表現技法・内容・心理の分析例

「春に」谷川俊太郎  東京書籍(1年) 光村図書(2年)掲載

春に           谷川俊太郎
 
この気もちはなんだろう
目に見えないエネルギーの流れが
大地からあしのうらを伝わって
ぼくの腹へ胸へそうしてのどへ
声にならないさけびとなってこみあげる
この気もちはなんだろう
枝の先のふくらんだ新芽が心をつつく
よろこびだ しかしかなしみでもある
いらだちだ しかもやすらぎがある
あこがれだ そしていかりがかくれている
心のダムにせきとめられ
よどみ渦まきせめぎあい
いまあふれようとする
この気もちはなんだろう
あの空のあの青に手をひたしたい
まだ会ったことのないすべての人と
会ってみたい話してみたい
あしたとあさってが一度にくるといい
ぼくはもどかしい
地平線のかなたヘと歩きつづけたい
そのくせこの草の上でじっとしていたい
大声でだれかを呼びたい
そのくせひとりで黙っていたい
この気もちはなんだろう

表現技法の分析

題名会社名作者学年

学習時期
形式総文字数行数連数視点時間経過反復(表現)反復(形式)倒置法体言止直喩隠喩擬人法対句要求呼びかけ(要求以外)
春に東京書籍谷川俊太郎1年

p8
口語自由詩330241一人称限定視点××××××××
学年・掲載ページ
ページは学習時期とも関連するので初めのページの頁数を入れた。
時間経過
詩の中で、時間が流れているかどうか。「春に」は常に春のことを言っているので、時間経過はない。時間経過があるものとしては茨木のり子の「わたしが一番きれいだったとき」(東京書籍2年・三省堂2年)などがあげられる。
反復(表現)
ある言葉を行で全く同じように反復しているかどうか。「春に」の場合は、「この気持ちはなんだろう」という行が4回繰り返されている。
反復(形式)
連(またはそれに近いもの、形式)の反復。「春に」の場合はない。谷川俊太郎の「朝のリレー」(三省堂一年)では最初に「……が/……しているとき/……は/……する」という4行が2回繰り返されているので、上の反復(表現)とは区別し、反復(形式)があるとした。
倒置法
詩の中に倒置法があるかないか。「春に」にはない。
体言止め
詩の中に体言止めがあるかないか。「春に」にはない。
直喩
詩の中に直喩があるかないか。「春に」にはない。
隠喩
詩の中に隠喩があるかないか。「春に」では、7行目「枝の先のふくらんだ新芽」が「春」を表現している隠喩、11行目「心のダム」も隠喩表現にあたる。
擬人法
詩の中に擬人法があるかないか。「春に」にはない。
対句
詩の中に対句があるかどうか。「春に」では、8〜11行目
よろこびだ しかしかなしみでもある
いらだちだ しかもやすらぎがある
あこがれだ そしていかりがかくれている
の3行が対句。
要求
「〜するな」など、読者に対して直接的に要求しているもの。「春に」はそのような表現はしていない。新川和江の「わたしを束ねないで」での
わたしを束ねないで
……
わたしを止めないで
……
などを要求と判断した。
呼びかけ(要求以外)
先の要求以外で、読者に対して呼びかけているもの。「春に」は「この気持ちはなんだろう」というように疑問形で書いているものの、話者の内言だと考えられるので呼びかけの表現はない。

内容の分析

題名学年表現対象連の分析内容表現の分類主題主題の分類
連の内容連の構成
春に1年話者(ぼく)の気持ち春になり、話者は大地や空や自分を取り囲んでいる自然からいきいきとした生命力を感じ、また話者自身も強い活力で満たされている。連が終わりに向かうに連れて、話者が感じているエネルギーがどのようなものかがより具体的になっている。独り言型さまざまな気持ちが心の中で激しく動いたこととその時の心の様子
 
直接的
自己心情型
表現対象
詩の中で何を対象として表現したか。「春に」では「この気持ちはなんだろう」というように、自分の気持ちに対する疑問が主なので、話者の気持ちとした。
連の分析
各連について分析した。1連ずつ内容を「連の内容」として、連がどういう流れにあるかをわかりやすいよう矢印で「連の構成」としてまとめた。「春に」の場合は1連しかないので、その場合は全体の内容をまとめたものを内容、全体的にある流れを構成とした。

内容表現の分類
詩の内容表現の仕方を、 と4つの型に分類した。

「ストーリー型」

「レモン哀歌」のように、物語文のような出来事が連鎖する構成が含まれているものを「ストーリー型」と分類した。

例)レモン哀歌

「情景描写型」

「風景」のように読者に対する呼びかけが無く、詩自体にストーリー性が無くて、情景を言葉で描写しているだけのものを「情景描写型」とした。

例)風景
純銀もざいく いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな

「メッセージ型」

「世界は一冊の本」のように「本を読もう」と読者に呼びかけているものや、「朝のリレー」のように「僕らは朝をリレーするのだ」といった読者に語りかけている表現のあるものを「メッセージ型」とした。

「独り言型」

「春に」のように読者に対する疑問の投げかけや呼びかけ、語りかけが無く、自己への問いかけや自分の心情を中心に書いているものを「独り言型」と分類した。

主題
詩の主題とそれが詩の中で直接的・間接的に表されているかを考えた。
主題の分類
主題の内容から、「自己心情型」「人生再認識型」「人生指針型」「戦争・人生型」「戦争型」「恋愛型」「情景型」「言語考察型」の8つに分類した。

心理の分析

題名学年心理心理状態の分析心理状態心理変化の契機主題
心理を読み取れる表現読み取れる心理状態
春に1年
 
(直接・間接)
L1.6.14.24この気持ちはなんだろう(直接) いろいろな感情が混ざり合っている状態。

× さまざまな気持ちが心の中で激しく動いたこととその時の心の様子
直接的
L7.枝の先のふくらんだ新芽が心をつつく(間接) 周りのものから刺激を受けている状態。
L8.よろこびだ しかしかなしみでもある(直接)
L9.いらだちだ しかもやすらぎがある(直接)
L10.あこがれだ そしていかりがかくれている(直接)
心が良い状態と悪い状態が混ざり合っている。
L15.あの空のあの青に手をひたしたい(直接)
L16.17.まだ会ったことのないすべての人と会ってみたい話してみたい(直接)
L18.あしたとあさってが一度にくるといい(直接)
「〜したい」という話者の積極的な欲求なので、前向きな気持ちを感じるとともに、できない事を求める気持ちが混ざり合っている。
L19.ぼくはもどかしい(直接)
L20.地平線のかなたへと歩きつづけたい(直接)
L21.そのくせこの草の上でじっとしていたい(直接)
L22.大声でだれかを呼びたい(直接)
L23.そのくせ一人で黙っていたい(直接)
積極的な欲求と消極的な欲求が描かれているが、全体的には前向きな印象を受ける。
心理
詩の中で登場人物の心理があるかどうか。ある場合にはその心理が詩の中で言い表しているような表現があれば直接、なければ間接とした。「春に」では「この気持ちはなんだろう」と言っているところから、心理の表現があり、また、それは直接的に表現されている。
心理状態の分析
詩の表現の中で心理が読み取れるものを取り出し、そこから読み取れる心理状態を分析した。
心理状態
詩全体で話者の心理がいい状態なら+、悪い状態なら−、どちらでもない場合は0に分類した。詩の中で状態が変わっている場合は矢印でそれを示した。「春に」ではいい状態も悪い状態も混ざっているとして、両方とした。
心理変化
詩の中に話者の心理が変化したとわかる表現があるかどうか。「春に」では+と−の心理が初めから混ざった状態で最後まで変わらないので、心理変化は無い。