研究室紹介


 1988年に、金属人工格子において巨大磁気抵抗効果が発見されて以来、電子の電荷とスピンの自由度を使う“スピンエレクトロニクス”の研究が急速に進展している。
大容量高速の通信・記録・情報処理を必要とする情報産業技術において、従来性能を大きく上回るデバイスの実現が、スピンエレクトロニクス分野に期待されている。
超高密度磁気記録媒体やトンネル磁気抵抗素子・強磁性半導体などのスピンエレクトロニクス素 子・材料の研究開発においては、ナノ構造の評価のみでなく、ナノ領域のスピン計測技術が必要不可欠となる。
現在までに汎用性のある高分解能磁区観察法 は、磁気力顕微鏡である。
しかし、その空間分解能はおよそ20nm程度であり、かつ得られる情報が試料からの漏れ磁場であるために、試料の磁化状態を正し く評価するのが難しい。

 これに対して、スピン偏極走査型トンネル顕微鏡およびトンネル分光法(SP-STM/STS)は、その空間分解能が原子レベルであり、試料表面のスピンに依存する電子状態を検出するため、磁化状態も正しく評価できるもっとも有力な手法である。

 スピン偏極走査型トンネル顕微鏡(SP−STM)は、強磁性体表面のスピン偏極の分布を原子分解能で測定できる究極の観測技術との期待を集めて、強磁性探針を用いた研究が1990年に発表されたことに端を発する。
しかし、その後、8年間も追試が成功せず、その実現を疑問視するものも現れた。
この困難を突破したのは、ハンブルグ大学(ドイツ)のWiesendangerとBodeのグル−プである。
1998年に彼らは スピン偏極した表面準位を利用することにより高感度にスピン偏極測定が出来ることを発見したのである。
スピン偏極表面準位を利用したトンネル分光法は、現在かなり確立された技術となってきているが、それでも尚、信頼できる測定結果を出しているグループは世界でも非常に少なく(5箇所)、本研究室がそのひと つであることを強調したい。

 本研究室では、SP-STM/STSの技術を用いて、ナノスケ−ルの磁気構造の研究対象として興味がある磁性体を選び、表面の電子状態および表面磁気構造など磁性薄膜の磁気ナノ物性を研究を行っている。

Image3.gif (32449 バイト)
強磁性探針を用いて測定したCr(001)薄膜のSP-STS像

 同時に同じ場所で観測したSTM(形状)像(a)と磁気(dI/dV)像(b)。
試料バイアス電圧は-100 mV。
白線と黄い点はそれぞれ単原子ステップ・らせん転位の位置を表す。
磁気像(b)の赤と青がスピンの向きに相当する。
単原子ステップごとに磁気コントラストが反転する層状反強磁性を示す磁気像である。
図中の矢印で示した2つのらせん転位を結んだ線上に、磁壁が形成されていることを示している.


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