さらに理解を深めるために、下記の問題を考えてみましょう。
(1)(2) には ○× で答え、(3) には数字で答えましょう。
(ただし、答えが「無限」の場合は ∞ と解答しましょう。)
(問題 1)
零元 0 と単位元 1 を持つ可換環 R の元 a,b に対して、次の問いに答えよ。
(1) ab = 0 ならば a = 0 または b = 0 である。
(2) a2 = 1 ならば a = 1 または a = -1 である。
(3) 5,7,8 で割ったときの余りがそれぞれ、 2, 3, 5 であるような
1000以下の自然数の個数を求めよ。
(問題 2)
(1) 体は単項イデアル整域である。
(2) R が単項イデアル整域ならば、
そのイデアル I による剰余環 R/I も単項イデアル整域である。
(3) 位数が 10 の可換群の個数を述べよ。(ただし、同型なものは同じと見なす。)
(問題 3)
Z2 = {0,1} は有理整数環 Z の極大イデアル 2Z による剰余環である。次に答えよ。
(1) Z2[X] は単項イデアル整域である。
(2) Z2[X] において、X4+X2+1 が生成する単項イデアル I は極大イデアルである。
(3) R = Z2[X] において、X3+X2+1 が生成する単項イデアル J による剰余環 R/J の正則元の個数を求めよ。
(問題 4)
M = { (x,y,z) | x,y,z ∈ Z } は空間上の格子点全体であり、
Z 加群である。
N = { (x,y,z) ∈ M | x+y+z = 0 } とする。
次に答えよ。
(1) M の4つの元が M を生成しているとする。
このとき、その中から 「 M を生成するような3つの元 」を選ぶことができる。
(2) N は M の 部分加群である。
(3) Z 上一次独立な N の元の個数の最大値を求めよ。
(問題 5)
C は複素数体。R = C[X] は複素数体上の多項式環。
V = C4 は C 上の4次列ベクトル全体とする。
4 次正方行列 A をひとつ固定した時、R の V への作用を f(X)v = f(A)v
によって定義すれば、
V は R 加群となる。(演習問題 11-(iv) 参照)
次に答えよ。
(1) R 加群 V には 4つの元からなる生成系が存在する。
(2) R 加群 V のねじれ元全体 T(V) は V の R 部分加群である。
(3) V の中から選び出すことのできる R 上一次独立な元の個数の最大値を求めよ。
(問題 6)
Z は有理整数環。
M = Z3 は Z 上の 3 次列ベクトル全体
(空間上の格子点全体)とする。
整数行列 A を次のように与える。
(1) 基底変換 X → Y の行列が A となるような M の
2組の基底 X,Y が存在する。
(2) ある基底 X に関する f : M → M の行列が A となるような
Z 準同型写像 f が存在する。
(3) 次の2つの条件を満たす N の個数を求めよ。
(i) N は M の Z 部分加群である。
(ii) N は 階数 3 の Z 自由加群である。
(問題 7)
有理整数環 Z 上の3次正方行列 A,B について、次の問に答えよ。
(ただし。単因子において、正則元倍は同じであるとみなす。)
(1) A が Z 上可逆である必要十分条件は
A の単因子が (1,1,1) であることである。
(2) A が B の変形である必要十分条件は
その単因子が同じことである。
(3) R = Z2 とする。
このとき、R 上の可逆な3次正方行列の個数を求めよ。
(ただし、Z2 = {0,1} は有理整数環 Z の単項イデアル 2Z による剰余環である。)
(解答 1)
×, ×, 4
(1)(2) Z8 において、
a = 2, b = 4 は ab = 0 を満たし、
a = 3 は a2 = 1 を満たす。
(3) 157, 437, 717, 997 の4個(中国式剰余定理を参照)
(解答 2)
○, ×, 1
(1) 体 R は整域であり、そのイデアルは {0} と R だけである。
それぞれ、0 と 1 が生成する単項イデアルである。
(2) Z はPID。Z8 は整域ではない。
(3) 全て Z10 と同型である。
(アーベル群の基本定理を参照)
(解答 3)
○, ×, 7
(1) 体 Z2 上の多項式環は PID
(2) g = (X2+X+1) とおけば、
(X4+X2+1)=g2
よって、I は g が生成するイデアル M に(真に)含まれる。
(3) 3次式で割った剰余環なので、2次以下の多項式全体と同一視できる。
R/J = { aX2 + bX + c | a,b,c ∈ Z2 }
8 個の元のうち、0 以外は全て正則元である。
(これは J が極大イデアルなので、
その剰余環が体となることからも示すことができる。)
(解答 4)
×, ○, 2
(1) (1,0,0),(0,1,0),(0,0,2),(0,0,3) は M を生成するが、
そのうちの3つは M を生成しない。
(2) 演習問題 (14) で示した
(3) (1,0,-1), (0,1,-1) は一次独立な N の元である。
N の任意の3つの元を有理数体 Q 上の3次元数ベクトルと見なせば、
Q3 の2次元部分空間
{ (x,y,z) ∈ Q3 | x+y+z = 0 } の元であり、
Q 上では一次従属である。
このとき、非自明な一次関係式に分母の最小公倍数をかければ、
Z 上でも一次従属であることがわかる。
(解答 5)
○, ○, 0
(1) 標準基底は V の生成系である。
(2) 演習問題 (16)-(ii) 参照。
(3) A の固有多項式 f(X) に対して f(A)=O (ケーリーハミルトンの定理)
よって、任意の元 v は f(X)v = 0 を満たすので、
R 上一次独立な元(自由元)は存在しない。
( C 上一次独立な元の個数の最大値は 4 である。)
(解答 6)
×, ○, ∞
(1) A は可逆ではない( Z 上では逆行列をもたない。)
(2) (a,b,c) → (b+c,a+c,a+b) とすれば標準基底に関する行列は A.
(3) 任意の自然数 n に対して {(a,b,cn) | a,b,c ∈ Z }
は条件をみたす。
(解答 7)
○, ○, 168
(1) 基本変形は左右から可逆行列をかける操作なので、
可逆行列 A の変形も可逆である。
(2) A の単因子が (a,b,c) ならば A は
対角成分が (a,b,c) の対角行列 D に変形できる。
(3) (Z2)3 は 8個の元からなる自由加群である。
(ベクトル空間である。)
1列目は 0 ではない (Z2)3 の元、
2列目は 0 と1列目ではない (Z2)3 の元、
3列目は 1列目と2列目の一次結合ではない。
よって、(8-1)(8-2)(8-4)=168