている。
「みんな去ってしまったが、わしはやはり星の鳥が欲しい。」
「もちろん今から支度をして探しに行ってまいります。しかし…。」
「しかし、なんだ。」
「恐れ多いのですが、二人ではさすがに…。」
「ふむ、といっても兵士たちはみんな出ていってしまったしなぁ。しかたない、わしも一緒にいってやろう。」
「ありがとうございます。では、早速準備してまいります。」
そんな話をしている間ものんびり屋の兵士はボーっとどこともないようなところを眺めている。
「さあ、行くぞ。」まじめな兵士がのんびり屋の兵士を引っ張って広間を後にした。
「んあ。どうかしたのかい。」のんびり屋の兵士がやっと話しました。
「今から、星の鳥を取りに行く準備をするぞ。」
「ああ、星の鳥ね。分かったよ。」
今回の準備は大分楽なものだった。必要な道具はもう揃っているし、後は少し修理するだけでよかった。

「王様、準備できました。」
「わかった。今行く。」
出発しようとしたところで気付いた。どうやって、飛行機や、城で一番大きな虫網を持っていくのか、と。
三人は考えた。いや、一人はボーっとしているだけだから実質は二人だが。
「うーむ、飛行機に乗っていけばいいのではないか。」
「いえ、それだと虫網を持っていくことができません。」
「それでは、バラバラにして持っていくというのはどうだ。」
「それはいい考えです。でもそもそも私たちの中に飛行機を操縦できるものがいないのです。」
「それを初めに言え。では、他の方法で星の鳥に近づかなくてはならんなあ」二人は頭を抱えてしまった。
「箱を積み立てて塔を作ったらいいと思うよ。」突然の声に二人はびっくりした。話したのはさっきまでボーっとしていたのんびり屋の兵士だった。
「またお前はそうやって突拍子もないことを。」まじめな兵士はのんびり屋の兵士に言った。
「いい考えではないか。それでいこう。」王様が言った。
「分かりました。すぐ準備いたします。」まじめな兵士はそう言って箱を探しに行った。
しばらくすると、まじめな兵士が台車に乗せた大量の折りたたまれた段ボール箱とともに帰ってきた。
「王様、今度こそ準備できました。」
「それでは行くか。」
三人は足並みをそろえて城を後にした。

前回と同じ山の頂上に着いた三人は早速段ボール箱を組み立てて積んでいくことにした。
しかし、積み上げた段ボールに乗ると、どうしてもつぶれてしまう。三人は砂を詰めることにした。まじめな兵士はテキパキと、のんびり屋の兵士はのんびりと、王様はぎこちなく、それぞれ砂を詰めていく。
砂を詰めた箱をどんどん重ねていくと次は段ボールの塔が高すぎて、積めなくなった。
「一度城に戻って、梯子を持ってまいります。」
「うむ、段ボールもとってきてくれるか。」
「分かりました。」まじめな兵士はそう言って台車とともに城の方へ消えていった。
のんびり屋の兵士はボーっとしながら箱に砂を詰めていく。
王様も少し慣れたのか段々砂を入れるペースが速くなってきた。
そうして待っている間に大量の段ボールと梯子を台車に乗せてまじめな兵士が帰ってきた。
「お待たせしました。梯子を持ってまいりました。」
「うむ、御苦労。」
そこからは役割分担をして積み上げることにした。のんびり屋の兵士が砂を詰め、まじめな兵士がせっせと運び、王様がそれを受け取り積んでいく。
作業は順調に進み、日が落ちる頃には全ての段ボールを塔にしてしまった。

まだ星の鳥が出るであろう時間までには余裕があったので、先にご飯を食べることにした。
「わしは皆にひどいことをしておったのだなあ。」急にしんみりとした雰囲気で話し始めました。余りに急に話し始めたので、まじめな兵士はびっくりして手に持っていた箸を落としてしまいました。のんびり屋の兵士は相変わらずボーっとしていた
「急にどうされたのですか。」落した箸を拾いながらまじめな兵士が訪ねた。
取り乱したまじめな兵士にムッとしながらも王様は続けた。
「いや、今まで家来たちに無理ばかり言ってきたんだなあと兵士たちが去って行ってから考えてな。今日働いてやっとわかったよ。」
「王様らしくないねぇ」のんびり屋の兵士が言いました。
「そういうな。わしも少し恥ずかしいのだ。」
「今日は星の鳥を捕まえるぞ。」王様は話を終わらせた。
夜も更けてきて、三人は段ボールの塔に登った。
「今日こそ捕まえて見せます。」まじめな兵士は張り切っている。
「きれいな星空だなあ。」のんきなことを言いながらのんびり屋の兵士は空を眺めている。
王様は黙って空を見上げている。

しばらく待っていると、城のほうが明るくなってきた。三人はもう夜明けかとあきらめた顔をした。しかし少し様子が違う。
「ん。明るくなったから太陽が昇ったのかと思ったら、違うぞ。」まじめな兵士が言った。
「あれだ。あれが星の鳥だ。」王様が少し興奮気味に言った。
「きれいだなあ。」のんびり屋の兵士も少し楽しそうだ。
星の鳥は三人の頭の上を越えて地平線の向こうに消えて行った。
「あれが星の鳥か。」まじめな兵士は唖然とした顔で言った。
「あんなに高くを飛んでいるのか。」王様が感心したように言う。
「あれでは捕まえるのは無理だな。」こんなことを言いながらも王様は笑顔だ。
しばらく三人が余韻に浸っていると今度こそ夜が明けてきた。
「さて、城に帰るぞ。」王様の声に三人も続いた。
三人は横に並んで城のほうに消えていった。
7
102706 ぽに代 ナイト  雪がちらつき、ネオン輝く大通りをたくさんの人々が行き交う。しかしよく見ると、人々が何かを避けて歩いている。ひそひそと呟きあいながら、怪訝な顔をした人達が避けているそれは、一匹の黒猫。黒猫は人々の目など微塵も気にすることなく、その足取りは堂々としていた。
 黒猫は野良猫だった。不吉な黒猫はみんなに嫌われていたので、猫のネットワークにも入ることができず、いつも一人だった。黒猫に友達はいない。黒猫と仲良くしようと近づいてくるものも、かつてはいた。しかしみんな何か都合の悪いことが起こると、すぐさまそれを黒猫のせいにしてどこかへ行ってしまった。
 この間の夏もそうだった。

「かわいそうな黒猫さん。うちにおいでなさいな」
そう言ってきたのは女のほうで、黒猫は言われるがままに付いて行っただけだった。大きな屋敷に連れて行かれて、山盛りのご飯をもらって、身繕いもされた。
それから、名前をもらった。今までで何度目の名前だろうか。もう、覚える気さえも起らなかった。
 女の家に住むようになって、1か月が経ったある日、また、事件は起こった。
 女が交通事故にあった。大きなけがを負ったものの、命に別状はないとのことだった。しかし、女の母が切れてしまった。
「だからわたしは反対したのよ!こんな不吉な、真っ黒な猫を飼うなんて!あんたのせいで娘は…」
いつものことだった。黒猫は屋敷から出て行った。

 黒猫が行く家で事件が起こると、すぐにその怒りの矛先は黒猫に行く。どんなに小さな些細な事件でも、全部全部黒猫のせい。最初は黒猫も、本当に自分に原因があるんじゃないのかと思い悩んだこともあったのだが、本当に些細な、石に蹴躓いたことでさえ黒猫のせいにされるので、もう悩むのもやめた。
「こっちおいで」って言われたら、次は「あっち行け」って言われる。そんな日々に疲れた黒猫は、もう、人を思いやって生きることにも疲れたのであった。そうして黒猫は、孤独になった。

「こんばんは、素敵なオチビさん。」
ある日、黒猫の前に若い男が現れた。男は黒猫を抱き上げて、微笑みながら続けた。
「僕たち、よく似てるね。」
 全身に電流が走った。ような気がした。凄まじい違和感。今までも優しい声はかけられてきた。その、すべて上辺だった優しい声とは、明らかに違う声。黒猫は驚いて、それでもまだ、男の優しさや温もりが信じられなくて、男の腕を噛んで逃げた。
 他人を思いやって過ごすのはもう嫌なんだろう?
もう、ずっと独りで生きていくと決めたんだろう?
そう自分に言い聞かせながら走った。孤独という名の逃げ道を。どこまでもどこまでも走った。疲れて、もう歩けないほどに疲弊した黒猫は、路地裏の片隅で眠りについた。

 どれくらい眠ったのだろうか。次第にはっきりしていく意識のなかで、油のような、でも、ほのかに甘いような臭いを感じた。はっとなって当たりを見渡す。見慣れない、狭い部屋の中。真ん中には椅子と、大きな白いキャンバス。臭いの元は絵の具のようだった。
 ガチャ、と音がしてまたさっきの若い男が現れる。
「おはよう、オチビさん。」
ああ、そうか、結局捕まったんだな。黒猫はそう悟った。
男は荷物を床の上にドカッと置くと、椅子に座った。キャンバスに向かい合い、黒い絵の具を取り出すとすぐに黒猫の絵を描いた。そして、唖然としている黒猫を抱き上げてこういった。
「この絵の名前は『Holy Night』。意味はね、聖なる夜。君の名前だよ。真っ黒の君にぴったりでいい名前だろ?」
この絵が、男が黒猫を描いた最初の作品だった。
男の言葉はどうしようもなく温かく、黒猫も「もし、また」を考えながらも、男と住むことを選んだ。

その日から男は毎日毎日、来る日も来る日も黒猫の絵を描き続けた。しかし、不吉な黒猫の絵に買い手などつくはずがなかった。
「いつかきっと、みんながホーリーナイトの魅力に気づいてくれるよ。」
そういってまた、男は黒猫の絵を描いた。どんなに絵が売れなくても、どんなに黒猫が不吉だといわれても、それでも一人と一匹は幸せだった。少なくとも、黒猫はそう思っていた。
一緒に暮らすうちにわかったのだが、どうやら男には恋人がいるようだ。手帳に挟んでいる写真を時折見つめては自分自身に活を入れている、ということが1日に何度かあるのだ。しかし、黒猫の絵を描くことと、絵を売りに行くことと、時々日雇いのアルバイトをする以外に男がしているところを、黒猫は見たことがなかった。恋人と会うどころか、友達さえいないようだった。だから黒猫は男とたくさん遊ぶことができたのだが。
そんな生活をしているうちに、2度目の冬をむかえた。

不吉な黒猫の絵なんかが売れるはずがなかった。それでも、1年たっても2年目がきても、男は黒猫の絵だけを描き続けた。正直、日雇いのアルバイトだけでは生活は苦しかったはずだ。でも、毎日の黒猫のごはんだけは欠かされることはなかった。男は黒猫を大切に、大切にしてくれていたのだ。どんなに辛いことがあっても、今までの「飼い主」のように黒猫を責めるようなことは一切しなかった。寧ろ、男は自分自身と向き合って問題を解決していたのだ。そして、黒猫と過ごす時間を癒しと呼んでくれていた。

だから、男は倒れた。そして、冷たくなってしまった。

男は倒れる直前に手紙を書いた。そして男はぽつぽつと黒猫に話した。
「走って、走って、こいつを、届けてくれ。夢を見て故郷を飛び出した僕の、帰りを待ってくれている恋人に、こいつを届けてくれ。」

雪の降る山道を、黒猫が走る。手紙を、今は亡き親友との約束をその口にくわえて。雪の冷たさで足の感覚がなくなってきた。しかしそれでも、黒猫は走った。
何かが足に当たった。痛い。どんどん数が増えてくる。痛い、痛い。見ると、子どもが石を投げてきていた。
「見ろよ、悪魔の死者だ!」
「使者なんかじゃないよ、あいつが悪魔だよ!」
口々に罵声が飛ぶ。石も飛ぶ。自分が何をしたのだろうか。今まで、誰にも迷惑をかけないで生きてきたはずだ。たまたま出会えた幸福に身を預けて、幸せな日々をおくれていたのに、それさえも奪われて。悪魔はいったい誰なんだ。石が痛い。

「ホーリーナイト」と、聖なる夜と呼んでくれた親友。呼ばれるたびに、そこに内包される優しさや、温もりを感じた。悪魔がいったいなんだっていうのだろうか。黒猫は親友のために走ると、決めたのだから。…いや、そんなものでは足りないだろう。黒猫には、この日のために生まれてきたのではないかとさえ感じていた。

黒猫はひたすらに走り続けた。だんだんと足が言うことを聞かなくなってきた。そしてまた、罵声が聞こえてくる。時々、いわれのない暴力も受けた。みんなそれぞれにストレスを抱えているのだろう。

一度だけ、酔っぱらいのオジサンがスルメをくれた。黒猫は、イカを食べることができないので丁重にお断りを入れたのだが、オジサンに言葉は通じなかった。それでも、食べないでじっとしていると、オジサンは話し出した。
「何があったかしらねぇけど、約束だけは破ったらいかんよな。」
オジサンに何があったのかは黒猫にはわからなかったが、約束は果たすつもりだったので、うん、と頷いてみた。するとオジサンはえらくご機嫌になり
「お前もそう思うか!えらいな。いい子だな。」
と言って、ありったけのスルメをくれた。それも丁重にお断りしたのだが、オジサンに言葉は通じなかった。

 道草をしてしまったと、黒猫は足を速めた。とはいっても、もともと急いで走っていたので、黒猫の足は限界が近くなっていった。走っては転び、もう、足が千切れそうだった。それでも黒猫は走った。手紙を届ける為だけに。

町が見えた。あれが、親友の故郷。
黒猫の知っているネオン街とは程遠い、薄暗い町だった。それでも家々からほのかな明かりがあふれ出していた。ネオンほど明るくはなかったが、黒猫の知らない、温かい光だった。いい匂いもしてくる。
満身創痍の黒猫は、動かない足を引き摺りながら、町をさまよった。

朝が来た。チュンチュンと小鳥がさえずっている。雪も降りやみ、すがすがしいほどの晴天が広がっている。
一軒の家の扉が開く。扉を開けた主は、足元に何かが倒れていることに気付いた。すっかり冷たくなってしまっているそれを、主は抱き上げ、部屋に入れると、温かい毛布を掛けてあげた。
主は、冷たくなった黒猫がくわえていた手紙を読んだ。そして、静かに立ち上がり、黒猫を抱き上げて庭に向かった。そして、庭にお墓をつくり、黒猫を埋めてやった。
主は、黒猫が探していた恋人だった。黒猫は恋人の家を見つけて、そのまま息絶えてしまったのであった。
恋人は、墓石に名前をつけてやった。「Holy KNight」、聖なる騎士と名前を付けて埋めてやった。
9
102707 かませねこ 2発の弾丸 暑すぎる。どうにかならないのか。
 俺は山内英輝。都立荒川高校に通う高校3年生。友人からは「やーさん」と呼ばれている。この呼び名は高校1年生のときに自己紹介をしたら、いつのまに「山内さん」が略されていていつのまにか「やーさん」に変わっていた。別にヤンキーという訳ではない。エアコンも効いてない夏休みの補習にもこんなクソ真面目に参加しているのに、なんでやーさんと呼ばれなきゃならないんだ。汗がプリントに滴り落ち、滲んでいく。
  チャイムが鳴った。これで今日の補習は終了だ。数学の教師が黒板を消し終えたのを確認し、東英大学の過去問の解法をたずねに行った。塾が大嫌いな俺は、高1の冬に志望大を国内最高レベルと言われる東英大学に設定し、独学で勉強している。何といってもこの高校は都立のくせに指導の上手い教師が多い。この数学教師、沢口綾香は、その東英大学を卒業、さらには大学院でも数学をいたお墨付きの数学者だ。
 完全下校の時間5分前に、俺は学校を出た。高3には厳しい誘惑の連続。アイスクリームを食べている中学生を見て、食べようかと思ったが、財布の中にお札が入ってないことを思い出してやめた。受験勉強のモチベーションを上げるために、 好きなアーティストのベストアルバムを買ったのだ。仕方ない。そんなことを考えつつ、途中細い道を通って、ショートカットして帰るのが日課になっていた。
  しかし、今日は勝手が違った。見覚えのある黒いストレートの髪、あれは沢口先生に違いない。横に居るのは、少し背の高い若い男。校内最高美人の沢口先生の スクープ記事が書ける。そう思った。俺は迷わず先生らの後をつけることにした。細い道に入っていく2人を追いかけると、急に後ろから襲われた。頭がくらくらして、上手く焦点が合わない。ふらふらっとしたところをみぞおちに一発くらった。俺を襲った人間と、沢口先生がしゃべっている。これはどういうことだ… 頭が痛い。もうダメだ。俺の意識はどんどん遠ざかっていった。

私はチョークをおいて、山内が持ってきた東英大の過去問を解いていた。山内が仲間になるのかと思うと、無性にワクワクした。しかし、彼の前では冷静をふるまわなければならない。感情が入り乱れて、過去問に集中できない。あれっ?と思った。この問題は私も解いたことがある。「解と係数の関係」と「相加相乗の関係」を用いることに気づけば、東英大といえども、私には楽勝だ。彼にヒントを与えると「帰ってからじっくり考え直します。」と言った。でも、君を今日家に帰すつもりはない。
 山内の帰宅経路はすべて把握している。だから、細い道に入ったところで援助者とはさみうちにして誘拐する。そうすれば、私の計画がまた一歩先に進む。どうしても、山内の力が必要だった。
 誘拐はうまくいった。男子高校生といえども、力のある男3人を相手に勝つことは不可能だ。車に連れ込み、自宅に向かった。もう陽は暮れかかっている。倉庫まで15分。「急いで!」と私は運転する男に叫んだ。
気がつくと、暗い部屋の中に閉じ込められているようだった。立とうとすると、足と手が固定されているのだとわかった。確か、あの細い道に入った時に後ろから頭をなぐられたんだ。
 「目が覚めた様ね。気分はいかが?」
 部屋の外側から聞き覚えのある声が続く。ただ、本人の肉声ではなくなにかスピーカーなどを通しているようだ。
 「あなたの命を脅かすようなことはしないわ。私の言う事に従っていればね。そこに水とパンがあるから、お腹がすいたら食べなさい。
 思い出した。これは沢口先生の声だ。考えていると、なぐられた箇所が痛む。
 「二時間後、あなたは変装して、街に出てもらうわ。イヤホンをして、それを聞いて私の指示に従いなさい。」
 二時間か……だいたい、あの帰宅の時から今どれだけ経っているのだろうか。部屋には監視カメラのようなものの赤い光がわずかながらも部屋を照らしていた。

  赤外線カメラで山内を見た。思ったより彼は落ち着いている。落ち着いていないのは私の方だった。彼に死なれては困ると思って部屋に食料を準備していたの に、手を拘束していた。少し気がかりだが仕方ない。1日そこら、何も食べなくても死なない。空腹で注意力が散漫するのはよくないと思い、手足の拘束を外す時に食べさせることにしよう。そんな事を考えていると、ふと、母の事が思い浮かんだ。母とケンカをした日、母はいつも、私の食事を抜きにした。いくら泣いて謝っても許してくれるどころか口も聞いてもらえなかった。私はそんなところで我慢強い性格になったんだと自覚している。とはいえ、次の日の朝食はいつも あたたかいご飯を食べることが出来た。姉と母で食べるご飯は何よりも幸せな時間だった。ただ、そんな日々はこれからはもう訪れることはないだろう。

  2人の男が部屋に入り、手錠と足のロープを外した。これに着替えろ、と言われたジャージは親友の峰内が好きなAdidasのものだった。見るからに新品だし、においもしない。こんな高校生はどこにでもいるな。外に出ても誰も俺の事に気付きやしないだろう。そんなことを思っていると男に、さっさと着替えろ!と怒鳴られた。着替え終わると、ついてこい、と言われて後をついていった。ここは倉庫のようなところの小部屋らしかった。外に出た瞬間、強い風に吹かれて少し驚いた。その風に運ばれたにおい……これはたぶん母の実家の近くのにおいに似ている。たぶん潮風じゃないかと思ったところに車が来た。そして男はここに乗れと指示した。俺はおとなしく座った。本当にここはどこなのだろうか。景色に見覚えはない。

太陽はいつの間にかかなり高いところまで上がっていた。ということは少なくとも俺は半日以上寝ていたことになるのか。センター試験があと4カ月後にあるというのにこんなことになってしまうとは。人生もどこでどう転んでしまうのか全く分からないのだと思う。下手をしたら今日で俺の人生もジ・エンドだ。そんなことを考えると無性に腹が立つ。なんで沢口先生は俺を選んだんだろう。なんで、なんでと思っていると高速に乗った。首都高湾岸線・有明ICの標識があった。車はフジテレビの近くを通ってレインボーブリッジを後にした。なんだ、遠くでもなんでもない。ここは所詮都内だ。そう思うと少しだけほっとした。

友人が所有している倉庫での行動にかかわった援助者の口座にお金を振り込み終え、銀行を出た。援助者を利用するのはリスクも伴う。援助者は自分のミッションが遂行さえできれば後はこの件に関しては無関係だからだ。裏切られたらその時のリスクは大きい。だから、『この計画が完全に終了した時には一次報酬金とは別の二次報酬金を支払う』という約束をした。だからこの計画が終了するまでは絶対に手は出してこないはずだ。上手くいくはずだ。いや、上手く行かなければならない。この計画は山内の行動にかかっているといっても過言ではない。山内ならきっと私が思うように行動する。きっと私が渡した無線機の指示に従わなくても。

車が高速道路を下りた。いよいよだな……と思う。信号が多くていちいち止まることに運転手はイライラしているらしい。「10分くらいで行けるといわれたが、30分くらいかかりそうだな。」と男たちが喋っている。沢口先生、あんたは俺を何に使いたかったのか知らないけどさ、なんでこの車、運転席と助手席にしか人乗ってないの?後部座席俺だけだぜ?それでして誘拐ごっこというのは本当に笑ってしまう。確かに高速上で路上に降りるというのは不可能な話だ。しかし、高速を降りた今、その話は可能な話になる。この30分のうちに一番人の多いタイミングを測る自信はある。それはこの服が教えてくれた。車はどうも練馬の方に進んでいるらしいのだが、峰内が住んでいるのがまさに練馬だからだ。俺はあんたに命を狙われる前に逃げ切って警察に通報してやる。これからのあんたが歩む道はお先真っ暗だな。高校生を誘拐した教師なんて見出しがスポーツ新聞に並ぶのか。また笑いがこみあげてきた。次の交差点は環八との交差点だ。ここで降りるしかない。歩行者信号が点滅している。この車は交差点には侵入できないだろう。

ガラッ!

ここらは道が複雑に入り組んでいる。適当に曲がっていれば、確実に俺を見失う。しかも、走っていると気づいたが、ここは一方通行の道ばかりだ。これはかなりラッキーだ。俺は必死に走った。とりあえず駅に向かおうと思った。一番近い駅は都営大江戸線・練馬春日町駅。いつも峰内の家に遊びに行く時に降りる駅だ。偶然にもジャージまで着替えさせてくれるなんて……何がしたかったのだろう、先生。渡されたイヤホンが邪魔になっていた。別に何も聞こえてくるわけでもない無線機。耳からイヤホンを外して無線機に巻いている時だった。
…ッ!
囲まれてしまった。しかも3人の男。車に乗っていた男とは別の男たち…!そして今度は力づくで車に乗せられた。

「ふふふ、何がしたいの、山内君。そんなことすると、あなたの命はないと言ったわよね。これはあなたへの罰。それにしてもわからなかったの?ジャージにGPS装置が縫い付けられてあったこと。山内君らしくないわね。」
車内に広がる数学の授業のような声。手錠を再びかけられた。今度は両端に男が座っている。今度こそ人生が終わったと思う。ジャージに着替えさせたのは罠だったんだ、そして無線機もきっと罠。着替えられた時の予備として渡していたのか。
「あなたには早応大学に侵入してもらうわ。そして、この男を連れてくるのよ。」
隣の男がPCを見せた。早応大学理学部教授、佐伯敏樹。42歳 この若さにして教授とはよっぽど凄い研究をしてきたのだろう。研究業績が少し見えた。作用素環の応用研究。作用素環は数学の学問全体に大きな影響を与えている分野だ。以前沢口先生から熱弁をふるわれた事がある。さっぱり意味がわからなかったが、数学の全体に影響するのだから、理学部に行きたい俺は言葉だけは覚えていた。
「この車は早応大学の近くで待機してるわ。しかしあなたのことを見張っている男たちはたくさんいる。そしてこれから渡す携帯には佐伯の電話番号だけがかかっているわ。ただし音声はこっちでも聞こえているから、佐伯に電話をかける以外の事をした時点であなたの人生は本当に終わりよ。」

手順はこうだ。佐伯に電話して研究室に入る許可をもらう。そして自分が佐伯研究室に入りたいため、早応大学を目指して勉強しているということを話す。「そこからは簡単よ。」と沢口先生は言っていた。

早応大学にいる援助者から電話がかかってきた。間違いなく山内は佐伯研究室に入ったとのことだった。おそらくこの後、佐伯は高校生だと知っていても山内を居酒屋に飲ませに行こうとするだろう。そうやって早応大学の敷地を出たところで佐伯を連れ去る。これで大丈夫だ。それにしても山内は完璧だ。完全犯罪を成し遂げることが今回の目的。多くの援助者を使って、なるべく私との接点をなくすようにしている。だから、練馬まで運ばせた男たちと今車で待機している男は別人だ。山内が車から逃げるのも計画の範囲内だった。後は私が直接引き金を引いてしまえば。

佐伯教授は初対面の俺をよくしてくれた。大学生の人だろうか、でも年齢は沢口先生くらい、もしくはそれより上くらいの女の人がお茶を出してくれた。自分のあるだけの数学の知識を話した。佐伯教授は「高校生でそんなに知識があるなんてよっぽど数学の道に進みたいんだね。この大学には推薦入試という手で入ることも出来るよ。」と言ってくださった。俺は早応大に入りたくてこんなことをしてるんじゃない。ただ生きたい、生きていたいだけなんだ。「よければ、外で飲まないかね。君は背も高いし高校生には見えないよ。口にさえ出さなければ世に広まることはない。私の研究成果を教えてあげよう。どうだい、サシで飲まないかね。」 ―ッ!きた。これだ。沢口先生が言っていた「佐伯教授はサシ飲みが好き」。助かった。心底そう思った。「よろしくお願いします。」「さあ飲むと決まったらすぐに出かけるぞ。ということで、恵理、今晩は遅くなるから先に帰れ。」「はい。」 

「佐伯と山内が研究所から出てきました。田辺はいません。」という連絡が入った。いよいよだ。いよいよだ。5年前からこの日を待ち焦がれていた。そう、たったひとつの必須単位のために、私の大学生活を奪っていったあの男。5年間、この日のために生きてきた。今回の計画は、誰を佐伯にぶつけるか迷った。佐伯にぶつけられる数学の天才は荒高には山内しかいない。また無線だ。「佐伯と山内を誘拐しました。佐伯と山内は今から倉庫へ連れて行きます。」よし、いよいよ最終局面だ。

 高校生を連れていこうとしたところで、知らない男に殴られ車に連れ込まれた。手錠をはめられ、目隠し、口封じをされた。息をするのも精いっぱいだ。しばらく車に乗せられたあと、車から下ろされた。どうやら高校生は車から下りていないようだ。下ろされたのは私だけか。風が強い。水の音が聞こえる。潮のにおいがする。五感で得られる情報はこれくらいか。「お久しぶりですね、佐伯教授。」どこからか女の声が聞こえた。

 「私が誰だかわかりますか。……そうですよね、5年もたっていれば忘れてしまいますよね。」
「……沢口綾香、じゃないか?」
「あら、覚えていただいていて光栄です。この5年間、私はずっとあなたに会いたかったんですよ。覚えていますか?私が研究室にいたころの事。」
「ああ。」
「どうしても卒業のためには3回生で解析学演習の単位が必要だった。その解析学演習の期末テストで、2問もケアレスミスをした。そう、プロパー両側イデアルという条件を忘れていてね。」
「そして、君は私の研究室へとやってきた。」
「でも、あなたはそこで私を襲った。あれで失ったものは大きかった。精神のよりどころだった彼氏を失った。早応大の友人も失った。そして、東英大に3回生として入学し直したせいで、1年間のずれが生じた。」
「彼氏を失ったのは私の責任ではない。」
「違うわ、あなたのせいよ。私の友人のいたるところに、写真を送っていたそうじゃない。『教授に体を売る不良学生』ってね。」
「…」
「彼氏も失い、友人も失った私はこの大学には居られなくなった。だからずっとあなたを恨んでいた。その恨みを晴らすことだけ考えて生きてきた。今から死んでもらうわ。」
「……いいのか。お前は。どうせ、あの高校生、お前の教え子なんだろ。早応大学関係者に恨まれるぞ。」
「彼は早応大学ではなく、東英大学を目指しているわ。あなたには関係ない。」
「恵理がお前の仕業だと気づけば、お前もいずれ死ぬこと…」
「もういいわ、今すぐ死ね。」

バン。

沢口先生が引き金を引いた。車に乗っていてもわかるくらいの音が響いた。頭を打ちぬかれた佐伯教授はその場にばったり倒れこんだ。倉庫の中でこんな事起きても誰もわかりやしない。一歩間違えればああなるのは俺だったのかもしれない。沢口先生が車のほうに向かってくる。殺されないだろうか。胸が飛び出そうなくらい拍を打っている。沢口先生が車の窓越しに話してきた。
「山内くん、これですべて終わりよ。これからあなたを家まで連れていってもらうわ。そして、私はあなたの前から姿を消すわ。あなたが思っている以上に東英大の受験は甘くない。頑張りなさい。ありがとう。」

4日後、男と女の遺体が都内倉庫で見つかったという小さな記事が新聞に載った。記事を見る限り、男は銃殺、女は自殺したとみられると書いてあった。真実を知っている人間は数少ない。俺は捜査に協力しないことにした。思ったより佐伯教授が見つかるのが早かったが、あの銃声が決め手になったようだ。俺は今回の件で調査を受けることはきっとない。ただ、荒高の一生徒として、沢口先生の話を聞かれるだけだろう。今回の事は墓場まで持っていく。そう決めた。

夏休みが終わりに差し掛かるころ、電話の着信が入った。
「もしもし、山内くんですよね。」
この女の声で、あの日にお茶を出した彼女の顔が一瞬で蘇った。


9
102708 エリンギ 物語がはじまる前に・・・ バタバタバタッ。
ガラッ。
「ただいまー!!じゃ、お母さーん、いってくるねー!」
「こら、ひかる!!だからランドセルはいつも片付けてからにって…、もういないじゃない。」
ひかるは、玄関にランドセルを放り投げ、駆け足でいつもの海辺に走っていった。
「はー。なんとか間に合った。」
ひかるはじっと広い海に溶け込んでいく太陽を見つめた。
「やっぱりきれい…。」
だんだん辺りは暗くなり、波の音だけが耳に届いた。空を見上げれば、満天の星。ひかるは、空の星を眺めていた。すると、ピーっと流れ星が流れた。その瞬間、ドーンとすごい音がした。すると、海の中に何か小さな光が見えた。ひかるは、海に近付いて行った。すると、チリンチリンと鈴の音が聞こえた。そして、コツンと足に何かが当たった。足元を見ると、鈴の入った瓶だった。瓶のふたを開けると、かすかに声のようなものが聞こえた。「・・・けて」「え?」「た・・すけて」次の瞬間、ひかるは瓶の中に吸いまれてしまった。

「なんだ、これ?」
「これ食べられるのかなぁ?」
3匹の子ブタたちは木の枝で何かをつっついていた。
「わー!!」
「キャー!動いたー!」
子ブタたちは驚いて、親分の狼の後ろに隠れた。
「ここどこ?」
ひかるは、あのまま深い眠りにつき、やっと目が覚めたのである。周りを見渡すと、そこは大きな森でたくさんの動物たちが生活をしている。戸惑っているひかるをみて親分の狼が声をかけてきた。
「大丈夫?」
「キャー!近づかないでー!」
「ご、ごめんなさい。でも安心して。食べたりしないよ。」
「そうだよ。僕たちが一緒にいても食べられていないのがその証拠だよ。」
「そ、そうだね。ごめんなさい。」
「いいんだよ。こんなのなれっこさ。私の名前はメイ。よろしく。」
「私はひかる。よろしく。」
「僕たちは子ブタのビー。」
「ブー。」
「ボーだよ。」
チリンチリン
そのとき、あの聞き覚えのある鈴の音が聞こえてきた。すると、ひかるのポケットが光っていることに気付いた。ポケットの中のものを取り出すとあの時瓶の中に入っていた鈴だった。
「その鈴は・・・」
メイが驚いた顔で鈴を見た。
「この鈴がどうかしたの?」
「じつはメイは呪いにかけられているんだ。」
ブーが答えた。
「その呪いをかけたコロン魔女の弱点が、その鈴なんだ。」
「ひかる、お願いだよ。その鈴でコロン魔女をやっつけてメイの呪いを解いて!!」
「わかった。私が必ず助けるから!!」
「一人では危険だよ。でも、あいにく私はこの呪いのせいで森から出られないんだ。だから、ブー達を連れて行って。いいね。ブー、ビー、ボー。」
こうして、ひかると三匹の子ブタのコロン魔女を倒す旅が始まったのだ。

チリンチリン
ひかるは腰につけた鈴の音を鳴らしながら、三匹の子ブタたちと歩いていた。
「あ、あのー。すいません。」
振り替えると肌は雪のように白く透き通り、炭のごとく黒いおかっぱ頭、血液のように真っ赤な唇がきれいな、それはそれは美しい少女が立っていた。
「どうしたんですか?」
ひかるが訪ねると、
「その鈴を持っているということは、ポールの知り合いではないですか?」
「ポール?」
「あ、前にポールがその鈴を持っているのを見たから…。あの子一体どうしたのかな。コロン魔女のところに向かってから帰ってこないし…。」
「コロン魔女!?まさかあなたも呪いにかけられたの?」
「ううん、私じゃなくてこの子達が・・・。」
そこには色とりどりの7匹のかえる達が並んでいた。
「お願いです。この子達を助けてください。それからポールの事も…。もしかしたらコロン魔女に捕まってるのかもしれないわ!!」
「分かった!!任せて!」
「あの、わたしもいっしょに付いていってもいい?君たちはこの森から出られないからここで待っててね。必ず助けるから。」
そしてまた一人仲間が増えた。

5人は楽しく歌いながら森の中を歩いていた。
プルルルルル
「はーい。もしもーし。えー、なにー。今日?ひまひまー。うん。じゃ、どんぐりの馬車とばしたら10分くらいで着くからー。またあとでねー。」
「誰かいるよ。」
ボーが指差す先には、金色に輝く長い髪、キラキラした派手な服を身にまとい、ガラスの長靴をはいた女の人が電話をしていた。
「何か用?」
女の人がにらんできた。
「いえ、わたしたちコロン魔女について知りたいんですけど…。」
「はぁ?コロン魔女?誰それ、知らなーい。あ、あたしもう行かなくっちゃ。早くしないと本日限定特盛にぼしセットが売り切れちゃう!」
「あ、行っちゃった…。」
「何かよく分からない人だったなー。」
「申し訳ありません。」
「うわー!!」
5人の背後にひょろっと背の高いなんだか貧しそうな美少年が立っていた。
「あの子が失礼な態度をとってしまって申し訳ありません。あの子は僕の連れで…。以前はあんな感じじゃなかったのに・・・。」
「もしかしてあの子もコロン魔女の呪いに!?」
「うん、姿を変えられただけでなく、記憶もほとんど失ってしまって…。」
「私たちコロン魔女のところに行くの!あなたも一緒にどうかしら?」
「あぁ、あの子を助けられるのなら何でもするよ。」
また一人仲間が増えた。
こうして、ひかると3匹の子ブタとおかっぱ少女と美少年はコロン魔女のもとへと向かった。

「でかっ!!」
「なにここ、気味が悪いよ〜。」
「ここがコロン魔女の住処ね。」
6人の目の前には、大きな古ぼけたなんとも気味の悪いお城が立っていた。壁一面にバラのツルが張り巡り、夜空にはコウモリが飛び交い、高い笑い声が白の中から響き渡っていた。
「よし、準備はいい?」
「もちろん!!」
「行くぞー!!」
「打倒コロン魔女!!」
ひかるは門をぐっと力強く押し開けた。
ギー…。
次の瞬間全身黒服の男たちがひかる達に襲いかかってきた。
「キャー!!」
ひかるはとりあえずひたすら逃げ回った。ひかるはいたずらっ子で昔から逃げ足だけは速かった。
「豚足チョーップ!!」
「豚足キーック!!」
「くらえ!俺たち兄弟の協力技!トリプル豚足パーンチ!!」
3匹の子ブタたちは次々に男たちを倒していった。
「キャー!おじさんたちこわーい!」
「あ、ごめんねごめんね。」
「何もしないから、ね。」
「なんちゃって、スキあり!」
ドンっ!!
少女はその美しい美貌と得意技の泣き落としで、男たちがひるんだすきに倒した。しかし、得意気になっていた少女の背後に忍び寄る影が…。
「よくも俺たちの仲間をー!!」
「キャー!」
「危ないっ!!」
その時、とっさに美少年が少女の事をかばった。
「あ、ありがとう。大丈夫?」
「うん、このくらい平気さ。」
少女には美少年が少したくましく見えた。
「なんか、あの二人いい感じだね。」
「うん、くっついちゃえばいいのにね。」
子ブタたちが二人を見て口々に話した。
そして、男たちをすべて倒しついにコロン魔女のところにたどり着いた。
「なに、あなたたち。」
コロン魔女は冷たく言い放った。
「た、たすけてー!!」
コロン魔女の背後にいた鳥かごに捕まえられた男の子が叫んだ。
「おだまり、ポール!」
「ポール?あなたがポールなのね?私たちあなたを助けにきたの。コロン魔女、ポールを返してちょうだい!!それから森の皆の呪いもときなさい!!」
「呪い?そんなのとけやしないわ。私にだって無理よ。」
「とぼけんなー!」
ブーがコロン魔女に向かっていった。が、まったくきかず弾き返されてしまった。
そして皆次々と倒されてしまった。
残りはひかるただ一人…。
「み、みんな…。」
涙目になるひかる。
「なんてことするの!許せないっ!」
しかし、ひかるも弾き返されてしまった。
ドンっ!
『いたたたた…。どうしたらいいの。これじゃ、皆の事助けられないよ…。』
そのとき、
チリンチリン
ひかるの腰につけた鈴が光を放ちながら鳴っていた。
チリンチリン
「うぅ…。」
コロン魔女が苦しみだした。
『そうだ、確かメイがこの鈴がコロン魔女の弱点だって言ってた…。』
「そこのきみ!その鈴をコロン魔女に投げつけるんだ!」
ひかるはポールに向かって力強く頷き、コロン魔女めがけて鈴を投げつけた。
「う、うわ〜!!」
コロン魔女がひるんだすきにひかるは一撃をくらわした。すると、鳥かごが、すーっと消えてポールは脱出することができた。
バタッ。
コロン魔女は倒れた。するとコロン魔女から何か黒い物体が出てきた。
「くそっ、いい体を手に入れたと思ったのに…。」
「コロン魔女はとりつかれていただけだったのね。」
「お、ちょうど良さそうなのがいるな。貴様の体借りるぞ。」
黒い物体がひかるの方に勢いよく向かってきた。
「キャー!」
ポールはかばうようにひかるの前に立ち腰の剣を抜いた。その瞬間、剣は光を放った。
「うわっ…。」
ひるんだすきに、ポールはその剣で黒い物体を真二つに切りつけた。黒い物体はすーっと消えていった。
「あ、ありがとう。」
「ううん、僕の方こそ助けてくれてありがとう。えっと…。」
「あ、私の名前はひかる。」
「いい名前だね。あ、そうだ。」
ポールは鈴を拾い上げ、そっとひかるの掌にのせた。
「これあげるよ。きっとまた君を守ってくれるよ。」
「…。」
「僕の声に気づいてくれてありがとう。」
ポールはひかるのおでこにそっとキスをした。
「え…?」
次の瞬間ひかるの頭に激痛が走った。そのままひかるは意識を失ってしまった。朦朧とした意識の中ひかるは夢を見た。それは、こんな夢だった。

メイは元の姿、母ヤギに戻り、7匹のカエルも子ヤギに戻り、母ヤギと7匹の子ヤギたちは涙の再会を果たした。金髪の女の人はねこの姿に戻った。3匹の子ブタたちはそれぞれの家を建てようと準備をしている。おかっぱ頭の少女とあの美少年もなんだかいい雰囲気だ。
『みんな元の姿にもどれたんだね…。』

「…る。ひかる。」
『お母さん…?』
「ひかる!いい加減に起きなさいっ!!」
ガバッ!
ひかるが目を覚ますとそこはひかるの部屋だった。
「あれ、みんなは…?」
「何寝ぼけた事言ってるの!?それよりちゃんとそれ片付けて、早く宿題やりなさい。まったくもう…。」
ひかるの周りには童話の絵本が乱雑に散らかっていた。
「夢…だったのかな…。」
チリンチリン
はっとしてポケットの中に手を入れてみると、何かが入っている。取り出してそっと手を開くとそこにはあの鈴が…。
「ん…?なんか書いてる。」
『ありがとう。ポール』
「おかあさーん。」
ひかるは階段を駆け降りリビングへと向かった。
終わり
8
102709 親指 やんちゃの先に 「こら待て!」教室から逃げ出したと同時に先生がそう叫んだ。一瞬だけ先生と目が合った時、先生の顔は真っ赤になっているように見えた。クラスメイトが「祐樹!!また成功したじゃないか!」と声をかける。それを聞いて足取りはより軽くなった。後ろから足音が聞こえる。どうやら先生が追いかけてきたようだ。ここの校舎はコの字型になっているので、もう少し先に行けば曲がり角になっている。この曲がり角は学校内でもとても有名な接触場所となっているため少し不安もあったが、捕まるわけにはいかないのでスピードをゆるめることなく曲がっていった。「いてっ!」何かにぶつかった。とりあえず戦闘態勢(少し言いすぎかもしれないが)で立ち上がりゆっくりと目をあけた。「なんだ、哲男かよ!」「なんだ、祐樹かよ!」全く同じタイミングで2人が声を発した。
 二人は小さなころからかなりの仲良しだった。幼稚園でも小学校でもこの2人を知らないものはいないほどに有名だった。
 そう、小学校のころも…。
 ―「なあ、祐樹。明日はどんなことする?」この日、言いだしたのは哲男だった。いつも哲男が言いだすわけではない。しかし、決まって夕方頃にはこの会話が始まった。もちろん毎日がいたずらの日々ではない。放課後に体育館に忍び込んで大量の文房具や遊び道具かなり巨大なドミノを作ったこともある。他にも、習ってもない化学の勉  今日を自分たちでして、理科室に侵入して勝手に実験を繰り返し、それがばれてこっぴどく怒られたこともある。他にもいろんなことをした。今まで一番危なかったのはドライアイスの実験だろう。誰もが知っていることだが、ドライアイスをペットボトルに詰めてふたをしめてそのまま放置する。ただそれだけだ。しかし、この二人がそれをするのにはあまりも若かった。小学2年生の時、まだ危険性がきちんと理解できていないままにその実験をしてしまった。もちろんかなりの爆発だった。幸いにもたまたまペットボトルが机の向こう側に落ちた時に爆発したのが救いだった。二人にけがはなかった。二人はこの時に約束した。絶対に、怪我だけはしないように安全に気を使っていろんなことをしようと…。―
ビー!ビー!静かだった学校に響きわたる。「な、何だ!」校内の秘密の場所に隠れて、のんびりとしていた二人の空気も変わった。
 校内は騒がしかった。火事だの、地震だの、いろんな噂が飛びかい、今にも教室。を飛び出そうとする人もいる。哲夫と祐樹は、校内に勝手に取り付けておいた防犯カメラの映像をチェックしている。「あ!これだ!」哲夫が見つけた映像には、誰かが立っていた。男か女かは、わからない。ただ、手にはナイフのようなものを持っている。誰かの悪戯だと思っていた二人には、信じがたい光景だった。「おいおい、まじかよ…。まるで映画みたいじゃないか。」しかし、校内の誰がそんな危機感を感じていようか。おそらくどの学校でもそうであろうが普段の避難訓練を実際の危機感を持ってできていないだろう。警報のベルは普段の単調な学校生活にちょっとしたイベントをもたらしているぐらいの気持ちしかない。「たぶん今の状況を理解してるの、俺たちだけだよな?」「…ああ。これってかなりやばくないか。よくわからないけどこの不審者かなり危険な感じがするよ。」幾度となく危ない実験をこなしてきたため、自然と危険察知能力が育ったのだろう。普段のちゃらけた表情は二人にはなかった。

 本当にこの部屋は素晴らしい。哲夫の家が電化製品を取り扱う店だったため古い商品をかなりもらえた。昔から二人は資金不足がはげしかった。そのため、既製商品を買うことはできず中古品を改良したり、ジャンク品を修理したり、日常の生活用品や文房具に思わぬ使用用途を見出したりするのは得意だった。というか、プロ並みの実力を持っていた。
二人に特別な才能はなかった。ほんのすこし手先が器用なだけ。ただ、自分たちの好きなことに対する意欲が半端ではかった。いったんはまってしまえば一食や二食抜いても気づかないほどに。そんな二人がこの学校でこの秘密の場所を見つけたのはたまたまだった。一室だけ地下に部屋があったのだ。ちょうど体育館の真下にある。入口はどこの体育館にでもある椅子をしまうスペースの奥だ。絶対にもともとあいていたものではなく誰かが意図的に開けたものだった。まさかこんなスペースがあるなんて思ってもみない。おどろき以上にうれしさが大きかった。入口にはクモの巣が張ってあった。誰も知らない。知るはずもない。そんなことが二人は大好きだった。「だれか昔使ってたのかな。あの入口からこんな机入らなくないか。」二人の中でいつもちょっとだけ冷静なのは哲夫だった。「確かに。電球もあるもんな。」なんて言いながら部屋を探っていた。
 
「これってなんとかしないとやばいよな。」なんて言いながら哲男は部屋にある一番大きな机に学校の地図を広げていた。「もう、俺たちで倒すしかないな。」哲男がすごい笑顔で言った。この状況で心から笑えるのはこの二人以外めったにいないだろう。二人で急いで部屋の中から使えそうないたずらの仕掛けや道具を集めてきた。かなりの種類がある。定番の蛇のおもちゃや瞬間接着剤はもちろんのこと本物の手錠や車のバッテリーなんかもある。
矢印やら記号やらを地図にどんどん書き込んでいく。「よし、できた!」二人で作り上げた作戦だったが少し問題があった。どうしても二人では設置ができない。最後の作戦には最低3人必要だった。「あいつだ!」この二人の仲の良さは尋常ではない。しかし、この二人にはもう一人仲間がいた。いたずら友達の紀夫だ。紀夫とは、中学になってから知り合った。紀夫は切れ者で、頭もよく人柄もよい俗に言う優等生タイプであろうこの紀夫と祐樹、哲男が仲がいいのは周りからとても不思議に思われていた。しかし、そんな周りの思いとは裏腹に紀夫とこの二人は馬があった。この学校に来てからのいろんないたずらや仕掛けを作るのを手伝ってくれていたし、何よりまれに言う奇抜なアイデアが二人を魅了した。
 出会いは紀夫が二人のいたずらに引っかかった時だった。「お前らほんとすげーな。」今まで多くの人にいたずらをしてきた二人だが、こんな反応をされたのは初めてだったのであっけにとられてしまった。「すげーよ!こんないたずらをしっかり成功させるんだもんな。俺にはできないや。」紀夫が引っかかったのは、あの有名な黒板消し落としだった。二人は期待していた反応とは違いすぎていたので、少しつまらなくなってその場を逃げるようにさっていった。それからというのも紀夫に会うたびに「今日はどんないたずらするの?」「次はどんないたずらするの?」と二人によって来る。二人はそれが嬉しかった。こんなに自分たちのいたずらに興味を持ってくれた人はいなかった。そんなある日、二人が設計図とにらめっこをしていた。どうにもうまくできない。何かが足りないのは分かっているのだがなにが足りないのかかがいまいちピンとこない。「これって…、ここにスイッチいれたらだめなの?」今日も気付けば紀夫がそばにいた。「あ、紀夫!おはよ…、ってそれだ!」この日から二人が少しでも迷えば紀夫に相談するようになっていった。
 「なんとかして紀夫に伝えなきゃ。」三人の中で最近はやっている暗号があった。

こういうことに関して何故ここまで早く暗号ができるのかは、よく考えてみると不思議だが、今は何よりも早く伝えることが大切だった。
 ピンポンポンパンポーン「えー、学校内のみなさん、こんにちは!今日のニュースです。昨日はユウキが1対2で負けました。そんなユウキからのメッセージです。テツオきらいだ。」校内では笑いがおこっている。テツオが電気機器を自由にいじくれることはみんなには有名だ。「だれか気づけ!」侵入者の映っている映像を見つめながらユウキはつぶやいた。「あいつなら気づいてくれる。」何やら紀夫は紙に何か書いている。なんてハイテクなカメラなのだろう。その紙にズームインしていく。すらすらとペンが進んでいく。
『1対2』『テツオきらいだ。』
この二つの文だけが丸で囲まれている。「よし!ノリオがもう解くぞ!」テツオは学校の地図を広げながら言った。ついに、ペンがとまった…。
『○テ ツオ ○き らい ○だ』
「よし!ノリオが気づいた。」このカメラの存在はユウキ、テツオなどの仲のいいワダテツ軍団だけ知っている。そのカメラに向かってノリオが手話をする。「ど・う・す・れ・ば・い・い・の」侵入者は今にも校内に侵入しそうだ。もうちんたらしてる時間はない。ピンポンポンパンポーン「龍から足をたつ人へ」もう、意味なんてどうでもよかった。すぐに紀夫と合流しなければ間に合わない。紀夫も今回は一瞬で暗号を解いて教室を飛び出て理科室へと走った。
 扉があくと同時に紀夫が駆けこんできた。「どうしたの。」息が切れている。「詳しい説明はなしにするよ。とりあえず侵入者なんだ。力を貸してほしい。一緒に捕まえよう。」何も返事がなかったがその表情は満面の笑みだった。「今哲男が防火扉をしめて侵入者をうまく学校内に呼び込もうとしているところなんだ。今から俺たちは、いろんなトラップを仕掛けに行こう。」
 三人の作業は終わり準備が整った。哲男はしっかりと予定通りのルートを侵入者が通るように防火扉をしめ、祐樹と紀夫も全てのトラップを設置し終えた。後はこのルートに侵入者を入れるだけだった。その役目は哲男だ。少しいじった拡声器から声を出した。「だれだ!」まるで中年の男性のような声が出る。侵入者はあわてて校舎に隠れた。そう、あのルートの入口に。ここからは怒涛の攻撃だった。手始めは、簡易爆弾だ。風船にドライアイスを入れてある。ドライアイスが風船の膨張限度を超えれば爆発する。爆発といっても普通ならただ風船が割れるだけだが、この三人のものは一味違う。ドライアイスが昇華中の風船の中でBB弾が暴れている。危険を悟った侵入者はすぐそこの階段を駆け上がった。それと同時にBB弾をまきちらしながら風船は爆発した。この三人の攻撃は止まない。次はスライム地獄だった。床一面に撒き散らされたスライムに滑ってしまい思うように進むことができない。また、ここでも三人の工夫は侵入者を苦しめる。金平糖だ。金平糖が大量に混ざっているのだ。こけたらいたい、半端なくいたい。しかし後ろから声は迫ってくる。滑ってこけながらでも逃げるしかない。次の角を曲がるとそこには大量にロープが張り巡らされている。どうやってここまでのロープを張り巡らせたのだろうか。クモの巣というよりも壁に近いぐらいだ。だが、ここを越えなければ後ろから来る誰かに捕まってしまう。なんとしても越えなければいけない。「あ!はさみ落ちてる。だれが仕掛けたか分からないけど爪が甘いな。」とつぶやきながら、はさみを握りロープを切ろうとした。ビリッ!「いってー!」なんとも古典的ないたずらなのだろうか。仕掛けた人さえもこんな罠に引っ掛かると思ってもいなかっただろう。それを理解したせいもあってか、酷くいらついた。ポケットに入っていたライターを取りだしロープを燃やす。さすがにただの紐なだけあってすぐに大きな炎をあげながらロープの壁に穴が開いた。駆け抜ける!次の階段が見えた!「もうこんな学校いやだ。早く出よう。」階段を二段飛ばしで駆け下りる。思いっきりお尻からこけた。忘れていた。最初にスライムが敷き詰められていた。ここもそうだった。びっくりしていてきづいていなかったが、痛みが込み上げてきた。それ以上に腹が立つ。「くそー。絶対許さん!」すごい怒りがこみ上げてきた。意気込んでめをあけた目の前には人が立っていた。「だ、誰だ!?」
 「よし、もうすぐ降りてくるぞ!」哲男からの通信が入った。祐樹と紀夫は階段の下で待ち受けていた。武器はしっかりと準備している。唐辛子入りのスプレーやビリビリ棒に手錠、プラスチックバット、ロープ等かなりいっぱいある。だが、この二人もさすがに侵入者は怖いのだろう。多くの武器の中にはあまり役に立たないようなものも多くある。「あ!きたよ。」侵入者を視界にとらえ武器を握りながらそっと息をひそめた。侵入者がスライムを踏んだ瞬間、思いっきりこけて階段から落ちてきた。「今だ!」飛び出ていった祐樹を紀夫は見守っている。侵入者が目をあけた。「だ、誰だ!」侵入者がそういった瞬間に祐樹は唐辛子入りのスプレーを顔に吹きかけた。「いたい!目が!目が!」侵入者がのたうちまわっている間に紀夫が侵入者の目の前にペットボトルロケットを設置した。ただのペットボトルロケットではない。発射のエネルギーは水素の爆発のため普通のよりはるかに威力が高い。しかもスイッチ一つで発射できるという優れモノだ。「いっけー!」侵入者がたった瞬間に紀夫がスイッチを押した。「うっ。」ものの見事に侵入者のあごに命中した。倒れ込んだのを見て二人は手早く手と足に手錠をかけた。
 「やったな!」と言いながら哲男も合流した。三人で侵入者を縛ろうとした時だった。パチパチパチ!と拍手をしながら現れたのは校長先生だった。「よくやりましたね。君たちが捕まえてくれないと私がつかめなければいけなくなっていましたよ。」「え?」三人は口をそろえてそう言った。「どういうこと?」完全にあっけにとられている。「全部みていましたよ。君たちが見つけた部屋は昔私が作ったものです。君たちがあの部屋を見つけた時には、ほんと驚いたよ。」「え、ちょ、ちょっとまってください。全然話が見えないんですけど。」もう侵入者のことなど完全に忘れている。「すごい驚いていますね。無理もないでしょう。あなたたちが使っているあの部屋も昔、私とその当時の友達が作ったものなんですよ。昔、私もいたずらにはまっていましてね。あなたたちのように当時は先生によく怒られていました。あ!そうそう!その侵入者は私が引き受けましょう。本当に君たちはよくやってくれました。ありがとう。君たちはこれからもそのままで生きてください。今の世の中では、嫌がられたり、さげすまれたりするかもしれません。でも、そのままで生きてください。絶対に報われる日がやってきます。その日をただ信じて頑張ってください。では、私はこれで。」ほっほっほと笑いながら校長先生は侵入者をつれてさって言ってしまった。「あ!罠はほかの先生にばれる前に片づけておいてくださいねー。」三人はしばらく動くこともできなかった。張り詰めた緊張の糸が切れたからだろうか。三人はしばらく天井を見つめていた…。何分たっただろうか。「片づけよっか。」祐樹が一番に立って階段を上っていく。
 八年後。「ついに始まった!」紀夫がつぶやきながらテレビに食いついている。「あいつらついにやりやがった!テレビに紹介で使われるようになるなんて!俺は別の高校に行ったからな。なんかちょっとうらやましいよな。あいつらはあの校長先生の言葉信じて頑張ってたからな。」テレビの中には何やらいろんな文房具が組み立てられ装置になっている。スタートと書かれた札のところからビー玉が転がり始めた。いろんな文房具が予想もしないような動きを見せる。次々と仕掛けが繰り出されていく。「すげー。」紀夫も夢中だ。ついに全ての仕掛けが終わりゴールにたどり着いた。画面がゴールにズームアップしていく。
そこにはカタカナでこう書かれていた。

ピタゴラスイッチ




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102710 半生キャラメル 狭間からのescape どうしてここにいるんだろう。
あなたはだれ?
あなたはどうしてここにいるの?
分からない。
解らない。
判らない。

わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない!

暗闇に包まれた部屋にて。それは決して完全なる暗黒というわけでなく、はっきりと認識することはできないが、しかし「何か」を察知できる、そんな部屋にて。
何故か私は眠っていた。ねむっていた?眠らされていた?気絶していた?気絶させられていた?何にせよここで覚醒した。覚醒したと言っても瞬間移動が出来るようになったとか、自在に火を操れるようになったとか、ましてや魔法が使えるようになったとかそういうのではない。(おそらく)一般人たる私は一般人らしくただ目が覚めたのだ。
見知らぬ部屋で。
私は(多分)一般人らしく周囲の状況をを確認しようとおもった。目が覚め見知らぬ部屋にいれば当然の行為だろう、と話す相手は(きっと)いないので私は私と対話をしながら辺りを見回す。
面白くない。全くもって面白くない。
と言うのもその部屋には何も(気になるものは)ないのだ。窓が無いのは気になったが、見事に簡素な部屋だ。呼吸をしていない人型の影などが在るよりは幾分ましではあるが…自分の見知らぬ部屋で目覚めたのだから、事件の一つや二つには巻きこまれているのであろうが、これは…人質?
などと呑気な事は考えていられない、事件の一つや二つに巻き込まれていくことになる。
 
 俺はは東高校に通う二年生。なんの変哲もない小、中学校に通い、ごく平凡な高校に入学、そして今に至る。東高校は少し複雑な構造をしている。複雑というよりは特殊といった方が正しいかもしれない。まずはじめに、校舎を囲う塀が無い。安全面で不安を抱くかもしれないが、塀が無くなったのは必然と言える。それは校舎をぐるりとまわってみればすぐに理解できるだろう。そう。この校舎は正方形に鎮座しているのだ。つまり。校舎は校舎自身で密室を作り上げ、その内部の安全性、機密性を最大にまであげているのだ。校舎の内部は非常にわかりやすい作りとなっている。正方形の角にそれぞれ階段があり、北側は一年生、西側は二年生、南側は三年生、そして東側はその他、職員室や視聴覚室、保健室や理科室など、特別教室が並んでいるのだ。

とある放課後の教室にて。
「ここはどこ?私は誰?」
「つまらねー事言ってねーでさっさと行くぞ、バカ。」
「ねえ待ってよー。こんな可愛い子を置いて行く気?」
「だったら早く来い!つーかお前男だろーが!可愛いもクソもねーんだよ!」
「ふう…最近の若者はキレやすくてのぅ。」
「全くじゃ爺さんや。お前もその若者の一員だけどな!そもそも原因はてめーだ!」
そんなこれといった意味も訳もないやり取りをする。
辺りには帰り支度をしている者、友達と談笑している者、部活にダッシュしている者など様々である。そのうち俺は帰ろうとしていた者の一人であるが、幼なじみの健二に捕まっていた。
なあ、あれ見てみろよ。
唐突に健二は空の彼方を指差す。
そこには当然空が在る。優雅に漂う雲が在る。遠くに米粒よりも小さく見えるのは鳥である。そして他には何もない。解りきっている日常のごくありふれた背景。俺はそんな景色を一瞥する。健二が何かを見つけたとかそんなことは万が一にも思っていない。ただ、ただ、何となく窓を通して本来広大である空の、切り取られたほんの一部分をみやった。
「今日も平和だなぁ。」
「ああ。そうだな。」
 ここまでが俺のごく平凡な高校生の記憶である。

 突然世界が歪む。かと思えば次の瞬間には元通りになっている。体調が悪いというわけではない。目に見える傷なんかは全然なかったし、頭痛も吐き気もなかった。また、今日だって普通に学校をこなしてきた。特に立ちくらみとか言う訳でもない。辺りを見てもそこはただの教室で、健二だっている。ただ何か違和感を感じるが…。

 次の瞬間に違和感の正体に気づく。むしろ今まで気づいていないのが奇跡というくらいな、決定的なことに気づく。
 自分がいたはずの場所に自分はいなかった。位相が少しずれたかのようだった。
 そして、こいつら俺が見えていない。それに、そいつは何なんだ?
そこにいるのは健二である。初めは俺と話しているのかと思っていた。しかし違う。なぜなら、こちらの声或いは相槌とは全くの無関係に話は進んでいるのである。
 それ以上に。
 異常な存在がそこにある。辛うじて人型を保っているものの、周囲とそれの境界ははっきりとせず、朧げで、それでいて全ての光を捕らえて放さない完全なる闇とでも表現すべき漆黒。そんなものがそこにはある。もちろんその闇には顔のパーツなんてものはない。黒い人型の塊がくねくねと動いているだけである。しかしどこか僕のことを馬鹿にするような、蔑むような、嘲るようなそんな表情をしているような気がした。初めて苛立ちを覚えた。もちろん黒にはそういう感情を持っているとは限らない。なにせ表情なんてものはないのだから。もしかしたらそれは哀れんでいるかもしれないし、怒りに満ちているかもしれない。そもそも感情なんてないのかもしれない。今のところ、全て僕の思い込みであり、おしつけなのだろう。
 もう一度健二に声をかける。やはりこちらを認識していないようだ。クラスメイトに声をかけてみる。おーい。やはり反応がない。肩をゆすってみる。触れることができた。ところが自分の力をかける方向などはお構いなしに相手の体が動く。つまり、こちらが前方から体を押しても、相手が前へと進もうとすればあり得ない力で押される。
 ここで、とてつもない絶望感に襲われた。一体自分はどうすれば、いいのか。平凡人生を歩んでいた俺には皆目見当つかなかった。敷かれたレールには絶対にこんなルートはないはずだ。どこで踏みはずしてしまったのか。そのようなことを考えはじめたとき、頭を左右にふった。冷静にならなくてはと思った。そこで一度気を持ち直し、改めて辺りをうかがった。

 そこには居るはずのない存在が佇んでいた。なぜ先程は気付かなかったのかと疑問に思ったが、そこは気にしないことにした。そこに居るのは単なる少女だ。では、なぜ居るはずのない存在なのか。
確かにそこには不思議な空間が出来上がっているように感じる。少女が発する雰囲気が辺りの空気に作用し、普段の教室にはない空間を作り上げていた。教室という日常にはあまりにもミスマッチな空気を醸し出している。しかしそれは感覚的なものであり、一般的には居るはずのないと断定できるものではないはずだ。しかしその少女は明らかに異質だった。夏の晴れた空に綿菓子のような入道雲が浮かんでいる風景が似合うであろう、真っ白のワンピース。さらには裸足。さすがにつばの広い帽子はかぶっていなかったが、夏みかんでも抱えていれば、田舎の真夏の快晴の下の緑の丘にでもいそうな、か細い女の子である。さて、この学校は外部から入るにはかなりの手間がかかる。この学校には門という概念がほとんどない。なぜなら、門よりも先に玄関があるからである。その代わりに強固なセキュリティが存在する。それは大人であろうと、小さな女の子であろうと、入校には多大な手間と時間を要する。これは、特殊な校舎の構造上、いかに不審者を校舎内に入り込ませないか、ということが重要になるからである。
 僕は何の考えもなしに動きはじめていた。少女に、声を掛けようと歩み寄る。このとき、どうして話しかけようと思ったのかは自分でもわからない。少女はこちらに少しも反応することなく立ちすくんいる。少女はピクリとも表情を動かさなかった。
 俺は話しかける。何か分かるかもしれないという希望をかすかに抱えながら。
 「君は誰?」
 少女は何も答えなかった。
 「何が起こってるんだ?」
 やはり少女は答えない。ここで初めて、自己紹介をしないと、という気になった。
 「僕は…」
 少女の表情が少し動いた気がした。
 「ここは…」
 少女が唐突に切り出した。
 「ここは?ここはなんなんだ?」
 「ここはあなた達が住んでいた世界の裏側。」
 「それじゃあパラレルワールドってことか?」
 「確かにそう言えるかもね。でもそれは正確な表現ではないわ。あなた達が住んでいた世界を表、この世界を裏としたとき、基本的には表と裏は干渉しあうことはない。コインの表は裏に何か影響を及ぼす事はないようにね。ここまでは一般的なパラレルワールドよ。だけど問題はここからなの。もう気づいてると思うけど表と裏、あなた達の世界とこの世界は時に互いに干渉する事があるのよ。」
 「どういう事だ?」
 「今言ったことが全て。もっとも私がわかる範囲で、だけどね。」
 「わけ分かんねーよ」
 「あなたが理解出来ようと出来なかろうとそれは全く問題ではないわ。大切なことは、あなたたちの世界に異世界が混じり始めていること、そしてそれが世界を破滅に向かわせている、この世界の一部で草木が全て枯れてしまったていることから明らかなようにね。」
 「止める方法とかねーのかよ?」
 「あると思う?」
 「もったいぶるなよ、あるのか?」
 「知らないわ。わたしだってこんなの経験したことないし、そもそも聞いたことだって無いわよ。全部わたし自身が見てきたこと、そしてあなたの話から導かれる考察。」
 「全部想像ってことか」
 「そうかもね。でもわたしが知っている景色とあなたが知っている建物が同一空間に存在する、このことから二つの世界が混じりはじめていることは明白よ。そして破滅に向かっているってことだけど、あなたに聞かせてもらうわ。あなたはこんな世界で生きて行けるかしら?」
突然饒舌になった少女に違和感を覚えたが、それには目を瞑ることにする。が、はっきり言って少女が言っていることの大半が理解できなかった。なにか、ゲームの中の話のようだった。それに、草木は枯れてしまっている?そのような話は、自分は、聞いたことがない。実は、砂漠化が進んでいたりはするらしいが、それとは関係あるのか?極めつけはパラレルワールド?それこそゲーム内の話である。見てきた?いったい何を見てきたというのか。それに破滅だなんだとよくわからないことばかりだ。

 「あなた、これからどうするの?」
 突然話しかけられる。考えることに集中していたのでびっくりする。
 「ああ、どうしようか?」
 情けないが、状況が状況である。話を聞いた今でも何をすればいいのか、どうすればいいのか、全くわからなかった。
 「私と、来なさい。」
 否とは言えなかった。話ができる唯一の相手である。それに、その口調はそれが必然であるといわんばかりの自信と傲慢の混ざったものであった。

 こうして、少女と共に行動することになったのだ。
 

第一章 終
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102711 ほちのすけ タコのプータ  はるか地平線の向こうから朝日がのぼり、青い海面をキラキラと輝かせている南の海の海底に、タコの親子3匹が仲良く平和に暮らしていました。お父さんダコのペーターと、お母さんダコのパーコと、子ダコのプータです。ペーターは、海の警察官で、パーコは料理が得意な専業主婦です。プータは人間でいうと、6歳くらいのやんちゃな男の子で、海の学校に通っています。
 3匹は、少しさびてかけている赤茶色のつぼにかれこれ約3年間住んでいました。3匹がちょうど暮らせるくらいの広さで、丸い形をしています。天井では、わかめがゆらゆらと揺れています。このわかめは家の飾りですが、パーコが料理をするときに使われたりもします。
 ある日の午後、パーコとプータがつぼの中で気持よくお昼寝をしていました。ペーターは、海の安全を守るため、朝から仕事に出かけていて家にはいませんでした。プータは、とてもいい夢を見ていました。大好物のパーコの手料理を食べている夢です。夢の中で、わかめのおみそ汁を口に入れたそのとき、現実世界では何かがつぼにぶつかりました。よそ見をしながらひれを大きくなびかせてゆうゆうと泳いでいた、巨大なエイがぶつかってきたのです。ガーンッ!という衝突音とグラグラグラという振動に、パーコとプータはびっくりして飛び起きました。そして、パーコはプータの8本ある足のうちの1つを引っぱって、外へあわてて飛び出しました。エイは、「わあ〜、こんなところにつぼが。タコさん、ごめんねごめんね。」と言って、またゆうゆうとひれをなびかせてどこかへ泳いで行ってしまいました。
プータ「あ〜、びっくりしたなあ!もう、気をつけてちゃんと前を見て泳いでよぉー!」
パーコ「本当ねぇ。…あっ、大変!家が!」
 丸いつぼはその反動で、海底の坂になったところを、砂ぼこりをあげながらころころと転がっていってしまいました。パーコはつぼを必死に追いかけましたが、ころころと速く転がっていってしまったので追いつくことができず、つぼは大きな岩にぶち当たってしまい、パカーンとまっぷたつに割れてしまいました。もう、住めそうにありません。
プータ「うわーん、わーん、僕たちの家がこわれてなくなっちゃったぁ。」
パーコ「大変ね。家がないと、危なくて安心して寝ることもできないわ。」
 そこで、2匹は新しい家を探しに行くことにしました。
プータ「いい家、見つかるかなぁ。」
パーコ「今度は、転がりにくい丈夫な家を見つけなきゃね。」
プータ「それじゃあ、四角い家だったら、転がらなくていいんじゃないかなぁ。」
そんな会話をしながら、るんるん気分で2匹は探し歩いていました。
 暗い海の底を10分ほど歩いたとき、深緑色のつぼを見つけました。とても大きくて、形は三角形です。しかし、穴が3つもあいていました。これでは安心して寝られないということで、深緑色のつぼは諦めました。
 それからまた10分ほど歩いたとき、黄色のプラスチックの箱を見つけました。四角い形をしていて、丈夫そうです。しかし、中を覗いてみると、3匹のタツノオトシゴが住んでいました。仕方なく、黄色の箱も諦めました。
 それからまた10分ほど歩いたとき、銀色のお鍋を見つけました。ぴかぴか光っていて、とても綺麗です。しかし、岩と岩の間に挟まっていて2匹の力では抜くことができず、結局銀色のお鍋も諦めました。
 それからまた10分ほど歩いたとき、2匹の目の前に巨大な黒い物体が現れました。暗くてよく見えません。プータには、細長い船のようなものに見えました。
プータ「大きいなあ!あれを、僕たちの新しい家にしたら、すごくいいんじゃないかな。とても重たそうだけど、僕たちの力で運べるかなあ〜。」
 しかし、だんだんと近づいてみると、その巨大な黒い物体の正体はなんとサメでした。サメは、こわい顔でジロッと2匹をにらみつけました。2匹はあわてて逃げようとしましたが、墨を吐き出そうとする前にサメはパーコを丸飲みし、どこかへ行ってしまいました。
プータ「大変だ!お母さんが、サメに…。」
 プータは必死にサメを追いかけましたが、サメの泳ぐスピードはとても速いので、すぐに見失ってしまいました。それでもプータは諦めずに探します。暗い、暗い、深い、深い海の中を、恐怖と闘いながらたった1匹で探し続けました。その途中、同級生である、ハリセンボンのチックに会いました。プータとチックは昔からとても仲が良い友達で、毎日一緒に学校に行き、学校のない日もよく一緒に遊ぶくらいの大親友です。
チック「やあ、プータ。そんなにこわい顔をして、どうしたの?何かあったのかい?」
 プータはさっきあった出来事を話しました。よそ見をして泳いでいたエイが家にぶつかって、家がこわれてしまったこと。新しい家を探していたら、大きなサメに出会ったこと。お母さんがサメに食べられてしまったこと。サメを見つけて、お母さんを助け出したいということ。全部、話しました。
チック「それは大変だ。僕も、協力するよ。一緒にサメを探して、お母さんを助け出そう。」
 プータとチックは、一緒にサメを探しました。20分たっても、30分たっても、諦めずに探し続けました。
 その時、1匹のサメが岩陰でぐうぐうと眠っているのを見つけました。黒くて、大きくて、鼻がとがったこわい顔をしたサメです。
プータ「お母さんを食べたのはあいつだ、間違いない。だって、目の上にばってん印の傷があったのを覚えているんだから。」
 たしかにそのサメの目の上には、ばってん印の傷跡が残っています。
 サメは気持ちよさそうに、大きな口を、さらに大きく開けて、いびきをかいて寝ています。その大きな口には、鋭いきばがぎっしりとたくさん並んでいます。プータとチックは、おそるおそる近づいていきます。サメまで、あと1メートルもないくらいに近づきました。
チック「僕が、サメの口の中を見てくるよ。プータはそこで待っていてね。君の足は長いから、サメにぶつかるかもしれない。そうなったら大変だ。サメは爆睡しているし、きっと小さい僕のほうが気付かれないよ。」
プータ「分かった。気をつけてね。」
 チックが、パーコを探すために、サメの口の中をのぞきこみました。するとそのとき、サメが大きく息を吸い込みました。その勢いで、水といっしょに口の中へ吸い込まれ入っていってしまいました。
プータ「ああ、どうしよう。友達まで、食べられてしまったよ。」
その頃、サメのお腹の中で、チックはパーコを発見しました。
チック「あ、プータのおばさん!」
パーコ「チックくんじゃないの。どうしたの!?」
チック「プータと一緒に、おばさんを助けに来たんだよ。無事で良かった。」
パーコ「チックが外にいるのね。どうしましょう。お父さんはこのことを知っているのかしら…。」
チック「それは知らないかもしれないけど…。僕が、なんとかするよ!任せて!」
 外では、プータがショックでどうすることもできずに、悲しそうな顔でただ立ちすくんでいました。今にも泣き出しそうな顔をしています。
プータ「お母さんも食べられてしまったし、友達も食べられてしまった。僕のせいなのかな。どうしよう…。」
すると、いきなりサメが目を見開いて、ガバッと起き上がりました。
プータ「ああ、僕に気づいたんだ。ついに、僕も食べられてしまうんだ。」
プータは、もうだめだと思い、目を固くつむりました。するとサメは、
サメ「いててててーっ!腹の中で、何か刺さったぞ〜!」
と、険しい表情でそう言ったあと、のたうちまわり、何かかたまりを2つ、ペッと吐き出してどこかへ行ってしまいました。
 サメが吐き出した2つのかたまりは、なんと、チックとパーコでした。3匹は輪っかになって抱き合いました。
プータ「無事でよかった。どうして、サメはお母さんとチックを吐き出したんだろう。」
チック「僕の自慢の鋭いトゲがヤツをやっつけたのさ。えっへん。」
プータ「そうなのか。それで、サメは痛がっていたのか。本当によかった。ありがとう、チック。この恩は一生忘れないよ。」
パーコ「とてもこわかったわ。プータも、チックくんもありがとう。」
 それから、パーコとプータの新しい家を3匹で探しました。そして、丈夫そうで大きな長方形の青いつぼを見つけ、幸せな気持ちでゆっくり運んで帰りました。
 もともとあった家の跡に、大きな長方形の青いつぼを置いて、お片づけです。つぼの中のこけを取ったり、天井にわかめを置いたりしました。30分ほどたって、お片づけは完了しました。
 今日一日お世話になったチックを招待して、パーコが心をこめて手料理を作りました。その間に、プータとチックは仲良くヒーローごっこをしながら遊んでいました。ちょうど料理が出来上がったころに、海のパトロールの仕事を終えたペーターが帰ってきました。
パーコ「おかえりなさい。」
ペーター「ただいま。おや、おいしそうなにおいがするなぁ、お腹がペコペコだよ。」
さあ、楽しい食事の始まりです。
 楽しい食事をしながら、プータはこの日に起こった長い長い出来事を、ペーターに詳しく話しました。
ペーター「そんなことがあったのか、大変だったね。チックくんありがとう、助かったよ。これからはもっとしっかりとパトロールしなきゃね。あと、今度からは、こんな危ないときには近くにいる大人の誰かにすぐに知らせるんだよ。お父さんにも知らせてね。」
パーコ「そうよ。子どもたちだけで、あんな危ないことはしないでね。」
プータ&チック「はぁい。」
 ペーターとパーコは、プータとチックがおいしそうにパクパクと料理を食べているのを、笑顔でながめて、やれやれとひと安心しました。
 新しい家での楽しい生活がスタートしました。
チック「おはよう、プータ。」
プータ「おはよう、チック。お母さん、行ってきまーす。」
パーコ「気をつけて、行ってらっしゃい。」
 今日も、プータは元気よく海の学校へ行きました。
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102712 おーの 不思議の国のアリス  ある村にアリスという女の子がいました。アリスは毎日朝から近所の森に行って、お気に入りの木の前で読書をします。
 ある晴れた日。アリスがいつも通り本を読んでいると、1匹のうさぎがどこからかやって来ました。うさぎの毛並みはツヤツヤで、とても森に住んでいる野生のうさぎには見えませんでした。
 「うさぎさん、どこから来たの?」
 うさぎが返事をするはずがないことはわかっていましたが、アリスは何となく声をかけてみました。
 「お嬢さん、そこを少しどいてはくれませんか?」
 と、妙にかしこまった言い方でうさぎが喋ったのです。アリスは信じられませんでした。
(きっと夢だわ。うさぎが喋るなんて!)
 アリスが驚いてしばらくぼっとしていると、
「お嬢さん、おねがいです。わたしは急いでいるんです。」
 うさぎがもう1度言いました。その勢いに驚いて、アリスが思わず立ち上がると、その瞬間にうさぎが木と地面の間にできた小さな穴に飛び込みました。アリスは驚いて穴をのぞきましたが、中は真っ暗で何も見えません。ずっと覗いていると、穴が広がりアリスは穴に落ちてしまいました。
「キャー!!!!」
 アリスは思わず目を瞑りましたが、体がプカプカと浮いている感じがして、ゆっくりと目を開けました。
 するとそこは空中でした。
「どうして木の中に空があるの。」
 と呟いて、まわりを見回すと、色んなものが浮いています。綺麗なドレス、靴、フカフカのソファー、鏡台に美味しそうなケーキ。
 「おいしそう・・・。」
 そう言って隣に浮かんでいるテーブルの上に載っていたクッキーに手を伸ばし、一口つまんだ瞬間、アリスの体はみるみる縮んでいいき、体は地面に急降下していきました。
「キャ!!!!!!」
スッポンッ
アリスが目を開けるとプカプカと海の上に浮かんでいました。でも、自分と海の中には透明の仕切りがあります。アリスがまわりをぺたぺたと触って確認すると、その形はビンでした。
「私、ビンに入れちゃうくらい小さくなっちゃったんだわ。どうしよう。」
 グスングスン
 アリスは悲しくなって涙をながしました。たくさん泣いて、涙はだんだんビンにたまっていきます。いつのまにかアリスはビンがいっぱいになるくらい泣いて、ビンは重みで引っくりかえり、アリスは海に放り出されてしまいました。
するとちょうど良いところに、筏に乗った鶏が二羽やってきました。
「鶏さん達!私を助けて!」
アリスが必死に泳いで助けを求めましたが、ニワトリは冷たい目でアリスを見ています。
「なんで、こんな所に人間がいるんだ?」
「なんでだろう?女王様は人間の女の子が大嫌いなのに。」
「でも人間の女の子はかわいいねぇ。」
「そうだねぇ。」
「助けてあげようか。」
「そうしよう。」
「女王様には秘密にしよう。」
「秘密だね。」
 のんびりと鶏達が話している間にも、アリスは流されていきます。
「なんでもいいから早く助けて、鶏さん!」
 アリスが叫ぶと、鶏たちはやっとアリスを引き上げて筏に乗せてくれました。
「ありがとう。」
 ゆっくり息をしながら言うと、鶏達が言いました。
「お嬢さん、どこから来たの?」
「どこから来たの?」
「人間はここには来たらダメなんだよ。」
「ダメなんだよ。」
「僕たちが助けたって女王様に言わないでね。」
「言わないでね。」
「言ったら僕たちフライドチキンにして食べられちゃうんだから。」
「フライドチキンにして食べられちゃうんだから。」
クスクス
アリスは鶏たちの話を聞いて思わず笑ってしまいました。
「どうして笑うの?」
「どうして笑うの?」
「だってあなたたち、同じことを言うんだもの。」
鶏たちは微笑むアリスの顔をまじまじと見つめました。
「本当に人間の女の子はかわいいね。」
「かわいいね。」
「女王様もこんなにかわいければいいのに。」
「かわいければいいのに。」
鶏達はしきりに女王様のことを話します。
「女王様はそんなに怖いの?フライドチキンにされてしまうの?」
「「本当に怖いんだから!」」
「こんなところ見つかったら、カラカラの唐揚げにされちゃうよ。」
「そうだ、カラカラの唐揚げにされちゃう。」
「早く降りて」「降りて」
鶏たちは慌てて筏を岸の方に漕いで行きました。そして岸に着いて、アリスを下ろすなり颯爽と去ってしまいました。
「待って。置いていかないで。」
「この道をまっすぐ行くと帰れるよ。さようなら。」
「帰れるよ。さようなら。」
アリスはまた一人になってしまいました。
グスングスン
また涙を流して、鶏たちに教えてもらった道を歩いて行くと、楽しげな音楽と声が聞こえてきました。
「誰かいるわ!」
アリスは声のする方に駆けていきました。
「今日のティーパーティーには誰を招待しようか?」
「誰を招待しよう?」
「女王様を呼ばないと叱られるぞ。」
「怖い怖い。女王様ったら本当に怖いんだから。」
 アリスが駆けていった先には、大きいテーブルにたくさんのティーポッドにティーカップ、ケーキにクッキー、そして小人2人でした。
 「小人さん。何しているの?」
 アリスがたずねると、小人達は驚いてテーブルの下に隠れました。
ガクガクブルブル
「何でこんなところに人間がいるんだ。」
「しらないよ。人間なんて知らない。」
「いきなりごめんなさい。小人さん。私、お家に帰りたいの。道を教えてちょうだい。」
小人の一人がちょこんとテーブルの下から顔を出しました。
「お嬢さん。人にものを聞くときは、一緒にお茶をしないと。」
 すると、もう一人の小人が出てきて
「やめとこう。女王様に怒られる。」と言って止めました。
「でも、久しぶりのお客様だよ。ティーパーティーを開こう!」
「でも・・・」
「私ティーパーティー大好きよ。ぜひ仲間に入れて欲しいわ。」
アリスが言いました。
「仕方ない。今日は特別ですよ。」
さっきまでしぶっていた小人でしたが、1番近くにあったティーカップを頭に乗せて踊りだしました。
「お嬢さん、何のお茶が好きですか?」
「うーん。アップルのお茶はあるかしら?」
「お嬢さん、馬鹿を言っちゃいけません。アップル?何ですかそれは。」
「ここにあるのは、ライオン、クジラ、ネッシー、コウモリ、猫の紅茶ですよ。」
「他にもイルカ、犬、鳥、うさぎの紅茶があります。」
「あら、変な紅茶ばかりね。じゃあ、うさぎの紅茶をいただこうかしら。」
「お嬢さん、馬鹿を言っちゃいけません。うさぎの紅茶?そんなものあるわけないでしょう。」
「ここには、アップル、ピーチ、ジャスミンの紅茶があるんです。」
「もう、私のことを馬鹿にしてるのね。もういいわ。私いそいでるの。」
 アリスが席をたとうとした瞬間、そこをあるものが急いで駆け抜けました。
「うさぎさん!!」
 アリスが穴に落ちる前に出会ったうさぎだったのです。
「待って!うさぎさん!帰り道を教えて!」
 アリスは急いでうさぎを追いかけました。ティーパーティーをしている小人はそんなことにも気づかず、ティーカップを頭にのせ、紅茶を飲み踊り狂っていました。
 「うさぎさん!」
 うさぎを追いかけて、アリスは森に入っていってしまいました。森は薄暗く、うさぎはもう見えませんでした。
 グスングスン
 泣き虫なアリスはまた泣き出しました。
「帰りたいわ。こんな変なトコロいやだわ。」
 グスングスン
「お嬢さん、なぜ泣いているのですか?」
 イヒヒヒヒヒ
 どこからか低い笑い声が聞こえてきました。でもまわりを見渡しても誰もいません。
「どこ?誰かいるの?」
 すると木の上に紫の物体がスッと現れました。
「初めまして、お嬢さん。」
 それはネコでした。紫とピンクのしましま柄の猫です。
「あなた帰り道をしってるかしら?」
「えぇ。知っていますよ。」
 猫は腕組みをして木に座っています。
「教えてちょうだい。」
猫は寝転がって、肘をついてアリスを見下ろします。
「どうしようかなぁ。女王様に怒られちゃうしなぁ。どうしようかなぁ。」
「お願い。おうちに帰りたいの。」
猫はニヤニヤしてアリスを見ています。そのうちだんだん森が暗くなって、いつの間にか真っ暗になりました。アリスにはもうへの字型に光る猫の目しか見えませんでした。
「お願い。もうこんなトコロから帰りたい。」
「帰りたいんですね。でも帰れるかな。どうだろうなぁ。」
「お願い、ねこさん。」
イヒヒヒヒヒヒ
 目の前がパッと光り周りが明るくなったかと思うと、猫はいつのまにか消えていました。アリスが足元を見下ろすと、矢印がかかれていてアリスはそれをたどって歩いていきました。
「ねこさんありがとう。」
しばらく歩くと、大きなお城が見えてきました。
「まあ、立派なお城!」
アリスがお城に見入っていると、どこからかうさぎが走ってきました。
「お嬢さん!探しましたよ!」
「あら、うさぎさん!私があなたをさがしていたのよ!」
 うさぎはアリスの手を引き、走り出しました。
「うさぎさん!待って!どこに行くの?」
うさぎは答えません。手を引かれてずっと走っていくと、大きなドアの前にたどり着きました。うさぎが重そうなドアをゆっくり開けると、そこは何と、裁判所でした。
 うさぎはどこからか黒いマントを取り出して着て、裁判官の席に座りました。法廷の真ん中には豪華なドレスを着た、太った女の人がいました。
「アリスが到着しました。」
 うさぎが甲高い声で叫ぶと、裁判所は盛大な拍手で包まれました。
「おぉ、次期女王は彼女か!」
「なんて愛らしい!」
「早く女王を変えよう!」
 さまざまな声が飛び交います。アリスは太った女性に引っ張られ、裁判所の真ん中に立ちました。
「えぇー、今から次期女王を決定します。」
 うさぎが重々しそうに言いました。
「ここにいるお嬢さんが女王になります。異議がある者!」
「はい!」
 太った女性が手をあげました。
「この子は幼すぎる!私が女王でいるべきだ!」
(まぁ、この人がフライドチキンにすると言った女王なのね。)
女王はまだ叫びます。
「私が女王だ!!!!」
 女王はアリスの方を向き、突き飛ばしました。
「キャッ。」
「前女王が次期女王に手を挙げたぞ!」
「死刑だ!」
「フライドチキンだ!」
静かだった法廷が一気にまたうるさくなりました。アリスが止めようとしても、それは止まりません。女王は怒って顔を真っ赤にして、法廷の机や椅子を壊していきます。
「やめて!私は家に帰りたいの!女王になんてなりたくない!」
 そう叫んでもだれも聞いてくれません。アリスは泣き出しました。
「お嬢さん。これをおたべ。」
 するとどこからかあのしましまの猫が現れました。そしておいしそうなチョコチップのクッキーを差し出したのです。
「今、何も食べる気にならないわ。」
「いいからお食べなさい。」
 アリスは断るのもめんどうくさくなって、一口クッキーを食べました。すると、どうでしょう。体がみるみる大きくなっていきます。
「うわぁぁぁぁ。ばけものだ!」
 誰かが叫び始めましたが、大きくなるのは止められません。机をなげたりしてきますが、痛くもなんともありません。
「私は女王にならないわ!お家に買えるんだもの!」
 アリスはそう叫び、女王を指でつまみ、目の前に持ってきて叫びました。
「もうみんなをいじめちゃだめよ!いじめたら私があなたをフライドチキンにして食べてしまうわ!」
 女王の顔は真っ青になり、ブルブルと震え頷きました。
 アリスが女王を下ろすと、みんな出口に向かって逃げていきました。法廷にはアリス一人。
グスングスン
 アリスはまた泣き出しました。
「お家に帰りたいわ。」
 法廷は涙でいっぱいになり、泣きつかれたアリスはそのまま眠ってしまいました。


「アリス・・・・アリス・・・・」
 パチっと目を開けると、そこにはお姉さんの顔が。
「私・・・・帰ってこれたんだわ!!お姉さん!!」
 アリスがお姉さんに抱きつくと、お姉さんはキョトンとして
「何言ってるの、眠ってただけでしょう。今日のお昼はフライドチキンよ。」
といって、アリスの手をひいて家に帰りました。
 アリスの家には女王さまにそっくりなお母さんがまっています。
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102713 nirvana 成道 4月8日の朝。この世に一人の聖者が生まれた。名はシッダルタ。目的を成し遂げるものという意味だ。ルンビニーという、美しい花に囲まれた苑で、母摩耶聖后の周りの花々は歓喜の歌を歌っているかのように咲き誇っていた。シッダルタは母の右脇より誕生され、右手を上に、左手を下にして「天上天下」の印を示された。父の浄飯王は釈迦族の王である。シッダルタは生まれながらにして王子となった。しかし、母摩耶聖后はシッダルタ誕生の7日後に命終わって、その妹の摩訶波闍波提が養育の母となって育てられたのであった。
シッダルタは7歳の時から、国王としてふさわしい武道の道を修められたが、その智慧と力は人並みすぐれていて、師を驚かせた。
ある年の春、父浄飯王とともに多くの群臣を従えて、農耕の祭典に臨まれた。その時、掘り起こされた土の中の小虫を、小鳥が来てついばみ、小虫の食われてゆく様をみて、慈悲深いシッダルタは心痛めて、
「哀れにも生物は互いに喰い合う」と、この事象に対応して近くの林苑に入り、深い思惟に入って四禅(一切を離れ、捨のみあるを覚る)を修められた。不思議なことに、林苑の木々は陽にしたがって影を移してゆくのが、シッダルタの座っている樹のみは影を移さず、いつまでも彼を守っていた。
その後、シッダルタは14歳で美しい妻を迎えた。名は耶輸陀羅姫。シッダルタにとっては従妹にあたる人であった。シッダルタはうつくしいやさしい妃のあいにつつまれて、何一つ不自由していなかったが、心の憂脳をほどくことはできなかった。その思いは種々に巡らされて、今や慈しみの心は一切の世間におよび、宮殿を出べき出家の時が近づいた。
「世間の五慾を離れるところに世間への救いがあり、私は世間的な最高善美の慾の中にあってそれに執着していない。この自在の目から見るとき、世間の富も幸福も、若さも健康も、永遠のものではない。人は老、病、死の苦しみから逃げられないことを知りながら、なお、これに執着しているのは間違っている。この誤りを悟り、富という物、幸福という形、老、病、死を超えた世界に、苦悩から解放された住居があり、その境地に安穏の涅槃がある。この境地を求めていくのが正しいものに違いない。今、私が自ら留っているのことはそれを知りながら欲望に執れているのではないだろうか。これを超越すべき時期はきたのだ・・・。」とシッダルタは悟った。
ある日、シッダルタは散歩をするために東門をでた。そこに老苦に喘ぎながら歩いてゆく老人のすがたをみて老苦は貧富の差なく免れないものと悟り城に戻った。次の日、南門を出たシッダルタは、そこで病者を見、病の苦しみを知った。次の日、西門を出た時、屍を輿に乗せた葬列に出会い、ここに老病死の苦悩を切実に味わわれた。
ある日、北門から出られたシッダルタは、そこに威儀厳かに歩を運ぶ出家に出会い、その気高さに心打たれた。
シッダルタは出家に向かって、その利益を問うと、
「私は、世の老、病、しの無常をみて解脱を志し、家を出て官能を整え、世の人々の救いに立つのが出家の正法を貫くことであると悟った。」と語った。シッダルタは心に
「身はたとえ天上の位にあっても、こうした出家の行いにまさるものはない。」と、自らの心を決し、その道を修めようと心に誓い、出家を礼拝して林苑に入って静かに迷走の思惟に入られた。
シッダルタが城に戻ろうとしたとき、父王の使者は王子(シッダルタの息子)の誕生を告げに来た。
「なんということだ。私が破らなければならないラゴーラ(障壁)がうまれた。」と洩らしたので王子の名はそのままラゴーラと名付けられた。
父王は、シッダルタの出家に憂脳を抱いて重臣ウダイとともに心を砕き、シッダルタの志を思い留まらせようと工夫した。
シッダルタはその日の行楽に、疲れを癒すために王宮に帰れば、多くの美女たちは重臣ウダイの言葉を守り、シッダルタを慰めるために楽器で奏で歌いに歌った。あでやかな姿で天女の如く舞い、シッダルタの心を和らげようと努力したが、その志を動かすすべはなかった。
すでに決心していたシッダルタは、数日の行楽に疲れ、うとうとと寝てしまわれた。
多くの美女はシッダルタの疲れを見て、もはや、舞う力も抜け、楽器をやめその場で眠りにおちた。寝殿は静まり返り、燈明だけがかすかにゆれていた。
突然、シッダルタは目を覚まされた。目覚めとともに、燈明の光はまして、その場の光景をはっきりとうつした。
みれば舞姫たちは、諸々の楽器を投げ出し、衣装を乱し、体をくずし、歯をかみ、寝言を言い、口からよだれをながしているものさえいた。豪華な宮殿はあたかも居間に屍をさらした如く、シッダルタは思わずこれに対応して思惟に入りなさった。
「外にいくら化粧をしてもそれは仮の荘厳。みだりに貪心を生じても、それは愚かなことだ。真の眼でそれらを見れば、ただ仮の姿だけである。邪念を思う故に無明に縛られる。慾楽の貪りに大けがをする。恐るべしことだ。」と心に叫び、宮殿を逃げるために覚悟しさらに思惟する。
「私は今、このような状況に出会い、このように思惟できることは幸いである。勇猛心をもって今こそ出家する時だ。そして、家のない衆生、寄るべきところのない衆生、救いなき衆生のために家となろう。」
シッダルタはそっと寝殿をはなれ、馬の飼をしているチャンナを呼んだ。シッダルタはチャンナに馬を一匹借りたいと頼まれた。チャンナは白馬カンタカを連れてきた。シッダルタはカンタカにまたがって夜半の城の正門に向った。門のすべては父王がシッダルタの出家を阻止すべく多くの衛兵を持って守られており、容易に開くものではなかった。ましてや、正門の扉は千の衛兵を持って堅く守られていた。しかし、シッダルタの出家を守り給う護法の神々は、衛兵たちを深い眠りに落とした。そして、神力の力が働いているので、大門は音もなく軽く開いた。
シッダルタは白馬カンタカにまたがって、疾風の如くに城を後にした。そして
「私は、生死の悟りを得ることができなければ、再び城には戻らない。」と叫んだ。シッダルタを守る天地の語法の善神は大地をふるわして歓喜した。
その時、魔王は、たちまち黒雲を巻き起こし、
「シッダルタよ。愚かな出家はやめて、城に帰れ。7日のうちに世界を治める王となるだろう。」とシッダルタを誘惑した。
「悪魔よ去れ。地上の権力など興味はない。私の願いは、この身がどうなろうとも、衆生を地獄から救いだすことだ。さもなければ城には帰らない。」
魔王は姿を消したが
「いずれ、シッダルタの心にも退転の時があるだろう。そのときこそ・・・。」とシッダルタの成道を妨げようとたくらんだ。
シッダルタは城を後に、隣の国であるミニ国に到着し、朝の光は、川の流れに映えていた。朝日に輝く砂の上に立ったシッダルタは、
「チャンナよ。よくここまでついてきてくれた。私は諸々の慾を捨て、ここに来た。お前はよく一人で私に従ってくれた。」
シッダルタは懐より魔尼宝珠を取り出し、
「お前は今から城に帰って、王にこれを渡して、シッダルタは世間における名誉、地位財産、物や形に依る心はなく、世の人々はこの執着を断つことができないでいる。病労使を免れることもできない。こうしためいろを開くために出家したと伝えてくれ。」と、上着を脱いで、
「これを摩訶波闍波提に渡して・・・シッダルタは苦の因を見つけるために出家するのであるから、決して悲しんではいけません。」と、さらに首飾りを外して、
「これを、耶輸陀羅にわたし、人の世には別れの悲しみがある。決して恋に執着して悲しんではならない。」
また、一族の者には、
「必ず悟りを開いて、無明の網を断ちきる智慧の光を得てまた会おう。」と、言いつけた。
その時、チャンナは大声をあげて泣き、ともに出家すると言い出した。
「どうして、私一人帰れましょう。」と懇願したが許されなかった。シッダルタは、
「お前はこの真実を曲げずに語ってこそ、まことは父王に通じるのだ。」といえば、カンタカも前足を曲げてシッダルタの足に触れて悲しく嘆いた。シッダルタは頭をなでて、
「カンタカよ。お前のなすべきことは終わったのだから、決してかなしんではならない。」と、なぐさめた。
シッダルタは思惟に入り、右手に剣を持ち左手に髪の毛を持った。そして、プスリと断ち、
「髪を断たなければ出家の道ではない。」とその髪を空中に投げた。帝釈天は、その髪をうけとめて、三十三天に供養された。
 その時、一人の猟師が袈裟をつけて、シッダルタのもとへきた。シッダルタは、
「どうして、袈裟をつけて猟をるるのですか。」と、問えば、
「シカや獲物を誘うためである。」という。シッダルタは、
「あなたは袈裟を着けて殺生をするが、私が着ける時は道を修める法服としよう。もしよければ、この服(玉虫絹の高価なもの)と交換しませんか。」とうえば、猟師は喜んで交換した。シッダルタがこの袈裟を着け終わると、猟師の姿は帝釈天の姿と化してその身を消した。
身の荘厳の一切を離れ、出家としての王子を見たチャンナは涙とともにお別れをして、カンタカを連れて城に戻り、浄飯王や耶輸陀羅姫に恨まれながらも、シッダルタの仰せのままにお伝えした。
シッダルタは歩いて自分の成すべき道を模索した。地上における最高の位も、その他の宝も捨てきったシッダルタは、その心もさわやかに一人の沙門として鉢を手に、付近の家々に食べ物を乞いながら歩を進めた。
シッダルタは旅の途中の国々で、その国の仙人と呼ばれる人に弟子入りしたが、どれも納得できる教えではなかった。しかも、その師たちから、
「死を克服できるような教えなどどこにもないし、ありえない。」とまで言われた。
シッダルタはマダガ国に入った。当時の国の中では最も栄えていた国のひとつである。マダガ国のビンバシャラ王は城よりシッダルタの姿を見て、その威に打たれたれ、馬車を出しシッダルタの後を追った。
「あなたは若いとはいえ尊い王子のように見えます。もしよければ、あなたのために国を半分を任せたいのだが・・・。」
「王よ、私は釈迦族の王子であるが、慾は苦しみの因と知り、今は欲を捨てた涅槃だけを求めています。」
王は
「もし涅槃を得られたら、第一に私を済度していただきたい。」といった。
シッダルタは黙りながらもこの請いを受け入れた。そして、ウルビラの林の中に入られた。
父、浄飯王は、シッダルタが出家されてからすぐに5人の行者をシッダルタに従わせ、その身を護持させた。
それから六年、シッダルタはウルビラの森に入って激しい修行を続けた。
足の裏を組み合わせて座り、姿勢を正して、臍下丹田に心を置いて、雨や風にも心動かされず、一歳の事象に対応して涅槃を目指し、真剣に修行に取り組んだ。
シッダルタは、あらゆる苦難にもたじろがず、呼吸を整え、接心をし、息を止める修行を行い、呼吸を止めれば骨が砕けるほどの激痛が走り、胸が爆破するようであった。
 それでも死っ出すたは、勇猛心を持って、その苦しみに打ち勝とうと、
「世の沙門は断食の法をもって、苦行となす。私も魔を克服するために、苦に赴こう。」と精進を続け、一日に麦一粒をもっていどんで、体は痩せ、手足は枯れ草のようになり、目は落ちくぼみ、胸骨は編んだ網のように現れ、頭は体を動かせば、根のくさった髪は、ハラハラと抜け落ちた。腹の皮を掴もうとすると、背中の皮も掴めるほどに痩せていた。
 村人は来て、
「シッダルタの心はどこにあるのだ。世の修行者たちもこれ以上の苦を受けたものはいないであろう。」とささやいた。
 このように世間法を離れ、冬には暖をとらず、夏には涼をを求めず、ひげや髪を抜いて茨の床に横たわって、体に油を塗って身をあぶり、肌の色は無くなり、もはや木の幹のようであった。
 羊飼いの子どもたちはシッダルタを見つけ、石を投げ、草や木の枝を持って耳や鼻に差し込む。けれどもシッダルタは彼らに対して少しも怒りを持たれなかった。
 このような修行を修められたが、聖道を得ることはできないと覚ったシッダルタは、新たな道を求めることを決意した。
 六年の苦行はすべて無駄であった・・・と、覚ったシッダルタは、森を出て近くの川で水浴し、積もった垢を流し清めた。
 その時、ウルビラの地主の娘、スジャータが乳粥をもって木の神にささげようと林に入ったが、衰えながらも気高い修行者の姿を見て、
「修行者さん。私の貧しい供養をお受け下さい。」と乳粥をささげた。シッダルタは喜んで供養を受け、心身共に回復した。
 シッダルタについていた五人の行者は、
 「シッダルタは苦行に耐えず、修行をやめた。」と、シッダルタを捨てて、ベナレスの鹿野苑に行ってしまった。
 シッダルタは、元気な足取りを戻して林に入り、地が平らで、四方の眺めがいい、柔らかい緑の草が生えているところ、ピッパラの樹の下に赴いた。
「私は、さとりを全うすることができなかったならば、この場から立たない。」と、決意を固めて座られた。
 魔王は、シッダルタの一大決心を知るや怖れを抱き、三人の魔女をシッダルタのもとにつかわして、その心を乱そうとした。魔女は艶やかな嬌態をもって、シッダルタに近づき、媚態の限りを尽くして、舞い歌った。
 「青春の歓びを捨ててどうして永遠の道を求めるのでしょう。あなたは、私たちをひとたび見れば、浮世を捨てた仙人でさえも、愛の情を起こすことでしょう。」
 シッダルタはこれに答えた。
 「お前たちは果報によって天女の姿をえ、とてもあでやかだが、やがては無常の老死に襲われる。形は美しくてもその心は清くない。まるで、美しい器に盛られている毒のようだ。欲楽身を滅ぼす因であれば、やがては苦しみの泥沼に落ちるであろう。」
 この言葉に三人の美しさは失われ、たちまち老婆の姿になった。
 魔王波旬は、これをみて大いに怒り、百万の鬼神をあつめて、弓矢を放ち、剣を持って、四方からピッパラの樹の下に押し寄せた。黒雲渦巻き、津波が起き、河は逆流し、太陽は光を失い、大地は震え、生き物たちは山にひそみ、すさまじい戦場と化した。今までシッダルタを守護していた天軍も怖れて逃げ去れば、いまはただシッダルタを助けるものは、シッダルタ自身だけであった。シッダルタは、
 「かつて長い間、聖行という苦行を続けてきた。これこそが私の軍勢であり、この波羅密の善業をもって悪魔を粉砕しよう。」と、少しも動ずることはなかった。しかも、悪魔の狂風も、豪雨をふらして攻めても、露のしずくほどもシッダルタをぬらすことはできなかった。魔王の投げた石つぶても、火の雨も、華となってシッダルタの身を荘厳し、放つ暗黒も、シッダルタに近づけば陽の輝きとなって、まったく歯が立たなかった。
 業を煮やした魔王は、
 「お前は樹の下に座って何を求めている。速やかに立ち去れ。お前はその座に値しない。」とさけんだ。シッダルタは、
 「天地の間において、この座に値するのは私より他に誰がいるだろうか。前世より善根功徳をもつ者でなければ、この座に来てはならない。」といい、さらに、
 「この座に値するのであれば、大地の護法善神よあらわれたまえ。」と、降魔触地の密印を結び、地を指させば、大地はたちまち開いて地の神があらわれた。魔王は怖れおののいて逃げ去れば、それに従う魔軍も四散した。
 魔王は再びシッダルタのもとに現れて、
 「人はみな命を尊ぶ。生きることこそいいことだ。どうしてそこまでして道を求めるのだ。道は行きがたく、また成し遂げにくい。」と修行を止めようと誘いかけたが、シッダルタは微動だもせず、
 「悪魔よ、貪りの奴隷よ。私はもはや、世間の果報に用はない。正しい道に、智慧と精進をもって励む私に、生きろと進めても意味はない。私は、道を求め死んでいったとしても、執れの世には生きるわけがない。貪り、憂い、飢え、愛着、なまけ、おそれ、疑い、剛情、名利。悪魔よ、これはお前の武器だ。今こそ水が盃を充たすごとくに、私は智慧をもって、常に盃を充たそう。」と、悪魔を調伏した。
 こうして、シッダルタは心の平和を得て、深い思惟に入りなさった。悪を離れて、まず楽しみを味わい、次に、思わざる念いがわくのをしずめ、定の楽しみに浸り、次に、喜怒哀楽を滅ぼして、最後に、執着しない境地に入り、遠き世のことを思い、第一の智慧をえて、天眼通を得られた。
 通力をもって、一切を観察し、世間法によって悪にめぐる人々と、善処に赴く人々を見分ける智慧をその夜半に感得した。また、煩悩を亡ぼす智慧をえ、これは苦の因、これは苦の滅、これは苦の滅に至るまでの道、とこの智慧をもって心は愛欲を離れ、解脱の智慧が生じた。
 このとき、修行は成り、これが最後の生で、再び迷いの生を受けることはないという智慧を体得、ついに無明は破られた。このとき、大地は喜びにふるえ、世界は明るく諸天は雲のように集まり天華の雨を降らせた。
 「この迷いを作るものをようやく見つけられた。苦しい生を重ねてきたが、迷いよ、お前はいま破られた。心は涅槃に入り、迷いが転じて涅槃の土台となった。」
 かくしてシッダルタは、正しき悟りの人、仏陀となられた。時に、12月8日、仏陀35歳の未明、暁の明星が美しくきらめく頃であった。
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102714 tanaka 雑巾から学ぶ  キーンコーンカーンコーン。
 給食のチャイムがなった。ついに待ちに待った給食の時間だ。我先にと給食袋に飛びつき、エプロンに着替える子。4時間目の授業での制作が終わらずに、まだ作業をしている子。エプロンを着る前にちゃんと手を洗いなさいと叱咤する子。さまざまな、ありとあらゆる子供たちがここにはいる。
 もう5年目となるとみな慣れているのか、てきぱきと給食の準備が進んでいく。その中である子供が不満を訴えた。
 「せんせー、このぞうきんもうあかんで。ぼろぼろやわー。」
 「ほんまやなぁ…みんなが作ってきてくれたやつまだあるしもう捨ててまおかー。」
 ひどいものである。半年間使い続けてくたびれた雑巾に愛着もなく、捨ててしまおうというのだから。
 そうこうしている間に給食の準備が整ったようだ。みな一斉に給食係に飛びつく。
 「うずらきらいやからいれんとってってゆーたやんかー。」
 「そんなんしらんしー。はいってもーたんやからしゃーないやん。」
 今日もいい天気だ。いつもと変わらない、どこの学校にでもある、ありふれた給食の時間だ。
 ただひとつ、使い古された雑巾が捨てられていることを除いて―――。それもありふれた光景なのだが。

 「汚い布のことを雑巾っていうんやろ?」
 とはよく言ったものである。雑巾で机をふかれるのを嫌がる子供までいるのだから。
 私に待ち受けている運命はもう決まっている。ゴミ捨て場に放置され、忘れたころにゴミ処理場に連れて行かれ、数百度の熱にさらされ、どこかの海に埋め立てられる。雑巾として生まれた時からこの末路は変わらないと思っていた。そしてそれをしょうがないと諦めて、受け入れてもいた。
 私がゴミ捨て場に捨てられ、数日たったある日、ゴミ捨て場に若い女性が訪れた。
 収集車の人といえば男性だと思っていたが、男女の雇用形態の変化はついにこんなところまで現れたのかと思ったのもつかの間、その女性が話しかけてきた。
 「ねえ、あなたたちも同じね。私と、同じ。」
 一体何を言い出すのか。雑巾と人間が同じだと? 怪訝な顔をしていると女性は続けて唱えた。
 「ねえ、あなたたちも私も同じなんだから、同じ生活もしましょうよ。そうしましょ。」
 女性はそういうとここら一帯のゴミを車に乗せ、どこかへ行ってしまった。当然私も同じだった。
 その後、女性は数か所のゴミ捨て場を周り、同じ呪文を唱え、数多のゴミを大きな屋敷へと連れ帰った。
 女性の言っていたことはよくわからなかったが、新手のゴミ収集法なのだろう。私たちのようなものに話しかけるなど周囲の目線も気になるが、それでも仕事と割り切って行動しているこの女性には感服せざるをえない。
 それにしても、最近のゴミ処理場というのもなかなかおしゃれなものだ。外装まで凝っている。周辺住民からの苦情でもあったのだろう。これがまさしく税金の無駄遣いだ。
 車の中でいろいろ考えていると、女性が私たちを屋敷の中に連れ込んでいった。女性は数多のゴミ袋をあけ、1つ1つ丁寧に中身を取り出し、話しかけ、そして区分している。
 私とてだてに雑巾生活をしていない。この女性がゴミ処理員でないことはすでに分かっていた。ただ女性が何をしたいのかがまったくつかめなかっただけだ。
 しばらくすると私の番がきた。
 「こんにちわ、雑巾さん。いえ、あなたは……トオルね。私はマキ。よろしくね。」
 どうやら私の名前はトオルのようだ。
 「あなた、ずいぶん長い間使われていたようね。ほら、みてごらん。このケンジが一般的な使い古された雑巾よ。ケンジに比べてあなたはとても大切にされていたようね。」
 どうやらこの女性は何も分かっていないようだ。思い込みで話すのもいい加減にしろ。
 「あら、わかっていないとは失礼ね。あなたよりも20年は長生きしてるのよ?」
 人と雑巾では成長速度が違うんだよ。私はもう雑巾年齢では……。
 「なによ雑巾年齢って。」
 おかしい。
 「なにが?」
 明らかにおかしい。
 「私があなたより20年も長く生きてるようには見えないって?雑巾にしてはなかなかいいことを言うじゃない」
 こいつ、雑巾と話せるのか―――。私は目の前で笑う女性を見上げ、軽く混乱する頭をどうにか冷やす。どうやらこいつは本当に雑巾と話せるらしい。試しに話しかけてみる。
 なぜ、ごみを集めるのだ?
「なぜ、ですって? そうね、私も、あなたたちと同じ。みんなから邪険にされて、いらなくなったらすぐ捨てられる。酷いわよね。でもあなたたちなら、私の気持ちをわかってくれる。慰めてくれる。だから、あななたちと一緒に暮らしたいの」
ごみと一緒に暮らすだと? 周りを見ると、確かに屋敷の中には所狭しとゴミが並べられている。みんな悲しみに暮れ、お互いを慰めあっている。私はその光景を見て、思わず嘲笑を漏らした。
「なに笑ってるの?」
いや、お前たちがあんまり惨めで可笑しくなったのさ。そういうと、女性――マキは、少し眉を寄せた。私は言葉を続ける。
自分たちの運命を受け入れられず、お互いを慰めあうなんて惨めなだけじゃないか。私たちゴミは最初から捨てられる運命なのさ。だれもそれを変えることはできないし、言うまでもなく、自分の力ではどうすることもできないのさ。
私がそう締めくくると、非難の視線が四方八方から突き刺さる。マキは悲しそうに言った。
「それでも……一人は寂しいじゃない」
私はマキがあまりに悲しそうな顔をするので、言ったことを少し後悔した。しかし、私も雑巾としてのポリシーがある。簡単にそれを覆すようなことはできない。私が何も言わないのを見て、マキは急いで残りのゴミたちを仕分けると、駆け上がるように二階へと上がって行った。
 私がマキの屋敷に来て一週間が立った。マキは2、3日に一度のペースでゴミを集めに行っているらしい。集められたゴミは、棚に置かれたり竿につられたりして綺麗に整理整頓されている。はたから見たらまったく趣味を疑う光景だが、本人的には満ち足りた生活らしい。今日も集めてきたゴミと、楽しそうに会話している。
「今日もいい天気ね」
私はちょうど窓の近くにつられていたので、マキの言葉につられて外を見ると確かに空は雲一つない青空だった。
「晴れた日って、なんだか心が軽くなるわよね」
そういえば。私は疑問に思っていたことがあった。マキは一週間のうちで、ゴミを拾いに行く日以外は家にいる。こいつは仕事をしていないのだろうか。
「ちゃんとしてるわよ、失礼ね」
おっと、きこえていたか。
「聞こえてるわよ。あなたって、本当に口の悪い雑巾ね」
ふん、生まれつきなのだからしょうがないだろう。
「今はおやすみなの。お暇を出されたから仕事はしなくていいの」
それはつまり――。しかし私は最後までは言わなかった。いくら雑巾とはいえ、それくらいの分別は持ち合わせているつもりだ。私はそうかとだけ言って、部屋の中に視線を戻した。部屋の中では、ゴミたちがいろいろなところで話に花を咲かせている。ここではいつ捨てられるかなど心配せずともよいのだ。ここはまさに、ゴミたちにとっての天国のような場所だ。さしずめ、マキは神様と言ったところか。
 ゴミたちはとても幸せそうだ。それなのに、ただ一人、マキだけが悲しそうだ。いつも悲しそうに、ゴミたちを見ている。私はそれを見ていると、なんだか不思議な気持ちになった。私の長い雑巾生活の中で、感じたことのない感覚だった。
 それから数日経って、私はあるゴミからこんな話を聞いた。それは注ぎ口の欠けたティーポットで、ここがゴミ屋敷になる前からこの屋敷にいる古参だ。
 話は、マキがどうしてゴミを集め始めたかというものだった。マキはもともと人気小説家で、ゴミを集め始める前はこの屋敷で明けても暮れても小説を書いていたらしい。しかしある日、創作の泉がすっかり枯れてしまったのか、マキはまったく小説が書けなくなってしまった。小説が書けなくなったとたん、いままでマキにゴマを擦っていた出版社たちは手のひらを返したようにマキに冷たくなり、仕事もまったく来なくなってしまったのだという。
 捨てられたと言っていたのはこのことか。私はようやく納得した。そして、なんだか無性に腹が立ってきた。私は大声でマキを呼んだ。
「なに? トオル。私になにか用?」
私に呼ばれてやってきたマキに、私は目の前に正座するように言う。マキは私の不穏な空気を感じ取ったのか、大人しく正座で床に座る。まるで説教前の教師と生徒。学校の雑巾時代によく目にした光景だ。
マキ、おまえに言いたいことがある。
「なに?」
 おまえ、もうゴミを集めるのはやめろ。
「どうして?」
 おまえは、自分がこうなったのを人のせいにして、逃げてるだけだ。卑怯者だ。そんな奴と、私たちを一緒にするのはやめてもらいたい。
「そんな……どうしてそんなこというの? みんな、わたしと一緒でしょ? 捨てられた者同士、ここにいればいつ捨てられるとかびくびくしなくて、みんな幸せに暮らせるのに!」
 マキは途中ヒステリックに叫び、私を見て、しゅんとなって小さな声で「ごめんなさい」と言った。
 なあ、マキ。私は静かに語りかける。
 お前は私たちとは違うんだ。おまえはゴミなんかじゃない。おまえを必要としている人は、世の中にたくさんいるはずだ。おまえが作る話を楽しみにしている人が。出版社がなんだ。おまえはそいつらのために仕事してたのか? ちがうだろ。私たちは、私たちを必要としてくれた人たちのために仕事をして、その人たちがもう私たちを必要としなくなったから、ゴミになった。けどおまえはちがう。おまえが仕事をしている相手は、おまえをまだ必要としているはずだ。だから、おまえはゴミなんかじゃない。この私が保証するんだ。間違いない。
 マキは、黙って私が話すのを聞いていた。雑巾として生まれて、人相手に話したのはマキが初めてなもので、途中でのどはガラガラになり、舌が回らなくなるなど、なんともみっともない私の語りを、マキは何も言わず聞いてくれた。そして私が語り終えると、マキの目から、なにか水滴のようなものが落ちてきた。
「そっか……そうよね。わたしにはまだ、私を必要としてくれる人がいるのよね」
 ああ、そうさ。
「でもね、トオルは一つ間違ってるわ」
 なんだと?
「私は、トオルたちを必要としていたよ。トオルたちがいてくれて、私はとっても幸せだった」
 そう言って笑うマキは、いつもの悲しそうなマキではなかった。私はまたあの不思議な気持ちに包まれた。しかし、それは決して不快なものではなかった。
 ありがとう。私は、この家にいるすべてのゴミを代表して、そういった。
 
 それから、マキは一冊の本をだした。ゴミと話せる少女が主人公の物語だ。マキは、インタビューのなかでこう語っている。
「私はこの本をある人たちのために書きました。誰にでも、自分を必要としてくれている人がいるんだということを教えてくれた、大切な、私の友人たちのために」
 やればできるじゃないか。
どこからか、あの皮肉交じりの声が、聞こえた気がした。
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102716 ふじい 野球部物語  僕はヒロシ。高校三年生の野球部だ。
五月の中旬。もうすぐ高校三年間の集大成となる夏の大会が始まるというのに、制服の第一ボタンがはずれていたという理由で練習に参加できなくなってしまった。参加できるようにするためには監督に誠意を見せなければならないのだが、その代表的なものが草むしりだったので、僕はグランドの草むしりを必死でしていた。
「ヒロシ、ドンマイ...」
「ヒロシ、ドンマイ(笑)」
チームメイトがメンタル崩壊寸前な僕にねぎらいの言葉をかけてくれる。その言葉が大きな励ましとなった。でもそれと同時に、「早く練習に参加したい」という気持ちと、第一ボタンがはずれていることを監督にチクッた副顧問の大西先生への怒りの気持ちが徐々にこみあげてくる。その気持ちとは逆に、草むしりをひたすらやらなければならないから地獄だ。
 草むしり初日の一時間が経過したとき、大西先生が笑いながらこっちへ歩いてきた。無性に腹が立った。殴ってやろうかと思った。そんな僕の気持ちなど知る余地もなく大西先生が話しかけてきた。
「おまえは草むしりやったらエースなれるなあ。がんばれよ。」
「がんばれよってなんやねん。」
大西先生の少し引きつった笑顔は、僕の心を真っ赤に染めた。と同時に精神をどん底に突き落とされる思いだ。一生懸命に声を出して練習をしている仲間まで仲間じゃないように見えてくる。悔しい気持ちを草にぶつけて全力で草むしりをしていた。
 そろそろ日が暮れて、練習も終わりに近づいてきた。気がつけば大きなゴミ袋を三袋も草を抜いていた。「三袋も持っていけば練習に参加させてもらえるだろう。」一年生のころから頻繁に草むしりをしていた僕は、監督にたくさん草を持っていけば、練習をやらせてもらえることを知っていた。草の量が誠意だと過去に言われたことがあるのだ。大きなゴミ袋三つを抱えて、腕組みをしながら練習を見ている監督のところへ行った。
「第一ボタン開けていてすいませんでした!二度とやらないので練習に参加させてください!」
「じゃまじゃボケー!」
「はい!」
どおやら練習中に練習に関係のないことを話しかけたのがまずかったらしい。当時その理由を知らなかった僕は、練習したい一心で何度も会話することを試みていた。とうとうキレた監督は、
「おおおぉぉぉぉぉぉぉい!!!」
と、僕が一生出すことはないであろう、ものすごく大きな声を怒鳴り散らかし、僕の首根っこをつかんで体育教官室のほうへ歩き出した。このようなことが日常茶飯事だった僕は、いたって冷静で、当時好きな人がいた陸上部の前を、いかにカッコ悪く見えないように連れていかれるかを考えていた。そのぐらい、まだ心に余裕があったのだと思う。そんなことを考えているうちに教官室についた。ここまで来る途中に、監督がしゃべっていたことは、もちろんほとんど覚えていない。それゆえ、監督の怒りは全くおさまっていないどころか、余計にヒートアップしている。まずいと思った。
「おまえ、どんなタイミングでオレにしゃべりかけとんじゃい!練習の邪魔しに来たんかい!」
「いいえ!」
「そおやないかい!おまえなんかこのチームにいらんのじゃ!」
「はい、」
「もおええわ。明日から来るな。」
「いいえ!」
「来るな!」
「・・・」
僕はそのあと何も言えなかった。第一ボタンをはずしていたこと以上に監督を怒らせることをしてしまったことに、後悔の気持ちでいっぱいだった。
「失礼しました・・・」
体育教官室を出たときの孤独感は今までのとは群を抜いて強烈だった。まえまでは、これをネタにできたけど、今回ばかりは絶望であふれかえった。夏の大会にでられないかもしれないと、本気で思った。
 とぼとぼとグランドに帰って行った僕にチームメイトが声をかけてくれる。
「大丈夫やったか?」
「なんて言われた?」
いつもなら「おまえ、散歩嫌いな犬みたいやったぞ(笑)」とか言うこいつらが、本当に心配してくれていた。溢れ出てしまいそうな涙を必死でこらえながら、みんなに言葉を返す。
「大丈夫、大丈夫」
涙を出さないようにするには、この言葉が精一杯だった。
 練習が終わり、明日からどうするか途方に暮れていた僕に、大西先生が話しかけてきた。
「つらいと思うけど、これも試練だと思ってがんばれ。目の前には乗り越えられる壁しかないんだから。負けるなよ。」
むろん、この人の言葉は僕には何も届かない。普段なら腹が立つと思うけど、今回は何も考えることができなかった。
そして、友達のリュウヘイとヤスキと共にいつものように一緒に帰る。元気のない僕に、何もなかったかのように明るくふるまってくれる。そしていつものようにコンビニに立ち寄った。なにも変わっていない現実に少しばかりほっとする自分がいる。ふと前を見ると、肉まんを両手に持ったリュウヘイが目の前に立っていた。
「元気出せよ。おれら誰もおまえを責めとらんぞ。なあヤスキ。」
「おう。はやく練習戻ってこいよ。何おまえ大西に見つかっとんねん。ついてないなあ。おまえ草むしってんのに、おれら野球していいかわからねえわ。とりあえず肉まん食ってくれ。今日だけしゃあなしおごったるわ。」
そう言うと、僕に肉まんを差し出した。
「ありがとう。」
僕は無言で肉まんをほうばった。今までで一番おいしいと感じた。心の中で、もう一度頑張ろうと思えた。夏の大会にみんなと一緒に出るんだという強い思いが込み上げてきた。「こいつらといたら元気がでる。こんなところでくよくよしてる場合じゃない。」正気に戻してくれた友達にただただ感謝していた。
 次の日から、僕はみんなより一時間も早く学校に行き、学校周りのゴミ拾いとグランド整備を始めた。今度は、早く練習したいという気持ちの裏側に誰かの役に立ちたい、もっと言うと、チームメイトの役に立ちたいと思えるようになりました。一番は野球のプレーで役に立ちたいけど、ほかの役に立つ方法を考えるようになりました。チームメイトには「ありがとう」とか「なにしてるん?」とかたくさんのことを言われました。僕は笑顔でいつも通り会話をしました。今はチームメイトと同じことはできないけど、やっとみんなと何かみんなで目指すもののベクトルが一致した気がした。放課後には声出しや整備も始めた。夜には素振りもするようになった。みんなの役に立ちたい。その想いが僕の身体を駆け回る。
「今までの僕は、自分のために、全部自分のために生きてきた。夏の大会に出ることだって、自分が出たいだけで、チームのためを全然考えてなかった。草むしりもそうだ。量を抜くだけで全然役に立っていない。挙句の果てに、練習の邪魔をしてまで練習に加わろうとしていた。自己中だ。情けない。でも、僕は何かが変われた。人のために、チームメイトのために何かしなければ。今まで僕のために励ましてきてくれた仲間とともに最高の夏にしたい。」
そのとき自分の殻をひとつ破れた気がした。
 草むしりのあの日から四日が経とうとしていた。日が暮れ、練習が終わったとき、リュウヘイがみんなの前で口を開いた。
「ヒロシが練習参加できるように監督に言いに行きたいんやけど。」
「ヒロシだけ練習できないのもオレたちがやりたいことじゃないし。ヒロシおってのオレらだし。」
ヤスキも口を開く。
「よし、みんなで監督に言いに行こう!」
みんながそう言ってくれた。僕は溢れ出てきそうな涙をぐっと堪えた。
 着替えて、みんなで教官室の前に行った。そして、キャプテンが監督をこの場へ呼びに行ってくれた。緊張の空気が流れる。キャプテンが戻って来た。それに続いて監督が姿を現す。そして監督が口を開いた。
「なんでお前が呼びに来んねん。」
「すいませんでした!今まで僕は自分のために草を抜いたり、全部自分のことばかり考えてやっていました。でも、今回練習を抜けて、周りに目を配ることの大事さや、誰かの役に立つことの重要さを実感することができました。本当にすいませんでした!」
「ヒロシあっての僕らチームなんで、ヒロシを練習に参加させてください。お願いします。」
キャプテンも僕のフォローをしてくれる。
「お前がこの一週間で培って来たものは、必ずチームのためになって返ってくる。明日から練習に参加しろ。」
なにを言っているのかあまりわからなかったけど、とにかくみんなには感謝の気持ちでいっぱいになった。チームメイトがこんなに僕のことを大事に思っていてくれるということが本当に嬉しかった。最初は第一ボタンをはずしていたという小さいことからの出来事だったけど、最後は何か大きなものを手に入れたような気がした。
 帰り道、いつものようにリュウヘイとヤスキと帰る。そしていつものようにコンビニへ行く。
「今日はオレが肉まんおごったるわ。」
「当然や。」
ヤスキとリュウヘイは大きな声て笑った。
「でも、アイスのほうがよかったな。」
「そうやな。」
「うるさい。さっさと食べろ。」
僕も大きな声で笑った。明日からみんなと練習ができると思うと、にやけ顔が止まらなくなった。
「こいつらと、あと少ししか野球できないんだよな。みんなとの時間を無駄にしたくない。」
今までは当たり前に思っていたことが、今ではとても幸せに感じる。みんなと過ごす日々を、みんなのことを、もっと大事にして頑張っていこうと思った。
 次の日もまた、みんなよりも一時間早い時間に学校へ行き、ゴミ拾いと整備を行った。近所のおじさんからは
「今日もえらいねえ。頑張ってね。」
と声をかけられるようにもなった。自ら進んで雑務をするのも気持ち良いものだと初めて感じた。
「おはよう。」
「ヒロシなんでおるねん。」
みんなとまた野球ができる喜びに浸っていた。
 これから新しい気持ちでみんなと過ごしていく。いつも以上に嬉しそうな顔をするヒロシがそこにはいた。
「まだ監督と仲良くなってない。」
早く監督とも気持ちを通じ合わせたいと思うヒロシがそこにはいた。
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102717 ぐっち 名前 「今日はお疲れー。無事に生き残れたことを祝し、かんぱーい!」
 今日は普段から仲の良い3人で、他に客が1人もいないうす汚いいつもの居酒屋に打ち上げに来た。今日もなんとか正義のヒーロー5人組との戦闘に生き残り、ほっとしている。ちなみにみな普段着だ。戦闘の後のビールは格別においしく感じる。
「でも今日もこっぴどくやられたよな。アバラ1本おられてもうたわ。」
こいつの名前は藤井。今日はレットに一発でやられていたと思う。
「アバラならいいじゃねえか。俺なんて右腕いかれたんだぜ。明日出勤できるかわかんねえよ。」
こいつは田中。ピンクにぼこぼこにされていたのを見かけた。みんなお互い下の名前は知らない。上の名前も本名かわからない。俺は本名である佐藤で通しているが。
 オレたち3人は同期入社だった。そのときに面接を受けたのは3人だけだった。情報誌の隅に『悪の組織の隊員募集します!! 日給1万円〜 昇格制度あり 年齢22歳〜』と書いてあったので募集した。俺は当時35歳で会社にリストラされて嫁と10歳の娘を養わないといけなかったのだが、なかなか仕事が見つからなかった。焦っていたのと興味半分で応募してみると受かってしまった。それかた3年が経つが今だに下っ端隊員だ。ほかの2人も同じような年に見える。結婚はしていないようだが。
 「でも今日も佐藤大きなケガはないな。羨ましいよ。」
 藤井に言われた。たしかに今まで大きなケガといえば骨を2回折ったくらいだ。
 「まあな。嫁と娘に心配かける訳にはいかへんやろ。」
 「でも、一応この仕事のことは言ってあるんだろ?」
 「一応な。でも細かいことは言ってないから下っ端として戦闘に出てるのは知らんと思う。」
 「まぁ、言われへんよな。悪の組織ってことだけでも言いにくいのに。」
 「せやからあんまり怪我とかして帰ると心配されるやろ。だから適当に終わらせてる。」
 嫁と娘にはデスクワークと言っている。入隊した当初は勝手がわからず、ヒーローたちと真剣に戦いこっぴどくやられていた。ひと月に間に2回も骨折してしまい嫁と娘を誤魔化すのがとても大変だったので、それ以来は適当にすることにしている。
 「俺も適当にしようかな。どうせやつらには下っ端のオレらじゃ勝てねえもんな。おう、どうした田中。ずっと黙り込んでるじゃねえか。もっと楽しく飲もうぜ。」
俺と藤井が話している間、田中は暗い顔をして黙り込んでいた。
「お前らは平気なのかよ。」
田中は真剣な顔でおれたちに話しかけてきた。理由は何となくわかっている。
「何がだよ。ぼこぼこにされるのはいつものことだろ。」
藤井がそう返すと田中が物凄い剣幕で怒鳴り散らした。
「お前らがそんなんだから吉田さんが殺されたんだよ!!」


今は一番太陽が高く昇っている時間帯。8月の昼に真っ黒の前身タイツで作られた戦闘スーツはとても苦しい。ちなみに下っ端のリーダーに昇格すると、グレーのメッシュで作られているとても涼しい前身タイツが支給される。冬は裏布が毛皮だ。ちなみに俺たちはオールシーズン共通だ。
いつものように召集がかかった。今日はテーマパークに来ている。休日ということで人がたくさん集まっているところを10人の下っ端で襲うらしい。いつもと同じで俺たちの隊長である怪人タコイカダーさんのお膳立てが今日の仕事だ。後からではなくて、始めからいてくれれば、俺たち下っ端の被害が少なくなるのだがそうしてくれない。後から出てきて疲れているヒーローを倒すつもりみたいだ。
「今日も暑いけどがんばろうや。」
2年先輩の下っ端である吉田さんが声をかけてくれた。この人はとても優しく俺たちの面倒をよく見てくれる。仕事柄死んでしまったり再起不能になったりで、入れ替わりが激しい中、吉田さんと俺たち3人は代わらずなんとかやっている。ちなみに、なぜずっと下っ端なのかというと昇格ありだと書いていたが実際は上の怪人になれるやつはスカウトで引っ張ってきているのだ。少し考えればオレたち一般人があんな化け物になれるはずがない。それにみんな簡単に死んでしまうから、昇格どころではないのだ。あと5年くら生き残れば俺も下っ端のリーダーくらいにはなれるかもしれない。
「そうですね。今日もよろしくお願いします。」
適当に戦闘をやり過ごすやつらが多い中、吉田さんは真剣に戦闘に取り組んでいた。聞くところによると戦闘中に正義のヒーローに嫁さんを誤って殺されてしまったたしい。だが、ヒーローとして街を守っているので殺人罪として訴えても見逃されてしまったみたいだ。それからヒーロー達を恨み悪の隊員になったと聞いたことがある。真面目に戦闘に取り組む吉田さんを田中は尊敬している。
早速みなと一緒に暴れると一般市民はビビッて逃げてしまう。正直このときが一番楽しい。そうしていると3分も経たないうちにヒーローがやってきた。お前らはカップ麺か。
「お前らにこの街を好きにはさせん!!」
レッドが何か叫んでいる。こういう正義ぶったやつは何か気に食わない。後ろにはブルー、イエロー、グリーン、イエローが並んでいる。さぁ、今日も適当にさっさとやられよう。
少し遠いところで様子を見ていると田中が最初に飛び掛かっていった。ピンクが狙いのようだ。ピンクは唯一の女の子で一番弱そうな気もするがそんなことはない。めちゃくちゃドSで、武器である鞭を振り回し俺たちを痛めつける。田中もすぐに鞭に捕まりめちゃくちゃにしばかれている。ピンクも何処か楽しげだ。しつこく何度も立ち上がるが、結局田中は倒れて動かなくなってしまった。気絶でもしているのだろう。これを皮切りにオレを除く8人の下っ端がヒーロー達に飛び掛かっていった。オレも少し近づいて戦っているふりをする。軽く一発しばかれるのを待っているのだ。ボーっとしている俺の背後で刀を抜く音がする。ブルーが背後で自身の武器である刀を抜いていた。この刀は切れ味抜群で、綺麗に入れば一発で殺されてしまう。今までで一番下っ端を殺しているのはこのブルーであると思う。
もう間に合わない!!そう思って目を閉じていると、
「危ない!!」
吉田さんの声がした。数秒たっても痛くないので目を恐る恐る開けてみると目の前で吉田さんが倒れていた。ピクリともせず、もう息もしていない。そして俺はそのあと横からイエローにしばかれ気を失った。


「特に佐藤!!オレ見えたんだよ。お前をかばって吉田さんは死んだんじゃないかよ!!お前がそんなんじゃんじゃなければ・・・」
「でも、人が死ぬのはいつものことだろ。そんなこといちいち気にしてたらやってらんないだろ。」
「お前それ人間としてダメだろ!!感覚狂ってるんじゃないか。」
今日の戦闘で3人以外は全員死んでしまった。田中の言う通り毎日死んでいく下っ端たちを見て狂っているのかもしれない。
 誰も口を開けないような重い空気が満ちている。その中藤井が、
「どっちも言っていることは間違っていないと思う。でも始めのころよりもだいぶ考え方が変わったんじゃないか? 良いにしろ悪いにしろ。」
 たしかに俺も最初は昇格してビックになろうとか、正義ぶって俺たちをいたぶるヒーローを憎いと思っていた。それがだんだん冷めていったのかもしれない。
 「・・・俺は明日の戦闘で吉田さんの敵を取る。刺し違えてでもやってやる。お前に協力しろというつもりはない。だが、俺が逃げ出さないように見ててくれ。」
 田中の目は本気だ。協力したいが俺には嫁と娘がいる。俺が死んでしまうとあいつらに迷惑がかかる。
 「お前がそういうなら俺もやる。どうせ佐藤とちがって守るものもないし、このままじゃどうしてもすっきりしねえ。最後に派手にやってやるよ。」
 「藤井、本当に良いのか?」
 「ああ、数少ない生き残りの同士じゃねか。佐藤は何も気にすることはない。いつものように適当に戦ってこれからも家族を守っていけよ。」
 今まで長い間同期として一緒にやってきたこいつらがここまで言ってくれているんだ。俺だけのうのうと楽していても良いのだろうか。
 「お前らがそうするのならば、俺だってやってやる。3人だけの同期じゃないか。それにまだ死ぬとは限らないしな。」
 俺だけ見てるだなんて絶対に出来ない。最後に派手に散ってやろう。
「お前はやめとけ。家族がいるんだろうが。こんな仕事に命かける必要はない。見届けるだけでいいんだ。」
「いいんだよ。どっちにしろこの3年間は家族よりもお前たちと過ごした時間の方が長いんだから。そんな大切なやつらを見捨てはできないよ。この仕事を始めたときに生命保険にも入っている。だから金には困らないだろう。俺が死んだときに悪の組織に所属していたことがばれたら後々肩身の狭い思いするかもしれないが、俺かどうかわからなくなるまで戦って死んでやるよ。今日、帰ったときに家族にも本当のことを話す。」
「・・・そうか。じゃあ今日は最後の打ち上げになるかもしらねえ。がっつり飲もうや。」
「珍しいな。普段はあんまり飲まない田中がそう言うと違和感があるな。」
「藤井も珍しく真面目な空気だしてるじゃないか。お互い様だよ。とりあずかんぱーい!!」


「そういえばお前ら名前は何ていうんだよ? 最後になるんだ。本名をフルネームで教えろよ。俺は佐藤義明だ。
「俺は藤井卓也だよ。」
「俺は田中正弘だ。最後にお互いの名前を知るなんておかしいよな。」


「ただいまー。」
「お帰りなさい。今日は遅かったのね。もう12時よ。
「今日はちょっとな。理穂は?」
「もう寝てるわよ。早くお風呂に入ってきなさいよ。寝ようよ。」
 娘はもう寝てしまっているみたいだ。ちょうど良い。本当のことを言うつもりだったが娘にはさすがにいいづらい。嫁にだけ伝えておこう。それから理穂に伝えるかどうかは任せよう。
 「実は話があるんやわ。仕事についてやねんけど。」
 「どうしたの急に。今日は遅いし明日にじゃだめなの?」
 「・・・俺は明日死ぬかもしれない。」
 「・・・それどういうこと?」
 俺はデスクワークなんかじゃなくて、ずっと下っ端で戦闘員としてやってきたこと。同期の3人のこと。吉田さんのこと。今日の戦闘のこと。田中と俺たちの決意を全て嫁に話した。
 「そんなこと言われてわかりました。って言えると思ってるの!? 意味わかんない。私たちとその人たちどっちが大切なのよ。」
 「まだ、死ぬとは限らないだろ。死ぬ気で生き残ってやる。そしたら2人を家に呼んでいいかな? お前に紹介したいんだよ。」
 「そんなに大切な人たちなんだね。前の仕事のときは会社での話を聞いたこともなかったわ。わかった。絶対死なないでね。もし死んじゃっても理穂のことは私が責任持って育てる。だから心おきなく戦ってきて。」
 泣きそうな顔をしているじゃないか。だいぶ無理をしているな。こんな顔されたら絶対に死ねないじゃないか。もう死ぬ気だった俺は馬鹿だ。絶対に生きて帰って来てやろう。」
 「ありがとう。美香。」
 そして、眠りについた。
9
102719 大塩平八郎  フィッシュバイヤー☆ケンイチ
 まだ夜も明けきらぬ早朝4時、今日も今日とて彼の一日は始まる。パリッとスーツを身にまとい、ネクタイを締めると、準備万端だ。いつものように戦場であるオークション会場へと向かう。
彼の名前はケンイチ。生粋のフィッシュバイヤーだ。20XX年現在、中央卸売市場の形態は大幅に変化し、もはやそれまでの競りの形とは全く別のものとなっていた。従来のはっ水機能の付いた作業服はスーツになり、大きく番号が縫い付けられた独特の帽子はなくなり、番号を判別するためのICカードが使用されている。仕入れ業者はバイヤーと呼ばれ、ケンイチは魚を専門的に仕入れているため、フィッシュバイヤーなのである。
「おーい!ケンイチー!」オークション会場に付くやいなや、後ろから自分を呼ぶ声がしたためケンイチは振り返る。そこには「オカノさん」と呼ばれるフィッシュバイヤーがいた。彼の名前が本当にオカノなのかどうかは知らない。ただ、バイヤー達がみなそう呼ぶのでケンイチも同じように呼んでいた。
「今日こそ手加減してくれよー!お前と競ったら絶対に落とせねぇからな!」
「ははは!勘弁してくださいよ、オカノさん!まあ今日もよろしくお願いします。」
ケンイチは凄腕のフィッシュバイヤーとして知られていた。いい魚を見分けるのがとてもうまいのもそうであるが、何よりも卸す相手がたくさんいるため、資金だけはたくさんあった。そんなケンイチを尊敬するバイヤーもいれば、ねたむ者すらいた。その為、ケンイチの座る席の周りはいつもピリピリした雰囲気を醸し出していた。
開場まであと数分となり、ケンイチは席に座る。階段式のホールにはビッグサイズのスクリーンが用意されており、バイヤーの座る席の一つ一つにはタッチ式のパネルと赤いランプが設置されている。そのパネルで価格を入札していき、落札したバイヤーは手元のランプが光るようになっている。周りを見渡すケンイチ。この日も会場は満員だ。数年前から各地方で卸売市場の一般開放が始まったからである。一般客でも年5万円の会費すら払えばICカードを取得でき、オークションに参加することが可能になった。正直、ケンイチはその現状を快くは思っていなかった。家庭で消費するには量が多すぎるし、なによりこれを生業としている人間にとって、落札しきれなかった時の失望感・喪失感は計り知れないものがあるからだ。
『会場3分前となりました。皆様席へとお戻りください。』
開場にアナウンスが響き渡る。皆が席に着き、ICカードが識別され終わるとオークションは始まる。
「今日はなにが狙い目なんだろうなー、ケンイチ。」
「なんですかねーオカノさん。」

「くっくっくっ……。今日はカツオのいいのが揚がってるらしいぜ。」
ケンイチとオカノの後ろに座っている男がボソっとつぶやいた。
「見慣れねぇ顔だなぁ。」「新参者か?」
ケンイチとオカノは口々に言葉にする。タキシードにハットにステッキと言った、やや不気味な風貌をしたやや老けたその男に軽く会釈し、ケンイチとオカノはパネルに向かった。
ジリリリリリリッ 『オークションを開始いたします。』
様々な魚がスクリーンには提示されていく。これと言って大物と言ったものはなく、ケンイチ・オカノ共に手を動かすことはなかった。特にケンイチに関しては、その日の狙い目はマグロだった。この時期のマグロは脂がのっていてさらにウマい。その中でも丁度その日の最後に提示される予定のマグロをケンイチは落札する予定だった。その時、スクリーンに例の魚が提示された。
『続いての商品は静岡県産のカツオでございます。それでは開始いたします。』
件の不気味な男が言っていたカツオの写真・映像がスクリーンに映った。これはすごい。一般的なカツオの約1.5倍はあるのではないか?鮮度も映像で見る限りはピチピチとしている。とにかく、ケンイチはこのカツオの入札を即決した。
『¥100,000‐! ¥200,000‐! ¥300,000‐!』
どんどんと価格が上がっていく。ケンイチ以外のバイヤーもこのカツオを狙っているのだ。生半可な気持ちではたぶん落札できないだろう。無理して高額で入札してしまうと後のマグロに響いてしまう。そこの攻め際と引き際がとても重要となってくる。しかし、それを見極められるのがケンイチの持ち味なのだ。
ケンイチは価格をタッチパネルに入力する。あとは[入札」をタッチすれば価格が反映される。「あと少し、もう少し、ちょっとだけ価格が上がってくれるだけでいい。そこからこの価格を入札したら周りも手を引くだろう。まだだ、まだ耐えろ…。まだだ…、、、よしっ今だ!!!」
ケンイチは[入札]をタッチした。価格がケンイチの入力したものになる。周りの熱が一気に冷めていくのがわかる。肩を落とし、次に入札する魚に向けて気合を入れなおす者もいる。ケンイチは半分安堵していたが、残りの半分では、自分より高い価格を入札してくる者はいないか。特に、例の不気味な男だ。ヤツもこのカツオを狙っていたようだったからだ。ただただそれだけを心配しながら、終了を待った。
「ケンイチ!もう入札するヤツはいねぇぞ!やったな!」オカノはケンイチの方を叩く。ケンイチもそのオカノの言葉を聞き、胸をなでおろした。
『静岡県産・カツオ、終了です。落札者はオークション終了後、受付カウンターにお越しください。』
場内にアナウンスが響き渡る。皆がみな、またケンイチに奪われたと思っている。もちろん、ケンイチもそうだった。しかし、一つだけおかしなことがおこった。
「ランプが点灯してない。」
そうだ。落札者の手元のランプは必ず光る。周りに落札者を知らせるだけでなく、自分でも確認するためのものだ。故障しているのか?どういうことだ…。
「くっくっくっ!まさかお前、自分が落札したとでも思っているのか?この愚か者め。」
後ろから高らかな笑い声が響き渡る。そうだ、例の男だ。例の男の声が会場にこだまする。手元のランプを光らせながら…。
「おっ!お前!まさか後ろからおれの入札価格を見たのか!」
 しかしなぜだろうか。確かにケンイチは価格を入力し、入札ボタンを押したはずだ。落札された価格も自分のそれと同じだ。もし例の男が自分より先に、後ろから見た価格を入力したとしても、自分が同じ価格を入力した時点でエラーが表示されるはずだ。
「ここのタッチパネルは簡単に故障するんだねぇ。」男は言う。そうか、そうなのか。自分が開場前に、少し目を離した隙にタッチパネルになにか細工をしたのだろうか。
「この野郎!細工しやがったな!」
「なにを証拠にそんなことを言うのですか?言われもない罪をなすりつけられて、私は心外ですぞ。今すぐに謝罪を要求いたします。」
二人の声が開場に響き渡る。その声に呼応して、まるでモーゼが現れたかのように開場は二つに分かれた。
「そうだ!勝手に決めつけるな!いつもお前のしてきたコトの報いだ!」
「謝罪しろ!自分が落札できなかったからっていちゃもんつけてやがるな!」
「そのタキシードの男、おれも怪しいと思ってたんだ!なんだか見た目も怪しいし、ケンイチの言うことももっともだと思うぜ!」
「ケンイチ!謝ることないぜ!お前のやってることが正しいんだからな!」
ケンイチを批判する側、擁護する側の人間が口論になる。口々に周りが話すものだから、会場は騒然となっている。
『皆様、静粛に。ただ今の落札に関しまして不正はなかったものと見られます。よって、落札者の変更はなしとします。以後は一切の変更を認めませんし、異議を唱える方はご退出していただきます。』
アナウンスが会場を静粛にさせる。さっきまでは大声を上げていたものもだんまりだ。
「ケンイチ!どうすんだよ!」オカノの一言でケンイチは我に帰った。入札できない限り、自分はもうここにいる必要はない。卸す相手には「実力不足でマグロは落札できなかった」と誠心誠意謝ろう。もしそれで引いていくようなお客さんであればそれまでなんだ。席を立とうとしたケンイチに、オカノはこう言った。
「諦めるのかケンイチ!お前のバイヤー魂はその程度なのか!」
そうか。おれは諦めていたのか。次回のオークションに向けて頑張ろうなどと思っていた自分が愚かだった。いくら勝てない試合だったとしても、どこかのえらい先生が言っていたように「諦めたらそこで試合」だ。
しかし打開策はない。何しろタッチパネルが故障しているということは、入札自体できないのだ。どうしたものか。悩むケンイチにある案がひらめいた。そうか。これなら勝てる…。落札できる!ケンイチはその案をオカノに耳打ちし、また席に着いた。

『本日最後の商品となります。静岡産のカツオです。』
アナウンスが鳴り響く。背筋を正す者、通帳とにらみ合いいくらまでなら入札できるのか考える者、神頼みだとばかりに祈る者、すべての人間がスクリーンを見つめる。
『入札開始です。』
『¥100,000‐! ¥200,000‐! ¥300,000‐!』
さきほどのカツオの時と同じく、どんどん価格が上昇していく。そして価格が80万を超えたところで、ケンイチの後ろで例の男が動いた。
『¥3,000,000‐』
スクリーンに表示される価格に皆が度胆を抜かれた。徐々に価格を上げて探り合っていくのがオークションの暗黙の了解だ。それなのになんだこの価格は。
「おい、ボウズ。お前はくやしいだろうなあ。したくても入札できないのだから。くっくっくっ!!!」
高笑いする男を見て、誰もがこの男が落札する者だろうと思った。
 男ももちろん同じで、入札を終えるなりパイプをくわえ、席を立った。
「マグロはいただいたよ。ありがとうね。」
ケンイチに言い捨てるようにして男は部屋を出ようとする。
『それではもう入札者はいませんね。入札を締め切りいたします。落札額は301万円となります。』
「なにっ!」男はスクリーンを見直す。しかし、書かれている数字は自分の出したものより1万円多い価格になっている。
「どうしてだ!なんでだ!」男に対し、ケンイチはこう言い放った。
「なにもパネルは一つだけじゃないんだぜ!」
男の見つめる先にはケンイチ。その隣には手元のランプを光らせるオカノ。
「なんだとぉぉぉぉ!わしはみとめんぞ!みとめんぞ!!!」
そうなのである。オカノのタッチパネルを使い、ケンイチは入札を果たしたのである。

「オカノさん!ありがとうな!」
「いいってもんよ!」
オカノからマグロを受け取り、金を払うケンイチ。
まだまだフィッュバイヤー☆ケンイチの戦いは始まったばかりである…。
10以上
102721 eri0510 シンデレラ〜王子様偏ともう一つのものがたり〜 みなさんは、「シンデレラ」という話をしっていますか。今日は「シンデレラ」のお話を少し違った視点からお話をします。
むかしむかしある国のお城に、とてもかわいらしい男の子が生まれました。ジョンと名付けられた男の子はすくすくと元気に育ち20歳の誕生日を迎えました。
「パパパパーン」外にはトランペットの音が鳴り響いていました。
自分の部屋にいたジョンは窓の外を眺めていました。するとドアをノックする音が聞こえてきました。
ジョン「はい。」
王様「入るぞ。ジョン、20歳の誕生日おめでとう。今日は盛大なパーティーとなりそうだ。そろそろ舞踏会が始まる時間だな。会場へと移動しよう。」
ジョン「はい、お父様。」
王様「いい女の子でも見つかるといいな。」
王様は笑いながらジョンに言いました。ジョンも笑いながら
「うん、そうだね。」
と言いました。
パーティー会場にはとても多くの人が集まっていました。
「王子様がご入場します。盛大な拍手でお迎えください。」
そんな声と同時に、王子様は中に入りました。
「王子様、誕生日おめでとうございます。」
そんな声があちらこちらから聞こえてきました。はじめは楽しかったジョンも次第にパーティーに飽きてしまい、パーティー会場をあとにしようとしました。するとそのとき、キーと、入り口のドアが開きました。入口のほうをみるとなんと、とても美しい女の人が入ってきました。
ジョン「なんてきれいな女性なんだ。こんなにきれいな人はみたことがない。」
そういってジョンは女の人に近づいていきました。
ジョン「僕と踊ってくれませんか?」
少し顔を赤らめながらジョンは言いました。
女性「もちろんです。よろこんで。」
少し俯きながら女性は答えました。
ジョンとその女性は会場の真ん中で踊りだしました。
それを見ていたほかの女性たちは、「くやし−。」「負けたわ。」「私が王子を手に入れようと思っていたのに。」そんなことを言いながら、ジョンと女性の踊っている姿を見て「でも、あれだけ美しかったらしょうがないあわね。」などと言っていました。
ジョン「こんなに楽しい気分になるのは初めてだ。」
女性「わたしも。ありがとう。」
ジョン「また会えるかな?」
女性「もちろ・・・」
そのとき、女性の言葉をさえぎるように12時の鐘がなりだしました。
女性「あっ、12時だわ。わたし帰らないと。」
そういうと、女性は走って帰って行きました。
ジョン「まってくれ。」
しかし、その女性は振り向くことなく姿が見えなくなりました。
ジョンは諦めて帰ろうとしたとき、何か光るものが見えました。近くで見てみるとそれはガラスの靴でした。
ジョン「これは、ガラスの靴。もしかしてさっきの・・・。」
ジョンは大切そうにその靴を拾い持って帰りました。
そして、執事であるセバスチャンのもとに、その靴を持って行きました。
ジョン「セバスチャン。お願いだ。このガラスの靴の持ち主を探してくれ。頼む!僕が初めて恋をした女性なんだ。」
セバスチャン「わかりました。おぼっちゃま。わたくしがなんとしてでも見つけ出しましょう。」
 その日からガラスの靴の持ち主を探す日々が続きました。名前も知らない女性を探し出すのはとても大変でした。何日も何日も街の中の全ての女性にガラスの靴をはいてもらいました。しかし、なかなかぴったりに合う人はいませでした。そして1週間がたったころある一つの家にたどり着きました。
セバスチャン「すみません。お伺いしたいことがあるのですが。」
家の人「はーい。」
セバスチャン「実はお城からの使いできたのですがこのガラスの靴の持ち主を探していまして・・・。こちらに娘さんはいらっしゃいますか。」
家の人「まあ。2人いますの。ぜひ私の娘たちで試してみてください。アーサ、マーサ。」
中に向かってそう呼ぶと中から2人の女性が出てきました。
家の人「こちら、お城からの使いで来てくださったらしいの。あなたたち、ご挨拶をしなさい。」
アーサ、マーサ「こんにちは。」
アーサ「キャーーーー!!お城からだって!どうしよう!」
マーサ「どうしよう!お姉ちゃん!!ドキドキしちゃう!!」
セバスチャン「実は、この間の舞踏会でこちらのガラスの靴を落とした方を探しておりまして・・・。」
マーサ「それ、私です!!きっと私の靴にぴったりなはずです。」
にこにこしながら、マーサが素早く言いました。
セバスチャン「そうですかー!では、一度はいてください。」
そういって、セバスチャンは、ガラスの靴を差し出しました。
マーサは、わくわくしながらその靴を履きました。
でも、マーサの足が大きすぎてガラスの靴は入りませんでした。
マーサ「ちっ。」
アーサ「お姉ちゃん、どいて!!それは、私の靴よ。」
セバスチャン「そうでしたか。では履いてみてください。」
しかし、アーサの足は小さすぎてガラスの靴はぶかぶかでした。
すると、そのとき奥のほうからこちらをみている女性をセバスチャンは見つけました。
セバスチャン「あちらの女性は?」
マーサ「ああ。シンデレラね。あの子は舞踏会には行ってないわ。あの小汚い恰好で行けるわけないもの。」
アーサ「そうよそうよ。」
すると、シンデレラがこちらに向かって歩いてきました。
セバスチャン「どうぞ、こちらのガラスの靴をはいてもらえますか?」
シンデレラ「…ええ。」
するとどうでしょう。シンデレラの足はガラスの靴にピッタリだったのです。
マーサ・アーサ「ギャーーーーー!!!どうしてなの?ありえなーい!」
セバスチャン「あなただったのですか!!やった出会えました!あなたは舞踏会に来ていましたよね?」
シンデレラ「…はい。」
マーサ「どういうこと?!」
シンデレラ「…。」
すると、そこに優しそうなおばあさんが現れました。
おばあさん「シンデレラ。よかったわね。あなたは、これまで苦労をしてきたかもしれないわ。でもこれからは幸せになりなさい。これは、私からの最後の魔法よ。」
シャララララララーーーー
するとシンデレラは、素敵なお姫様の格好になりました。
そこにいたみんなは目が丸くなっていました。
おばあさん「これは、12時になっても解けないわよー。」
おばあさんは自慢げに言いました。
おばあさん「シンデレラ、幸せになるのよ。」
シンデレラ「おばあさん、ありがとう。」
そういっておばあさんに抱きつきました。
セバスチャン「これは、驚いた。わたしと一緒にお城まで来ていただけますか。おぼっちゃんが首を長くしてお待ちです。」
シンデレラ「はい、もちろん。」
マーサ「くやしいー。シンデレラがまさか、あんなにきれいになるなんて。」
アーサ「まさか、あの王子様と踊ってた人がシンデレラだったなんて。」
シンデレラ「黙っていてごめんなさい。でも、私、どうしても行きたくて…。」
アーサ・マーサ「わかったわ…。」
セバスチャン「では行きましょう、シンデレラ。」
シンデレラ「はい。」
それから、馬車に乗ってお城に向かいました。
セバスチャン「おぼっちゃま。見つけましたぞ!」
ジョン「本当か!ありがとうセバスチャン。」
セバスチャン「こちら、シンデレラです。」
シンデレラ「王子様。またお会いできて嬉しいです。」
シンデレラは恥ずかしそうにそう言いました。
ジョン「僕もだよ。どれだけ待ち望んだか。シンデレラというんだね。」
するとジョンは少しそわそわしながら、
ジョン「シンデレラ、僕と…け、結婚…してくれませんか。」
と言いました。
シンデレラ「…はい。喜んで。」
ジョン「本当かい?シンデレラ。やったー!」
そう言ってジョンはシンデレラを強く抱きしめました。それから2人はキスをしました。2人は見つめあって笑って顔を赤らめて本当に幸せそうでした。
めでたし、めでたし。

さて、シンデレラのお話はここで終わっていましたよね?
実はこのお話には少しだけ続きがあったのです。
それから、20年後。
シンデレラ「メアリー!メアリー!」
ジョン「どうしたんだ、シンデレラ」
シンデレラ「メアリーがまたいないの。」
ジョン「またか。また街まで行ってるんじゃないか?」
すると、そーっと後ろを歩く音が聞こえてきました。
シンデレラ「メアリー?あなたどこへ行っていたのかしら?また、お城を抜け出して!」
メアリー「ごめんなさい、お父様お母様。街までちょっと…。」
ジョン「またか!」
シンデレラ「あなたも、もう17歳になったのよ。少しは落ち着きなさい。」
メアリー「はーい。」
実はメアリーは、街にあるパン屋さんが大好きになってしまったのです。本当は、パン屋さんの息子にだけど。
ある日メアリーは、いつものようにお城を勝手に抜け出して大好きなパン屋さんにパンを買いに行っていました。
メアリー「こんにちはー。」
パン屋さん「おお、メアリーじゃないか。」
メアリー「いつものちょうだい!」
パン屋さん「はいよ。」
メアリー「ありがと・・キャーーー!!」
メアリーはこけてしまいました。すると店の奥から男の人が出てきて
男の人「大丈夫ですか。」
といってメアリーに手を差し出しました。
メアリー「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
メアリーは、少し恥ずかしそうに答えました。
パン屋さん「おお、トム!ありがとな。お前、いいときに来たな。いつも可愛いって店の奥から覗いてたしな。」
トム「やめろよ。おれは、トム。20歳。よろしくな。」
メアリー「はい。わたしはメアリーです。」
メアリーはすぐに恋に落ちてしまいました。
それからというものメアリーはいつも以上にお城を抜け出すようになりました。
メアリー「トムー。遊びましょう。」
トム「ああ、メアリーか。実は話があるんだ。」
メアリー「なあに?」
トム「僕と結婚してください!」
メアリー「…。実は、私隠していたことがあるの。」
トム「えっ?」
メアリー「実は…私…この国のお姫様なの。」
トム「えーー。」
メアリー「それでも、私と結婚してくれる?」
トムは少し考えました。でも答えは1つしかありません。
トム「もちろんさ。メアリー、大好きだ!」
メアリー「私も!」
そういってメアリーはトムに抱きつきました。
それから2人は幸せに暮らしましたとさ。
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102722 oya-ann 暖々〜たとえばこんなあたしたち〜 それは12月も半ばを過ぎたころのこと、「さむ〜いっ」、「じゃあこれやる」、男がそっとカイロを手渡してきた。彼女は西永由宇、隣にいる一緒に下校しているのは男友達の松田智樹。                  
 彼らが知り合ったのは高校に入学してすぐで、同じクラスで隣の席だった。西永が窓の外をぼぉーっと眺めていて、雲の形を見ていたのか仲良く空を飛んでいる鳥の親子を見ていたのかは分からないが優しそうに笑っていた松田の姿を見て何だか声が聞きたくなって思わず声をかけた。「松・・田君?だよね?」、不思議そうに振り向いて気まずそうに「・・・・?・・えっと・・・」、「今日から隣の席になった西永由宇って言います。よろしくね!」、困っていた彼に少しでも分かってもらおうと恥ずかしさを我慢してなかなか大きな声で挨拶をした。「俺は松田智樹っていうんだ。よろしくな。」そんな気持ちに応えてくれたのか、彼もそこそこに大きな声で返事をした。どこから仲良くなったのかは二人ともあまり覚えていないのだが、気づいたら一緒にいて、気づいたらその時間がとても心地よいものになっていたのだった。そして今そんな感じで早くも一年が経とうとしている。
 手渡したカイロには変てこな顔が描いていた。
「何これ?松田が描いたの??」
「ただのカイロじゃつまんねーと思って。」
「うん!かわいい!(笑)」
「カイロくーん、あたしをあっためてねー」
「カイロ君て・・・、なんのひねりもねーな(笑)」
「シンプル イズ ザ ベストだよ! あ〜あったか〜い。」
松田は少し照れながら、カイロをほっぺたにすり寄せる西永を見ていた。
「あのさ」
すこし声が震えていた。
「・・・・・・おれ・・・西永のこと好き」
冷たく吹き荒れる外の風が一瞬止んだ。
よく聞えなかった西永は思わず聞き返してしまう。
「え?」
「だから、好きだって」
「うん、私も松田の事好きだよ〜」
「いや、その好きじゃなくて・・・、・・・まぁいいか・・・」
「・・・??」
西永にとって松田は、一緒にいて気楽で、何か良いやつで、本当に大切な友達だ。
しかし、二人の気持ちには少しズレがあったようで・・・。
その時はそのまま何もなくお互い家に帰ったのだった。
 そして、次の日の学校。
「由宇はクリスマスどうすんの?」
西永は教室の暖房の前で仲の良い友達二人(AさんとMくん)と休み時間に話をしていた。
「あたしは家でピザとケーキとケン○ッキー食べるよ!」
Mくん「何だ食いもんかよ(笑)」
Aさん「松田君とどっかいったりしないんだ??」
「松田と? なんで?」
Aさん「一緒に帰ったりして仲良いし、付き合ってるみたいってみんな言ってるよー」
「ふ〜ん」
Mくん「由宇ちゃんはどーなのさ。松田ってわりとかっこいーじゃん。」
Aさん「ちょっとは気になったりするでしょ?」
「あたし、そーゆーのってよくわかんないんだよねぇ・・・」
二人「由宇は子どもだもんね・・・」
「だって松田は友達だし、そんなの考えたこともないし、あたしたちには関係ない話だと思ってたし。 てゆーか、松田どこ?」
松田は廊下に立って、初めての時みたいに窓の外をぼんやりと眺めていた。
西永は松田を見つけると、近づいて行ってもらったカイロをポケットから取りだした。
「ばぁ。 こんなとこで何してんの?」
「・・・別に」
「てかそれまだ持ってんの、捨てればいーのに。」
「ひどーい、カイロくんの生みの親のくせに!」
「どーせ、ポケットに入れっぱだっただけだろ。」
「よくわかったねぇ・・」
「やっぱな(笑)」
「カイロくんはね実は足が速いんだよ! ボルト並だよ!」
(うん、いつも通り 昨日のアレはなんだった? てか松田があたしのこと好きなんて全然ピンとこないもんなぁ・・)
「どーやって走ってんの(笑)」
松田は嬉しそうに笑いながら話す西永の顔をじっと見つめている。
「ん?」
「俺 やっぱり友達以上になりたいんだけど」
「・・・・・え いやでも、あたし松田の事そんなふうに見たことないし・・・」
「じゃあこれから見てよ」
松田に見つめられて心臓の鼓動が速くなっていく西永。
いつもと違う松田に戸惑いながら、必死に返す言葉を見つける。
「で、でも松田はともだちなのに そんなこと言われても困る・・・」
キーン コーン カーン コーン
学校のチャイムが静かに鳴り響いている。
松田と西永はそのまま教室に戻った。
途中西永は必死に今の状況を整理しようとしていた。
(なんで? あたしたちは今のままでいいのに 変わらなくたっていいのに・・・)
担任「連絡は以上です。はい、さようなら〜」
最後のHRが終わり次々と生徒が出ていく。 
「・・・・・・・」
いつも通り西永は松田のとこに行った。
「おなかすいてない? 帰りに肉まん食べよーよ」
松田からはいつもの陽気さが感じられなかった。
「ごめん そーゆーのもう無理 他のヤツと帰って」
「・・・・え?・・・」
足早に松田は教室を出ていってしまう。
仕方なく西永はAさんとMくんと帰ることにした。
Aさん「由宇 松田くんフッたんだって?」
Mくん「松田が元気ないから 無理やり聞き出しちゃったよ」
Aさん「気まずいよねぇ・・・」
「フッたってゆーか・・」
「あたしは今までどーりでいたいんだけど、無理なのかなぁ?」
Mくん「あいつ明日から学校休むって言ってたしな。」
Aさん「無理だろーね・・・」
「え・・・」
Mくん「うそだよ!」
Aさん「大丈夫でしょ、きっと(笑)」
西永は少し不安を覚えながらも、今はどうすることも出来ないので友達の言った事を信じて家に帰った。
そして次の朝。
教室のドアの前でたたずむ西永。
(どう話しかけよう・・・、このままは嫌だよ・・・)
ガラッ
「おはよ」
「わっ!! びっくりした〜 おはよう。」
「はい」
「あ、どーもどーも」
「うん」
西永が教室に入ると、松田は入れ替わるように出て行ってしまう。
「ねぇ、どこ行くの?」
「トイレ」
「もうすぐチャイム鳴るよ?」
「・・・いってらっしゃーい」
「・・・・・」
松田はそれ以降西永の言葉に返事をしなかった。
休み時間になってもいつもみたいに一緒にいれない、話せない、そんな状態が続いた。
Aさん「松田くんこっちこないねぇ」
Mくん「ま しゃーないさ」
ポケットに手を入れると冷たくなったカイロくんが出てきた。西永はそれを見つめている。
(もう無理なのかな・・・)
Aさん「なにそれ」
「カイロくん 松田がくれたの」
Aさん「由宇さー、そーゆー子どもみたいなこと言うの もうやめたら?」
Mくん「おいおい」
西永はカイロくんについて二人で笑いながら話していたことを思い出していた。
「これって、もっかいあったかくなんないかなぁ・・・・・」
Aさん「えー?」
半年前
「松田はね、あたしの一番の友達なんだよ」
二人は下校途中に肉まんを買って帰り道にある橋の上で話をしていた。
「なに、言ってんのいきなり・・・」
「大っきな口!」
「あたし 松田といる時間が一番すきだなぁって思って」
「松田は?」
「は 俺?」
「・・・・・・・・たのしーから一緒にいるんじゃん」
「ずっと仲良しでいようね」
「・・・うん」
「ずっとね」
「・・分かったから、さっさと食べて行くぞ」
「ちょっ、待ってよ〜(笑)」
(あたしはあの頃のあたしたちに戻りたいよ・・・)
学校が終わり放課後。
また松田は一人で足早に出て行った。
「松田 もう帰るの?」
「なに?」
「えっとその・・・」
「今までみたいにできないかな?」
「あたしたち友達でしょ?」
弱弱しくも必死に、西永は松田を見つめる。
少し間があいて
「俺はもう友達じゃ嫌なんだよ」
「ごめんな」
涙は出なかった。
けど西永はもうどうしたらいいのか分からなくなっていた。
そしてそんな状態のまま、またいつもの友達と一緒に帰った。
外の木々は寒さから全ての葉を落としていた。
そして12月24日、終業式。
Aさん「今日一緒に帰れなくてごめんねー」
「いーよいーよ クリスマスだもんね」
「どこいくの?」
Aさん「映画観てー、ブラブラしてー、暗くなったら駅前の大きなツリー見に行ってー・・」
Mくん「飯は駅前のレストランでいいよな?」
Aさん「そうだね〜」
「ふんふん 楽しそう!」
クラスメイト「松田 もー帰んの?」
「じゃーなー」
Aさん「最近由宇 松田くんの方ばっか見てるよね」
「へっ くしゅんっ」
(一人で帰るの久しぶりだなぁ・・・・・)じゅる
(ティッシュ・・・)ごそごそ
ぱさっ
「あ・・・カイロくん・・・」
あの頃を思い出す。
「ふふ」
「いつも一緒にいたのに・・」
ぐしぐし ぐしぐし ぐしぐし
「・・・・・あったかくなるわけないか」
(あの頃には戻れないって分かってるけど でも あたしは松田といる時間がすきだよ
よく わかんないけど 他の人とはちがう。松田は特別なんだよ。もう戻らなくていいから)
そばで幼い兄妹の妹が西永の持っているカイロをじっと見ている。
「あげる」
不意に立ち上がった西永は、全力で走り始めた。
(あたしこのままじゃ嫌だ、もう松田と一緒に笑ったり話したり出来なくなるなんて・・・まだこの気持ちは何だか分からないけど、松田と一緒にいたい!それだけは言える!だからお願い、あたしの話を聞いて!!)
「松田!」
「はぁはぁ はぁはぁ」
肉まんを一緒に食べたあの橋の上で松田を見つける。
「西永・・・」
そっぽを向いて帰ろうとする松田。
「まって!!」
いつも以上に大きな声で呼びかける。ようやくこっちを見る松田。
「松田 あのね」
「あたし・・」
ずっと抑えていた熱いものが頬を伝っていく。
「もう友達じゃなくていいから 一緒にいたいよ!!!」
「うぅっ ひっく」
雪が降り始めていた。
ゆっくりと引き返してくる松田。
「・・・俺」
「あーでもしないとあきらめらんないと思って」
「ガキだったよな ごめん」
(手・・・)どきどき
「でももうあきらめんのやめるけどいいの?」
「うん」ずっ
(あ、久しぶりに笑った顔だ・・)
「今日一緒にいよ」
二人は手をつないでその日も寄り道をして帰った。
「松田の手 あったかい」
「そう?(笑)」
(キラキラした街の中 なんだかドキドキした こんなあたしたちになるのもいいかもしれないね)
8
102723 森実 桃太郎(サル) 昔むかしある山に一匹のサルがいました。その山はとても穏やかで群れ同士のいざこざや、群れの中のいざこざも全くなくとても平和でした。加えてその山は人の出入りがほとんどなくサルたちも安全で楽しく暮らしていました。
サル「今日もみんな仲良し。みんなこのまま過ごしていければなあ。」
とひとりごとを言いました。今日もサルたちは木の実を食べて木に登りゆっくりした時間を過ごすのでした。
ある夏のよる、いつものように日が暮れて木の上ですやすやと眠っていると、奇妙なにおいがしてきました。
サル「クンクン。何だろうこの焦げ臭いにおいは。」
と思い、辺りを見渡すと山一面が火の海になっていました。山火事が起きてしまっていました。
サル「助けてくれーーーー!!」
そう叫んでも周りにはだれもいませんでした。たちまち火がかなりまわってきて、
サル「もうこの山はだめだ。」
そしてサルは覚悟を決めて木から飛び降り、ただひたすらに火のない方向に一心不乱に走りました。そしてその夜、サルは一度も立ち止まることがありませんでした。
次の日の朝、一晩中走り回ったせいか全く知らない土地に来てしまいました。また何も食べたり飲んだりせずに走ってきたのでサルはかなり疲れました。
サル「はあ、はあ。もう大丈夫かな。みんな逃げ切れたのかな。みんなに会うまで僕は生き延びるんだ・・・。」
歩いているとある森に入って休めるところを見つけました。
サル「ここで少し休もう。」
と言って深い眠りについてしまいました。そこでいろんな夢を見ました、今まで過ごしてきた楽しかった思い出、仲間たちとの思い出などを思い出していました。
???「こんなところにきったねえサルが一匹いるぜ。」
サルははっと目を覚ましたら周りは犬の群れに囲まれていました。
イヌ「ここは俺たちの縄張りだ!!早く出ていかないとどうなるか知らんぞ!!」
とても怖くなったサルは一目散に逃げて行きました。
サル「外の世界は怖いものばっかりだ。」
そう思いどこにも行くあてもなく何日間も歩き、ついに空腹と疲れで道の真ん中で倒れてしまいました。
サル「だ・・だれか助けてくれ・・・。」
イヌ「ん??こんなところにいつぞやの汚いサルがいるぞ。もしかしてあれからずっとさまよっていたのかな。」
桃太郎「どうした?こんなところで。何か見つけたか。」
イヌ「いや、前に俺の縄張りで寝やがったんでちょいと脅したことのあるサルでさぁ。」
桃太郎「そうだったのか。にしても脅すのはよくないぞ!!」
イヌ「はい・・・。」
桃太郎「とりあえずこのサルを助けるから、どこか休めるところに運ぼう。」
イヌ「はい!!」
〜5時間後〜
サル「ここは・・・天国か??」
イヌ「ちげーよ。ここは村の外れじゃ。」
サル「お、お、お、お前は!!よくも俺を追い出しやがって!!」
イヌ「すまんかった。悪気はなかったんだ許しておくれ。ほら、きび団子桃太郎さんがくれたんだぞ。まあゆっくり休みなよ。休んだら出発だ。」
サル「出発ってどこに??」
桃太郎「鬼が島だよ。」
サル「お、お、お、鬼が島!!??あの極悪非道の青鬼、赤鬼がいるのに!!??」
桃太郎「そうだよ。あいつら村を荒らしまわってほんとひどいやつらだよ。」
サル「でも、この人数であいつらに挑もうってゆうんですか??」
桃太郎「ああ。そのつもりだよ。」
サル「そんなの無茶だよ!!」
イヌ「何だその口のきき方は!!??」
ぼかっ
サル「いたっ!!ごめんなさい・・・」
桃太郎「まあ、確かに人数的には不利かもな。少し仲間を探してみるか。」
サル・イヌ「わかりましたー!!」
こうしてサルの体力が回復し、桃太郎たちは仲間を捜しに旅に出ました。まずは海にいき竜宮の使いの亀に助けを求めに行きました。
桃太郎「こういうわけで、このきび団子をあげるから一緒に鬼退治をしてくれないか??」
亀「いやですよ。あの赤鬼、青鬼にはかなり苦しめられていて竜宮城のお宝も盗られて行きました。だから、あいつらに挑むのは怖くて行けません。」
桃太郎「そうか・・・。おまえたちの分まで戦ってくるから応援していてくれよな!!」
亀「はい!!あの赤鬼、青鬼を倒したときは是非私たちの竜宮城に来てください!!」
サル・イヌ「わかりましたー!!」
桃太郎「はあー。無理だったか。ほかに心当たりあるか、お前たち?」
サル・イヌ「んー。」
イヌ「あの有名ないっすんぼうしさんとかはどうですか??」
桃太郎「その手があったかー!!じゃあさっそく準備して出発だ。」
イヌ・サル「わかりましたー!!」
その道中
サル「そのいっすんぼうしさんはそんな有名なんですか??」
ぼかっ
サル「痛っ!!なんでそんなすぐ殴るんだよー」
イヌ「お前はなんにも知らないんだな。いっすんぼうしはな、子供のない老夫婦が子供を恵んでくださるよう住吉の神に祈ると、老婆に子供ができた。しかし、産まれた子供は身長が一寸しかなく、何年たっても大きくなることはなかった。子供は一寸法師と名づけられた。ある日、一寸法師は武士になるために京へ行きたいと言い、御椀を船に、箸を櫂にし、針を刀の代わりに、麦藁を鞘の代りに持って旅に出た。京で大きな立派な家を見つけ、そこで働かせてもらうことにした。その家の娘と宮参りの旅をしている時、鬼が娘をさらいに来た。一寸法師が娘を守ろうとすると、鬼は一寸法師を飲み込んだ。一寸法師は鬼の腹の中を針で刺すと、鬼は痛いから止めてくれと降参し、一寸法師を吐き出すと山へ逃げてしまった。一寸法師は、鬼が落としていった打出の小槌を振って自分の体を大きくし、身長は六尺になり、娘と結婚した。ご飯と、金銀財宝も打ち出すらしいわ。」
サル「はあ。」
イヌ「まあ要するにだな。鬼と戦ったことのある人と戦うのはとても心強いだろ?」
サル「うん!!」
イヌ「だからお供をお願いしに行くんだよ。」
サル「なるほど!!」
イヌ「わかったなら、さっさと行くぞ!!」
サル「わかりましたー!!」
そして日が暮れる頃、大きなお屋敷に着きました。
イヌ・サル「でけーーー。」
桃太郎「よし。じゃあお願いしに行くか。」
イヌ・サル「おー!!」
一寸法師「よくぞいらっしゃいました。ささ、中に入ってください。」
桃太郎「さっそくなんですが、鬼退治を手伝ってもらえないでしょうか??」
一寸法師「それは無理じゃな。見ての通りわしはもうじじいじゃ。あの頃のわしじゃない。すまんが他をあたってくれんかの??」
桃太郎「そうですか。お体を大事になすってください。」
一寸法師「桃太郎さんや。」
桃太郎「なんでしょうか。」
一寸法師「鬼には気をつけなさい。決して臆してはならん。まずは気迫じゃよ!!」
桃太郎・イヌ・サル「ありがとうございました。」
サル「あー。まただめじゃん」
桃太郎「そうだなあ。もうこの人数で鬼退治に行くしかないかな。」
イヌ「んー」
みんな落ち込んでいました。サルも全く進まない仲間集めに疲れていました。たまたま天を仰ぐとなにやら大きな鳥がこちらに近づいてきます。
サル「桃太郎さん!!」
桃太郎「なんだどうした?」
サル「鳥がこっちに落ちてきます!!」
桃太郎・イヌ「何い??みんなで受け止めるぞ!!」
どさっ
キジ「いてて、やっぱり飛ぶのは苦手だな。・・・ん??」
桃太郎・イヌ・サル「うぅ・・・」
キジ「なんでこんなことに!!」
桃太郎・イヌ・サル「お前のせいや!!」
この言葉を最後に3人は気を失いました。
サル「ん・・んん・・・(手当されている)」
キジ「気がつきましたか?えらいすんませんな。」
桃太郎・イヌ「いてて・・」
キジ「みんな死んだかと思いましたよー。」
桃太郎「にしてもこの手当はお前がしたのか?」
キジ「そうです。こういうのは得意中の得意ですわ。」
桃太郎「そうか。突然だけど、僕たちの仲間になって鬼退治のお供をしてくれないか??」
イヌ・サル「えぇーーーーーー」
キジ「ええですよ。みなさんにはご迷惑かけてしもたし。」
桃太郎「じゃあそういうことなので、みんな仲良くしなさいよ。」
イヌ「そんなのできませんよ。こいつは僕たちを怪我させた張本人ですよ。」
キジ「そのことについては、めっちゃ謝ってるじゃないですか。」
桃太郎「そうだぞ。この手当をしてくれたのもキジじゃないか。」
イヌ・サル「うっ・・・(何も言えない)」
キジ「そういうことで、宜しく!!!」
こうして桃太郎とその仲間イヌ・サル・キジは旅の途中もやいやいと喧嘩をしながらもいざという時にはみんなで力を合わせてどんな困難でも乗り越えてきました。ある日、三匹は桃太郎を驚かせてあげようと、ある村までごちそうを買いに行きました。その村では丁度鬼が島の鬼たちが村を荒らしている最中でした。
サル「やばいよ。どうするみんな。」
イヌ「退治するしかないだろ。」
キジ「よし行くか。」
イヌ・サル・キジ「おわあーー。」
こうして3匹は鬼たちを一掃しそのむらを守りました。
その時鬼が島では
赤鬼「なにい!!桃太郎軍団とかゆう輩に負けただと??」
鬼たち「すみません!!」
青鬼「お前たちなどもういらん!!」
鬼たち「そんな・・・」
赤鬼「にしても桃太郎軍団とは決着をつけねばな」
青鬼「ああ。」
次の日の朝、ごちそうをみんなで食べて岸から鬼が島を目指して出発しました。
鬼たち「侵入者発見!!侵入者発見!!」
桃太郎「私は桃太郎!!赤鬼、青鬼出てこい!!」
そういうと奥からとても大柄な鬼が出てきました。
赤鬼・青鬼「私たちが赤鬼、青鬼だ。ほう、お前が桃太郎かずいぶん俺たちの部下がお世話になったな。」
桃太郎「それはこっちのセリフだ」
青鬼「そうだ、お前さん俺たちの仲間にならんか??そうしたら日本中の食糧や財宝が手に入るぞ。」
桃太郎「そんなものいらない!!僕はみんなが笑顔になれる世の中にしたいんだ!!」
赤鬼「仲間になる気はなさそうじゃな。もう助からんぞ。」
イヌ・サル・キジ「望むところだ!!」
赤鬼・青鬼「ごあーー」
桃太郎・イヌ・サル・キジ「とおーー」
壮絶な死闘の末、一瞬の隙をつきまずは赤鬼をやっつけました。そのあと、みんなの連携によって青鬼も懲らしめました。
桃太郎「どうだ!!」
赤鬼・青鬼「ごめんなさい!!もう村を襲ったりしません!!」

こうして日本は平和を取り戻し財宝も返しました。
そして桃太郎とその仲間たちは後世に語り継がれる英雄になりました。
サル「ほんとに僕たち英雄になったんだな」
そう思いながらあの山火事から3年経ったある日、サルはその山に戻ってきました。そうすると山に緑が少し戻っていました。そして仲間たちも何匹か帰ってきていました。そこで、再びサルは平和に暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。

10以上
102726 まるちゃん シンデレラ〜魔法使いより〜  私の名前はアデール。45歳。小さな町でひっそりと暮らしている。もちろん一人で。本当は、夫と娘の3人で幸せに暮らしているはずだった。はずだったのだ。しかし、そんな幸せな生活を一瞬で奪い去る出来事が起こった。交通事故だ。私は頭を強打し、今までの記憶がすべてなくなってしまった。住所や夫と娘の名前、今までの人生すべて。唯一残っていたのは、「アデール」という自分の名前と、夫と娘と撮った写真だけ。本当に何もかも失った。その代わりに、奇妙な力が宿った。「魔法」である。
 その魔法を使って、自分ができる精一杯のことをしようと、私は多くの人々を助けてきた。
日本中がきれいに雪化粧したある日、私の町にシンデレラという若い女性がやってきた。その女性は両親を亡くしたため、継母のところへ引き取られたのだ。その継母というのが、町一番のいじわるおばさん。昔から知ってはいるが、あの人にだけは魔法を使ったことがない。なぜなら、私は人に不幸をもたらす者には決して魔法を使わないと心に決めているからである。
 私はシンデレラが心配で夜も眠れなかった。なぜか妙に彼女のことが気になるのだ。空飛ぶ杖にまたがり、一目散にシンデレラがいる継母の城へ向かった。私の予想は的中した。
「シンデレラ!早くこっちへ来なさい!」
「はい。お母様。」
「今日はトイレと馬小屋の掃除。終わったらお風呂の掃除よ!」
「はい。お母様。」
「わかったなら早く始めなさい!」
「はい。お母様…。」
 シンデレラは薄い布の服一枚にボロボロのズボンを着せられ、ぶるぶる震えながら掃除を始めた。私の心の中は、継母に対する怒りでいっぱいであった。
 私は来る日も来る日もシンデレラの様子を見に行った。気になって仕方なかったのだ。
 そんなある日。お手紙が届いた。
“1867年12月24日 舞踏会を行います。ぜひみなさんお越しください。”
 これだ!私はひらめいた。シンデレラをこの舞踏会に参加させ、継母から解放してあげよう。もう彼女にあんなひどい扱いを受けてほしくない。そして思う存分楽しんでもらいたい。私は心からそう思った。
 そう決心した日から魔法を使う練習をした。シンデレラをまずあの城から脱出させなければならない。そのためには、壁を通り抜ける魔法が必要だ。
“ぴーぱらぱら、ぱらぱらぴー!”
あれ?通り抜けるどころか、壁が曲がって囲まれてしまった。
だめだ、全然だめ。よし、次はこれだ。
“ぷーぱらぱら、ぱらぱらぷー!”
 あれ?さっきまであった壁が全部なくなり、隣の家のお風呂が丸見え。
「きゃーーーー!!!」
ちょうどその時、隣の家に住んでいる老婆がお風呂に入っていたのだ。いつも穏やかでにこにこしている老婆だが、今回ばかりは笑顔のかけらもない。私は急いで魔法をかけた。
“ぽぽぽぽーん!”
 あっという間に壁は元通り。
 次はこれだ!
“ぽーぱらぱら、ぽーぱらぱら!”
 やっと成功した。
 次は、会場まで行くための馬車を用意しなくてはならない。それから舞踏会にぴったりのドレス、アクセサリー、かばん、靴。私はすべて用意できるように、毎日毎日練習した。しかし、一向にできる気配はない。あきらめかけたある日、一通の手紙が届いた。

「私を助けてください。シンデレラより。」
 私は自分の目を疑った。なぜ、シンデレラから…。どうして…。そして過去を必死に思い返した。
 わかった!壁の魔法を使ったとき、そばを通りかかった少女がいたことを思い出した。あれはシンデレラだったのだ。私が魔法使いだと知って、お手紙をくれたんだ。
 その手紙を受け取った日から、私の魔法使い魂が燃え盛り、練習に没頭した。失敗しても、めげずに努力し続けた。人のために頑張る楽しさを、日々感じていた。

 そして、舞踏会前日。やっと魔法が完成した。これでシンデレラを救うことができる、舞踏会で思いっきり楽しんでもらえると思うと、私は嬉しくて仕方なかった。
しかし、この魔法には一つだけ弱点がある。それは持続性だ。日をまたぐと一瞬にして消えてしまう。それだけ注意してもらわなければ。

 舞踏会当日。私は魔法を家で一通り行ってから、シンデレラのもとへ飛んでいった。
シンデレラはいつものように継母に怒鳴られながらも、必死に掃除をしていた。シンデレラを救うことができるのは、キッチンで掃除をしているときだけだ。このチャンスを逃したら、今までの努力が水の泡である。
 私は、シンデレラが掃除をしているキッチンに向かって、まず一つ目の魔法を使った。
“ぽーぱらぱら、ぽーぱらぱら!”
 すると人間一人が通れるほどの穴が壁にできた。そこから小さな声で私はこう言った。
「シンデレラ!アデールよ!あなたを助けに来たわ。さぁこっちへいらっしゃい。」
 シンデレラは、はっと一瞬驚いたが、ほうきを投げ捨て、私の胸へ飛び込んできた。
「アデールさん、本当に助けにきてくれたのね!ありがとう!」
 シンデレラの大粒の涙で、私の肩はすっかり濡れてしまった。私は必死で涙をこらえた。まだ私の任務は終わっていないのだ。
次は、馬車を出す魔法だ。
“ぱーぱーぱんぷきん!”
あたり一面白い煙に覆われ、その中からきらきら光るかぼちゃの形をした馬車が出てきた。シンデレラは開いた口がふさがらない様子であった。
次は、衣装。シンデレラに向かって…
“くるくる、くるくる、ドレスチェーンジ!”
シンデレラはあっという間にドレスや、きらきら光るアクセサリーを身にまとい、誰もが認める美しい女性へと変身した。しかし、私はひとつ異変に気付いた。それは靴である。サイズがまったくといっていいほど合ってなかったのだ。この靴では、さすがに踊れない。それどころかみんなの笑いの的になってしまう。どうしたらいいのだろうか。そんなことを考えているうちに、時間は刻々と過ぎていく。舞踏会まであと30分。

私はシンデレラをその場に残し、一目散に家に帰った。将来、娘に会えたときに履かせようと思っていたガラスの靴があることを思い出したのだ。娘は極端に足の大きさが小さかったので、特注で作ってもらっていたのだ。その靴を持ってほうきにまたがった。この戻っている間に、継母やほかの住人に見つかっていないか心配で、私の心臓の音は速くなる。急いでシンデレラのもとへ飛んでいった。

上空から城の様子が見える。継母は来客の対応に追われ、娘たちは舞踏会の準備に夢中になっていた。私はほっとし、キッチンの裏へ行った。
シンデレラの前にガラスの靴をきれいにそろえて並べた。そしてシンデレラはゆっくりとその靴を履いた。
ぴったりだ。本当に嬉しかった。しかし、のんびりしている暇はない。シンデレラとともにかぼちゃの馬車に乗り込み、会場へと向かった。
馬車の中で、私はこの魔法の説明をした。
「シンデレラ、よく聞いて。この魔法は、0時を過ぎるとなくなってしまうの。だから、0時より前に、必ず会場の外の庭に来てちょうだい。約束ができないのなら、あなたは舞踏会に参加してはだめ。さぁ、どうする?」
「わかりました、アデールさん。本当に、本当にありがとう。」
「約束よ。あと、このペンダントを渡しておくわ。効果は秘密。いざというとき、あなたを救ってくれるわ。」
 そう言って、私は小さなペンダントをシンデレラの首にかけた。それと同時に私たちは会場に到着した。
 シンデレラは馬車から降り、もう一度お礼を言って、大きく手を振りながら会場へ向かった。満面の笑みだった。その笑顔を見た瞬間、私は達成感で胸がいっぱいになった。

 シンデレラの様子が気になり、私も少しだけ舞踏会に参加することにした。会場はまばゆいばかりに光り輝くシャンデリアが天井を埋めつくし、集まった人はみなここぞとばかりに宝石を全身に身につけていた。その中には、あの継母と姉たちもいた。気合いの入れ具合に思わず笑ってしまった。
 肝心なシンデレラを探すが見つからない。迷ってしまったのだろうか。不安に襲われていたその時。きぃーっと奥の扉が開いた。そこには光り輝く一人の女性。みな、そのオーラに引き寄せられ、虜となった。その女性の正体は、そう、シンデレラだ。
 この舞踏会の主役である王子が、一目散にシンデレラのもとへ向かった。そして、りんごのように顔を真っ赤にして、こう言った。
「ぼくと踊ってくれませんか…?」
シンデレラもトマトのように顔を真っ赤にして答えた。
「はい。お願いします。」
まわりから拍手と歓声が沸き起こった。私は誰よりも喜んだ。幸せそうなシンデレラを見て、私まで幸せになった。
 もう大丈夫だろうと思い、私は会場をあとにした。
 約束の0時が近づき、私は約束の庭へ向かった。
 11時55分。56分。57分。
 一向にシンデレラはやってこない。やってくる気配すらない。私は平常心でいられなかった。
 そのころ、シンデレラは王子と踊ることに夢中になりすぎて、魔法の約束をすっかり忘れてしまっていた。
 ゴォーン。ゴォーン。
 0時の鐘が城中に響き渡った。シンデレラは、はっと我に返り私が待っている庭へと向かおうとした。しかし、王子がシンデレラの腕をつかみ離さなかった。
そのとき、シンデレラの首にかけられたペンダントが輝き、会場中が光に包まれた。目も開けられないほど光っていた。私はこのすきにシンデレラを会場から連れ出し、庭へ戻った。
 庭に着いた途端、すべての魔法がとけ、シンデレラは継母に用意された汚い服を着た女性に戻った。残ったのはガラスの靴だけ。しかも片一方。
「アデールさん、ごめんなさい。ガラスの靴を片一方落としてきてしまったようです。走ることに必死になりすぎて、気付きませんでした。」
「いいのよ、シンデレラ。気にすることないわ。あなたの幸せそうな姿を見ることができて、本当に良かった。」
 私は心の底からそう思い、シンデレラに伝えた。
その後、私はシンデレラを連れて家へ戻った。そこでシンデレラは1枚の写真を手に取り、私に話しかけた。
「アデールさん、これ…だれ?」
シンデレラが手にしていたのは、夫と娘と3人で最後に撮った写真だった。
「これはね、私の夫と娘よ。かわいいでしょ。」
しばらく返答がなかった。
「シンデレラ?」
シンデレラは瞬きもせず、目をまん丸にして写真を覗き込んでいた。
「これ…私のパパ。それで…この女の子は…私だわ!!!」
「え…なんて?」
「だから、私とパパなの!」
私はシンデレラの発言を信じることができなかったが、シンデレラの首元にあるハート型のほくろと、写真の中の娘の首元にあるハート型のほくろがまったく一緒であることは、間違いなかった。
「あなたが、私の娘だったのね!ずっとずっと会いたかった!」
「アデールさん、いや、お母さん!私も会いたかった!」
 私たちは、抱き合い、大声で泣いた。
それからシンデレラと一緒に住むようになった。
最初、シンデレラがこの町にきたときから、彼女のことが気になって仕方なかったこと、ガラスの靴がぴったりだったこと、思い返せば気付けるところがいっぱいだった。

数日後、王子がシンデレラを訪ねてやってきた。
「このガラスの靴の持ち主を探しております。履いていただいてもよろしいでしょうか。」
シンデレラはためらいもなく履き、ぴったりであることを証明した。
 そして二人はめでたく結婚し、私とシンデレラと王子の3人で幸せに暮らしました。
7
102727 もそもそ 〜初めての恋〜 中学2年生の3学期がもう終わろうとしていた頃、あれはたしか4時限目で、数学の授業中だったような気がする。先生の板書を必死にノートに書き留めていたとき、ちょうど左斜め後ろの席に座っていた同じ班のSさんに突然肩をたたかれ、
「後でちょっと話したいことがあるんやけど、いい?」
と言われ僕(M)は少しドキッとした。ふと頭に浮かんだのはもしかすると告白されるのでないのか、という期待感と或いは何かやらかしてしまったのではないか、という不安であった。Sさんの言葉がやけにひっかかり、その授業に全く集中することが出来なかったように思う。
 そして授業が終わり、再び声をかけられた。
「ごめんね、ちょっといい?」
「うん、いいよ。」
「ほんといきなりこんなこと言って引くかもしれんけど」
「・・・うん。」
「・・・M君のこと好き・・なんやけど」
「・・・・・・・ま、マジかっ!!あ、ありがとう。」
「でね、もしよかったら付き合ってほしいなって。嫌ならいいんやけど・・・。」
僕は焦った。とにかくその頃の純粋な僕には、告白など妄想の中だけの話で実際にされるなどとは少しも思っていなかったのだ。だがその妄想が現実となった途端、どうすればよいのか、まだ経験の浅かった僕は即座に返事をすることもできずただ戸惑うばかりであった。そして何を血迷ったのかその告白を断ってしまったのだ。それから、たまたまその日が給食当番だった僕はエプロンに着替え給食の準備に取りかかり、何事もなかったかのように振る舞った。
 配膳しおわり、当番としての仕事を終えてようやく席に着いた。その時ふと目に入ったのだが、いつもそこに座っているはずのSさんが座っておらず、他の班の男の娘が座っているではないか。僕は悟った。なぜいつもそこに座っているはずのSさんがそこにいないのかを。Sさんが今どんな気持ちなのかを。
 そしてその男の娘の代わりに座っているSさんの姿を見つけると、なんとSさんは泣いていたのだ。僕はその光景に目にし、思わずたじろいでしまった。自分が泣かせてしまった、という申し訳なさとこれからどう接すればいいのだろうという動揺で頭が真っ白になった。
 そうして、その日はSさんとは一言も言葉を交わすことなく午後の授業を終えてそのまま帰宅した。僕はその日とても複雑な心境であった。少し時間がたって気持ちの整理ができると、だんだんと嬉しい気持ちが心の底からこみ上げてきて、そういえばSさんとは最近仲がよかったなぁと思いかえしたりもして、よくよく考えるとSさんが僕のことを好きなったきっかけはもしかするとアレかなぁというような心当たりもあったことはあった。そんな風にSさんのことを考えているうちに、自分に好意を抱いてくれている子にあの対応はひどかったのではないかと思ったので、友達にSさんのメールアドレスを聞いてメールを送ってみた。
「さっきはありがとう^^あまりに急すぎてびっくりしちゃってさ!ほんとはめっちゃ嬉しかったんやけど思わず断ってしまった!ごめん!!」
すると、少したって返信がきた。
「メールありがとう!いやいや、こっちこそ急にあんなこと言ってごめんね。」
僕はそのメールになんて返信すればよいのか迷った。というのも、告白されてすごく嬉しかったしSさんのことも友達としては好きだったのだが、その時はなぜか付き合いたいとまでは思わなかったのだ。そして僕は悩んだ末、返信した。
「うん、ほんとにありがとうな!!ただ、付き合うかどうかはもうちょっと考えさせてくれへんかなぁ(._.)」
と。(今思えば、ここではっきり言ってしまえばよかったのだろう。)
それからしばらく悩んだが、結局付き合う決心がつかないまま時が過ぎた。僕はなぜだか無性に返事をすることに恐怖を抱いていた。ここで断ってしまったら今まで築きあげてきた関係が全てなくなってしまいそうで、怖くて、仕方なかった。
そうこうしているうちに中学生活も終盤をむかえ、卒業の時期が来てしまった。しかしながら、結局僕はあれからきちんと返事をすることはなく一度も連絡をとることはなかった。
そして無事に中学を卒業し、仲の良かった友達はみんな違う高校に進学しばらばらになってしまい、それからというもののメールもしなくなっていった。だけど、僕は心の中ではいつもSさんのことが気になっていたのだ。なんといってもあんな中途半端な形で終わらせてしまった自分の情けなさと不誠実さにとてつもない後悔を感じていた。Sさんはあんなにも勇気を振り絞って告白してくれたのに、あんなにも涙を流してくれたのに、僕は何もしてやれなかったことが本当に悔しかったのだ。
高校3年間は特に色恋沙汰などはなく平凡極まりない生活を送った。この3年間はなぜか恋愛にそれほど興味がわくことがなく、Sさんへの気持ちも徐々に薄れていったのであった。

そんな僕に転機がおとずれたのは、大学2回生の頃だった。高校時代までとは違って少しずつ大人になっていく自分を感じつつとても充実した楽しい日々を過ごしていたせいか、Sさんのことはもうすっかり忘れていたのだったが、成人式を間近に控えていた12月の終わり頃、Sさんのことがなぜだか急に頭をよぎり胸を締めつけた。「成人式でもしSさんに会うようなことがあればどう声をかければよいのだろう。結局6年前、僕が中途半端に断ち切ってしまったあの一瞬の出来事は今でもまだSさんの心の中に、ありつづけているのだろうか、或いはもう忘れてしまっているのだろうか。」などと考えれば考えるほど複雑な気持ちになってしまった。そして、気付けばいつのまにか僕は無性にSさんに会いたくなっていた。
成人式当日、僕は高校の時の友達と一緒に会場へ向かった。そこはすでに多くの参加者で賑わいでいて、知り合いを探すのが大変なことに思われたが以外にもあっさり見つけることができ少しほっとした。みんな大学生になっていたり社会人になって立派に働いていたりで雰囲気がかなりかわっていた子もいたがなんだかんだやっぱり分かるものだなぁと思いふけっけいた。
周りを見渡すと、中学の時の友達がいる集団を見つけ僕はそこに迷わず駆けつけ声をかけた。
「おぅ!!久しぶり!」
「おぅ!!!久しぶりやな、元気にしとるか!?」
       ・
       ・
       ・
       ・
「じゃ、またあとでなぁ!」
しばらく話しこみ、友達といったん別れた、その時だった。僕はSさんを見つけた。着物に身をつつんだ愛らしいSさんを。そして一気に気持ちが高揚した。そのせいか、勢いよく近づき声をかけその流れで写真まで撮ってしまった。
 僕はSさんに会えたことがとてつもなく嬉しかった。半ばあきらめていたから余計に。しかも、あの頃から何も変わっていない、少し控え目なところがより僕の心をやきもきさせた。Sさんは基本的にそれほど社交的とは言い難い性格だったが、身うちにおいてはそこそこ明るい性格で良く話すので仲良くなってしまえばこころを開いてくれるのだ。そんなSさんに、僕は再会してまもなく、気付けば惚れてしまっていたのだ。ただ、あまりに久しぶりなのとかつての淡い思い出が邪魔をしてしまって、お互いなかなか話を切り出せないでいた。
 すると、思いだしたかのように突然Sさんの友達が同窓会の話をし始めた。同窓会は成人式の後に行われることになっていて、僕も一応参加ということになっていた。しかしながら僕はあまりその同窓会の出席には気が乗らなかった。それほど仲の良い友達も参加する気配はなかったからだ。そんなこんなで悩んでいた時、Sさんが口を開いた。
「私らは同窓会とは別に身内で飲み会するつもりなんやけど、来る??」
この言葉を聞いて迷わず、
「行く!!」
とこたえた。
まさかこんな展開になろうとは到底思ってもなかったので、なんだか願ったり叶ったりだなぁと信じられない気持ちでいた。
 無事成人式が終わって、まず飲み会の場所を探しに近くの居酒屋を探しまわった。が、やはりこういう日なだけあってどこも予約でいっぱいだった。結局僕らは近くのカラオケに行くことになった。
カラオケではみんなでアニソンを歌ったり時には演歌を歌ってみたりと、とても楽しい時間を過ごした。そしていろんな話をした。中学の時の懐かしい思い出、それから卒業してからのことなどとにかく喋って喋って喋りたおした。ちなみに僕はSさんとだけ、実は携帯のメールアドレスの交換していた。
そうして僕らは朝まで歌い、語り合いこの上ない充実感で満たされていた。このままずっとSさんと一緒に楽しい時間を過ごせたらなぁと。そんなこんなでそろそろ別れの時間がやってしまった。少しさびしかったが、僕はメールアドレスを聞いていたのでまた後でメールしよう、とそのことばかり考えていて頭がいっぱいっだった。

みんなと解散し、帰宅してからSさんにメールを送ってみた。するとすぐに返信が来たが、メールは面倒なので電話で話そうということになった。

僕は、あの時何事もなかったかのように、一つの恋を終わらせてしまっていたことに対する謝罪をSさんに全て思いのまま話した。Sさんも心を開いて、照れながらもいろいろと話してくれた。あの時Sさんはどんな気持ちだったのか、どうして何のとりえのない僕を好きになったのか、今まで聞きたかったけど聞けなかったこと全部聞いてみた。それから、僕はとにかく謝った。本当は嬉しかったはずの告白を、僕があまりに幼すぎたせいでつい断ってしまったこと。それが原因でSさんを泣かせてしまったこと。ずっと心の奥底で後悔してたその想いの全てをぶつけた。

電話越しに聞こえてくる声。その声をずっときいていたいと思った。だけど、君の全てを知ってしまった僕は、ただただ、泣かずにはいられなかった。
・・・そう、それはまさにあの時、君が僕に抱いてくれていた感情そのものだった。
君はもう、とっくに僕の手の届かないところにいたんだね。
あれからずっと思い続けてきたこの想いはなんだったのだろうか。それを思うとどうしても涙が止まらなかった・・・。
7
102728 カプチーノ センター試験 ジリリリリリリリッ!!
暖かい陽がカーテンの隙間から差し込んでいる。布団をめくりあげ、むくっと起き上がる。ベッドの横に置かれた目覚まし時計をうっとうしそうな顔をしながら、時計の頭をたたく。いつものように階段を駆け下りて、洗面所に向かう。きれいに並んである歯を奥歯から磨き上げる。いつものように2回、口をゆすぐ。磨き残しはない。いつものように顔に水をぶちまけ、いつものように食卓へ。いつもとは少し違う朝ごはん。いつものパンに加えバナナが置いてある。急いでそれらを胃の中に流し込み、いつものように着替える。昼ごはん(バナナを含む)をカバンに入れる。いつもと同じ靴を履くが、いつもとは違う面である。ドアノブに手を伸ばし、右に捻り外へ飛び出す。いつもとは違うところへ向かう。そのときのケントの顔は太陽の日差しに隠れてあまり見えない。

今日はセンター試験当日である。

 受験生がぞろぞろと会場に入っていく。ケントは電車で一緒になった親友のフェルナンド・トーレスと話しながら向かっている。あまり緊張はしていないようだ。リラックスした表情で受験とは全く関係のない話をしている。会場には同じ高校の友達がたくさんいる。
ケントはフェルナンド・トーレスと別れ、自分の教室に向かう。

 30分前に教室に着いた。教室にはすでに人がけっこういる。大半が高校の友達だ。

1限目は政治・経済だ。政経には自信がある。センターの過去問でも90点を切ったことがない。
ケント「まあ、大丈夫だろう。」
心の中でそう思い、少しでも自分の力を出せるよう、友達と話して、リラックスする。そうしているうちにスーツを着た30代くらいの男性が教室に入ってくる。眼鏡をかけている。当り前な試験を受けるにあたっての注意を長々と聞かされる。正直、だるい。

試験官「試験開始5分前です。受験する社会を受験する方は自分の席について、受験表を机の右上に出してください。」

いよいよ試験がはじまる。それほど緊張はない。

試験官「それでは試験を始めます。試験時間は60分です。それでは始めてください。」

カタッ、ペリペリペリッッ!

呪文でも唱えられたのだろうか、と思うほどみんなが一斉に鉛筆を持ち、テスト用紙をめくる。もちろんケントも呪文を唱えられたようにそうしている。だが、表情は落ち着いている。

………

何事もなく、センター試験1日目は終了した。
息をはくと白ながらも、太陽の日が暖かい。
ケント「フェルナンド・トーレス、センターどやった?」
トーレス「まあまあかなー。ケントは?」
ケント「古典わけわからんかった…今から塾行かん?」
トーレス「そやな!とりあえず行こか!もう勉強する気力もないけどー笑」
今さらだが、フェルナンド・トーレスは見た目、名前は外国人だが、日本生まれの日本育ちである。もちろん日本語はペラペラ、英語は並みである。
とりあえず、塾に向かうため、電車に乗った。

「こんにちわ」
いつも通り、塾のスタッフがあいさつをしてくる。そしてすぐに二言目が飛んでくる。やはりセンター試験の話題だ。ケントとフェルナンド・トーレスはセンターの出来を軽く話し、自習室に向かおうとする。すると、スタッフから一言
「今日、自己採点は絶対にするなよ!!考えたくないけど、悪かったとき精神的にやられるからな!」
「はーい。」
ケントとフェルナンド・トーレスは軽く返事をし、自習室に行く。
自習室はセンター試験1日目のためか、ガラリとしている。いつもなら靴箱に入りきらずに、靴があふれているが、今日はなんともさみしい光景だ。さっそく、ケントとトーレスは椅子に座るが、勉強する気配はない。

ケント「なあトーレス、採点しちゃわん?笑」
まったくスタッフの話など聞いていないようだ。
トーレス「そやな!やることないしやってまおか!」
はやる気持ちを抑えきれずにやってしまう。
テスト用紙をカバンから出す。そのときかばんからポロリと物が落ちる。昨日、わざわざ、塾の帰りに100円ショップによって買った真新しい鉛筆削りだ。落ちた衝撃を受けた鉛筆削りは、鉛筆の削りかすを床にぶちまけてしまう。ケントはそれに気付いたが、そんなことはそっちのけで筆箱から赤ペンをとりだす。テスト用紙に手を伸ばし、1枚目をめくる。答え合わせを始めようとするが、何気に緊張してなかなかできない。
 そんなケントを横目にフェルナンド・トーレスは迷いもせずに答え合わせをし始める。それを見てケントもし始める。1問ごとに唸りながら進めていく。政経:92点 国語:147点 英語:185点 リスニング:42点 上々の出来だ。フェルナンド・トーレスのほうもなかなかよかったようだ。自然と笑みがこぼれている。
 二人はスタッフに採点結果を言いに受付に向かう。するとそこにはレオナルド・ガ・ヴィンチがいる。頭を机につけうなだれている。どうやらよくなかったらしい。ちなみに彼、レオナルド・ガ・ヴィンチは1浪している塾の先輩だ。ケントたちは軽く会釈をし、スタッフに話しかける。

二人「採点してしまいました。笑」
スタッフ「おいwwどうやったん?」
ケント「英語とか185点ありましたよ(^^)v」
トーレス「僕も182点ありました(^^)v」
ガ・ヴィンチ「え、めっちゃいいやん(=_=)」

ガ・ヴィンチは目を落とす。
ケントとフェルナンド・トーレスはいわゆる“KY”だったようだ。


そうしているうちに閉校時間の22時になったしまった。すでに外は真っ暗だ。なんとも無駄な時間を過ごしてしまったと思うかもしれないが、とてもリラックスできた。ケント的には満足している。
 外に出ると、昼間は快晴だったが今は何となくどんよりしている。ケントとフェルナンド・トーレスは駅の駐輪場に行き、自分の自転車を見つけ、まっすぐ家に帰る。
 ケントは家に着き、いつも通り夜ごはんを食べ、風呂に入ろうとする。時計の針はすでに両方とも頂点をさそうとしている。早く寝なければいけないと思いながらも風呂にはゆっくり入りたい。そんな葛藤と抱きながらも結局1時間ほど入ってしまった。だが、疲れはだいぶ取れ、リラックスできた。いつもなら風呂からあがってからだらだらとするのだが、今日はすぐにベッドに向かう。部屋のカーテンを閉め、加湿器をつけ、暖房をつける。そのときの夜空は先ほどとは違い、星が輝いていた。

 ジリリリリリッッ!!
布団をめくり、むくっと起き上がる。目覚まし時計の頭をうっとうしそうに叩く。昨日とは違い、あたたかい日差しは差し込んでこない。今にも雨が降り出しそうな空だ。そんなことには目もくれず、階段を降り、いつも通りに事を進める。時計は6時。今日もテスト開始3時間前にはしっかり起きている。脳は起床してから最低3時間は経たないと働かない、ということをフェルナンド・トーレスに聞いたからだ。今日は朝食にバナナを2本食べた。Dooooooolのバナナだ。これで脳は活性化される。準備は完ぺきだ。家を出ようと
上着に手を掛ける。最近、若者に人気のNihaopanicだ。ちなみにこれは、今年の正月に福袋の景品で手にいれたものだ。まるであれは戦争のようだった……。そんなことはどうでもいい。昼ごはん(もちろんバナナを含む)をカバンに入れ、靴ひもを結ぶ。昨日とは違い、今日は顔も穏やかだ。さあ、出発だ。空はどんよりとしている。 

 車は渋滞している。その隣を自転車で爽快に漕いで行く。何とも愉快だ、と思いながらどんどん漕いで行く。DIGITAL MEDIA PLAYERの接続されたイヤホンを耳につけ、ルンルンな気分で行っているとすぐに駅についた。駅のすぐそばにある駐輪場に止める。そこには黒猫がいる。何ともかわいらしい、毛づやのいい猫だ。買われているのだろうか、首に鈴が付いている。少しその猫と少し戯れてからホームに向かう。そこで待ち合わせていたフェルナンド・トーレスと落ち合う。今日はなぜかすごくキメている。BEANSのトレンチコートを身にまとい、顔には伊達眼鏡をかけている。頭はワックスを付けている。髪の毛がツンツンだ。おしゃれしていることはあえてスルーする。フェルナンド・トーレスはものすごくかまってほしそうな顔をしている。だが、スルーする。スッと話をセンター試験の話題に切り替ると、あきらめたのだろうか、少し悲しそうな顔をして、目線を下に向ける。少しかわいそうに思ったので、ここで初めて聞いてやる…。会場までの30分間、このやりくりを楽しんだ。

 センター試験二日目、初日よりも受験者は少ないようだ。今日は理系科目しかないので、おそらく私立文系志望の人たちが減ったのだろう。まあ、そんなことは関係ない。初日と同じように、フェルナンド・トーレスと別れ、それぞれの教室へ向かう。

 実は、ケントはすごく自身がある。理系だからだ。特に数学T・Aに至ってはセンター過去問で3ケタを普通に取れていた。数学U・B、物理、化学も軽く90点を超えていた。
ケント「落ち着いて自分の力を出せば大丈夫や。」
そう心に言い聞かせ、試験時間のなるのを待つ。

試験管「それでは試験を始めてください。」

数学T・Aのテストが始まった。気持ちいいくらいにすらすらとマークしていくケント。第一問を7分で終わらせる。どこか微笑しているようだ。そして第二問に差し掛かり、少しすると手が止まる。
ケント「1分考えて無理なら、後回し。あせったら負け」
そう言い聞かせる。その問題は後回しにし、次の問題にとりかかろうとテスト用紙をめくる。手は動かない。そしてまたテスト用紙をめくる。手は動かない。
ケント「え、全くわからん。どうしよ…」
鉛筆と紙がこすれる音がケントの耳を襲う。そして、予備校の浪人生、イフラビモ・ビッチの言葉が頭をよぎる。
ビッチ「一回くらい浪人したほうがええねん。経験や。お前も浪人してまえー(笑)」
ケント「浪人だけは嫌だ、落ち着け、落ち着け、落ち着け…。」
そう言い聞かせるが、それでもイフラビモ・ビッチの言葉が頭をこだまする。テスト中であるが、浪人をしている自分を想像してしまう。あせって計算しようとするが、鉛筆は空を描くだけで全くテスト用紙は汚れていかない。
 そうこうしているうちに、数学T・Aのテストは終わってしまった。終わるとすぐに同じ教室の同じ高校の女友達が泣いている。正直、ケントも泣きたいくらいだ。だがしかし、くよくよしてられない。なんとか、今後の教科で挽回しなければ。
 多少ショックを受けていて、MAXは出せなかったかもしれないが、なんとか持ちこたえた、というような出来だ。会場を出たところで、フェルナンド・トーレスと落ち合い、昨日と同じように、塾に向かう。
 塾に着き、スタッフに軽く失敗したことを告げ、自習室に向かう。今日も自習している生徒はいない。さっそく自己採点に取り掛かろうといつもの机に向かうと足の裏に何か感触がある。昨日の鉛筆のカスだ。
ケント「今日ほんまいいことないわー」
そうつぶやき、足に着いたカスを払う。
 自己採点が終了した。結果は全体で78%だ。問題の二日目は 数T・A 48点 他は90パーセント超えだ。数T・Aを失敗した割にはよくとれたと思う。フェルナンド・トーレスはというと、彼も数T・Aにはやられたようだ。全体としては76パーセント。両方とも第一志望合格には厳しい数字だが、二人の心は決まっていた。それは【第一志望現役合格】。この道は決して平たんな道ではないが、二人の目はやる気に満ちあふれている。まだまだ、合格への戦いは始まったばかりだ。
 カーテンの隙間から暖かい日差しが差し込んでいる。
5
102729 マザーテレサ 本当の強さ  都市から離れた1つの町。そこには1学年4クラスと、まあどこにでもありそうな中学がある。頭がよく成績がいい生徒、運動や芸術ができて部活動に一生懸命取り組んでいる生徒、特に好きなこともなく一般的にいう「帰宅部」に所属している生徒。全員がそのどれかに所属しているというまさに普通の中学である。中学校の名前は西松中学校。町の人達からは「西中」と呼ばれている。その西中の2年2組に佐々木健二という生徒がいる。健二という生徒は、勉強は嫌いで成績はよろしくない。小学校までは野球をしており運動神経は良い方なのだが、あまりやる気がない子どもで、中学校では特に部活にも入っていない。つまり「帰宅部」なのである。勉強もせず運動もしない健二は、軽い気持ちでタバコを覚え、家に帰らず遊びに行っているうちに喧嘩も増え、世の中で言う不良少年になってしまっていた。生まれたときから背は高く、がっちりした体型であり腕っ節も強かった。そのおかげで喧嘩は負けしらずであり西中では他の生徒から恐れられている不良グループのリーダー的存在であった。そんな健二があんな出来ごとに遭遇するなんて健二自身想像もしていなっかた。

 「おい、一郎。今日6時から北中との喧嘩あるから来いよ。」
 「今日は俺風邪気味やし遠慮しとくよ。」
 「おいおい北中との喧嘩があるんだぞ。お前来ないってことは俺らを裏切るってことなんだな。」
 「そんなことないよ。本当に気分悪いんだよ。」
 「お前なあ。そんなんが通用すると思ってるのかよ。」
ある夏休み前の放課後の会話である。この2日前にゲームセンターで北丘中学校、通称「北中」の不良グループと肩があたっただの、眼飛ばしただの、些細なしょうもないことがきっかけで喧嘩になったのである。昔から因縁の仲であった北中との出来ごとだったので、今回の喧嘩でどっちが強いのか決めようとなったのである。健二はいつも一緒におり仲間と思っている一郎にまず声をかけたのである。
 「わかったよ。健二がそういうなら行くよ。」
一郎はしぶしぶ答えた。
この会話を聞いたら誰もがわかるように、健二はいわいる自己ちゅーの人間なのである。もともとそうだったわけではなく、不良になってしまい自分が西中で一番強いと言われ始め、調子に乗ってしまっているのである。西中の生徒達は今回の喧嘩はあまり乗り気ではなく、行きたくないと思っている生徒がほとんどであった。なぜなのかというと来週にはみんなが楽しみにしてる文化祭があるからである。不良少年たちもなんだかんだいってまだ14歳や15歳そこらの子どもなのである。怪我をして文化祭に参加できないのが嫌なのである。しかしいかなければ自分が健二に殴られ、いじめられるかもしれない。それが怖くて喧嘩に行きたくないと言えなかったのである。
 6時になった。喧嘩の場所に西中が健二、一郎を含め15人。一方北中は倍の30人が揃っていた。
 「おい、佐々木。西中はそれだけか。降散するならやめてやってもいいぞ。」
 「そんなわけないだろ。みんないくぞ。」
喧嘩は始まった。健二がいくら強いといっても倍の人増を相手に勝てるわけがないのである。西中はみんなぼこぼこに殴られてしまった。そして怖くなった西中は走って逃げたのである。残ったのは健二と一郎だけである。
 「一郎、二人であいつらぶっ殺してやろうぜ。」
 「わー。」
健二は目を疑った。一郎が背を向けて逃げ出したのである。
「一郎、何してるんだよ。」
残ったのは健二だけである。
「佐々木、お前一人でもやるんか。」
「俺は負けねー。まだ終わってまいだろ。」
健二は気を失うまでぼこぼこにされた・・・。



「いってー。あいつら覚えとけよ・・・ってここどこだ。」
目が覚めた健二は自分の目の前で何が起こっているのか理解できなかった。服装は袴、頭はちょんまげを結った男が3人自分のまわりにいる。
 「誰・・・、誰ですか」
 「おっ、やっと気づいたか。おまん5日間寝っぱなしだったんだぞ。」
何が何だかわからない。俺は夢を見ているのか・・・?健二は茫然とした。しかし意識はしっかりしており、この前喧嘩で殴られた顔もかなり痛む。夢だったら痛まないだろ・・・? 
 「ここはどこなんですか。」
 「江戸だが、おぬしは何を言っておるのか。」
江戸・・・?東京じゃなくて江戸・・・?
 「江戸ってあの江戸ですか。今は2012年ですよね?」
 「何を言っておる。今は1625年だが。おぬし名はなんという」
 「佐々木健二です。僕はどこに倒れていたのですか。」
 「せっしゃの名は若丸と申す。おぬしはせっしゃの庭で倒れておられた。
話を聞いていくうちにわかったことがある。健二は江戸にタイムスリップしてしまったようである。そして若丸という同じ年ぐらいの青年を含んだ3人が助けてくれたらしい。気の強そうな顔をしてる若丸だが、健二が記憶喪失になってしまい家に帰れないと言うと、記憶が戻るまで家にいてもいいと許可をしてくれた。
 それから1カ月がたった。最初は戸惑い、何をどうしたらよいのか全くわからなかったが、日が経ち毎日考えていると、このままではいけない、自分はこの世界で生きていかなければならない、という考えができるようになってきた。とはいっても何をすればいいのかわからないからとりあえず、若丸について毎日行動していた。若丸の家は農民だがまわりの反応をみる限り農民のなかでは少し裕福な家らしい。その影響もあってか若丸は周りの青年のリーダー格の人間であった。健二は若丸の近くにいて感じたことがある。言葉では表せないものであるが、自分にはないなにかであるということを健二は気づいていた。それとともに健二も若丸の魅力にひかれていった。この時代にはテレビもなければゲームセンターもない。しかし2012年の時代の若者にはなかった活気というものにあふれている時代だった。
 ある日いつものように若丸と健二、あと5人の仲間達とともに畑にむかって歩いていたら、反対側から武士が馬に乗り歩いてきた。この時代武士と農民がすれ違うときは、農民が道を譲らなければならないというルールがあった。7人は道を譲り地面にひざまついていると仲間の一人、草賀という少年の前にへびが現れた。草賀はびっくりして思わず避けてしまった。避けた草賀と武士の乗っている馬がぶつかり、武士は落馬してしまった。江戸時代にこのような出来事は、謝ったらすむ問題ではない。
 「お前何をしておる。」
 「す、すいません。」
 「すいませんですむものか、こっちへこい」
武士は草賀を殴り始めた。健二は助けたいという気持ちはあったが、助けに行ったら自分が殺されてしまう。自分がいっても何も解決できない。そう思いその場にひざまついていることしかできなかった。するとそのとき
「やめてください。こいつは私の弟、殴るのなら私をなぐってください。」
 「それではお前がこいつの変わりに罰をうけて首を切られる覚悟があるというのだな。」
 「はい、私の首で良ければ好きなようにしてください。」
 「おい、若丸・・・」
草賀は若丸の本当の弟ではない。しかし若丸は草賀を守るために自分が名乗りでたのである。健二は動揺した。しかしこの場に及んでもすぐに助けに動くことができなかった。若丸は首を切られ、武士は満足したようにその場からいなくなった。最初は何が起きたかわからなかったが事の重大さに健二も気付いた。
 「若丸〜」
みんなで泣き崩れた。健二も心から泣いた。健二のなかで若丸という存在は本当に特別なものになっていたのである。そしてあの時自分は何にもできなかった。草賀や若丸があんな辛い目にあっているのに、一歩も踏み出せなかった。その後悔と悔しさがあふれてきた。
 その事件の夜、健二は布団の中でたくさんのことを考えた。若丸のあのときの気持ち、草賀の気持ち、そして自分の気持ち。健二は自分の弱さを知り、若丸のようにもっと強い人間になろう、そう決意したのである。




 目が覚めたとき、そこは2012年の家のベッドであった。寝る前になんとなくだが自分が現代に戻る予感がしていた健二は、あまり驚きはなかった。しかし、カレンダーの日付をみてすこしびっくりした。その日付とはあの喧嘩の日の朝なのである。健二は考えた。あの江戸時代にタイムスリップした記憶は夢だったんだろうか・・・。それとも現実だったんだろうか・・・。どっちにしろ俺はなんで江戸時代にいき、若丸という人物に出会い、その若丸が死ぬ瞬間をみたんだろうか・・・。これから俺はどうやって生きていけばいいのだろうか・・・。そして一つの答えを見つけたのだ。

健二は学校に行った。みんなは何もおかしな様子はなく、いつものように朝練をしたり、トイレでタバコを吸ったりしている。健二も不良が集うトイレに行った。
 「よー、健二。今日も授業だるいな。」
 「おっす。そうだよな。数学なんて全然わからねえしな。」
 「そういえばこの前北中のやつともめたんだってな。あれどうなったんだよ。」
 「どうもなってないよ。もう解決した。それより、文化祭の準備頑張らないと間にあわねえよな。」
 「おっ、健二が学校行事のこと話すなんて、めずらしいじゃねえかよ。」
 「そうか。まあ俺もたまには手伝わないとな。」
 「じゃあ今日の放課後準備しようぜ。」
 「いや、今日の放課後はちょっと行かなきゃいけないとこがあるんだ。また明日からは絶対に手伝うよ。」
 「そっか。んじゃとりあえずかったるい授業受けにいくか。」

放課後健二は一人で北中との喧嘩場所にいった。
 「おう、佐々木お前一人か。うちに白旗降ってくるなら許してやってもいいぞ。」
 「・・・。」
 「だまってないで何とか言えよ。」
 「これで、西中と北中の喧嘩最後にしてくれ。頼む。」
 健二は頭を下げた。
 「お前が勝ったら最後にしてやるよ。」
 「ありがとう、じゃあ始めるか。」
健二は何度殴られようと立ち上がった。その気合いに北中もびびってしまいその場から逃げていった。健二は心から思った。大きくなろう、と。


8
102935 #19 Dream ジリジリ・・・静かな部屋に目覚まし時計の音が響く。
いつも通りの朝を迎えいつものように家を出た。
通りなれたいつもの道を自転車を走らせて最寄りの駅まで向かっていた。
俺の名前は大山博。
ごく普通の会社員だ。普通の生活をしごく普通に生きている。
その日は気温も上がり雲ひとつない快晴だった。
あっという間に駅に着きいつものように各駅の電車に乗った。
いつも座れないのだがその日は偶然座ることができた。
「ラッキー。着くまで寝るとするか・・・」
眠ろうとしたその時電車が急に止まった・・・。
「なんだよいきなり。」
人身事故が起こったらしい。博は会社に電話をしてまた電車が走り出すのを待った。
しかしなかなか走り出そうとしなかった。
「早く俺を寝さしてくれ・・」
するとさっきまであんなに晴れていたのに急に空が曇り、雨が降り出した。
しばらくして電車が走り出したかと思うと博は眠りについていた。あっという間に
いつも降りている駅に着き会社に急いだ。
「ふぁ〜よく寝た。さあ仕事に行こうかな。」
会社につくとなぜかみんながざわついていた。
「なんだろう?」
部下に聞いたところ社長が死んだらしい・・・。
「まさかこれって・・・」
博は鳥肌が立った。確か今日の朝見た夢と同じ状況なのだ
博は必死に朝に見た夢を思い出していた・・・
夢をぼんやりと思いだす。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

アナウンスの声が聞こえる。
(ピンンパンポン・・・・・・・・・・・)
人混みの中にいた。いつも降りる駅ではなかった。どこの駅かははっきりわからない。だがその疑問が解消される前に場面としては一人のスーツ姿の男を追っていた。その男は走ってはいないが、それなりの早歩きで駅から遠ざかっていた。その男の後ろ姿に見覚えはない。外は明るいが朝か昼かははっきりしなかった。
男はある豪邸に入って行った。
「ここは・・・確か・・・」
博はそこが社長の住まいだと分かった。
ここで何度か食事会が行われておりその広さには驚かされた。
家の正面に来た時怒鳴り声が聞こえた。
「おま・・・・・・・いけ!!・・・・・・・・は・・・・・・・・な・・・・・・・・く!!!・・・・・・・・・・のむ!」
うまく聞き取れない。声の主は明らかに社長だ。いつしか口論になっていた。
先ほどの男だろうか。どうやら若い女もいるようだ。大きな音とともに
口論が止んだ。中から声の主であろう女が出てきた。
「なんでだよ・・・!!!」
博はその女を知っていた。知らないわけがなかった。

その女の正体は俺の母親だった。
と言っても10年前に離婚している。
理由はおれもよく聞かされていない。どうせありきたりな理由だったのだろう。
それから俺は親父と暮らし、母親は兄貴を連れて出て行ったきりだった。

・・・そうか!!あのスーツ姿・・・俺の兄貴だ!!
でもどうしてなんだ。なんで俺の兄貴と母親が社長のところへ・・・

そうして少しずつ夢を思い出しているときに俺の胸のポケットが震えだした。
知らない番号からの電話だった。
俺は一呼吸おいてから電話に出た。

「もしもし。」

数秒の沈黙が続いたあと受話器から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「博・・・ね。」

母親だった。俺がなんと話そうか悩んでいると向こうから話し始めた。

「大丈夫。お父さんのかたきは私たちがとってあげるから。」

俺は驚いた。
「なんで社長のせいで俺の親父の会社が倒産するはめになったことを
知ってんだよ。」
そう言おうとした瞬間に電話は切られた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その時俺の中の夢と現実とがつながった。
社長を殺したのは母親と兄貴だということ。
しかしこれは本当なのか??
でもなぜだ。なぜ親父と離婚したのにその親父のかたきをとるんだ・・・
俺は離婚の真相を知るために親父に電話した。
「ただいま電波の届かない場所にあるか電源が入っていないためかかりません・・・」
だが、つながらなかった。

待てよ・・・・
確か今回の倒産にはうちの社長とあそこの社長も絡んでいるんだった。

まさか・・・・・・・・
俺は急いで会社を出た。

空はますます暗くなっていた・・・


博は会社を飛び出したものの、暗くなっていく空をみて一息つくと、なんだかすべてどうでもよくなってきた。どこから現実でどこから夢なのかもわからない俺にいったい何ができるのか。昔に別れた母が父のかたきをうつといってもほっておけば良いじゃないか。多分母は父の会社を倒産においやった、うちの会社ともう1社の社長を殺そうとしているのかは知らないけど。今となったはあの母からの電話も夢だったかもしれない。
俺はそんなことを思いながら言いようもない虚無感を感じ、会社に戻って行った。

会社に着くと社員たちは先ほどと同じように騒いでいた。博は自分の席に座ると、目を閉じて天を仰いだ。夢と現実が分からなくなってしまった自分を癒すように。原因はストレスであろう。27を過ぎ、昇進もできず、年下の上司もできてしまった。仕事がうまくいかず、彼女とも最近別れた。そして挙句の果てに体重も信じられないくらい激減した。そんな博が目をつぶって浮かんできたのは母の顔だった。気遣いができ、頭のいい母だった。父も頭のいい社長で、二人とも一流大学を出ていた。幼いころは二人にあこがれ勉強に励んだ。しかしそんな博にも勉強以外に没頭したことがあった。バンド活動だ。自分はあんまり歌がうまくないボーカルだったが歌っているときは自分の世界に入り、すべてのストレスを感じなかった。しかし受験などを境にやはり親のようになりたかったのでバンド活動をやめ勉強をした。
・・・しかし憧れだった両親も離婚、倒産、・・そして復讐かなにか知らないけど・・・俺が憧れたのは一体何だったんだろうか。何のためにバンドをやめたのか、今の会社でも全く役に立てない。何のために生きてきたんだ。博はそこまでいきついた。
どうせ死ぬ時の誰も悲しまないんだ。俺が死んだって誰も損しないし。

誰も知らないところで生き、誰も知らないところで死ぬ。

俺が生き、死んだことはこの世界にとって全く関係ないことなんだ。

そんなこと思っているとまた母の顔が浮かんできた。

すると、じゃあ俺が俺の人生楽しむしかないじゃん、母の顔を思っているとそんなことが唐突に頭に浮かんできた。母と、父と、同じ人生を歩みたくない。俺がこの人生楽しまないと本当に何のために生きているのか分からない。博は一つの心理にたどりついたと瞬時に確信した。金は食べていけるだけバイトで稼いだらいい。やりたいことをやらないと。だんだん自分が興奮していくのがわかった。今回ばかりはストレスがいいように作用したようだった。博の心は驚くほど簡単に決まった。というか決めてしまわないともう手遅れになってしまいそうだった。自分の人生は自分で決めるもんじゃないか!

博は目をあけると勢いよくネクタイを外し、勢いよく席を立ち、勢いよくまた会社を飛び出し、自宅に向かった。無論、ギターを取りに・・・。





空は少しだけ、でも確実に明るくなっていた。
8
103601 michika うさぎの冒険  ある晴れた日、緑が生い茂る公園に、3匹のうさぎが集まって遊んでいました。「ねえねえ、みんな。次はあっちで遊ぼうよ。」と、キャラメルのような茶色のメスうさぎ、マドレーヌは言いました。その意見に、「そうしよう。もっと遊びたいな。」と元気よく相槌を打つのは、夜のように真っ黒なオスのうさぎのレオンです。うさぎたちは、遊び始めてからとても長い時間がたっていたにもかかわらず、2匹はまだまだ遊び足りないようでした。ただ1匹だけ、綿のような真っ白なメスうさぎのフルールは、「私、もう疲れちゃった。おうちに帰らない?」と、遊ぶのを渋っている様子です。「もう。フルールはいつもすぐ疲れちゃうんだから。」「もっと遊ぼうよ。フルール。」マドレーヌとレオンの声に、フルールも仕方なく、もう少し遊ぶことにしました。3匹は、公園を走り回ったり、ブランコに乗ったり、すべり台をすべったりしてたくさん遊びました。もう太陽も随分傾いてきたころ、さすがに疲れてしまった3匹は、それぞれのおうちへ帰ることにしました。3匹のうさぎのおうちは、公園から少し離れた森の中にありました。まず初めに見えてくるのは、フルールのおうちです。おうちの前では、お母さんがフルールの帰りを待っていました。フルールは、「じゃあ、また明日ね。」と言いながら、お母さんとおうちへ入って行きました。その次に見えてくるのは、レオンのおうちです。「じゃあな。」と言って、レオンはおうちへ入って行きました。最後に見えるのはマドレーヌのおうちです。おいしそうなご飯のにおいがするおうちへ、マドレーヌは走って入って行きました。3匹のうさぎは、毎日こうして遊んでいるのでした。
それから数日後、3匹はいつものように公園で遊んでいました。いつもはすぐに疲れてしまうフルールも、なぜか今日はとても元気そうでした。「フルール、今日はもう帰ろうって言わないんだね。」と、レオンが言いました。「うん。なんだか今日は、すごく元気なの。もっとみんなと遊びたいわ。」とフルールが答えると、マドレーヌがある提案をしました。「ねえ、今日はちょっと遠くへ行ってみない?いつもこの公園でしか遊んでないんだし、たまには違うところで遊ぼうよ。」「うーん、そうだなあ。いつも同じで飽きてきたところだしなあ。ちょっとぐらいいいか。」とレオンが賛成しました。フルールはというと、「私はここで遊びたいな。お母さんに、公園以外は行っちゃだめって言われてるし。」と、外へは行きたくない様子です。実は、うさぎたちのお母さんは、「いつもの公園から向こうへは、行ってはだめですよ。恐ろしいものが、いっぱいありますからね。絶対ですよ。」と、いつも口をそろえて言っていました。そのことを、マドレーヌもレオンもわかっているはずなのですが、今日はフルールが元気なので、賛成してくれると思っているのか、あとには引きません。「大丈夫だよ、フルール。少し先まで行って遊んだら、暗くなる前に帰ればいいんだからさ。」「そうよ。それに、みんないるから怖くないでしょ。」「うーん、でもお母さんに怒られちゃうかもしれないし。」と、フルールはまだ行きたくなさそうです。「お母さんには、言わなかったらばれないでしょ。あたしたち、絶対に言わないから。ね、レオン。」「もちろんだよ。僕もお母さんに怒られるのはごめんだから、言うわけないさ。みんなでいつもと違う風景を見に行こうよ。」と、レオンもフルールを説得します。「ちょっとぐらいなら大丈夫かなあ。」フルールが、勇気を出し始めると、マドレーヌとレオンも「そうだよ。絶対大丈夫だよ。怖いものがあるなんて、きっと嘘さ。」と、フルールを励まします。少ししてから、「私、行くわ!」と、ついにフルールが決心しました。その顔は、不安におびえているものではなく、わくわくしたような表情でした。そんなフルールを見たマドレーヌとレオンも大喜びです。「よし。じゃあさっそく出発だ!」3匹は公園を出て、森とは反対の方向へ歩き始めました。
公園を出た3匹のうさぎは、まず大きな交差点を見つけました。「うわあ!すごくたくさんの車が通っているよ!」レオンはびっくりして言いました。普通の車だけではなくて、トラックやバスなどの大きい車もびゅんびゅん走って行きます。フルールは、これだけたくさんの車を見たことがなかったので、少し怖がったような顔をしています。それを見たマドレーヌは、「私はお母さんと一緒にバスに乗ったことがあるんだ。だから、これぐらい平気だよ。」と言って、信号の前で立ち止まりました。レオンとフルールも、マドレーヌの隣に並んで信号待ちをしました。そのとき、1台の車がうさぎたちのすぐ目の前をとても速いスピードで通り抜けていきました。フルールは驚いたひょうしに、後ろへ尻もちをついてしまいました。「いたたた・・・。」「フルール、大丈夫?」「うん、ちょっとびっくりしちゃっただけ。」そうこうしているうちに、信号が青に変わりました。「青になったよ。ほら、行こう。」マドレーヌに声をかけられたフルールは立ち上がり、3匹は歩き出しました。大きくて広い道路を渡るのです。「手をあげなきゃだめね。」とフルールがお母さんの言葉をまねして言いました。その言葉につられて、マドレーヌとレオンも手をあげて渡ります。小さい子どもの足なので少し時間がかかりましたが、無事に青の間に渡ることができました。「道路はそんなに怖くなかったね。」レオンが言いました。
少し歩くと、がやがやとした音が聞こえてきました。「あれは何の音なのかしら。」「誰かがたくさん集まっているのかなあ。」そんなことを言いながら進むと、看板が見えてきました。「わあ!魚屋さんが見えるよ。」マドレーヌが嬉しそうに言いました。「いらっしゃい、いらっしゃい。さあ、今日のお魚はお買い得だよ。お嬢さんもいかが。」と、魚屋のおじさんがフルールに声をかけました。フルールは、「えっ!わ、私はいらないです・・・。」とあたふたして言いました。「そうかい、そうかい。また買ってってね。さあ、今日はお魚が安いよー!」と、おじさんはまた、お客さんの呼び込みを始めました。3匹がもう少し歩くと、「今度は八百屋さんだ!」とレオンが言いました。「はい、いらっしゃい。今が旬の夏野菜はおいしくて安いよ!さあ、どうぞ見てってよ!」と、八百屋のおばちゃんが叫んでいます。「あっ、あのトマトおいしそうね。」と、フルールが言うと、マドレーヌが「私はトマトは嫌い。あっちのキュウリがいいな。」と奥に置いてあるキュウリを指さしました。それを見た八百屋のおばちゃんは、お店から出てきて言いました。「あなた、キュウリが好きなの?キュウリは子どもに嫌われやすい野菜なんだけど、うれしいわ。」八百屋のおばちゃんは笑顔をつくりました。「あ、そうだ。あなたたち喉がかわいてない?どこかから歩いてきたんでしょう。飲み物をあげましょう。」と、八百屋のおばちゃんは3匹に飲み物をくれました。「わーい!おばちゃん、ありがとう!」「ありがとうございます。嬉しいな。」「ありがとう、おばちゃん!僕、実はすっごく喉がかわいてたんだ。」みんな、まるで虹を見たときのように、はしゃいで嬉しそうにしています。「よかったよかった。またおいでね。」八百屋のおばちゃんはそう言うと、お店の中へ戻っていきました。フルールは、「あのおばちゃん、とても優しい人だったね。」と、出発する前の恐がった様子は全く見えません。「よし、じゃあ先へ進もう。遊ぶところを探さなきゃならないしなあ。」と、レオンはみんなの先頭に立って歩き始めました。マドレーヌとフルールもレオンに続いて進みました。
3匹はしばらく歩きました。しかし、ずっと歩道が続くだけで遊べるようなところは見当たりません。しばらくすると、マドレーヌが「ねぇ、この先に遊べるところって、本当にあるのかな。」と、不安そうに言いました。フルールも、「私も、ちょうど思ってたところ。けっこう遠くまで来ちゃったような気がするんだけど・・・。大丈夫なのかな?」と、心配そうです。みんな、長時間歩いてきた疲れのせいもあって、足どりが重たくなってきました。どこが休憩できるところでもあればいいのですが、ただひたすらに道があるだけです。もう帰ろうかという考えも頭に浮かんでいたそのとき、レオンの目の前に突然ボールが転がってきました。「すいませーん!ボール取ってもらえますかー?」と、1匹のうさぎが、道の脇から出てきました。「あ、はい。どうぞ。」「ありがとう!君たち、見たことない顔だね。一体どこから来たの?」「向こうの森さ。」「へぇ、すごいね!よかったら僕らと一緒に遊ばない?今、友達とボール蹴りしてたところなんだ。」「そんな場所があるの?僕らも遊ぶところを探して歩いてたんだ。僕はレオン。そして友達のフルールとマドレーヌだよ。」「僕はジョン。よろしく。じゃあ、みんなで遊ぼう。」そう言うと、ジョンは出てきた道を指さして、ついて来るように手招きをしました。着いた先には、とても大きな広場がありました。そして、ジョンの友達が4匹もいました。その友達たちも、初めはレオンたちが来たことに驚いていましたが、すぐにみんなと仲良くなり、ボールで遊び始めました。「いくよー!」マドレーヌはたくさんボールを蹴りました。「フルール!パス!」フルールもたまにボールを蹴ってパスしたりし、楽しそうでした。レオンも、もちろん大活躍しました。しばらくボールで遊んで、辺りが暗くなり始めたところで、フルールが言いだしました。「今、何時なのかしら。そろそろ私たち帰らないと、おうちに着くまでに暗くなっちゃうわ。」「そうね。帰らなきゃ怒られちゃうし。」「じゃあ、僕らはそろそろ帰ろうか。ジョン、みんな、今日は本当に楽しかった。ありがとう。」「こちらこそありがとう。また遊びに来てよ。」そう言って広場を出て、ジョンは3匹に会った道まで送ってくれました。「ジョン、ありがとう。また遊びに来るね。」「うん、絶対だよ。待ってるからね。」そして、ジョン
は広場へ戻って行きました。
 「さあ、暗くならないうちに急いで帰ろう!」マドレーヌが先頭を切って、うさぎたちは来た道を急ぎます。来るときに通ってきた八百屋や魚屋は、もう閉まっていて、周りには誰もいませんでした。「静かだと恐いのね。」フルールは怯えた様子ですが、マドレーヌとレオンが大丈夫だと励まして、ひたすらに歩きました。そして道を歩き、大きな交差点が見えてきました。今回は始めから信号は青だったので、止まらずに道路を渡ることができました。「もうすぐいつもの公園だ。がんばろう。」と、レオンが言って、道を歩いていると、公園が見えてきました。「いつもの公園だ。だいぶ暗くなっちゃったね。森まで急ごう。」とマドレーヌは急ぎ足になりました。そして、いつものように、まずはフルールのおうちが見えてきました。ドアの前ではお母さんが待っています。「お母さんには、今日のことは内緒だよ。」マドレーヌとレオンに向かってそうささやいたフルールは、ドアに向かって走っていき、お母さんとおうちへ入って行きました。次はレオンのおうちです。「じゃあね、マドレーヌ。」と言ったレオンは、おうちへ入って行きました。最後にマドレーヌのおうちです。「今日のご飯は何かなあ。私の好きな、キュウリのおかずがいいな。」と言いながら、おうちへ入って行きました。
次の日、いつもの公園へ集まった3匹は、昨日のことを話しました。「お母さんにはばれなかったわ。」フルールは言いました。「僕もだよ。」「私も、全然ばれなかった。また行っちゃおうか。」そう言って、公園で仲良く遊び始めたのでした。
6
103603 キリエ おなかすいた  太陽がぽかぽかしています。くまの女の子のくーちゃんは今まで寝ていた洞穴の家からでて、うーんとのびをしました。こんな気持ちの良い日は散歩に行こう。くーちゃんは森の中をどんどん歩いていきました。しばらくいくと、きつねのきい君に出会いました。
「こんにちは、くーちゃん。」
「こんにちは。今日はいいお天気だね。私は散歩の途中なの。きい君は何をしているの?」
「僕はおなかがすいたから食べ物を探しているところなんだ。」
そういわれて、くーちゃんは自分もおなかがすいていることに気づきました。
「朝から何も食べていないし、私も一緒に食べ物をさがそうかな。」
 2匹は食べ物を探して森の中を歩き回りました。しかし、いくらさがしても見つかるのはまだ青い木の実ばかりです。
「これもまだ熟れてないや。はあー、おなか空いたな。」
 きい君はとうとう座り込んでしまいました。
「もう少し探せばきっと何か見つかるよ。」
 そういうくーちゃんも、おなかが減って力が入りません。
 そこへ人間のまいちゃんとりすのりっちゃんがやってきました。
「あれ、くーちゃんときいくんじゃない。うかない顔をして、どうしたの?」
「おなかがすいているのに食べ物が見つからないの。」とくーちゃんは答えました。
「ちょうどいい。これからケーキを作ろうとしているの。材料集めを手伝ってくれたらあなた達にもケーキをわけようと思うんだけれど、どうかな?」
「ほんとうに。ぜひ手伝わせてよ。」きい君の声に一気に力が入りました。
「じゃあ、りっちゃんと3人でケーキに入れる木の実を探してきて。」まいちゃんは自分のかごをくーちゃんに渡しました。
 くーちゃんときい君はりっちゃんの後についていきました。りっちゃんにはどうやら食べ物のありかに心当たりがあるようです。
「なぜだかこのあたりには熟れた木の実が一つもないけれど、私は秋にクルミやドングリを貯めていたの。」
 りっちゃんはさささっと木々の間をすすんでいきます。くーちゃんときい君はおなかが空いている上にりっちゃんほどすばしっこくはないので、ついて行くのに一苦労です。
「このあたりにうめたはずよ。一緒にほって探しましょう。」
 3匹はあたりの地面を掘り起こしました。くーちゃんもきい君も穴掘りは得意です。張り切って穴を掘って木の実を探しました。するとそこら中からドングリやクルミがたくさん出てきました。
「やったー!こんなにたくさん。」きいくんは大喜びです。
「りっちゃんはこんなに貯めていてえらいね。」くーちゃんは感心しました。
「でもこれだけの量を一人ではほりだすことはできなかったわ。きい君、くーちゃん、ありがとう。」
 見つけた木の実をかごに入れると、かごの半分くらいありました。
「ねえ、すこし食べてもいい?もう僕我慢できないよ。」
「わたしも。ねえりっちゃん、おねがい、少しだけ。」
 穴を掘って2匹のおなかは限界でした。
 りっちゃんは悩みましたが、2匹の元気がないのと、一緒に掘ってくれたお礼として、少しだけ食べるのを許しました。それに、りっちゃんも実はおいしそうな木の実を前にして、食べたくてたまらなかったのでした。
 木の実を食べて、3匹は元気を取り戻しました。これでくーちゃんは重くなったかごを運べます。
 そこへいたちのいっちーが現れました。
「ずいぶんたくさん木の実があるね。僕にも分けてくれないか?」
 そんないっちーの口元や手をみると赤い汁がついているのにくーちゃんは気づきました。
「ねえいっちー、もしかして木イチゴを持っていない?」
「ああ、あるよ。このあたりのは全部とったんだ。たくさんとったからクルミやドングリと交換しようか?」
「ぼくたちが木の実を探しても見つからなかったのは、君が先に取っていたからか!」きい君は今にもいっちーに飛びかかろうとしています。いっちーは身を縮めました。
「独り占めして悪かったよ。でも僕もおなかがすいていたんだ。」
 おなかが空いた時の気持ちはくーちゃんたちにはよくわかりました。
「そうね。誰だっておなかは空くもの。ねえいっちー、私たちはこれからまいちゃんにケーキを作ってもらうんだけど、いっちーも一緒に食べない?」とりっちゃんは誘いました。
「ケーキだって!ぜひ食べさせてほしいな。僕がとったきいちごはそのケーキにつかってよ。」
 いっちーは木イチゴを取ってきてかごに入れました。かごはいっぱいになりました。
 くーちゃんたちはまいちゃんの家に行きました。まいちゃんはケーキの準備をしていました。くーちゃんは木の実のたくさん入ったかごをまいちゃんに渡しました。かごいっぱいに入った木の実をみてまいちゃんは大喜びです。
「こんなにたくさん探してきてくれてありがとう。これでおいしいケーキが作れそう。」
 まいちゃんは粉をふるったり混ぜたりしてケーキの生地を作りました。くーちゃんたちはクルミの殻をむくのを手伝いました。りっちゃんはとても手慣れた様子で歯を使って殻をむいていきます。一方くーちゃんたちはとても苦労しました。かんだり、爪を立てたり投げたり、たたいたりといろいろやってみました。むけなかったり、かたちがくずれたりしたので、まいちゃんのクルミ割り器を使って割りました。
 できあがった生地に木の実を入れて、釜に入れて焼きました。まいちゃんはケーキを焼いている間に木イチゴを使ってジャムも作ってくれました。ジャムもとってもいいにおいがしてきました。
「おいしそう。」きい君といっちーは甘いにおいでがまんできず、こっそりジャムをつまみ食いしようとしました。しかしそれをまいちゃんは見逃しませんでした。
「こら、二人ともつまみ食いはだめだよ。つまみ食いしたらケーキはあげないよ。」
 その言葉を聞いて2匹はあわてて手を引っ込めました。
 ケーキもいいにおいがしてきました。どうやらできあがったようです。まいちゃんは窯からケーキを取り出し、切り分け、お皿に盛りつけました。
「いただきます。」
 くーちゃんたちはみんなで作ったケーキとジャムを食べました。苦労して作ったケーキはとってもおいしくて、みんな何回もおかわりをしました。
「おなかいっぱい。また今度一緒に作ろうね。」
 くーちゃんも、きいくんも、まいちゃんも、りっちゃんも、いっちーも、おなかも心もいっぱいで、しあわせでした。
7
103605 mariko ロンリーガール 「みかちゃん、今度生徒会長なるんだ〜!」
「みかちゃん成績優秀だし、とっても優しいし、ぴったりだよー。」
「ほんとにー?ありがとう、頑張るよ。」
高校2年生の秋だった。毎日が充実していて、わたしの未来はとっても輝いていた。
そんなある日の夜のことだった。父が突然死んだ。
 救急車で病院へ運ばれたときにはもう遅かった。わたしは頭の中が真っ白で、大人達の話は1つも入って来なかった。死んだことに変わりはないのだから、死因なんてどうでもいい。優しくて、わがままいっぱい聞いてくれて、大好きだったパパ…。かわいらしい笑顔は、力のない真っ白な顔になっていた。涙が溢れる。母は、父の遺体に寄りかかり泣き叫んでいた。わたしはただ下を向いて黙っていた。心臓が何故だかひんやりとしている。
気持ちがおぼつかないまま、何とかお通夜と葬儀の手続きを済ませて、少し眠りにつく。すべてが夢ならいいのに。でも朝がやって来て、逃げられない現実を突きつけられる。
親戚がいっぱいやってきた。黒い服は何だか落ち着く。心配してくれるおじさんやおばさんに、わたしは精一杯笑顔で振る舞った。式の間は、始終泣いていた。地元の友達が何人か来てくれたけど、軽く会釈をするだけで、話をすることはできなかった。

1週間ぶりの学校へ向かう。みんなにどんな顔をしたらいいんだろう。
「みかちゃん!おはよう。」
「大丈夫?心配したよ〜。」
「おはよう、もう平気平気!大丈夫だよ!」
ああ、なんだか今までどおり話せない。仲が良かった友達もみんな頼りなく感じる。申し訳なく思う気持ちもない。こんなに周りに人がいるのに、わたしは一人ぼっちだ。授業中もずっとそんなことを考えていた。気付けばノートは落書きだらけだった。
「おい、加藤―。加藤みかー。教科書開けー62ページ、L」
「・・・・わかりません。」
「しっかり話聞けよー。」
「すみません。」
学校がつまらない。もうどうにでもなれ。
気分がなかなか晴れないわたしは美容院に行って髪をとびっきり明るくした。ピアスを開けて、かわいい服を買って、おもいっきり飾った。夜は街に出て新しい友達と朝まで騒ぎ、学校にも遅刻するようになった。そのときは楽しかった。でも家に帰ると父を思い出して毎日泣いていた。夢に出てきた日の朝はもっとつらかった。
高校の友達はわたしに対してよそよそしくなった。陰口も聞こえる。どうせもともとわたしは一人だったんだから、いまさら何とも思わない。一人のほうが気楽でいい。誰もわたしの味方なんかしなくていい。どんな苦労にも負けない。わたしは強い。
「みかちゃん、最近おかしいよ…。」
「そう?普通じゃん。」
前からなんとなくわたしの顔色をうかがっていたあゆみが突然こんなことを言ってきた。じゃあもう話しかけないでよ。ほっといてよ。
教師には毎日呼び出され、わかりきったことをくどくどと言われた。
「いいか、お前は生徒会長なんだから、全校生徒の手本とならなければいけない。なのになんだその髪色、ピアス!おまけに何回遅刻してるんだ。明日までになんとかしなさい。ピアスはいますぐ外しなさい。規則を守るのは最低限のことだ。学校という場に来ることの意味を考えなさい。」
わたしがここにいる意味なんてないと思った。

母が働き始めた。学校から帰ると家事に追われた。
自分で作ったあまりおいしくないお味噌汁をすする。ふうっとため息をついて、疲れて横になると雨が降りだした。慌てて洗濯物を取りいれる。
「もう、生きていくのがつらいよ…。」
家にいても一人ぼっちだ。雨は強さを増し、わたしの弱弱しい叫びはかき消された。その日の夜は一晩中泣いた。強くなりたい。
 朝が来て、腫れぼったい目をこすりながら起きる。
「ママ、もう学校行きたくない。」
「何言ってるの。お母さんが子どものころは体調が悪くても絶対休ませてくれなかったわ。早く行きなさい。ママはもう行くからね。今日も遅くなるから晩ご飯よろしく。」
「…いってらっしゃい。」
渋々制服に着替え、学校へ向かう。大人って自分勝手だなあ。すぐに自分の思いどおりにしようとする。自由になりたい。わたしのことを子ども扱いして、都合のいいときだけ大人になったら社会ではどうのこうのって言ってくる。大人になんかなりたくない。浅はかな分析でわたしのことを全てわかったような顔をしている。全然わかってない。わかるわけない。何も知らないくせに。いつまでも古い考えを押し付けようとする。ここからわたしたちの時代なのに。わたしの生き方を支配しないで。そしてわたしたちの未来を。そんなことを考えていると道ですれ違う大人の視線をやけに感じる。苛立ってにらみ返すと、何事もなかったかのように逸らされた。
授業はすでに始まっていた。重い教室のドアを開ける。
「加藤―、また遅刻じゃないか。」
「すみませーん。」
席につく。誰もわたしを見ない。授業はその一瞬途切れただけでまた淡々と進められた。わたしはずっと窓の外を眺めていた。高層ビルが立ち並ぶ。代わり映えのない景色が虚しい。ノートを広げ、ふと左脳に浮かんだ言葉を端っこに薄く書いた。
“気付いてほしい。ここにいるのに。”
一人ぼっちで幸せなわけがない。どんなに優しい言葉かけられても、着飾っても、笑っても泣いても満たされない。父が死んでからわたしの心は満たされないまま。認めたくなかったから口にしなかったけど、わたしはとても寂しい。寂しさから抜け出せないでいたんだ。ずっとそばにいて、自分のことを分かってくれて、必要としてくれる人が欲しい。自分のありのままを心から愛してくれる人が欲しい。ただそれだけでいい。わたしが生きている意味って一体何なんだろう。誰か助けて。涙が溢れた。その瞬間、チャイムが鳴った。
「みかちゃん、おはよう。」
「あゆみ…お、おはよう。」
「大丈夫?目が腫れてるし、真っ赤だよ。」
「うん、目がかすんじゃって…。大丈夫だよ。」
慌ててノートを閉じた。やっぱり素直になれない。しばらく話さなかった友達ともそれなりにうまく付き合えているけど、ここにわたしの居場所はない。休み時間になると、教室に笑い声が響く。一応合わせて笑ってみるけど、胸に刺さって痛い。うるさい。

冬になり、風が一層冷たくなった。もうすぐクリスマスでカップルが続々と増え、周りはずいぶん浮かれている。
「彼氏ができましたー♪」
「うそー写メ見せてー!」
「わたしも実は昨日部活の先輩に告られてー…」
無理しているような気がするのはわたしだけなんだろうか。本当にその人のことが大切なんだろうか。一時的な流れに乗って作った特に好きでもない恋人へのプレゼントに悩んでいる姿はあまりに馬鹿馬鹿しく感じる。たった1日メールが返って来ないということだけで落ち込んでいる子なんかどうかしている。くだらない内容だったんだろう。
「みかちゃんは好きな人とかいないのー?」
「うん、そうだね。」
「みかちゃんってさばさばしてたくましいよね。」
「男の子よりしっかりしてるから彼氏必要なさそう(笑)」
「あはは、よく言われる。」
 本当は誰かに寄り添っていたいのに。毎日泣いてばっかりで全然強くないのに。どうしてわたしの上辺だけの姿を信じるの?ちゃんとわたしを見て。こんなはずじゃない。わたしにもかっこ良くて優しい彼氏ができて、つらいとき甘やかしてくれて、笑い合って、抱き合って、毎日一緒に過ごせて…でもわたしの心を満たしてくれる人なんかどこにもいない。心の中で密かに描いている生活は実現するときがくるのだろうか。強くあろうとすればするほど心に鎧を着せていくような気分だ。周りからは頼もしく思われるようになったが、わたしの中身は何も変われていない。そしてどんどん一人ぼっちになっていく。時間だけがあっけなく過ぎ去っていく。わたしは焦っていた。このままじゃいられない。みんなといると、つらくてつらくて仕方がなかった。
 帰りは街に出た。鮮やかなイルミネーション、軽快に流れるクリスマスソング、甘いシュークリームの香り。家族や恋人、友達で連れている人たちの幸せそうな顔。にぎやかな人ごみの中、わたしだけ場違いな気がする。
「寂しい。」
ちっちゃな勇気を振り絞ってつぶやいてみた。でも誰も気付かない。当たり前だ。誰もわたしのことなんか気にしていない。みんなわたし以外の誰かを思ってここにいるんだから。
街中を一人で歩き続けた。これからもずっとそうなのかなあ。涙でイルミネーションの明かりが滲む。わたしは右手でぐいっとそれをぬぐった。
今はどんなにつらくても、きっといつか心から幸せって思える日が来る。そう信じることが今のわたしの生きがいだ。そしてそう信じている自分を信じる。わたしの心の叫びに気付いてくれて、手を差し伸べてくれて、わたしのありのままを受け止めてくれる人が現れて、そしてわたしもその人のことを受け入れられて…。時には叱ってくれて、一緒に力強く前に進んでくれる人が。わたしにとってこれ以上の幸せはない。でもわたしは待っているだけじゃだめなんだ。もう自分にウソはつかない。無理に変わろうとするから苦しいんだ。素直になる。そんな簡単なことじゃないし、とても恐いけど、自分をさらけ出すことがまず幸せへの第一歩なんだ。早く学校へ行きたい。

「みかちゃん、おはよう。」
「おはよう、あゆみー会いたかったー。何だかあゆみの顔見たら泣けてきたー(笑)」
「え、大丈夫!?どうしたの?」
「いままでつらかったのー。」
「そうなんだ…。話なら何でも聞くよ!」
あゆみが家に泊まることになった。二人でご飯を食べて、交代でお風呂に入って、狭いベッドに一緒に入った。
「わたしねー、いままで寂しかったんだー…パパが死んじゃってねー…それで毎日ねー…」
「うん…うん……。つらかったんだね。なんとなく気付いてたんだけど、触れちゃいけないのかなって思ってて…いままで力になってあげれなくてごめんね…。」
 真っ暗な中、自分の思いを少しずつ打ち明けていった。何時まで話し続けていたのかわからなかったけど、あゆみはじっと聞いてくれていた。ときどきあくびを堪えているように感じて、どれだけしっかり聞いてくれていたかはわからないが、それでも嬉しかった。泣いて悩んでずっと探し続けていた幸せってこんなに近くにあって、なのにわたしは気付かずにいただけだったんだ。もうわたしは一人ぼっちじゃない。あゆみ、ありがとう。
7
103607 mihoko 私の人生に大きな変化を与えてくれた出来事 私は昔、老人ホームで働いていました。その時の話をしたいと思います。

私が働いていた老人ホームではたくさんの利用者さんたちもいる中、一人だけとてもこわいおじいさん(明智さん)がいました。何をするにも反発してきたり、怒ってきたりします。
 
ある日、一人のおばあさんのお孫さんが老人ホームに遊びに来ました。おばあさんはとてもうれしそうで楽しく孫とおしゃべりしていました。その時、そのおばあさんの部屋の前をこわいおじいさんが通りかかったのです。
おじいさんは部屋の中を見るなり、
「なんでこんなところに子どもなんかおるんや。うるさくてかなわへんわ。この場所から出て行け。」と言いました。
それを聞いた私はとても焦りました。
おじいさんのことは苦手でしたが、他の利用者さんに迷惑をかけてしまっているので、注意しに行かないといけません。
(もう、余計なことしないでほしいわ。)
私「明智さん、少しこちらでお話ししましょう。」
おじいさん「なんや、話すことなんかなんもあらへん。話したくないわ。」
私「そんなこと言わずに少しだけお話しましょう。」
おじいさん「もう疲れてしもたから部屋戻るわ。話やったら今度聞くわ。」
私「わかりました。また休まれてからお話しましょう。ゆっくり休んでください。」
(自分で悪いことをしたことをわかっているのかしら。)

次の日、私はおじいさんと話しました。
私「明智さん、昨日のことですが。」
おじいさん「なんや。わしは何もしてへんで。」
私「でも小さなお子さんに怒鳴っていらっしゃいましたね。」
おじいさん「あれはあの子どもが部屋でやかましくしとったからだろう。それを起こって何が悪いんや。」
私「そういうことではありません。あのお子さんはたまにしか会えないおばあさんに会えてとてもうれしそうにしていました。しかし、あの後泣いてしまって。」
おじいさん「じゃあ、あのばあさんが家に帰ればよかろう。」
私「明智さん、利用者の方の中には帰りたくても帰れない方もおられるんです。あのおばあさんも脚が悪くて家では生活が出来ないから利用されているんです。」
おじいさん「ふん、謝ればいいんじゃろう。どうも、すみません。」
というとそそくさと自分の部屋に戻ってしまった。



ある日、その老人ホームに幼稚園の子どもたちが遊びに来てくれました。おじいさんも子どもたちと会うことになりました。私はおじいさんが子どもたちにどなってしまったりするのではないかとびくびくしていました。
 その時、子どもたちの中で一番やんちゃそうな子がおじいさんに駆け寄って行きました。
そして
「おじいちゃん。おじいちゃんはどこからきたの?何が好き?」
などと質問をし始めました。
最初は無口だったおじいさんも少しづつ口を開くようになり、時折笑顔も見えてきました。。
「おじいちゃんはな、実はここから少し遠い大阪というところから来たんだよ。」
「へえー。僕はね、まだ一回も行ったことないやあ。」
「大阪はいいところやからね。大きくなったら行ってみるといいよ。」
「うん!また大阪に行ったらお話しするね。」
などとたくさんたわいのない話をして盛り上がっていました。
子どもたちが帰る時間になったとき、おじいさんが小さな声で
「また来ておくれ。今日は楽しかったよ。」
と言っているのを聞きました。その子は満面の笑みで
「うん。また来るよ。」と言いました。
 私は長い間この老人ホームに勤めていておじいさんが笑顔で会話しているのを初めて目にしました。
おじいさんの何かを動かすものがその子にあったのかと思うのと同時に、私もおじいさんと笑顔で話がしたいと思うようになりました。

その当時、私は今の旦那さんと結婚したころでした。
私は老人ホームであったその時の出来事を話してみました。
おじいさんがいつもはどんな態度でいるか。また、他の人に対してどんな風なのか。しかし、その子どもが来たときはどんな様子であったのか。
すると旦那さんは
「おじいさんはさびしいんじゃないのかな。」
私「さびしい?」
旦那「うん。おじいさんはいつもは機嫌悪そうにしているんだろ?それは誰かにかまってもらいたい証拠なんじゃないかな。」
私「でもおばあさんに会いにきた子どもに怒鳴ったのは?」
旦那「それはおばあさんがうらやましかったんじゃなかな。おじいさんに会いに来るご家族の方はいるのかい?」
私「そういえば一回も見たことが無い気がする」
旦那「だから自分に興味を持ってくれてしゃべりかけてくれた子どもがいたことがうれしくて仕方なかったんじゃないかな。」
私「なるほど。そういえば聞いたことがあるわ。そのおじいさんは昔から厳格な人で自分の子どもにも愛想をつかされたって。」
旦那「それは多分自分の子どもを愛してるからこそ厳しくしてたんじゃないかな。僕の親父もとても厳しかったけど今なら僕のためだったんだなってわかるよ。」
私「そうなのかな。そういえば従業員の人は私も含めおこりっぽいおじいさんとしてあまり積極的に接していないかもしれない。他の利用者さんもおじいさんのことを敬遠している方がほとんどだし。」
旦那「だから自分に積極的にしゃべりかけてくれた子どもは新鮮でうれしかったんだろうね。」
私「子どもは変な先入観も持たずに無防備に話しかけるもんね。」
旦那「君も一回おじいさんに用事がないことでもしゃべりかけてみるといいよ。」
私「うん。そうしてみる。ありがとうね。なんか気持ちがスッと楽になった。」
私は旦那さんに相談することで気持ちが楽になり、次の日からおじいさんにいろんなことを話しかけてみようと思うようになりました。

次の日から私はおじいさんに話しかけるようになりました。
私「明智さん。おはようございます。一緒に庭を散歩でもしませんか。」
おじいさん「なんや、いきなり。わしと散歩なんてしても何も楽しくないぞ。他の人を誘えばいいじゃろう。」
私「いいえ。私は明智さんと散歩がしたいんです。お暇なときでもいいですから一緒に散歩してくれますか。」
おじいさん「まあわしが暇な時ならしてやってもいいが。」
私「ありがとうございます。また暇な時にお声掛けしますね。」

そんな私の姿を見ていた他の従業員の人には
「いきなり明智さんを散歩に誘ってどうしちゃったの?何かあった?」
私「何もないですよ。ただ単にいろんな話をしてみたいなあと思いまして。」
というと興味もなさそうに「ふーん。」と言われただけでした。

何度かおじいさんを散歩に誘い、いろんな話をしました。
おじいさんにはもう30歳を超える息子さんがいること、おばあさんは他界してしまったということ。
初めはなかなか心を開いてくれなかったおじいさんも何度かお話をするとうっすらと笑顔も出てくるようになりました。
そのうち、なぜ息子さんは老人ホームに1回も訪ねてこないのか不思議に思うようになりました。
私は余計なおせっかいだと思いましたが、誰も訪ねてこないおじいさんがかわいそうになり息子さんに会いに行ってみようと思いました。
何回か話をしているうちにおじいさんの本当の性格、本当はとても優しくてでも不器用だということがわかってきたのです。その不器用さゆえに他の人たちとぶつかったり、本当はさびしいということを打ち明けてくれました。
息子さんには小さいころから少し厳しくしすぎたことやそのせいで物ごころついたころからほとんど無視されるようになってしまったこと、無視されることでさらに息子さんに強く当たってしまうようになってしまったそうです。

そしておじいさんのカルテを見て、息子さんの住所を調べ会いに行きました。息子さんはすでに奥さんと子どもがおり、幸せに暮らしていました。
息子さんは奥さんと子どもには両親は他界したと話していたみたいでした。
息子さんと話をし、私から話すべきではないかと思いましたが、今のおじいさんの様子や子どもの時に強くあたってしまったということを話してしまいました。
息子さんは最初こそおじいさんのことを拒否するような感じでしたが、私が話を進めていくうちにだんだんと自分がしてきたことの重大さを考えているようでした。

私は話をするだけして、帰ることにしました。本当はおじいさんに会いにきてもらうようお願いするつもりでしたが、それは息子さんが会いに行きたいと思わなければおじいさんに息子さんの気持ちが伝わらないのではと思ったのです。

話をしにいってから2カ月が経った日のことでした。私は息子さんに話をしに行ったことはおじいさんに内緒にしていました。また、話をしにいったことも頭の片隅に置き忘れかけていました。

そうです。息子さんが自分の家族を連れておじいさんに会いにやってきたのです。最初信じられなかったのですが、だんだんと感動にかわっていきました。
息子さんをおじいさんの元へ連れて行くとおじいさんはとてもびっくりしたような顔になりました。そこからおじいさんと息子さん家族がどんな話をしたのかはわかりません。
ですが、息子さんが帰るときにはみんな笑顔になっており、とても楽しそうでした。それから息子さんはたびたびおじいさんを訪ねてくるようになったのです。

息子さんが来られてからはおじいさんの今までの様子が一変したように、社交的になり他の利用者さんともよく話すようになりました。

それから何年か経ち、私は老人ホームをやめることになりました。子どもが出来たのです。老人ホームをやめることはおじいさんに真っ先に報告し、また子どもが出来たことも報告しました。
おじいさんはやめることを惜しんでくれ、子どもが出来たことは大変喜んでくださいました。

最後の出勤日。私は従業員の方や利用者さんからたくさんの花束と言葉を頂きました。
老人ホームは私の大切な場所になっていました。
おじいさんは
「今日まで本当にありがとうな。息子家族に会えるようになったのもお前さんのおかげじゃ。息子に会いに行ってくれたんだろう。息子が言っていたよ。わしもお前さんが話しかけてくれなかったらずっとふさぎこんで周りに当たっていただけじゃろう。しかし今は他の人たちとしゃべることがとても楽しいんじゃ。その楽しみを教えてくれたのはお前さんじゃ。ここをやめてもまた子どもを連れて会いにきておくれ。」
と言ってくれました。私は大粒の涙をこぼしながら
「私こそ明智さんといろんな話が出来て楽しかったです。正直最初は明智さんのことが苦手でした。でもいろんな話をしていくうちに本当の父親のように思うようになりました。必ず子どもを連れて会いに来ます。これからも長生きしてくださいね。」
と言いました。

それから何回か子どもを連れて会いに行ったりしていました。
私はそこの老人ホームでおじいさんに会って自分自身とても成長できました。私の人生の中でもっとも刺激を与えてくれた人物です。本当に会えてよかったと思います。
ありがとうございました。


この話は空想です。
7
103609 みかんいよかん 幻のトレイン ポッポーッ!ポーッ!ポーッ!
どこか遠くから、汽笛が聞こえる。どこだろう?白いもやの中、何も見えない。それはだんだん近づいてきて、目の前に姿を現した。ピカピカと輝く真っ黒な車体。煙突から黒い煙をもくもくと吐き出し、今にも走り去っていきそうだ。
「待って!うちも行く!」
さちこは列車に飛び乗った。

どれほどの時間がたったのだろう。さちこが再び目を開けると、列車は相変わらず白い世界を、どこを目指すこともなく進んでいた。運転席にはさちこの他に人影は見当たらない。そこにはよくわからない、難しそうな機械が並んでいる。
「うーん。乗ったはいいけど、どうしたらいいんやろ。列車の運転の仕方なんて知らへんし。」
さちこはとりあえず手当り次第にボタンを押してみたり、レバーを引いてみたりと機械をいじってみた。すると、急に目の前の機械がパカッと半分に割れ、中から球体が上がってきた。地球儀のようなそれはくるくると回転しながら、青い光を放っている。よく見ると、球体の周りには金平糖のような星々が浮かんでいる。
(なにこれ…。めっちゃきれい…。)
その夢のような美しさに言葉を失ったさちこは、その星たちの一つに指をのばし、触れた。―――その瞬間、眩しい光がさちこと列車を包み込んだ。

「いったー。あれ触ったらあかんかったんかなあ。まあしゃあないな。」
お尻をしたたかに打ち、その痛みに気を取られていたさちこはようやく辺りの異変に気が付いた。
「ここどこ?」
重厚な作りの柱が立ち並び、天井は遥か彼方。白い石で造られた大神殿だ。そこに大勢の人が整列している。しかも皆男性で、服は腰に布を巻きつけただけの姿だ。さちこがあっけにとられている間に楽器を手にした男たちが入場してきたかと思うと、高らかにラッパの音が鳴り響き、ファンファーレが演奏された。堂々とした、華やかな演奏に思わず拍手を送ると、その場にいた男たちが一斉にさちこの方を見た。
「お前は誰だ!」
男たちの中でも特に体格のいい男が叫んだ。
「見たことがない身なりをしているな。さては、王の命を狙うものか!」
「えー!そんなんちゃうって。っていうか、おっちゃんらそんな薄着でよう寒くないなあ。うち、こんだけ着込んでんのにめっちゃ寒いわ。」
「ここは、神聖なオリンピック会場であるぞ!無礼な口をきくな!」
男は真っ赤になって怒っており、今にも殴りかかってきそうだ。
「まあ、まてまて。かわいい娘じゃないか。話を聞かせてくれないか。」
立派な玉座に座った、丸々と太った男が口を開いた。
「しかし、王様…っ。」
「俺がまてと言っているのが聞けないのか!」
男は叱られた子犬のようにしゅんとして後ろに下がった。王様はその姿をみると、さちこの方を向き問いかけた。
「お前はどこから来たのだ。どうしてここにいる。」
「なんていうか…。真っ白なとこにおって…。列車が来たから乗ったんですけど、どこに行くかわからんくて。そもそもなんで列車に乗ったんやろ…。そんで、乗ったけど運転の仕方知らんし…で、適当にボタン押したらここに来ました。」
さちこは迷いながらも、あの光輝く球体のことは口にしなかった。なぜだか話さない方がよい気がしたのだ。
「そうか。よくわかった。」
王様は実のところ、さちこの話が全くわからなかったが、大勢の民が見ている手前、わからないとは言えず、見栄を張ってしまった。それに、不思議な話し方をするさちこのことが気に入ってもいたのだった。
「遠いところご苦労だったな。ここにたどり着いたのも何かの縁だ。是非、オリンピックを、楽しんでいってくれ。」
さちこは王様の家来たちによって盛大にもてなされ、豪華な食事をおなか一杯食べながら、オリンピック観戦を楽しんだ。
(最近生協でお菓子買わんようにしてたのに、こんなんまた太ってまうやん。でもタダで食べれたからラッキー。)
さちこが内心ほくそ笑んでいると、ガタゴトガタゴトとあの列車の近づいてくる音が聞こえてきた。
(あっ。こんなところでくつろいでる場合じゃなかった。列車に乗らな。)
「王様。今日はありがとうございました。私、時間なのでもう行かなければならないんです。さよなら!」
王様に言葉を発する間も与えず、さちこは音のする方へと走りだした。向こうに列車の黒い煙が見える。慌てて走ったので、途中でブーツが片方脱げてしまったが、もう取りに戻っている時間などない。乗り遅れたら、一生ここにいなければならないかもしれないのだ。そんなことあってたまるか。さちこは、執念で列車に飛び乗り、片方のブーツを残して、その神殿を去った。

「はあ、間に合った。ブーツ落としたんまじショックやわ。」
運転席では相変わらず、地球儀のような球体が回り続けている。この星に触れた後、さっきの場所へ降ろされたのだ。これに不思議な力があるに違いない。まだまだ色々なところに行きたいから、このことは誰にも話さず秘密にしておこう。さちこはそう心に決めた。しかし、その頃すでに不思議な球体の力に感づいた者がいることを、さちこはまだ知らない。
「さて、次はどこへ行こうかなー。この辺りとかいいかも。えいっ。」
先ほどとは違う星に触れ、列車は再び光に包まれた。

「よっと。今度はちゃんと着地出来たわ。ってジャングル!?」
そこは見たことのない草や木々の生い茂るジャングルだった。
「アマゾンにでも来たかなあ。」
すると、どこからともなく生き生きといた太鼓の音が聞こえてきた。
「これは、アフリカンビート。ここはアフリカか。」
その時、近くの草がガサガサと動いたかと思うと、太鼓を抱えた一人の少女が勢いよく飛び出してきて、さちこにぶつかりそうになった。
「わわっ。危ないなあ。おねえちゃん誰?」
「うちはさちこ。色んな国を旅しててここにたどり着いてん。」
「そうなんだ。こんなジャングルの奥地によく来たねえ。…ってどうしよう!私、太鼓の練習に遅れてるんだった。サチコも一緒においでよ!」
そういうと、さちこの手を引いて走り出した。
(今、靴かたっぽないのに…!もう走りにくいから脱いでしまお!)
さちこはもう片方の靴も脱ぎ捨てて少女と共にジャングルの中を駆けていった。しばらく行くと、草木が開けた一角があり、大人から子どもまで様々な人が集まって、太鼓を叩いていた。その中の一人の男性が気付いて近寄ってきた。目元がそっくりなところを見ると、どうやらこの子の父親のようだ。
「こら、遅かったじゃないか。みんな待ってくれていたんだぞ。ところで、そちらの方は誰だい?見かけない顔だが。」
「ごめんなさい、お父さん、それにみんな。この人はサチコ。旅をしていてここに着いたんだって。」
「はじめまして。とっても素敵な太鼓の音ですね。もっと聴かせて貰えませんか?」
「ありがとう。ちょうど今からみんなで合わせるところだったんだ。聴いていってくれ。」
「私、サチコのために心を込めて演奏するね。」
たくさんの太鼓のリズムが交じりあい、軽やかな音楽となってジャングルに響きわたった。
「素晴らしかったです。心にまで響いてくる演奏でした。」
「そういって貰えて嬉しいよ。良かったらうちに来てご飯を食べていかないかい?」
「申し訳ないのですが、先を急ぐので…。」
「サチコ、もう行っちゃうの?せっかく会えたのに悲しいよ。」
「ごめんな。短い間やったけど、出会えてよかった。最後に名前教えてくれへん?」
「私の名前はサラよ。スワヒリ語で〈祈り〉という意味なの。私は、いつまでもサチコの幸せを祈っているわ。」
「うちも。サラと、ここにいるみんなの幸せを祈ってる。」
そう告げると、さちこは皆に背を向けて歩き出した。自分のために祈りを捧げてくれた小さな少女の笑顔が頭から離れなかった。ポッポーッ…。遠くからまたあの汽笛が聞こえる。今度はどこへ行こうかとさちこが考えを巡らせていると、突然空から声が降ってきた。
「あんた、ちょっと待ちぃ!」
「えっ!」
さちこが上を向くと、白いダウンに身を包んだ女性が、眉間にしわを寄せてこちらを睨みつけながら浮かんでいた。
「浮いてるやん。やっば。」
「やばいのはあんたやろ。なんも知らんとあの列車に乗って。今すぐ私にあの列車渡しぃ!」
さちこは女性の言葉よりも、手に持っている物にくぎ付けになっていた。
「それ、うちのブーツ!拾ってくれたん?ありがとう!」
「話聞きぃや。」
「でも、片方は宮殿に落としてきたはずやねんけど…。なんで両方ともあるん?」
「はぁー。あんたの後追っかけて、時空渡ってきたわ。ほんまやってくれるなあ。」
「時空って…。何者なん?」
「あっ。名刺あるから渡すわ。ちょっと待って。」
(口調きついけど、なんか真面目な人やなあ。なになに…。Emily SaltValley、職業 魔法少女…。)
「魔法少女エミリー?」
「まあ、肩書はそんな感じやな。」
「じゃあ、今浮いてるのも魔法…?」
「そうやで。ついでにいうと、あんたが空間移動してるあの列車も魔法で動いてるんや。あれは危険やからあんたみたいな子が使っていいもんやない。私が責任もって使わせて貰うわ。」
やはり、あの球が列車に不思議な力を与えていたのだ。魔法の列車。そう簡単に手放すのは惜しい。さちこの悩んでいる顔を見て再びエミリーが口を開いた。
「あんたのこのブーツ…。返して欲しいやろ?そのままやったら足痛いもんなあ。列車と交換ってことでどう?」
(うわあ。この魔法少女、見た目白いけど腹ん中真っ黒やわ。)
靴を履いていない今、さちこの足は泥だらけの傷だらけだった。列車を失うのは辛かったが、このまま旅を続けることはもっと辛そうだ。それに、そろそろ生協に売っているいちごの板チョコが食べたい気分になっていたのだ。ここではそれも叶わない。さちこは決心した。
「ええよ。交換しよ。その代り、ちゃんと生協寄ってな。」
さちこはブーツを受け取ると、今度は落とさないようにしっかりと履いた。ちょうどガタゴトという音と共に黒い車体が近づいてきた。いよいよ、この列車とお別れか…と思ったその時。列車が空間移動の時と同じ眩しい光を放った。
「なんで!まだ何も触ってないのに!」
一瞬のうちにして列車は二人の前から姿を消した。
「あちゃー。また探さなあかん。いつになったら〈幻のトレイン〉をモノにできるんやろか。」
エミリーはそうぼやきながら列車を追いかけて空の彼方に飛び去った。
「幻のトレインかあ。また会える日がくるといいな。」
さちこはエミリーの飛んで行った空を見上げ呟いた。


「さっちゃん。さっちゃん。はよ起きて。合奏始めるって、えみりが怒ってんでー。」
「え?魔法少女?」
「何寝ぼけてるん。」
「もぅー。さっちゃんやっと起きたん?トレインの曲合わせるから準備して。最初の部分さっちゃんにかかってんねんで。」
「大丈夫、えみり。うちもう幻のトレイン動かしてきたんやから!」
7
103613 かんざぶろう まつぼっくりのコロちゃん 「ただいま!」今日もまーちゃんが元気に帰ってきました。
(おかえり、まーちゃん)コロちゃんはうれしそうに返しました。
でも、まーちゃんがそれ以上コロちゃんに話しかけてくれることはありません。コロちゃんがまつぼっくりだからです。でも、たとえまーちゃんに聴こえてなくても返事をする、それがコロちゃんの日課でした。(これからもずっとまーちゃんと一緒にいたい)コロちゃんはそう思っていました。
ある日の朝のことです。まーちゃんがいつものように少し慌てて学校に行こうとすると、お母さんがまーちゃんを呼び止めました。「まーちゃん」「何?」まーちゃんは急いでいるからか少しイライラした様子で言いました。「今日は学校で工作があるんじゃないの?」お母さんが言いました。「あ、忘れてた」そう言うとまーちゃんは慌てて自分の部屋に戻りました。机の中からボンドやはさみを出してビニール袋に入れました。それから、まーちゃんがいる本棚のほうへ近づいてきました。(まーちゃんどうしたの?)コロちゃんが不思議に思っていると、まーちゃんはどんぐりや木の葉、木の枝などと一緒にコロちゃんをさっきのビニール袋の中にいれました。(もしかしてまーちゃんと一緒に出掛けられるのかな?)コロちゃんの疑問をよそにまーちゃんは「いってきまーす!」と言って元気に小学校へ向けて出発しました。(まーちゃんと一緒にお出かけするのはまーちゃんと出会った日以来だ!)(あれ、空き地だったあそこ、家が建つのかな?やっぱりあの犬うるさいなー)とコロちゃんは嬉しくて嬉しくてなかなか落ち着けませんでした。
そんなコロちゃんの様子を見て「うるさいなあ」と横から声が聞こえました。コロちゃんは声の方向をきょろきょろしました。声の主はどんぐりのおばさんでした。
「すいませんでした、どんぐりのおばさん。」どんぐりのおばさんは神経質で、まーちゃんの部屋にいたときも元気なまーちゃんの声にいつもイライラしていました。
コロちゃんはそんなおばさんが少し苦手だったので黙っていることにしました。
その時です。いきなりコロちゃんとどんぐりのおばさんは地面にたたきつけられました。コロちゃんがさっき飛び跳ねすぎたせいでビニール袋に穴が開いてしまったのです。
「あなたのせいで落ちたのよ!もう戻れないじゃない。」どんぐりのおばさんは声を荒げてコロちゃんを責めました。
「おばさん、本当にごめんなさい。でも、このままだともうまーちゃんには会えなくなってしまうから、とりあえず一緒にまーちゃんを追いかけましょう。」とコロちゃんは言いました。「何を言っているの?もうまーちゃんに追いつくわけないじゃない!」
どんぐりのおばさんはまーちゃんにあきれたように言いました。「私はもうこれから新しい道を探すことにするわ。他の子どもに拾ってもらえるようにその辺で待っているか、それとも鳥に運よく運ばれたら木になれるかもしれないし…」
「でも、そんなことしたらもうまーちゃんと会えなくなっちゃうじゃない!」
まーちゃんはおばさんが全然まーちゃんに愛情を感じていなかったという事実に驚いていました。「私は一人でもまーちゃんを探します。どんぐりのおばさん、さようなら」
一人で行くのは心細いけれど、まーちゃんに会う方法はそれしかありません。
「ええ、じゃあもうお別れね。さようなら。」おばさんは淡々と言いました。
コロちゃんは1度だけおばさんを振り返りましたが、おばさんに別れを告げた以上もう後戻りはできません。コロちゃんは決心して転がり始めました。
ころころとコロちゃんが転がっていくと、黒猫に会いました。黒猫は目が黄色くて小柄で痩せていました。「よぉ、お嬢ちゃん。どこにいくんだい?」黒猫はコロちゃんに話しかけました。「私は、まーちゃんに会いに小学校までいくのよ」コロちゃんは答えました。「黒猫さんは何をしているの?」
「俺は毎日することもねえ。こうして日向ぼっこでもしてりゃ1日が終わるのさ。」黄色い瞳がギラギラしていました。「それってなんだか寂しいわね。」
「それよりお嬢ちゃん、1度はぐれたらもう会えるわけないよ。ここでのんびり暮らしたらどうだい?どうせそのまーちゃんはまつぼっくりのことなんてすぐ忘れちまうって」黒猫はまーちゃんを見て言いました。
これを聞いてコロちゃんは少しムッとしました。「何にも分かっていないのんきな黒猫さんに言われたくない。私はまーちゃんを探すわ。さようなら」と言って再び転がりだしました。(どうしてみんな私の気持ちがわかってくれないのかしら)
それからコロちゃんはまーちゃんに会うためにずっと転がっていきました。
…どれくらい転がったでしょうか。コロちゃんはいつの間にか眠ってしまいました。
目を覚ますと全然知らない風景が広がっています。薄暗くて誰もいません。コロちゃんが転がるたびにかさかさと枯葉の音がします。
(ここはどこ…?)コロちゃんはだんだん不安になってきました。
「すいません!誰かいませんか?」「道に迷ってしまったんです。」
コロちゃんは大声で叫びました。でも、誰からも返事がありません。
だんだん風も強くなりました。木が揺れる音も聞こえます。
すると、「あなたはコロちゃん?」と声がしました。コロちゃんはきょろきょろして探しましたが、見つかりません。「コロちゃん」もう一度声がしました。
上から聞こえているようです。コロちゃんが上を見上げると立派な松の木がありました。
「ああ、やっぱりコロちゃんなのね。私は、あなたのお母さんなのよ。」と松の木が言いました。不思議なことに松の木が話すと心地の良い風の音が聞こえました。
「あなたが、私のお母さんなの?」コロちゃんはびっくりしました。
「そうよ、コロちゃん。私はあなたのお母さんなの。あなたは今までここで暮らしていたんだけど、遠足でここに来たまーちゃんがあなたを連れて行ってしまったのよ。
でも、戻ってきてくれて本当に良かった。」松の木のお母さんはコロちゃんとの再会を喜んでいました。「本当に、あなたが私のお母さんなのね。」コロちゃんだってお母さんと会えて喜びました。そのあと、二人はしばらく再開の喜びを味わいました。コロちゃんは今までのまーちゃんとの思い出を全部話しました。お母さんはコロちゃんの長い話を一言も口を挟まずに聞いてくれました。不思議なことに、お母さんと話していると、初めてここへ来たときに怖いと思った風の音が優しい音楽のように聴こえました。これがずっと続けばいいのにと思うほどとても素敵な時間でした。
コロちゃんの話を最後まで聞いてからお母さんはこう言いました。「コロちゃんは言葉が通じなくてもまーちゃんが大好きだったのね。」コロちゃんは深くうなづきました。「でも、これからはまたお母さんとコロちゃんと二人で暮らしましょう。」コロちゃんは考えました。お母さんとの暮らしもとても楽しそうでしたが、コロちゃんはまーちゃんのことを思い出しました。「お母さん、私、でも…まーちゃんが…。今日はまーちゃんが工作をする日なの。私がいなくなったらまーちゃんが困ると思う。」お母さんは悲しそうな顔をしました。
「ごめんなさい、お母さん。でも私やっぱりまーちゃんのところに帰らないと。」
それを聞くとお母さんはほほ笑んで言いました。「そうね、コロちゃんはまーちゃんが大好きなんですもんね。いってらっしゃい、コロちゃん。私はいつでもあなたを見守っているからね。」コロちゃんはお母さんとの別れが急に悲しくなってきました。「もうお母さんとは会えないのかな?」
「いいえ、いつもコロちゃんのそばにいるわ。お母さんは風だからね。さあ、早くまーちゃんのところに行ってあげないと。行ってらっしゃい!」お母さんがそう言うと少し強い風が吹きました。コロちゃんはその風に押されて転がり出しました。コロちゃんはぐんぐん進んであっという間に森を抜けました。
森を抜けてしばらく転がるとさっきの黒猫とどんぐりのおばさんに会いました。
「こんにちは、コロちゃん」二人がコロちゃんを呼び止めました。
「こんにちは、二人そろってどうしたの?」コロちゃんは二人に聞きました。
「私達二人で話し合って、やっぱりコロちゃんについていくことにしたのよ。」とどんぐりおばさん。「俺は二人を背中に乗せて連れて行ってやるよ。コロちゃんの言うとおり、毎日寝てばかりでもつまらないからな」コロちゃんはそれを聞いてにっこりしました。
それからコロちゃんとどんぐりのおばさんは黒猫の背中に乗りました。
黒猫は二人のために一生懸命走りました。こんなに一生懸命走ったのは生まれて初めてでした。黒猫が走ればものの数分で小学校の前に着きました。小学校の前ではまーちゃんが探し物をしていました。黒猫はまーちゃんのそばに行き、「ニャー」と鳴きました。
まーちゃんが猫の上にどんぐりとまつぼっくりがあるのを見つけました。
「あ!これ私が探していたどんぐりとまつぼっくりなの。あなたが見つけてくれたのね。ありがとう。」まーちゃんは黒猫を撫でました。黒猫もまーちゃんにすり寄っていきます。(まーちゃん、また会えて良かった!)コロちゃんはまーちゃんに話しかけました。
優しい風が吹きました。
「え?いま?」まーちゃんが聞き返します。(あれ?まーちゃん、私の話分かるの?)
もう風は吹きません。
でも、コロちゃんは嬉しくて微笑みました。(お母さん、ありがとう)
まーちゃんはコロちゃんとどんぐりのおばさんをいつもよりずっと大事に持って教室に帰っていきました。

その後…コロちゃんとどんぐりはリースになりました。コロちゃんとおばさんは前とは違ってとても仲良しになりました。毎日いろんなことを話しました。
そして、なんとあの黄色い目の黒猫は何とまーちゃんの飼い猫になりました。
黒猫はまーちゃんにとても可愛がられています。もう1日中寝て過ごすこともなくなりました。
「ただいま!」さあ、今日もまーちゃんが元気に帰ってきました。
(おかえり、まーちゃん)
7
104024 さばとら うさぎの女の子 ある森の奥に、小さくて真っ白なうさぎの女の子が住んでいました。
女の子はお母さんと二人暮らしでした。
お父さんは、女の子が生まれる前に亡くなっていました。
だから女の子の家族はお母さんしかいません。
でも、女の子はお母さんが大好きなので全く寂しくありませんでした。
女の子は森の他の子どもとも遊ばずに、いつもお母さんと一緒にいました。

「お母さん、どこ行くの?」

ある晩、一緒に寝ていたお母さんが突然起き上ってどこかに行こうとするので、
女の子は心配そうに聞きました。

「寒くなってきたから家の前に葉っぱを多く積むのよ。
 すぐに戻るから、あなたはもう先に寝ていなさい。」

お母さんは優しくそう言うと、寝かしつけるようにぽんぽんと女の子の頭をなでました。

「いやよ、私も行く。ちょっとでも一人になるなんて嫌だもん。」

女の子は跳ね起きて、お母さんよりも先にドアの前に行きました。

「仕方ないわねぇ。寒いと思ったら、すぐベッドに戻るのよ。」
「はーい!」

暗い夜でも嵐の日でも、お母さんが外へ出るなら女の子も必ず一緒に出かけました。
怒られても泣きながらついて行くので、とうとうお母さんは怒らなくなりました。

「この子はお父さんがいないから、私までいなくなるんじゃないかっていつも不安なんだわ。
 でももし、本当にいなくなったら…。」

女の子のお母さんは女の子が蝶を追いかけている隙にふと、ふくろうの長老にそうもらしました。

「試練の日は必ず来るさ。今はたくさん可愛がってあげるのが良いじゃろう。」

無邪気に駆け回る女の子を微笑んで見つめながら、長老は言いました。


ある晩のことです。

その日はいつもより、狼の遠吠えが近くに聞こえました。
女の子は怖くなって、お母さんにぴったりとくっついていました。

「しばらくしたら、狩りでこっちにやってくるかもしれないわ。
 今のうちに入り口を塞いでおいた方が良さそうね。」

お母さんはそう言うと、女の子の目をじっと見つめました。

「危険だからあなたはここにいなさい。
 藁の中で、動かずにじっとしているの。良いわね?」

「そんなの嫌!!」

女の子はすかさず言ってお母さんの腕をつかみました。

「私も一緒に行くわ。狼なんて怖くない。」

すると、それまで不安そうながらも優しかったお母さんの顔が、
急に険しく、厳しくなりました。

「狼を怖くないなんて言うんじゃありません。
 あなたのお父さんはね、狼に食べられて死んだのよ。
 油断していたら私もあなたも同じ目に合うに違いないわ。」

女の子は一瞬おとなしくなりました。
が、少し考えた後、強気そうに言いました。

「大丈夫だもん!私はちゃんと気をつけるもん!
 お父さんみたいにはならないから、連れてって!」

言うか言わないか、お母さんの平手打ちが女の子にとびました。

「あなたはお父さんも狼も馬鹿にしているわ。」

女の子は泣き出しました。
お母さんは静かにするように言いましたが、女の子は中々泣き止みません。
やっと静かになったと思った時、外から恐ろしい狼の声が聞こえてきました。

「ウサギの声がしたのはこの辺り・・・。
 おいしそうなウサギが泣いている・・・。」

女の子とお母さんは顔を見合わせました。
すぐ近くで、狼が落ち葉を踏みながら歩く音が聞こえます。

「さっき言ったこと、覚えてる??」

お母さんは小さな声で女の子に言いました。

「藁の中でじっとしているの。
 藁はたくさんあるしあなたは小さいから、潜っていてもきっとばれないわ。
 お母さんが良いというまで、絶対に動いちゃだめよ。」

「お母さんはどうするの?」

「どうもしない。ここにいるわ。
 でも、もし狼が来たら自慢の足で素早く逃げる。
 そして朝になったらまた、戻ってくる。
 そうすれば2人とも生き残れるわ。」

ほんの少しの間、2匹は何も言わず見つめあっていました。

「本当に、ちゃんと戻ってきてくれる?」

女の子の声はかすかに震えていました。

「本当よ。そしてまた、あなたと一緒にいるわ。
 ・・・さぁ、静かに藁の中に入りなさい。」

女の子は何も言わずうなずくと、寒いときにするように藁の中に潜りました。
するとどこからかお母さんがたくさん藁を持ってきて、女の子の上にどんどんかぶせていきました。
真っ暗で重くてとても怖いですが、女の子は何も言わずじっとしていました。
やがて何の音も聞こえなくなりましたが、確かにそこにお母さんがいるような不思議な気持ちがしました。

突然、乱暴にドアを壊す音が聞こえました。
といっても女の子は藁の奥なのでその音は小さく、そこまでびっくりせずにすみました。
がうぅという狼の吼える声も聞こえました。
聞こえたかと思うと、狼は別の向きにがぁっと吼えて、そしてそれが狼の最後の声となりました。

あっという間の出来事で、その後がとても長く感じられました。
お母さんがちゃんと逃げられたのか不安でしたが、でもきっと大丈夫だと思いました。
なぜならお母さんの足は森の仲間の中でも特に速くて、特に急に曲がるのがとても上手だから、
逃げる側でいれば誰にも負けないに決まっているのです。

女の子はいつの間にか眠っていました。



「起きなさい、かわいいうさぎさん。」

お母さんではない声がしました。
うさぎの女の子は、出て行ってもよいのか少し迷いました。
が、ふと、その声がふくろうの長老であることに気がつきました。

「お母さんは??」

藁から頭だけだして、女の子は言いました。

「元気そうだね、良かった良かった。
 お母さんの話は、後にしよう。」

そう言ってふくろうの長老は、女の子にパンを差し出しました。
女の子は藁から出るとぺろりとそれを食べ、もう一度聞きました。

「お母さんはどこにいるの??」

長老は少し下を向いた後、顔をあげて言いました。

「もうしっかり目が覚めたかな。よおく聞くんじゃよ。
 君のお母さんはなくなった。狼に襲われたんじゃないかと思う。」

女の子は目を丸くしました。

「うそよ。」

そして凄い速さで外に出ると、そこにはたくさんの森の仲間がいて、
地面を掘り返したり葉っぱを落としたりしていました。

よく見ると、所々に血のような赤いしみが見えました。

「良かった、あなたは元気なのね。」

最初に近寄ったのは、狸のおばさんです。
お母さんと仲がよく、よく話していたのを女の子は知っていました。

「お母さんはどこ?朝には戻ってくるって言ってたの。
 おばさんなら知ってるでしょ!?」

狸のおばさんは目に涙をためて言いました。

「あなたのお母さんはねぇ、狼に襲われてなくなったのよ。
 きつねのお兄さんがそれを見つけたの。
 お母さんはきっと、あなたが生きてることをとても喜んでいるわ。」

「うそよ、うそよ。帰ってくるって言ったもん。朝には帰ってくるって、言ってたもん!」

するときつねのお兄さんがゆっくりと女の子に近寄って言いました。

「君のお母さんの顔は微笑んでいたよ。
 狼が帰っていくのを見て、君を守れて良かったって思ったんじゃないかな。」

女の子はそれを聞くと、何も言わず家に走って戻って行きました。
藁の近くに長老がいましたが、にらみつけると言いました。

「帰って!もう何も聞きたくない!!」

長老が出て行くと、女の子は藁に顔をうずめて大きな声で泣きました。

「お母さんの嘘つき!戻ってくるって言ったのに!
 一緒にいるって言ってたのに!!」

大きな声で泣き続けましたが、なぐさめてくれるお母さんはもういません。
泣くのも疲れたころ、女の子は小さな声で言いました。

「こうなるんだったら、お母さんについていけば良かった。
 私も死んじゃえば良かった。そうすれば天国でずっと一緒にいれるのに。」

何もしないまま、夕方になりました。
おなかがすきましたが、どうすれば良いかも分かりません。

すると壊れた入り口をひょいとのぞく狸のおばさんが見えました。

「ここも修理しないとね。
 あと、おなかがすいただろうからこれを食べなさい。」

狸のおばさんの両手には、木の実とはちみつのまざった、
おいしそうなごはんの皿がのっていました。

「・・・ありがとう。」

女の子は小さな声でそう言うと、むしゃむしゃとそれを食べ始めました。
普段はお母さんと二人なので、少し気まずく食べにくかったのですが、
料理はとてもおいしく、ちょっとだけ元気になりました。

「今夜は私のうちにとまっていかないかい?
 子どもがたくさんいて、うるさいだろうけど・・・。」

「いい。私はここで寝る。」

もしかしたらお母さんが帰ってくるかもしれないというのもありましたが、
他の人の家になんか泊まれないというのが女の子の気持ちでした。

「そっか。じゃあ早く入り口を修理しないとね。ちょっと待ってて。」

しばらくすると、大きな体の熊の大工さんが2匹やってきました。

「派手に壊れているなぁ。でも俺たちにかかれば30分で直るよ。」

「おじょうちゃん、とびらは外の木の色と一緒でいいかい?」

初めて見る人ですが、とても親しげに話しかけてくるので女の子は驚きました。
大きな体と茶色い毛が狼を思わせて少し怖かったのですが、少しずつ慣れました。

「この2人は森一番の大工さんなんだよ。
 ちょっとおおらかすぎるところもあるけど、仕事はとっても早いんだ。」

狸のおばさんが女の子の隣で言いました。
女の子はおばさんの話を聞きながら、2匹の作業をじっと見つめていました。
あっという間に新しい入口は完成し、熊の2匹は荷物をまとめ始めました。

「ありがとう、ございます。」

談笑しながら木材を木のつるでくくる2匹に、女の子はぎこちなく言いました。

「こんなの朝飯前さ。気に入らなかったら直しに来るから、また言ってくれよ。」

にこっと笑って2匹は出て行きました。

「じゃあ、私もそろそろ帰ろうかね。本当に、一人で大丈夫?」

狸のおばさんは、心配そうに女の子の顔を覗き込みました。

「うん、大丈夫。ありがとう、おばさん。」

そう言いながら女の子は、自分がさっきよりも上手にありがとうと言えた気がしました。
おばさんがいなくなって一人になると、女の子は藁の布団に横になりました。

「私は森の人たちとほとんどしゃべったことがない。
 でもみんな、私に優しくしてくれる。
 お母さんは、私が一人でも生きていけると思ったのかなぁ。」

少し前向きな考えに、女の子は自分でも意外でした。
が、そう言うとまた、お母さんが二度と戻ってこないということも改めて実感するのでした。

藁の布団にはお母さんの匂いが一番残っています。

「今日寝て、明日起きたら、お母さんと一緒にいますように…。」

そうつぶやいて、女の子は眠りに落ちました。



それから、数週間が過ぎました。
もちろんお母さんは帰ってきませんが、女の子は少したくましくなっていました。

まず、朝・昼・晩のごはんを、自分で決められるようになりました。
朝ごはんは、部屋の隅の倉庫から食べたいものを選びます。
昼ごはんは外で探します。ついでに朝ご飯にとっておけそうな食べ物も持って帰ります。
晩御飯は色々な人の家で御馳走になります。
それは狸のおばさんが提案したのですが、森のみんなが賛成してくれました。
他の人の家でごはんを食べながら、生活の知恵や森の情報を教えてもらうのです。

最初はお母さん以外と話すのが辛かった女の子ですが、
段々みんなが自分のことを森の大事な一員と思ってくれているのが分かって、楽しくなりました。

同じ年くらいの友達もできました。
きつねの男の子で、白い部分が多いので「しろ」と呼ばれています。

「おはよー、遊びに来たよー。」

しろがドアをとんとんとノックしました。

「入っていいよー。」

新しい藁をベッドに敷きながら、女の子が答えました。

「わぁ、藁のいい匂い。
 あのさぁ、西の山の近くの湖に遊びに行こうよ。
 兄ちゃんがさ、薄く氷が張っててとってもきれいだって言ってたんだ。」

しろのお兄さんは、女の子のお母さんを最初に見つけてくれた人です。
配達人をしているので朝から晩まで色々な場所を駆け回っています。
なのでしろも、素敵な場所をたくさん知っていました。

「うん、行こう。ちょうど今、藁を取りかえ終わったところなの。」

2匹は森の木の間をするすると走り抜け、湖を目指しました。

『わぁ、とってもきれい!!』

2人は同時にそう言いました。
広い湖には透明な氷が一面に張っていて森の木々や鳥たち、そして空と雲が写っていました。

「近づいてみよう!」

しろがそう言って走りだしたので、女の子もそれを追いかけました。
2匹は湖のふちに座って、透明な氷を見下ろしました。
そこには2匹の姿が、まるで鏡のように写っていました。

「とびこみたくなるなぁ。」

そう言いながらしろは、色々なポーズをとって楽しんでいました。
その横で女の子はじっと自分の姿を見ていましたが、やがてしろの方を向いて言いました。

「私って、お母さんに似てると思う?」

しろはまじまじと女の子の顔を見つめました。

「うーん、うん似てるよ。特に目が。
 でも僕、そこまで君のお母さんと会ったことないからなぁ。
 もしかしたら鼻と口もよく似てるかもしれないけど、分かんないや。」

そう聞いて女の子は少し嬉しそうな顔をしました。
そして、しろの目をじっと見て言いました。

「私ね、いつか狼を倒しに行こうと思うの。
 その時私を見て、『あ、あの時のうさぎだ!』って思ってほしいの。
 だからこれからお母さんとうんと似たうさぎにならなきゃいけないの。
 しろ、お母さんの顔、忘れないでね。」

しろは口をぽかんと開けながら女の子の話を聞いていました。
そして疑い深そうに目を細めながら女の子を見て言いました。

「あの狼に復讐するって?そんなの絶対無理だよ。逆に食べられるだけだ。」

女の子は氷の方に目をそらしながら静かに言いました。

「別に食べられてもいいの。私が今生きてるのは、あの狼を殺すためだから。」

しろは何か言おうとしてやめて、黙っていました。
2匹の間に数十秒の沈黙が続いた後、しろが言いました。

「分かった、僕も協力するよ。
 僕だって兄ちゃんやお母さん、お父さんを殺されたら同じように復讐しようと思うさ。
 でも、一人で突然復讐しに行くなよ。一緒に作戦を考えよう。」

それを聞いて女の子は信じられないという顔をして言いました。

「ほんとに?しろも食べられるかもしれないよ。」

「いいよ。僕らは友達なんだから。なんだってする。」

女の子は久しぶりに、心から嬉しいという気持ちになりました。
自分のことを本当に分かってくれるのはお母さんだけだと思っていましたが、しろも分かってくれたのです。


それから、女の子はだんだん昔の明るさを取り戻しました。
でも、昔と全く違うのは、その明るさが森のみんなに向けられたものだということです。

寒い冬が過ぎ、暖かい春が来て、暑い夏が来ようとしています。
女の子はみんなと雪山すべりを楽しみ、楽しく花をつみ、湖開きを待ち望んでいました。

「あのうさぎのおじょうちゃんは、すっかり変わったなぁ。」

熊の大工が狸のおばさんの家の壁を修理しながら言いました。

「初めてあの子の家に行った時は、恐ろしいものを見る目でこっちをずっと睨んでいた。
 話し方もロボットみたいで、きっとお母さん以外とまともに話したことがなかったんだな。
 でも、今は違う。
 道で会った時も、『もうすぐ倉庫がだめになりそうだから、また修理お願いしますね。』なんてにこっと笑って言う。
 あの子がお母さんを失ったのは、神様のご計画ってやつじゃないかなぁ。」

狸のおばさんは編み物をしながら微笑んで言いました。

「そうかもしれないわね。
 私の子どもたちの面倒だって見てくれるし、とても素敵なお姉さんになったわ。
 でもねぇ、それでも時々不安になることはあるわね…。」

狸のおばあさんがちらりと窓の方を向くと、分厚い雲が立ち込め辺りが薄暗くなっていました。

「不安なことってぇ?」

熊の大工が、不思議そうに聞きました。
が、狸のおばさんはそれには答えず、手元を見て言いました。

「これは、夕立で雷まで鳴りそうだわ。ずっと天気の良いままだと思っていたのに。」


どろどろの地面をぐしゃぐしゃ音を立てて踏見ながら、うさぎの女の子としろは走っていました。

「重大なものって、何?」

女の子が前を走るしろに叫ぶように聞きました。

「いいから、ついてきて。風邪をひいてでも見るべきものだから。」

やがてしろは、大きな木の根元で立ち止まりました。
既に雨はザーザー降りになっていて、周りには鳥一匹いません。

「これ、ここに生えてる白いきのこ。」

しろが指さしたのは、小さな小さな、それでいて不自然なくらい真っ白な1本のきのこでした。

「…しろ、もしかして。」

女の子は以前、しろと一緒に長老から話を聞いたことを思い出しました。
自分たちできのこを使った料理を作りたいから、食べていいきのこと食べてはいけないきのこを教えて欲しいと言った時、
少しも疑いもせず長老はそのきのこのことを教えてくれたのです。

「2人とも、ずいぶん仲良くなったもんじゃな。
 料理なんて、わしが家内としたのは一体いつだったか。
 …まぁいい、まず、絶対に食べてはいけないきのこを教えておこう。
 単体で生えていて、奇妙なほど白くて、柄は細く笠は広い、猛毒きのこじゃ。
 食べられる白いきのこは集団で生えると決まっておるから、一本だけの白きのこを見たら近づくんじゃないぞ。」

そのきのこは見た目はとてもきれいで、食べたらとてもおいしい味がしそうなのにと女の子は思いました。

「兄さんにこのきのこの話をしたら、一番大きくてきつねの手のひらくらいになるって言ってた。
 だからまだ子どもなんだろうな。秋までには十分な大きさになると思うけど。」

「秋がいいな。あの狼が来たのが、秋の中頃だったから。」

女の子はきのこをじっと見つめた後、しろの方を向きました。

「ありがとう、しろ。あなたのおかげで私の夢が叶いそうだわ。
 あとは私がとどめを刺す。まだ言うのが早いけど、残った家や森のみんなのことをよろしくね。」

「僕は君といるよ!」

しろが声を荒げて言いました。

「協力すると言ったのも、きのこを見つけてきたのも僕だ。
 君を一人にさせない。僕は君を裏切らない、そして君も僕を裏切らない、そういう約束だろ?」

女の子はさみしそうな顔でしろを見つめた後言いました。

「ありがとう、しろ。私はとても素敵な友達に出会えたわ。」


それからしばらく、穏やかな日が続きました。
女の子は昼は家のことをしたり、えさを取ったり、みんなと遊んだり、誰かを手伝ったり、
忙しく、でも楽しそうに動き回っていました。
そして夜は誰かの家で夕食をごちそうになるか、自分が夕食を作ってみんなを呼びました。
もちろん暗くならないうちに家に帰り、しっかり入口を土や葉っぱで隠し、早く寝ました。
が、朝早く起きるとあのきのこの所に行き、どれくらい大きくなったか確かめるのでした。


「明日、狼を殺しに行こうと思うの。」

しろと女の子はあの湖に来ていました。
紅葉した木々の葉の色がぼんやりと水に写って、とてもきれいで幻想的な眺めでした。

「いよいよだな。何か用意はしてる?」

何ということでもないという風に落ち着きながら、しろが言いました。

「いや、しろに言ってからにしようと思って。
 とりあえず、家を片づけないとね。でも、家具なんて少ないからすぐに終わっちゃうと思うけど。」

「僕も部屋を片付けるよ。置手紙もするかな…うーん、しない方が良いのかな。そっちは?」

「私はしないわ。しなくても、私が消えたらみんなどこに行ったのか分かると思うの。
 みんな心のどこかで、私が狼を恨み続けてることに気づいてるんじゃないかな。」

「そうかなぁ、すっかり騙されていると思うよ。僕だって、聞いてなかったら分からないな。」

いつの間にか、話は途切れて2匹はひたすら湖を見つめていました。
が、思い切ったように、しろが言いました。

「僕さ、本当は君は生きていた方がいいと思ってるんだ。
 君のお母さんは、君を守るために死んだんだから。」

すかさず女の子は言いました。

「そんな当たり前の言葉、何で言うの??」

女の子の表情が一気に変わったので、しろは焦るように言いました。

「違うんだ。僕も前までは君の役に立とうと決めていたんだ。親友としてね。
 でも今は違う。君のことが好きなんだ。君に死んでほしくない。
 これからも君と仲良くして、そしていづれは結婚して、そして…」

そこまで言ってしろは話すのをやめました。
女の子が泣いていたからです。

「嬉しいのに、嬉しくないの。ごめんね、しろ。私もしろが好きよ。」

女の子が帰ろうとするので、しろは後を追いました。が、

「来ないで。大丈夫、一人で早まったりしないわ。
 明日、一緒にきのこを取りに行きましょう。
 その時までに私、自分の気持ちをちゃんと確かめるわ。だから待ってて、しろ。」

しろは不安でした。
女の子は後ろを向いていて、顔が全く見えません。
親友だから、好きな子だから信じてあげないといけない。
でも、死んでしまったら何もない。

女の子が見えなくなった後、しろはすぐにきのこの場所へ駆けて行きました。

「良かった、きのこはある…。」

十分大きくなった毒キノコには、触った気配さえ全くありませんでした。
でも、今日はずっとここにいようとしろは決めました。


その夜のことです。
女の子は一人で家にいましたが、近くに誰かいないかいったん外に出て見回して、
そしてまた家に戻りました。

そして倉庫の物を全て出し、さらに底の土を掘り返しました。
毒きのこはちゃんと、そこにありました。

実は女の子は、大きくなっていくあの毒きのこの姿をもとに、別の同じ種類のきのこを毎日探していたのです。
それが見つかったのが今日、朝早く出かけていた時なのでした。

もちろんしろには言いません。
この世界で一番大切な人だから、生きていてもらわないと困るのです。

でも、女の子のもっと大切な人は、この世界にはいないのです。

「ごめんね、しろ…。」

そう言うと女の子は、大事そうに毒きのこを握りしめて家を飛び出しました。

女の子は、今日は狼が遅くまで起きないことをしっていました。
なぜなら今朝のぎりぎりの時間まで、うなり声をあげながら狩りをしていたのを知っていたからです。
早起きのおかげで狼の情報を得ることもできていたのです。

狼のすみかも、もちろん知っていました。
何でも知っている長老を騙して教えてもらったのです。
しろを騙すことも、長老を騙すことも、狼を殺すためなら女の子は構いませんでした。

素早く、でも足音を極力立てないように、女の子は走り続けました。
そしてとうとう、狼の家にたどりつきました。

「この中に、お母さんを殺した狼が…。」

立ち止り見上げると、雲一つない濃紺の空に、無数の星がちかちかと輝いています。
その1つ1つが、お母さんとの幸せだった日々を象徴しているようで、女の子は思わず涙ぐみました。

「見ててねお母さん、私があの狼に仕返ししてあげるから。」

どれほどこの日を待ち望んでいたことでしょう。
いくら森の仲間と仲良くなっても、女の子の心の中心はお母さんでした。
お母さんがなくなってから精一杯頑張って生きてきたこと、
狼への復讐を常に忘れず、こうやって作戦を練ってきたこと。
それらは全て、もう一度お母さんに会うためにしていたことでした。

遠くから別の狼の遠吠えが聞こえてきました。
時間はあまりありません。

女の子は、意を決して狼の家に入りました。中は真っ暗で何も見えません。
それでも、狼の低いいびきと獣のにおいで、すぐ近くにいることはよく分かりました。
暗闇に目が慣れると、少しだけ家の中が分かるようになりました。

「あれが狼ね…。」

大きな黒い動物がぐぅぐぅ言いながら横たわっています。
女の子は音を立てないように、ゆっくりゆっくり狼に近づきました。
女の子は、狼のすぐそばまで近寄りました。
よほどぐっすり眠っているのでしょう、起きる気配は全くありません。

「あとは、この毒キノコをどうやって食べさせるかね…。」

女の子は、2つの方法を考えていました。
1つ目は、別の食べ物の中に隠すこと。でもこれは、鼻の良い狼にはきっとばれてしまいます。
2つ目は、狼の口に無理やり入れること。もちろん狼は飲み込まないでしょうが、かむだけでも毒は回ります。
でも2つ目の方法では、女の子はきっと―。

「ねぇ、それおいしいの?」
 
女の子が強く握りすぎてひしゃげた毒キノコを見ながら、小さな赤ちゃん狼が言いました。
まさかもう一匹いたとは思わず、女の子は茫然としました。
が、近寄った赤ちゃん狼がキノコに頭を近づけると、

「食べちゃダメ!!」

女の子は大きな声でそう言って、キノコを遠くに投げました。大きな狼が目を覚ましました。

「私の子どもに何をしているの?」

子ども。
その言葉に女の子は動けなくなりました。
狼もお母さんで、子どもを守るために狩りをしていたことを女の子は一瞬で理解しました。

がおーっと狼が襲い掛かってきました。
女の子はもう逃げられないとあきらめました。その時です。

「食べちゃダメ!!」

小さな赤ちゃん狼がびっくりするほど大きな声で言いました。
狼はびくっと動きを止め、赤ちゃん狼を見ました。

「・・・って、お姉ちゃんが言ったの。」

赤ちゃん狼はけらけらと笑っています。
女の子ははっと我に返り、その隙をついて逃げ出しました。
後ろから狼が地面を蹴る音が聞こえました。

無我夢中で女の子は走り続けました。
その走りは今まででも一番速く、お母さんのようだと女の子は思いました。

やがて、ようやく後ろに狼の気配を感じなくなったころ、
女の子は遠くの木の下に見慣れたきつねを発見しました。

「しろ・・・!」

女の子は倒れるようにしろになだれこみました。




「お母さん、なんでいきなりお引越しなの?」

倉庫から食料を引っ張り出すお母さん狼を見ながら、赤ちゃん狼は答えました。

「もうここには住まないからよ。」

お母さんは赤ちゃん狼の方を見ずに言いました。

「うさぎのお姉ちゃんが入ってきたから?」

「そうね。」

「いいお姉ちゃんだよ。」

「狩り以外でうさぎに関わるのはいけないことよ。
 それに、あのうさぎは・・・。」

そこまで言うと、狼は何も言わなくなりました。
しばらくすると、荷物を抱えて言いました。

「さぁ、遠くの遠くの森に引っ越すわよ。一人で歩けるかしら?」

「うん、ぼく、歩けるよ!」

2匹の狼は、静かに家を後にしました。





それから3年後の秋のことです。

小さなイタチの男の子が、湖のそばに座って魚を見ていました。
そして何かを決心したかのように立ち上がると、湖にひょいと手を入れてすぐにひっこめました。

「魚を取りたいのかい?」

いきなり話しかけられたので、男の子はびっくりして振り向きました。

「なんだ、狸のおばあさんか。」

男の子はほっと息をつくと、手を広げながら話し始めました。

「もうすぐお父さんが誕生日だからさ、魚をプレゼントしたいんだ。
 だって魚の料理が大好きなんだから。でもなかなか難しいなぁ。」

おばあさんは微笑んでその話を聞いていました。

「たしかお母さんの誕生日の時も、好物をプレゼントしてあげていたねぇ。」

「うん、その時は楽だったよ。フユイチゴは真っ赤だし動かないし、すぐにとれるからね。
 でも魚は難しいなぁ。お父さんはキツネでお母さんはウサギだから、好きな食べ物が全然違うんだよね。」

そう言うと男の子は、「まぁもうちょっと頑張ってみるよ」と言ってひょいと背を向けると、
また水面をじいっと見つめ始めました。

その後ろ姿はしろのようだと、おばあさんは思いました。

3年前の秋の夜、しろとうさぎの女の子が行方不明になった日をおばあさんは忘れません。
あの日最初に騒いだのはきつねのお兄さんで、「しろが帰ってこないんだ。」と森中の人を起こして回ったのです。
その時、うさぎの女の子も家にいないことが分かり、森のみんなは大騒ぎになりました。
が、みんなが広場に集まったとき、遠くからゆっくり歩く足音が聞こえてきました。
それは、ぐったりとした女の子を背負ったしろの足音でした。
「遠くの木の下に倒れていたんだ。」とだけ、しろは言いました。

それから半年後、二人は結婚しました。
1年後には、両親を狩りに殺されてみなしごになったイタチの赤ちゃんを、二人は引き取りました。
三人は本当の親子のようで、森のみんなもそんな三人が大好きでした。

「狸のおばさん、私やっと分かったの。何であの時お母さんが私を守ってくれたのか。
 それはきっと、今のとても幸せな生活を味わうためだと思うの。」

そのように、うさぎの女の子、いや、うさぎのお母さんが言ったのは、
結婚した時だったか、イタチの赤ちゃんを引き取った時だったか。

年のせいで分からなくなったわ、と狸のおばあさんはため息をつきました。

「ねぇ、見て!狸のおばあさん!!」

イタチの男の子がこちらを向いて、嬉しそうに両手を差し出しました。
手には小さな小さな魚が一匹、まだピチピチとはねていました。

「この調子だったらお父さんの誕生日には大きいのが取れるかなぁ。」

男の子は本当に嬉しそうに魚に顔を近づけました。

「あぁ、きっと取れるよ。なにせ君は、森一番の狩り上手なしろの息子なんだからね。」

狸のおばあさんはそう言いながら、男の子の頭を優しくなでました。
その毛触りはあの泣き虫の小さなうさぎの女の子のような、
ふわふわした人懐っこいきつねの男の子のような、
どこか懐かしい不思議な感覚がするのでした。
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112006 アキラーニ ゴールドマン 私の名前はサムットプラカーン・C・ゴールドマン。人々は私のことをゴールドマンと呼ぶ。西暦4000年、人類は滅亡の危機であった。西暦3900年から始まった、100年にも及ぶエイリアンとの戦争で人々は疲れ果て、どんどんと勢力を増すエイリアンは今にも地球を占領しようとしていた。そして私が作られた。私は地球の平和を愛するシルバー博士によって、アメリカのサウスカロライナにある博士の研究所で作り出されたのである。私はこの研究所に住んでいて、地球にエイリアンが攻撃をしに来るたびにエイリアンとの戦いに出動する。シルバー博士は自分の息子夫婦をエイリアンによって五年に殺された。それ以来、博士はエイリアンへの復讐と地球の平和のために数々の道具やロボットを作り出してきた。私もその中の一つである。「お前の機能は実に良くできている。だから、人間のために頑張って戦ってくれ。」と、博士は口癖のように言う。博士のデータによると、私は空を飛ぶことができ、水の中に何時間でも潜ることができ、時速400キロメートルで走ることができる。必殺技のゴールドマンパンチは10トントラックを3キロメートル飛ばすことが可能である。また、私のパートナーとして活躍してくれている馬型ロボットのスプリンクフィールドは最高出力;600馬力、最高時速;800キロメートルという高い機能をもっている。博士によると、私が戦い始めてから、人類は順調にエイリアンとの戦いに勝っているが、エイリアンのボスであるジョージタウンを殺さない限り、エイリアンは次々と生まれ、人間への攻撃を繰り返すらしい。
「おはようゴールドマン、もう朝ごはんは食べた?」
突然後ろから誰かに話しかけられ少しびっくりしたが、振り返ってみると博士の唯一の家族であり、博士の孫であるポプラーブラフが立っていた。
「やあポプラーブラフ、朝ごはんはまだ食べてないよ。一緒に食べよう。」
「うん。ならおじいちゃんを呼んできて。」
「わかった。すぐ呼んでくる。」
そういって私は博士を研究室まで呼びに行った。ポプラーブラフはとても性格が良くて、博士に似て賢い人だ。五年前に父と母を殺されたのにもかかわらず、今ではしっかり成長し学校に通いながら家事や博士の手伝いをしっかりとしている。将来は博士のような研究者になるのが夢らしい。
「博士、朝ごはんですよ。」
「うむ、すぐ行く。」
みんなで朝ごはんを食べる。私のメニューは博士オリジナルのアツアツレッドオイルとスパーガソリンだ。この栄養満点な朝ごはんを食べることによって私は今日も1日エイリアンと戦うことができる。
≪ブルルン!ブルルン!ブルルン!ブルルン!≫
みんなが食べ終わりそうな頃、エイリアンが来たことを知らせるエイリアンサイレンが鳴り響いた。私はすぐに支度をした。
「行くぞ!スプリンクフィールド!」
そういって私はスプリンクフィールドに乗ってエイリアンのいる場所へ向かった。場所はウェストバージニアだ。幸いなことにここからあまり遠くない。目的地にはすぐに着いた。そこでは、珍しい体が青色のエイリアンが町を襲っていた。そのエイリアンは他のエイリアンよりも体がとても大きい。私は嫌な予感がした。
「やめろー!私が相手だ!」
「来たなぁ、ゴールドマン。俺の名前はミシガン。俺の体をみて分かるだろ?俺は今までの雑魚エイリアン達とは違うぜぇ。ジョージタウン様によって強くしてもらったんだぁ。そう!お前を倒すためにな!」
そう言っていきなりミシガンは攻撃してきた。私はとっさによけた。よけることはできたが後ろを振り向くと壁には大きな穴が空いていた。ミシガンはどんどん攻撃してくる。私は人間に被害が及ぶと大変なことになると思い、すぐにミシガンを倒そうと思った。しかし、ミシガンの攻撃はスピードは速くないが威力が強いのでなかなか近づくことができない。困っていたが、私は閃いた。ミシガンを倒す方法を。
「行くぞ!スプリンクフィールド!」
そういって私はスプリンクフィールドに乗り、ミシガンの方へと向かっていった。
「ははははは、やっと攻撃してきたと思ったら、馬に乗るだけか!そんなので何ができるっていうんだ!」
私はどんどんミシガンに近づいて行く。
(今だ!)
と思い、いっきにスプリンクフィールドの背中から飛び、ミシガンの頭上を越えて着地し、見事にミシガンの後ろを取ることに成功した。
「くらえ!ミシガン!はああああああああああー!ゴールドマンパーンチ!」
「ややややめろ!うわあああああ!」
ミシガンは叫びながら宇宙へ吹っ飛んで行った。危なかったと感じながら私は研究所に帰り博士にこのことを連絡した。
「博士、今日戦ったエイリアンは今までのエイリアンと違い体が大きく、青色をしていました。」
「ふーむ、人間がどんどん強くなっていくのに対抗してエイリアンも強くなっていこうとしてるのかもしれん。よし、もっと強い武器を考えなければならないな。報告ありがとうゴールドマン、今日は部屋に帰ってゆっくり休んでくれ。」
博士にそういわれて私は自分の部屋に戻りゆっくりと休んだ。
 目が覚めるともう朝だった。私がリビングへいくともうポプラーブラフは起きていて、朝ごはんの準備をしていた。
「あら、おはようゴールドマン。昨日はお疲れ様。新型のエイリアンと戦ったらしいわね。おじいちゃんから聞いたよ。あ、おじいちゃん呼んできてくれない?」
「うん。わかった。」
そういって私は博士を研究室まで呼びに行った。研究室に入ると、博士は考え事をしているようだった。どうやら新しい私の武器を考えているようだ。
「博士、朝ごはんの準備ができました。一緒に食べましょう。」
こうして今日もみんなで朝ごはんを食べた。食べ終えて、ポプラーブラフは学校へ行った。博士も研究室に向かったので私はポプラーブラフに頼まれていた洗い物と洗濯をした。すべてし終わった時、突然エイリアンサイレンが鳴り響いた。調べてみると今度の場所はどうやらポプラーブラフの通っている学校らしい。私は大変なことだと思いすぐに向かった。研究所から近いということもあり、学校にはすぐに着いた。早く着いたので幸いなことに建物などの被害は少ない。しかし、奇妙なことにそこには異様な雰囲気のエイリアンがいた。大きさはミシガンとは違い、今までのエイリアンと同じくらいだ。だが、あきらかに今までのエイリアンよりも邪悪な感じがした。
「来たなゴールドマン。私がジョージタウンだ。そう、エイリアンの王だ。私の最高傑作であるミシガンを倒され、そろそろ決着を着けようと思い、ここに来た。」
「なるほど!なら話ははやい!いくぞ!」
私はジョージタウンに近づいて行き攻撃した。しかしジョージタウンのは素早く、私の攻撃はなかなか当たらない。ジョージタウンはしっぽのようなものを振って攻撃してくる。それはとても早く、私にはよけることができない。しかも、その攻撃は非常に威力の強いものであった。どうすることもできず、私はただただジョージタウンの攻撃を受けていた。しかし、私はミシガンを倒した時のことを思い出した。そして私はミシガンを倒した時のように攻撃すれば、ジョージタウンも倒せると考えた。
「行くぞ!スプリンクフィールド!ミシガンを倒した時のようにジョージタウンに攻撃するぞ!」
どんどんジョージタウンに向かっていく。
(今だ!)
と思い、スプリンクフィールドから飛び立った。そしてジョージタウンの後ろを取ることに成功した。
「くらえ!ジョージタウン!ゴールドマンパーンチ!うおおおおおおお!」
「ぐはあああああああ!」
ジョージタウンは叫びながら吹っ飛び、壁にぶち当たった。私は勝ったと思った。
「うおおおおお、、、、やるなぁ、ゴールドマン、、、だが、まだ終わりではないぞ、」
しかし、どうやらまだジョージタウンは生きているようだ。私はこのままでは逃げられてしまうと思い、すぐにジョージタウンに攻撃をしようと近づいた。
「それ以上近づくな!ゴールドマン!こいつがどうなってもいいのか?ふははは!」
「なに!」
私は驚いた。なんとジョージタウンはポプラーブラフを人質に取っていたのだ。
「よしよし、大人しく俺の言うことを聞け、ゴールドマン」
「俺に何をさせるつもりだ、ジョージタウン。」
「ゴールドマン、お前は俺の仲間になれ。お前が仲間になれば俺はもっと強くなれる。そして、お前がいなくなった人類はすぐに俺たちエイリアンに滅ぼされる!」
「なぜ人類を滅ぼそうとするんだ!ジョージタウン!」
「人間が俺たちエイリアンの住んでいた星、コルデスターンを滅ぼしたからだ!今から200年前、お前たち人間は巨大宇宙船に乗っていきなりやってきた。そして、俺たちエイリアンからすべてを奪った。家族、友人、恋人、家、それらのすべてをお前たちが奪ったんだ!俺は両親を人間に殺された。あの頃、まだ俺は幼かったが、今でもあの時の気持ちは忘れない!だから今度は俺たちが人間からすべてを奪ってやるんだ!」
私は困った。私は昔人間がそのような事をエイリアンにしてしまったことを知らなかったからだ。私はこのままジョージタウンの仲間になった方がいいのだろうかとさえ思った。ジョージタウンの方を見ると、ポプラーブラフと目が合った。そして私はポプラーブラフも両親を殺されていることを思い出した。そして、何よりもまずポプラーブラフを助けなければならないと思った。
「ジョージタウン!まずはその子を解放してくれ!その子もお前と同じで両親を殺されている!その子は関係ない!話はそれからだ!」
「ふざけるな!ゴールドマン!こいつを放したらお前は俺を攻撃するだろう!」
私はポプラーブラフを放そうとしないジョージタウンに怒った。
「ならば!お前を倒す!」
しかし、ポプラーブラフが人質に取られていて何もすることができない。
「ゴールドマン!これを使うんじゃ!新しい武器『聖剣トランシルヴァニア』じゃ!」
声のする方を見ると博士が立っていて、剣を持っていた。私はそれを受け取った。剣を持った瞬間、もの凄いパワーを得た。そしてゴールドマンは一瞬でジョージタウンの目の前に立った。
「くらえジョージタウン!これが新必殺トランシルヴァニアショットだ!」
そういって剣を振ると、ジョージタウンはまっぷたつになった。とうとうエイリアンとの戦いは終わった。
 次の日、ゴールドマンは旅に出た。今度はエイリアンを倒すためでなく、より多くの人を助けるためである。
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112008 SI 彼女は僕の太陽だった プロローグ:雪の日
何故だ?痛い。何故だ?僕は間違っていない。何故だ?なぜ僕はこの雪を赤色に染めて倒れているんだ?そしてなぜ君は僕をそんな顔で見つめているの?なぜそんな悲しそうな顔なの?何故だ?なぜ・・・な・・ん・・・だ?・・・・桜。
第一章:出会い
僕の名前は川村始。冴えない普通の高校2年生だ。特に何もない16年間を過ごしてきた。しかし、そんな僕に出会いがあった。高校2年生の夏だ。セミが鳴きはじめ、太陽がギラギラと照りつける、そんな暑い日に彼女は転校してきた。
「真島桜です。」
彼女はそう名乗った。今まで普通に何もなく過ごしてきた僕の頬に爽やかな風が吹いた。一瞬だった。これが一目惚れなのか。そう感じたのを今でも覚えている。彼女はすぐにクラスの人気者になり、みんなが彼女の周りに集まった。僕とはまるで正反対だ。ただ眺めているだけで良かった。ただ眺めているだけで幸せだった。彼女と僕が言葉を交わす、ましてや付き合うなんて絶対にありえないと感じていた。なのに・・・。
「あなたは私のそばにいればいいの。」
彼女は僕を公園に呼び出し、確かにそういった。そして、「あなたが好きなの」と囁くようにいった。一瞬で僕の目の前が太陽が昇ったように光り輝いた。僕は彼女と付き合うことになった。今まで、腹が煮えくりかえりそうになっていたニュースを見ても、彼女の一言で気持ちが収まった。彼女と付き合ったことから、嫉妬や羨ましさでイジメにもあった。殺してやりたいほど腹が立っても、彼女の一言で気持ちが収まった。全ては彼女がいることでどうでもよくなった。彼女のそばにいると、まるで日溜まりにいるような暖かさだった。そう、彼女は僕の太陽だった。
第二章:別れ
そんな彼女との突然の別れは文字通り、本当に突然だった。彼女が死んだ。交通事故だった。その日は彼女といつも通り一緒に登校して、彼女といつも通り一緒に昼ご飯を食べ、彼女といつも通り一緒に下校して、いつもと同じところでさよならをした。その数分後だったそうだ。事故の次の日いつもの待ち合わせ場所に彼女は来なかった。僕は一人で登校して、一人で昼ご飯を食べ、一人で下校した。帰り道、またイジメを受けた。殴られた。初めて殴り返した。相手は驚いたような顔をして、イジメはエスカレートした。僕は顔をパンパンに腫らして家に帰った。帰ると同時に電話が鳴った。両親は共働きなので、母親から電話だろうと思い、受話器をとった。
「もしもし?なに、母さ・・」
「川村始さんですか?真島桜の父です。」
「えっ?あっ、はじめまして」
「桜が最期まで君の名を呼んでいたので」
「最期?どういう意・・」
「桜は死にました。交通事故で」
そこから彼女の父親と名乗る人物は延々と事故の話をしたが、僕には何も聞こえなかった。彼女が死んだ?まさか!僕は家を飛び出した。三丁目の葬式場まで無我夢中で走った。そんなはずはない。彼女が死んだ?そんな馬鹿な!・・・彼女の死に顔はまるで生きているようだった。スポーツカーに轢かれたそうだ。しかもその車はひき逃げ、まだ逃走中だそうだ。僕の目の前は真っ暗になった。逃げるように葬式場から飛び出した。家に帰り、布団に飛び込み、泣き続けた。涙の色が赤色に染まるまで泣き続けた。顔を上げたとき、布団は真っ赤に染まっていた。
第三章:太陽の当たらない道(入口)
犯人の名は中島公平。フリーターで事故当時は泥酔していたそうだ。所謂、飲酒運転。今もどこかに潜伏中だそうだ。彼は飲酒運転の常習犯のようで、他にもいくつか事件を起こしていた。僕は彼に関する情報をかき集めた。三年分の新聞を読みあさった。しかし、彼の痕跡は何一つ見つけることができなかった。警察も動き出していた。僕は彼の更なる情報を集めるため、警察に潜入した。そこで思わぬ人と出会った。桜の父親、真島隆だった。彼は刑事だったのだ。
「君は・・・川村君?どうしてここへ?」
「犯人のことをどうしても見つけたくて・・」
「見つけてどうするつもりだい?復讐するつもりじゃないだろうね?」
「それぐらいの気持ちはありますが、殺してしまっては、僕も彼と同じ人間です。」
「それを聞いて安心した。こちらへ来なさい。」
それから私は中島に関する情報を真島から入手した。それを頼りに僕は警察よりもはやく、中島の居場所を発見した。彼は僕を見るなり、刃物を突きつけた。
「死にたくなかったら、出て行け!」
「罪を償え。警察に出頭しろ。」
「黙れ!死ね!」
彼は刃物をかまえ突進してきた。僕はすんでのところでかわしたが、彼は馬乗りになってきた。しかし彼はバランスを崩し、僕に乗っかったまま、転がった。気づくと、僕が刃物をもち、彼の喉元に突きつけていた。
「はあ・・はあ・・。やめてくれ。しかたがなかったんだ。殺すつもりなんてなかったんだ。」
その時、なぜか僕の頭のなかに桜が現れた。彼女はもういない。その彼女をこの世から消したのはこいつだ。しかし、彼女の父は復讐はするなといった。僕の中で葛藤があった。頭の中がめちゃくちゃになりそうになった。・・・コイツヲコロセバカノジョガヨロコブ。そして僕は初めて人を殺した。彼女のために、彼女のために。彼女のためなら何でもできる。僕の太陽である、彼女のために。僕は彼女のいない、太陽の当たらない道を歩き始めた。
第四章:太陽の当たらない道(道中)
彼の遺体は裏山に埋めた。誰にも見られていない、誰にも見つかるはずがない。僕が捕まるはずはない。頭ではそうとわかっているのに、体が言う事を効かない。
「逃げないと、誰にも見つからない、どこか遠くへ」
それから一週間後、僕は別の街にいた。ここなら大丈夫。見つかりっこない。ろくにご飯を食べていなかったので、近くの定食屋に入った。焼肉定食を食べ、少しボーッとしていた。テレビが次のニュースを流した。
「昨夜、○○市の裏山で男性の遺体が発見されました。男性は先月交通事故で女子高生をひき逃げし逃げていた、中島公平容疑者と見られています。」
僕はトイレに駆け込み、食べたもの全てを吐いた。見つかった?馬鹿な!ミスはなかったはずだ。僕だなんてバレるはずはないのに。このままでは彼女の父親が、真島隆がきずく、血眼になって僕を探しているのに違いない。逃げなくてはいけない。見つかるわけにはいかない。もっと遠くへ、もっともっと。僕はますます太陽の当たらない暗い道の奥深くに入っていくことになる。
第五章:眩
僕は逃げ続け、気づけば半年が立っていた。12月だった。ここまで生き延び、逃げるために何度も強盗を繰り返した。金を盗み、物を盗み、それらを盗むために2人もの命を盗んだ。僕は完全な殺人鬼になっていた。ある日だった。ここ二日間滞在している、ホテルの自販機が潰れていたので、外に出た。自販機を探し、見つけた。金をいれ、ボタンを押そうとしたその時・・
「久しぶりだね、川村君。」
血が凍った気がした。心臓が止まったのではと思った。真島隆が僕の目の前にいた。
「ちょっと調査でここまでね。君はなぜここに?」
「自分の気持ちを落ち着かせるために旅に出ようとおもって。」
「そうなのか。あ、そうだ。彼・・中島公平は殺されたみたいだ。」
「はい・・・ニュースで見ました。僕は結局彼を見つけ出すことができなかったので、誰か正義の味方が裁きを下してくれたみたいですね。」
「正義の味方か・・・。川村君、せっかくこんなところで再会出来たのだし、ご飯でも一緒にどうだい?」
「いいですね。ではホテルの部屋に戻って、準備をしてきます。」
部屋に戻って僕は頭をフル回転させた。絶対に奴は気づいている。絶対に。僕を追ってきたんだ。捕まる。彼女のためにここまで生きてきたのに、これでは意味がない。捕まるわけにはいかない。どうする。どうすればいい。気づけば、僕はカバンの中にナイフをいれていた。・・・ヤツヲケセバイイ、カノジョノタメニ。
「お待たせしました。」
居酒屋だった。こじんまりしている。ある程度箸が進み、彼はこう話始めた。
「なぜ、桜のそばにずっといてくれなかった?」
なぜそんなことを聞く?僕は彼女のために・・・
「どうしても気持ちを落ち着けるために旅にでる必要があったのです。」
「半年もか?」
「ええ・・・」
「川村君、実はね。中島の遺体の手に髪の毛がつかまれていたんだ。その毛のDNAを鑑定したいのだが、念の為に君のDNAも鑑定したいんだが・・・」
「なぜですか?まるで僕が疑われているみたいではないですか?」
「君は、本当は中島にあっているんじゃないのか?」
「ふ、ふざけるな。僕は見つけることはできなかったといっているじゃないか。」
「もういい・・・。本当はもうDNA鑑定は済んでいる。中島の手の中にあった、髪の毛のDNAは君のDNAと・・・」
「黙れ!そんなこと信じないぞ!」
気づけば僕はカバンからナイフを出していた。
「なぜそんなものが必要になる?」
「黙れ黙れ黙れだまれええええええええええええええ!!!!」
僕はナイフをもって、外に飛び出していた。奴は追いかけてきた。いつのまにか外は雪になっていた。奴が追いかけてくる。捕まる。ここで殺さなくてはいけない。僕は間違っていない。
「うおおおおお!!」
僕はナイフを振り上げ、奴に切りかかった。そこから取っ組み合いになり、僕は奴に馬乗りになった。僕はナイフを振り上げ、奇声をあげて、振り下ろした。しかし、感触がなかった。代わりに心臓近くに激痛がはしった。見てみると、奴が銃を構えていた。そしてその銃口は僕の心臓に向けられていた。僕は雪の上に仰向けに倒れた。周りに人が集まる。悲鳴を上げているひとがいる。・・・僕は死ぬのか?死にたくない死にたくない死にたくない!!!野次馬の中に彼女の姿があった。彼女は今までに見たことのないような悲しい顔をしていた。
「何で?僕は間違っていない。こんなに暗い道を頑張って歩いてきたのに君が急に現れたら、眩しいじゃないか。」
やっと僕は太陽の当たる道に出た。やはり彼女は僕の太陽だった。
8
112009 maopedia Restart プロローグ


  木曜日。店内午後4時を知らせる時報が響く。ログハウスのようなつくりでできている店内には、アンティークなものが所々に散りばめられている。1人の男性が店に入ってきて、カウンター席に座った。
  「涼ちゃん!ご無沙汰だね〜。心配してたんだよ!最近、店に顔出さなかったから。半年ぶりぐらいになるのかしら?」店の女主人が、涼と呼ばれたその男性に親しげに声をかける。
  「久しぶりだね。ごめんね、しばらく顔出さなくて……。」
  「いいのよ、いいのよ!こうやって久しぶりに顔出してくれたんだから!いつものやつでいい?」
  「うん、よろしく。」

 
  涼はコーヒーを飲みながら、半年前のことを思い出していた。
  「ごめん……。おれ、いまが1番大事な時期なんだ……。悪いけど麻衣のことを思ってる余裕なくて……。」
  「……。」
  「……。ほんと、ごめん……。」
  別れだけ告げて、逃げるように去ったあの日。一方的にふってしまったことを涼はずっと後悔していた。別れを告げた場所はちょうどこの店。今、彼が座っているカウンター席から見てちょうど真後ろのテーブル席だ。あの日以来、通い詰めていたこの店をなんとなく涼は避けていた。あの情けない日の自分自身を思い出すからだ。それが今日、なんとなく、彼はひさびさにマスターのコーヒーが飲みたくなってふらりとやってきたわけだ。しばらく顔を出していなかったにもかかわらず、優しく今まで通り接してくれるマスターに、涼は頭が下がるばかりだった。半年たっているとはいえ、彼女のことを思い出してしまい、後悔の念にかられる涼。いまでも許してくれるかな?そんなわけないか、半年も連絡とってないんだもんな。そんなことを思いながらコーヒーを飲み終え、店を出ようとする涼。
  「またくるよ、ありがとうね。」
  「はーい、またおねがいね!」


  店を出て、左を向いた瞬間涼は凍りついた。そこには麻衣が涼と同じような表情を浮かべながら立ちすくんでいた。




  思いがけない半年ぶりの再会。突然の再会に動揺を隠せない二人。
  「久しぶり……。元気だった?」と、麻衣。
  「うん、まあね。そっちは?」
  「うん……。まぁまぁかな?今もこの店に通ってるんだ。相変わらずだね。」
  「まあね。」恥ずかしそうに答える涼。
  少しの沈黙のあと、涼が思い切って話を振ろうとする。
  「あのさ!」
  「え、なに?」
  涼は返事をした麻衣の目から、何か期待と不安の混じったようなものを感じた気がした。
  「この先にさ、最近できた店があるんだ。……よかったら……どうかな?」
  「ちょうどお腹空いてたんだぁ〜!いこいこ〜!」
  満面の笑みで答える麻衣。
  その笑顔に吸い込まれそうになる気持ちを押し殺しながら、涼も微笑みながら頷く。
  店に向かい一緒に歩いていても、なんとなく二人の間に距離を感じてしまう涼。半年の間にできた溝が、自分の思っていたよりも大きいものだということを知り、黙りがちになってしまう。麻衣も同じことを感じているのか、二人の会話はどこかギクシャクしたものになってしまう。

〜店〜

 「仕事……。順調?」麻衣が話を切り出した。
 「うん、今度重要な役を任されることになったんだ。」
 「そっかぁ。夢叶ったんだ〜。良かったね、ホント!おめでとう!」
 「ああ、ありがとう。」
  自分の夢を叶えたいという一方的な理由で別れを切り出したのに、麻衣の方からその話を出されたことで少し後ろめたい気持ちになる涼。謝りたいという気持ち。夢が叶った今、もう一度麻衣とよりを戻したいという気持ち。素直な自分になれずに、もどかしくおもう気持ち。麻衣と話していく中で、涼の中でどんどん複雑な思いが混ざり合っていく。暴走しそうになる感情を、理性で必死に押し殺しながら涼は会話を進めていく……。

  店を出る頃には、あたりはすっかり肌寒くなっていた。西の空は紫に染まり、太陽はその最後の光をのぞかせていた。
 「夕日、すっごいきれいだね〜!」素直に感動した気持ちを伝える麻衣に、よりいっそう思いが募る涼。
 「麻衣……。」
 「なに?」 
名前を呼んでみたものの、傷つくことを恐れ大事な言葉がでてこない涼。
 「いや……。今日はありがとう。」
  「こっちこそありがとね。じゃあもう帰るね。ホント今日はありがと。」
  去っていく背中を見ながら、何もできなかった自分の惨めさを悔やむ涼。空はすっかり暗くなっていた。
 



〜涼の部屋〜



 「で、そのままノコノコ帰ってきたわけ?」
 「うん……。」
 「ったく、おまえはー。なに考えてんだよ!チャンスだったんだろー?もったいねぇなぁ。」
「……。」
 「馬鹿だなぁ、お前。あんなけ後悔してたんだからよりをもどせばよかったんだろ?なにしてんだよ、ほんと。」
  「そうだよなぁー。おれ、ほんとバカだ。」
  「ほんとバカだよ、おまえー。いきなり呼ぶから、なんか面白い話でもあるのかな?と、思ってきたのにー。」
ビールを片手に、満面の笑みで笑ってる男。二人は小さなワンルームにいる。涼の部屋だ。
  「うっせえな、分かってんだよそんなこと。」
涼はムッとしながら、こたえる。
  「まぁ、昔っから本当お前変わんないね!昔っからヘタレだもんなー!」
  「おい、しつけーぞ!優斗。」
  「おっと!おこんなよ!わかってるよ、おまえの気持ち。」
優斗と呼ばれた男は、ニヤニヤしながら涼をみている。
  「おれだって!話しかけようとは思ったけど……。俺の気持ちなんかわかんねぇよ、おまえには。」

優斗の顔が急に真面目になる。
  「ったくぅ。小学校からの仲じゃない。わかってるよ、お前のことぐらい。でもな、お前がここで動かないとホントにあとあと後悔するぞ。この半年間、おれはずっと後悔し続けてるお前をみてきたんだ。もうそれも見飽きた!いけ!男を見せろい!」
優斗はこう言いながら、量の背中を思いっきり叩く。
  目をまんまるにして笑いながら、涼は答える。
  「なんだよ、いきなり。わかったよ、メールするよ!」
  「はは!わかればいいんだよー!さぁ!のむぞー!ほら!バンバン飲め!こんなけ酒買ってきてやったんだ!」
涼もそんな優斗を見て、微笑みながらビールを飲み始めた。


〜数時間後〜


  ベッドに横になりながら、携帯を見つめてる涼。その目は画面を睨みつけている。
  「……。で、いつまでそうやってるわけ?もう、一時間半だぜ?」
優斗がニヤニヤしながら、涼を見ている。
  「うっせーな!何打つか考えてんだよ!」
  「そういってもう一時間半なんだけどなー。あれ?もう一時間四十分だ!」
優斗はニヤニヤしながら、涼を茶化す。
  「うるせーな!邪魔するんだったら帰れよ!」
  「残念!今日ボクはお車なんですぅ。もうお酒飲んじゃったから運転できないのー。こんな夜中に男の子一人歩いて帰す気?つめたぁい!」
  キッと優斗を睨む涼。
  「ははっ!冗談だよ!俺が代わりに送ってやろうか?」
笑いながら涼が聞く。
  「いや、いい。お前なに打つかわかんねぇし。」
  「なんだよ、信用ねぇなー。優ちゃん、もうぐれちゃうもんねー。」
優斗はあいかわらずおどけている。

涼の携帯の画面には
「明後日の晩空いてる?」
の文字。
その画面をずっと見ている涼。
するといきなり
  「で!なんて書いたのよ!」
と、優斗がベッドに飛び乗ってきた。
その瞬間、送信ボタンを押してしまう涼。
  「あぁー!送信ボタン押しちまったじゃねえか、バカやろー!」
  「お?すまんすまん。まぁ、送信できて良かったじゃん!あとは返事くるのを待つだけだな!はは!」
  「おまえ……このやろー!」
  「あぁ!お前今マジでなぐったべ!?」
  「当たり前だろー!!」


二人が暴れている中、ベッドの上に置きっ放しにされた涼のメールには麻衣からの着信の表示がでていた。


〜二日後  涼の行きつけの店〜



  「この店くるの久しぶり〜!涼ちゃんこの店大好きだもんね!」
  「あぁ、まぁね。」
  テーブル席に向かい合う涼と麻衣。カウンターの奥ではマスターがあいかわらずグラスを拭いている。いつもと変わらぬ店内の風景。涼はこの雰囲気が好きだった。
  「なぁに?話って?」
麻衣の方から切りだした。その目からは不安と期待が見て取れた。
  「あ……。その、なんていうか。ずっと、麻衣に……。その、謝りたかったんだ。俺のわがままで麻衣に辛い思いをさせたこと……。その……ホントごめん。」
頭を下げる涼。
  「頭を上げて!涼ちゃん!いいよ、もう終わったことだもん。だから、謝らないで。」
麻衣も少し動揺しながら答える。
  「ほんと、ゴメン。」
  「もうあやまんないでってば!次謝ったら罰ゲームだよ!」
  「え?ごめん。」
  「もう謝ってるじゃん!」
麻衣が笑いながら指摘する。
  「あっ。」
涼もつられて笑い始めた。
  「涼ちゃん、約束通り罰ゲームだよ!」
  「あ……。うん。なに?」
  「湊公園に連れてって!」
  「湊公園?今から?」
  「うん!」
  「あ……うん。」
力なく頷く涼。
  「よし!いこー!」
マスターもクスクス笑っていた。



〜数時間後  湊公園〜


  「久しぶりだね〜!ここにくるのも!」
麻衣が楽しそうにいう。
  「そうだね。すっごい久しぶり。」
涼がこたえる。
  あたりはすっかり暗くなっていた。湊公園は涼と麻衣が始めてデートをした場所だ。こんなところに連れてくるなんて、何を考えているんだろうか?と、涼は考えていた。そして涼は楽しそうな麻衣を見ていると、不思議と麻衣への気まずさも薄らいでいく気がしていた。同時に麻衣への想いもどんどん膨らんでいた。このまま告白しようか?そんなことを思いながらも、いや、自分が前に勝手に振ってるんだぞ?と、いう気持ちも沸き起こっていた。涼の中で二つの気持ちが涼のなかで膨れ上がっていた。
  「麻衣。」
  「なぁに?」
  「あのさ……。その、なんていうか。」
そのとき、いきなり涼の携帯がなり始める。
  「その、なんていうか。携帯……なんだよ!もう!」
  「でていいよ!」
麻衣がクスクス笑いながら言う。
  「あっ、ゴメンね!ほんと。もしもし?」
  「あっ、涼!うまくいってる?」
優斗からだった。
  「なんだお前か。お前タイミング悪いよー。切るぞ?」
  「あっ!コラ待て!」
  「ったくなんなんだよ!?」
  「おまえ!告るんだったらガツンとストレートだぞ!ストレート!わかったな?ストレー……。」
途中で電話を切った涼。ただその顔は微笑んでいた。なんだかんだで、優斗のおかげで勇気がでた気がした。

  「ごめん!友達がね。」
  「いいよ全然!気にしないで。」
麻衣が答える。
  涼は心を決めた。
  「ねぇ、麻衣。勝手なこというよ?もう一回付き合ってください!」
そして、頭を下げる。足がガクガク震える。麻衣の沈黙がとても長く感じる。ギュッと目を閉じて返事を待つ。
  ……。返事がない。恐る恐る目を開けて麻衣を見ると泣いていた。でも、目は優しく微笑んでいた。言葉には出せなくても、麻衣は「うん、うん」と、何回も頷いていた。涼は急に全身から緊張感が抜けるのを感じた。
  「ありがと。ほんとにありがとね。」涼は麻衣に言いながら、ギュッと優しく麻衣抱きしめる。

星空のしたの湊公園に街頭に照らし出された二人のシルエットが浮かんでいた。




そのころ……



「あいつー!電話切りやがって!」
優斗は怒っていました。
めでたしめでたし。
7
112010 eflam サムとイカ大王とマーメイド これは、イカ刺しサムが、イカ刺しサムと呼ばれるようになった時のお話。
ティラミスの町では、最近イカ大王が現れ、漁船を襲い、漁の邪魔をしていて、魚があまり手に入らず、魚の値段がとても高くなっていました。
魚1匹を買うために、リンゴ10個が必要なほどでした。
町に住むサムは、明るく、情熱的な男の子。
青く澄んだ目で、髪の毛の色はブロンド。その性格から町の人気者です。
サムは考えました。
「どうすれば魚を食べることができるだろう?」
サムは魚が食べたくて仕方がありません。
サムは思いつきました。
「そうだ、自分でイカ大王を退治してしまおう。」
サムは早速、イカ大王を倒すための剣と弓を準備しました。
サムの剣術と弓の腕は、この町の誰一人としてかないません。
サムも自分の腕には大きな自信があったのです。
数日後、サムがイカ大王を倒しに行くという噂は町中に広まり、町はその噂でもちきりになりました。
ある人はサムを勇者と言い、また、ある人は、サムのことを大馬鹿者と言いました。
しかし、サムと共にイカ大王を倒しに行こうというものは一人もいません。魚が食べられなくなったとはいえ、食料に困窮しているわけではないからです。
そんな時、町で一番の長老であるクラウスがサムの元を訪れました。
「やあ、クラウスさん、こんにちは。今から僕がイカ大王を退治しに行きます。見ていてください。必ずまた漁ができるようにしていきますよ。」
クラウスは険しい、しかし、サムを心配するような表情で言いました。
「ならん、イカ大王は剣と弓程度で何とかなる相手ではない。たとえ、お前の剣の腕がこの町の誰よりも立っていようと、所詮、それは人間対人間だけの話。化物相手に通じるものではない。サムよ、勇気と無謀を履き違えてはならぬ。」
サムは大きく憤りました。
町で誰より剣の腕が立つ自分の剣術を否定されたように感じたからです。
サムは言い返します。
「あぁ、そうかよ!そんなのやってみないとわからないじゃないか!やる前からびくついてどうすんだよ。そんなんだから、誰も魚を取ろうとしないだ。たとえ、凶作になったとしても魚は取れる。魚は、俺たちの生命線になるんだ。」
サムはそう言って、家を出ました。


サムは港に向かいました。
港は普段なら、漁師が海に出ていて、閑散としているのですが、今は、漁に使う船がひしめくように停まっています。
しかし、それらの船は手入れされておらず、クモの巣が張っていたり、側面が壊れたまま放置されています。
黒く淀んだ空気が流れていました。
サムは一人の漁師を見つけ、声をかけました。
「イカ大王は今はどのあたりにいるんだ?」
「奴なら今日は沖の方に出てくる可能性が高いな。だけど、お前さん、本当にやるのかい?あいつはどんな大きな船でも一飲みにしちまうんだ。俺の仲間もかなりやられた。悪いことは言わねぇ、辞めたほうがいい。」
サムははっきりと返します。
「行きます。ここでやらなければ、誰も魚を取らなくなってしまう。そうなれば、漁の技術も廃れ、何かあっても、魚を獲るということすら、人は忘れてしまいます。それに、俺は、これを俺の使命だと思っているんです。」
サムはそういうと、船に乗り込みました。いよいよ、イカ大王を倒すための船出です。サムの気分は高揚し、力がみなぎっているようです。
サムは帆を上げ船を出港させました。空は雲ひとつない快晴で、カモメが甲高い声をあげ、一匹だけ飛んでいます。
風の音が聞こえるほどの静寂さでした。
船を進めていくうちにサムはあることに気付きました。
カモメがいません。
風も止んでいます。
暗く重い空気があたりに満ちていて、静寂というよりは、沈黙です。
サムがそんな空気を感じながら船を進めようとした瞬間、沈黙が海を突き破る音によっていっきに破られたのです。
海から十本の柱のようなものがそびえたつようにサムの船を取り囲みます。サムは自らの剣に手をかけました。
その時、柱の一本がサムの船に向かってたたきつけるように攻撃を仕掛けてきます。
サムはそれをさらっとかわし、剣を抜いて、その一本に切りかかります。
剣と柱がぶつかった瞬間、鈍い金属音とともにサムの剣が跳ね返されます。
サムは何とか船に着地しました。
 「なんて堅さだ。俺の剣が跳ね返されるなんて。」
 サムが正面を見ると、そこにはイカ大王がいるではありませんか。
そう、あの十本の柱のようなものはイカ大王の足だったのです。
 「ワシのテリトリ―に入るとは、よほどのバカか、それとも命知らずか。」
 イカ大王の声とその姿に、サムの背筋には凍るような電流が走ります。
「お、お前がイカ大王だな。どうして人間の漁の邪魔をする?」
 「何をおかしなことを言うか。この世はすべからく弱肉強食。ワシはその摂理に従い、弱気ものを食っておるだけのこと。貴様ら人間とて、同じように豚や牛を食うのではないのか?」
 「うるさい!お前は俺が倒す。」
 サムはそう叫び、弓を引き絞り、矢を放ちます。
矢はまっすぐにイカ大王に向かいますが、やはり、イカ大王の体には、いともたやすく跳ね返されてしまいます。
 「愚か者が!どうしても海の藻屑となりたいようだな。ならば、死ぬがいい!」
イカ大王は十本の足を使って一斉に攻撃を仕掛けます。
サムは船を操り、最初の二,三本をかわします。
船を大きく蹴って、ジャンプして、五本目、六本目をかわします。
しかし、空中では身動きがとれません。
イカ大王の足がサムを捉えます。サムは剣を抜いて攻撃を受けますが、圧倒的な力で大きく吹き飛ばされ、海へと落ちてしまいました。
 「ふん、たわいもない。」
 「ち、チクショウ・・・・」
 サムは薄れゆく意識の中で、悠々と去っていくイカ大王を見ました。
 

 サムが目を覚ますとそこは海の中でした。
サムは焦ります。
それもそのはず、人間は海中では呼吸をすることができません。
サムは急いで海上に出ようともがきますが体が上昇しません。
なんと、海中なのに重力が存在するではありませんか。
息をすることもできます。
サムは落ち着くと、周りを見渡しました。
淡い光と優しげな風に包まれた広い空間で、母の腕に抱かれているような安心感があります。
しかし、どこかその雰囲気は暗く、どんよりとしています。
サムが状況を整理しようとしていると向こうからやってくる人影が見えました。
「目を覚まされたのですね。人間のお方」
サムは自分の目を疑いました。
目の前にいるのは確かに人の容姿、人の体つきをしていて、金色の流れるような髪の毛に、大きな目、高い鼻に、プルっとした唇と、美人の女性がいるのですが、足がありません。
 と、言うよりは、足ではなく、魚の尾びれがついています。
 サムは尋ねました。
「あなた達は何者で、ここはどこなんですか。」
「私たちはこの近海に住むマーメイドで、ここは、マーメイドの住む、サンタ・レ・ジ―ナ王国です。」
「どうして俺はここにいるんです?」
「イカ大王と戦って、海に投げ出されて、沈んでいるところを私がお助けしてここまで連れてきました。あなたは勇敢なお方。死なすにはもったいなく思いました。」
「ここにいるととても心地よい感じがします。しかし、どこか、どんよりしている。」
「イカ大王が目覚めてしまい、私たちは外に出ることができません。おそらく、そのような環境が、今の空気を作っているのでしょう。」
サムは怒りに震えました。自分たちの境遇と被っていると感じたからです。
「イカ大王は俺が倒します。さっきはやられてしまいましたが、次こそは。」
サムが出ていこうとするとき、サムを助けたマーメイドが叱責します。
「どこに行くのです?今のあなたが再びイカ大王と戦ったところで結果は同じ。再び海の藻屑となるでしょう。」
サムは立ち止りました。イカ大王と対峙した時、サムは恐怖を感じていました。しかし、同時に、イカ大王を倒さなければならないとも感じていたのです。
「ならば、どうすればいいのですか?俺はイカ大王を倒したい。」
「女王エーテルの所へ行きましょう。彼女なら何か方法を知っているはずです。」
サムとマーメイドは謁見の間へと向かいました。


謁見の間に入ると眩い光がサムを包みます。サムが光に慣れて来た時、一人のマーメイドが奥から現れました。サムを助けたマーメイドもかなりの美人の部類に入るのですが、目の前のマーメイドは彼女をはるかに超えるほどの美人です。謁見の間に来る途中にも、何人かのマーメイドを見ましたが、やはり、その誰よりも美しかったのです。
「はじめまして。人間のお方。私はエーテルこの国の女王です。イカ大王を倒しに行きたいのだとか。先ほどのリリーナとの会話はこの水晶で確認していました。」
サムは自分が助けたマーメイドの名前がリリーナというのをはじめて知りました。サムは答えます。
「その通りです。私の町もイカ大王のせいで町の雰囲気は暗くなりました。みんなもすっかり意気消沈しています。」
「強い目をしたお方。あなたなら、イカ大王を倒せるような気がします。しかし、あなたはまだ心に恐れがあるようですね。」
「そ、そんなことはありません。」
サムは焦ります。内心、恐怖を感じていたのは事実です。
「目が泳いでいますよ。やはり、内心はイカ大王の強大な力を恐れていますね。そんな状態でイカ大王と戦えるのですか?」
「戦います。確かに恐怖を感じました。しかし、それは俺が相手の力を良く知らなかったからです。だから、俺は戦えます」
エーテルは優しく微笑むと、
「その言葉を聞いて安心しました。サム、ついてきなさい。イカ大王を倒すための力をあなたに授けましょう。」


エーテルがサムを連れてきたのは、小さな洞窟でした。サムとエーテルが先に進んでいくと、広い場所に出ました。中心には太陽の光が差し込んでいます。光の先に一本の剣が刺さっていました。
「これはエールカリバー。一太刀ふるえば、竜巻を起こし、国一つを滅ぼすほどの力があると言われています。」
「国一つを滅ぼしてしまう剣だなんて。俺に扱いきれるのだろうか。」
「安心しなさい。サム。国を滅ぼすほどの力を発揮できるようになるためには、自身の鍛錬が必要です。まだまだあなたは未熟。あなたの剣の腕では三割の力を発揮するのがいいところでしょう。」
サムはそれを安心していいのかと一瞬考えましたが、考えるのを辞めました。
「ありがとうございます。これでイカ大王を倒しに行くことができます。」
サムが洞窟から出ていこうとする時、エーテルは言いました。
「サム、あなたは大きな力を手に入れました。自信を鍛え、その力に飲み込まれないようにしなさい。」
サムはその言葉を聞き、振り返ってうなずき、洞窟を後にしました。
「あなたにはこれから大きな困難が待ち受けているでしょう。それを乗り越えるか、それとも打ちのめされるのか。あなたの道を行きなさい。」


サムは洞窟から出てきて、国を出ようとすると、リリーナが待っていました。
「これをお使いください。あなたの船は壊れてしまったでしょう。このブーツを使えば一時的ですが海面を蹴ることができます。」
「ありがとうございます。必ず、イカ大王を倒して見せます。」
「お気をつけて。」
サムは一気に泳ぎはじめました。サンタ・レ・ジーナ王国がどんどん小さくなっていきます。サムは一瞬振り返りそうになりましたが、そのまま海面を目指しました。


海面に上がる途中、サムは大きな影を見つけました、中心の大きな影とそこからのびる十本の触手。間違いありません。イカ大王です。サムは影の方に向かって泳ぎ始めました。サムの脳裏に一抹の不安がよぎります。しかしサムはそれを振り払い、海面に顔を出し、リリーナからもらった、ブーツの力を使いました。
「イカ大王再び貴様を倒しに来た。」
「ふん、また貴様か。どうやら命拾いをしたようだな。恐怖に臆せず、再び挑んできた勇気は認めてやろう。だが、次こそ死ぬがいい!」
イカ大王が触手をサムに向かって振り落とします。サムはブーツの力で海面を蹴り、触手を交わします。そして、エールカリバーを抜いて、触手の一本に切りかかります。触手が真二つに切り裂かれ、海中へ落ちていきます。イカ大王はもがきながら言いました。
「おのれぇえええ!ワシの足を切り落とすとは・・・・許さん!許さんぞぉぉぉ!」
イカ大王は墨をサムに向けて吐き出しました。サムはエールカリバーを振い、墨を一蹴します。
「これで最後だ、イカ大王!」
サムはそう叫ぶと、エールカリバーを正面に構え、イカ大王に向かって突っ込んでいきます。触手を交わし、イカ大王の体にエールカリバーを突き刺しました。
「おの〜れぇぇぇぇ!」 
イカ大王はそう叫ぶと、光の中に包まれて消えてしまいました。


「サムが帰ってきたぞぉぉ!」
一人の男が叫びます。
「本当か?」
「生きていたんだな。」
町の人が続々と港に集まってきます。
「ただいま。町のみんな。もう大丈夫。イカ大王は俺が退治しました。これで安心して漁をすることができます。」
サムがそんな話をしているとクラウスが現れました。
「無事であったか、サム。まったく!心配させよって!」
「クラウスさんあなたの言っていたことが少しわかったような気がします。勇気と無謀を履き違えてはならない。イカ大王と戦い、いろんな方に助けられて、それに気付きました。俺はまだまだ未熟です。ですので、旅に出ようと思います。」
「厳しい道になるぞ。それでもゆくのか。修羅の道を。」
はい。サムは大きくうなずきました。町ではイカ大王が倒されたことを祝して、三日間盛大に宴会が行われました。最初の二日にはサムは参加していたのですが、三日目の時は、もうサムの姿はありませんでした。
「お〜い、イカ刺しサムはどこいった〜」
サムはそんな声を聞きながら、ティラミスの町を後にしました。
10以上
112017 ERINA かぐや姫〜未来からの旅人〜 1.プロローグ

今となっては昔のことです。あるところに讃岐のみやつこという竹細工師のおじいさんが、おばあさんと一緒に暮らしていました。おじいさんとおばあさんは大そう仲の良い、近所でも評判のおしどり夫婦でしたが、残念ながら子供に恵まれませんでした。そして、子供を授かれなかったことだけが、この夫婦の心残りでした。
二人で並んで床に就くと、おじいさんとおばあさんは決まっていつも同じ話をしていました。
「ばあさんや、どうしてわしらには子供ができなっかたんだろうか?」
「そうですねぇ。どうしてできなかったのでしょうねぇ。あんなにお参りにも行きましたのにねぇ。」
この話をすると二人とも浮かない顔になり、どちらからともなくもうこの話はやめましょうということになるのでした。

良く晴れたある日。
「ばあさんや、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。」
おじいさんはいつものように野山に出かけて行きました。
「よいしょ。よいしょ。」
おじいさんが野山に入って竹を取っていると、竹藪の中には根元の光る竹が一本ありました。
「あれは何だ?」
おじいさんが不思議に思って近づいてみると、筒の中が光っています。
おじいさんが恐る恐るその筒の中を覗いてみると、三寸ぐらいの女の子がとてもかわいらしい様子で座っていました。
「なんということだ。竹の中に女の子が居るではないか。きっと子供のできないわしらを不憫に思った神様がお授け下さったに違いない。ありがとうございます。ありがとうございます。」
おじいさんはそう言うと、早くこの事をおばあさんに伝えたいと思い、その女の子を大事に抱えて、あわてて家に帰りました。

「大変だ。ばあさん、大変だ。」
おじいさんは大きな声で叫びました。
「どうしたのですか?おじいさん、そんなにあわてて。」
そう言いながら、家からで出てきたおばあさんに、おじいさんはすかさずあの女の子を見せました。
「おや、まあ!その子はどうしたのですか?」
おばあさんはびっくりして尋ねました。
「実はね・・・」
おじいさんが事の経緯を話すと、おばあさんも大そう喜び、二人でその子を育てることになりました。

その日の夜。その子を寝かしつけると、おじいさんとおばあさんは囲炉裏に火をともしながら話しをしました。
「ばあさんや、あの子に名前を付けてやらんといかんなぁ。」
「そうですねぇ。どんな名前がいいですかねぇ。」
しばらく二人で考えていましたが、おじいさんに名案が浮かんだようです。
「ばあさんや、あの子は光る竹から生まれたのだから、かぐや姫と名付けてはどうだろうか?」
「いいですねぇ!この子は光輝くように美しいですから、その光る竹のようにすくすくと育って欲しいという思いも込めて、かぐや姫と名付けましょう。」
こうしてこの女の子はかぐや姫と名付けられ、おじいさんとおばあさんのもとで育てられることになったのでした。

2.美しきかぐや

かぐや姫は、おじいさんとおばあさんの期待通りすくすくと成長し、わずか3か月ほどで光り輝くほど美しい女性となりました。そして、近所でも大変評判で、みるみるうちに村全体、その隣の村、そのまた隣の村へと、かぐや姫の噂は広まってゆきました。
「ねえ、御存知?村はずれのおじいさんとおばあさんの家に、すっごく美人な女の子がいるんですって!この世の者とは思えないほど、美しいそうよ。」
「え?そうなの?ぜひ、一目お会いしたいわね。せっかくだから今日、一緒にお会いしに行きません?」
「ええ、行くわ。何かお土産を持って、今日の昼過ぎにでもお邪魔しましょう!」
このように、かぐや姫を一目見ようと、毎日のようにたくさんの人がおじいさんとおばあさんの家を訪れました。そして、みんなのお土産のおかげで、おじいさんたちの生活は豊かになってゆきました。
そんな中で、最近では、村の役人の息子や村一番の大金持ち、隣の村の人、そのまた隣の村の人などが、かぐや姫に求婚しにやってくるようになっていました。
そんなある日のことです。おじいさんの家に、大きな牛車に乗り、何百人もの従者を引き連れてやってくる者がいました。
ドンドンドン。
「すみません。お尋ねしたいことがあるのですが、こちらにかぐや姫様はおられますか?」
「どちらさまですか?」
「すみません。申し遅れましたが、私はあの牛車に乗っておられる帝の使いの者でございます。こちらに見目麗しいかぐや姫様というお方がおられると伺いましたので、一目お会いしたいと思い、伺いましたしだいでございます。」
ガラガラ。
「まあ!とんだご無礼を!申し訳ございません。」
おばあさんはあわてて扉を開き、頭を下げました。
「かぐや姫に会いに、帝様がわざわざこんな辺境まで来てくださったのですか?ありがとうございます。本当にありがとうございます。すぐに準備いたしますので、少々お待ちください。」
ピシャン。
「かぐや姫や!かぐや姫や!」
おばあさんは大慌てでかぐや姫を呼びに行きました。
そして、かぐや姫の元にたどり着くと、喜びの涙を流しながら言いました。
「かぐや姫や、よくお聞きなさい。今、あなたに会いに帝様が来てくださっているんだよ。こんなこと、本当はありえないことなんだよ。あなたはやっぱり神の子なのだねえ。本当によかったわ。きっとあなたは、世のどんな女性よりも幸せになれる。さあ、早く支度をしなさい。」
そういうと、おばあさんは涙をぬぐって微笑み、嬉しそうにかぐや姫の支度を手伝い始めました。かぐや姫は、帝と結婚できるかもしれないということよりも、おばあさんが自分のことを思い、心から喜んでくれていることが嬉しくて、眩いばかりの笑みを見せました。支度を終えたかぐや姫は、本当に輝いて見えました。
「失礼いたします。」
そういって、かぐや姫が襖を開けて入ってきた途端、帝もその従者たちも息をのみました。この世の者とは思えぬ美しさに、しばらく、誰も何もしゃべることができませんでした。
「どうかいたしましたか?」
かぐや姫が心配そうに尋ねた時、やっとみんなの意識が戻りました。そして、帝がたどたどしく話し出しました。
「そ、想像していたよりも遥かに、君が美しく物腰も優美であったものだから、あっけにとられてしまったよ。すまない・・・。えっと、それで本題なのだが、今回は、君と夫婦の契りを交わしたいと思ってやってきたんだ。どうだろう?苦労は絶対にさせない、僕の妻になってはもらえないだろうか?」
「・・・。」
何か不安なことでもあるのでしょうか?かぐや姫はずっと黙ったままでした。
「そうだよな。突然来て、こんなことを言って、すぐに返事がもらえるなどとは思ってはいないよ。三日後にまた来る。その時までに考えておいてくれ。行くぞ!」
帝は、何かを感じとったのか、それだけ言うとそっとその場を後にしました。そして、その部屋に残されたのは、おじいさんとおばあさんとかぐや姫の三人だけでした。まだ考え込んでいる様子のかぐや姫に、おばあさんが心配そうに尋ねました。
「かぐや姫や、どうしたと言うんだい?さっきまであんなに嬉しそうにしていたのに・・・。」
「ごめんなさい、おばあさん。私やっぱり結婚できないわ。」
そう言うと、かぐや姫は泣き出してしまいました。
おばあさんはそっとかぐや姫を抱きしめて、かぐや姫の頭を優しく撫でながら言いました。
「無理にお嫁に行くことはないんだよ。私があなたを追いつめてしまっていたのかもしれないねえ・・・。」
「そんなとない!」
かぐや姫はおばあさんから少し離れて、おじいさんとおばあさんの正面に座り直して言いました。
「私は、帝に求婚していただけたことは、本当にありがたく思っているの・・・。でも、不安なのよ。私は普通の女の子じゃないし、生い立ちが全く分からないのに、結婚なんて・・・。」
おじいさんとおばあさんは、見つめあい、何かを決心したように頷き合いました。そして、自分たちには子供ができなかったこと、かぐや姫とどのように出会ったのかなど、事の次第を一部始終話してくれました。しかも、明日は、かぐや姫を見つけた竹のところに連れて行ってくれることになりました。明日は朝早いので、その晩は三人とも早目に床に就きました。
zzz。
おじいさんとおばあさんが寝静まった頃、一人眠れず思い悩んでいたかぐや姫は、そっと外に出ました。外にはちょうど満月が輝いていました。
と、その時。
「うぅ・・・。」
かぐや姫は、頭が割れその程痛みを感じ、その場にしゃがみ込んでしまいました。
そして、走馬灯のように頭の中を駆け巡る映像とともに全てを思い出したのでした。

3.かぐやの嘆き

翌日、かぐや姫はおじいさんとおばあさんとともに、野山に上り、自分がいたという竹の元にやってきました。普通よりも少し太く短いその竹は、確かに光り輝いていました。かぐや姫は、おじいさんとおばあさんの目を盗んでその竹から何か小さなものを取出し、そっと自分の着物の裾に隠しました。
そして、下山後すぐに、おじいさんとおばあさんに、やはり帝と結婚できない旨を伝え、帝にも御断りの手紙をしたためました。そして、一度お断りしてもあきらめてくれない人には、無理難題を結婚の条件として出しました。石作皇子には仏の御石の鉢を持ってくるように言い、 車持皇子には蓬莱の玉の枝を持ってくるように言い、右大臣阿倍御主人には火鼠の裘を持ってくるように言い、 大納言大伴御行には龍の首の五色の珠を持ってくるように言い、中納言石上麻呂には南海の燕の子安貝を持ってくるように言いました。
そして、もちろんそれらの条件をクリアーする者などいませんでした。
そんなかぐや姫の様子を見かねて、おじいさんとおばあさんは時々かぐや姫に尋ねました。
「本当に良かったのかい?」
こういう時、かぐや姫は決まってこう答えました。
「ええ。私は、結婚するよりもおじいさんとおばあさんと暮らしていきたいわ。」
そして、少し寂しげに微笑むのでした。

そんなある日のことです。
満月が輝く晩、かぐや姫は一人、寂しそうに月を眺めていました。
「どうしましょう。」
かぐや姫は小さな声でそう呟き、頭を抱えて悩みこんでいました。
「おじいさんとおばあさんは私を本当の娘のように育てて下さいましたが、私はもう元の世界に帰らなければならない。おじいさんとおばあさんを悲しませたくはないけれど、私には時間がなし・・・。
いつ別れを告げたらいいのでしょう?何かお礼もしたいのだけれど・・・。」
かぐや姫の悩み事は増すばかりでした。

そんなかぐや姫の様子を窺う影が二つありました。
「ばあさんや、かぐや姫はなぜあんなに悲しんでいるのだろう?
私たちに何かできることはないのだろうか?」
「おじいさん、私たちに何かできることがあれば、かぐや姫はきっと話してくれますよ。
今は黙って、そっと見守ってあげましょう。」
おじいさんとおばあさんはひそひそと話した後、かぐや姫に気づかれないように自分たちの寝床に戻っていきました。

数日が経ったある晩のことです。おじいさんとおばあさんとかぐや姫は三人で食事をしていました。
いつもは笑顔で話をしてくれるかぐや姫ですが、今日はなんだか暗い表情をしています。
そこで、耐え切れなくなったおじいさんが沈黙を破ってかぐや姫に話しかけました。
「かぐや姫や、どうしたんだい?」
「何か悩みがあるなら、良かったら話しておくれ。」
おじいさんとおばあさんはかぐや姫を心配そうに見つめています。
かぐや姫はしばらく黙っていましたが、悲しそうな表情で話し始めました。
「おじいさん、おばあさん、ごめんなさい。
私にはおじいさんとおばあさんに隠していたことがあります。
実は私はこの世界の者ではないのです。
次の満月の晩には元の世界に帰らなければなりません。」
それだけ言うと、かぐや姫は泣き崩れてしまいました。
おじいさんとおばあさんも、泣くかぐや姫を宥めつつ、悲しみの表情拭うことはできませんでした。

4.エピローグ

かぐや姫が次の満月の晩にどこかへ行ってしまうと知ったおじいさんとおばあさんは、いろんな人に声をかけ、次の満月の晩にかぐや姫を守って欲しいと告げました。
その甲斐あってか、当日、1000人以上の人々が集まりました。
かぐや姫を守ろうと、みんな思い思いの武装をし、身構えています。
深夜0時。満月にかかっていた雲が晴れた瞬間、白い靄があたり一面を包み込み、人々は一人、また一人と倒れこんでゆきました。
そして、日が昇るころ、その倒れこんでいた人々は、太陽の日差しを浴びて目を覚ましました。みんな、かぐや姫のことを探し回りましたが、どこを探しても見つかりませんでした。そして、かぐや姫のいた部屋には、おじいさんとおばあさんへの感謝の手紙と、二人が残りの生涯を幸せに暮らせるほどの金が置かれていました。人々は、満月を見たときから記憶がないことから、かぐや姫は月の住民であり、月の世界に帰ってしまったのだと噂しました。そして、おじいさんとおばあさんは、かぐや姫とともに過ごせた日々の思い出を胸に、二人仲良く残りの人生を全うしました。

5.もう一つのエピローグ〜かぐや姫side〜

「私を守ろうと集まってくれた人々。
 ごめんなさい。
 おじいさん、おばあさん。
 ごめんなさい。
 私は、すべてを思い出したのです。
 もう、帰らなければ、未来へ。

 私は、未来からタイムスリップしてきた人間であり、過去にとどま れる期間は決まっている。期日までに帰らなえれば、過去を揺るが すものとして消されてしまう。
 だから、もうここにはいられない。
 おじいさん、おばあさん、優しくしてくれてありがとう。
 育ててくれてありがとう。
 時空を超えるとき、記憶を一時的に喪失すること、小さい頃の姿を 縮小した姿になってしまうことという、二つのリスク。
 あなた方に出会えたことで、このリスクを抱えながらも幸せな時を 過ごすことができた。
 そのお礼に金を置いていきます。錬金術の完成した未来では大した 価値はないけど、この時代ならきっと何かの足しになるでしょう。
 さようなら。」

心の中でそうつぶやくと、着物の裾から小さな丸い物体を夜空に向かって投げた。
その物体は、空中で爆発し、分散して靄になった。

かぐや姫はいつも自分が使っていた机に、置手紙と金を置き、野山を駆け上がった。
そして、光る竹の前に着いたかぐや姫は、その中から何かを取出して飲み込んだ。
かぐや姫の体はみるみるうちに小さくなり、竹の中にすっぽりとおさまった。
かぐや姫が何かのボタンを押すと、光る竹は三回点滅し、姿を消した。
光る竹があった場所には、かぐや姫がいつもつけていた髪飾りが一つ落ちていました。
8
112023 さとぅー  雨がだんだんと少なくなり、紫陽花も元気をなくしていく。太陽が大きく見え、蒸し暑くなってきた。
ある一軒家の小さな庭にはたくさんの花が植木鉢から顔を出していた。植木鉢には昨日降った雨が溜まっていた。その雨水のなかから小さな小さな命が生まれた。ボーフラである。彼の名前はモスキー。ほかの植木鉢にもたくさんのボーフラがいたが、モスキーは体がとても小さかった。モスキーの生まれた植木鉢から顔を出している大きな黄色い花とは対照的だ。植木鉢に溜まった雨水や土などから栄養をたくさん吸収していった。そして、ボーフラとしてこの世に生を受けてから2週間後、ようやく蚊となって飛び立つことができた。ほかのみんなはもうとっくに飛び立ってしまっていた。
「うわ〜。植木鉢の外ってこんなに広いんだあ。」
照りつける太陽のなか、モスキーは初めて見る植木鉢の外の世界に感動し、疲れることも忘れて飛び回った。すると、モスキーのもとに一匹のミツバチが寄ってきた。
「やあ!君、名前なんて言うの?」
「ぼくは蚊のモスキー!君は?」
「おれはミツバチのハッチ!モスキーはおもしろい形の口をしているね。」
「そうなんだ。ぼくもなんでこんな形をしているのかよくわからないんだ。」
「ふうん。へんなのー。それよりおれと遊ばない?あの向こうの葉っぱまで競争だ!」
「よーし、負けないぞ!」

・・・。

「はぁはぁ、ハッチ早すぎるよ〜。」
「まだまだだなぁモスキーは。」
「今日はもう遅いけど、また今度勝負しようよ。そのときは負けないんだから!」
「いいよ。いつでも相手してあげるよ。」



全速力で飛び回り疲れていたはずのモスキーだが、その帰りはとても陽気だった。見る景色すべてが明るく見えた。踊るように植木鉢へ帰ってきた。
「お花さん、ただいまぁ。」
「おかえり、モスキー。」
「今日ね、お友達ができたんだ。ミツバチのハッチっていってね、一緒に遊んでとっても楽しかったんだ!」
「それはよかった。明日はきっと、もっと楽しい日になるよ。」
花はにっこり微笑んだ。



次の日もとてもいい天気だった。大きくて真っ白な入道雲が青い空に浮かび、すがすがしい。モスキーは今日も元気よく飛び出していった。
「お花さん、行ってきまーす!」
「いってらっしゃい。」


「今日はなにして遊ぼうかな。」
ふわふわと飛んでいると昨日からなにも食べていないことに、今気がついた。
「そういえばお腹がすいたな。ボーフラだったころは、植木鉢のなかの土を食べたり雨水を飲んだりしていたけど、蚊になったらなにを食べればいいんだろう。」
そうしてお腹をすかせてぶらぶらしていると、一匹の蚊を見つけた。
「こんにちは!ぼくはモスキー。君も蚊だよね。」
「そうだよ。おれはモース。ずいぶんお腹を空かせているようだね。」
「そうなんだ。実は昨日からなにも食べてなくて・・・。」
(ぎゅるるる〜)
「あっはっはっは!ちょうどいいや。おれもお腹が空いていたんだ。一緒にごはんにしようよ。」
「でもぼくたちなにを食べるの?こんな口じゃ土は食べられないよね。」
「なんだモスキー、そんなことも知らないのかい。さては蚊になりたてだね。」
「お恥ずかしながら。」
「おれたち蚊は動物の血を吸うんだ。」
「血だって!?」
「そうさ。血はおいしいぞ。なかでも人間の血は栄養もたくさんあって、とっても体に良いんだよ。」
「でもどうやって血なんか吸うんだい?」
「この口を皮膚の上から血管に刺すのさ。あとは吸うだけ。おれがお手本を見せてあげるよ。ついてきて。」
そう言うとモースは、網戸の小さな隙間からモスキーをある一軒家へ案内した。
モスキーはまた新たな世界に身を投じた。今までとはまるで別の次元のように感じる。窓から太陽の光は感じるが、壁があって屋根がある、閉ざされた空間だ。
「なんだここは。人間はこんなところで生活していたのか。そういえばぼくの植木鉢の近くにもこんな建物があったなぁ。」
料理や洗剤、いろんな臭いがした。なんとも言えない感覚だった。すごい勢いで流れる水の音、ウィーンというなにか固い音、五感で感じるものすべてが新しかった。その酔いしれた感覚を一気にかき消す爆音が、モスキーの全身に響いてきた。

人間だ。

どかどかと大きな音を立てながら二階から降りてきた。人間はテレビの前にどっかりと腰を下ろした。

「モスキー、あれが人間だよ。」
「大きいんだなあ。ぼくたちやハチくんとは比べ物にならないや。」
「そうだろ。だからこそほかの動物たちとは違って、なかなかおれたちの存在に気づかないんだ。そのあいだに血をもらうんだよ。」
言うなりモースはぷーんと人間のもとへと飛んで行ってしまった。それをモスキーはくまの人形の陰に隠れてじっと見ていた。モースは人間に近づくと羽音を静め、そっとその腕にとまった。汗で濡れた肌にしっかりと足をつける。人間が気づいていないことを確認してから、モースは血管をさがしはじめた。口をのばしてまるで金属探知機のように、はっきりと血管の位置を把握した。そして、ゆっくりと口を刺し込んでいく。
「なるほど〜。だからぼくたちの口はこんな形をしているのか。」
モスキーは妙に納得した。モースは血でお腹をいっぱいにして、また静かに飛びかえってきた。しかし、重たくなった体で羽ばたくと、どうしても羽音も大きくなってしまう。
(ぶ〜ん)

人間に気づかれた。

お腹が空いていたこともあり、血を吸いすぎて思うように飛べない。

人間は立ち上がり、すごい勢いでモースを叩きにきた。

モスキーには衝撃の光景だった。間一髪のところでそれをかわすと、叩いた風圧でモースは飛ばされた。飛ばされたまま、なんとかモスキーのいるくまの人形までたどり着き、身を隠した。
「ふう、危なかった。どうだい、ああやって血を吸うのさ。」
「血の吸い方はわかったけど、でもびっくりしたよ。ちょっと血を吸っただけで人間があんなに怒るとは思わなかったよ。」
「おれも最初はびっくりしたさ。だけどすぐにわかるよ。」

人間は蚊をさがすことをあきらめて、またテレビの前に座り込んだ。

「ほら、見てごらん。あの腕のおれが血を吸ったところ。」
「あれれ。なんだか赤くなってきているよ。それに、ふくらんできた〜!」
「そう、おれたち蚊が吸ったあとは赤く腫れてしまうんだ。それに、けっこうかゆいらしい。」
「なるほど、だから人間も必死なんだね。」
「だけどおれたちだって必死さ。生きるために血を吸っているんだし、叩かれるとすごく痛いんだ。勢いよく叩かれると一発で死んじゃうことだってあるんだよ。」
「そうなのかぁ。でもぼくもお腹すいたな〜。」
はじめは人間の家という空間にも、人間そのものにも戸惑っていたモスキーもだいぶ落ち着いてきたようだ。ようやくお腹が空いていたことを思い出し、飛び立った。
「いただきまーす!」
「そーっといくんだぞー。」
元気よく飛び出したモスキーだったが、さきほどから警戒していた人間にすぐ気づかれてしまった。
「うわっ!」

しかし、人間はすでにモスキーを取り逃がしていた。

体の小さいことが功を奏したようだ。
一度天井までのぼったモスキーは、グライダーのように大きく旋回してもう一度迫っていった。次は慎重に、静かに後ろから近づいて行った。ちょうど首の太い血管のうえにとまると、ゆっくりと口を刺し込んだ。
「おお〜。これが人間の血かぁ。たしかにおいしいぞ!」
どんどんと吸い上げていくうちに、力がみなぎってくるのがわかった。お腹がいっぱいになったところでモースのもとへ帰ってきた。
「うまくいったじゃないか。」
「うん、とってもおいしかったよ。ありがとう、モースのおかげだよ。」
「なあに、モスキーの旋回もかっこよかったぜ。」



「お花さん、ただいま。お花さんの言ったとおりね、今日もとっても楽しかったよ。」
「おかえり。モスキーは元気だね。元気でいると、きっと明日もいい一日になるよ。」



それから何日か経った。


モスキーはある疑問を感じるようになっていた。
「ぼくってなんのために生きているんだろう。毎日人間の血を吸って、体も大きくなってきた。毎日すごく楽しいけど、生まれてきたからにはなにか成し遂げなくちゃいけない気がするんだけどな。」
その日は小雨が降っていた。夕方になって植木鉢に帰ってきたモスキーは花に相談した。
「ねえねえ、お花さん。ぼくはなんのために生まれてきたんだろう。」
「君ももう立派なおとなだ。もうじきわかるときが来るよ・・・。」
「どうしたの、お花さん。なんだか元気がないよ。ぼくにできることがあったらなんでも言って。お薬もらって来ようか。」
「ううん、なんでもない。モスキーは優しいね。明日も元気で過ごそうね。」

花をやさしく夕日が包む。

「お花さん、おはよう。」
「・・・。」

「お花・・・さん。」

花はひからびて下を向いていた。
「そんな。いやだよお花さん!またにっこり笑ってよ!お花さん!お花さん!」



モスキーは三日三晩泣き続けた。
「お腹すいたよぅ。」
泣き疲れてようやく冷静になった。夏のど真ん中だったが、いつもよりどこか涼しく感じた。
「そうだ、お花さんは言ってた。明日も元気で過ごそうねって。いつまでもくよくよしてちゃダメだ。よし、思い切って出かけるぞ。」

いつもの大好きな人間のところへ行き、血を吸って元気を取り戻した。
「お花さんが言っていたみたいに、元気で楽しく生きていかなくちゃ。お花さんも悲しんじゃうよね。」
花は枯れて死んでからもモスキーの心の支えとなっていた。



ある日、山のなかの花がたくさん咲いているなかで、一匹の蚊がモスキーの目にとまった。女の子だった。
「すごくかわいい。なんだろ、見ているだけで楽しい気分になってきた。」
モスキーは初めて味わう感覚に酔いしれながら女の子に近づき声をかけた。
「こんにちは。」
「あら、こんにちは。」
「ぼくはモスキー。君の名前は?」
「わたしはキーコよ。よろしくね。」
自分の生まれた場所や、ミツバチの友達がいること、いろんなことを話した。



それからふたりはよく遊ぶようになっていった。
遊ぶといってもいつものお花畑で他愛もなくおしゃべりをするくらいだった。ふたりはそれが楽しかった。

そんなある日、ふたりで一緒に人間のところへ行ったときだった。キーコは血を吸うのがとても上手で、普段は絶対に人間に見つからなかった。ところがその日の家は壁も家具も白が基調でふたりは目立ってしまっていた。モスキーはものかげから見守っていたのだが、キーコが見つかってしまった。逃げるのが苦手なキーコはパニックになりばたばたと飛び回った。方向感覚を失って人間の方へまっしぐら。人間が叩こうとしたそのとき、モスキーが猛スピードで飛び出してきて間一髪のところでキーコを助けたのだった。
とっさの行動だった。頭で考えるよりも早く体が動いていた。
「大丈夫かい、キーコ。」
「うん。ありがとう。」
「今日はとにかくお花畑へ帰ろう。」

モスキーはキーコを抱えてお花畑へ戻った。

夕日がお花畑一面を真っ赤に照らしている。



「好きだ。」
言葉がおかしな形の口をついて出てきた。自分でもなにを言ったかよくわからないし、そんなこと考えたこともなかった。ただ、キーコとずっと一緒にいたいと思ったことはたしかだった。
「わたしも好きよ。」




「見つけたよお花さん、生きる意味。」





いつから咲いていたか、ふたりの目の前には大きなひまわりが一輪、にっこりと微笑んでいた。
8
112024 ひよこ 教室は間違うところだ ゆみ「きゃーかなえ、また同じクラスだよ!よかったねー!」
 
朝登校して教室に向かうと、クラス分けを見たゆみが駆け寄ってきた。今日から私たちは小学五年生。

私「ほんと?やったー!もう三年連続だね。先生は?誰?」
ゆみ「それがね、新任の先生みたいなの。藤本っていう。どんな先生なんだろう。」

私たちは教室の先生の机の上に、手がかりになりそうなものを探した。すると、机の隅に小さな箱を見つけた。

ゆみ「うわあ見てかなえ!かわいいハンコがいっぱい!」
  
その中身はたくさんの種類のハンコだった。たぶん、提出したノートなどに押してもらえるものだろう。もらえるハンコは小学生にとって、大きな楽しみの一つであったりする。

私「ほんとだ。じゃあやっぱり女の先生かな。」


先生「おはようございまーす!!」

授業のチャイムと同時に教室のドアが開き、元気な声が飛び込んできた。

先生「初めまして。僕の名前は藤本まさきといいます。」
 
 目が覚めるような大きな声にさっきまで眠そうにしていたたくやが目をまん丸くして、ぽかんと口を開けている。

先生「今日からこの小学校で5年B組の担任をします。みんなと早く仲良くなりたいです。この小学校のことはみんなの方がよく知っていると思うので、いっぱい教えてくださいね。一年間よろしくお願いします。」
  
しばらくの間があってパラパラと拍手が起こった。

私「なにこの先生…なんか熱い。」
ゆみ「うん…しかも男の先生じゃん。」
  先生は私たちとの初対面で、その熱さで私たちの度肝を抜いた。これが熱血先生と私たちの一年間の始まりだった。


四月もあと一週間。最近雨の日が続き、元気がとりえの小学生にはつらい日々だ。国語の授業で先生がまた熱く語り始めた。

先生「みんな突然だけど、群読って知ってるかな?ある文書をみんなで一緒に声を合わせて読むことです。このクラスではこれから少しずつこの群読をやっていこうと思います。」
たくや「えーそんなのやったことないよ。面白いの?」
  
みんな先生の熱いマイペースに少々うんざりしている。

先生「それはやってみるとわかると思うよ。まずは一回やってみよう。」
先生から私たちに一枚の紙が配られた。
先生「これがみんなで読もうと思っている詩です。じゃあみんなで題名を大きな声で読んでみよう。いくよ?せーの。」
子ども「教室は間違うところだ…」 
 声も小さくバラバラだ。
先生「元気ないなあ。はい。もう一回いくよ!せーの。」
子ども「教室は間違うところだ!」 
さっきより声は大きくなった。私はぼそぼそとしか言わない。どうも先生のこの感じが苦手だったのだ。
先生「そう!『教室は間違うところだ』を群読します。今度の授業から始めるので、みんな一回読んでみてきてください。この群読を今度の授業参観の時に保護者の方の前で発表したいと思います。みんながんばろう!」
 
先生が立っている教卓のあたりだけ、光がさしているみたいに先生がとても輝いて見えた。  


五月末、夏の気配が感じられるようになってきた。休み時間になると、男子たちは五月晴れの校庭に飛び出していった。いつものように私とゆみは教室に残っておしゃべりだ。
ゆみ「ねえかなえ。藤本先生って意外といい人なんじゃない?」
私「えーそう?私はまだ受け入れられないな。だってなんてったって熱いんだもん。でもまあ悪い人ではないと思うよ。」
  
確かに最近クラスの雰囲気が良くなってきた気がする。なんとなく活気もある。藤本先生はかなりのアイデアマンだった。テストでいい点を取ったり、お手伝いをするとポイントがたまる制度を始めた。ある程度ポイントがたまると、抽選のガラガラを回させてくれる。その抽選では自由に使うことのできる宿題なし券や読書しなくてもいい券、忘れ物見て見ぬふり券などをもらえるのだ。みんな、ポイントをためようと何事にも積極的に取り組むようになっている。実はこの私もひそかにポイントをためることにはまっている。その中で、クラスみんなが群読に精を出すようになっていた。

数週間前に国語の授業でこんなことがあった。
先生「このセリフやりたい人―?」
たくや「はーい!俺やる俺やる!」
群読する詩を一文ずつに分けて、一人ひとり読むパーツを決めた。私もそこを読みたかったけれど、たくやと張り合ってまでやりたくもなかったから引き下がった。
先生「じゃあまず一通り、やってみようか。先生も一緒に読むぞ!!腹の底から声出していくぞ!せーの!」
全員「教室は間違うところだ!!」
私たちはまた心底驚かされた。先生の大きすぎる誰よりも楽しそうな声に。その日からクラスみんなが進んで群読を練習し始めたのだった。
  
今ではみんなだいぶ声も出るようになったが、最近はセリフへの心の込め方まで注意されるようになってきた。
私「もう。ちゃんとやってるのに…」
  私はもともとあまり大きな声は出ない。声量でダメなら表現力で勝負だ。負けず嫌いな私は誰よりも心を込めてセリフを言う練習をした。
先生「かなえさん、すごくいいよ!だいぶ上手になったね!!」
  思わず嬉しくて笑顔になる。でもあわてて先生から目線をそらす。
私「ほんとに熱苦しいんだから…」
  私の中で大きくなっていくような気がする先生の存在を知らんふりした。
  声を出す練習はもちろんだが、私たちは言葉のイントネーションや強さ、間についてよく話し合った。
「ここはもっとゆっくり言った方がいいんじゃない?」
「このセリフは関西弁にしょうよ」
  この群読には先生のセリフもあったので、私たちから先生へのダメ出しも厳しい。
「先生!今の発音おかしい!」
先生「ごめんごめん。でもこの先生に注意するとは…やるな!みんな!」
  サッカーをしたい男子も、おしゃべりしたい女子も、この群読を授業参観に間に合わせるためならなぜか、いくらでも休み時間を割いて練習をする日々だった。
 

とうとうやって来た授業参観当日。今日は雲一つない青空だ。
でも教室ではみんなどこかそわそわした様子だ。女の子はいつもより少しだけおめかししている気がする。
ゆみ「かなえ!今日お母さんくる?うちのママ、群読すごい楽しみにしてたんだけど!」
私「来るよ。うちのお母さんもだよ。やっぱりちょっと緊張するよね…。」

先生「おはようございまーす!!」
いつもにもまして元気な声が教室に飛び込んできた。
先生「今日3時間目に授業参観にありますね。先生実はすごく緊張してます!でも先生、頑張りますからね。みんなもしっかり授業受けて、いい所をお家の人に見てもらってね。授業の後は…群読でびっくりさせちゃいましょう!いっぱい練習しましたから!こわいものなしですよ!!」
  先生の気合いがビシビシ伝わってくる。気合いが入っているのは先生だけではなかった。みんなの顔はまっすぐ先生の方を向き、キラキラしている。私たち5年B組は今までにない雰囲気に包まれていた。

  2時間目が終わった。教室の後ろに保護者がパラパラと入ってき始める。みんな自分のお母さん探しに夢中だ。私も隅っこにお母さんを見つけ、小さく手を振った。お母さんがいることを確認すると、みんな急に机に向かう。みんなの目線の先には「教室は間違うところだ」の詩があった。群読の最終確認だ。

 3時間目は藤本先生の得意な国語の授業だ。着々と時間は過ぎていく。
先生「じゃあ次はかなえさん。教科書40ページの3行目から読んでくれる?」
私「は、はい。」
 急に当てられてドキドキしながらも、なんとか間違えずに読めた。実は本読みは大の得意だった。お母さんがちゃんと聞いていたか振り返って確かめたかったが、そこは我慢した。授業はふわふわした雰囲気の中終盤に差し掛かった。
先生「はい、少し早いですが今日の国語の授業はここで終わります。えー実は保護者の皆様に聞いていただきたいものがあります。子供たちからもうすでにお聞きかもしれませんが、このクラスでは4月から群読に取り組んできました。休み時間や放課後も使ってずっと練習してきました。ぜひ、頑張ってきた子供たちの成果を聞いてやってください。」

私たちは席を立ち、教室の前の方に移動し、保護者の方たちと向き合うようにして整列した。みんな少しにやっとしながら、目配せを交わしている。私の心臓はもうドッキドキだった。となりのたくやの顔をちらっと見ると、いつもふざけている奴なのだが、さすがに今日は固まっていた。私にはそれが面白く、少し気が楽になった。

教室が静まり返った。
全員「教室は間違うところだ!」
私は精一杯の声を出す。みんなで決めた間とテンポに注意して。
全員の声がそろったとき、私は鳥肌がたった。先生の声を聴いた時、なぜかこみあげてくるものがあった。
全員「そんな教室つくろうやあ!」
このセリフで数分にわたる発表が終わった。

沈黙が続く。
私たちはやりきったという達成感と声を合わせることの気持ちよさに酔いしれていた。

パチパチパチ…
保護者から拍手が起こった。いつの間にか教室の外にもほかの先生などの観客が増えていた。私たちは嬉しくてたまらなくて、みんなと顔を見合わせてハイタッチをした。
ふとお母さんを見た。するとお母さんは…泣いていた。感動で人を泣かせられるんだと初めて知った。本当に驚いた。

たくや「先生!ありがとう!」
たくやの声を皮切りにみんなが先生のまわりに集まった。「ありがとう」いう声がそこら中から聞こえてくる。
先生「みんな!すごくよかった!今までで最高だった!先生こそありがとう!」


次の日、学校に来るといつもと変わらない風景があった。また男子たちがふざけてバタバタと走り回っている。昨日のことなんてみんな忘れているみたいだった。
ゆみ「おはよ。昨日さ、群読楽しかったね!あれはやばい…」
私「うん、あれは確かにすごかった。群読してる自分がなんか感動しちゃったよ。しかもお母さんが泣くもんだからさ、わたしまでつられそうだったよ。ほんとに…」
ゆみ「だよね。ね、やっぱりあの先生すごい人だと思わない?」
私「うん、正直すごい。あの人だったらこのクラスもっと楽しくしてくれるかも。あ、でもたまに熱すぎるのは困るけどね!」
ゆみ「もう!いつまでそんなこと言ってんのよ。ほんとに素直じゃないんだから!」



あの日、熱血藤本先生と私たち5年B組の間には、目には見えないけれど確かななにかが生まれた。
今日も廊下の先であの大きくて元気な声が響いている。
7
112037 みつばちまーや 白雪姫〜2〜 昔々、冬のある日のことです。雪が鳥の羽根のようにヒラヒラと天から降っていました。一人の女王様が黒炭が燃える暖炉の前に座って縫物をしていました。あまりにも窓から見える雪がきれいなので、女王様は縫物を持って外に出てみました。
女王「あら、なんてきれいなのかしら。」
と雪を眺めていると縫物を持っていたことをすっかり忘れ、チクリと指を針で刺してしまいました。すると、雪の積もった中に、ポタポタと三滴の血が落ちました。真っ白い雪の中で、その真っ赤な血の色が、大変きれいに見えたので女王様は痛いながらもこんなことを考えました。
女王「どうかして私は、雪のように体が白く、血のように赤い美しいほっぺたを持ち、部屋の暖炉の黒炭のように黒い髪をした子がほしい。」
それからしばらくして、女王様は一人のお姫様をお産みになりました。そのお姫様は、女王様があの雪の日に考えた通り、色が雪のように白く、ほおは血のように赤く、髪の毛は黒炭のように黒くつやがありました。
女王「まぁ、なんてかわいいお姫様なのかしら!私の理想通りだわ。そうだ!この子を白雪姫と名付けましょう。」
白雪姫は女王様と王様に囲まれてすくすくと育っていきました。毎日お城の外で小鳥や小さな動物たちと遊んで白雪姫は幸せな日々を送っていました。しかし、白雪姫が7歳になったある冬の日、お母様である女王様がなかなか帰ってきません。
白雪姫「あれ、お母様が帰ってこないわ。どうしたのかしら。」
王「本当だね。いつもなら帰っている時間なのに。白雪姫、一緒に外に探しに行こうか。」
白雪姫「えぇ、探しに行きましょ。心配だもの。」
そうして、王様と白雪姫は外にお母様を探しに行きました。しばらく歩いて行くと、雪に埋もれている人を見つけました。
白雪姫「あれ、誰かが埋もれている。助けてあげましょ。」
王「このまま放っておくわけにはいかないな。助けてあげよう。」
二人は体に積もった雪を払いはじめました。すると、見覚えのある服が表れたのです。白雪姫と王様は顔を見合わせてはっとしました。
白雪姫「これってもしかしてお母様??」
王「おそらくそのようだ。よし、協力して城まで連れて帰ろう。」
この日も雪が鳥の羽のようにヒラヒラと降っています。二人はようやくお城にたどり着きました。
白雪姫「暖炉でお母様を暖めてあげましょ。」
黒炭が燃え始めた暖炉の前にお母様を運び、暖め始めました。しかし、お母様は回復する気配がなく、数十分後に息を引き取ってしまいました。白雪姫は暖炉の前で泣き崩れます。
王「白雪姫、悲しいだろうがお母さんは亡くなってしまったんだ。あんな寒いところで長いこと倒れておったのだから。もう少し、早く助けに行けばよかったな。でも、白雪姫、お聞き。お母さんがお前を白雪姫と名付けたのはある日にこんな子がほしいって考えたことがきっかけなんだ。そのある日というのも今日のように雪が降り暖炉が燃えておった。同じような日にお母さんがなくなったのも何かの因縁かもしれん。白雪姫、お母さんの分までしっかり強く生きるんだよ。」
白雪姫「はい、お父様。私の名付けの理由は知らなかったけど、これからお父様の言うことを聞いてしっかり生きていくわ。」
一年以上経って、王様は後代わりの女王様をもらいになりました。白雪姫はまだお母様のことを忘れることは出来ませんでしたが、新しい女王様のことを楽しみに待っていました。ついに白雪姫のお城に新しい女王がやってきました。
新しい女王「白雪姫、ちょっとこちらに来なさい!」
白雪姫「はい、今すぐ行きます。」
新しい女王「白雪姫、今日から私がこの世で一番偉いのよ。あなたのお母さんはもう亡くなったの。これから私の言うことに何一つ逆らうことなくしっかり聞くように。」
白雪姫「はい、女王様。もし、言うことを聞かなかったらどうなるのでしょう。」
新しい女王「そのときは・・・」
と女王様はそばにあったほうきに呪文をかけて狐にしてしまいました。
新しい女王「おほほ、このように動物にされたくなかったら私の言うことをしっかり聞くことね。」
女王様は高らかに笑いました。
新しい女王「あっ、それからあなたは何事においても私より下の立場であるように。一番偉いのも、一番美しいのも私よ。」
白雪姫「は、はい・・・。」
そして、鏡の前に白雪姫を連れて行き女王様は鏡に向かって唱えました。
新しい女王「鏡よ、鏡。この世で一番美しいのは誰だい?」
鏡「それは、もちろんあなたです。」
女王様は勝ち誇ったかのように白雪姫を見つめたのでした。女王様はこの鏡は嘘は言わないとよく知っていたからです。
そのうちに、白雪姫は大きくなるにつれて、だんだん美しくなっていきました。白雪姫がちょうど11歳になったとき、青々と晴れた日のように美しくなって、女王様よりもずっと美しくなりました。ある日、女王様は鏡の前に行ってお尋ねになりました。
女王「鏡よ、鏡。この世で一番美しいのは誰だい?」
鏡「女王様、ここではあなたが一番美しい。けれども、白雪姫は千倍も美しい。」
女王様はこのことをお聞きになると、びっくりして妬ましくなって足をじだばたして怒りをあらわにしました。そして、妬みと高慢とが女王様の心の中にはびっこってきて、夜も昼ももうじっとしてはいられなくなりました。
そこで、女王様は一人の狩人を自分のところにお呼びになってこう言いつけました。
女王「あの子を森の中に連れて行っておくれ。私はもうあの子を二度と見たくないんだ。森の中に連れて行って殺して、その引き換えとしてお前はあの子の心臓を持って帰ってくるように。わかったね。わかったなら、今すぐ行っておくれ。」
狩人「はい、わかりました。女王様。必ず殺してまいります。」
狩人は女王様に言われた通り、白雪姫を森の中に連れて行きました。狩人が狩りに使う刀を抜いて何も知らない白雪姫の胸を突き刺そうとすると、白雪姫は泣いて言いました。
白雪姫「あぁ、狩人さん。私を助けてちょうだい。その代わり、私は森の奥のほうに入って行って、もうお城には決して帰りませんから。」
これを聞いた狩人は白雪姫があまりに美しかったのでかわいそうに思い言いました。
狩人「じゃあ、早くお逃げなさい。本当にかわいそうなお姫さまだ。」
白雪姫「ありがとう。この恩は二度と忘れません。さようなら。」
そう言って白雪姫は森の奥に入って行きました。
白雪姫を殺さないですんだので、狩人は楽な気持ちになりました。ちょうどその時、鹿が向こうから飛び出してきました。
狩人「よし、あの鹿を殺して心臓を持ち帰ろう。」
狩人は鹿を殺して、お城に急いで帰りました。
狩人「女王様、今、帰りました。この通り白雪姫を殺して心臓を持ち帰ってきました。」
女王「おお、よくやった。これであの憎たらしい姫は死んだのだ。またこの世で一番美しいのはこの私である時代が来たのだ。おほほほほ。」
女王様はすっかり安心して白雪姫は死んだものと思っていました。
さて、白雪姫は大きな森の中で一人ぼっちになってしまい怖くてたまらず森の中をさまよっていました。白雪姫は恐怖に怯えながらも足の続く限り走り続けてとうとう夕方になるころに、一軒の小さな家を見つけました。そして、疲れを休めようと思いその中に入りました。その家の中にはだれもいなく、家の中に置いてあるものはみんな小さいものばかりでしたが、何とも言いようのないくらい立派で清らかでした。白雪姫は大変おなかがすいてのどが渇いていたので、机の上に置いてある野菜スープとパンを食べ、それから杯からブドウ酒を飲みました。それが済むと今度は大変疲れていたので、寝ようと思って寝床に入りました。白雪姫はすぐにぐっすり眠りにつきました。
日が暮れて、辺りが真っ暗になったときにこの小さな家の主人達が帰ってきました。その主人達というのは七人の小人だったのです。七人の小人はこの家に誰かが入り寝ていることに気付きました。ランプで白雪姫を照らし、小人たちは叫びました。
小人「おやおやおやおや、なんてこの子はきれいなんだろう。」
それから小人たちは大喜びで、白雪姫を起こさないで寝床の中にそのまま寝かしておきました。
朝になって、白雪姫は目を覚まし七人の小人を見て驚きました。けれども、小人たちは大変親切にしてくれて、白雪姫に尋ねました。
小人「お前さんの名前は何と言うのかね?」
白雪姫「私の名前は白雪姫というのです。」
小人「お前さんはどうして私たちの家に入ってきたのかね?」
白雪姫「実は継母が私を殺そうとして、それを狩人がそっと助けてくれたの。そこで一日中駆けずりまわってやっとこの家にたどり着いたの。」
小人たちはその話を聞いて言いました。
小人「もし、お前さんが私たちの家の中の仕事をちゃんと引き受けてくれるのならば、私たちはお前さんを家においてあげて、何にも不足のないようにしてあげるんだが。」
白雪姫「しっかり働きます。どうか、私をこの家においてください。お願いします。」
白雪姫は小人に頼みました。そしてそれから白雪姫は小人の家にいることになりました。小人たちは朝早くから仕事に出かけ夜にならないと帰ってきません。ですから、昼間は白雪姫はたった一人で留守番をしなければならないので親切な小人たちは白雪姫に言いました。
小人「お前の継母さんに用心なさいよ。お前さんがここにいることをすぐに知るに違いない。だから、誰もこの家の中には入れてはいけないよ!」
白雪姫「えぇ、わかっているわ。行ってらっしゃいませ。」
一方、こんなことを何も知らない女王様は狩人が白雪姫を殺してしまったものだと思い込んで、自分がまた一番美しい女になったと安心していました。そしてある時鏡の前に行って言いました。
女王「鏡よ、鏡。この世で一番美しいのは誰だい?」
鏡「女王様、ここではあなたが一番美しい。けれどもいくつもの山を越えた七人の小人の家にいる白雪姫はまだ千倍も美しい。」
これを聞いたときの女王様の驚きようといったらありませんでした。この鏡は決して間違ったことを言わないと言うこと知っていたので、狩人が自分を騙したということも白雪姫がまだ生きていることもみんな分かってしまいました。そこでどうにかして白雪姫を殺したいと思い、いろいろと考え始めました。女王様は一つの計略を考え出しました。
女王「ほほほ、これであの子ももうおしまいね。おーほほほ。」
女王は秘密の部屋に行って毒の上に毒をぬった一つのりんごをこしらえました。そのりんごは見かけはいかにも美しくて白い所に赤みを持っていて、一目見ると誰でもかじりつきたくなるようにしてありました。けれども、その一切れを食べようものなら、瞬く間に死んでしまうという恐ろしいりんごでした。りんごがすっかり出来上がると、顔を黒く塗って百姓のおかみさんのふうをして、小人の家に向かってお城を出発しました。
小人の家に着くと戸をトントンとたたきました。すると、白雪姫が窓から顔を出して言いました。
白雪姫「七人の小人が誰も中には入れてはいけないと言ったので誰も中に入れるわけにはいきません。」
女王「私はこの森に住むものだ。毎日毎日暮らしていくのがやっとでの。こうやって、毎日、食糧を売って生活しとるんや。今日はりんご。でも、どうしても最後の一個が売れてないんや。このまま家に帰ったらこのりんごを育てておる旦那にひどく叱られてしまう。私が売ってこないとこれからの生活が出来ないからのう。どうか、お金は払わんでいいからりんごをもらってはくれぬか。この籠を空にして帰りたいんだよ。頼むよ、美しいお方。」
こんなにお願いされては白雪姫も放っておくわけにはいきません。
白雪姫「わかりました。そのりんごだけ受け取りましょう。受け取ったら帰ってくださいね。」
女王「お、おう、ありがとう。これで私は家に帰れるよ。」
白雪姫はりんごを受け取りました。
女王「あっ、でもただでりんごをあげたことがばれては困る。今すぐ食べてはくれんかね?」
白雪姫はちょうどお腹をすかせていたのでりんごをひとかじり口に入れました。すると、バッタリと倒れそのまま息が絶えてしまいました。これを見た女王様はその様子を恐ろしい目つきで眺めて、さも嬉しそうに大きな声で笑いながら言いました。
女王「これであの憎たらしい白雪姫は死んだのじゃ。もう生きていることはあるまい。うひひひ。」
そして大急ぎでお城に帰り、まず鏡のところに駆けつけて尋ねました。
女王「鏡よ、鏡。この世で一番美しいのは誰だい?」
鏡「それは、もちろんあなたです。」
これで女王様の妬み深い心もやっと静まりました。
夕方になって小人たちは家に帰ってきましたが、さあ大変。白雪姫が地べたに転がって倒れているではありませんか。びっくしりしてかけよってみればもう姫の口からは息一つすらしていません。かわいそうに死んで、もう冷え切ってしまっているのでした。小人たちは白雪姫を助けようと水を飲ましたり何か毒はないかと探しましたが、何の役にも立ちませんでした。本当に白雪姫は死んでしまったのです。
小人たちは白雪姫の体を一つの棺の上にのせました。そしてその周りに座って三日三晩泣きくらしました。それから、白雪姫をうずめようと思いましたが、何しろ姫はまだ生きていたそのままで、生き生きと顔色も赤く、かわいらしくきれいだったので小人たちは外から中が見えるガラスの棺を作りその中に白雪姫を寝かせました。
白雪姫は長い長い間棺の中に横になっていましたが、ある日のこと、一人の王子が森の中に迷い込んで、七人の小人の家に来て一晩泊まりました。そして、ガラスの棺を見つけるとその中の姫の美しさに目を奪われました。
王子「なんて美しい方なんだ。雪のように白く血のように赤く、黒炭のように黒い髪をしていらっしゃる。あぁ、この人の素顔が見てみたいものだ。」
王子は思わず口付けをしました。すると、するとどいうことでしょう。白雪姫ののどにつまった毒りんごは飛び出し、姫は生き返りました。
小人も王子も大喜びです。
王子「私は、あなたが世界中のだれよりも美しくかわいいと思うのです。さあ、私のお城に一緒に行きましょう。そしてあなたは私のお嫁さんになってください。」
白雪姫「えぇ、もちろんいいですとも。私を助けてくださった命の恩人ですから。小人さんたちも私たちと一緒に行きましょう。」
そうして、白雪姫と王子様は結ばれ小人たちはお城の家来として王子様と白雪姫を支えていくことになったのです。
遠く離れたお城では女王様が鏡の前に立って言いました。
女王「鏡よ、鏡。この世で一番美しいのは誰だい?」
鏡「女王様、ここではあなたが一番美しい。けれども若い女王様は千倍美しい。」
これを聞いた女王様はまた妬みの気持ちでいっぱいになりましたが、自分より美しいのが白雪姫ではなかったので安心しました。女王様は若い女王が白雪姫とは分からなかったのです。
こうして白雪姫は王子様と小人たちと一緒に幸せに暮らしたのです。めでたし、めでたし。

6
112039 ゆっきゃん K  今年もクリスマスイブを迎えたこの街は、いつもよりネオンが輝いていた。カップルばかりの大通りに、その猫はいた。全長40pほどで、夜の闇に溶け込むほど深い黒色をしている。
「おい、またあの猫が歩いてるぞ!」
少年3人が猫に近づいてきた。
「うわっまじ不吉なんだけど。」
三人の中では一番ちびの少年は、怪訝そうに猫を見つめた。
「おい、あっち行けよ、おら!」
別の少年が猫に向かって、赤子の手ほどの小石をなげた。
「にゃっつ」
小石は猫の背中に当たり猫は悲鳴をあげた。
「よっしゃ、当たったぜ!見たか?見たか?」
石を投げた少年は自慢げに他の二人に語る。
「俺だってそれくらいできるよ。」
ちびの少年も続いて猫をめがけて石を投げる。しかし、石は猫に当たらず少年は舌打ちをする。
「もう行こうぜ。」
少年たちは人の流れの中へ戻っていった。
また猫も、人を避けるかのように路地へと入っていった。



この世に生まれてから数年、人のぬくもりなんて感じたことのなっかた黒猫は、闇のような孤独の中を一人ぼっちで生きてきた。一人でいる孤独は、黒猫には当たり前のことで慣れていたし、むしろその環境を望んでもいた。
(人間なんて面倒なやつらだ。)
孤独に慣れたくろねこにとっては他の誰かと関わったり、触れ合ったりすることなんて、とても煩わしくてめんどうなことこの上なっかった。



路地を出て、いつも通り駅前のラーメン屋の前で黒猫はまるくなっていた。黒猫がうたたねをしていると、後ろから暖かい手が黒猫を包み込んだ。
「にゃーー?!」
黒猫は驚きで普段より2オクターブほど高い声を出していた。
「お〜ごめんゴメン、怖がらせちゃったかなぁ。」
黒猫が声に合わせ体の向きを変えるとそこには青年の笑顔があった。歳は20代なかば、身長は170pくらいだが、髪はボサボサで茶色のつなぎはペンキやら、絵の具やらでひどく汚れていた。
「こんばんは、すてきなおちびさん。」
腕の中で固まっている猫に青年は優しく微笑みかけた。
(なんだこいつは)
我に返った黒猫は青年の腕をひっかきもがいて必至にぬけようとした。
「痛てっ」
ひっかかれた痛さに青年の猫をつかむ腕の力が弱くなった。その瞬間、猫はするりと腕からとびだし、青年から逃げるように走り出した。
「おい、待ってくれよおちびさん。」
青年も黒猫の後をおいかけ、人通りの少なくなってきた大通りかけだした。
(ホント、何だよあいつ。何で追いかけてくるんだよ)
商店街の人ごみの中をすりぬけながら猫は考えた。
(人間は怖い奴らなんだ、平気で俺たちを捨てるし、石だって投げつけてきやがる。アイツも同じだ、怖いやつなんだ。)
「だから、待ってくれって、もう怖がらせたりしないからさ。」
青年も人ごみを避けながら黒猫について行った。
5分ほど一人と一匹の鬼ごっこは続いた。
(もうダメだ、走れねぇ)
黒猫は徐々にスピードを落とし遂にには止まってしまった。
「はっ はっ ようやく追いついたぞ。にしてもお前体の割に足早いんだな。」
息を切らしながら猫に語りかけた。
「お前も独りだろ一緒だな。」
黒猫の頭をなでる青年
「……そうだ、お前俺と一緒に暮らさないか?そうだそうしよう。ケッテイケッテイ」
声のはり具合から青年の喜びが伝わってくる。
(何勝手にきめてるんだこいつは…)
「こんどは逃げるなよ」
そう言って再び黒猫を抱き上げた。
「よし家に帰るか」
猫に語りかけ、青年は歩き出した。



「俺さ、実は絵描きなんだ。」
(そんなことお前のかっこみたら猫だってわかるっつうの。)
猫は一鳴きする。
「そうか、すごいってか。まぁまだ全然有名じゃないんだけどな。」
青年は鼻をこすりながら苦笑いをする。
(おいおい、そこは笑ってたらだめだろ)
「そうだ、お前飼うんだったら何かと必要になってくるな。エサだろ、水だろ、…あとトイレとかも用意しないといけないのかな。あぁなんだかワクワクしてきたぞ。」
青年は駆け足で家へと帰った。



「ジャーン、ここが我が家でーす。」
(おい、ほんとにここに住んでるのかよ。)
青年の目線の先にはボロボロで、いかにも幽霊が出てきそうな二階建てのアパートがある。
階段をあがってすぐの部屋が青年の部屋である。
簡単に壊されそうな鍵をあけ、二人は部屋の中に入った。
部屋の中はペンキの臭いで充満していて、壁には描きかけの絵やデッサンがたてかけられている。
(こいつ結構ガチで絵を描いてたんだな。)
「ただいま〜。って誰もいないんだけどな」
いたずらっぽく笑いながら猫に語り続ける。
「これからお前がすむところだからな、まぁくつろいでくれよ。」
黒猫はストーブの前においてあるクッションに飛び移った。



絵描きと黒猫がであって一週間ほどたったころ
絵描きは思いついたかのように黒猫に話しかけた。
「そういえば、お前に名前をあげてなかったな。」
(名前…?)
「かっこいい名前つけてやるよ。そーだな、黒いからブラックなんてどーだ?」
無邪気に笑いながらそう言った絵描きに、黒猫はため息をつきそうになった。
(そりゃないだろ…)
「えー、不満か?じゃあタマがいいのか?」
(却下!)
牙をむいて嫌悪を表現する黒猫に、絵描きは冗談だと言ってわらった。
「ホーリーナイト…なんてどうだ?」
(ホーリーナイト?)
ふしぎそうに黒猫が首を傾けると、絵描きはやさしく黒猫をなでた。
「お前と初めて会った夜がクリスマスだっただろ。だからさ、聖なる夜って意味でホーリーナイト、黒き幸ってな。」
(聖なる夜、Holy Night…)
「なんてちょっとロマンチックすぎたかな。」
照れたように笑う絵描きに黒猫は目を組めのどを鳴らした。
「おっ!?気に入ったか?じゃあホーリーナイト…できまりな。」
生まれて初めて名前をもらった黒猫は嬉しいような恥ずかしいようなきぶんだった。



ある日、まだ吐く息が白くなるほどの寒い日。絵描きと黒猫は、駅前まで絵をうりにきていた。
「僕が描いた絵です。よかったら見ていってください。」
平日の駅前には会社帰りのサラリーマンやOLはいるが、絵描きの絵に止まってくれるひとはいない。
「ニァー」
黒猫は退屈そうに大きなあくびをした。
「今日も売れないのかな…」
帰宅ラッシュの時間が終わり少しずつ人通りが減ってきた。
「そろそろ、帰る支度でもするか。」
そう考えた時だった。
「これ何の絵なんですか?」
キレイな若い女性の声が絵描きに語りかけた。
「え!?あっこの絵ですか。これはこいつの絵なんですよ。」
絵描きは猫の頭をなでながら答えた
「ニャー」
「かわいいですね。あなたの猫なんですか?」
女性は中腰になり話を聞く体制になった。
「こいつはね、一か月くらい前にこの近くであったんですよ。キレイな黒色してるでしょ、こいつ見てるとついつい描きたくなるんですよね。」
「へぇ〜なんかいいですね。だからここの絵みんな真っ黒なんですね。」
笑みをうかべながら女性は黒猫の体をなでた。
「ニャー」
黒猫も女性に対して警戒していない様子である。
「おっ珍しいな。こいつあんまり人に懐かないですよ。お姉さんきっといい人だな。」
女性はかるくほほを赤らめていた。
「私、絵買います。なんかこの猫ちゃんに親近感わいちゃったな。」
「ほんとですか?じゃあどの絵にしますか?」
女性は黒猫が丸くなり寝ている絵を指差した。
「これがいいです。おいくらですか」
「こちら一点で1000円です。」
「じゃあちょうど」
「はい、ありがとうございます。僕ら毎週この時間はここにいるんで、よかったらまた来てくださいね。」
「絶対きます、またお話きかせてくださいね。じゃあ、さようなら。」
女性は絵を大事そうにかかえて、テクテクと歩いて行った。
「なぁナイト、今の人キレかったよな。」
「ニャー」
「おっとこんな事いったらあいつに怒られちゃうな、注意しないと。」
絵描きは少し緩んだ表情を引き締めなおして、黒猫にかたりかけた。
「よし、一枚売れたし今日はこれでひきあげよう。」
急いで絵を片付けて、二人はアパートへ戻った。



「そういえば、お前に話してなかったけどさ、俺は故郷に彼女をまたせてるんだ。」
(いきなり、何をいいだすんだこいつは。)
黒猫はお気に入りのクッションに寝ころびながら聞き耳をたてた。
「今から5年前かな、俺はそのとき7年つきあってた彼女がいてさ…


「もう7年になるのか俺たち。」
5年前の絵描きは髪もさっぱりとしていて、今よりも何歳も若くみえる。
「そうだね、早かったかな。」
黒色のセミロングが春風にふかれてふんわり揺れる。
「早かったんじゃないかな。いろいろあったけどね。」
絵描きはうつむきながら話した。
「今日で別れなんだね。」
彼女の声がふるえていることから絵描きはすべてを悟った。
「それなんだけどさ、俺が向こうにいって成功して夢を叶えたら、もう一度ここにもどってくる。そしたら俺と結婚してくれないか。」
数秒の沈黙がながれる。
「うん、まってる。」
「よかった〜あ〜よかった〜」
絵描きは安堵の表情をうかべながら彼女とだきあった。


…まぁそんな感じなんだ」
(こいつそんな女がいたんだな)
黒猫はクッションから絵描きの膝にいどうした。
「だからさ、もどるときはお前も一緒につれていくからさ、おいそうよくたのむよ。」
黒猫の頭をなでながら故郷をおもいだす絵描きの姿がそこにはあった。



絵描きと黒猫がしりあってから二度目の冬をすごしていた。その日もだった日と同じで雪が降っていた。
(今日もさぶいな)
窓の外をながめながら黒猫はかんがえた。
(そういえば、あいつ起きてくるの遅いな)
黒猫は絵描きの枕元へとぼとぼ歩いた
(えっなんだよこれ)
黒猫の目線のさきには血で真っ赤に染まる青年の枕があった。
「ニャーー、ニャーー、ニャーー」
黒猫は状況をつかめなかったが、とにかく泣き続けた。目の前で動かなくなっている絵描きを心配する気持ちでいっぱいだった。
「ニャーー、ニャーー、ニャーー」
「うっ。」
絵描きの口元が黒猫の声に反応して少し動いた
(まだ生きてる)
黒猫は絵描きの口元をなめた
「ナ、ナイトか。ありがとう」
絵描きの声には生気がなかった。
「俺7もう無理みたいだ、こんなはずじゃなかったんだけどな。」
猫の額に手をあて、絵描きは話を続けた。
「俺は故郷で彼女をまたせているんだ。この調子だと、もう直接会いに行くことはできなさそうだからさ、この手紙をその彼女にとどけてくれないか。」
絵描きはふるえる手でズボンの左ポケットから小さな紙をとりだし、猫に首輪にくくりつけた。
「俺はお前と出会えて本当に良かった。一緒にいてくれて あ り が と う」
絵描きの手が額から滑り落ちた。めをとじた絵描きの顔にはどこか優しさがにじみでていた。
「ニャーー、ニャーー、ニャーー」
黒猫は何度も泣き続けた。リビングに響きわたる。。甲高いこえはまるで絵描きを天ままでおくっているようにも聞こえた。


(そうだ、こいつとの最後の約束)
黒猫は部屋をとびだした。雪が降りしきる中、黒猫は親友のふるさとをめざした。



大通りを走る猫
「おいでたぞ、またあの黒猫だ、悪魔の使者だ」
いつぞやの子どもたちがまた石をなげてくる。
(勝手にいってろ、何とでも呼ぶがいいさ、俺は悪魔の使者なんかじゃない。俺には消えることのない立派な名前があるんだ。)
改めて自分の名前をかみしめた。ホーリーナイト。『聖なる夜』という自分の名前を
黒猫は絵描きと一緒にいた日々を思いだしながら走った。初めて出会った日、名前をくれた日、絵を売りにいった日、その全て絵描きが優しさとぬくもりをもって自分を愛してくれていたこと。



どれくらい走っただろうか、雪道のせいで黒猫の足はあかくなっていた。
(今まで、人間から忌み嫌われていた俺にも、生まれてきた意味があるとするならば、この日のために生まれてきたんだろう。どこまっでだって走ってやる。)



黒猫は親友の故郷にたどりついた。恋人の家まであと数キロのところまできた。黒猫のあしは切り傷、擦り傷でボロボロになっていた。立つことで精いっぱいのはずの足で走りつづけた。転んでも、転んでも走り続けた。
人間たちはそんんな黒猫に容赦なく罵声と暴力をあびせつづけた。
(負けるか、俺はホーリーナイトだ)

千切れそうな足をひきずりながらも、ついに黒猫は親友の彼女の家をみつけた。

彼女は居間で暖をとっていた。
「ニャー、ニャー」
細く小さいが力強い黒猫のこえは、彼女の耳にとどいた。
「猫?どうしたんだろう。」
彼女は玄関の扉を開けた。そこには手紙をくわえたままで動かなくなってしまった黒猫がいた。
手紙を読んだ恋人はもううごかない猫にアルファベトを一つ加えて庭にうめてあげた。


Holy Knight 聖なる騎士
10以上
112040 ペンシル ひまわり(日本版現代風シンデレラ)  あるところに、井上良子という娘がいた。良子は、お父さんの秀樹と継母の浩子と義理のお姉さんの京子と紀子と暮らしていた。
「パパ!今日のごはんはなに?」
良子は、秀樹に聞いた。秀樹は、良子のわきの下に手を入れ、持ち上げ言った。
「今日のごはんは、良子が大好きな肉じゃがだよ。」
「やったぁ!」
良子はまるでひまわりのような笑顔を浮かべていた。
その時、浩子がどんな表情で肉じゃがを作っているのかを、誰も知るよしもなかった。一つのテーブルを囲んで、夕食を食べている姿は、誰がみても幸せな家族にしか見えなかった。

 ある冬の夜、井上家に一本の電話が入った。
「もしもし」
浩子は受話器を取った。
「えっ……。」

 浩子、京子、紀子と良子の4人が病院に到着すると、父は危篤状態だった。
「パパ!」
良子は秀樹の側に駆け寄り、手をぎゅっと握った。
「死んじゃだめ!パパ!」
病院中に響き渡る声で泣き叫んだ。
「良子、静かにしなさい。」
浩子は良子にそう言い放つと、
「京子、紀子、もう帰りましょ。明日も早いし。」
そう言って、浩子と京子と紀子は病室を後にした。

 その後、良子はずっと秀樹の側を離れなかった。しかし、秀樹が倒れて3日経った夜中に、秀樹はとうとう帰らぬ人になってしまった。

 それからというもの、良子に対する態度は急変した。
「なんで私だけこんなにご飯少ないの?」
良子はそう言って、炊飯器に向かいご飯を足そうとした。しかし、炊飯器の中にはご飯は残されていなかった。
「なんで?」
「なんでって、あんたは私たちの家に居候している身なのよ。そんなワガママ言わないでちょうだい。」

 外では雪が降り積もるある日、やぶれかぶれの服を着た良子が、ほうきで玄関を掃除していた。そのとき、ガッシャーンと、つぼが割れる音がした。良子は音のしたところに行くと、京子が慌てふためいていた。そこに浩子がやってきた。
「あら、誰がこんなことやったの?」
「良子よ。良子がほうきをぶつけて、このつぼを落としたの。危うく私は、けがをしそうだったわ。」
「あら、まあ!良子!このつぼは、秀樹さんの残したもので、高級なのよ。ましてや、私の子を危ない目にあわせるなんて!罰として、今日のごはんは無しで、おふろ、洗面台、台所、玄関、庭の掃除をやりなさい。全部終わらなかったら、明日もごはん無しよ。」
良子は、呆然とした。良子には、浩子に歯向かう気力は、もう残っていなかった。良子は、手をしもやけで真っ赤にし、涙を流しながら、文句ひとつ言わず、ひたすら掃除をした。この時の良子は、目の前のことをやるだけで、もう何も考えられない状態だった。

 ある日、良子は、浩子に買い物を頼まれ、近くのスーパーへ向かった。そして、頼まれた物だけを買い、家へ帰ろうと歩道を歩いていた。頼まれた物以外を買うことは許されていなかった。なぜなら、レシートや金額を浩子に厳正にチェックされるからだ。良子は、下だけを向き、もう生きている心地がしていない様子だった。
ガシャーン
良子は曲がり角のところで、誰かとぶつかった。
「大丈夫ですか?」
男の人の声がした。
「はい。」
良子と男の人は急いで荷物を拾った。男の人は、目の前の女の人の手がしもやけで真っ赤になっていて、服もやぶれかぶれであることに気がついた。男の人は、荷物を拾うと良子に差し出した。
「あの、いきなり申し訳ないんですが、ちょっと来てください。」
そういうと男の人は良子の手を引っ張って、すぐ近くにあった服屋さんに入った。
「どの服がいい?」
「えっ?」
「いや、あまりにボロボロの服を着てるもんだから、ぶつかって荷物を落としてしまった借りを返させてよ。」
「いや、そんなことしたら浩子さんに怒られます。」
「ひろこさんって誰?」
その時、浩子さんが服屋の中に入ってきた。
「あんた!どこをほっつき歩いてるの!遅いから心配したじゃない。帰りましょう。」
そういうと浩子は良子の手を引っ張り、去って行ってしまった。
男の人は、女の人の名前を聞けなかったことを後悔していた。
「大丈夫かな…。」

 「何してるのよ。夕飯の支度が間に合わないじゃない。」
浩子は怒鳴った。
「ごめんなさい。」
「あの男誰よ!」
「道端でぶつかった人です。」
「ぶつかった人と、何で服屋さんにいるのよ。」
「ぶつかった借りを返させてほしいって言われたんです。」
「そんな変な男についていっちゃだめよ。」
「はい…。」

 翌日、男の人は、教室で昨日あった出来事を、休み時間話していた。
「やばいと思わない?」
「それやばいね!絶対虐待だよ。」
と京子は言った。
「だよな…。助けてやりたいけど、名前も聞けなかったし…。」
「まあ、他人だから、もう忘れなよ。それより、拓哉は明日暇?」
「うん。まあ暇だけど…。」
「もしよかったら、明日映画行かない?」
「いいけど。」
「それじゃあ決まり!明日の朝10時に公園に集合ね。」
「わかった。」

 翌日、京子は朝から洗面台を独占していた。
「今日は、あの噂の拓哉くんとデート?」
紀子が冷やかして言った。
「いや、そんなんじゃないよ。ただ新作の映画を見に行くだけ。」
「それじゃあ、そんなお洒落しなくてもいいじゃん。」
「もう、うるさい!行ってきます!」
「行ってらっしゃい!って、私ももう行かなくっちゃ!」
二人は出ていった。良子は、京子が財布を忘れたことに気が付いた。
「あの、京子さん!」
そう言った時には、もう京子も紀子もいなかった。良子は急いで、京子を追いかけた。

 「待った?」
拓哉がそう言いながら走ってきた。
「いや、待ってないわよ。それじゃあ行きましょう。」
そう言って2人は公園を出た。
良子は、公園から出てくる京子を見つけて
「京子さん!」
と声をかけた。
「財布忘れてます。」
そう言って、うつ向きながら財布を差し出した。
「あ、ありがとう。」
と京子は言うと、
「さっ、拓哉行きましょう!」
拓哉は、その女の子の顔を覗き込んだ。
「あっ昨日の!」
「この子知ってるの?」
京子は目を見開いた。
「あっ…失礼します。」
良子はそう言うとその場を逃げるように去っていった。拓哉は良子を追いかけた。
「ちょっと待って。」
拓哉は良子の腕を握った。京子は急いで拓哉のもとに駆け寄って行った。
「拓哉、もういいから行こう!」
「よくねえよ!お前この子と一緒に住んでるのか?」
「こんな子知らない!」
「それじゃあなんでお前の財布持ってるんだよ。」
「私がさっき道で落としちゃったみたい。」
「この子お前の名前呼んでただろ!」
京子は黙りこんだ。
「もういい!お前は帰れ。」
そう言うと、拓哉は良子の腕を引っ張って京子のもとを去って行った。

 拓哉と良子は喫茶店に入った。
「大丈夫か?昨日から心配だったんだよ…。名前は?」
「井上良子と申します。」
「お前は、井上京子の妹なのか?」
「いや…義理の妹です。」
「そういうことか…。」
「それじゃあ昨日言ってた、ひろこっていう人は京子のお母さんなんだな。」
「はい。」
拓哉はため息をつき、店員を呼んで、サンドウィッチを頼んだ。
「俺の名前は三浦拓也。高校2年生で、京子と同じクラスなんだ。」
「京子さんの知り合いと話してたら、家に帰って京子さんに怒られます。」
「こちらサンドウィッチになります。」
店員さんがやって来た。
「これ食べなよ。どうせ家でもちゃんとしたご飯食わせてもらってないんだろ。」
「いいんですか?」
「いいよ。」
「ありがとうございます。」
良子は、ひまわりのような笑顔を浮かべた。拓哉は、その笑顔をずっと見つめていた。
「とりあえず、今日は俺の家に来い。部屋はいっぱい空いてるから。お前、自分の家帰ったら危険だろ。」
「でも、そんなことしたらもっと怒られます。」
「大丈夫。俺がなんとかするから。」

 「何で拓哉と良子が知り合いなのよ!というか、私が悪者みたいじゃん。ありえない!」
京子は浩子に怒鳴った。
「本当許せないわね。京子の男まで取るなんて。ひどい子だわ。帰ってきたらただじゃおかないわ。」
そのとき電話が鳴った。
「京子?俺だけど。」
「拓哉?どうしたの。」
京子は声色を変えた。
「良子ちゃん、今日は、帰らないからよろしく。」
「えっなんで?ちょ、ちょっと待って!」
プップープープー
電話が切れた。
「ありえない!」
「どうしたの?京子。」
浩子が言った。
「今日は良子、拓哉の家に泊まるんだって!」
「え?何で?」
「わからないわ。」
「連れ返してくるわ。誘拐じゃない!」
「お願いお母さん。」

 浩子は、拓哉の家へ向かった。
「えっ!なにこれ!」
身長の二倍もある大きな門構え、欧米風な庭、まるでお城のような白い家が浩子の目にとびこんできた。
浩子はおそるおそるインターホンを鳴らすと、中からお手伝いさんが出てきた。
「お待ちしおりました。」
中はキラキラ光るシャンデリア、どこまでも続く赤いじゅうたんに浩子は圧倒された。そこに拓哉が現れた。
「浩子さんですよね?」
「あ、はい。」
「こちらへおかけください。」
浩子は、大きなソファに座った。
「あの、良子さんは、僕の家で預からせて頂きます。」
「それは無理です。良子はうちの子ですから。」
「あんなことしといて、なにがうちの子ですか。おかしいでしょ。あんな良子ちゃんを傷つけておいて。どんなけあなたが良子ちゃんにひどいことをしたのか分かってるんですか?良子ちゃんは一人の人間なんですよ。勉強する権利だって、遊ぶ権利だって、恋愛する権利だってあるんです。」
浩子は、うつむいた。
「とりあえず、今日は良子さんをうちで預かりますので、よろしくお願いします。」

 その頃、拓哉の家で、良子はご飯を食べていた。
「こんなにお腹いっぱいになるまでご飯を食べたのは何年ぶりだろう。」
「思う存分食べてよ。」
「本当にありがとうございます。この服もありがとうございます。」
「いいんだよ。良子ちゃんは、笑っているのが一番だよ。」
良子は自分が笑うのが久しぶりであることに気づいた。
「私の笑顔を取り戻してくれてありがとうございます。拓哉さんのおかげです。」

 翌朝
「おはよう。」
京子は、何もなかったかのように拓哉に話しかけた。しかし、拓哉は何も聞こえなかったかのように、京子の横を通りすぎた。
「おはようって言ってるじゃない。ねえ、一緒に教室まで行こう。」
「嫌だ。」
「何でよ。ねーねー、昨日、映画見に行けなかったから、今週の日曜日に行こうよ。」
「無理。」
「何でそんな冷たいの?」
「わかるだろ!昨日のこと忘れたのか?お前がそんなひどいやつとは思わなかった。」
「昨日って?あ〜あの子のこと?私あの子のこと本当に知らないわよ。あの子って拓哉が前に話していた虐待されてる子?かわいそうね…。私その子のために今日お菓子持ってきたんだ。はい!拓哉、渡しといてね。」
「もう、いいよ。猫被らなくて。」

 拓哉は家に帰ると、京子の部屋に行った。
「何してるの?」
「勉強してるんです。浩子さんの家にいるときは、ろくに家で勉強させてくれなかったから。」
「そうなんだ。将来は何になりたいの?」
「医者。大好きなパパと同じ職業に就きたいんです。」
「パパのこと大好きだったんだね。」
「はい!」
「拓哉さんは何になりたいんですか?」
「俺は、俺のお父さんがやっている会社を継ぐんだ。」
「そうなんですか。すごいですね。」
「あっ、そうだ!こんど一緒に水族館行かない?俺、あの水族館に一回行ってみたかったんだ。」
「いいんですか?」
「いいよ。」

 拓哉と良子は水族館に出かけた。
「良子ちゃんは、水族館行ったことあるの?」
「はい!小さい頃に、パパと本物のママと一緒に行きました。」
「そうなんだ。お母さんって…」
「ママは私が小さいときに事故で亡くなっちゃったんです。そして、浩子さんはパパの再婚相手。浩子さんは、パパが生きているときは、すごい優しい人だったんですが…。」
良子の目から涙が流れた。拓哉は、自然と良子を抱き寄せた。
「大丈夫だよ。これからは俺がついてる。もう辛い思いはさせないよ。」
良子は拓哉のぬくもりを感じていた。

 京子は、まだ拓哉のことを諦められなかった。そこで、京子は、今日こそは告白しようと思い、拓哉を放課後の校舎裏に呼び出した。
「何?」
拓哉は京子に目を合わさず言った。
「私、拓哉のことが好きなの。」
「ごめん。」
「何で?私は小学校のころからずっと拓哉のことが好きなの。大好きなの。ずっと拓哉だけを見てきたの。」
「俺は、人をいじめるような人は嫌いなんだ。」
そう言うと拓哉は去って行った。京子は、その場に立ち尽くした。

 良子が拓哉の家に来てから、1年が経った。
「今日は、良子が俺の家に来てから1年の記念日だよ。」
「本当だね。あの時は私を助けてくれてありがとう。おかげで今は、ちゃんとご飯食べられるし、勉強もできる。」
「俺も、お前が家に来てくれて、毎日が楽しいよ。」
二人は微笑み合った。
「あっそうそう。はいこれ。」
そう言うと拓哉は細長い箱を良子に差し出した。
「何?」
「開けてみて。」
その箱の中には、ひまわりのネックレスが入っていた。
「どうしたの?」
「良子が俺の家に来て1年のプレゼントだよ。良子の笑顔はひまわりのように輝いているからな。」
「本当?ありがとう。うれしいわ。」
「俺は、良子が最初は心配で心配で仕方なかったんだよ。そこから、良子を守りたいという気持ちに変わって…つまり……良子のことが好きなんだ。」
「えっ。」
二人は見つめ合った。
「ありがとう。私も拓哉さんのこと大好きだよ。」
二人は口づけをした。良子の手にはひまわりのネックレスが輝いていた。

 京子は、良子がいなくなってからずっと考えていた。
「紀子、私、良子に悪いことをしていたことに今になってやっと気づいた。」
「私もこの頃そのことばかり考えていたの。」
「今さら、許してもらないと思うけど、謝りに行こう。」
「うん。」
二人が玄関を出ようとすると、
「あんたたちどこに行くの?」
「良子のところに謝りに行こうと思って。」
「私も行くわ。良子がいなくなってから気づいた。ひどいことをしてきたんだなって。拓哉さんっていう素晴らしい人に出会えてよかったわ。」
三人は拓哉の家に向かった。

 ピンポン
「どちら様でしょうか。」
お手伝いさんと思われる女の人の声だった。
「井上と申します。」
「少々お待ちください。」
しばらくすると、拓哉の声がした。
「どうぞお入りください。」
三人は家の中にはいり、一年前に浩子と拓哉が会った部屋と同じ部屋の大きなソファに座った。そこに拓哉が現れた。
「どうしましたか?」
「私たち謝ろうと思って。あんなひどいことをして今さら許してもらえるとは思わないけど、気持ちだけは伝えたくて。」
「そうですか。少々お待ちください。」
そういうと、拓哉は出ていった。
そして、良子が現れた。
「お久しぶりです。」
白いワンピースを来て、輝いている良子を見て、三人は驚いた。
「良子。あなた拓哉さんというすばらしい人に出会えてよかったわね。良子きれいね。」
浩子の目から涙が流れた。
「良子。ごめんなさいね。あの時の私はおかしかったわ。許してもらえるとは思ってないけど……本当ごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
京子と紀子も頭を下げた。
良子は、あのひまわりのような笑顔を浮かべ
「いいよ。」
と言った。
三人は良子の心の広さに感激した。
「ありがとう。ありがとう良子。」
浩子は良子に抱きついた。
「拓哉と幸せになるのよ。」
京子は、良子の頭をなでた。
拓哉は、そんな四人の姿を後ろから温かく見守っていた。

 それから10年後。
「良子見て!じゃん!ひまわり買ってきたよ。」
「わ〜きれい!今日は私が拓哉の家に来て10年目だもんね。」
「ねえ良子。」
「何?」
「俺と結婚してくれないか?」
良子は拓哉の目をみて
「うん!」
良子はひまわりのような笑顔を浮かべ、拓哉に抱きついた。
「幸せにしてね。」
「うん。幸せにする。」
7
112044 トトカル サマー・ガール どれぐらいバスに揺られただろうか。
バスに乗っているのは健太を含め、3人しかいない。
健太は窓の外を見た。
外はひたすら緑が続いている。
見渡すとほぼ田んぼ、畑だ。そして田んぼを囲むように家がポツンポツンと建っている。
「青美台〜青美台〜」
健太は小さなバス停でバスを降りた。
バスが走り去ると、辺りを見回すが何もない。
「ここに来るのはひさしぶりだなあ。小学生以来かな。」
今年の春、健太は高校に入学した。
明朗快活なスポーツマンで、中学のときはサッカー部でキャプテン、クラスでは学級委員を務めるほど周りの信頼も厚かった。
と同時に、間違ったことは見逃せない正義感の持ち主でもあった。
健太は高校でもサッカー部に入り、1年生ながら抜群のセンスで、入部2ヶ月でレギュラーを3年生から奪った。
クラスでも人気者で、いつも健太の周りには人が集まっていた。
そんな充実した高校生活が、サッカー部でレギュラーになった6月頃から変わり始めた。
クラブの練習後、健太の鞄がなくなっていた。
別の日には、スパイクがなくなっていた。
健太は自分がレギュラーを奪った先輩から嫌がらせを受けていることに気づいた。
無視していればすぐおさまるだろうと思っていたが、その考えは甘かった。
先輩は、健太のクラスにまで来て、健太と喋るなと脅迫したのだ。
そこから、健太は学校で会話をすることができなくなった。
夜には携帯に無言の着信。
健太は耐えられなくなり、登校拒否になってしまった。
両親が学校へ連絡し、いじめは止められた。
しかし、心に深い傷を負った健太は、学校へ行くことができなかった。
7月下旬になり、学校は夏休みになった。
両親は、気分転換にと夏休みの間健太を父方の祖父母のところへ送ることを決めた。
都会のゴミゴミした空気から、田舎のきれいな空気に環境を変えることで、立ち直ることができれば、という考えからだった。
健太は父親に書いてもらった地図を片手に、歩き出した。
大きな柿の木が目印の祖父母の家は、すぐに見つかった。
「おひさしぶりです、おじいちゃん、おばあちゃん」
もともと優しかった祖父母は、優しく健太を迎えてくれた。

翌日、健太は散歩に出かけた。
「ほんとうに、ここにはなにもないなあ。自然がいっぱいだ。」
そうつぶやきながら歩いていた健太だが、外を歩くこと自体が久しぶりだった。嬉しい気持ちになった。
田んぼと田んぼに挟まれた細い道を、健太は空気をいっぱいに吸い込みながら歩いていく。
少し歩いていくと、河原で、水色のワンピースを着た同年代ぐらいの女の子が猫と遊んでいるのを見つけた。
その女の子の笑顔はとても可憐で、健太は見とれた。
同じくらいの年齢の女の子を見つけた驚きと、女の子の外見に惹かれた健太は、女の子に喋りかけることにした。
「こんにちは」
女の子はいきなり声をかけられて、びっくりしたように猫を抱きしめる。
「いきなりしゃべりかけてごめんね、その猫君の?」
「・・・」女の子は黙ったまま、首をフルフルと横に振った。
「このへんにすんでるの?」
「・・・」女の子は再び首を横に振った。
「いくつなの?」
女の子は左手の人差し指を一本立て、次に右手を開いて左手の人差し指と合わせた。
「16さい?」
女の子はうなずいた。
「僕も16歳なんだ。一緒だね」
健太はそう言い、笑いかけると、女の子も笑顔になった。
健太は、女の子が喋れないのだということに気づいた。
すると女の子がいきなり健太の手を引き、歩き出した。
河原の近くの民家に入り、手を離すと女の子は真っ白な画用紙とペンをもって出てきた。
画用紙に何か書くと、女の子は胸元に掲げた。
(わたし、こえがでないの ごめんね)
画用紙には、きれいな小さな字で、こう書いてあった。
健太はうなずいた。
すると奥からおばあさんが出てきた。
「この子は、母親に虐待を受けて、心に大きな傷を負ったの。そのとき、ショックが大きくて声も出なくなったの。普段は都会の学校に通っているだけど、夏休みの間だけ、ここで暮らすの」
健太は、自分と同じような環境に立っている子に出会った。
健太は自分のことより
この子は俺よりつらいうんだろうな
この子のために何かできないかな
そういうことを考えていた。
「健太くん、暇があったらつかさと遊んでやってくれないかね?この子は外で遊ぶのが好きなんだけど、ここには老人ばっかりだからねぇ。」
「わかりました!僕も毎日暇してるんで」
健太は笑顔でうなずいた。

健太は、毎日つかさに会いに河原へ向かった。
健太はおもしろい話をつかさに聞かせたり、ギャグをしたり、サッカーのリフティングを見せたり、いろんなことをつかさのために行った。
つかさが元気になって欲しい、つかさが笑顔になって欲しいという一心からだった。
つかさはよく笑うようになった。
それとともに、本人は気づいていなかったが
健太もよく笑うようになった。
二人は毎日河原で遊んだ。会話をしたり、おいかけあいっこをしたり。
二人は夏の前の苦しかったことや、つらかったことをすっかり忘れ、楽しい日々を過ごしていた。
夏の前、笑顔が少なかった二人は、笑顔に溢れる毎日を過ごしていた。
元気を取り戻していた。

そんなある日、両親が健太の様子を見に来た。
その日も健太はつかさと河原で遊んでいた。
満面の笑みで遊んでいる健太を両親は目にした。
「あの子のあんなに笑ってる顔ひさしぶりにみたわ」
「こっちによこして正解だった。もう大丈夫だろう」
「健太ー!」
両親の声に振り向く健太。
「お母さん!お父さん!」
つかさはきょとんとしている。
健太は両親に会えてうれしい気持ちになった。
しかしその後すぐ、自分は変えなければいけないことに気づいた。
健太は、またいじめられる・・・そうゆう気持ちではなく、つかさと別れることに悲しみが湧いてくる。
「元気だった?ウフフ、元気そうね」
「こっちの空気はいいだろう。お前も気持ちの切り替えができているようだな」
「う、うん・・・ありがとう母さん、父さん」
「ところであの子は?」
「ああ、つかさちゃんってゆうんだ。オレと同じ感じで、母親に虐待されて、環境を変えるためにこっちに来てるらしい。あの子と毎日僕は遊んでたんだ」
「まあ、一緒に遊べる子がいたのね。よかったわねえ健太」
「健太が元気になったのは、あの子のおかげかもしれないな。礼を言わなくちゃな」
「う、うん」
「元気そうな健太を見て安心したわ。本当は私たちもこっちで何日かいるつもりだったけど、その必要はなさそうね」
「ああ、健太も家に帰ってからやることがたくさんあるしな。それに向こうの環境にもまたなれなくてはいけないし。帰りは早い方がいい」
「そうと決まったら、お母さんとお父さんにあいさつして、今日中に帰りましょうか」
「まってくれ母さん、父さん!」
「どうした?」
「一日だけ、一日だけ待ってくれないかな?明日帰るからさ」
「何かやり残したことでもあるの?」
「うん」
「わかった。じゃあ明日の夜に帰ろう。お父さんたちは、先におじいちゃんの家に行っておくぞ」
「今日はもう遅いから、早く帰ってくるのよ」
「ありがとう、父さん、母さん」
健太はつかさの元へ戻っていく。
「つかさ、オレ帰らなくちゃならないことになったんだ」
つかさはペンを走らせる。
(そう、よかったね^^)
「つかさ、オレ明日帰るからさ、明日が会えるの最後なんだ」
(うん)
「明日、昼にここで会えないかな?待ってる」
(わかった^^)
「じゃあ、また明日な!」
健太とつかさは笑顔で手を振った。

次の日、昼ごはんを食べ、河原へ走る健太。
つかさが猫とじゃれあっている。
「つかさ!」健太が呼びかけるとつかさは満面の笑みで手を振った。
「こうして会うのも、今日が最後なんだな」
つかさの顔から笑顔が消えた。
画用紙を手にとるつかさ。
(わすれないでね)
「忘れるわけないだろ!」健太は叫んだ。
「つかさに会えて、ほんとによかったよ・・・なんか、うまくゆえねーけど」
(私も)
「つかさがいなかったら、オレずっと引きこもりのままだったと思う。何か言葉にできないけど、本当に感謝してる。ありがとな、つかさ。」
(私の方こそありがとう)画用紙に書かれた文字はにじんでいた。
「オレ、向こうに戻っても、つらいときかとか、苦しいときとか、つかさのこと思い出して頑張るよ!つかさの笑顔思い出して!だから、つかさも・・・な?」
(うん、がんばるね。ありがとう)
「本当にありがとう。じゃあ、オレ、行くわな」
(最後は笑ってばいばい!)つかさが潤んだ瞳で満面の笑みをくれる。
「うん、ばいばい!」
健太は河原を後にした
存力で走る健太。止まらない涙。
「オレ、うまく笑えてたかな・・・ハハ」
健太の顔は、紙屑を丸めたようにぐしゃぐしゃになっていた。

「さあ、帰ろうか」
「おじいちゃん、おばあちゃん、本当にお世話になりました」
「ワシらも健太が元気になって本当によかったよ。またいつでも遊びにおいで」
「はい。ありがとうございました!」
笑顔でバスに乗り込む健太。
そこに、つかさとつかさのおばあちゃんが走ってきた。
「つかさ!」
「健太、最後のお別れをしておいで」
つかさの元へ走る健太。
つかさは、画用紙を持っていなかった。
つかさが口を開いた
「あ、り、が、と、う」
はっきりとは聞き取れなかった。でも、確かに健太にはありがとうと聞こえた。健太は泣きじゃくった。
「つかさ、本当にありがとな!オレもがんばるからな!つかさもがんばれよ!」
ボロボロと涙を流しながら、何度も何度も首を縦に振るつかさ。
そして、つかさは健太の手に、ミサンガをつけた。
「お、ま、も、り」
健太はつかさに抱きついた。
「一生忘れないよ!大事にする!本当にありがとう!」
「健太、そろそろバスの出発時間だわ・・・」
母さんの声がする。
健太はスーっと行きを吸って
「最後は笑って!だぞ!」とつかさに言った。
ぐしゃぐしゃの顔のだったが、2人は満面の笑みで手を振った。

健太はバスに揺られながら、つかさに元気になってもらいたいと励ましているうちに、自分もつかさから元気をもらっていたことに気づいた。
健太は小さな声でミサンガを見つめながら「ありがとう」と何度もつぶやいた。
6
112048 ほりきよ 末娘と野獣 末娘が庭のバラに水やりをしていると、娘の父親である商人がやってきました。
「ベル、毎日バラを世話しているね。本当にお前は心優しくて、父さんの自慢の娘だ。」
その様子を2人の姉は窓から見ていました。
「見て、いつもベルばかりかわいがられているわ。そうだわ、ベルが大切にしているあのバラを切ってしまいましょうよ。」
ある日、ベルがいつものように水やりをしに庭へ出ると、バラがちぎられ、無惨な姿になっていました。
そこへ2人の姉がやってきました。
「まあ、ベル。そのバラどうしたの?かわいそうに。きっと森の動物の仕業ね。」
「そうよ、ベル。森の動物のいたずらだわ。大切にしていたのに残念ね。」
 落ち込むベルの姿を見て、姉たちは密かに笑い合ったのでした。
 大切にしていたバラがちぎられ落ち込んでいる末娘の姿を見た商人は、心を痛めていました。
 数日後、町に注文の品を届けにいった帰り道に、森の中でそれはそれはすばらしいバラが咲いているお城を見つけます。
「そうだ、このすばらしいバラをベルが見たら、少しは元気になるかもしれないぞ。一輪だけ貰っていこう。」
 商人はそう言って城の庭に忍び込み、一輪の赤いバラをつもうとしました。
 「だれだ、私の城で何をしている。」
突然、背後から怒鳴り声がしました。
商人が振り向くと、そこには恐ろしい姿をした野獣が立っていました。
「勝手に私の城に忍び込んでただで済むと思うな。こいつを牢屋に閉じ込めておけ!」
 ベルの父が野獣の城に閉じ込められたという噂は町中に広まり、3人の娘のもとにも知らせが届いたのでした。
 「お姉様大変よ、お父様が野獣に捕らえられてしまったんですって。助けに行かないと!」
 「ベル、助けるですって?どうやって助けるというの?相手はあの恐ろしい野獣よ。」
 「そうよそうよ。口答えしただけで牢屋に閉じ込めたり、鞭で打ったりするって聞いたわ。私たちが行ってもどうにもならないわよ。」
 「でも...」
 「そんなに言うならベル、あなたが1人で行ってきてちょうだい。」
 こうしてベルは1人父親を助けるために城へと向かったのでした。
 「どうやって入ったら良いのかしら。」
 固く閉ざされた門の前でベルは途方に暮れていました。もうすぐ日も暮れてしまいます。すると「ギィイ」と不気味な音をたてながら、門が少し開きました。人が一人通れるくらいの隙間から中をのぞくと、そこには誰かいるようでした。
 「あの...」
 「何のようですかな。」
 しわがれた冷たい声が返ってきました。
 「私...ここの主とお話がしたいのですが...」
 「主人は誰ともお会いになりません。」
 「お願いします!父がここにいるはずなのです!どうしても会えないというなら、私が父の身代わりになりますから父を解放するように、あなたの主に伝えていただけませんか。」
 「...少々お待ちください。」
 しばらくたった後、再び「ギィイ」という音とともに門が半分ほど開き、中から背の低い、しわくちゃの老人が出てきました。
 「主人はあなたの提案を受け入れると仰っています。今日はもう日が暮れてしまいますので、父上は明日の朝に城から出ていただきます。」
 こうして、父親の身代わりとして城にやって来たベルは、城から逃げないことを条件に、城の中では自由に暮らしていました。
 毎日城にやって来る小鳥やリス、鹿たちに話しかけたり、大好きなバラの世話もできて、平穏な日々が過ぎていましたが、野獣に会うことはまだ一度もありませんでした。
 「みんなに恐れられているようだけれど、いったい野獣ってどんな人なんでしょう…。」
 ある日、野獣が狩りへと出かけている間、ベルが一人で庭に出ていると、城の横の森の中に何かが光っているのを見つけました。
 「野獣が帰って来たのかしら。どんな人なのか見てみたいわ。」
 そう思ったベルは、門番が居眠りしているのを見つけると、こっそりと門の外に出て、森の中に入ってしまいました。
 「光っていたのはこの辺りだったかしら…。」
 ベルが光の方へ歩いていると、突然一匹のオオカミが鋭い牙を剥いて襲って来ました。
 「きゃあ!」
 オオカミが目前まで迫り、食べられる!と思った瞬間、目の前を何か大きなものが横切り、オオカミをなぎ倒しました。
 恐る恐る目を開けると、なんと野獣が立っていました。
 噂に聞いていたとおり、恐ろしい顔をして、鋭い牙と爪をもち、たっぷりの毛で覆われていました。しかし、上等な服を纏い立派な剣を腰にぶら下げていました。
 「あ、ありがとうございます。」
 ためらいがちにベルはお礼を言いますが、野獣は何も言わずさっと身を翻し、城へと戻ってしまいます。
 それから数日間、城の外へ勝手に出た罰を受けるのではないかと不安に思っていましたが、何か言われる事も無く、いつものように穏やかな毎日へと戻っていきました。
 ただ、なぜかバラの世話をしている時や、動物と触れ合っているときに、野獣をよく見かけるようになりました。
 そして、その野獣の姿をいつのまにか目で追ってしまっている自分に戸惑いを感じているのでした。
 そしてもう一つベルには気になることがありました。
 「お父様はどうしているのかしら。結局私がこのお城に来たときも会えなかったもの。一目でも会えたらどんなに良いでしょう。お城から出ることを許してもらえるかしら...。私をオオカミから助けてくれたんですもの、もしかしたら...ドンッ!」
 「きゃあ!」
 「...大丈夫か。」
 野獣の腕がぶつかった反動で倒れそうになったベルの体を支えていました。
 「え、ええ。すみません。前を見ていませんでしたわ。」
 「いや、私も考え事をしていて、よく見ていなかったようだ。」
 「助けていただいてありがとうございます。...あの、もう大丈夫ですから、腕を...。」
 「...ああ。」
 「あの!一つお願いがあるのですが、その、父に会いに行かせてはもらえないでしょうか。もうずいぶんと会っていませんし、元気な姿を見ておきたいのです。」
 「...どうしてもというのなら。ただし、大事な条件がある。必ず、2日後の午前0時までにこの城に戻ってくることだ。」
 「はい、必ず戻ってきます。」
 翌朝、ベルは町へ戻り、真っ先に家へと向かいました。
 「ただいま!」
 家の奥から2人の姉が慌てて出てきました。2人とも信じられないという顔をしています。
 「お姉様!お元気そうでよかった!お父様は?」
 「お父様は今大事な品物を隣町まで届けに行っているから、後3日は帰ってこないわよ。」
 「それよりベル、あなたどうして帰って来られたの?お父様に代わって野獣に捕らえられたのではないの?」
 「お父様が心配で少しの間だけ帰らせてもらったの。」
 「まさか!あの野獣が許したというの?」
 「ええ、でも必ず明日の午前0時までにお城に戻るように野獣に言われているの。」
 「信じられないわ!牢屋に閉じ込められているんじゃなかったの?」
 「そんなひどい扱いは全く受けていないわ。お城から出なければいつも自由だもの。それに、すごくきれいなバラ園もあるわ。野獣だって、確かに少し傲慢なところはあるのかもしれないけれど、町のみんなが言うような、非道な人ではないと思うわ。私をオオカミから救ってくれたり、なによりこうして家に帰ることを許してくれたんですもの。」
 姉達は呆気にとられました。てっきりベルはお城でひどい扱いを受けていると思っていたのです。
 その夜、ベルの部屋の明かりが消えているのを確かめた後、姉達はなにやら話し始めました。
 「ベルの言っていたことは本当かしら?」
 「信じられないけど、本当みたいね。あの子が着ていたドレスを見た?私たちには買えないような、すごく上等なものだったわ。それに、今日帰ってきた時も、とても立派な馬車に乗っていたって、町中の噂になっていたわ。」
 「まあ、本当?てっきりお城で粗末な生活をしていると思っていたのに。私たちより良い生活をおくっていたのね。」
 「そうよ。いつもいつもベルばかり得をしているわ。またお城に戻って贅沢な暮らしをするんだわ。」
 「そういえば、どうして明日の午前0時までにお城に戻らなければならないのかしら?」
 「知らないわ。たしか野獣にその時間までに帰ってくるように言われているって言っていたわね。だったら...その時間までに帰らなかったら野獣はきっと怒り狂うわね。」
 「きっとそうだわ。帰れなくなってしまえばいいのよ。」
 次の日の午後、ベルが荷造りをしていると、居間から姉達が自分を呼ぶ声が聞こえてきました。
 「お姉様、どうしたの?」
 ベルが居間に入ると、そこにはテーブルの上にごちそうが並んでいました。
 「ベルがお城に戻ってしまうから、私たちあなたの好きな料理をたくさん用意したのよ。出発まであと少し時間はあるでしょう?」
 「お姉様達、本当にありがとう!」
 「私たちあなたに喜んでもらおうと思ったの。さあ、早速食べましょう。」
 3人はそれぞれの席について、食べ始めました。
 「まあ、どれも美味しいわ!」
 ベルは父に会えなかったのは残念だったけれど、姉達からこんなに優しくしてもらって、自分は幸せ者だと思っていました。
 「あ、そうそう。今日は特別にワインを用意したのよ。」
 「今朝わざわざ町まで買いに行ったのよ。」
 ベルはお酒があまり好きではありませんでしたが、せっかく姉が買いに行ってくれたものなので、少しだけ貰おうと決めました。
 「じゃあ、少しだけいただくわ。」
 「はい、あなたの分よ。それじゃあ、ベルの幸せを祈って乾杯!」
 「乾杯!」
 ワインの良い香りが口の中に広がりました。
 「お姉様、美味しいわ。ありがとう。...あれ、なにかしらこの苦み...へん、ね...バタンッ!」
 「どうやら眠り薬が効いたみたいね。このまま寝かせておいてあげましょう。」
 姉達が何か言っているのを感じながらベルは暗闇におちていきました。
 「はっ...あれっ、私どうして眠っていたのかしら。...たいへん!もう外は真っ暗だわ!約束の時間に間に合わない!」
 家の外へ飛び出したベルは、急いでお城へと向かいました。
 「はあはあ、お城へは着いたけれど、今は何時なのかしら...。とにかく、野獣を探さなくては。...どこにいるのかしら。」
 「うぅ...。」
 「今の声は...あっ、あそこにいるのは野獣だわ!」
 そこには、うずくまり苦しげに呻いている野獣の姿がありました。
 「まあ、たいへん!」
 「うっ、ベルなの、か...私はもう...死んで...しまう、だろう...。死ぬ前に、ひと、つ言っておきたい。私はお前を...好きになって、しまった。...愛している...。ドサッ」
 「お願い!死なないで!...私もあなたのことが好き、愛しています!だから死なないで!」
 しかし、野獣は倒れたまま動きません。
 「まさか、本当に...そんなっ!」
 その時です、野獣がかすかに身じろぎしました。
 「うぅ...ベ、ル?」
 「まあ!生きているのね?良かった、ああ...本当に良かったわ!」
 「どうやら、間に合ったようだな。」
 野獣はこうなったいきさつを説明し始めました。
 5年前、野獣は今の醜い姿などではなく、容姿も整った若い城主として、なに不自由なく暮らしていました。しかし、幼くして両親を亡くし、使用人に囲まれて生活していたため、気に入らないことがあると、たびたび癇癪を起こしていました。その傲慢な性格が災いして、魔女によって醜い野獣の姿に変えられてしまったのだと話しました。
 「そして、5年後の同じ日の午前0時までに、私が誰かを愛し、愛されなければこの呪いは解けないと言われたのだ。誰かを愛することはないと思っていたが、偶然お前が来て、私は恋に落ちてしまった。だが、お前が私のことを愛してくれることはないだろうと思い、せめて私の気持ちを伝えてから死のうと思った。」
 「そうだったの。間に合ってよかったわ。でも、どうして野獣の姿のままなのかしら。」
 「きっと、私の命をつなぐほどには間に合ったが、姿を戻すまでには間に合わなかったのだろう。お前が私を見つけてくれた時には、私はもう死にかけていたのだよ。すまない、こんな醜い姿のままで。」
 「私はあなたが生きていてくれただけで、十分だわ。それに私が恋をしたあなたは最初から野獣の姿だったもの。」
 こうして、野獣の姿はもとには戻りませんでしたが、2人はこれから幸せに暮らしました。
7
112050 プリモーレ サッカー少年  「もう三年も経つんだな。」
 練習で汚れたユニフォームのしわを伸ばしながら米田雄介が言った。
 「何が?」
 と返す。今日は冬の間に体力を落とさないための基礎練が中心だった。もう夜の9時を過ぎている。
 「和樹と初めて会ってから、な。確か中2の時だろう?オレがT中に転入して、最初のマラソンでオレはお前に勝った。」
 「そういえばそうだったなぁ。」
 と、オレは昔のことを思い出す。

T中学では10月から3月までの半年間、第三月曜日にマラソンが行われる。その週の学年毎の優勝者には賞状が贈られる。体育大学出身の校長が赴任してきてからの伝統らしい。生徒の体力が落ちてきていることを嘆いたその校長は、職員会議でその主張を押し通し、周りの大人たちが呆然としている間にマラソンを開いてしまったのだそうだ。今ではその校長はいないし、当時を知る先生も他校に転勤してしまったので確認する術はないが、かつては二週に一度行われ、さらに教職員全員参加が原則で、反対意見も多かったらしい。今は係でない教職員は暖かい職員室でコーヒーを飲んでいてもいい(熱血な先生は参加している)ため反対意見もなく、児童だけが黙々と体力づくりに励んで(?)いる。
オレ・堀井和樹(かずき)はT中学の2年生。サッカー部に所属し、走るのは得意な方。マラソンの学年順位も常にトップクラス。ここ数ヶ月は一位を守り続け、クラスメートだけでなく先生からも一目置かれていた。勉強の苦手なオレも走りなら誰にも負けない。友達から認められるのは嬉しかったし、女子からかっこいいと言われるのもまんざらじゃなかった。
ところが12月第三月曜日。その日表彰台に上がったのはオレじゃなかった。上がったのは隣のクラスに先週転入してきた米田雄介。
 オレは米田のことが気になり始めた。大好きな理科の時間も米田のことが気になってそれどころではなかった。実験中にぼんやりしていて班の山田に心配されてしまう始末。担任の桜先生はオレが負けて落ち込んでいると思ったのだろう。「今回は調子が悪かっただけよ。次はきっと勝てるわ。」と励ましてくれた。だが、オレが気にしていたのは勝負の勝ち負けではなかった。
米田が転入してきたときクラスの女子が騒いでいたのを思い出す。米田は男のオレから見ても整った顔立ちをしていた。けどクラスも違うし特に気に留めていなかった。変わった時期の転校生だなと感じただけだ。女子が騒ぐのだってきっと最初のうちだけ、そう思い、オレはすぐに米田の存在を忘れてしまった。
その矢先の出来事だった。米田は何かスポーツをしているのだろうか、オレに勝つなんて長くなんらかのスポーツを続けているはずだ。マラソンは足の強さだけでなく精神力も必要だ。何者なんだろうと興味がわいた。隣のクラスの友達に米田のことを聞いてみたかったが「負けて悔しかったのか」とからかわれるのが目に見えていたのでやめた。考えたってわかるわけもないのに米田のことを考えてしまう。もやもやとした気分で一日を終える。
サッカーのコーチに「勝ち負けを気にする奴は弱い。なぜ負けたのか考える奴が強い。」と言われていたので勝敗は気にしていないつもりだったが、負けは負けだ。マラソンがある朝はいつも「今日もがんばってね」と送り出してくれる母の顔を思い出すと帰る足取りも重くなった。まっすぐ家に帰らず近所をぶらぶらした。家に着く頃にはすっかり暗くなってしまった。
 「どこ行ってたの。心配したのよ。」
「まぁ無事に帰ってきたんだ。まずご飯を食べなさい。」
両親に言われ、心配をかけて悪かったなぁと思うと同時に、マラソンのことを尋ねられずほっとした。
 晩御飯を終え部屋でだらだらしていると、2歳年上の兄・俊樹(としき)が学校から帰ってきた。俊樹はU高校1年生。T中学の卒業生で、オレの所属するサッカー部のOBでもある。今は高校の部活でサッカーを続けている、オレの憧れの存在だ。何でも自分一人でやってしまう。小さい頃から周りの大人によく兄とオレは比べられた。「お兄ちゃんは真面目で落ち着いているのに、お前はやんちゃで、目を離すと何をしでかすかわからない。」と先生にも言われる。兄は今日もサッカーの練習が遅くまであったのだろう、時計はもうすぐ10時を指そうとしていた。

「どうした、何かあったのか。」
帰ってきて一時間くらい経った頃、突然兄がドアを叩いた。兄は毎日の練習で疲れているはず
なのにオレのことを気にかけてくれている。オレが小さい頃からそうだ。いつでも優しかった。
今日も両親からオレが少し元気がないようだと聞き様子を見に来てくれたようだ。オレは今日のマラソンのことを話すことにした。話し終えるとしばらく考えた後、兄は
 「よし。次のマラソンに向けて特訓しよう。」と言った。
 次の日から毎朝、走る練習をした。長距離を走るときにはフォームが大切だ、腕はあまり振り過ぎないこと、という兄のアドバイスを思い出しながら走る。残念ながら兄は高校のサッカー部の朝練のために早く家を出るので、時間がなく一緒に走ることはできない。しかし毎晩のストレッチに付き合ってくれた。兄が高校にいってから通学時間がずれ、同じ家に生活しながらなかなか兄と話をする機会がなくなっていたから、単純に嬉しさもあった。
次のマラソンは年が明けてからになる。冬休みの間も練習は毎日続けた。年末年始は高校の部活も休みに入ったので兄も一緒に走ってくれた。初詣の人混みの中、いつものコースを外れ少し遠くの山まで走った。山の上から兄と眺める初日は忘れられない。
 明日は新年初のマラソンだ。天気予報では明日は風もなくいい天気になるらしい。マラソン日和だ。「明日は米田を気にせず自分のペースで走ろう」と心の中でつぶやく。これは兄に指摘されたことだった。他人と走っているとついつい追いつこうとペースを乱してしまう。そこを注意されたのだ。確かに米田に抜かれたとき、離されまいと焦ってしまったために体力の消耗が早かった。だから今回はしっかり自分のリズムに乗ろうと思った。大丈夫。たいした距離じゃない。かなりスピードも上がったし、負けはしないだろう。それどころか新しい記録を出せるんじゃないかとわくわくしていた。興奮のあまり布団の中で目が冴えてしまいちゃんと眠れなかったことだけが少し心配なくらいだ。
 次の日、オレは確かに表彰台に上がった。しかし賞状はもらえなかった。なんと米田とオレは同時に、同タイムでゴールしたのだ。賞状は一枚しか用意されていなかった。今回はおあずけだそうだ。記録は13秒も伸びた。T中過去最高記録らしい。記録はどっちのものになるんだろう、などと考えていると米田に話しかけられた。
 「タイム、…記録はどっちのものになるんだ…?」
 もしかしたら仲良くなれるかもしれない、と思った。

      *****

 「そんなこともあったな。」
 懐かしい、と雄介がつぶやく。
確か、あの直後に雄介もサッカー部に入ってきた。なんでも、T中に転校してくる前の中学でもサッカーをしていたらしい。いつだったか、「転校を機にサッカーはやめて、親の言うとおりに勉強に専念するつもりだった」と雄介にカミングアウトされたときは驚いた。転校してきてからしばらくは美術部の見学とかしていたそうだ(今思うと、ちょっと笑える)。オレのプレーを見て、やっぱりサッカーを続けたいと親に懇願したらしい(これも驚いた)。必死な雄介の姿に心打たれた親は勉強もちゃんとするという条件で認めてくれた。雄介は一ヶ月近くのブランクがあったにも関わらず、すぐにレギュラー争いに加わってきた。マラソンの事件でもわかるように、雄介はものすごく持久力がある。その能力は試合の中でも発揮されている。だがそれ以上に目立つのは足の速さだ。オレだって速さには自信があるのだが雄介には敵わない。雄介はそのスピードと巧みなドリブルで何人も抜いていく。*1オフ・ザ・ボールの動きも巧く、パスをこぼしたことがない。一緒にサッカーをする仲間ではあり同時にライバルでもある。
 それから一年後には無事二人揃ってサッカーの名門U高校に入学、サッカー部に入った。U高はプロサッカー選手も多く輩出している。当然練習はかなりきついが確実に実力が上がっていくことが実感できた。毎日、朝は始業前に一時間、放課後は夜の9時まで練習。朝練は強制参加ではなかったが参加が基本だった。練習内容は、毎日6キロを走り、その後ストレッチをし、腹筋・背筋運動などの筋トレをする。ボールに触れるのはそれらが全部終わってからの最後の一時間だけだ。日によってはボールに触らせてもらえないこともある。練習に耐えられないから、勉強が遅れるから、と新入部員の多くは何かしらの理由をつけて辞めていく。それでも部員の数が一定数保たれるのは、それだけこの高校がサッカーで有名だからだ。入学してから半年、つまり10月になってから残っていた同級生は9人。他の部活からしたらこれでも多いのかもしれないが、最初は43人いたんだ。わずか21パーセント。そうやってこの高校の強さは保たれているんだ、と思う。
 3年生が10月に引退し(残念ながら全国大会2戦目で負けてしまった)、新体制に入った。雄介もオレもレギュラー入りを果たした。正直、2年生の数が多いのでレギュラーになれると思っていなかったから嬉しかった半面、やりにくさも感じた。オレ達が入った分スタメン落ちした先輩方は、「気にすることはない」「実力がすべてなんだ」「油断してると引き摺り下ろすぞ」と言ってくださって安心した。他の一年生レギュラーは大城に柳瀬。
新体制は、2年生が14人、一年生9人にマネージャーの女の子が二人。レギュラーは浜口(FW/2年生)、福(FW/2年生)、早乙女(MF/2年生)、梶原(MF/2年生)、米田(MF/1年生)、堀井(MF/1年生)、塚本(DF/2年生)、久保(DF/2年生)、大城(DF/1年生)、柳瀬(DF/1年生)、鈴木(GK/2年生)。二軍はは野々村(MF/2年生)、鳥飼(GK/2年生)、奈良(MF/2年生)、杉本(FW/2年生)、日下(DF/2年生)、篠原(DF/2年生)、向山(DF/ 2年生)、林(FW/1年生)、西村(FW/1年生)上野(FW1年生)、片山(GK/1年生)、小原(DF/1年生)となっている。ポジションは4−4−2システスムを使っている。チームの連携パスのうまさを活かすためだ。                                                          
 大城も柳瀬もディフェンダーだ。大城はマークした相手には粘り強くどこまでもついていく。ボール裁きはオレらの中で一番上手い。あまりにボールを自由自在に操るので、ボールを足にくっつけているんじゃないかと本気で思うことさえあるほどだ。試合中ともなるとその真価が発揮される。一度ボールをとってしまえば大城の天下みたいなものだ。また、背が高く存在感が強いからか、後ろにに大城がいるだけで安心感を感じられた。
柳瀬は逆に身長は高くなく、どちらかというと小柄な体格をしている。けど、柳瀬はどんなボールにも飛び込んでいく勇気と、どんなに速いボールにも反応できる瞬発力を持っている。全身でボールを奪いに行くぞ、という熱意に溢れている。これは試合中になるとチーム全員に伝わり集中力がアップする気がして不思議だ。
他の一年生含め雄介、大城、柳瀬に出会えて本当にラッキーだと思っている。みんなサッカーが好きで好きでたまらないって奴ばかりだ。小原に林、西村、上野、片山…。レギュラーを取るのはすごく苦労した。顧問の大橋先生も誰を抜擢するべきか迷ったに違いない。みんな、うまい奴ばかりだ。来年はこのメンバーがU高を引っ張っていくことになる。どんなサッカー部になるのかすごく楽しみだ。
      *****

 雄介との出会い、U高メンバーとの絆、今までのサッカー生活を振り返る。そしてこれからのことを考える。隣の雄介も黙り込んでしまった。今日、キャプテンから聞かされたことを思い返しているんだろう。

       *****

 基礎練をしていると一年生全員がサッカー部キャプテン・鈴木先輩から集合がかかった。鈴木先輩はキーパーをしている。柳瀬とは違い、がっしりとしていて、最初に話しかけられたときは柔道部の勧誘かと思った。しかしかなりの頭脳派で、チームのメンバー一人ひとりをよく分析し的確な指示を与えてくれる。そこらへんのアマチュアコーチよりもよほど指導が巧いと顧問に言わせるほどだ。試合でも熱くなりすぎず冷静な判断力でメンバーを引っ張っている。キーパーとしての腕も確かで、部員全員からの信頼も厚かった。

 「失礼します。」
 声をそろえて部室に入る。
 「来たか。練習中に悪かったな。」
 キャプテンからの呼び出しなんて、滅多にない。前に集合したのは確か入部したての頃のことだ。それも、部室の使い方・用具使用の際の注意点なんかの説明を受けただけ。それ以外のことでキャプテンに集められた記憶はなかった。集合の指示を出すのは大抵、副キャプテンの福先輩だ(福副キャプテンと呼ぶと怒る)。次回の練習の連絡は副キャプテンがすることになっているので当然だし、いいのだけれど、ただ…。キャプテンは冷静なのに、副キャプテンはなんていうか、すごく、熱い。フォワードとしてがんがん攻めていく姿は後ろから見ていてかっこいい。けど普段の生活でも熱いから、夏場とかは辛かった。そんなに副キャプテンが熱心に仕事をするのには訳がある。マネージャーの木下さんに褒めてもらいたいからだ。本人は自覚してないみたいだけどサッカー部員は全員知ってる。けど木下さんが好きなのは鈴木キャプテンみたいだ。どうなるのか楽しみだと梶原先輩は言うけど、…
違う違う、キャプテンに呼ばれたんだった。そういうわけで鈴木キャプテンに呼ばれることなんて初めてなので、みんななんだろうと固くなっていると、そんなに緊張すんな、と言われた。冬だというのに狭い部室の中に熱気がこもる。
「お前らも知ってるやろうが、K大学ちゅうサッカーで有名な大学があるんやけど、そっから返事が来たんや。どんな返事か、っていきなり『返事』かよって話やな。お前らにはなんのことかわからんやろが、少し前に「U高サッカーの更なる向上に向けて」一緒に練習させてくれへんかって頼んでたんや。」
 そこでキャプテンは一度言葉を切り息を吐いた。
「それに承諾してくれたんや。合同練習ちゅうわけや。オレら2年生はもちろん全員参加で。向こうに行くんは14人+顧問の大橋先生+木下マネージャー」
キャプテンは指を折りながら数えていく。
 「計16人や。けど向こうは17人までなら施設的には面倒見れるて言うてくれてはるんや。」
 キャプテンが全員の顔を見る。
 「それはつまり、一年生の中の誰かひとりが一緒に参加できるってことですか。」
 大城が尋ねる。
 「うひゃぁ、それ、やばくね?天下のK大サマかよ」
 吉田がひょうきんな声を出す。隣の林が目でたしなめる。しかし他の一年生だって口に出さないだけで、心の中は吉田と同じ状態だったはずだ。だってK大って言ったらサッカーのための大学みたいなものだ。2面の屋外フィールドと天候に左右されず使用できる屋内フィールド、プロの選手がトレーニングに使うこともあるという諸々の施設がある。海外の選手を招待しての交流なども盛んだと聞いている。K大でサッカーをすることは、オレだけでなく他のメンバーの夢でもあるんだ。U高からの入学志望者も多いが、その年にに10人は入れたら運の良い方だ。最難関私大のひとつに数えられかなりの狭き門。U高だって進学校だが、サッカーだけで入学したオレみたいな人間にはK大は夢のまた夢だ。そんなK大との練習だ、参加したくないわけがない。
 「そういうことや。」
とキャプテンが吉田を無視して大城に答える。「どうしてシカトするんすかぁ。」と吉田がつぶやく。オレは雄介の顔を見た。何を考えているのかその表情からは読み取れなかった。雄介が視線に気付きこちらを見た。慌てて目をそらす。
「オレと福が勝手に決めてもええかなと思ったんやけど、決められんかったんや。それに行けんかった奴らは納得いかんやろうしな。」
 「あたりまえっすよ。」林がオレ達一年生レギュラーを見る。
 「こいつらなんかにいつまでも負けてられない。僕を行かせてくれたら必ずここの誰よりも巧くなって帰ってきます!」
 「オレら、まだ一年だし、まだまだチャンスはある。大体、あれだけきつい練習続けといて、ここで参加せんとか、マジありえねぇ。」
上野の言葉に西村が賛同の意か、大きく頷く。
 「でも、参加できるのはこの中で一人だけ。」
全員が米田をみた。
 「そうや、残念ながらな。全員行かせてやりたいのはやまやまやねんけどな。来年もこんな機会があるかはわからへん…。」
 そこでキャプテンは言葉を切った。全員の目をしっかり見つめる。
 「お前ら全員が参加したいちゅのはようわかった。けど、すまんがひとりや。来週の火曜日に向こうの人と会うことになっとる。月曜日までに誰が参加するか決めといてくれ。」
 そう言うとキャプテンは立ち上がり部室のドアのほうへ足を向けた。ドアノブに手をかけたところで振り返り、喧嘩はすんなよ、それと最後の奴は部室の鍵忘れるなよと言い、出て行った。

 しばらく沈黙が続いた。みんな誰かが話し出すのを待っていた。静寂を破ったのは雄介だ。
 「今日のところは練習さっさと終わらせて帰ろう。みんなそれぞれ『どうしたいのか』、『どうすればいいと思うのか』を考えてこよう。明後日の水曜日は練習が17時に終わるから、その後に話せばいい。」

       *****

 そして今オレは家に帰る電車の中だ。この時間のこの路線はいつも客が少ない。オレ達のいる車両にはオレ達以外に紺色のジャケットを着た初老の男性とスーツ姿の若い女の人だけだ。普段なら練習で疲れ眠ってしまうのだが、今日は眠れそうにない。それは雄介も同じようで安心した。結局そのまま言葉を交わすことなくオレ達は別れた。

 家に帰ってからも悶々と過ごした。晩御飯と風呂は早々に済ませて部屋に戻る。その間も常に頭の中は合同練習のことでいっぱいだった。
ベッドのふちに腰掛けて目を瞑る。K大との合同練習、参加したい。きっとたくさんのことが学べるはずだ。もしオレが行けることになったら、選手のトレーニングを見てみたい。一人ひとりに合わせた食事などもあるのだろうか。カロリー計算とかもきちんとされているのだろうか。食べるのが好きな西村とかは辛いかもな。普段の体力づくりがどんな感じなのかも興味がある。全体でまとまって練習するのではなく、一人ひとりそれぞれのメニューが作られているのかな。やっぱり日によっても各々体調が違うわけだし。うち(サッカー部)のマネージャーの木下先輩と秋月さんも、個人に合わせたメニューが必要よね!とか言いながら一人ひとりに体調を聞いてまわっていた時期もあったが、テスト期間や文化祭、体育祭で忙殺されうやむやになってしまったようだ。福先輩と木下先輩はどうなってるんだろう。木下先輩美人だし、もてるんだろうなぁ。マネージャーといえばK大にも女子マネージャーはいるのかな、いるよなきっと。そういえばオレって小さいときからサッカー一色で、レンアイとかってしたことないなぁ。幼稚園のときにチヒロ先生に結婚を申し込んだことがあるくらいだ(オレが小学4年のときにチヒロ先生から結婚したという便りが来た)。結構情けないなオレ。もう16なのに。大学行く前に一人くらい彼女できるかな。彼女にするなら、一緒にいて楽しい子がいいな。会話が尽きなくていつも笑ってて。で、試合の日とかに弁当とか作ってもらいたい、すげぇ力出るなきっと。弁当の中身は卵焼きは鉄板だな、あとは豆腐ハンバーグとか体調も気にしてくれてる感じで好感持てるし、ってオレ、何考えてるんだ?ハンバーグはどうでもいいっつの。何だっけ、そうそうK大との合同練習。もう一度考えよう。参加したい。けど本当にオレなんかが参加するべきなんだろうか。サッカーが一番巧い奴が参加するべきなんじゃないのか。そうだとすれば間違いなく…、
突然携帯が鳴った。液晶には米田雄介の文字。慌てて通話ボタンを押す。
「カズか、オレだけど。」
「なんだよ…今何時かわかってんの…」
「お前参加しろ。」雄介にさえぎられる。
「はぁ?それはこっちの…」
「お前しかいない。お前は才能がある。プロになれるのはほんの一握りの人間だけだ。オレはカズならほんの一握りの人間になれると思っている。DFのオレはずっと後ろから見てた、敵に向かっていくカズを。カズのプレーは技術じゃない。もちろん巧いけどな。なんていうか、惹きつけられるような、そんなプレーだ。オレ、小さいときに父さんに連れられてワールドカップの試合を見に行ったことがあるんだ。*2ラウルっていうスペインの選手知ってる?そのときに見た試合に出てたんだけど。あの選手を見たときと同じだ。見てる方をぞくぞくさせる、魅力っていうのかな。チームがピンチになったときにも絶対諦めない。オレはいつも勇気づけられた。天性だぜ、きっと。お前ならなれ…」
「ひとりで何べらべら喋ってんだよ!オレは雄介に行って欲しい。オレなんかより雄介の方がよっぽどうまいよ。」
「オレだって行きたい。けど、だめなんだ。オレ、多分足を痛めてる。」
「えっ、」
「だから、お前が行け。オレが参加できない分、カズに行って欲しいんだ。さっき言ったようにカズには魅力があると思う。はっとするようなプレーを見せてくれる。それに努力している姿も知ってる。毎日朝練の30分前に来て基礎練してるよな。」
「…ばれてたのかよ、かっこわりい。」
「かっこいいと思うぜ。」
そんなことさらっと言えるところがすごい。雄介には敵わない。
「雄介、ほんとに参加できないのか。K大だけじゃない、これからどうするんだよ。足痛めたっていつからだ。今日の練習はどうやってたんだ。」
「今日の練習は走って腹筋をしただけだからな。楽勝。もうとにかくオレが自信を持って推薦できるのはカズだけだ。お前が行け」
そう言うと雄介は電話を切った。最後はまくし立てるような口調だった。あいさつも「夜中にすまん」の一言もなかったことに気付く。

 そして約束の水曜日。一年生の全員がグラウンドの片隅に集まった。雄介が話し出す。
 「みんな考えはまとまったか。」
 何人かが雄介の言葉にうなずいた。
 一人ずつが自分の想いを話した。オレ達は結論を出した。

 「本当にそれでいいのか。」
 部室にキャプテンの声が響く。
「はい。自分たちで決めたことです。」
オレは窓の外を見る。グラウンドは一面の銀色。サッカーはシーズンオフだ。K大では選手たちが春からの試合に備えているのだろう。
 


*1パス・ザ・ボール:ボールを持っていない選手の状態。ボールを受けるための準備をしておくこと。

*2ラウル・ゴンザレス:スペイン・マドリード出身のサッカー選手。FW。派手ではないが確実なプレーでチームを勝利に導く。最優秀スペイン人選手に選ばれている。
5
112051 オリオン ヒトと馬の絆 ある嵐のあとの日のことでした。ある中年Aさんがいつものように山へ食料を採りに出かけたときのことでした。激しい嵐の影響で木が倒され、実は飛び散り、自然が崩壊してました。そんな中、Aさんは、嵐の無残さを身に感じながらも、森の中を歩いていました。もともと、この森は自然あふれる場所で、さまざまな動物たちが生息していました。とてもにぎやかで、生き生きとしていました。しかし嵐が過ぎると森の様子が一変し、重い空気が一面とただよい、寂しい森へと変わりました。Aさんは一歩一歩とそんな森の中を歩いていきました。森に入ってしばらくすると、森の奥のほうから何かが聞こえてきます。
「ヒーン。」
と、どうやら動物の鳴き声のようです。ただ。ふつうの鳴き声ではなく、少し何か苦しんでいるような声で鳴いています。Aさんは、その鳴き声を聞いて、あわててその鳴くほうへと向かいました。するとなんとひどいことでしょう。一頭の馬が横腹から血を流して倒れていたのです。どうやら、嵐の真っ最中に飛んできた木片に刺さってしまったようです。その馬は、とても苦しい様子で、体からは多量の汗を流しており、目からは涙が流れていました。Aさんは、パニック状態におちいり、すぐに馬のキズの手当てをしてあげました。その後、馬は順調に回復し、Aさんは、しばらく馬の面倒を見てあげることにしました。そして、Aさんはその馬をオリオンスターズ(愛称オリオン)と名づけました。昔Aさんが競馬にはまっていた頃のお気に入りの競走馬の名前のようです。オリオンは元気になると、Aさんにとてもなついて、Aさんのまわりを離れようとしません。Aさんが移動するときはずっと一緒です。オリオンがいると、力作業するときや、移動するときはオリオンに乗るのでとても楽です。ただ、オリオンはよく食べるので、食料を確保するのがとても大変です。しかし、Aさんはオリオンをまるで自分の息子のようであるかのようにかわいがってあげました。Aさんは、独り身なので、一人で暮らしていて、寂しい毎日を送っていたのに、突然家族ができたように楽しい暮らしになっていました。Aさんはとても幸せでした。オリオンもAさんのような優しい人に出会えてしあわせそうです。Aさんは、この幸せな日々がいつまでも続いたらいいのになと願っていました。
 Aさんがオリオンの世話を始めて数年のときが流れたときのことです。Aさんは、いつものようにオリオンと一緒に森へ出かけました。しかし、その日の天気は悪く、雨は降ってはいないものの、真っ黒な雲が空を覆っていました。カラスがカァーカァーと空を飛びまわり、吹き付ける風はとても冷たく、あたり一面がざわついてて、落ち着きがない様子のようです。天気が悪いのは、よくあることなのですが、今日はいつもと何かが違うのです。それを敏感に感じたAさんは
「何か不吉な予感がする。…」
と言いつつも、おそるおそる森の中へと入っていきました。森の中を歩いていると、突然奥のほうからガサガサと足音が聞こえてきました。オリオンもヒヒーンと高く大きな声で鳴いたりして、落ち着きがない様子です。どうやら、Aさんの感じていた不吉な予感が、悪いことに的中してしまったようです。なんと大きなクマがAさん達におそいかかってきたのです。そのクマはとても大きく、馬でさえもヒヨコのように見えてしまうぐらいの大きさです。とてもするどいツメをもっていて、獲物を狙うチーターのような目つきをして、Aさん達のほうへ、近づいていきます。Aさんは、おびえるにおびえ、すぐにオリオンに乗って逃げようとしました。しかし。Aさんは、運動神経がそれほど良くなく、オリオンの走るスピードに体がついていけずに、すぐに振り落とされてしまいます。結局、Aさんは、逃げることをあきらめ、大切なオリオンだけを逃がせようと考えました。Aさんは、逃げる足を止めて、立ち止まった状態でオリオンに逃げろと指で合図を送りました。しかし、オリオンは立ち止まって逃げようとしません。Aさんは、涙を流しながら、
「いいんだよ…。お前だけ助かってくれれば…。」
とやさしくオリオンに話しかけました。しかし、それでもオリオンは少しも動こうとはしません。そうこうしていると大きなクマが、一歩一歩とAさんたちのほうへ近づいてきます。するとオリオンは突然動き出し、Aさんとクマの間に立ちはだかりました。Aさんは、
「なぜだ…。なぜ逃げないんだ…。」
とオリオンに話しかけると、オリオンはまるで人間の言葉が理解できているかのように、Aさんの言葉を聞いて、Aさんのほうへふり返り、自分がAさんを守るからと言いたそうな視線で、Aさんをじっと強く見つめました。Aさんは
「こいつ…俺をかばおうとしてくれているのか…。」
とつぶやきながらも、なかなかその足を動かすことができません。そして、ついに大きなクマがAさんたちの前までやってきました。このままだとどちらともおそわれてしまうと、Aさんは悩んだあげく、自分だけでも逃げることを決意したのです。Aさんはオリオンをおいて、全力を振り絞って走り出しました。なにがあっても決して後ろはふり返らず、ただひたすらと、前へ前へと走りました。ザッザッザッ…。気がつけば、その足音は自分の足音だけで、オリオンとクマの足音は聞こえません。しかし、Aさんはその逃げる足を止めることはしませんでした。Aさんは
「せっかくオリオンが自分を助けてくれたんだ…。オリオンの気持ちは無駄にしてはいけないんだ!」
と、自分に言い聞かせ、ただひたすらと走りました。そして、しばらくすると、あたりが落ち着き、息をはげしくきらして、その場に倒れこみました。そして、そのまま動けない状態でうずくまっていました。しばらくたっても、後ろからオリオンも大きなクマもやってきません。どうやらAさんは無事にクマをふりっきたようです。しかし、自分にとってかけがえのない存在である相棒のオリオンを失いました。Aさんは、逃げ切ることができたのに複雑な気持ちです。安心したのと同時に涙がこぼれて止まりませんでした。と、その時、ポツポツと雨が降り出してきました。降り出した雨と自分の流した涙が混じってどんどんとAさんの口の中に入っていきます。Aさんは、そのとても苦くしょっぱい味すら全く感じないくらいにショックのようです。Aさんは、それからその場から動くことができずに、ただただずぶ濡れになりながら、その場にうずくまっていました。そして、気がつくと深い眠りに入っていました。その夢は、Aさんとオリオンが幸せに暮らしていた日々の再現でした。その中のAさんは満面の笑みをうかべ、とても幸せそうにしています。オリオンも高々とうれしそうな声で鳴き、Aさんを背に乗せて歩いています。そして、いつものように食料を採りに森の中を歩いています。途中、川で水をおいしそうに飲むオリオンの表情、草の中で気持ちよさそうに寝転がるオリオンの表情、Aさんにほほを近づけ、うれしそうにこすりつける表情など、オリオンと楽しく過ごした日々が、次々と夢の中で再現されていきます。しかし、そんな幸せな日々ももう来ないのです。オリオンはもういないのですから…。
 そして、しばらくの時がたち、Aさんはようやくその幸せな夢から目を覚まし、改めて過酷な現実を目の当たりにし、オリオンのことを考えるたびに涙がこぼれてしまいます。気がつけば、真っ黒な雲が空から消え、青い空と強い日差しが注ぎ込まれています。いつものようににぎやかな森へと戻り、さまざまな動物たちが生き生きと活動しだしました。Aさんはそのずぶ濡れの体をようやく動かし、重い足取りで自宅のほうへと向かっていきました。どうしてこんな目に…と、思いながらゆっくりと歩いていきます。そして、自宅について、まず目に付いたものはオリオンのエサを入れる飼い桶です。
「そうだ…飼い桶を洗ってあげないと…。」
黙々と飼い桶を洗い始めるAさん。そして、自分の愛馬オリオンの好物だった角砂糖をたっぷりと加え、エサを作り出します…。そして、元にあった位置に飼い桶をつるし、つぶやきます。
「オリオン、エサの時間だよ。今日はお前の好物の角砂糖をたっぷりと入れてやったぞ。腹いっぱい食べるんだぞ。」
そして、自分の濡れた服を手でしぼり、干す。そう、Aさんは気がつけば自分のことよりもオリオンの世話のほうを優先していたのです。しかし、目の前にはもう自分の愛馬オリオンの姿はいません。Aさんはその事実を否定し続けることによって悲しみから逃れてきました。そうすることで元気と笑顔を少しずつ取り戻していきました。
 そして、そんな日々を送り続けてさらに数年のときがたちました。

「今日もいい天気だなー。さぁそろそろ食料を採りにでかけるぞオリオン!」
いつものように、いるはずもないオリオンに話しかけ、出かけるAさん。
「今日は雲ひとつない快晴で、すがすがしい天気だなー。何かいいことが起きそうだな。」
いつもの休憩所でAさんは、ゆっくりとくつろいでいました。すると、森の奥からまたもやなにかの足音が聞こえてきました。今度はなにが出てくるんだ…。警戒するAさん。しかし、その足音はAさんが聞き慣れたどこかなつかしい足音でした。パッカッパッカッ…。
「まさか…。オリオンなのか…。」
と、Aさんが言った瞬間、その足取りは軽快になり、突然走って向かってきました。その姿はまぎれもなくオリオンの姿でした。
「これは夢なのか…。」
Aさんは、何度も自分の頬を指でつねり、夢ではないことを確認しました。そして、夢ではないことを確認した後、全力でオリオンのほうへ走り出しました。生きていた…オリオンが生きていた。Aさんはどっと目から涙がこぼれ、うれしさのあまり、すぐにオリオンに話しかける言葉が出てきませんでした。オリオンは、Aさんと会うとすぐに、いつものようにほほをAさんに寄せ、こすりつけました。しばらくして落ち着くと、Aさんは静かにオリオンに話しかけました。
「会いたかった…。もう何があってても俺のそばから離れたら駄目だぞ!死ぬときだって…ずっと…。」
このように、Aさんは奇跡的にオリオンとの再会を果たしました。それからAさんは、また出会ったあの頃のように愛馬オリオンとの二人での幸せな生活を送るのでした。きっとAさんが、オリオンのことを思い続け、二人の絆の強さがオリオンを生かし、再会させてくれたのでしょう。
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112063 KERO 桃太郎 昔々、あるところに、心優しいおじいさんとおばあさんが住んでいました。
 「では、おばあさん、芝刈りに行ってくるよ。」おじいさんは言いました。「気をつけて行ってきてくださいね。」と、おばあさんは優しくおじいさんを見送った後、「洗濯に行かなきゃいけないねえ。」と、一人川に洗濯に行きました。
 おばあさんが川で洗濯をしていると、川の上流から何か大きなピンク色のものが流れてきます。「なんだろう。」と思っているうちにどんどんと近づいてきています。
 「あらまあ、桃じゃないか。」とびっくりしたおばあさん、「これはおじいさんに食べさせてあげたいね。おじいさん桃、大好きだもの。」と、言って、近くまで流れてきた桃をなんとか獲ると、「どっこいしょ。」と担いで家に持って帰りました。大きな桃です。おばあさんが家へ着くころにはすっかり日が暮れて、おじいさんも芝刈りから帰ってきていました。
 「おばあさん。」おじいさんは家の前で右往左往していましたが、おばあさんの姿が見えると、ほっとした顔をしておばあさんを家に入れます。「心配していたんだよ。なかなか帰ってこないから。そんな大きな桃を背負って…。一体どうしたんだい。」おじいさんは言いました。「川で拾ったのよ。おじいさん桃好きだから拾ってきました。」おばあさんは床に大きな桃を置きました。「さっそく食べてみましょうよ。」そういうとおばあさんは包丁で桃を半分にきりました。すると、中で何かが動いています。「おやまあ!」おじいさんとおばあさんの驚きの声が響き渡ります。なんと、中に赤ちゃんがいたのです。小さい男の赤ちゃんです。あぶないところでした。
 「これはいったい…」おじいさんは目をぱちくり。おばあさんもきょとんとしています。
 赤ちゃんはおばあさんとおじいさんの顔を見てキャッキャと笑いました。なんとまあ可愛らしい笑顔でしょうか。
 「これは、神様からの授かりものかもしれないですねえ。」おばあさんは言いました。おばあさんもおじいさんも子どもは大好きでしたが、二人には子どもがいなかったのです。おじいさんとおばあさんは、男の子に「桃太郎」と名付け、大事に大事に育てました。桃太郎はたくさんの愛をそそがれすくすくと育ちました。
 桃太郎が18歳になったある日のことです。町から帰る最中、とある家の前で老夫婦が泣いていました。「一体どうしたんですか。」桃太郎は驚いて老夫婦に聞きました。老夫婦は、顔を上げて桃太郎をみると、悲しそうに首を振ると、つぶやきました。「娘が…。」どうやら、暴れん坊の鬼たちが老夫婦の一人娘をさらっていったらしいのです。老夫婦の話によると、時々鬼たちは村の若い娘をさらって、鬼が島という鬼たちの住処に連れて行くということでした。「なんてひどい話なんだ!」正義感の強い桃太郎は、怒りに奮え、鬼が島に人さらいの鬼たちを退治しに行くことに決めました。
 「おばあさん!おじいさん!」桃太郎は家に帰ると、事の経緯を説明し、明日の朝、鬼が島へ行くと言いました。おじいさんとおばあさんは、危ないから、とやめるように説得しましたが、桃太郎の決意は揺るぎそうにありません。おばあさんは桃太郎が寝床についた後、無事を願って、泣く泣くきび団子を作りました。
 翌日、桃太郎は鎧を身にまとい、桃のマークの入っている鉢巻をつけ、鬼退治に行く準備が終わると、最後におばあさんの作ったきび団子を腰にぶらさげました。「おばあさん、おじいさん、桃太郎は今から鬼退治に行ってまいります。心配かけてしまうことは分かっていますが、これ以上鬼たちのせいで悲しむ人を増やしたくないのです。必ず無事で帰ってまいります。」桃太郎はおばあさんとおじいさんに深々と頭を下げ、家を出ると「桃太郎、気を付けてね。」遠くからおばあさん、おじいさんの声が聞こえてきました。桃太郎は唇をキュッと強く結ぶと、より一層力強く歩き始めました。
 桃太郎が歩いていると、どこからか犬がやってきました。「桃太郎さん、桃太郎さん、あなたのお腰についているのは何ですか。とても良い匂いがするのです。」犬は言いました。「きび団子だよ。」桃太郎は言いました。「私に一つ頂けませんか。お腹がペコペコなのです。」犬は甘えるように言いました。桃太郎はすぐに渡そうとしましたが、途中で考えを変えました。「それは無理だよ、これはおばあさんが作った大切なきび団子なんだ。君にあげるわけにはいかないよ。でも…」桃太郎は少し考えるような素振りをしました。「でも…?」犬は目を輝かせました。「今、ぼくは困っているんだ。これから鬼が島に行こうかと思っているんだけど、一緒に来てくれる仲間が必要なんだよ。」「鬼退治!!」犬は叫びました。「嫌なら良いんだ。ただ、鬼退治に来てくれるならきび団子をあげても良いかなって思ったんだけど。」桃太郎は言いました。「お供しましょう。」犬は決心したように言いました。「ただし、きびだんご一つで、というのは納得できません。条件があります。」犬は桃太郎をじっとみつめました。「なんだい?」「朝昼晩と、お供している間はきびだんごを下さい。きび団子が食事に出てこなかった時点で私は帰ります。」犬は真面目な顔をして言いました。きび団子はおばあさんがたくさんつくってくれたからたくさんあります。桃太郎は言いました。「わかった。そうしよう。勇敢なイヌ君がついてきてくれるなら、もう怖いものなしだね。」桃太郎はにやっと笑って言いました。こうして、イヌは桃太郎と一緒に鬼退治に行くことになりました。
 桃太郎とイヌが歩いていると、しばらくして、サルが近づいてきました。「桃太郎さん、桃太郎さん。その袋の中に入っているものはきび団子ですよね。」サルは言いました。「そうだよ。」ももたろうは言いました。「私、きび団子が大好きなんです。ぜひひとつ分けて下さい。」サルは言いました。「これは鬼退治に行くのにとってあるんだ。」桃太郎は言いました。「鬼退治に行くんですか!」サルは興奮したように言いました。「私も連れて行ってください!鬼には散々な目にあわされてきました。私もぜひお供させてください!」サルは桃太郎の手をかたく握りしめました。桃太郎はあまりの気迫に戸惑いながらも「こちらこそ是非」と言って、きび団子を差し出しました。こうして桃太郎はイヌとサルを連れて歩き始めました。
 しばらく歩いていると、遠くから誰かが呼ぶ声がしました。「桃太郎さーん。」しかし、振り返っても誰もいません。再び歩き始めると「桃太郎さん」とまた呼ぶ声がします。桃太郎たちは首をかしげました。その時です。空から一羽のキジが舞い降りてきました。「桃太郎さん、待ってください。」「きじくん、一体どうしたんだい。」ももたろうは驚いて聞きました。「さきほど、町のご夫婦に聞きました。桃太郎さん、鬼が島に行かれるんですよね?」キジは言いました。「あのご夫婦を知っているのかい?あそこの娘さんが攫われたらしいんだよ。ぼくはその娘さんを助けに行くんだ。」「桃太郎さん、あの娘さんは、私の命の恩人なのです。私も鬼が島に一緒に行ってもよろしいでしょうか。今こそ恩をお返しする時だと思うのです。」キジは言いました。どうやら、キジが大けがをして死にかけているときにその娘さんが献身的に手当をしたおかげで、キジの命は助かったらしいのです。「仲間が多いと心強いし、是非、一緒に行ってほしいよ。よろしく、キジ君。」桃太郎とキジは握手を交わしました。
こうして、イヌ、サル、キジを仲間にした桃太郎は鬼が島へと向かっていきました。海岸へ着いたとき、桃太郎は疲れてぐったりとしていました。「桃太郎さん、もう日が暮れます。今から海を渡るのは危険だから、明日、朝一で向かいましょう。」きじは言いました。でも、まだ太陽は上のほうにあります。「そんなことはないはずだよ。日が暮れる前には着く予定だ。」桃太郎は言いました。「いや、私も今日はやめておくべきだと思います。キジ君の意見に賛成ですね。」犬がそういうとサルもうなずきました。桃太郎は仲間たちはやる気がたりない、家でおじいさんとおばあさんが待っているから早く帰りたいのに、と怒りを感じつつも、明日まで休むことにしました。くたくたに疲れていた桃太郎は、その夜ぐっすりと眠りにつきました。
 翌日、すっかり元気になった桃太郎たちは、さっそく鬼が島へと出かけていきました。桃太郎は、昨日休むように仲間たちが言ったのは、自分のことを思ってのことだと気づいたのです。
 船に乗り込み、鬼が島に着きました。鬼が島は鬱蒼とした木々に覆われていて、砂浜には誰もいません。「鬼たちはきっとこの林の奥にいるのです。私が鬼たちの様子を見てきます。」キジはそういうと林の中へ消えていきました。しばらくすると、キジは帰ってきて言いました。「すぐ近くの洞窟で鬼たちは暮らしているようです。娘さんは木にしばられていました。今、完全に油断している様子でしたよ。」キジは言いました。「ありがとう。よし、みんな、がんばるぞ。」桃太郎はみんなの顔をみまわしてうなずきました。イヌ、サル、キジもまた、うなずきました。
 林の奥に進んでいくと、たき火を囲んで鬼たちがゲラゲラと大声をあげて笑っています。キジの言った通り、娘は木に縛り付けられていました。桃太郎たちは鬼たちの背後に回ると一斉に飛びかかりました。イヌはかみつき、サルはとびかかり、キジはつつきました。
 なんとか鬼たちをやっつけた桃太郎たちは、娘をたすけだしました。「みなさん、ありがとうございます。本当にありがとうございます。」娘は言いました。「桃太郎さん、この鬼どもはどうしますか?」キジは言いました。鬼たちはすっかりひとまとめに縄で縛られています。「もう悪いことは絶対しません。本当です。だから、命だけは助けてください。」鬼たちは泣きながら言いました。「桃太郎さん、騙されては駄目ですよ。鬼たちが懲りるはずないんだから。」イヌ、サル、キジは口をそろえて言いました。しかし、桃太郎はニコッと笑って言いました。「僕には誰かを罰する権利はない。誰だって過ちを犯すことはある。娘さんが無事だからもう用はないんだ。それに、ぼくが鬼たちを殺したら、鬼たちと同じことをすることになるんだよ。だから、鬼たちを殺すつもりはないんだ。」この言葉を聞くと鬼たちは感謝の気持ちを次々に口にしました。「ただし、もしまた悪さをしに来たら、もう許さないよ。ぼくは、学ばない奴は嫌いなんだ。」桃太郎は言いました。鬼たちはもう二度と悪さはしない、と約束をし縄をほどいてもらいました。そして、桃太郎たちを船のある砂浜まで案内しました。
 桃太郎たちは鬼たちに別れを告げ、町に帰りました。老夫婦の家に着くと、娘と老夫婦は泣いて抱き合いました。桃太郎はほっと一安心をし、老夫婦の家を後にしました。桃太郎が帰宅すると、おじいさん、おばあさんはご馳走を用意して待っていました。
 桃太郎はおばあさんたちにお祝いをしてもらいながら、助け出した娘のことを考えました。そして、明日また会いに行きたいと思いました。娘もちょうどそのとき、同じことを考えていたのです。
 けれどまだ桃太郎はそんなことは知りません。娘とすっかりうちとけて、そのうち結婚することになるのは、ここからもう少し先のお話です。だからまだ、内緒ですよ。
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112902 9 削除メール 会社の帰りに寄った牛丼屋を出ると雨が降り出していた。
「ついてないなぁ。めざましの天気予報、外れじゃねえか。」
弘人はそうつぶやき、コンビニで安いビニール傘を買って家路を急いだ。

中学校時代は野球に一筋だった。そのおかげで地元の高校からも推薦がきたりしていたのだが、強豪校の伝統に縛られたくない、自分の手で甲子園に連れて行くんだ、そう思い中堅どころの公立高校に進んで野球に打ち込んでいた高校時代。特に頭が良かったわけでもない。かといってそこまでひどく悪かったわけでもない。人よりスポーツが少し、いや、結構できただけ。最後の夏の大会も七十二年の母校の歴史の中で史上最高のベスト八。しかし大学は推薦でいけるわけでもなく、指定校で無難に進学しただけ。そして普通の会社に入社しただけ。今はいたって普通の新人サラリーマン。もちろん特別収入があるわけでもなく、彼女もいない。高校時代のちょっとした人気者の面影も全くない。そんな弘人は今日も単調な一日を終えようとしている。
鍵を開けて自宅に入る。びしょびしょになった傘を玄関に無造作に置き、とりあえず靴下だけ洗濯機に投げ捨てる。片方は入らなかったがそんなことは気にしない。すぐにリビングに行き、テレビをつけるでもクーラーをつけるでもなく、すぐにパソコンの電源を入れた。最近弘人はオンラインゲームにはまっているためパソコンをつける機会が多い。今日もハードディスクの回る低い音が部屋に響く。が、静かには変わりない。マウスを操作し、いつも通りメールボックスを起動させる。不要なメールを削除していく。こういったまめなところは母親に似たのだろう。そのとき弘人の手は止まった。
「見たことのないアドレスだな。」
弘人はメールを開いた。そこにはこう書かれていた。

「あなたは削除されます。」

弘人は気味が悪くなり、すかさず送信者の名前を見た。弘人は頭が真っ白になった。確かにあいつの名前だった。二度と聞きたくなかった、そして聞くことのなかったであろうあいつの名前が画面には刻まれていた。



メールは急に来たのだった。それはとある夏の日。健太郎は大学のサークルの追い出しコンパ、いわゆる追いコンってやつから帰宅したとこだった。高校時代には毎日汗をかき、がむしゃらになって白球を追いかけていた坊主の少年の面影はない。野球に熱中しすぎたために現役生活では大学の合格通知を見事に一つも手に入れることはできなかった。それでも長い浪人生活と引き換えに手に入れたキャンパスライフはそれなりに楽しんでいた。長い髪を茶色に染めたりもした。中型の免許を取って、湘南までひとっ走りするのも趣味の一つだった。そんな大学生活の中心にあったサークルも今日で引退だった。追いコンは高校時代とはまた違った涙を流す場面もあり、思い出の一つとして胸に刻まれた。そして帰宅した健太郎。さすがに四日間も家を空けていたため、ポストには山のような新聞紙や手紙の数々。一つずつ見ていく。そして次はパソコンのメールをチェックする。十二通もの新着メールだった。スポーツショップのダイレクトメールからビデオレンタルショップのメールマガジンまでいろいろあった。高校の同窓会の連絡網も来ていた。と、その時健太郎はふと思い出した。そういえば追いコンの二日目頃に久しぶりに見る名前からメールが来たのを思い出したのだ。ベッドの上に置いたカバンから携帯を取り出す。何通かさかのぼるとそのメールはあった。高校時代のチームメートの弘人からだった。弘人は高校時代からすごく仲の良い友人で、一緒にバカやったりできる大切な存在だ。しかし弘人は今年から就職したため、連絡を取り合う機会が少なくなっていた。メールを読んでみる。
「おい、大変だ。竜二って名乗るやつから俺のパソコンにメールが入っていたんだけど。なんでいまさら竜二からメールが来るんだよ。健太郎もすぐに確認してみてくれ。」
その時は返事もしないで無視していたのだが、とりあえず残りのパソコンのメールを確認してみる。そこには二通ほど知らないアドレスからメールがきていた。一通は旅行会社のメールマガジンだった。・・・もう一通は竜二からだった。

「あなたは削除されます。」

健太郎は急いで弘人の番号にかける。しかし弘人はでない。そのときだった。玄関のチャイムが鳴った。健太郎はドア越しに外を見てみる。しかし誰もいない。ゆっくりとドアを開けてみる。左を見てみる。が、誰もいない。ゆっくりと右を見てみる。そこには見たことのない男が立っていたのだ。



「これで2人目か。」
新人の高橋がひとりごとのようにつぶやく。
「全く変な事件が起きたもんだな。」
平井は高橋のつぶやきを聞き逃さない。昔から耳がいいのは平井の自慢の一つだ。
「そうですよね、平井さん。二人共のメールボックスに削除メールかなんだか知らないですけど、こっちはいい迷惑ですよ。」
「おい、高橋。人が亡くなってるんだぞ。」
平井が少し強く言い放った。
「あっ、すんません。」
「それより送信者の今井竜二と被害者の中村弘人、大西健太郎のつながりは調べれたのか。」
「それなら今、荒木の奴が調べに行ってます。そろそろ帰ってくる頃だと思いますよ。」
その時、下の階から足音が聞こえてきた・・・荒木だった。
「平井さん、被害者二人と送信者の関係が分かりましたよ。」
「なんだったんだ。」
「高校時代のクラスメイトでした。」
「そうか・・・。」
平井がそう小さくつぶやく。
「でもそれだけじゃないんです。じつはこの送信者の今井竜二のことなんですけど。」
「今井がどうかしたのか。」
「じつは今井竜二は高校三年の秋に死んでいるんです。」
「なんだって。それは本当なのか。」
平井は驚く表情を隠せなかった。
「はい。まだ詳しくは調べれてないんですが、どうやら自殺したみたいです。」
「高橋、急いで今井竜二について調べろ。」
「はい。」
高橋は駆け足で下の階に向かった。
「送信者はこの世にいない。送信元のパソコンも分からない。手がかりがほとんどないじゃないか。こうなったら高校時代のクラスメイトにかたっぱしからあたっていくしかないか。」
「それなんですが、一つだけ重要な手がかりがあったんですよ。」
荒木が語尾を強めるようにそう言った。
「なんだ。」
「実は凶器になったあの刃物なんですけど、特別なものらしくて埼玉にある工場でしか生産してないそうです。それで、その工場は被害者たちと今井が通っていた高校のすぐ裏にあるらしいんです。」
「なんだと。そうなりゃここにいるわけにはいかねえ。急いで向かうぞ。」
「はい。」
二人はパトカーへと向かった。



「ここだな・・・。」
二人は刃物が生産されていたと思われる工場に到着した。そこは学生達で溢れ、活気のある学校とはうって変わって殺伐としていて薄気味悪かった。
「荒木、ちなみに工場はいつからやってないんだ。」
「はい。数年前に倒産しているみたいですね。そのせいか、犯行に使用された凶器も出回っているものは多くても数十本ほどのようです。」
「そうか、わかった。高橋に刃物の購入者を調べるように言っておけ。数が少ないのなら、すぐにリストアップできるだろ。よし、中へ入るぞ。」

工場内は外の雰囲気と同様に嫌な空気が流れていた。近くの水溜まりからは腐ったような匂いがする。しかし思ったよりも中は比較的広い。しかし、数年前まで使われていたとは思えないほど、至るところに腐食が進んでいる。奥には『工場長室』と書かれた部屋があった。中にはボロボロのデスクの上にパソコンがぽつんと置いてあった。
「なんか変じゃないですか。ここって数年前に倒産したんでしょ。それ以来、人の出入りはないはずなのに、その割にはきれいじゃないですか。」
荒木は平井にそう言った。確かに不自然だった。周りとはうって変わってパソコンにはホコリすらついておらず、最近使ったような痕跡さえもある。平井はまさかと思った。
「おい、荒木。ちょっとパソコンを起動させてみてくれ。」
「分かりました。・・・起動できましたよ。」
「急いでメールを調べてみてくれ。」
「了解です。」
荒木の返事も少し大きくなってきた。少し沈黙が流れる。そして荒木が平井に言った。
「平井さん、やはりここからメールが送られているみたいです。中村と大西宛と思われる削除メールが二通、送信履歴に残っています。」
「やはりそうだったか。他に何か手がかりは・・・。」
その時、平井の携帯が鳴った。着信音がいきものがかりだったことに荒木は少し笑いをこらえた。
「はいもしもし、平井だ。・・・そうか、なるほど。引き続きなにか分かり次第連絡を頼む。」
平井は携帯を胸ポケットにしまう。
「高橋からだ。俺たちが今いるこの工場は今井竜二の父の今井友二の工場らしい。もちろん数年前に倒産しているけどな。やはり今井竜二は高校三年の秋に自殺しているらしい。いじめにあったらしい。当時はマスコミにも取り上げられたが、結局どうなったかは分からないとのことだ。今回の被害者二人はそのいじめに加担していたそうだ。」
「てことは・・・。」
「ああ、その通りだ。友二が竜二の復讐をしている可能性はある。いじめに加わっていたのは四人いたらしい。まだ犠牲者が出るかもしれない。」
二人は周りを見渡した。何か手がかりを探している。すると荒木が灰皿を手に取り、
「平井さん。このタバコの吸うところがまだ濡れていますよ。」
「なんだって。じゃあこの近辺にまだ友二がいるかもしれないのか。急いで探すぞ。」
二人が部屋を出ようとした時、パソコンから着信音と思われる音楽が流れた。荒木はパソコンに飛び付いた。
「平井さん、メールが来ました。」
「なんだ。」

「削除メール。あなたたち二人は削除されます。机の下にプレゼントがあります。」

高橋は机の下にあった段ボールを取りだし、ゆっくりと中を見た。
「平井さん・・・。」
二人はすぐに時限爆弾だと分かった。カウントダウンはすでに始まっていた。・・・残り5秒だった。



友二は竜二の席に座りながら爆発音を聞いていた。そしてその音を聞き終わると次の復讐へ向かって歩いて行った。

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112903 たか 卒業アルバム! 季節は秋、窓の外の木々は赤く染まり、西日の差し込む学校の階段を梓は上がっていた。梓は黒髪のツインテールが特徴的で背の低い女の子だ。彼女は軽音楽部、通称軽音部に所属しており今はその軽音部の活動場所である音楽室に向かっている途中である。梓が音楽室の扉の前にたどり着くとあることに気が付いた。音楽室の中が騒がしいのだ。先輩である三年生は一週間前の学園祭のライブで引退してしまい、今軽音部に所属しているのは二年生の梓一人であり、音楽室には誰も居ないはずである。梓は怪訝に思いながらもドアノブに手をかけ、扉を開いた。なんとそこには先週引退して音楽室には居るはずのない軽音部の三年生である唯、律、澪、紬の四人が机を囲んでティーカップを片手にティータイムを楽しんでいた。
梓「先輩方なんで部室にいるんですか?」
ショートヘアーでカチューシャで前髪を上げておデコを出している活発な律が答える。
律「おお梓。今日は大事なものが届くんだよ。」
梓「大事なものってなんですか?」
黒髪ロングヘアーで長身の澪が会話に入る。澪はやや引っ込み思案なところがある女の子だ。
澪「和が卒業アルバムの見本を持ってきてくれるんだよ。」
梓「なるほど。アルバムですか。」
茶髪のショートヘアーで左の前髪を二つのヘアピンをつけた唯が相槌をうつ。因みに唯は相当な天然である。
唯「そうだよ。早く卒業アルバムの見本届かないかなぁ?」
律「早くみたいよな!」
澪「もうすぐ持ってきてくれるだろ」
太めの眉毛がチャームポイントの紬も会話に参加する。紬の家は別荘をいくつも持っているようなお金持ちの家のお嬢様であり、また軽音部で飲み食いされる紅茶やケーキといったお菓子も提供している。
紬「楽しみ〜」
梓「でもいいんですか?先輩たち受験勉強もしないでこんなところでのんびりお茶なんか飲んでて。」
唯「大丈夫、大丈夫。あと四ヶ月もあるしなんとかなるよ!」
梓「はあ…唯先輩そんなんじゃ大学落ちちゃいますよ。」
唯「うっ、あずにゃん受験生に落ちるとか滑るとかは禁句だよ…。」
あずにゃんとは唯が梓に付けたニックネームであるが唯以外は誰もそのニックネームでは呼んでいない。そんなやりとりをしている時部室の扉が音を立てて開いた。五人の視線が扉に向くとそこにはお目当ての卒業アルバムの見本を抱えた和の姿があった。和は生徒会長であり、また唯とは幼稚園の頃からの付き合いで唯一無二の親友である。特徴は赤い縁のメガネ。
和「みんな揃ってるみたいね。卒業アルバムの見本持ってきたわよ。」
唯「和ちゃんわざわざありがとう〜。」
和「いいわよ別に。それよりあなたたち勉強しなくて大丈夫なの?」
唯「今はその話はナシだよ和ちゃん。それより早く卒業アルバムの見本貸して。」
どうやら今の唯には卒業アルバムの見本のことしか頭にないようだ。
和「仕方ないわね。はいこれ。」
そう言うと唯は和から卒業アルバムの見本を受け取り机の上に置いた。
唯「開けるよ…みんな。」
唯がそう言うと四人はそれぞれ目を合わせて頷いた。それを確認した唯は卒業アルバムの見本の自分たちのクラスのページを勢い良く開いた。四人の視線がそれぞれの個人写真に向く。
律「なぜだーおでこが光ってるー。」
澪「なんでにやけてるんだよ私…。」
紬「眉がいまいちきまってないわ…。」
唯「前髪が…ないっ!」
四人は口々に感想を述べるがやはり自分の個人写真が気に入らない。
唯「和ちゃん、これまだ見本なんだよね?だったら写真撮り直そう!」
和「そんなこと出来るわけが…いや山中先生ならもしかしたらできるかも。」
山中先生とは唯たちのクラスの担任で軽音部のOGで今は顧問の音楽教師である。
この言葉で唯たちの思考は一致した。先生に卒業アルバムの個人写真の交換を懇願しようと。その空気を察知した和はこう付け加える。
和「でも山中先生は今日は風邪で学校を休んでるわよ。それにこの見本も明日には業者に返さないといけないし。」
この言葉に部室の空気一転して暗くなった。しかし次の唯の言葉で四人の死んだ目に再び光が蘇る。
唯「先生の家にお見舞いに行こう。それで一緒に写真も変えてくれるようにお願いしよう!」
律「それいいな!行こう、行こう!」
澪「でも突然先生の家に行って大丈夫か?迷惑なんじゃ…」
律「大丈夫だって!さ、行こうぜ。」
唯「おおー。」
こうして唯一行は先生の家に行くことになった。しかしまた問題が発生する。
紬「でも先生の家ってどこにあるのかしら?」
律「あっ…そういえば…」
唯「どどどどうしよう。」
再び音楽室の空気は絶望に包まれる。
梓「あのー職員室に行けばもしかしたら教えてもらえるんじゃ」
唯「それだよ!天才!」
梓「あっいえ…それほどでも。」
唯に褒められて梓もまんざらでもない感じである。
唯「じゃあ職員室にレッゴー!」
紬「ゴー!」
梓「あ、私はギターの練習がしたいんで残ってますね。」
澪「そうか。じゃあな梓。」
唯「バイバーイ。」
四人は梓に別れを告げて音楽室を後にする。山中先生の家の住所を教えてもらうために職員室に向かう唯一行。その道中各々は卒業アルバムの個人写真をどういう風に撮り直すか考えていた。そうこうしているうちに職員室の扉の前にたどり着いた。唯が職員室の扉に手をかけてゆっくりと扉を開く。
唯「失礼しま〜す。」
堀込先生「ん?平沢、何か用か?」
職員室の扉に最も近い位置にある山中の席には当然ながら山中の姿はなく、その向かいの席の堀込が唯たちに反応する。堀込は国語の教師であり山中が以前女子高生だった時にその担任を務めていたベテランである。堀込の問いに律が返答する。
律「山中先生は今日風邪でお休みですよね。だから先生のお見舞いに行きたいんですけど先生の家の住所が分からなくて…だから職員室で教えてもらおうと思って来ました。」
堀込「なるほど。でも残念ながら住所は個人情報だから教えることはできないな。第一お前たちは受験生だろ。受験生は早く家に帰って受験勉強をしなさい。」
堀込の答えに負けじと唯が食い下がる。
唯「先生そこをなんとかお願いします。」
堀込「ダメなものはダメだ。さあ諦めて早く帰りなさい。」
唯の頑張りも虚しく一蹴されてしまい再び唯一行に絶望の空気がたちこめた。しかしここで律の気の利いた一言が場の空気を一変させる。
律「実は私山中先生に進路のことで相談があるんです。それでお見舞いついでに相談したいなーなんて思っちゃたりしてるんですけど…。」
堀込「進路の相談?それは後日じゃダメなのか?」
律「今日中がいいんです!もう進路の悩みが頭から離れなくなって勉強に全く手がつかないんです。このままじゃ私…シクシク。」
律はわざとらしく両手で顔を覆いかくして泣き真似をした。職員室中の先生たちの視線が律に集まる。
堀込「分かった、分かったから泣くな。山中先生に住所を教えてもいいか聞いてやるから。」
その空気に耐えられなくなった堀込は山中の同意のもとなら教えることにした。
澪「本当ですか!?」
堀込「ああ。だからちょっと待ってなさい。」
そう言うと堀込は名簿を開き山中の番号を確認し始める。
唯「ヤッター。」
堀込「全くお前たちは…。」
堀込は電話をとりやまなかの家の電話番号を打ち始める。四人はその光景を期待に光輝く目で凝視する。そんな中突然職員室の扉がガラガラと音を立てて開いた。
紬「あ、あなたは」
みんなの視線が一気に職員室の扉に集まる。
山中「あら?あなたたち揃いも揃ってどうしたの?」
なんと扉を開けて職員室に入ってきたのは唯たちがもっとも会いたい人物の山中本人だった。
澪「先生どうして学校に居るんですか?風邪で学校を休んでたはずじゃないんですか?」
澪が全員の疑問を代表して山中にぶつける。
山中「体調も大分よくなったし、やらなきゃいけない仕事が山ほどあるのよ。」
堀込「山中先生、田井中が先生に話があるそうですが。なんでも進路の…」
律「ああそうそう。先生ちょっとこっち来て。」
律は慌てて堀込の言葉を遮り山中を職員室の外に連れ出す。それに続いて唯、澪、紬も職員室を出る。
山中「で、話って何よ?」
山中は怪訝そうに目を細め律に問いかける。
律「実はぁ、さわちゃんにしか頼めない重要な話があってぇ。」
律が上目遣いで山中を見つめる。さわちゃんとは山中の愛称である。
山中「なんだかとてつもなく嫌な予感しかしないわ…」
紬「卒業アルバムの個人写真を取り替えて欲しいんです!」
山中「卒業アルバムの個人写真ねぇ。分かったわ。ちょっと見せてみなさい。」
そういうと山中は唯から卒業アルバムの見本を受け取り自分が担任を務める唯たちのクラスのページを開く。
山中「ふむふみ。なるほどね。」
唯「やっぱり変ですよね?ぜったい変えたほうがいいですよね!?」
山中「そう?みんな可愛いじゃない。」
  「それに今から写真を撮り直すなんて無理だし、そんなお願いを一人一人聞いてたらキリがないわ。」
  「だから諦めて家に帰りなさい。」
唯がここぞとばかりにまくし立てるがそんな唯を尻目に山中はあっさりと拒否する。
唯「そんなぁ。卒業アルバムは一生残るんだよ。お願いだよーさわちゃーん。」
紬「お礼にお菓子も一杯持ってきますから。」
山中「ダメなものはダメなの。それにあなたたちはもう受験生でしょ?みんなで同じ大学に行きたいんでしょ?だったら早く家に帰って勉強しなさい。時間なんてあっという間に過ぎちゃうわよ。はい、この話はもうおしまい!」
山中の話すことは最もな意見であり四人は言葉を返すこともできなかった。そしてなによりもみんなで同じ大学に行くためには勉強をしなくてはならないという山中の言葉が四人の心に大きく響いた。
律「はあ…仕方ないな…帰ってみんなで勉強するかー。」
澪「そうだな。みんなで同じ大学に行きたいしな!」
唯「じゃあみんなで志望校合格に向けてファイトーオー!」
紬「オー!」
こうして唯たちは卒業アルバムの個人写真のことはキッパリと諦め、志望校合格のために勉強に励むようになり、無事に全員同じ大学に合格することが出来たのであった。
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112904 らん 僕とねずみの家の不思議 日本の南、沖縄県の近くに、小さな島があります。サウスココナッツ島です。島の名前の通り、ココナッツがよく実り、島の子どもからお年寄りまで、みんなココナッツが大好きです。中でも、ココナッツミルクは、島の住民の朝ごはんに欠かせないものです。この島の面積はあまり広くなく、人口もそう多くありません。ですから、島の住民は、みんな顔見知りで、仲良しです。そんな島の南の方に、一軒の大きな家があります。庭があり、四回建ての立派な家です。家には、十二歳の男の子ケンタ君と妹のカオルちゃん、ケンタ君とカオルちゃんのお父さんとお母さん、おばあさんが住んでいます。ケンタ君が十歳になるまでは、おじいさんも一緒に暮らしていたのですが、病気になってしまい、入退院をくりかえしていたある日、亡くなってしまいました。そんなケンタ君一家が暮らす立派な家には、時々、カランカランとどこからか音がするのです。家族のみんなは、変だなと思いつつも、気のせいだと思って過ごしていました。ただ、ケンタ君だけは、このカランカランという音がずっと気になってしかたないのでした。そんなある日、またカランカランという音がしました。ケンタ君は、今日こそは絶対に、この音の原因を見つけたいと思い、家中を探し回りました。すると、亡くなったおじいちゃんの部屋にある、古い木製のタンスの引き出しに、一冊のノートが入っていました。そこには、こんなストーリーが書かれていました。
人間たちが住む家の地下に、小さなねずみが住んでいます。小さなねずみは地下に家をつくり、毎日毎日、料理をしたりそうじしたり、人間と同様の生活を送っています。家の地下を出ると、カエルやウサギやリスなど、たくさんの動物が、それぞれの家で暮らしており、みんな仲良しです。小さなねずみは、長い間、人間の家の地下に住んでいて、愛着もあるのですが、最近どうも自分の家に不満をもちはじめているのです。そのわけは、家が狭いからです。小さなねずみが家の中をあわただしく移動していると、バタン!「あいたたた。」棚にぶつかって、棚の中の物が落ちてきたり、イスや机にひっかかってしまったり、狭くてしかたありません。中でも一番不便なのは、キッチンです。キッチンは、狭い上に、たくさんの食材や食器が置いてあるので、しょっちゅう色々な物を落っことしたり、こぼしてしまうのです。「あーあ。今日もハチミツをこぼしてしまったわ。お気に入りのマグカップも割れてしまったし。こんな家、もう嫌だわ。新しい家を見つけるわ。」小さなねずみはそう言って、家を飛び出し、新しい家を探しに出掛けました。リュックサックに、着るもの、ビスケットやミルクを詰めて、自分の家にさよならを言って出かけたのでした。「もう嫌だ。あんな狭い家なんて。広くて、棚にぶつかることのない、机やイスにひっかかることのないお家。キッチンで、ゆったり料理ができるお家、どこかにないかしら。」そんな歌を歌いながら歩いていったのでした。お日様が、やさしく小さなねずみを照らし、風も暖かく、小さなねずみの新しい家探しを応援しているかのようでした。しばらく歩いていくと、ゴソゴソゴソ。なんだか不思議な音がしました。ゴソゴソゴソ。音はしだいに大きくなりました。小さなねずみはビックリして、しりもちをついてしまいました。「こんにちは、ねずみさん。」地面から仲良しのもぐらが出てきたのでした。小さなねずみは、落ち着きを取り戻し、「あら。こんにちは、もぐらさん。そうだ、もぐらさんちょうど良かったわ。私ね、今住んでいる家が狭くて、新しい家を探すことにしたの。どこかに良い家を知らない?もぐらさん。」と小さなねずみがもぐらに尋ねると、「僕の家においでよ。広くて暖かいよ。」ともぐらが言い、家に招待してくれました。小さなねずみは喜んで、「ありがとう。とっても嬉しいわ、もぐらさん。」と言ってついていきました。もぐらの家は地面の下。もぐらは前足を器用に使って、どんどん下へ下へと入っていきます。小さなねずみは、土で足をすべらしたり、一苦労です。やっとの思いでもぐらに追い付いたとき、「ねずみさん、今からねずみさんの部屋を掘ってあげるよ。それから家具を運んでくればいいさ。」もぐらはそう言って、小さなねずみを一人残したまま、どんどんどんどん土を掘っていってしまいました。小さなねずみは、体が土で汚れてしまうし、一人ぼっちで心細くなってしまいました。それに、地面の下は真っ暗で、さっきのような優しいお日様は、もうどこにも見当たらないのです。小さなねずみの目には、いつのまにやら涙が浮かんできました。その時、もぐらが帰ってきました。「お待たせ、ねずみさん。どうして泣いているんだい?部屋はある程度掘れたよ。」と、もぐらは言いました。小さなねずみは、「もぐらさん、せっかく私の部屋を掘ってくださったのに申し訳ないけれど、私地面の下には住めないみたい。真っ暗でちっともお日様が見えないし、体が土まみれになってしまうもの。」と言うと、もぐらは、「そうだね、ねずみさんには僕の家なんかよりもっとぴったりないい家がきっとあるはずだよ。ちょっぴり残念だけど、もう少し探してみるといいよ。」と優しく言ってくれました。小さなねずみは、もぐらにさよならを言って、地面の下の家を後にしました。「もう嫌だ。あんな暗い家なんて。明るくて、お日様が優しく照らしてくれる、土で体が汚れることのないお家。どこかにないかしら。」今度はこんな歌を歌いながら。小さなねずみが、いい家はないかと目をキョロキョロさせていると、カエルとふと目が合いました。小さなねずみはカエルにかけよって行って言いました。「こんにちは、カエルさん。私ね、今まで住んでいた家が狭くて、嫌になっちゃって。新しい家を探すことにしたの。どこかに良い家をないかしら?」すると、カエルは言いました。「僕の家はどうだい?広い上にプールまでついてるよ。泳ぎたくなったら、スーイスイ。いつだって泳ぎ放題さ。」小さなねずみは嬉しくなって、「まあ、素敵。ぜひカエルさんの家に住みたいわ。」そう言って、カエルについていきました。しばらく行くと、カエルの家が見えてきました。カエルの家は大きな水たまりに浮かぶ葉っぱの上。でも、小さなねずみにとっては、水たまりが海のように見えたのです。カエルは泳ぐのが大の得意。スイスイと泳いで、葉っぱの家の玄関に立ち、手招きして小さなねずみを呼んでいます。小さなねずみは泳げるけれども、カエルほど上手に泳げません。おそるおそる水たまりに入り、一生懸命にカエルの元まで泳ぎました。やっとの思いで玄関にたどりつきました。家の中に入ると、それはそれは広いこと。さっきのもぐらの家のように暗くもなく、体が土まみれになることもありません。小さなねずみはカエルの家がとても気に入りました。カエルの家には、テラスがあります。小さなねずみは、今まで自分の家にテラスなんてなかったので、興奮してしまいました。テラスに置いてあるベンチは、ゆらゆらゆれるとっても素敵なベンチです。そんなベンチに小さなねずみが座っていると、カエルがスペシャルドリンクをもってきてくれました。「さあ、ねずみさん飲んでくださいな。僕の特製スペシャルドリンクだよ。」「ありがとうカエルさん。素敵なベンチにおいしそうなドリンク、とっても嬉しいわ。いただきます。」小さなねずみはそのドリンクのおいしさに感動しました。小さなねずみはカエルの家に住むことを決心しました。そこでカエルに言いました。「カエルさん、私カエルさんの家に住みたいわ。少しずつ私の荷物を運んでもいいかしら。」すると、カエルは「いいとも。僕は君の部屋になるところをそうじしておくから、荷物を少しずつ運んでくればいい。」そう言ってくれたので、小さなねずみはうきうきした気持ちで、カエルの家をでようとしました。その時です。小さなねずみは、カエルの家に入るのに、泳いでいかないといけないことを思い出しました。これでは、お出掛けの前にいつもぬれてしまいます。さっきまでのうきうきした気持ちは、さっぱり消えてしまいました。もう一度カエルの家に戻り、小さなねずみはカエルに言いました。「カエルさん、私やっぱりカエルさんの家には住めないわ。家に出入りするのにいちいちぬれてしまうのは私には無理だもの。せっかくだけどごめんなさい。」小さなねずみはカエルに別れをつげて、また家探しに出かけました。「もう嫌だ。出入りきいちいちぬれちゃう家なんて。ぬれないお家、どこかにないかしら。」今度はこんな歌を歌いながら。すると、小さなねずみの歌声を聞いたフクロウが、空から降りてきました。「ねずみさんこんにちは。家を探しているようだね。一度私の家にいらしてはどう?」フクロウがそう言ってくれたので、小さなねずみは喜んでフクロウの背中にのり、森の木の上にあるフクロウの家に着きました。小さなねずみは、今日の家探しに疲れていたので、フクロウの家ですぐに眠ってしまいました。眠っていると、ゴロゴロゴロとものすごい雷が鳴りました。小さなねずみは飛び起きました。するとビュービューと強い風も吹きはじめ、フクロウの家は木の上にあるため、大きくゆれました。小さなねずみは怖くなり、フクロウの家からかけ降り、一目散に自分の家に帰りました。そして、ほんの少し狭くても、自分の家が一番住みやすいのだということに気づき、それからもずっと、元の自分の家に住み続けました。
そんなストーリーを読んだケンタ君は、自分の家で聞こえるカランカランという音は、家の下に小さなねずみが住んでいるからだと思いはじめました。そしてその日から毎日、ケンタ君は家の下と少し通じているところに、ココナッツミルクを置いてあげることを日課にしているのです。
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112906 oba0421 現代風桃太郎  現代風桃太郎
(はじめ)
オカヤマにおじいさん(65)とおばあさん(62)が住んでいました。オカヤマのような地方では若者は、大都市のオオサカやトウキョウに出て行ってしまいます。地方の過疎化、高齢化が現代における問題となっています。おじいさんとおばあさんもこのような問題に悩む夫婦です。子どものいないおじいさんとおばあさんは、自分たちの桃園の後継者を探しているところです。
 いつものようにおじいさんとおばあさんは桃園で桃の世話をしていると、どこからか赤ん坊の泣き声がしてきました。捨て子も現代における重大な問題の一つです。驚いたおじいさんとおばあさんは慌てて赤ん坊を探します。なかなか見つかりません。耳を澄ませて声を聞くと、どうやら上の方から声がします。木の上には、見事な桃がたくさんあるばかり。いや、良く見ると一つだけ立派すぎる桃がありました。おじいさんは気付きました。
「ばあさん、あのでかい桃は尻じゃ!」
「なにをばかなことを、おじいさん・・・尻じゃ!」
 おばあさんはその尻をやさしくつかみ、赤ん坊を地面に下ろしてあげました。
「なんてきれいな尻をした赤ん坊じゃ。桃太郎と名づけよう。」
おじいさんとおばあさんの後継者問題は解決しました。

(なか1)
 桃太郎はおじいさんとおばあさんに育てられ、すくすくと大きくなっていきました。あるときは、勝手に桃園に入り、桃を食べ、おじいさんに怒られました。またあるときは、ボケのきていたおばあさんに尻を桃と間違われ、出荷されそうになりました。そんな桃太郎も20歳になりました。今や桃園の管理は桃太郎に任せられるようになっていました。桃太郎の今の悩みはおじいさんとおばあさんのことです。
「おじいさんもおばあさんももう80歳を超えてしまった。山間のこんな家よりどこかのグループホームにいれたほうが幸せなんじゃないかな?」
おじいさんもおばあさんも足腰が弱っていて、どこかに出かけるのも容易ではありません。いっそのこと都市部や平地にあるグループホームに入れたほうがよいと考え始めたのです。
桃太郎は朝の新聞にグループホームの案内が入っていたことを思い出しました。いろんな施設を検討した結果桃太郎は決めました。
「ここだ、グループホーム桃尻。立地、費用、設備は完璧。何より名前がいいね。」
あとは二人に話すだけでした。二人は入居には反対していました。おじいさんは「わしはまだまだ現役じゃ!」と言って、桃園に走っていってしまいました。おばあさんはボケがきているので話の意味を理解できていないのですが、「おじいさんが行かないのなら、わたしも行かない。」と言って聞きません。
 桃太郎はおじいさんを説得することにしました。桃園には背中が曲がり、桃に手が届かないおじいさんの姿がありました。「わしはまだまだ現役じゃ。わしはまだまだ・・・」とつぶやいています。強情なお年寄りも現代では問題となっています。桃太郎は説得を始めます。
「おじいさん、引退してください。」
「いやじゃ。」
「どうして?ぼくは一人でも大丈夫ですよ。」
「後継ぎはお前で問題はない。」
「なら、どうして?」
おじいさんはためらいながら言いました。
「・・・お前の尻を見れんくなるのが寂しいんじゃ。」
桃太郎はわけがわかりませんでした。しかし、おじいさんは続けます。
「わしは桃が好きなんじゃ。お前の尻は桃じゃ。ということはお前の尻がすきなんじゃ!」
桃太郎はここにきて初めておじいさんの趣味に気付きました。冷静に考える桃太郎。結局おじいさんは桃尻が好きなんだということを再確認し、桃太郎は言いました。
「おじいさん、グループホームの名前は知っていますよね?」
「確か・・桃尻じゃったか。まさか・・!!」
桃太郎は意味深な笑みをおじいさんに送りました。するとおじいさんは言いました。
「わかった。すぐに入居しよう。できるだけ早い方が良いのう。明日。明日じゃ!」
このように曖昧な笑みを送ることで勝手に都合の良い解釈をしてしまうのも、現代ではよくあることです。
こうして説得に成功した桃太郎。おばあさんは「おじいさんが行くのなら、私もいきますよ。」と勝手に入居に同意してくれました。桃太郎の一人暮らしが始まります。

(なか2)
現代のニホンでは男子を「肉食系男子」と「草食系男子」の2種類に分けます。肉食系男子とは恋愛に関して積極的な態度をとる男子、草食系男子とは恋愛に関して消極的な態度をとる男子のことです。桃太郎は後者でした。しかし祖父母が家を出ていったことで桃太郎は肉食系へと変わってしまいました。桃太郎は自信をつけてしまったのです。ひとつは20歳にしてマイホーム持ちということ。もうひとつは桃園のオーナーであること。合コンの自己紹介でこのことを言うと女子がすごくよい反応をしてくれることに気付いた桃太郎。あっという間に結婚してしまいました。相手の女性の名前は桃子(23)。これが現代における鬼との出会いとは気付かずに・・・。

(なか3)
 結婚一年目は幸せでした。家に帰ると桃子が料理を作って待っています。
「ただいま!」
「おかえり、桃太郎さん!」
 桃子は毎日桃太郎を出迎え、飛びついてきました。新婚生活を始めて、しばらくしてから気付いたが、桃子の尻も桃のようでした。桃太郎はこの時初めておじいさんの気持ちを理解しました。
「今日は桃料理よ!全部桃でつくったの!」
 桃子は料理がとても上手でした。本当にすべて桃で作ったのかと疑うような桃料理が並べられていました。
「おいしそうだなぁ、いただきます!」
「いっぱい食べてね!」
桃太郎はこんな幸せな日々が続くと信じていました。

結婚2年目。
「ただいま!」
「おかえり、ももたろうさん」
最近は桃子の飛びつきがありません。もう新婚ではないので当然か、と桃太郎は思います。すこし残念な気もしますが、桃太郎は文句を言いません。
「ご飯はできてる?」
「ごめんなさい、もう少し待っててね。」
桃をかじりながら待っていた桃太郎。しばらくすると桃子が料理を運んできました。
「今日は何かなぁ。」
「今日は味覚騙しに挑戦してみたの。アボガドと醤油でトロ、プリンと醤油でウニ、ほら、これだけで海鮮丼の完成よ!」
普通これを夕飯にするか、これを作るためにそんなに時間がかかるのか、桃料理はもうおしまいかと桃太郎は疑問に思いました。桃太郎の中に桃子に対する疑いのようなものが生まれてきました。しかし桃太郎は何も言いません。結婚生活は始まったばかり。こんなことで文句を言っては続かないと自分に言い聞かせました。

少し飛んで結婚10年目。
「ただいま」
「おかえり」
桃子はリビングで寝転がりテレビを見ていました。
「飯は?」
「ん〜桃でいい?」
桃太郎はこの10年間での桃子の変化に愕然としました。一年目はあんなに嬉々として桃料理を作っていたのに、今となっては桃を剥くだけ。桃太郎は自分の商品を馬鹿にされたような気分になりました。しかしいつものように何も文句は言わず、「今日は桃の気分じゃないなぁ。外で食べてくるよ。」
「あっそ。いってらっしゃい。」
桃子は桃太郎の方を見向きもせずそう言いました。その尻はすでにカボチャでした。この頃から桃太郎は桃子のことを「鬼」と心の中で呼んでいました。

(なか4)
 桃太郎が向かったのは「居酒屋きびだんご」。ここのきびだんごは絶品です。きびだんごの魅力の虜になった人たちが集まってきます。桃太郎もその一人です。桃園の飲み会はここで行われます。今日は部下の犬山、木治、猿渡を呼びました。
「こんなはずじゃなかった」桃太郎は言いました。
「女なんてそんなもんですよ、桃太郎さん。さあきびだんごでもどうぞ。」と犬山が言いました。
「社長はよく頑張ってますよ。嫁さんはちょっと甘えてるだけですって。」と木治。
桃「ありがとう、二人とも。」
しかし猿渡は厳しいことを言います。
「社長、それはだめですよ。完璧に尻に敷かれてるってやつですよ。」
桃「・・・そうだよなぁ。桃尻ならよかったのに。」
猿「何言ってるんですか。姉さん女房はいけないと思います。結婚の時点で失敗してるんですよ。」
 猿渡は自分の立場を気にせず思ったことを何でも言う男です。
猿「嫁さんは社長のことをもう財布ぐらいにしか思ってないんじゃないですか?」
桃「お前は今日限りでクビだ。」
猿「いやいやいやいや!これは社長のために言ってるんですよ?そろそろ一発ガツンと言ってやれってことですよ!」
 桃太郎は少し納得してしまいました。こうなってしまった原因は少しは自分にあるのではないかと。こうなる前兆は何度もありました。しかし自分はそのサインをすべて見逃してきました。そろそろ何とかしないと、本当にただカボチャ尻に敷かれるだけの人生になってしまいます。
桃「どうすればいいと思う?」
猿「思ったことを全部言ってやればいいんですよ。今まで温厚だった社長が急に怒り出したら嫁さんも反省してくれるでしょう。鬼嫁を退治しましょう。」
 話に入ってこない犬山と木治はきびだんごの虜になっているのでしょう。
 こうして現代における鬼退治が始まりました。

(おわり)
 結果から言いますと桃太郎の鬼退治は失敗に終わりました。桃太郎の言葉では長年にわたって完成してしまった鬼の牙城を崩すことはできませんでした。しかしすこしばかりの効果はあったようです。桃太郎の数々の怒りの言葉の中にあった「カボチャ尻」だけは鬼の心に響いたようです。それから鬼はダイエットを始めました。桃太郎の仕事を手伝うこともありました。よく考えると桃子が桃太郎の仕事を手伝うのはこれが初めてでした。鬼(33)の尻は10年前までとはいかないまでも、桃尻と呼ぶにふさわしいものに戻りました。この頃から桃太郎は桃子(33)のことを心の中で鬼と呼ぶのをやめました。そして桃尻に敷かれた人生を送るのでした。そこには幸せそうな桃太郎の顔がありました。
10以上
112907 うえてぃ 傘の上の空 おじいさまから頂いた一冊の絵本。
それが幼い私の宝物だった。
"むかしむかし、毎日太陽が照り、決して雨の降らない国がありました。"
それはこの世界の始まりの物語。
幼い私はその絵本を何度も何度も読み返した。
そして今も私はその絵本を手放せずに居る。
町を覆う巨大な傘の下で。

雨の中傘を差して『塔』を見る。
シトシトと灰色の上空から、降ってくる雨。
私の居る世界にはいつも雨が降っている。
空は朝夕関係なく灰色の厚い雲に覆われ、決して雨が止むことは無い。
空、とこれは言えるのだろうか。
私達の中で呼ばれている空はいつだって、灰色だ。
固い、灰色の鋼で出来たような色。温度のない冷たい色。

「一人か?」

上から降ってくる耳になじんだ声に、視線を上げる。
予想どおりに彼が立っていた。
彼は私の数少ない友人であり、
そして唯一私が諦めた絵本の中の世界を今だ信じ続けている人でもある。
怒っているような表情で私を見る。
彼の顔は少し強面、というか人相が悪い。
怒っているわけではないのに、いつも目をしかめるように私を見る。
ただ単に、彼の目が悪いだけなのだけれど、それを知らない人は多い。
灰色の空に、薄い色素の彼の髪がよく映える。

「うん、君がそう言ったんじゃない」

彼はそうだったな、と呟き塔を睨んだ。
とても、嫌なものを見るように。

「嫌でも目に付くな、アレは」

「そうだね」

私たちの世界に存在する塔。それは、絶対の掟。
決してアレに入ってはならない。
近づいてはならない、興味を持ってはならない。
それは、私が幼い頃から両親に教わったこと。
彼も、同じように教わったこと。誰も疑問に思わない。
だって、掟なのだから。
守るべきことなのだから。
でも、私は違った。
私はあの絵本を持っているから。

その絵本は元々この町が村と呼ばれていた頃、
私の曾祖父が所有していたもので、私は祖父からそれを受け取った。
それにはかつてこの世界が太陽の光に照らされていたことが記されていた。
しかし、その太陽の光は恵みではなく人間を脅かす悪魔だった。
その絵本には日照りのため地は割れ、カラカラに乾いた街では食料は愚か水さえも得られず、
毎日のように人々は亡くなっていったこと。
そんな世界を変えるため、人々は立ち上がり、術を使い雲を呼び寄せたこと。
割れた大地には雨が降り注ぎ、人々の生活は文字通り潤い、
やがて雨の恵みに感謝するための塔が立てられ、
町を守る巨大が傘が立てられたことが書かれていた。

今私の居る世界が恵まれている。
ひとたびこの絵本を読んだ人はそう思うだろう。
しかし、私は今ある恵まれた世界よりも絵本で悪魔のように描かれる太陽の光に心奪われた。
太陽の光の差す空はこんなにも綺麗なのか。
幼い私は今ある恵みよりも絵本の中の美しい空に憧れていた。

幼い頃はこの絵本を持っていることは私にとっては自慢であり、
友人の多くに青い空を見てみたいと言った。
始めはみんなも見たことも無い青い空に憧れを抱いたが、
大人になるにつれて馬鹿馬鹿しいと否定するようになった。

そのうち私もそんな夢物語に憧れる事も無くなった。
もう、存在しない世界。
いくら夢見ても私の世界は灰色の雲を灰色の傘が覆い、煤けている。
どれだけあの美しい青に思いを馳せても分厚い雲も薄汚い傘もなくならない。
そんなもの思い描くだけ無駄だ。
そしてもうあの絵本を開くことは無くなった。
ただ、私は未だにその絵本を手放せずに居る。

塔は傘に似ていて、それを睨む彼を見て思わず傘を閉じる。

「どうしたの?」
「…俺はあの塔の中へ行こうと思う。」
「え?」
「きっとあの塔の中にはその絵本の空があると思うんだ。」
「でも、あの塔は…」
「掟で行ってはいけない事になってる。
でも、絶対あの中に青空があるはずなんだ。
こんな一日中雨の降らない空がきっとある。
だから、一緒に来て欲しいんだ。」

かつて憧れた空。
諦めた夢。

「手を出して。」

私は無意識に震える右手を彼に差し出していた。

「行こう。」

彼は私の手をとり、走りだす。

「絵本の中に見つけた空を見に行こう」
2人きりで昔と同じ約束をした。
この世界を濡らす雨さえも切り裂くような速さで、私たちは真っ直ぐあの傘へ走り出した。

「鍵くらいかかっているかと、思った」
「案外、無用心だね」

塔の前で、彼は静かに言った。雨に濡れた髪をそのままに、扉に触れた。
軽く押しただけなのに、簡単に開いてしまう。
扉がある意味がない気がする。

「行こう」
「うん」

暗い中を見回す。なんというか……。
中はひどい有様だ。廃墟に近い。
まぁ、この中に入ることは禁止されてるから、当たり前なのだけど。
歩くたびに、足跡がくっきり残るのってどうなんだろう。
掃除位すればいいのに。

「結構暗いな。足元、気をつけろよ」
「わかった」

彼は私を気にしながら、塔の螺旋階段に足をかけた。
白い埃が舞う。

「上に行くの?」
「うん、駄目か?」
「……別に、駄目っていうのじゃなくて」

彼は不思議そうに私を見てから、手を伸ばした。
さっき扉を開けるときに放してしまった手。
実は、その時寂しかったのは秘密だ。

「何?」
「握っててやる」

にやりと笑う彼は、何故か心地よかった。
でも、それ以上に何故か悔しい。

「なんか、偉そう」
「何だよ、いらないの?」
「……っ」

黙っていると、手が暖かくなる。
彼の手が、私の手を包んでいた。

「進もう」

塔の中の絶望的なほど小さな私たちを誰が見つける事は無かった。
この世界に疑いを持たない誰にも見つかる事など無かった。

暫く、螺旋階段をのぼると踊り場に出る。
思わず二人で螺旋階段をのぼる足をとめて、周囲を見渡す。
そこにあったのは、牢屋だった。
何本もの鉄で出来た棒が、縦に並んでいる。

「何、これ?」
「……牢屋ってやつだろ」
「それは、見たら分かるけど…牢屋って誰かを閉じ込めるために、使うものでしょう?」
そう問いかける前に、彼が螺旋階段へとまた足をかけた。

「あんまり、見るもんじゃない」

彼は、静かに言った。僅かに、あせっているようだ。
その理由は分からないけれど、彼は理由もなく先を急ぐ人ではない。
なにか、あるのかもしれない。ここで立ち止まってはいけない理由が。
彼の方へ駆け寄り、呟く。

「分かった進もう」

−嘘つき
−本当は、この牢屋が何なのか。考える気もないくせに。

小さな声が、そう言った。
思わず振り返る

「どうした?」
「……何でも、ない」

一瞬、なにか白いものが見えた気がした。
私にそっくりな、白い女の子が。

「あれは……」
「え?」

先頭を歩く彼が突然、話し始めたので思わず聞き返す。
ようやく、あの牢屋の話をしているのだとわかった。

「あれは多分。閉じ込めていたんだ」
「それぐらい、分かる」
「何を、閉じ込めていたと思う?」

彼の低い声が螺旋階段に響く。

「……悪いことをした人?」
「そうかもな」
「君は、知ってるの?何が閉じ込められていたか」

彼は少し私へと顔を向けた。それでも、階段を登る足は止めない。
ゆっくりと、口を開いて言った。

「俺たち」

彼はすぐにまた、前を向いて階段を上っていく。
俺たちに、私も入っているの?
そう聞きたかった。だけど、怖くて聞けなかった。
聞けば、あの白いものが本物のように思えそうだから。

「ごめん、大丈夫か?」
「え?」
「震えている」

彼は私の手を、また握ってくれた。
その時、なにかの音が耳をくすぐった。

「なにか、聞こえない?」
「ん?なにかって?」
「こう……ぶぉーぃぶぉーぃって」

そう言うと、彼がクスッと笑った。

「言い方、変」
「……っ」

なにか言い返そうと、口を開いた刹那。彼が立ち止まった。
思わず背中にぶつかる。
そこにあったのは、小さな埃をかぶった扉。

「……風が、流れてるわ」

彼は小さく相槌を打った。足を止めるつもりはない。
ふと、後ろを振り返る。
もう、白い影はもういない。

--昔、私達は空の下に住んでいたのよ
--見たことはないけれど、きっと
--美しい世界なの

「開けるよ」
「うん」

彼が、扉へと手をかけた。
扉のきしむ音と同時に、風が私を包み込んだ。


全てのものがある世界。
まさに、目の前に広がる風景はそれに見えた。
色とりどりの花、そして私達が、望んでいた空。
青くて、深くて、きれいな。
知らずうちに、頬から涙があふれてくる。
どうして、こんな世界があるのだろう。
こんな風景があるのだろう。

ふと、手に持っている絵本を思い出す。
そのまま、外へと落とした。
絵本はあっという間に小さくなって、花畑へと落ちていった。
きっと、もう見つからない。
彼は、少し驚いたように私を見る。

「いいのか、大切なものだろう?」
「……これは、ここにあるべき物だから」

そうか、と彼は静かに言った。
特に咎めたりもせず、それ以上の詮索もしない。
それが、彼なりの優しさなのだ。
彼は、私の手を握ったまま、空を見る。

風が、彼の髪を撫でる。

「ずっと、この世界のままならよかったのにな」
「……そうだね」

彼は、ゆっくりと座り込む。
私もそれに習うようにして、腰を下ろした。

「私達の世界は、壊してしまったのね」

彼は、答えなかった。
私たちの世界は、壊してしまったのだ。
きっと美しかった世界、きれいだった空。
だから、きっと空を見ることが出来なくなってしまったんだ。
空を見てはならないと、言われたんだ。
私たちは、自分達を守るために
灰色の空を、自分達で作ってしまった。

壊してしまったのは、私たちなんだ。
だから、閉じ込められた人もいたんだ。
決して、出られないようにと。

いつまでこの世界を見つめていただろう?
いつの間にか太陽は傾き空を茜に染めていた。
彼がくれた花束を手に二人で肩を寄せて笑いあった。
ふと、もうすぐ世界の最後が来るように思えた。
ずっとこんな世界ならば良かったのに。
そう思った瞬間、彼と寄り添いながら意識が遠のくのを感じた。
不思議と悲しくなんてなかった。
ああ、そうか、君が側に居るからか。
そして私は意識を手放した。


花の咲いたその傘の上には
とても幸せそうな顔で
小さく眠る二人がいた。
7
112909 ざっく 幸せを運ぶ小ゾウ ある日拓也が目覚めると、そこにはいつもと変わらない朝。少し起きるのが遅くはなったが十分会社には間に合うし、何よりこんなこと日常茶飯事だ。いつもと同じように食パンをトースターにかけ、唯一の楽しみのテレビのチャンネル切り替える。いつもと変わらない朝だった。


「おはよーっす!!!」
「!?・・・・・・・」
玄関からおおきな声がしたが、またどうせ隣の爺さんが散歩から帰ってきただけにちがいないと、気にも留めない。

「おはよー!いるんだろー!はいるぞー!!!」
ガチャガチャ・・・・・・・・ドガーン!

「!!!!!!!!!?」
玄関が明らかに何かに破壊された音がした。
急いで玄関に向かうと、ものすごい砂煙が立ち上っている。
そして何やら、その奥から人の声がする。
「おっす!俺はタダランティーノ!お前を幸せにしに来てやったで!」
と、その声の主はまるで小ゾウが二足歩行したような…。初めてみる生き物がそこには立っていた。


破壊されたドアの前に仁王立ちのタダランティーノの名乗る二足歩行のゾウ(人面ゾウといったほうが正しいかもしれないが…)

拓也「お、おれを幸せにしてくれるってどういうことだ?」
見事に腰の抜けてしまった拓也だが幸せにするという言葉に惹かれて、謎のゾウに恐る恐る話しかける。
タダランティーノ「まー、簡単に言うと、アラジンの魔法のランプの無限版みたいな感じかな?お前のショーもない生活にちょっとしたスパイスをかけてやるのさ!」
(突如現れたゾウに今の現実すら疑っているのに、さらに自分を幸せにしてくれるなんて、いったいどうやって信じればいいんだか・・・。)


タダランティーノ「まー、なんにも考えんと好きなこと言ってみーや。」
拓也「じゃ、じゃーお金が欲しい…です。」
タダランティーノ「なんやそりゃ!まーしゃーないか。ほぉーれ!!!!」

目の前にあるのはテレビでしか見たことのない信じられないほどの数の札束がある。

拓也「…!?シ、シンジラレナイ。」
タダランティーノ「どーよ?これで俺の力を信じたか?ただし、この力には1つだけ条件があ…」
拓也「じゃーどんどん好きなこと言ってもいいんだな!!?このぼろアパートをめっちゃきれいでめっちゃ広い部屋にして、それから、それから…」

先ほどまで腰を抜かしていた男がまるで少年のような目をしてタダランティーノに立ち迫っている。

タダランティーノ「俺の話を聞けや」
苦笑いのタダランティーノ。でも少しだけうれしそうに見える。
(まぁ、この話をするのはもう少し先にしておこう。)



――数日後、拓也の生活は以前とは比べ物にならないような生活に一変してしまった。

少し前まで住んでいた、いたって普通な部屋は、見渡す限りのリビングに、テレビ以外ではお目にかかることさえなかったようなシャンデリア、ソファーに銅像などなどの装飾品の数々、確実に生活だけはいわゆる人生の成功者になってしまっていた。

タダランティーノ「おいおい(笑)、こんな甲冑のレプリカなんか必要なんかよ?」
といいつつも、ちょっと気になって甲冑のレプリカを着ようとする。

拓也「それは、人生の成功者の証みたいなものだって。これから毎日この銅像とかを見ながら、今の自分の人生を重ねてみるのさ。」

もう確実に、有頂天になってしまっている拓也。テーブルの上にあるキャバクラとかでしか見たことのないようなフルーツの山をほおばりながら、天井まで届きそうな大画面のテレビでゲームに熱中している。
タダランティーノ(やれやれ、俺が来て本当にあいつは幸せになるのだろうか?・・・・・・)
タダランティーノ「!!!!!! ちょぉおぉおぉい!!!!!!!!!!」
着ようとしていた甲冑のレプリカがなんとタダランティーノの体に見事にフィットして抜けなくなってしまったようだ。
タダランティーノ「拓也―!助けてくれー!!ぬけれんー!!!」
拓也「うるさいなー!そのくらい自分の魔法で何とかしろよな。こっちは今忙しいんだよー!」
タダランティーノ「どこがいそがしいんやー!!!誰のおかげで今こんな生活出来とるともっとんなー!それに俺は自分の願いについての魔法をかけることだけはできないんじゃー!」
拓也「自分に魔法かけられないなんて、面倒なんだなー・・・よっこらせっと」

重い腰をあげて、仕方がなくタダランティーノの抜けなくなっている甲冑を引き抜こうとする。

拓也「よいしょっと・・・・・・・かってーなー・・・だぁらー!!!!」
甲冑は抜ける気配すらない。
拓也「なんで、他人には魔法使える癖に、自分には使えないんだよー!」
タダランティーノ「そんなことができたら、どうせ皆自分のためにしか使わないだろ。」
拓也「そうかもしれないけど、お前はいっつも他人のことばっかりで自分は幸せなのかよー?」
タダランティーノ「幸せなわっけないだろー?俺は人のために尽くさないといけないそういう星の下にうまれたんだよー!
拓也「・・・・・・・・・・・。」
タダランティーノ「なんで俺ばっかりこんな目に合わないといけないんなー!!!!」
拓也「じゃぁ俺がお前を幸せにしてやるよ!」
タダランティーノ「は?」
拓也「は?じゃねーわ!お前が俺を幸せにしてくれる。そして俺がお前を幸せにしてやればいいんだろー!?」
タダランティーノ「拓也・・・お前それ本気で言ってるのか?」
拓也「本気じゃなくてこんな恥ずかしいこと言うか!バカヤロー!!!」

「スポッ!」
(抜けた!!!)

「ドーン!ガラガラどっしゃーん!!!」
甲冑から抜けた勢いで拓也が後ろの銅像に激突してしまった。
タダランティーノ「ちょ、た、拓也大丈夫かー?」
拓也「ん?あぁ、うん。まったくなんで俺がこんな目に・・・。」
タダランティーノ「あ、ありがとう。」
拓也「は?」
タダランティーノ「は?じゃねぇ!さっきの話だって!いままで何人も拓也みたいに人のためにこの力を使ってきたけど、拓也みたいなことを言ってくれたのは、お前が初めてだったよ。」
拓也「いや・・・、それは話の流れとゆーかなんとゆーか・・・。まぁ約束は約束だ。俺がお前を幸せにすればいいんだろ?ただし、お前もちゃんと俺のこと幸せにしろよな?」
タダランティーノ「任せろ!人に尽くすことだけは慣れてるからな(笑)」

タダランティーノの顔には今まで出会った中で1番幸せそうな顔をしていた。そして、それは拓也もまた同じであった。

ここから2人は互いを互いに幸せにしあい、タダランティーノはもちろんのこと拓也にとっても人生で1番幸せな時間を過ごしていった。

しかし、そんな幸せな時間もそう長くは続かないことを、タダランティーノは知っていた。




――――数か月後

2人はいろんなことをしてあげ、いろんなことをしてもらいました。
時には、拓也がタダランティーノに魔法を使うのはずるいとケンカになったこともありましたが、今ではタダランティーノが人の姿をしていないことなど忘れてしまうほどに2人は仲良く、そして幸せな日々を送っていました。


そんなある日の晩のことでした・・・。

拓也「ただいまー!今日は俺の手料理だぞー!タダランティーノは魔法で一瞬で料理作れるのにどう考えても俺が損してるよなー」
そんなこと言いながらも拓也の顔はとてもうれしそうだ。
タダランティーノ「・・・・・。」
部屋からは少しの物音もしない。
拓也「あれ?おっかしーなー?この時間までどこかに出ることなんてないはずなのに。」
タダランティーノ「・・・・・うぐっ・・。」
部屋からは誰かがすすり泣きしてる声と鼻をすする音が聞こえる。
拓也「なんだ、いるんだろー?出てこいよー!」
タダランティーノ「俺はここにいるで・・・。」
拓也「・・・・・!?」
声のする方を拓也がよく見てみると、確かにそこにはタダランティーノのすがたがあった。
しかし、彼の姿は拓也が家を出る前とは様子が違う。いま、目の前にいるタダランティーノは、まるで幽霊のように透き通った姿をしている。
拓也「お、お前それどうしたんだよ!?」
タダランティーノ「いつか拓也に言うつもりだったけど俺にお迎えがきてしまったみたいだ・・・」
タダランティーノの頬には大粒の涙がこぼれている。
拓也「お迎えってなんだよ?お前は俺とこれから生活するんじゃなかったのか!?」
タダランティーノ「もちろん、俺だってそうしたいわ!でも俺は1人でも多くの人を幸せにするという役目がある。同じ人の元にいられるのにも限られた時間でしかいられないんだよ・・・。」
拓也「う、うそだろ?」
タダランティーノ「今まで言えなくて本当にすまない。でも拓也と一緒に生活した時間は今までで1番幸せだった!ありがとう!」
拓也「ちょ、ちょっと!お前がいなくなってどうやってこれから俺は生きていったらいいんだよ!?」
タダランティーノ「拓也は誰よりも優しい奴だ。これからは俺以外の誰かを幸せにしてやってくれ。もう時間だ・・・ありがとう!」

拓也「ちょっと待ってくれ!最後の頼みがある!それだけ聞いてくれ!」
タダランティーノ「分かった。どんな頼みかい?」
拓也「タダランティーノ!これからはもう俺のことを魔法で幸せにしなくてもいい!だから、ずっと俺のそばにいろ!」
拓也の頬にもまた大粒の涙がこぼれている。

タダランティーノ「それは無理な願いだ。俺の望みごとに関する魔法はかけることができな・・・!!!?」
拓也「それはお前の望みじゃない。俺の願いだ!それなら魔法も使えるんだろ?」
タダランティーノ「お前、それ本気で言ってるのか?」
拓也「当り前だ!」
タダランティーノ「・・・分かった。ほーれ!!!!!!」

タダランティーノは拓也の願いの元で自分に魔法をかけた。
すると、少し前まで幽霊のように透けていたタダランティーノの体は見る見るうちに元どおりに戻っていく。

拓也・タダランティーノ「やったぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!!!」
拓也「これからも2人一緒にいられるんだよね?」

2人は泣きながら、抱き合いながら夜が明けるまで喜びました。


こうして拓也とタダランティーノはずっと一緒に、そして幸せに生きていきました。
9
112910 モモゼリー あんこ男〜BEST PARTNER〜 昔々ある町にあんこ男という青年がいた。
あんこ男はその町でヒーローとして有名人だった。
そんな夏休みのある日1人の子どもがお腹を空かせて公園で泣いていた。
 子どもA「うえ〜ん。お腹が空いたよ〜。」
そこへあんこ男が通りかかり声をかけた。
あんこ男「よしよし。僕の特製あんこを分けてあげよう。おいしいよ。」
そのあんこを食べるとその子どもは見る見る笑顔になった。
 子どもA「わ〜ありがとう。とってもおいしいかったよ〜。」
 あんこ男「そっかよかったよかった。じゃあまたね。」
あんこ男は優しい笑顔をで立ち去った。

この様子を見つめる影が一つあった。
謎の男性「・・・」

翌日・・・

二人の子どもが公園で何やら話をしている。
 子どもB「夏休みの宿題もう終わった??」
子どもC「全然終わってないよ〜」
子どもB「じゃあこの後僕の家でやろうよ。」
子どもC「そうだね。一緒にやろう。」
子どもB「それにしてもお腹空いたね。」
 子どもC「そうだね。おやつが食べたいな。」
するとそこへ謎の男性が訪れた。
 謎の男性「フフフ。俺様はあんこ男。君たちに特製あんこをあげよう。フフフ。」
 子どもB「わ〜い。ありがとう。」
 子どもC「この人が噂のあんこ男か〜。」
 謎の男性「フフフ。食べてごらん。フフフ。」
子ども達がそのあんこを食べた途端顔色が悪くなった。
 子どもB「うわまずい!!何これ!?」
 子どもC「うえ〜ん。お腹が痛いよ〜。」
 謎の男性「フフフ。じゃあね。フフフ。」
謎の男性はそのまま立ち去った。

数日後

またいつもの公園で子ども達が何やら話している。
 子どもB「あんこ男ってあんなに悪いやつだったんだね。」
 子どもC「あいつのせいでお腹がいたくなってしまったよ。」
それを聞いて子どもAは驚いた。
 子どもA「え!?あんこ男はいい人だったよ〜。」
 子B・C「え〜うそだ〜。」
二人も驚いた。
 子どもA「ほんとだよ〜。」
そこへ本物のあんこ男がやってきた。
 あんこ男「お〜い君たちあんこはいらないかい?」
 子どもA「あっあんこ男だ。」
 子どもB「えっこの人が?」
 子どもC「前と違う。」
 あんこ男「え?それってどういうこと?」
あんこ男は子ども達から先日の話を聞いた。
 あんこ男「え!?僕の偽物!?僕のあんこはおいしいよ。食べてみて。」
こども達は恐る恐るあんこを食べてみた。
 子どもB「うわ〜本当だ。」
 こどもC「おいしい〜。」
子ども達が喜ぶ中あんこ男は考えていた。
 あんこ男「それにしても一体誰が・・・」

 その1週間後

あの偽物のあんこ男による事件は日に日に増加していた。そんなある日あんこ男はこの町のもう1人のヒーロー、仮面太郎に相談していた。
 あんこ男「やあ。久しぶりだね、仮面太郎。最近僕の偽物がいて、賞味期限の切れたあんこを配っていて大変なんだ。」
仮面太郎はいつもマスクを着けているため表情はわからないが、驚いたようではなかった。
 仮面太郎「フフフ。久しぶりだな、あんこ男。それは大変だな。せっかくこの町一番の      ヒーローと言われていたのにな。気の毒だ。」
するとあんこ男は当然のように、
あんこ男「僕の評判より子ども達が心配なんだ。お腹を壊してかわいそうに。こんなことする奴は許せない。」
 あんこ男は悲しそうにしながらも怒りを覚えていた。仮面太郎はあんこ男の自分の評判は気にせず
、子ども達を心配する言葉を聞いて少し驚いた様子を見せたが、すぐにいつものクールな男に戻った。
 仮面太郎「フフフ。子ども達か。すまないが急用を思い出したので失礼させてもらう。またな。フフフ。」
 あんこ男「ああ。またね。」
あんこ男は不思議そうに仮面太郎の背中を見つめていた。


あんこ男と仮面男が話をしてからあの偽あんこ男は現れなかった。また仮面太郎もあれから姿を見せなかった。そんなある日、あんこ男はいつものように次の日のあんこの仕込みを終えて夜の町をパトロールしていた。
その頃あんこ男のあんこ工場に忍び込む1つの影があった。
 謎の男性「フフフ。」
あんこ男はパトロールを終えて工場に戻る途中、仮面太郎らしき人物が歩いているのを見かけた。
しかし、あんこ男は声をかけることができなかった。
仮面太郎の様子がそれを許さなかった。
あんこ男は先ほどの仮面太郎の様子が気になりながらも明日のパトロールの計画を立てているとその日は眠ってしまった。
翌日になりあんこ男は特製あんこを持ってパトロールに出かけようとしていた。
 あんこ男「今日もいい天気だな。さて今日のあんこもおいしそうだな。あれ?」
あんこ男はその時あんこから変なにおいがしているのに気付いた。
 あんこ男「おかしいなぁ〜?いつもはこんなにおいはしないぞ。」
あんこ男は一口あんこを食べてみた。
 あんこ男「ぶうぇ〜。このあんこ腐っている。」
口に入れた瞬間気が付いて吐き出したためあんこ男はお腹を壊さずに済んだ。
 あんこ男「くぅ、いったい誰が?・・・まさか!?」
何かに気が付いたあんこ男はパトロールには行かず仮面太郎の秘密基地へと向かった。
すると、そこにはあんこ男の知らない謎の男性が立っていた。
あんこ男は仮面太郎の素顔を知らなかったが今目の前にいる男性が仮面太郎だろうと確信して声を掛けた。
 あんこ男「君は仮面太郎だね?」
 謎の男性「フフフ。いかにも私が仮面太郎だ。フフフ。」
やはりその男性が仮面太郎だった!!
 仮面太郎「フフフ。あんこ男いったいどうしたというのだ?今はパトロールの時間だろう?フフフ。」
 あんこ男「そうだね。確かに今はパトロールの時間だ。でもパトロールの時に配るはずだったあんこが腐ったあんこにすり替えられていたんだ。」
あんこ男は鋭く睨めつけながら答えた。
 仮面太郎「フフフ。ほう、するとそれは例の偽物の貴様の仕業か?フフフ。」
仮面太郎はいつもの様に冷静だ。
 あんこ男「そうだ。その偽物の僕がやったに違いない。昨夜の仕込みの時までは無事だったんだ。僕が夜のパトロールに出かけている間にやられたんだ。君は昨夜どこにいたんだい?」
 仮面太郎「フフフ。犯人捜しってわけか。何が言いたい?はっきりといったらどうだ?フフフ。」
仮面太郎は挑発するように言った。
 あんこ男「僕は君が犯人じゃないかと疑っているんだ。僕は昨夜君が工場の方から変な様子で歩いてくるのを見た。」
あんこ男は怪訝な顔しながら問い詰めた。
仮面太郎は少し眉を寄せたがすぐに元の表情に戻った。
 仮面太郎「フフフ。そうか。見られていたか。フフフ。」
 あんこ男「認めるんだな?どうしてそんなことをした?」
あんこ男の怒りはついに頂点に達した。
仮面太郎はいつもとは少し違う仮面を装着しながら答えた。
 仮面太郎「フフフ。これから消える者に答える必要があるのか?フフフ。」
言い終わると同時に仮面を装着し終えた。すると仮面太郎から物凄い殺気が放たれた。
 あんこ男「ぐぅ。やめるんだ仮面太郎。僕たちが本気で戦ったら周りにも被害が。」
 仮面太郎「フフフ。ついてこいとっておきの場所がある。フフフ。」
仮面太郎はそう言うと基地の地下に向かっていった。
基地の地下そこには白くて広い空間が広がっていた。
 仮面太郎「フフフ。ここなら好きなだけ暴れても大丈夫だ。フフフ。」
 あんこ男「どうしても戦わなくちゃいけないのか?僕は君を傷つけたくない。」
 仮面太郎「フフフ。心配するなこの仮面をつけた以上貴様は私に傷をつけることなどできない。フフフ。」
 あんこ男「その仮面。いつもと違うようだが一体何なんだ??」
仮面太郎は待ってましたとばかりに答えた。
 仮面太郎「フフフ。いつもの仮面は私の強大な魔力を抑えておくためのものだ。これは魔力を最大限に引き出すためのものだ。フフフ。」
言いながら仮面太郎は両手を前に出して呪文を唱えだした。
すると顔の大きさほどの青白い光の球ができてきた。
あんこ男「くっ。そういえば君は強力な魔法を使う国から来ていたね。」
仮面太郎は返事の代わりにその光球を放った。
光球は一直線にあんこ男に向かっていくがあんこ男は持ち前の動体視力と身体能力で難なく避けた。
光球は後ろの壁に直撃した。
だが、仮面太郎の言った通り壁は無傷だった。
 仮面太郎「フフフ。さすがだな。ならばこれはどうだ。フフフ。」
今度は先ほどの倍以上の大きさの光球をしかも二つ放った。
あんこ男は今度の光球も避けた。
しかし、仮面太郎が何かを引っ張るように両手を動かすと二つの光球はUターンをして更にあんこ男に向かってきた。
 あんこ男「なに!?仮面太郎の手で操っているのか?」
あんこ男は向かってくる光球を器用に避けるが光球の方もしつこく追いかけてくる。
二つではあんこ男に当たらないと判断したのか仮面太郎は更に二つの光球は放ち合計四つの光球があんこ男を追いかける。
それでも並外れたあんこ男の身体能力によっていとも簡単に避けられる。
 仮面太郎「フフフ。どこまで避けきれるかな?フフフ。」
仮面太郎は更に光球を増やしていく。
光球の数が10個を超えた頃からあんこ男の動きに隙が見えてきた。
 あんこ男「くっ。このまま増やしていかれるとこれ以上はキツイな。そうだ!!」
あんこ男は何か策を思いついたようで一瞬動きを止めた。
すると光球が一斉にあんこ男に迫ってきた。
 あんこ男「・・・今だ!!」
あんこ男は寸前のところで避けた。
すると光球同士がぶつかり大きな爆発となった。
 仮面太郎「フフフ。やってくれるじゃないか。しかし困ったな。爆発の煙で周りが全く見えない。フフフ。」
突然あんこ男が仮面太郎の前に現れたかと思うと一瞬で消えた。
次の瞬間光球の一つが仮面太郎に向かって飛んできた。
 仮面太郎「!?」
また、爆発が起きた。
あんこ男はわざと大きな隙をつくり、光球が一斉に飛んでくるとギリギリで避けて光球同士をぶつけさせて爆発させたのだ。
更に、一つ残った光球に気付き爆発の煙を利用し仮面太郎の目の前ギリギリで避けて仮面太郎に自分の光球をぶつけたのだ。
煙が晴れると無傷の仮面太郎が姿を現した。
 仮面太郎「フフフ。今のはさすがに驚いた。フフフと言うの忘れてしまったではないか。フフフ。」
 あんこ男「何!?確かに当たったはずだぞ。」
 仮面太郎「フフフ。当たったさ。私の結界にな。フフフ。」
 あんこ男「あんなギリギリのところで結界を張るなんて。なんて反射神経だ。」
 仮面太郎「フフフ。貴様こそな。だがこれなら避けることはできないぞ。フフフ。」
そういうと仮面太郎は高い天井に向かって手を上げた。
するとあんこ男の上から無数の光の矢が降ってきた。
あんこ男も必死で避けているが数本当たりはじめた。
だが、降ってくる光の矢は更に数と勢いを増しきた。
その勢いで煙が立ち込めてきてあんこ男の姿は煙に隠されてしまう。
 仮面太郎「フフフ。さすがにこれでは無事では済まないだろう。私も魔力を消費しすぎるがな。フフフ。」
煙が晴れてくると結界に守られたあんこ男が姿を見せた。
無数の擦り傷はあるがまだまだ戦えそうだ。
 仮面太郎「結界だと!?貴様も魔法が使えたのか?」
仮面太郎はフフフを完全忘れるほど驚いた。
 あんこ男「少しだけなら使えるさ。この僕の必殺技も魔法だったのさ。」
そう言うとあんこ男は右手に力を込める。
 仮面太郎「フフフ。そうだったのか。来い!!私の最高の結界で貴様のあんパンチも受け止めてやろう。フフフ。」
仮面太郎も前面に分厚い結界を展開した。
 あんこ男「これで終わりだ!!仮面太郎!!」
あんこ男は物凄いスピードで仮面太郎に詰め寄る。
仮面太郎も身構えて結界に更に魔力を込める。
 あんこ男「あんパンチ!!!!」
物凄い凄い爆発と衝撃波が地下室を揺らす。
その音は地上にまで聞こえてきた。
 子どもA「うわーなんだなんだ??」
 子どもB「びっくりした〜」
 子どもC「一体何の音だったんだろ?」
地下室はまだもの凄い煙に包まれていた。
果たしてあんこ男と仮面太郎はどうなったのか!?
煙が晴れてきた。そこには二人の男が立っていた。
一人の拳がもう一人の顔の前で止まっていた。
仮面太郎の仮面にヒビが入り粉々に砕け散った。

 仮面太郎「どうして当てない?」
 あんこ男「これで僕の勝だ。勝負がついたらとどめを刺すことはない。」
 仮面太郎「フフフ。貴様は甘いな。参った。私の負けだ。フフフ。」
仮面太郎は跪いた。
 あんこ男「いったいどうしこんなことを?」
 仮面太郎「フフフ。こんなことと言うのは腐ったあんこのことか?この町にヒーローは二人いらない。だから貴様の評判を下げてやろうとしたのさ。フフフ。」
 あんこ男「だからって子ども達にあんなものを食べさせるなんて!!」
 仮面太郎「フフフ。わかっていたさ。だから今回は賭けだったのさ。貴様がすり替えられたあんこに気が付かなければ私の勝だ。貴様から直接大量の腐ったあんこを配られれば貴様はもう終わりだった。だが貴様はあんこの中身だけでなく犯人にも気が付いた。貴様がここに来た時点で私の負けだったのだな。フフフ。」
仮面太郎は自嘲気味に語った。 
あんこ男「どうして二人でこの町を守るということがダメだったんだ?僕は君のことをパートナーと思っていたのに。」
あんこ男は悲しそうに尋ねた。
 仮面太郎「フフフ。パートナーだと?ヒーローとして人気では貴様には勝てっこがないんだよ。力なら私が上だと思ったがそれすら貴様に負けてしまった。やはりこの町のヒーローは一人で十分だったということだったな。フフフ。」
 あんこ男「仮面太郎・・・」
 仮面太郎「フフフ。私は今晩この町を出る。迷惑を掛けたな。この町は頼んだぞ。フフフ。」
仮面太郎はそういうと地下室から出て行った。
あんこ男も仮面太郎が出ていくのを悲しそうに見つめた後地下室から出て行った。

 その夜

町から出ていく仮面太郎は名残惜しそうに町を背に歩いていた。
 あんこ男「仮面太郎!!」
自分を呼ぶ声に振り向くとあんこ男が立っていた。
 仮面太郎「フフフ。あんこ男・・・今は夜のパトロールの時間だろ?フフフ。」
 あんこ男「君のことだ。僕に出会わないようにこの時間に町を出ると思ったよ。長旅になるかもしれないだろ?これを持っていきなよ。」
あんこ男は大量のあんこを仮面太郎に渡した。
 仮面太郎「フフフ。このあんこは腐っていないだろうな。フフフ。」
仮面太郎は涙を流しそうになるのを堪えながら笑った。
 あんこ男「このあんこはおいしいよ。僕の仕事は泣いている人やお腹が空いた人においしいあんこを配ってあげることだよ。」
あんこ男は微笑みながら言った。
仮面太郎の目からは一筋の涙が垂れた。
仮面太郎「フフフ。では次の人のところに早くいくんだな。フフフ。」
 あんこ男「じゃあまたね。」
またという言葉に仮面太郎は驚いたが笑顔でそれに答えた。
 仮面太郎「フフフ。あぁまたな。フフフ。」
仮面太郎はもう何も心残りはないというように堂々と町を去っていった。
その後ろ姿を見送るとあんこ男もパトロールに戻っていった。
これからは仮面太郎の分も町を守るヒーローとして活躍することを心に誓って。



 子どもD「うぇーんお腹が空いたよ〜。」
 通りすがりの旅人「フフフ。あんこをやるから泣くな。これは私の『パートナー』が作った特製あんこだからおいしいぞ。フフフ。」



お わ り 


8
112912 メンデルスゾーン 浦島太郎(内容一部編)  昔、ある村に心の優しい浦島太郎という若者がいました。浦島太郎は毎日海へ出て魚を採りに行っていました。浦島がいつものように海辺を通りかかると、少年が寄ってたかってカメを取り囲み、いじめていました。少年たちは「カメは本当に歩くの遅いんだよー。とろとろするなよー。おい!」と言って、カメが動けないように縄をぐるぐるに縛っています。カメは「助けて、」と叫びながら、必死に縄をほどこうとしています。しかし浦島が「おいおい、やめなよ。カメがかわいそうだよ、逃がしてやりなよ。」と言っても、少年たちは「いやだよ、逃がしてやるもんか。こいつが悪いんだよ、おとなしくいうことを聞かないから。」浦島はカメの苦しんでいる顔を見ていられなくなり「それでは、ここにある財宝を渡す代わりにカメを逃がしてやってくれないか?」と少年たちにお願いした。すると少年は「えっ、財宝?仕方ないなあ。財宝をくれるならこいつを返してやるよ。」こうして浦島はカメを受け取ると、「おい、大丈夫か?苦しかっただろう?もうあいつらに捕まるんじゃないぞ。」と言ってカメを海へそっと戻してやりました。
 さてカメの騒動から数日たった後、朝早くから浦島は海へ出て魚を釣っていると「浦島さん、浦島さん」という声が背後から聞こえてきます。浦島はこんな時間に誰だろうと思って振り返ってみると、それはそれはついこの間少年に捕まっているところを浦島が助けたカメだったのです。浦島は「どうしたんだい?また悪い奴がいるのか?」と聞きました。カメ「いえ、そうじゃないんです。浦島さんにこの前助けていただいたお礼として浦島さんを竜宮城へ連れて行ってあげたいと思っているんです。」
浦島「竜宮城?」
カメ「美しい姫が暮らしているすごく素敵なところです。さあ、行きましょう!私の背中に乗ってください。」と言い、すぐさま浦島を背中に乗せてなんと海の底へどんどんもぐっていきます。浦島は「どうして竜宮城へ行くのに海底へ行くんだい?」と心配そうに聞きます。するとカメが「実は竜宮城は海の底にあるんだよ。」と答えてました。海底は鮮明なまばゆい光が差し込み、サンゴの林が美しく続いています。浦島はこの透き通ったきれいな海に包まれて気持ちよさそうにカメの背中に乗っていました。やがて二人の目の前にとてつもなく大きな洞穴が現れます。カメがそのうす暗い洞穴に入っていくと、二人は何か神秘的なベールに包まれてしまいました。カメ「うぅ、」浦島「カメ!無事か?」カメと浦島は洞穴に入ってから気を失ってしまっていたようです。二人が意識を取り戻してあたりを見渡すと、目の前には大きなお城があります。
浦島「おや、ここは、どこだ?」
カメ「着いたようです、浦島さん。ここが竜宮城です。」
すると二人のもとに美しい姫が城から現れました。「あら、カメさん。お友達を連れてきてくれたの?」と言って二人のもとへ近づいてきます。気を失っていた浦島は姫の美しい姿に魅了されてしまいます。二人は姫に連れられて竜宮城へ入っていきました。浦島は姫が用意してくれていた席へ座ると、魚たちが次々とおいしそうなごちそうをテーブルに運んできます。部屋には気持ちのよい音楽が流れ、姫の言われるまま過ごしていました。姫は浦島の家のことが心配になり聞きました。「浦島さん、地上の家族のところに帰らなくても大丈夫ですか?」浦島は「ああ、家の者は今遠出をしているみたいなので全然大丈夫です。お気にならないでください。」浦島は地上の生活では考えられないような姫の温かいもてなしを受け、姫と一緒に踊ったり歌を歌ったり幸せな生活を送っていました。しかし、浦島は知らないうちに三年も竜宮城で暮らしていたのです。浦島が竜宮所で暮らして三年がたったある日のことです。竜宮城で姫と楽しい日々を送っていた浦島は、急に家族や友達は今頃どうしているんだろうと心配になってきました。浦島は「姫、今まで楽しい時間を姫と過ごせて本当に良かったです。しかし、地上には私の帰りを待ってくれている者もおりますのでそろそろ帰らせていただきます。」と姫に言います。姫は「せっかく来てくれたのにもう帰られるのですか?もう少しゆっくりしてくださってもいいのですよ。」浦島は「ここに残っていたい気持ちも山々ですが、家族や親せき、友達をきっと心配させているので、帰ることにします。」姫は残念そうに「分かりました。それならばこのお城で私と過ごした三年の「時」が入った玉手箱をお土産としてもらって帰ってください。」
浦島「玉手箱?」
姫「はい、その玉手箱はお守りとしてずっと持っておけば今の若いままの浦島さんの姿でいることができます。ですが、もしその箱を一度でもあけてしまうと大変なことになります。良いですか?私からのお願いです。絶対にその箱を開けてはいけません。」
浦島「はい、絶対に開けません。もし開けてしまうとどんなことが起きるのですか?」
姫「それは秘密です。私からは教えることはできません。とにかく開けないでください。」
浦島「分かりました。」
姫「またいつでも竜宮城に遊びに来てくださいね。気を付けて地上へ帰ってください。」
 姫から玉手箱を受け取って、再びカメの背中に乗って地上に戻った浦島はいつも釣りをしている浜へ到着しました。しかし、浦島はすぐに地上の様子がいつもと違っていることに気づきました家族や友達はどこを探してもいません。カメをいじめていた少年たちもいません。浦島は家族が無事に暮らしているか心配になってきました。自分の家までも見つけることができない浦島は道で歩いている人に「あのー、このあたりに浦島という家があったのですが何か知りませんか?」と聞きました。住人達は「浦島?んーどこかで聞いたことのある名前だなあ。あっ、そうそう浦島という人は数千年くらい前に出て行ったきり帰って来てないと聞いたことがあるよ。どこかに引っ越してしまったんじゃと思うよ。」浦島「えーーーっ、数千年?そしたら家族も友達も死んでしまったのか。私が竜宮城で暮らしていたのは3年ではなかったのか?のんきに姫と遊んでいる場合じゃなかった。」と周りに誰もいない状況を知って浦島はがっくり肩を落としました。そう、浦島の竜宮城での三年間はなんと地上では何千年に値していたのです。すると浦島はふと手に持っていた箱に目をやりました。竜宮城で姫にもらった玉手箱です。「姫は絶対に開けるなと言っていたが、開けたらどうなるんだろうか?もう私には自分の家もないし、家族も友達もいないんだ。何もしようがない。ええぃ、開けてしまえ。」と投げやりになり姫から開けるなと忠告されていた玉手箱を開けてしまったのです。開けるとすぐに箱から白い大量の煙が出てきました。モアモアモア、と浦島は白い煙にすっぽり覆われてしまいました。するとなんと煙にまみれた浦島の目の前には竜宮城で姫と過ごした至福のひと時が次々とうつし出されていきます。愉快な音楽を聴きながら姫とごちそうを食べたり竜宮城に暮らす魚たちと姫と一緒に踊ったりもしました。初めはこの玉手箱によって「時」が戻り、竜宮城にまた戻れたんだと思っていましたが、浦島はなんと髪の毛が真っ白でひげをたくさん生やして、気づけばおじいさんになってしまっていたのです。浦島はこのままの姿ではいけないと思って、カメに「頼む、もう一度竜宮城へ連れて行ってくれないか?姫のところへ。このままでは私は何もできない。姫に元の姿に戻してもらいたい。それから地上の家族や友達も元に戻してほしんだよ。」カメは「あれほど姫は玉手箱を開けるなと言っておられたのに、言うとおりにしないからですよ。元に戻るかは分からないですよ。」と言いながらも浦島をまた背中に乗せて姫がいるであろう竜宮城へ親切にも連れて行ってくれました。浦島は竜宮城へ着くと姫のもとへたどり着くと、姫は部屋にいました。「あれ、浦島さんですか?まさかあの玉手箱を開けたんですか?」浦島は「地上に戻ると誰もいなかったのです。そしてこの老いぼれた姿の私一人では何もできないと思って、玉手箱を開けてしまいました。どうか私と地上の私の家族を元に戻して下さい。」
姫「それはできません。あなたは私の約束を破ってしまったのです。私はあなたに何回もこの箱を開けてはいけないと言いました。それなのにあなたは約束を破ってあけてしまったのです。」
浦島「それにしてもひどいです。私の家族は?私の家は?私の友達は?もう二度と会えなくなるのですよ。」
姫「あなたは一体このお城で何年暮らしていたと思っているのですか?私の忠告も聞かずにそして自分の家のことも考えずにここで自由にくつろいで、私が家のことを心配してもあなたはのんきに大丈夫だと答えましたよね?」
浦島「それは、でもあの時家族は遠くに出かけていて。」
姫「あなたが嘘をついておられたのは分かっています。家族のことを真剣に思っていたら三年も家に帰らないなんてことはしません。玉手箱は私があなたのそのどうしようもない根性を確かめるために渡したんです。この玉手箱を開けずに丸一日過ごせば家も家族も戻ってくるようになっていたのです。あなたは私がチャンスを与えてあげたのにもかかわらず重大なことに気付かなかったのです。」
浦島「そんな、私の家族が。」
ひげを顎にたくさん生やした浦島はがっくりうなだれました
 浦島はカメを助けた恩恵で竜宮城へ行くことができました。姫から豪華な食事をごちそうされて、時を忘れていつの間にか三年も地上の家族のことを一切考えず自分の幸せだけを考えていたのです。姫はその浦島の城での様子をずっと見ていたのです。浦島のその家族に対するままならぬ気持ちを叩き直すために姫はチャンスも与えました。しかし浦島は玉手箱を開けてしまい、そのチャンスまでも逃して家族、家、そして若かったころの自分の姿さえ失ってしまったのです。
7
112913 ケイオス くまのプー きのうの100エーカーの森は、大雨にみまわれました。そんな次の日の朝のことのできごとです。
「ああ、おなかがグーグーいってる。そうだ、ごちそうにしよう」
そういって、くまのプーははちみつをたべようと森に行きました。
「あれぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!」
 とつぜん、プーはさけびました。
「たいへんだ。ぼくのはちみつが ぜんぶ雨にながされちゃった」
 みるとおおきな大きなくぬぎが きのうのあらしで じめんにたおれています。
 「ぼくのはちみつちゃん。ぼくのはちみつちゃん」
 そうくりかえしながらくまのプーは はちの巣穴に手をつっこんでは のこったはちみつをなめました。しかし、一晩中つづいたあらしのために はちの巣穴はすっかりあめにながされてしまいました。
 「ぼくのはちみつちゃーん。ぼくのはちみつちゃーん」そうさけぶとプーはちかくにあったいしころをちかくのすぎのきにぶつけだしました。
 4つめのいしを なげつけたときです。
 そのいしがちょうど すぎのきにあった カラスの巣にあたり、おこったカラスのおかあさんがプーめがけたとっしんしてきました。
 「ごめんよ。ごめんよ。ねらったわけじゃないんだ」
 謝りながら、あわててやぶのなかににげこんだので、プーはとうとうアカシヤのやぶのなかにとびこんでしまいました。
 「いててててっ!」プーはなさけないこえをだしました。アカシヤのとげがからだじゅうにささっています。「これもきのうのあらしがいけないんだ。あれさえなければ ぼくはいまごろはちみつをおなかいっぱいたべていたんだ」
 そういうとプーは、はちみつのことを思い出してごくりとつばをのみました。
 「まったくあたまにくるよ」
 あいかわらずくまのプーはぷんぷんしています。そしてこんどはおおきなかれえだをふたつにわると、おもいっきりいけのなかになげました。
 とおくまでとんだそのかれえだは、ちょうどひるねをしていたカワウソのチョップの巣穴のうえにおちました。
 「こら!ひるねのじゃまをするやつはだれだ!」
 かんかんになってチョップがとびだしてきました。
 「ごめんよ。わるぎがあったわけじゃないんだ。ただむしゃくしゃしていただけなんだ」
 「むしゃくしゃしているからって、やつあたりされたんじゃたまらないよ。でも、どうしてそんなにおこってるんだい?」
 プーはあさからおきたことをチョップにいいきかせました。
「そうだったのか? それじゃおみまいにぼくがきみにおおきなニジマスをプレゼントするよ」
 そういうとチョップはいけのなかにもぐって おおきなニジマスを いっぴきくわえて水面にあがってきました。
 「すごいすごい!」
 プーはおおよろこびでみずのなかにとびこんでいきました。ところが ついうっかりこいしにあしをとられて、チョップのうえにたおれてしまいました。
おどろいたひょうしにチョップは、いまとったばかりのニジマスをにがしてしまいました。
 「なにをするんだ! せっかくとったニジマスを!」  チョップはどなりました。
 「ぼくがわるいんじゃない。こんなところにあるいしころがわるいのさ」
  プーは、いらだちまぎれにその小石を、いけのちゅうおうにほうりなげました。
 「やめてくれ!さかながにげちゃうじゃないか?」チョップはもうかんかんです。
 「なにを言うんだ。いけはみんなのものだぞ」
 そういうとプーはまたいしをひろってなげようとしました。
 するとまたあしをとられて すってんころりーんとみずのなかにおちてしまいました。なんとかみずからでようとするのですが 川底のいしがぬるぬるしてたちあがれません。とうとうプーはかわしもにながされていきました。
 「おーい!たすけてよ。」
 あいかわらずプーはみずのなかでもがいています。

 どれくらい川下に流されたでしょう。みずかさがあさくなったところでプーはようやくみずからあがることができました。
 ずぶぬれになってくさむらのうえでやすんでいると、だれかがうたをうたいながらちかづいてきます。

あなたはどうしておっちょこちょい
あなたといっしょにいるだけで
わたしたちまでおっちょこちょい
あなたのおっちょこちょーいは
どうしてどうしてなおらない
だってわたしもおっちょこちょい
いつまでたってもおっちょこちょい
ちょこちょこまがっておっちょこちょい
 
「ん!そこのへんてこりんなうたをうたっているのはだれ?」
 くまのプーは大きな声で言いました。
 「なんだ。プータじゃないか?」
 ようきにうたっていたのはトラのティガーでした。
 「プータじゃないよ。プーだよ」
 「なんでこんなところでおよいでるの?」
 「およいでるんじゃないよ。おっこちたんだよ」
 「なんでおっこちたの?」
 「いしにあしをとられたんだ」
 「なんでいしはきみのあしをとるんだい?」
 「ぬるぬるしてたんだ」
 「ぬるぬるしてるのにどうしてあしをとれるんだい?」
 「もう! ティガー!きみはぼくをばかにしてるの?」
 とうとうプーはおこしてしまいました。

 「・・・・・というわけでぼくはきょう あさからとにかくあたまにきてるんだ」
 しばらくしていかりのおさまったプーは はなしだしました。「とにかくついてないよ。あたまにくればくるほど、あたまにくることがつぎからつぎにおこるんだもの。ねえ、ティガー、どうしたらおこっているきもちはなおるんだい?」
 「ムムッ。ムムムッ。」
 ティガーはいっしょうけんめい考えています。そして言いました。
「バクダンだよ」
 「いかりってバクダンみたいだよね。ばくはつしてどなったり、ばくはつしてあたりちらしたり。だから、そのバクダンをどこかでばくはつさせちゃえばいいんじゃないかい?」
 「それだ!」
 プーはおもわず手をたたきました。
 「それだ!それだよ。ぼくがひつようなものは。こころのなかにあるバクダンをばくはつさせなきゃ、ぼくはもうはらのむしがおさまらないよ」
 ふたりは川から大きな石をあつめて 丘の上にはこびました。そしてそのいしにどろをぬってバクダンをつくりました。ふたりはひとつひとつおかのうえにバクダンをつくってはつみかさねていきました。そしてぜんぶで20このバクダンをつくりおわったときです。
 「よーし。もうこれでいいよ。これだけあればじゅうぶんさ」
 そういうとプーは手の泥を払い落としました。
 「いいかいパンチ。ここからバクダンをなげてばくはつさせるんだ」
 かおじゅう泥だらけになったティガーがいいました。
 「よーしいくぞ」
 そういうとプーはかたっぱしからいしのバクダンを ふもとの林めがけた投げだしました。
 「あらしのばかやろー。ぬるぬるいしのばかやろー。ニジマスなんかくうもんか。僕のはちみつかえせ!」
 プーのさけびごえはもりじゅうにひびきわたりました。
 「このバクダンをいっきにばくはつさせたプーはひたいにあせをかいています。
「どうだい。すっきりしたかい?」
 「うん。すっきりした。すっきりした」
 はあはあといきをきらしながらプーはこたえました。 「なにせぼくのこころのなかには あさからいっぱいバクダンがつまっていたんだからね」
 ふたりはあしどりもかるくもりにかえっていきました。

 もりのぬけみちをとおってすあなにかえってきたときでした。とつぜんプーがさけびました。
 「あああああああああ」
 つづいてティガーもさけびました。
 「あああああああああ」
 みるとプーのすあなに おおきないしがうずたかくつまれていて かんぜんにいりぐちがふさがれています。
 「いったいだれがこんなことを!」
 プーはあわてていしをどけまじめました。おおきないしは かんぜんにすあなのなかまではいりこみ なかのねどこまでめちゃくちゃです。
 「あああああああああ」
 プーはなきだしました。
 そのときです。猫のトムがあらわれました。
 「トム。きみはみなかったかい。誰か僕の家に石を投げつけてやつがいるんだ。みてくれよ」
 「そういえば・・・・・」
 トムはしずかにこたえました。
「さっきおかのうえからおおきなおとをたてて たくさんのいしがころがってきたって、なかまたちがいってたよ」
 「おかって、どのおかだい?」
 「おがわのちかくの ティンガーヒルさ」
 「エエエッ!」
 プーとティガーはおもわずかおをみあわせました。ふたりがよくみると、確かに目の前の石ころは 自分たちが川から拾ってきたいしによく似ています。そして数もちょうど20個あります。
 ふたりはおもわずその場にへなへなとしゃがみこんでしまいました。
 くびをかしげているトムにむかって ふたりはこれまでのいきさつをはなしてきかせました。
 「なんでもっとはやくぼくたちにしらせてくれなかったんだよ!」
 プーはトムにやつあたりをしました。
 「自分の家に向かって石を投げるなんて そんなばかなことがあるもんか。どうしてもっとはやくとめてくれなかったんだよ!」
 プーはくやしまぎれに こんどはいしをふりあげて 自分の家をこわしはじめました。
 そのときです。プーのなげたいしがほかのいしとぶつかりあってひばながとびました。そしてそのするどいかけらがトムのうでにささりました。
 「いたい!」
 トムがさけびました。
 おさえた 手からはまっかな ちがでています。
 「トムだいじょうぶかい?」
ティガーがトムの傷口をなめはじめました。
 「ごめんよ。トム」
 プーはとうとうとうなきだしてしまいました。

 もうなみだがでなくなったころ、プーがぽつりとききました。
 「トム。きみはどうしておこらないんだい? そんないたいめにあったのに。きみはボクにぜんぜんおこらない。どうしてだい?」
 「おこるよ。でもすぐはおこらない。ゆっくりおこるのさ」
 「どうやったらゆっくりおこれるんだい?」
 「いかりはバクダンみたいなもんだろう。」
 「そのとおり!」
 ティガーがてをうちならしました。
 「だからそれをどこかになげつけてばくはつさせればいいのさ」
 「そのとおり。そしてこのありさまさ」
 プーはおおきなためいきをつきました。
 「いかりのバクダンは かならずほかのひとをきづつけてしまうのさ。だからいかりのバクダンは、ぜったいひとをきづつけないところになげなくちゃいけないのさ」
 「それはどこだい?」
 「いかりのバクダンをなげつけてもきづつかないのはかみさまだけさ。だからぼくは おこったときはすぐ おいのりをして いかりのバクダンをかみさまにわたして ばくはつさせてしまうのさ」
  それから三人はきょうりょくしてプーのあなぐらから30このいしをとりのぞきました。

 つぎのあさはやく くまのプーは もりのひろばめがけてはしりだしました。もりのなかまたちとかくれんぼをするのです。しかし、途中のきりかぶにつまづいてごろごろところがってしまいました。

 プーはあたまにきてそのきりかぶをけとばそうとしました。しかし、きのうのトムの言葉をおもいだしました。そしていのりだしました。
 「かみさま。ひとこともうしあげますが。まるでぼくがここでころぶようにあなたがきりかぶをここにおいたみたいじゃないですか? おねがいですからこのつぎはこんなところにきりかぶをつくらないでください。いまぼくのいかりのバクダンをかみさまにささげます。どうかばくはつさせてください」

 するとプーのこころはふしぎなようにおだやかになっていきました。そしてそのきりかぶにこしをおろすとうえをみあげてつぶやきました。
 「ありがとう。かみさま」

 そのときです。プーのみみもとにいっぴきのみつばちがとんできました。ハッとしてうえをみあげるとおおきなくぬぎのきのえだのうえに、みつばちの巣穴があるのがみえました。
 「ヤッター!」
 プーはおもわずさけびました。
 「かみさまありがとう。またはちみつをくださってありがとう。いかりのバクダンをもらってくれてありがとう。だれもけがをしないようにまもってくれてありがとう」
そういって、プーは大好きなはちみつをなめはじめるのでした

おしまい。
6
112914 うぐいす 雪の日にもう一度 雪の降る夜。というよりもこの地域では常に雪が降っている。
雪の降らない日は無いほどだ。そんないつもと変わらない日常の中で、僕は彼女と出会った。
彼女は着物がよく似合う京美人な人だった。あとで聞いた話だけど、家が着物を扱う商売をしているらしく、彼女にとって私服が着物というのはさして珍しくはないそうだ。
僕が初めて彼女に会ったその日も、着物を着ていた。
いつもよりは少し暖かいけれど、雪がチラチラと降っていたのでそれなりに寒い。
散歩が趣味である僕は、大きな池に沿うようにある三日月の形をした公園を散歩していた。すると白い景色の中に赤い着物を来た彼女が向かいから歩いてきた。
赤い着物に白いストール、白いニット帽。着物も白だったら完全に風景に溶け込むことができたであろう。
僕はいつもと違う光景に驚いていたのと同時に、赤い着物を着た彼女に見蕩れていた。
キシキシと雪を踏みしめながら楽しそうでいてどこか儚げに歩く彼女。
今改めて思うと、きっとこの瞬間から僕の気持ちは彼女に惹かれていたのかもしれない。
だんだんと距離が縮まり、すれ違う瞬間に彼女は小さくおじぎをした。僕もつられて頭を下げる。
完全にすれ違いきったあと、僕は思わず振り返った。そして彼女の後ろ姿をぼんやりと眺めていた。

次の日も、同じ公園に来ていた。下心丸出しかと思われても仕方ないと思っていた。
今日は散歩に行かないつもりだったのだけれど、彼女に惹かれた心はとても手強くて、また公園に連れて行けと胸の中で大暴れしていた。
ストライキを起こされては困るので、やれやれと思いながらも僕は意気揚々と散歩に出向いた。
昨日とさして変わらない時間。しかし昨日よりは雪が多く降っているように感じる。
視界が若干悪いが、この街で暮らしているなら対して問題になる量ではなかった。
彼女に会えることを期待しながら心を躍らせて散歩をしていると、向かい側から彼女が現れた。
今日の彼女は、昨日とは少し色合いが違うが、また赤い着物を着ていた。昨日のが『紅色』だとするなら今日のは『朱色』だった。
そして着物だけでは寒いのか昨日と同じく、白いストールと白いニット帽もつけていた。
昨日と同じようにすれ違うときになると、彼女は小さく頭を下げた。僕も同様に小さく頭を下げる。
そして僕は昨日と同じように振り返った。
「あのっ」
昨日は見送った彼女の背中に勇気を振り絞って声をかけた。もしかしたら声が上ずっていたのかもしれない。
彼女は小さな笑みを零しながら振り返る。
「また明日もここに来ますか?」
彼女はその問いに首を縦に振ると、また元の方向へと歩いて行った。

次の日も僕は公園を同じ時間に散歩していた。もちろん彼女に会うためだ。
どう考えても不純な理由ではあったが、昨日の会話をしたあとで来ないわけにはいかない。
そんな言葉で自分を正当化しながら散歩をしていた。
今日も雪が降っている。昨日ほど多くはなく風も無いが、少し水分を含んでいるせいか重い雪が降っていた。
彼女と出会うであろう場所にたどり着いたと同時に、うっすらと赤い姿が見えてくる。
それを彼女だと認識するのに時間はかからなかった。
僕は少し小走りで彼女に近づくと声をかけた。
「こんにちは」
彼女の着物は、先日が『紅色』、昨日が『朱色』だとすると、今日のは前の二つよりも断然濃い『緋色』だった。そして白いニット帽とストールはいつもの通りだった。
「こんにちは」
彼女は微笑みながら挨拶を返してくれた。思わず笑顔になる。
その後、僕と彼女は短い時間ではあったが、談笑とは言えないほどの当たり障りのない立ち話をした。
この辺に住んでいるのか?どうして着物なのか?なぜニット帽とストールは欠かせないのか?など、本当にどうでもいいことを聞いたと思う。いろいろな質問に彼女は少し驚いたような時もあれば、笑って答えてくれたりもした。
気が付けば僕ばかり質問する形になってしまっていたのに気がつき、彼女に聞きたいことは無いかと訪ねたところ、それはまた次回、と言われそこでお開きとなった。
いつものように彼女の背中を見送った僕は家路についた。

次の日。
また僕は彼女に会うために公園に来ていた。
しばらくすると彼女が現れ、白い景色の中に赤い姿を映した。今日は最初に見かけた『紅色』の着物だった。
話を聞くと、赤い着物は3色しか持っていないらしい。
「どうして赤なのですか?」
そう尋ねると、彼女は少しうつむいてしまった。
「今日は私の番ですよね?」
少しの沈黙のあと、顔を上げた彼女はいたずらに微笑み言った。
彼女からの質問も当たり障りのないものだった。
どうして公園を歩いているのか?この辺の人なのか?私のことを知っているのか?などだった。
僕は隠すようなことは無かったので、質問全部に正直に答えた。
質問をしている最中に彼女が懐かしそうな顔で僕に微笑むのが少し気になった。
そのことを彼女に伝えると、気のせいだと言われてしまった。
たしかに僕の考え過ぎのような気もしたので、深く追求をすることはなかった。
また僕は彼女の背中を見送ってから家路についた。

それから2,3日は彼女と公園で話すのが日課になっていた。
彼女と他愛もない会話をして、帰路につく。それだけでとても充実した日々を送れていた。

ある日。
僕は彼女と会ういつもの時間に少し遅れてしまった。
公園につくと、いつもの時間よりも少し遅れてしまっていたことに気がついた。
男性として、女性を待たせるのは御法度なので、できる限り急いだ。
しかし現実とは残酷なもので、彼女よりも遅く着いてしまった。
どんな罵声を浴びせられてもいいように覚悟を決めて彼女に近づいた。
自分の足元を見て待っていてくれた彼女に、遅れてしまったことを詫びた。
赤い着物を着た彼女が顔を上げると、目から涙が溢れていた。
どうしたのかと思って聞いてみた。
「ごめんなさい。今日は来てくれないのかと思いました」
どうやら僕が来なかったことを心配してくれたらしい。
申し訳ないと思い何度も詫びた。彼女はすぐに平静を取り戻し、二人でいつも通りに会話を楽しんだ。

その次の日。
僕はまたいつもの時間に遅れてしまった。加えて昨日よりもまた少し遅い時間だった。
あれだけ詫びた直後にこの遅刻。会わせる顔が無いと思いつつも、いつもの場所へと急ぐ。
彼女はまた足元を見ながら待っていてくれた。
彼女の元へたどり着くなり、昨日よりも深く詫びる。
そして顔を上げた彼女は目に涙を貯めていた。
「申し訳ない」
「いいのです。もう時間がないということなのでしょう」
僕は彼女が言った言葉の意味がわからなかった。
「あなたはもう死んでいるのです」
彼女の話によると、僕はもう死んでいて、この世に居ない人間らしかった。
全然実感が湧かない僕に彼女はいくつか教えてくれた。
僕がこの公園で死んだ事。時間に間に合わないのは、この世に留まることのできる時間があまり残されていないのでは無いかということ。実際に僕の頭の上に雪が積もっていないということ。
言われてみれば合点がいく部分もいくつかあった。
彼女と毎日別れてから次に公園に行くまでの記憶がぼんやりとしすぎていること。あまり寒さを感じないこと。雪道なのに歩きにくくないこと。そして僕自身の名前を思い出せないこと。
そして色々と語った彼女が最後にこう言った。
「私はあなたの婚約者でした」
「婚約者ですか?」
はい、と頷く彼女は再び目に涙を貯めていた。
残念ながら僕にはその記憶が無いことを伝えた。
「私はあなたがこの世を去ってから毎日泣いていました。もしかしたらあなたがよく散歩に来ていたこの公園ならば会うことができるかと思い、雪の白にも映える赤い着物を選んで来ました」
白いニット帽と白いストールは僕が贈ったものだという。
僕は思った。なんて罪な男なのだろうと。自身がこの世を去った時に彼女に悲しい思いをさせて、何も記憶が無い状態で幽霊となって、彼女にもう一度心を惹かれ、挙句の果てには再び泣かしてしまう始末。
僕は自分自身が情けなくなってきて、幽霊で痛みはないが自分の頭を何度も叩いた。
「そんなことをして自分を傷付けるのはやめてください」
「僕はもう痛みを感じません」
「私の心が痛むのです」
自分の胸を押さえて泣き出す彼女。それを見て、みっともないことをしてしまったと後悔する。
「僕に何か出来ることはありませんか」
きっと幽霊になってしまった僕にはそんなに時間が残されていないのだろう。
ならば最後ぐらいは彼女が望むことをしてあげようと思った。
彼女は少し考えるような仕草をした。
「私を抱きしめてくれませんか」
「しかし僕は幽霊なのであたなに触れられません」
「いいのです」
僕は彼女の目の前まで歩み寄り、触れられないが彼女を抱きしめているように包み込んだ。
彼女もなんとなく抱きしめられているような感覚になっているようで目を閉じて立っている。
その時、僕の中に記憶が戻ってきた。しかしそれと同時に自分のからだが消えていくのが分かった。きっと時間が来たのだろう。
彼女は目を閉じているので気づいてはいないが、もう足が見えなくなっていた。
だんだんと蘇ってくる記憶の中で、笑顔の彼女と僕が楽しそうに笑っている光景が浮かぶ。
彼女の笑顔は、この公園で話していた時と同じような笑顔だった。
僕が病で倒れてしまった時の記憶が思い浮かぶ。
彼女は昨日、遅れてきてしまった僕を心配して泣いてくれた。あの時と同じような顔をしていた。
本当ならばもっと前に気づくべきだったのかもしれないことを、この別れが近づいてきている今になって思い出している。
そんな自分が悔しいのか、彼女にさみしい想いをさせてしまっていたことが悲しいのか、それともこの今迫ってきている別れが悲しいのかわからないが、僕の目から涙があふれ出てくる。
もう胸の辺りまで消えてしまっている。本当に時間が無くなってきた。
僕は彼女の名前を呼ぶ。驚いて顔を上げる彼女。その目には大粒の涙が流れていた。
病のせいで伝えられなかった言葉を彼女に伝える。
「今までありがとう」
「私の方こそありがとうございました。ここで話せた時間はとても楽しかったです」
「僕も楽しかった。じゃあ、さようなら」
その言葉に彼女は涙を流しながら、もうほとんど頭が残っていない僕に、満面の笑みで返した。
心残りがないと言えば嘘になるが、とても晴れやかな気持ちだった。
天へと登って行く途中、真っ白な景色の中に、一つだけ赤い模様を見つけた。
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112916 のりP どんぐりころころ ここは今となっては珍しい自然がたくさんある大きな森です。そこにはとてもとても大きな木がありました。その木は森に一つしかないどんぐりの木です。その木には1つのどんぐりさんがいました。
ある晴れた日の朝,どんぐりさんはいつものように木でひなたぼっこをしていました。「今日もいい天気だな〜。」どんぐりさんは、森の木が風でなびく音,小鳥さんたちがお話をしている声,近くの池の波の音を聞いていました。するとどんぐりさんはだんだん眠くなって行きました。「あ〜ぁ。なんだか眠くなっていきたなぁ〜。」そしてどんぐりさんは少し居眠りをしてしまいました。どんぐりさんが居眠りをしていると,さっきまで雲ひとつなかった空に大きな黒い雲が近づいてきました。
数時間後,「ピカー!!ゴロゴロ!!」どんぐりさんはすごい雷の音に驚かされて,目を覚ましました。どんぐりさんが目をあけると,そこはさっきまでの晴れとは一転して,あたりは真っ暗,すごい嵐になっていました。風は「ゴーゴー。」と吹き荒れていました。どんぐりさんは必死に枝にしがみつきましたが,あまりの風に強さに吹き飛ばされて,
地面に落ちてしまいました。するとどんどん転がっていきました。「うわぁ〜。目が回るよ〜。」どんぐりさんは,おおあわて。どこかにしがみつこうと思ってもあまりの勢いで,転がっていく一方でした。
しばらくするとどんぐりさんの目の前に池が現れました。そしてそのままどんぐりは池に「ぽっちゃん!」と音を立てて,落ちてしまいました。「あ〜れ〜。」池に落ちてしまったどんぐりは初めての池に驚いていました。はじめは驚いていたどんぐりさんでしたが,もうどうしようもないと開き直って,冷静になっていました。「ここが池の中か〜。」池の中に慣れてきたどんぐりさんは池を観察してみました。池の中は,藻や水草などがたくさんありました。
すると前のほうから黒い影が現れました。「なんだ?」よく目を凝らして見ると,それはなんとどじょうさんでした。「おまえは誰だ?」とどじょうさんが言いました。どじょうさんは初めてみるものにとても警戒して近づいてきました。どんぐりさんはあたふたして「こ、こんにちは。どんぐりです。」とかみながら言いました。
どんぐりさんがあいさつをするとどじょうさんは警戒心をとき,にっこり笑って「一緒に遊ぼうか?」と言いました。どんぐりさんは,どじょうさんの笑顔をみて,いっきに緊張がほぐれて笑顔になりどじょうと遊びました。
どんぐりさんは,どじょうさんの背中にのって,池のいろんなところを散歩していきました。池の中はまさにお魚さんたちの楽園でした。ある場所では,小さなメダカさんたちが,水草のたくさん生えた学校で大きなメダカさんにいろんなことを教わっていました。どんぐりさんはメダカさんたちが何を習っているのかが気になってどじょうさんと近づくと,大きなメダカさんが「一緒に授業を受けますか?」と誘ってくれて,どんぐりさんは大よろこび。一緒に授業に参加しました。けど「あれっ?メダカさんの学校って川の中じゃなかったっけ?」と思いましたが「…まっ,小さいことは気にしない気にしない。」と思ってそのまま授業を受けました。メダカさんたちはお遊戯の時間で,なんと自分たちでお芝居を作って,発表するところでした。どんぐりさんはそれを見してもらいました。
1組では,西遊記をベースにした摩訶不思議なアドベンチャーを演出していました。孫悟空という妖怪が,7つ集めると何でも願いがかなうと言われている不思議な球を集めていくという設定で,集める最中にたくさんの敵が現れて,苦戦しながらも孫悟空が成長して,敵をかたっぱしから倒していき,球をやっとの思いで7つ集め,世界が平和になる,という内容でした。
どんぐりさんとどじょうさんはその独創的な展開に圧倒されていました。しかし,その孫悟空が成長しているところがとてもおもしろく2人はとっても楽しむことができました。
2組の発表は海賊をテーマにした物語でした。主人公が,食べてしまうとかなづちになり,泳げなくなって,へんな能力を得てしまうという「悪魔の実」を食べてしまい,そして海の中で一番自由なやつである「海賊王」を目指し,いろんな島をめぐっては,たくさんの海賊や海軍と戦い,そして個性あふれる仲間たちを集め,毎日の船旅を楽しんでいく,という内容でした。どんぐりさんとどじょうさんはだんだん海にあこがれ,同時に海賊になって海賊王になりたいという野望が芽生えましたが,「いや,それはさすがに無理だな。おれは淡水魚だし…。」と冷静にどじょうさんがつっこみ野望は打ち砕かれました。
最後に3組さんのお芝居を見ました。それは野球を愛する父と子の熱血野球物語でした。主人公が父の影響で野球をはじめ,とても厳しい父の特訓に,たまに弱音を吐くが,それでも好きな野球を続けたいという一心で,どんな練習にも耐え抜き,そして日々成長していく,という内容でした。どんぐりさんはそれを見て,とてもとても野球がしたくなりどじょうさんに「ぼくは野球をして,あの主人公のようになってみたいな。」と言いました。するとどじょうさんは「お前,手ないからグローブはめれないじゃん。」と冷静なつっこみで,どんぐりさんの夢を一瞬にして打ち砕きました。どんぐりさんはどじょうさんのあまりにも的確なつっこみによって,落ち込みもせず,逆に開き直って「そうだね。」と言いました。
そして2人は,メダカさんたちにお芝居の感想と,お礼を言ってメダカの学校をあとにしました。
2人が次に向かったのは,池の奥深くでした。そこはいつもどじょうさんが暮らしているという場所でした。そこには,たくさんのカメさんが世間話をしていました。「最近の若いもんはほんと貧弱だねぇ〜。わしらが若いころはもっと必死になって,夢に向かって頑張っていたよ。」「そうだね〜。ほんと最近の若いもんは…。」それを聞いたどんぐりさんはどじょうさんに「そんなことはないよね。若い人たちの中にも,必死になって頑張っている人もいるよね。」といいました。どじょうさんは「そうだね。では,あのおじいさんカメとおばあさんカメにその頑張っている姿を見せてあげようよ!!」といいました。「それはいい考えだね。そしたらさっそくあのカメさんたちを誘ってこよう!!」どんぐりさんとどじょうさんはおじいさんカメとおばあさんカメを誘い,どじょうさんの知っている若くて頑張っているカメさんの仕事場に行きました。
その仕事場ではせっせと汗水たらしながら必死で頑張っているカメさんがいました。どんぐりさんはおじいさんカメとおばあさんカメに「こうやって頑張っている若いカメさんもいるんです。特定の若いカメさんが頑張っていなくても,若いカメ全員が頑張っていないわけではないんですよ。」といいました。するとおじいさんカメとおばあさんカメは感動して,「そうだったんだね〜。わたしたちの偏見だったんだね。」といい若いカメさんの見方を変えてくれました。どんぐりさんとどじょうさんは,「いいことをしたね。」といい気持ちでその若いカメさんの仕事場をあとにしました。
そして2人は,またどじょうさんの暮らしている池の奥深くにいきました。するとそこにはさっきまでいなかったどじょうさんの家族が集まっていました。どじょうさんの家族は奥さんと娘さん息子さんの4人家族でした。奥さんはご飯を作っている最中でした。ちょうどお腹が減っていたどんぐりさんは一緒にご飯をよばれることにしました。ご飯ができる間,どじょうさんの娘さんと息子さんと今日あったおもしろい出来事やどんぐりさんがすんでいた大きな森の話をしていました。どじょうさんの娘さんと息子さんは見たことがない大きな森の話に興味しんしん。どんぐりさんは森はとてもきれいで,空気がすごくすんでいることや,小鳥さんの歌声はとってもきれいで美しいこと,この池の波の音は森で聞くと,人魚の歌声にも聞こえると少し話を盛りながらどじょうさんの娘さんと息子さんに話していました。すると森の話をしていたどんぐりさんはだんだん森が恋しくなってきました。そしてご飯ができあがり,みんなで一緒においしいご飯を食べました。どんぐりさんはどじょうさんの奥さんが作ってくれたご飯にはじめは感動していましたが,やはり森が恋しくなって,だんだん悲しくなってきてしまいました。するとどんぐりさんの目から涙があふれてきてしまいました。どじょうさんは突然どんぐりさんが泣き出してびっくりしました。どんぐりさんは「森が恋しいよ〜。」といって泣きました。こまったどじょうさんはご飯を食べた後,どんぐりさんを池のほとりまで送ってあげました。
ほとりにつくと,辺りはすっかり暗くなり月も見えていました。月はとてもきれいで,その日は満月でした。
どんぐりさんはまず,急に泣いてしまったことを謝りました。するとどじょうさんは「そんなことは気にしなくていいよ。おれは今日君といろんなところを散歩したり,いろんな話をしてとってもとっても楽しかった。そして子どもたちにも,あの子たちのしらない森の話をしてくれてとてもよかった。子どもたちには,おれはたくさんのことを知ってもらいたかったんだ。今日はどんぐり君。君にとても感謝している。君に出会えて本当によかった。どんぐり君ありがとう!!」
どんぐりさんはそれを聞いてまた泣き出してしまいましたが,「ありがとう!!どじょうさん!!また遊ぼうね!!!」と涙を流しながら言いました。どじょうさんは「またいつでも来てくれ。楽しみに待っているよ。」といい,2人は別れを惜しみながらさよならをしました。
その後どんぐりさんとどじょうさんは何回も何回も遊んで親友になり,森と池の間で話題の2人になりました。

おわり
9
112917 だいふく スイミー  広くてきれいな海の中。そこにはたくさんの魚が住んでいる。ぼくもその中の一匹だ。ぼくにはたくさんの兄弟がいたけれど、かれらの体はみんな赤色。けれどぼくの体だけは、生まれた時からからす貝よりもうんと黒い色をしていた。どうしてぼくだけまっ黒なのかはわからない。はじめは、ひとりだけ色が違うことは仲間はずれみたいでいやだった。だけど、兄弟たちはぼくとほかの兄弟と同じように仲良くしてくれたし、だんだんそのことを気にすることはなくなった。
「おーい、スイミー。いっしょに泳ごう。」
「今日はあのさんごしょうまできょう走だ!」
 広い海の中を、今日も兄弟たちといろんなところを泳ぐ。速く泳ぐと、冷たい水がびゅうびゅうとぼくの体のよこを流れていって、気持ちがいい。ぼくはだれよりも泳ぐのが上手だったから、きょう走ではいつも一番だった。ここの海にいるのは、小さな生き物たちばかりで、ぼくたちを食べるやつらはいない。平和で、おだやかな毎日。そんな日々がずっと続くと思っていた。あの日までは。
「よし、今からみんなであそこまで泳ごう!」
その日、兄弟のいっぴきがあるところを指しながらそういった。そこは、少しはなれたところにある、黒くて大きな岩。今日の海は、波もおだやかで泳ぐのにぴったりだ。だから、ほかのだれもそのてい案に反対しなかった。
「みてみて、スイミー。あそこにきれいな小石があるよ。」
「ほんとだ。あっ、こっちにはかわいい貝がらが落ちてる。」
海の中ではいろんな発見があった。きっといっぴきだけだったらこんなに見つけられなかっただろう。けれど、みんなといっしょだから、たくさんのすてきなことを見つけることができた。あたりのきれいなけしきを見ながら、時間までゆっくりと進んでくれればいいのに、と心の中で思う。それくらい、みんなでおよいでいる時間はとてもとても楽しかった。
 もうすぐ、目的の岩だ。少しざんねんな気がしながら、ぼくは岩に近づいていった。
「あれ?」
ぼくはとちゅうで泳ぐのを止める。なぜだかそのとき、黒い岩が少し動いた気がしたのだ。山のように大きい岩は、ちょっとやそっとの波で動くはずがないのに。
「何しているの、スイミー。はやくこっちへおいでよ。」
岩のそばまでついた兄弟たちが、止まっているぼくをふしぎそうにながめる。きっと動いたように見えたのは気のせいだ。そう思いこむと、ぼくもう一度泳ぎはじめた。
 ザバァ!!
とつぜん前から大きな波がおそってきて、ぼくの体はすごいいきおいで流された。景色がくるくるまわり、どこを向いているのかわからなくなる。はじめは、何がおこったのかわからなかった。けれど、体の向きをととのえて波がきたほうを向いたとき、ぼくの心ぞうはびくんとはねた。
「まぐろだ!」
黒くて大きなまぐろが、岩の近くを泳ぎまわっていた。兄弟たちは必死ににげまわるけれど、赤い体はこの海の中ではどこにかくれてもとても目立つ。それに、まぐろはミサイルみたいに速かった。赤が黒につぎつぎと飲まれていく。まぐろがたてた波が海をかきまぜ、兄弟たちのひめいがひびく。
「いやだ、食べられたくないよ!」
「助けて、だれか助けて!!」
しずかでおだやかだった海のすがたは、もうどこにもなかった。
 もともと岩からとおいところにいたことと、さいしょの波によってさらに岩より遠くへ流されたことのおかげで、ぼくはまぐろから一番はなれたところにいた。まぐろは兄弟たちを追いかけることに集中しているし、黒くて目立たないぼくのことには気づいていない。にげるなら今のうちだ。そう思っているのに、体はうまくうごいてくれない。こわかった。かなしかった。ぶるぶるとふるえていることしかできなかった。
「スイミー!!」
兄弟のだれかがぼくの名前をよぶ声がした。びくっと体がはねる。体の固まりがいっきにとけた。つぎのしゅん間にはぼくは岩からはなれるほうへと向いていた。ぼくはがむしゃらにひれを動かして、今までにないくらい速く、速く泳いだ。頭の中はまっしろでなにも考えられなかった。
どれくらいの時間泳いでいたのだろう。もうまぐろの気配はどこにもなかった。ようやくぼくは泳ぐスピードを落とす。ずいぶん遠くまで泳いできたらしい。いつのまにか、あたりは今まで見たこともない景色にかわっていた。いつも自分のそばにはだれかがいたのに、今はだれもいない。知らない海にひとりぼっち。きゅうに心細くなった。兄弟たちの顔がうかんできて、住みなれた海にもどりたくなる。けれども、さっきおこったおそろしいできごとを思い出して、それはむりなのだとわかる。きっと、兄弟たちはみんなまぐろにみんな食べられてしまったにちがいない。
ぼくの名前をよんだ兄弟は、いったいどんな気持ちで名前をよんだのだろう。ぼくをにがすためだったのか、それともぼくに助けをもとめていたのか。考えることが怖かった。心ぞうがきりきりとしめつけられる。やがて、どうしてぼくだけが生きのこってしまったのだろう、という思いがうかんできた。こんなにかなしくてつらい思いをするくらいだったら、ぼくもいっそのことまぐろに食べられてしまったほうが良かったかもしれない。黒い体じゃなかったら、みんなと同じ赤い体だったら、ぼくもひとりぼっちにならなくてすんだのかな。大切な兄弟たちと自分の居場所をうしなってしまったぼくのこころは、ぽっかりと穴があいてしまったようだった。どこに向かえばいいのかもわからず、ただ流れに身をまかせた。
「こんにちは、かわいいおさかなさん。」
 ふいに、下のほうから声が聞こえてきて、ぼくはそっちへ顔を向けた。そこにはいっぴきのえびがいた。えびとはいっても、ぼくの知っている赤くて小さなえびとはちがう。なんでも切れそうなおおきなはさみを持ち、がんじょうなからにおおわれた水中ブルドーザーみたいないせえびだった。
「見ない顔だね。ここにくるのははじめてかい?」
「う、ん。」
ためらいがちに返事をする。おおきなはさみが自分をはさみにくるのではないかと正直びくびくしていた。そんなぼくの様子に気づいたのか、いせえびはにこりと笑う。
「別にきみをつかまえて食べようだなんて思ってないよ。ただ元気がないようだから、気になって声をかけてみたのさ。」
「え?」
「なにか、いやなことでもあったのかい?」
ぎくりとした。どうしてばれたのかわからなかった。
「やっぱりそうなのか。きみ、ずいぶんひどい顔をしているからさ。」
なるほど、と思う。たしかに、あれからごはんも食べずまったくねていなかったから、きっと今のぼくの顔はそうとうひどいにちがいない。うつむきながらぼんやりとそう考えた。
「ねえ?」
さっきまでの明るい声とはちがって、おどろくぐらい静かでやさしい声だったから、思わずぼくは顔を上げた。そしていせえびのあたたかいまなざしとぶつかる。この目はどこかで覚えがあった。
「話したら楽になるよ。全部聞くから、話してごらん。」
やさしくかけられた言葉は、こおりついたぼくの心にすう、としみこんだ。そうだ、これはおかあさんの目といっしょだ。気づいたら、ぼくは口をひらいていた。一度話しだしたらもう止まらない。とおくの海で楽しくくらしていたこと。兄弟たちと泳いでいる時にまぐろにおそわれてしまったこと。兄弟たちが食べられてしまい、悲しかったこと。自分だけが生きのこってしまったことがつらくて、死にたいと思ったこと。むねにたまってきたこと全部を話した。
「そんなにかなしいことがあったのか。つらかったね。」
くらくて長い話をきかされたのに、いせえびはあいかわらずぼくにやさしい視線をむけてくれた。
「でも、だからといって世界は終わりだ、なんて顔をしてはいけないよ。この世界にはかなしいことと同じくらい、いやそれ以上にすてきなことがたくさんあるのだから。ほら、周りをみてごらん。」
言われた通りまわりに視線をむける。どうして今まで気づかなかったのだろう。そこには、息をのむほどすばらしい世界が広がっていた。光がさしこみ、ダイヤモンドをちりばめたようにきらきらとかがやく海。ゆうがにただようくらげは、美しいにじ色だ。岩の上では、かわいらしいもも色をした、ヤシの木みたいなイソギンチャクが、風にゆられるようにゆらめき、岩の間を色とりどりの魚たちが楽しそうに泳いでいく。美しいこの海では、みんなが幸せそうに生きていた。
「わぁ、すごい・・・。」
「ほら、きれいだろう?きみは今生きているからこそ、こんな体験ができたんだ。」
もう一度あたりを見回す。そこに広がるのは、あいかわらず美しい景色。この海には、ほかにもたくさんすばらしい世界があるんだ。ぼくは、みてみたい。
「ぼく、生きていいのかな?」
「兄弟たちも、きみが幸せになることをのぞんでいるさ。」
その言葉で決心がついた。もう、後ろばかり見るのは止めだ。これからは、前を向いて生きる。
「ありがとう、いせえびさん。ぼく、行くね。」
「さみしくなったら、いつでももどってくるんだよ。」
小さくうなずくと、くるりと反対を向いて、ぼくは泳ぎだした。今度は自分のちからでしっかりと。

 それからぼくはたくさん泳いだ。ときどきさみしくなることもあったけれど、そういう時は今までに見たすばらしい景色や、出会った生き物たちのことを思いだした。そうするとむねの中があたたかくなって元気がでた。
その日は、波もおだやかできれいな海を泳いでいた。泳ぎつかれたから少しどこかで休みたいな。そう思っている時に、ちょうどよく休むのにぴったりな岩のかげを見つけた。今日はあそこで休もう。そう考えると、ぼくは岩のかげにはいっていった。
「わぁ!!」
突然おおきな声が目の前からして、思わず少し後ろに下がる。はじめはくらくてよく見えなかったけれど、そこにはもともと小さな魚たちが住んでいたらしい。
「おどろかしてごめん。ぼくはスイミー。」
「こっちこそ、いきなり大声をだして悪かったよ。」
同じ小さな魚どうしのぼくたちは、すぐに仲良くなった。かれらは赤色の体をしていたから、まるで兄弟と話しているみたいで楽しかった。
「ねえ、こんなくらいところでかたまっていないで、よかったら、いっしょに泳ごうよ。」
つかれもとれたし、いっぴきだけで泳ぐよりみんなで泳いだほうが楽しい。そんな何気ない理由でたずねた言葉だったのに、赤い魚たちはまるで信じられない、といったような顔をした。
「泳ぐだなんてありえない!そんなことしたらまぐろに食べられちゃうよ。」
“まぐろ”という言葉に体がびくっと反応した。ぼくの兄弟を食べた黒くておそろしいやつ。たしかに、まぐろがいるのなら、むやみに外へでたら危ない。けれど、
「こんなくらいところでびくびくすごしていく毎日なんて楽しくないよ!せっかく外にはすばらしいものがたくさんあるのに。」
伝えたかった。ぼくが見てきた美しい景色を。すばらしい世界を。
「でも、死んでしまったらおしまいじゃないか。」
ぽつりとつぶやかれた言葉。それは重く心にのしかかった。それっきりぼくは外の話を口にすることができなかった。
その夜ぼくは必死に考えた。どうすればみんなが幸せになれるのかを。たしかに、食べられてしまったらおしまいだ。けれど、こんなところにずっといても、幸せになれないことも本当だ。だからといってぼくたちみたいな小さい魚がまぐろに勝てるわけがない。どうしたら・・・。そこでぼくはひらめいた。そうだぼくたちには数があるじゃないか!!
 つぎの日、ぼくはみんなを集めた。集まった赤い魚たちはなんだなんだとぼくの顔を見る。
「たしかに、ぼくたちいっぴきいっぴきはまぐろよりずっと小さくて弱い。けれども、ぼくたちにはこんなに仲間がいる。みんなで力をあわせたら、きっとまぐろにだって負けないよ。」
ざわめきが起こり、赤い魚たちが顔を見合わせる。まぐろに勝てるだなんて信じられないようだった。
「でも、どうやって?」
「みんなで集まって魚のふりをするんだ。まぐろよりうんと大きくて強い魚のふりをね。」
またざわめきがおこる。ただ、今度は赤い魚たちの顔が、ぱっとかがやいていた。本当は彼らもまぐろをおい出せる日をまっていたのだろう。今までにないくらい彼らは生き生きとした表情をしていた。
「そのために。」
すうっと息をすう。
「ぼくが、目になろう。」

 ぼくらは岩のかげからでて、あたりをゆっくりと泳いだ。本当はすごくこわかった。けれども、この作戦さえ成功したらどうどうと泳げるようになる。そのことを夢見て、みんなで勇気をふりしぼった。
「きた。」
遠くから黒いかげが近づいてくる。しんぞうがどくどくと打った。もう、後戻りはできない。計画していたとおりの場所につく。ついに、まぐろのおそろしい顔がはっきり見えるくらいまでせまってきた。
「今度はにげない。お前を追い出してやる!」
海に赤くて大きな魚があらわれた。まぐろよりもおおきくてりっぱな魚。ぼくたちはいっぴきの魚となり、まぐろのほうへ大きな口をあけて泳いで行く。まぐろがぎょっとするのがわかった。まぐろはものすごい速さで泳いで行った。ぼくたちのほうではなく、反対のほうへ。まぐろのすがたはあっという間に見えなくなった。
まぐろのすがたが消えたあと、海から赤いおおきな魚の姿も消えた。
「やったあ。もう、まぐろにおびえてくらさないですむんだ!」
「思いっきり泳げるぞ!」
喜びの声があちこちであがる。ぼくは、みんなと少し離れたところで喜びをかみしめていた。ずっと心にからまっていたなにかが、取れたような気がした。
「ありがとう。スイミーのおかげだよ。」
「やっと思えるようになったんだ。」
「なにが?」
黒い体は仲間はずれみたいでいやだと思うこともあった。目立たなかったせいで生き残ってしまったことがいやだったときもあった。けれども、たくさん泳いで、たくさんの場所をみて、たくさんの生き物と出会って、生きていてよかったと思えるようになった。そして、今回自分の黒い体はみんなで作った大きな魚の目として役にたつことができた。今では心から思える。
「ぼく、黒色の体でよかったよ。」
自然とぼくの顔には笑顔がうかんだ。

8
112918 しみちゃん シンデレラ 昔、美しく優しい女の子が立派なお屋敷に住んでいました。 母親が亡くなった後、父親の二度目の結婚相手として新しい母親と二人の姉が来ました。 しかし、父が亡くなると継母は本性を表し、自分の二人の娘だけ可愛がるようになりました。そして継母が財産を使い果たしたため、屋敷は荒れ果てていきました。女の子も召使いとして扱われるようになり、屋敷の屋根裏部屋に住むようになりました。女の子の頭にはいつもかまどの灰が付いていました。そこで三人は娘の事を、『灰をかぶっている』と言う意味のシンデレラと呼んだのです。しかし、シンデレラは「いつか救われるときがくる」、「いつか夢が叶う」と信じ、希望を失いませんでした。そんなシンデレラの味方はネズミや馬、犬、小鳥達でした。意地悪な三人は、朝から晩まで洗濯や掃除、雑巾がけ、皿洗い、朝食の支度などみんなシンデレラに押しつけていました。
ある日のこと、お城の王子さまが、花嫁選びの舞踏会を開くことになり、シンデレラの家にも招待状が届きました。 「もしかすると、王子さまのお嫁さんになれるかも!」「いいえ、もしかするとじゃなくて、必ずお嫁さんになるのよ!」義理の姉達は大はしゃぎし、継母はシンデレラに、「もし全ての仕事が済んだらあなたも行っていいわよ。仕事が済んだらの話だけどね。」と意地悪な顔でいいました。シンデレラは亡くなった実母のドレスを手直しして着ていこうとしましたが、三人が仕事をわざと多く押しつけるので時間がなくなってしまいました。そこで、小鳥やネズミ達が義理の姉達がいらないといって捨てたリボンなどを使って、綺麗なドレスを作ってくれました。しかし、義理の姉達がそれを破いてしまいました。シンデレラは悲しみにくれ、父との思い出の噴水の辺りまで行って泣いてしまいました。「ああ、わたしも舞踏会に行きたいわ。王子さまに、お会いしたいわ。」すると、どこからか声がしました。「泣くのはおよし、シンデレラ!」「・・・?だれ?」するとシンデレラの目の前に、妖精のおばあさん
が現れました。「シンデレラ、お前はいつも仕事をがんばる、とても良い子ですね。そのごほうびに、わたしが舞踏会へ行かせてあげましょう!」「本当に?」「ええ、本当ですよ。ではまず、シンデレラ、畑でカボチャを取っておいで。」 シンデレラが畑からカボチャを取ってくると、妖精はそのカボチャを魔法のつえで叩きました。「ビビデバビディ・ブー」すると、そのカボチャがどんどん大きくなり、何と黄金の馬車になりました。「まあ、立派な馬車。すてきだわ!」「まだまだ、魔法はこれからよ。えっと、馬車を引くには、馬が必要ね。それと、馬を引く人も必要ね。さて、どうしようかしら・・・。」すると、「僕たちにやらせてよ!」友達のネズミと小鳥たちが名乗り出てくれました。「みんな、ありがとう!」「シンデレラのためさ!気にしないでおくれよ!」「シンデレラ、良い友達を持ちましたね。では、いきますよ。ビビデバビディ・ブー」すると、ネズミはみるみるうちに、立派な白馬になりました。小鳥は立派なおひげをはやした太った人になりました。「ほらね。馬車に、白馬に、馬を引く人。さあ!シンデレラ、これで舞踏会に行く仕度が出来たわよ!「うれしい。本当にありがとう!でも・・・こんなドレスじゃいけないわ・・・。」「うん? あらあら、肝心なことを忘れていたわ!ビビデバビディ・ブー」妖精が杖をシンデレラに一振りすると、みすぼらしい破かれたドレスは、たちまち輝く様な純白の美しいドレスに変わりました。 そして妖精は、小さくて素敵なガラスのクツもくれました。「さあ、楽しんでおいでシンデレラ!でも、わたしの魔法は十二時になったら解けてしまうから、それを忘れないでね!」「はい、行ってきます!」シンデレラは純白の美しいドレスを着て、白馬が引く黄金の馬車に乗って、王子さまのいるお城へむかいました。
シンデレラはお城の門につきました。「着いたよ、シンデレラ!」「うん・・・。」ネズミや小鳥たちが声をかけてくれますが、シンデレラは馬車から降りてきません。「どうしたんだい?」「なんだか緊張しちゃって・・・怖いわ。」「シンデレラ、せっかくのチャンスだよ!楽しんでおいでよ!僕たちはシンデレラが帰ってくるまでずっとここで待ってるから!ほら、行っておいで!」「・・・ありがとう!行ってくるわ!」シンデレラはお城の中へ入っていきました。
さて、お城の大広間にシンデレラが現れると、そのあまりの美しさに、あたりはシーンと静まりました。それに気づいた王子さまが、シンデレラの前に進み出ました。「ぼくと、踊っていただけませんか?」「は、はい。喜んで!」シンデレラは、ダンスがとても上手でした。王子さまはひとときも、シンデレラの手を離しませんでした。楽しい時間は、あっという間に過ぎて、気がつくと十二時十五分前でした。「あっ、いけない!私もう帰らなくちゃいけないわ。王子さま、今日はありがとうございました。とっても楽しかったわ!じゃあ・・おやすみなさい。」シンデレラはていねいにおじぎをすると、急いで大広間を出て行きました。「あ、クツが!」あわてたひょうしにガラスのクツが階段にひっかかって、ガラスのクツがぬげてしまったのです。しかし、十二時までもう時間がないのでガラスのクツを、取りに戻る時間がありませんでした。シンデレラは待っていた馬車に飛び乗ると、急いで家へ帰りました。シンデレラの後を追ってきた王子さまは、落ちていたガラスのクツを拾うと王さまに言いました。「ぼくは、このガラスのクツの持ち主の娘と結婚します」 次の日から、お城の使いが国中を駆け回り、手がかりのガラスのクツが足にぴったり合う女の人を探しました。




ある日、お城の使いは、シンデレラの家にもやって来ました。継母と義理の姉達は大はしゃぎでした。「さぁ娘たち。このクツが足に入れば、あなたたちは王子さまのお嫁さんよ!なんとしてでも、このクツをはくのよ!」「はい、お母さま!」義理の姉達は小さなガラスのクツに足をギュウギュウと押し込みました。「う・・痛い。このクツ小さすぎるわ!」「なんでこんなに小さいのよ!」どう頑張っても二人の足にこのガラスのクツは入りません。「残念ながら、この家には昨日の娘はいないようだな。」そう言って、お城の使いが残念そうに帰ろうとしたとき、シンデレラが現れました。「わたしもそのクツをはいてみても、いいでしょうか?」それを聞いた継母と義理の姉達は、バカにし、大笑いしました。「何をバカな事を言っているの!」「本当にあんたはずうずうしいわね!遠慮ってものがないのかしら。」「そうよ、あたしたちにも入らないのに、あんたなんかに、・・・えっ!そんな・・・。うそでしょ・・・。」シンデレラがはいてみると、ガラスのクツはピッタリです。みんなは驚きのあまり、口もきけません。するとそこへ、あの妖精が現れました。「シンデレラ、おめでとう!本当に良かったわ!私の出番ね。ビビデバビディ・ブー」妖精が魔法つえを一振りすると、シンデレラはたちまちまぶしいほど美しいお姫さまになっていました。「妖精さん、本当にいろいろありがとう!」「シンデレラ、いつまでも変わらず、優しいままの良い子でいてちょうだいね。」そう言って、妖精は消えてしまいました。「え?・・・あ、あなた・・・シ、シンデレラ!?」「う、うそでしょ!?」「・・・信じられない・・・。」継母と義理の姉達はそのシンデレラの姿を見ると、ヘナヘナと腰を抜かしてしまいました。お城の使いは嬉しそうに、「ずっとあなたを探しておりました。王子さまがお城であなたをお待ちです。さあ、一緒に来ていただけますでしょうか。」「はい、ぜひ!」シンデレラはお城の馬車に乗りお城にむかおうとしました。すると、「ちょっと待ちなさい!シンデレラ、あなたは今までずっと私にお世話になっていたのに、私をおいていく気?感謝というものはないの?」「そ、そうよ!シンデレラ!」「え・・・。」
「一緒にお城に連れていきなさいよ!」「そうよ!」「お嬢さま、あの方々も連れて行きますか?」シンデレラは口ごもってしまいました。すると、「シンデレラ、なにを迷っているんだい!あんな奴らほっといてシンデレラは幸せになるんだよ!さあ、一人で行っておいで!」ネズミと小鳥たちでした。「ありがとう!あなたたちはまたお城にも遊びに来てね。」「ありがとう、シンデレラ!じゃあね!」シンデレラは一呼吸おいて言いました。「お城の使いさん、あの方々は結構です。馬車を出していただいてもよろしいでしょうか。」「わかりました。では、行きましょう。」「シ、シンデレラーーーーー!!!!」継母と義理の姉達はカンカンになって叫びました。「さようなら!お母さま、お姉さま!」シンデレラは今までずっと暮らしていた屋敷を後にしました。
 馬車がお城の門に到着し、シンデレラはお城の中に案内されました。すると、「じいや、あの時の娘さんを探してきてくれたんだね!ありがとう!」「坊ちゃんの望みでしたらなんなりと・・・。」と、言ってお城の使いは行ってしまいました。「申し遅れてすまない。私はこの国の王子、チャーミングです。先日行われた舞踏会で私はあなたに一目ぼれをしてしまいました。よろしければ私の妻に、お妃になっていただけないでしょうか。」「申し遅れました。私はエラです。喜んでチャーミング王子の妻に、お妃にならせていただきます。よろしくお願いします!」
後日、お城では二人のための盛大な結婚式が行われました。国中の町では連日、二人の結婚を祝福するためのお祭りが開かれました。そして、チャーミング王子とシンデレラは子宝にも恵まれ、いつまでも、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。おしまい

6
112919 なお 白雪姫 〜毒りんご事件とその後〜 あるところに、それはそれは美しいお姫様がいました。姫の名前は、白雪姫といいました。ところが、継母の女王は美しすぎる白雪姫を憎んでいました。女王は白雪姫にボロボロの服を着せ、まるで召使のように扱い、掃除や洗濯などをさせていました。
あるとき、白雪姫が庭の掃除をしていると、お城の前を、隣町の王子が通りかかりました。王子は、白雪姫がボロボロの服を着ていたので彼女がこのお城のお姫様だとは気づきませんでしたが、その美しさに一目で心を奪われました。白雪姫も、その王子の美しい姿に恋をしました。互いに惹かれあう二人でしたが、女王はそんな二人を見て白雪姫をねたむ気持ちを覚え、白雪姫をさっさと城の中へ戻したのでした。こうして彼らは名残惜しくも別れるのでした。  
このことがきっかけで、女王の嫉妬はさらにひどくなるのでした。女王は、魔法の鏡に尋ねるのでした。「鏡よ鏡、この世で一番美しい者はだれ?」すると鏡はこう答えました。「あなたは確かに美しい。しかしもっとも美しいのは、白雪姫です。」その答えを聞いた女王は、ついに怒り狂いました。そして召使を呼んで、こう言いました。「白雪姫を森へ連れて行き、花でも摘ませてやりなさい。そして誰もいないことを確認したら、彼女を殺すのです。」「それはできません。あんなに美しい姫を殺すなんて・・・。」そう反論した召使でしたが、女王の恐ろしさに最後まで敵わず、命令に従うことに決めたのでした。
そんなこととは知らず森へ連れてこられた白雪姫は、ただただ美しい花に微笑みかけているのでした。その姿は、本当に綺麗でした。そんな白雪姫を、召使はとうとう殺すことができませんでした。召使は、姫を逃がすことを決意しました。「女王があなたの命を狙っています。どうか早く、お逃げになってください。」彼は必死になって言いました。白雪姫は恐怖と悲しみで震えました。「まさかおかあさまが、私を殺そうとしているなんて。」姫はとっさに森へ逃げ込みました。
白雪姫は森へ迷い込んでしまいました。真っ暗な森を進む中、しだれ柳がお化けに見えたり、動物たちの目がモンスターに見えたりしました。白雪姫は恐怖のあまり、しゃがみこんで泣いてしまいました。しかし、日の光が入ってきて、よく見てみると、動物たちはただ姫に興味を示しているだけでした。うさぎの親子や、シカの子供、鳥の兄弟などが、白雪姫を森へ歓迎してくれていました。彼らと歌を歌っているうちに元気になってきた白雪姫を、動物たちはある小屋へ案内しました。そこには小さな小屋がありました。
その小屋の中に入ってみると、7つのいすに7つのベッド、お皿やフォークが7つずつ。「まあ、親に捨てられたんだわ、かわいそうに。」白雪姫は、この小屋に連れてきてくれた動物たちと一緒に、7人子どもたちが留守のあいだに、おそうじや、おせんたくや、料理をして待っていました。すっかり疲れ切った白雪姫は小屋のベッドでぐっすり眠ってしまいました。
この小屋は、実は7人の小人のおうちでした。夜になって仕事から帰ってきた彼らは、窓から漏れる電気の光に怯えました。「幽霊か!?」「いや、泥棒だ!」「きっと危険だぞ。」そんな言葉を交わしながら、そっと小屋に入りました。すると、キッチンからはとっても良いにおいがします。「だれが作ってくれたんだろう。」彼らはそろそろとベッドルームのドアを開けました。するとどうでしょう。そこには、それはそれは美しい姫が寝ているではありませんか。小人たちはびっくり!物音に気付いた姫が目を覚ますと、そこには7人の小人がいました。みんなのお名前を聞いた後、自分が姫であること、継母の女王に命を狙われていることを話すのでした。その話を聞いた小人たちは悲しみ、そして怒りました。「こんな素敵な姫を殺すだなんて。」「かわいそう。」「どうぞうちにいてください。」口々にそう言ってくれました。姫は感激しました。そしてこう言いました。「みなさんがお仕事に行かれている間、私が家事をしていますわ。」小人たちは大喜び。こうして小人たちと白雪姫の生活が始まりました。小人たちは7人それぞれが分かりやすい特徴を持っていました。名前はそれぞれ、せんせい、ごきげん、ねぼすけ、くしゃみ、おこりんぼ、てれすけ、おとぼけといい、それぞれの名前の通りに特徴がありました。そんな小人たちと暮らす毎日はとても楽しい者でした。せんせいはいつもみんなに注意しているのですが、相変わらずみんな聞いていなくて笑えたり、ねぼすけがいつも寝言を言うせいで、ただでさえ寝つきの悪いおこりんぼが寝不足になったり。夜になるとみんなでパーティーをしました。そして寝る前には必ず、白雪姫がみんなにお話をしました。それはいつもきまって、あの日であった王子の話でした。そんな毎日は、姫のいたんだ心を少しずつ癒していきました。
そのころ、女王のもとには、召使が白雪姫のものと偽って持ち帰った豚の心臓が届きました。女王は大喜びしました。そして、白雪姫が小人たちとくらしているとは夢にも思わず、女王は魔法の鏡にたずねます。「白雪姫が死んだ今、この世で最も美しい人はだれ」すると、なんということでしょう。鏡はこう答えたのです。「白雪姫は死んでいません、彼女は森の中で7人の小人とくらしています。」女王は信じられませんでした。しかしそれが豚の心臓であることを知ると、狂ったように魔の部屋へ入り込みました。とうとう、自らが姫を殺す決意をします。女王は魔法を使って老婆に化け、毒りんごを作りました。そして、白雪姫が暮らしている森へ向かうのでした・・・。
老婆に化けた継母の女王は、毒りんごをもって白雪姫と7人の小人がいる森へ向かいました。
そんなこととは知らない7人の小人は、いつものように仕事に出かけて行くのでした。彼らを見送った白雪姫は、いつものように、小鳥やうさぎたちと部屋のお掃除やお洗濯やお料理をするのでした。
そこへ、おばあさんが現れました。「かわいい御嬢さん。水を一杯おくれ。」白雪姫は急いで水を用意しました。「大丈夫ですか、おばあさん。」小鳥やうさぎたちは、そのおばあさんが老婆に化けた女王であることに気づき、必死に白雪姫に伝えようとしますが、心の優しい白雪姫は、おばあさんをかわいそうに思い、家にいれてやりました。
するとおばあさんが言いました。
「とても優しい子だねえ。優しいお前には、このりんごをやろう。このりんごを一口食べて願いを唱えれば、どんな願いでも叶うだろう。」
白雪姫はとても嬉しくなりました。そして、こう願いました。
「いつか、あの時の素敵な王子様が、私を迎えにきてくれますように。」
そして一口りんごを食べた瞬間!
白雪姫はばたりと倒れ、長い眠りにつきました。女王はその倒れた白雪姫を見て、大いに喜びました。
小鳥やうさぎたちは怒りました。自分たちの大好きな白雪姫が殺されてしまったのです。小鳥たちは、急いで7人の小人を呼び戻しに行きました。白雪姫を殺した女王を、このまま逃すわけにはいきませんでした。突然、仕事場である宝石の山にたくさんやってきた動物たちに、小人たちは驚きました。しかし、その事の深刻さは彼らに伝わりました。「姫に何かあったんじゃないか!?」そう言って、小人たちは急いで小屋に戻りました。すると何ということでしょう。姫が一口かじったりんごを持って倒れているではありませんか。彼らはすぐに、これが継母の女王がやったことだと気づきました。そして森から逃げようとしていた女王を見つけるのでした。
女王は崖に追い詰められました。しかし女王はずるがしこく、その崖の先端から岩を転がして、小人たちのことを一網打尽にしようとしているではありませんか。そのとき!ピカッと雷が落ち、崖の先端が崩れ落ち、女王もろともに落ちて行ってしまったのでした・・・。
月日が立っても、白雪姫は目を覚しませんでした。しかし、7人の小人は白雪姫がいつか目を覚ますと信じ、姫を宝石で作った箱の中に入れて見守りました。
あるとき、隣町から馬に乗った王子が、姫のうわさを聞きつけて森へやってきました。彼は、その姫を見て驚きました。あの時恋をした彼女ではありませんか。彼は姫にどうしても目を覚ましてほしいと思いました。そしてかれは、姫にキスをするのでした。するとどうでしょう!姫が目を覚ましたではありませんか!王子の姫への強い思いが、女王の魔法を解いたのでした。白雪姫が目を覚ますと、7人の小人は大喜び!
「やった!姫が目を覚ました!」
「ばんざい!ばんざい!」
7人の小人、それに王子に感謝し、姫は王子と晴れて結ばれる事に。
 さて、その後の姫たちの生活はどんなものなのでしょうか。少しのぞいてみましょう。まず7人の小人たちはというと・・・。せんせいはその教えるという精神が買われ、王子が住んでいた隣町のせんせいとして雇われることになりました。これにはせんせいもお喜び。あとの小人たちは王子と姫が住むお城にやとわれたものの、ねぼすけはいつまでも寝ているし、くしゃみはずっと鼻水を垂らしているしで全く仕事は務まりませんでしたが、夜のパーティーになるといつもお城をにぎわせてくれました。
 姫と王子はというと、とても幸せに暮らしていました。しかし、あの毒りんごのトラウマから抜け出せず、なかなかりんごを食べることはできませんでした。しかしあるとき、隠し味にりんごが入っているとは知らずにカレーを食べた姫は、ついに最後まで気づくことなく完食し、見事りんごのトラウマを克服。それからはしだいにりんごの量を増やしていき、ついにりんごをそのままかじることができるようになるまで回復しました。そんな姫に王子はいつも寄り添っていました。その2人の姿は本当に素敵な夫婦の姿でした。
 子どもができると、町中が喜びに包まれました。姫は毎日のように時期姫となる娘に言うのでした。「夢を叶えてくれるりんごなんてないのよ。でも強く願えば夢は叶うのよ。」と。

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112920 オールフリー 双子月 みんなを明るく照らす夜空に輝くお月様は、いつでもひとりぼっちでした。真っ黒いカーテンのお空の中、ひとりぼっちでした。キラキラ光る星たちには、たくさんの兄弟がいるのに、お月様には家族がいません。闇夜を照らす優しいお月様にも悩みはあったのです。だから、お月様は泣いていたのです。静かにこっそり、泣いていたのです。それを見ていたのは一人の魔法使い。魔法使いはお月様に声をかけました。
「かわいそうな寂しい月よ。一つだけおまえの望みをかなえよう。おまえは一体何を望む?」
お月様は答えました。
「兄弟が欲しい。いつでもそばにいてくれる、家族が欲しい」
魔法使いはお月様の願いをかなえました。そうしてその夜から、お空にはもう一つ、お月様が浮かぶことになったのです。それは鏡に映したようにそっくりでした。そうしてその夜から、人間たちはお月様をこう呼びました。『双子月』と……。

「それで、それで? ねぇおじいちゃん、続きは?」
ベッドに横になったまま、赤毛の少女が聞く。艶やかな青い瞳が、好奇心に彩られきらきらと輝いていた。ベッド脇の椅子に座っていた老人が、少々困ったように微笑む。
「これで、おしまいだよ。さあアン。もう遅いよ、おやすみなさい」
「えーっ」
 赤毛の少女が明らかに不満げな声をあげた。しかし老人は小さく笑みを浮かべて、彼女の非難の声を流す。少女の柔らかな巻き毛をなで、もう一度だけ『おやすみ』と言い残すと、部屋を出ていった。
……パタン
扉が閉じられ、廊下から射していた明かりがなくなる。それでも部屋は真っ暗にはならない。窓の外に、明るい二つの月があるから。
少女一人だけになった子供部屋に、愛らしい声が静かに響いた。
「……魔法使いかぁ」
 小さな子供部屋にある、一つの窓。赤毛の少女――アンはその窓をベッドから見上げていた。いや、正確には窓の外を。夜空に浮かぶ二つの月を。
「いいなぁ……」
 夢見るような心地で呟く。空には双子月。もうさびしくないお月様。魔法使いが与えた家族とともに夜空に浮かんでいる。
「あたしも魔法使いになりたいなぁ」
魔法使いになりたい。不思議な力で、誰かの望みをかなえることができれば、きっとそれはとてもとても幸せなことだから。でも、どうしたら魔法使いになれるのだろうか。少なくともアンはその方法を知らなかった。
(ああ、悔しいな。方法さえわかれば、すぐにだって魔法使いになりたいのに)
ベッドの中でアンは寝返りをうつ。眠れない。気になって仕方ない。
(本に載っているかな。)
アンはベッドから体を起こし絵本でいっぱいの本棚から何冊か本をぬきだし、パラパラとめくった。
(やっぱり、載ってないよね…。)
アンはあきらめてベッドに戻った。
(そうだ。魔法使いの友達の黒猫さんに聞いてみよう。)
アンはまた起きだし、窓の外にいる黒猫さんを呼んだ。
「黒猫さん。聞きたいことがあるの。」
「にゃー」
「魔法使いにはどうやったらなれるの?」
「にゃー」
アンがいくら聞いても黒猫はにゃーと答えるだけだった。
アンはまたベッドに戻り、ごろんと寝返りを何度も何度もうつ。そして。
「あっ!」
思わずアンは声をあげ、ベッドの上で起き上がった。窓の外には双子月。そう、魔法使いに家族をもらった双子月。何故、気づかなかったのだろう。こんなにも簡単なことなのに。
(そうよ――)
アンは即座にベッドから飛び降りた。パジャマを脱いで、クローゼットから洋服を引っ張り出す。どうすればいいか。それは実はとっても簡単なことだった。
(双子月さまに訊けばいいんじゃない!)

 街中が眠る真夜中。アンはベッドから抜け出した。魔法使いになる方法を双子月に訊く為に。
 
 夜、街は水蒸気に煙る。蒸気が濃い夜は、双子月さえ見えなくなるほどだ。アンはそれが不安だったが、今夜は気持ち良いほど晴れていた。嬉しくて、つい足取りが軽くなる。スキップを踏んで、歌を口ずさみ、夜の街を進んでいく。いつもは人がたくさんいる大通りも、今だけはアンの貸しきり舞台だ。スカートを翻し、ブーツの音を立てて、くるりくるりと舞う。
(あたし、まるでミュージカルのスターみたい!)
 煉瓦の道を踊りながら進んで、アンはずっとワクワクしていた。胸も、息も、大きく弾む。顔を上げると、双子月が優しく微笑んでいた。
(待っていてね、双子月さま。今訊きにいくからね)
でも、どこに行けばいいのだろう。きっと高いところがいい。すこしでも双子月に近い場所がいい。
(どこへいけば、双子月さまとお話できるのかな)
 この街で一番高い場所はどこだろう? そう考えて真っ先に思いついたのは時計塔だ。けれどあそこに登るのは許可が必要だった。鍵がないとは入れない。
 じゃあ、どこがいいのだろう。
 アンは少し立ち止まって考えた。そして結局、アンが今行くことのできる一番高い場所――街の中心にある、市民公園。そこにあるモニュメントへと足を向けた。

「双子月さま」
 公園にあるモニュメントは、月の形を模している。鼻の高い、擬人化された月だ。そのモニュメントによじ登る。モニュメントのぽっこりでた頬に足をかけ、できる限り背伸びをする。
「双子月さま」
 声が少し震えた。空に向かって、二つ浮かんでいる月に向かって、アンは言葉を投げる。
「ねえ、双子月さまってば!」
 三度目の呼びかけで、少し声を大きくした。早く答えて、と祈る。と、その時だった。

「どうしたんだい、アン?」
 深い深い大人の声が、どこからか降ってきた。アンは空を見上げ、声をあげる。
「双子月さま!」
「――ああ、そうだよ」
 アンの言葉に、その声は頷いた。アンはうわぁ――と歓声をあげ、早口でまくし立てた。
「双子月さま! あたし、あなたに訊きたい事があるの!」
「なんだい?」
 降ってくる声に、アンは間をおかず叫んだ。
「魔法使いになる方法!」
お月様に家族を与えた、魔法使いみたいになりたいの!
アンの言葉に、少しだけ声は沈黙した。やがて、やんわりと優しく言う。
「おや、気づいていないのかい、アン?」
「……? 気づいていないって、何が?」
 きょとんとして問いかけると、それは微笑を含んだ声で言った。
「私と話しているということは、もアンは魔法使いなんだよ」
“もう、アンは魔法使いなんだよ”
「――ホントに!?」
 アンは思わず叫んだ。月が白い煙に揺れる。まるで笑っているかのように。
「本当さ。それに魔法使いになるのはとっても簡単なんだよ」
「そうなの? でもどんな本にも載ってないわ」
「載るはずがないさ、だって誰でも知っていることなんだからね」
「あたしは知らない!」
 アンが声を荒げる。すると、「いいや」と優しい声がかえってきた。
「知ってるさ。魔法の正体を、アンはもう持っている」
「正体って何……?」
「それはね」
「それは!?」
「――信じることさ」
 そうして。声はその言葉を最後に聞こえなくなる。夜の街に、沈黙が落ちる。聞こえるのはただ、木々のざわめきと、髪をなでていく風の音だけで。
「双子月さま」
 ――呼びかけても、答えはない。
「ねぇ、双子月さまってば」
 もう二度と返事はない。それが悔しくて、アンは結局、双子月が朝日に溶ける時まで、そのモニュメントの上にいた。

 ――目覚めると、いつもの子供部屋だった。
(あれぇ……?)
 きょとんと、周りを見る。昨日、双子月に逢いに行ったはずなのに、どうしてベッドに眠っているんだろう?
「おや、起きたのかい、アン」
「おじいちゃん!」
 部屋に入って来た祖父に、アンは双子月の話をする。
「あのね!昨日の夜、双子月とおはなしをしたの。魔法使いになりたかったから!それであたしはね、もう魔法使いなんだって!“信じる”っていうのが魔法使いなんだって!」
興奮したように語るアンの言葉は、とても判りにくいものだった。だが、祖父は頷きながら聞きつづける。そして、全てを聞き終えた最後に、彼は微笑みながらこう言った。
「それは凄い体験だね、アン。もう立派な魔法使いだ」
 祖父のその言葉に、アンは嬉しくなり――
「うんっ! あたし、今日から魔法使いなのよ、おじいちゃん!」
 大きく、頷いた。顔中に満面の笑顔を貼り付けて。
――パタン。
 部屋を出た老人が、こっそり小さく微笑んだ。深い深い大人の声で、でもどこか子供のような悪戯っぽさを含んだ声で、呟く。

「寂しがり屋のお月様。今は寂しくない双子月……とな」

 閉じた扉の向こうから聞こえる、孫の歓声。
 老人は微笑んだまま、ゆっくりと歩き出した。

「おばあちゃん!アンおばあちゃん!」
「まあどうしたのメリッサ。」
「双子月のおはなしして!」
「ふふふ。これはおばあちゃんがメリッサみたいに小さいときにおじいちゃんから聞いた話しなんだけどね…。」
 双子月の話をするアンは、おじいちゃんのように深い深い大人の声で、どこか子供のようないたずらっぽさを含んだ声で孫に話してあげた。
(おじいちゃん。わたし、魔法使いになれてるかな。)
 アンは、夜空に輝く仲良しな双子月を見上げてにっこり微笑んだ。
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112922 ペットボトル 世界で一つだけのバット 「カキーン!」
校庭に金属音が響く。学校のグラウンドでは小学生が野球をしている。どうやらここ大教小学校では放課後に野球をするのがはやっているらしい。
 楽しそうに野球をしている小学生たちの中に一人だけ泣いている子がいる。ノリオだ。ノリオは野球が好きだが上手にすることができなかった。簡単なフライをエラーしたり、ゆっくり投げてもらった球をかすらせることなく空振りしたりととことん野球にむいていなかった。だからいつもジュンヤに邪魔者扱いされており、毎日のように責め立てられ泣かされていた。どうやらその勝敗で、帰りにジュースをおごるかおごってもらえるかが決まるらしい。小学生たちは授業よりも何よりもその野球にすべてをかけていた。それぐらい彼らにとって大切なものなのだ。ノリオはクラスの中では地味な方だった。休み時間みんながドッジボールをしている間も教室で読書をしているような児童であったのだ。しかし人数あわせのために野球に誘われていた。ノリオはそれが嬉しかった。人数合わせのためだけに呼ばれているということをわかっていてもクラスのみんなとスポーツをして遊べるということが純粋に嬉しかったのだ。しかし、いざやってみるともともと運動が苦手なノリオは足をひっぱるばかり。始めは励ましていたチームの仲間もしだいにノリオにきつくあたるようになっていった。その中心人物がジュンヤというわけだ。ノリオがエラーするなりものすごい罵声をあびせていた。ノリオはそれにたえられず毎日泣いていた。
 ノリオは徐々にグラウンドに行く足が重くなっていた。いつものようにジュンヤに「ノリオ!今日も4時に運動場集合な!」と言われるが、また責められると思うとどうしてもためらってしまう。誘ってくれるのはとてもうれしいがノリオはとうとう放課後運動場に行くのをやめてしまった。みんなが楽しそうに野球をしているのをうらやましそうに見つめながらつまらなそうに石ころを蹴りながら帰る毎日。本当は一緒に野球がしたいのだ。     
理想と現実の差に嫌気がさしたノリオは帰り道に寄り道をすることで心のモヤモヤを晴らすようになっていった。なにか刺激がほしかったのだ。駄菓子屋でお菓子を買って帰ったり通ったことのない道を通って帰ったりして野球したい気持ちをまぎらわしていた。ノリオは新しい帰り道探しに楽しみを感じていた。探検をしているようなわくわく感がまたノリオを寄り道させていたのだ。
 ノリオは誰も通らないような道を通って帰るのが気に入っていた。ある日、ノリオがいつものように寄り道をし、路地裏の薄暗い道を歩いているときだった。誰もいないような薄気味悪い路地裏でいきなりノリオに「坊や、ちょっとこっちへおいで。」と声をかけるひとがいた。声のする方を振り返るとそこにはテントをはってひとりぽつんと座っている腰の曲がったおばあさんがいた。少し恐れを感じながらも言われた通りそのおばあさんのところに近寄っていく。おばあさんは不気味な笑顔を浮かべながらさとすように語りだした。

「坊や、何か悩んでいるのね。」
おばあさんはノリオを目の前にするなりこんなことを言い出した。びっくりしたノリオは「な、なやみなんてないです!」と息を荒げて強く言い返した。おばあさんはあいかわらず落ち着いた口調で「強がらなくていいのよ。ほんとはみんなと野球がしたいのでしょ。」はっとしたノリオは何も言い返せなかった。「おばあさんにはわかるの。何でもはなしてごらんなさい。」おばあさんが続ける。ノリオは徐々に荒れていた息を整え不思議に思いながらもおばあさんに話してみることにした。「ほんとは僕もみんなと野球がしたいよ!でも僕は野球が下手だからみんなに責められるんだ。それがつらくてもう野球をするのをやめたの。もっと野球がうまければぁ・・・」自分の思いを初めて人に話したノリオはだんだん今までの感情がこみあげてきた。気づくと目頭を赤くして話していた。おばあさんは「つらかったのね。坊やにこれをあげるわ。」おばあさんはとてつもなく大きいかばんから一本のバットをとりだした。「これをつかいなさい。これをつかえばあなたでも絶対に打てるわ。」何でもおばあさんによれば誰でも、このバットを使えばどんな球も打ち返せるとのことらしい。そんなわけないと心の中で思いながらも妙に説得力のあるおばあさんからそのバットをうけとった。
「ただし、注意するのよ。打てるようになったからといって自分を見失ってはダメよ。」
この言葉を最後にその日おばあさんとお別れした。
半信半疑でおばあさんにもらったバット。こんなので打てるわけがないと思いながらも家に帰ってすぐ弟に協力してもらい、そのバットを使ってみた。近くの運動場でバットを試してみることにしたのだ。「おにいちゃん、いくよー!」弟がボールを投げる。すると、なんということでしょう!今までかすりもしなったノリオが別人のように野球ボールを打ち返すではないか。「す、すごい!」ノリオは興奮していた。「これならいける!」そう確信したのである。明日はグラウンドに行こうと決めた瞬間だ。
 ノリオは次の日、ヒーローになったかのように堂々と歩きながらグラウンドに向かった。「ノリオが来たぞー」と言って笑いだすジュンヤたち。だが馬鹿にされてももう泣かない。早く投げろと言わんばかりに大きい構えでバッターボックスに立つノリオ。ノリオが打てるわけがないとみんなが気を抜いた次の瞬間。ジュンヤが投げたボールはきれいにノリオに打ち返され、フェンスを越えていった。唖然とするジュンヤ。どや顔でベースをまわるノリオ。ノリオはこれ以上ない喜びに包まれていた。またみんなと野球ができるという喜びとみんなを見返してやったといく嬉しさでいっぱいになっていた。
この日からノリオは変わった。明らかにノリオは以前のノリオとは違う。自分に自信が持てず、なよなよしていたノリオはもういない。周りに大きい態度をとるようになったノリオは徐々に調子に乗り出していた。ジュンヤがノリオにしていたことを今度はノリオがジュンヤにするようになった。ジュンヤがミスをするとノリオは血相を変えて責めたてた。かつての恨みを晴らすように。
それを見ているほかの仲間たちはだんだんノリオのことを敬遠し始めていた。態度が大きくなったうえにたびたび怒鳴り散らし、空気を悪くするからだ。それに気づかず変わらない態度をとり続けたノリオはとうとう愛想を尽かされみんなに避けられるようになってしまった。クラスでノリオに話しかけに行く者はいなくなった。また、毎日一緒に給食を食べていた友達も別の子と食べるようになってしまった。
自分を見失い周りが見えていなかったノリオは給食を一人で食べることになったときにようやく友達の接し方が以前と変わってきたことに気付き始めた。舞い上がっており周囲の人が自分をどう思っているかを気にしていなかったが、冷静になって友達の態度などを見てみると明らかに避けられていることがわかった。それに気づくとノリオは一気に孤独感にさいなまれた。教室で授業を受けているときも自分ひとりで受けているかのような錯覚をうけるほど。寂しくて毎日部屋でひとり泣くようになった。泣いているときに前も泣いていたことを思い出した。あの時はジュンヤに泣かされていたのだ。なんでこんなことになったのだろう。ふとそう思ったときある言葉が頭をかけぬけた。
「ただし、注意するのよ。打てるようになったからといって自分を見失ってはダメよ。」
おばあさんにバットをもらった時のことがフラッシュバックした。ノリオは自分の行動を見つめ直した。考えてみると友達にひどいことを言って、王様気分だった自分の姿が浮かんできた。どうにかしてみんなに前と同じように接してもらえるようになりたい。一晩中考えて、みんなに謝ることを決めた。
 次の日、いつものように放課後運動場にむかい野球をはじめようとしたときだった。
「聞いてください!僕は今まで間違っていました。みんなにひどいことを言ったり、調子に乗ってでかい態度をとったりしてしまってごめんなさい。これからはまた前と同じように仲良くしてください!!」ノリオは誠実な言葉づかいで謝罪しながら頭を下げた。みんなはびっくりして無言な時間が続いた。あれだけ自由にふるまっていたノリオが急に謝りだし、みんなどうしていいかわからなくなってしまったのだ。長い沈黙の後、緊迫した空気の中、口を開いたのはジュンヤだった。「俺も悪かった。もとはと言えば俺がノリオにつらくあたったのがいけなかったんだ。みんなノリオを許してやってくれ。」クラスの連中も「俺たちもさけたりしてごめんな。避けずに面と向かって言えばよかったんだな。」とお互いに自分の非を認めだした。「これからはみんな仲良く楽しく野球やろうぜ!人をけなしたり、責めたりするようなくだらないことはもうやめにしよう!」ジュンヤが大きい声で呼びかけた。「そうだね。そうしよう!!」みんなも同感だった。その日の野球はだれも責められることなくみんな笑顔で楽しく野球ができた。
 クラスはこれを機に笑顔あふれるクラスとなった。お互いにお互いを思いやりケンカのない明るい集団になったのだ。
 ノリオはおばあさんにもらったバットを使うことをやめた。もらったバットは今、部屋に置かれている。野球がうまくなることよりももっともっと重要な、人として大事なことを教えてもらった世界にひとつだけのバットを大切に保管しているのである。人は謙虚に、相手のことを考えながら生活するのが一番なのだ。
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112923 cookie タイムマシン 博士のかねてからの夢は、世界平和である。
「ワシがぜったい世界を平和にしてみせる」と、口ぐせのように言う。
「もう、歳も歳じゃ、金や女にはたいして興味がない。ほしいのは名誉。ノーベル賞をもらって、後世に名を残してみせる」
 動機は不純だ。
 しかし、世界平和がいいことに間違いはない。
 おれはその夢を実現させるため、助手として力を尽してきた。大学に通うかたわら、博士と二人三脚で研究の日々。――タイムマシンの開発である。これさえあれば、過去に戻って戦争の原因を取り除くことができる。未来から、高度な医療技術を学ぶことだって。
 もちろん、簡単にいかないのは覚悟していた。なにせ博士は貧乏なのだ。つまり、これまでに大した発明はしておらず、研究費も少ないということ。二重の障害である。
 最初の頃は、完成の気配すらなかった。ガラクタを組み立てているような状態。動きも、しない。
 進捗具合は、まさに牛の歩み。マシンが作動するまでに、三年の月日を要した。
 作動するようになってからが、もっと大変だった。ただのガラクタなら何の被害もない。中途半端に出来上がったタイムマシンは、むしろ凶器そのもの。
 感電すること十二回、制御を失い研究室の中を暴れ回ること八回、一度はエンジンから火を吹いて爆発した。
 あの時は、本気で死ぬかと思った。軽いヤケドで済んだのが、奇跡である。
 まさに苦難の連続。
 そんなある日、というか今日、ついにタイムマシンが完成したのだ。
 最後のネジを絞め終えたあと、机上の設計図に目を落とし「今度こそ本当に完成した」と、博士が断言したのである。
「さあ、里中くん」博士はおれの名前を呼んだ。「記念すべき時間旅行者の第一号はきみにゆずろう。運転してくれたまえ」
「わたしには、まだ未来があります」おれは、かなり丁寧な口調を心がけて言った。
「おお、そうか未来に行きたいのか」博士は片腕をタイムマシンの方へ広げた。「好きなだけ、行ってくれたまえ」
「まだ、やり残したことがあります」おれは博士に顔を向ける。
「タイムマシンは、完成したぞ」博士は白い顎ヒゲをなぜながら、いぶかし気な表情。「なんじゃ、やり残したこととは」
 おれは切り口上気味に説明する。「個人的なことです。大学を無事卒業して、ちゃんとした会社に就職したい。親孝行もまだだ。苦労をかけっぱなしで。燃え上がるような恋愛もしていない」
「さっぱり意味が分からない」博士は目をしばたたいた。「きみ、気は確かかね」
「はい。だからこそ」おれはハッキリ言ってやることにした。「乗りたくはないのです」
「遠慮がちなのは、きみの悪いところだ」
 まるで話が、通じてない。
 おれは大声でわめいた。「遠慮なんかじゃない。嫌だ嫌だ嫌だ、ぜったいに乗りたくない」
「里中くん」博士はおれの両肩をつかんで揺さぶった。「遠慮じゃないとしたら、なんなんだ。乗りたくない理由というのは。詳しく、説明してくれたまえ」
「詳しくもなにも」おれは博士の腕を振りほどいた。「死にたくない。命が、ほしい」
「誰もきみを殺そうとはしていない」博士は諭すような調子である。
 おれは太股をパシリと叩いて、床を踏み鳴らした。「たった今、したじゃありませんか」
「なんのことだ」
「タイムマシンです」おれは指さした。「あれの実験で、わたしをモルモット代わりにしようとした」
「ひと聞きの悪いことを言うもんじゃない」博士はいかにも心外といったふうに眉根へ皺をよせる。「きみの貢献は、多大だ。その労をねぎらってやろうとしているだけじゃないか。ワシからのプレゼント。優しさを誤解されちゃ、かなわん」
「そんなの、信じられません」
「なんと、悲しいことを言いよる」博士はこめかみを挟んで、下むきに頭をふった。「信頼し合える間柄だと思っていたのに」
「今までが今までだから、しかたないじゃありませんか。信用しろってのが、無理な話ですよ」
「そこをなんとか」博士は目を閉じて、頼みの合掌。
「なんですか。そこをなんとかって」おれは髪の毛をかきむしった。「それじゃあ、こうしましょう。博士から先に乗ってください。そのあと、プレゼントをありがたく受け取らせていただきます」
「どうぞ」と、おれは腰をまげて博士と同じように凶器、もといタイムマシンへ腕を広げた。
「ワシには妻と子供、生まれたばかりの孫までいるんだぞ」おれの白衣の胸元をつかんだ。「ワシは、まだ死ねん」
 本音の暴露である。
「てめぇ、このクソジジイ」もはや敬語もヘッタクレもない。おれはブチ切れて、声をとがらせた。「やっぱり、実験台じゃねぇか。おれ」
「名誉ある死ではないか」
「なんで死ぬことが前提なんだ。さっき完成したと言ったばかりで」
「万が一ってものがあるじゃろうが。万が一ってもんが」博士はツバを飛ばしながら抗弁する。「きみも科学者の端くれなら、何事にも百パーセントはあり得ないと分かっているはずじゃ」
「だったら、何パーセントなんだ」おれも博士の胸ぐらをつかんだ。「自信はあるのか、ないのかハッキリしろ」
「ある」
「なら、自分で乗れ」おれは博士を抱きかかえ、無理やりタイムマシーンのシートに座らせた。
「だから、万が一のことがあったら妻と」
「百パーセントはあり得なくても」おれは博士の言葉をさえぎって、断固とした態度を示す。「百パーセントを信じることは出来るはずだ。ノーベル賞を目指してるんだろ。それくらいやれなくて、どうする」
「いやしかし、じゃな」
 必死になってタイムマシンから降りようとする博士を、おれは押し止めた。「まずは、ぜったいあんたからだ」
 博士はまた何かを言いかけてから、ぐっと言葉を飲み込んだ。うらめし気な目をおれに向ける。
「分かった。ワシから先に乗ればいいんじゃろ」なげやりな調子で言った。「のいとけ」
 おれを突き離し、博士はタイムマシンのボタンを押した。
 瞬間、タイムマシンが、爆発した。
 どかんと音を立てて後ろのエンジンから吹き出した火が、博士の白衣に燃えうつる。
「ぎゃあ」ハンドル手前の計器類が並ぶパネルを飛び越えて、博士は床を転げまわった。「さ、里中くん。火を、火をはやく」
「は、博士おち着いて、おち着いて」おれもこの上なくパニクって、部屋の隅から消火器を取りあげ博士の背中に噴射した。
 博士が泡まみれになったのを確認してから、つづいてタイムマシンへ。
 懸命な消火活動のすえ、どうにか火は消しとめられた。おれは、すっかり汗べっちょりである。
「里中くん」博士はむっくりと起き上がり、おれに近づいてきた。「ありがとう。助かったよ」
 手を差し出してきた。
「いえいえ、当然のことをしたまでです」おれは敬語に戻って、博士と握手をかわす。「礼にはおよび」
 喋っている途中でおれは博士に腕をぐいっと引っ張られ、体をタイムマシンへ沈められた。
「さあ、約束を果たしてもらおう。次はきみの番だ」
 惨事を目の当たりにしたばかりである。
「ちょっと博士、なにを考えて」おれは、たまらず腰を浮かせた。
 鬼の形相で博士がおれの肩を押さえつける。「約束したはずじゃ。ワシの次は、きみが乗ると」
「前言撤回だ」さぁぁぁと、血の気が引いていくのが自分でも分かった。「これじゃあ、みずから大怪我しにいくようなもんじゃないか」
「うるさいうるさい。ワシだけがこんな目に合うなんて、不公平じゃ。武士に二言はあるまい、さあ始動しろ。今すぐしろ」
「おれは武士でもなんでもない。それにあれは言葉が足りなかっただけだ。安全が確認できしだい乗るという意味だったんだ」
「なにを、このごに及んで」
「離せはなせ」
 おれと博士は揉みくちゃになって争った。
 その拍子に、おれの肘がパネルのボタンに触れた。
 どかああああああんと、爆音を響かせタイムマシンが大爆発。――おれと博士は左右にふっ飛んでいった。おれは空中でくるりと一回転して壁に背中を打ちつけ、博士は頭からゴミ箱に突っ込んでいった。
「痛たたたっ」尻もちをついて背中を擦りさすり顔をあげると、室の中は煙で真っ白。所どころで、火の手があがっていた。
「うわあああ。また、なんか燃えてる」おれは先ほど使用した消火器を見つけ、机上や床に噴射しまくった。
「里中くん、どうやら研究は失敗に」博士がおれに話しかけてきた。ゴミ箱から頭をひき抜くような音。「それは、もしや」
 つづいて明らかに博士のものであるシルエットが、机へのところへ駆けていく。
「うわあああん」シルエットが、泣き崩れる。
 消火器片手に博士の元へ行ってみると、後生大事に灰を握りしめていた。タイムマシンの設計図に違いない。机の上には焼失を逃れた紙片があった。
 白煙が薄まり辺りの状況がハッキリしてくると、床のあちこちで泡をかぶっている燃え殻。あれも、そうなのだろう。二十枚ほどあった設計図の残りが、どこにも見当たらない。
「長年の研究の成果がぁ」と、喉をヒクヒクさせる博士。
「設計図が燃えてしまっても、やり直しは効くでしょ。なんせ実物が」と、そこまで慰めの言葉を口に出して、おれは違和感を覚えた。
 その理由に、すぐ気がついた。
「は、博士、タイムマシンが」
「世界平和の夢がぁ。ワシのノーベル賞がぁ」
「ちょっと、あそこあそこ」おれは博士の白衣を引っぱって、後ろを指さした。
 博士は涙で頬をてらてら光らせ振り向く。
 そこには、タイムマシンの影も形もない。
 ギョッとして博士は辺りを見渡した。タイムマシンの部品すらも転がっていないのである。
 博士はおれの首をしめ、大声で問いつめた。「お前、ワシのタイムマシンをどこへやった。白状しろ」
「知らない。おれがどこかへ持っていったわけじゃない」博士の腰に腕をまわして、足払いをかける。
 おれと博士はそのまま倒れて、床の上を転げ回った。
「シラを切るな。シラを」馬乗りになって博士はおれの頭を両手ではさみ込み、何度も床に打ちつけた。
 目から、火花が散った。
「ずっといっしょにいたんだ。おれは部屋から一歩も外に出ていない。あんなデカイもの、どこに隠せるというのだ」おれは下から博士を思いきり突き飛ばす。
 のけざまに引っくり返って博士も頭を床に強打した。「ぐほっ」
 かぶりを振って、おれたちはほとんど同時に立ちあがった。
 博士は工具箱に目をとめる。「手荒なマネは、したくなかったんだがな」
 スパナを取りあげ、おれをにらみつけた。
 今までさんざん手荒なマネをしておきながら、なにをいけしゃあしゃあと。――おれも近くの一斗缶を持ちあげた。
「あんたには、本当に愛想が尽きた。こんりんざい、助手を辞めさせてもらう」
「そんなもの、こっちから願い下げじゃ」
 おれと博士は無言で床に円を描きながらジリジリと身をつめた。鼻息が、荒くなる。
 武器を上段に、振りかざす。
「この恩知らずがぁ」
「それはこっちのセリフだぁ」
 互いにぶつかり合おうとしたその瞬間、真ん中で大爆発が起こった。
 どかああああああん。――おれと博士はまたしても左右に吹っ飛んでいった。おれは壁に背中を打ちつけ、博士はゴミ箱に頭から突っ込んだ。
 白煙が、部屋を薄白くした。
「痛たたたっ」先ほどと同じように尻もちをついて背中を擦りながらおれは顔をあげた。あっ、と息を飲んだ。
 空中にタイムマシンが浮かんでいたのである。帽子を目深にかぶった口ヒゲの男が乗っている。コート姿。
「は、博士ぇ」おれは震え声で叫んだ。
「きさまぁ、ワシの」と、博士はゴミ箱をかなぐり捨て、振り返った。「タイムマシンを返せぇ」
 口ヒゲの男に飛びかかって行く。
 腕を伸ばしコートの裾を引っぱる博士を「ちっ」と舌打ちして払い退ける男。タイムマシンから片足を出して、博士の顔面に蹴りを入れた。
「ぶはっ」鼻を押さえその場に崩折れる博士。
 おれは博士の元へ駆け寄って、しゃがみ込んだ。「博士、大丈夫ですか」
「里中くん」博士は鼻血をだらだら流しながら言った。「ワシはいいから、タイムマシンを」
 おれは、空中を見上げた。――口ヒゲの男は室内を見回している。カレンダーのところで、動きが止まった。口元にニヤリと不気味な笑みが浮かぶ。
博士とケンカした直後ではあるが、やはりタイムマシンをほかの誰かへやるわけにはいかない。この研究にはおれも関わっている。それこそ血と汗と涙の結晶だ。
「タイムマシンを、返せぇ」おれは立ち上がり、男の袖をつかんで引きずり下ろしにかかった。
 「この口ヒゲめ。盗人め」
 コートの肩がはだけ、がくんと体勢を崩した。帽子がぬげて床に落ちる。
「×××××」と、口ヒゲ男は意味の分からないことを叫んだ。懐からピストルを取り出し、おれに向ける。
「ぎゃっ」おれは腰を抜かして、床にへたり込んだ。
 男はパネルのボタンを押す。と、たちまちタイムマシンもろとも姿が消えてしまった。
「もう少しで、完成したはずなのに。わああああん」博士はまるで子供の如く、泣き出した。
 おれは恐怖に身を震わせ、動けない。
「タイムマシンはすでに完成していたのです」と、声をかけようにも口をパクパクさせるばかりで言葉にならない息がもれるだけである。
 おれは見てしまったのだ。はだけたコートの下に軍服を。忌まわしき、肩章を。
 博士は気がついてないのであろうか。帽子がぬげてピストルをかまえた時、こちらへまともに向けられた口ヒゲ男の顔に。
 おれが腰を抜かして何も喋れなくなるほど恐怖した理由は、そこにあったのに。
 博士は泣きつづける。「ワシの、世界平和の夢がぁ」、と。
 床に落ちているナチスドイツの帽子のそばで。
 世紀の独裁者、アドルフヒトラーがあらわれた研究室のなかで……。

8
112924 バオバブ フナムシ太郎の冒険  ここはある国の最南端、メチャミナミ島。平和なこの村にフナムシ太郎と言う青年が住んでいました。太郎はもう親からは独立し、魚をとることで生計を立てていました。

 ある日、太郎は漁を終えて家に帰る途中に、村の子供たちが海岸に流れ着いた1メートルほどの黒いかたまりを木の枝でつついているのを見つけました。
「うわっなんだよこれ?きったねー、みんなでいじめよーぜー」
「いいよ、いいよ、やろーぜー」
「こらー!!!」
カメがいじめられているのだと思い、子供たちを追い払いました。この時、太郎の頭の中に『竜宮城』という言葉がよぎったのは言うまでもありません。
「カメさん大丈夫ですか?」
「うぅ〜」
「どこか怪我はありませ・・・ん?」
なにか変だ。近づいてよく見てみると、それは老人でした。うずくまった老人の背中だったのです。
「え?おじいさん?だ、大丈夫ですか?」
「たすけてくれ〜、本州で魔王が暴れとる〜オワター\(^o^)/」
意味がわからない。
「本州で魔王が〜」
「はぁ?」
学校で変な人としゃべったり、ついて行ったりしてはいけないと習ったことを思い出したので、ここは無視して帰ることにしました。
家に帰った太郎は、取った魚を冷凍保存し、プレステーション2の電源をつけました。いつものようにだらだらとゲームをしていたのですが、あの老人のことがやっぱり気になってきました。
「あんなじいさんこの村にいたっけな?」
このことが頭から離れなくなってきたので、もう1度あの場所へ戻ってみることにしました。
 
 太郎が海岸につくと、
「遅い!」と、浜辺で正座する老人に怒られました。
「何が!?」
「魔王が!」
「だから何!?」
「わたしは本州から来た。わたしの町で魔王が・・・」
老人は話している途中で急に倒れました。
「お、おじいさん大丈夫?」
返事がない。ただの屍のようだ。おじいさんはここに流れついた時から、もう体力の限界だったようです。結局、太郎は何一つ状況がつかめませんでした。しかし、老人の『魔王』という言葉がとても気になったので、本州へ向かう決心をしました。太郎はすぐに飛行機の予約をするために、1度家に帰りました。


次の日、太郎は本州の南端の町にいました。その町には何故か女性しかいませんでした。太郎は不思議に思いながらも町を歩いていると、急に1人の老婆に必死な形相で話しかけられました。
「今すぐ逃げて下さい!!!」
「え?」
「私はこの町の町長の妻、ウメ子と申します。魔王がいる今、この町にいるのは危険です。」
「どういうことですか?」
ウメ子はすべてを話してくれました。この町から北の山を越えた先に魔王が住んでいるということ。魔王は2日ほど前、この町の男をさらっていったということ。町長はなんとか逃げ南の海へと船で助けを求めに行ったこと。
「そんなことが・・・。」
太郎は島で見た老人がこの町長ではないかと思ったが、今は黙っておくことにしました。
「私が助けにいきましょう!」
自分でもなぜこんなことをいったのかわからなかった。
「本当ですか!?それではこのハーゲンダッツを持っていってください。」
「ん?なぜハーゲンダッツを?」
「この町の特産品なのです。」
「なるほど。ありがとうございます。」
パッケージを見ると『ハーゲンダッシ』と書いてある・・・。『シ』?太郎はこれも黙っておくことにしました。
 太郎は急いでハーゲンダッシを食べると、北の山へ向かいました。


 北の山へ向かう途中、1つの小屋がありました。
「こんなところに小屋?もしかして、魔王!?突撃だ!!」
なぜか太郎には自信があった。小屋の中には黒ずくめでマントをした魔王がいると!太郎は勢いよくドアノブを回しました。
ガチャ!「魔王め!観念しろ!!!」
「ア!?オマエ、ダレヤネン?」
そこには片言で大阪弁のアジア人がいました。
「すいません。人違いでした。」
太郎は何もなかったようにドアを閉めようとした、
「マテ。」
「え?いや。」
「ワタシ。インドジン。カレータベル?」
無視して帰ろうとしたそのとき、急に腹痛に見舞われました。
「うぅうう、すいません、トイレ貸して下してください。」
絶対、さっきのハーゲンダッシだ。選択の余地はなくトイレを貸してもらうことになりました。トイレから出ると、そこにはカレーが用意されていました。
「カレー、クエ。ホンマウマイデコレ。」
ここでいらないと言う勇気はなかった。
「はい、いただきます・・・」
太郎はカレーを一気にたいらげた。味はよくわかりませんでした。
「ウマイヤロ?」
「はい・・・」
「ホンマカ!?初めて私のカレーを上手いと言ってくれた人に出会った!!」
テンションが上がりすぎたのか、急に流暢な日本語になった。
「仲間にしてくれ!!」
ああ、もう意味が分からない。


 結局、インド人はついてきた。この人は魔王を探しているというのを理解しているのだろうか。
 しばらく歩いていると、また小屋がありました。
「今度こそは無視しよう。」
太郎がボソッと言った時にはすでに遅かった。
ガチャリ!「コンニチワー!」
インド人が小屋の中に入っていきました。
「おい!!・・・・まじか」
仕方がないので太郎も続いて小屋に入る。

 そこには、白人がいました。
「お腹痛いヨ〜」
そういいながら、ハーゲンダッシを食べています。
「カレー、タベヘン?」
インド人はおもむろにカバンからタッパを出しました。
「いただきまス」
なぜ順調に会話が進んでいるのか、太郎にはわかりません。
「おいしいでス!!」
「ほんまか!めっちゃうれしいわ!!」
また流暢になった。
「アナタ、ワタシタチノ、ナカマニ、ナラン?」
「やめてくれー!!!!」


 太郎の叫びも虚しく、白人もついてきました。
「あの〜、自己紹介がおくれましタ。わたくしロシア出身の」
「ロシアカ!ワタシ、インドヤネン!」
「おお〜そうなんですカ!?」
なぜか盛り上がっている。
太郎はこの二人を無視してとにかく森を目指すことにしました。


 やっと森に着いた太郎はさっそく魔王を探しました。しかし、それらしき建物など何もありません。城がドーン!!というのを想像していたのですが・・・。こうしているうちに太郎は急におなかが痛くなってきました。
「うぅ、きっとさっきのカレーだ。やばい・・・」
すぐ後ろにいる2人を見ましたが、平気な顔をしている。こいつらどんな胃をしているんだ?
「あっ!いいところに洞くつがある!ちょっと、そこにいて。」
太郎は急いで洞くつへと向かいました。入口は狭かったものの、少し奥まで行くとかなり広くなっていました。
「なんだこれ?」
そこには木製の看板が立っていました。近づいてよく見てみると、文字が書いてあります。
「『魔王はこちら』?あっ、見つけた。」
ちょうどいいので、あの2人とここで別れようと思い後ろを振りかえると、なぜかそこに2人はいた。
「え?いつの間に?」
「ズットヤデ」
「怖いよ!」
この2人とは本当に会話が成り立たない。
「いくゾ!」
「あっ、ついてくるんだ。」
結局3人で看板に書かれている方へ向かうことにした。こんなことをしている間におなかが痛いことなどすっかり忘れてしまいました。

 5分ほど薄暗い洞くつの中を進むと、急に耳元で音がした。
バサバサ、バサバサ、バサバサ、バサバサ!
「うわー!なんだ!?」
「ギャー!キュウケツコウモリヤー!!」
バサバサ、バサバサ!
「大丈夫か!?みんな逃げるぞ!!」
「傘がしまりませン!!」
「なにしとんねん!!!」
太郎のつっこみは洞くつに盛大に反響しました。
「そこで拾ったんでス」
「ややこしい!」
太郎はロシア人を十分しかりつけると、奥に進むことにした。

さらに30分ほど進んだだろか、そこには学校の体育館ほど広い空間があった。
「うわ〜、すごいですネ。」
「ヒロイナア、スゴイドウグツヤ。」
「そうですネ。」
「ん?」
向こうの方に人の影のようなものが見える。しかも、沢山いる。
「あっ。」
1人がこちらに歩いてきます。その男は3人の近くまで来るとお辞儀をしてこう言いました。
「どうも魔王です。」
「ゑ?」
こんな感じで見つかるとは思ってもいなかった。
「向こうにいるのは町の男達ですよ。」
「ゑ?」
男達の方を見ると、無理矢理連れてこられた感じではないことがわかった。笑顔だ。
「あのー、魔王さん?こんなところでいったい何を・・・?」
「はっはっは、驚かせてすいません。私は魔王という名前ですが別に悪いことをしようと思っているのではありません。」
「カレータベル?」
「ありがとうございます。いだたきます。」
「ハーゲンダッシもありますヨ。」
「ありがとうございます。」
自称魔王の男はもくもくとそれらを食べました。
「ごちそうさま。とてもおいしかったです。」
「そんなことより!」
太郎は少し怒りました。
「あっ、すいません。えーっと、私たちはここで、町の女性にサプライズをしようと思い、あるものを作っています。」
「はあ?」
「これを見てください。」
そこには大量の丸いものがありました。
「ナンヤコレ?」
インド人はそれをさわろうとした時、魔王が急に叫んだ。
「あぶない!」
「ギャア!」
「なんちゃって、それは花火です!実は今夜打ち上げるのです。」


太郎は何とも言えない顔で船に乗っていました。
「なんだかなあ。」
『魔王』という響きから想像した結末とはかなり違うものでした。
「ナンダカナア。」
「なんだかなア。」
この2人はまだついてくる。インド人の手にはカレーが、ロシア人の手にはハーゲンダッシが握られています。
「カレータベル?」
「ハーゲンダッシ食べル?」
「いらんから!」
その時、
ヒュ〜、・・・ドーン!!
太郎の背後で大きな花火が上がった。太郎の顔が、カレーが、ハーゲンダッシが赤
や緑に照らされる。
「これはこれでよかったのか・・・?」
そんなことを考えながらも、すこしだけ微笑んだ。
「なあなあ、そろそろ名前教えて。」
「ロシアジン!」
「いんどじン!」
やっぱり意味がわからない!
7
112925 なかむら かなわぬ恋 この村には雪女がいる。彼女の周りは、寒さがただよい空気がピーンと張りつめている。周りのものは何もかもを凍らせてしまう。冬は山を雪で閉ざし、氷の壁を作る、彼女はもう何千年もこの山に一人で住んでいた。
彼女は今までに何回か恋をした。山のふもとの村に住む若い男にひそかに憧れたことがあったのだが、しかし、彼女が近づくと男は寒さで凍ってしまい死んでしまうのであった。彼女の恋はかなわぬ恋であった。
今も彼女はふもとの町に住む男に恋をしている。しかし、いつも遠くから男を見つめるだけで、思いを寄せる彼が凍ってしまわないように、今度こそは絶対に彼に近づかないと心に誓っていた。
男は山が好きだった。時々男は山に登ってきた。雪女にとっては恋しい男に少しでも近づける機会だ。しかし彼女が近づくと山は荒れ激しい吹雪になる。
男は吹雪の中、雪を掻き分けて進んでいた。山に入る度に吹雪かれてしまう。激しい吹雪で視界がきかず、崖からころげ落ち、足をねんざししまった。崖下は沢になっていて、戻るにはどうしてもこの崖を登るしかなかった。しかしねんざした足ではこの急な崖は登れない。男は崖下に小さな洞窟を見つけその中に入った。男は一晩ここで休んで、明日その崖を登ることにした。
男は火をおこすために枯れ枝を集めた。寒さから逃れるために、火を絶やさないようにしながら一晩過ごすのだ。
真夜中、急に吹雪がひどくなった。粉雪が洞窟の中まで吹き込んできて火が消えそうになる。男は、火が消えないように枯れ枝をくべた。ふと洞窟の入り口の方を見ると、女が立っていた。真っ白な着物を着て長い髪の女である。顔は真っ白な着物よりもさらに真っ白であった。
「雪女。」
男は思わずつぶやいた。彼女は手に持っていた袋を地面に降ろすと、すっと向きを変え洞窟から出ていった。それと同時に吹雪も収まったのだ。
男は恐る恐る女がおいた袋を開けてみた。袋の中には寝袋やランタン、食料に燃料などが入っていた。全て男のものであった。雪女が男の自宅から持って来たものだ。
男は寝袋にくるまって横になっていた。まったく狐につままれたとはこの事だが、この寝袋は幻覚なのだろうか、さっきの女はいったい誰なのか、雪女なのか、なぜこんな物を持ってきてくれたのか、いくら考えても分からない。しかし、いろいろと考え思考をめぐらしているうちに男は眠ってしまった。
次の日男は、多少足は痛むが、崖を登ることにした。しかし、男が崖を登り始めると激しい吹雪が始まった。目も開けられないほどである。急激に温度が下がり、男は仕方なくまた洞窟に戻った。
男が洞窟の中で座っていると、不意に粉雪が洞窟の中まで吹き込んできた、入り口を見ると昨日の女が立っていた。寒さが体の芯まで染み込んでくる。やはり、あの女は雪女なのであろうか。
「君は・・・雪女?」
男はやっとのおもいで聞いた。雪女はだまってうなずいた。
「なぜ、助けてくれるんだい?」
男が聞くと。
「怪我をして、大変だろうと思ったから・・」
雪女の声は氷のように澄んでいて、ひんやりとしたものだった。
「その足で崖を登るのは無理です。たとえ崖を登れたとしても、この山は起伏が激しいから下山することもできないでしょう。食べ物は私が持って来ます。だから、治るのをまったら?」
雪女は氷のような目で男を見つめる。
「そうだな、しばらく待つか。」
と男が答えると。
「これ、毛布です。」
女は包みを地面に置いた。この寒さの中では毛布なんて関係ないようにも思っていると、次第に、洞窟の中は凍りはじめ、たき火の火が消えかかっていた。
「また来ます。」
雪女はそのまま洞窟を出て行こうとする。
「待って。」
男は雪女の後を追った。とたん体が凍るように冷えてくる。男は思わず手をちぢめ、体をまるめた。
「私のそばに来てはだめです。私に触ったら凍ってしまいますよ。」
男がぼうぜんと立っていると、
「それが雪女なんです。ごめんなさい・・・。」
雪女はそう言うと外へ出ていった。

その夜、また雪女がやってきた。男はちょうど火をがんがんにおこしたところだった。また寒さが押し寄せてくる。
「食べ物を持ってきました。」
雪女は洞窟の入り口で躊躇している。
「どうしたの?」
「火を少し小さくしてくれませんか?」
男は、はっとした。なるほど雪女は火に弱いのだ。
「ちょっと待って。」
男はたき火の中から小枝を何本か取り出し雪の中に突っ込んだ。少し火は小さくなった。雪女は少しだけ洞窟の中に入って座った。
「私、熱い物に触ったら死んでしまうんです。」
しかし、彼女が入って来ると洞窟の中は急激に寒くなる、男は毛布にくるまって寝袋に入った。薄い毛布でもないよりはましだった。
「寒いですか?」
雪女は聞く。男がうなずくと、
「私これ以上近づきません。」
男は初めて雪女の顔をじっくりと見た。結構かわいい。目が鋭く冷たい表情なのだが、可憐な所があった。
「この山に住んでいるの?」
「ええ、ずっと、ずっと昔からここに住んでいます」
雪女は地面に落ちていた小枝を拾った。小枝はたちまち凍ってしまった。
「私は、なにもかも凍らせてしまう。凍らなければいいのに。」
その表情は氷のように冷たく、すごく寂しそうだった。
「一人なの?」
雪女はうなづいた
「ずっと一人?]
雪女はまたうなずいた。
「そりゃ寂しいね。」
しかし、友達になろうとは言えなかった。この寒さは命にかかわるし、しかも寒さはそろそろ限界に近づいてきた。たき火の火は消えかかり、手の感覚はもうなかった。
「寒いんだが・・・。」
男は雪女が気分を害さないように気を遣いながら言った。
「あっ、ごめんなさい・・・。じゃまた、明日食べ物を持って来ます。」
雪女は立ち上がると、さっと外へ出ていった。とたん、たき火が急に燃え出した。

次の日、足はもうほとんど回復していた、天候もまずまず、男は崖を登り始めた。ところが急に吹雪が吹き始めた、気温も急激に下がり視界もほとんどなくなった。昨日と同じ、雪女のせいだろう。男にも事情が分かってきた。雪女に気に入られたようだ。
男は雪に向かって話し始めた。
「ここから出してくれ、頼むよ。このままここにいたら、寒さで凍って死んでしまう。それとも、それが君の望みなのか?」
雪女が近くにいる事は分かっていた。
「君が寂しいのは分かるが僕にはどうしようもないよ。」
雪がややおさまり、雪の向こうに雪女が立っているのが見えた。
「たのむ、返してくれ。」
雪女は首を横に振った。
「昨日、もうしばらくいるって約束しました」
「それは足が治るまでって意味だ、もう良くなっているんだ。」
雪女はしばらく黙っていた。
「崖を登るのは危険です。春になってから登ったら?」
「それは無理だ、この寒さでは俺の体力が長くは持たない。」
「でも、崖は危険です。」
雪女は男から離れたくない一心だった。わがままをいう雪女に男はいらだった。
「やっぱり僕を殺すつもりなんだな。」
「殺したりしません。」
雪女は泣きそうだった。
「じゃ吹雪なんかおこすなよ。迷惑だ。」
男は言ってしまってから後悔した、雪女を怒らせるとまずい。
しかし、雪女はすっと姿を消してしまった。
それからは激しい吹雪が一日中続いた。男は洞窟で一日中じっとしていた。雪女を怒らせてしまったのだ。

夜、また雪女がやって来た。
「あの、食べ物を持ってきました。」
彼女はいつものごとく袋を地面に置いた。
「僕をどうするつもりなの?」
男は聞いた。
「どうするとかじゃなく・・・。」
沈黙の間があく。
「私が嫌いですか?」
雪女は消え入りそうな声で聞く。
「君はどうなの?僕が嫌いなの」
「いえ、嫌いだなんて・・・」
「でも、僕を殺すつもりなんだろう?」
「殺したりしません、絶対です。」
しかし、彼女の頭にはいままで殺した男達の顔が浮かんだ。今度こそ、絶対に近かずかないと誓ったのに、また今度も殺すことになってしまうのか。
「でも、このままでは寒さに耐えられなくなって、僕は死んでしまうよ。」
男はふと手元にあったガソリンが入った缶が目にとまった。そうだガソリンをかけよう。ガソリンを雪女にかければ、ガソリンはたき火の火で引火して燃え上がる。そうすれば雪女は死ぬかもしれない。もちろん、しくじったらそれまでだ。しかし、なにもしなければ雪女に殺されてしまう。やるしかない。
男は何気ないふりをして、ガソリンをコップについだ、コップにガソリンをなみなみとついで、それを飲むふりをして持ち上げた、そして、一気に雪女にかけた。飛び散ったガソリンがたき火にかかり、燃え上がった。しかし、それは一瞬だった、雪女にかかったガソリンはたちまち凍ってしまい、燃えなかったのだ。作戦は見事に失敗だ。
雪女は仁王立ちになって、ものすごい形相で男をにらんだ。
「私を殺そうとしたわね。」
男は思わず後ずさった、もうだめだ。
雪女は男に近づいた。殺すつもりなどないのに、好きだからそばにいたいだけなのに、でも近づけば殺してしまう。女の中では様々な葛藤があった。
男は寝袋の中で身を固くしていた。あたりはものすごい冷気が包み、たき火は消え今にも凍ってしまいそうだ。男の横においてあるガスランタンだけがかろうじて燃えていた。
雪女はじっと立っていた。殺したりしない、絶対に殺さない。もう好きな人の凍った姿など見たくない。でも一度でいい。好きな人に触ってみたい、凍っていない人に触りたい。一度だけ、一生に一度だけでいいから触ってみたい。
「キスしてくれたらあきらめるわ。」
雪女は冷たく言った。
男はもう寒さで動けなかった。雪女はそっと近づく。
雪女は優しい目で見つめた。涙が浮かんでいた。そっと唇を男の顔によせ、唇が男の唇に触れる瞬間、雪女は熱いガスランタンを握った。雪女は一瞬にして粉雪になり、一面に舞い散った。あたりには静かに床に粉雪が降り積もるだけであった。もう雪女の姿はない。
たき火が再びはげしく燃え上がった、男は呆然として、時間を忘れずっとそこに座っているのであった。
7
112926 ひよこ 人間という動物 私はネズミである。年齢は30歳になった。私には昔、父と母そして兄がいた。当時、私たちは小さな木造の空き家の屋根裏で暮らしていた。父は朝から晩まで家族のために食料を必死に集めてくれていた。母は一生懸命に手のかかる私の世話をしてくれた。また、兄は弱い私が敵に殺されないように必死に見守ってくれた。本当に恵まれた良い家族だった。何一つ不幸などなかった。本当に毎日がとても幸せだった。
しかし、私が15歳のとき、突然、家族が死んでしまった。人間という生き物に殺されたのだ。それはほんの一瞬の出来事だった。
当時私たちは屋根裏で朝ごはんを食べていた。いつものように世間話をしながら過ごしていた。そのとき、突然大きな音がしたかと思うと、上から天井とともに大きな金属のショベルのようなものが落ちてきた。あたりは埃に包まれた。必死に「おとうさん助けてー。」と叫んだが返事がない。足場が崩れ、その後は意識を失ってしまった。気がつくと私は瓦礫の上にいた。意識をうしなっていたようだ。もうあたりは薄暗くなっており、まわりに多くの作業着を着た人間の姿、多くの瓦礫がある。家族は・・・いなかった。必死になってあたりを探した。「おとうさーん。おかあさーん。おにいちゃーん。」と泣き叫びながら探し続けた。まわりでは人間がどんどん瓦礫を集めている。ついに夜になりあたりが真っ暗。さっきまであった家はどこにもなく。家の残骸もなくなってしまった。あまりにも一瞬の出来事なので嘘のようである。けれども、まわりに家族はいない。「どうしたらいいのだろう。私も死んでしまいたい。」と一晩中泣きながら言い続けた。
それから私は、しばらく途方に暮れていた。何が起きたのかも整理できない。食欲も起きず、ドブの中で1日中うずくまっていた。そもそも父がいないので食料がなかった。楽しかった毎日を思いだすと涙がとまらない。一歩も行動出来なかった。
翌朝、となりの空き家に私の家をつぶした大きな機械と、作業服を着た人間がやってきた私はすぐにドブの中からとびだした。友達の家族がその家の地下に住んでいるのだ。
私「早く逃げろ。この家が今から壊される。」
幸いなことに友達の一家は工事が始まる前に逃げることができた。 
友達「ありがとう。君がいってくれなかったら死んでいたよ。いつの間にか君の家無くなっているではないか。」      
私「知らなかったのかい。あの人間たちに家を壊されたのだよ。」
友達「旅行に行っていて気づかなかった。隣の家がなくなっているとは考えもしなかった。家族は無事だったの。」
私「死んでしまったよ。」
友達「そうなのか・・・。人間が家を壊していっているという噂は本当だったのか。まさかこんな身近に不幸がおこるとは。」
私「そのことについてもう少し詳しく教えて。」
友達「分かった。人間は私たちネズミと違ってどんどん増えている。そのために住む場所がなくなって問題になっているのだ。だから、ここらにあるような木造の一軒家などは人間にとっては単なる邪魔な箱だ。これを潰してマンションというものをつくるとたくさんの人間が住むことができ、人間にとって大きな得である。そのために、どんどん家を潰しているのだ。」
私「私たちのことは考えていないの。」
友達「あたりまえだ。ネズミのことなんて考えたこともないだろう。もしくは、家を潰すのと同時にネズミを殺してしまおうと考えているかもしれない。」
私「どうすればよいのか。」
友達「どうしようもないだろう。家がなくなっているのは私たちだけではない。森にすんでいるシカやリス、キツネ、クマなどのあらゆる動物が家を壊されているのだ。」
私「信じられない。つらい思いをしているのは私たちだけじゃないのだね。明日実際に森へいってくるよ。」
友達「分かった。私たちはこのあたりを見張っておくよ。」
夜は友達の家族と一緒にドブの中で寝た。みんなで寝たおかげでぐっすり眠ることができた。あの事件のあと一睡もしていなかったので大いびきをかいていたようだ。
次の朝、私は森へ向かった。しかし、なかなかたどりつかない。私の記憶ではここのあたりは森だったはずだが・・・。周りにはきれいな人間の家が立ち並んでいる。空気も以前に比べてかなり汚れているようだ。どんどん歩いて行くと、とてもうるさい音が聞こえてきた。そこへ近づくと、私の家と家族を奪った大きな機械が山を壊していた。
奥には森が見えた。しかし、目の前はがけ崩れが起こったかのような光景になっていた。山がみごとに削られ、木がみごとに切り崩され、たくさんの木が整列してトラックに運ばれていく。大きな機械が山の斜面から土をどんどん奪っていく。とても信じがたい光景だった。ここにいた動物たちはちゃんと逃げられたのだろうか。工事をしている人間たちは笑っている者もいたが、私は怒りと悲しみしか感じなかった。予想外に森の入口が遠く、すっかり日も暮れてしまった。私は次の朝山に登ることにした。
次の朝、山の奥へ向かって出発した。どんどん山の奥へすすんでいった。ようやくあたりが完全に森のなかにはいっていった。シカや鳥、クマがたくさん住んでいた。そして、クマの一団とであった。
私「こんにちは。」
クマ「こんにちは。何か用があるのかい。」
私「私の家族が人間に殺されたんだ。クマの家も襲われているという噂を聞いてやってきたのです。」
クマ「私たちの家もどんどん壊されているのは本当だ。知らないうちにどんどん風景が変わっていく。餌も少なくなって本当に困っているよ。」
私が返事をしようとしたそのとき、一発の銃声が聞こえた。なんと、真横の木の幹に弾丸があたった。その先を見ると、私の家族を襲った動物である人間が銃をもって私たちを狙っているではないか。私たちはクマと一緒に逃げた。後ろからどんどん銃声が聞こえてくる。山奥へどんどん逃げていく、しかし逃げた先には森がなかった。目の前ではまたもや人間とあの大きな機械が広大な土地を工事している。クマが「そんなことがあるはずがない。山を登ったはずなのになぜ森がないのだ。ここは森のはずだ。」と言った。実は、ここはのちのゴルフ場だった。しゃべっている暇などない。私たちはひたすら逃げた。しかし、なかなか完全な森に戻れずとても長い距離を走って、ようやく人間が来ないと思われる場所へ逃げることができた。
クマ「おどろいた。こんなにも私たちの住んでいる森は小さくなっていたのか。住む場所も奪われ、餌も奪われ、銃で命を狙われる。どうやらこれでは今年の冬をのりきられるのかどうかも危ないようだ。どうすればよいのか。どうすればよいか分からない。」
私「お互い気を付けることしかできないようだ。お互い頑張って気をつけよう。」
そのあと、私はクマと別れて自分の家へもどった。そこでは友達の家族が温かく迎えてくれた。私もともと住んでいた土地は、どうやら新しい家が建てられるようだ。

それから五年間、友達の家族に居候させてもらった。暮らしている家は、古い民家を一生懸命さがしてようやく見つけたものである。そして、ある日、信じられない不幸がまた起こった。私が20歳のときだった。
昼、いつものように普通に生活していると、あたりがやけに騒がしくなった。人間が「となりの村にクマがでて民家を襲った。」と騒いでいる。私は嫌な予感がした。急いで隣の村へ向かった。そこにはあの森で出会ったクマが人間にとらえられていた。人間たちはとてもうれしそうだった。安心している者もいれば、クマにとても怒っている者もいた。クマは檻に入れられ中で暴れている。私はクマを助けたいと思い走りだした瞬間、檻を乗せた大きな車は走っていってしまった。とうとうクマは餌がなくなり子どものために餌を探しにきたのだろう。結果的にクマは人間のせいで住む場所も餌も命も奪われた。この事件で村人はクマに対して大きな怒りをもっている。私は人間に怒りしか覚えなかった。この事件を作り出したのは人間だからだ。しかし、どうすることもできない。人間のせいで、また大切な人を失った。私はどうすればいいのだろうか。どうすればよいか分からない。これは五年前にクマが言っていたことと同じだった。

このような過去を経験し、今私は30歳のネズミとして生きている。まだ、昔隣の家に住んでいた家族と過ごさせてもらっている。他に逃げ場がないのだから、迷惑がかかっても仕方がない。そういえば、私は子どものころ怖いのはネコだけだと思っていた。親や兄にも「ネコには気をつけろ」と言われて育てられた。しかし、今は1番人間が怖い。今ではもう住む場所がほとんどなくなってしまって、ネズミは人間にあそばれるようになってしまった。私が5年間居候していたあの家族の友達は、人間にとらえられ、人間に実験材料として使われたようだ。変な薬や菌を体にいれられ殺されたネズミや、病気にかかって毎日もがき苦しんでいるネズミもたくさんいるようだ。人間は私たちのような他の動物をどう思っているのだろうか。人間は賢いと聞くけれども本当なのだろうか。
私「人間はこのまま私たちのような他の動物を苦しめて生きている。なぜどうすることもできない私たちだけが罰を受けているのだろうか。」
友達「実は人間は自分のことばかり考えていたから、とうとう罰を受けているそうだよ。」
おもわず私は喜んだ顔になってしまった。
私「誰から罰を受けているの。」
友達「自然だよ。私たちネズミや、森の中に住んでいるクマ、海の中に住んでいる魚などの生活を守ってくれていた自然が人間に仕返しをしているのだ。このままだと人間が将来住めなくなるような地球になるらしいよ。例えば気温がとても上がるとか。」
私「気温があがったら人間だけじゃなくて私たちも生きていけなくなるじゃない。」
友達「そうだね。やはり私たちはどうすることもできないんだね。人間にすべてがかかっているきがする。」
私「そうだ。私は今までどうすることもできないと思っていたけど、人間にお願いしたらいいのだ。人間を含めた私たち動物、そして、そのまわりの環境をどうにかできるのは人間だけなのだから。」
5
112927 あいうえお ツニ フェスティバル 俺はこんなところになんて来たくはなかった。
 けれど馬車は容赦なく、俺と相棒を目的の場所へと運んで行く。
 「ほら、見えてきたよ!」
 楽しげな相棒の声に促され大儀そうに身を起こすと、道の両脇に生い茂る木々の隙間から街の存在を誇示するかのような灯かりが見え隠れする。もう夜になってしまっているので、街の灯かりはよく目立つ。
 下手をすると落ちてしまいそうな程に荷台から身を乗り出している相棒、リニークの表情はとても楽しそうだ。
 馬車の動きに伴って、頭の後ろで一本にまとめられた金髪のくせっ毛が本人の心を代弁するかのように跳ねるように動いている。
 お気に入りのジャケット、短めのズボンに飼葉がくっついてしまっているがお構いなしの様子だ。
 エルフらしくとがった耳が、興奮してぴくぴくと動いているのが見える。
 「うわー……すごぉい……」
 森を抜けると、街がよく見渡せるようになった。現在走っているところは街よりも小高い場所なので全景が一望できる。
 一際大きな山を背後にして、暗くてよく見えないが何やら大きな建物があり、その前に他より明るく炎が灯っている部分がある。
 恐らくあれは前夜祭を行っているところなのだろう。
 そこを起点として、城下町のように大小さまざまな建物が並び、食事の支度のためと思しき湯気やら煙やらを発生させている様子がよく見える。
 先ほど少し見えた大きな建物は恐らく教会だろう。
 年に一度の音楽祭で有名な町、ツニ。
 ここが今回の仕事の場所だ。


 ここに来ることを決めたのはおとといの夜だった。
 「ああーっ!そうだ!ルダン、あれ見て!」
 一仕事終え、酒場で軽く打ち上げめいたことをしていたところにリニークが叫んだ。
 壁に備え付けられている掲示板に駆け寄りこちらへ手招きする。
 冒険者が情報交換を最も活発に行う場所、酒場では口頭による仕事紹介、依頼の他に掲示板による情報提供もなされている。主に近隣の村、都市などからの依頼がほとんどだ。
 燭台の数が足りないらしく薄暗い店内で、リニークの目だけがやけに輝いていた。
 「ねー、次どこ行くか決まってなかったよね?これやろ、これ!」
 リニークが指差すチラシを見てみると「ツニ音楽祭、警備者募集」と書いてある。
 「報酬、一人5000ファイ……3日間で5000か。まぁまぁだな」
 「私これ行ってみたかったんだよ〜。まさかこんなとこでブツかるなんて。運がいいっ」
 リニークは魔法使いだが、吟遊詩人などの奏でる演奏、歌などに目が無い。
 恐らくこの音楽祭に関してもどこかから情報を仕入れて知っていたのだろう。
 しかし、この様子だと仕事そっちのけで音楽に聞き入ってしまいそうな不安が漂う。
 それにリニークだけ楽しそうなところが何だか気に入らない。
 「何か文句でもありそうな顔だね」
 「だって俺、音楽とか興味ないし」
 「いいじゃん興味なくても。どうせ次どこ行くか決まってないんだしさ。この報酬で新しい装備も買えるよ?ルダン、もう結構装備ボロボロじゃん」
 言われて自分の装備を見直してみる。長袖の上着に重過ぎない程度の鎧を着込み、腰には長剣を下げている。普通の戦士の格好だ。しかし言われてみると確かに、鎧はあちこちへこんでいるし穿いているズボンには生地が薄くなって今にも破れそうなところが何箇所もある。髪の毛も切っていないので若干伸びすぎてしまっている。髭を剃る習慣だけは毎日欠かさないのが唯一の救いか。
 5000ファイという金額はよくも悪くもないが、新しいズボンを買うくらいの資金としては充分だ。店によっては鎧の修繕だって出来る。
 「……じゃあ、まあいいか」
 「やったー」
 「でももうこれ、開催まで間が無いけど」
 「……ほんとだ!」
 チラシに書いてある日付は明後日の日付で、ツニの町へと向かうのにはここから一日近くはかかる。
 その時いた村がツニに近くて助かった。 
 俺たちは酒場の主人にかけあって何とかツニを通る馬車を見つけてもらい、無事音楽祭前日にツニへと到着することが出来たのだった。
ツニの町は、遠くで見るよりも一層激しく活気に満ち溢れていた。
 というか、溢れすぎていた。
 「本日の出し物はもう終了しています!宿はもういっぱいです!」
 「出店への荷物受け入れはこちらでーす!」
 前夜祭の演奏を見終わって帰る者、明日からの出店の準備をする者、泊まろうと思っていた宿がなかなか見つからない者……。
 全国各地からこの為に客が訪れるというツニの町は、想像を上回る混雑模様だった。
 このどこかに警備者用受付があるはずだ。
 しかしなかなか見つからない。
 あまりの人の多さと、受付の見当たらなさにリニークと二人で辟易していたところに、教会関係者らしき僧衣をまとった人物が現れて尋ねてきた。
 「もしかして、あなたがたは警備者希望の冒険者ですか?」
 「そうなんですけど、受付が見つからなくて」
 「もう警備者の受付窓口は一旦終了してしまったんですよ。でも警備者はいつでも追加可能ですし、丁度これから前日の最終集会があるところです。ささ、どうぞこちらへ」
 集会開始までもう間が無いらしい。教会の人間がやけに早足で進むので俺達もそれに倣って少し小走り気味について行く。
 町の中を抜け、小さな森を抜けると先ほどまで前夜祭が行われていたらしい舞台のある広場に出た。相当広い。その舞台の後ろ側に建てられている石造りの教会へと俺達は案内された。恐らく、この教会が先ほど馬車から見えた教会のはずだ。
 教会に入る前に簡素な書類に名前や職業、階級などを書き込み、引き換えに書類数点と皮ひもで出来たブレスレットを渡された。
 これが警備者の証らしい。
 礼拝堂に入ると、司祭と思しき人物の挨拶の途中だった。
 恰幅のよい白髪の、優しそうな微笑を浮かべた老人。白い法衣がいかにも司祭といった風情だ。
 「それでは皆さん、明日から3日間、警備をよろしくお願い致します。皆さんに神のご加護があらんことを」
 そう言って何事か唱え、手を振りかざすと瞬間、温かく柔らかな光がその場にいる全員に降り注いだ。
 次に挨拶を始めたのは司祭の横に控えていた、厳格そうな面持ちの長身の中年だった。
 「皆さん、はじめまして。副司祭のルワランドです。この音楽祭はあくまでラースクス様、ひいては我らが聖なる神、トメンタを讃えることが本来の目的の祭りです。警備の時間は勿論、警備時間外も警備者である自覚を持って羽目をはずしすぎないようお願いしたい。何やら不穏な動きもあるようです。気を引き締めて、よろしく頼みます」
 ラースクス様って誰だ?
 横にいるリニークに聞こうとしたものの、場内が静かすぎて余計なことを話しにくい。仕方ない、後で聞こう。
 そして最後に出てきたのはこれまでとは打って変わって、小柄で可愛らしい、眼鏡をかけた女性だった。
 おじぎをしたりして動く度に茶色の巻き毛がふわふわと揺れる様が愛らしい。
 教会関係者らしくトメンタのエンブレムを胸につけているものの、服装は前の二人とは違って動きやすそうな服装だ。
 「み、みなさん、こんばんは。教会内音楽祭実行委員長、トピィです。前夜祭も無事終了し、いよいよ明日から本番です。至らぬ点もあるかとは思いますが頑張りますので、どうぞ、よろしくお願いします」
 何だか頼りなさそうなリーダーだが、挨拶の内容自体は普通だったのでまあ、安心だろう。
 集会は終わり、俺達はとりあえず書類に書かれていた宿へ向かうことにした。

 警備者として集まった冒険者達には、基本的に教会が用意した宿があてがわれる。駆け込みで滑り込んだ俺たちにも幸いベッドは用意されたが、生憎と大人数用の相部屋だった。大部屋に所狭しとベッドが並べてある。
 「何このタコ部屋……」
 「文句言わないの。ゴハンは食べ放題なんだからいいじゃない」
 そう、警備者は基本的に祭が開催されている間、町の中と音楽祭会場内は飲み食いが自由に出来るということになっているそうだ。
 先ほど配られた皮ひもを店の人間に見せればそれが警備者である証拠になる。
 皮ひもは特殊な織り込み方で作られており、偽造することは出来ないらしい。
 ただし、飲み食い自由とは言っても人に食べられる食料の量には限度があるし、酒を飲みすぎたりしていては本来の業務に支障をきたす。
 それでも、報酬がそんなに高くない分せめてこれ位は、という教会側の配慮なのだそうだ。
 丁度腹も減っているところだし、早速しっかり食べてれやろうかと食堂に向かおうとすると、隣のベッドの人間に声をかけられた。
 「あなたたち、ご飯食べに行くの?一緒に行かない?」
 「行こう行こうー☆」
 双子らしく顔がそっくりの彼女たちは、揃いのゆったりとした白い服を身にまとっている。
 突然話しかけられて戸惑っている俺を尻目に、リニークは速攻で快諾した。
 「いいよいいよー。私はリニーク。よろしくね。あなた達は?」 
 「私はイエステ」
 「私はトレディ、よろしくね☆」
 艶やかな黒髪が短く切り揃えられている方がイエステ、長く伸ばされている方がトレディ。顔は同じでもこれで大分見分けがつけられる。
 そんなことを考えていたらしばらくの間静かになってしまった。
 「……何?」
 「ルダンも自己紹介しなよ」
 「あ、ああ、そっか。え、えーと、ルダンです。よろしく」
 「よろしくー☆」
 上品で大人しそうに見える長髪とは裏腹に、トレディの方が内面は活発らしい。
 人懐こそうに握手を求めてくる手を握り返しながらそう思った。

 「あのさあ、さっき副司祭が言ってた『不穏な動き』って何?」
 「脅迫状とか届いてるらしいですよ。『中止しないと災厄が訪れる』とか何とか」
 「何それ、本当に?」
 「ほんとほんとー☆」
 「なんで脅迫状なんて出すのかなあ」
 「楽しそうなのが見ててムカつくとか☆」
 「トレディ、そういう貧困な発想、恥ずかしいからよその人と一緒の時に言わないで……」
 「何それー!ひどーい☆」
 食堂では終始女の子同士のおしゃべりに圧倒されっぱなしだった俺は、食べるだけでほとんど会話に参加しなかった。
 ちょっと寂しいけど参加しなくても会話、進んでるし。
 会話に参加しなくてもこのツニ茸のソース肉団子はおいしい。

 食事が終わると俺とリニークは早々に寝床に就くことにした。
 イエステとトレディはもうちょっと町の様子を見てみたい、と言って夜の町へ繰り出して行った。
 元気なものだ。
 ベッドに寝転がり、渡された書類で明日の予定を確認している内に、いつの間にか俺は眠ってしまっていた。

6
112928 ガク 手品  仕事を終えて列車に乗ったわたしは、いつものように駅の改札を出ると、西口の商店街へと入っていった。まだそれほど暗くはないから、ケーキ屋の前で立ち止まる子ども連れの母親や、肉屋でコロッケを買う老夫婦の姿もチラホラと見える。喫茶店の窓にそっと目をやると女子高生たちが談笑している。酒屋の前では重そうなビールケースを抱えた青年に、花屋からはブーケを手に出てくるサラリーマン風の男性。
 自宅マンションまでの通り道にあるここの商店街は、この地区の住民にとって必要なものが何でもそろう、庶民の台所といったところだ。香ばしい香りに誘われてパン屋の前で立ち止まったわたしは、勧められるままにバゲットを試食した。焼きたてのバゲットは柔らかくふわふわしていて、ほんのり塩味が利いているからいくらでも食べられそうだ。きっと明日の朝には石のように堅くなって、カフェオレで流し込まないととうてい飲み下せなくなるとわかっていても、やっぱり焼きたての誘惑には勝てなかった。紙袋から顔を出しているバゲットから立ち上る香ばしい香りに、わたしはついウキウキして、思わずスキップしてしまった。「誰にも見られなかったかな?」と恥ずかしくなってそっと周りを見回したわたしは、早足でいつもと違う角を曲がってしまった。
 もうこの地区に引っ越してきて二年になるのに、この通りは初めて通る。しばらく行くと、ケバケバしい看板の前で、黄色いハッピを着た男性が道行く人々に何かのチラシを配っている。「引き返そう。」――そう考えて歩みを止めたわたしにその男性は気づいたみたいだ。こちらの方を見ると近づいてきて、手に持ったチラシを差し出してきた。
「イヤッ!」
 わたしはとっさに差し出されたその手を払いのけた。いきおいで、その男性は持っていた他のチラシも地面にぶちまけてしまった。わたしは怖くなって、慌てて身を翻し、もと来た方向へと走って逃げた。気が付くと、わたしは小さな橋の欄干のそばまできていた。そこを渡って細い川を越えると、その先にわたしのアパートがある。振り返っても誰も追って来ていないことにホッとすると、やけに手元が軽いことに気付いた。買ったばかりのバゲットがない!きっとあのとき、どさくさにまぎれて落としてしまったのだ。
 引き返して取り戻しに行こうか? いやいや、あんなところにはもう戻りたくない。わたしは沈んだ気分で、とぼとぼと家路に着いた。鍵を開けて部屋に入る頃には日も落ちて、わたしは部屋中の電灯を点けて回った。節電しなくちゃなとは思うものの、ひとり暮らしでは暗い部屋がひとつでもあると落ち着かなくて、ついこうしてしまうのだ。ハンドバックを投げ出すと、わたしはソファにどかっと腰を下ろした。なんであんなことしたんだろう? 自己嫌悪の感情がこみあげてきた。きっと父さんのせいよ! わたしはそう決めつけた。わたしがこんな風になったのは、全部父さんが悪いのよ。そう考えると、わたしの心は少しずつ落ち着いてきた。

 わたしの父さんは熱心に教会に通っていた。とりわけ、教会学校には力を入れていた。父さんは教会学校の先生として奉仕していた。小さな子を肩車したり、男の子たちと野球やサッカーをしたり、聖書のお話の時間には手品を披露したりして、子どもたちには人気のある先生だった。みんな「父ちゃん」と言って慕っていた。
 わたしも小さい頃から毎週日曜日は教会学校に通っていた。でも、父さんは教会ではみんなの相手に夢中で、わたしのことなんてほったらかしだった。中には両親が教会に通っていない子もいたため、父さんが毎日送り迎えをしていた。だから、わたしは父さんが最後の子を送り届けるまで、ひとり寂しく教会で待っていることが多かった。
「あかりちゃんは、おりこうさんね」
 教会のみんなはそう言ってわたしのことをほめてくれたけど、わたしの心の中では他の子どもたちへの嫉妬と、なにより父さんへの怒りでいっぱいだった。
 家に帰った父さんは、今度はトラクト配りに出かける。聖書のことや教会のことが書いた小さなパンフレットを、一軒一軒回りながら配るのだ。平日の夜だって、父さんは次の教会学校でのお話や手品の準備に余念がなかった。
 父さんにとって、いったいわたしって何なの? その他大勢の子どもたちと同列、いやそれ以下の存在でしかないの? 
 わたしはそんな疑問を投げかけたけど、父さんは聞く耳を持たなかった。
「あかり、父さんは神さまにご奉仕しているんだよ。イエス様も言っているだろう? この小さい子にしてあげたことは、すべてわたしにしたのだと」
 あるとき、帰宅しようと小学校の校門を出ると、今週の日曜に教会学校で行われるキッズ・フェスティバルのチラシを父さんが配っていた。男の子たちはこそこそと、どうやったらチラシをもらわずに済むか、色々と思案しているようだった。
 わたしは父さんと目を合わさないように下を向きながら、その場を通り過ぎようと思った。でも、となりにいた友だちが言った。
「あれ、あかりちゃんのお父さんじゃない? ほら、前にあたしが教会学校に一回だけ行ったときに、手品やってくれたでしょ? だから、覚えてるんだ」
「知らない!」
 わたしはその友達を置いて駆け足で逃げ出そうとした。そのときだ。
「あかり、おまえもほら、チラシを持って行きなさい。くじの当選番号が書いてあるから」
 そう言って父さんはわたしを呼びとめ、チラシを差し出してきた。
「イヤッ!」
 わたしはとっさに差し出されたその手を払いのけた。いきおいで、父さんは持っていた他のチラシも地面にぶちまけてしまった。父さんは悲しそうな顔をした。わたしはそのまま後ろを振り返らずに、自宅に向かってひたすら走って逃げた。

 中学に上がると、わたしはもう父さんと口を聞くことはなくなった。もちろん、教会なんて行かない。友だちと一緒にカラオケに行ったり、繁華街をうろついて、夜遅くまで家に帰らないことが多くなった。
「お父さん、あかりのこと、ちゃんと叱って下さいね!」って母さんが言っても、父さんは教会学校の準備があるからって相手にしなかった。そんな父さんの態度にわたしの方が逆上して、書きかけの紙芝居の原稿をビリビリと破り捨てたら、父さんがわたしの頬をぶった。
「自分の娘より、教会学校の子どもたちの方がそんなに大事なの!」
 わたしは涙を流しながら叫んでいた。父さんは戸惑ったような顔をして、すぐには答えなかった。わたしはリビングのドアを壊れるくらい思い切り閉めて、わざと大きな音を立てて階段を上り、自分の部屋に飛び込んで激しく泣いた。

 高校時代はお互いに無視して過ごした。大学は都会の三流私立に進んだわたしは、ようやく父さんの顔を見なくて済むと思ってせいせいした。大学を卒業後、小さな会社の事務職に就職したわたしは、実家には帰らず、都会の自由な生活を満喫していた。写真なんか持ってきていなかったから、いつしかわたしは父さんの顔さえはっきり思い出せないようになっていた。
 なのに、なんで今頃父さんの顔など思い出してしまったのだろう? あの男性はちっとも父さんには似ていなかったのに。
 なんだか胸騒ぎがして、わたしは母さんの携帯に電話をかけてみた。でも、何度かけてもつながらなかった。わたしはいらだちと不安でじっとしていられなくなった。
 実家の家電にかけてみようか? だけど、それには少し勇気が必要だった。
「もしもし、どちら様ですか?」
 電話に出たのは父さんだった。
「――あかり」
 わたしはただそれだけを言うと黙り込んでしまった。
「どうした?」
 父さんの声は平静だった。
「……母さんは?」
「夕飯を作ってる。呼ぼうか?」
「いい」
 母さんは、どうせ携帯の充電を忘れたんだろう。わたしの取り越し苦労だったみたいだ。ほっとするやら、腹が立つやら。わたしは電話を切ろうとした。
「あかり、おまえ、元気にしてるか? ちゃんとご飯、食べてるか?」
 父さんとはずっと冷戦状態だったのに、何年も遠く離れていると新鮮な気持ちになって、互いに気兼ねなく話せるようになるのだろうか? 
 わたしはまだ父さんを許していない。だけど、わたしはすぐに電話を切ることができなかった。わたしは受話器をじっと耳に押し当てていた。わたしたちはしばらく無言でいた。
「あかりにはずっと寂しい思いをさせてすまなかったな」
 父さんがぽつりと言った。
「父さん、あかりが生まれる前は小学校の先生をしてたんだ。子どもたちが大好きでね。自分の天職だと思っていた。子どもたちも慕ってくれていた。でも、いつの間にか天狗になっていたんだな。あるとき、父さんが担任のクラスの子が自殺したんだ。父さんはパニックになったよ。ひとりで孤独に、誰にも言えない悩みを抱いていた子に気づかなかったなんて、教師失格だと思った。それからすぐ父さんは教師を辞めたよ。それからなんだ、父さんが教会に行き始めたのは」
 わたしが生まれる前のことは父さんも母さんもほとんど話してくれなかったから、突然聞かされた父さんの告白に、わたしは息を飲みながら聞き入っていた。
「教え子を失った責任ですっかり精神的に参っていた父さんは、はじめは教会の隅っこでおとなしくしていたんだ。でも、教会学校の子どもたちを見ていると、なんだかいてもたってもいられなくなってね。まだ洗礼を受けて間もなかったんだが、教会学校の奉仕に志願したんだ。
 父さんはね、子どもたちに神さまの愛を伝えたいってそれだけを願って教えることにしたんだ。もう二度とひとり寂しい思いで自分の命を断つような子を生みださないためにも、この地域全体に神さまの愛を伝える必要があると思って、毎週トラクトを配ることにしたんだ。それはとても必死な思いだったんだ。それが亡くなった子への贖罪の道だと思い込んでいた。
 でも、いつのまにか、奉仕に夢中になって、おまえにひとり寂しい思いをさせてしまっていたね。父さんはまた同じ間違いを犯していたんだ。すまない。どうか許してほしい」
 受話器の向こうで深々と頭を下げている父さんの姿が見えるようだった。わたしは頭の中がすっかり混乱して何も言えないでいた。
「たまには実家に帰ってきてほしい。母さんが寂しくしているから」
 このまま父さんが電話を切ってしまう気がして、わたしは慌てて言った。
「まだ教会学校は続けているの?」
 それは決して非難するような調子ではなかった。ただ、事実を確認したかっただけだ。
「いや、父さんじゃもう時代遅れで、子どもたちの話題についていけないし。肩車もしんどくなってきたしな」
 そう言った父さんはやけに老けたな、とわたしは思った。
「でも、父さんの手品はいまだ健在じゃないの? わたし、あれだけは大好きだったよ」
 ちょっとリップサービスしすぎたかな? でもいいや。わたしはまだしばらくは実家には帰れないし、父さんにはまだ元気でいてほしいから。これくらいは許していいだろう。
 その後の父さんの言葉は、涙声で何を言っているのかよくわからなかった。わたしは受話器を下ろさずに、いつまでもそれを聞いていた。
6
112929 りんご ぼくのちよちゃん …なんだろう?

─がたん ごとん─

 まっくらだ、ぐらぐらする。
「………。」
 あ、ちよちゃんの声だ。


 ぼくがちよちゃんに会ったのは、ちよちゃんが3歳のとき。
 ちよちゃんのママがちよちゃんのお誕生日にぼくを買って来たのが始まりだった。
 その頃のちよちゃんはまだ小さくて自分のことを『ちょこ』って呼んでいた。
 ぼくは毎日ちよちゃんと一緒にお昼寝したし、お風呂に入れられそうにもなったりした。
 夜寝るときだって、ちよちゃんがお出かけするときだって、ずっとずっと一緒だった。
 ちよちゃんが“幼稚園”に行くようになってからも、“幼稚園”から帰ってきたちよちゃんと一緒に遊びに行ったし、寝るときだって
『たろがいないとちょこやだー』
 ってママを困らせたりしていたぐらい。
ちよちゃんが“小学生”になると、遊びに連れていってくれなくなった。
けど、やっぱり寝るのは一緒だったし、家族のお出かけも一緒だった。
お友達がおうちに来ると、ぼくも一緒に遊んでくれたし、“学校”であったこと、お友達と話したこと、いっぱいいっぱい僕にお話してくれた。
 ぼくは、ちよちゃんのお話が楽しくて、面白くて、ちよちゃんがすっごく嬉しそうに話すから大好きだった。

『ちよこねー、夢があるの。
1つはね、大きくなったらお医者さんになりたいの。お医者さんになってね、苦くないお薬作るんだから。
もう1つは、お嫁さんになりたいの。おムコさんはたろだよ。
それでね、ちよことたろと赤ちゃんとで幸せに暮らすの。』

 なんて言ってくれたりもして。
 なのにちよちゃんは、9歳の時に亮太くんをお家に呼んで
『あのね、たろ。りょーくんはね、ちよこの未来のおムコさんなの。』
 なんて言うんだもんなー。ぼくあのとき拗ねてたんだからね。

「なんだい、亮太くんなんて。タレ目で優しそうな顔してるけど、ぼくのほうがもっとかっこいいんだぞ。」

 あと、あの頃のちよちゃんは泣き虫だったね。でも、泣くのはぼくの前だけ。パパやママに怒られても我慢して、寝る前にぼくをぎゅってして泣いていた。ぼくが動けたなら、ちよちゃんをぎゅってできたのに…

“中学生”になったちよちゃんは、忙しくなって、ぼくと遊んでくれなくなった。“学校”のこともお話ししてくれなくなった。一緒に寝たりもしなくなった。
でも、『行ってきます』と『ただいま』はいつも言ってくれて、つらいことがあった時はぼくに全部話してくれた。
好きな人ができたときも、ぼくにはすぐ報告してくれた。
好きな人のことを思い出して照れてるちよちゃん…かわいかったな。
そういえば、この頃だったっけ?ぼくがちよちゃんと、パパとママと旅行したのは。
旅行が決まったとき、ちよちゃんはすっごく嬉しそうで、大急ぎでぼくに報告しにきてくれたんだ。

『一緒に行こうね、たろ。』

って、久しぶりに話しかけてくれたちよちゃんの笑顔は、昔から変わらないキラキラの笑顔だった。
旅行先に着いてからもぼくはずっとちよちゃんと一緒だった。ちよちゃんやパパやママといっぱい写真を撮って、すごくすごく楽しかった。これがぼくとちよちゃんの最後の旅行だった。
その旅行が終わってから、ちよちゃんは前にも増して忙しそうになってぼくのことなんて忘れたみたいだった。それでも、ぼくの定位置、ちよちゃんの部屋が見渡せる本棚の中からずっとちよちゃんを見守っていた。

そうしているうちに、ちよちゃんは“受験”というものをして、“高校生”になった。“高校生”になったちよちゃんはもう、完璧にぼくのことを忘れていた。
埃まみれのぼくのほこりをはらってくれるのはたまにちよちゃんの部屋に入ってくるママだけだった。もう、『行ってきます』も『ただいま』も言ってくれなくなった。
そんなある日、リビングからちよちゃんの声が聞こえた。

『絶対ここ受けるから!無理でもなんでもここしか行かない!!』

 そう叫んだちよちゃんはパパやママの「待ちなさい、ちよこ!」って声も無視して部屋へ入ってきて久しぶりにぼくを抱きしめた。ぎゅーって、これでもかってぐらいぼくを抱きしめるちよちゃんの顔はとても苦しそうだった。
 それから何日か、ちよちゃんは毎日のようにぼくをぎゅーっと抱きしめた。
小さな頃のちよちゃんはぼくのことを抱きしめて泣きながら嫌なことを話してくれたのに、大きくなったちよちゃんは何も言ってくれなかった。
ただ毎日苦しそうな顔で僕を抱きしめるだけだった。
そんなちよちゃんを見てるのが辛くて、何もできないぼくが悔しくて、毎日毎日、ぼくは祈り続けた。

「神様、お願いします。ちよちゃんの苦しさを消してください。
消すのがダメなら、ぼくが変わりになります。
だから、ちよちゃんにキラキラの笑顔を返してあげてください。」

そんなぼくのお願いが届いたのか、それから何ヶ月かたった後、ちよちゃんはまたキラキラの笑顔でぼくに話しかけてくれた。

『ねぇ、たろ聞いて?あたし、大学合格しちゃった!
ずっと行きたかったの。これで、あたしの夢も叶うかもしれない…無理って言われても頑張って本当によかった。』

ちよちゃんはとってもとっても嬉しそうで、ぼくもとってもとっても嬉しくなった。
だから、忘れてたんだ。
ぼくが神様にお願いしたことがなんだったか。

ちよちゃんが“大学”に行くちょっと前になると、部屋の中が騒がしくなってきた。
箱とかカバンとかに部屋のものがどんどんダンボール箱に詰め込まれていく…
そして、ついにぼくの番がきた。

『ちよこ、たろはどうするの?』

『置いてく。』

そうこうしているうちに、僕も箱に詰め込まれた。でも、ぼくの入った箱は押入れの奥のほうへとしまわれた。
そこからぼくは、何ヶ月も何ヶ月も、何年も何年も箱の中で過ごした。
箱の中はとにかく窮屈で、しんどくて苦しくて…でもぼくはそんなことよりとにかく、ちよちゃんの顔が見たくて、ちよちゃんに会いたくて仕方なかった。

「ちよちゃん…どうしてぼくを置いていっちゃったの?もうぼくのこと嫌いになった?忘れちゃった?
ここからぼくを出して。ぼくをぎゅってしてよ。
ちよちゃん…ちよちゃんの笑顔が見たいよ…
ちよちゃん、ちよちゃん…苦しいよ…」

その時、ぼくは苦しそうだったちよちゃんを思い出した。

「そうか。これがちよちゃんの変わりの苦しさか。
ちよちゃんはこんなに苦しかったんだ…」

それから僕は我慢した。しんどくても苦しくても我慢した。
だって、ぼくが神様に

「ぼくが変わりになります」

って言ったんだから。

そして今日。

急に箱が動いた。
なんだろう?

─がたん ごとん─

『………。』
あ、ちよちゃんの声だ。
ぼく、どこかに運ばれてる?
そういえば、昔いつもぼくの隣に座っていたうさぎのミミーさんに聞いたことがある。【人間はいらなくなった物は捨てるんだ】って。
あぁ、きっとぼくも捨てられるんだ。

「ちよちゃん。ぼく、ちよちゃんと出会えてすっごく楽しかったよ。
ちよちゃんと一緒に過ごした時間は本当に幸せだった。きっと今から捨てられるんだろうけど、それでもいい。今までちよちゃんと一緒に居られただけで、ぼくは十分だから。でも、最後にもう一回だけ、ちよちゃんに会いたかったな…」

その時、箱の蓋が開いて、誰かがぼくを箱から出した。
ぼくを出してくれたのは…ちよちゃんそっくりな小さな女の子。

「…ちよちゃん?」

でもおかしい。このちよちゃんは、3歳ぐらいのときのちよちゃんのはず。今のちよちゃんはもっと大人のはずだ。
ぼくがよくわからないでいると、3歳のちよちゃんの向こうから、女の人がやってきた。それに気づいた3歳のちよちゃんは、女の人のところへぼくを持ったまま嬉しそうに走っていく。

『ママ、ママ!!くまちゃん。
プレジェントくまちゃんだったー。』

女の人は3歳のちよちゃんの頭をなでながら喋った。

『よかったねー、あこちゃん。
そのくまちゃんはね、ママが3歳のときにおばあちゃんにもらった【たろ】って言うのよ。あこちゃんも大事にしてね。』


3歳のちよちゃんじゃなくて、あこちゃん?
3歳のときにもらった…?
それにこの声…この人ちよちゃんだ。

『パパ、パパーあこプレジェントもらったー』

今度はあこちゃんは、ぼくをパパさんのところに連れて行った。

『おー、よかったな。何もらったんだ?』
『くまちゃんのぬいぐるみっ!』

パパさんに向かってぼくを突き出すあこちゃん。

『あれ?このくまママのじゃなかったか?』
『ママがくれたー。』

『そっか、そっか。大切にするんだぞ。』

そう言って、あこちゃんの頭をなでているこの男の人も見たことがある。
この人は…もしかして…

「亮太くん?」

そうだ。絶対にそうだ。あの、タレ目で優しそうな顔は大人になっても変わってない。
でも、何が起きたんだろう。
プレゼント?ぼくが?ぼくは捨てられるんじゃなかったのかな。

その日の夜。あこちゃんも、亮太くんも寝た後、ちよちゃんがあこちゃんに抱きしめられているぼくのところへやってきて久しぶりにお話をしてくれた。
『久しぶり。ごめんね?たろ。ずっと放っといて。
あのとき寮に連れて行きたかったんだけど、寮の部屋が狭くて必要最低限のものしか持って行けなかったの。そのあとも、忙しくて家になかなか帰れなくて…でも、たろのこと忘れたりしなかったよ。
そうだ、たろ。あたしちゃんと夢全部叶えたの。
医者になったよ。お嫁さんにもなった。たろじゃなくて亮太のだけど。
子どももできたの。亜子って言うのよ。
今までずっとあたしの側に居てくれてありがとう。もう私はたろがいなくても奥さんとして、お母さんとしてしっかり生きていけるよ。
だからこれからは亜子の側に居てあげてね。』

そうだったんだ…。ぼくはちよちゃんに捨てられるんでも、忘れられたんでもなかったんだ。
ぼくも、忘れたりしなかったよ。ずっと想ってたよ。
でもね、ちよちゃん。叶った夢はまだ全部じゃないよ。
まだ1つ

【ちよちゃんとぼくと赤ちゃんで幸せに暮らす】

が残ってる。
一緒に寝たり遊びに行ったり、昔ちよちゃんがしたことを、今度はちよちゃんとあこちゃんと一緒にしよう。あ、もちろん亮太くんも一緒だよ。
その夢もこれからたくさん叶えていこうね、ぼくのちよちゃん。



─ 終わり ─
7
112930 まーち みにくいアヒルのピー太  ここは、とある茂みのなか。ここで、私と夫は出会った。でもね、最初はこんな人と恋に落ちるなんて、思いもしなかった。
 それは、一年前の春。ぽかぽか陽気で、花も咲き始めた頃。私は友だちとひなたぼっこしていたの。そこへ、私たちと同い年くらいの若いアヒルが二羽やってきたの。
「おーい!お二人さん何しているの?楽しそうだねぇ!」
「天気がいいから、ひなたぼっこしているのよ。」
「天気いいよねぇ!こんな日はさ、俺らと遊ばねぇ?」
見た目も言葉もチャラチャラしていたけど、私も友だちも暇だったので、軽い気持ちで一緒に遊ぶことにした。川辺で水のかけ合いをしたり、木陰でお話をしたり。一日で、私たち四人はとても仲良くなった。それから毎日四人で遊ぶようになり、気付けば私と友だちは、彼らと付き合うようになっていた。
 そして、彼らと出会って半年後、友だちと彼氏は新しい家庭を築くために、二人でこの場を去っていった。私たちは、住み慣れたこの場所で、幸せな家庭を築くことにした。このときはまだ、私たちの間には愛があると、そう信じていた。
 彼の態度が急変したのは、私が卵を産み始めた頃だった。急に私に対して冷たくなり、卵になんか見向きもしなくなった。そんな日が何日も続き、耐えられなくなった私は、思わず彼に聞いた。
「ねぇ。どうしてそんなに冷たくなったの?もうすぐ子どもたちも生まれるよ。だから、二人で仲良く支え合おうよ。」
「はぁ・・・。あのさ、実は俺、おまえの事好きじゃないんだよね。お前の友だちの方が好みだったんだけど。」
「え・・・。ちょっと待ってよ。子どもたちはどうなるのよ。」
「俺しばらくしたら、あいつ追いかけるつもりだったのに、卵産むとか予想外。でも、この気持ちは変わらない。やっぱ追いかけにいくわ。じゃあな、元気で。」
そう言葉を残し、彼は友だち夫婦の元へと去っていった。その後、彼がどうなったのかなんて知りたくもない。私は残された子どもたちと、強く生きていくことを決意した。
 そして、この茂みで卵を温め続けて、もう数日たつ。けれど、なかなか卵が割れないの。早く子どもたちに会いたい。その一心で卵を温めていると、やっと卵がひとつずつ割れてきた。中からは、黄色の小さなヒナたちが顔を出していく。とても可愛くて、愛おしい瞳で私を見つめている。けれど、巣の中で一番大きな卵だけが割れない。不安に思いつつも、あきらめずに温め続けることにした。すると、ようやく割れ始めた。最後の一羽はどんな子どもかしら。しかし、その子を見たとたん、私は目を疑いたくなった。なんと、どのヒナよりも大きくて、体が白かったの。私は驚きながらも、その子をピー太と名付ける事にした。


 僕の名前はピー太。生まれて数ヶ月たつ。他の兄弟たちよりも体が大きくて、色もみんなと違って白い。小さい頃は、体が大きいことや、一人だけ色が違うことを、兄弟たちに羨ましがられ、僕も得意げになって自慢していた。重たい荷物を運ぶときも、僕が率先してお母さんのお手伝いをした。生まれた頃からお父さんはいなかったけど、寂しさを感じないくらい、皆で楽しい毎日を過ごしていた。しかし、楽しい毎日をかき消すかのように、辛い出来事が僕たちを襲い始めた。
 僕たちは皆で毎日お散歩をしていた。初めは近所のおばさんや通りすがりの鳥たちも、僕を見て驚いていたが、それでもにこやかに挨拶をしてくれた。だから、僕も気にせず挨拶をしていた。しかし、日がたつにつれて、周りの視線は冷たくなり、その視線の先には、いつも僕がいた。
「聞いた?あの子、本当はあの家族の子じゃないみたいよ。」
「えー。そうなの?なぜいるのかしらね。」
周りの人はこんな事をひそひそ話しながら、僕を見るようになった。そして、僕が一人でいるときを狙って、他の鳥たちがいじめるようになった。
「おまえ、アヒルじゃないだろ。」
「違う鳥のくせに、アヒルのふりしてんじゃねーよ!」
そんな言葉が、いつも僕に浴びせられた。そのたびに、お母さんや兄弟たちが助けに来てくれ、守ってくれた。
「大丈夫よピー太。あんな言葉気にしなくてもいいから。ピー太は私たちの家族よ。」
「そうだよ!ピー太と僕たちは兄弟さ。僕たちが守ってあげるから!」
助けてくれるたびにそう言ってくれ、僕はその言葉を信じ、負けずに毎日を過ごした。
 そんなある日、またいつものように他の鳥たちにいじめられたときのこと。その日も、お母さんと兄弟たちが、その鳥たちを追い払ってくれた。僕は、感謝の気持ちでいっぱいになり、皆にお礼を言った。
「いつもありがとう。ごめんね、僕が大きくて白いせいで、こんな目に遭わせてしまって。」
「だから気にするなって。ピー太が悪いわけじゃないよ。それに見た目は違っても、僕たちがアヒルの兄弟なのには変わりないのだから。」
「そうよ。ピー太は何も気にしなくて良いのよ。」
しかし、優しい声をかけてくれたお母さんの表情は、少し曇って見えた。
 その夜、昼間のお母さんの表情が気になった僕は、兄弟たちが寝静まった後、こっそりお母さんの元へ行くとこにした。お母さんにもう一度お礼を言おう。そして、今までよりもたくさんお手伝いして、恩返しすることを約束しよう。そう心に決めながら歩いていると、お母さんが近所のおばさんと話している姿が見えた。邪魔をしたくなかったので、僕は木の陰でこっそり待つことにした。すると、二人の信じられない会話が聞こえてきた。
「またピー太くんいじめられたんだって?」
「ええ。でも、私も兄弟たちもついていますから、心配ないですよ。」
「でもさあ、あんたもピー太くんがアヒルの子じゃないって疑ったことないの?成長すればするほど、あんたたちと違う姿になっていくわよ。」
「それは・・・確かに疑ったことはあります。でも、確かめる方法がありません。それに、もしそうだとしても、その鳥たちに会う機会なんてありませんし・・・。何より、つらくてピー太にその事実を伝えられません。」
「まあその気持ちも分かるけどねぇ。でもこのままだと、あんたと兄弟たちの、心も体もボロボロになるわよ。あんなに毎日、他の鳥たちとケンカしていたら。」
「それは分かっています。他の子どもたちの負担が大きいのは、十分承知です。でも、どうすることもできないんです。」
その瞬間、お母さんがその場に泣き崩れるのが見えた。その姿を見て、僕はいたたまれない気持ちになった。僕のせいで、家族が傷ついている。僕だけがこんな体だから。このままじゃ、あの楽しい暮らしに戻ることができなくなる。どうすればいいか必死に考えていると、ふとある考えが頭に浮かんだ。そうだ、僕が本当にアヒルかどうか確かめに行けばいいんだ。そしたら、お母さんも兄弟たちも、また元気になる。よし、いろんな鳥たちに会いに行こう。心に固く決心した僕は、置き手紙を残し、旅に出かけた。
『お母さんと兄弟たちへ 僕は、自分が本当にアヒルの子なのか確かめるために、旅に出ます。いつ帰ってくるか分からないけれど、必ず本当の事を知って帰ってきます。だから、それまで元気でね。 ピー太より』
 旅に出るとは言ったものの、僕には行く当てがなかった。生まれた茂みから、ほとんど遠くへ行ったことがなかったので、どこにどんな鳥たちがいるのかも分からなかった。けれど、このまま帰っても、また皆を苦しめるだけ。勇気を振り絞って、前に進むことにした。
 旅に出て数日。いろんな鳥たちと出会ったが、僕に似ている鳥に出会うことはなかった。
「こんな白い鳥なんて見たことないなあ。」
どの鳥たちも、口をそろえてこう言うのだった。そして、慣れない土地のせいで、お腹いっぱいご飯を食べることができず、空腹にも耐えられなくなってきていた。だめだ、もう歩けないや。そう思った瞬間、僕はその場で意識を手放した。
 僕が目を覚ますと、さっきとは違う景色になっていた。
「あれ・・・。ここはどこだろう。」
「あら、気がついた?」
声のする方を振り返ってみると、そこには優しそうなカモのおばさんがいた。
「さっき、道を歩いていたら、あなたが倒れていたんですもの。びっくりしちゃった。」
「え、助けてくれたんですか?ありがとうございます。実は僕、昨日から何も食べていなくて・・・。」
「あら、それは大変。すぐにご飯を作ってあげるわ。」
カモのおばさんはそう言うと、どこかへ行き、おいしそうなご飯を持って、戻ってきた。
「さあ、遠慮しないで食べてちょうだい。ちょっと作りすぎたかしら。」
「うわあ、おいしそう。こんなにたくさんのご飯なんて久しぶりだ。いただきます。」
僕は無我夢中で、おばさんが作ってくれたご飯を食べた。そして僕の様子を見ながら、おばさんは不思議そうに尋ねた。
「それにしても、どうして一人で倒れていたの?迷子になったの?」
「いえ、違うんです。実は僕、自分のことをアヒルと思って暮らしていたんです。でも、他の兄弟たちと違って、色も白いし、体も大きいし。そのせいで、僕はいじめられて、家族にまで迷惑をかけていた。だから僕は、本当は何の鳥なのか確かめに、旅に出ることにしたんです。」
「あら、そうだったの。大変ねえ。そういえば、あなたみたいに白い鳥なら、この近くにある湖にいたわよ。」
「えっ!本当ですか!」
「ええ。とってもきれいな鳥よ。もしかしたらあなたの仲間かもしれないわね。」
その言葉を聞いたとたん、僕の心は興奮とうれしさでいっぱいになった。ついに、僕の正体が分かるかも知れない。優しいおばさんにお礼を言った後、僕はその湖をめざして歩いた。
 しばらく歩くと、目的の湖にたどり着いた。白い鳥がどこにいるか、僕は必死に探した。すると、湖のほとりで、美しく輝く白い鳥たちが遊んでいた。僕は走ってそこへ行き、鳥たちに話しかけた。
「あの、すいません。」
「あら、初めまして。かわいい新人さん。」
「え、新人さん?」
「ええ、そうよ。あなたも私たちと同じ白鳥じゃないの。」
「僕が・・・白鳥?本当にそうなの?アヒルじゃないの?」
「あなたは、正真正銘の白鳥よ。ほら、飛べることもできるわよ。」
そう言って、白鳥たちは僕の前で飛んで見せた。
「ほら、あなたもやってみたら。」
僕は言われるがまま、一生懸命に羽を動かした。すると、みるみるうちに、僕の体は地面から浮いていった。
「うわあ!僕、空飛んでいるよ!初めてだ!僕は白鳥だったんだ!」
うれしさのあまり、しばらく空を飛び続けた。そうか、僕は白鳥だったんだ。やっと分かった、僕の正体が!
 僕が空から戻ってくると、白鳥たちはほほえみながら、話しかけてきた。
「実はね、私たちここから引っ越そうと思っているの。もっと広くて素敵な湖のある場所へ。だから、せっかく仲間になったんだし、一緒に行きましょう。」
僕はついていくべきか悩んだ。白鳥だと分かった以上、アヒルのお母さんや兄弟たちと、一緒に暮らすことはできない。でも、僕の本当の姿を皆に見てもらいたい。そこで、僕は良い考えを思いついた。
「あの・・・僕のお願いを聞いてくれますか。」
 次の日、僕を先頭に、白鳥の群れは飛び立った。向かった先は、そう、僕の家族が待っているところ。しばらくすると、懐かしい茂みが見えてきて、そこに会いたかった家族はいた。僕は白鳥の群れと共に、茂みに降り立った。
「お母さん、皆、ただいま。」
お母さんと兄弟たちは、とてもびっくりした様子で、僕を見つめていた。
「ピー太・・・あなた本当にピー太なの?」
「そうだよお母さん。ただいま、遅くなってごめんね。」
その瞬間、お母さんも兄弟たちも僕の方へ駆け寄り、皆泣きながら喜んでくれた。
「おかえりピー太。ずっとずっと待っていたわよ。無事で何より。」
「ピー太がいない間、僕たちずっと寂しかったんだぞ。」
「ピー太会いたかったよ!」
他愛もない会話をしばらくした後、僕は本題を話し始めた。
「皆、聞いて欲しいんだ。実は僕、アヒルの子じゃなかったんだ。本当は白鳥だったんだ。」
それを証明するかのように、他の白鳥たちがピー太の横に並んだ。
「あら、本当。その白い輝きが同じだわ。」
「そうなんだ。そして、僕が白鳥だと分かった以上、皆と一緒に暮らすことはできない。だから、僕はこの新しい仲間と共に、新しい場所で暮らすことにするよ。今まで本当にありがとう。」
そのとたん、兄弟たちは泣き叫び始めた。
「嫌だ!嫌だよピー太!せっかく帰ってきたのに、もう別れるなんて。嫌だよ!」
「そうだよ!僕たちは皆兄弟だろ!言ったじゃないか!」
「おやめなさい!」
お母さんは兄弟たちの声をさえぎり、そして僕に向かって優しくこう言った。
「それがあなたの決断なら、私は構いませんよ。新しい仲間の皆さんも、とても優しそうですし。でもね、これだけは忘れないでほしいの。私たちは、離れていてもずっと家族よ。」
その瞬間、僕の目から涙があふれ出し、お母さんに抱きついた。
「ありがとう、お母さん。僕、絶対皆の事忘れない。」
「いつでも帰ってきていいのよ。ここはあなたのもう一つの家だから。」
僕とお母さんの周りに兄弟たちが集まってきて、しばらく皆で泣き合った。家族のぬくもりを感じた瞬間だった。
 そして、いよいよ旅立ちのとき。
「元気でなピー太。」
「いつでも帰ってこいよ!」
「そのときは、また皆で遊ぼうぜ!」
「うん。絶対帰ってくるから!それまで待っていてね。」
僕が兄弟たちと別れを惜しんでいるとき、お母さんは白鳥たちと話していた。
「息子をよろしくお願いします。」
「もちろんです。これで、これから私たちも仲間ですね。また皆で遊びに来ますね。」
「ええ。待っていますよ。」
「じゃあ皆、そろそろ行こうか。」
僕はそう言って、羽ばたき始めた。他の白鳥たちも羽ばたき始める。
「さようならお母さん!皆!大好きだよ!」
大声でそう言った後、大空の中へと、新しい仲間と共に消えていった。
〈完〉
9
112931 ペケマル いちゃりばちょーで  ここはロストワールド。かつては緑が生い茂り、動物たちと人間が仲良く平和に暮らしていました。ある日、空から隕石が降ってきました。これが悪夢の始まりでした。その隕石は海に落下し、そこから数え切れないほどの、今まで見たこととのない悪魔のような形をした生き物がでてきました。彼らは草木を枯らし、水を汚し、人々を殺していきました。人間は抵抗できず逃げることで精一杯でした。こうして、世界は滅んでいきました。
 隕石が落ちてから10年後。世界は荒れ地と化していた。一部の地域を除いては。
ここはダイキョウ。悪魔の攻撃から耐えた数少ない場所。
 隕石には不思議な力があった。隕石のかけらは土地をまもり、悪魔たちの攻撃から人間を守ってくれる。また、人間に不思議な力を与えてくれた。あるものは悪魔を切り裂く剣士としての力、あるものはあらゆるものを射抜く弓使い、あるものは何もないところから火をおこしたり水を操ったり、万物をコントロールする魔道士、あるものはあらゆる傷を治す治療士、人間は悪魔に対抗する力を手に入れた。そしてここに、悪魔を倒そうと旅立とうとしている若者が二人いる。その名は剣士ヒロ、魔道士ショーダイ。彼らは悪魔の親玉クワジーを倒す旅に出る。
ヒロ「厳しい旅になると思う。でも、俺たちがやらなければ他に誰がやる。」
ショーダイ「やってやろうぜ。俺が悪魔を倒してこの世界を再び前のような世界にするんだ。」
 こうして二人はダイキョウから旅立つのだった。
 旅立った二人がまず向かったのは、ダイキョウと同じように隕石のかけらの力で悪魔の攻撃から守られた村、カサオオに向かった。
 カサオオにむかう途中、二人の前に急に悪魔たちが現れた。悪魔たちはこの10年の間に人間の言葉を喋れるようになり、二人に話しかけてきた。
「俺たちはクワジー様直属の部下、よっしー、ユッキャン、ヴぃヴぃ、ちばーりよだ。」
よっしー「お前らここで何をしている。」
ユッキャン「まさかクワジー様にたてつくつもりじゃないだろうな。」
ヴぃヴぃ「お前らここで殺してやる。」
ちばーりよ「・・・・・・。」
 よっしー、ユッキャン、ヴぃヴぃ、ちばーりよが現れた。
ヒロの攻撃、会心の一撃。ユッキャンは倒れた。ショーダイの攻撃、ファイラ。全員に中ダメージ。
よっしーの攻撃。ひのこ。ヒロに10ダメージ。ヴぃヴぃの攻撃。みずってぽう。ショーダイに8ダメージ。ちばーりよの攻撃。「・・・・・・・。」特に何も起こらない。
ヒロの攻撃。指笛。ショーダイの魔力がぐーんと上がった・。
ショーダイの攻撃。ビックバン。よっしー、ヴぃヴぃ、ちばーりよは倒れた。
ヒロ、ショーダイは戦いに勝利した。
悪魔たち「くそっ。こんな強いなんてきいてないぜ。ここはひとまず退散だ。次あったときは覚えとけよ。」
こうして悪魔たちとの戦闘を終えた二人は、カサオオに向かうのだった。
 カサオオに着いた二人は旅の疲れをいやすために町の宿に泊まることにした。ここで怪しい噂を二人は聞く。
村民A「村のはずれにある神社の巫女さんいるじゃろ。あの巫女さんいつもあの不思議な力で傷をあっという間に治してくれるじゃないか。その力をねらって悪魔がこの村を襲いにくるって噂があるんじゃ。」
村民B「本当かい!最近周辺で悪魔の数が増えているのはそのせいなのかい。でも、この村には隕石のかけらがあるんだから大丈夫だろ?」
村民A「ああ。隕石のかけらがあれば大丈夫だ。ただ、何か胸騒ぎがするんじゃ・・・。」
 ヒロとショーダイは部屋に行き眠ることにしました。
ヒロ「あの話気になるな。」
ショーダイ「そうだな。何も起こらなければいいんだが。明日その巫女とやらに会いに行こう。かわいかったらいいな。」
にやにやしながらいうショーダイにあきれたヒロは無視して寝ることにしました。ショーダイも相手にされないことはわかっていたので、それ以上は何も言わず眠ることにしました。
翌日。ショーダイとヒロは村のはずれにある神社に向かっていた。その時
「キャー!!」
 女の人の悲鳴が聞こえてきた。神社のほうでは煙が上がっている。ヒロとショーダイは急いで神社へ向かった。
 神社は炎をあげ、今まさに崩れ落ちるところだった。そして目の前には村にいるはずのない悪魔と、とらえられた巫女がいた。
ヒロ「おい、待て。巫女をどうするつもりだ。」
よっしー「またお前らか。この巫女は傷を治す不思議な力を持っている。だから、この力をクワジー様に献上しようと思っているのさ。だから邪魔をするな。」
ショーダイ「一回俺らに負けたのを忘れているのか。巫女さん、すぐに助けるからね。」
よっしー「今回は前の俺とは一味違うからな。こい、sakki、yuri.。
 ヒロとショーダイはその姿をみて驚いた。
ヒロ・ショーダイ「で、でかすぎる。」
その高さは、ヒロとショーダイ数倍はあった。
sakki・yuri「私たち悪魔ツインタワー。私たちの大きさに勝てる人間なんていない。」
ショーダイ「てか、どうやって村の結界を破ったんだ。隕石の力があったら悪魔は村に入れないはずだろ。」
よっしー「この二人の力があれば、隕石の力なんて関係ねえよ。」
ヒロ「隕石の力が通用しないなんて。これ以上被害がでないようこいつらを早く倒そう。」
ショーダイ「そうだな。」 
 ヒロとショーダイは得意の剣と魔法でよっしーをあっという間に倒した。しかし、sakkiとyuriの圧倒的でかさと圧倒的破壊力になすすべなく、全滅するのも時間の問題だった。その時、遠くから心地よい音楽が聞こえてきた。その音楽を聴くとなんだか力が湧いてくるようだった。その音楽は謎の女が奏でていた。
謎の女「二人ともピンチやん。私が力をかしたるわ。わたしの名前はかなえ。よろしく。」
 奏でている音楽からは想像できないほどのフレンドリーさにちょっと驚いた二人。しかし、今はそんな呑気なことは言ってはいられない。かなえの助けをかりることにした。
 かなえが奏でている楽器は、昔この世界が平和だったころの楽器でサンシンというものだった。このサンシン、普通のものと違って隕石のかけらが埋め込まれており、人間の潜在能力を高め、悪魔の力を弱める不思議な力を持っている。
 かなえはサンシンを奏でた。ヒロとショーダイのパラメータが二倍になった。悪魔の力は半減した。
ヒロ「これならいける。よしショーダイ、合体攻撃だ。」
ヒロとショーダイの攻撃。ハイサイチューガナビラ。ツインタワーのsakkiとyuriの大きな体は地面に倒れた。こうして、かなえの助けをかりてなんとか悪魔たちに勝利し、巫女を助けることができた。
巫女「助けてくれてありがとうございます。私の名前はロコです。二人ともこんなにけがをして。わたしがこのけがを治してみせます。」
 ヒロとショーダイのけがはあっという間に治ってしまいました。
ショーダイ「ありがとう、ロコ。よかったらこれから、どこか二人で食事でも」
かなえ「あー、お腹すいた。ロコ、ご飯でも行こう。もちろん、ヒロとショーダイのおごりで。」
そういって、かなえはロコと先に行ってしまった。
ヒロ「なんか、この感じ今までなかったから楽しいね。」
ショーダイ「イライライライラ。せっかくロコと二人でと思ったのに。まあ、たしかにヒロの言うとおり、今まで二人で旅していたから、ちょっと楽しいな。」
 そんなことを言いながら、二人は、先に向かった、かなえとロコを追いかけるのだった。
 食事を終えた4人は、これからのことについて話し合っていた。
ロコ「私は神社を燃やされ、行くところがありません。お二人についていってはいけないでしょうか。」
ショーダイ「もちろん、いいに決まっている。なあ、ヒロ。」
ヒロ「ああ。ロコの回復術はこれから先の旅で必要になってくるだろうし、大歓迎だよ。」
かなえ「なら、私もついていく。おもしろそうだし。」
ショーダイ「はあ。なんでお前がついてくるんだよ。」
かなえ「いいじゃん。細かいことは気にしない、気にしない。」
ショーダイ「イライライライラ。まあいいや。それで次はどこに行くんだ。」
ロコ「ここからずっと西のほうにクワジーのいるワナキオがあるとさっき私を連れ去ろうとした悪魔が言っていました。」
ヒロ「なら、西に向かおうか。」
こうして4人は西に向かって、カサオオを後にした。
 カサオオを出てから数日。4人は仲良く旅している・・・はずだった。カサオオを出て2日目。4人は悪魔に襲われ食料を失ってしまった。そして現在にいたる。
かなえ「あー、お腹すいた。もういや。ついてこなかったらよかった。」
ショーダイ「うるさいな。そんなこと言っても食いもんはでてこないぞ。」
かなえ「わかってる。うるさいな。ショーダイは黙ってて。」
ショーダイ「イライライライラ。お前なんか」連れてくるんじゃなかった。」
ロコ「二人とも喧嘩しないで。」
ヒロ「おい、3人とも、向こうを見てくれ。誰かが悪魔に襲われているみたいだ。助けに行こう。」
ショーダイ「あれは食料だ!助けて食料分けてもらおう。」
悪魔「んっふ。おいしそうな食べ物ですね。私たちにわけてもらえないでしょうか。あっ、人間の世界ではまず自己紹介をするんですね。私たち悪魔5人集。悪鬼、瑠ネ、鷹夜
獅帆、那都魅。人間の食べている物に目がないんです。抵抗しないで早く食料を渡して
いただけますか。」
「あなたたちに渡す食料はありません。早くどこかへ行ってください。」
鷹夜「食べ物・・・。お腹すいた。」
獅帆「そこにいいものあるやん。」
悪鬼「んっふ。食べ物。」
瑠ネ「食い物――!」
那都魅「仕方ないですね。実力行使といきましょうか。」
 悪魔たちは食料を奪おうと、食料を守っていた3人に襲いかかった。
ヒロ「待て。おい悪魔たち。人間の食料を奪おうとするとは。俺たちが来たからにはそうはさせない。覚悟しろ。」
ヒロたちは連携攻撃をしかけた。まけじと悪魔たちも連携攻撃を仕掛けてきた。悪魔たちはピアノと呼ばれる楽器を使って攻撃してきた。これではかなえのサンシンも意味がない。あの楽器を何とかしなくてはいけない。
「私たちも協力します。私たちの名前は、ごく、はせ、でこ。私たちが弓であの楽器を射抜くから、あなたたちは悪魔たちの注意をひいて。」
ヒロ・ショーダイ「わかった。まかしてくれ。」
ヒロとショーダイは食料を使って悪魔たちの気を引く。腹ペコの悪魔たちは食料に夢中で、弓で狙われていることに気づかない。
ごく・はせ・でこ「くらえ!」
3人のはなった矢は見事にピアノを射抜いた。ピアノを失った悪魔たちを倒すのはそう難しいことではなかった。こうして食料は守られた。
ごく「助けてくれてありがとうございます。ところで、あなたたちはなんでこんなところにいるのですか。」
ヒロ「悪魔の親玉、クワジーを倒すために西を目指していたら君たちに遭遇したんだ。」
はせ「えっ、そうなん。やったらうちらと一緒やん。」
でこ「うちらも、悪魔たちに親を殺されて、かたき討ちのためにクワジーのもとに行く途中だったんだ。」
ショーダイ「だったらみんなで一緒に行こうぜ。人数が多いほうがなにかと良いことありそうだし。」
かなえ「ショーダイは3人がかわいいから一緒にいたいだけでしょ。でも、一緒に行動することには賛成。」
ショーダイ「かなえこそ食料目当てだろ。」
また二人の言いあいが始まった。ロコとヒロがいつものように二人をなだめる。
ごく「ははは。なんだか久しぶりに笑った。4人とも仲がいいんですね。あの、目的は同じです。だから、私たちも一緒に行っていいですか。」
ヒロ「もちろんだよ。」 
こうして4人の旅から、7人の旅になった。さて、クワジーはもう目の前です。7人の運命はどうなるのでしょう。
 とうとう7人はクワジーのいるオキナワにたどり着いた。オキナワは暗いくらい森で覆われており、歩いてもあるいても同じところをぐるぐる回っているだけだった。
ショーダイ「どうなってんだよ。さっきから同じとこに戻ってくるじゃねえか。イライライライラ。」
でこ「ほんまやな。さっき置いといた目印もあるし、このままやったらうちらずっと同じとこ歩きまわって死んじゃうよ。」
はせ「そんなん嫌や。うちやりたいことまだまだいっぱいあんねん。」
みんなが絶望感にとらわれ始めたとき、どこからともなく声が聞こえてきた。
謎の声「私の声が聞こえますか。私の言うとおりに進んでください。そしたらこの森をぬけれますから。」
 すると目の前にウリ坊が現れた。
ウリ坊「ウリといいます。さあ、着いてきてください。」
 いきなりのことでとまどった7人だったが。このままではいつ倒れるかは時間の問題。7人はウリに着いていくことにした。
 ウリに着いていき数時間がたった。すると、森を抜け開けたところに出た。そして、目の前には大きな建物が見えてきた。
ウリ「あそこにクワジーがいます。お願いです。クワジーを倒してください。私は親をあのクワジーが連れてきた悪魔たちに奪われました。私のような人たちの無念を晴らしてください。」
 さっきまでウリ坊だった姿がいつのまにか人の姿に変わっていた。そして、その姿は光の粒となり空へと消えていった。
ヒロ「どの思いしっかり受け取りました。さあ、クワジーは目の前だ。クワジーを倒して、この世界に平和を取り戻そう。」
 こうしてクワジーのいる建物に入った7人。そこには二人の悪魔が待ち構えていた。
「よくここまでたどりつきましたわね。正直感心してますのよ。人間ごときがここまで頑張るなんて。でももうおしまい。あなたたちは私のこの美しさにやられてしまうのよ。」
「カオル、無駄なことはいってないで早くこの人間どもを片付けるの。クワジーさまのお手を煩わせるわけにはいかない。」
カオル「アサム、わかってるわよ。いつもあなたは真面目すぎるの。まあいいわ。さあ、人間ども覚悟しなさいよ。」
ショーダイ「かおるってやつ・・・あの美脚。やばい、俺惚れた。あの足にうずくまりたい。」
ごく「サイテー!」
かなえ「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。」
ヒロ「そうだよ。さあ、おれらもこころしてかからないと。今までの敵とは比べ物にならないよ。」
 7人と悪魔の戦いは壮絶だった。一進一退の攻撃。決着は長引くかに思えた。しかし、その時、今までに経験したことのない魔力とともにすさまじい炎が場を焼き尽くした。7人は一瞬にして戦闘不能になった。
クワジー「ぶー!すまん、屁がでた。その程度の力で俺にはむかおうとは、ふざけるのもいい加減にしろ。お前らなど本気を出さずともこの程度だ。あきらめてとっとと失せろ。」
 クワジーの力は想像をはるかに超えていた。屁だけであの力だ。7人はなすすべがなかった。
ヒロ「ここまで来たのに、もう駄目なのか。」
ショーダイ「なんでだよ。あと少しだってのに。」
かなえ「私たちはこんなところで負けられない。」
ロコ「神様、私たちに力を貸してください。」
でこ「クワジーを倒すちからを」
ごく「私たちはやらなければいけないんだ。」
はせ「諦めてたまるもんか。」
 その時、一筋の光が降り注ぎ7人を包み込んだ。
「私は汀。この世界では昔神と言われていました。あなたちちにこの力を授けましょう。使い方はあなたたち次第です。」
ヒロ「なんだこの力は。さっきまで立つことも叶わなかったのに、力があふれだしてくる。これならいける。」
ヒロは捨て身でクワジーへと突っ込んだ。ヒロの攻撃はクワジーを光に包んだ。その瞬間、クワジーの姿は人間の姿へと変わった。
ショーダイ「これはどういうことだ。」
汀「クワジーのような悪魔たちは、もとは悪魔ではなく、あなたたちと同じ人間だったのです。あの隕石の力で悪魔になってしまっていたのです。」
ロコ「そうだったのですか。じゃあ、今まで戦ってきた悪魔たちは人間だったのですか。」
ヒロ「そうだったのか。じゃあ、今クワジーを倒したことで他の悪魔たちは人間に戻ったのですか。」
汀「悪魔たちは人間に戻っているはずです。しかし、隕石の力が残っている限り、同じことは繰り返されるでしょう。隕石の力は、人間に様々な力を与え、裕福な暮らしを保障します。これからどうするかは、あなたたち次第ですよ。」
こういって汀は消えてしまった。
かなえ「これからどうするかはあなたたち次第・・・。決まってるやん。隕石を集めに行くよ。」
全員「もちろん。」
クワジー「話はあらかた聞いていた。おれはみんなにひどいことをしていたらしい。この罪を許してもらうつもりはない。ただ、罪滅ぼしのためにも、俺を連れていってほしい。」
アサム、カオル「私たちも連れて行って。」
ヒロ「わかった。一緒に行こう。」
ショーダイ「ただ、どこに行けばいいんだろうな。」
ウリ「私が案内しましょう。」
はせ「ウリ!ありがとう。」
こうして、悪の親玉クワジーは倒された。世界に平和が戻ってきたのだ。しかし、本当の平和のためには隕石をすべて集めて壊さなければいけない。こうしてヒロとショーダイの旅は、多くの仲間とともに続いていくのだった。
ショーダイ、クワジー「あっ、かわいいこみっけ。」
ごく「サイテー!」

7
112932 こだまっちゃん 夢から醒めた夢 〈視点:夢の配達人〉

私は毎晩みんなに夢を配っている配達人だ。今日はだれに夢を配ろう・・・。
辺りには、すやすやと眠っている子どもがたくさんいる。
その中でも私が目に入ったのは赤い服を着て、赤い靴を履いて、赤い鞄を持った女の子。その女の子は好奇心旺盛で、天国や霊たちの世界に興味があるようだった。よし、今日はこの子に夢を配ろう。
そして私はこの子を「ピコ」と名付けた。
私はピコに向かって、
「君の名はピコ。今日は私が君を夢の世界へ連れて行ってあげよう。」
と話しかけた。
「私は・・・ピコ?」
「そうだ。何かしたいことや、どこか行ってみたい場所を言ってくれ。」
「そうねぇ。私、幽霊に会ってみたいなぁ。あと、天国のような場所ってあるのかな?行ってみたいわぁ。」
「よしわかった。なら、遊園地に行こう。そこには、あの世界への入り口があるんだ。そこで君は一人の友だちに会うだろう。」


遊園地につくとパレードが行われていた。ボールを器用に操るピエロ。列をきれいにそろえて歩く鼓笛隊。辺り一面がすごく賑やかだった。だが、その中に青い服を着て、青い靴を履いて、青い鞄を持った、青ざめた女の子が一人ポツっと立っていた。

ピコは尋ねた。
「あなたは誰?私の・・・えっと、友だち?」
「えぇ。私はマコっていうの。」
そう言ってマコはピコに手を差し出した。
「きゃっ。冷たい手。もしかしてあなた、ゆ・・・ゆうれい?」
「えぇ。私はゆうれいよ。私あなたにお願いがあるの。」
ピコは幽霊など本当に出てくるとは思ってもいなかったので突然怖くなり逃げようとした。
私は言った。
「聞いておあげ。ピコ。友だちの話を。」
「と・・・ともだち?・・・いいわ。聞いてあげる。」
「ありがとう。私はある日お母さんと買い物をしていたの。お母さんとは姉妹みたいに仲が良かったわ。でもね、買い物が終わって帰ろうとしたとき、私は忘れ物をしたことに気付いて、一人でお店に戻ろうとしたの。そしたらそのとき・・・。前から突然車がきて引かれた。私はそうして幽霊になった。・・・あれから、お母さんはろくに食事もせず、一人さびしく過ごしているの。だから、一日あなたと入れ替わってお母さんに会いに行きたい。そして、いつもそばにいるって安心させてあげたい。お願いピコ。一日だけ私と入れ替わって。」
ピコは困った顔をしていたが、しばらくしてマコの手を強く握った。

手を取り合うと二人は入れ替わった。
ピコの顔は血の気が引くように青ざめていった。

これが夢の始まりだ。ピコはこれからあの世へ行く。どんな出来事が待ち受けているのだろうか。

〈視点:ノーマル〉

配達人「ここは霊界空港だ。ここでは生前に何も罪を犯していない人たちが白のパスポートをもって光の国へのロケットが来るのを待っている。そして生前に何らかの罪を犯した人たちは黒のパスポートをもって、それを白のパスポートに変えるために働いている。それらのパスポートはデビル、エンジェル、職員がチェックをしている。」
そういって配達人は消えてしまった。

ピコはマコの白いパスポートを持っている。ここには、喧嘩をして殺されてしまったヤクザ、バイクを乗り回して事故に遭った暴走族、家族を放ったらかしにしたまま仕事に夢中になり、過労で死んでしまった部長、大学受験に失敗して自殺をした少年メソ、が黒のパスポートを持って働いていた。
ピコは不思議そうに、でも楽しそうに、この世界でみんなと過ごした。
そこへ1年に1回出発するという光の国へのロケットが到着したのでみんなで見に行くことにした。でもまだ受験に失敗して落ち込んでいたメソは見に行く気になれないようで、一人その場に残っていた。
メソの横にはピコが置いていった鞄があった。メソは鞄に気付き、何気なくピコの鞄を開けた。そこには白いパスポートが入っている・・・。
「これが白いパスポートか。」
憧れていた白いパスポートが目の前にあったため、思わずメソは手に取って見た。すると、そこへヤクザが帰ってきた。ヤクザはメソの手元にある白いパスポートを見て、
「おぉ!メソ。おめぇ、白のパスポートに変わったのか?これはめでてぇ!!!おめでとう。」
そこにみんなが帰ってきて、
「そうだったの!!メソ!よかったね。おめでとう!!」
と言われ、メソは引き返せなくなってしまった。
「・・・そう・・なんだ。みんな、今まで本当にありがとう。」
「本当よかったな。そういうことなら早く手続きしてこい!!!」
暴走族にそう言われ、メソは光の国への手続きを終わらせてしまった。
しかし、しばらくしてピコは鞄に入れていたはずのマコのパスポートがなくなっていることに気付いた。それを知ったみんなの目線は、一斉にメソの方へ・・・。
メソは言った。
「みんな・・・ごめん。僕がさっき持っていたのはピコの鞄に入っていた白のパスポートだったんだ。」
「ピコのって・・・。君、さっきそれで手続きしてしまったんじゃないのか?」
部長は驚いて言った。
デビルは、やっぱりな、という顔をしていた。

「あぁ・・・本当にごめん。」
メソがそう言うと、びっくりしたみんなは顔を見合わせ、次々とメソを責めた。
それを見ていたピコは、
「みんなやめて。私、みんなのために霊界に残るわ。せっかくみんなに出会えたんだからもう少しここにいたいし。ここでパスポートが白になるまで働くわ。その方がマコもお母さんと居られるし、幸せだと思う。」
場は静まり返った。
ピコの言葉を聞いたメソは、
「・・・ごめん。ピコ。でもそんなのダメだ。僕はもう、どうなったっていい。ピコを現実の世界に返したい。そしてマコに光の国へ行ってほしい。本当にごめんなさい。」
でも、一度手続きをしてしまったパスポートを元には戻せないのだった。

それを聞いていたデビルやエンジェル、職員はピコの優しさ、メソの反省の色に心を打たれ、本当ならしてはいけないパスポートの再発行を決めた。
だが、パスポートの再発行をするためにはマコのフルネームが必要だった。ピコがここに居られる時間はあと二時間。日本中の「マコ」という名前の人の中から、ピコと入れ替わったマコのフルネームを見つけなければいけない。デビルとエンジェルはパソコンを使って、職員はパスポートの発行履歴書を使って、ピコやヤクザ、暴走族、部長は他の霊界空港の仲間たちに聞きあたって、マコを探した。みんなが「マコ」を見つけては顔写真をピコに見せに行くが、みんな違った。
あと一時間しかない。そのとき、メソがまた顔写真を持ってきた。

ピコは大声で、
「マコだ!!!」
と叫んだ。みんなが一斉にマコの方を向き、手を取り合って喜んだ。
メソも泣いて喜んだ。
「よかった。本当によかった・・・。ピコ、ごめんね。そして、ありがとう。君の優しさに触れて、僕は光になる前に、人の温かさを知ることができた。今まで勉強ばかりしていたから、そんなもの全然知らなかったよ。こんな出会いや友情があるんだと知っていたら、僕はまだここにはいなかったかもね。教えてくれてありがとう。僕の分まで生きて。」
メソに続いてみんながピコに別れを告げた。
「お前みたいな他人の幸せを願うやつがいたんだな。お前も幸せになれよ。」とデビル。
「あなたは素晴らしい。世界中の人が幸せになれたら良いですね!」とエンジェル。
「おれぁ別れってのが苦手でな。いや、いろいろありがとうございやした。」とヤクザ。
「またいつか会おうぜ。」と暴走族。
「家族を大事にして下さいね。お幸せに!」と部長。
職員たちや他の霊界空港の人々も見送るなか、ピコは再発行された白のパスポートを持ってマコのもとへ向かった。メソも光の国へのロケットへ乗った。

〈視点:配達人〉

あの世からピコがやっと帰ってきた。もう夜だった。一日以上たってしまうと元には戻れないというのに。
一方マコとマコの母は、公園のベンチで仲良くしゃべっていた。
マコはピコが来たのを見て、
「お母さん、今まで本当にありがとう。もう行かなくちゃ。私のことは心配しなくていいからね。」
「えぇ。わかったわ。会いに来てくれてありがとう。これからあなたは光になって、いつもお母さんのそばに居てくれるのね。」
「えぇ。いつもお母さんを包んでいる。」
マコはそう言ってピコの方へ歩いていき、ピコの手を握ろうとした。


「・・・待って」
マコの母は突然後ろからマコにしがみついた。そしてマコ、ピコ、僕に嘆き伝えてきた。
「お願い。行かないで。このまま時間をとめてちょうだい。この子の命の火を消さないで。どうか・・・お願い。今ここに、今私の手の中に、愛しいわが子がいるの・・・。お願い。行かないで。連れて行かないで。」

マコは自分の体にしがみついている母の手をとって言った。
「お母さん。駄目よ。私は光の国へ旅立つの。私が行かなければピコが死んでしまう。・・・ピコ!早く、私の手に触って!」
ピコはずっと下を向いている。
「・・・私、できない。」
ピコはマコの手に今触らなかったらどうなるかわかっているはずだった。だけど、マコと母を引き裂くようなことはできない・・・、そう思っているようだ。
「ピコ、どうする。時間はないぞ。」

ピコが顔をあげて言った。
「マコは愛されていた。もしも二人がこのままで暮らして行けるなら、私は・・・」


マコは静かに言った。
「振り向けばお母さんとのたくさんの思い出がある。だけどもう戻らない。悲しみは私だけが胸に秘めていくの。さぁ、ピコ。」
そう言ってもう一度手を差し出した。
マコの母はその間もずっとマコから離れようとはしない。さぁ、どうする。ピコ・・・。


「・・・駄目。私、できない!!!」
「駄目よ。あなたが私と同じことをすれば、あなたのお母さんがどんなに悲しむと思うの。あなたのお母さんに私のお母さんと同じ思いをさせるつもり?あなたの命はお母さんの命と同じなのよ。あとで悔やんでも遅いわ。」

ピコはそう言われ、霊界空港のみんなの言葉も思い出して、やっとの思いでマコの手に触った。

マコの母も、ようやく納得したようだった。そして、二人は入れ替わり、ピコは血の気を取り戻した。
マコの母、ピコ、私が上を向くとそこには大きな星が二つキラキラと輝いていた。あぁ・・・。あの星はマコとメソだろう。私たちはしばらくその星を眺めていたが、しばらくしてマコの母とピコは自分の家へ帰って行った。



そうしてこの夢は終わった。
今日の夢は少しハラハラしたが、ピコが無事にこの世界へ戻ってこられて本当によかった。
この夢で私は、命の尊さ、仲間の大切さ、生きる希望をみなさんに伝えたかったのだが、どうだろう。少しは伝えられただろうか。

さて、明日は誰に夢を配ろうか。

おしまい。
10以上
112933 ピンクマスオ 桃太郎改  時はそう遠くない未来、○△×‐251地区に人工知能を搭載した自立型二足歩行ロボットのOG3型(おーじーさんがた)と萌えキャラとしての猫耳をはやした見た目は少女、中身はおばあさんのおばにゃんが一つ屋根の下暮らしていました。OG3型は山へ・・・・・狩りに、おばあにゃんは脱衣所へ選択に行きました。すると、川上から大きな桃がドンブラコドンブラコと流されていきました。桃は誰にも気づかれることなく海へ流されていきました。おばあにゃんは洗剤を新商品に変えてみました。すると、OG3型の作業着の油汚れがみるみるうちに流れていきました。新しい洗剤のレビューをネット上におばあにゃんが送っているとき、流されていた桃は定置網漁の漁師の人が拾いました。「こんなところにももが流れてくるとは珍しいこともあるもんだな。」漁師の人はその桃を家に大切に持ち帰り、食べてしまいました。その桃は大変おいしく、漁師の人はすももを食べたくなり、「すもももももももものうち。」と叫びながら、ネット通販で注文しました。さて、その頃新しい洗剤に満足していたおばあにゃんの家に川上から大きな桃が届きました。「ハンコかサインお願いします!」元気な挨拶をしてくれる黒○大和の宅急便の人に笑顔を振りまきつつ、おばにゃんははんこを押して、宅配便をもらいました。こたつに入っておばあにゃんが宛先を見ました。「えー。川上からじゃん。チョー久しぶりー。」とおばあにゃんはいいました。川上はおばあにゃんが女学生時代の唯一無二の親友でした。「川上に子供がうまれてから一度も会ってないからなー。あはっ。あたしが桃好きなの覚えてくれてたんだ。元気かなぁ、川上・・・。」「それは、桜の花びらが舞い散る暖かいポカポカとした日だった・・・。新しい制服。新しい鞄。新しいつけ耳。あたしは新しいことだらけにわくわくと不安を同時に抱えていたんだ。あたしは人見知りだから、みんなと仲良くできなかった。そんな時、最初の実力テストのとき、消しゴムがなかったんだっけ?あたしは案の定字を間違ってしまって、どうしようか悩んでいると前の席の川上が何も言わず貸してくれたの・・・。テスト後、お礼を言う時に友達を作るきっかけになるかなと思って勇気を出して、話しかけてた。それが川上との出会いの始まりだっけ・・・。」おばあにゃんが宅配便を開けるとそこには伝票にも書かれている通り、りっぱな大きな桃が入っていました。おばあにゃんはどうしてもすぐに桃を食べたくなり、早速桃を切ろうとしました。すると、桃の中から怪しい鳴き声が聞こえます。「おぎゃうおびゃううびゃるうじゅる・・・。」不気味に思ったおばあにゃんは下手に手を出さず、OG3型の帰りを待ちました。そこへOG3型が帰ってきました。彼の背の上には二本の角、大きな牙。そして、触手のような手を6本持ったヤンドギラがいました。OG3型がおばあにゃんに言いました。「今夜ハ、ヤンドギラ鍋ダ。」「それ却下デース☆」事情を聞いたOG3型は「内部二生体反応ヲ確認。」「何ガアッテモ入ッテクルナ。」とOG3型はおばあにゃんに言い残し、別室にこもって摘出処置を始めました。「キュイーン。キュイーン。」という音だけがおばにゃんのみみに入ってきました。数時間後、OG3型は玉のような赤ん坊を抱えながら、別室から出てきました。生まれてきた赤ん坊は女の子だったことと、桃から生まれたことを考慮し、桃子という名前を付けました。桃子は好奇心旺盛でおばあにゃんに大変よくなつきました。桃子はすくすくと成長し、15年たつと川上になりました。15年前川上は横浜の中華街で麻婆豆腐とチャーハン占めて1000円を無銭飲食し、逃走していたのです。そのとき、川上の食べた中華料理屋さんの総料理長が逃げる川上に赤ん坊になる呪いをかけられ、川上は赤ん坊になってしまいました。赤ん坊の川上は一人では生きていくことはできません。道端に段ボールに「育ててください。」と書いて座っていても誰も見向きもしてくれませんでした。そんなこんなで川上は同級生だったおばにゃんを頼り、自らを桃の実の中に封じ込め、おばあにゃんに育てられるという手段を選んだのです。桃子が川上に育っている頃、○△×‐251地区では鬼が島から頻繁に鬼がやってくるようになりました。鬼たちは持ち前のルックスと幼児体型とニーニーというかわいらしい声をりようして○△×‐251地区の住民の心に入り込んで、鬼グッズを生産していました。彼らは何も被害をこうむらないし、人々のアイドル的存在になっていったのです。しかし、ほんとの鬼たちの目的は人間の心に入り込んで人類を征服することでした。その野望にいち早く気付いた人たちがレジスタンスを作り、今まさに鬼が島を滅亡させようとしていたのです。そのレジスタンスに川上は所属していました。そして、とうとう川上が鬼が島に向かう日になったのです。「予定通りこれから鬼が島へ向かうわ。でも、その前に言っておきたいことがあるの。育ててもらったことには感謝してる。でも、勘違いしないで・・・。私の目的はあくまで自分の本来の体に戻る事。そのためにあなたを利用したに過ぎないわ・・・。言いたいことわかるわよね? 母親面しないで。」と、川上はおばあにゃんに言い放ちました。おばあにゃんは楽しかった女学生時代の川上との思い出を思い出していると、親友からのきつい一言に涙が止まりませんでした。それでもおばあにゃんは川上の身の安全を信じ、川上にお守りと5000ガバスと自分のつけ耳を渡し、笑顔で見送ったのでした。川上はおばにゃんのつけ耳をつけ、歩いていると、ヤンドギラを狩っていたOG3型に出会いました。「あ、OG3型じゃん!ひさしぶりー!」川上に声をかけられたOG3型は川上をおばあにゃんと勘違いし、川上についていくことにきめました。OG3型は老朽化が進み、おばにゃんをおばあにゃんと認識する方法はつけ耳のみになってしまっていたのです。意識をとりもどしたヤンドギラは必死に抵抗しようとしましたが、OG3型の鋭い睨みに負け、主従関係を結ぶことを決意し、川上についていくことを決めました。その後、少し歩いていると、ぼぶ・ふぇるなんですに出会いました。彼に5000ガバスを渡すと喜んでついてきました。港に到着した川上軍は豪華客船を乗っ取り、鬼が島へしゅっぱつしました。いろいろなハプニングがありましたが、荒波を乗り越え川上軍の船はようやく鬼が島にたどり着きました。「ふはははははは!ここが私の世界征服の根城となる島か!旋風も心地よいぞ!!!」島へ上陸した川上は脇目も振らず鬼の住処を目指します。家来のヤンドギラ。ぼぶ・ふぇるなんです。そして、OG3型を引き連れて、いよいよ鬼との決戦です。鬼の戦闘力は5。それに比べてOG3型の戦闘力はゆうに100000を超えていました。「えい。」「とりゃ!」「やれ、いけぇ!」川上軍の猛攻で鬼達はひとたまりもありません。OG3型は最新鋭の武器である拡散型爆裂光線で鬼達を爆破させます。ぼぶ・ふぇるなんですはレゲエの音楽で仲間の士気を鼓舞しようとしていましたがOG3型の拡散型爆裂光線での突風により自慢のアフロがかつらであることが醸されてしまいました。川上は鬼が島をどのように自分の世界征服のための基地にするかを想像しながら、鬼が島バカンスを楽しんでいました。鬼が島を川上軍が征服するのは時間の問題でした。鬼たちはほぼ壊滅。たまりかねた、鬼軍の将軍が川上軍に協力をすることで争いは終了しました。川上は鬼たちの治療を行い、○△×‐251地区に大量の鬼を送り、関連商品を大量に作らせました。鬼が島の所有権を示す書類を鬼から譲り受けた川上は一度おばあにゃんのもとへ帰ることを決意しました。いくらじぶんが元の姿に成長するのを利用しただけであれ、おばにゃんのありがたみをひしひしと感じたからです。○△×‐251地区に戻る準備をしていると川上はあることに気が付きました。「OG3型がいない・・・。」OG3型は拡散型爆裂光線の巻き添えをくらってしまい、頭部と右上腕部のみとなってしまっていました。「おばあにゃんに顔向けできない・・・。」川上はそこでやっと周りの人をいかに自分が傷つけてきたか、周りの人がいなければ自分は生きてこれなかったのかを感じて、自分のしてきた罪を償うかのように大声で泣き続けました。川上は鬼達に謝罪し、多額の賠償金を払うことを決意し、鬼達を解放してあげました。しかし、川上はおばあにゃんに会うことを拒み始めました。おばあにゃんの大切な人であるOG3型をボロボロな形にしてしまって、ひどいことを言っておばにゃんを苦しめてきたのは自分でしかない。これからのおばあにゃんの一人でさびしい生活を想像すると、本当にかなしいきもちになりました。そんな時、ぼぶ・ふぇるなんですが川上の肩を抱き、「音楽の力をなめるなYO!おばあにゃんはお前の身の安全をあんじ、あんなに冷たいことを言われても、笑顔で、持ち物を持たせてくれ、送り出したんじゃないのかYO!」と、いいました。川上はこの言葉にこころを救われ、おばにゃんのもとへ帰ることを決意しました。荒波にもまれながらも豪華客船に乗り込み、川上軍と鬼達は海を渡りました。こうして、川上軍一行は無事に○△×‐251地区に帰り着きました。いまは頭部と右上腕部のみとなったOG3型におばあにゃんが駆け寄ります。「おかえり、わたしのヒーロー。」おばあにゃんが泣き崩れ、川上が謝罪をしようとしたその時です。「やっと捕まえたぞ。まーた、食い逃げしやがって!!」川上が帰りに立ち寄った中華料理屋の総料理長は川上を追いかけていて、川上を捕まえてそういいました。中華料理屋の総料理長は川上に呪いをかけると、またたくまに川上は赤ん坊になってしまいました。おばにゃんは赤ん坊になってしまった川上をマスクメロンに封じ込め、川に流しましたとさ。めでたしめでたし。 10以上
112934 おにぎり相撲 夏のある日  三堂恭平の部屋に夕日のやわらかい光が差し込む。オレンジ色の世界に恭平はいた。『ピンポーン、ピンポーン』チャイムが鳴る音が聞こえる。どうせ新聞の勧誘かなにかだろう。
「キョーちゃーんっ!!」
浩の声だ。学校に来ない恭平を心配して、家まで来たようだ。恭平は部屋のドアを開けた。しかし、こんな姿では浩に会えるはずもない。居留守を使おうと、部屋に戻ろうとした時、再び浩の声が聞こえた。
「キョーちゃーんっ!!助けてやー。」
『た・す・け・て?』こちらが助けてほしいくらいだというのに、浩の奴…と恭平はいきどおる。
「キョーちゃんっ!!」
(ヒロヤンの奴、やかましいな。ご近所さんに迷惑やんけ。)
姿が見えなければ大丈夫だろうと思った恭平は、部屋から出て、階段を下り、キッチン横のインターフォンのスイッチを押した。浩の顔がインターフォンの画面に映しだされる。浩は本当に困った顔をしていた。まるでさっきまでの恭平の顔そっくりに。
「なに、ヒロヤン?」
「あ、キョーちゃん。ちょっと家の中入っていい?」
恭平は焦る。
(おいおい、なにアホなこといってんねん。そんなことしたら、姿が見られて、化け物扱いされるやんけ。家の中なんて絶対にアカン。)
「あー、ごめん。家はダメだわ。今、俺風邪ひいてるからさ、ヒロヤンに移しちゃうよ。悪いけど、そこで話してくれへん?」
画面の浩の顔は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「……キョーちゃん。」
画面越しでも、浩の目が潤んでいるのが分かる。
(何泣いてんだよ、ヒロヤン。俺の方が泣きたいくらいや。)
「どうしたんや?ヒロヤン。」
浩は顔を俯かせて、ためらいがちにこう言った。
「俺さ、小豆洗いになっちゃったみたい。」




 ジャンプが読みたい!ジャンプが読みたい!そんなことを頭の中で考えながら、恭平はコンビニまでの最短経路を駆けていく。
「ちょっと待って、キョーちゃん。急ぎすぎやって。」
恭平は足を止め、後ろを振り返った。学生服を着た男が恭平の方へ向かって走ってくる。
「おー、ヒロヤン。」
浩は恭平の中学校からの同級生で、今年の春、同じ高校に入学しクラスも一緒だ。
中肉中背で、顔も平凡、これといった特徴もない。しいて言えば、ツルツルのたまご肌ってところくらいだろうか。
「なんで、急いでんの?」
恭平に追いついた浩は息を弾ませながら聞いた。
「今日、何曜か知ってるやろ?」
「ん?月曜やけど……。」
「ってことは?」
恭平が促す。浩は顔を上にあげ、そのツルツルお肌を撫でながら、目を閉じた。
公園からのセミの声がミンミン響いている。浩はパッと目を開いた。
「あっ!ジャンプの日か。」
「そっ、ジャンプ。てことやから、ヒロヤン急ぐで。」
浩のせいで、ロスした分の時間を取り返せねば。そう思うと、恭平の走る速度は自然と速くなった。
駅前のコンビニに到着。浩は走ってる間に置いてきてしまった。店内に入ると、もう一冊しかない。どうやら、ぎりぎりセーフだったようだ。その一冊を手に取りレジへ向かった。240円を支払い、目的のジャンプを手に入れることが出来た。急いで買わないと、他の帰宅部の奴らに買われてしまうから、こっちも必死だ。月曜日の戦争である。コンビニを出ると、浩がゼーゼー言いながら中腰で立っていた。滝のようにと例えるしかないぐらいに、浩の顔から汗が流れていた。
「これやから帰宅部はあかんねん。ヒロヤン。」
恭平はため息をついてみせた。
「キョーちゃんも帰宅部でしょーが。」
「あほか。今は帰宅部やけど、中学ん時、陸上部やったやろ。」
「一年も昔のことでしょ。」
「俺の脚はいまだ衰えてへんねん。」
恭平は自慢の太ももをポンポンと叩いた。自慢げに笑う恭平を見て、つられて浩も笑った。
「羨ましいわ。」




 ガタンゴトン。ガタンゴトン。この電車独特のリズムが心地よい。電車に揺られて、20分。恭平の家まであとひと駅。ジャンプも読みたかった作品は一通り読むことが出来た。隣の席では浩が眠そうな顔で窓の外を眺めている。
「読み終わりました〜。」
「ふわぁ〜〜あぁ。ねむた。」
浩が瞼をこすって、大きな欠伸をした。
「読む?」
恭平はジャンプを浩に差し出した。
「ん、ありがとう。」
浩はジャンプを受け取り、パラパラとページをめくった。窓から差し込む夕日がひどく眩しい。オレンジ色の世界が恭平を包み込んだ。浩のページをめくる手がピタリと止まった。
「キョーちゃん、これ欲しいん?」
浩の指が何かを指している。
恭平の心臓の鼓動が早くなっていく。浩が何を指しているか大体見当がついていた。おそらくアレだろう。見当がついている分、それを確認したくなかった。
「な、なに?」
浩が指差すそれも、こちらを向く浩の顔も見たくなかった。
「窓の外見ててもわからないでしょ・・。これっ!」
浩は強引に恭平の顔の前に雑誌を突きつけてくる。
ヒロヤンの指は、予想通りのものを指していた。カラー広告である。広告には『あきらめるな!背は伸びる!あなたの夢は必ずかなう!!』とデカデカと書かれている。広告の中央には、マシーンの写真が載せられていて、その横には『スペシャルストレッチマシーン』の文字。
「あほ、こんなんイランわっ!!」
恭平は浩の手からジャンプを奪い取った。浩とは中学一年からの付き合いで、恭平が中学一年の頃、クラスの男子の中で一番背が高かったことを知っていた。その時の恭平の身長が160センチ。そして今の身長もピッタリ160センチ。そう、恭平は中学一年からの三年間で身長が全く伸びていないのだ。
「イランって……。さっきじっと見てたの知ってんで。」
浩は意地悪そうな笑みを浮かべている。
(この野郎、窓の景色を眺めているだけじゃなかったのかよ。)
「見てない。たまたま、そのページを開いてただけ。」
浩は疑いの目を恭平に向けていた。妙な空気が二人の間を漂う。ひどく居心地が悪い。その空気を断ち切るかのように車両アナウンスが鳴った。「次は海東橋、海東橋でございます。右側の扉が開きます。」
(車掌、グッドタイミング!)
電車のドアが開くと同時に、むっとした夏の空気が車内に吹き込んできた。
「アッツー……。降りたないな。」
暑さで浩の顔が歪んでいる。
 「降りなあかんで。さ、降りんぞ。」
恭平は奪ったジャンプを急いで鞄の中にしまい、浩より先にホームへ降りた。




 浩とは駅前で別れた。浩は駅前の歯医者を予約していたらしい。駅前の時計塔は午後4時40分を指していた。
(あー、身長よ伸びてくれ、俺の成長期はこれからや。明日になったら、180センチになっとんねん。三年間、背が伸びなかったのは、これから爆発的に伸びるからやろう。ヒロヤンのアホ、今に見とけよ。)
そんなことを思いながら、恭平は駅のそばの川沿いを歩いていた。川沿いにはところどころに『蚊竜巻』があった。『竜巻』とは、浩が中学生の時よく使っていた言葉で、蚊が何十匹も集まって飛んでいる場所を指してこう呼んでいた。あいつらは、口の中や鼻の穴に構わず突っ込んでくるから非常に危険だ。恭平は出来る限り、『蚊竜巻』にぶつからないように前に気を付けて歩いていく。三つ目の『蚊竜巻』を避けていると、右足に違和感を感じた。何かが足に纏わりついている。しかし、足元を見ても何もない。気のせいかと思って前を向いた瞬間、何かに足を持って行かれ、前にバッタリ転んでしまった。とっさに両手を突いたおかげで、顔面直撃は免れたものの、手の皮が少し剥けてしまった。
「イッタ〜……。」
思わず声が出た。立ち上がって、恭平が転んだ場所を振り返っても何も見当たらない。
「ほ〜、運動神経いいんだ。」
前から声が聞こえた。恭平は体の方向を前方に戻した。誰もいない。しかし、さっきまでなかった白い毛の塊が道の真ん中にある。なんだろうと思って恭平が近づいてみると、毛の塊から頭がひょっこり出てきた。毛の塊の頭がクルリと回り、顔が見えた。耳が二つ、鼻と口、二つある目は緑色をしている。猫、タヌキ、ウサギでもない奇妙な動物が恭平の前にいた。
「キキキ、ちっこい体してんな。」
この奇妙な動物の口元が動くと同時に、声が聞こえた。どうやらこいつが喋っているようだ。動物が話すなんてまるでマンガの世界……。でもここは現実世界……。目の前で起こった出来事が理解できず、ただ恭平はじっと目の前の動物を見ていた。
「お前に決めた。お前の願いこと叶えてやるよ。」
奇妙な動物はそういった後、パッと姿を消した。
(どうやら俺は転んだショックで頭がおかしくなったみたいや……。)




 ジリリリッ!ジリリリッ!目覚まし時計の轟音が恭平を眠りの世界から呼び起こす。
(こっちはあんまり寝られへんかったんや、目ざまし時計よ、ちょっとは気を遣え 。)
朝の陽ざしが眩しくて目が開けられないでいる恭平はいつも通り、手を伸ばし目ざまし時計のスイッチを消そうとした。
(あれ?いつものとこに目ざまし時計がない。)
ジリリリッ!ジリリリッ!
(やかましいな、言われなくてもお前の息の根止めてやるよ。)
恭平は捜索範囲を左右に広げてみるが、目覚まし時計にぶつからない。
(おかしい……。それに、さっきから肘のあたりに物が当たっている。あっ、いつの間にか目覚まし時計が肘のあたりに移動してたんか。)
恭平は重たい瞼を開いた。起き抜けで視界がはっきりしない。目覚まし時計の位置を確認。確かに時計は肘あたりにあった。しかし、時計はいつもの場所に置かれており、その横に恭平の腕があった。
(あれ?なんだか、いつもと違う。)
ぼやけた視界がくっきり見えてきた。
「なんやこりゃー!!」
恭平は今までの人生の中で一番大きな声を出した。部屋の空気が大きく震え、カーテンが揺れた。恭平の腕は、太さは以前と変わらないが、箒のように長くなっていた。恭平は布団から飛び出し、立ちあがった。床が遠く、全てのものが小さく見える。まるで他人の視点を借りたかのように、昨日までの世界とは見え方が違っていた。恭平は自分の体にさらなる異変が起きていたことに気が付いた。長くなったのは腕だけではなく、脚も長くなっていたのだ。恭平は部屋から飛び出し、洗面台へ急いだ。洗面台の鏡に、長い腕と以前までと変わらない長さの胴体、長い脚が映る。恭平の頭の先まで映すには、洗面台の鏡では小さすぎた。
(なんやこれ……。どうしてもうたんや、俺の体。)
恭平は、自分が今存在する世界を知るために、また確かめるために周りを見渡した。椅子、机、冷蔵庫、ソファー、食器棚、どれも今の恭平には小さい。天井は恭平の頭の傍にまできていた。小さな箱に閉じ込められた気がした。恭平はその場にしゃがみこんだ。自分の世界の激変についていけず気が滅入ったのもあるが、少しでも目線を低くすることで、この狭く窮屈な世界を押し広げたかったのだ。恭平の気持ちが少し落ち着いた。
(あれはホントのことやったんや!あの白い毛の塊は、頭がおかしくなって見えた幻じゃなかったんや!『お前の願いこと叶えてやるよ。』って、アイツ言ってたよな。そうか、俺の背が大きくなりたいという願いを、アイツが叶えたんや。でも、こんなに大きくなりたかったわけやない……。それに、脚が長くなったのはまだええけど、こんなに腕が長くなってもうたら人間やないやないか…。)
今日の世界が昨日までの世界と繋がり、恭平はこの世界を受け入れつつあった。
恭平はリビングに掛けられた時計を見た。8時だ。
(あ、学校!てか、この状態じゃ、学校行かれへんのか……。)
恭平はゆっくり立ち上がり、慣れない手足を動かしながら、リビングへ向かった。地べたに座り込み、テレビのリモコンを取る。遠いところからでも、簡単にモノが取れたことに恭平は一種の感動を覚えた。意外と便利なのかもしれないとの思いが湧いたが、今の自分の姿の気味の悪さを考えると、その思いはすぐに吹き飛んだ。恭平はリモコンのスイッチを押し、テレビの電源をいれた。見慣れた顔のアナウンサーが映る。いつもと変わらない
番組がテレビでは流れていた。テレビに映る人の手足も普通だ。
(やっぱり、手足がこんなに長いのは世界で俺だけなんや……。皆が急に今日から手足が長くなったわけやないんやな。)
内容なんて全く頭に入らなかったが、恭平は暫くテレビを眺めていた。そのままずっと昨日までの世界に浸っていたかった。しかし恭平には、やらなければならないことがあった。そう、あの白い毛の塊を探し出し、一刻も早く元の体に戻してもらわなければならない。恭平はテレビの電源を消し、二階の自分の部屋に戻った。
 部屋に戻ってみたはものの、恭平に今出来ることは何もなかった。あの白い毛の塊を探そうにも、恭平の今の姿では外にすら出ることが出来ず、着替える意味もなかった。そもそも今の恭平の体に合う服なんてこの家に存在しなかった。
(明るいうちは、出歩かれへん。出歩くんやったら、姿が見られにくくなる夜やな。)
恭平はそう思い、夜を待つことにした。




−そして夕方−
「俺さ、小豆洗いになっちゃったみたい。」
「へ?な、なんて?」浩の思わぬセリフに、恭平は固まる。
「小豆洗いになったみたい・・。ほら。」
画面に桶に入った小豆が映った。それを見た瞬間、恭平の心には、浩がおかしくなってしまったという困惑の気持ちは生まれなかった。むしろ恭平は同じ境遇に立たされた人を見つけた喜びを感じていた。
「あ、小豆洗い?」
画面に映る浩はうなずいた。
「ヒロヤン、ちょっと待ってな。今すぐ開けに行くわ。」
恭平は玄関へ急ぎ、扉の鍵を開けた。恭平はいつもと同じ身長に見えるように体をかがませた。扉を少し開き、頭だけを出した。インターフォン前にいる浩と目があう。浩の左腕には桶が抱えられ、右手は桶の中に入っていた。
「お、おう、ヒロヤン。」
「キョーちゃん、風邪でしんどいとこ悪いな。中入ってええ?」
恭平は素早く何度も頷いた。浩は桶に入っていた右手を出し、門を開いた。
「ヒロヤン、ちょっとストップ!!」
恭平は浩が自分を見て、驚かないか心配していた。
「なんやねん、キョーちゃん。」
「俺の姿見て驚くなよ。」
「なんで?」
浩が意外そうな顔を見せた。
「俺はヒロヤンよりも強烈やで。」
浩の表情がさっきよりも柔らかくなる。
「小豆洗いよりも?」
「小豆洗いなんて可愛らしいと思ってまうで。」
「どうなってるん?」
「うーん……。簡単に言うと背がバカでかくなった。」
浩がクスッと笑った。
「よかったやん。例の『スペシャルストレッチマシーン』でも買ったんか?」
「アホ、買うてないわ。ま、覚悟して俺を見るってこと。嘘やないから、本間に覚悟して見てや。」
「わかった、わかった。心構えね。」
そう言いながらも、浩の顔は半分笑っていた。浩は門を閉め、恭平の目の前まで来た。扉一枚が彼らを隔てていた。
「覚悟はええか?」
「いつでも大丈夫。」
「じゃ、目閉じて。俺が誘導するから。」
浩は言われた通り目を閉じた。恭平はそれを確認した後、扉から長い腕を伸ばし浩の左腕をつかんで、家の中へ誘導した。急いで扉を閉める。恭平は浩を驚かせてはいけないと思い、しゃがんだままの姿勢でいた。
「キョーちゃん、もう目開けてええ?」
「ビックリすんなよ。」
「大丈夫やって。」
浩は目を開けた。恭平と浩の視線が合った。浩の視線は初め恭平の顔にあったが、しだいに長い腕、長い脚というように下へ移動していった同窓会で姿がまるっきり変わった友達を見たかのような顔を浩はしていた。
「ヒロヤン!大丈夫か。」
恭平は浩の顔のすぐ前で手を振った。浩の視線が恭平の顔に戻った。
「本間やってんな……。」
「さっき本間やって言ったやん。」
浩の視線が恭平の腕に移った。
「めちゃくちゃ、腕長いやん……。」
「気持ち悪いやろ。」
「うん……。」
「コラ!なに同意してんねん。」
「事実やろ。しゃがんでんと、いっぺん立ってみてーや。」
恭平は体を伸ばした。
「うおぉ、デカ。」
「デカいとか、久しぶりに言われたわ。」
「2メーター余裕で超えてんちゃう。」
「まあな。さ、こんなとこで話てんと、リビング行って話そ。」




 カーテンを閉め切り、薄暗いリビングに手足の長い生き物と小豆洗いが座っている。恭平と浩だ。二人はどうしてこうなったかという経緯をお互いに話し合った。浩の話をまとめると、こうだ。浩も昨日、同じ川沿いの道であの毛の塊に出会った。そして朝起きると、無性に小豆が洗いたくなり、急いで小豆と桶を買いに行き、家でずっと小豆を洗っていた。ひとしきり小豆を綺麗に洗い終わり、ホッと達成感を感じた時、ふと自分がおかしくなっていると気付いた。浩はそんな自分怖くなって恭平の家に来たという。
「ヒロヤン、話はわかったけど、なんで小豆洗いなんや?」
「うーん、なんでやろ。」
浩は首をかしげた。
「俺は背が大きくなりたいなぁって思ってたから、こんな姿になったんやけどさ。なんか理由があるやろ?」
恭平は浩がどんなコンプレックスを持っていたかに興味があった。
「なんか夢中になれるもんが欲しかったんかも……。俺ってさ、中学の時から帰宅部やし、一つの事に打ち込んだことがなかったんよ。」
浩の思わぬ答えに恭平は拍子抜けした。
「そんで小豆洗い?」
「悲しいことにね……。俺だって別に、小豆洗いたいと前から思ってたわけちゃうで。」
「あの毛の塊、結構テキトーやな。ちゃんと願いごと叶えてくれよな。」
二人は目を見合わせて笑った。
「毛の塊見つけなあかんな。」
浩は頷いた。
「こんな姿で出歩かれへんからさ。もう少し暗くなってから、アイツ探し行こ。」
浩は棚に置かれた時計を見た。
「でも、夜まで待ってたら、キョーちゃんのおばちゃん戻ってくるんじゃないん?キョーちゃんのその姿見られるとマズイやろ。」
「オカン?大丈夫やで、今日はおばあちゃんの介護で家に戻ってけえへんから。」
「あ、そうなん。んじゃ、大丈夫やな。」
「夜まで時間あるからゲームでもせーへん?」
恭平はテレビの横に置いてあるゲーム機を指差した。
「うーん、小豆洗わなあかんからな。ちょっとゲームでけへんわ。」
浩は視線を手元の小豆に戻した。
「真顔でそんなおもろいこと言うなや。」
「ま、俺に遠慮せんとゲームしとき。俺は小豆洗いながら、隣で見とくから。」
恭平は今日小豆洗いになったばかりというのに、手慣れた手つきで小豆を洗う浩に感心していた。桶の中の小豆が輝いて見えた。




 午後11時、恭平と浩は外に出た。周りに人は見当たらない。恭平は身をかがめながら川沿いに向かった。出来るだけ人のいない裏道を通る。ビニール袋が風に飛ばされ、空き缶が散乱している。川沿いの道に出た。恭平達は毛の塊に出会ったあたりへ向かった。通りの木々にはセミの抜け殻が残っている。歩いていると何匹かの猫とすれ違った。しかしどれも毛の塊ではなかった。通りのベンチに丸々とした動物が寝ているのが見えた。近づいて顔を見ると毛の塊だ。
「おい、毛の塊!」
「ん……。なんだ、昨日のバカ面高校生じゃないか。お前ら知り合いだったのか。」
緑色の目が怪しく光る。
「おい、俺らの体を元に戻せよ。」
「戻してやってもいいが、ただし条件が一つある。お前らの体は今、妖怪になっている。デカいお前が妖怪、足長手長。隣のお前は小豆洗い。」
毛の塊は恭平と浩がどうして妖怪になったかの経緯を話した。毛の塊が二人を選んだのは気まぐれで、転ばせた時に妖力玉という妖力の塊を体内に埋め込んだらしい。そして、輸入道という妖怪を殺せば妖力玉を取ってやるというのだ。妖怪を殺すなんてどうやってするんだと恭平は聞いた。古びた紙が恭平の手元にパッと現れた。「此所勝母の里」と書かれている。
「なにこれ?」
恭平は古びた紙を見て、いぶかしげな顔をした。
「呪符だ。これを輸入道の体に貼れば、奴はあの世へ行く。」
恭平は薄気味悪さを感じながら、ポケットに呪符を閉まった。恭平は輸入道の居場所を聞いた。輸入道は海東橋観光ホテルにいるらしい。海東橋観光ホテルは地元では有名な心霊スポットだ。恭平も中学生の時に友達たちと度胸試しで入ろうとしたことがあったが、ロビーに入る手前ところで怖くなり、中へ入らずそのまま逃げ帰った経験があった。恭平は正直行きたくないなと思った。浩の方へ目を向けると、親指の爪をかじっていた。浩は嫌なことや怖いことがあると、親指をかじる癖がある。二人はあまり気が乗らなかったが、元の姿に戻るため海東橋観光ホテルへ向かった。




 三階建ての建物の上に、ペンキが剥げかかった看板。看板には『海東橋観光ホテル』の文字。ホテルの外には10台ほど車が停められる駐車場。廃車が二台停められ、駐車場の壁は落書きでひどく汚れていた。ホテルの周りには木々が生い茂り、ホテル内の様子はよく分からない。駐車場の門は閉められており、立ち入り禁止の立て看板が置かれていた。恭平と浩は門をよじ登り、駐車場へ降りた。門の傍に、赤いコーンがいくつか転がっていた。風が吹く度にコーンがゴロゴロと音を立てる。恭平と浩は玄関の方へ向かった。玄関のガラスは全て割られていて、二人の足元にはガラスの破片が散らばっていた。歩くたびに、バリバリとガラスが割れる。浩はさっきから親指をかじったままだ。玄関の扉を開け、ロビーの中に入った。玄関わきの植木鉢は横倒しになっている。ロビー横の表地が破れたソファーと脚の折れたテーブル。壁には池の中を泳ぐ錦鯉の絵が飾られ、受付のカウンターにはガラスの花瓶とペン立てが置かれていた。恭平と浩はロビー脇の木造の階段へ近づいた。吹き抜けの階段で三階まで続いている。階段を上ろうしたとき、二人は誰かの視線を感じた。パッと振り返ってみると、棚に置かれた招き猫がこっちを見ていた。
「なんや、招き猫か……。」
二人はホッとため息をついた。そして再び階段を上ろうと前を向くと、目の前に巨大な目玉があった。




「おーい。起きろ。」
恭平の目の前に緑の目があった。恭平の体がビクッと震える。毛の塊が恭平の顔を覗いていた。恭平は起き上がり、辺りを見渡した。廃車、ゴロゴロと転がる赤いコーン、木々に覆われたホテル、こちらを心配そうに見つめる浩。恭平は駐車場にいた。
「大丈夫?」
そう言いながら、浩が背中を摩ってくれた。頭がガンガンと痛む。いったい何が起きたのだろうか。棚に置かれた招き猫を見た後、再び階段を上ろうと前を向いたときに、目の前に大きな目玉があった。そう、ここまでは覚えている。
「お前は、輸入道と目が合ったんだ。」
恭平が最後に目にした巨大な目玉の持ち主は輸入道であった。毛の塊の話では、輸入道と目が合った人間は魂を抜かれるそうだ。恭平と浩は妖怪の体だったため、気絶程度で済んだらしい。
「おい輸入道と目が合ったら、気絶するなんて聞いてへんぞ。」
恭平は毛の塊をキッと睨みつけた。
「まあ、気絶で済んだんだから別にいいだろう。」
「そういう問題ちゃうわ!」
恭平は毛の塊をつかみにかかったが、毛の塊はヒュッと素早く身をかわし、近くの廃車に飛び乗った。毛の塊はじろりと恭平を見た。
「早く輸入道を殺さないと、お前ら元に戻れないぞ。」
「どういうことや?」
「妖怪化した人間は、妖怪になって二日目の朝を迎えた時に、完全に妖怪になる。魂までも妖怪になるってわけだ。」
時刻は午前4時半。恭平と浩が妖怪化して丸一日が経とうとしていた。恭平は目を丸くさせた。夜明けまで時間がない。隣の浩は毛の塊の話を聞いて、顔が青ざめていた。
「ヒロヤン、しっかりせい。」
恭平は浩の背中をバシッとたたいた。なんとか輸入道に呪符を貼らないといけない。二人は地べたに座り込み、作戦を考えた。話し合うこと5分。作戦はシンプルだった。浩が輸入道の目に向かって小豆を投げ、目をつぶらせる。その間に恭平が輸入道の体に呪符を貼りに行く。毛の塊が廃車の上からこちらを眺めている。二人は立ち上がり、ホテルへ急いだ。




 ロビーの中の空気は淀んでいて、気分が悪くなりそうだった。階段の方にチラリと目をやると、踊り場で動く大きな影が見えた。おそらく輸入道だろう。二人は物音をたてないように注意を払いながら階段脇まで移動した。輸入道の姿が見える。輸入道には体がなく、宙に浮いている頭だけの妖怪だった。頭は2メートルほどの大きさで、髪は銀色。皮膚は赤色をしている。大きな目玉と牙が特徴的だ。輸入道は、どうやらこちらには気づいていないようだ。恭平が浩に合図を送る。合図と同時に、浩は階段前にバッと飛び出した。浩の右手は左手に持った桶に突っ込まれている。浩は輸入道の名前を大声で叫んだ。
「輸入道!」
輸入道はこちらに気付いたようだ。浩は両目をぎゅっと閉じ、右手に掴んでいた小豆を輸入道めがけて投げつけた。浩の小豆が振り向いた輸入道の目に当たった。輸入道は痛みで激しくうなっている。その間も浩は桶に入った小豆を必死に投げ続ける。恭平は階段脇から飛び出し、輸入道に向かって走った。階段を5段飛ばしで駆け上がる。手に届きそうな距離まで近づいた。恭平の右手には呪符が強く握りしめられている。――あともう少し。恭平がそう思った瞬間、輸入道の体が浮かび上がった。このままでは二階に逃げられてしまう。恭平は死にもの狂いで跳んだ。恭平の右手が輸入道に急接近する。しかしスレスレのところで恭平の右手が止まった。右手と輸入道がどんどん離れていく。恭平はその場に着地した。パッと上を向くと、輸入道は三階あたりのところに浮かんでいる。恭平は階段を駆け上がる。今こそ自慢の脚の見せ所だ。恭平はぐんぐんスピードを上げていった。下の方から小豆がバラバラと床に落ちる音が聞こえる。恭平が二階と三階の間の踊り場に着いた時、輸入道が真横に浮かんでいた。恭平はとっさに腕を伸ばすが、下へ降りていく輸入道には届かない。手すりに手をやり、下を覗くと輸入道が浩に近づこうとしていた。浩が危ない。そう思った恭平は階段から飛び降りた。自然と体がそうさせた。恭平の体が宙を舞う。ドスンと音をたて、恭平は輸入道の頭に着地した。輸入道は声をあげながら、恭平を振り落とそうと激しく動く。恭平は落とされないように、グッと輸入道の髪を左手で握った。恭平は腕を伸ばし、右手に握りしめた呪符を輸入道の額に貼った。輸入道の前に真っ黒な渦が現れた。輸入道は断末魔の叫びをあげ、その渦の中に吸い込まれていった。恭平はドサッと階段に落ちた。浩の方を見ると、目をつぶったまま小豆を階段に向かって投げ続けていた。
「ヒロヤン、終わったで。」




 ホテルの外に出ると、毛の塊が廃車の上で寝ていた。空が白み、辺りで雀が鳴いている。
「おい、毛の塊!」
毛の塊の目がパチリと開いた。
「ん……。お、輸入道のやつ、死んだのか?」
「ちゃんと約束を守ったんや。今度はお前の番やぞ。」
「ああ、それなら大丈夫だ。もうじき勝手に人間に戻るだろうよ。」
「どういうことや?」
「お前らの体内にある妖力玉は、輸入道からオレが盗んだものだ。アイツの妖力でできているから、アイツが死ぬと妖力玉も消えるのさ。」
日の出の光だ。恭平の体がどんどん小さくなっていく。浩は桶から手を離せるようになっていた。
「キョーちゃん!」
喜びのあまり興奮したのか、浩が恭平に抱きついた。恭平は浩の体が、やけに大きく感じた。どこからかセミの鳴く声が聞こえてくる。またいつもと変わらない日常が始まろうとしていた。


7
112935 アンラッキー吉田 私の友達 2054年、7月6日、樫原(かしばら)東中学校2年の私、勝野美里(かつのみさと)はとても悩んでいました。なぜなら今月の10、11、12日に期末テストがあるからです。私のお母さんはとても勉強には厳しくて今度の期末テストで私が平均80点以上取れなければ陸上部をやめさせるというのです。今までテストでは最高382点しかとったことがない私には自己ベストを更新しなければならないし、それも1年の最初のテストのことで、2年生になってからは300点前半くらいになっていました。だから私は次の日に部活の友達に相談することにしました。
 「それは一大事だね。みんなに相談しなきゃ」
と、ヨシが言ってくれて昼休みにみんなで話をすることになりました。ヨシは私と同じ短距離選手で、そのうえ生徒会長もやっています。
 「カツミから陸上を奪うなんて、外科医からメスを奪うようなもんじゃないか!」
島(しま)くんは机の上で飛びはねながら言いました。私はみんなから「勝」と「美」でカツミと呼ばれています。
「まぁ、そうカッカするなよ」
そう言って、やっさんが島くんの襟をつかんで自分の方に乗せました。やっさんは陸上部の中で1番大きくて2メートルくらいあります。島くんは1番小さくて10センチくらいです。そんな中突然、
「待て、俺に名案がある。」
と、陸上部一の策士、竹やんが言い出しました。
「分かった、タイムマシン作るんだろ?みんなで勉強しなおそう!」
「ヨシは生まれる前からやり直せ」
「冗談だって。で、何なの?」
ヨシが改まって聞くと竹やんが、
「テストの答案をパくる!」
そう言った途端、竹やんの半径1.5メートルがシーンとなりました。
「竹やん、それは無理だわ。昼は先生、夜は警備ロボットが見張ってるんだぜ。」
と、数秒の沈黙の後にヨシが言いました。昔は夜の学校は、ロボットが見回りをしたりとかはなかったようですが、今ではほぼすべての学校、役所、会社などいろんなところに警備ロボットが導入されています。
「いや、俺には作戦がある。まぁ、ちょっと聞いてくれよ」
竹やんの説明はみんなが思っていたよりも本格的で、時間がかかった。
「まぁ、ざっとこんなもんだわ。」
そういって竹やんがチョークを置きました。黒板には一面に竹やんの説明の板書が書かれていました。
「これマジで行けんじゃねぇの!?」
と島くんがやっさんの肩の上で言いました
「当たり前だ、島。職員室の掃除で俺が何もしてないとでも思うなよ!」
「いや、掃除だけしてりゃいいよ。でも本気でやるのか?」
と私にヨシが聞いてきました。
竹やんのぶっ飛んだ案に私もみんなも驚きっぱなしでしたが、なんでこんなは話が出てきたかというと私のテストの結果に部活がかかっているからでした。
「いや〜、でも〜、それはやっぱりヤバいんじゃ・・・」
「せっかく竹やんが考えてくれたんだ、ここは危険を冒してでもやるべきだ!」
と島くんが言うと、
「これはカツミのための作戦でもあるんだ!実行あるのみだ。だよな、カッシー」
「ウキャッ、ウキャキャキャキャー」
そう言ってカッシーが天井から降りてきました。カッシーは同じ陸上部の長距離選手で、ほぼサルです。
「いや、でも私本当に頑張るから全然・・・」
「うるせぇよ!黙ってろよ!」
島くんがいつになく強く私に言い放ちました。
すると竹やんも、
「島、そうカッカするな。でも仕方がないよな、これもカツミの為だし・・・。」
「ウキャ、ウキャキャキャキャキャキャ」
その時私は思ったのです。みんなは私のために答案をパクるのではありません。私を助けるという名目で、自分たちが答案を手に入れたいだけなんだと・・・・。
 決行はテスト前日の夜に行われました。
「ロボットは全部で6体。職員室がある一階には2体、2・3階には1体ずつ、体育館周辺に1体、グラウンド周辺に1体だ。奴らはほかのロボットのピンチや警報を察知してそこに集まってくる。」
「ロボットに見つかったらどうなるんだ?」
「ヨシ、いいとこ聞いてくれたな。ロボットは侵入者を発見すると警報を鳴らして侵入者を排除しようとする。そこでやっさんがおとりになって体育館のロボットにわざと発見され、他のロボットを体育館に集める。」
「でも竹やん、グラウンドの方が職員室からも遠くていいんじゃないのか?」
と島くんが言うと
「いや、体育館は室内だから警報音が人には聞こえにくい。だから人にはバレずにロボットだけを体育館に寄せ付けることができるんだ。体育館の中にロボットを入れてしまえば、あとから侵入するおれたちはロボットの目を盗むことか簡単になるんだよ。というわけだから、序盤はやっさんの働きがカギになるな。」
そんな今回の作戦のカギになるやっさんは7月なのにかなり着込んでいて、マスクをしてバットを杖にして竹やんの説明を聞いていました。
「うん。バカは風邪ひかないっていうけどさ・・・・。なんで7月にインフルエンザかかってんの?もうバカじゃん?バカじゃねぇの?」
「島くん、言い過ぎだって。やっさんは頑丈だからインフルエンザとかロボットが来ても大丈夫だよな、やっさん?」
「か、かまわん、ウオッホッ、ゴホン。」
ヨシの問いかけに、やっさんは咳で答えました。
こうして、竹やん、ヨシ、島くん、やっさん、カッシーの5人で作戦は決行されました。私はそのころ家で勉強しています。みんなは自分のために今夜は集まっているのです。
 「よしっ!ロボットたちが向こうに行ったぞ。今のうちに校舎に入るぞ!」
竹やんの指示で、ヨシ、島くん、カッシーが動きます。
「完全な人型のロボットだな。シルエットだけなら人間だぞ。」
「ヨシ、俺もそれ思った。ふつうロボットって言ったら四角いごつごつした感じだろ?」
「ウキウキ、キャキャーッ!」
「お前ら、静かにしろ!」
 その頃体育館ではロボットとインフルエンザウイルスしかいない体育館でやっさんがロボットを引き付けていました。ロボットはじりじりとやっさんのほうへ近づいてきます。やっさんは6体のロボットのいる位置を確認しながらどのロボットからもある程度距離をとれるように歩きながら移動しています。しばらくそんな状態が続いた後、ロボットがピタッと止まりました。
「・・・・電池切れか?」
やっさんがそう思ったのも束の間、一斉にロボットがやっさんに駆け寄ってきました。近寄ってくると結構大きくて180センチくらいあります。しかし、やっさんは陸上部短距離のエースです。ロボットをぎりぎりまでひきつけ、腕がやっさんの体に届く寸前に、ダッシュしてロボットから逃げています。
 「職員室には着いたけどさぁ、鍵かかってんじゃん?どうすんの?」
職員室までカッシーの頭にしがみついて来た島くんが言いました。
「そんなことは十分承知だよ。そこで島、お前の出番だ。」
そう言って竹やんは、みんなを職員室トイレに連れて行って指示を出しました。まずはじめに、カッシーが天井まで上って換気口を取り外します。次に、ヨシが島くんを換気口の中に投げ入れ、最後にカッシーが換気口を取り付けました。
「ずっとまっすぐ行って角で右に曲がったら職員室の換気口に出るからそっから降りて、職員室のカギ中からあけてくれ。そんじゃあ、俺たち職員室のところで待ってるから。」
職員室に着いてしばらくしないうちに中からカギを開ける音がしました。島くんはみんなよりもかなり小さいので中の通路を走って移動することができたのです。
 やっさんが体育館でロボットから逃げ続けて15分が経ちました。やっさんは短距離選手なので長時間息が続かないし、インフルエンザにもかかっているので、6体のロボットから逃げるのには限界がありました。
「ロボッ、ウオッホ、オッホン、仕方なゴホッ、仕方ないゴホ」
そう咳をして、体育館の隅まで走って行って、立てかけてあるバットを手に取りました。学校に集まった時に杖にしていた金属バットです。やっさんは高速で近づいてくるロボットに向かってスイングしました。
《ガンッ》
めちゃくちゃ固いものとめちゃくちゃ固いものがぶつかったような音が夜の体育館に響き渡り、ロボットの方が5メートルほどぶっ飛びました。体長が2メートルもあるやっさんはやっぱり力も強いです。私たちが2人で持つ30sの石灰の入った袋を1人で2つ持つことができます。だからそんな力の強いやっさんに金属バットなんて絶対に振り回させてはいけません。もちろん、やっさんは普段は野球をするのに使っています。するとロボットたちの背中についてるランプが緑色から赤色に変わり、ロボットの右腕が金属バットのように、左腕が盾のように変形しました。DSではランプが緑色から赤色に変化すると充電切れが近いサインですが、どうやらロボットの場合はやっさんを危険人物と見なし、戦闘モードに入る合図のようです。やっさんも戦闘モードに入ってためらうことなくバットでロボットを殴っていきますが、本気になったロボットが手ごわく、それらが6体ともなると手が負えませんでした。
「クソオッホ、ゴホ、ゴッホンゴホ。」
やっさんはロボットに囲まれてボカボカ殴れ始めました。
 「よっしゃ、でかした島!今度なんかおご―――」
「おい、みんな後ろ!」
竹やんが島くんの功績をたたえているときにヨシが突然叫びました。みんなが島くんの後ろを見るとすでに赤いランプのロボットがいました。職員室のロボットは危険事物と見なす判断基準がほかのロボットとは異なります。島くんは小さすぎて侵入者と見なされなかったようですが、職員室に入ってきた竹やん、ヨシ、カッシーは侵入者、危険人物と見なされたのです。まずい、と誰もがそう思いました。その瞬間野生のカンからかカッシーがロボットの頭に飛びつきました。そのままロボットは後ろに倒れました。
「職員室で暴れるのはやばいって!外行くぞ、カッシー!後は任せた竹やん!島くん!」
ヨシがそう言ってカッシーを連れて職員玄関からグラウンドへロボットを誘導しました。
「テスト関係の引き出しは確認済みだ。島はコピー機使えるようにしといて。」
竹やんは手際よく各教科の解答を取り出し終えて、島くんの方もコピーの準備が終わりました。
 グラウンドの真ん中ではロボット1体と人間1人とサル1匹が死闘を繰り広げていました。赤いランプ状態のロボットは力も強く、ヨシもカッシーもロボットに突き飛ばされまくってもう土まみれでした。
「ここで倒れたら明日先生に殺されるぞ。もうひと踏ん張りだ!」
「ウッキー、ウキウキキー!」
「うおぅらぁ!」
「キキッ、ウキキキキー」
ヨシがロボットに足をかけて転ばして、その上にカッシーが飛び乗りました。
「こちとら明日のテストと2学期の成績がかかってんだよ。」
「ウキャキャキャ」
ヨシとカッシーが完全にロボットを抑え込むことに成功しました。
 その時職員室の窓から竹やんの声がしました。
「コピーとれたからそろそろ引き上げるぞー。」
職員室をもとの状態に戻すために竹やんとヨシが暴れるロボットをビニールテープでぐるぐる巻きにしてカッシーと一緒に職員室に残します。カッシーは職員室の換気口のふたを持って天井に飛び上がりふたを中から閉めます。カッシーはそのあとほふく前進で通路を進んで職員トイレで合流します。竹やんとヨシが職員室の扉の下からロボットをぐるぐる巻きにしたビニールテープを思いっきり引っ張ります。扉の向こうでゴロンゴロンとロボットが転がる音がロボットがまた職員室を巡回する足音に変わったら作業完了です。職員トイレでカッシーと合流してみんなでやっさんを呼びに行きます。
 体育館に着くとやっさんがロボットにまとわりつかれて巨大な金属の塊みたいになっています。みんながとび蹴りでで金属の塊をやっさんごと崩して、やっさんを救い出した後は一目散に敷地の中から出ます。敷地から出てしまえばロボットはもう追いかけたりはしてきません。ロボットも猛スピードで追いかけてきますが陸上部のみんながロボットをまくのは簡単でした。
「みんなお疲れ!解答は写メで送るから。じゃあ、明日は健闘を祈る。」
竹やんが締めてみんなは家に帰りました。
 そしてバレることなく答案をパクルことに成功したみんなは次の日のテストで素晴らしい解答を書いたのかというとそうではありませんでした。竹やんたちが解答のコピーをとるための時間稼ぎでロボットにタコ殴りにされていたやっさんは3日間動くことができず、敷地の外に出てぶっ倒れたやっさんを抱えて送ったヨシと竹やんはインフルエンザにかかって欠席と出席停止で4日間学校に来ることができませんでした。カッシーは興奮冷めやらぬ状態で、3日間壁を引っかいたり、屋根に上ったままだったりいつもよりサルみたいな行動をとっていました。そんなわけで解答を見事手に入れたにもかかわらず、みんなその解答を有効活用することができませんでした。2年になって久しぶりに本気を出した私は379点と最高得点をたたき出すことはできなかったものの中間よりも50点以上アップして、16日に行われた三者懇談で担任の先生からべた褒めされたこともあって、部活の退部から逃れることができました。
「ったく、俺たちの努力は一体なんだったんだよ。」
「うそつけ。んなこと言いながらカツミにはメール送ってなかったじゃねえかよ。」
「バレたか。」
竹やんのボヤきにヨシがツッコミを入れました。みんなが学校にそろったのは終業式の日でした。終業式が終わり、私以外全員成績が下がった通知表はカバンの中にしまって、今は練習が始まるまでそんなことをぺちゃぺちゃしゃべっていました。
「おい、そろそろ練習始まりそうだからグラウンドに出ようぜ。」
そんな感じで今日も練習が始まります。
時々変なことをやらかしますが、そんな無意味で変なことを真剣になるみんなは時々ダメダメで、いつも最高に面白いんです。
「あ、待って〜」
「成績優秀者はおいていきます。」
「竹やん、そりゃないわよ!」
私は小走りでグラウンドに出ていきました。
9
112936 minisura 宝石の守護神 世界は国どうしの争いが起こらない平和なものであった。町や村を離れたり、森の奥へ入ると魔物がいたりするが、それは生活に支障が出るほどでもなかった。そんな世界のある国の王子はとても大事に育てられた。王子の名前はミラ。見た目は年相応に幼く見えるものの、好奇心と勇気だけは人一倍であった。そんなミラには悩み事があった。「そろそろ部屋に戻るぞ、ミラ」「もっと外で遊びたいよ!お父様!」こんな調子で身の安全のために外出を制限されていた。また、護身のために週に数回の剣術の稽古をつけてもらっている。ミラは才能があり、同年で横に並ぶ者はいないほどである。しかし、お城の敷地外には出させてもらえないのである。ミラは常々から思っていた。「どうしてお父様は外出させてくれないんだ!」と。王子はいつもバルコニーから見える広大な世界に思いをはせていた。
ある日、脱出計画を思いついた。それはバルコニーからロープで降りる単純なものだ。地道に調べてわかった警備の薄い曜日、時間帯である土曜日の深夜。それはお城を抜け出す計画をしてから約1ヶ月が経った日に王子は決行した。気休めで部屋にあった木剣を旅人気分で背負い、バルコニーから飛び出した。持ち前の運動神経であっという間に庭まで降り、見張りの少ない林のほうへ駆けた。お城の庭は広大である。王子の影は月明かりに照らされ、ゆっくりと伸びていく。しかし、簡単には順風満帆には運ばないようである。とうとう気づかれてしまった。「王子が部屋にいないぞ!」ドタドタと聞こえる足音。時間との勝負である。王子はさらに地面をけった。目の前に近づくゴール。「あの塀を越えれば…もう外だ!」その時、何かがぶつかってきた。番犬にでくわしてしまった。勢いでかいくぐって、塀を上ろうとすると体当たりでそれを拒む。この犬は王子を噛まないあたり、教育されていると一目でわかる。番犬に苦戦していると、ついに番兵にまで見つかってしまった。「どこに行こうとしているのです?ミラ様。」にじみよる番兵。後ずさりするミラ。その時だった。これを神風とでもいうのだろうか?辺りを突風が吹き荒れる。ミラは豪風の中、どこからか聞こえる声「行きなさい。あなたは世界を救う鍵となる人。進みなさい。進むべき道へ。」ミラ「鍵…?進むべき道…?」疑問が飛び交う中、ミラの意識は闇に消えていった。
気が付けばミラはお城の敷地から少し離れた場所に倒れていた。道のど真ん中。目線の先にはまばらに光る明かり。そこにはごく普通の町があるのだろう。しかし、ミラにとってそれは知らない世界である。「進むべき…道…世界を…救う…」わけがわからない。夢でも見たのだろうか。しかし、現実、体はお城の外である。「今進む道はこれしかないだろうね。」ミラはその灯りの方へと向かった。ずいぶんと眠っていたようで日が昇ってきた。体は疲れ切っていた。リズムとしては最悪だがそろそろ休もうと思った時に、道から少し逸れたところに小屋があった。「すいませーん!」「どちら様…?おやおや、こんな小さな子が一体どうしたんだい?」「あ…あの…お金なら払うので、今日泊めてください!」
どうやら寝すぎてしまったらしい。目が覚めて時計を確認すると夕方前であった。突然にもかかわらずミラを泊めてくれた小屋の住人のポートさんとサニーさんは起きたミラのためにご飯まで用意してくれた。「タダで居させてもらっているのに、ここまでは受け取れません!」「いいから甘えておきなよ。ぼうや。」その後、しっかり満腹になったミラは少し休んでから別れを告げて再び出発した。
辺りが暗くなった頃にミラは目指していた町についた。門で確認すると「ツォール」というらしい。発展しているともいえない、のどかな町である。確認した時に1つ気になることがあった。「どうして門兵がいないのか?」今は夜明けであるがいない理由にはならないだろう。とりあえず町に入り、辺りを見渡すと、まばらにしか灯りがついていない。泊まろうとした宿屋にも人がいない。色々とおかしなことが多いが、そのことも含めてミラは明日の朝、町長さんに会ってみることにして、勝手に宿屋のベッドを借りた。 次の日、疲れていたのか、起きたのは昼前。いきなり扉を開けられ、「いつの間に!?窓から入ったのかい!?」ミラ「いや…入口から…」「え?私は昨日からずっと入口にいたよ!」ミラは訳が分からなかった。確かに昨日いなかった。疑問は置いておいてミラは宿屋を出た。見かけた町の人に話を聞き町長さんの家を訪れた。「これはこれは。どうなされました?」「あの…この町、おかしなところがいくつかあせんか?」「そんなこと聞いたこともありませんなぁ〜。住民たちから情報集めておくから、明日、またおいでなすって。」この疑問は町長さんに任せるとして、この町のことを少しは知るために散策することにした。平屋が多く、古い建物が多い町並みである。この日は町の一部を見て回っただけで特に買い物したりはしなかった。
そして次の日。泊まった宿屋に再び人がいなかった。出かけたのだろうか?お客を放っておくのは変な感じがしたが、いないことには仕方がないので、町長さんのところへ向かった。家の前につき呼び鈴を鳴らすも、返事がない。近くを歩いていた町の人に尋ねると、「町長さん?ここには住んでないよ?ここは空き家だよ。」
わけがわからなかった。引っ越した?そんなわけがない。窓から中を覗いても確かにもぬけの殻である。いくら考えても答えが見つからないので、昨日に続いて町の散策をすることにした。門からの通りを挟んで、宿屋とは反対側辺りに位置する住宅の前を歩いていた、「あれ?見かけない顔だねぇ!」声の方へ振り向くと小柄でミラと同年代くらいの活発そうな女の子がそこにいた。「あなた、よそ者でしょ?お友達になりたいし、町を案内してあげるよ!あ、私の名前はネル!」ミラはその子に連れられて町を歩いた。「ねぇ?教会には行った?」「あることさえ知らなかったよ。」「町のシンボルがあるんだよ!着いてきて!」教会は町のはずれにあった。扉を開けると、奥に大きな宝石があった。これが町のシンボルらしい。中には1人の男が座っているだけで誰もいなかった。「