最大公約元
R を可換環とします。
( 整数全体の集合 Z か、
有理数係数の多項式全体 Q[x] を例にして考えましょう。)
0 ではない元 a, b ∈ R に対して、
「a=bc となる c ∈ R が存在する時、
"b|a "と表し、a は b の倍元、b は c の約元といいます。
(倍数、約数と同じ概念です。)
a と b の共通の約元を a と b の公約元といいます。
a と b 公約元 d が次を満たすとき最大公約元であるといいます。
「任意の a と b 公約元 c は d の約元である。」
例えば、自然数 12 と 18 の約元の集合はそれぞれ、
{1,2,3,4,6,12}, {1,2,3,6,9,12} です。
よって、公約元は {1,2,3,6} です。
(整数環 Z においては ± をつけるのが正確です。)
これらは全て 6 の約元になっているので、「 6 を最大公約元と呼びましょう。」
というのが定義です。
整数(自然数)における最大公約数の場合、
公約数のなかで通常の大小関係に関して最大のものをとれば、
上の定義を満たします。
(小学生にはこちらの方が上の定義よりもはるかにわかりやすいので、
あえて、上のような定義をする必要がありません。)
では、有理数係数の多項式全体 Q[x] ではどうでしょうか?
中学校(高校?)では、最大公約多項式などを学んだかもしれません。
たとえば x4-1 と x4+2x2+1
の最大公約多項式はどうやって求めたでしょうか?
因数分解して (x2+1)(x+1)(x-1) と (x2+1)2
なので (x2+1) としたでしょうか?
(そうだとしたら Q[x] が素元分解整域であることを使っていたんですね。)
このときも「両方を割る多項式の中で次数が最大のもの」と定義
したのではないでしょうか?
しかし、3(x2+1) も 5(x2+1) も公約元です。
一般には 0 でないスカラー倍 c(x2+1) は全て公約元になります。
さらに ガウスの整数環 Z[i]={a+bi | a,b ∈ Z } や可換環
Z[√-5]={ a+b√-5| a,b ∈ Z } における
大小関係はどう定義するのでしょうか?
そこで、可換環における、約元であるという "順序関係" を
もう一度考え直すことにしましょう。
まず、 a ∈ R に対して、aa' = 1 となる a' ∈ R が存在する時、
a' は a の逆元、a は 単元(または正則元)といいます。
Z の単元は ±1, Q[x] の単元は 0 でないスカラー (Q の元)です。
a,b ∈ R に対して、a=bc となる単元 c が存在する時、
a と b を同一視することにします。
この同一視のもとで、約元であるという関係
「 b|a 」 は順序関係になります。
(確認しましょう)
a,b ∈ R の公約元全体の集合 M を上の順序に関する
順序集合とします。
「もし、M に最大元が存在すれば、それを最大公約元といいましょう。」
というのが最大公約元の定義です。
最大元が存在するとは限りません。
存在しないような "例"
をあげることにします。