横山研究室

確率論とは

確率論の起源

 学生が使うほとんどの確率論の教科書に、確率論の生みの親はギャンブルで、シュバリエ・ド・メレの問題とそれに関連する諸問題について交わした、フェルマーとパスカルの往復書簡が、今日の確率論の出発点であると書かれています。
 ポアソン (S.D.Poisson: Recherches sur la probabilite des jugements,1837) は次のように述べています。「賭け事に関する一つの問題が、一人の俗人から厳格なヤンセン教徒に提出されたが、それが確率論の起源であった」と。 この厳格なヤンセン教徒がパスカルであり、俗人はギャンブラーでその名をシュバリエ・ド・メレ (Chevalier De Mere) といいました。

 ここで、フェルマー (Pierre de Fermat, 1601-1665) とは、皆さんがよく知っている「フェルマーの最終定理]

a^{n} + b^{n} = c^{n} (n は 3 以上の自然数;a^{n} は a の n 乗を表す)を満たす自然数の組 (a,b,c) は存在しない

を予想した人です。ただ、この定理は「すばらしい証明を見いだしたが、余白がないので、それを書き込むことができない」という言葉とともに、ディオファントスの「算術」の欄外に書かれていたものですから、「予想」と書くとあの世からフェルマーに怒られるかもしれません。
 結末は皆さんもご存知だと思いますが、1995年、イギリスのアンドリュー・ワイルズが300年以上に及ぶ数学者の累々たる屍を乗り越えて、ついにフェルマーの最終定理を証明しました。その証明には、日本人数学者の独創的な研究成果が非常に重要な役割を果たしています。

●フェルマーの最終定理に関する本がたくさん出ているので、ぜひ読んでください。
『天才数学者たちが挑んだ最大の難問』(アミール・アクゼル著、早川書房)等
(附属図書館「数理科学講座推薦図書コーナー」に数種類あります)



 次にパスカル (Blaise Pascal, 1623-1662) ですが、皆さんはパスカルの三角形

の名でよくご存知かもしれません。これは組合せの公式

nCr = nCn-r, nCr = n-1Cr + n-1Cr-1

を表しています。
 パスカルは大変な天才で、16歳のときに、円錐曲線に内接する六角形の相対する辺の延長の交点は一直線上にある(パスカルの定理)ことを発見し、みごとな証明を与えました。 この証明には苦心談があったようで、このため、円錐曲線に内接する六角形のことを、パスカルの神秘六角形とよぶ人がいるそうです(「数学物語」(矢野健太郎著、角川書店)を参考にしました)。

 しかし、世の中でパスカルといえば、圧力に関する「パスカルの原理」(気圧の単位をヘクトパスカルといいます)から物理学者を連想したり、宇宙に比べれば無に等しいような人間も「考える葦」として偉大であると説いた、思想家・宗教家を連想する人の方が、数学者パスカルを連想する人より多いかもしれません。 私も、高校時代に倫理社会で、大学時代には「デカルトとパスカル」(森 有正著、筑摩書房)を読み、数学者パスカルより先に思想家・宗教家としてのパスカルを知りました。 わずか39歳で夭折したパスカルですが、そのほか微分積分学にも影響を及ぼすなど、数学の世界に多大な業績を残しました。


 少し寄り道をしますが、メルセンヌ数で知られるフランシスコ派の神父メルセンヌ (Marin Mersenne, 1588-1647) もこの時代の人でした。メルセンヌ数とはつぎの形の自然数です。

2^{M}−1   M は自然数。

M = ab ならば

2^{ab} − 1 = (2^{a} − 1)(2^{a(b−1)} + 2^{a(b−2)} +...+ 1)

と分解されるので、M が合成数ならば、2^{M}−1 も合成数になります。ただし、Mが素数であっても必ずしも 2^{M}−1 は素数にはなりません。素数になる M の値は

M = 2,3,5,7,13,17,19,31,61,89,107,127,521,
...,24036583,25964951

31までは18世紀以前、521以後は電子計算機によります。
 現在(2005年6月)見つかっている最大の素数は 2^{25964951}-1 で、なんと7816230桁です(徳島大学のHPを参考にしました)。


 最初に戻って、シュバリエ・ド・メレがパスカルに相談し、確率論の起源となった歴史的な問題は次のようなものです。

●シュバリエ・ド・メレの2つの問題
1) さいころ2つを何度かふって、6−6 の目が1度でも出る確率が 1/2 以上になるためには何度ふればよいか ?
2) 賭けの勝負がつかないうちに何らかの理由(手入れ? それとも夜が明けたから?)で中止したとき、賭け金をどう配分すればよいか ?

 1) について、ド・メレは24度さいころをふれば、6−6 の目が1度でも出る確率が1/2 以上になると考え、大損をしたようですが、なぜこのように考えたかも含めて皆さんも考えてみませんか。私の授業(数理科学専攻2回生「応用数理概論」)でも学生に少し考えてもらいました。 なお、パスカルにとってこの問題は単なる準備運動にすぎなかったことでしょうが、その短い生涯のため、算術三角形についての論文は死後発表されたものの、予定していた「さいころの幾何学」を出版することはありませんでした。


[付録1]

整数 a, b の差が整数 m で割り切れることを、a, b は m を法 (modulus) として「合同」であるといい、記号

a ≡ b (mod m)

で表す。このような合同関係を示す式を合同式という。

●フェルマーの小定理

二項定理

(a+b)^{n}
= nC0 a^{n} + nC1 a^{n−1}b + nC2 a^{n−2}b^{2} +...+ nCn−1 ab^{n−1}
+ nCn b^{n} (*)

においてn=p(素数)とする。1≦r≦p−1 のとき、pCr = p!/r!(p−r)! は p で割り切れるので、pCr ≡ 0 (mod p) (1≦r≦p−1)。
また、pC0 = pCp = 1 より、

(a+b)^{p} ≡ a^{p} + b^{p} (mod p)

a=b=1 とおくと、  2^{p} ≡ 2 (mod p)
両辺に 1 を加えて、  2^{p}+1 ≡ 3 (mod p) (**)
a=2, b=1 とおくと、 3^{p} ≡ 2^{p}+1 (mod p)
(**)より、       3^{p} ≡ 3 (mod p)
以下同様にして、

a^{p} ≡ a (mod p)

特に、a と p が互いに素ならば(両辺を a で割って)、

a^{p−1} ≡ 1 (mod p)  (***)

これをフェルマーの小定理という。
フェルマーの最終定理が「大定理」とも呼ばれるため、この名がついた。

問題 (***) より、2^{10}−1=1023 は 11 で, 2^{12}−1=4095 は 13 で、
2^{16}−1=65535 は 17 で割り切れることを示せ。


[付録2]

●パスカルの三角形に現れる数の和

二項定理の (*) 式に a=b=1 を代入すると、パスカルの三角形の n 段目の和は
S(n) = 2^{n}

n 段までに現れるすべての数の和は

T(n)

= S(0) + S(1) +...+ S(n)

 

= 1 + 2 + 2^{2} +...+ 2^{n}

 

= (1 − 2^{n+1})/(1 − 2)

 

= 2^{n+1} − 1

T(n) は M=n+1 のメルセンヌ数となる



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