大阪教育大学 英語教育講座 英語学研究室
『卒業論文・修士論文の書き方』
寺田 寛
以下では、卒業論文および修士論文を書く際のアドヴァイスをします。
●提出まであと何日?
卒業論文の提出期限は、毎年1月31日(土日と重なる場合は、その前日)となっています。
修士論文の提出期限は、毎年1月15日(土日と重なる場合は、その前日)となっています。
提出方法は、指導教官に提出してから教務課に提出することになっています。
●卒論指導の時間
卒業論文に関する質問の受け付けは、英語学演習 I (以下、卒論演習)および、約束した時間に限ります。それ以外の時間帯は応対できかねますので、注意して下さい。
●休まないこと
卒論演習の授業に欠席が目立つ者は、質問のために本来割り当てられている授業時間を自ら放棄しているわけですので、卒論用に設けている時間外での質問には応じかねます。
毎年、卒論のタイトルを提出すると、安心する人がいます。夏の間一生懸命遊んでいて、秋風の吹く十月になると、思い出したように慌てふためいて研究室にやってきます。そこで、こってり絞られることになります。卒論の準備は借金返済と同じです。後に延ばせば延ばすほど、返済が難しくなります。半年間怠けていたら、卒業が半年遠のくと思って下さい。
●論文コピーの取り方
本や論文をコピーする場合には、本文だけでなく、注や参考文献まで正確に取りましょう。コピーを失敗した場合には、丁寧に取り直しましょう。
コピーする際、紙の端が真っ黒になったコピーをする人がいます。トナーの無駄遣いはいけません。コピー機の余白消去ボタンを使いましょう。それでもうまく行かない場合には、コピー面を覆い隠すように二枚の真っ白の紙をコピー面の裏側に挟みましょう。
●参考文献の集め方
自分で集めるのが基本です。しかし、初学者に多い間違いは、○○文庫や受験参考書のような学術書とはみなしにくいものや啓蒙書を、まるで卒論の最重要文献といわんばかりに、読みふけることです。早くこれらの本を「卒業」しましょう。
ではどうすればよいのか。参考文献は、論文などの巻末の参考文献を見ましょう。論文や本は、巻末の参考文献(ReferencesあるいはBibliography)までちゃんと見るのです。引用文献や参照文献と呼ぶこともあります。
その参考文献に載っている論文や本を、自分の力で集めましょう。買うのが一番よい方法です。しかし、何万円もの文献を購入するのは、難しい場合があります。そういう場合には、図書館や教官から借りましょう。どちらにもなかった場合には、図書館に出向いて、学外貸し出しを利用します。
学外貸し出しは、図書館の次のページからもできます。
http://sangoju.lib.osaka-kyoiku.ac.jp/
学外貸し出しをお願いすると、一週間から数週間かかります。余裕を持って借りましょう。卒論提出直前になって借りても、もう間に合いません。
●タイトルの付け方
学位論文は、英文で提出しなければなりません。タイトルも英語で付けます。
本や論文の最後にある参考文献(References)を参考にしましょう。タイトルの表す内容があまり狭くなりすぎないように。
タイトルは、一度つけたら変更しないこと。一度教務課に届け出たタイトルは、それが長い間にわたって、あなたの卒論タイトルとして残ります。
タイトルの例:
A Study of Lexical Semantics
The Syntax and Semantics of Adjuncts and Predicates
On the Double Object Construction in English
A Grammar of Modification
Towards a Unified Account of English Resultatives
●卒論の書き進め方 と 卒論添削
遅くとも11月になったら、卒論を書き始めましょう。まずは、先行分析をひとつひとつまとめては、問題点を指摘します。
その後、それらの問題点を自分はどう解決するのかを論じましょう。問題点を解決するための解決策として、なにがしかの仮定を立てたら、それを証拠づける論拠を出来る限り多く挙げましょう。
そして、書いたところは11月から1月中旬までに何度も添削を受けましょう。添削は、卒論演習の授業中に論文の書き方を指導するためのものであり、卒論全体の英語を直すためのものではありません。
何度か添削を受けた者はその際に注意された事項を思い出し、同じ間違いを避けましょう。
毎年、11月からきちんと持ってきた人の英語はかなりよい英語になりますが、提出直前になって初めて見せにくる人の英語は、まったくダメな場合が多いです。書き直しを命じられたら、素直に書き直しましょう。
タバコを吸う学生・院生は、概して卒論提出原稿やその前に見せてもらう草稿にもタバコの臭いがすることが多いです。私はタバコの臭いが苦手なので、臭いのしない原稿および草稿を提出してもらえると助かります。
●MLAを必ず読むこと!
論文の書式については、北星堂出版「MLA英語論文の手引き」を各自で購入し、それに基づいて論文を書いて下さい。これを読まずに書式に関する質問をしに来る人がいます。その他、書式については、以下を参照してください。
●卒業論文の書式について
1)卒論提出について
卒論は、教官提出用、提出者保存用の2部作成する(1部は、論文の内容が違わないようにするため、コピーとする)。
市販のひも綴じの黒い厚紙でファイルし、上綴じではなく、左綴じにすること。
ファイルの表には、タイトルと氏名を書いた紙かシールを添付し、そのタイトルはワープロやタイプライターで打ったものであっても、手書きしたものであってもよい。
論文に加え、日本語の要旨として、卒論は1500字程度を1部、修論は3000字程度を3部添付して提出すること。
2)論文の構成など
論文は、英語で書かれたものとする。
注は、本文の後にまとめて挙げる。
つまり、表紙、Acknowledgments
(なくてもよい)、Abstract(英文1ページ程度)、目次(Contents)、本文、注(Notes)、参照文献(ReferencesよりもBibliographyと書く方が好ましい)、和文の要旨の順に並べる。
注は、上付き文字の通し番号(1,
2,...)を付す。
地の文以外(例文や図表など)には、注とは別に、通し番号((1),
(2),...)を付ける。
3)枚数など
卒論は、A4、ダブルスペース(一行65〜70ストローク、一頁25〜27行以内)で、表紙から参考文献まで全てを含めて30枚程度とし、少なすぎても多すぎても良くない。本文は25枚を下限とする。修論は、本文が50枚〜70枚程度とし、表紙から参考文献まで全てを含めて60〜80枚程度とする。
論文の上下左右に2.5cm以上のマージンを取ること。
提出する用紙は、白のワープロ用紙かコピー用紙とし、再生紙でもよい。
4) 書式統一
参考文献(References/Bibliography)
の書式については統一をはかること。
5) そのほかの注意
過去の先輩の優れた卒論を参考にすること。
英作文が苦手な人は、ネイティヴスピーカーが書いた論文の表現をカードなどにたくさん貯めておいて、借用するのがよい。英作文よりも「英借文」に心がけるべし。但し、英語の表現を借用するあまり、他人の論文の一部または全部をそっくりそのまま借用してはならない。
ネイティブ・スピーカーに原稿を読んでもらい、指導を受けること。
内容が難しすぎないようにする。すでに自分にとっては明白な事柄でも、読み手にとってはそうとは限らない。専門用語やなじみの薄い概念は、後輩やクラスメイトの誰が読んでも分かるくらい、丁寧な説明を心がけること。
6)提出後にすること
卒論提出後、口頭試問を行う。
その時に書き直しを要求されることがあるので、フロッピーディスクなどは保存しておく。
卒業旅行などに出かけて、口頭試問や書き直しに応じない場合には卒業できないので注意が必要である。
7)表紙、目次、Abstract、本文、注、参照文献、和文要旨の書き方の例:
(表紙の例)
A RECONSTRUCTION APPROACH TO PROPER BINDING
CONDITION EFFECTS ON REMNANT MOVEMENT
A Thesis
Presented to
The Faculty
of the Department of English Education
In Partial
Fulfillment
of the
Requirements for the Degree of
Bachelor (or
Master) of Education
↑卒業論文 ↑修士論文
by
Hiroshi Terada
January 2004
提出する年と月を記入↑
(目次の例)
CONTENTS
1. Introduction・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2. Problems Associated with Previous Analyses・・・・・・・・・・・・・ 4
2.1. Minimal Link Condition Approach・・・・・・・・・・・・・・・・・4
2.2. Phase Approach・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
2.3. An Argument for A-Traces・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
3. On the Reconstruction Approach to Proper Binding Condition Effects・・12
3.1. On the Typology of Reconstruction・・・・・・・・・・・・・・・・・12
3.2. Alternative Analysis・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
18
3.3. Remnant Movement in German・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
4. On the Status of the Proper Binding Condition・・・・・・・・・・・・
26
5. Conclusion・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
28
Notes・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31
Bibliography・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
36
右端をばらばらにせずに、そろえる↑
(abstractの例)
Abstract
This study is
primarily concerned with the question of how a certain
↑タブで段落の最初を下げる
type of remnant movement satisfies the Proper Binding Condition (PBC),
the requirement that a trace be bound.
Remnant movement is generally
delineated as [... [β ... tα ... ] … α ... [ ... tβ
... ] … ], in which remnant category
β contains a trace of α, and yet is not overtly bound by α. Several studies
on this topic have attempted to reduce the PBC to locality conditions such
as the Minimal Link Condition, Phase Impenetrability Condition, and so
on. The purpose of this study is to
argue that a version of the PBC must
be preserved
independently and that PBC-effects on remnant movement are
accommodated, according to the types of reconstruction applied to remnant
categories.
この見本よりも長めに、英文1ページ程度で書く。
introductionやconclusionとは異なる内容にする。
(本文の例)
1. Introduction ←各章・各節に番号とタイトルをつける
Dislocation is
a property characteristic of human language.
↑タブで段落の最初を下げる
One of the topics of current interest in
linguistics has been the
語の途中で改行する際は辞書で単語の切れ目を確認してハイフンを入れる↓
investigation of the locality of
movement. The Proper Binding Condi-
ピリオドの後ろは、2ストローク取る。↑ コロンの後は1ストローク取る。↓
tion (PBC) is one of the most fundamental
locality conditions:
↓番号の後ろにスペースをとる。↓PBCなどの頭字語には完全綴りを明記。
(1) Proper Binding Condition (PBC)
↑タブで例文の最初を下げる。例文番号は(1), (2) ,(3)...のように続き番号にする。
Traces must be bound. 出典は右端にそろえる↓
(cf. Fiengo (1977: 45), Saito (1989: 187))
↑出典はカッコに入れる ↑年とページをカッコに入れる
This condition is introduced to rule out such
ill-formed sentences as
↓例文番号はカッコに入れて表す。アルファベットはカッコの中に入れる。
(2a-b), which contains unbound traces created
by downward movement:
↓番号と記号a, b, cの後ろにスペースをとる。痕跡(t)には下線を施す。
(2) a. *John asked t1 [CP who1
[Mary saw Bill]]
↓アルファベットの左端位置、例文の左端の位置を上の行のそれにそろえる。
b. *John wonders ... (Terada
(1996: 49))
日本語で書かれた文献であっても「寺田」でなくTeradaとする。↑
Here, who1 is lowered to
the embedded Spec-CP position, with t1 un-
↑議論の対象になる語句を地の文で取り上げる際、下線を施す。
bound.... ←ドットは通常3つ。つまり...とする。その後ろにピリオドをつけるなら....とする。
In this thesis, I will show ..........................................
↑学位論文なので、paperやarticleではなく、thesisとする。
←節や章の間は、一行あける。
1 ←ページ数を明記。
-----改頁-----
2. Problems Associated with Previous Analyses
↓前置詞、冠詞以外の語は、語頭を大文字にする。↑
2.1. Minimal Link Condition Approach
Muller (1998: 271) has introduced the following condition,
↑出典を明らかにすること。年とページを明記。
according to which internal movement and the subsequent remnant
movement cannot be of the same type:1 ←注は右肩、句読点の後に
上付き文字が印字できない場合は、(note 1)のようにする。
(5) Unambiguous Domination (UD)
In a structure
......................................................
Chomsky (2001a) hypohesizes that
..............................................
↑現在でも同じ分析を採用している場合、過去形にしない。
.....................................................................................................................................
他の論文で言われている文や語句を引用する場合、“ ”をつける。
.....................................................................................................................................
.....................................................................................................................................
........................................................................................................
2 ←ページ数を明記。
-----改頁-----
(注の例)
Notes
1 As a modification of this condition,
Grewendorf (2003: 67) proposes a
↑タブを入れて下げる。
constraint called Improper Remnant Movement
(IRM) to the effect that
remnant movement is prohibited unless it is
of a higher type than in-
ternal movement. Types of movement are hierarchically ordered
in (i):
(i) A’-movement >> Adjunction movement >> A-movement
↑例文番号は(i), (ii), (iii), ...とする。
.......................................................................................
(ii)
................................................................
↑タブを入れて下げる。(i)と(ii)の左端をそろえる。
.......................................................................................
2 The notion of closeness is defined as (i):
↑タブを入れて下げる。
(i) .............................................................................
↑タブを入れて下げる。
3 ......................................................................................
4 ......................................................................................
31←ページ数を明記
(参照文献の例)
Bibliography
↓前置詞、冠詞以外の語は、語頭を大文字にする。
Abels, Kalus (2002) “On an Alleged Argument
for the Proper Binding
↑論文名は“ ”に入れる。
Condition,” MIT Working Papers in Linguistics 43, 1-16.
↑下げる。 ↑書名、論文名は下線を引っ張る。 ↑巻、ページ数を明記。
Aoun, Joseph and Yen-hui Audrey Li (2003) Essays on
the Representa-
↑論文の左端を上の行の頭にそろえる。書物の場合、出版社、出版地を明記。
tional
and Derivational Nature of Grammar, MIT Press, Cambridge, MA.
マサチューセッツ州にあるCambridgeはMAをつける。↑
Barss, Andrew (1986) Chains and Anaphoric
Dependence, Doctoral
dissertation, MIT. (←博士論文の場合、このように書き、大学名を明記)
↑ABC順に著者を並べる。
Boeckx, Cedric (2002) “Agree or Attract?: A Relativized
Minimality
Solution to a Proper Binding Condition Puzzle,” Theoretical
Approaches to Universals, ed. by Artemis Alexiado, 41-64, John
↑編者はこのように明記。
Benjamins, Amsterdam.(論文集の中の論文を引用する際はこのように)
Cecchetto, Carlo (2001) “Proper Binding Condition Effects
are Phase
Impenetrability Condition Effects,” NELS 31, 99-115.
↑NELS,
CLS, WCCFLなどの論文集は頭字略記。
Chomsky, Noam (2001a) “Derivation by Phase,” Ken
Hale: A Life in Lan-
↑同じ年に複数の文献がある場合、出版された順にa, b...をつける。
guage, ed. by
Michael Kenstowicz, 1-52, MIT Press, Cambridge, MA.
36←ページ数を明記
Chomsky, Noam (2001b) Beyond Explanatory Adequacy,
MIT Occasional
Papers in
Linguistics 20.
.....................................................................................
.....................................................................................
.....................................................................................
Terada, Hiroshi (1996)
"Sayouiki Hyouji Gimonbun ni okeru Kuuenzanshi
日本語の文献を引用する際、このようにローマ字表記にする。↑
no Bubunteki Tajuu Wh
Idou", Gengo Kenkyu: Journal of the Linguistic
Society of Japan 109, 49-93.
.....................................................................................
.....................................................................................
37←ページ数を明記
(要旨の例)
A RECONSTRUCTION APPROACH TO PROPER BINDING
CONDITION EFFECTS ON REMNANT MOVEMENT
(残余句移動に見られる適正束縛条件効果への再構築接近法)
寺田 寛
要旨
↓一文字分下げる
ある要素が本来解釈される位置とは異なる位置に現れる場合、その要素は移動(movement)なる統語的操作を受けたと考えられる。英語やその他の言語において、ある句(これをXとする)から一部の要素(これをYとする)が文中の別の位置に移動が起こった後、残りのXがさらに移動を受けて、Yよりも構造的に上位または下位の位置に移動する現象が見られる。一般に、このようなYの移動によって一部が取り出された句Xは残余句(remnant phrase)と呼ばれ、そのような句の移動は残余句移動と呼ばれる。
移動操作が適用されたあとには痕跡(trace)と呼ばれる音声的に具現されない範疇(空範疇)が残される。このような痕跡が先行詞によって束縛と呼ばれる構造関係になければならないという統語的構造に課せられる条件を、適正束縛条件(Proper Binding Condition、以下PBC)という。 残余句移動は、痕跡が束縛されない構造を生み出すため、PBCの違反が生じ、非文法的な結果が生み出される。ところが、ある環境では、残余句移動が起こっているにもかかわらず、PBCの違反が免除され、文法的な結果が得られる場合がある。
この論文では、このようなPBC効果の有無が、再構築と呼ばれる統語的な操作によって説明されることを主張する。再構築とは、移動された要素を解釈する際に、もともとの痕跡の位置(あるいは、それに類する位置)へその要素を戻す操作である。移動される要素の種類によって、あるいは移動のタイプによって、再構築される位置や再構築される句の内容が異なり、その違いがPBC効果の有無に影響を与えているということを提案する。
より具体的には、............................................................................と主張する。
このような主張が正しければ、文法理論に対して、次のような貢献ができるものと考えられる。
この分析によって残される課題は、.......................................................である。
以上。
日本語の正書法に従うこと。
文中に現れる英語や数字は、全角(ABC123)ではなく半角(ABC123)とする。
「A-移動」、「X'-理論」のように、ハイフンと日本語を組み合わさず、「A移動」、「X'理論」のように書く。
和文中に登場する外国語はイタリック体にしたり、下線を引いたりしない。(例)この文でJohnが主語である。誤り:この文で、Johnが主語である。