線形変換の固有値 と 行列の固有値 の 関係とは?

まずは線形代数の復習をしましょう。

C は複素数体、V は C 上の(n 次元)ベクトル空間とします。 f : V → V を線形変換(一次変換)とします。
線形変換 とは
f(u + v) = f(u) + f(v), f(ku) = kf(u) for ∀ u,v ∈ V, ∀ k ∈ C
を満たす、V から V 自身への写像のことでした。
「 0 ≠ u ∈ V such that f(u) = αu (α∈ C ) 」 のとき、 「 ある 0でないベクトル u が f で α 倍される 」とき
「 f は固有値 α を持つ 」といい、 「 u は固有値 α に属する固有ベクトル 」といいます。
U = Cn を C 上の n 次元(列)数ベクトル空間とします。 C 上の n 次正方行列 A に対して、
「 0 ≠ u ∈ U such that Au = αu (α∈ C ) 」 のとき、 「 ある 0でない列ベクトル u が A をかければ α 倍される 」とき
「 A は固有値 α を持つ 」といい、 「 u は固有値 α に属する固有ベクトル 」といいます。
「固有値」「固有ベクトル」という同じ言葉を使うのは、 これらが同じ概念だからです。
n 次元ベクトル空間 V の 基底 B = { b1,...,bn } を固定します。
この時、V は U = Cn と同型であり、 線形変換 f : V → V と C 上の n 次正方行列 F の間には1対1の対応があります。
V の任意のベクトル v は 基底 B の C 上の線形結合として、 v = k1b1 + ... + knbn と表せます。
この時、係数 (k1,...,kn) を並べて得られる (列)数ベクトル u = u(v) を v の (基底 B に関する)成分ベクトルといいます。
写像 u : V → U   (v → u(v) ) は ベクトル空間の同型写像です。 (確認)
基底を B の元を f で移したものを B の線形結合で表した時、
その係数を並べて得られる行列を F(f) を f の基底 B に関する 表現行列(行列表現、行列表示)といいました。

f(bj)= c1jb1 + ... + cnjbn とした時 F(f) = (cij)

逆に、n 次正方行列 A = (aij) に対して、 gA(bj) = a1jb1 + ... + anjbn とすれば、線形変換 gA が定まります。
これによって、V 上の線形変換 と n 次正方行列の間に1対1対応がつきました。 (確認)
このとき A の固有値、固有ベクトルという概念は、 この線形変換 gA の固有値、固有ベクトルと1対1に対応し、
線形変換 f の固有値、固有ベクトルという概念は 表現行列 F=F(f) の固有値、固有ベクトルと1対1に対応します。
まず、v の成分ベクトルを u とし、f(v) の成分ベクトル を u' としたとき、 u' = Fu になることを確認しましょう。

f(v) = f( u1b1 + ... + unbn )
= u1f(b1) + ... + unf(bn)
= u1 ( c11b1 + ... + cn1bn ) +...+ un ( c1nb1 + ... + cnnbn )
= ( u1c11+ ... +unc1n )b1 + ... + ( uncn1+ ... +uncnn )b1 = u'1b1 + ... + u'nbn

よって、成分ベクトルを対応させることによって、次が成り立ちます。
「 f は固有値 α を持ち、v は固有値 α に属する固有ベクトル。」
「 f(v)=αv,   0 ≠ v ∈ V」
「 Au=αu,   0 ≠u ∈ U 」
「 A は固有値 α を持ち、u は固有値 α に属する固有ベクトル。」

したがって、基底 B = { b1,...,bn } を固定することで、 下の表のような対応がつきます。

線形空間 V   数ベクトル空間 U
V のベクトル v u は v の成分ベクトル
v = u1b1 + ... + unbn
U のベクトル u
線形変換 f F は f の表現行列
f = gF
行列 F
f による v の像 v' = f(v)   F による u の像 u' = Fu
線形変換 f の固有値   行列 F の固有値
f の固有値 α に属する
固有ベクトル v
  F の固有値 α に属する
固有ベクトル u



これは、基底 B の取り方にはよりません。 別の基底 B' に対しても、同じことが成り立ちます。
では、基底 B に関する表現行列 F と基底 B' に関する表現行列 F' の間には、 どのような関係があったでしょうか?
それがわかれば、下の問題は解決しますね。
n 次正則行列 P を用いて、PAP-1 と変形するとは どういうことなのでしょうか?
変形した行列 PAP-1 と もとの行列 A の 固有値が一致するのはなぜでしょうか?
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