この匂いは! −酢酸エチルを合成しよう−
はじめに
「におい」。漢字では匂いとも臭いとも書きます。
香水、化粧品、医薬品、印刷インク、食品、消しゴムなどの文房具には
「におい」がつけられています。これらのものから「におい」がなくなったところで、
どうってことはなさそうですが、実は大きな違いがあるんです。
「におい」の役割として大きなものに、精神的に及ぼす影響があります。
「におい」を感じることによって、安心感、安定感、心地よさを感じることができます。
それを治療にまで応用したのがアロマセラピ−ですし、デパ−トでもストレス解消のための
香料や「におい」つきの寝具や衣服も見かけることがあります。
食品につけられている「におい」もまた重要です。代替品をごまかすために
つけられていることもありますが、「におい」があることによって、おいしく
食べることができるのです。それは人間に限ることではありません。
ある家畜飼料に「におい」をつけたところ、
成長が速くなったという例もあります。
また、人間が感じない「におい」でも昆虫が敏感に反応することがあります。
例えば、ゴキブリをおびきよせて毒入りのえさを食べさせるための誘引剤であるとか、
害虫が寄ってこないように忌避剤(きひざい)として使ったりもします。
それでは人間が好きな「におい」ばかりが利用されているのでしょうか。いえいえ、
嫌な「におい」も利用されています。その良い例がガスです。家庭で料理や給湯に
使っているガスは本来、無臭です。しかし、漏れたりしますと大事故につながりますので、
ガス漏れがわかるように、わざとくさい「におい」をつけてあるのです。
このように、「におい」は香りから悪臭まで私たちの生活に密着して利用されているのですが、
意外と意識されていないものです。そこで、ここでは簡単な有機合成の実験を行ないながら
「におい」というものに触れてみることにします。
参考文献&ホ−ムペ−ジ 「香りの小百科」 渡辺洋三 (工業調査会)
「香りのお部屋」 LNDMLSの黒猫実験室より
http://www3.justnet.ne.jp/~darkcat/aroma.html
「かおりアラカルト」 小川香料
http://www.attnet.ne.jp/ogawa/kaori/index.html
実験
100
mlのナス型フラスコにエチルアルコ−ル(エタノ−ルCH3CH2OH)12
g1)と
酢酸(CH3COOH)15 g
1)を入れ、よく混ざったところへ硫酸(H2SO4)2
ml2)を
ピペットを用いてフラスコのふちにそって入れる。この時、発熱するのを確かめる。
冷却器をつけて混合物を90
℃(軽く沸騰する程度)で約30分加熱する。
加熱終了後、反応混合物を冷却してから冷却器をはずし、約30
mlの冷たい水を加えると、
液が二層に分かれる。そのままこの混合物を分液ロトに移し、3)軽く振り混ぜる。
しばらく静置して二層に分かれるのを確かめ、下層の水を下のコックを回して取り出す。
次に、10%炭酸ナトリウム(Na2CO3)水溶液約10
mlを加え洗浄する。
その要領は、栓をあけたまま分液ロトを回転させ泡を出す。泡が出るのががおさまってきたら、
栓をして少しだけ分液ロトを振り、すぐに栓をあける。この操作を泡が出なくなるまで
何回か繰り返し、下の層を取り出す。
分液ロト内の酢酸エチル(CH3COOCH2CH3)は三角フラスコに移し替え、
少量の
硫酸マグネシウム(MgSO4)を加えて乾燥する。ろ紙を使ったろ過で硫酸マグネシウムを
取り除くときれいな酢酸エチルが得られる。もっと純粋な酢酸エチルを得るには蒸留を
しなければならない。
この簡単な方法でも約8 g~10 gの酢酸エチルが得られる。
(備考)
1)酢酸エチルはセメダインメの「におい」がします。これは、接着剤を揮発性の
酢酸エチルに溶かしてあるからです。原料の酢酸は酢の「におい」、エタノ−ルはお酒
(あるいは消毒剤)の「におい」がしますから、反応が起こっていることが
「におい」が変化することでわかります。
2) 酢酸エチルの出来る反応を化学式で示すと、下のようになります。
このように酸とアルコ−ルから形式的に水がとれて(脱水縮合)できた化合物を
エステルといいます。
この反応式では硫酸が関与していないように見えますが、硫酸がないと反応は非常に遅く、
なかなか起こりません。硫酸を入れることにより、反応が簡単に起こるようになります。
このように反応に直接関係ないように見えてもその反応の速さを変えることが出来る
化合物を触媒といいます。
エステルは,一般に芳香性のものが多く含まれており、香料として幅広く用いられています。
またよくいろいろなものを溶かしますので、溶剤、うすめ液(シンナ−)としても用いられています。
3)
分液ロトの中には、目的とする酢酸エチルが残っていますが、それ以外に不純物が
混じっています。その不純物の主なものは、反応しきれなかった酢酸やエチルアルコ−ル、
触媒として加えた硫酸が考えられます。
いま合成しようとしている酢酸エチルは水にはほとんど溶けません。それに対して、
上に示した不純物はいずれも水によく溶けます(酢やお酒が水に溶けることを思い浮かべて
下さい)。
ですから、水に溶ける溶けないで、反応が進行したことを知ることもできます。
この混合物を水で洗浄すれば、水に溶解する不純物は水の層に移っていきます。
また、酢酸,硫酸はその名のとおり酸ですから、アルカリ(ここでは炭酸ナトリウム)で
洗うと、塩となって取り除くことが出来ます。