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ダイナミカル システムの数理 応用 

まえがき

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本書は『ダイナミカル システムの数理 − 基礎』の姉妹編で,基礎は大学 1, 2 年生対象であったが,本書は大学 3, 4 年生と大学院生向けに書かれている.システムとは自動車や飛行機のように個々の機能が集まってひとつの集合をなして,ある目的に対して行動を起こすことができるものである.ダイナミカル システムのダイナミカルの意味はシステムが時間に応じて変化していることを表すもので,このとき,システムの構成方程式は時間微分を含む微分方程式で記述される.これをもとに,モーダル アナリシス,フィードバック コントロール,ランダム振動論,ウェーブレット変換,ウェーブレット展開などの応用が可能である.

第 1 章は,ダイナミカル システムのモーダル アナリシスであり,モードの直交性を用いてモード分解し,出力を求める手法を述べている.分布質量系と質量集中系の両方を対比しつつ,わかりやすく解説したつもりである.また,実験モーダル解析の手法についてもふれている.

第 2 章は,ダイナミカル システムの状態空間を解説している.ダイナミカル システムの構成方程式が時間に関する高階の微分方程式で表されるとき,ダイナミカル システムの構成方程式は適切な状態変数を仮定することによって時間に関する 1 階微分を含む多元連立方程式に変換される.このとき状態変数は多次元の状態空間を形成する.この時間に関する 1 階微分を含む多元連立方程式は状態空間方程式と呼ばれ,現在の状態と極く近い将来の状態との関連を表しているので,これを少しづつ前進させると遠い将来も予想できる.このように,少しずつ構成方程式を解いて(積分して)将来を予想するのは,ディジタル型計算機の最も得意とする所である.そこで,ディジタル型計算機の発展に伴って,状態空間方程式が多用されるに至ったと考えられる.これらの背景をおふろの湯が冷めていく過程を外気温やふろ場の温度と関連づけて物理的意味を踏まえて解説している.

第 3 章はランダム入力が作用するダイナミカル システムでの不規則振動論である.信号のスペクトル解析を行う際に信号が絶対可積分でないとフーリエ変換ができない.この制約を回避するために信号の相関関数が時間遅れ τ が大きくなるとゼロに収束して絶対可積分になることに着目して相関関数のフーリエ変換をとりスペクトルとしている.また,信号処理の問題点は観測値が有限時間のものであり,数学で定義されたフーリエ変換の−∞ から+∞の積分ができない点にある.したがって,有限時間で観測された観測値が有限時間で繰り返されるものとして解析する.有限時間で繰り返される信号から得られたスペクトルと繰り返すことなく連続している信号から得られたスペクトルには違いがあるわけで,この違いを詳しく論じている.これらの信号処理は,かなり難解な面が多いので,読者の理解を助けるために,物理的な逸話を多用して説明している.これらの逸話を用いた説明は本書の全編を通した類書にない特長であるが,本章では特に念入りに逸話を配した.

第 4 章はダイナミカル システムのフィードバックコントロールで,システムに制御力を導入してシステムを意のままに制御する手法の応用について解説した.

第 5 章はウェーブレット解析で信号のウェーブレット解析の基礎を窓フーリエ変換と比較しつつ述べた後に,信号のウェーブレット解析の可能性を展望した.

第 6 章は,ウェーブレット展開で,ウェーブレット変換からウェーブレット展開への解説を行い,フレーム,正規直交ウェーブレット,フィルタなどを述べた後に,ウェーブレット展開の応用を論じている.これらの章は『ダイナミカル システムの数理 − 基礎』で微分方程式,フーリエ級数,フーリエ変換,ラプラス変換の章を担当した 2 人の数学者(芦野,守本)が書いている.この 2 人の数学者はウェーブレット解析の先駆的な数学理論の研究者であるが,この本が工学系学生の教科書であることから,工学系の学生がアプローチしやすいように平易に書かれている.本章とその他の章との関連,特に第 3 章の不規則振動論とは密接な関係があり,これらの関連に注意すると興味が倍加されると思われる.また,フーリエ変換,窓フーリエ変換,ウェーブレット解析へと推移した信号処理の過程を味わってほしいと思っている.

最後に,京都工芸繊維大学大学院修士課程学生の大橋新君,迫田茂君,中津留智泰君,中野順一君,畑宏明君には,図の作成や文章の入力に協力していただいた.さらに,共立出版(株)の小山透氏には編集について多大の御努力を賜った.以上の方々に心からお礼を申し上げる次第である.

1999年2月

編著者  

山本 鎭男

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