蜃気楼
 
 昔の人々は、時折り発生する蜃気楼現象によって物体が浮き上がっているのを見たり、幻の島や湖を見たりし、思いを走らせたことでしょう。神話や宗教の背景にも蜃気楼の存在が見え隠れしています。


    
  a.上位蜃気楼  
 物体の上方に幻の像が現れる。元の物体が引き伸びて見えたり、上下が逆転した像が上方に見えたりする。このタイプの蜃気楼は珍しく、日本では富山湾周辺(富山県)、琵琶湖周辺(滋賀県)、オホーツク海沿岸の網走・紋別(北海道)の3箇所などでよく見られる。水(地)平線の下に隠れている物体(風景や船など)が見える場合もある。通常、蜃気楼という語は上位蜃気楼を意味する場合が多いよである。

  b.下位蜃気楼  
 物体の下方に幻の像が現れる。このタイプの蜃気楼は日本各地で見られ、発生頻度も極めて高い。“浮島・浮景現象”や“逃げ水”はこの下位蜃気楼に属する。有名な“砂漠の蜃気楼”はこのタイプ(逃げ水現象)である。

  c.側方(鏡映)蜃気楼  
 元の物体の横側に幻の像が現れる。大気の温度差が水平方向にある場合に現れる像である。自然の中では水平方向の温度差がたやすくできないようで、報告は極めて少ない。しかし、身近な所で炎天下、熱く焼けた車のボディーやコンクリートの塀の近くで見ることができる。ただし、この場合は注意して見ないと分からないようである。八代海北部(熊本県)で見られる不知火がこのタイプといわれている。


 よく知られている砂漠の蜃気楼について少し触れておく。砂漠では地面が熱せられ、地上の下方と上方との温度差が大きくなり、下方の密度が小さく上方の密度が大きくなるため、上位蜃気楼とは反対の現象が起こる(下位蜃気楼)。空からの光は、気温の低い上方に少し曲がってから目に入る。私たちの脳は光が真っ直ぐ来たと考えるので、空は地平線の下に見え、湖のようにそばの物体を写しだす。この情景を「空が地面に鏡映された」といい、その近くにある物体は二重の姿に見える。
また、赤い光より青い光のほうが曲がりやすいため、たいていの蜃気楼は青白いガラスのような感じになる。
 人々は気まぐれに発生しては消える蜃気楼の情景を、神々の住む楽園や、死んだ魂が向かう場所として信じていた。


参考文献  蜃気楼の楽園」〜古代文明と神々の謎を解く〜」 ヘルムート・トリブッチ:著  (出版:東京工作舎)